(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】中空糸膜及び中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
B01D 71/36 20060101AFI20230606BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20230606BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230606BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20230606BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
B01D71/36
B01D61/00
B01D69/02
B01D69/08
B01D63/02
(21)【出願番号】P 2020552947
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2019035172
(87)【国際公開番号】W WO2020084930
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018200362
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599109906
【氏名又は名称】住友電工ファインポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】林 文弘
(72)【発明者】
【氏名】室谷 保彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆昌
(72)【発明者】
【氏名】宇野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良昌
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-094579(JP,A)
【文献】特開2007-077323(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0079209(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第104998557(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
B01D53/22
C02F1/44
B01D19/00
C08J9/00
D01F6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とし、
平均外径が1mm以下、平均内径が0.5mm以下であり、
上記ポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレンの示差走査熱量計による融解熱量の測定において、
50℃/分の速度で室温から245℃まで加熱した後に、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する第1ステップと、
-10℃/分の速度で365℃から350℃まで冷却して保持した後に、-10℃/分の速度で350℃から330℃まで冷却後、さらに-1℃/分の速度で330℃から305℃まで冷却する第2ステップと、
-50℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却後、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する第3ステップとを経た場合の上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量が、30.0J/g以上45.0J/g以下である中空糸膜。
【請求項2】
気孔率が30%以上であり、
イソプロパノールバブルポイントが500kPa以上である請求項1の中空糸膜。
【請求項3】
液体に溶存する気体を脱気可能な中空糸膜モジュールであって、
筐体と、
一方向に引き揃えられる複数本の請求項1又は請求項2に記載の中空糸膜と
を備え、
上記筐体に対する上記中空糸膜の充填率が15%以上80%以下である中空糸膜モジュール。
【請求項4】
溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積と上記充填率との積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x
1と、脱気率y
1との関係が下記式(1)を満たす請求項3に記載の中空糸膜モジュール。
y
1≧-0.093x
1+0.84 (1)
(式(1)中、0.59≦x
1≦5.41である。)
【請求項5】
溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積と上記充填率との積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x
1と、溶存酸素濃度y
2との関係が下記式(2)を満たす請求項3又は請求項4に記載の中空糸膜モジュール。
y
2≦0.64x
1+1.10 (2)
(式(2)中、0.59≦x
1≦5.41である。)
【請求項6】
上記筐体に対する上記中空糸膜の充填率が30%以上80%以下であり、
溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x
2と、脱気率y
1との関係が下記式(3)を満たす請求項3、請求項4又は請求項5に記載の中空糸膜モジュール。
y
1≧-0.23x
2+0.88 (3)
(式(3)中、0.62≦x
2≦2.10である。)
【請求項7】
上記筐体に対する上記中空糸膜の充填率が30%以上80%以下であり、
溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x
2と、溶存酸素濃度y
2との関係が下記式(4)を満たす請求項3から請求項6のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
y
2≦1.48x
2+0.85 (4)
(式(4)中、0.62≦x
2≦2.10である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中空糸膜及び中空糸膜モジュールに関する。本出願は、2018年10月24日出願の日本出願第2018-200362号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
