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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】ポリエステル組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/83 20060101AFI20230606BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20230606BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230606BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C08G63/83
C08G63/183
C08K3/013
C08L67/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020023057
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2020189960
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019094295
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 恭佑
(72)【発明者】
【氏名】孫 澤蒙
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-059083(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/073385(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0319977(US,A1)
【文献】特開昭63-066222(JP,A)
【文献】特開平07-097438(JP,A)
【文献】特開昭63-304022(JP,A)
【文献】特開昭62-018423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/83
C08G 63/183
C08L 67/00
C08K 3/013
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルおよびジオールをエステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応してポリエチレンテレフタレート組成物を製造するに際して、Mn原子(元素)を含む化合物、リン酸ナトリウム金属塩またはリン酸カリウム金属塩P原子(元素)を含む酸性化合物および体積平均径が3.0μm以下の炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つである粒子を重縮合反応終了前に添加し、かつその添加量が式(V)、(VI)を満たし、粒子と酸性化合物を混合してから添加するポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
5ppm≦Mn原子(元素)添加量(ポリエチレンテレフタレート組成物に対する重量比)≦50ppm (V)
5ppm≦アルカリ金属原子(元素)添加量(ポリエチレンテレフタレート組成物に対する重量比)≦100ppm (VI)
【請求項2】
前記粒子と酸性化合物の混合は10秒以上行う請求項に記載のポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状オリゴマー飛散量が少なく、さらに良好な耐加水分解性および粒子分散性を有する粒子含有ポリエステル組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。ポリエステルの中でも、特にポリエチレンテレフタレート(以降PETと記す)は、透明性や加工性に優れていることから、光学用フィルムや離型用フィルムなど高品位性が求められる用途に幅広く使われている。
しかしながら、PETのモノマー成分や低分子量体(オリゴマー成分)といった線状オリゴマーは、ポリエステルの分解反応によって発生・増加し、これが成形や加工時に揮発・飛散し、成形品の表面汚れが起こることがある。加えて、この線状オリゴマーの飛散によって工程汚れを引き起こすこともあり、表面汚れや工程汚れによる成形品の品位悪化という問題が起こる。
また、ポリエステル成形品にアンチブロッキング性、滑り性、隠蔽性、耐摩耗性、意匠性、耐UV性等を付与するためには、ポリエステル組成物に粒子を添加することが一般的に実施されている。しかし、粒子自体が有する活性などによるポリエステルの加水分解や、高温下での溶融混練時にポリエステル組成物が分解することで、COOH末端基量が高くなり、耐加水分解性に劣る課題がある。
これらの課題に対して、以下の文献に示されるような検討がされてきている。
特許文献1、特許文献2では、ポリエステル樹脂にリン酸アルカリ金属塩を含有させることにより、耐加水分解性が向上することが記載されている。
特許文献3では、PET中の金属原子(元素)とリン原子(元素)の当量比を規定し、環状三量体の含有量を低下させる技術が開示されている。
特許文献4では、表面処理された粒子を用いることにより、粒子分散性および耐熱性の優れたポリエステル組成物を提供する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2014/021095号公報
【文献】特開2013-189521号公報
【文献】特開平4-183745号公報
【文献】特開平8-143756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来技術のように、耐加水分解性を向上させるだけでは、線状オリゴマー飛散抑制効果および熱安定性が不十分という課題があった。そして、オリゴマーである環状三量体を低減させるのみであれば、溶融時の熱分解や加水分解という異なる機構により発生・増加する線状オリゴマーには効果がないため、製品の表面汚れや加工工程汚れを防ぐことができなかった。また、表面処理された粒子を用いるだけでは、線状オリゴマー発生を抑制することができなかった。すなわち、従来の耐加水分解向上・環状三量体抑制・粒子の表面処理技術では、線状オリゴマー飛散抑制効果を果たすことができなかった。
【0005】
本発明の目的は、線状オリゴマー飛散量が少なく、さらに良好な耐加水分解性および粒子分散性を有する粒子含有ポリエステル組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は以下の手段によって達成される。
【0007】
)ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルおよびジオールをエステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応してポリエチレンテレフタレート組成物を製造するに際して、Mn原子(元素)を含む化合物、リン酸ナトリウム金属塩またはリン酸カリウム金属塩P原子(元素)を含む酸性化合物および体積平均径が3.0μm以下の炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つである粒子を重縮合反応終了前に添加し、かつその添加量が式(V)、(VI)を満たし、粒子と酸性化合物を混合してから添加するポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
