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特許7290039化合物の製造方法、化合物、およびエポキシ硬化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】化合物の製造方法、化合物、およびエポキシ硬化剤
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/68 20060101AFI20230606BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20230606BHJP
   C07C 211/27 20060101ALI20230606BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230606BHJP
【FI】
C07C209/68 CSP
C08G59/50
C07C211/27
C07B61/00 300
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019032381
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2019210275
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2018104381
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 与一
(72)【発明者】
【氏名】上等 和良
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/175740(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/175741(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基存在下、式(5)で表される化合物における、Hで表される水素原子(-NH 2 に結合している水素原子を除く)、ならびに、R x 、R y およびR z のうち水素原子である基の少なくとも1つに対して、エチレンおよび/またはプロピレンを付加反応させる工程を含む、式(1)で表される化合物の製造方法;ただし、式(5)におけるR x とNH 2 が結合している炭素原子に結合しているH、R X 、R Y 、および、R Z は、それぞれ、式(1)におけるR A 、R B 、R C およびR D に対応する
【化1】
(式(5)中、RX~RZは、独立して、水素、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基を表し、nは1~3の整数である。 x が水素原子の場合、R y は水素原子である。
【化2】
(式(1)中、RA~RDは、独立して、水素、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基を表し、nは1~3の整数である。
ただし、RA~RDのうち少なくとも2つは、独立して、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基であり、少なくともR A およびR C は、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基からなる群より選択される。また、nが1であり、-C(RC)(RD)(NH2)基がパラ位およびメタ位にあり、このときRAまたはRB、および、RCまたはRDが、それぞれn-プロピル基であり、且つ、RA~RDの残りの2つが水素である場合、並びに、nが1であり、-C(RC)(RD)(NH2)基がオルト位にあり、このときRAまたはRB、および、RCまたはRDが、それぞれエチル基であり、且つ、RA~RDの残りの2つが水素である場合は除く。)
【請求項2】
前記塩基が、炭酸ルビジウム、水酸化ルビジウム、炭酸セシウム、および、水酸化セシウムからなる群より選択される一種以上のアルカリ金属化合物(A)と、金属ナトリウム(B)と、を含有する塩基組成物である、請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
前記塩基を、2回以上に分割して反応系中に導入することを含む、請求項1または2に記載の化合物の製造方法。
【請求項4】
式(5)中のnが1である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
式(1)で表される化合物が、式(2)で表される、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物の製造方法。
【化3】
(式(2)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基からなる群より選択される同一の基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子であり、少なくともR A およびR C は、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基からなる群より選択される。
ただし、RA~RDのうち2つがn-プロピル基であるとき、RAまたはRB、および、RCまたはRDが、それぞれn-プロピル基である場合を除く。)
【請求項6】
式(1)で表される化合物が、式(3)または式(4)で表される、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物の製造方法。
【化4】
【化5】
【請求項7】
式(1)で表される、化合物。
【化6】
(式(1)中、RA~RDは、独立して、水素、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基を表し、nは1~3の整数である。
ただし、RA~RDのうち少なくとも2つは、独立して、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基であり、少なくともR A およびR C は、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基からなる群より選択される。
る。また、nが1であり、-C(RC)(RD)(NH2)基がパラ位およびメタ位にあり、このときRAまたはRB、および、RCまたはRDが、それぞれn-プロピル基であり、且つ、RA~RDの残りの2つが水素である場合、並びに、nが1であり、-C(RC)(RD)(NH2)基がオルト位にあり、このときRAまたはRB、および、RCまたはRDが、それぞれエチル基であり、且つ、RA~RDの残りの2つが水素である場合は除く。)
