(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】コンバイン
(51)【国際特許分類】
A01D 69/06 20060101AFI20230606BHJP
A01D 41/12 20060101ALI20230606BHJP
A01D 69/00 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
A01D69/06
A01D41/12 A
A01D69/00 303Z
(21)【出願番号】P 2021177267
(22)【出願日】2021-10-29
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【氏名又は名称】松田 正道
(72)【発明者】
【氏名】奥村 和哉
(72)【発明者】
【氏名】五島 一実
(72)【発明者】
【氏名】板山 真
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-4808(JP,A)
【文献】特開2009-95289(JP,A)
【文献】特開2008-35737(JP,A)
【文献】特開平6-225625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 69/06
A01D 41/12
A01D 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)を搭載した機体フレーム(1)の前側に刈取装置(3)を設け、該刈取装置(3)の後方に操縦部(5)と脱穀装置(4)を設けると共に、刈取装置(3)の伝動上手側にエンジン(E)から伝動された出力回転を変速する主変速装置(20)を設け、該主変速装置(20)から伝動された出力回転を作業速と倒伏速に変速する副変速装置と刈取装置(3)への出力回転を標準速と高速に変速する変速機構(A)とを装備したトランスミッション(21)を設けたコンバインにおいて、機体を停止する操作をした状態でのみ、副変速装置が作業速と倒伏速に切替えられるのに応じて刈取装置(3)への出力回転が変速機構(A)にて標準速と高速に変速されることを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
機体を停止する操作をしていない状態で副変速装置が作業速と倒伏速に切替えられた時は、機体を停止する操作をするまで待って、刈取装置(3)への出力回転が変速機構(A)にて標準速と高速に変速されることを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
操縦部(5)に設けた副変速レバー(17)の作業速と倒伏速の切替え操作に応じて刈取装置(3)への出力回転が変速機構(A)にて標準速と高速に変速されることを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンバイン。
【請求項4】
操縦部(5)に設けた倒伏刈スイッチの操作により、副変速装置が作業速と倒伏速に切替えられると共に、刈取装置(3)への出力回転が変速機構(A)にて標準速と高速に変速されることを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンバイン。
【請求項5】
主変速装置(20)を操作する主変速レバー(16)の把持部に倒伏刈スイッチを設けたことを特徴とする請求項4に記載されたコンバイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈取装置の駆動速度の変速を行うトランスミッションを備えたコンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のコンバインにおいて、主変速装置の変速操作にてトランスミッション内のギヤチェンジを行って刈取装置の駆動速度の変速を行う技術が知られている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、主変速装置の前進位置での増減速操作にてトランスミッション内のギヤチェンジを行って刈取装置の駆動速度の変速を行うので、トランスミッション内のギヤは駆動回転中にギヤチェンジされ、ギヤの破損やギヤチェンジができないような事態が発生していた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、刈取装置の駆動速度の変速を適切に且つ容易に行えるコンバインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