5ppm≦Mn原子(元素)添加量(ポリエチレンテレフタレート組成物に対する重量比)≦50ppm (V)
5ppm≦アルカリ金属原子(元素)添加量(ポリエチレンテレフタレート組成物に対する重量比)≦100ppm (VI)
)前記粒子と酸性化合物の混合は10秒以上行う()に記載のポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、線状オリゴマー飛散量が少なく、さらに良好な耐加水分解性および粒子分散性を有する粒子含有ポリエステル組成物およびその製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル組成物とは、式(I)~(III)を満たし、さらに粒子を含有し、粒子表面にP原子(元素)を含有することを特徴とするポリエステル組成物である。
線状オリゴマー飛散量(ポリエステル組成物に対する重量比)≦20ppm (I)
5ppm≦Mn原子(元素)含有量(ポリエステル組成物に対する重量比)≦50ppm (II)
5ppm≦アルカリ金属原子(元素)含有量(ポリエステル組成物に対する重量比)≦100ppm (III)
本発明のポリエステル組成物は、線状オリゴマー飛散量がポリエステル組成物の重量に対し20ppm以下であることが必要である。なお線状オリゴマー飛散量の測定手順は、前処理としてポリエステル組成物を150℃で3時間、さらに180℃で7.5時間真空乾燥し、このポリエステル組成物を窒素流通下、290℃で30分加熱溶融した後、水中で急冷する。得られた組成物をチップ状にカットし、室温条件下で3時間真空乾燥する。次に得られた組成物を空気中、220℃で8時間加熱処理して飛散した線状オリゴマーを冷却板で捕捉した際の線状オリゴマーの飛散量である。
【0010】
本発明において、線状オリゴマーとは、ポリエステルのモノマー成分やオリゴマー成分であり、具体的にはポリエステルを構成するジカルボン酸成分や、ジカルボン酸のカルボキシル基とジオールのヒドロキシル基が反応してできる鎖状の反応物のことを指し、環状三量体のような環状のオリゴマーは含めない。具体的にはジカルボン酸単量体およびグリコール成分とのモノエステル、ジエステルである。この線状オリゴマーは昇華や析出しやすく、溶融成形などの加工工程において、工程汚れや成形品の表面汚れを引き起こすものである。
【0011】
代表的なポリエステルであるPETを例に挙げると、TPA(テレフタル酸)、テレフタル酸とエチレングリコールの反応物である、MHT(モノヒドロキシエチルテレフタレート)およびBHT(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)である。これら線状オリゴマーの総量として、飛散量が20ppm以下であることが必要であり、好ましくは15ppm以下である。線状オリゴマーの飛散量を上記範囲内とすることで、成形加工時に問題となる線状オリゴマーに起因した工程汚れや表面汚れの低減を実現することができる。
本発明のポリエステル組成物は、Mn原子(元素)(マンガン原子(元素))をポリエステル組成物の重量に対し5ppm以上50ppm以下含有していることが必要である。
下限として好ましくは10ppm以上である。また、上限として好ましくは40ppm以下であり、より好ましくは30ppm以下である。上記下限以上とすることで、熱安定性を向上することが可能である。また、Mn原子(元素)はフィルム延伸工程などのポリエステル融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いためにポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のMn原子(元素)量を満たすことで、加工工程における線状オリゴマー発生量を低減することが可能となる。
【0012】
また、本発明のポリエステル組成物は、アルカリ金属原子(元素)をポリエステル組成物の重量に対し5ppm以上100ppm以下含有していることが必要である。
下限として好ましくは10ppm以上である。また上限として好ましくは60ppm以下であり、より好ましくは30ppm以下である。上記範囲とすることで、耐加水分解性が良好となり、加水分解に起因する線状オリゴマー発生を抑制できる。なお、耐加水分解性に優れる点から、アルカリ金属原子(元素)がナトリウムまたはカリウムであることが好ましい。
【0013】
また、本発明のポリエステル組成物は、P原子(元素)(リン原子(元素))を含有していることが必要である。P原子(元素)を含有することにより、ポリエステル組成物に耐加水分解性を付与させることができ、さらに粒子分散性を向上させることができる。さらにP原子(元素)は、粒子表面にも含有されていることが好ましい。P原子(元素)が粒子表面を保護することにより、熱履歴などを受けても粒子の凝集が発生しにくくなり、良好な粒子分散性を有するポリエステル組成物を提供することが可能となる。P原子(元素)が粒子表面上に有されることは、後述の実施例(7)に記載の方法で判断する。
【0014】
ポリエステル組成物中のP原子(元素)の含有量は特に規定しないが、下限として好ましくはポリエステル組成物の重量に対し15ppm以上であり、より好ましくは25ppm以上である。また上限として好ましくは90ppm以下である。上記範囲とすることで、ポリエステル組成物に良好な耐加水分解性および粒子分散性を付与することができる。
【0015】
本発明の粒子の種類は特に限定しないが、熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性の点から無機粒子であることが好ましい。例えば、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、フッ化カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウムおよびカーボンブラックなどを用いることが可能である。また、粒子の混合物でもよく、複合酸化物のような化合物でもよい。粒子分散性および成形品とした際の優れたアンチブロッキング性付与の点から、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウムを用いることがさらに好ましい。
【0016】
本発明の粒子の粒径を限定しないが、ポリエステル組成物中の粒子の体積平均径が3.0μm以下の場合、良好な粒子分散性を有するポリエステル組成物を提供することが可能である。体積平均径が2.0μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらに好ましい。
本発明の粒子の含有量は特に限定しないが、含有量の下限として好ましくは0.1wt%以上である。上限として好ましくは5.0wt%以下であり、より好ましくは2.0wt%以下である。上記範囲とすることで、粒子分散性および成形品とした際に優れたアンチブロッキング性が良好となる。
