(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】無人搬送車の制御システム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20230606BHJP
【FI】
G05D1/02 W
G05D1/02 A
G05D1/02 H
(21)【出願番号】P 2019170134
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松下 祐也
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-128750(JP,A)
【文献】特開2012-174032(JP,A)
【文献】特開2015-161577(JP,A)
【文献】特開2004-166326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の区間に区切られた走行経路を、SLAM誘導と、無人搬送車の位置推定のために前記走行経路上に設けられた被検出体をセンサにより検知して前記無人搬送車の位置を推定する他の誘導方式とを前記区間ごとに切り替えて、前記無人搬送車を走行制御する制御部を備えた、無人搬送車の制御システムであって、
前記制御部には、SLAM誘導によるSLAM誘導区間の最終地点と、当該最終地点よりも前記走行経路上で前に位置する切替準備開始地点が登録され、当該切替準備開始地点と前記最終地点の間には前記被検出体が設けられ、
前記制御部は、
前記センサの出力を基に、前記他の誘導方式における前記走行経路からの前記無人搬送車の現在位置のずれの量を演算する他方式誘導演算部と、
前記無人搬送車が前記切替準備開始地点と前記最終地点の間に位置するときに、前記無人搬送車が前記最終地点に近づくに従い前記他方式誘導演算部により演算されるずれの量が小さくなるように
、前記無人搬送車を走行制御する、走行制御部と、
を備え、
前記無人搬送車が前記切替準備開始地点と前記最終地点の間に位置しており、前記他方式誘導演算部により演算されたずれの量が第1閾値以上の場合には、
前記走行制御部は、前記無人搬送車が現在位置から、前記走行経路上の第1の距離だけ前に位置する暫定目標地点に直行する際に要する必要操舵角度よりも小さい補正された操舵角度で、前記無人搬送車が前記走行経路に接近するように走行制御する、無人搬送車の制御システム。
【請求項2】
前記補正された操舵角度は、
前記必要操舵角度に0より大きく1より小さい係数を乗算することで得られる角度か、または、
前記無人搬送車が、前記ずれの量に0より大きく1より小さい係数を乗算して得られる、補正されたずれの量だけ、前記走行経路からずれて位置していると想定した場合に、当該位置から前記暫定目標地点に直行する際に要する操舵角度のいずれかである、請求項1に記載の無人搬送車の制御システム。
【請求項3】
前記無人搬送車の周囲に位置する障害物までの距離を計測する距離計測器を備え、
前記制御部は、前記距離計測器による計測結果を基に局所地図を作成し、予め格納されている大域地図と比較して前記無人搬送車の位置を推定し、SLAM誘導における前記無人搬送車の前記位置の、前記走行経路からのずれの量を演算し
、推定された位置を基に、前記無人搬送車が前記切替準備開始地点及び最終地点に到達したか否かを判定するSLAM誘導演算部を備えている、請求項1または2に記載の無人搬送車の制御システム。
【請求項4】
前記他の誘導方式は、磁気誘導、レーザレーダ誘導、電磁誘導のいずれかを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の無人搬送車の制御システム。
【請求項5】
複数の区間に区切られた走行経路を、SLAM誘導と、無人搬送車の位置推定のために前記走行経路上に設けられた被検出体をセンサにより検知して前記無人搬送車の位置を推定する他の誘導方式とを前記区間ごとに切り替えて、前記無人搬送車を走行制御する、無人搬送車の制御方法であって、
前記センサの出力を基に、前記他の誘導方式における前記走行経路からの前記無人搬送車の現在位置のずれの量を演算し、
前記無人搬送車が、SLAM誘導によるSLAM誘導区間の最終地点よりも前記走行経路上で前に位置する切替準備区間に位置するときに、前記無人搬送車が前記最終地点に近づくに従い、前記切替準備
区間の開始地点と前記最終地点の間に設けられた前記被検出体を前記センサが検知することで演算されるずれの量が小さくなるように、前記無人搬送車を走行制御し、
前記無人搬送車が前記切替準備区間に位置しており、演算されたずれの量が第1閾値以上の場合には、前記無人搬送車が現在位置から、前記走行経路上の第1の距離だけ前に位置する暫定目標地点に直行する際に要する必要操舵角度よりも小さい補正された操舵角度で、前記無人搬送車が前記走行経路に接近するように走行制御する、無人搬送車の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無人搬送車の制御システム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、無人搬送車によって資材を搬送することが行われている。この無人搬送車を走行させるにあたり、磁気誘導、レーザレーダ誘導、電磁誘導、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)誘導等、様々な誘導方式が使用されている。
【0003】
磁気誘導においては、予め走行経路に沿って磁気テープ等の発磁体が敷設され、無人搬送車に搭載された磁気センサ等により発磁体を検知することにより無人搬送車が誘導される。
レーザレーダ誘導においては、予め走行経路に反射板が設置され、無人搬送車に搭載されたレーザレーダ等により反射板を検知することにより無人搬送車が誘導される。
電磁誘導においては、予め走行経路に沿って誘導線が敷設され、この誘導線に電流を通じた際に発生する磁界を、無人搬送車に搭載された磁気センサ等により検知することにより無人搬送車が誘導される。
SLAM誘導においては、レーザレンジファインダー等の距離計測器により周りの環境を探索、分析して局所地図を作成し、これを無人搬送車内に予め格納されている大域地図と照合、マッチングすることで、作成した局所地図に該当する大域地図上の位置を決定する。このように、SLAM誘導においては、距離計測器による計測結果を基に自己位置の推定と局所地図の作成を同時に行いながら、目的地へ到達するように無人搬送車1が走行制御される。
上記のようないずれの誘導方式であっても、無人搬送車の制御システムは、基本的に、走行経路からのずれの量、すなわち誘導偏差を0に近づけるように、無人搬送車を走行制御する。
【0004】
上記のような誘導方式の各々は、長所と短所を備えるため、複数の誘導方式を組み合わせて、短所を補うことが行われている。
例えば特許文献1には、無人搬送車の誘導を磁気誘導で行い、停止制御は電磁式を利用して行う、無人搬送車の誘導停止方法が開示されている。特許文献1においては、走行経路には埋設溝が形成され、埋設溝の中には、全長に亘り磁気テープが布設され、交差点区間には電線が布設される。スイッチを投入すると発振器から電線に発振電流が流れる。無人搬送車は磁気テープから生じる磁界を検出して磁気テープに沿い走行する。スイッチを投入すると発振電流により磁界が生じ、この磁界を無人搬送車が検出すると走行を停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような誘導方式の中では、磁気誘導やレーザレーダ誘導等は、磁気テープや反射板等の、無人搬送車の位置推定のために走行経路上に設けられた被検出体をセンサにより検知して無人搬送車の位置を推定するから、自己位置の推定精度が高い。
これに対し、SLAM誘導においては、被検出体の検出に依存せず、周りの環境を自ら探索、分析することで自己位置を推定するため、磁気誘導やレーザレーダ誘導等に比べると、自己位置の推定精度が低くなる場合がある。
このため、SLAM誘導と例えば磁気誘導を組み合わせるに際し、SLAM誘導における自己位置の推定精度が低いと、SLAM誘導によって走行制御される区間から磁気誘導によって走行制御される区間に無人搬送車が移動して誘導方式を切り替える場合に、SLAM誘導による推定とは異なる場所に磁気テープを検出することがある。
【0007】
このような場合においては、誘導偏差は、SLAM誘導区間内では0に近い値が維持されていたにもかかわらず、磁気誘導区間に侵入した途端に急増するように変位する。
