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特許7290207フッ素樹脂被膜が形成された製品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】フッ素樹脂被膜が形成された製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20230606BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B27/32 E
B32B27/32 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019189503
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021062578
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】592008181
【氏名又は名称】株式会社吉田エス・ケイ・テイ
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】吉田 由孝
(72)【発明者】
【氏名】野村 賢司
(72)【発明者】
【氏名】内田 優
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-046232(JP,A)
【文献】特開昭54-045386(JP,A)
【文献】特開平05-255527(JP,A)
【文献】特開昭53-009848(JP,A)
【文献】実開平04-61808(JP,U)
【文献】国際公開第2018/174193(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-10/00;101/00-201/10
C09J 1/00-5/10;9/00-201/10
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に密着して形成された、プロピレンとフッ素樹脂単量体との共重合体を含む非晶質体からなる厚さが5μm~50μmのプライマー層と、前記プライマー層の表面に一体に形成された、エチレンとフッ素樹脂単量体との共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層と、を有するフッ素樹脂被膜と、
を備えたことを特徴とするフッ素樹脂被膜が形成された製品。
【請求項2】
前記エチレンとフッ素樹脂単量体との共重合体は、エチレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体、エチレンとテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、エチレンとクロロトリフルオロエチレンとの共重合体より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のフッ素樹脂被膜が形成された製品。
【請求項3】
前記プロピレンとフッ素樹脂単量体との共重合体は、プロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体である請求項1~2のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被膜が形成された製品。
【請求項4】
前記トップコート層は、厚さが200μm~600μmである請求項1~3のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被膜が形成された製品。
【請求項5】
前記基材は、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)より選ばれる金属、及びこれらの金属から選ばれる1種以上を含む合金、並びにセラミックス、ガラスより選ばれる少なくとも1種からなる請求項1~4のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被膜が形成された製品。
【請求項6】
前記基材の表面は、ブラスト処理が施されている請求項1~5のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被膜が形成された製品。
【請求項7】
プロピレンとフッ素樹脂単量体との共重合体を含む非晶質体からなる厚さが5μm~50μmのプライマー層を基材の表面に形成し、
前記プライマー層の表面に、エチレンとフッ素樹脂単量体との共重合体を塗布した後に加熱してトップコート層を形成することを特徴とするフッ素樹脂被膜が形成された製品の製造方法。
【請求項8】
前記トップコート層を形成する加熱は、前記エチレンとフッ素樹脂単量体との共重合体の融点より30℃高い温度以上の温度であり、かつ前記融点より90℃高い温度以下の温度で加熱する請求項7記載のフッ素樹脂被膜が形成された製品の製造方法。
【請求項9】
前記エチレンとフッ素樹脂単量体との共重合体を塗布した後に加熱することを繰り返して、厚さが200μm~600μmの前記トップコート層を形成する請求項7~8のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被膜が形成された製品の製造方法。
【請求項10】
前記プライマー層は、前記プロピレンとフッ素樹脂単量体との共重合体を塗布した後に、前記共重合体を加熱して形成する請求項7~9のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被膜が形成された製品の製造方法。
【請求項11】
前記基材の表面にブラスト処理を施す請求項7~10のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被膜が形成された製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂被膜が形成された製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラントを構成する設備、メッキ処理を行う設備、食品機械等の設備は、取り扱う原料や製品あるいは設備の洗浄に、酸性やアルカリ性の薬品が多く使われる。これらの設備は、耐久性向上を目的として、薬品と接触する表面をフッ素樹脂被膜で被覆した金属で形成している。フッ素樹脂被膜は、特許文献1に記載のように、金属表面にプライマー層を形成し、その表面に形成される。