本発明のポリエステル組成物は、下記式(IV)で表される粒子変化量が1.5以下であることが好ましい。より好ましくは1.2以下であり、さらに好ましくは1.0、すなわち増加しないことが好ましい。
【0017】
粒子変化量=(加熱処理後の粒子含有量(wt%))/(加熱処理前の粒子含有量(wt%)) (IV)
(加熱処理:窒素雰囲気下、300℃、10時間)
本発明のポリエステル組成物は、粒子表面にP原子(元素)を含有しているため、良好な粒子分散性を有し、さらに熱劣化による粒子の形態変化を防ぐことが可能である。熱劣化が発生すると、粒子表面より溶出が起こり、ポリエステル組成物との副生成物が発生してしまう。この副生成物が発生すると、ポリエステル組成物分の重量が増加するため、単離して得られる粒子が増加し、変化量は1.0を超えるものとなる。なお、本変化量の測定方法は、後述の実施例(6)に示す。
本発明のポリエステル組成物はCOOH末端基量が30eq/t以下であることが好ましい。また20eq/t以下であることがより好ましく、15eq/t以下であることがさらに好ましい。上記範囲とすることで、得られるポリエステル組成物に良好な耐加水分解性を付与することが可能となり、加水分解に起因する線状オリゴマーの発生を抑制できる。
【0018】
本発明のポリエステル組成物の耐加水分解性はΔCOOH/COOHの値で評価する。ΔCOOHとは、飽和水蒸気下で155℃、4時間湿熱処理した際のCOOH末端基増加量であり、処理前のCOOH末端基量で割ったΔCOOH/COOHが少ない値であるほど、耐加水分解性が良好となる。本発明のポリエステル組成物ではΔCOOH/COOHの値が10.0以下であることが好ましい。ΔCOOH/COOHの値が10.0以下の場合、耐加水分解性が良好であり、加水分解に起因する線状オリゴマーの発生を抑制できる。ΔCOOH/COOHの値が8.0以下であることがより好ましく、7.0以下であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明のポリエステル組成物に含まれる粒子の分散性は、該ポリエステル組成物の溶液ヘイズで評価する。溶液ヘイズが小さいほど、透明性および粒子分散性の良好なポリエステル組成物となる。
【0020】
ポリエステル組成物の溶液ヘイズは、50%以下であることが好ましい。より好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは35%以下である。上記範囲を満たすことで、平滑な表面特性が要求されるフィルムなどに好適なポリエステル組成物を提供することが可能となる。
【0021】
本発明のポリエステル組成物を構成するポリエステルは、本発明の効果である耐加水分解性および粒子分散性を十分奏する点からPETであることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で共重合成分が含まれていてもよい。
【0022】
次に、本発明のポリエステル組成物の製造方法について記載する。
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、ジカルボン酸成分またはそのエステルとジオール成分を主原料とし、次の2段階の工程からなる。すなわち、(A)エステル化反応、または(B)エステル交換反応からなる1段階目の工程と、それに続く(C)重縮合反応からなる2段階目の工程である。
【0023】
本発明のポリエステル組成物を製造する原料は、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとジオールを用いることができ、2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0024】
本発明のジカルボン酸は、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニル4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、ダイマー酸などが挙げられる。また、ジカルボン酸エステルとは、先に述べたジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などであり、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明のジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとしてより好ましい態様は、融点が高く、フィルムや繊維などに加工しやすいポリエステル組成物を得ることができる点で、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、またはこれらのアルキルエステルである。
【0025】
本発明のジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンタンジオールなどの各種脂環式ジオールや、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にも本発明の効果を損なわない範囲で、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも用いることができる。本発明の効果を十分果たすことができる点、およびフィルムや繊維などに加工しやすいポリエステル組成物を得ることができる点でエチレングリコールが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法において、1段階目の工程のうち、(A)エステル化反応の工程は、ジカルボン酸とジオールとを所定温度でエステル化反応させ、所定量の水が留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル化反応により低重合体を得る場合、エステル化反応性、耐熱性の観点から、エステル化反応開始前のジカルボン酸とジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸)は、1.05以上1.40以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは1.05以上1.30以下、さらに好ましくは1.05以上1.20以下である。上記範囲とすることで、良好な反応性を有し、またジオールの2量体などの副生成物の生成を抑制できることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0027】
また(B)エステル交換反応の工程は、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールとをエステル交換反応させ、所定量のアルコールが留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル交換反応にて低重合体を得る場合、反応性、耐熱性の観点から、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸アルキルエステル)は1.7以上2.3以下の範囲であることが好ましい。上記範囲とすることで、エステル交換反応を効率的に進行させることができ、ジオールの2量体の副生を抑えることができることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0028】