このような場合に、誘導偏差を小さくするために、無人搬送車を迅速に磁気テープ上に位置せしめようとすると、急激な操作により無人搬送車が走行経路を逸脱して周囲の設備に衝突する可能性がある。あるいは、操舵角度が大きくなり無人搬送車の上体が揺れて、搬送中の資材が落下して破損し、または無人搬送車が転倒する可能性がある。更には、操舵角度を大きく変更した結果として磁気テープに対して、例えば直交するような、大きな角度で接近した結果、無人搬送車が磁気テープを越えてしまい、反対側へと更なる軌道修正を試みた結果、無人搬送車が蛇行してしまうこともある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、SLAM誘導から他の誘導方式へと誘導方式を切り替える際に、急激な進路変更を抑制して無人搬送車を滑らかに走行制御することが可能な、無人搬送車の制御システム及び制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、複数の区間に区切られた走行経路を、SLAM誘導と、無人搬送車の位置推定のために前記走行経路上に設けられた被検出体をセンサにより検知して前記無人搬送車の位置を推定する他の誘導方式とを前記区間ごとに切り替えて、前記無人搬送車を走行制御する制御部を備えた、無人搬送車の制御システムであって、前記制御部には、SLAM誘導によるSLAM誘導区間の最終地点と、当該最終地点よりも前記走行経路上で前に位置する切替準備開始地点が登録され、当該切替準備開始地点と前記最終地点の間には前記被検出体が設けられ、前記制御部は、前記センサの出力を基に、前記他の誘導方式における前記走行経路からの前記無人搬送車の現在位置のずれの量を演算する他方式誘導演算部と、前記無人搬送車が前記切替準備開始地点に到達したときに、前記無人搬送車が前記最終地点に近づくに従い前記他方式誘導演算部により計算される前記ずれの量が小さくなるように、前記無人搬送車を走行制御する、走行制御部と、を備えている、無人搬送車の制御システムを提供する。
上記のような構成によれば、無人搬送車が切替準備開始地点に到達したときに、その時点における、他の誘導方式における走行経路からの無人搬送車の現在位置のずれの量、すなわち他の誘導方式における誘導偏差を演算する。そして、切替準備開始地点からSLAM誘導区間の最終地点に無人搬送車を誘導するに際し、切替準備開始地点から最終地点の間に設けられた被検出体を随時検知して他の誘導方式における誘導偏差を演算し、最終地点に近づくに従ってこの誘導偏差が小さくなるように、無人搬送車を走行制御する。
このように、SLAM誘導区間内であっても、切替準備開始地点から最終地点の間の切替準備区間においては切替後の他の誘導方式における誘導偏差を小さくするように無人搬送車を走行制御することで、誘導方式を切り替える。すなわち、無人搬送車がSLAM誘導区間の最終地点に到達した際には、既に、他の誘導方式による誘導偏差が評価されてこれを小さくするように無人搬送車が走行制御されている。したがって、SLAM誘導区間の最終地点における誘導偏差の増加が抑制され、他の誘導方式による誘導区間内の無人搬送車の制御が安定化される。
また、SLAM誘導区間の最終地点近傍に、他の誘導方式へと誘導方式を切り替えるための切替準備区間を設け、この切替準備区間内で余裕をもって誘導偏差を小さくするように無人搬送車を走行制御することができる。特に、切替準備区間においては、誘導偏差が最終地点に近づくに従って小さくなるように無人搬送車が走行制御されるため、無人搬送車が切替準備開始地点に到達した時点から最終地点に到達するまでの、無人搬送車の急激な進路変更が抑制される。
上記の効果が相乗し、急激な進路変更を抑制して無人搬送車を滑らかに走行制御することが可能な、無人搬送車の制御システムを実現可能である。
【0010】
本発明の一態様においては、前記無人搬送車が前記切替準備開始地点と前記最終地点の間に位置しており、前記他方式誘導演算部により演算された前記ずれの量が第1閾値以上の場合には、前記走行制御部は、前記無人搬送車が現在位置から、前記走行経路上の第1の距離だけ前に位置する暫定目標地点に直行する際に要する必要操舵角度よりも小さい補正された操舵角度で、前記無人搬送車が前記走行経路に接近するように走行制御する。
上記のような構成によれば、他の誘導方式における誘導偏差が第1閾値以上の場合に、操舵角度が、無人搬送車が現在位置から、前記走行経路上の第1の距離だけ前に位置する暫定目標地点に直行する際に要する必要操舵角度よりも小さい補正された操舵角度とすることができる。このため、第1閾値を、例えば無人搬送車がSLAM誘導区間の第1の距離だけ前に位置する暫定目標地点に直行するために必要な操舵角度だけ無人搬送車を操舵しても、走行経路からの逸脱や蛇行、資材の落下が生じない値の上限とすることで、無人搬送車を滑らかに走行制御することができる。
【0011】
本発明の別の態様においては、前記補正された操舵角度は、前記必要操舵角度に0より大きく1より小さい係数を乗算することで得られる角度か、または、前記無人搬送車が、前記ずれの量に0より大きく1より小さい係数を乗算して得られる、補正されたずれの量だけ、前記走行経路からずれて位置していると想定した場合に、当該位置から前記暫定目標地点に直行する際に要する操舵角度のいずれかである。
また、本発明の別の態様においては、前記無人搬送車の周囲に位置する障害物までの距離を計測する距離計測器を備え、前記制御部は、前記距離計測器による計測結果を基に局所地図を作成し、予め格納されている大域地図と比較して前記無人搬送車の位置を推定し、SLAM誘導における前記無人搬送車の前記位置の、前記走行経路からのずれの量を演算し、前記推定された位置を基に、前記無人搬送車が前記切替準備開始地点及び最終地点に到達したか否かを判定するSLAM誘導演算部を備えている。
上記のような構成によれば、上記のような無人搬送車の制御システムを適切に実現可能である。
【0012】
本発明の別の態様においては、前記他の誘導方式は、磁気誘導、レーザレーダ誘導、電磁誘導のいずれかを含む。
上記のような構成によれば、SLAM誘導から磁気誘導、レーザレーダ誘導、電磁誘導のいずれかへと誘導方式を切り替える際に、急激な進路変更を抑制して無人搬送車を滑らかに走行制御することが可能な、無人搬送車の制御システムを提供可能である。
【0013】
また、本発明は、複数の区間に区切られた走行経路を、SLAM誘導と、無人搬送車の位置推定のために前記走行経路上に設けられた被検出体をセンサにより検知して前記無人搬送車の位置を推定する他の誘導方式とを前記区間ごとに切り替えて、前記無人搬送車を走行制御する、無人搬送車の制御方法であって、前記センサの出力を基に、前記他の誘導方式における前記走行経路からの前記無人搬送車の現在位置のずれの量を演算し、前記無人搬送車が、SLAM誘導によるSLAM誘導区間の最終地点よりも前記走行経路上で前に位置する切替準備開始地点に到達したときに、前記無人搬送車が前記最終地点に近づくに従い、前記切替準備開始地点と前記最終地点の間に設けられた前記被検出体を前記センサが検知することで計算される前記ずれの量が小さくなるように、前記無人搬送車を走行制御する。
上記のような方法によれば、無人搬送車が切替準備開始地点に到達したときに、その時点における、他の誘導方式における走行経路からの無人搬送車の現在位置のずれの量、すなわち他の誘導方式における誘導偏差を演算する。そして、切替準備開始地点からSLAM誘導区間の最終地点に無人搬送車を誘導するに際し、切替準備開始地点から最終地点の間に設けられた被検出体を随時検知して他の誘導方式における誘導偏差を演算し、最終地点に近づくに従ってこの誘導偏差が小さくなるように、無人搬送車を走行制御する。
このように、SLAM誘導区間内であっても、切替準備開始地点から最終地点の間の切替準備区間においては切替後の他の誘導方式における誘導偏差を小さくするように無人搬送車を走行制御することで、誘導方式を切り替える。すなわち、無人搬送車がSLAM誘導区間の最終地点に到達した際には、既に、他の誘導方式による誘導偏差が評価されてこれを小さくするように無人搬送車が走行制御されている。したがって、SLAM誘導区間の最終地点における誘導偏差の増加が抑制され、他の誘導方式による誘導区間内の無人搬送車の制御が安定化される。
また、SLAM誘導区間の最終地点近傍に、他の誘導方式へと誘導方式を切り替えるための切替準備区間を設け、この切替準備区間内で余裕をもって誘導偏差を小さくするように無人搬送車を走行制御することができる。特に、切替準備区間においては、誘導偏差が最終地点に近づくに従って小さくなるように無人搬送車が走行制御されるため、無人搬送車が切替準備開始地点に到達した時点から最終地点に到達するまでの、無人搬送車の急激な進路変更が抑制される。
上記の効果が相乗し、急激な進路変更を抑制して無人搬送車を滑らかに走行制御することが可能な、無人搬送車の制御方法を実現可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、SLAM誘導から他の誘導方式へと誘導方式を切り替える際に、急激な進路変更を抑制して無人搬送車を滑らかに走行制御することが可能な、無人搬送車の制御システム及び制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態における無人搬送車の正面図である。