、エンジンEを搭載した機体フレーム1の前側に刈取装置3を設け、該刈取装置3の後方に操縦部5と脱穀装置4を設けると共に、刈取装置3の伝動上手側にエンジンEから伝動された出力回転を変速する主変速装置20を設け、該主変速装置20から伝動された出力回転を作業速と倒伏速に変速する副変速装置と刈取装置3への出力回転を標準速と高速に変速する変速機構Aとを装備したトランスミッション21を設けたコンバインにおいて、機体を停止する操作をした状態でのみ、副変速装置が作業速と倒伏速に切替えられるのに応じて刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて標準速と高速に変速されるコンバインである。
【0007】
請求項1記載の発明によれば、機体を停止する操作をした状態でのみ、副変速装置が作業速と倒伏速に切替えられるのに応じて刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて標準速と高速に変速されるので、変速機構Aの破損を防止できると共に、変速機構Aを適切に作動させることができる。
【0008】
また、刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて切替えられる時に刈取装置3への出力回転が停止するが、機体が停止した状態で刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて変速されるので、走行刈取り作業中に刈取装置3への出力回転が停止することが防止できて刈取り残し部分の発生がなく、良好な刈取り作業が行える。
【0009】
請求項2記載の発明は、機体を停止する操作をしていない状態で副変速装置が作業速と倒伏速に切替えられた時は、機体を停止する操作をするまで待って、刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて標準速と高速に変速される請求項1記載のコンバインである。
【0010】
請求項3記載の発明は、操縦部5に設けた副変速レバー17の作業速と倒伏速の切替え操作に応じて刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて標準速と高速に変速される請求項1または請求項2記載のコンバインである。
【0011】
請求項4記載の発明は、操縦部5に設けた倒伏刈スイッチの操作により、副変速装置が作業速と倒伏速に切替えられると共に、刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて標準速と高速に変速される請求項1または請求項2記載のコンバインである。
【0012】
請求項5記載の発明は、主変速装置20を操作する主変速レバー16の把持部に倒伏刈スイッチを設けた請求項4に記載されたコンバインである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態におけるコンバインの正面図である。
【
図4】同上コンバインのエンジンEの出力回転の伝動図である。
【
図5】同上コンバインの無段変速装置とトランスミッションの正面図である。
【
図6】同上無段変速装置とトランスミッションの右側面図である。
【
図7】同上コンバインの操縦部を部分断面した正面図である。
【
図8】同上コンバインの操縦部を部分断面した左側面図である。
【
図9】同上コンバインのトランスミッションの説明図である。
【
図10】同上コンバインのシフタ移動装置を後方右側から視た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1~3に示すように、コンバインは、機体フレーム1の下側に土壌面を走行する左右一対のクローラからなる走行装置2が設けられ、機体フレーム1の前側に圃場の穀稈を収穫する刈取装置3が設けられている。また、刈取装置3の後方左側部に刈取装置3で収穫された穀稈を脱穀・選別処理する脱穀装置4が設けられ、刈取装置3の後方右側部に操縦者が搭乗する操縦部5が設けられている。
【0015】
操縦部5の下側には、エンジンEを搭載するエンジンルーム6が設けられ、操縦部5の後側には、脱穀装置4で脱穀・選別処理された穀粒を貯留するグレンタンク7が設けられ、グレンタンク7に貯留された穀粒は、グレンタンク7に連結された排出オーガ(図示省略)によって外部に排出される。また、脱穀装置4の下部の後側には、エンジンEに供給する燃料を貯留する燃料タンクが設けられている。
【0016】
操縦部5の操縦席の前方には、フロントパネル10が設けられ、操縦席の左方には、サイドパネル15が設けられている。