2段階目の工程のうち、(C)重縮合反応は、(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応で得られた低重合体からポリエステル組成物を得る工程である。
【0029】
また、本発明の製造方法は、バッチ重合、半連続重合、連続重合が適用できる。
【0030】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、(A)エステル化反応に用いられる触媒は、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの化合物を用いても構わないが、重縮合反応段階での熱分解や異物の発生などの観点から、エステル化反応は無触媒で実施することが好ましい。ここで、(A)エステル化反応は無触媒においてもカルボン酸の自己触媒作用によって、反応は十分に進行する。また、(B)エステル交換反応に用いられる触媒としては、公知のエステル交換触媒を用いることができる。エステル交換触媒としては、有機マンガン化合物、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機コバルト化合物、有機リチウム化合物などが挙げられ、具体的には、炭酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、酸化物、水酸化物などがあるが、これに限定されるものではない。
【0031】
また、(C)重縮合反応に用いられる触媒は、公知の重縮合触媒を用いることが出来る。例えば、アンチモン、チタン、アルミニウム、スズ、ゲルマニウムなどの化合物などが挙げられる。
【0032】
アンチモン化合物としては、アンチモンの酸化物、アンチモンのカルボン酸塩、アンチモンアルコキシドなどが挙げられる。
チタン化合物としては、チタンキレート錯体、チタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物などが挙げられる。
【0033】
アルミニウム化合物としては、カルボン酸アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレート化合物、塩基性アルミニウム化合物などが挙げられる。
【0034】
スズ化合物としては、アルキル基を持つスズ化合物、ヒドロキシル基を持つスズ化合物などが挙げられる。
【0035】
ゲルマニウム化合物としては、ゲルマニウムの酸化物、ゲルマニウムアルコキシドなどが挙げられる。
【0036】
上記の金属化合物は、水和物であってもよい。
この中でも、重合時間および経済性の観点から、アンチモン化合物を重縮合反応触媒として用いることが好ましい。
【0037】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、Mn原子(元素)を含む化合物、アルカリ金属原子(元素)を含む化合物、酸性化合物および粒子を重縮合反応終了前に添加し、かつその添加量が式(V)、(VI)を満たし、粒子と酸性化合物を混合してから添加することが必要である。
5ppm≦Mn原子(元素)添加量(ポリエステル組成物に対する重量比)≦50ppm (V)
5ppm≦アルカリ金属原子(元素)添加量(ポリエステル組成物に対する重量比)≦100ppm (VI)
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、Mn原子(元素)を含む化合物、アルカリ金属原子(元素)を含む化合物、酸性化合物および粒子は前記(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応工程、それに続く(C)重縮合反応工程のいずれの段階で添加してもよいが、重縮合反応終了前かつ酸性化合物と粒子を混合してから添加することで、COOH末端基量を低減し耐加水分解性を向上させることができ、さらに加水分解に起因する線状オリゴマーの発生を抑制し、良好な粒子分散性を有するポリエステル組成物を得ることができる。
【0038】
本発明のポリエステル組成物に対して、Mn原子(元素)の添加量はポリエステル組成物の重量に対し5ppm以上50ppm以下であることが必要である。
【0039】
Mn原子(元素)の添加量の下限として、好ましくは10ppm以上である。また、上限として好ましくは40ppm以下であり、より好ましくは30ppm以下である。上記下限以上とすることで、熱安定性を向上することが可能である。また、Mn原子(元素)はフィルム延伸工程などのポリエステル融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いためにポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のMn原子(元素)量を満たすことで、加工工程における線状オリゴマー飛散量を低減することが可能となる。
【0040】
Mn原子(元素)を含む化合物は特に限定しないが、酢酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガンなどが挙げられ、溶解性及び触媒活性の点から酢酸マンガンが好ましい。
【0041】
また、添加する際の形態は粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。この時の溶媒は、ポリエステル組成物のジオール成分と同一にすることが好ましい。例えば、PETの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0042】
本発明のポリエステル組成物に対して、アルカリ金属原子(元素)の添加量はポリエステル組成物の重量に対し5ppm以上100ppm以下であることが必要である。下限として好ましくは10ppm以上である。また、上限として好ましくは60ppm以下であり、より好ましくは30ppm以下である。上記範囲とすることで、耐加水分解性が良好となり、加水分解に起因する線状オリゴマー飛散を抑制できる。
【0043】
アルカリ金属原子(元素)を含む化合物は特に限定しない。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムのリン酸塩、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物などが挙げられる。耐加水分解性の点から、ナトリウムまたはカリウムを含む化合物であることが好ましく、リン酸ナトリウム金属塩またはリン酸カリウム金属塩であることがさらに好ましい。リン酸ナトリウム金属塩またはリン酸カリウム金属塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムが挙げられる。耐加水分解性の点からリン酸二水素ナトリウムまたはリン酸二水素カリウムが特に好ましい。また、複数のリン酸アルカリ金属塩を併用しても構わない。
