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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】導電性線材
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/02 20060101AFI20230606BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20230606BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20230606BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
H01B5/02 A
H01B5/00 A
H01B7/00 303
H01B7/18 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022088815
(22)【出願日】2022-05-31
(65)【公開番号】P2023024277
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2021130221
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】杉村 和昭
(72)【発明者】
【氏名】塩飽 孝至
(72)【発明者】
【氏名】粟津 知之
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-205105(JP,A)
【文献】特開平11-250739(JP,A)
【文献】特開2018-37324(JP,A)
【文献】特表2010-520612(JP,A)
【文献】特開2014-146544(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150667(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/02
H01B 5/00
H01B 7/00
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の芯線と、
前記芯線の表面を覆い、ステンレス鋼製の被覆層と、を備え、
前記芯線を構成する金属の導電率は、前記ステンレス鋼の導電率よりも大きく、
前記芯線は、前記芯線の表面を構成するように配置され、前記被覆層から拡散した0.5質量%以上のFeを含有する拡散層を含み、
前記拡散層の厚みは、前記芯線の径の0.4%以上5%以下である、導電性線材。
【請求項2】
前記拡散層の厚みは、前記芯線の径の0.85%以上である、請求項1に記載の導電性線材。
【請求項3】
前記芯線はCu、Ag、Al、Cu合金、Ag合金およびAl合金の少なくとも1つから構成される、請求項1に記載の導電性線材。
【請求項4】
前記芯線はCuから構成される、請求項1に記載の導電性線材。
【請求項5】
前記ステンレス鋼はオーステナイト系ステンレス鋼である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の導電性線材。
【請求項6】
前記芯線はCuから構成され、
前記ステンレス鋼はJIS規格SUS304であり、
前記導電性線材の長手方向に垂直な断面において、前記芯線と前記被覆層との界面に垂直な方向に前記界面を横切るように0.5μm間隔で弾性率を測定した場合における弾性率の変化量の最大値が1500GPa以上16250GPa以下である、請求項1または請求項2に記載の導電性線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性線材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性線材を構成する材料として0.2~2質量%のBe(ベリリウム)を含むCu(銅)合金であるBe-Cu合金(以下、Be-Cuともいう)が知られている。Be-Cuは高強度である一方で、Beを含むことで高価である等の問題がある。Beを含まない導電性線材として、Cu製の芯線と、芯線の表面を覆うステンレス鋼製の被覆層とを含む導電性線材が知られている(たとえば、特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭59-205105号公報
【文献】国際公開第2010/129293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電性線材に対しては、機器の可動部分に使用される場合など、十分な導電性と強度だけでなく、繰返し曲げ疲労に対する耐久性が求められる場合がある。上記特許文献1に開示された導電性線材では、引張試験における絞り値が低下する傾向にある。絞り値の低下は、加工硬化率が高いことを意味しており、高い加工硬化率は繰返し曲げ疲労に対する耐久性を低下させる。
【0005】
