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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】植物栽培設備
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/18 20060101AFI20230606BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20230606BHJP
   A01G 9/24 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
A01G9/18
B01D53/14 220
A01G9/24 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019183631
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021058121
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003834
【氏名又は名称】弁理士法人新大阪国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 正道
(74)【代理人】
【氏名又は名称】特許業務法人新大阪国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 次郎
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-007163(JP,A)
【文献】特開2015-024398(JP,A)
【文献】特表2018-512888(JP,A)
【文献】特開平01-309626(JP,A)
【文献】特開2016-052632(JP,A)
【文献】特開2019-041637(JP,A)
【文献】特開2012-016322(JP,A)
【文献】特開2013-013877(JP,A)
【文献】特開2005-254212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/18
B01D 53/14
A01G 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を栽培する栽培室(1)と、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段(A)と、前記栽培室(1)内の空気を前記二酸化炭素供給手段(A)に送る送風ファン(6)と、前記二酸化炭素供給手段(A)の二酸化炭素を前記栽培室(1)内に供給する構成とし
前記二酸化炭素供給手段(A)は、二酸化炭素を吸収する吸収液を収容する吸収塔(3)と、前記吸収塔(3)から送られる前記吸収液を収容すると共に、加熱手段(5)で加熱することによって前記吸収液に含まれる二酸化炭素を再生する再生塔(4)を備え、前記再生された二酸化炭素を前記栽培室(1)に供給する構成とした植物栽培設備。
【請求項2】
夜間に前記送風ファン(6)を駆動して前記吸収塔(3)内に二酸化炭素を供給し、日中に前記再生塔(4)から再生された二酸化炭素を前記栽培室(1)に供給する構成とした請求項に記載の植物栽培設備。
【請求項3】
前記再生塔(4)の吸収液を加熱する加熱手段をボイラ(5)とし、前記ボイラ(5)から発生する排ガスを前記吸収塔(3)へ供給する構成とした請求項又は請求項に記載の植物栽培設備。
【請求項4】
前記送風ファン(6)と前記吸収塔(3)の間に除湿器(12)を設け、前記栽培室(1)内の湿度が所定以上になると前記除湿器(12)を駆動するよう構成した請求項から請求項のいずれか一に記載の植物栽培設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウス型の植物栽培設備に関する。
【背景技術】
【0002】
ハウス型の植物栽培設備において、植物の光合成の状況に応じて二酸化炭素の供給又は停止を行う構成が公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-41637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によると、二酸化炭素供給装置は、二酸化炭素の収容部の一例としてのガスタンクとガスバルブとを有し、ガスバルブは、制御部からの制御信号に応じて開閉され、二酸化炭素の温室への供給又は供給停止を制御する構成としているから、植物の光合成で二酸化炭素が消費されて、予め設定された範囲を下回ると、二酸化炭素の供給を行うことができ、光合成を促進できる。