【0017】
フロントパネル10の左部には、エンジンのEの出力回転等を表示するモニタ11が設けられ、右部には、走行装置2の旋回や刈取装置3の昇降を操作する操作レバー12が設けられ、下方内部には、制御装置18が設けられている。
【0018】
サイドパネル15の前部には、エンジンEの出力回転の変速と回転方向の切替えを行う主変速装置としての無段変速装置20を操作する主変速レバー16が設けられ、後部には、無段変速装置20の出力回転の変速を行うトランスミッション21を操作する副変速レバー17が設けられている。なお、無段変速装置20は、静油圧式無段変速装置である。
【0019】
主変速レバー16を中立位置にした場合には、無段変速装置20の出力回転はゼロになり、機体の進行が停止すると共に作業停止状態になる。主変速レバー16を中立位置から前側傾斜姿勢した場合(前進操作)には、無段変速装置20の出力回転の回転方向はエンジンEの出力回転の回転方向と同じ正回転となり、前側傾斜姿勢の傾斜角度を大きくすると無段変速装置20の出力回転は高速になり、前側傾斜姿勢の傾斜角度を小さくすると無段変速装置20の出力回転は低速になる。主変速レバー16を中立位置から後側傾斜姿勢した場合(後進操作)には、無段変速装置20の出力回転の回転方向はエンジンEの出力回転の回転方向と逆さの逆回転となり、後側傾斜姿勢の傾斜角度を大きくすると無段変速装置20の出力回転は高速になり、後側傾斜姿勢の傾斜角度を小さくすると無段変速装置20の出力回転は低速になる。また、主変速レバー16の位置は、主変速レバー16の下部に装着されたポテンションメータ等の角度センサで測定され、角度センサの測定値に応じて無段変速装置20のトラニオン軸が回動されて無段変速装置20の出力回転の増減速等が行われる。
【0020】
副変速レバー17を操作域の中央位置となる作業速にした場合には、トランスミッション21に伝動された無段変速装置20の出力回転は増減速されず走行装置2に伝動され、前側傾斜姿勢の倒伏速にした場合には、減速されて走行装置2に伝動され、後側傾斜姿勢の路上走行速にした場合には、増速されて走行装置2に伝動される。また、副変速レバー17の姿勢は、副変速レバー17の下部に装着されたポテンションメータ等の角度センサで測定され、角度センサの測定値に応じてトランスミッション21の噛合いギヤが変更されてトランスミッション21の走行装置2への出力軸35の出力回転の増減速等が行われる。
【0021】
そして、機体を停止する操作をした状態でのみ、下記(1)及び(2)のように副変速レバー17の作業速と倒伏速の切替えに応じて刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて変速される。
【0022】
また、機体が停止していない状態で副変速レバー17を作業速と倒伏速の切替えを行った時は、機体を停止する操作をするまで待って、刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて変速される。
【0023】
従って、機体を停止する操作をした状態でのみ、副変速装置が作業速と倒伏速に切替えられるのに応じて刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて標準速と高速に変速されるので、変速機構Aの破損を防止できると共に、変速機構Aを適切に作動させることができる。
【0024】
また、刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて切替えられる時に刈取装置3への出力回転が停止するが、機体が停止した状態で刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて変速されるので、走行刈取り作業中に刈取装置3への出力回転が停止することが防止できて刈取り残し部分の発生がなく、良好な刈取り作業が行える。
【0025】
なお、機体を停止する操作をした状態とは、例えば、主変速レバー16を中立位置に操作した状態である。即ち、制御装置18が主変速レバー16の下部に装着された角度センサから主変速レバー16が中立位置である信号を受けている時である。
【0026】
(1)副変速レバー17を作業速にした場合、制御装置18は、副変速レバー17の角度センサからの副変速レバー17が作業速である信号を受けて、モータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤが変更されて(変速機構Aが切替えられて)トランスミッション21の刈取装置3への出力軸31の出力回転が増減速されずに刈取装置3に伝動され、刈取装置3が標準速で駆動される。(詳細構成は、後述する。)