【請求項8】
式(1)中のnが1である、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
式(2)で表される、請求項7または8に記載の化合物。
【化7】
(式(2)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基からなる群より選択される同一の基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子であり、少なくともR A およびR C は、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基からなる群より選択される同一の基である。
ただし、RA~RDのうち2つがn-プロピル基であるとき、RAまたはRB、および、RCまたはRDが、それぞれn-プロピル基である場合を除く。
【請求項10】
式(3)で表される、請求項7~9のいずれか一項に記載の化合物。
【化8】
【請求項11】
式(4)で表される、請求項7~9のいずれか一項に記載の化合物。
【化9】
【請求項12】
式(1’)で表される化合物を含む、エポキシ硬化剤。
【化10】
(式(1’)中、RA~RDは、独立して、水素、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基を表し、nは1~3の整数である。ただし、 A およびR C は、独立して、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物の製造方法、化合物、およびエポキシ硬化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アミン化合物は、医薬品や農薬等として使用される化合物の原料および中間体等として有用であるため、多種多様なアミン化合物が知られている。
アミン化合物の一種として、ベンゼン等の芳香環にアミノメチル基を2つ以上有する化合物である芳香族ジアミン化合物が知られている。芳香族ジアミン化合物としては、例えば、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0003】
また、アミン化合物は、エポキシ硬化剤として用いることができる。例えば、特許文献1および2には、特定の構造を有するポリアミン化合物がエポキシ樹脂硬化剤として使用できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/175741号
【文献】特許第5486537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、アミン化合物は、医薬品や農薬等の原料および中間体として使用することができ、新規な医薬品や農薬を創出するためにも、これらの用途に用いられる化合物の構造の多様化を実現できるように、様々な構造のアミン化合物が求められている。
【0006】
また、メタキシリレンジアミン等のアミン化合物は、反応性が高く、保存している間に空気中の二酸化炭素等と反応し炭酸塩を形成する。炭酸塩を形成する場合、純度の低下による原料仕込み比の変化や、エポキシ樹脂硬化剤として使用した際に硬化物の物性低下を生じさせることに繋がることから、取扱いに注意が求められる(保存安定性)。
さらに、メタキシリレンジアミンは、融点が14℃であるため、メタキシリレンジアミンを低温で取扱う際に結晶化しやすく、ハンドリングが難しいという問題がある(ハンドリング性)。
【0007】
保存安定性については、保存環境を不活性ガス雰囲気下とすることや二酸化炭素と反応性を示さない化合物との混合物を調製し保存することにより改善することもできる。しかしながら、保存環境を不活性ガス雰囲気下とする場合、操作が煩雑になる。また、二酸化炭素と反応性を示さない化合物と混合物とし保存する場合、アミン化合物を有機反応の基質として用いる際に、前記二酸化炭素と反応性を示さない化合物が、反応を阻害したり、副反応物を増加させたりすることがある。したがって、アミン化合物を純物質の状態で、空気下で保存できるようにすることが求められる。
ハンドリング性については、アミン化合物に対し融点調節剤等の添加剤を添加することによって、向上させることもできる。しかしながら、これらの添加剤を添加することによって、アミン化合物を有機反応の基質として用いた場合等に、反応を阻害したり、副反応物が増えたりすることがあるため、添加剤を添加することなくハンドリング性を向上させることが求められている。
また、保存安定性、およびハンドリング性を向上することは、アミン化合物をエポキシ硬化剤として使用する際にも有益である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、保存安定性、およびハンドリング性に優れる化合物、前記化合物の製造方法、および前記化合物を含むエポキシ硬化剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、所定の化合物が、保存安定性、およびハンドリング性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0010】
<1>塩基存在下、式(5)で表される化合物に対して、エチレンおよび/またはプロピレンを付加反応させる工程を含む、式(1)で表される化合物の製造方法。
【化1】
(式(5)中、R~Rは、独立して、水素、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基を表し、nは1~3の整数である。)
【化2】
(式(1)中、R~Rは、独立して、水素、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基を表し、nは1~3の整数である。
ただし、R~Rのうち少なくとも2つは、独立して、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基である。また、nが1であり、-C(R)(R)(NH)基がパラ位およびメタ位にあり、このときRまたはR、および、RまたはRが、それぞれn-プロピル基であり、且つ、R~Rの残りの2つが水素である場合、並びに、nが1であり、-C(R)(R)(NH)基がオルト位にあり、このときRまたはR、および、RまたはRが、それぞれエチル基であり、且つ、R~Rの残りの2つが水素である場合は除く。)
<2>前記塩基が、炭酸ルビジウム、水酸化ルビジウム、炭酸セシウム、および、水酸化セシウムからなる群より選択される一種以上のアルカリ金属化合物(A)と、金属ナトリウム(B)と、を含有する塩基組成物である、<1>に記載の化合物の製造方法。