【0005】
ところが、ガスタンクには二酸化炭素を予め収容しておく必要がある。つまり、植物は、夜間は呼吸のみを行い二酸化炭素を発生させるが、日の出とともに光合成を開始するので、ハウス型栽培設備の二酸化炭素濃度が低下し、これを補うために二酸化炭素を人工的に施用するものであるからランニングコストがかかることとなる。図7に示すように、二酸化炭素は実線で示すように夜間と日中で変化し、光合成を促進するために点線で示すように人工的に二酸化炭素を補充する必要がある。
【0006】
本発明は、二酸化炭素の供給ロスの少ない植物栽培設備を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、
第1の本発明は、
植物を栽培する栽培室(1)と、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段(A)と、前記栽培室(1)内の空気を前記二酸化炭素供給手段(A)に送る送風ファン(6)と、前記二酸化炭素供給手段(A)の二酸化炭素を前記栽培室(1)内に供給する構成とし、
前記二酸化炭素供給手段(A)は、二酸化炭素を吸収する吸収液を収容する吸収塔(3)と、前記吸収塔(3)から送られる前記吸収液を収容すると共に、加熱手段(5)で加熱することによって前記吸収液に含まれる二酸化炭素を再生する再生塔(4)を備え、前記再生された二酸化炭素を前記栽培室(1)に供給する構成とした植物栽培設備である。
第2の本発明は、
夜間に前記送風ファン(6)を駆動して前記吸収塔(3)内に二酸化炭素を供給し、日中に前記再生塔(4)から再生された二酸化炭素を前記栽培室(1)に供給する構成とした第1の本発明の植物栽培設備である。
第3の本発明は、
前記再生塔(4)の吸収液を加熱する加熱手段をボイラ(5)とし、前記ボイラ(5)から発生する排ガスを前記吸収塔(3)へ供給する構成とした第1又は2の本発明の植物栽培設備である。
第4の本発明は、
前記送風ファン(6)と前記吸収塔(3)の間に除湿器(12)を設け、前記栽培室(1)内の湿度が所定以上になると前記除湿器(12)を駆動するよう構成した第1から3のいずれかの本発明の植物栽培設備である。
本発明に関連する第1の発明は、植物を栽培する栽培室1と、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段Aと、栽培室1内の空気を二酸化炭素供給手段Aに送る送風ファン6と、二酸化炭素供給手段Aの二酸化炭素を栽培室1内に供給する構成とした植物栽培設備とする。
【0008】
本発明に関連する第2の発明は、本発明に関連する第1の発明において、二酸化炭素供給手段Aは、二酸化炭素を吸収する吸収液を収容する吸収塔3と、吸収塔3から送られる吸収液を収容すると共に、加熱手段5で加熱することによって吸収液に含まれる二酸化炭素を再生する再生塔4を備え、再生された二酸化炭素を栽培室1に供給する構成とした。
【0009】
本発明に関連する第3の発明は、本発明に関連する第2の発明において、夜間に送風ファン6を駆動して吸収塔3内に二酸化炭素を供給し、日中に再生塔4から再生二酸化炭素を栽培室1に供給する構成とした。
【0010】
本発明に関連する第4の発明は、本発明に関連する第2又は3の発明において、再生塔4の吸収液を加熱する加熱手段をボイラ5とし、ボイラ5から発生する排ガスを吸収塔3へ供給する構成とした。
【0011】
本発明に関連する第5の発明は、本発明に関連する第2から4のいずれか一の発明において、送風ファン6と吸収塔3の間に除湿器12を設け、栽培室1内湿度が所定以上になると除湿器12を駆動する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に関連する第1及び2の発明によると、栽培室1内で発生する二酸化炭素を二酸化炭素供給手段Aを介して栽培室1に供給することで、二酸化炭素を発生させるコストを低減できる。
【0013】
本発明に関連する第3の発明によると、本発明に関連する第2の発明の効果に加え、夜間は植物の呼吸から発生する二酸化炭素を吸収塔3に貯留し、日中は再生塔4で再生された二酸化炭素を栽培室1に供給することで、光合成の促進が図れる。そして植物から発生する二酸化炭素を有効に活用できる。
【0014】