【
図3】上記実施形態における無人搬送車の制御システムのブロック図である。
【
図4】無人搬送車の運行データの例の説明図である。
【
図5】(a)は、上記走行経路の、特にSLAM誘導区間と磁気誘導区間の境界部分の拡大図であり、(b)は、(a)に対応した経路における誘導偏差の変位を示すグラフである。
【
図6】上記実施形態における操舵角度の計算を示す説明図である。
【
図7】上記実施形態における無人搬送車の制御方法のフローチャートである。
【
図8】上記無人搬送車の制御方法における、特にSLAM誘導から磁気誘導への切り替えに関する処理のフローチャートである。
【
図9】上記実施形態の変形例に関する、操舵角度の計算を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、実施形態における無人搬送車1の正面図である。無人搬送車1は、本実施形態においては工場内、及び工場間で、被搬送物を搬送するものである。
無人搬送車1は、基部2、駆動輪3、自在輪4、モータ5、モータドライバ6、及び支柱7を備えている。
基部2は、上面が平坦に形成されており、無人搬送車1により搬送される被搬送物を載置することができるようになっている。
基部2には、上面から垂直に立ち上がるように、棒状の支柱7が設けられている。支柱7は、その上端が、基部2上に被搬送物を載置した場合においても被搬送物よりも上方に突出するような長さとなっている。
【0018】
駆動輪3は、右側駆動輪3Aと左側駆動輪3Bを備えており、基部2の左右に、基部2に対して回転可能に設けられている。
駆動輪3に対し、駆動輪3を駆動するモータ5が設けられている。モータ5は、一対の右側モータ5Aと左側モータ5Bを備えており、右側モータ5Aが右側駆動輪3Aを、及び左側モータ5Bが左側駆動輪3Bを、それぞれ駆動する。
【0019】
モータ5に対し、モータ5を制御するモータドライバ6が設けられている。モータドライバ6は、右側モータドライバ6Aと左側モータドライバ6Bを備えており、右側モータドライバ6Aが右側モータ5Aを、及び左側モータドライバ6Bが左側モータ5Bを、それぞれ制御する。各モータドライバ6は、後に説明する制御システム10の制御部13からそれぞれ受信した回転速度になるように、対応する各モータ5をフィードバック制御する。各モータドライバ6が異なる回転速度を受信した場合には、この回転速度の差分に応じて無人搬送車1が左右に進行方向を変更する。
【0020】
基部2には、1つの自在輪4が設けられている。自在輪4は、2つの駆動輪3と併せて3点で基部2を支持可能に設けられている。自在輪4は、右側駆動輪3Aと左側駆動輪3Bが互いに異なる回転速度で回転し無人搬送車1が進行方向を変更するのに伴い、水平面内で自在に回動してこれに追従する。
【0021】
このような無人搬送車1は、本実施形態においては、これに搭載された制御システム10によって、無人搬送車の誘導技術であるSLAM誘導、磁気誘導、及びレーザレーダ誘導を組み合わせて、これらの誘導方式を切り替えながら、走行制御される。
SLAM誘導においては、距離計測器等による計測結果を基に自己位置の推定と局所地図の作成を同時に行いながら、目的地へ到達するように無人搬送車1が走行制御される。
磁気誘導においては、予め走行経路に沿って磁気テープ等の発磁体(被検出体)が敷設され、無人搬送車1に搭載された磁気センサ等(センサ)により発磁体を検知することにより無人搬送車1が誘導される。
レーザレーダ誘導においては、予め走行経路に反射板(被検出体)が設置され、無人搬送車1に搭載されたレーザレーダ等(センサ)により反射板を検知することにより無人搬送車1が誘導される。
【0022】
このように、本実施形態においては、無人搬送車1の誘導方式は、上記のようなSLAM誘導、磁気誘導、及びレーザレーダ誘導を含む。
このため、上記の無人搬送車1の走行経路は、無人搬送車1がSLAM誘導によって走行制御される区間、磁気誘導によって走行制御される区間、及びレーザレーダ誘導によって走行制御される区間に区分される。
特に本実施形態における制御システムの、後に説明する制御部13は、複数の区間に区切られた走行経路を、SLAM誘導と、無人搬送車1の位置推定のために走行経路上に設けられた被検出体をセンサにより検知して無人搬送車1の位置を推定する他の誘導方式とを区間ごとに切り替えて、無人搬送車1を走行制御するものである。すなわち、本実施形態における他の誘導方式は、磁気誘導及びレーザレーダ誘導である。
【0023】
図2は、無人搬送車1の走行経路Rの実施例の説明図である。本実施例においては、走行経路Rは、後に説明する複数の地点P(P0~P15)を結ぶ経路R0~R15により形成されている。より詳細には、
図2において、無人搬送車1は地点P0から進行方向Fに向けて前進し、複数の地点P1~P15を経ながら経路R0~R15を辿り、地点P0へと戻る。地点P0には充電器が設けてあり、ここに停止した無人搬送車1の図示されない充電池が自動的に充電される。
【0024】
図2において、無人搬送車1がSLAM誘導によって走行制御されるSLAM誘導区間SR1、SR2の経路はR1~R5、R7~R14であり、該当する経路は破線で示されている。
無人搬送車1が磁気誘導によって走行制御される磁気誘導区間MR1、MR2の経路はR0、R6、R15であり、該当する経路には磁気テープMTが敷設されて、図中では実線で示されている。
磁気テープMTは、SLAM誘導区間SR1、SR2の各々の最後の経路R5、R14にも設けられている。
【0025】
例えばこの走行経路Rにおいては、無人搬送車1が地点P0から前進してから地点P1に到達するまでは、磁気誘導によって走行制御される。地点P1に無人搬送車1が到達すると、後に説明するように誘導方式をSLAM誘導に変更し、以降、無人搬送車1が地点P6に到達するまでSLAM誘導により無人搬送車1が走行制御される。地点P6に無人搬送車1が到達すると、後に説明するように誘導方式を磁気誘導に変更し、無人搬送車1が地点P7に到達するまで磁気誘導により無人搬送車1が走行制御される。地点P7に無人搬送車1が到達すると、誘導方式をSLAM誘導に変更し、以降、無人搬送車1が地点P15に到達するまでSLAM誘導により無人搬送車1が走行制御される。地点P15に無人搬送車1が到達すると、誘導方式を磁気誘導に変更し、無人搬送車1が地点P0に到達するまで磁気誘導により無人搬送車1が走行制御される。
このように、地点P1、P6、P7、P15において、後に説明するように誘導方式が変更される。
【0026】
走行経路の、無人搬送車1がレーザレーダ誘導によって走行制御されるレーザレーダ誘導区間においては、複数の反射板が設置されている。
図2に示される実施例においては、レーザレーダ誘導区間は設けられておらず、SLAM誘導と磁気誘導のみにより無人搬送車1が走行制御される走行経路Rとなっているが、レーザレーダ誘導により走行制御される区間が設けられてもよいのは言うまでもない。
【0027】
無人搬送車1は、上記のような複数の誘導方式を切り替えながら無人搬送車1を走行制御するために、制御システム10を備えている。制御システム10は、距離計測器11、磁気センサ(センサ)12、及び制御部13を備えている。
【0028】
距離計測器11は、支柱7の上端に設けられている。本実施形態においては、距離計測器11は、レーザ発振機により発振されたレーザ光を照射し、障害物が有る場合には障害物から反射した反射光を受信することで障害物までの距離を計測する、レーザレンジファインダー(以下、LRFと記載する)である。LRF11は、本実施形態においては特に、LRF11の位置する水平面内において、360°の全周囲に位置する障害物までの距離を計測可能なものである。
このように、LRF(距離計測器)11は、無人搬送車1の周囲に位置する障害物までの距離を計測する。
【0029】
本実施形態においては、LRF11は、SLAM誘導による走行制御に使用される。このSLAM誘導による走行制御のために、LRF11は、360°の全周囲を走査して取得した、LRF11を原点とする2次元平面上における障害物の座標情報を、後に説明する制御部13へと送信する。ここで、障害物の座標情報は、例えばLRF11の前方を基準とした角度と、当該角度における障害物までの距離により表される極座標の列である。
【0030】
LRF11は、レーザ光を照射し反射光を受信するものであるため、本実施形態においては、レーザレーダとしても用いられて、レーザレーダ誘導による走行制御にも使用される。このレーザレーダ誘導による走行制御のために、LRF11には予め、走行経路上に設けられた反射板の座標が格納されている。LRF11は、反射板により反射された反射光を検知し、これを基に、無人搬送車1が走行する領域内での無人搬送車1の位置する座標値と、予め定められた方向に対する無人搬送車1の角度、すなわち無人搬送車1の向きを計算する。LRF11は、計算した無人搬送車1の座標値と向きを、後に説明する制御部13へと送信する。
