(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、成形品および成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 67/04 20060101AFI20230606BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230606BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230606BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20230606BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230606BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20230606BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C08L67/04
B32B15/08 J
B32B15/08 Q
B32B27/36
C08J5/00 CFD
C08K3/013
C08K3/20
C08K3/28
(21)【出願番号】P 2019152687
(22)【出願日】2019-08-23
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕史
(72)【発明者】
【氏名】小西 彬人
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-058604(JP,A)
【文献】特開2019-134053(JP,A)
【文献】特開2019-096845(JP,A)
【文献】特開2002-188016(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021837(WO,A1)
【文献】特開2020-100751(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0070248(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/04
C08K 3/20
C08K 3/28
C08K 3/013
B32B 15/08
B32B 27/36
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対して、回路形成用添加剤(B)を5~25重量部、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)を0.1~20重量部含む、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリエステルが、液晶性ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
さらに充填剤(D)を5~150重量部含む
、請求項2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記液晶性ポリエステルが、芳香族オキシカルボニル単位とテレフタル酸単位の合計が、液晶性ポリエステルの全構成単位100モル%に対して60~77モル%であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【請求項6】
表面に金属部を有する請求項5に記載の成形品。
【請求項7】
請求項5に記載の成形品へのレーザー照射によるパターン描画工程とめっき処理によるレーザー照射部への金属化工程とを含む、表面に金属部を有する成形品の製造方法。
【請求項8】
成形品が、センサー、LEDランプ基板、カメラモジュール、アンテナ、ウェアラブル端末部材のいずれかである請求項5または6に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械特性、耐熱性、成形性に優れている。このため、それらの特性が要求される電気・電子部品用途および自動車部品用途などの幅広い分野に利用されている。ところで、電気・電子部品用途においては、製品の軽薄短小化に伴い電気・電子部品の小型化、薄肉化が進んでおり、樹脂部品に電子回路基板を組み込む立体回路基板形成技術の発展が求められている。樹脂成形品表面に立体的に電子回路パターンが形成されることで、回路基板設計の自由化、モジュールの小型化、部品点数の削減、組み立て工数の削減が可能となる。樹脂成形品に回路を形成する手法として、例えば、2回成形により回路形成箇所以外へマスキングを施すマスク形成手法や、レーザー照射による回路パターン描画手法などとめっき等の金属化技術との組み合わせが挙げられ、拡大を続けている。なかでも、レーザー照射によって樹脂組成物中の金属添加剤を活性化させてめっき等による金属化を行い、レーザー照射で描画した部分に金属パターンを形成する手法であるレーザー直接構造化工法は、パターン描画や金属化工程が容易であることから拡大を続けている。レーザー直接構造化工法では、所望の特性を得るために添加剤を含んでおり、例えば、銅、クロム、マンガンを含む複合酸化物を配合し、機械強度に優れるポリアミド樹脂組成物(例えば特許文献1参考)や酸化チタンを配合し、メッキ性に優れるポリアミド樹脂組成物(例えば特許文献2参考)、酸化チタンを配合し、メッキ性に優れるポリカーボネート樹脂組成物(例えば特許文献3、4参考)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-58604号公報
【文献】国際公開第2014/042071号
【文献】国際公開第2014/163242号
【文献】特開2013-544296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された樹脂組成物は、添加物のレーザー吸収性が高く、レーザー照射時に発熱反応が生じ、成形品表面の金属導通部との密着性が低下し、樹脂部の炭化などにより、脱離や剥離が生じたりする課題があった。また、上記特許文献2~4に記載された樹脂組成物は、金属導通部の形成が未だ不十分で有り、成形品表面に、狭い間隔で金属部を形成すると、金属導通部の形成不良により、隣接する金属部の短絡などの不具合が生じる課題があった。したがって、従来の立体回路基板の形成技術に対応した樹脂組成物は、上記課題に対し十分満足できる物ではなく、更なる改良が求められている。
【0005】
よって本発明は、上述の課題を解決し、樹脂成形品と金属導通部との密着性に優れ、さらに、成形品表面の微細回路形成性に優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱可塑性ポリエステルに回路形成用添加剤、酸窒化チタンならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物により、樹脂成形品と金属導通部との密着性に優れ、さらに、成形品表面の微細回路形成性に優れるといった特性を有し、電気・電子部品への使用に適した成形品、特に表面に金属部を有する成形品を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
即ち、本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、本発明の実施形態は、以下に挙げる構成の少なくとも一部を含み得る。