液体中に溶存している酸素等の気体を除去する中空糸膜モジュールは、半導体製造工程、プリンタ、液晶封入工程、薬液製造工程等において用いられている。この中空糸膜としては、例えば、テトラフルオロエチレン樹脂(以下、PTFEともいう)を主成分とする中空糸膜が提案されている(特開2011-36743号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る中空糸膜は、ポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とし、平均外径が1mm以下、平均内径が0.5mm以下であり、上記ポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレンの示差走査熱量計による融解熱量の測定において、50℃/分の速度で室温から245℃まで加熱した後に、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する第1ステップと、-10℃/分の速度で365℃から350℃まで冷却して保持した後に、-10℃/分の速度で350℃から330℃まで冷却後、さらに-1℃/分の速度で330℃から305℃まで冷却する第2ステップと、-50℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却後、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する第3ステップとを経た場合の上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量が、30.0J/g以上45.0J/g以下である。
【0005】
本開示の他の態様に係る中空糸膜モジュールは、液体に溶存する気体を脱気可能な中空糸膜モジュールであって、筐体と、一方向に引き揃えられる複数本の当該中空糸膜とを備え、上記筐体に対する上記中空糸膜の充填率が15%以上80%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態に係る中空糸膜を示す模式的斜視図である。
【
図3】本開示の一実施形態の中空糸膜モジュールを示す模式的断面図である。
【
図4】筐体の容積と充填率との積に対する純水の供給量の割合と、脱気率との関係を示すグラフである。
【
図5】筐体の容積と充填率との積に対する純水の供給量の割合と、溶存酸素濃度との関係を示すグラフである。
【
図6】筐体の容積に対する純水の供給量の割合と、脱気率との関係を示すグラフである。
【
図7】筐体の容積に対する純水の供給量の割合と、溶存酸素濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
【0008】
従来の中空糸膜モジュールに備えられる中空糸膜は、コンパクト化する観点かつ容積当たりの分離性能を大きくする観点から、孔の小径化を図りつつ、気孔率を向上することが要求される。特に、脱気性能を大きくする観点からは、脱気性能の指標となるバブルポイントの向上が求められている。
【0009】
バブルポイントを高めるためには、原料として高分子量のPTFEを用いるとペースト押出によって繊維化が促進されるので、延伸工程及び焼結工程を経て微細孔径チューブを得ることができる。しかしながら、高分子量のPTFEは押出時の繊維化によって粘度が増大する。そのため、細径チューブを押し出すのが困難となったり、押出成型機の吐出口面積に対する充填口面積であるリダクションレシオを抑制するために細径シリンダーで非効率な押出を行うことが必要となったりすることで、工業的量産が困難となるおそれがある。
【0010】
一方、低分子量のPTFEを用いた場合、細径での押出時の繊維化を抑制できるが、バブルポイントが低くなったり、延伸工程中に破断したりして、多孔質化が困難となるおそれがある。
【0011】
本開示は、このような事情に基づいてなされたものであり、孔の小径化を図りつつ、気孔率及びバブルポイントが高い中空糸膜及び特に脱気性能が優れる中空糸膜モジュールの提供を目的とする。
[本開示の効果]
【0012】
本開示の一態様に係る中空糸膜は、孔の小径化を図りつつ、気孔率及びバブルポイントを共に高めることができる。本開示の他の態様に係る中空糸膜モジュールは、特に脱気性能が優れる。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
本開示の一態様に係る中空糸膜は、ポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とし、平均外径が1mm以下、平均内径が0.5mm以下であり、上記ポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレンの示差走査熱量計による融解熱量の測定において、50℃/分の速度で室温から245℃まで加熱した後に、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する第1ステップと、-10℃/分の速度で365℃から350℃まで冷却して保持した後に、-10℃/分の速度で350℃から330℃まで冷却後、さらに-1℃/分の速度で330℃から305℃まで冷却する第2ステップと、-50℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却後、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する第3ステップとを経た場合の上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量が、30.0J/g以上45.0J/g以下である。
【0014】
当該中空糸膜は、先ず管状成型した後に、PTFEの融点の343℃以上に加熱焼結することで得られる無孔質管状成形体を延伸することにより得られる。通常、焼結された無孔質管状成形体は、延伸により破断が生じたり、また、延伸を行っても径方向に収縮するだけで多孔化しない。
当該中空糸膜は、予め上記第1ステップから上記第3ステップを経た場合に、上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量が30.0J/g以上45.0J/g以下の低分子量PTFE又は変性PTFEを、無孔質管状成形体とすることにより得ることができる。また、上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量が30.0J/g以下の高分子量PTFE又は変性PTFEを用いて無孔質管状成形体とした後に、電離放射線を照射することで、当該中空糸膜の主成分となるPTFE又は変性PTFEの上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量を30.0J/g以上45.0J/g以下とすることができる。
このような無孔質管状成形体は、変形性が高く、荷重-伸び曲線上に最初に現れる一般的な降伏点を越えて、破断に至る前に現れる次の変曲点まで延伸することができる。その結果、微小な孔径を有する多孔質の中空糸膜を得ることができる。従来の延伸PTFEの多孔質構造は、ペースト押出時のせん断力によって形成した繊維束集合体を延伸によって蜘蛛の巣状(ウェブ状)に伸ばされた構造であったが、当該中空糸膜の多孔質構造は、無孔質成形体内の超微細な結晶粒界が開裂することによって形成される。当該中空糸膜は、上記第1ステップから上記第3ステップを経た場合に、上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量が30.0J/g以上45.0J/g以下の至適な範囲であることで、熱的に安定な結晶成分が多く、開裂点(結晶粒界)が至適な密度で存在すると考えられる。その結果、当該中空糸膜は、従来技術では得られなかった多孔質で平均外径が1mm以下、平均内径が0.5mm以下であり、高気孔率かつバブルポイントが高い特性を備えることができる。
