(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
B60K 17/04 20060101AFI20230606BHJP
A01M 7/00 20060101ALI20230606BHJP
B60K 17/02 20060101ALI20230606BHJP
B60K 17/28 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
B60K17/04 C
A01M7/00 D
B60K17/02 C
B60K17/28 C
(21)【出願番号】P 2020167063
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【氏名又は名称】松田 正道
(74)【代理人】
【氏名又は名称】特許業務法人新大阪国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上島 徳弘
(72)【発明者】
【氏名】永井 真人
(72)【発明者】
【氏名】赤松 克利
(72)【発明者】
【氏名】松家 伸一
(72)【発明者】
【氏名】長尾 康史
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-77203(JP,A)
【文献】特開2016-215918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/04
A01M 7/00
B60K 17/02
B60K 17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体と、
圃場内で管理作業を行う作業装置と、
走行駆動力及び作業駆動力を伝動するミッションケースと、を備える作業車両において、
前記ミッションケースは、
油圧部品を装着する前側ケースと、
HSTを装着する後側ケースと、
走行伝動部材及び作業伝動部材を装着する中央ケースとを有し、
前記中央ケースは、前記走行車体に固定されていることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記走行車体には、前記作業装置とは別の作業を行う増設作業装置を装着可能であり、
前記中央ケースには走行伝動及び作業伝動を入切するクラッチが設けられ、
前記クラッチよりも伝動上手側に中継伝動部材が設けられ、
前記中継伝動部材の駆動力を伝動する中継伝動ケースを備え、
前記中継伝動ケースには、前記増設作業装置に伝動する増設伝動軸を配置し、
前記中継伝動ケースが着脱可能である、請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記中継伝動ケースは前記ミッションケースの前記前側ケースの機体前側に配置され、
前記増設伝動軸は、前記中央ケースの上面付近又は上面よりも上方に配置されている、請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記クラッチは、クラッチケースに複数のクラッチプレートを内装すると共に、前記クラッチケースをクラッチ駆動軸に設けて構成され、
前記クラッチ駆動軸は作動油の流路を有し、前記クラッチプレートの内周側に作動油を供給し、前記クラッチケースには、クラッチケース内に入り込んだ作動油を油圧回路に戻す戻し孔部を形成した、請求項2または3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記クラッチプレートには、内周から外周に向けて連通穴を形成した、請求項4に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体の前方に薬液散布用のブームを備え薬液散布などを行う薬剤散布機などの作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
先行特許文献1及び2に示す作業車両は、エンジンから駆動力を得るフロントミッションケースと、フロントミッションケースから伝動下手側への伝動を入切する乾式クラッチと、駆動力を走行系統及びブームスプレイヤー等の作業系統に伝動するリアミッションケースを備えており、フロントミッションケースには、防除ポンプ等に駆動力を伝動するPTO軸(常時PTO、ライブPTO)が設けられている。
【0003】
このPTO軸をフロントミッションケースに設けたことにより、乾式クラッチを切状態にしてリアミッションケースへの伝動を遮断し、走行及び作業を停止させた状態でも回転させ続けることができる。
【0004】