(1)熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対して、回路形成用添加剤(B)を5~25重量部、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)を0.1~20重量部含む、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(2)前記熱可塑性ポリエステルが、液晶性ポリエステルであることを特徴とする(1)に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(3)さらに充填剤(D)を5~150重量部含む、(2)に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(4)前記液晶性ポリエステルが、芳香族オキシカルボニル単位とテレフタル酸単位の合計が、液晶性ポリエステルの全構成単位100モル%に対して60~77モル%であることを特徴とする(2)または(3)に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(5)(1)~(4)のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
(6)表面に金属部を有する(5)に記載の成形品。
(7)(5)に記載の成形品へのレーザー照射によるパターン描画工程とめっき処理によるレーザー照射部への金属化工程とを含む、表面に金属部を有する成形品の製造方法。
(8)成形品が、センサー、LEDランプ基板、カメラモジュール、アンテナ、ウェアラブル端末部材のいずれかである(5)または(6)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物により、樹脂成形品と金属導通部との密着性に優れ、さらに、成形品表面の微細回路形成性に優れる成形品を得ることができる。これら成形品は、特に、表面に金属部を有する電気・電子部品用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
[熱可塑性ポリエステル]
本発明で使用する熱可塑性ポリエステル(A)は、(イ)ジカルボニル単位(あるいは、そのエステル形成性誘導体)とジオキシ単位(あるいはそのエステル形成性誘導体)、(ロ)オキシカルボニル単位(あるいはそのエステル形成性誘導体)、(ハ)ラクトン単位から選択された一種以上を主構造単位とする縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体、あるいはこれらの混合物である。
【0011】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステル(A)を構成する各構造単位は、オキシカルボニル単位の具体例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸などに由来する構造単位が挙げられ、p-ヒドロキシ安息香酸が好ましい。
【0012】
ジオキシ単位の具体例としては、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシノール、t-ブチルハイドロキノン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、フェニルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンなどの芳香族ジオールから生成した構造単位;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオールから生成した構造単位;1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオールから生成した構造単位などが挙げられ、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンが好ましい。
【0013】
ジカルボニル単位の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸から生成した構造単位などが挙げられ、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
【0014】
ラクトン単位の具体例としては、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5-オキセパン-2-オンなどが挙げられる。
【0015】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステル(A)の具体例としては、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位および芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位からなるポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位からなるポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位、ハイドロキノンに由来する構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸等のジカルボン酸に由来する構造単位からなるポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位からなるポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位、エチレングリコールおよびテレフタル酸に由来する構造単位からなるポリエステルなどが挙げられる。
【0016】
上記の各構造単位を構成する原料モノマーは、各構造単位を形成しうる構造であれば特に限定されないが、各構造単位の水酸基のアシル化物、各構造単位のカルボキシル基のエステル化物、酸ハロゲン化物、酸無水物などのカルボン酸誘導体などが使用されてもよい。
【0017】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステル(A)は、上記の構造単位から構成されることで、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性に優れる。したがって、その熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を用いた成形品は、樹脂成形品と金属導通部との密着性に優れ、さらに、成形品表面の微細回路形成性に優れる。
【0018】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステル(A)で耐熱性をより向上し、樹脂成形品と金属導通部との密着性向上の観点から、特に好ましいのは、液晶性ポリエステルである。液晶性ポリエステルは、溶融時に光学的異方性を示すサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、例えば前述したオキシカルボニル単位、ジオキシ単位、ジカルボニル単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルである。液晶性ポリエステルとして例えば、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位、ハイドロキノンに由来する構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位からなる液晶ポリエステルである。
【0019】
