IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-空気入りタイヤ 図1
  • 特許-空気入りタイヤ 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/00 20060101AFI20230606BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20230606BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20230606BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20230606BHJP
   D02G 3/48 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
B60C9/00 B
B60C9/22 C
B60C9/22 D
B60C15/06 N
B60C9/00 M
D07B1/06 A
D02G3/48
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022514385
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012187
(87)【国際公開番号】W WO2021205874
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2020070978
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】張替 紳也
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-047820(JP,A)
【文献】特開2001-206010(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118785(WO,A1)
【文献】特開2006-002327(JP,A)
【文献】特開2007-169833(JP,A)
【文献】特開2001-322404(JP,A)
【文献】特開2007-290578(JP,A)
【文献】特開平06-247103(JP,A)
【文献】特開2002-059717(JP,A)
【文献】特開2010-143285(JP,A)
【文献】特開2002-029214(JP,A)
【文献】特開2013-159325(JP,A)
【文献】特開2008-307963(JP,A)
【文献】特開2013-166526(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02583838(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00
B60C 9/22
B60C 13/00
B60C 15/06
D02G 3/48
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りタイヤにおいて、
前記ビード部から前記サイドウォール部までの領域に、複数本の補強コードを引き揃えてゴムで被覆してなるサイド補強層が配置され、前記サイド補強層を構成する補強コードがスチールコードであり、前記スチールコードが、内層の素線数Nが2本~4本かつ外層の素線数Mが2本~7本であるN+M構造を有し、前記内層と前記外層の撚り方向が異なり、前記サイド補強層のタイヤ径方向に沿った長さL1が前記ビードフィラーのタイヤ径方向に沿った長さL2よりも大きく、これら長さL1およびL2の差が5mm~10mmであり、
前記ベルトカバー層はコートゴムで被覆されたカバーコードをタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回することで構成され、前記カバーコードは100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.5%~3.5%の範囲にあるポリエチレンテレフタレート繊維コードであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記スチールコードが、内層の素線数Nが2本かつ外層の素線数Mが2本である2+2構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記サイド補強層を構成する補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度が15°~25°であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーカス層は、前記ビード部に配置されたビードコアおよびビードフィラーの廻りにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に巻き上げられており、前記カーカス層は前記一対のビード部間に位置する本体部と前記ビードコアおよび前記ビードフィラーのタイヤ幅方向外側に巻き上げられた巻き上げ部とからなり、