これにより、走行及び作業を再開する際に防除ポンプ等が始動するまでのタイムラグが生じ、作業走行の再開時に薬剤が散布されない場所が発生することを防止できる(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020‐001612号公報
【文献】特開2002‐346444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、PTO軸を常時回転させるためにミッションケースが分割構造となっていることで、部品点数が増加すると共に、メンテナンスの際には各部の連結を解除し、クラッチ機構などを本体フレームから着脱する必要があるので、メンテナンスに要する時間と労力が大きなものとなる問題がある。
【0007】
また、乾式クラッチを用いたことにより、パワーロスは抑えられるものの、摩耗が生じやすく、交換頻度が高くなる問題がある。
【0008】
本発明は、従来のそのような作業車両の課題を考慮し、メンテナンスが容易である作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の本発明は、
走行車体と、
圃場内で管理作業を行う作業装置と、
走行駆動力及び作業駆動力を伝動するミッションケースと、を備える作業車両において、
前記ミッションケースは、
油圧部品を装着する前側ケースと、
HSTを装着する後側ケースと、
走行伝動部材及び作業伝動部材を装着する中央ケースとを有し、
前記中央ケースは、走行車体に固定されていることを特徴とする作業車両である。
【0010】
第2の本発明は、
前記走行車体には、前記作業装置とは別の作業を行う増設作業装置を装着可能であり、
前記中央ケースには走行伝動及び作業伝動を入切するクラッチが設けられ、
前記クラッチよりも伝動上手側に中継伝動部材が設けられ、
前記中継伝動部材の駆動力を伝動する中継伝動ケースを備え、
前記中継伝動ケースには、前記増設作業装置に伝動する増設伝動軸を配置し、
前記中継伝動ケースが着脱可能である、第1の本発明の作業車両である。
【0011】
第3の本発明は、
前記中継伝動ケースは前記ミッションケースの前側ケースの機体前側に配置され、
前記増設伝動軸は、前記中央ケースの上面付近又は上面よりも上方に配置されている、第2の本発明の作業車両である。
【0012】
第4の本発明は、
前記クラッチは、クラッチケースに複数のクラッチプレートを内装すると共に、前記クラッチケースを前記クラッチ駆動軸に設けて構成され、
前記クラッチ駆動軸は作動油の流路を有し、前記クラッチプレートの内周側に作動油を供給し、前記クラッチケースには、クラッチケース内に入り込んだ作動油を油圧回路に戻す戻し孔部を形成した、第2または3の本発明の作業車両である。
【0013】
第5の本発明は、
前記クラッチプレートには、内周から外周に向けて連通穴を形成した、第4の本発明の作業車両である。
【発明の効果】
【0014】
第1の本発明によれば、ミッションケースを前側、中央、後側に分割し、中央ケースを走行車体に固定したことにより、ミッションケース全体を機体から降ろすことなくケース内のメンテナンス作業ができる構成となる。
【0015】
第2の本発明によれば、クラッチよりも伝動上手側に設ける中継駆動部材から増設作業装置の駆動力を供給することにより、走行及び作業を中断しても増設作業装置への伝動が停止されないので、走行及び作業の再開時に増設作業装置の作動が遅れ、作業ムラが発生することを防止できる。
【0016】
また、中継伝動ケースを着脱可能としたことにより、増設作業装置を用いない時には中継駆動部材以降に伝動が行われないので、パワーロスを抑えられ、動作の安定性や燃費の向上が図られる。
【0017】
第3の本発明によれば、中継伝動ケースがミッションケースの前側ケースの機体前側に配置されることにより、着脱時に他の部品を着脱する必要が無い、あるいは着脱すべき部品数を減らすことができる。また、増設伝動軸がミッションケースの上面付近、乃至上面よりも上方に配置されることにより、ミッションケースに回避部分を形成することなく増設伝動軸を配置できる。
【0018】
第4の本発明によれば、クラッチ駆動軸の流路からクラッチケース内に作動油を供給することにより、クラッチプレートが焼き付いて動かなくなることを防止できるので、走行伝動及び作業伝動を確実に入切できる。また、クラッチケースに戻し孔部を形成したことにより、クラッチケース内に入り込ませた作動油を油圧回路に戻すことができるので、内圧の上昇や、作動油の不足が防止される。
【0019】
第5の本発明によれば、連通穴を形成したことにより、クラッチプレートとクラッチケースの間に入り込んだ作動油をクラッチケース外に移動させることができるので、流路に戻らなくなった作動油が古くなることで問題を発生させることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明における実施の形態にかかる作業車両の側面図