【0044】
また、上記リン酸アルカリ金属塩と、リン酸アルカリ金属塩以外のアルカリ金属化合物を併用しても構わない。例えば、水酸化カリウムを併用することで、静電印加製膜に必要なポリエステルの溶融比抵抗を小さくすることができ、成形性が向上する。
【0045】
アルカリ金属原子(元素)を含む化合物を添加する際の形態は粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。この時の溶媒は、ポリエステル組成物のジオール成分と同一にすることが好ましく、PETの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0046】
本発明における酸性化合物とは、水溶液中でpH<7となる化合物を指し、特に限定しない。耐加水分解性、耐熱性の観点から、酸性化合物としてリン化合物を添加することが好ましい。リン化合物としては、リン酸、トリメチルリン酸、エチルジエチルホスホノアセテート、亜リン酸などを利用することができ、複数のリン化合物を併用することも可能である。このリン化合物はリン酸またはトリメチルリン酸であることが特に好ましい。リン化合物と粒子を混合添加することにより、リン化合物が粒子表面に付着して粒子を保護し、熱履歴などを受けても粒子の凝集が発生しにくくなり、粒子分散性を向上させることができる。
【0047】
酸性化合物の添加量は特に規定しないが、酸性化合物としてリン化合物を使用する場合、ポリエステル組成物中のP原子(元素)の含有量はポリエステル組成物の重量に対し30ppm以上80ppm以下になるように添加することが好ましい。上記範囲とすることで、ポリエステル組成物に良好な耐加水分解性および粒子分散性を付与することができる。
【0048】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、(A)エステル化反応を経て実施する場合、エステル化反応後から、アルカリ金属原子(元素)を含む化合物、酸性化合物および粒子を添加するまでの間に、エチレングリコールなどグリコール成分の追加添加を実施することが好ましい。より好ましくは、マンガン化合物添加後から、アルカリ金属原子(元素)を含む化合物、酸性化合物および粒子を添加するまでの間である。エステル化反応にて得られるポリエステル組成物の低分子量体は、エステル交換反応で得られる低分子量体よりも重合度が高いためにリン酸アルカリ金属塩が分散しにくく、異物化が起こりやすい。したがって、エチレングリコールなどグリコール成分を追加添加し、解重合によって重合度を低下させておくことで異物化を抑制できる。この時、マンガン化合物が存在しているとより効率的に解重合できる。
【0049】
この追加添加するエチレングリコールなどグリコール成分は、全酸成分に対し0.05倍モル以上0.5倍モル以下であることが好ましい。より好ましくは0.1倍モル以上0.3倍モル以下である。上記範囲とすることで、重合系内の温度降下による重合時間の遅延を起こすことなく、リン酸アルカリ金属塩の異物化を抑制できる。
【0050】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、添加する粒子の種類は特に規定しないが、熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性の点から無機粒子であることが好ましい。例えば、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、フッ化カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウムおよびカーボンブラックなどを用いることが可能である。また、粒子の混合物でもよく、複合酸化物のような化合物でもよい。粒子分散性および成形品とした際に優れたアンチブロッキング性の点から、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウムを用いることがさらに好ましい。
【0051】
酸性化合物と粒子を添加する際の形態は粉体、スラリーのいずれでもよく、粒子分散性の点から、スラリーとして添加することが好ましい。スラリーとして添加する場合、粒子と分散溶媒が十分に混合されていることが好ましいため、少なくとも10秒以上混合することが好ましい。混合は攪拌機やマグネチックスターラーなどの攪拌装置を用いて行ってもよい。また、粒子分散溶媒はポリエステル組成物のジオール成分と同一にすることが好ましく、PETの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0052】
Mn原子(元素)を含む化合物、アルカリ金属原子(元素)を含む化合物および酸性化合物と粒子の添加時および添加後は、反応系内を攪拌することが好ましい。攪拌することで添加物をより均一に分散できる。
【0053】
また、本発明のポリエステル組成物の製造方法において、高分子量のポリエステル組成物を得るため、固相重合を行ってもよい。固相重合は、装置・方法は特に限定されないが、ポリエステル組成物を不活性ガス雰囲気下または減圧下で加熱処理することで実施される。不活性ガスはポリエステル組成物に対して不活性なものであればよく、例えば窒素、ヘリウム、炭酸ガスなどを挙げることができるが、経済性から窒素が好ましく用いられる。また、減圧条件では、より高真空にすることが固相重合反応に要する時間を短くできるため有利であり、具体的には110Pa以下を保つことが好ましい。
【0054】
以下、本発明におけるポリエステル組成物の製造方法の具体例を挙げるが、これに制限されない。
【0055】
250℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコール(テレフタル酸に対し1.15倍モル)のスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とする。
【0056】
こうして得られた255℃のエステル化反応物を重合装置に移送し、Mn原子(元素)を含む化合物、アルカリ金属原子(元素)を含む化合物、粒子と酸性化合物の混合物および重縮合触媒などを添加する。これらの操作の際は、エステル化物が固化しないように、系内の温度を240~255℃に保つことが好ましい。
【0057】
その後、重合装置内の温度を290℃まで徐々に昇温しながら、重合装置内の圧力を常圧から250Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させる。所定の撹拌トルクに到達した段階で反応を終了とし、反応系内を窒素ガスで常圧にし、溶融ポリエステルを冷水中にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル組成物を得る。
【0058】
本発明で得られたポリエステル組成物は、公知の成形加工方法で成形することができ、フィルム、繊維、ボトル、射出成形品など各種製品に加工することができる。
【0059】
本発明のポリエステル組成物を各製品に加工する際に、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、顔料および染料を含む着色剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、核剤、可塑剤、離型剤などの添加剤を1種以上添加することもできる。