【0031】
磁気センサ12は、磁気テープ等の発磁体の測定、検知結果と、磁気マーカMを検知したか否かの情報である磁気マーカ検知情報を、後に説明する制御部13へと送信する。
【0032】
図3は、無人搬送車1のブロック図である。制御部13は、運行データ15、SLAM誘導制御部20、及び全体制御部30を備えている。
まず、運行データ15を説明する。
図4は、
図2として示した走行経路Rに対応する、運行データ15の実施例の説明図である。
図4の左側の列には、
図2の地点P(P0~P15)が列挙されている。
図4の中間と右側の列には、後に説明するように、地点P(P0~P15)の座標値と、地点P(P0~P15)において実行される命令が、それぞれ示されている。
【0033】
運行データ15には、無人搬送車1の所定の走行経路R上の複数の地点Pの各々において実行される、無人搬送車1の誘導方式を変更する命令である誘導方式変更命令が、地点Pに対応して格納されている。
より詳細には、全ての地点Pの中で、走行経路R上において誘導方式が変更される地点P(例えばP1、P6、P7、P15)の各々の識別子、例えば各々に紐づけられた番号に対して、進行方向Fにおいて当該地点Pの先に位置する経路R(例えばR1、R6、R7、R15)以降で適用されるべき誘導方式へ、誘導方式を変更する命令が、対応付けられて格納されている。
【0034】
例えば
図2に示される実施例においては、既に説明したように、地点P1でSLAM誘導に、地点P6で磁気誘導に、地点P7でSLAM誘導に、及び地点P15で磁気誘導に、それぞれ誘導方式が変更される。これを実現するために、
図4においては、地点P1、P6、P7、P15の各々に対応して、誘導方式をそれぞれSLAM誘導、磁気誘導、SLAM誘導、磁気誘導に変更する、誘導方式変更命令が格納されている。
後に説明するように、無人搬送車1が地点Pのいずれかに到達したとき、運行データ15上にこの地点Pに対する誘導方式変更命令が格納されている場合には、誘導方式変更命令に従い誘導方式が変更される。
【0035】
運行データ15には、SLAM誘導区間SR1、SR2内の、SLAM誘導における目的地となり得る地点Pにおいては、走行経路Rを含む大域地図上の座標値が、地点Pに対応して格納されている。
すなわち、SLAM誘導における目的地となり得る各地点P(例えばP2~P6、P8~P15)においては、大域地図上の座標値が、各地点Pの各々と対応されて、運行データ15内に格納されている。
図2に示される実施例においては、走行経路R上の各地点Pの座標値は、紙面左下を原点Oとした横方向x、縦方向yによるxy座標系で表される。具体的な座標値は、
図4の「座標値」列に示されている。
SLAM誘導における目的地となり得る地点Pは仮想的なものであって、無人搬送車1がSLAM誘導により走行制御される際の経由点または終点であり、実際の走行経路R上においては、特に目印となるようなものは設けられていない。SLAM誘導区間SR1、SR2において、走行経路Rが湾曲等の複雑な形状を備えた場所には、直線等の単調な形状の場所に比べると多くの経由点Pが設けられている。
【0036】
SLAM誘導区間SR1、SR2の各々の最後の地点、すなわち最終地点P6、P15と、走行経路Rにおけるその1つ前の地点P5、P14との間の走行経路R5、R14は、制御システム10が無人搬送車1をSLAM誘導から磁気誘導(他の誘導方式)へと切り替えるための準備区間である、切替準備区間R5、R14となっている。すなわち、地点P5、P14は、切替準備区間R5、R14が始まる切替準備開始地点P5、P14として、運行データ15に登録されている。より具体的には、
図4においては、切替準備開始地点P5、P14には、誘導方式を磁気誘導に変更するための準備を行うための命令が格納されている。この、切替準備区間R5、R14における処理については、後に詳細に説明する。
【0037】
磁気誘導区間MR1、MR2内の、磁気誘導における目的地となり得る地点P(例えばP0、P1、P7)には、実際の経路上に、磁気テープMTに並んで、地点Pを認識するための磁気マーカMが設けられている。
レーザレーダ誘導区間においては、SLAM誘導区間SR1、SR2と同様に、レーザレーダ誘導における目的地となり得る地点Pにおいては、走行経路Rを含む大域地図上の座標値が、地点Pに対応して格納されている。
【0038】
運行データ15には、複数の地点Pの各々において実行される、無人搬送車1の走行速度を変更する命令である走行速度変更命令が、地点Pに対応して格納されている。
また、運行データ15には、複数の地点Pの各々において実行される、無人搬送車1の走行設定を変更する命令である走行設定変更命令が、地点Pに対応して格納されている。走行設定変更命令としては、例えば、当該地点Pに到達した際に走行状態を停止状態へと変更し、一旦停止する停止命令、当該地点Pの次の目的地を明示的に変更、指定する目的地指定命令等がある。
【0039】
次に、SLAM誘導制御部20を説明する。SLAM誘導制御部20は、SLAM誘導による走行制御において、無人搬送車1を制御する命令を演算するために必要となる、SLAM誘導時における誘導偏差であるSLAM誘導偏差、すなわち、無人搬送車1の自己位置の、走行経路Rからのずれの量を演算する。SLAM誘導制御部20は、距離情報取得部21、SLAM誘導演算部22、SLAM誘導演算結果送信部23、局所地図データ24、及び大域地図データ25を備えている。
【0040】
距離情報取得部21は、LRF11から、LRF11を原点とする2次元平面上における障害物の極座標情報を受信する。
【0041】
SLAM誘導演算部22は、距離情報取得部21によって受信されたLRF11による計測結果を基に、無人搬送車1の位置を推定し、走行経路Rからのずれの量であるSLAM誘導偏差を演算する。
より詳細には、SLAM誘導演算部22は、2次元平面上における障害物の極座標情報を基に、局所地図データ24を作成する。SLAM誘導演算部22は、局所地図データ24を、走行経路Rを含む大域地図が格納された大域地図データ25と比較し、無人搬送車1の自己位置を推定して、無人搬送車1の座標値を演算する。
SLAM誘導演算部22は、推定した自己位置の走行経路Rからのずれ、すなわちSLAM誘導偏差を演算する。
更に、SLAM誘導演算部22は、上記のように演算した無人搬送車1の座標値、すなわち自己位置の推定結果と、運行データ15に登録された次に向かうべき地点Pを比較、照合して、無人搬送車1が切替準備開始地点P5、P14や最終地点P6、P15を含む地点Pに到達したか否かを判定する。
SLAM誘導演算部22は、演算した無人搬送車1の座標値とSLAM誘導偏差、及び次の地点Pに到達したか否かの判定結果である到達判定結果を、SLAM誘導演算結果送信部23へと送信する。
SLAM誘導演算結果送信部23は、受信した各情報を、次に説明する全体制御部30へと送信する。
【0042】
次に、全体制御部30を説明する。全体制御部30は、SLAM誘導演算結果受信部31、レーザレーダ通信部32、レーザレーダ誘導演算部(他方式誘導演算部)33、磁気通信部34、磁気誘導演算部(他方式誘導演算部)35、走行制御部36、及びモータドライバ指示演算部37を備えている。
【0043】
SLAM誘導演算結果受信部31は、SLAM誘導制御部20のSLAM誘導演算結果送信部23から、無人搬送車1の座標値とSLAM誘導偏差、及び到達判定結果を受信して、後に説明する走行制御部36へと送信する。
【0044】
レーザレーダ通信部32は、LRF11から、反射板の座標を基に計算した無人搬送車1の座標値と向きを受信し、レーザレーダ誘導演算部33へと送信する。
レーザレーダ誘導演算部33は、レーザレーダ通信部32から、反射板の座標を基に計算した無人搬送車1の座標値と向きを受信する。レーザレーダ誘導演算部33は、レーザレーダ誘導偏差、すなわちレーザレーダ誘導(他の誘導方式)における走行経路Rからの無人搬送車1の現在位置のずれの量を演算する。
更に、レーザレーダ誘導演算部33は、上記のように演算した無人搬送車1の座標値と、運行データ15に登録された次に向かうべき地点Pを照合して、無人搬送車1が地点Pに到達したか否かを判定する。
レーザレーダ誘導演算部33は、無人搬送車1の座標値とレーザレーダ誘導偏差、及び次の地点Pに到達したか否かの判定結果である到達判定結果を、後に説明する走行制御部36へと送信する。
【0045】
磁気通信部34は、磁気センサ12から、磁気テープ等の発磁体の測定、検知結果と、磁気マーカ検知情報を受信し、磁気誘導演算部35へと送信する。