本発明に関連する第4の発明によると、本発明に関連する第2又は3の発明の効果に加え、ボイラ5から発生する排ガスを有効利用できる。
【0015】
本発明に関連する第5の発明は、本発明に関連する第2から4の発明の効果に加え、多湿の際に除湿器12を駆動するから、栽培室1の窓を開放しないで済み、二酸化炭素の放出を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態の、二酸化炭素吸収システムを備えた植物栽培設備の概要図である。
図2】本発明の別の実施の形態の、二酸化炭素吸収システムを備えた植物栽培設備の概要図である。
図3】(A)公知の排ガス利用二酸化炭素施用システムを備えた植物栽培設備の概要図、(B)改良した排ガス利用二酸化炭素施用システムを備えた植物栽培設備の概要図である。
図4】液化炭酸ガスの噴霧供給システムを備えた植物栽培設備の概要図である。
図5】(A)公知の走行防除システム概要図、(B)改良した走行防除システム概要図である。
図6】改良した走行防除システムの別例を示す概要図である。
図7】一日の二酸化炭素濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態にかかる植物栽培設備であって、図1において、この植物栽培設備は、栽培室の一例としての温室1を有する。
【0019】
温室1の内部には、栽培装置の一例としての培地2が設けられている。培地2は、植物の一例として例えばトマトが栽培されている。なお、栽培する植物はトマトに限定されず、目的や用途に応じて、任意の植物を栽培可能である。
【0020】
温室1内の植物に光合成に必要な二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段Aが設置されている。この二酸化炭素供給手段Aとして二酸化炭素吸収システムを利用する。二酸化炭素吸収システムは、吸収塔3と再生塔4を備え、二酸化炭素を含む空気を吸収塔3に送り、吸収塔3に貯留する吸収液にその二酸化炭素を吸収させる。この二酸化炭素を吸収した吸収液は再生塔4に送られるが、再生塔4に備えた加熱手段5で加熱することによって二酸化炭素を再生できる。
【0021】
ところで、植物は夜間に呼吸のみを行い二酸化炭素を発生するが、日の出とともに光合成を開始し、日中は呼吸と光合成を実行している。光合成が開始すると温室1内の二酸化炭素濃度が低下する。従って二酸化炭素を補う必要がある。そこで、温室1壁部に送風ファン6を設け、夜間この送風ファン6を駆動して温室1内の空気を供給路7を介して吸収塔3に供給し、その中の吸収液に二酸化炭素を吸収させ、その吸収液を再生塔4に送って貯える。日中になると再生塔4に貯えたその吸収液を加熱手段5で加熱して二酸化炭素を再生し、再生二酸化炭素は連通路8を経由して温室1へ供給され、光合成に利用される。このように夜間に発生する二酸化炭素を有効利用することによって、人工的に二酸化炭素を施用する構成に対してコスト低廉に寄与できる。
【0022】
なお、二酸化炭素吸収システムにおいて、吸収塔3と再生塔4の間に熱交換器9を備え、吸収塔3からの吸収液を蒸気にして再生塔4内に拡散できる。また、再生塔4に貯まって加熱処理された吸収液は熱交換器9を通じて蒸気化して吸収塔3に拡散還元する。さらに、夜間送風ファン6で吸収塔3に供給され二酸化炭素が取り除かれた空気は戻し連通路10を経て温室1に戻されるようになっている。
【0023】
前記加熱手段5としてボイラ5を使用している。ボイラ5は日中に運転するが、ボイラ5の排ガス通路11を前記吸収塔3に連通し、運転中に発生する二酸化炭素も吸収塔3に供給することにより光合成促進に利用でき、二酸化炭素の有効利用を図っている。
【0024】
図2は、本発明の別の実施の形態にかかる植物栽培設備を示し、温室1の夜間多湿対策において、天窓1a,1bをモータ等で開閉可能に設け、多湿時には開いて多湿対策とする構成が一般的であるが、天窓1a,1bを開くと二酸化炭素も逃げてしまうこととなる。そこで、天窓1a,1bを閉じたままで送風ファン6からの多湿空気を供給路7の途中に設けた除湿器12で除湿し、除湿後の空気を吸収塔3に供給する構成としている。
【0025】