【0060】
本発明のポリエステル組成物は、耐加水分解性、熱安定性および粒子分散性に優れ、溶融成形や加工工程にて発生するゲル組成物や線状オリゴマー飛散量が少ない。したがってフィルム、繊維、ボトル、射出成形品など各製品として利用することができ、特に光学フィルムや離型フィルムなどの高品位フィルムに用いることが可能である。
【0061】
フィルムとしては、本発明のポリエステル組成物から構成される単膜フィルムでも本発明のポリエステル組成物を少なくとも1層有する積層フィルムでもよい。特に積層フィルムの場合は、本発明のポリエステル組成物からなる層を少なくとも片表面に有する積層フィルムが好ましい。本発明のポリエステル組成物からなる層がフィルム表面に存在する場合、フィルム表面からの線状オリゴマー揮発などが抑制されるため、線状オリゴマー欠点の発生を効果的に抑制できる。
【0062】
本発明のポリエステル組成物より製造された成形品は、熱安定性、色調に優れるため、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、自動車用部品、電気・電子部品またはその他の用途として有用であり、特に2軸延伸フィルムでは離型用工程フィルムや光学用フィルムに好適である。
【実施例
【0063】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下
の方法で測定した。以下記載する方法は、本発明のポリエステル組成物単成分の場合の測
定方法を記載しているが、積層フィルムなどのように複数樹脂からなる成形品の場合、各
層の樹脂を削り出すなどして単離し、分析を行う。
また、実施例13~15、および実施例21は参考例と読み替える。
【0064】
(1)ポリエステル組成物の固有粘度(単位:dl/g)
ポリエステル樹脂組成物0.1gを0.001g以内の精度で秤量し、10mlのo-クロロフェノール(以降OCPと呼ぶ)を用いて100℃×30分間加熱して溶解した。溶液を室温まで冷却し、25℃の水槽中に設置したオストワルド粘度計に該溶液を8ml仕込み、標線を通過する秒数を計測した(A秒)。
また、OCPのみ8ml用いて前記と同様に25℃の水槽中に設置したオストワルド粘度計で標線を通過する秒数を計測した(B秒)。
【0065】
固有粘度は次の計算式で計算した。
【0066】
IV=-1+[1+4×K×{(A/B)-1}]^0.5/(2×K×C)
ここでKは0.343,Cは試料溶液の濃度(g/100ml)である。
【0067】
(2)ポリエステル組成物のCOOH末端基量(単位:eq/t)
Mauriceの方法によって測定した(文献 M.J.Maurice,F.Huizinga,Anal.Chem.Acta、22、363(1960))。
すなわち、ポリエステル樹脂組成物0.5gを0.001g以内の精度で秤量する。該試料にo-クレゾール/クロロホルムを7/3の質量比で混合した溶媒50mlを加え、加熱して内温が90℃になってから20分間加熱攪拌して溶解する。また混合溶媒のみもブランク液として同様に別途加熱する。溶液を室温に冷却し、1/50Nの水酸化カリウムのメタノール溶液で電位差滴定装置を用いて滴定をおこなう。また、混合溶媒のみのブランク液についても同様に滴定を実施する。
ポリエステル樹脂組成物のCOOH末端基量は、以下の式により計算した。
COOH末端基量(eq/t)={(V1-V0)×N×f}×1000/S
ここでV1は試料溶液での滴定液量(mL)、V0はブランク液での滴定液量(mL)、Nは滴定液の規定度(N)、fは滴定液のファクター、Sはポリエステル樹脂組成物の質量(g)である。
【0068】
(3)ポリエステル組成物のアルカリ金属原子(元素)の定量(単位:ppm)
原子吸光法((株)日立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度型180-80、フレーム:アセチレン-空気)にて定量を行った。
【0069】
(4)ポリエステル組成物中のMn原子(元素)、P原子(元素)の定量(単位:ppm)
理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて定量を行った。
【0070】
(5)ポリエステル組成物中の粒子含有量測定(単位:wt%)
ポリエステル組成物30gをOCP300mL中に加え、150℃で1時間溶解後、18000rpm、20℃で1時間遠心分離した。得られた固形分にジクロロメタン300mLを加え18000rpm、20℃、1時間で遠心分離し、固形分を得た。得られた固形分に再度ジクロロメタン300mLを加え同条件で遠心分離を行った。このジクロロメタンによる遠心分離を合計3回行い、OCPを除去した。得られた固形分を真空乾燥(25℃、1時間)してから秤量し、重量値から含有量を算出した。
遠心機はHITACHI製himacCR20G(ローター:R19A)を用いた。
(6)加熱溶融後のポリエステル組成物中の粒子含有量(単位:wt%)測定および変化量
ポリエステル組成物を前処理として150℃で3時間、さらに180℃で7.5時間真空乾燥し、窒素流通下、300℃で10時間加熱溶融した後、水中で急冷する。得られた組成物を上記(5)の方法にて粒子の含有量を算出した。
また、変化量は、上記にて得られた加熱溶融後の粒子含有量と(5)にて得られた粒子含有量の比である。
【0071】
(7)粒子表面上のP原子(元素)の検出
ポリエステル組成物を上記(5)の方法にてOCPに溶解し、遠心分離を行った。固形分を乾燥後、SEM-EDXを用いてP原子(元素)の含有を評価した。
【0072】
(8)ポリエステル組成物中の粒子体積平均径測定(単位:μm)
ポリエステル組成物をプラズマ処理し、日立製電界放射型走査電子顕微鏡(型番S-4000)、ニデコ製SEM-IMAGEANALYZER(型番ルーデックスAP)にて、粒子の体積平均径測定をおこなった。また、粒子径を解析する際は倍率5000倍で20視野以上の測定を行い、最低200個以上の粒子から円相当径を測定し、それを擬似的な立体球状とみなし体積平均粒子径を算出した。
【0073】
(9)ポリエステル組成物の耐加水分解性評価(ΔCOOH/COOH)[耐加水分解性]
ポリエステル組成物を飽和水蒸気下、155℃で4時間湿熱処理し、処理前後のCOOH末端基量を測定することで、COOH末端基増加量(ΔCOOH=処理後COOH-処理前COOH)を算出した。このΔCOOHの値を処理前のCOOH末端基量で割ることで耐加水分解性を評価した。
なお、処理装置はPRESSER COOKER 306SIII(HIRAYAMA製作所(株)製)を使用した。
【0074】
(10)溶液ヘイズ(単位:%)[透明性]
測定する試料0.2gを20mLのOCP/1,1,2,2-テトラクロロエタンの3/2(容積比)混合溶液に溶解させ、光路長20mmのセルに入れ、ヘイズメーター(スガ試験機社製)HGM-2DP型を用いて、積分球式光電光度法にて測定を行った。
【0075】
(11)ポリエステル組成物の線状オリゴマー飛散量(単位:ppm)