【0003】
しかし、従来のフッ素樹脂被膜のプライマー層は、耐薬品性、特に耐アルカリ性に問題があった。
具体的には、特許文献1は、ステンレス鋼等のクロム含有金属の表面に、エチレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体よりなるフッ素樹脂被膜を形成する場合のプライマー層として、ポリアミドイミドやポリイミドをバインダーとして含有しているプライマー層を開示している。しかしながら、このプライマー層は、耐アルカリ性が十分でないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第02/090450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、耐アルカリ性に優れたフッ素樹脂被膜が形成された製品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明のフッ素樹脂被膜が形成された製品は、基材と、前記基材の表面に密着して形成された、プロピレンとフッ素樹脂単量体との共重合体を含む非晶質体からなる厚さが5μm~50μmのプライマー層と、前記プライマー層の表面に一体に形成された、エチレンとフッ素樹脂単量体との共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層と、を有するフッ素樹脂被膜と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決する本発明のフッ素樹脂被膜が形成された製品の製造方法は、プロピレンとフッ素樹脂単量体との共重合体を含む非晶質体からなる厚さが5μm~50μmのプライマー層を基材の表面に形成し、前記プライマー層の表面に、エチレンとフッ素樹脂単量体との共重合体を塗布した後に加熱してトップコート層を形成することを特徴とする。
【0008】
本発明のフッ素樹脂被膜が形成された製品は、基材との間に空隙ができないように非晶質体よりなるフッ素エラストマーでプライマー層を形成することで、耐アルカリ性に優れたものとなっている。また、本発明の製造方法によると、このフッ素樹脂被膜が形成された製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】エチレンとテトラフルオロエチレンの共重合体における、エチレンの含有割合と共重合体の融点の関係を示すグラフである。
図2】エチレンとクロロトリフルオロエチレンの共重合体における、エチレンの含有割合と共重合体の融点の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を用いて本発明を具体的に説明する。なお、各実施形態は本発明を具体的に実施した形態を示すものであり、本発明は、これらの形態のみに限定されるものではない。すなわち、本発明は、これらの実施形態に記載されている事項に当業者の技術常識を適宜組み合わせた形態を含んでいる。
【0011】
[実施形態]
本形態では、フッ素樹脂被膜が形成された製品を製造した。
【0012】
[フッ素樹脂被膜が形成された製品]
本形態のフッ素樹脂被膜が形成された製品(以下、本形態の製品と称する)は、基材と、基材の表面に密着して形成されたフッ素樹脂被膜と、を備える。
【0013】
[フッ素樹脂被膜]
本形態の製品のフッ素樹脂被膜は、基材の表面に密着して形成されたプライマー層と、プライマー層の表面に一体に形成されたトップコート層と、を有する。
【0014】
(プライマー層)
プライマー層は、基材の表面に密着して形成された、プロピレン(Pr)とフッ素樹脂単量体との共重合体を含む非晶質体からなる厚さが5μm~50μmの層である。
【0015】
フッ素樹脂単量体は、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、ビニリデンフルオライド(VdF)、ビニルフルオライド(VF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロビニルエーテル(PFVE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等の単量体を挙げることができる。
【0016】
フッ素樹脂単量体は、TFE又はCTFEであることが好ましく、TFEであることがより好ましい。
【0017】
プライマー層を形成するフッ素樹脂単量体は、上記したフッ素樹脂単量体から2種以上を用いたものであってもよい。
【0018】
Prとフッ素樹脂単量体との共重合体は、PrとTFEとの共重合体であることが好ましい。この共重合体は、例えば、太平化成株式会社製、商品名:エイトシールF-113を挙げることができる。
【0019】
プライマー層のPrとフッ素樹脂単量体との共重合体は、更に別の単量体を1種以上含む3元以上の共重合体であってもよい。別の単量体としては、VdF、グリシジルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、アクリル酸、アクリル酸エステル、酢酸ビニルから選ばれる少なくとも1種の単量体を挙げることができる。
【0020】
3元以上の共重合体としては、PrとTFEとVdFの共重合体(以下、Pr/TFE/VdFの共重合体とも記載する。他の共重合体でも同様に単量体種を記載。)を挙げることができる。この共重合体は、太平化成株式会社製、商品名:エイトシールFN-202を挙げることができる。
【0021】
Prとフッ素樹脂単量体との共重合体において、それぞれの単量体の比率は限定されるものではない。例えば、Prとフッ素樹脂単量体の比率は、モル比で10~80:90~20であることが好ましい。3元以上の共重合体において各単量体の比率は、Pr:フッ素樹脂単量体:別の単量体の比率は、モル比で10~80:90~20:5~30であることが好ましい。
【0022】
Prとフッ素樹脂単量体との共重合体が3元以上の共重合体の場合、Prよりも炭素数の少ない鎖状炭化水素を主鎖とする単量体を含まない。この炭素数の少ない単量体を含まないことで、プライマー層が非晶質体となる。この炭素数の少ない単量体としては、エチレン(Et)よりなる単量体を挙げることができる。
【0023】