磁気誘導演算部35は、磁気通信部34から、磁気テープ等の発磁体の測定、検知結果と、磁気マーカ検知情報を受信する。磁気誘導演算部35は、磁気テープ等の発磁体の検知結果を基に、磁気誘導偏差、すなわち磁気誘導(他の誘導方式)における磁気テープ(走行経路R)からの無人搬送車1の現在位置のずれの量を演算する。
更に、磁気誘導演算部35は、磁気通信部34から受信した磁気マーカ検知情報を参照し、これが磁気マーカMを検知したことを示すものである場合に、地点Pに到達したものと判定する。
磁気誘導演算部35は、磁気誘導偏差と、磁気通信部34から受信した磁気マーカ検知情報、及び次の地点Pに到達したか否かの判定結果である到達判定結果を、次に説明する走行制御部36へと送信する。
【0046】
走行制御部36は、SLAM誘導演算結果受信部31、レーザレーダ誘導演算部33、及び磁気誘導演算部35から、SLAM誘導偏差、レーザレーダ誘導偏差、及び磁気誘導偏差等の各情報を受信する。
【0047】
本実施形態においては、無人搬送車1が地点P間の経路Rを走行中である場合には、無人搬送車1を走行制御する誘導方式や無人搬送車1の走行速度は変更されないため、誘導方式や走行速度を維持しつつ無人搬送車1は走行制御される。
無人搬送車1が、SLAM誘導区間SR1、SR2内の、切替準備区間R5、R14以外の経路Rを走行している場合には、走行制御部36は、SLAM誘導偏差を基に、これが小さくなるようなSLAM誘導における走行指示を演算する。切替準備区間R5、R14における処理については、後に説明する。
無人搬送車1が磁気誘導区間MR1、MR2内の経路Rを走行している場合には、走行制御部36は、磁気誘導偏差を基に、これが小さくなるような磁気誘導における走行指示を演算する。
無人搬送車1がレーザレーダ誘導区間内の経路Rを走行している場合には、走行制御部36は、レーザレーダ誘導偏差を基に、これが小さくなるようなレーザレーダ誘導における走行指示を演算する。
各誘導における走行指示は、その経路Rにおいて維持すべき走行速度と、進行方向すなわち操舵角度を含む。走行制御部36は、演算した走行指示を、後に説明するモータドライバ指示演算部37へと送信する。
【0048】
走行制御部36は、上記のように無人搬送車1を走行制御中に、随時、SLAM誘導演算結果受信部31、レーザレーダ誘導演算部33、磁気誘導演算部35の各々から、無人搬送車1が各地点Pのいずれかに到達したか否かの判定結果である到達判定結果を受信する。
【0049】
走行制御部36は、複数の地点Pのいずれかに無人搬送車1が到達したと判定された際に、運行データ15を基に到達した地点Pに対応する命令を導出、実行する。
例えば、命令が走行速度変更命令や走行設定変更命令である場合には、走行制御部36は、これらの命令に従って、走行速度や走行設定を変更する。
また、命令が誘導方式変更命令である場合には、誘導方式変更命令に従って誘導方式を切り替え、変更する。
例えば、走行制御部36は、磁気誘導により走行中にある地点P(例えばP1、P7)に到達し、運行データ15上にこの地点Pと対応してSLAM誘導、レーザレーダ誘導等の磁気誘導以外の誘導方式へと誘導方式を切り替え変更する誘導方式変更命令が格納されている場合には、誘導方式変更命令に従って誘導方式を切り替える。レーザレーダ誘導の場合も同様に、これに従い走行中にある地点Pに到達し、運行データ15上にこの地点Pと対応してSLAM誘導、磁気誘導等のレーザレーダ誘導以外の誘導方式へと誘導方式を切り替え変更する誘導方式変更命令が格納されている場合は、誘導方式変更命令に従って誘導方式を切り替える。
【0050】
SLAM誘導から磁気誘導、レーザレーダ誘導等の他の誘導方式への切替に関しても、基本的には同様である。例えば運行データ15上に地点P6、P15として示されるように、SLAM誘導区間SR1、SR2の各々の最終地点P6、P15に、他の誘導方式へと誘導方式を変更する誘導方式変更命令が格納されている場合には、誘導方式変更命令に従って誘導方式を変更する。
ただし、SLAM誘導から他の誘導方式、特に無人搬送車1の位置推定のために走行経路R上に設けられた磁気テープMTや反射板等の被検出体をセンサにより検知して無人搬送車1の位置を推定することにより高い精度で走行経路Rに沿って走行可能な誘導方式に切り替える場合においては、無人搬送車1がSLAM誘導区間SR1、SR2を走行し終える前に、他の誘導方式への切替準備処理を実行して、他の誘導方式へ切り替える。より詳細には、最終地点P6、P15の1つ前の地点P5、P14に関連して運行データ15に誘導方式変更準備として登録されている命令に従い、これら1つ前の地点P5、P14と最終地点P6、P15の間の切替準備区間R5、R14において、SLAM誘導から他の誘導方式への切り替えのための準備処理を実行する。
【0051】
ここでは、SLAM誘導区間SR1を例に挙げて説明する。
図5(a)は、走行経路Rの、特にSLAM誘導区間SR1と磁気誘導区間MR1の境界部分の拡大図であり、
図5(b)は、
図5(a)に対応した経路における誘導偏差の変位を示すグラフである。SLAM誘導区間SRを示す破線と磁気テープMTを示す実線は、切替準備区間R5においては実際に重なるように設定されているが、
図5(a)においては、これらが上下に離れて描かれている。
無人搬送車1がSLAM誘導区間SR1において地点P4を通過し、地点P5に向かって進行方向Fに経路R4を走行している間においては、走行制御部36は無人搬送車1をSLAM誘導により走行制御するような走行指示を演算している。既に説明したように、SLAM誘導区間SR1においては、走行制御部36は、SLAM誘導偏差d
sを基に、これが小さくなるようなSLAM誘導における走行指示を演算する。SLAM誘導偏差d
sは、SLAM誘導における走行経路Rからのずれの量であるため、無人搬送車1の走行に、例えばスリップなどの異常がなければ、
図5(b)に線L1として示すように、この区間R4における誘導偏差であるSLAM誘導偏差d
sは、概ね0に近い値となっている。
【0052】
無人搬送車1が経路R4の走行を終えて地点P5に到達すると、走行制御部36は、SLAM誘導演算結果受信部31から、地点P5に到達したとの到達判定結果を受信する。
ここで、運行データ15には、地点P5に対応付けて走行速度を1に変更する命令が登録されているため、走行制御部36は無人搬送車1の走行速度を1に変更する。同時に、運行データ15には、磁気誘導を誘導方式として切り替え変更するための準備をする旨の命令が格納されているため、次の経路R5を切替準備区間R5として、SLAM誘導から磁気誘導への切り替えのための準備処理を実行する。
【0053】
切替準備区間R5においても走行制御部36は誘導偏差dを小さくするように走行指示を演算するが、切替準備区間R5において演算の対象となる誘導偏差dは、切替準備区間R5がSLAM誘導区間SR1内であるにもかかわらず、SLAM誘導偏差dsではなく、磁気誘導偏差dmである。
既に説明したように、切替準備区間R5には、切替準備区間R5の次に位置する磁気誘導区間MR1に続くように、磁気テープMTが敷設されている。走行制御部36は、切替準備区間R5においては、この敷設された磁気テープMTを検出した結果、磁気誘導演算部35が演算し送信された磁気誘導偏差dmを受信して、これを小さくするように無人搬送車1を走行制御するような走行指示を演算する。
【0054】
無人搬送車1が区間R4を走行している際の、SLAM誘導演算部22による自己位置の推定精度が高ければ、無人搬送車1が地点P5に到達した時点で、無人搬送車1はほぼ正確に磁気テープMT上に位置しているはずである。このため、演算対象となる誘導偏差dが磁気誘導偏差d
mに切り替えられた直後においても、磁気誘導偏差d
mは0に近い値となっている。したがって、
図5(b)に線L2として示されるように、この区間R5における誘導偏差dである磁気誘導偏差d
mは、概ね0に近い値となる。
ここで、無人搬送車1が区間R4を走行している際の、SLAM誘導演算部22による自己位置の推定精度が高くない場合がある。すなわち、走行制御部36は、SLAM誘導により地点P5に到達したときの磁気誘導偏差d
mが0に近い値になることを前提として走行制御しているが、SLAM誘導は誤差を生じることがあるので、磁気誘導偏差d
mは0に近い値にならない場合もある。このような場合には、区間R4の走行中には、制御システム10の内部的にはSLAM誘導に生じた誤差を認識できず、推定した自己位置が正しいと認識して、SLAM誘導偏差d
sが小さくなるように無人搬送車1を走行制御するような走行指示を演算している。このため、制御システム10の内部的には、SLAM誘導偏差d
sは、線L1として示されるように概ね0に近い値となっている。
【0055】
しかし、無人搬送車1は実際には、経路R4からずれた位置を走行しているため、無人搬送車1が地点P5に到達したと到達判定結果が示されたときに、無人搬送車1は地点P5からずれて位置している。このような場合には、無人搬送車1は磁気テープMTからもずれて位置することとなる。