液晶性ポリエステルを構成するジオキシ単位の合計と、ジカルボニル単位の合計とは実質的に等モルである。ここでいう「実質的に等モル」とは、末端を除くポリマー主鎖を構成する構造単位が等モルであることを示す。このため、末端を構成する構造単位まで含めた場合には必ずしも等モルとはならない態様も、「実質的に等モル」の要件を満たしうる。
【0020】
本発明で使用する液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルの全構造単位100モル%に対する、ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位とテレフタル酸に由来する構造単位との合計が60~77モル%であることが好ましい。
【0021】
ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位とテレフタル酸に由来する構造単位の合計が、ポリエステルの全構造単位100モル%に対して60モル%未満であると、液晶ポリエステルの耐熱性が低下するため、その液晶ポリエステル樹脂組成物を用いた樹脂成形品と金属導通部との密着性が低下し、さらに、成形品表面上に微細回路を形成することが困難となる。一方、ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位とテレフタル酸に由来する構造単位の合計が、液晶ポリエステルの全構造単位100モル%に対して77モル%を超えると、液晶ポリエステルの結晶性が増加するため、樹脂成形品と金属導通部との密着性が低下し、さらに、成形品表面上に微細回路を形成することが困難となる。
【0022】
樹脂成形品と金属導通部との密着性向上の観点から、液晶ポリエステルの全構造単位100モル%に対する、ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位とテレフタル酸に由来する構造単位との合計は、65モル%以上がより好ましく、69モル%以上がさらに好ましい。一方、76モル%以下が好ましい。また、ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位とテレフタル酸に由来する構造単位は、いずれか一方の構造単位を有し、もう一方の構造単位が0モル%であってもよいが、それぞれが0モル%を超えることが好ましい。
【0023】
液晶ポリエステルの全構造単位に対するヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位およびテレフタル酸に由来する構造単位の含有割合を上記範囲とすることにより、液晶ポリエステルの結晶性が制御され、樹脂成形品と金属導通部との密着性に優れるため好ましい。また、液晶ポリエステルが上記範囲の構造単位で構成されることで、液晶ポリエステルの融点が制御され、その結果耐熱性および成形加工性に優れた成形品を得ることができるため好ましい。また、成形加工時の温度が過度に高くならずに成形品を成形することが可能となり、成形時における液晶ポリエステル樹脂組成物の劣化が抑制された結果、機械強度に優れる成形品を得ることができるため好ましい。
【0024】
本発明の熱可塑性ポリエステル(A)について、各構造単位の含有量の算出法を以下に示す。まず、熱可塑性ポリエステル(A)をNMR(核磁気共鳴)試験管に量りとり、ポリエステルが可溶な溶媒(例えば、ペンタフルオロフェノール/重テトラクロロエタン-d2混合溶媒)に溶解する。次に、得られた溶液について、1H-NMRスペクトル測定を行い、各構造単位由来のピーク面積比から算出することができる。
【0025】
本発明の熱可塑性ポリエステル(A)の融点(Tm)は、耐熱性の観点から220℃以上が好ましく、270℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましい。一方、加工性の観点から熱可塑性ポリエステルの融点(Tm)は、350℃以下が好ましく、345℃以下がより好ましく、340℃以下がさらに好ましい。
【0026】
融点(Tm)の測定は、示差走査熱量測定により行う。具体的には、まず、重合を完了したポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm1)を観測する。吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、吸熱ピーク温度(Tm1)+20℃の温度でポリマーを5分間保持する。その後、20℃/分の降温条件で室温までポリマーを冷却する。そして、20℃/分の昇温条件でポリマーを加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm2)を観測する。融点(Tm)とは、該吸熱ピーク温度(Tm2)を指す。
【0027】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステル(A)を製造する方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。公知の熱可塑性ポリエステルの重縮合法としては、熱可塑性ポリエステルがp-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位、ハイドロキノンに由来する構造単位、テレフタル酸に由来する構造単位、およびイソフタル酸に由来する構造単位からなるポリエステルを例に、以下が挙げられる。
(1)p-アセトキシ安息香酸および4,4’-ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンとテレフタル酸、イソフタル酸から脱酢酸縮重合反応によってポリエステルを製造する方法。
(2)p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重合することによってポリエステルを製造する方法。
(3)p-ヒドロキシ安息香酸フェニルおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニルから脱フェノール重縮合反応によりポリエステルを製造する方法。
(4)p-ヒドロキシ安息香酸およびテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれフェニルエステルとした後、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応によりポリエステルを製造する方法。
【0028】
なかでも(2)p-ヒドロキシ安息香酸および4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重縮合反応によってポリエステルを製造する方法が、ポリエステルの末端構造の制御および重合度の制御に工業的に優れる点から、好ましく用いられる。
【0029】
本発明で使用する熱可塑性ポリエステル(A)の製造方法として、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。固相重合法による処理としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、熱可塑性ポリエステル(A)のポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕する。粉砕したポリマーまたはオリゴマーを、窒素気流下、または、減圧下において加熱し、所望の重合度まで重縮合することで、反応を完了させる。上記加熱は、ポリエステルの融点-50℃~融点-5℃(例えば、200~300℃)の範囲で1~50時間行うことができる。
【0030】
