(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】局部電池反応を制御した一次電池又は二次電池用電極及び該電極を用いた一次電池又は二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20230606BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20230606BHJP
H01M 4/14 20060101ALI20230606BHJP
H01M 4/24 20060101ALI20230606BHJP
H01M 4/32 20060101ALI20230606BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230606BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20230606BHJP
H01M 4/56 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/02 Z
H01M4/14 Z
H01M4/24 Z
H01M4/32
H01M4/48
H01M4/50
H01M4/56
(21)【出願番号】P 2021195590
(22)【出願日】2021-12-01
(62)【分割の表示】P 2019142233の分割
【原出願日】2013-09-06
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2012197924
(32)【優先日】2012-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520006573
【氏名又は名称】一般社団法人イノベーションエネルギー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八尾 健
(72)【発明者】
【氏名】岩井 太一
(72)【発明者】
【氏名】田頭 英朗
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/038681(WO,A1)
【文献】特開2000-133258(JP,A)
【文献】特開2001-093520(JP,A)
【文献】特開2004-119020(JP,A)
【文献】特開2003-346895(JP,A)
【文献】特開2010-015964(JP,A)
【文献】特開2011-113833(JP,A)
【文献】特開平11-260350(JP,A)
【文献】特開平06-231750(JP,A)
【文献】特開平02-281560(JP,A)
【文献】特開平05-299093(JP,A)
【文献】特開昭48-067736(JP,A)
【文献】特開昭52-033040(JP,A)
【文献】特開昭48-070026(JP,A)
【文献】特開昭59-078451(JP,A)
【文献】特開昭57-036782(JP,A)
【文献】実開昭61-006260(JP,U)
【文献】米国特許第05721066(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極集電体及び電極活物質を含む電極活物質層を備える二次電池用電極であって、
前記電極集電体は、前記電極活物質と比較して-0Vより高い電極電位を有する物質からなるか、又は、前記電極活物質と比較して-0Vより高い電極電位を有する物質からなる層を表面に有し、
且つ、表面に、前記電極活物質と比較して、電極電位が-0.75Vと等しいかより低い物質を含有せず、
前記電極活物質は、水酸化ニッケル、β-NiOOH、酸化鉛及び二酸化マンガンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記二次電池は、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、充電式アルカリ電池又は鉛蓄電池である、二次電池用電極。
【請求項2】
前記電極活物質と比較して-0Vより高い電極電位を有する物質が、金、白金、銀、イリジウム及びロジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
二次電池用正極である、請求項1
又は2に記載の二次電池用電極。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の二次電池用電極を備える、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、充電式アルカリ電池又は鉛蓄電池である二次電池。
【請求項5】
電極集電体及び電極活物質を含む電極活物質層を備える二次電池用電極を用いた電池において局部電池反応による劣化を抑制する方法であって、
前記電極集電体は、前記電極活物質と比較して-0Vより高い電極電位を有する物質からなるか、又は、前記電極活物質と比較して-0Vより高い電極電位を有する物質からなる層を表面に有し、
且つ、表面に、前記電極活物質と比較して、電極電位が-0.75Vと等しいかより低い物質を含有せず、
前記二次電池は、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、充電式アルカリ電池又は鉛蓄電池である、方法。