プライマー層は、厚さが5μm~50μmである。プライマー層がこの範囲の膜厚となることで、本形態におけるフッ素樹脂被膜が耐アルカリ性を有するとともに、トップコート層の形成不良が生じにくくなる。プライマー層の厚さが5μm未満となると、プライマー層が薄くなりすぎて、フッ素樹脂被膜の耐アルカリ性(耐薬品性)が低下する。プライマー層の厚さが50μmを超えて厚くなると、トップコート層を形成するための熱処理を行った後に、トップコート層の被膜に収縮が生じやすくなる。そうすると、トップコート層を形成する被膜の端部の引けが大きくなり、トップコート層の形成不良を生じる。さらに、トップコート層の端部の引けが大きくなると、フランジ等で圧力がかかった場合に、フッ素樹脂被膜の変形が大きくなるという問題も生じる。プライマー層は、その厚さが20μm~40μmであることがより好ましい。
【0024】
(トップコート層)
トップコート層は、プライマー層の表面に一体に形成された、エチレン(Et)とフッ素樹脂単量体との共重合体を含む結晶質体からなる。トップコート層は、プライマー層の表面に形成され、本形態のフッ素樹脂被膜の表面を形成する。
【0025】
Etは、共重合体を形成するための単量体である。Etは、分岐構造を持たないことから、Etを単量体として用いてなる共重合体は、分子鎖同士の間の隙間がPrとフッ素樹脂単量体との共重合体より小さくなる。この結果、トップコート層は、結晶質体より形成される。
【0026】
フッ素樹脂単量体は、トップコート層の共重合体に耐アルカリ性(耐薬品性)を高める特性を付与する。フッ素樹脂単量体は、プライマー層のフッ素樹脂単量体と同様な単量体を用いることができる。例えば、TFE、TrFE、VdF、VF、HFP、PFVE、CTFE等の単量体を挙げることができる。トップコート層のフッ素樹脂単量体は、TFE又はCTFEであることが好ましい。トップコート層のフッ素樹脂単量体は、上記したフッ素樹脂単量体から2種以上を用いたものであってもよい。
【0027】
Etとフッ素樹脂単量体との共重合体としては、EtとTFEとの共重合体(ETFE)、EtとTFEとHFPとの共重合体(EFEP)、EtとCTFEとの共重合体(ECTFE)より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
Etとフッ素樹脂単量体との共重合体において、それぞれの単量体の比率は限定されるものではない。Etとフッ素樹脂単量体の比率は、モル比で10~80:90~20であることが好ましい。
【0029】
ETFEは、具体的には、ダイキン工業社製の商品名:EC-6000番系のETFE、AGC社製の商品名:ZL-500番系のETFEを挙げることができる。ダイキン工業社製の商品名:EC-6000番系のETFEは、融点が230℃であり、酸素限界指数50であることから算出するとEt:TFEのモル比が35~38:62~65である。AGC社製の商品名:ZL-500番系のETFEは、融点が270℃であり、酸素限界指数31であることから算出するとEt:TFEのモル比が、42~50:50~58である。
【0030】
EFEPの具体的な単量体の比率としては、Et:TFE:HFPのモル比で6~43:40~81:10~30であることが好ましい。
【0031】
EFEPは、具体的には、ダイキン工業社製、商品名:RC-4520を挙げることができる。この市販のEFEPは、融点が163℃であり、単量体を前記のモル比で有している。
【0032】
EFEPの共重合体は、構成する共重合体の末端にカーボネート末端を導入していてもよい。
【0033】
ECTFEの具体的な単量体の比率としては、Et:CTFEのモル比で20~80:80~20が好ましく、30~60:70~40がより好ましく、40~50:60~50であることがより好ましい。
【0034】
ECTFEとしては、具体的には、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製、商品名:Halar6014を挙げることができる。この市販のECTFEは、融点が225℃であり、酸素限界指数60であることから算出するとEt:CTFEのモル比が45~49:51~55である。
【0035】
ETFE、EFEP及びECTFEのそれぞれは、Etとフッ素樹脂単量体以外に、結晶性をコントロールするための他の単量体を含んでもよい。他の単量体としては、CH=CXR、CF=CFR、CH=CR(これらの単量体において、X:H又はF,R:エーテル結合性酸素原子を含んでもよいフルオロアルキル基である)で表されるフッ素モノマーを挙げることができる。このフッ素モノマーは、例えば、1,1-ジヒドロパーフルオロ-1-プロペン、1,1-ジヒドロパーフルオロ-1-ブテン、1,1,2-トリヒドロパーフルオロ-1-ヘキセン、1,1,2-トリヒドロパーフルオロ-1-オクテン、1,1,5-トリヒドロパーフルオロ-1-ペンテン、1,1,7-トリヒドロパーフルオロ-1-ヘプテン、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルビニルエーテル等を挙げることができる。他の単量体は、トップコート層の共重合体(ETFE、EFEP及びECTFE)の特性を阻害しない割合で含有する。例えば、フッ素樹脂単量体と他の単量体とをモル比で99.9~95:0.1~5で含有する。
【0036】
トップコート層は、その厚さが限定されるものではないが、200μm~600μmの厚さであることが好ましい。トップコート層の厚さがこの範囲内となることで、本形態の製品のフッ素樹脂被膜が高い耐アルカリ性を発揮するとともに、トップコート層の形成不良が生じなくなる。トップコート層の厚さが200μm未満となると、トップコート層にピンホールが発生しやすくなり、耐アルカリ性が低下する。トップコート層の厚さが600μmを超えて厚くなると、トップコート層の被膜の形成に際し、垂れや長時間の熱処理により樹脂の分解が生じやすくなる。トップコート層は、その厚さが300μm~500μmであることがより好ましい。
【0037】
トップコート層は、それぞれ単量体の配合割合が異なるEtとフッ素樹脂単量体の共重合体を含む結晶質体の複数層で形成されていてもよい。トップコート層が2層以上の複数層で形成される場合、プライマー層と当接する層が上記の構成を有する層である。トップコート層が2層以上で形成される場合、プライマー層と当接しない他の層の材料は限定されないが、上記の構成を有する層であることが好ましい。
【0038】