熱可塑性ポリエステル(A)の重縮合反応は、無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどを触媒として使用することもできる。
【0031】
[回路形成用添加剤]
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、回路形成用添加剤(B)を含むことを特徴とする。本発明で使用する回路形成用添加剤(B)は、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中に配合することで熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品へのレーザー照射時に回路形成用添加剤(B)が成形品表面に露出、変質し、それを起点として無電解めっきなどの方法で、レーザー照射部に金属部を形成することができる性質を付与する添加剤を指す。
【0032】
本発明で使用する回路形成用添加剤(B)を構成する金属種として、例えば銅、スズ、コバルト、ニッケル、アンチモン、ネオジウム、モリブデン、ビスマスまたは銀などが挙げられる。なお金属種としてチタン、カルシウムおよびマンガンは含む複合酸化物は含まない。回路形成用添加剤(B)は、金属単体での使用であっても、金属を含む化合物としての使用であってもよい。金属を含む化合物としては、酸化物、硫化物、硫酸塩、窒化物、硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、有機金属化合物、錯体などを用いることができる。また、酸化物は少なくとも2種の異なる陽イオンからなるスピネル構造であってもよい。さらに、アンチモンがドープされた酸化物であってもよい。なかでも、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の成形加工時における回路形成用添加剤の反応、分解が抑制され、成形品表面の微細回路形成性に優れることから、酸化物、リン酸塩、ピロリン酸塩、水酸化物が好ましい。また、回路形成用添加剤(B)が上記金属のいずれか1種の金属種から構成されることで、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中に適度に分散し、成形品表面の回路形成性に優れるため好ましい。なかでも酸化スズ、酸化銅、リン酸銅、ピロリン酸銅が好ましく、リン酸銅、ピロリン酸銅が特に好ましい。回路形成用添加剤(B)が上記の特に好ましい化合物を用いることで、回路形成用添加剤の熱安定性に優れる特性により、これらを配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の加工時の熱劣化が抑制される。そのため、樹脂成形品と金属導通部との密着性に優れるため好ましい。
【0033】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、回路形成用添加剤(B)を熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対して、3~25重量部含むことを特徴とする。回路形成用添加剤の配合量を3重量部未満または回路形成用添加剤を配合しないと、成形品の金属部が形成されない、または形成量が不十分で金属部の導通性が得られず、成形品表面の回路形成性も低下する。成形品表面の回路形成性の観点から、回路形成用添加剤の配合量は3.5重量部以上が好ましく、5重量部以上がより好ましい。一方、回路形成用添加剤の配合量が25重量部を超えると、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品の機械強度が低下し、樹脂成形品と金属導通部との密着性が低下する。また、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の押出製造時に、ストランド切れが生じるなど悪影響を及ぼす。樹脂成形品と金属導通部との密着性保持の観点から、回路形成用添加剤の配合量は21重量部以下が好ましく、19重量部以下がより好ましい。
【0034】
本発明で使用する回路形成用添加剤(B)は、平均粒子径が1μmより大きいことが好ましい。ここでいう平均粒子径は体積平均粒子径であり、次の方法により求めることができる。熱可塑性ポリエステル樹脂組成物50gを550℃で3時間加熱することにより樹脂成分を除去し、回路形成用添加剤(B)を取り出す。回路形成用添加剤(B)以外に例えば充填材が添加されている場合は比重差により分離することができる。例えば樹脂成分が除去された回路形成用添加剤と充填材の混合物を取り出し、これをヨウ化メチレン(比重3.33)や1,1,2,2-テトラブロモエタン(比重2.970)、エタノール(比重0.789)などを用いて回路形成用添加剤と充填材との間の比重となるよう適宜混合した混合液中に分散させ、回転数10000rpmで5分間遠心分離した後、浮遊した充填材をデカンテーションで取り除き、沈降した回路形成用添加剤をろ過により取り出す。得られた回路形成用添加剤を100mg秤量し、水中に分散させ、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA社製“LA-300”)を用いて測定する。
【0035】
回路形成用添加剤(B)の平均粒子径が1μmより大きいと、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造時、成形加工時において回路形成用添加剤(B)と下述する酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)や充填材(D)との混練が促進されるため、それぞれの凝集が抑制され、得られる成形品中で、回路形成用添加剤(B)と酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)や充填材(D)がそれぞれ分散性に優れる。それにより、成形品におけるレーザー回路形成性が向上するので好ましい。1.5μm以上が好ましく、2.0μm以上がより好ましい。一方、回路形成用添加剤(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中での分布むら抑制の観点から、回路形成用添加剤(B)の平均粒子径の上限は、350μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0036】
[酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)]
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)を含むことを特徴とする。これらの添加剤(C)を用いることで、レーザー照射時に、レーザーによる発熱反応により、成形品表面の金属導通部との密着性の低下や、樹脂部の炭化などにより、脱離や剥離が生じるのを防ぐことができる。また、成形品表面に、狭い間隔で金属部を形成すると、金属部メッキ不良により、隣接する金属部の短絡などの不具合が生じる。そこで、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)を用いることで、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、レーザーを照射した際に、樹脂成形品と金属導通部との密着性向上や成形品表面の微細回路形成性に優れる成形品とすることができる。酸窒化チタン(C1)や、チタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)は、単独では回路形成用添加剤(B)としての特徴を示さない。
【0037】