【
図2】同作業車両のミッションケースを前方からみた斜視図
【
図3】同作業車両のミッションケースを後方からみた斜視図
【
図4】同作業車両のミッションケースを後方下側からみた斜視図
【
図7】同ミッションケースの前側ケースを前方から見た斜視図
【
図8】同ミッションケースの前側ケースを内側から見た斜視図
【
図9】同ミッションケースの中央ケースを前方から見た斜視図
【
図10】同ミッションケースの中央ケースを後方から見た斜視図
【
図11】同ミッションケースの後側ケースを内側から見た斜視図
【
図12】同ミッションケースの後側ケースを後方から見た斜視図
【
図13】本発明における第2の実施の形態にかかるミッションケースの略示斜視図
【
図14】本発明における実施の形態にかかるクラッチのプレートの正面図
【
図15】(A)、(B)、(C)本発明における実施の形態にかかる防除機操作BOXを説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明における実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の実施の態様では、作業車両として、農業用の薬液を散布する防除用の作業車両を例にして説明を行う。
【0022】
図1は、作業車両1の略左側面図である。本明細書においては、作業車両1の車両の進行方向となる側を前方、その反対側を後方、進行方向の左手側を左方、進行方向の右手側を右方とする。
【0023】
図1に示されるように、作業車両1は、防除用の薬液を散布する車両であり、前輪2と後輪3とを備え、走行車体1’の前側に設けられたボンネット4により、エンジン(図示せず)が覆われている。ボンネット4の後方には、操縦席部5が設けられており、操縦部5には、ステアリングハンドル6と、座席8が設けられている。
【0024】
座席8の後方には、薬液を収容する薬液タンク9が取り外し可能に搭載されている。また、作業車両1は、車両の進行方向の正逆および速度を調節可能な機構である油圧式無段変速装置(HST)と、エンジンの始動を規制するエンジン始動規制装置とを備えている。
【0025】
また、作業車両1の車体前部の左右両側には、左右方向に突出した支持ブラケット12aが設けられており、左右の支持ブラケット12aには、それぞれ上下のリンク体により構成された昇降リンク12が回動可能に支持されている。昇降リンク12の上下のリンク体は、互いに連動するように構成されており、昇降リンク12のリンク体下段には、伸縮自在な昇降シリンダ13が、昇降リンク12のリンク体下段と支持ブラケット12aとを接続させるように設けられているので、昇降シリンダ13を伸縮させることで昇降リンク12を上下方向に搖動させることができる。
【0026】
また、昇降リンク12はボンネット4の前方の位置にまで延びており、昇降リンク12の前端部には、前部フレーム11が、左右の昇降リンク12を連結するように取り付けられている。したがって、左右の昇降シリンダ13を同時に伸縮させることによって、上下動する左右の昇降リンク12を介して、前部フレーム11を昇降させることができる。
【0027】
前部フレーム11の両端には、薬液を散布する左右一対の防除ブーム10が、上下方向を軸として回動可能に取り付けられており、左右の防除ブーム10それぞれについて、左右方向に個別に展開および折り畳みができるようにするブーム切換シリンダが設けられている。防除ブーム10には複数のノズル10aが、前部フレーム11には複数のノズル11aが、それぞれ取り付けられており、各ノズル10aおよび各ノズル11aは、薬液タンク9から薬液の供給を受け、薬液を噴霧状にして散布することができるように構成されている。なお、
図1では、右側の防除ブーム10は図から省略されている。
【0028】
防除ブーム10を折り畳み、車体に沿わせた状態を収納姿勢と呼び、防除ブーム10を展開して左右に延ばした状態を薬液散布姿勢と呼ぶ。収納姿勢のときは、防除ブーム10を作業車両1の左右両側に設けられたブーム受け15に載置することで、防除ブーム10が車体の後方斜め上に向かった状態を保持することができる。
【0029】
図2は、本実施の形態の作業車両に搭載されたミッションケース20の前方から後方を見た斜視図、
図3はこのミッションケース20を後方から前方を見た斜視図、
図4は
図3のミッションケース20を底面側から見た斜視図である。
【0030】
これら、
図2、
図3、