このとき、無人搬送車1の磁気テープMTからのずれが、磁気センサ12が磁気テープMTを検出できる距離の上限(第2閾値)、例えば100mmより大きい場合には、磁気誘導偏差dmを演算できない状態となる。すなわち、無人搬送車1に対してどの方向にどの程度の距離を進んだ場所に磁気テープMTが在るのか判断できないため、誘導方式を磁気誘導に切り替えることができない。この場合には、走行制御部36は、地点P5に到達後も、引き続きSLAM誘導偏差dsを基にして、無人搬送車1を走行制御するような走行指示を演算し、最終地点P6に到達した時点で磁気テープMTを検出できない場合は、異常と判断して無人搬送車1を停止させる。
無人搬送車1の磁気テープMTからのずれが、磁気センサ12が磁気テープMTを検出できる距離の上限(第2閾値)以下である場合には、磁気誘導偏差dmを演算可能である。この場合には、誘導偏差dとして使用される値が磁気誘導偏差dmとなり、かつ無人搬送車1が磁気テープMTからずれているため磁気誘導偏差dmが比較的大きな値となるため、誘導偏差dは、線L1として示されるように概ね0に近い値として遷移した後に、線L3として示されるように、地点P5において急峻に立ち上がるように変位する。
【0056】
走行制御部36は、無人搬送車1が切替準備開始地点P5に到達し、切替準備開始地点P5において誘導偏差が増加した場合に、これを小さくして、無人搬送車1を磁気テープMTに近づけるように、無人搬送車1を走行制御するような走行指示を演算する。ここで、無人搬送車1を磁気テープMTにできるだけ早く近づけようとして無人搬送車1の操舵角度を大きく変更すると、急激な操作により無人搬送車1が走行経路Rを逸脱して周囲の設備に衝突する可能性がある。あるいは、無人搬送車1の上体が揺れて搬送中の資材が落下して破損し、または無人搬送車が転倒や蛇行する可能性がある。
これを抑制するために、走行制御部36は、切替準備区間R5においては、無人搬送車1がSLAM誘導区間SR1の最終地点P6に近づくに従い磁気誘導演算部(他方式誘導演算部)35により計算されるずれの量d
mが、
図5(b)に線L4として示されるように漸次小さくなるように、無人搬送車1を走行制御するような走行指示を演算する。
【0057】
無人搬送車1が切替準備開始地点P5に到達し、切替準備開始地点P5において誘導偏差dが増加した場合に、走行制御部36はまず、磁気テープMTを検出した位置を切替準備開始地点P5として、SLAM誘導における無人搬送車1の自己位置を補正する。
【0058】
次に、走行制御部36は、無人搬送車1を磁気テープMTに向かわせる際の操舵角度を演算する。
図6は、操舵角度の計算を示す説明図である。
図6においては、無人搬送車1が現在、磁気テープMTから距離d
mだけずれた位置を走行しており、無人搬送車1から磁気テープMT上に下ろした垂線の足となる地点Cから距離(第1の距離)Lだけ離れて前に位置する暫定的な目標地点である暫定目標地点VPへと向かうように、無人搬送車1を走行制御しようという状況が示されている。
距離Lは、無人搬送車1の現在の速度に応じた所定の関数によって決定される変数である。この関数は、例えば、速度が速い場合には距離Lが長くなるように、遅い場合には距離Lが短くなるように、距離Lを演算するように設定されている。
ここで、ずれの量d
mの第1閾値を、例えば、無人搬送車1が暫定目標地点VPへ直行するために必要な操舵角度であるθ(=tan(d
m/L))だけ無人搬送車1を操舵しても、走行経路からの逸脱や蛇行、資材の落下が生じない値の上限とする。このとき、ずれの量d
mが第1閾値よりも小さい場合には、走行制御部36は、操舵角度をθと設定する。
切替準備区間R5の長さは、距離Lでずれの量d
mを0に近づけたときに無人搬送車1が最終地点P6に到達できるように、十分な距離となるように設定されている。例えば、本実施形態においては、切替準備区間R5の長さは、例えば5000mmとされている。この場合には、地点Cが切替準備開始地点P5であるとすると、距離d
mが例えば500mmとして設定された第1閾値より小さければ、走行制御部36は、切替準備開始地点P5における操舵角度を上記のθとして無人搬送車1を走行制御するような走行指示を演算する。
【0059】
走行制御部36は、無人搬送車1が切替準備開始地点P5と最終地点P6の間に位置し、かつ距離d
mが第1閾値以上(かつ磁気センサ12が磁気テープMTを検出できる距離の上限である第2閾値以下)である場合には、無人搬送車1が現在位置から暫定目標地点VPに直行する際に要する必要操舵角度、すなわち上記のθで無人搬送車1を操舵すると、走行経路からの逸脱や蛇行、資材の落下が生じる可能性があると判断する。この場合には、走行制御部36は、必要操舵角度θよりも小さい補正された操舵角度で、無人搬送車1が走行経路Rすなわち磁気テープMTに接近するように走行制御するような走行指示を演算する。
ここで、補正された操舵角度は、無人搬送車1が、0より大きく1より小さい係数fをずれの量dに乗算して得られる補正されたずれの量d
cだけ、走行経路Rからずれて位置していると想定した場合に、当該位置から暫定目標地点VPに直行する際に要する必要操舵角度である。
補正された操舵角度θ
cは、例えば次の式で表される。
【数1】
【0060】
磁気誘導演算部35による磁気誘導偏差dmの演算と、走行制御部36による磁気誘導偏差dmと第1及び第2閾値との比較、及び、この比較結果を基にした無人搬送車1の操舵角度の演算は、無人搬送車1が切替準備開始地点P5から最終地点P6へ走行している間、所定の時間間隔をおいて繰り返し実行される。
したがって、例えば無人搬送車1が切替準備開始地点P5に到達した際の磁気誘導偏差dmが第1閾値以上である場合であっても、走行制御部36が補正された操舵角度θcにより無人搬送車1を操舵して無人搬送車1が磁気テープMTに徐々に、漸次接近し、ある時点において磁気誘導偏差dが第1閾値より小さくなる。この時点以降においては、磁気誘導偏差dmは第1閾値より小さい値となっているため、走行制御部36は必要操舵角度θにより無人搬送車1を操舵する。
距離Lの値と、及び係数fの値は、上記のような処理を行った結果、無人搬送車1が最終地点P6に到達したときに、誘導方式を磁気誘導に安定して切り替え変更可能で、かつ切替準備区間R5における無人搬送車1の急角度の操舵が抑制されるように、設定されている。
【0061】
走行制御部36は、無人搬送車1を上記のように走行制御するような走行指示を演算し、最終地点P6に到達すると、SLAM誘導演算結果受信部31から、地点P6に到達したとの到達判定結果を受信する。
走行制御部36は、その後、誘導方式を磁気誘導に切り替えて、磁気誘導区間MR1を走行制御するような走行指示を演算する。
上記においては、SLAM誘導から磁気誘導への切り替えについて説明したが、SLAM誘導からレーザレーダ誘導への切り替えについても同様である。
【0062】
走行制御部36は、演算した走行指示を、モータドライバ指示演算部37へと送信する。
モータドライバ指示演算部37は、走行制御部36から、走行指示を受信する。
モータドライバ指示演算部37は、無人搬送車1が走行指示に従って走行するように、右側モータ5Aと左側モータ5Bの各々の回転数を演算する。
モータドライバ指示演算部37は、演算した右側モータ5Aと左側モータ5Bの各々の回転数を、それぞれ、右側モータドライバ6Aと左側モータドライバ6Bに送信する。
右側モータドライバ6Aと左側モータドライバ6Bの各々は、右側モータ5Aと左側モータ5Bの各々の回転数を受信し、これに従い右側モータ5Aと左側モータ5Bを駆動させて、右側駆動輪3Aと左側駆動輪3Bを回転させる。
【0063】
次に、
図1~
図6、及び
図7、
図8を用いて、上記の無人搬送車1の制御方法を説明する。
図7は、無人搬送車1の制御方法のフローチャートである。
図8は、無人搬送車1の制御方法における、特にSLAM誘導から磁気誘導への切り替えに関する処理のフローチャートである。
【0064】
まず、無人搬送車1を走行経路R上に設ける。無人搬送車1を設ける地点は、例えば
図2に示される実施例においては、充電器が設けられた地点P0である。その後、作業員等が無人搬送車1に対して走行を開始するよう操作すると、制御システム10の制御部13が制御を開始して、無人搬送車1が走行を開始する(ステップS1)。
【0065】
無人搬送車1が走行を開始すると、各誘導方式における誘導偏差dが演算される。
LRF11は、360°の全周囲を走査して取得した極座標情報を、距離情報取得部21へと送信する。SLAM誘導制御部20においては、距離情報取得部21が、極座標情報を受信する(ステップS3)。
SLAM誘導演算部22は、LRF11による計測結果を基に無人搬送車1の位置を推定して、無人搬送車1の座標値を演算し、走行経路Rからのずれの量であるSLAM誘導偏差dsを演算する。