前記サイド補強層は、前記ビードコアおよび前記ビードフィラーと前記巻き上げ部との間に配置されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維コードをベルトカバー層に用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車用または小型トラック用の空気入りタイヤは、一般的に、一対のビード部間にカーカス層が装架され、トレッド部におけるカーカス層の外周側に複数層のベルト層が配置され、ベルト層の外周側にタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回された複数本の有機繊維コードを含むベルトカバー層が配置された構造を有する。この構造において、ベルトカバー層は高速耐久性の改善に寄与すると共に、中周波ロードノイズの低減にも寄与する。
【0003】
従来、ベルトカバー層に使用される有機繊維コードはナイロン繊維コードが主流であるが、ナイロン繊維コードに比べて高弾性であり、かつ安価なポリエチレンテレフタレート繊維コード(以下、PET繊維コードと言う)を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、PET繊維コードは、従来のナイロン繊維コードと比べると高弾性で伸びにくい性質があるので、トレッド部の剛性が高くなり、トレッド部とサイドウォール部の剛性のバランスが悪くなり、高速走行時の操縦安定性や乗心地性が低下する傾向があるという問題があった。そのため、PET繊維コードを用いてロードノイズの低減を図るにあたって、高速走行時の操縦安定性と乗心地性を良好に維持する対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2001‐63312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、PET繊維コードをベルトカバー層に用いてロードノイズを低減するにあたって、高速走行時の操縦安定性と乗心地性を良好に維持することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りタイヤにおいて、前記ビード部から前記サイドウォール部までの領域に、複数本の補強コードを引き揃えてゴムで被覆してなるサイド補強層が配置され、前記サイド補強層を構成する補強コードがスチールコードであり、前記スチールコードが、内層の素線数Nが2本~4本かつ外層の素線数Mが2本~7本であるN+M構造を有し、前記内層と前記外層の撚り方向が異なり、前記サイド補強層のタイヤ径方向に沿った長さL1が前記ビードフィラーのタイヤ径方向に沿った長さL2よりも大きく、これら長さL1およびL2の差が5mm~10mmであり、前記ベルトカバー層はコートゴムで被覆されたカバーコードをタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回することで構成され、前記カバーコードは100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.5%~3.5%の範囲にあるポリエチレンテレフタレート繊維コードであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明者は、PET繊維コードからなるベルトカバー層を備えた空気入りタイヤについて鋭意研究した結果、PET繊維コードのディップ処理を適正化し、100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸びを所定の範囲に設定することにより、ベルトカバー層として好適なコードの耐疲労性とタガ効果が得られることを知見し、本発明に至った。即ち、本発明では、ベルトカバー層を構成するカバーコードとして、100℃での2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.5%~3.5%の範囲にあるPET繊維コードを使用することにより、空気入りタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。更に、このようなベルトカバー層を用いるにあたって、上述のようにサイド補強層を設けているので、ビード部およびサイドウォール部からベルト層にかけてのトルクの伝達が良好になり、高速走行時の操縦安定性と乗心地性を良好に維持することが可能になる。
【0008】
本発明においては、サイド補強層を構成する補強コードスチールコードで構成されるが、そのようなサイド補強層がサイドウォール部におけるカーカス層の本体部の外側に配置されることが好ましい。このようにサイド補強層の位置や材質を適正化することで、ビード部およびサイドウォール部からベルト層にかけてのトルクの伝達が良好になり、高速走行時の操縦安定性と乗心地性を良好に維持するには有利になる。尚、スチールコードとしては、内層の素線数Nが2本~4本かつ外層の素線数Mが2本~7本であるN+M構造の者が使用され、なかでも、内層の素線数Nが2本かつ外層の素線数Mが2本である2+2構造のものを好適に用いることができる。
【0009】