<3>前記塩基を、2回以上に分割して反応系中に導入することを含む、<1>または<2>に記載の化合物の製造方法。
<4>式(5)中のnが1である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の化合物の製造方法。
<5>式(1)で表される化合物が、式(2)で表される、<1>~<4>のいずれか1つに記載の化合物の製造方法。
【化3】
(式(2)中、R~Rのうち少なくとも2つは、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基からなる群より選択される同一の基であり、それら以外のR~Rは、水素原子である。
ただし、R~Rのうち2つがn-プロピル基であるとき、RまたはR、および、RまたはRが、それぞれn-プロピル基である場合を除く。)
<6>式(1)で表される化合物が、式(3)または式(4)で表される、<1>~<4>のいずれか1つに記載の化合物の製造方法。
【化4】
【化5】
<7>式(1)で表される、化合物。
【化6】
(式(1)中、R~Rは、独立して、水素、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基を表し、nは1~3の整数である。
ただし、R~Rのうち少なくとも2つは、独立して、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基である。また、nが1であり、-C(R)(R)(NH)基がパラ位およびメタ位にあり、このときRまたはR、および、RまたはRが、それぞれn-プロピル基であり、且つ、R~Rの残りの2つが水素である場合、並びに、nが1であり、-C(R)(R)(NH)基がオルト位にあり、このときRまたはR、および、RまたはRが、それぞれエチル基であり、且つ、R~Rの残りの2つが水素である場合は除く。)
<8>式(1)中のnが1である、<7>に記載の化合物。
<9>式(2)で表される、<7>または<8>に記載の化合物。
【化7】
(式(2)中、R~Rのうち少なくとも2つは、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基からなる群より選択される同一の基であり、それら以外のR~Rは、水素原子である。
ただし、R~Rのうち2つがn-プロピル基であるとき、RまたはR、および、RまたはRが、それぞれn-プロピル基である場合を除く。)
<10>式(3)で表される、<7>~<9>のいずれか1つに記載の化合物。
【化8】
<11>式(4)で表される、<7>~<9>のいずれか1つに記載の化合物。
【化9】
<12>式(1’)で表される化合物を含む、エポキシ硬化剤。
【化10】
(式(1’)中、R~Rは、独立して、水素、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基を表し、nは1~3の整数である。ただし、R~Rのうち少なくとも2つは、独立して、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物は、保存安定性、およびハンドリング性に優れ、また、医薬品や農薬等として使用される有機化合物の原料および中間体、並びにエポキシ硬化剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0013】
[化合物]
本実施形態の化合物は、式(1)で表される化合物である。本実施形態の化合物は、式(1)に包含される化合物であれば特に制限されず、一種または二種以上の混合物であってもよい。
式(1)で表される化合物は、医薬品、農薬等に使用される化合物の中間体、およびエポキシ硬化剤として有用である。
【0014】
【化11】
(式(1)中、R~Rは、独立して、水素、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基を表し、nは1~3の整数である。
ただし、R~Rのうち少なくとも2つは、独立して、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基である。また、nが1であり、-C(R)(R)(NH)基がパラ位およびメタ位にあり、このときRまたはR、および、RまたはRが、それぞれn-プロピル基であり、且つ、R~Rの残りの2つが水素である場合、並びに、nが1であり、-C(R)(R)(NH)基がオルト位にあり、このときRまたはR、および、RまたはRが、それぞれエチル基であり、且つ、R~Rの残りの2つが水素である場合は除く。)
【0015】
式(1)中のnは、1~3の整数であり、好ましくは1である。nが1のとき、-C(R)(R)(NH)基は、オルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよいが、好ましくはメタ位である。
~Rのうち少なくとも2つは、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基であり、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基からなる群より選択される同一の基であることが好ましい。R~Rのうち少なくとも2つは、また、エチル基であることが好ましい。
【0016】
式(1)で表される化合物は、好ましくは式(2)で表される。
【0017】
【化12】
(式(2)中、R~Rのうち少なくとも2つは、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基からなる群より選択される同一の基であり、それら以外のR~Rは、水素原子である。
ただし、R~Rのうち2つがn-プロピル基であるとき、RまたはR、および、RまたはRが、それぞれn-プロピル基である場合を除く。)
【0018】
式(1)における、「nが1であり、-C(R)(R)(NH)基がパラ位にあり、このときRまたはR、および、RまたはRが、それぞれn-プロピル基であり、且つ、R~Rの残りの2つが水素である場合」とは、具体的には以下の化合物である。
【0019】
【化13】
【0020】
式(1)における、「nが1であり、-C(R)(R)(NH)基がメタ位にあり、このときRまたはR、および、RまたはRが、それぞれn-プロピル基であり、且つ、R~Rの残りの2つが水素である場合」、および、式(2)における「R~Rのうち2つがn-プロピル基であるとき、RまたはR、および、RまたはRが、それぞれn-プロピル基である場合」とは、具体的には以下の化合物である。
【0021】
【化14】
【0022】