本形態において、トップコート層及びそれを形成するEtとフッ素樹脂単量体との共重合体は、結晶質体よりなる。結晶質体よりなることで、この共重合体は、加熱していくと溶融する(融点を有する)。このことは、トップコート層(及び共重合体)が融点を有することを確認できれば、当該トップコート層が結晶質体よりなることを確認できる。対して、上記のプライマー層(及び共重合体)は非晶質体であることから、融点を持っていない。
【0039】
そして、Etとフッ素樹脂単量体の共重合体の融点は、単量体の配合割合により変化する。例えば、図1にETFE中のEtの含有量(モル%)と共重合体の融点の測定結果を、図2にECTFE中のEtの含有量(モル%)と共重合体の融点の測定結果を、それぞれ示した。図1図2に示したように、ETFE及びECTFEは、融点を有することから、結晶質体であることが確認できる。そして、ETFE及びECTFEは、Etの含有量(すなわち、単量体の含有割合)が変化すると、共重合体の融点も変化することが確認できる。
【0040】
(基材)
基材は、その表面にフッ素樹脂被膜が形成される部材である。基材は、本形態の製品を使用する装置において、フッ素樹脂被膜が形成される部位を構成する部材である。
【0041】
基材は、プライマー層及びトップコート層を形成するときの温度に耐えられる材料であればよく、具体的な材料が限定されない。さらに、基材は、本形態の製品を使用する装置において要求される強度を備えた材料であることが好ましい。基材は、例えば、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)より選ばれる金属、及びこれらの金属から選ばれる1種以上を含む合金、並びにセラミックス、ガラスより選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。ここで、合金は、これらの金属から選ばれる1種以上の金属元素を少なくとも含む合金であればよく、これらの金属から選ばれる1種以上の金属を主成分とする合金(当該金属を最も多い含有割合で含有する合金)であることがより好ましい。
【0042】
[フッ素樹脂被膜が形成された製品の製造方法]
本形態の製品は、以下の各工程を施して製造できる。
本形態の製造方法は、上記した本形態の製品を製造する方法である。本製造方法で特に言及しない構成は、上記した製品と同様である。
【0043】
(プライマー溶液調製工程:S1)
本工程S1は、Prとフッ素樹脂単量体の共重合体を含む溶液であるプライマー溶液を調製する工程である。
プライマー溶液は、プライマー層を形成するための共重合体として、Prとフッ素樹脂単量体の共重合体を含有する。プライマー溶液は、Prとフッ素樹脂単量体の共重合体が溶媒に溶解した溶液である。
【0044】
プライマー溶液の溶媒は、Prとフッ素樹脂単量体との共重合体を分散又は溶解してプライマー溶液を形成できる溶媒であれば限定されない。溶媒は、例えば、酢酸ブチル、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、ナフサ等の有機溶媒より選ばれる1種、又は2種以上を混合した混合溶媒を挙げることができる。
【0045】
プライマー溶液において、溶媒に対する共重合体の量(割合)は、限定されない。その後の工程で、プライマー溶液を基材の表面に塗布できる粘度を有するように配合される。プライマー溶液は、基材の表面に塗布したときに、流れ去らずに表面にとどまる程度の粘度を有する割合で形成される。プライマー溶液は、粘度が高い溶液であることが好ましく、50~1000mPa/secの粘度であることが好ましい。
【0046】
(基材準備工程:S2)
本工程S2は、基材を準備する工程である。
基材は、本形態の製品において、フッ素樹脂被膜が形成される表面を有する部材であり、上記の基材に相当する。
【0047】
本工程S2では、まず、基材を加熱して脱脂処理を施す。脱脂処理は、基材の表面の有機物等を除去する処理である。脱脂処理は、例えば、基材を加熱して、表面の有機物等を焼失又は揮発して消失する処理である。基材の加熱は、具体的には、有機物の分解温度以上の温度及び時間で加熱する処理である。
【0048】
本工程S2では、脱脂処理した後に、基材の表面にブラスト処理を施す。ブラスト処理を施すことで、基材の表面には、微細な凹凸が形成される。ブラスト処理の具体的な処理条件は限定されない。
【0049】
(プライマー層形成工程:S3)
本工程S3は、Prとフッ素樹脂単量体との共重合体を含む非晶質体からなる、厚さが5μm~50μmのプライマー層を基材の表面に形成する工程である。具体的には、工程S1で調製したプライマー溶液を基材の表面に塗布した後に、加熱して所定の厚さのプライマー層を形成する工程である。
【0050】
プライマー溶液は、基材の表面に塗布される。プライマー溶液を基材の表面に塗布する(表面に付着させる)方法は限定されない。例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、スピンコート法、オフセット法等の塗布法を挙げることができる。好ましくは、スプレーコート法である。
【0051】
プライマー溶液は、基材の表面に塗布された後に加熱される。加熱により、プライマー塗膜から溶媒が揮発して、塗膜が固化し、プライマー層が形成される。
【0052】
本形態では、必要に応じ、プライマー溶液の塗布・固化を繰り返して、5μm~50μmの厚さのプライマー層を形成する。
【0053】
(トップコート塗布工程:S4)
本工程S4は、Etとフッ素樹脂単量体の共重合体をプライマー層の表面に塗布する工程である。
【0054】
本形態において、Etとフッ素樹脂単量体の共重合体は、粒子状(粉末状)を成している。Etとフッ素樹脂単量体の共重合体は、市販の粒子状のものを用いる。
【0055】
本工程S4では、Etとフッ素樹脂単量体の共重合体をプライマー層の表面に塗布する(表面に付着させる)方法は限定されない。粉末を塗布する方法としては、例えば、静電粉体塗装法、流動浸漬塗装法、溶射法等の塗布法を挙げることができる。本形態では、静電粉体塗装法を用いた。
【0056】
本形態において、Etとフッ素樹脂単量体の共重合体として、粒子状(粉末状)のものを用いたが、プライマー溶液と同様に、溶媒に分散した塗料であってもよい。この場合、溶媒に分散した塗料の塗布方法は、限定されない。プライマー溶液と同様な塗布方法を用いることができる。
【0057】
(加熱工程:S5)