酸窒化チタン(C1)は、酸化チタンと窒化チタンの複合物である。酸化チタンと窒化チタンの割合は本発明の効果を損なわない程度であれば、任意であってもよい。チタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)は、本発明の効果を損なわない程度であれば、他の成分を含んでもよい。
【0038】
酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)としては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよいが、樹脂成形品と金属導通部との密着性向上の観点から、チタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)を用いることが好ましい。
【0039】
酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)の配合量は、熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対して、0.1~20重量部であることを特徴とする。酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)の配合量が0.1重量部未満であると、レーザーを照射した際に、レーザー強度によってはレーザーを吸収することができず、成形品の金属部が形成されない、または形成量が不十分で金属部の導通性が得られず、成形品表面の回路形成性も低下する。また、成形品表面に、狭い間隔で金属部を形成すると、金属部メッキ不良により、隣接する金属部の短絡などの不具合が生じる。回路形成性の観点から、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)の配合量は、0.5重量部以上がより好ましく、1重量部以上がさらに好ましい。また、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)の配合量が20重量部を超えると、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品の機械強度が低下し、樹脂成形品と金属導通部との密着性が低下する。樹脂成形品と金属導通部との密着性向上の観点から、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)の配合量は、15重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
【0040】
本発明で使用する酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)は、平均粒子径が0.01~10μmであることが好ましい。ここでいう平均粒子径は体積平均粒子径であり、前述の方法により求めることができる。
【0041】
酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)の平均粒子径が0.01μm以上であると、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造時、成形加工時において酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)と回路形成用添加剤(B)や下述する充填材(D)との混練が促進されるため、それぞれの凝集が抑制され、得られる成形品中で、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)と回路形成用添加剤(B)や充填材(D)がそれぞれ分散性に優れる。それにより、成形品表面の微細回路形成性が向上するので好ましい。0.05μm以上が好ましい。一方、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中での分布むら抑制の観点から、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)の平均粒子径の上限は、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
【0042】
[充填材]
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、さらに、充填材(D)を含んでもよい。本発明で使用することができる充填材は、回路形成用添加剤(B)、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)以外であり、特に限定されるものではないが、例えば、繊維状、ウィスカー状、非繊維状(例えば板状、粉末状、粒状、不定形)などの充填材を挙げることができる。具体的には、繊維状、ウィスカー状充填材としては、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維やポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、ワラステナイト、および針状酸化チタンなどが挙げられる。板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、タルク、カオリン、クレー、黒鉛、および二硫化モリブデンなどが挙げられる。粉状、粒状の充填材としては、シリカ、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化亜鉛、およびポリリン酸カルシウムなどが挙げられる。
【0043】
本発明に使用することができる上記の充填材は、その表面が公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されていてもよい。
【0044】
充填材(D)の配合量は、熱可塑性ポリエステル(A)100重量部に対して、5~150重量部が好ましい。密着性向上の観点から、充填材の配合量は、15重量部以上がより好ましく、20重量部以上がさらに好ましい。微細回路形成性の観点から、充填材の配合量は、150重量部以下がより好ましく、100重量部以下がさらに好ましい。
【0045】
本発明で使用する充填材(D)は、平均粒子径が10~1000μmであることが好ましい。ここでいう平均粒子径は体積平均粒子径であり、前述の方法により求めることができる。充填材(D)の平均粒子径が10μm以上であると、補強効果に優れ、回路形成用添加剤(B)、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)との混練が促進されるため、それぞれの凝集が抑制され、得られる成形品中で、充填材(D)と回路形成用添加剤(B)、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)がそれぞれ分散性に優れる。それにより、成形品における微細な回路の形成が向上するので好ましい。
【0046】
本発明で使用する充填材(D)は、非繊維状であることがより好ましく、樹脂成形品と金属導通部との密着性に優れることからマイカ、ガラスフレーク、タルクが特に好ましい。
【0047】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに酸化防止剤、熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸等の長鎖脂肪酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、シリコーン、高級アルコール、高級脂肪酸アマイド、およびポリエチレンワックスなど。)、染料または顔料を含む着色剤、導電剤、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤から選択される通常の添加剤を配合することができる。あるいは、熱可塑性ポリエステル(A)以外の重合体を配合して、所定の特性をさらに付与することができる。熱可塑性ポリエステル(A)以外の重合体を配合する場合、樹脂種の中で、熱可塑性ポリエステル(A)の割合が最も多いことが好ましい。
