(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】車体のフロア構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B62D25/20 G
(21)【出願番号】P 2020048818
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森弘 拓人
(72)【発明者】
【氏名】平塚 壮
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-120179(JP,A)
【文献】特開平09-039839(JP,A)
【文献】特開2018-149836(JP,A)
【文献】特開2014-226972(JP,A)
【文献】米国特許第06705668(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のフロア構造であって、
前記車体の前後方向に延在するサイドシルと、
前記サイドシルから車幅方向の内側に延在するクロスメンバと、
前記サイドシルの内部に設けられるバルクと、を有し、
前記バルクは、前記クロスメンバの上部に向けて突出する力伝達部と、前記クロスメンバの下部との間に隙間を形成する凹み部を有し、
前記クロスメンバの上部はリインフォースで補強されており、前記リインフォースに、前記バルクを介して外力を受けた際に折れを許容する複数の脆弱部が前記車幅方向に沿って設けられ
ており、
前記複数の脆弱部の少なくとも1つは、前記リインフォースの下端から上方へ凹設された切り欠き部である車体のフロア構造。
【請求項2】
請求項1記載の車体のフロア構造であって、
前記複数の脆弱部は、前記車体のフロアの下方に位置する車両部品よりも前記車幅方向の外側に配置された車体のフロア構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車体のフロア構造であって、
前記バルクは、前記凹み部の前記車幅方向の外側である外側下領域から前記車幅方向の内側の内側上領域である前記力伝達部まで延設されたビードを有する車体のフロア構造。
【請求項4】
請求項3記載の車体のフロア構造であって、
前記ビードは断面円弧形に盛り上がって延設された車体のフロア構造。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の車体のフロア構造であって、
前記リインフォースは、相互に平行な壁部を有し、前記壁部の下端から前記切り欠き部が凹設された車体のフロア構造。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の車体のフロア構造であって、
前記切り欠き部は、矩形又は半円形またはV字形を有する車体のフロア構造。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の車体のフロア構造であって、
前記バルクは、前記クロスメンバの前部の前記車幅方向の外側に配置された前側バルクと、前記クロスメンバの後部の前記車幅方向の外側に配置された後側バルクを含む車体のフロア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車等の車体のフロア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体のセンタピラーの下部は、前後方向に延在するサイドシルに結合されている。左右のサイドシル間にフロアが構成される。フロアの下面側はクロスメンバで補強される。クロスメンバは、左右のサイドシル間に跨って、車両前後方向の複数箇所に配置される。サイドシル及びクロスメンバについては、従来より主として側突荷重に対する補強対策がなされている。特許文献1には、サイドシルの閉断面内に荷重伝達部材としてのバルクを配置して、車体側方から入力された側突荷重をクロスメンバに伝達するフロア構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のフロア構造ではバルクを経て側突荷重が伝達されてクロスメンバが上下に大きく2つ折れしてフロアの中央領域の変位が大きくなりやすい。近年のプラグインハイブリッド車両(PHV:Plug-in Hybrid Vehicle)では、フロアの中央領域の下方に大容量のバッテリが搭載される。