本工程S5は、Etとフッ素樹脂単量体の共重合体が塗布されてなる塗布体を加熱してトップコート層を形成する工程である。本工程S5で加熱することで、Etとフッ素樹脂単量体の共重合体が溶融し、トップコート層が形成される。また、本工程S5での加熱により、プライマー層のPrとフッ素樹脂単量体の共重合体とも相溶する。
【0058】
本工程S5での加熱は、Etとフッ素樹脂単量体の共重合体の融点より30℃高い温度以上の温度であり、かつ融点より90℃高い温度以下の温度で加熱する。すなわち、(mp+30)(℃)≦加熱温度(℃)≦(mp+90)(℃)である。
【0059】
この範囲の温度での加熱により、Etとフッ素樹脂単量体の共重合体が溶融する。そして、結晶質体のトップコート層が形成される。加熱温度が所定の温度未満の低温となると、共重合体の粉末が溶融せず、被膜状のトップコート層が形成されにくくなる。加熱温度が所定の温度を超えて高い温度となると、共重合体の粉末の溶融物が垂れたり、形成したトップコート層の劣化(高温による分解)が生じたりする。
【0060】
そして、本形態の製造方法では、トップコート塗布工程S4と加熱工程S5を繰り返して、200μm~600μmの厚さのトップコート層を形成する。トップコート塗布工程S4と加熱工程S5を繰り返すことで、所望の厚さのトップコート層を形成できる。つまり、トップコート塗布工程S4において共重合体粉末の塗布量(あるいは、共重合体粉末の付着量)が少ないと、形成されるトップコート層の厚さは薄くなる。本形態のようにトップコート塗布工程S4と加熱工程S5を繰り返すことで、所望の厚さのトップコート層を形成できる。
以上により、本形態の製品を製造できる。
【0061】
(効果)
本形態の製品は、基材と、基材の表面に密着して形成された、Prとフッ素樹脂単量体との共重合体を含む非晶質体からなる厚さが5μm~50μmのプライマー層と、プライマー層の表面に一体に形成された、Etとフッ素樹脂単量体との共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層と、を有するフッ素樹脂被膜と、を備える。
【0062】
本形態の製品は、この構成によることで、耐アルカリ性に優れた製品となっている。
具体的には、フッ素樹脂被膜のプライマー層とトップコート層のそれぞれは、アルカリに侵されにくい材料で構成されている。トップコート層は、単量体としてEtを用いていることから、ガス透過性の少ない結晶質体になる。また、プライマー層は、Prとフッ素樹脂単量体の共重合体でフッ素エラストマーとなっており、アルカリ薬品の高い浸透圧をエラストマーにより基材との間を欠陥なくシールすることで、基材とプライマー層の間へのガス浸透を抑えている。
【0063】
仮にガスが浸透したとしても、非晶質体のプライマー層は、ガス抜けが良好なため、基材とフッ素樹脂被膜(プライマー層)との界面でガスが滞留し液化することで起こるブリスター(膨れ)が発生しにくく、基材とフッ素樹脂被膜(プライマー層)とが剥離する現象が起きにくい。
【0064】
本形態の製品は、基材とフッ素樹脂被膜(プライマー層)との界面にガスがたまりにくくなっており、ブリスターに起因する製品の損傷が抑えられる。すなわち、本形態の製品は、耐アルカリ性に優れたものとなる。
【0065】
本形態の製品は、Etとフッ素樹脂単量体との共重合体が、EtとTFEとの共重合体(ETFE)、EtとTFEとHFPとの共重合体(EFEP)、EtとCTFEとの共重合体(ECTFE)より選ばれる少なくとも1種である。
Prとフッ素樹脂単量体との共重合体は、PrとTFEとの共重合体である。
基材は、Fe、Cu、Al、Tiより選ばれる金属、及びこれらの金属から選ばれる1種以上を含む合金、並びにセラミックス、ガラスより選ばれる少なくとも1種である。
【0066】
トップコート層、プライマー層及び基材がこれらから形成されることで、本形態の製品は、上記の効果を発揮できる。
【0067】
基材の表面は、ブラスト処理が施されている。この構成によると、基材とフッ素樹脂被膜(プライマー層)とが強固に密着して形成される。具体的には、ブラスト処理が施されると、基材の表面には微細な凹凸が形成される。そして、この微細な凹凸の内部にまでプライマー溶液が浸入した状態でプライマー層が形成される。この結果、基材とフッ素樹脂被膜(プライマー層)との間にアンカー効果が発揮され、基材とフッ素樹脂被膜(プライマー層)とが強固に接合する。
【0068】
本形態の製造方法は、Prとフッ素樹脂単量体との共重合体よりなるプライマー層を、5μm~50μmの厚さで基材の表面に形成し(工程S1~工程S3)、プライマー層の表面に、Etとフッ素樹脂単量体の共重合体を塗布した後に加熱してトップコート層を形成する(工程S4~工程S5)。
【0069】
本形態の製造方法によると、上記の効果を発揮する本形態の製品を製造できる。
【実施例
【0070】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0071】
本発明の具体的な実施例として、フッ素樹脂被膜が形成された製品を、上記した製造方法を用いて製造した。なお、プライマー溶液1~4、トップコート1~5には、下記のものを用いた。(上記した製造方法のプライマー溶液調製工程S1に相当する。)
【0072】
[プライマー溶液1]
Pr/TFE/VdFの共重合体(太平化成株式会社製、商品名:エイトシールFN-202):30gを秤量する。この共重合体を酢酸ブチル55g及びトルエン15gとともにステンレス容器に入れ、プロペラ式攪拌機を用いて800min-1(800rpm)で15分間攪拌する。以上により、プライマー溶液1が調製された。
プライマー溶液1は、Pr:TFE:VdFが32:45:23のモル比で含まれる。
【0073】
[プライマー溶液2]
Pr/TFEの共重合体(太平化成株式会社製、商品名:エイトシールFN-113):30gを秤量する。この共重合体をTHF10g及びトルエン10gとともにステンレス容器に入れ、プロペラ式攪拌機を用いて800min-1(800rpm)で15分間攪拌する。
【0074】
得られた溶液に対し遠心分離機を用いて、3000min-1(3000rpm)で120分回転し、沈降物を取り除く。すなわち、上澄みを得る。以上により、プライマー溶液2が調製された。
プライマー溶液2は、Pr:TFEが45:55のモル比で含まれる。
【0075】
[プライマー溶液3]