式(1)における、「nが1であり、-C(R)(R)(NH)基がオルト位にあり、このときRまたはR、および、RまたはRが、それぞれエチル基であり、且つ、R~Rの残りの2つが水素である場合」とは、具体的には以下の化合物である。
【0023】
【化15】
【0024】
本実施形態の化合物の一例として、式(1)で表される化合物であって、R~Rのうち3つ以上が、それぞれ独立に、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基である態様が挙げられる。さらには、式(1)で表される化合物であって、nが1であり、R~Rのうち3つまたは4つが、それぞれ独立に、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基である態様が挙げられる。このような化合物は、塩基組成物の存在下で、かつ、前記塩基組成物を2回以上に分割して反応系中に導入することによって、容易に得られる。
【0025】
式(1)で表される化合物としては、具体的には以下の化合物が挙げられる。
【0026】
【化16】
【0027】
【化17】
【0028】
【化18】
【0029】
【化19】
【0030】
上記の具体的な化合物の中でも、好ましくは、式(3)および式(4)で表される化合物である。
【0031】
本実施形態の化合物は、精製して単独化合物として用いてもよいし、式(1)で表される化合物の一種または二種以上を含む組成物であってもよい。例えば、式(3)で表される化合物および式(4)で表される化合物を含む組成物が例示される。また、本実施形態では、式(3)で表される化合物および(4)で表される化合物を含み、式(1)で表される化合物であって、R~Rのうち、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基である基が1つまたは2つであり、R~Rの残りが水素原子である化合物の合計割合が、式(3)で表される化合物と(4)で表される化合物の合計量の20質量%以下である組成物が例示される。
【0032】
[化合物の製造方法]
本実施形態の化合物は、塩基存在下、式(5)で表される化合物に対して、エチレンおよび/またはプロピレンを付加反応させる工程を含む、製造方法によって製造することができる。
【0033】
【化20】
(式(5)中、R~Rは、独立して、水素、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基を表し、nは1~3の整数である。)
【0034】
式(5)中のR~Rにおける、nは、1~3の整数であり、好ましくは1である。nが1のとき、-C(R)(R)(NH)基は、オルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよいが、好ましくはメタ位である。
~Rは、すべて水素であることが好ましい。
式(5)で表される化合物は、好ましくはメタキシリレンジアミンである。本明細書において、メタキシリレンジアミンは、MXDAとも略記する。
式(5)で表される化合物は、公知の有機反応により調製してもよく、市販品として入手してもよい。
【0035】
式(5)で表される化合物に対するエチレンおよび/またはプロピレンの比は、エチレンおよび/またはプロピレンを付加させる量に応じて適宜調整すればよい。式(5)で表される化合物に対するエチレンおよび/またはプロピレンの比は、通常、式(5)で表される化合物1モルに対し、モル比で0.01~20、好ましくは0.1~10の範囲である。
また、エチレンおよび/またはプロピレンは、反応中に追加で添加してもよく、反応中、常時添加してもよい。
【0036】
本実施形態の製造方法における、塩基の添加量は、一般的には、原料である式(5)で表される化合物の質量に対して、0.01~400質量%、好ましくは0.1~300質量%、より好ましくは1.0~150質量%である。
反応温度は、反応させる基質の種類等に応じて適宜調整すればよく、一般的には0~150℃、好ましくは10~120℃の範囲である。温度を10℃以上とすることにより、より充分な反応速度が得られ、また、選択率がより向上する傾向にある。温度を120℃以下とすることにより、タール分等の副生物を少なくでき、より好ましい。
反応圧力は、式(5)で表される化合物および生成物が反応条件下で実質的に液体として存在するに必要な圧力で充分であり、好ましくは、絶対圧で0.05~50気圧、好ましくは0.1~40気圧の範囲である。
【0037】
反応方式としては、例えば、塩基を仕込んだ反応器に原料をバッチ方式やセミバッチ方式にて供給する方法、反応器に塩基および原料を連続的に供給する完全混合流通方式、または、塩基を反応器に充填し原料を流通させる固定床流通方式等が挙げられる。反応方式は、目的とする反応生成物の種類によって適宜選択することができるが、バッチ方式が好ましい。バッチ方式を用いることによって、反応を行うための操作が煩雑とならず、水分混入による塩基の失活を抑制し、塩基の活性をより効果的に維持することができる。
付加反応の反応時間は、バッチ方式、セミバッチ方式の反応時間、または、完全混合流通方式での滞留時間として、通常0.1~10時間である。固定床流通方式の場合には、式(5)で表される化合物のLSVとして、通常0.1~10h-1が採用される。
【0038】
(塩基)
本実施形態の製造方法において用いられる塩基としては、式(5)で表される化合物に対してエチレンおよび/またはプロピレンを付加させる反応の触媒としてはたらくものであれば、特に限定されない。上記塩基としては、少なくとも一種のアルカリ金属を含む塩基が好ましく、ナトリウム、ルビジウム、およびセシウムからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属を含む塩基がより好ましい。アルカリ金属化合物(A)は、MOH、M CO(Mはアルカリ金属)が好ましい。
上記塩基としては、具体的には、炭酸ルビジウム、水酸化ルビジウム、炭酸セシウム、および水酸化セシウムからなる群より選択される一種以上のアルカリ金属化合物(A)と、金属ナトリウム(B)と、を含有する組成物に由来する塩基組成物を好適に用いることができる。
【0039】
上記塩基組成物は、具体的には、アルカリ金属化合物(A)、金属ナトリウム(B)を含有する組成物を、不活性ガス雰囲気下で熱処理することによって得られる。また、上記塩基組成物は、上記アルカリ金属化合物(A)および上記金属ナトリウム(B)の混合物の加熱処理物である。上記混合物において、炭酸ルビジウム、水酸化ルビジウム、炭酸セシウム、および水酸化セシウムからなる群より選択される一種以上のアルカリ金属化合物(A)と、金属ナトリウムとは、同一系内に存在することが好ましい。
【0040】