また、強度(引張強度)の観点でも、必ずしもBe-Cuに比べて高いとはいえず、強度面での優位性があるともいえない。
【0006】
そこで、Be-Cuと同等の導電率を確保しつつBe-Cuよりも強度が高く、かつ繰返し曲げ疲労に対する耐久性に優れた導電性線材を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従った導電性線材は、金属製の芯線と、芯線の表面を覆い、ステンレス鋼製の被覆層と、を備える。芯線を構成する金属の導電率は、上記ステンレス鋼の導電率よりも大きい。芯線は、芯線の表面を構成するように配置され、0.5質量%以上のFe(鉄)を含有する拡散層を含む。拡散層の厚みは、芯線の径の0.4%以上5%以下である。
【発明の効果】
【0008】
上記導電性線材によれば、Be-Cuと同等の導電率を確保しつつBe-Cuよりも強度が高く、かつ繰返し曲げ疲労に対する耐久性に優れた導電性線材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】導電性線材の長手方向に垂直な断面を示す概略断面図である。
図2】芯線と被覆層との界面付近の構造を示す概略断面図である。
図3】導電性線材の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図4】引張強度と導電率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示の導電性線材は、金属製の芯線と、芯線の表面を覆い、ステンレス鋼製の被覆層と、を備える。芯線を構成する金属の導電率は、上記ステンレス鋼の導電率よりも大きい。芯線は、芯線の表面を構成するように配置され、0.5質量%以上のFeを含有する拡散層を含む。拡散層の厚みは、芯線の径の0.4%以上5%以下である。
【0011】
本発明者らは、上記特許文献1に開示された導電性線材を含めて、導電率の高い芯線がステンレス鋼製の被覆層で覆われた導電性線材において、Be-Cuよりも強度が高く、かつ繰返し曲げ疲労に対する耐久性に優れた導電性線材が得られない原因について検討した。その結果、被覆層から芯線の表面付近に拡散するFeによって芯線の表面付近に形成される拡散層(0.5質量%以上のFeを含有する層)が繰返し曲げ疲労に対する耐久性および強度に影響を与えていることを見出した。
【0012】
すなわち、拡散層が形成されていない状態および拡散層の厚みが芯線の径の0.4%未満の状態では、導電性線材の繰返し曲げ疲労に対する耐久性が低い。これは、たとえば導電性線材が曲げられた際に被覆層および芯線の一方の変形に他方が十分に追従しないため、被覆層にひずみが集中することに起因すると考えることができる。
【0013】
一方、拡散層の厚みが芯線の径の5%を超える状態では、導電性線材の強度が低くなる。これは、拡散層は、導電性の高い材料からなる芯線に含まれるにもかかわらず、実質的には拡散層以外の芯線の領域に比べて導電率が大幅に小さくなっているためであると考えることができる。そのため、Be-Cuと同等の導電率を確保するためには、導電性線材の長手方向に垂直な断面における芯線の面積率を大きくする必要が生じる。その結果、強度の向上に寄与するステンレス鋼製の被覆層の面積率が相対的に小さくなり、強度が低下する。
【0014】
本開示の導電性線材においては、拡散層の厚みが、芯線の径の0.4%以上5%以下に設定されている。拡散層の厚みが芯線の径の0.4%以上とされることにより、繰返し曲げ疲労に対する耐久性が向上する。一方、拡散層の厚みが、芯線の径の5%以下とされることにより、被覆層の厚みを十分に確保可能となり、Be-Cu以上の強度を得ることが容易となる。このように、本開示の導電性線材によれば、Be-Cuと同等の導電率を確保しつつBe-Cuよりも強度が高く、かつ繰返し曲げ疲労に対する耐久性に優れた導電性線材を提供することができる。
【0015】
ここで、芯線の径とは、導電性線材の長手方向に垂直な断面における芯線の円相当径を意味する。当該断面における芯線が円形である場合、円相当径は芯線の直径である。当該断面における芯線が円形以外の形状を有する場合、円相当径は、芯線の面積に対応する円の直径である。また、拡散層の厚みは、たとえばEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いた線分析により測定することができる。具体的には、まず導電性線材を長手方向に垂直な断面で切断する。当該断面の芯線と被覆層との界面付近におけるFeの濃度を当該界面に垂直な方向に線分析を実施する。そして、Feの含有量が0.5質量%以上である部分の厚みが拡散層の厚みであると判断することができる。
【0016】
上記導電性線材において、拡散層の厚みは、芯線の径の0.85%以上であってもよい。この構成により、静的な変形に対する耐へたり性を向上させることができる。
【0017】
上記導電性線材において、芯線はCu、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、Cu合金、Ag合金およびAl合金の少なくとも1つから構成されていてもよい。これらの材料は、高い導電率を有するため、芯線を構成する材料として好適である。