本発明においては、サイド補強層を構成する補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度が15°~25°であることが好ましい。このように補強コードを傾斜させることで、サイド補強層の構造が良好になるので、周剛性を十分に確保することが可能になり、且つ、ビード部およびサイドウォール部からベルト層にかけてのトルクの伝達が良好になるので、高速走行時の操縦安定性と乗心地性を良好に維持するには有利になる。
【0010】
本発明においては、カーカス層が、ビード部に配置されたビードコアおよびビードフィラーの廻りにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に巻き上げられており、カーカス層が一対のビード部間に位置する本体部とビードコアおよびビードフィラーのタイヤ幅方向外側に巻き上げられた巻き上げ部とからなる場合に、サイド補強層が、ビードコアおよびビードフィラーと巻き上げ部との間に配置されていることが好ましい。このような位置にサイド補強層を配置することで、ビード部およびサイドウォール部からベルト層にかけてのトルクの伝達が良好になるので、高速走行時の操縦安定性と乗心地性を良好に維持するには有利になる。
【0011】
本発明においては、サイド補強層のタイヤ径方向に沿った長さL1がビードフィラーのタイヤ径方向に沿った長さL2よりも大きく、これら長さL1およびL2の差が5mm~10mmである。このような寸法にすることで、ビード部およびサイドウォール部からベルト層にかけてのトルクの伝達が良好になるので、高速走行時の操縦安定性と乗心地性を良好に維持するには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図2図2は、サイド補強層を構成するスチールコードの構造を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0015】
図示の例では、トレッド部1の外表面にタイヤ周方向に延びる複数本(図示の例では4本)の主溝が形成されているが、主溝の本数は特に限定されない。また、主溝の他にタイヤ幅方向に延びるラグ溝を含む各種の溝やサイプを形成することもできる。
【0016】
左右一対のビード部3間にはタイヤ径方向に延びる複数本の補強コード(カーカスコード)を含むカーカス層4が装架されている。各ビード部には、ビードコア5が埋設されており、そのビードコア5の外周上に断面略三角形状のビードフィラー6が配置されている。カーカス層4は、ビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。これにより、ビードコア5およびビードフィラー6はカーカス層4の本体部4a(トレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至る部分)と折り返し部4b(各ビード部3においてビードコア5の廻りに折り返されて各サイドウォール部2側に向かって延在する部分)とにより包み込まれている。カーカス層4を構成するカーカスコードとしては、例えばポリエステルコードが好ましく使用される。
【0017】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コード(ベルトコード)を含み、かつ層間でベルトコードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7を構成するベルトコードとしては、例えばスチールコードが好ましく使用される。
【0018】
更に、ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上とロードノイズの低減を目的として、ベルトカバー層8が設けられている。ベルトカバー層8は、タイヤ周方向に配向する補強コード(カバーコード)を含む。本発明では、カバーコ―ドとして有機繊維コードが使用される(以下の説明では、このカバーコ―ドを「有機繊維コード」という場合がある)。ベルトカバー層8において、カバーコードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。本発明では、ベルトカバー層8は、ベルト層7の全域を覆うフルカバー層8aを必ず含み、任意でベルト層7の両端部を局所的に覆う一対のエッジカバー層8bを含む構成にすることができる(図示の例では、フルカバー層8aおよびエッジカバー層8bの両方を含む)。ベルトカバー層8は、少なくとも1本の有機繊維コードを引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成するとよく、特にジョイントレス構造とすることが望ましい。
【0019】
本発明では、ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードとして、100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%~4.0%、好ましくは2.5%~3.5%の範囲にあるポリエチレンテレフタレート繊維コード(PET繊維コード)が使用される。このようにベルトカバー層8を構成する有機繊維コードとして、特定のPET繊維コードを用いることで、空気入りタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。このPET繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%未満であると、コードの耐疲労性が低下してタイヤの耐久性が低下する。PET繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸びが4.0%を超えると、中周波ロードノイズを十分に低減することができない。尚、本発明において、100℃での2.0cN/dtex負荷時の伸び[%]は、JIS-L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施して測定した値である。