上記塩基組成物におけるアルカリ金属化合物(A)は、炭酸ルビジウム、水酸化ルビジウム、炭酸セシウム、および水酸化セシウムである。これらのアルカリ金属化合物(A)の中でも、式(5)で表される化合物に対してエチレンおよび/またはプロピレンを付加させる反応を進行させる触媒としての活性をより高める観点から、好ましくは炭酸ルビジウムおよび炭酸セシウムであり、より好ましくは炭酸セシウムである。また、これらのアルカリ金属化合物(A)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上記塩基組成物におけるアルカリ金属化合物(A)に含まれるルビジウムおよび/またはセシウムの物質量と、前記金属ナトリウム(B)の物質量との比(ルビジウムおよび/またはセシウムの物質量:ナトリウムの物質量(モル比))は、反応を効率良く進行させる観点から、0.50:1~8.0:1であり、好ましくは1.0:1~4.0:1であり、より好ましくは1.0:1~3.0:1であり、さらに好ましくは1.5:1~2.5:1である。
【0042】
上記塩基組成物における、アルカリ金属化合物(A)と、金属ナトリウム(B)とを含有する組成物が、さらに、アルカリ土類金属化合物(周期表第2元素を含有する化合物)を含有することが好ましい。アルカリ土類金属化合物(C)は、M(OH)、MCO、MO(Mはアルカリ土類金属)がより好ましく、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、および炭酸マグネシウムからなる群より選択される一種以上のアルカリ土類金属化合物を含有することがさらに好ましい。アルカリ土類金属化合物(C)を含有することにより、塩基組成物のべたつきを抑え、ハンドリング性を向上することができる。
アルカリ土類金属化合物(C)(好ましくはマグネシウム化合物)の含有量は、アルカリ金属化合物(A)および金属ナトリウム(B)の総量を100質量部としたとき、好ましくは30質量部以上であり、より好ましくは40質量部以上であり、さらに好ましくは50質量部以上であり、60質量部以上であってもよい。上限値としては、好ましくは150質量部以下であり、より好ましくは130質量部以下であり、さらに好ましくは100質量部以下である。アルカリ土類金属化合物(C)の含有量が30質量部以上であることにより、塩基組成物のべたつきを抑えられる傾向にある。また、アルカリ土類金属化合物(C)の含有量が150質量部以下であることにより、塩基組成物の触媒としての活性に影響せず、反応を進行させる傾向にある。
【0043】
上記塩基組成物は、炭酸ルビジウム、水酸化ルビジウム、炭酸セシウム、および水酸化セシウムからなる群より選択される一種以上のアルカリ金属化合物(A)と、金属ナトリウム(B)とを含有する混合物を、不活性ガス雰囲気下で100℃~500℃の温度で熱処理することにより製造することができる。アルカリ金属化合物(A)および金属ナトリウム(B)を混合する順番は特に限定されない。
不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン等を挙げることができる。
塩基組成物の調製における温度は、好ましくは98℃~500℃であり、より好ましくは110℃~300℃であり、さらに好ましくは120℃~280℃である。温度が、98℃~500℃であることにより、金属ナトリウムが融解するために、分散混合しやすく、且つ、十分に焼成され、活性の高い触媒となる傾向にある。
塩基組成物の調製における加熱時間は、好ましくは10分~5時間であり、より好ましくは30分~3時間であり、さらに好ましくは30分~2時間である。加熱時間が、10分~5時間であることにより、十分に焼成され、活性の高い触媒となる傾向にある。
【0044】
アルカリ土類金属化合物(C)は、アルカリ金属化合物(A)および金属ナトリウム(B)の混合物に添加すればよいが、アルカリ金属化合物(A)、金属ナトリウム(B)およびアルカリ土類金属化合物(C)を混合する順番は特に限定されない。
【0045】
アルカリ金属化合物(A)およびアルカリ土類金属化合物(C)は吸湿性が高いことから、塩基組成物の調製前に熱処理を加えてもよい。調製前の熱処理は、不活性ガス下または真空下で行うことが好ましい。調製前の熱処理の温度は、不要な水分を取り除くことができる温度であれば特に限定されないが、通常200℃~500℃であり、好ましくは250℃~400℃である。
熱処理の温度を200℃~500℃とすることにより、化合物中の水分を十分に取り除くことができ、活性の高い触媒となる傾向にある。調製前の熱処理の時間は、好ましくは10分~5時間であり、より好ましくは30分~3時間であり、さらに好ましくは30分~2時間である。加熱時間が、10分~5時間であることにより、十分に水分を取り除くことができ、活性の高い触媒となる傾向にある。
【0046】
反応終了後における反応液と塩基組成物とは、分沈降、遠心分離、濾過等の一般的な方法により分離できる。
塩基組成物は、本実施形態の化合物の合成反応において、触媒として作用する一方で不可逆的な反応開始剤としても機能する。したがって、アミン化合物の合成反応の進行に伴って、塩基組成物の系内での量は減少していく。そこで、本実施形態の化合物の合成反応に際して、塩基組成物を2回以上に分割して添加することが好ましい。塩基組成物の添加の回数の上限は特にないが、10回以下であることが実際的である。また、式(5)で表される化合物に対し、R~Rの3つ以上、さらには3つまたは4つに、特には、4つに、エチレンおよび/またはプロピレンを付加させることが容易になる。
また、塩基組成物を一定速度で連続的あるいは断続的に反応液中に投入してもよい。また、投入する速度は一定であってもよいし、経時で変化させてもよい。
【0047】
本実施形態の製造方法における付加反応は、溶媒の存在下で行っても、非存在下で行ってもよい。溶媒は反応温度や反応物等によって適宜選択される。溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1、4-ジオキサン、1、3、5-トリオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルが例示される。
上記有機反応で溶媒を用いる場合、得られた反応溶液を必要に応じて濃縮した後、残渣をそのまま式(1)で表される化合物として用いてもよく、適宜、後処理を行った後に、式(1)で表される化合物として用いてもよい。後処理の具体的な方法としては、蒸留、クロマトグラフィー等の公知の精製を挙げることができる。
尚、後述する実施例では、エチレン付加の例のみを示しているが、エチレン付加とプロピレン付加が同様のメカニズムで、ほぼ同様に反応が進行することは公知である。
【0048】
[エポキシ硬化剤]