【0015】
ここで、「主成分」とは、質量換算で最も含有割合の大きい成分をいい、例えば含有割合が50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは95質量%以上の成分をいう。「平均外径」とは、任意の2点の外径の平均値をいう。「平均内径」とは、任意の2点の内径の平均値をいう。
【0016】
当該中空糸膜は、気孔率が30%以上であり、イソプロパノールバブルポイントが500kPa以上であることが好ましい。このように、当該中空糸膜の気孔率及びイソプロパノールバブルポイントが上記範囲内であることによって、当該中空糸膜は、脱気能力をより高めることができる。
【0017】
ここで、「気孔率」とは、体積に対する空孔の総体積の割合をいい、ASTM-D-792に準拠し、密度を測定することで求めることができる。「イソプロパノールバブルポイント」とは、イソプロピルアルコールを用い、ASTM-F316-86に準拠して測定される値であり、孔から液体を押し出すのに必要な最小の圧力を示し、孔径の平均に対応した指標である。
【0018】
また、本開示の他の一態様に係る中空糸膜モジュールは、液体に溶存する気体を脱気可能な中空糸膜モジュールであって、筐体と、一方向に引き揃えられる複数本の当該中空糸膜とを備え、上記筐体に対する当該中空糸膜の充填率が15%以上80%以下である。
【0019】
ここで、「中空糸膜の充填率」とは、筐体に充填された中空糸膜の充填密度のことをいい、筐体の内面により形成される中空糸膜長さ方向に垂直の断面の面積に対する、同じ断面における各中空糸膜の外径により求められる中空糸膜の占有する断面積の総和の割合(%)である(中空糸膜外径基準の充填率とする)。
【0020】
当該中空糸膜モジュールは、気孔率及びバブルポイントが高い当該中空糸膜の充填率が15%以上80%以下であることで、特に脱気性能が優れる。
【0021】
当該中空糸膜モジュールは、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積と上記充填率との積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x1と、脱気率y1との関係が下記式(1)を満たすことが好ましい。
y1≧-0.093x1+0.84 (1)
(式(1)中、0.59≦x1≦5.41である。)
当該中空糸膜モジュールは、純水の溶存酸素の除去能力が上記範囲であることで、液体に対する脱気効果がより優れる。
【0022】
当該中空糸膜モジュールは、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積と上記充填率との積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x1と、溶存酸素濃度y2との関係が下記式(2)を満たすことが好ましい。
y2≦0.64x1+1.10 (2)
(式(2)中、0.59≦x1≦5.41である。)
当該中空糸膜モジュールは、純水の溶存酸素の除去能力が上記範囲であることで、液体に対する脱気効果がより優れる。
【0023】
当該中空糸膜モジュールは、上記筐体に対する上記中空糸膜の充填率が30%以上80%以下であり、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x2と、脱気率y1との関係が下記式(3)を満たすことが好ましい。
y1≧-0.23x2+0.88 (3)
(式(3)中、0.62≦x2≦2.10である。)
当該中空糸膜モジュールは、純水の溶存酸素の除去能力が上記範囲であることで、液体に対する脱気効果がより優れる。
【0024】
当該中空糸膜モジュールは、上記筐体に対する上記中空糸膜の充填率が30%以上80%以下であり、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x2と、溶存酸素濃度y2との関係が下記式(4)を満たすことが好ましい。
y2≦1.48x2+0.85 (4)
(式(4)中、0.62≦x2≦2.10である。)
当該中空糸膜モジュールは、純水の溶存酸素の除去能力が上記範囲であることで、液体に対する脱気効果がより優れる。
【0025】
ここで、「脱気率」とは、純水の初期の溶存酸素濃度に対する初期の溶存酸素濃度と純水の脱気後の溶存酸素濃度との差の割合(%)である。すなわち、脱気率(%)は下記式で表される。
脱気率(%)=(初期の溶存酸素濃度-脱気後の溶存酸素濃度)/初期の溶存酸素初期濃度
【0026】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の各実施形態に係る中空糸膜及び中空糸膜モジュールについて図面を参照しつつ詳説する。
【0027】
<中空糸膜>
図1及び
図2の中空糸膜1は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又は変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)を主成分とし、平均外径が1mm以下、平均内径が0.5mm以下である。
【0028】
変性PTFEとは、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、アルキルビニルエーテル(AVE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等が少量、好ましくはテトラフルオロエチレンに対して1/50(モル比)以下共重合されたPTFEを言う。
【0029】
当該中空糸膜1は、ポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレンの示差走査熱量計による融解熱量の測定において、50℃/分の速度で室温から245℃まで加熱した後に、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する第1ステップと、-10℃/分の速度で365℃から350℃まで冷却して保持した後に、-10℃/分の速度で350℃から330℃まで冷却後、さらに-1℃/分の速度で330℃から305℃まで冷却する第2ステップと、-50℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却後、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する第3ステップとを経た場合の上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量が、30.0J/g以上45.0J/g以下である。上記測定におけるサンプル量は10mg~20mgであり、サンプリングタイムは0.5秒/回である。当該中空糸膜1は、上記第1ステップから上記第3ステップを経た場合に、上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量が、30.0J/g以上45.0J/g以下であることで、延伸に適した特性を得ることができることから、変形性が高く、荷重-伸び曲線上に最初に現れる一般的な降伏点を越えて、破断に至る前に現れる次の変曲点まで延伸することができる。その結果、微小な孔径を有する多孔質の中空糸膜を得ることができる。従って、当該中空糸膜1は、従来技術では得られなかった多孔質で平均外径が1mm以下、平均内径が0.5mm以下であり、高気孔率かつバブルポイントが高い特性を有する。