【0018】
上記導電性線材において、芯線はCuから構成されていてもよい。Cuは、高い導電率を有する材料の中ではコストが低いため、芯線を構成する材料として特に好適である。
【0019】
上記導電性線材において、上記ステンレス鋼はオーステナイト系ステンレス鋼であってもよい。十分な加工性を備えるオーステナイト系ステンレス鋼は、被覆層を構成するステンレス鋼として好適である。
【0020】
上記導電性線材において、芯線はCuから構成されていてもよい。上記ステンレス鋼はJIS規格(Japanese Industrial Standards)SUS304であってもよい。導電性線材の長手方向に垂直な断面において、芯線と被覆層との界面に垂直な方向に当該界面を横切るように0.5μm間隔で弾性率を測定した場合における弾性率の変化量の最大値が1500GPa以上16250GPa以下であってもよい。CuおよびSUS304は、それぞれ芯線および被覆層を構成する材料として特に好適である。そして、上記弾性率の条件を満たすことで、静的な変形に対する耐へたり性の向上と高い導電率とを両立させることができる。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の導電性線材の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0022】
図1を参照して、本実施の形態における導電性線材1は、芯線11と、被覆層12とを備える。芯線11は、金属製である。被覆層12は、ステンレス鋼製である。被覆層12は、芯線11の表面(外周面)11Aを覆っている。芯線11を構成する金属の導電率は、被覆層12を構成するステンレス鋼の導電率よりも大きい。
【0023】
芯線11は、導電性に優れた金属から構成されていることが好ましい。芯線11は、たとえばCu、Ag、Al、Cu合金、Ag合金およびAl合金の少なくとも1つ(たとえばCu(純銅))から構成される。長手方向に垂直な断面における芯線11の形状は、特に限定されないが、図1に示すように、本実施の形態では円形である。長手方向に垂直な断面における芯線11の形状は、円形以外の形状、たとえば楕円形であってもよい。
【0024】
長手方向に垂直な断面において、被覆層12は、芯線11の外周面に沿う形状を有している。本実施の形態において、被覆層12は、中空円筒状の形状を有している。長手方向に垂直な断面において、被覆層12の厚みは一定である。被覆層12を構成するステンレス鋼は、たとえばJIS規格SUS304、SUS316などの加工性および耐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼(たとえばSUS304)であってもよい。
【0025】
図1を参照して、導電性線材1の外径D(線径)は、特に限定されるものではないが、たとえば10μm以上60mm以下である。導電性線材1の外径Dは、20μm以上であってもよい。導電性線材1の外径Dは、30mm以下であってもよく、10mm以下であってもよい。長手方向に垂直な断面において、導電性線材1の断面積に対する芯線11の断面積の比率は、必要な強度および導電性を考慮して適切に決定することができるが、たとえば10%以上90%以下であってもよい。導電性線材1の断面積に対する芯線11の断面積の比率は、15%以上、さらには20%以上であってもよい。導電性線材1の断面積に対する芯線11の断面積の比率は、85%以下、80%以下、さらには75%以下であってもよい。
【0026】
図2を参照して、芯線11は、芯線11の表面11Aを構成するように配置され、0.5質量%以上のFeを含有する拡散層11Dを含んでいる。図2および図1を参照して、拡散層11Dの厚みtは、芯線11の径Dの0.4%以上5%以下である。拡散層11Dの厚みtは、芯線11の径Dの0.7%以上、0.85%以上、さらに1%以上であることがより好ましい。拡散層11Dの厚みtは、芯線11の径Dの4%以下であることがより好ましい。
【0027】
次に、導電性線材1の製造方法の一例について説明する。図3を参照して、本実施の形態の導電性線材1の製造方法においては、まず工程(S10)としてクラッド工程が実施される。この工程(S10)では、まず被覆層12となるべき中空円筒状の形状を有するステンレス鋼製のパイプと、芯線11となるべき金属棒とが準備される。本実施の形態においては、オーステナイト系ステンレス鋼であるJIS規格SUS304製のパイプと、無酸素銅(純Cu)製の棒材とが準備される。そして、棒材をパイプ内に挿入することにより、ステンレス鋼製のチューブ内に銅製の金属棒が挿入されたクラッド材が得られる。本実施の形態では、パイプの外径は4.91mmとされる。
【0028】