【0027】
(2)副変速レバー17を倒伏速にした場合、制御装置18は、副変速レバー17の角度センサからの副変速レバー17が倒伏速である信号を受けて、モータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤが変更されて(変速機構Aが切替えられて)トランスミッション21の刈取装置3への出力軸31の出力回転が増速されて刈取装置3に伝動され、刈取装置3が高速で駆動される(詳細構成は、後述する。)。
【0028】
なお、メインキーをOFFにしている時に副変速レバー17を操作してしまうことがあるが、メインキーをONにすれば、上記条件が成立していれば、(1)又は(2)の制御を行なう。
【0029】
なお、副変速レバー17を倒伏速から作業速にした場合、主変速レバー16を前進操作しても、制御装置18は、変速機構Aの切替えが完了して刈取装置3が標準速で駆動する状態にならないと、無段変速装置20の出力回転をしない。換言すると、変速機構Aの切替えが完了して刈取装置3が標準速で駆動する状態になった後に、無段変速装置20の出力回転をする。従って、作業速で刈取装置3が高速回転して破損することを防止できる。
【0030】
図4に示すように、エンジンEから出力された出力回転は、伝動経路C上に設けられた無段変速装置20に伝動される。無段変速装置20の入力軸に伝動されたエンジンEの出力回転は、無段変速装置20で増減速と回転方向の切替えが行われて出力軸から出力される。
【0031】
無段変速装置20から出力された出力回転は、トランスミッション21に伝動される。トランスミッション21の入力軸に伝動された無段変速装置20の出力回転は、トランスミッション21のギヤ伝動機構で変速されて出力軸35と出力軸31から出力される。
【0032】
トランスミッション21の出力軸35からの出力回転は、走行装置2に伝動されクローラを回動し、出力軸31からの出力回転は、刈取クラッチ22を介して刈取装置3に伝動され引起装置、刈刃装置等を駆動する。
【0033】
また、エンジンEから出力された出力回転は、伝動経路B上に設けられた脱穀クラッチ23を介して脱穀装置4に伝動される。
【0034】
図5,6に示すように、無段変速装置20は、トランスミッション21における右側上部に設けられている。また、トランスミッション21における前側上部には、トランスミッション21のギヤチェンジを行うシフタ41に連結された回転軸43を回動させるシフタ移動装置25が設けられている。
【0035】
シフタ移動装置25は、回転軸43に連結される上下方向に略く字形状に延在するシフタアーム50と、制御装置18の指令によりスプリング53A等を介してシフタアーム50を回動させるモータ57から形成されている。これにより、シフタ41をスムーズに移動することができ、トランスミッション21のギヤチェンジの操作性を向上させることができる。また、モータ57は、モータステー58を介して無段変速装置20の前部に設けられている。
【0036】
無段変速装置20は、無段変速装置20の上部を下部よりも後方に位置する後上がり姿勢で設けられ、シフタ移動装置25は無段変速装置20の前側に形成された空間に設けられている。これにより、無段変速装置20の前側に形成された空間を有効に活用することができる。また、シフタ移動装置25の右端部は、無段変速装置20の右端部よりも左側に設けられ、シフタ移動装置25の前端部は、トランスミッション21の前端部と略同一位置に設けられている。
【0037】
図7,8に示すように、シフタ移動装置25のモータ57は、操縦部5のフロントパネル10の左端部よりも右側に設けられ、フロントパネル10の前端部よりも後側に設けられている。これにより、フロントパネル10によってモータ57に直接雨水がかかるのを防止することができる。
【0038】
図9に示すように、無段変速装置20の出力回転は、トランスミッション21のギヤ30に伝動される。ギヤ30は、出力軸31に回転自在に固定されている。
【0039】
ギヤ30に伝動された出力回転は、ギヤ32を介してカウンタ軸33に伝動される。カウンタ軸33に伝動された出力回転は、ギヤ34等を介して出力軸35に伝動される。出力軸35に伝動された出力回転は、走行装置2に伝動されて走行装置2を駆動する。
【0040】
カウンタ軸33に伝動された出力回転は、カウンタ軸33に固定されたギヤ36又はギヤ37を介してギヤ38に連動され、ギヤ38に伝動された出力回転は、スプライン39を介して出力軸31に伝動される。また、ギヤ36のピッチ径は、ギヤ37のピッチ径よりも大きく形成されている。