【0030】
上記融解熱量は、この第3ステップにおける296℃から343℃間の吸熱量である。
加熱や冷却、吸熱量等の測定は、示差走査熱量計を用いて行われ、示差走査熱量計の測定では、サンプル量は、通常、10mgから20mg程度である。
【0031】
当該中空糸膜1の上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量の下限としては、30.0J/gであり、33J/gが好ましい。一方、上記融解熱量の上限としては、45.0J/gであり、42J/gが好ましい。上記融解熱量が上記下限に満たないと、良好な気孔率が得られないおそれがある。逆に、上記融解熱量が上記上限を超えると、強度が低く延伸で断線するおそれがある。
【0032】
従来一般的に使用されている成型用PTFEは、上記第1ステップから第3ステップを経た場合の上記第3ステップにおける上融解熱量は30J/g未満である。従って、この樹脂の中空糸膜についても融解熱量は30J/g未満と考えられる。モールド成形、ペースト押出成形等の成形性と成形品強度を考慮した結果、このような樹脂が用いられていると考えられる。例えばペースト押出では、成形寸法や機械的強度などの品質を均質にするために、成形寸法等に応じて20J/g以下や25J/g程度のものが使用される。当該中空糸膜は、上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量の範囲が30.0J/g以上、45.0J/g以下である点で従来の中空糸膜とは異なるものであり、この相違により、従来の中空糸膜よりも変形性が高く、衝撃吸収性や変形密着性が大幅に優れる。さらに、延伸工程により、微小な孔径及び高気孔率を有する多孔質の中空糸膜を得ることができる。
【0033】
上記の融解熱量の測定方法は、主成分となるPTFE又は変性PTFEの分子量の調整に適用することができ、生産管理に非常に有用である。PTFEは溶融温度や粘度が高いこと、溶剤に溶けないことから、溶融粘度や光散乱、浸透圧法では分子量は測定できない。そこで、PTFE又は変性PTFEの分子量は一般的には成形品の比重(ASTM D1457-56T)や強度より推測するのが一般的であるが、これらの方法により求めた分子量はバラツキが大きく、形状、寸法、構造が異なる成型後の製品の分子量を相対比較することは実質的に不可能である。しかし、PTFE又は変性PTFEを一度融解した後、一定の速度でゆっくり冷却することで再結晶化させると、分子量が大きいほど結晶化が進行しにくいので、次に融解させるときの融解熱量が小さくなり、逆に、分子量が小さい程融解熱量が大きくなる。そこで、融解熱量の測定値によりPTFE又は変性PTFEの分子量を推定することができる。本発明者らは、上記のような一定の熱履歴を加えた後の融解熱量が、分子量の推定に非常に有用であり、生産管理に用いることができることを見出した。なお、融解熱量の代わりに、上記の方法における徐冷時の発熱量によっても、分子量の推定をすることができ、生産管理に用いることができる。
【0034】
当該中空糸膜1は、PTFEの他、本開示の所望の効果を害しない範囲で他のフッ素樹脂や添加剤を含有していてもよい。上記添加剤としては、例えば着色のための顔料や、耐摩耗性改良、低温流れ防止、空孔生成容易化のための無機充填剤、金属粉、金属酸化物粉、金属硫化物粉等が挙げられる。
【0035】
当該中空糸膜1の平均外径D2の下限としては、特に限定されないが、0.1mmが好ましく、0.2mmがより好ましい。一方、当該中空糸膜の平均外径D2の上限としては、1.0mmであり、0.75mmが好ましい。上記平均外径D2が上記下限に満たないと、圧力損失が大きくなるおそれがある。逆に、上記平均外径D2が上記上限を超えると、モジュールの筐体内に収められる膜面積が小さくなったり、耐圧強度が低くなり内圧による破裂や、外圧による座屈が生じたりするおそれがある。
【0036】
当該中空糸膜の平均内径D1の下限としては、特に限定されないが、0.05mmが好ましく、0.1mmがより好ましい。一方、当該中空糸膜の平均内径D1の上限としては、0.5mmであり、0.3mmが好ましい。上記平均内径D1が上記下限に満たないと、圧力損失が大きくなるおそれがある。逆に、上記平均内径D1が上記上限を超えると、耐圧強度が低くなり、内圧による破裂や、外圧による座屈が生じるおそれがある。
【0037】
当該中空糸膜の平均厚さT1の下限としては、0.025mmが好ましく、0.05mmがより好ましい。一方、当該中空糸膜の平均厚さT1の上限としては、0.5mmであり、0.3mmが好ましい。上記平均厚さT1が上記下限に満たないと、耐圧強度が低くなり、内圧による破裂や、外圧による座屈が生じるおそれがある。逆に、上記平均厚さT1が上記上限を超えると、気体透過性が低くなるおそれがある。ここで、「平均厚さ」とは、任意の10点の厚さの平均値をいう。
【0038】
当該中空糸膜の気孔率の下限としては、30%が好ましく、40%がより好ましい。一方、当該中空糸膜1の気孔率の上限としては、特に限定されないが、80%が好ましく、70%がより好ましい。上記気孔率が上記下限に満たないと、分離性能が不十分となるおそれがある。逆に、上記気孔率が上記上限を超えると、当該中空糸膜の機械的強度が不十分となるおそれがある。
【0039】
当該中空糸膜のイソプロパノールバブルポイントの下限としては、500kPaが好ましく、1000kPaがより好ましい。一方、当該中空糸膜のイソプロパノールバブルポイントの上限としては、3000kPaが好ましく、2500kPaがより好ましい。当該中空糸膜のイソプロパノールバブルポイントが上記下限に満たない場合、当該中空糸膜の液体保持力が不十分となるおそれがある。当該中空糸膜のイソプロパノールバブルポイントが上記上限を超える場合、気体透過性が小さくなり、当該中空糸膜の脱気効率が低下するおそれがある。
【0040】
当該中空糸膜は、孔の小径化を図りつつ、気孔率及びバブルポイントが高いので、種々の濾過装置の他、特に半導体製造工程、プリンタ、液晶封入工程、薬液製造工程、油圧機器、分析装置のサンプル、人工血管、人工心肺等の脱気装置の中空糸膜に好適に用いることができる。
【0041】
[中空糸膜の製造方法]
次に、当該中空糸膜の製造方法の例について説明する。当該中空糸膜の製造方法は、例えばPTFE又は変性PTFEの粒子をチューブ状に成形する成形工程、上記チューブ状成形品をPTFE又は変性PTFEの融点以上に加熱する焼結工程、溶融された樹脂を冷却する工程、及び無孔質チューブ状成形品を延伸して多孔質化する延伸工程を有することが好ましい。このように、当該中空糸膜は、成形後に延伸して形成することで、当該中空糸膜の孔の小径化を図りつつ多孔質の中空糸膜を形成することができる。
【0042】