【0048】
本発明のポリエステル組成物を配合する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、熱可塑性ポリエステル(A)に回路形成用添加剤(B)、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)、充填材(D)およびその他の固体状の添加剤等を配合するドライブレンド法や、熱可塑性ポリエステル(A)、回路形成用添加剤(B)、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)、充填材(D)にその他の液体状の添加剤等を配合する溶液配合法、また、回路形成用添加剤(B)、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)、充填材(D)およびその他の添加剤を熱可塑性ポリエステル(A)の重合時に添加する方法や、熱可塑性ポリエステル(A)と回路形成用添加剤(B)、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)、充填材(D)およびその他の添加剤を溶融混練する方法などを用いることができ、なかでも溶融混練する方法が好ましい。溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、ポリエステルの融点+50℃以下で溶融混練して熱可塑性ポリエステル樹脂組成物とすることができる。なかでも二軸押出機が好ましい。
【0049】
二軸押出機については、熱可塑性ポリエステル(A)と回路形成用添加剤(B)、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)、充填材(D)の分散性を向上させるため、ニーディング部を1箇所以上設けていることが好ましく、2箇所以上設けていることがより好ましい。ニーディング部の設置箇所は、例えば、充填材をサイドフィーダーから添加する場合、ポリエステルの可塑化を促進させるために、充填材のサイドフィーダーより上流側に1箇所以上、ポリエステルと充填材との分散性を向上させるため、サイドフィーダーよりも下流側に1箇所以上の計2箇所以上設置することが好ましい。
【0050】
また、二軸押出機中の水分や混練中に生じた分解物を除去するため、ベント部を設けていることが好ましく、2箇所以上設けていることがより好ましい。ベント部の設置箇所は、例えば、充填材をサイドフィーダーから添加する場合、ポリエステルの付着水分を除去するために、充填材を投入するサイドフィーダーより上流側に1箇所以上、溶融混練時の分解ガス成分、充填材供給時の持ち込み空気を除去するため、サイドフィーダーよりも下流側に1箇所以上の計2箇所以上設置することが好ましい。ベント部は、常圧下としてもよく、減圧下としてもよい。
【0051】
混練方法としては、1)熱可塑性ポリエステル(A)、回路形成用添加剤(B)、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)、充填材(D)およびその他の添加剤を元込めフィーダーから一括で投入して混練する方法(一括混練法)、2)熱可塑性ポリエステル(A)、回路形成用添加剤(B)、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)およびその他の添加剤を元込めフィーダーから投入して混練した後、充填材(D)およびその他添加剤をサイドフィーダーから添加して混練する方法(サイドフィード法)、3)熱可塑性ポリエステル(A)と回路形成用添加剤(B)、酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)およびその他の添加剤を高濃度に含むマスターペレットを作製し、次いで規定の濃度になるようにマスターペレットを熱可塑性ポリエステル(A)および充填材(D)と混練する方法(マスターペレット法)など、どの方法を用いてもかまわない。
【0052】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの公知の溶融成形を行うことによって、優れた表面外観(色調)および機械的性質、耐熱性、難燃性を有する成形品に加工することが可能である。ここでいう成形品としては、射出成形品、押出成形品、プレス成形品、シート、パイプ、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムなどの各種フィルム、未延伸糸、超延伸糸などの各種繊維などが挙げられる。特に加工性の観点から射出成形であることが好ましい。
【0053】
このようにして得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品は、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、リレーベース、リレー用スプール、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、基板間関節部品、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレイ部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、サーマルプロテクター、アンテナ、ウェアラブル端末部材、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、レンズホルダ、ベース、バレル、カバー、センサーカバー、アクチュエーターなどに代表されるカメラモジュール関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計、医療用器具などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコン用モーターインシュレーター、パワーウインド等の車載用モーターインシュレーター、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ハンドル、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプベゼル、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、センサーなどに代表される自動車・車両関連部品などに用いることができる。
【0054】
本発明の成形品は、上記各種用途の中でも、成形品表面の金属部の冷熱処理時の密着性、熱処理時の成形品の形状保持性に優れる点、および成形品の摺動性に優れる点を生かして、成形品表面に金属部を有する小型の電気・電子部品に有用であり、例えば、センサー、LEDランプ基板、カメラモジュール、アンテナ、ウェアラブル端末部材などに用いられる。
【0055】
本発明の成形品は、表面に金属部を有していることが好ましい。表面に金属部を形成させる方法としては特に限定されず、成形品への触媒付与を含む各種めっき処理による方法、2回成形により回路形成箇所以外へマスキングを施すマスク形成方法、レーザー照射による成形品表面の変性、部分除去による方法、およびそれらの組み合わせによるものが挙げられる。特にレーザー直接構造化工法などに代表される、成形品へのレーザー照射によるパターン描画工程とめっき処理による金属化工程とを含む、レーザー照射部への選択的な金属部形成方法が、1回成形で成形品を作成可能なこと、回路の狭ピッチ化が容易なこと、回路パターンの変更時に金型変更が不要でレーザー照射パターンを変えるだけでよいことなどの利点があり好ましい。