この種のバッテリ等の車両部品をより確実に保護する必要性が高まっている。このために、特に側突荷重等の外力に対してフロアの中央領域の変位が一層効率良く抑制されるようにする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の1つの特徴によると、車体のフロア構造は、車体前後方向に延在するサイドシルと、サイドシルから車幅方向内側に延在するクロスメンバと、サイドシルの内部に設けられるバルクと、を有する。バルクは、クロスメンバの上部に向けて突出する力伝達部と、クロスメンバの下部との間に隙間を形成する凹み部を有する。クロスメンバの上部には、バルクを介して外力を受けた際に折れを許容する複数の脆弱部が車幅方向に沿って設けられる。
【0006】
従って、バルクを経て例えば側突荷重等の外力がクロスメンバに伝達される。クロスメンバの上部には複数の脆弱部が設けられている。これによりクロスメンバの上部が外力によりその車幅方向の複数箇所で細かく折れる。クロスメンバが従来のように上下に大きく2つ折れするのではなく、複数個所で細かく折れることで、フロアの変位が大幅に抑制される。脆弱部はクロスメンバに直接設ける場合の他、クロスメンバを補強するリインフォースに設けてクロスメンバの折れを間接的に制御する構成としても良い。
【0007】
本開示の他の特徴によると、複数の脆弱部は、車体のフロアの下方に位置する車両部品よりも車幅方向の外側に配置される。従って、フロアは、車両部品の外側で変位しやすい。これにより車両部品側であるフロアの中央領域の変位がより確実に抑制される。
【0008】
本開示の他の特徴によると、バルクは、凹み部の車幅方向外側である外側下領域から車幅方向内側の内側上領域である力伝達部まで延設されたビードを有する。従って、側突荷重等の外力のうち、バルクの下側に加わる外力は、ビードによってクロスメンバの上部に伝わる。これにより、クロスメンバが複数箇所の脆弱部を経て細かく折れて、フロアの特に中央領域の変位がより確実に抑制される。
【0009】
本開示の他の特徴によると、クロスメンバは、上部に沿ってリインフォースを有する。リインフォースに複数の脆弱部が設けられる。従って、リインフォースを経てクロスメンバの上部が複数個所で細かく折れる。
【0010】
本開示の他の特徴によると、複数の脆弱部の少なくとも1つは、クロスメンバに形成された切り欠き部である。従って、側突荷重等の外力は、切り欠き部が設けられた箇所に集中して折れやすくなる。
【0011】
本開示の他の特徴によると、複数の脆弱部の少なくとも1つは、クロスメンバに形成された孔である。従って、側突荷重等の外力は、孔が設けられた箇所に集中して折れやすくなる。
【0012】
本開示の他の特徴によると、バルクは、クロスメンバの前部の車幅方向外側に配置された前側バルクと、クロスメンバの後部の車幅方向外側に配置された後側バルクを含む。従って、クロスメンバの前部と後部に対して側突荷重等の外力がより確実に伝達される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】本実施形態に係るフロア構造の縦断面図である。
【
図4】本実施形態に係るリインフォースの斜視図である。
【
図5】本実施形態に係るフロア構造の縦断面図である。本図は、外力Fを受けた状態を示している。
【
図6】側突荷重とフロアの変位との関係を本実施形態と従来構造とで折れ線グラフで比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本開示の実施形態を
図1~
図8に基づいて説明する。
図1、2は本実施形態に係る車体Bのフロア構造1を示している。車体Bの側部は、前後に延びる左右のルーフサイドレール2と、前後に延びる左右のサイドシル3を有する。左側のルーフサイドレール2と左側のサイドシル3との間は上下に延びるセンタピラー4で結合されている。右側も同様に構成されている。
【0015】
左右のルーフサイドレール2間にルーフ9が構成される。左右のサイドシル3間にフロア5が構成される。フロア5の中央には上方へ盛り上がるセンタマウント部15が前後に延在されている。センタマウント部15の下方に、エキゾーストパイプやプロペラシャフト等の機能部品を配設するスペースが確保される。