当該中空糸膜は、例えば上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量が、30.0J/g以上45.0J/g以下であるPTFE又は変性PTFEを、一度溶融させて粒子間隙を消滅させた後、徐冷して得られる。すなわち、上記PTFE又は変性PTFEを、その融点以上に加熱して溶融する工程、並びに溶融された樹脂を冷却する工程、又は/及び313℃以上321℃未満で10分以上保持する工程を含む。
【0043】
融解熱量が30.0J/g以上45.0J/g以下であるPTFE又は変性PTFEを用いる場合は、例えば、融解熱量が30.0J/g未満のPTFEに、ガンマ線、エックス線、紫外線、電子線などの電離放射線を照射する方法や、加熱による分解反応等を利用する方法などにより得ることができる。
【0044】
(成形工程)
成形工程では乳化重合等により製造されたPTFE又は変性PTFEの粉末をチューブ状に成形してチューブ状成形品を得る。原料のPTFE又は変性PTFEの粒子とは、PTFE又は変性PTFEの微細粒子からなる粉体である。PTFE又は変性PTFEの微細粒子(PTFE又は変性PTFE粉末)を液体(分散媒)に分散した乳液であるPTFE又は変性PTFEディスパージョンも、原料のPTFE又は変性PTFEの粉末として用いることができる。PTFE又は変性PTFEの粉末としては、例えば、PTFE又は変性PTFEの微細粒子からなる粉体であり乳化重合により製造されるPTFE又は変性PTFEファインパウダーや懸濁重合により製造されるPTFE又は変性PTFEモールディングパウダーを挙げることができる。
【0045】
変性PTFEの粉末をチューブ状に成形して所定の形状寸法のチューブ状成形品を得る場合、粉体から膜を成形するための公知の方法、例えば原料粉末に押出助剤を配合して混合後にチューブ状にペースト押出成形する方法や変性PTFEディスパージョン等を用いて成形し、分散媒を乾燥して除去する方法(キャスティング法)が挙げられる。変性PTFEは、通常、溶融粘度が高く溶融押出が困難である又その溶液の作製も困難であるので、上記のような方法が一般的に採用される。
【0046】
(焼結工程)
焼結工程では、上記チューブ状成形品をPTFE又は変性PTFEの融点以上に加熱して無孔質チューブ状成形品を得る。乳化重合等により製造されたPTFE粒子又は変性PTFE粒子を押し固めた中空糸膜は、粒子の間隙や助剤の抜けに起因する孔や空隙が存在するが、PTFE又は変性PTFEの粉末を完全溶融することにより、これらの孔や空隙は消滅するか、実質的に連続する空隙が極小化する。その結果、無孔質チューブ状成形品が作製される。無孔質膜状成形品とは、膜を貫通する孔がほとんど無い膜を意味するが、具体的には、ガーレー秒が5000秒以上の膜が好ましい。変性PTFEの粉末の溶融を完全にしてガーレー秒の大きい無孔質膜状成形品を作製するために、原料の融点より高い温度で加熱されることが好ましく、又樹脂の分解や変性を抑制するために加熱温度は、450℃以下の温度が好ましい。
【0047】
(冷却工程)
上記焼結工程後は、PTFE又は変性PTFEを徐冷により冷却する工程を行うことが好ましい。冷却工程では、PTFE又は変性PTFEの融点以上に昇温した後ゆっくりと結晶融点以下へ徐冷する方法や、PTFE又は変性PTFEの融点よりもやや低い温度で一定時間加熱する方法(以下、「定温処理」と言うことがある)が行われる。この冷却により、PTFE又は変性PTFE中に結晶が生成され、次の延伸工程前にPTFE又は変性PTFEの樹脂の結晶化度を飽和させることができるので、多孔質膜の製造において孔径の再現性をより高くすることができる。なお、結晶化プロセスでは冷却速度が低いほどあるいは定温処理時間が長いほど結晶化度が高まり融解熱量が高くなる傾向がある。一方、冷却速度が高いほどあるいは定温処理時間が短いほど結晶化度は低くなり、融解熱量が低くなる傾向がある。
【0048】
中空糸膜の融解熱量は、この結晶の生成量に依存し、結晶の生成量は、冷却速度に影響される。従って、上記範囲の融解熱量を得るために、冷却は、徐冷(ゆっくりした冷却)、又は/及び313℃以上321℃未満での10分以上の保持を含む冷却により行われる。徐冷は、-3.0℃/分以下の冷却速度で行われることが好ましく、より好ましくは、-2.0℃/分以下の速度で冷却する。
【0049】
冷却速度が上記の範囲外であっても、313℃以上321℃未満での10分以上の保持を行うことにより、結晶化を促進することができる。すなわち、徐冷では高度な温度制御が必要であるが、一定温度での保持による熱処理方法では、高度な温度制御は不要で、かつより安定、均質に熱処理が可能である。さらに、融点以上の温度からの徐冷は、PTFE又は変性PTFE同士が融着するために長尺製品巻物の状態で行うことができず、製品を非常に遅い線速で引き出しながら、長い時間をかけて焼結工程及び冷却工程を行う必要がある。一方、上記の一定温度での保持による熱処理方法によれば、融点未満に冷却後、長尺製品巻物を形成し、巻物の状態で結晶化を促進させることが可能であるで、大量にバッチ処理することで量産が可能となる。なお、313℃以上321℃未満で10分以上保持する工程は、上記焼結工程後冷却する途中で行ってもよいし、冷却後に上記の温度範囲に加熱保持してもよい。
【0050】
原料として使用されるPTFE又は変性PTFEの粉体又は粒体としては、PTFEの粉体又は粒体の融解熱量を上記の範囲に調整したものをそのまま(単体として)用いてもよいし、少なくとも1種が上記の範囲内の融解熱量を持つ2種以上のPTFEの粉体又は粒体とを混合したものを用いてもよい。
【0051】
(延伸工程)
延伸工程では、このようにして得られた無孔質チューブ状成形品を延伸して多孔質化する。多孔質の中空糸膜は、上記無孔質チューブ状成形品を、延伸することにより得ることができる。延伸工程では、軸方向及び周方向に延伸することが好ましい。軸方向における延伸率としては例えば3倍以上7倍以下とすることができ、周方向における延伸率としては例えば2倍以上4倍以下とすることができる。当該中空糸膜は、延伸温度、延伸率等の延伸条件を調節することで、空孔の大きさや形状を調節することができる。
【0052】
上記延伸は、荷重-伸び曲線上に、最初に現れる一般的な降伏点(以下、「第1降伏点」ともいう)を越え、破断に至る前に現れる次の変曲点(以下、「第2降伏点」ともいう)までの間で行うことが好ましい。本発明者は、検討の結果、この第2降伏点までの延伸では均質な延伸が可能であり、かつこの第2降伏点が、均質な延伸の限界点であることを見出したのである。第2降伏点は延伸可能な限界であると考えられ、この範囲までの延伸により、微細で孔径のバラツキの少ない孔が形成できると考えられる。第2降伏点までの延伸は、伸長が大きいにも係わらず、この延伸により生じる微細孔の孔径は小さく、かつ孔径のバラツキも少ない。当該中空糸膜は、微細で孔径のバラツキの小さい孔を形成しながら大きく伸長させる上記第2降伏点までの延伸が行われていることから、高い気孔率が得られると考えられる。一方、第2降伏点を越えた延伸の場合、孔径のバラツキが大きくなり、ピンホール等の欠陥が生じることが多くなる。
【0053】
上記中空糸膜の製造方法によれば、孔の小径化を図りつつ、気孔率及びバブルポイントが高い当該中空糸膜を製造することができる。
【0054】
<中空糸膜モジュール>