【0041】
ギヤ38には、ギヤ36と噛合うギヤ38Aとギヤ37と噛合うギヤ38Bが併設して形成されている。また、ギヤ38Aのピッチ径は、ギヤ38Bのピッチ径よりも小さく形成されている。
【0042】
出力軸31の上側には出力軸31と平行に左右方向に延在するシフタガイド40が設けられ、シフタガイド40には左右方向に摺動可能なシフタ41が外嵌めされている。また、シフタ41の外周部からギヤ38に向かって延在する連結部41Aの下端部はギヤ38Aとギヤ38Bの間の部位に固定されている。これにより、シフタガイド40に沿ってシフタ41を左側に移動させた場合には、ギヤ36とギヤ38Aが噛合って出力軸31の出力回転が高速にすることができ、刈取装置3の引起装置で倒伏した穀稈を速やかに引起こすことができる。なお、シフタガイド40に沿ってシフタ41を右側に移動させた場合には、ギヤ37とギヤ38Bが噛合って出力軸31の出力回転が低速(標準速)になる。
【0043】
また、シフタ41の左右方向の摺動範囲は、シフタガイド40の頂部に外嵌めされたカラー44で規制されている。
【0044】
なお、シフタ移動装置25によるシフタ41の左右移動でギヤ37とギヤ38Bの噛合による出力軸31の出力回転が低速(標準速)になる状態とギヤ36とギヤ38Aの噛合による出力軸31の出力回転が高速になる状態に切替える部材構成が変速機構Aである。
【0045】
図10~13に示すように、シフタ41の外周部には、上下方向に延在する略二等辺三角形状の連結アーム42が設けられている。また、連結アーム42の上部には、前後方向に延在する回転軸43が設けられている。回転軸43は、トランスミッション21の前壁を挿通して、回転軸43の前部は、トランスミッション21の前壁よりも前側に延出している。なお、回転軸43は、トランスミッション21の前壁に回転自在に支持されている。
【0046】
回転軸43の前部には、シフタ移動装置25の上下方向に延在するシフタアーム50が設けられている。なお、シフタアーム50は、シフタアーム50の上下方向の中心部に一体的に形成された連結部51を介して回転軸43の前部に設けられている。連結部51は、回転軸43の前部を挟持する一側に開放部を有する挟持部と、開放部の隙間を調整するボルト等の締結手段から形成されている。これにより、回転軸43の前部にシフタアーム50を強固に固定することができる。
【0047】
シフタアーム50の上部の後面には、前後方向に延在するピン52Aが設けられ、シフタアーム50の下部の前面には、前後方向に延在するピン52Bが設けられている。
【0048】
ピン52Aには、スプリング53Aの左部が係止され、ピン52Bには、スプリング53Bの左部が係止されている。
【0049】
回転軸43の軸心視において、スプリング53Aは、下方右側に向かって延在し、スプリング53Aの右部は、ケーブル54Aを介して回転軸43の右側に設けられたプーリ56の後部に形成された溝56Aに係止されている。また、スプリング53Bは、上方右側に向かって延在し、スプリング53Bの右部は、ケーブル54Bを介してプーリ56の前部に設けられた溝56Bに係止されている。これにより、スプリング53Aとスプリング53Bやケーブル54Aとケーブル54Bの干渉を防止することができる。
【0050】
また、シフタ41に移動障害が発生した場合には、スプリング53Aとスプリング53Bが緩衝材として機能してモータ57の故障を抑制することができる。
【0051】
また、刈取装置3への出力軸31の出力回転を標準速と高速にするモータ57によるシフタ41の移動した位置検知は、モータ57内装リミットセンサを用いて行う。従って、特に切替え位置検知センサを設けることなくシフタ41の移動した位置検知が行えて安価であり、且つ、簡潔な構成となる。
【0052】
また、シフタ41の位置検知をするポジションセンサを設けて、シフタ41が左右移動位置になってギヤ37とギヤ38Bの噛合による出力軸31の出力回転が低速(標準速)になる状態とギヤ36とギヤ38Aの噛合による出力軸31の出力回転が高速になる状態及びシフタ41が左右中間位置になって出力軸31の出力回転をしない状態(刈取装置3への出力を行わない位置)を検出するようにしても良い。
【0053】
主変速レバー16を中立位置から後側傾斜姿勢に操作(後進操作)した場合、制御装置18は、主変速レバー16の角度センサからの後進操作の信号を受けて、モータ57を作動させてシフタ41が左右中間位置になって出力軸31の出力回転をしない状態(刈取装置3への出力を行わない位置)にし、且つ/又は、刈取装置3の駆動を入り切りする刈取クラッチ22を切る。