【0056】
金属部形成箇所に照射するレーザーについては、特に制限はなく、YVO4レーザー、CO2レーザー、Arレーザー、およびエキシマレーザーなどが挙げられる。特に、基本波長1064nmまたは第2高波長532nmの波長で作動するNd;YAGレーザー、YVO4レーザー、FAYbレーザーが、金属部の形成性に優れるため好ましい。また、レーザー光線の発振方式は連続発振レーザーであってもパルスレーザーであってもよい。金属部形成箇所に照射するレーザーは、成形品表面の熱劣化、溶融樹脂による回路形成用添加剤の埋没を抑制する点から、強いレーザー出力を短時間照射するパルスレーザーが好ましい。
【0057】
上記方法により形成される金属部の金属種は、金、銀、銅、白金、亜鉛、スズ、ニッケル、カドミウム、クロム、およびそれらを含む合金などが挙げられ、特に金、銅、ニッケルが回路形成性、金属導通部形成後の密着性の点から好ましい。また、金属部の安定性、導通性の向上の観点から、成形品の金属部上にめっき等の手法によりさらに異なる種類の金属種からなる金属層を形成してもよい。
【0058】
上記の方法により得られた表面に金属部を有する成形品は、従来技術である回路を形成する基板とそれを保持する成形品からなる回路部材に比べ、省スペースであり、製造工程の簡略化が図れることから、小型の電気・電子部品としての使用に有用である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明の骨子は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
各実施例および比較例に用いた熱可塑性ポリエステル(A)を次に示す。
【0061】
ポリエステルの組成分析および特性評価は以下の方法により行った。
【0062】
(1)熱可塑性ポリエステルの組成分析
熱可塑性ポリエステルの組成分析は、1H-核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)測定により実施した。ポリエステルをNMR試料管に50mg秤量し、溶媒(ペンタフルオロフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2=65/35(重量比)混合溶媒)800μLに溶解して、UNITY INOVA500型NMR装置(バリアン社製)を用いて観測周波数500MHz、温度80℃で1H-NMR測定を実施し、7~9.5ppm付近に観測される各構造単位に由来するピーク面積比から組成を分析した。
【0063】
(2)熱可塑性ポリエステルの融点(Tm)測定
示差走査熱量計DSC-7(パーキンエルマー製)により、熱可塑性ポリエステルを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点(Tm)とした。以下の製造例においては、融点をTmと記載する。
【0064】
製造例1 熱可塑性ポリエステル樹脂(A-1)
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸932重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル251重量部、ハイドロキノン99重量部、テレフタル酸284重量部、イソフタル酸90重量部および無水酢酸1252重量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1時間反応させた後、ジャケット温度を145℃から350℃まで4時間で昇温させた。その後、重合温度を350℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして熱可塑性ポリエステル(A-1)を得た。
【0065】
この熱可塑性ポリエステル(A-1)について組成分析を行なったところ、p-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位の割合が60.0モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位の割合が12.0モル%、ハイドロキノン由来の構造単位の割合が8.0モル%、テレフタル酸由来の構造単位の割合が15.2モル%、イソフタル酸由来の構造単位の割合が4.8モル%であった。ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位とテレフタル酸由来の構造単位の合計はポリエステルの全構造単位100モル%に対して、75.2モル%であった。また、Tmは330℃であった。
【0066】
製造例2 熱可塑性ポリエステル(A-2)
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル302重量部、ハイドロキノン119重量部、テレフタル酸247重量部、イソフタル酸202重量部および無水酢酸1302重量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1時間反応させた後、ジャケット温度を145℃から330℃まで4時間で昇温させた。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして熱可塑性ポリエステル(A-2)を得た。
【0067】
この熱可塑性ポリエステル(A-2)について組成分析を行なったところ、p-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位の割合が53.8モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位の割合が13.8モル%、ハイドロキノン由来の構造単位の割合が9.2モル%、テレフタル酸由来の構造単位の割合が12.7モル%、イソフタル酸由来の構造単位の割合が10.4モル%であった。ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位とテレフタル酸由来の構造単位の合計はポリエステルの全構造単位100モル%に対して、66.5モル%であった。また、Tmは310℃であった。
【0068】
製造例3 熱可塑性ポリエステル(A-3)
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸1057重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル151重量部、ハイドロキノン59重量部、テレフタル酸202重量部、イソフタル酸22重量部および無水酢酸1152重量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1時間反応させた後、ジャケット温度を145℃から365℃まで4時間で昇温させた。その後、重合温度を365℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして熱可塑性ポリエステル(A-3)を得た。
【0069】