本開示の他の一態様に係る中空糸膜モジュールは、膜分離用の中空糸膜モジュールであり、筐体と、一方向に引き揃えられる複数本の当該中空糸膜とを備える。当該中空糸モジュールは、濾過、脱気等、種々の膜分離用の用途に利用される。従って、当該中空糸モジュールは、濾過、脱気等の用途に応じて中空糸膜が透過させる対象物が異なる。例えば当該中空糸モジュールを濾過モジュールとして用いる場合、被処理液中の溶媒を透過させる一方、被処理液に含まれる一定粒径以上の不純物の透過を阻止する。また、当該中空糸モジュールを脱気モジュールとして用いる場合、中空糸膜は、液体又は気体のいずれかを透過させる。当該中空糸モジュールは、どのような分野の用途にも適用することができる。
例えば、河川水、湖水の濾過や原子力発電、火力発電用水の濾過、復水の濾過、水の除菌、廃液の濾過回収等の水処理用途、食品の濾過、有機溶剤の濾過や分離、液体の脱ガス、酸素、二酸化炭素、窒素、水素等の気体の選択的透過による特定の気体の富化機能など、種々の用途に利用できる。
【0055】
当該中空糸膜モジュールは、インクジェットプリンター、脱気装置、濾過装置等内に中空糸膜モジュールが固定された一体型のタイプと、筐体と分離膜がそれぞれ独立していて、分離膜を筐体に挿入して使用する交換可能なカートリッジタイプのいずれのタイプにおいても使用することができる。
【0056】
図3に、本開示の一実施形態に係る中空糸膜モジュールの例として、脱気用の中空糸膜モジュール3を示す。中空糸膜モジュール3は、一方向に引き揃えられる複数本の当該中空糸膜1を有する膜部材2と、この複数本の中空糸膜1を有する膜部材2を格納する筒状の筐体11とを備える。中空糸膜モジュール3は、液体を中空糸膜に透過させて液体に溶存する気体を脱気するタイプである。
【0057】
膜部材2は、複数本の中空糸膜1の一方の端部を保持する第1封止部4と、複数本の中空糸膜1の他方の端部を保持する第2封止部5とを有する。
【0058】
中空糸膜モジュール3は、筒状の筐体11と、この筐体11の一方側の端部に装着され、気体ノズル9及び第1封止部4が係合する係合構造が設けられた第1スリーブ12と、このスリーブ12の筐体11と反対側の端部を封止し、液体排出口8が設けられた第1キャップ13と、筐体11の他方側の端部に装着される第2スリーブ14と、この第2スリーブ14の筐体11と反対側の端部を封止し、液体供給口7が設けられた第2キャップ15とを有する構成とすることができる。
【0059】
中空糸膜モジュール3は、一方の端部の端面には被処理液が供給される液体供給口7を有し、他方の端部の端面には複数本の中空糸膜1を透過した液体が排出される液体排出口8を有する。筐体11の側面には、気体ノズル9が備えられている。液体供給口7から第2キャップ15内に供給された被処理液は、中空糸膜1を透過して筐体11内に供給される。そして、筐体11の他方の端部近傍の側面に設けられた液体排出口8から透過後の液体が排出される。また、図示しない真空ポンプにより気体ノズル9から吸気することで、中空糸膜1の外側が減圧される。そして、中空糸膜1を透過する液体に溶存する気体が、中空糸膜1の壁面から気体ノズル9に向けて吸入され、気体ノズル9の先端から排出される。
【0060】
これら中空糸膜モジュール3の各構成要素の材質としては、例えば鉄、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属、例えばPTFE、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ABS樹脂等を主成分とする樹脂組成物などを挙げることができ、構成要素毎に異なる材質を採用してもよい。
【0061】
当該中空糸膜モジュールにおける当該中空糸膜の充填率の下限としては10%であり、15%が好ましく、30%がより好ましい。一方、当該中空糸膜の充填率の上限としては80%であり、75%が好ましく、70%がより好ましい。当該中空糸膜の充填率が上記下限に満たないと、当該中空糸膜モジュール1の脱気性能が小さくなるおそれがある。逆に、当該中空糸膜の充填率が上記上限を超えると、容器に中空糸膜を充填した際に中空糸膜の潰れが発生したり、筐体に充填する場合の困難性が生じたりするおそれがある。当該中空糸膜モジュールは、気孔率及びバブルポイントが高い当該中空糸膜の充填率が15%以上80%以下であることで、優れた脱気性能を有する。
【0062】
当該中空糸膜モジュールは、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積と上記充填率との積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x1と、脱気率y1との関係が下記式(1)を満たすことが好ましい。
y1≧-0.093x1+0.84 (1)
(式(1)中、0.59≦x1≦5.41である。)
当該中空糸膜モジュールは、純水の溶存酸素の除去能力が上記範囲であることで、液体に対する脱気効果がより優れる。
【0063】
当該中空糸膜モジュールは、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積と上記充填率との積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x1と、溶存酸素濃度y2との関係が下記式(2)を満たすことが好ましい。
y2≦0.64x1+1.10 (2)
(式(2)中、0.59≦x1≦5.41である。)
当該中空糸膜モジュールは、純水の溶存酸素の除去能力が上記範囲であることで、液体に対する脱気効果がより優れる。
【0064】
当該中空糸膜モジュールは、上記筐体に対する上記中空糸膜の充填率が30%以上80%以下であり、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x2と、脱気率y1との関係が下記式(3)を満たすことが好ましい。
y1≧-0.23x2+0.88 (3)
(式(3)中、0.62≦x2≦2.10である。)
当該中空糸膜モジュールは、純水の溶存酸素の除去能力が上記範囲であることで、液体に対する脱気効果がより優れる。
【0065】
当該中空糸膜モジュールは、上記筐体に対する上記中空糸膜の充填率が30%以上80%以下であり、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x2と、溶存酸素濃度y2との関係が下記式(4)を満たすことが好ましい。
y2≦1.48x2+0.85 (4)
(式(4)中、0.62≦x2≦2.10である。)
当該中空糸膜モジュールは、純水の溶存酸素の除去能力が上記範囲であることで、液体に対する脱気効果がより優れる。
【0066】
当該中空糸膜モジュールは、孔の小径化を図りつつ、気孔率及びバブルポイントが高い中空糸膜を備えているので、特に脱気性能が優れる。
【0067】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0068】
上記実施形態においては、当該中空糸膜モジュールが、液体を中空糸膜に透過させて液体に溶存する気体を脱気する液体透過型の中空糸膜モジュールであったが、気体を中空糸膜に透過させて液体に溶存する気体を脱気する気体透過型の中空糸膜モジュールであってもよい。当該中空糸膜モジュールは、気体透過型の中空糸膜モジュールであっても、液体透過型の中空糸膜モジュールと同様の脱気性能を有する。
【実施例】