【請求項6】
前記局部電池反応によって電池を劣化させる物質が生成することを抑制する方法である、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記電極活物質と比較して-0Vより高い電極電位を有する物質が、金、白金、銀、イリジウム及びロジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項
5又は
6に記載の方法。
【請求項8】
前記電極活物質が、水酸化ニッケル、β-NiOOH、酸化鉛及び二酸化マンガンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項
5~
7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局部電池反応を制御した一次電池又は二次電池用電極及び該電極を用いた一次電池又は二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のアルカリ二次電池は、高容量、且つ、大電力・大電流時の放電特性に優れる、安全性が高い等の特長を有しており、家庭用電池からハイブリッドカーまで様々な分野で幅広く採用されている。特に、ニッケル水素電池のエネルギー密度はニッケルカドミウム電池や鉛蓄電池等と比較して高く、環境負荷が小さく安全性も高いので、特にハイブリッドカー等に採用されている。
【0003】
例えば、ニッケル水素電池を例に取ると、正極に水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、負極に水素吸蔵合金(MH:Mは合金を表す)、電解液に水酸化カリウム水溶液(KOH(aq))等を用いて、充放電の際の反応式は以下のように表される。
【0004】
正極:NiOOH + H2O + e- ⇔ Ni(OH)2+ OH-
負極:MH + OH- ⇔ M + H2O + e-
しかしながら、アルカリ二次電池を十分に放電し切らないうちに継ぎ足し充電をすると、その後放電をする際に、十分放電し切らないうちから起電力が顕著に低下する現象、いわゆるメモリー効果が発生し、結果として容量が減少したようにも見える。
【0005】
従来は、メモリー効果が発生した場合、一旦強制的に深く放電させてから、改めて充電することにより、メモリー効果を消失させる方法が広く採用されてきた。
【0006】
しかしながら、この方法は、メモリー効果の発生を抑制するわけではないため、抜本的な解決策とは言えない。また、深く放電させるのに無駄な時間、電気を要するうえに、完全に容量を回復させることは困難であり、容量及び耐久性が十分とは言えない。しかも、このような専門的な操作は、電池の普及を妨げる一因となっていた。このような弊害は、二次電池のみならず一次電池にも見られると考えられる。
【0007】
このメモリー効果については、現在までに様々な研究がなされており、その原因は、佐藤らによると、ニッケル水素電池においては、通常、充電過程で、正極ではNi(OH)2がβ-NiOOHとなるが、浅い充放電を繰り返すことでγ-NiOOHが生成することによるとされている(非特許文献1)。一方γ-NiOOHは過充電により生成し、β-NiOOHよりも酸化が進んだ状態であると電池便欄に記載されている(電池便覧第3版 平成13年2月20日発行、丸善株式会社)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Yuichi Sato et al., J. Power Sources 93 (2001) 20-24.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、メモリー効果を抑制し、耐久性を向上させるとともに、容量も向上させることができる一次電池又は二次電池用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来は、上記のように、浅い充放電を繰り返すことでβ-NiOOHからγ-NiOOHが生成し、それにより電池が劣化すると考えられていたが、還元過程である放電の途中で放電を止めたときにメモリー効果が生じることの理由としては矛盾している。そこで、本発明者らは、上記課題に鑑み、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等の、β-NiOOHを活物質として使用する電池におけるγ-NiOOHの生成について詳細に研究を重ねた。その結果、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等水酸化ニッケルを活物質として使用する電池においては、通常電極集電体としてニッケルメッシュ等を用いており、このニッケルと放電後に正極に存在するβ-NiOOHとの間で、開回路時において、電極活物質(β-NiOOH)を正極、電極集電体(Ni)を負極とする局部電池が形成され、これによる局部電池反応によって非特許文献1に言うγ-NiOOHが生成し、電池が劣化していることを見出した。
【0011】