【0020】
更に、この有機繊維コード(PET繊維コード)は、100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が好ましくは3.5cN/(tex・%)~5.5cN/(tex・%)であるとよい。このように特定の弾性率を有するPET繊維コードを用いることで、空気入りタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減するには有利になる。このPET繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が3.5cN/(tex・%)未満であると、中周波ロードノイズを十分に低減することができない。PET繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が5.5cN/(tex・%)を超えると、コードの耐疲労性が低下してタイヤの耐久性が低下する。尚、本発明において、100℃での2.0cN/dtex負荷時の弾性率[N/(tex・%)]は、JIS-L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、荷重‐伸び曲線の荷重2.0cN/dtexに対応する点における接線の傾きを1tex当たりの値に換算することで算出される。
【0021】
更に、この有機繊維コード(PET繊維コード)は、ベルトカバー層8として用いるにあたって、タイヤ内におけるコード張力が好ましくは0.9cN/dtex以上、より好ましくは1.5cN/dtex~2.0cN/dtexであるとよい。このようにタイヤ内におけるコード張力を設定することで、発熱を抑制し、タイヤ耐久性を向上することができる。この有機繊維コード(PET繊維コード)のタイヤ内におけるコード張力が0.9cN/dtex未満であると、tanδのピークが上昇してしまい、タイヤの耐久性を向上する効果が充分に得られない。尚、ベルトカバー層8を構成する有機繊維コード(PET繊維コード)のタイヤ内におけるコード張力は、ベルトカバー層を構成するストリップ材の末端よりも2周以上タイヤ幅方向内側において測定するものとする
【0022】
ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードとして用いるPET繊維コードは、更に、100℃における熱収縮応力が0.6cN/tex以上であることが好ましい。このように100℃における熱収縮応力を設定することで、より効果的に空気入りタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。PET繊維コードの100℃における熱収縮応力が0.6cN/texよりも小さいと走行時のタガ効果を充分に向上することができず、高速耐久性を十分に維持することが難しくなる。PET繊維コードの100℃における熱収縮応力の上限値は特に限定されないが、例えば2.0cN/texにするとよい。尚、本発明において、100℃での熱収縮応力(cN/tex)は、JIS‐L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、試料長さ500mm、加熱条件100℃×5分の条件にて加熱したときに測定される試料コードの熱収縮応力である。
【0023】
上述のような物性を有するPET繊維コードを得るために、例えばディップ処理を適正化すると良い。つまり、カレンダー工程に先駆けて、PET繊維コードには接着剤のディップ処理が行われるが、2浴処理後のノルマライズ工程において、雰囲気温度を210℃~250℃の範囲内に設定し、コード張力を2.2×10-2N/tex~6.7×10-2N/texの範囲に設定することが好ましい。これにより、PET繊維コードに上述のような所望の物性を付与することができる。ノルマライズ工程におけるコード張力が2.2×10-2N/texよりも小さいとコード弾性率が低くなり、中周波ロードノイズを十分に低減することができず、逆に6.7×10-2N/texよりも大きいとコード弾性率が高くなり、コードの耐疲労性が低下する。
【0024】
上記のように特定の有機繊維コードからなるベルトカバー層8を使用した場合、上述の有機繊維コード(PET繊維コード)は、従来ベルトカバー層に一般的に用いられるナイロン繊維コードと比べると高弾性で伸びにくい性質があるので、トレッド部1の剛性が高くなり、トレッド部1とサイドウォール部2の剛性のバランスが悪くなり、高速走行時の操縦安定性や乗心地性が低下する虞がある。そこで、本発明では、図1に示すように、ビード部3からサイドウォール部2までの領域に、複数本の補強コードを引き揃えてゴムで被覆してなるサイド補強層9を設けている。尚、このサイド補強層9も、上述のタイヤ構成部材と同様に、図1では断面のみが表示されるが、タイヤ周方向に延在して環状を成している。このようなサイド補強層9を設けることで、トレッド部1とサイドウォール部2の剛性のバランスが良好になり、また、ビード部3およびサイドウォール部2からベルト層7にかけてのトルクの伝達が良好になるので、高速走行時の操縦安定性と乗心地性を良好に維持することが可能になる。