【0069】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
[物性値の測定]
まず、以下の実施例、比較例において行った物性値の測定方法について説明する。
【0071】
(融解熱量の測定)
サンプルを10mgから20mgを採り、必要に応じてアルミセルにPTFEを封止する。ここで、PTFEは可能な限り収縮変形できるようにフリーな状態に保つことが重要であるので、セルを潰さないか、潰し切らないようにする。
【0072】
このサンプルについて、以下の条件で加熱や冷却を行う。
50℃/分の速度で室温から245℃まで加熱した後に、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する(第1ステップ)。
次に、-10℃/分の速度で365℃から350℃まで冷却して保持した後に、-10℃/分の速度で350℃から330℃まで冷却後、さらに-1℃/分の速度で330℃から305℃まで冷却する(第2ステップ)。
次に、-50℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却後、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する(第3ステップ)。
【0073】
0.5sec/回でサンプリングタイムを行い、株式会社島津製作所製熱流束示差走査熱量計DSC-60Aを使用し、吸熱量及び発熱量を求めた。第1ステップの吸熱量は303℃から353℃の区間、第2ステップの発熱量は318℃から309℃の区間、第3ステップの吸熱量は296℃から343℃の区間を積分して求めた値である。この第三ステップにおける吸熱量を融解熱量とする。
【0074】
(気孔率)
サンプルの乾燥質量と水中質量を測定し、これらの差よりサンプルの体積を求めた。又、PTFEの真比重を2.17g/ccとして、乾燥質量より、サンプルを構成する樹脂の体積を算出した。サンプルの体積から樹脂の体積を除いた空隙体積と、サンプルの体積の比を%表示し、気孔率とした。
【0075】
(イソプロパノールバブルポイント)
中空糸膜をイソプロピルアルコール容器に浸漬・含浸し、管壁の孔内をイソプロピルアルコールで充満した後、浸漬状態で一方の端面の内側より徐々に空気圧(内圧)を負荷したときに、初めて気泡が反対面より出てくるときの圧力を、バブルポイントとした。この時の測定最大圧力は500kPaとした。
【0076】
<中空糸膜 試験例No.1~No.4(実施例)>
[原料粉末の調製]
原料粉末である下記に示すPTFEファインパウダーを原料とした。ここで使用されるPTFEファインパウダーとは、テトラフルオロエチレンを乳化重合して生成した粒径が0.15μm~0.35μmのPTFE粒子(一次粒子)からなるもの(乳化重合品)を乾燥し数百μm~数千μmに造粒した粉体である。
【0077】
試験例No.1~試験例No.4で用いた原料樹脂は下記の通りである。
試験例No.1(ダイキン工業社製F208:変性PTFE)
試験例No.2(ダイキン工業社製F208:変性PTFE)
試験例No.3(AGC社製CD-123Eに0.8kGyのγ線を照射:ホモPTFE)
試験例No.4(AGC社製CD-123Eに1.0kGyのγ線を照射:ホモPTFE)
各原料の第3ステップの融解熱量を表1に示す。
【0078】
[成形工程]
得られたPTFEの粉末を下記の条件でチューブ状に成形した。チューブ状に成型する方法としては、例えば「フッ素樹脂ハンドブック(里川孝臣著、日刊工業新聞社)」に記載のペースト押出法やラム押出法を用いることができる。試験例No.1~試験例No.4については、上記ペースト押出法を用いた。PTFEの粉末に液状潤滑剤(「ソルベントナフサ」、富士フィルム和光純薬社製)を23質量部混合して、予備成型機で円筒状に押し固めた後に、押出機を用いてとぐろ状に押し出すことにより成形した。シリンダーとダイス温度は50℃とした。試験例No.1及びNo.2は、シリンダー径40mm、マンドレル径10mm、ダイス径1.0mm、コアピン径0.5mm、リダクションレシオ(R.R.)2000の押出機を用いた。試験例No.3及びNo.4は、シリンダー径30mm、マンドレル径10mm、ダイス径0.8mm、コアピン径0.4mm、リダクションレシオ1667の押出機を用いた。
【0079】
[乾燥工程]
乾燥工程では、200℃の熱風循環恒温槽で液体潤滑剤を乾燥させた。
【0080】
[焼結工程]
上記チューブ状成形品を連続延伸焼結機により、PTFE又は変性PTFEの融点以上である炉温度420℃で加熱し、延伸倍率0.9倍で焼結して、半透明の無孔質チューブを得た。
【0081】
[徐冷工程]
上記半透明の無孔質チューブをとぐろに巻いた状態で、熱風循環恒温槽に入れ350℃で5分間以上加熱し、連続して300℃以下まで-1℃/分以下の冷却速度で徐冷した。
【0082】
[延伸工程]
延伸工程では、得られた無孔質チューブ状成形品を以下の条件で延伸し、多孔質化チューブ状成形品を得た。引張試験機(島津製作所製の恒温槽付きオートグラフAG500)にて、チャック幅10mm、延伸速度500mm/分、170℃で延伸を行った。なお、平均外径と平均内径は任意の2点を測定して平均値を求め、平均厚さは、任意の2点における(平均外径-平均内径)/2の数式より求めた。
各試験例の延伸倍率、外径、内径及び平均厚さを表1に示す。
【0083】
<中空糸膜 試験例No.5~試験例14(比較例)>
原料粉末である下記に示すPTFE粉末に液状潤滑剤(富士フィルム和光純薬製ソルベントナフサ)を混合して押し固めた後に、チューブ状にペースト押出成形を行い、チューブ状成形体を作製する。その際、No.5~No.8は液状潤滑剤を19質量部、No.9~14は液状潤滑剤を23質量部配合した。その押出成形品を200℃に加熱し液体潤滑剤を乾燥除去し、未焼結チューブを得た。その後、連続延伸焼結機を用いて長手方向に280℃で延伸して多孔質化した後に380℃に焼結を行うことで、多孔質のチューブ状成形体を作製した。試験例No.5~試験例12における押出成形で用いたダイスの温度、延伸工程での延伸倍率、平均外径、平均内径及び平均肉厚を表1に示す。
【0084】
試験例No.5~試験例No.14の原料樹脂は下記の通りである。
試験例No.5(AGC社製CD123E:ホモPTFE)
試験例No.6(AGC社製CD123E:ホモPTFE)
試験例No.7(AGC社製CD123E:ホモPTFE)
試験例No.8(AGC社製CD123E:ホモPTFE)
試験例No.9(AGC社製CD141E:ホモPTFE)
試験例No.10(AGC社製CD141E:ホモPTFE)
試験例No.11(AGC社製CD141E:ホモPTFE)
試験例No.12(ダイキン工業社製F208:変性PTFE)
試験例No.13(AGC社製CD123E:ホモPTFE)
試験例No.14(AGC社製CD123E:ホモPTFE)
各原料の第3ステップの融解熱量を表1に示す。
【0085】
試験例No.1~試験例12の中空糸膜の押出条件、気孔率及びイソプロパノールバブルポイントの測定結果及びを表1及び表2に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
[中空糸膜モジュール(中空糸膜 試験例No.2及び試験例No.5~試験例7)]