本実施形態のエポキシ硬化剤は、式(1’)で表される化合物を含む。本実施形態のエポキシ硬化剤は、保存安定性、およびハンドリング性に優れる。
【0049】
【化21】
【0050】
式(1’)におけるR~R、およびnは、式(1)におけるR~R、およびnと同義である。すなわち、式(1’)中、R~Rは、独立して、水素、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基を表し、nは1~3の整数である。ただし、R~Rのうち少なくとも2つは、独立して、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基である。
【0051】
式(1’)におけるR~R、およびnの好ましい態様、また、-C(R)(R)(NH)基の置換位置の好ましい態様は、式(1)におけるそれらと同様である。
式(1’)で表される化合物は、好ましくは式(2’)で表される。
【0052】
【化22】
【0053】
式(2’)におけるR~Rは、式(2)におけるR~Rと同義である。すなわち、式(2’)中、R~Rのうち少なくとも2つは、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基からなる群より選択される同一の基であり、それら以外のR~Rは、水素原子である。
【0054】
本実施形態のエポキシ硬化剤に含まれる化合物としては、具体的には以下の化合物が挙げられる。
【0055】
【化23】
【0056】
【化24】
【0057】
【化25】
【0058】
【化26】
【0059】
本実施形態のエポキシ硬化剤に含まれる化合物としては、式(3)で表される化合物、および式(4)で表される化合物が好ましい。
【0060】
上記エポキシ硬化剤は、エポキシ樹脂との反応に影響を与えない範囲で、さらに、式(1’)で表される化合物以外のアミン化合物と併用してもよく、また、公知の硬化促進剤、希釈剤等の添加剤を含んでいてもよい。公知の硬化剤としては、特許第6177331号公報の段落0029に記載のアミン系硬化剤、特開2011-213983号公報の段落0011~0016に記載のアミン系硬化剤を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
上記エポキシ硬化剤における式(1’)で表される化合物は、前記エポキシ硬化剤を構成する成分の主成分であることが好ましい。主成分であるとは、エポキシ硬化剤の構成成分全量に対し、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上、さらにより好ましくは98質量%以上である。前記エポキシ硬化剤に含まれる式(1’)で表される化合物の含有量の上限は、100質量%である。
【0061】
[エポキシ樹脂組成物]
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂硬化剤およびエポキシ樹脂を含有することが好ましい。
本実施形態のエポキシ硬化剤が使用されるエポキシ樹脂としては、エポキシ基を有する化合物であれば特に制限されない。
エポキシ樹脂は、通常、一分子中に、2~10のエポキシ基を有し、2~6のエポキシ基を有することが好ましく、2~4のエポキシ基を有することがより好ましく、2つのエポキシ基を有することがさらに好ましい。エポキシ基はグリシジルエーテル基であることが好ましい。エポキシ樹脂は、低分子化合物(例えば、数平均分子量2000未満)であっても、高分子の化合物(ポリマー、例えば、数平均分子量2000以上)であってもよい。ポリマーのエポキシ樹脂は、脂肪族化合物であっても、脂環式化合物であっても、または芳香環を有する化合物であってもよい。特に、エポキシ樹脂は、一分子中に、2つの芳香環および/または2つの脂肪族6員環を有することが好ましく、2つの芳香環を有することがより好ましい。なかでも、エピクロロヒドリンと、2つ以上の反応性水素原子を有する化合物(例えばポリオール)との反応によって得られるエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂の原料として具体的には、ビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)またはその水素化物、ビスフェノールF(4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン)またはその水素化物、テトラブロモビスフェノールA(2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン)またはその水素化物、クレゾールをホルムアルデヒドと反応させたノボラック型樹脂、ヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。エポキシ樹脂組成物に用いうるエポキシ樹脂としては、上記の他、特開2018-83905号公報の段落0036~0039の記載、特開2018-135433号公報の段落0032~0035を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0062】
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂の含有量は、希釈剤を含まない固形分中で、79質量%以上であることが好ましく、81質量%以上であることがより好ましく、82質量%以上であることがさらに好ましい。上限としては、89質量%以下であることが好ましく、87質量%以下であることがより好ましく、86質量%以下であることがさらに好ましい。
希釈剤を含むエポキシ樹脂組成物の全量中では、76質量%以上であることが好ましく、79質量%以上であることがより好ましく、81質量%以上であることがさらに好ましい。上限としては、90質量%以下であることが好ましく、87質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。
エポキシ樹脂は一種を用いても複数のものを用いてもよい。複数のものを用いる場合はその合計量が上記の範囲となる。
【0063】
エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂および硬化剤以外の成分を含んでいてもよい。具体的には、反応性希釈剤、非反応性希釈剤、硬化促進剤、可塑剤、顔料、染料、充填剤、離型剤、強靱化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、流動化剤、レベリング剤、消泡剤、難燃剤または増粘剤等を含んでいてもよい。
【0064】