図4において、21は前側ケース、22は中央ケース、22aは中央ケース22の底面、23は後側ケースである。さらに、24はエンジンからの伝動力の入力軸であり、25,26は第1、第2の油圧ポンプである。また、27は後述するクラッチを入り切りするための軸、28は後部の昇降バルブ、29は前輪2の走行出力軸である。また、30は油圧式無段変速装置(HST)、31はクラッチ潤滑孔である。また、32はブームスプレイヤー等の作業装置用のPTO軸、33は、後述するライブPTO出力軸(増設伝動軸)、34は車速センサー、35はドレイン、36は副変速軸、37はブリーザ、38は後輪3を駆動させる駆動力を伝動する走行出力軸である。
【0031】
さらに、ミッションケース20の中は
図5、
図6に示すような構造を持っている。
図5は全体の略示断面図、
図6はクラッチ55を中心とする拡大図である。
【0032】
まず、前側ケース21を中心に説明する。
図7は前側ケース21を前側から見た斜視図であり、
図8は前側ケース21を後側から見た斜視図である。ここで、
図7、
図8においては軸受けのボールベアリングは省略されている。入力軸24は入力軸受け21aに保持されている。その入力軸24の後端にはギア40が連結されている。そのギア40にはクラッチ駆動軸42に固定されたギア41が噛合している。このクラッチ駆動軸42の前端は前側ケース21に形成されているクラッチ前側軸受け43に支持されている。ここに55はクラッチである。
【0033】
さらに、ギア41はその下方に位置するギア44に噛合しており、このギア44は第1油圧ポンプ25を駆動するギアポンプ駆動軸45に固定され、このギアポンプ駆動軸45の軸受けであるギアポンプ軸受け45は前側ケース21に形成されている。
【0034】
他方、ギア40の上方には、軸48に取り付けられたギア47が噛合しており、この軸48の先端は前側ケース21に形成されている軸受け49によって支持されている。さらに、その軸48の後端は、中央ケース22側に取り付けられている軸受け板部50の一部に設けられた軸受け50aによって支持されている。その軸48の中央付近にはギア51が取り付けられ、そのギア51にギア52が噛合しており、そのギア52は上述したライブPTO出力軸33に固定されている。このライプPTO軸33の前端は前側ケース21に形成された軸受け54に支持されており、その後端は軸受け板部50に形成されている軸受け50bに軸支されるとともに、後方へ突出してライブPTO出力軸として利用可能となっている。
【0035】
ここで、入力軸24からエンジンの駆動力が入力されると、ギア40が回転する。その回転によって噛合しているギア47が回転し軸48が回転する。軸48の回転によってギア51が回転して、噛み合っているギア52が回転する。
【0036】
その結果、ギア52に固定されているライブPTO出力軸33が回転し、外部へエンジンからの駆動力が取り出される。この駆動力はクラッチ55より上流側(上手)から駆動力を取り出しているので、クラッチ55の入り切りに左右されず、エンジンが起動している間は駆動力を取り出すことが出来る。
【0037】
また、ギア40にはさらにギア41に噛み合っており、このギア41はクラッチ駆動軸42に固定されているので、入力軸24からエンジンの駆動力はこのクラッチ駆動軸42にも伝達されている。クラッチ駆動軸42はクラッチ55に連結されている。従って、クラッチ駆動軸42に伝えられた駆動力はクラッチ55の入り切りで左右される。
【0038】
さらに、ギア41にはギア44が噛み合っており、ギア44が固定されているギアポンプ駆動軸45にも入力軸24からエンジンの駆動力が伝わる。このギアポンプ駆動軸45の回転によって、第1油圧ポンプ25が駆動されることになる。なお、前ケース21に取り付けられる第2油圧ポンプ26も同様の機構で駆動される。
【0039】
次に、中央ケース22と後側ケース23について説明する。中央ケース22は
図9、
図10に示すように、周辺に前側ケース21と後側ケース23とボルト機構で取り外し可能になっている。
図5に示すように、Aは前側ケース21と中央ケース22との境界面を、Bは中央ケース22と後側ケース23との境界面を示す。また、中央ケース22は、作業車両1の走行車体1’のフレームに連結部53で固定されている(
図10参照)。なお、
図11は後側ケース23を内側からみた斜視図、
図12は後方外側から見た斜視図である。
【0040】
その中央ケース22の内部には、前側の位置に上述した軸受け板部50が、また中央位置にクラッチ軸受け板部57がそれぞれ形成されている。
【0041】
前側の軸受け板部50とクラッチ軸受け板部57の間には、クラッチ55が配置され、クラッチ駆動軸42はクラッチ55を介してクラッチ軸受け板部57の軸受け部60に軸支されている。さらに、このクラッチ駆動軸42の後方部はその軸受け部60の孔61(