更に、SLAM誘導演算部22は、演算した無人搬送車1の座標値と、運行データ15に登録された次に向かうべき地点Pを比較、照合して、無人搬送車1が次の地点Pに到達したか否かを判定する。
SLAM誘導演算部22は、無人搬送車1の座標値とSLAM誘導偏差ds、及び次の地点Pに到達したか否かの判定結果である到達判定結果を、SLAM誘導演算結果送信部23へと送信する(ステップS5)。
【0066】
SLAM誘導演算結果送信部23は、受信した各情報を、全体制御部30のSLAM誘導演算結果受信部31へと送信する。SLAM誘導演算結果受信部31は、SLAM誘導演算結果送信部23から、無人搬送車1の座標値とSLAM誘導偏差ds、及び到達判定結果を受信して、走行制御部36へと送信する。
【0067】
全体制御部30においては、磁気通信部34が、磁気センサ12から、磁気テープ等の発磁体の測定、検知結果と、磁気マーカ検知情報を受信し、磁気誘導演算部35へと送信する(ステップS7)。
磁気誘導演算部35は、磁気通信部34から、磁気テープ等の発磁体の測定、検知結果と、磁気マーカ検知情報を受信する。磁気誘導演算部35は、磁気テープ等の発磁体の検知結果を基に、磁気誘導偏差dmを演算する。更に、磁気誘導演算部35は、磁気通信部34から受信した磁気マーカ検知情報を参照し、これが磁気マーカMを検知したことを示すものである場合に、次の地点Pに到達したものと判定する。磁気誘導演算部35は、磁気誘導偏差dmと、磁気通信部34から受信した磁気マーカ検知情報、及び次の地点Pに到達したか否かの判定結果である到達判定結果を、走行制御部36へと送信する(ステップS9)。
【0068】
LRF11は、反射板により反射された反射光を検知し、これを基に、無人搬送車1の位置する座標値と向きを計算する。レーザレーダ通信部32は、LRF11から無人搬送車1の座標値と向きを受信し、レーザレーダ誘導演算部33へと送信する(ステップS11)。
レーザレーダ誘導演算部33は、レーザレーダ通信部32から無人搬送車1の座標値と向きを受信し、レーザレーダ誘導偏差を演算する。更に、レーザレーダ誘導演算部33は、演算した無人搬送車1の座標値と、運行データ15に登録された次に向かうべき地点Pを照合して、無人搬送車1が次の地点Pに到達したか否かを判定する。レーザレーダ誘導演算部33は、無人搬送車1の座標値とレーザレーダ誘導偏差、及び次の地点Pに到達したか否かの判定結果である到達判定結果を、走行制御部36へと送信する(ステップS13)。
【0069】
走行制御部36は、SLAM誘導演算結果受信部31、レーザレーダ誘導演算部33、及び磁気誘導演算部35から、SLAM誘導偏差ds、レーザレーダ誘導偏差、及び磁気誘導偏差dm等の各情報を受信する。
無人搬送車1がSLAM誘導区間SR1、SR2内の経路Rを走行している場合には、走行制御部36は、SLAM誘導偏差dsを基に、これが小さくなるようなSLAM誘導における走行指示を演算する。
無人搬送車1が磁気誘導区間MR1、MR2内の経路Rを走行している場合には、走行制御部36は、磁気誘導偏差dmを基に、これが小さくなるような磁気誘導における走行指示を演算する。
無人搬送車1がレーザレーダ誘導区間内の経路Rを走行している場合には、走行制御部36は、レーザレーダ誘導偏差を基に、これが小さくなるようなレーザレーダ誘導における走行指示を演算する。(ステップS15)。
走行制御部36は、演算した走行指示を、モータドライバ指示演算部37へと送信する。
【0070】
モータドライバ指示演算部37は、走行制御部36から、走行指示を受信する。
モータドライバ指示演算部37は、無人搬送車1が走行指示に従って走行するように、右側モータ5Aと左側モータ5Bの各々の回転数を演算し、右側モータドライバ6Aと左側モータドライバ6Bに送信する。これにより、演算された回転数で右側駆動輪3Aと左側駆動輪3Bが駆動され、無人搬送車1が走行指示に従って走行される(ステップS17)。
【0071】
走行制御部36は、無人搬送車1を走行制御中に、随時、SLAM誘導演算結果受信部31、レーザレーダ誘導演算部33、磁気誘導演算部35の各々から、無人搬送車1が各地点Pのいずれかに到達したか否かの判定結果である到達判定結果を受信する(ステップS19)。
到達していない場合においては(ステップS19のNo)、ステップS3、S7、S11の各々に遷移し、各誘導方式における誘導偏差dの演算と、現在走行制御されている誘導方式に対応する誘導偏差dの選択、及びこれに基づいた走行制御を繰り返す。
【0072】
走行制御部36は、無人搬送車1が地点Pのいずれかに到達したと判定された際に(ステップS19のYes)、運行データ15を基に到達した地点Pに対応する命令を導出、実行する(ステップS21)。
走行制御部36はまた、地点Pに誘導方式変更準備命令が登録されているか否かを判定する(ステップS23)。登録されていない場合には(ステップS23のNo)、ステップS3、S7、S11の各々に遷移する。
地点Pに誘導方式変更準備命令が登録されている場合には(ステップS23のYes)、走行制御部36は、運行データ15から変更対象となる誘導方式を取得した(ステップS27)後に、取得した誘導方式に対応する誘導方式変更準備処理を実行する(ステップS29)。
【0073】
次に、上記ステップS29により実行される、誘導方式変更準備処理を説明する。ここでは、誘導方式をSLAM誘導から磁気誘導へ切り替える際の処理を説明するが、レーザレーダ誘導等の他の誘導方式に切り替える場合も同様である。
誘導方式変更準備処理が開始されると(ステップS31)、走行制御部36は、磁気誘導偏差dmが第2閾値より大きいか否かを判定する(ステップS33)。
磁気誘導偏差dmが第2閾値よりも大きい場合には(ステップS33のYes)、走行制御部36は、切替準備開始地点P5に到達後も、引き続きSLAM誘導偏差dsを基にして、無人搬送車1を走行制御するような走行指示を演算し、最終地点P6に到達した時点で磁気テープMTを検出できない場合は、異常と判断して無人搬送車1を停止させる(ステップS35)。
磁気誘導偏差dmが第2閾値以下の場合には(ステップS33のNo)、走行制御部36は、磁気誘導偏差dmが第1閾値以上か否かを判定する(ステップS37)。
【0074】
磁気誘導偏差dmが第1閾値より小さければ(ステップS37のNo)、走行制御部36は、必要操舵角度θを演算し(ステップS39)、操舵角度を必要操舵角度θとして無人搬送車1を走行制御するような走行指示を演算する(ステップS41)。
磁気誘導偏差dmが第1閾値以上であれば(ステップS37のYes)、走行制御部36は、補正された操舵角度θcを演算し(ステップS43)、操舵角度を補正された操舵角度θcとして無人搬送車1を走行制御するような走行指示を演算する(ステップS45)。
走行制御部36は、演算した走行指示を、モータドライバ指示演算部37へと送信する。
【0075】
モータドライバ指示演算部37は、走行制御部36から、走行指示を受信する。
モータドライバ指示演算部37は、無人搬送車1が走行指示に従って走行するように、右側モータ5Aと左側モータ5Bの各々の回転数を演算し、右側モータドライバ6Aと左側モータドライバ6Bに送信して右側駆動輪3Aと左側駆動輪3Bを駆動させる(ステップS47)。
【0076】
走行制御部36は、無人搬送車1を走行制御中に、随時、SLAM誘導演算結果受信部31から、無人搬送車1が最終地点P6に到達したか否かの判定結果である到達判定結果を受信する(ステップS49)。
到達していない場合においては(ステップS49のNo)、ステップS33に遷移し、処理を続行する。最終地点P6に到達した場合においては(ステップS49のYes)、誘導方式を磁気誘導に切り替えて、ステップS1へ遷移する(ステップS51)。
【0077】
次に、上記の無人搬送車1の制御システム10及び制御方法の効果について説明する。
【0078】
本実施形態の無人搬送車1の制御システム10は、複数の区間SR1、SR2、MR1、MR2に区切られた走行経路Rを、SLAM誘導と、無人搬送車1の位置推定のために走行経路R上に設けられた被検出体MTをセンサ11、12により検知して無人搬送車1の位置を推定する他の誘導方式とを区間SR1、SR2、MR1、MR2ごとに切り替えて、無人搬送車1を走行制御する制御部13を備えた、無人搬送車1の制御システム10であって、制御部13には、SLAM誘導によるSLAM誘導区間SR1、SR2の最終地点P6、P15と、最終地点P6、P15よりも走行経路R上で前に位置する切替準備開始地点P5、P14が登録され、切替準備開始地点P5、P14と最終地点P6、P15の間には被検出体MTが設けられ、制御部13は、センサ11、12の出力を基に、他の誘導方式における走行経路Rからの無人搬送車1の現在位置のずれの量dmを演算する他方式誘導演算部33、35と、無人搬送車1が切替準備開始地点P5、P14に到達したときに、無人搬送車1が最終地点P6、P15に近づくに従い他方式誘導演算部33、35により計算されるずれの量dmが小さくなるように、無人搬送車1を走行制御する、走行制御部36と、を備えている。