本実施形態に係る硬化物は、エポキシ樹脂組成物から形成される。硬化物は、建築用塗料、接着剤、自動車部品、航空機用部品、複合材料、プリント基板用材料、重電機器の絶縁含浸材料、エレクトロニクス素子の封止材など、広い分野に用いることができる。また、特開2018-83905号公報の段落0045に記載の用途、特開2018-135433号公報の段落0053に記載の用途、特表2016-527384号公報の段落0039~0043に記載の用途、特開2011-213983号公報の段落0048に記載の用途にも好ましく用いられ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0065】
[ポリウレタンウレア樹脂組成物]
式(1)で表されるアミン化合物は、ウレタンプレポリマーを硬化させる硬化剤として用いることができる。また、本実施形態のポリウレタンウレア樹脂組成物は、上記ウレタンプレポリマー硬化剤とウレタンプレポリマーとを含有することが好ましい。
本実施形態に係る硬化物は、ポリウレタンウレア樹脂組成物から形成される。
【実施例
【0066】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。尚、アミノ基含有アルキル置換芳香族化合物の分析は以下の方法にて行った。
【0067】
<アミノ基含有アルキル置換芳香族化合物の分析>
(1)ガスクロマトグラフィー(以下GC分析)
装置;株式会社島津製作所製GC-2025
カラム;アジレント・テクノロジー株式会社製CP-Sil 8 CB for Amines (0.25μm×0.25mm×30m)
カラム温度;80℃で2分間保持し、8℃/分の速度で昇温し、150℃で5分間保持し、15℃/分の速度で昇温し、300℃で5分間保持した。
【0068】
(2)飛行時間型質量分析(以下TOFMS分析)
装置;日本電子株式会社製AccuTOF GCX
イオン化手法;FI
【0069】
(3)核磁気共鳴吸収法(H NMR、13C NMR)
BRUKER製核磁気共鳴装置AVANCEII600MHzを用いて、重水素置換クロロホルム溶媒中で測定を行った。尚、後述のδ(ppm)は次式で表される化学シフトを示す。
δ(ppm)=10×(ν-ν)/ν
ν:試料の共鳴周波数(Hz)
ν:標準物質のトリメチルシラン(TMS)の共鳴周波数(Hz)
【0070】
(塩基組成物調製)
磁気撹拌子を備えた200mLのナスフラスコに窒素雰囲気下で、炭酸セシウム(CsCO,富士フイルム和光純薬製)4.25g、金属ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)0.3g、酸化マグネシウム(MgO,富士フイルム和光純薬製)3.2gを仕込んだ。このナスフラスコをアルミブロックヒータースターラーに設置して、250℃で、1時間加熱撹拌した後に、アルミブロックヒータースターラーから取り外した。上記ナスフラスコを空冷で室温まで冷却して、塩基組成物を得た。
【0071】
[アミノ基含有アルキル置換芳香族化合物の合成]
(実施例1)
30mLオートクレーブに窒素雰囲気下で、マグネチックスターラーバー、上記(塩基組成物調製)にて調製した塩基組成物1.16g、および、MXDA0.80g、テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬製、超脱水、安定剤不含グレード)5.57gを入れた後に、オートクレーブをエチレンガスボンベに接続しエチレンガス(ジャパンファインプロダクツ製、エチレン純度99.9vol.%超)を0.99MPaの圧力で吹き込みながら20~22.5℃、700rpmで24時間撹拌を行った。24時間経過後にエチレンボンベからのガス供給、および撹拌を一時停止して塩基組成物1.16gを追加した。塩基組成物の追加後、再度エチレンの供給と撹拌を開始し更に24時間反応を行った。反応液に4mLのイソプロピルアルコールを加えて反応を停止させ、塩基組成物を含む残渣を吸引ろ過により取り除いた。
ろ液に対して1MのHCl水溶液およびジクロロメタンを加えて分液操作を行い、水相を回収した。次いで1M水酸化ナトリウム水溶液およびジクロロメタンを加えて、再度分液操作を行った後、有機相を回収した。上記有機相を減圧下でジクロロメタンの留去を行うことにより、アミノ基含有アルキル置換芳香族化合物を含む混合物を得た。
混合物より、液体クロマトグラフィーを用いて、以下の、式(3)で表されるα,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミンと、式(4)で表されるα,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミンを分取した。
【0072】
【化27】
【0073】
α,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミン(3)の各種スペクトルデータは以下のとおりであった。
H NMR(CDCl、テトラメチルシラン) δ(ppm):0.689、0.704、0.719(12H、t、Ar-C(NH)-CH-CHにおけるCHの水素)、1.639~1.711(4H、m、Ar-C(NH)-CH-CHにおけるCHの水素)、1.817~1.890(4H、m、Ar-C(NH)-CH-CHにおけるCHの水素)、7.214~7.235(2H、Ar)、7.267~7.298(1H、Ar)、7.396~7.403(1H、Ar)。
13C NMR(CDCl、テトラメチルシラン) δ(ppm):8.1(×2)、36.2(×2)、58.2、123.4、123.5、127.6、146.1。
TOFMS分析:m/eの理論値(C1628+H)として249.2285、実測値249.231。
【0074】
【化28】
【0075】
α,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミン(4)の各種スペクトルデータは以下のとおりであった。
H NMR(CDCl、テトラメチルシラン) δ(ppm):0.702、0.717、0.732(6H、t、Ar-C(NH)-CH-CHにおけるCHの水素)、0.837、0.851、0.866(3H、t、Ar-CH(NH)-CH-CHにおけるCHの水素)、1.623~1.751(4H、m、Ar-C(NH)-CH-CHにおけるCHの水素)、1.808~1.882(2H、m、Ar-CH(NH)-CH-CHにおけるCHの水素)、3.792、3.806、3.820(1H、t、Ar-CH(NH)-CH-CHにおけるCHの水素)7.140、7.143、7.146、7.154、7.157、7.160(1H、Ar)7.244~7.301(2H、Ar)、7.313~7.320(1H、Ar)。