この熱可塑性ポリエステル(A-3)について組成分析を行なったところ、p-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位の割合が73.9モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位の割合が7.8モル%、ハイドロキノン由来の構造単位の割合が5.2モル%、テレフタル酸由来の構造単位の割合が11.7モル%、イソフタル酸由来の構造単位の割合が1.3モル%であった。ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位とテレフタル酸由来の構造単位の合計は熱可塑性ポリエステルの全構造単位100モル%に対して、85.7モル%であった。また、Tmは351℃であった。
【0070】
(A-4):熱可塑性ポリエステル:東レ(株)製、カルボキシル基量40eq/tのポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた。また、Tmは250℃であった。
【0071】
各実施例および比較例において用いた回路形成用添加剤(B)を次に示す。
(B-1):リン酸銅(II)(和光純薬製、平均粒子径3μm)
(B-2):ピロリン酸銅(II)(関東化学製、平均粒子径1μm)
(B-3):酸化スズ(和光純薬製、平均粒子径3μm)
(B-4):銅クロム酸化物 Black3702(アサヒ化成工業製、平均粒子径0.8μm)。
【0072】
各実施例および比較例において用いた酸窒化チタン(C1)ならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物(C2)から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)およびその他の添加物(c)を次に示す。
(C-1):SG-101(石原産業製、カルシウム、チタン、およびマンガンの複合酸化物(C2)、粒子径0.95μm)
(C-2):SG-103(石原産業製、カルシウム、チタン、およびマンガンの複合酸化物(C2)と酸化アルミとの混合物、粒子径1.2μm)
(C-3):チタンブラック13M(三菱マテリアル製、酸窒化チタン(C1)、平均粒子径0.075μm)
(c-4):42-303B(東罐マテリアル・テクノロジー製、銅、クロム、マンガンの複合酸化物、平均粒子径0.6μm)。
(c-5):CR-63(石原産業製、酸化チタン、平均粒子径0.21μm)
(c-6):#45(三菱化学製、カーボンブラック、平均粒子径24nm)。
【0073】
各実施例において用いた充填材(D)を次に示す。
(D-1):マイカ AB-41(ヤマグチマイカ製、平均粒子径47μm、モース硬度2.8)
(D-2):ガラス繊維 T-747H(日本電気硝子製、チョップドストランド)
(D-3):ガラスミルドファイバー EPDE-40M-10A(日本電気硝子製、平均繊維長40μm、平均繊維径9μm、モース硬度6.5)。
【0074】
実施例1~18、比較例1~7
サイドフィーダーを備えた東芝機械製TEM35B型2軸押出機で、各製造例で得られた熱可塑性ポリエステル(A-1)~(A-4)100重量部に対し、表1に示す配合量で、回路形成用添加剤(B-1)~(B-4)と酸窒化チタンならびにチタン、カルシウムおよびマンガンを含む複合酸化物から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C-1)~(C-3)およびその他の添加物(c-4)~(c-6)を元込めフィーダーから投入し、充填材(D-1)~(D-3)をサイドフィーダーから投入し、シリンダー温度を熱可塑性ポリエステル(A)の融点+10℃に設定し、溶融混練してペレットとした。得られた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のペレットを150℃、3時間、熱風乾燥機で乾燥した後、以下(3)~(5)の評価を行った。結果は表1に示す。
【0075】
(3)金属導通部形成性の評価
各実施例および比較例により得られた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、ファナックα30C射出成形機(ファナック製、スクリュー径28mm)に供し、シリンダー温度を熱可塑性ポリエステルの融点+20℃、金型温度を90℃として、70mm×70mm×1mm厚の角形成形品を成形した。得られた成形品の表面に、パナソニック製LP-V10U YAGレーザー装置を用い、波長1064nm、周波数50Hzで、レーザー出力を1.2、2.4、3.6、4.8、6.0、7.2W、走査速度を1000、2000、3000、4000、5000、6000mm/sと変えて、それぞれ5mm×5mmの範囲にレーザー照射を行った。その成形品に無電解銅めっき処理を実施し、レーザー照射条件の異なる36カ所のうち、銅めっき形成個数(金属導通部形成個数)が多いほど、成形品への金属導通部の形成性に優れると評価した。ここで、成形品表面に銅めっきが全て形成しない成形品については、金属導通部形成性を「×」とした。
【0076】
(4)成形品表面と金属導通部との密着性の評価
(3)で金属導通部形成が可能であった各実施例および比較例の成形品各5枚を冷熱衝撃装置(ESPEC社製TSA-70L)にて、室温から5分で-40℃まで降温させ30分保持、その後5分で150℃まで昇温し30分保持を1サイクルとして10回繰り返す試験条件で冷熱試験処理を行った。処理後、各金属導通部形成箇所にテープ(粘着力3.4~3.9N/cmのニチバン製セロテープ(登録商標)、幅18mm)を十分に密着させ、テープの両端を持ち垂直方向に瞬間的に引き剥がし、レーザー照射条件の異なる36カ所/枚×5枚の計180箇所のうち、金属導通部形成箇所が剥離せずに残った数を測定した。ここで、成形品表面に金属導通部が一部形成されなかった箇所については、金属導通部形成箇所が剥離せずに残った箇所として数に入れなかった。金属導通部形成箇所が剥離せずに残った箇所の数(金属導通部残存数)が多いほど、成形品表面の金属導通部との密着性に優れると評価した。なお、(3)で、成形品表面に金属導通部が全て形成しない成形品については、密着性を「-」とした。
【0077】
(5)微細回路形成性の評価
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を、ファナックα30C射出成形機(ファナック製、スクリュー径28mm)に供し、シリンダー温度を熱可塑性ポリエステル樹脂の融点+20℃、金型温度を90℃、70mm×70mm×1mm厚の角形成形品を成形した。得られた成形品表面に、パナソニック製LP-V10U FAYbレーザー装置を用い、波長1064nm、周波数50Hz、レーザー出力5.0W、走査速度3000mm/sの条件で、0.2mm幅、0.1mm間隔の配線パターンのレーザー照射を行った。その成形品に6μm厚の無電解銅めっき処理を実施した。その後、成形品配線の導通をテスターで評価した。導通しているものを「○」、断線、短絡しているものを「×」、めっき処理による配線パターンが形成されないものを「-」とした。導通しているものほど成形品表面の微細回路性に優れるとした。
【0078】
【0079】
表1の結果から、本発明の実施形態の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、レーザー照射による回路パターン形成後の樹脂成形品と金属導通部との密着性に優れ、さらに、成形品表面の微細回路形成性に優れていることがわかる。そのため、特に表面に金属部を有する電気・電子部品用途への使用に適しているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、レーザー照射による回路パターン形成後の樹脂成形品と金属導通部との密着性に優れ、さらに、成形品表面の微細回路形成性に優れているため、電気・電子部品などに有用である。