また、本実施形態の無人搬送車1の制御方法は、複数の区間SR1、SR2、MR1、MR2に区切られた走行経路Rを、SLAM誘導と、無人搬送車1の位置推定のために走行経路R上に設けられた被検出体MTをセンサ11、12により検知して無人搬送車1の位置を推定する他の誘導方式とを区間SR1、SR2、MR1、MR2ごとに切り替えて、無人搬送車1を走行制御する、無人搬送車1の制御方法であって、センサ11、12の出力を基に、他の誘導方式における走行経路Rからの無人搬送車1の現在位置のずれの量dmを演算し、無人搬送車1が、SLAM誘導によるSLAM誘導区間SR1、SR2の最終地点P6、P15よりも走行経路R上で前に位置する切替準備開始地点P5、P14に到達したときに、無人搬送車1が最終地点P6、P15に近づくに従い、切替準備開始地点P5、P14と最終地点P6、P15の間に設けられた被検出体MTをセンサ11、12が検知することで計算されるずれの量dmが小さくなるように、無人搬送車1を走行制御する。
上記のような構成によれば、無人搬送車1が切替準備開始地点P5、P14に到達したときに、その時点における、他の誘導方式における走行経路Rからの無人搬送車1の現在位置のずれの量dm、すなわち他の誘導方式における誘導偏差dmを演算する。そして、切替準備開始地点P5、P14からSLAM誘導区間SR1、SR2の最終地点P6、P15に無人搬送車1を誘導するに際し、切替準備開始地点P5、P14から最終地点P6、P15の間に設けられた被検出体MTを随時検知して他の誘導方式における誘導偏差dmを演算し、最終地点P6、P15に近づくに従ってこの誘導偏差dが小さくなるように、無人搬送車1を走行制御する。
このように、SLAM誘導区間SR1、SR2内であっても、切替準備開始地点P5、P14から最終地点P6、P15の間の切替準備区間R5、R14においては切替後の他の誘導方式における誘導偏差dmを小さくするように無人搬送車1を走行制御することで、誘導方式を切り替える。すなわち、無人搬送車1がSLAM誘導区間SR1、SR2の最終地点P6、P15に到達した際には、既に、他の誘導方式による誘導偏差dmが評価されてこれを小さくするように無人搬送車1が走行制御されている。したがって、SLAM誘導区間SR1、SR2の最終地点P6、P15における誘導偏差dmの増加が抑制され、他の誘導方式による誘導区間MR1、MR2内の無人搬送車1の制御が安定化される。
また、SLAM誘導区間SR1、SR2の最終地点P6、P15近傍に、他の誘導方式へと誘導方式を切り替えるための切替準備区間R5、R14を設け、この切替準備区間R5、R14内で余裕をもって誘導偏差dmを小さくするように無人搬送車1を走行制御することができる。特に、切替準備区間R5、R14においては、誘導偏差dmが最終地点P6、P15に近づくに従って小さくなるように無人搬送車1が走行制御されるため、無人搬送車1が切替準備開始地点P5、P14に到達した時点から最終地点P6、P15に到達するまでの、無人搬送車1の急激な進路変更が抑制される。
上記の効果が相乗し、急激な進路変更を抑制して無人搬送車1を滑らかに走行制御することが可能な、無人搬送車1の制御システム10を実現可能である。
【0079】
特に本実施形態においては、走行制御部36は、無人搬送車1が最終地点P6、P15に近づくに従い、誘導偏差dmが徐々に、漸次少しずつ、小さくなるように、無人搬送車1を走行制御する。これにより、急激な進路変更を更に効果的に抑制して無人搬送車1を滑らかに走行制御することが可能な、無人搬送車1の制御システム10を実現可能である。
【0080】
また、無人搬送車1が切替準備開始地点P5、P14と最終地点P6、P15の間に位置しており、他方式誘導演算部33、35により演算されたずれの量dmが第1閾値以上の場合には、走行制御部36は、無人搬送車1が現在位置から、走行経路R上の第1の距離Lだけ前に位置する暫定目標地点VPに直行する際に要する必要操舵角度θよりも小さい補正された操舵角度θcで、無人搬送車1が走行経路Rに接近するように走行制御する。
上記のような構成によれば、他の誘導方式における誘導偏差dmが第1閾値以上の場合に、操舵角度が、無人搬送車1が現在位置から、走行経路R上の第1の距離Lだけ前に位置する暫定目標地点VPに直行する際に要する必要操舵角度θよりも小さい補正された操舵角度θcとすることができる。このため、第1閾値を、例えば本実施形態のように無人搬送車1がSLAM誘導区間SR1、SR2の第1の距離Lだけ前に位置する暫定目標地点VPに直行するために必要な操舵角度であるθ(=tan(dm/L))だけ無人搬送車1を操舵しても、走行経路からの逸脱や蛇行、資材の落下が生じない値の上限とすることで、無人搬送車1を滑らかに走行制御することができる。
【0081】
また、補正された操舵角度θcは、無人搬送車1が、ずれの量dmに0より大きく1より小さい係数fを乗算して得られる、補正されたずれの量dcだけ、走行経路Rからずれて位置していると想定した場合に、当該位置から暫定目標地点VPに直行する際に要する操舵角度である。
また、無人搬送車1の周囲に位置する障害物までの距離を計測する距離計測器11を備え、制御部13は、距離計測器11による計測結果を基に局所地図を作成し、予め格納されている大域地図と比較して無人搬送車1の位置を推定し、SLAM誘導における無人搬送車1の位置の、走行経路Rからのずれの量dsを演算し、推定された位置を基に、無人搬送車1が切替準備開始地点P5、P14及び最終地点P6、P15に到達したか否かを判定するSLAM誘導演算部22を備えている。
上記のような構成によれば、上記のような無人搬送車1の制御システム10を適切に実現可能である。
【0082】
また、他の誘導方式は、磁気誘導、レーザレーダ誘導のいずれかを含む。
上記のような構成によれば、SLAM誘導から磁気誘導、レーザレーダ誘導のいずれかへと誘導方式を切り替える際に、急激な進路変更を抑制して無人搬送車1を滑らかに走行制御することが可能な、無人搬送車1の制御システム10を提供可能である。
【0083】
なお、本発明の無人搬送車1の制御システム10及び制御方法は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
【0084】
例えば、上記実施形態においては、走行制御部36は式1として示される数式により補正された操舵角度θ
cを計算したが、補正された操舵角度θ
cはこれ以外の方法で計算されてもよい。
図9は、上記実施形態の変形例に関する、操舵角度の計算を示す説明図である。本図に示される形態においては、補正された操舵角度θ
cは、必要操舵角度θに0より大きく1より小さい係数fを乗算することで、次式により計算される。
【数2】
【0085】
また、運行データ15上の各地点Pに対応して、数式1、数式2において使用される係数fの値を変更する命令を登録するようにしてもよい。
係数fが1に近い値の場合には、操舵角度の補正度合いが小さくなるため、補正された操舵角度θcが必要操舵角度θに近い値となる。したがって、切替準備区間の長さを長くできず、短い距離で無人搬送車1を磁気テープMTに近づける必要がある場合に好適である。
これに対し、係数fが0に近い値の場合には、操舵角度の補正度合いが大きくなるため、補正された操舵角度θcが小さな値となる。したがって、切替準備区間の長さを十分に確保可能であり、無人搬送車1をより安全に磁気テープMTに近づける場合に好適である。
【0086】
また、上記実施形態において、他の誘導方式は磁気誘導とレーザレーダ誘導であったが、磁気誘導のみでも良いし、レーザレーダ誘導のみでも良い。あるいは、これら以外の他の方法、例えば電磁誘導等であってもよいし、電磁誘導と、磁気誘導やレーザレーダ誘導を含んでいてもよい。上記いずれの場合であっても、上記実施形態における主に磁気誘導を用いた説明と同様に説明が可能である。
【0087】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 無人搬送車
10 制御システム
11 LRF(センサ、距離計測器)
12 磁気センサ(センサ)
13 制御部
15 運行データ
22 SLAM誘導演算部
33 レーザレーダ誘導演算部(他方式誘導演算部)
35 磁気誘導演算部(他方式誘導演算部)
36 走行制御部
MT 磁気テープ(被検出体)
P 地点
P5、P14 切替準備開始地点
P6、P15 最終地点
VP 暫定目標地点
R 走行経路
R5、R14 切替準備区間
L 距離(第1の距離)
MR1、MR2 磁気誘導区間(区間)
SR1、SR2 SLAM誘導区間(区間)
d 誘導偏差(ずれの量)
dm 磁気誘導偏差(ずれの量)
f 係数
θ 必要操舵角度
θc 補正された操舵角度