次に、工程(S20)として界面接合工程が実施される。この工程(S20)では、工程(S20)において作製されたクラッド材を構成するパイプと棒材との界面が接合される。具体的には、工程(S10)において得られたクラッド材に対して伸線加工(引抜加工)が比較的小さな加工率(減面率)にて実施される。具体的には、伸線加工によりクラッド材の外径が3mmとされる。その後、加熱処理が実施されることにより、クラッド材を構成するパイプと棒材との界面が接合される。熱処理は、たとえば950℃以上1050℃以下に加熱し、1~10分程度保持する条件で実施することができる。
【0029】
次に、工程(S30)として第1伸線工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)においてパイプと棒材との界面が接合されたクラッド材に対して、伸線加工が実施される。具体的には、本実施の形態においては、クラッド材の外径が1.88mmとなるように伸線加工が実施される。伸線加工は、クラッド材をダイスに形成された貫通孔を通すことにより実施される。伸線加工は、1つのダイスを用いて1回の加工で実施してもよいし、複数のダイスを用いて複数回の加工で実施してもよい。これにより、外径Dが1.88mmの導電性線材1が得られる。上記棒材は芯線11となり、上記パイプは被覆層12となる。
【0030】
次に、工程(S40)として第1溶体化工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)において得られた外径Dが1.88mmの線材に対して溶体化処理が実施される。具体的には、工程(S30)において得られた導電性線材1に対して、たとえば900℃以上1100℃以下の温度域に加熱し、5秒以上20分以下の時間保持した後、急冷する熱処理が実施される。これにより、被覆層12を構成するステンレス鋼の金属組織において、工程(S30)の伸線加工によって引き伸ばされた結晶粒が再結晶し、伸線加工によって生じたマルテンサイト組織が消滅する。その結果、工程(S30)において加工硬化した被覆層12が軟化し、再度の伸線加工が可能な状態となる。溶体化処理おける加熱温度は、被覆層を構成するステンレス鋼のAC3点以上の温度とすることが好ましい。ステンレス鋼のAC3点は、たとえば以下の式:937.2-436.5×(C%)+56×(Si%)-19.7×(Mn%)-16.3×(Cu%)-26.6×(Ni%)-4.9×(Cr%)+38.1×(Mo%)+124.8×(V%)+136.3×(Ti%)-19.1×(Nb%)+198.4×(Al%)+3315×(B%)(単位:℃)にて算出することができる。ここで、(C%)、(Si%)、(Mn%)、(Cu%)、(Ni%)、(Cr%)、(Mo%)、(V%)、(Ti%)、(Nb%)、(Al%)および(B%)は、それぞれステンレス鋼に含まれるC(炭素)、Si(珪素)、Mn(マンガン)、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、V(バナジウム)、Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、Al(アルミニウム)およびB(硼素)の含有量(百分率)を意味する。被覆層を構成するステンレス鋼がJIS規格SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼である場合、溶体化処理おける加熱温度は900℃以上とすることが好ましく、950℃以上とすることがより好ましい。
【0031】
溶体化処理によって、被覆層12を構成するステンレス鋼に含まれるFeおよびNi(ニッケル)が芯線11へと拡散する。その結果、0.5質量%以上のFeを含有する拡散層11Dが形成される(図2参照)。拡散層11D内のNiの含有量は、たとえば0.2質量%である。本実施の形態の導電性線材1においては、拡散層11Dの厚みtは、芯線11の径Dの0.4%以上5%以下とする必要があり、0.85%以上5%以下とすることが好ましい。拡散層11Dの厚みtは、主に後述する拡散層厚み調整工程(S70)にて調整される。しかし、溶体化処理による被覆層12から芯線11へのFeの拡散も拡散層11Dの厚みtに影響する。そのため、後工程における伸線加工および溶体化処理の条件も考慮して、この工程(S40)における溶体化処理の条件を決定する必要がある。Fe(およびNi)の拡散速度(単位時間当たりの拡散距離)は、溶体化処理における加熱温度が高くなるにしたがって速くなる。生産効率および拡散層11Dの厚みtの制御の容易性を考慮して、加熱温度および加熱時間が決定される。
【0032】
次に、工程(S50)として第2伸線工程が実施される。この工程(S50)では、工程(S40)において溶体化処理が実施された導電性線材1に対して、伸線加工が実施される。具体的には、本実施の形態においては、導電性線材1の外径Dが0.7mmとなるように伸線加工が実施される。伸線加工は、工程(S30)の場合と同様に、1つのダイスを用いて1回の加工で実施してもよいし、複数のダイスを用いて複数回の加工で実施してもよい。これにより、外径Dが0.7mmの導電性線材1が得られる。
【0033】