図3に示すように、フロア5の下面側は前後に延びる左右のサイドメンバ6で補強されている。左右のサイドメンバ6間には、例えば大容量のバッテリ等の車両部品7が装備されている。
【0016】
左右のサイドシル3とセンタマウント部15との間はクロスメンバ10で結合されている。クロスメンバ10は、前後方向に適宜間隔をおいた複数個所に配置されている。クロスメンバ10は、フロア5の上面側に結合されている。フロア5の上面側はクロスメンバ10で補強されている。サイドシル3を経て入力される側突荷重等の外力Fに対するフロア5の変位がクロスメンバ10により抑制される。
【0017】
サイドシル3に入力された外力Fはバルク8を介してクロスメンバ10に伝達される。
図2、3に示すようにバルク8は、サイドシル3の内部に配置されている。バルク8は、シルアウタ3aとシルインナ3bで形成されるサイドシル3の閉断面空間に配置されている。
【0018】
バルク8は、クロスメンバ10の前部の端部と、後部の端部にそれぞれ対向して前後2箇所に配置されている。前側の前側バルク8と後側の後側バルク8には、それぞれ外力Fの伝達経路をコントロールするための同様の工夫がなされている。
図3に示すようにバルク8の内側(右側)の下部(内側下領域)は欠落されて凹み部8aが形成されている。凹み部8aによりバルク8とクロスメンバ10の下部との間に隙間が設けられている。これにより、バルク8の内側上部に力伝達部8bが突出した状態に設けられている。力伝達部8bがクロスメンバ10の上部に当接されている。これにより、外力Fがバルク8の力伝達部8bを経てクロスメンバ10の上部に集中的に伝達される。
【0019】
バルク8の側部には、断面円弧形に盛り上がるビード8cが設けられている。ビード8cは、バルク8の外側(左側)の下部(外側下領域)から内側上部の力伝達部8b(内側上領域)に向けて延設されている。ビード8cにより、サイドシル3に入力された外力Fは、バルク8の力伝達部8bを経てクロスメンバ10の上部に集中的に伝達される。
【0020】
クロスメンバ10の上部はリインフォース11で補強されている。
図4に示すようにリインフォース11の前部の前壁部11aと後部の後壁部11bには、それぞれ複数の脆弱部12が設けられている。第1実施形態では、脆弱部12として切り欠き部12aが設けられている。切り欠き部12aは、前壁部11aと後壁部11bの双方において下端から上方へ凹設されている。
【0021】
リインフォース11は、クロスメンバ10の上部に沿って結合されている。リインフォース11に複数の脆弱部12が設けられることでクロスメンバ10は、バルク8を介して外力Fを受けた際に脆弱部12での折れが許容される。脆弱部12で折れが許容されることで外力Fが吸収される。
【0022】
脆弱部12は、車幅方向の外側(サイドシル3側)の領域に偏在して配置されている。このため外力Fを受けてクロスメンバ10は車幅方向外側の領域において折れが許容される。上記の脆弱部12を有するクロスメンバ10が、フロア5の中心に沿って上方へ盛り上がるように配置されたセンタマウント部15に対して左右対称に配置される。
【0023】
以上説明したフロア構造1によれば、サイドシル3に側突荷重等の外力Fが付加された場合において、フロア5の特に車幅方向中央寄りの領域の変位が抑制される。これによりフロア5の中央(センタマウント部15)に装備した大容量バッテリ等の車両部品7の保護が図られる。
図5には、車体Bの左側部に側突荷重等の外力Fを受けた場合におけるクロスメンバ10の変形状態が示されている。
【0024】
図5ではバルク8の図示が省略されているが、外力Fがバルク8を経てクロスメンバ10の上部に集中的に伝達される。これによりリインフォース11の脆弱部12が外力Fを受けて変形する。リインフォース11の脆弱部12が変形することでクロスメンバ10が車幅方向に変位する(潰れる)。リインフォース11の脆弱部12が車幅方向の室外側領域に配置されている。このため、クロスメンバ10の車幅方向の主として室外側領域で潰れが発生する。
【0025】
図6に、外力Fとクロスメンバ10の潰れ(ストローク)との関係が示されている。本実施形態に係るフロア構造1による場合が折れ線(1)で示されている。本実施形態の場合、上記したように外力Fを受けて脆弱部12が変形することでクロスメンバ10の室外側領域が細かく折れて潰れる。このためクロスメンバ10全体としての変位(折れ)が抑制されて外力Fがより長い時間受けられる。これによりクロスメンバ10の車幅方向の中央寄りの領域のストロークが抑制される。