次いで、図3に基づき、排ガス利用二酸化炭素施用システムについて説明する。温室1A内には、内部に温水が循環すべく温水パイプ15,15…を配置して培地2の近傍を加温できる構成としている。そして、温水パイプ15,15…の温水を加熱するためのボイラ16を備えている。そして、ボイラ16の排ガスを導入外気と混合して温室1A内に二酸化炭素を供給できる構成とした排ガス利用二酸化炭素施用システムが公知である(図3(A))。従来、一酸化炭素検知センサ17を設けて一酸化炭素濃度が所定以上の場合には、温室1Aへの供給路18に介在する開閉バルブ(図示せず)を閉じて供給停止するが、一酸化炭素検知センサ17が異常の場合には、一酸化炭素濃度の高いまま温室1Aに供給されてしまうこととなる。そこで、図3(B)に示すように、排ガス通路途中に二酸化炭素と不要ガスとを分離するフィルタ19を備える。このフィルタ19は例えばセルロース加工のフィルタで、加熱によって二酸化炭素を取り出すことができ、取り出された二酸化炭素を貯留部20に貯留し、温室1A内の二酸化炭素検知センサ21による二酸化炭素濃度の検出値が所定値以下になると、制御部Cは貯留部20に施用信号を出力し、温室1Aへの供給路22を介して二酸化炭素を供給制御される。このように構成すると、純粋二酸化炭素のみを光合成促進用として温室1Aに施用できる。なお、貯留部20には施用信号の有無によって開閉するバルブ手段23を有する。また、ボイラ16の温水を前記フィルタ19の加熱用に利用する構成として、装置の効率化を図っている。
【0026】
次いで、図4に基づき液化炭酸ガスの噴霧供給システムについて説明する。二酸化炭素を高圧で液化させた液化炭酸ガスを水と共に霧状に噴出し光合成に利用するものである。このシステムは、液化炭酸ガスタンク25と、水タンク26と、ポンプ手段27と、配管28と、噴霧手段29等からなり、吸い上げた水を案内する配管28途中に液化炭酸ガスタンク25から供給される炭酸ガスを吸入させると、炭酸ガスは水溶性なので水に溶け、温室1B内の上部に配設した噴霧手段29から水と共に炭酸ガスを霧状に噴出する構成である。勢いよく噴出した炭酸ガスは帯電するので電磁誘導作用により植物の葉の表面に付着し易い。したがって、植物の葉の気孔から炭酸ガスを効率的に吸収できるようになり、供給した炭酸ガス(二酸化炭素)を効率よく光合成に利用できる。
【0027】
そして、温室1B内に飽差センサ30を設け、制御部Cに検出値を送信し、制御部Cは、飽差を判定する。飽差が所定範囲、すなわち3~6g/mでないと光合成できない知見に基づき、制御部Cにより飽差がこの所定範囲にあるときは、液化炭酸ガスタンク25に設ける電磁バルブ31を閉じ側制御する。このように構成することで、炭酸ガスを噴出させないでロスを防止できる。なお、炭酸ガスを噴出させない場合は水のみを噴出することができ、細霧冷房効果を維持できる。
【0028】
さらに、前記電磁バルブ31を開度調整可能に構成し、温室1B内の炭酸ガス(二酸化炭素)濃度を検出する二酸化炭素濃度センサ32を設け検出された炭酸ガス濃度に応じて電磁バルブ31開度を調整することによって、温室1B内を適正の炭酸ガス濃度に制御できる。
【0029】
次いで、図5図6に基づき、防除ロボットシステムについて説明する。防除ロボット35は、上下方向に複数の噴霧ノズル36,36…を配設したアーム37を備え、培地2の長手方向に設けるパイプレール38に沿って前進又は後進できる構成である。従来、上下方向に複数配設された噴霧ノズル36,36…から略定圧の薬剤が噴出できるように構成し、パイプレール38の一端側起点から他端に設ける感知手段39までの間を定速で往復する構成としている(図5(A))。しかしながら、培地2に沿って略等間隔で栽培される植物は、個々に成長高さや繁り具合が異なるものであるから、上記のように一定高さで一定速度をもって言わば一律に噴霧すると、成長の低い植物に対しては上部に無駄な防除が実行され、繁り具合が遅れた植物に対しては過剰の防除が実行されることとなる。そこで、防除ロボット35のアーム37にカメラ40を設け、進行方向前方側の植物を撮像しながら、植物の高さや存否を認識し、高さに応じて、噴霧ノズル36,36…のいずれに供給し又は閉鎖することができ、植物個々の高さに対応して噴霧ノズル36,36…から噴霧できる。また、撮像範囲から植物が無くなると前進走行を停止制御することができ、前記感知手段39を省略できる(図5(B))。
【0030】
また、撮像カメラ40による撮像結果から植物の繁り具合を判定し、大いに繁っている状態では十分に薬剤噴霧するためロボットの走行速度を遅くし(イ)、繁りが遅れている状態では速度を標準又は速く(ロ)することで、略均一な薬剤噴霧を行うことができる(図6)。
【符号の説明】
【0031】
1 温室(栽培室)
3 吸収塔
4 再生塔
5 ボイラ
6 送風ファン
12 除湿器
A 二酸化炭素供給手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7