図10参照)を貫通して、後側ケース23のクラッチ駆動軸軸受け62で軸支されている。
【0042】
なお、HST駆動軸については後側ケース23に支持されているので、後側ケース23で片持ちされるか、あるいはHSTそのものに固定される。
【0043】
また、ドライブシャフトは前後に長いので、前側ケース21、中央ケース22、及び後側ケース23で支持される。
【0044】
さらに、クラッチ駆動軸42には変速ギア70が固定されており、その変速ギア70は作業装置用PTO軸32のシャフトに取り付けられたギア71に噛み合っており、クラッチ駆動軸42の回転はそのPTO軸32に伝達される。従って、この作業装置用PTO軸32の回転は、クラッチ55の入り切りで左右される。なお、32aは後側ケース23に設けられたPTO軸受けである。
【0045】
他方、クラッチ駆動軸42にはさらにギア63が取り付けられており、そのギア63はHST入力用ギア64に噛み合っている。また、HST出力用ギア65は3つのギア機構66,67,68を介して、前輪の走行出力軸29と、後輪の走行出力軸38に連結している。
図7において29aは前輪の走行出力軸29の軸受けである。従って、HST30で変速された出力が走行出力軸29、38へ伝達されていく。ここに、30aはHST入力側部であり、30bはHST出力側部である。また、72,73はそれぞれHST入力軸受け、HST出力軸受けである。
【0046】
このように、ミッションケース20を前、中央、後の部分に分割し、中央ケース22を作業車両1の走行車体1’のフレームに固定した(連結部53)ことにより、ミッションケース20全体を機体から降ろすことなくケース内のメンテナンス作業ができる構成となる。
【0047】
図13は本発明の第2の実施の形態である。ここに、入力軸24からギア40、それに噛み合っているギア47(カウンタギア、本発明の中継伝動部材の一例)までは上述した例と同様である。なお、
図13において、90は走行系機構を示し、91はPTO軸系機構を示す。
【0048】
そのギア47の回転力はシャフト80を通じてその先端に固定されているプーリー81に伝わる。そのプーリー81の回転はベルト82を介して上方の他のプーリー84に伝わる。このプーリー84には軸85が固定されているので回転する。この軸85が上述したライブPTO出力軸(増設伝動軸)33に対応することになる。この軸85もクラッチ55の入り切りの影響は受けず、エンジンからの出力によって常時駆動される。
【0049】
さらに、これら2つのプーリー81,84とベルト82はチェーンケース83に装着されており、そのチェーンケース83はミッションケース20の前側ケース21に対して脱着自在となっている。
【0050】
中継伝動ケース(チェーンケース83)を着脱可能としたことにより、増設作業装置を用いない時にはギア47(中継伝動部材)より後へは伝動が行われないので、パワーロスを抑えられ、動作の安定性や燃費の向上が図られる。
【0051】
すなわち、肥料散布装置などは、始動から安定した供給動作までにタイムラグが発生するので、クラッチの入切に合わせて伝動を停止させていると、クラッチが入になった際に作業が行われない、あるいは半端に作業が行われ、作業ムラが生じる。また、ライブPTO出力軸が肥料散布装置などを装着しないときでも駆動力を伝動してしまうことが無いので、パワーロスが発生しない。
【0052】
なお、本実施の形態では、チェーンケース83は、ミッションケース20の前側ケース21よりも前方に位置させ、ライブPTO出力軸(増設伝動軸)33である軸85が、中央ケース22の上面付近、あるいはそれよりも上方に配置されている。
【0053】
その結果、着脱時に他の部品を着脱する必要が無い、あるいは着脱すべき部品数を減らすことができる。また、増設伝動軸である軸85がミッションケース20の上面付近、乃至上面よりも上方に配置されることにより、ミッションケース20自体に回避部分を形成することなく増設伝動軸33を後方に向って配置できるメリットがある。
【0054】
次に、本実施の形態におけるクラッチ55はいわゆる乾式ではなく湿式構造となっている。すなわち、
図5、
図6に示すように、クラッチ駆動軸42は前側ケース21と後側ケース23で両方の端部が軸支(43、62)されており、軸と支持部に油路が形成されている。潤滑油はクラッチ潤滑孔31から供給される。その潤滑油は防除機の油圧の戻りをクラッチ駆動軸42の油路に戻す。
【0055】