次に、工程(S60)として第2溶体化工程が実施される。この工程(S60)では、工程(S50)において得られた外径Dが0.7mmの線材に対して溶体化処理が実施される。具体的には、工程(S50)において得られた導電性線材1に対して、たとえば工程(S40)と同様に、900℃以上1100℃以下の温度域に加熱し、5秒以上20分以下の時間保持した後、急冷する熱処理が実施される。これにより、工程(S40)の場合と同様に、被覆層12を構成するステンレス鋼の結晶粒が再結晶し、マルテンサイト組織が消滅する。その結果、工程(S50)において加工硬化した被覆層12が軟化し、再度の伸線加工が可能な状態となる。
【0034】
溶体化処理によって、工程(S40)の場合と同様に、拡散層11Dが形成される。工程(S60)は、後工程において2回の伸線加工と1回の溶体化処理が実施される工程(S40)とは異なり、芯線11の径Dに対する拡散層11Dの厚みtの比率への影響が大きい。これは、工程(S40)において形成される拡散層11Dは、工程(S50)および(S70)における2回の伸線加工によって厚みが小さくなるためである。芯線11の径Dの0.4%以上5%以下(さらには0.85%以上5%以下)という狭い範囲に拡散層11Dの厚みtを設定するためには、後述する拡散層厚み調整工程(S70)における拡散層11Dの厚みtの調整を容易にすることを考慮して、この工程(S60)における溶体化処理の条件を決定する必要がある。
【0035】
次に、工程(S70)として拡散層厚み調整工程が実施される。この工程(S70)では、工程(S60)において溶体化処理が実施された導電性線材1に対して、拡散層11Dの厚みtを調整するための加熱処理が実施される。具体的には、800℃以上1100℃以下の温度域に加熱し、5秒以上20分以下の時間保持した後、急冷する熱処理が実施される。芯線11の径Dの0.4%以上5%以下(さらには0.85%以上5%以下)という狭い範囲に拡散層11Dの厚みtを設定するためには、Feの拡散距離を厳密に制御する必要がある。生産効率のある程度の低下を許容しつつ、Feの拡散速度の小さい低温の加熱温度を選択し、許容される加熱時間の幅を大きくすることにより、適切な厚みの拡散層11Dを形成することが容易となる。なお、この工程(S70)は必須の工程ではなく、工程(S40)および(S60)における溶体化処理の条件を適切に設定することにより省略することもできる。しかし、工程(S40)および(S60)において形成される拡散層11Dの厚みtを十分に小さくしておき、工程(S70)を実施することで、芯線11の径Dの0.4%以上5%以下(さらには0.85%以上5%以下)という狭い範囲に拡散層11Dの厚みtを設定することが容易となる。
【0036】
次に、工程(S80)として第3伸線工程が実施される。この工程(S80)では、工程(S70)において拡散層11Dの厚みtが調整された導電性線材1に対して、伸線加工が実施される。具体的には、本実施の形態においては、導電性線材1の外径Dが0.3mmとなるように伸線加工が実施される。伸線加工は、工程(S30)および(S50)の場合と同様に、1つのダイスを用いて1回の加工で実施してもよいし、複数のダイスを用いて複数回の加工で実施してもよい。これにより、外径Dが0.3mmであり、拡散層11Dの厚みtが芯線11の径Dの0.4%以上5%以下(さらには0.85%以上5%以下)である導電性線材1が完成する。
【0037】
上記本実施の形態の導電性線材の製造方法によれば、本実施の形態の導電性線材1を容易に製造することができる。
【実施例
【0038】
(1)繰返し曲げ疲労に対する耐久性の評価
拡散層の形成が繰返し曲げ疲労に対する耐久性を向上させることを確認する実験を行った。上記実施の形態において説明した製造方法により外径Dが0.3mmの導電性線材1を作製し、繰返し曲げ疲労試験を実施した。工程(S70)における加熱温度および加熱時間を変化させることにより、芯線11の径Dに対する拡散層11Dの厚みtを0.4%~5%の範囲で変化させた。比較のため、工程(S70)における加熱温度および加熱時間をさらに変化させ、芯線11の径Dに対する拡散層11Dの厚みtが0.4%~5%の範囲外となるサンプルも作製した。そして、得られた導電性線材1を繰返し曲げ疲労試験に供した。導電性線材1を直線状の状態から90°屈曲させた後、直線状の状態に戻し、さらに反対側に90°屈曲させる動作を繰り返し、最大曲げ歪み量が0.5%以上となるまでの繰り返し数(耐久回数)を測定した。最大曲げ歪み量とは、線材線径をDとし、屈曲曲率をRとした場合、D/(D+2R)×100%で表される量である。そして、耐久回数が200×10回以上であれば合格であると判断した。実験の結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
表1において、芯線11の径Dに対する拡散層11Dの厚みtの割合であるt/Dが0.4%~5%の範囲内であるサンプルBおよびCは、本開示の導電性線材の実施例である。一方、t/Dが0.4%~5%の範囲外であるサンプルAおよびDは、比較例である。表1に示すように、サンプルB~Dは、繰返し曲げ疲労に対する耐久性について合格であるのに対し、サンプルAは、不合格となっている。そして、サンプルAおよびサンプルBに着目すると、t/Dの値が0.36から0.40にわずかに増加したのみであるにもかかわらず、耐久回数が3倍以上に増加している。このことから、t/Dの値を0.4以上とすることが繰返し曲げ疲労に対する耐久性の向上に非常に重要であることが確認される。