【0054】
従って、主変速レバー16を後進操作しても、刈取装置3への駆動が絶たれるので、刈取装置3が逆転することによる破損が適切に防止できる。なお、従来は、刈取装置3への駆動経路にワンウエイクラッチを設けて逆転防止していたが、このワンウエイクラッチを廃止することができ安価で簡潔な構成となる。
【0055】
スプリング53Aとスプリング53Bには、所定のテンションが加えられた状態、すなわち、
図10等に示すように、シフタアーム50を反時計方向に回転した場合に、反伸長側のスプリング53Bにも所定のテンションが加わりスプリング53Bの長さを自然長よりも長くする状態で設けるのが好ましい。これにより、ピン52Aとスプリング53Aやピン52Bとスプリング53Bの係止が外れるのを防止すると共に、伸縮時にスプリング53Aとスプリング53Bのバタつきを抑制することができる。
【0056】
ケーブル54Aとケーブル54Bは、伸長時にプーリ56の溝56Aと溝56Bに周方向おいて90度以上に亘って巻付けた状態、すなわち、
図10等に示すように、シフタアーム50を反時計方向に回転した場合に、伸長側のスプリング53Aの右部に連結されたケーブル54Aがプーリ56の溝56Aの周方向の90度以上に巻付けているのが好ましい。これにより、ケーブル54Aが溝56Aやケーブル54Bが溝56Bから外れるのを防止することができる。
【0057】
スプリング53Aとスプリング53Bは、回転軸43の中心とプーリ56の中心を結ぶ左右方向に延在する仮想線Lに対して対称に設け、スプリング53Aとスプリング53Bやケーブル54Aとケーブル54Bをモータ57を支持するモータステー58の前後方向に延在する部位に形成された開口部58A内を挿通させるのが好ましい。これにより、スプリング53Aとスプリング53B等がトランスミッション21の前側に形成されたスペースを過度に占有することを防止することができる。
【0058】
プーリ56はモータ57の出力軸に装着されている。また、モータ57は、モータステーの左右方向に延在する部位の前側に、モータ57の長手方向を仮想線Lと平行に設けられている。これにより、シフタ41をスムーズに移動させることができ、また、ケーブル54A等の配策を容易に行うことができる。
【0059】
<別実施形態>
(1)上記実施形態1では、副変速レバー17の作業速と倒伏速の切替えに応じて刈取装置3への出力回転が変速される例をしましたが、実施形態2として、サイドパネル15に倒伏刈スイッチを設け、該倒伏刈スイッチのON操作にて、副変速装置を倒伏速とし刈取装置3への出力回転を増速する。
【0060】
即ち、サイドパネル15には、倒伏刈スイッチを設ける。副変速レバー17は、手動操作以外に、制御装置18の指令により電動モータが作動して作業速と倒伏速に切替えられる構成とする。
【0061】
倒伏刈スイッチをON操作すると、制御装置18は、電動モータを作動して副変速レバー17を倒伏速に切替え、モータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤが変更されてトランスミッション21の刈取装置3への出力軸31の出力回転が増速されて刈取装置3に伝動され、刈取装置3が高速で駆動される。
【0062】
また、倒伏刈スイッチをOFF操作すると、制御装置18は、電動モータを作動して副変速レバー17を作業速に切替え、モータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤが変更されてトランスミッション21の刈取装置3への出力軸31の出力回転が増減速されずに刈取装置3に伝動され、刈取装置3が標準速で駆動される。
【0063】
従って、操縦部5にいる作業者が倒伏刈スイッチをON操作するのみで、副変速装置は倒伏速になって機体は低速で進行し、刈取装置3は高速で駆動されて、簡単な操作で良好な倒伏刈り作業が行える。
【0064】
(2)上記実施形態2では、サイドパネル15に倒伏刈スイッチを設けた例を示したが、実施形態3として、無段変速装置20を操作する主変速レバー16の把持部に倒伏刈スイッチを設ける。
【0065】
即ち、通常刈取り作業から倒伏刈り作業に移行する際に、操縦部5にいる作業者は、主変速レバー16を中立位置に操作して機体を停止する(前述のように、機体を停止状態にしないと、モータ57は作動しない。)。その際に、作業者は主変速レバー16の把持部を握ったままで倒伏刈スイッチのON操作ができるので、作業者は主変速レバー16の把持部を握って主変速レバー16の中立位置への操作、倒伏刈スイッチのON操作、主変速レバー16の前進側への操作が容易に且つ効率良く行えて、作業性が良い。