クラッチ55は、クラッチケース55aに複数のクラッチプレート55bを内装すると共に、クラッチケース55aをクラッチ駆動軸42に設けて構成している。さらに、クラッチ駆動軸42は作動油の流路を有し、クラッチプレート55bの内周側に作動油を供給できる。さらに、クラッチケース55aには、クラッチケース55a内に入り込んだ作動油を油圧回路に戻す戻し孔部が形成されている。なお、
図14はクラッチプレート55bであって、矢印Cに示すように、内周から外周に向けて連通穴92を形成している。
【0056】
クラッチ55はこのような構造であるので、クラッチ駆動軸の流路からクラッチケース55a内に作動油を供給することにより、クラッチプレート55bが焼き付いて動かなくなることを防止できるので、走行伝動及び作業伝動を確実に入切できる。
【0057】
また、クラッチケース55aに戻し孔部を形成したことにより、クラッチケース55a内に入り込ませた作動油を油圧回路に戻すことができるので、内圧の上昇や、作動油の不足が防止される。
【0058】
また、連通穴92を形成したことにより、クラッチプレート55bとクラッチケース55aの間に入り込んだ作動油をクラッチケース55a外に移動させることができるので、流路に戻らなくなった作動油が古くなることで問題を発生させることが防止される。
【0059】
図15(A)、(B)、(C)は、防除機操作BOXを説明するための図面である。本例では、防除機操作BOX100は薬液タンク9側ではなく、操縦部5側に設けている。薬液タンク9側に設けておくと、薬液タンク9を外した際には操作出来なくなるので不便である。操縦部5側に設けることで、薬液タンク9を外した場合でも、サイドブーム10などの昇降操作が可能となり便利である。例えば、サイドブーム10を装着したまま、カルチ等の作業を行うことが出来る。
【0060】
操作BOX100はステアリング97の右側に配置する。主変速レバー95が左側であり、エンジンのスロットルレバーは右側にあるがスロットルレバーの使用頻度は低いので、スロットルレバーの奥側に操作BOX100を配置する。そうすることによって、左手で主変速レバー95を持ちながら、右手でステアリング97を持ち、右指で操作BOX100を操作することが可能となる。防除作業時にはステアリング97を大きく動かすことはないので不都合はない。旋回時には左手でステアリング97を動かす。
【0061】
操作BOX100はステアリング97やスロットルレバーよりも高い位置に設ける。ステアリング97の右上をグリップしながら、指で操作できる位置とする。
【0062】
ブームリンクの昇降スイッチ96はメータパネル101側に設ける。作業機の昇降にも使用するためである。作業機単体型式の場合、防除機操作BOX100外しても問題がない。
【0063】
図15(C)に示すように、操作BOX100の取り付け角度Sは、ステアリング97の角度S’と同じであることが望ましい。視認性がよく、操作性もよいからである。
【0064】
操作BOX100を取り付けるステー99は、正面のワイパーモーターカバー98に共締めする。ステー99がステアリング97より高い位置となり、右下のペダルや、右タイヤの視認性を損なわないメリットがある。
【0065】
操作BOX100上のスイッチは、
図15(A)と、拡大図(B)のLに示すように、左右十字スイッチと、左右シーソースイッチの4個で構成する。スイッチの数を減らしてシンプルにする。左右十字スイッチは、上下操作で左右のサイドブームの昇降を、左右操作でブームの伸縮をさせる。その伸縮は左十字スイッチでは外は伸びる、内は縮むとなり、右十字スイッチでは外は縮む、内は伸びるとなる。直観的な操作が可能となるからである。
【0066】
ブームの開閉操作は、左スイッチでは外は開き、内は閉じる。右スイッチでは外は開く、内は閉じるとなる。直観的に操作できる。
【0067】
十字スイッチが上に配置され、開閉スイッチは下に配置される。通常、開閉スイッチは平たく、十字スイッチは凸部が長いため、互いの操作を邪魔しないように構成している。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、メンテナンスが容易である作業車両を提供することができ、農業用の薬液を散布する防除用の作業車両などに有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 作業車両
1’走行車体
2、3 前輪、後輪
20 ミッションケース
21 前側ケース
22 中央ケース
23 後側ケース
24 入力軸
30 HST
33、85 ライブPTO出力軸(増設伝動軸)
42 クラッチ駆動軸
47 ギア(カウンタギア、中継伝動部材)
53 連結部
55 クラッチ
55a クラッチケース
55b クラッチプレート
80 シャフト
81、84 プーリー
83 チェーンケース(中継伝動ケース)