【0040】
(2)導電率に及ぼす拡散層の影響の評価
拡散層の形成が導電率に及ぼす影響について確認する実験を行った。上記(1)のサンプルCおよびDについて、工程(S20)までが完了した状態(外径Dが3mmの状態)で製造プロセスを一旦停止し、クラッド材の導電率および長手方向に垂直な断面における銅製の芯線11の面積率を測定した。その結果、長手方向に垂直な断面における銅製の芯線11の面積率は33%であった。また、導電率は32.1%IACS(International Annealed Copper Standard)であった。このことから、工程(S20)の段階では、ほぼ銅製の芯線11の面積率に対応する導電率が得られているといえる。
【0041】
次に、工程(S80)までが実施されて完成した上記(1)のサンプルCおよびDについて、引張強度および導電率を測定した。比較のため、サンプルCおよびDと同じ外径(0.3mm)を有し、Be-Cuからなるサンプルについても同様に引張強度および導電率を測定した。実験結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
表2に示すように、引張強度については、サンプルCおよびDともにBe-Cuよりも高くなっている。一方、導電率については、サンプルCはBe-Cuよりも高くなっているのに対し、サンプルDはBe-Cuよりも低くなっている。
【0043】
ここで、サンプルCとサンプルDとの導電率の差が、長手方向に垂直な断面における芯線11の面積率の変化によるものでないことを確認するため、サンプルCおよびDの製造方法に含まれる伸線加工が実施されるごとに面積率の測定を実施した。測定結果を表3に示す。
【0044】
【表3】
サンプルCおよびDともに、芯線11の面積率は表3に示される通りとなっていた。導電率が測定された外径Dが0.3mmの状態では、サンプルCおよびDともに芯線11の面積率は33.8%であった。このことから、サンプルCとサンプルDとの導電率の差が、長手方向に垂直な断面における芯線11の面積率の変化によるものでないことが確認された。
【0045】
次に、上記サンプルCおよびDについて、Feの含有量が0.5質量%以上である拡散層11Dの厚みについて、EPMAの線分析により測定した。具体的には、日本電子株式会社製の電界放出形EPMA(JXA-8530F)を用い、加速電圧:15kV、照射電流:100nA,サンプリングタイム:1s, プローブ径:0.1μmの条件で、導電性線材1の径方向に芯線11と被覆層12との界面付近に対して線分析を実施した。測定結果を表4に示す。
【0046】
【表4】
表4に示すように、拡散層厚み調整の条件を調整して拡散層11Dの厚みを小さくすることで、導電率の低下を抑制できることが確認される。なお、拡散層11Dの厚みを小さくするためには、たとえば芯線11と被覆層12との間にNi箔を介在させて、拡散を抑制する対応も考えられる。しかし、上記のように拡散層厚み調整の条件の調整によって拡散層11Dの厚みを小さくすることによって、工数の増加を抑制し、高い生産効率を達成することができる。
【0047】
次に、上記実施の形態の第1溶体化処理工程である工程(S40)までを実施して得られた溶体化処理の条件が異なる導電性線材1のサンプルGおよびHと、上記サンプルCおよびDにおいて工程(S40)までが実施された導電性線材1(外径Dはいずれも1.88mm)とを準備し、芯線11の表面を含むように形成されるFeの含有量が0.5質量%以上である層(拡散層11D)の厚みを測定した。そして、芯線11の径Dに対する拡散層の厚みtの比率t/Dを算出した。また、同様にNiの含有量が0.2質量%以上である層の厚みtNiを測定した。そして、芯線11の径Dに対するtNiの比率tNi/Dを算出した。さらに、拡散の方程式に基づいてt/DおよびtNi/Dを算出した。結果を表5および表6に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
表5および表6を参照して、Feの含有量が0.5質量%以上である層およびNiの含有量が0.2質量%以上である層の厚みは、拡散の方程式に基づいて算出がされた拡散層の厚みに概ね一致している。このことから、Feの含有量が0.5質量%以上である層およびNiの含有量が0.2質量%以上である層は、元素の拡散によって形成された層(拡散層)であることが確認される。
【0050】
上記サンプルC、D、GおよびHについて導電率を評価した。具体的には、日置電機株式会社製3540mΩHitesterを用い、150mm離れた2点間の抵抗値を測定し、得られた抵抗値から導電率を算出した。また、拡散層11Dの厚みの分だけ芯線11が細くなったとみなした場合の導電率の計算値を算出した。結果を表7に示す。
【0051】
【表7】