【0025】
サイド補強層9を構成する補強コードの材質は特に限定されない。補強コードとしては、スチールコード、有機繊維コード(ナイロン繊維コード、アラミド繊維コード)などを用いることができる。特に、サイド補強層9によって剛性を十分に確保するという観点から、スチールコードを好適に用いることができる。スチールコードとしては、単線ワイヤまたは複数のスチールワイヤを撚り合わせた撚りコードのいずれも用いることができるが、特に撚りコードを好適に使用することができる。
【0026】
サイド補強層9を構成する補強コードとして、複数のスチールワイヤを撚り合わせた撚りコード9Cを使用する場合、その構造として、図2に示すように、N本の素線からなる内層9n(コア)と、内層9nの周囲に撚り合されたM本の素線からなる外層9m(シース)とで構成されるN+M構造(図示の例では2+2構造)を採用するとよい。内層9nの素線数Nは好ましくは2~4本であり、外層9mの素線数Mは好ましくは2~7本である。特に、図示の2+2構造を好適に採用することができる。また、内層9nと外層9mの撚り方向が同一ではなく異なっているとよい。即ち、内層9nがS撚りの場合に外層9mはZ撚りであるとよく、内層9nがZ撚りの場合に外層9mはS撚りであるとよく、内層9nが無撚りの場合に外層9mはS撚りまたはZ撚りであるとよい。特に、本発明では、内層9nが無撚り(素線が撚り合わされずに引き揃えられている状態)であることが好ましい。サイド補強層9を構成するスチールコード(撚りコード9C)の内層の素線数Nが2本未満であると、コードの初期伸びが悪化する。サイド補強層9を構成するスチールコード(撚りコード9C)の内層の素線数Nが4本を超えると、撚り構造が安定しない。サイド補強層9を構成するスチールコード(撚りコード9C)の外層の素線数Mが2本未満であると、コード強度が不足する。サイド補強層9を構成するスチールコード(撚りコード9C)の外層の素線数Mが7本を超えると、撚り構造が安定しない。尚、上述のN+M構造の撚りコード9Cを採用する場合、スチールワイヤの素線径は好ましくは0.17mm~0.35mmであるとよい。特に、図示の2+2構造の場合、素線径は好ましくは0.22mm~0.32mm、より好ましくは0.25mmであるとよい。
【0027】
補強コードの材質に依らず、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は好ましくは15°~25°であるとよい。このように補強コードを傾斜させることで、サイド補強層9の構造が良好になるので、周剛性を十分に確保することが可能になり、且つ、ビード部3およびサイドウォール部2からベルト層7にかけてのトルクの伝達が良好になるので、高速走行時の操縦安定性と乗心地性を良好に維持するには有利になる。補強コードの傾斜角度が15°未満であると、上述のトルクの伝達が不十分になり、操縦安定性と乗心地性を十分に確保することが難しくなる。補強コードの傾斜角度が25°を超えると、周剛性が不十分になる虞がある。
【0028】
サイド補強層9は、図1に示すように、サイドウォール部2におけるカーカス層4(本体部4a)の外側に配置されることが好ましい。また、図示の例のようにカーカス層4が本体部4aと巻き上げ部4bとからなる場合には、サイド補強層9は、ビードコア5およびビードフィラー6と巻き上げ部4bとの間に配置されることが好ましい。このような位
置にサイド補強層9を配置することで、上述のトルクの伝達が良好になるので、高速走行
時の操縦安定性と乗心地性を良好に維持するには有利になる。
【0029】
サイド補強層9の大きさは特に限定されないが、サイド補強層9のタイヤ径方向に沿った長さをL1、ビードフィラー6のタイヤ径方向に沿った長さをL2としたとき、長さL1が長さL2よりも大きく、且つ、これら長さL1およびL2の差が好ましくは5mm~10mmであるとよい。このような寸法にすることで、ビード部3およびサイドウォール部2からベルト層7にかけてのトルクの伝達が良好になるので、高速走行時の操縦安定性と乗心地性を良好に維持するには有利になる。長さL1およびL2の差が5mmよりも小さいと剛性が低くなり、トルクの伝達が不十分になる。長さL1およびL2の差が10mmを超えるとタイヤサイド部に周方向の凹凸が発生しやすくなる虞がある。
【0030】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0031】
タイヤサイズが195/65R15であり、図1に例示する基本構造を有し、ベルトカバー層を構成する有機繊維コードの種類、ベルトカバー層を構成する有機繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び[%]、サイド補強層の有無、サイド補強層の材質(サイド補強層の材質がスチールコードである場合はコード構造を併記)、サイド補強層を構成する補強コードの傾斜角度、サイド補強層のタイヤ径方向に沿った長さL1とビードフィラーのタイヤ径方向に沿った長さL2の差(L1-L2)を表1~2のように異ならせた従来例1、比較例1~2、実施例1~10、参考例1~5のタイヤを製作した。