VdF/HFPの共重合体のフッ素ゴム(株式会社金陽社製、商品名:パーフロンペイント)30gを秤量する。この共重合体を酢酸ブチル60g、トルエン20gとともにステンレス容器に入れ、プロペラ式攪拌機を用いて800min-1(800rpm)で15分間攪拌する。以上により、プライマー溶液3が調製された。
プライマー溶液3は、VdF:HFPが80:20のモル比で含まれる。
【0076】
[プライマー溶液4]
Et/TFEの共重合体のプライマー溶液4として、市販品(ダイキン工業株式会社製、商品名:EPW-1609BK)を用いた。
プライマー溶液4は、Et:TFEが35:65のモル比で含まれる。
【0077】
[トップコート1]
トップコート1は、Et/TFEの共重合体として、市販品(ダイキン工業株式会社製、商品名:EC-6519)を用いた。
トップコート1は、Et:TFEが35:65のモル比で含まれる。この共重合体の融点(mp)は、230℃である。
【0078】
[トップコート2]
トップコート2は、Et/TFEの共重合体として、市販品(ダイキン工業株式会社製、商品名:EC-6520)を用いた。
トップコート2は、Et:TFEが35:65のモル比で含まれる。この共重合体の融点(mp)は、230℃である。
【0079】
[トップコート3]
Et/TFEの共重合体の原料として、2種の市販品(AGC株式会社製、商品名:ZL-520N)と(AGC株式会社製、商品名:ZL-521N)を準備した。そして、これらの2種類の市販品を、質量比が1:1となるように秤量した。
つづいて、ヘンシェルミキサーを用いて700min-1(700rpm)で10分間攪拌した。以上により、トップコート3が調製された。
トップコート3は、Et:TFEが44:56のモル比で含まれる。この共重合体の融点(mp)は、270℃である。
【0080】
[トップコート4]
トップコート4は、Et/TFE/HFPの共重合体として、市販品(ダイキン工業株式会社製、商品名:RC-4520)を用いた。
トップコート4は、Et:TFE:HFPが37:46:17のモル比で含まれる。この共重合体の融点(mp)は、163℃である。
【0081】
[トップコート5]
トップコート5は、Et/CTFEの共重合体(ECTFE)として、市販品(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製、商品名:Halar 6014)を用いた。
トップコート5は、Et:CTFEが49:51のモル比で含まれる。この共重合体の融点(mp)は、225℃である。
【0082】
(実施例1)
基材として、Feを主成分とする合金であるステンレス鋼(SUS304)の板材を準備する。この基材に対し、400℃、1時間の加熱(空焼き)を行い脱脂する。そして、#60でのブラスト処理を表面に施して粗面化する。(上記した基材準備工程S2に相当する。)
【0083】
その後、プライマー溶液1を、重力式スプレーガンで塗布する。100℃、15分の乾燥を行い、プライマー塗膜から溶媒が揮発して、20μmの厚さのプライマー層が形成された。(上記したプライマー層形成工程S3に相当する。)
【0084】
つづいて、形成されたプライマー層の表面上に静電粉体塗装機を用いてトップコート1を4回塗布し、その後、トップコート2を1回塗布した。初回のトップコート1の塗布後には、280℃、30分の加熱を行い、その後の各回のトップコート1、2の塗布後には、260℃、30分の加熱を行った。この加熱により、トップコート1、2の共重合体が溶融し、トップコート層が形成された。本例では、塗布と加熱を繰り返して、総膜厚388μmのフッ素樹脂被膜を形成した。(上記したトップコート塗布工程S4及び加熱工程S5に相当する。)
以上により、本例の製品が製造された。
【0085】
本例の製品は、ステンレス鋼よりなる基材と、基材の表面に密着して形成されたPr/TFE/VdFの共重合体を含む非晶質体からなるプライマー層、及びプライマー層の表面に一体に形成されたEt/TFEの共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層を備えたフッ素樹脂被膜と、を有する。
【0086】
(実施例2)
プライマー層の膜厚を5μmとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、本例の製品を製造した。本例では、フッ素樹脂被膜の総膜厚が361μmであった。
【0087】
(実施例3)
プライマー層の膜厚を11μmとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、本例の製品を製造した。本例では、フッ素樹脂被膜の総膜厚が375μmであった。
【0088】
(実施例4)
プライマー層の膜厚を32μmとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、本例の製品を製造した。本例では、フッ素樹脂被膜の総膜厚が391μmであった。
【0089】
(実施例5)
プライマー層がプライマー溶液2により形成されたこと以外は、実施例1と同様の方法で、本例の製品を製造した。
【0090】
本例では、プライマー層の膜厚が23μmであり、フッ素樹脂被膜の総膜厚が385μmであった。
【0091】
本例の製品は、ステンレス鋼よりなる基材と、基材の表面に密着して形成されたPr/TFEの共重合体を含む非晶質体からなるプライマー層、及びプライマー層の表面に一体に形成されたEt/TFEの共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層を備えたフッ素樹脂被膜と、を有する。
【0092】
(実施例6)
基材として、ステンレス鋼(SUS304)の板材を準備する。この基材を、400℃、1時間の空焼き加熱により脱脂する。そして、#60でのブラスト処理を施して、表面を粗面化した。
【0093】
その後、プライマー溶液1を、重力式スプレーガンで塗布した。100℃、15分の乾燥を行い、プライマー塗膜から溶媒が揮発して、24μmの厚さのプライマー層が形成された。
【0094】
つづいて、形成されたプライマー層の上に静電粉体塗装機を用いてトップコート3を4回塗布した。初回の塗布後には、320℃、30分の加熱を行い、その後の各回の塗布後には、300℃、30分の加熱を行った。これにより、トップコート3の共重合体が溶融し、トップコート層が形成された。本例では、塗布と加熱を繰り返して、総膜厚370μmのフッ素樹脂被膜を形成した。
以上により、本例の製品が製造された。