【0066】
(3)実施形態4として、副変速レバー17を倒伏速にした状態で、制御装置18が、倒伏速の最大速度まではモータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤが変更されてトランスミッション21の刈取装置3への出力軸31の出力回転が増速されて刈取装置3に伝動され、刈取装置3が高速で駆動されるようにし、倒伏速の最大速度を越えるとモータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤが変更されてトランスミッション21の刈取装置3への出力軸31の出力回転が増減速されずに刈取装置3に伝動され、刈取装置3が標準速で駆動されるように制御する。
【0067】
従って、圃場で倒伏稲と立毛稲が混在している場合に、頻繁に副変速レバー17を操作することなく、副変速レバー17を倒伏速にしたままで主変速レバー16の操作のみで通常刈取り作業と倒伏刈取り作業が自動で行えて、作業効率が良い。
【0068】
(4)機体を停止する操作をした状態が主変速レバー16を中立位置に操作した状態である例を示したが、他に操縦部5に設けたブレーキ(駐車ブレーキも含む)を操作して機体を停止する等の如何なる手段でも良い。
【0069】
(5)上記までの実施形態では、機体を停止する操作をした状態でのみ、副変速レバー17の作業速と倒伏速の切替えに応じて刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて変速される例を示したが、実施形態5として、機体進行状態でも副変速レバー17の作業速と倒伏速の切替えに応じて刈取装置3への出力回転が変速機構Aにて変速される例を説明する。
【0070】
即ち、主変速レバー16を前進操作して刈取り作業をしている途中で副変速レバー17を作業速から倒伏速に又は倒伏速から作業速に操作すると、制御装置18は、無段変速装置20のトラニオン軸を操作するアクチュエータに微速前進の指令を出して瞬間的に前進速度を落とし、該前進速度が落ちている状態でモータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤが変更してトランスミッション21の刈取装置3への出力軸31の出力回転を変速する。
【0071】
従って、瞬間的に前進速度を落とし、該前進速度が落ちている状態でモータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤを変更するので、支障なく変速操作が行える。
【0072】
また、他の例として、主変速レバー16を前進操作して刈取り作業をしている途中で副変速レバー17を作業速から倒伏速に又は倒伏速から作業速に操作すると、制御装置18は、刈取装置3の駆動を入り切りする刈取クラッチ22を切り、モータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤが変更してトランスミッション21の刈取装置3への出力軸31の出力回転を変速した後に、刈取クラッチ22を入れる。
【0073】
従って、刈取クラッチ22を切った状態でモータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤを変更するので、支障なく変速操作が行える。
【0074】
(6)実施形態6として、刈取装置3を非刈取り作業位置まで上昇操作した時に刈取装置3の刈取クラッチ22を切る自動制御が作動している時に、副変速レバー17を作業速から倒伏速に又は倒伏速から作業速に操作すると、制御装置18が、モータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤが変更してトランスミッション21の刈取装置3への出力軸31の出力回転を変速する。
【0075】
(7)実施形態7として、刈取装置3に搬送されている穀稈を検出するセンサを設け、該センサが穀稈を検出していない時(搬送穀稈がない時)に、副変速レバー17を作業速から倒伏速に又は倒伏速から作業速に操作すると、制御装置18が、モータ57を作動させてトランスミッション21のシフタ41を移動させて噛合いギヤが変更してトランスミッション21の刈取装置3への出力軸31の出力回転を変速する。
【符号の説明】
【0076】
1 機体フレーム
3 刈取装置
4 脱穀装置
5 操縦部
16 主変速レバー
17 副変速レバー
20 主変速装置(無段変速装置)
21 トランスミッション
A 変速機構
E エンジン