【0026】
これに対して、
図8に示すように従来のフロア構造20では、脆弱部12を有しないリインフォース22がクロスメンバ21の上部に沿って配置されている。サイドシル23の内部にバルク24が配置されている。バルク24を経て外力Fがクロスメンバ21の室外側端部に伝達される。従来バルク24はクロスメンバ21の端部に対して上下ほぼ均一に当接されている。
【0027】
このため、サイドシル23に付加された外力Fはバルク24を経てクロスメンバ21の下面側にも均一に伝達される。その結果、クロスメンバ21のリインフォース22で補強されていない下面側から折れが発生する。最終的にクロスメンバ21が上下に大きく2点折れして、フロアの車幅方向の変位が大きくなる。このため、
図6において破線(2)で示すように従来のフロア構造20では、付加された外力F(折れ荷重)が高くなるものの、クロスメンバ21の潰れ(ストローク)が大きくなる。
【0028】
このように、本実施形態のフロア構造1によれば、クロスメンバ10の車室外側の領域が脆弱部12を経て細かく折れることでフロア5の中央領域の変位を抑制することができる。これによりフロア5の中央領域に装備した車両部品7の保護を図ることができる。
【0029】
また、サイドシル3の上方においてセンタピラー4に外力Fが付加された場合を想定すると、センタピラー4の車室内側への変位によりサイドシル3に車室内側への引っ張り荷重が付加される。本実施形態のフロア構造1によれば、クロスメンバ10が脆弱部12を経て細かく折れ曲がることでバルク8が車室内側に変位しやすくなっている。これにより、サイドシル3は正面視で回転するように変形するので、サイドシル3の破損が抑制されてセンタピラー4の下部に設定されるシートベルトのリトラクタ開口部の破損が抑制される。
【0030】
さらに例示した実施形態では、クロスメンバ10の前面側の端部と、後面側の端部に対向してバルク8が配置されている。前後2箇所のバルク8により、外力Fがクロスメンバ10の上角部(稜線)に向けて効率よく伝達される。これにより、クロスメンバ10の上部側をより確実に細かく折れるように変形させることができる。
【0031】
以上説明した実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、脆弱部12には変更を加えることができる。矩形の切り欠き部12aに代えて、半円形の切り欠き、V字形の切り欠きに変更してもよい。さらに、
図7に示すように切り欠き部12aに代えて、孔13aを車幅方向に複数配置して脆弱部13としてもよい。
【0032】
リインフォース11の脆弱部12,13は、前後壁部11a,11bの下部に代えて前後の稜線部(上角部)に沿って設ける構成としてもよい。この場合、円形あるいは長円形等の切り抜き部を脆弱部として設けることができる。
【0033】
リインフォースの肉厚について、脆弱部を設ける車幅方向外側の領域の肉厚(例えばt1.8)を車幅方向の内側(フロア中央側)の肉厚(例えばt1.6)よりも厚肉にする構成としてもよい。これにより脆弱部における細かな折れをより確実に発生させることができる。従って、脆弱部を一層確実な折れのきっかけとすることができる。
【0034】
リインフォース11に脆弱部12,13を設けてクロスメンバ10の折れを制御する構成を例示したが、クロスメンバ10に例示した脆弱部を直接設ける構成としても良い。
【0035】
センタピラー4から前方若しくは後方へ外れた部位のクロスメンバについて、例示したバルク8及びリインフォース11を適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
B…車体
F…外力(側突荷重)
1…フロア構造
2…ルーフサイドレール
3…サイドシル
3a…シルアウタ、3b…シルインナ
4…センタピラー
5…フロア
6…サイドメンバ
8…バルク
8a…凹み部、8b…力伝達部、8c…ビード
9…ルーフ
10…クロスメンバ
11…リインフォース
11a…前壁部、11b…後壁部
12…脆弱部
12a…切り欠き部
13…脆弱部
13a…孔
15…センタマウント部
20…フロア構造(従来)
21…クロスメンバ
22…リインフォース
23…サイドシル
24…バルク