【0095】
本例の製品は、ステンレス鋼よりなる基材と、基材の表面に密着して形成されたPr/TFE/VdFの共重合体を含む非晶質体からなるプライマー層、及びプライマー層の表面に一体に形成されたEt/TFEの共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層を備えたフッ素樹脂被膜と、を有する。
【0096】
(実施例7)
基材として、ステンレス鋼(SUS304)の板材を準備する。この基材を、400℃、1時間の空焼き加熱により脱脂する。
【0097】
その後、プライマー溶液1を、重力式スプレーガンで塗布した。100℃、15分の乾燥を行い、プライマー塗膜から溶媒が揮発して、20μmの厚さのプライマー層が形成された。
【0098】
つづいて、形成されたプライマー層の上に静電粉体塗装機を用いてトップコート4を3回塗布した。各回の塗布後には、220℃、30分の焼成を行った。本例では、塗布と加熱を繰り返して、総膜厚360μmのフッ素樹脂被膜を形成した。
以上により、本例の製品が製造された。
【0099】
本例の製品は、ステンレス鋼よりなる基材と、基材の表面に密着して形成されたPr/TFE/VdFの共重合体を含む非晶質体からなるプライマー層、及びプライマー層の表面に一体に形成されたEt/TFE/HFPの共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層を備えたフッ素樹脂被膜と、を有する。
【0100】
(実施例8)
基材として、ステンレス鋼(SUS304)の板材を準備する。この基材を、400℃、1時間の空焼き加熱により脱脂する。そして、#60でのブラスト処理を施して、表面を粗面化した。
【0101】
その後、プライマー溶液1を、重力式スプレーガンで塗布した。100℃、15分の乾燥を行い、プライマー塗膜から溶媒が揮発して、31μmの厚さのプライマー層が形成された。
【0102】
つづいて、形成されたプライマー層の上に静電粉体塗装機を用いてトップコート5を3回塗布した。各回の塗布後には、260℃、30分の加熱を行った。これにより、トップコート5の共重合体が溶融しトップコート層が形成された。本例では、塗布と加熱を繰り返して、総膜厚345μmのフッ素樹脂被膜を形成した。
以上により、本例の製品が製造された。
【0103】
本例の製品は、ステンレス鋼よりなる基材と、基材の表面に密着して形成されたPr/TFE/VdFの共重合体を含む非晶質体からなるプライマー層、及びプライマー層の表面に一体に形成されたEt/CTFEの共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層を備えたフッ素樹脂被膜と、を有する。
【0104】
(実施例9)
トップコート1の塗布を6回行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、本例の製品を製造した。本例では、フッ素樹脂被膜の総膜厚が615μmであった。
【0105】
本例の製品は、ステンレス鋼よりなる基材と、基材の表面に密着して形成されたPr/TFE/VdFの共重合体を含む非晶質体からなるプライマー層、及びプライマー層の表面に一体に形成されたEt/TFEの共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層を備えたフッ素樹脂被膜と、を有する。
【0106】
(実施例10)
プライマー層の膜厚を42μmとしたこと以外は、実施例9と同様の方法で、本例の製品を製造した。本例では、フッ素樹脂被膜の総膜厚が597μmであった。
【0107】
(比較例1)
基材として、ステンレス鋼(SUS304)の板材を準備する。この基材を、400℃、1時間の空焼き加熱により脱脂する。そして、#60でのブラスト処理を施して、表面を粗面化した。
【0108】
その後、プライマー溶液4を、重力式スプレーガンで塗布した。100℃、15分の乾燥を行い、プライマー塗膜から溶媒が揮発して、48μmの膜厚のプライマー層が形成された。
【0109】
つづいて、形成されたプライマー層の表面上に静電粉体塗装機を用いてトップコート1を4回塗布し、その後、トップコート2を1回塗布した。初回のトップコート1の塗布後には、280℃、30分の加熱を行い、その後の各回のトップコート1、2の塗布後には、260℃、30分の加熱を行った。この加熱により、トップコート1、2の共重合体が溶融し、トップコート層が形成された。本例では、塗布と加熱を繰り返して、総膜厚381μmのフッ素樹脂被膜を形成した。
以上により、本例の製品が製造された。
【0110】
本例の製品は、ステンレス鋼よりなる基材と、基材の表面に密着して形成されたEt/ETFEの共重合体を含むプライマー層、及びプライマー層の表面に一体に形成されたEt/TFEの共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層を備えたフッ素樹脂被膜と、を有する。本例の製品は、プライマー層が、Etとフッ素樹脂単量体との共重合体よりなる。
【0111】
(比較例2)
基材として、ステンレス鋼(SUS304)の板材を準備する。この基材を、400℃、1時間の空焼き加熱により脱脂する。
【0112】
その後、基材の表面に静電粉体塗装機を用いてトップコート4を3回塗布した。各回の塗布後には、220℃、30分の加熱を行った。これにより、トップコート4の共重合体が溶融しトップコート層が形成された。本例では、塗布と加熱を繰り返して、総膜厚372μmのフッ素樹脂被膜が形成された。
以上により、本例の製品が製造された。
【0113】
本例の製品は、ステンレス鋼よりなる基材と、基材の表面に形成されたEt/TFE/HFPの共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層よりなるフッ素樹脂被膜と、を有する。本例の製品は、トップコート層のみからなり、プライマー層がない。
【0114】
(比較例3)
プライマー層の膜厚を3μmとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、本例の製品を製造した。本例では、フッ素樹脂被膜の総膜厚が373μmであった。
【0115】