13C NMR(CDCl、テトラメチルシラン) δ(ppm):8.1(×2)、11.0、32.6、36.1(×2)、58.0、58.2、123.7、124.1、124.5、128.0、146.0、146.8。
TOFMS分析:m/eの理論値(C1425+H)として221.20123、実測値221.199。
【0076】
アミノ基含有アルキル置換芳香族化合物を含む混合物についてGC分析を行った。GC分析の結果、保持時間19.6分にα,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミン(3)に由来するピーク、保持時間18.3分にα,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミン(4)に由来するピークが観測され、それぞれ38%、37%の収率であった。
【0077】
(実施例2)
30mLオートクレーブに窒素雰囲気下で、マグネチックスターラーバー、上記(塩基組成物調製)にて調製した塩基組成物1.16g、および、MXDA0.80gを入れた後に、オートクレーブをエチレンガスボンベに接続しエチレンガス(ジャパンファインプロダクツ製、エチレン純度99.9vol.%超)を0.99MPaの圧力で吹き込みながら20~22℃、700rpmで24時間撹拌を行った。反応液に4mLのイソプロピルアルコールを加えて反応を停止させた。反応停止後の溶液を1mL抜き取り、シリンジフィルター(孔径0.45μm、PTFE製)を用いて、塩基組成物を含む残渣を取り除き、GC分析を行った。GC分析の結果、α,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミン(3)が2%、α,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミン(4)が34%の収率であった。
【0078】
[化合物の特性]
<ハンドリング性>
液体クロマトグラフィーにより分取したα,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミン10mgをφ6mm、深さ4mmのアルミパンに秤量し、窒素雰囲気下で25℃、10℃、0℃、-10℃、-25℃の各温度で20分間静置させた際に液体であるか否かを目視、および、触感により評価した。
α,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミンに代えて、液体クロマトグラフィーにより分取したα,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミン、およびメタキシリレンジアミン(東京化成品工業製)においてもそれぞれ同様に評価を行った。
結果を表1に示す。表中、○は液体であったことを指し、×は固体であったことを指す。10℃以下の幅広い温度領域で化合物が液体であることは、化合物を秤量、混合し使用する際に加温の必要が無く、作業性および省エネルギー化の観点から有用である。
【0079】
<保存安定性>
液体クロマトグラフィーにより分取したα,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミン6mgをφ6mm、深さ4mmのアルミパンに秤量、空気中25℃の条件下で静置させ、目視にて炭酸塩に由来する白色固体状への変化を観察した。α,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミンは168時間放置後も透明液状であり、炭酸塩の形成による白色固体化は観測されなかった。
α,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミンに代えて、液体クロマトグラフィーにより分取したα,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミン、およびメタキシリレンジアミンを使用したこと以外はそれぞれ同様に評価を行った。α,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミンは168時間放置後も透明液状であり、炭酸塩の形成による白色固体化は観測されなかった。メタキシリレンジアミンは30分経過時点で白色固体状体へと変化した。
結果を表1に示す。アミノ化合物が二酸化炭素と反応し炭酸塩を形成する場合、純度の低下による原料仕込み比の変化やエポキシ樹脂硬化剤として使用した際に硬化物の物性低下を生じさせることに繋がる。炭酸塩を形成しにくい場合、不活性ガス雰囲気とすること、加熱処理による炭酸ガスの脱離工程を設けること、および、事前に樹脂の混合を行うこと等の特別な処理を行わずに、化合物を空気中で保存することが可能となる。
【0080】
【表1】
【0081】
<エポキシ樹脂の硬化>
(実施例3)
三菱ケミカル(株)製「jER828」(エポキシ当量:186g/当量、固形分濃度:100質量%、液状)138.4mgに対して、液体クロマトグラフィーにより分取したα,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミン46.2mgを配合、撹拌してエポキシ樹脂組成物を得た。エポキシ当量:アミンの活性水素当量は、1:1になるように調整した。得られたエポキシ樹脂組成物を、5℃/分昇温、250℃、5分間保持の条件で加熱した結果、硬化反応が進行しエポキシ樹脂硬化物が得られた。示差走査熱量測定(DSC)の結果、ガラス転移温度は50℃であった。
なお、エポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は、示差走査熱量計「DSC6220」(セイコーインスツルメント社製)を用いて、5℃/分の昇温速度で30~250℃まで示差走査熱量分析を行うことにより求めた。
【0082】
(実施例4)
三菱ケミカル(株)製「jER828」(エポキシ当量:186g/当量、固形分濃度:100質量%、液状)63.1mgに対して、液体クロマトグラフィーにより分取したα,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミン18.7mgを配合撹拌してエポキシ樹脂組成物を得た。エポキシ当量:アミンの活性水素当量は、1:1になるように調整した。得られたエポキシ樹脂組成物を5℃/分昇温、250℃、5分間保持の条件で加熱した結果、硬化反応が進行しエポキシ樹脂硬化物が得られた。示差走査熱量測定(DSC)の結果、ガラス転移温度は104℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、化合物の中間原料等として有用なアミノ基含有アルキル置換芳香族化合物を提供することができ、樹脂等の工業製品、医薬品、香料等の分野において産業上の利用可能性を有する。