【0032】
表1~2において、ベルトカバー層を構成する有機繊維コードがポリエチレンテレフタレートからなる場合を「PET」、ナイロン66からなる場合を「N66」と示した。同様に、サイド補強層を構成する補強コードの材質についても、ポリエチレンテレフタレートからなる場合を「PET」、ナイロン66からなる場合を「N66」とし、更に、アラミド繊維コードからなる場合を「アラミド」、スチールコードからなる場合を「スチール」と示した。また、サイド補強層を構成する補強コードがスチールコードである場合については、スチールコードの構造も併記した。
【0033】
いずれの例においても、ベルトカバー層は、1本の有機繊維コード(ナイロン繊維コードまたはPET繊維コード)をコートゴムで被覆してなるストリップをタイヤ周方向に螺旋状に巻回したジョイントレス構造を有している。ストリップにおけるコード打ち込み密度は50本/50mmである。また、有機繊維コード(ナイロン繊維コードまたはPET繊維コード)はそれぞれ1100dtex/2の構造を有する。また、いずれの例においても、カーカス層を構成するカーカスコードはPET繊維コードである。
【0034】
各例において、カバーコ―ド(有機繊維コード)の100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び[%]は、JIS-L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて測定した値である。
【0035】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、ロードノイズ、操縦安定性、乗心地性を評価し、その結果を表1,2に併せて示した。
【0036】
ロードノイズ
各試験タイヤをリムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて、排気量2.5Lの乗用車(前輪駆動車)の前後車輪として装着し、空気圧を230kPaとし、運転席の窓の内側に集音マイクを設置し、舗装路面からなるテストコースを平均速度50km/hの条件で走行させた際の周波数315Hz付近の音圧レベルを、ロードノイズとして測定した。評価結果としては、従来例1を基準とし、その基準に対する変化量(dB)を示した。変化量の数値が負の値であればロードノイズが低減していることを意味する。
【0037】
操縦安定性
各試験タイヤをリムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて、空気圧を240kPaとして排気量2000ccの試験車両(四輪駆動車)に装着し、2名が乗車した状態で乾燥路面からなるテストコースにて、テストドライバーによる操縦安定性の官能評価を行った。評価結果は、従来例1を3.0(基準)とする5点法にて評価し、最高点と最低点を除いた5名の平均点で表した。この評価値が大きいほど操縦安定性に優れることを意味する。尚、この点数が「2.7」以上であれば、従来例と同等以上の良好な操縦安定性が得られたことを意味する。
【0038】
乗心地性
各試験タイヤをリムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて、空気圧を240kPaとして排気量2000ccの試験車両(四輪駆動車)に装着し、2名が乗車した状態で乾燥路面からなるテストコースにて、テストドライバーによる乗心地性の官能評価を行った。評価結果は、従来例1を3.0(基準)とする5点法にて評価し、最高点と最低点を除いた5名の平均点で表した。この評価値が大きいほど操縦安定性に優れることを意味する。尚、この点数が「2.7」以上であれば、従来例1と同等以上の良好な操縦安定性が得られたことを意味する。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1,2から判るように、実施例1~10のタイヤは、基準となる従来例1との対比において、ロードノイズを低減し、且つ、操縦安定性および乗心地性を良好に維持または向上した。一方、比較例1のタイヤは、ベルトカバー層を構成する有機繊維コードがナイロンで構成されるため、ロードノイズを低減する効果が得られなかった。また、サイド補強層を設けても操縦安定性および乗心地性が確保できなかった。比較例2のタイヤは、ベルトカバー層を構成する有機繊維コードがPET繊維で構成されるため、ロードノイズを低減する効果は得られたが、サイド補強層を有していないため操縦安定性および乗心地性が確保できなかった。
【符号の説明】
【0042】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
4a 本体部
4b 巻き上げ部
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
8a フルカバー層
8b エッジカバー層
9 サイド補強層
CL タイヤ赤道
図1
図2