試験例No.2及び試験例No.5~試験例7の中空糸膜を備える中空糸膜モジュールを作製した。試験例No.2の中空糸膜を備える中空糸膜モジュールは、中空糸膜の充填率が異なる4種類の中空糸膜モジュールを作製した。中空糸膜モジュールの筐体容積、中空糸膜の封入本数及び充填率を表3に示す。
【0089】
【0090】
[中空糸膜モジュールの脱気性能評価]
上記中空糸膜モジュールに溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行い、中空糸膜モジュールの脱気性能評価を行った。溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を供給した場合の脱気後の純水について、表4に上記中空糸膜モジュールの筐体の容積及び上記中空糸膜の充填率の積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合、脱気後の純水の溶存酸素濃度y2及び脱気率y1の関係を示す。また、表5に、上記筐体の容積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合、脱気後の純水の溶存酸素濃度y2及び脱気率y1の関係を示す。
【0091】
【0092】
【0093】
上記表1及び表2に示すように、PTFE又は変性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレン)を主成分とし、上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量が、30.0J/g以上45.0J/g以下である試験例No.1~試験例4の中空糸膜は、平均外径が1mm以下、平均内径が0.5mm以下であるにも係わらず、気孔率及びイソプロパノールバブルポイントにおいて高い値が得られた。これらの結果から、中空糸膜の主成分であるポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレンの第3ステップにおける融解熱量が30.0J/g以上45.0J/g以下であることで、延伸性能が向上するとともに、多孔質化が促進されて、微小な孔径を有する多孔質の中空糸膜が形成されたことがわかる。
【0094】
一方、上記第3ステップにおける296℃から343℃までの融解熱量が、30.0J/g未満又は45.0J/g超である試験例No.5~試験例No.11の中空糸膜は、平均外径が1mm以上、かつ平均内径が0.5mm以上のものしか得られず、気孔率又はイソプロパノールバブルポイントにおいて十分な値が得られなかった。
【0095】
試験例No.12の中空糸膜は、融解熱量が高い低分子量のPTFEを用いたことから、分子が絡みにくく線維化し難いので、加工硬化が起きにくく、より細い径で押出が可能である。しかし、未焼結体は脆く伸びないため、延伸に耐えられず破断した。
【0096】
試験例No.13は、融解熱量が低い高分子量のPTFEであるので、分子が絡み合いやすく繊維化しやすいので、押出ダイス内で加工硬化を起こし、樹脂の流動が乱れやすい傾向が見られた。試験例No.13は、リダクションレシオが高い程その傾向が高く、うねり、捻じれながら樹脂が押し出された。試験例No.13をNo.1~No.4と同様に押し出した結果、ダイス内で樹脂が押出品は波打つように吐き出された。このような押出成型品は配向が強く、うねりで屈曲した押出成型品を伸長すると割れが生じた。そのため、次工程に移行できなかった。
【0097】
試験例No.14は、予備成型シリンダー径29mm、押出成形シリンダー径30mmとした以外は、試験例No.1~No.4と同じ条件で押し出し、徐冷工程品(半透明の無孔質チューブ)を得た。試験例No.14は、助剤の添加量を多くし、リダクションレシオを低くすることで押し出すことができた。しかしながら、試験例No.14は、融解熱量が低い高分子量のPTFEを用いた焼結成形体であることから、硬く伸びにくいため、延伸に耐えられず破断した。
【0098】
表4に示すように、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積と上記充填率との積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x1と、脱気率y1との関係がy1≧-0.093x1+0.84(0.59≦x1≦5.41)を満たす中空糸膜モジュール(中空糸膜試験No.2-1~試験No.2-4)は、純水の溶存酸素の除去性能がより優れていることがわかる。
また、表4に示すように、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積と上記充填率との積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x1と、溶存酸素濃度y2との関係がy2≦0.64x1+1.10(0.59≦x1≦5.41)を満たす中空糸膜モジュール(中空糸膜試験No.2-1~試験No.2-4)は、純水の溶存酸素の除去性能がより優れていることがわかる。
【0099】
さらに、表5に示すように、中空糸膜モジュールの筐体に対する上記中空糸膜の充填率が30%以上80%以下であり、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x2と、脱気率y1との関係がy1≧-0.23x2+0.88(0.62≦x2≦2.10)を満たす中空糸膜モジュール(中空糸膜試験No.2-2~試験No.2-4)は、純水の溶存酸素の除去性能がより優れていることがわかる。
また、表5に示すように、中空糸膜モジュールの筐体に対する上記中空糸膜の充填率が30%以上80%以下であり、溶存酸素濃度6.5ppm以上の純水を透過させて酸素の脱気を行った場合に、上記筐体の容積に対する上記純水の毎分当たりの供給量の割合x2と、溶存酸素濃度y2との関係がy2≦1.48x2+0.85(0.62≦x2≦2.10)を満たす中空糸膜モジュール(中空糸膜試験No.2-2~試験No.2-4)は、純水の溶存酸素の除去性能がより優れていることがわかる。
【0100】
一方、試験例No.5~試験例No.7の中空糸膜を備える中空糸膜モジュールは、試験例No.2の中空糸膜を備える中空糸膜モジュールと比較すると、純水の溶存酸素の除去性能が劣っていた。従って、試験例No.5~試験例No.7の中空糸膜は、延伸性能が十分ではなく、大孔径になりやすいことから、純水の溶存酸素の除去性能が得られなかったと考えられる。
試験例No.8~試験例No.11の中空糸膜は中空糸内腔の純水が中空糸の壁を通過して漏れるため、モジュールの性能評価ができなかった。また、試験例No.12~試験例No.14の中空糸膜は、割れや破断が生じたため、モジュールの性能評価ができなかった。
【0101】
以上のように、当該中空糸膜は、孔の小径化を図りつつ、気孔率及びバブルポイントが高いことが示された。また、当該中空糸膜を備える中空糸膜モジュールは、特に脱気性能が優れることが示された。
【符号の説明】
【0102】
1 中空糸膜
2 膜部材
3 中空糸膜モジュール
4 第1封止部
5 第2封止部
7 液体供給口
8 液体排出口
9 気体ノズル
11 筐体
12 第1スリーブ
13 第1キャップ
14 第2スリーブ
15 第2キャップ