測定試料を真空乾燥機にて150℃×3時間、さらに180℃×7.5時間乾燥した後、290℃で30分、窒素流通下で溶融した後水中で急冷し、チップ状にした。さらにチップ状ポリマーは室温条件下で3時間真空乾燥し、チップ状ポリマー3gを坩堝に入れ、オリゴマー捕集板(シャーレ)をるつぼの上にセットして、空気中で220℃、8時間加熱処理した。この線状オリゴマーが付着したシャーレに5mLのDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)を加え溶解させた後、分光光度計(型番:U-3010、HITACHI製)により吸光度を測定し、標準溶液から作成した検量線によりポリエステル組成物の重量に対する線状オリゴマー飛散量(ppm)を求めた。
【0076】
(実施例1)
250℃にて溶融したBHT105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とし、BHTを得た。
エステル化反応器から105重量部(PET100重量部相当)のBHTを重合装置へ溶融状態で仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しMn原子(元素)として23.5ppm)、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル組成物の重量に対しSb原子(元素)として255ppm)を添加した。その後、エチレングリコール5重量部(テレフタル成分対比0.15倍モル)を追加添加して解重合を進め、次いでリン酸(ポリエステル組成物の重量に対しP原子(元素)として18.8ppm)およびリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル組成物の重量に対しNa原子(元素)として14ppm、P原子(元素)として18.9ppm)のエチレングリコール溶液と炭酸カルシウム粒子の濃度が20wt%のエチレングリコールスラリーを全て混合し、60秒間攪拌を行い均質なスラリーとしたものを添加した。(炭酸カルシウムとして1重量部)。
その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から250Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
実施例1で得られたポリエステル組成物は、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー飛散量も少ないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
【0077】
(実施例2~4、比較例1~3)
マンガン化合物の添加量を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
実施例2~4にて得られたポリエステル組成物は、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー飛散量も少ないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
比較例1で得られたポリエステル組成物は、マンガン化合物を添加していないため、ΔCOOH/COOHが増加し、不合格であった。
比較例2で得られたポリエステル組成物は、マンガン化合物の添加量が少ないため、ΔCOOH/COOHが増加し、不合格であった。
比較例3で得られたポリエステル組成物は、マンガン化合物の添加量が多いため、線状オリゴマー飛散量が増加し、不合格であった。
【0078】
【表1】
【0079】
(実施例5~8、比較例4、5)
アルカリ金属化合物であるリン酸アルカリ金属塩の添加量を表2の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表2に示す。
実施例5~8で得られたポリエステル組成物は、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー飛散量も合格レベルであった。
比較例4で得られたポリエステル組成物は、アルカリ金属を添加していないため、ΔCOOH/COOHおよび線状オリゴマー飛散量が増加した。
比較例5で得られたポリエステル組成物は、アルカリ金属の添加量が多いため、ΔCOOH/COOHが増加した。
【0080】
【表2】
【0081】
(実施例9~11、14~21)
Mn原子(元素)を含む化合物、アルカリ金属原子(元素)を含む化合物、粒子の種類または添加量を表3の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表3に示す。
実施例9~11、18~23で得られたポリエステル組成物は、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー飛散量も少なかった。
【0082】
(実施例12)
実施例1と同様の方法でエステル化反応器から105重量部(PET100重量部相当)のBHTを重合装置へ溶融状態で仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しMn原子(元素)として23.5ppm)、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(Sb原子(元素)として255ppm)、水酸化カリウムのエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しK原子(元素)として14.0ppm)を添加した。その後、エチレングリコール5重量部(テレフタル成分対比0.15倍モル)を追加添加して解重合を進め、次いでリン酸(ポリエステル組成物の重量に対しP原子(元素)として18.8ppm)およびリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル組成物の重量に対しNa原子(元素)として14ppm、P原子(元素)として18.9ppm)のエチレングリコール溶液と炭酸カルシウム粒子の濃度が20wt%のエチレングリコールスラリーを全て混合し、60秒間攪拌を行い均質なスラリーとしたものを添加した。(炭酸カルシウムとして1重量部)。
その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から250Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表3に示す。
実施例12で得られたポリエステル組成物は、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー飛散量も少なかった。
【0083】
(実施例13)