表7を参照して、導電率の実測値は、導電率の計算値と概ね一致している。このことから、拡散層11Dは導電領域としては機能していないことが確認される。そして、溶体化処理の条件を調整することにより拡散層の形成を抑制し、導電率の低下を抑えることができるといえる。
【0052】
(3)Be-Cuに対する優位性の検証
上記実施の形態の製造方法に沿って、長手方向に垂直な断面における芯線11の面積率および拡散層厚み調整の条件等を変更して、引張強度および導電率の異なるサンプルJ~Nを作製した。得られた各サンプルおよび上記サンプルCについて、引張強度、導電率および拡散層の厚みの割合(t/D)を調査した。そして、引張強度と導電率との関係をBe-Cuと比較した。結果を表8および図4に示す。
【0053】
【表8】
図4において、横軸は引張強度、縦軸は導電率に対応する。図4には、比較のため、Be-Cuの引張強度と導電率との関係が合わせて示されている(中空三角形)。また、図4には、t/Dが0%の場合、および5%の場合の計算値が合わせて表示されている(中空四角形および中実四角形)。
【0054】
長手方向に垂直な断面における導電性線材1の断面に占める芯線11の断面の割合が大きくなることで導電率が上昇し、引張強度が低下する。逆に、芯線11の断面の割合が小さくなることで導電率が低下し、引張強度が上昇する。図4には、t/Dが5%の場合の計算値が、上記芯線11の断面の割合が10~90%の範囲で表示されている(中実四角形)。図4に示すように、上記芯線11の断面の割合が10~90%の範囲において、t/Dが5%以下である本開示の導電性線材は、同じ引張強度であればBe-Cuを上回る導電率を有している。そして、本開示の導電性線材の実施例であるサンプルCおよびJ~Nの全てにおいて、同じ引張強度のBe-Cuを上回る導電率が実測されている。以上の結果より、引張強度と導電率との関係の観点から、本開示の導電性線材のBe-Cuに対する優位性が確認される。
【0055】
(4)銅製の芯線を有する導電性線材の関する実験結果のまとめ
以上の実験結果より、繰返し曲げ疲労に対する耐久性を向上させる観点から、t/Dの値は0.4%以上とする必要があるといえる。一方、同じ引張強度のBe-Cuを上回る導電率を確保する観点から、t/Dの値は5%以下とする必要がある。t/Dの値が0.4%以上5%以下に設定される本開示の導電性線材によれば、Be-Cuと同等の導電率を確保しつつBe-Cuよりも強度が高く、かつ繰返し曲げ疲労に対する耐久性に優れた導電性線材を提供できることが確認される。
【0056】
(5)銅以外の芯線の材料についての検証
被覆層12を構成するステンレス鋼としてオーステナイト系ステンレス鋼であるJIS規格SUS316を採用し、芯線11を構成する材料としてCu以外の材料を採用した導電性線材を試作した。そして、繰返し曲げ疲労に対する耐久性の評価を上記(1)と同様に実施した。実験結果を表9に示す。
【0057】
【表9】
表9を参照して、t/Dの値を0.4%以上とすることにより、芯線11の材料としてCuを採用した場合と同様に、優れた繰返し曲げ疲労に対する耐久性が得られることが確認された。なお、t/Dの値が5%を超えると導電性が不十分となることは、芯線11の材料にかかわらず同様であると考えられる。以上の試作結果より、芯線の材料として銅以外の材料を採用した場合でも、本開示の導電性線材によれば、高い導電率を確保しつつ強度が高く、かつ繰返し曲げ疲労に対する耐久性に優れた導電性線材を提供できることが確認される。
【0058】
なお、優れた繰返し曲げ疲労に対する耐久性を得るための芯線11と被覆層12との密着性は、ステンレス鋼の主成分であるFeの拡散によって達成される。したがって、被覆層12を構成するステンレス鋼の成分組成は特に限定されるものではないが、加工性の観点から、被覆層12を構成するステンレス鋼としてはオーステナイト系ステンレス鋼を採用することが好ましい。
【0059】
(6)耐へたり性の評価
拡散層の形成が耐へたり性を向上させることを確認する実験を行った。上記実施の形態において説明した製造方法により外径Dが0.3mmの導電性線材1を作製し、高温コイルばねへたり試験を実施することにより、ねじり応力に対する耐へたり性を評価した。工程(S70)における加熱温度および加熱時間を変化させることにより、芯線11の径Dに対する拡散層11Dの厚みtを変化させたサンプルを作製した。比較のため、外径Dが0.3mmのBe-Cuの線材も準備した。そして、これらの線材を平均コイル径3.2mm、ピッチ0.36mmのコイルばねに成形した。このコイルばねに対し、200℃の窒素雰囲気中でせん断応力が0.2%耐力の80%となるようにねじり応力を負荷し、100時間保持した後の残留ひずみ量を測定した。ここで、残留ひずみ量とは、試験実施前後におけるばね長の変化量を試験前のばね長で除した値である。残留ひずみ量がBe-Cuよりも小さいものを合格と判断した。実験結果を表10に示す。
【0060】
【表10】