本例の製品は、ステンレス鋼よりなる基材と、基材の表面に形成されたPr/TFE/VdFの共重合体を含む非晶質体からなるプライマー層、及びプライマー層の表面に形成されたEt/TFEの共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層を備えたフッ素樹脂被膜と、を有する。本例の製品は、プライマー層の厚さが3μmと過剰に薄く形成されている。
【0116】
(比較例4)
プライマー層を、プライマー溶液3よりなる膜厚が21μmのものとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、本例の製品を製造した。本例では、フッ素樹脂被膜の総膜厚が380μmであった。
【0117】
本例の製品は、ステンレス鋼よりなる基材と、基材の表面に密着して形成されたHFP/VdFの共重合体を含む非晶質体からなるプライマー層、及びプライマー層の表面に一体に形成されたEt/TFEの共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層を備えたフッ素樹脂被膜と、を有する。本例の製品は、プライマー層がHFPとVdFとの共重合体よりなり、Prが含まれていない。
【0118】
(比較例5)
基材として、ステンレス鋼(SUS304)の板材を準備する。この基材を、400℃、1時間の空焼き加熱により脱脂する。そして、#60でのブラスト処理を施して、表面を粗面化した。
【0119】
その後、プライマー溶液1を、重力式スプレーガンで塗布した。100℃、15分の乾燥を行い、プライマー塗膜から溶媒が揮発して、55μmの厚さのプライマー層が形成された。
【0120】
つづいて、形成されたプライマー層の表面上に静電粉体塗装機を用いてトップコート1を6回塗布し、その後、トップコート2を1回塗布した。初回のトップコート1の塗布後には、280℃、30分の加熱を行い、その後の各回のトップコート1、2の塗布後には、260℃、30分の加熱を行った。これにより、トップコート1、2の共重合体が溶融し、トップコート層が形成された。本例では、塗布と加熱を繰り返して、総膜厚609μmのフッ素樹脂被膜が形成された。
以上により、本例の製品が製造された。
【0121】
本例の製品は、ステンレス鋼よりなる基材と、基材の表面に密着して形成されたPr/TFE/VdFの共重合体を含む非晶質体からなるプライマー層、及びプライマー層の表面に一体に形成されたEt/TFEの共重合体を含む結晶質体からなるトップコート層を備えたフッ素樹脂被膜と、を有する。本例の製品は、プライマー層の厚さが55μmと過剰に厚く形成されている。
【0122】
[評価]
実施例及び比較例の製品の評価として、アルカリ浸漬試験、収縮引け試験、アルカリ耐久試験を施した。
【0123】
(アルカリ浸漬試験)
実施例1~8及び比較例1~4の製品の試験片を、それぞれ2枚準備する。
一方の試験片(カット試験片と称する)には、JIS K 5600-5-6 付着性(クロスカット法)に準拠した方法で、フッ素樹脂被膜に、2mm幅で100マスのクロスカットを入れる。他方の試験片(未カット試験片と称する)には、クロスカットを入れない。
【0124】
両試験片をプラスチック容器に入れ、10%KOH水溶液に全体を浸漬する。この溶液を85℃で16時間保持した後に、試験片をプラスチック容器から取り出し、水洗、乾燥する。
未カット試験片に対し、カット試験片と同様なクロスカットを入れる。
【0125】
各試験片の表面(クロスカットが施された部分)にガムテープを貼り付けて剥がすことを3回行い、各回でフッ素樹脂被膜が残存するマス目の数を数え、アルカリ浸漬後のフッ素樹脂被膜の付着性を評価した。フッ素樹脂被膜が残存するマス目の数を表1に示した。
【0126】
【表1】
【0127】
表1に示すように、各実施例の未カット試験片は、全てのマス目のフッ素樹脂被膜が残存している。そして、カット試験片においても、各比較例のカット試験片と比べると、より多くのマス目でフッ素樹脂被膜が残存している。
【0128】
比較例1~2では、未カット試験片の全てのマス目においてフッ素樹脂被膜が残存している。しかし、カット試験片のほぼ全てのマス目でフッ素樹脂被膜が剥離している。つまり、フッ素樹脂被膜にクロスカットが存在すると(すなわち、被膜が損傷している場合)、フッ素樹脂被膜が耐アルカリ性の効果を発揮できないことがわかる。
【0129】
比較例3では、未カット試験片及びカット試験片において、全てのマス目でフッ素樹脂被膜が剥離している。つまり、比較例3のフッ素樹脂被膜は、耐アルカリ性を有していないことが確認できる。
【0130】
比較例4では、フッ素樹脂被膜の全面にブリスターが発生していることが確認できた。このブリスターは、プライマー層のフッ素エラストマーがアルカリと反応して発生した水に起因する。つまり、比較例4のフッ素樹脂被膜は、耐アルカリ性を有していないことが確認できる。
【0131】
(収縮引け試験)
実施例9、10及び比較例5の製品から、100×100mmの試験片を切り出す。加工後に収縮で基材が露出した面積を測定し、露出面積を加工面積(試験片の面積)で割り、収縮により減少した面積の割合(%)を算出した。算出結果を表2に収縮面積割合として示した。
【0132】
【表2】
【0133】
表2に示すように、各実施例の試験片は、比較例5の試験片と比べて、収縮面積の割合が小さい。つまり、各実施例のフッ素樹脂被膜は、プライマー層の露出が比較例の試験片と比べて抑えられている。各実施例のフッ素樹脂被膜は、基材への付着性(あるいは、密着性)に優れた被膜となっている。
【0134】
(アルカリ耐久試験)
実施例1、7及び比較例1、2の製品の試験片に対し、山崎式ライニングテスターを用いて、試験液が5%NaOH水溶液、試験温度が100℃、未処理面は空冷の条件で加速試験を行い、ブリスターが発生するまでの時間を比較した。測定結果を表3に示した。
【0135】
【表3】
【0136】
表3に示すように、各実施例の試験片は、各比較例の試験片と比べて、ブリスターの発生までの時間が長くなっている。つまり、耐アルカリ性に優れたフッ素樹脂被膜となっている。詳しくは、各実施例と各比較例2試験片を比較すると、プライマー層が、Prとフッ素樹脂単量体との共重合体となることで、耐アルカリ性に優れた被膜となっている。
【0137】
なお、いずれの試験片においても、試験液(NaOH水溶液)の液面下の部分(液相部)と空気にさらされていた部分(気相部)のいずれの部分にも、ブリスターが発生している。
【0138】
以上のように、各実施例の製品は、各試験で優れた結果を示しており、耐アルカリ性に優れた製品となっている。
図1
図2