実施例1と同様の方法でエステル化反応器から105重量部(PET100重量部相当)のBHTを重合装置へ溶融状態で仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しMn原子(元素)として23.5ppm)、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル組成物の重量に対しSb原子(元素)として255ppm)、水酸化カリウムのエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しK原子(元素)として14.0ppm)を添加した。その後、エチレングリコール5重量部(テレフタル成分対比0.15倍モル)を追加添加して解重合を進め、次いでリン酸(ポリエステル組成物の重量に対しP原子(元素)として18.8ppm)およびリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル組成物の重量に対しNa原子(元素)として14ppm、P原子(元素)として18.9ppm)のエチレングリコール溶液と炭酸カルシウム粒子の濃度が20wt%のエチレングリコールスラリーを全て混合し、60秒間攪拌を行い均質なスラリーとしたものを添加した。(炭酸カルシウムとして1重量部)。
その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から250Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表3に示す。
実施例13で得られたポリエステル組成物は、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー飛散量も少なかった。
【0084】
【表3-1】
【0085】
【表3-2】
【0086】
(実施例22~29、比較例6)
酸性化合物の種類または添加量を表4の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表4に示す。
実施例22~29で得られたポリエステル組成物は、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー飛散量も少なかった。
比較例6で得られたポリエステル組成物は、酸性化合物を添加していないため、ΔCOOH/COOHが増加し、線状オリゴマー飛散量が増加したため不合格であった。
【0087】
【表4】
【0088】
(実施例30)
テレフタル酸ジメチル101.0重量部、エチレングリコール64.6重量部(ジカルボン酸成分の2倍モル)の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込んだ。内容物を150℃で溶解した後、酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しMn原子(元素)として23.5ppm)、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル組成物の重量に対しSb原子(元素)として255ppm)添加し撹拌した。240℃まで昇温しながらメタノールを留出させ、所定量のメタノールが留出したところで、エステル交換反応を終了した。その後、反応物を重合装置に移送し、リン酸(ポリエステル組成物の重量に対しP原子(元素)として18.8ppm)およびリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル組成物の重量に対しNa原子(元素)として14ppm、P原子(元素)として18.9ppm)のエチレングリコール溶液と炭酸カルシウム粒子の濃度が20wt%のエチレングリコールスラリーを全て混合し、60秒間攪拌を行い均質なスラリーとしたものを添加した。(炭酸カルシウムとして1重量部)。添加後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から250Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表5に示す。
実施例31で得られたポリエステル組成物は、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー飛散量も少なかった。
【0089】
(比較例7)
実施例1と同様の方法でエステル化反応器から105重量部(PET100重量部相当)のBHTを重合装置へ溶融状態で仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しMn原子(元素)として23.5ppm)、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル組成物の重量に対しSb原子(元素)として255ppm)を添加した。その後、エチレングリコール5重量部(テレフタル成分対比0.15倍モル)を追加添加して解重合を進め、次いでリン酸(ポリエステル組成物の重量に対しP原子(元素)として18.8ppm)とリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル組成物の重量に対しNa原子(元素)として14ppm、P原子(元素)として18.9ppm)の混合エチレングリコール溶液を添加した。
その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から250Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物を得た。
得られたポリエステル組成物をベント付きエクストルーダーを用いて溶解させ、炭酸カルシウム粒子の濃度が20wt%の水スラリー(炭酸カルシウムとして1重量部)をポリエステル組成物に添加混練した。混練後、エクストルーダー口金より冷水中にストランド状に吐出し、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物は、COOH末端基量が増え、さらにΔCOOH/COOHが増加し、線状オリゴマー飛散量も多く、不合格であった。
【0090】
(比較例8)
実施例1と同様の方法でエステル化反応器から105重量部(PET100重量部相当)のBHTを重合装置へ溶融状態で仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル組成物の重量に対しMn原子(元素)として23.5ppm)、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル組成物の重量に対しSb原子(元素)として255ppm)を添加した。その後、エチレングリコール5重量部(テレフタル成分対比0.15倍モル)を追加添加して解重合を進め、次いでリン酸(ポリエステル組成物の重量に対しP原子(元素)として18.8ppm)とリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル組成物の重量に対しNa原子(元素)として14ppm、P原子(元素)として18.9ppm)の混合エチレングリコール溶液を添加した。リン化合物を添加した後、炭酸カルシウム粒子の濃度が20wt%のエチレングリコールスラリーを添加した(炭酸カルシウムとして1重量部)。
その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から250Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物は、線状オリゴマー飛散量が多く、さらに加熱溶融後のポリエステル組成物中の粒子含有量が多いため、粒子形態を維持できておらず不合格であった。
【0091】
【表5】