表10を参照して、サンプルB’、CおよびDは、ねじり応力に対する耐へたり性について合格であるのに対し、サンプルAは、不合格となっている。これは、サンプルAでは、t/Dの値が小さいこと、すなわち拡散層の厚みが小さいことに起因しているものと考えられる。具体的には、拡散層の厚みが小さいことで、芯線と被覆層との結合が不十分となり、負荷されたひずみが被覆層に集中し、被覆層の変形量が大きくなったことが、ねじり応力に対する耐へたり性が低下した原因であると考えられる。
【0061】
次に、高温曲げへたり試験を実施することにより、曲げ応力に対する耐へたり性を評価した。上記ねじり応力に対する耐へたり性の評価の場合と同様に、工程(S70)における加熱温度および加熱時間を変化させることにより、芯線11の径Dに対する拡散層11Dの厚みtを変化させたサンプルを作製した。比較のため、外径Dが0.3mmのBe-Cuの線材も準備した。そして、これらの線材を直径100mmの円環状とし、両端を固定するとともに、固定部からもっとも離れた部分における線材の表面に、0.2%耐力の80%の曲げ応力が負荷されるように線材を変形させ、200℃の窒素雰囲気中に保持した。そして、100時間経過後、応力の負荷を解除し、残留ひずみ量を測定した。ここで、残留ひずみ量とは、試験後の曲率半径を試験前の曲率半径(50mm)で除した値である。残留ひずみ量がBe-Cuよりも小さいものをA、Be-Cuと同等ものをB、Be-Cuよりも大きいものをCと評価した。実験結果を表11に示す。
【0062】
【表11】
表11を参照して、サンプルAの残留ひずみ量はBe-Cuより大きく、サンプルB’ の残留ひずみ量はBe-Cuと同等となっている。これは、サンプルAおよびB’では、t/Dの値が小さいこと、すなわち拡散層の厚みが小さいことに起因しているものと考えられる。具体的には、拡散層の厚みが小さいことで、芯線と被覆層との結合が不十分となり、負荷されたひずみが被覆層に集中し、被覆層の変形量が大きくなったことが、曲げ応力に対する耐へたり性が低下した原因であると考えられる。
【0063】
これに対し、t/Dの値が0.85以上であるサンプルB’’、CおよびDの残留ひずみ量は大幅に低減され、Be-Cuよりも明確に小さい値となっている。上記実験結果より、耐へたり性を向上させる観点からは、t/Dの値を0.85以上とすることが好ましいといえる。
【0064】
(7)銅以外の芯線の材料についての耐へたり性の検証
被覆層12を構成するステンレス鋼としてオーステナイト系ステンレス鋼であるJIS規格SUS316を採用し、芯線11を構成する材料としてCu以外の材料を採用した導電性線材を試作した。そして、耐へたり性の評価を上記(6)と同様に実施した。実験結果を表12および表13に示す。
【0065】
【表12】
【0066】
【表13】
表12および表13を参照して、t/Dの値を0.85%以上とすることにより、芯線11の材料としてCuを採用した場合と同様に、耐へたり性が向上することが確認される。
【0067】
(8)弾性率の変化量が耐久性に与える影響
芯線と被覆層との界面に垂直な方向における弾性率の変化量が耐久性に与える影響を評価した。具体的には、当該界面に垂直な方向に界面を横切るように0.5μm間隔で弾性率を測定した。弾性率の測定は、ブルカーコーポレーション社製Hysitron TI980トライボインデンターを用いて実施した。圧子には、Berkovich圧子を採用した。そして、隣り合う測定ポイントにおける弾性率の変化量の最大値(弾性率の差の絶対値の最大値)を算出した。この値と、上記(1)の繰返し曲げ疲労試験、(2)の導電率の測定および(6)高温曲げへたり試験の結果とを対比し、弾性率の変化量の最大値が耐久性に与える影響を検討した。実験結果を表14に示す。
【0068】
【表14】
表14を参照して、弾性率の変化量の最大値が小さいサンプルにおいて、繰返し曲げ疲労に対する耐久性および耐へたり性がいずれも優れていることが確認される。具体的には、弾性率の変化量の最大値が16250GPa以下になると、繰返し曲げ疲労に対する耐久性および耐へたり性がいずれも明確に上昇している。このことから、弾性率の変化量の最大値は16250GPa以下であることが好ましいといえる。これは、芯線と被覆層との界面近傍において、弾性率の変化がなだらかであることにより、外部からの負荷により界面付近に変形が生じた場合に、芯線または被覆層の一方のみに変形が集中しないためであると考えられる。一方、界面付近において十分な拡散が進行することで弾性率の変化はなだらかになるものの、拡散が過度に進行して弾性率の変化量の最大値が1500GPa未満となると、導電率が低下する(サンプルD参照)。そのため、弾性率の変化量の最大値は1500GPa以上とすることが好ましいといえる。
【0069】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示の導電性線材は、高い導電率を確保しつつ強度が高く、かつ繰返し曲げ疲労に対する耐久性に優れることが求められる導電性線材に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0071】
1 導電性線材
11 芯線
11A 表面
11D 拡散層
12 被覆層
D 外径

t 厚み
Ni 厚み
図1
図2
図3
図4