なお、局部電池反応によって生成する上記γ-NiOOHは、CuKα線によるX線回折で回折角2θの10.5~15度(特に12度付近)の位置に回折ピークを有している。一方、過充電により生成するγ-NiOOHも回折角2θの10.5~15度(特に12度付近)の位置に回折ピークを有しており、ピーク位置は類似しているが、同一物質かどうかは明確ではない。なぜなら、充電過程は、電極活物質(β-NiOOH)には酸化過程であるのに対し、電極集電体(Ni)との間で局部電池反応が起こっている過程は、電極活物質(β-NiOOH)には還元過程であるからである。本明細書では、過充電で生ずるγ-NiOOHを「γox-NiOOH」、局部電池反応で生ずるγ-NiOOHを「γred-NiOOH」と表記することもある。この表記では、非特許文献1のγ-NiOOHは、γred-NiOOHである。また電池便欄p.306~307(電池便覧第3版 平成13年2月20日発行、丸善株式会社)に記載されている、過充電で現れる、β-NiOOHよりも酸化が進んだ状態としてのγ-NiOOHは、γox-NiOOHに相当する。しかしながら、現時点で、γox-NiOOHとγred-NiOOHとが物質的に異なると述べている報文は全くない。そのため本明細書では、両者を区別することなく、γ-NiOOHと記載することとするが、酸化が進んだ状態であるか還元が進んだ状態であるか区別するため、その後の括弧にγox-NiOOH又はγred-NiOOHを記載することもある。
【0012】
一般に電池電極を開回路にすると、電極材料と電極支持金属との間の局部電池反応が起こる。特に、電池不使用時は開回路となり、上記局部電池反応が起こる。電極支持金属を適当に選択することにより、開回路時の局部電池反応を制御することができる。そして、今回、電極集電体の表面に、電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質を含有しないこととすることにより、このような局部電池反応によるγ-NiOOH(γred-NiOOH)の生成を制御できることを見出した。このように、電極を構成する物質を変えることにより、局部電池反応を制御することができ、メモリー効果を抑制できる。さらに、局部電池反応を制御することにより、耐久性及び容量を向上できる。これらのことは、メモリー効果が顕著なニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のアルカリ二次電池に限らず、リチウム電池や、鉛蓄電池等の二次電池や、一次電池においても局部電池反応が発生すると考えられるため、同様の改善となる。本発明者らは、さらに研究を重ね、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.電極集電体及び電極活物質を含む電極活物質層を備える電池用電極であって、
前記電極集電体は、前記電極集電池体と前記電極活物質との間に起こる局部電池反応を制御する物質からなるか、又は、前記電極集電池体と前記電極活物質との間に起こる局部電池反応を制御する物質からなる層を表面に有する、一次電池又は二次電池用電極。
項2.二次電池用電極である、項1に記載の電極。
項3.前記局部電池反応を制御する物質が、開回路時の局部電池反応を制御する物質である、項1又は2に記載の電極。
項4.前記局部電池反応は、電池使用時の電極反応と同じ反応である、項1~3のいずれかに記載の電極。
項5.前記電極集電体は、表面に、前記電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質を含有しない、項1~4のいずれかに記載の電極。
項6.前記大きく卑な電極電位を有する物質は、電極活物質と比較して、電位が-0.75Vと等しいかより低い物質である、項5に記載の電極。
項7.前記局部電池反応を制御する物質が、前記電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質である、項1~6のいずれかに記載の電極。
項8.前記大きく卑ではない電極電位を有する物質は、電極活物質と比較して、電位が-0.75Vより高い物質である、項7に記載の電極。
項9.前記局部電池反応を制御する物質が、電解質に対し電気化学的に不活性な物質である、項1~8のいずれかに記載の電極。
項10.前記電極活物質が、水酸化ニッケル、β-NiOOH、リチウム含有遷移金属酸化物、リチウム金属、炭素質材料、酸化鉛、二酸化マンガンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、項1~9のいずれかに記載の電極。
項11.前記電極活物質が、水酸化ニッケル及び/又はβ-NiOOHを含有する、項1~10のいずれかに記載の電極。
項12.前記電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質が、金、白金、銀、イリジウム及びロジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、項7、8、10又は11に記載の電極。
項13.前記電解質に対し電気化学的に不活性な物質が、炭素質材料及び導電性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、項9~11のいずれかに記載の電極。
項14.項1~13のいずれかに記載の電極を備える一次電池又は二次電池。
項15.二次電池である、項14に記載の電池。
項16.ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、充電式アルカリ電池、リチウムイオン二次電池又は鉛蓄電池である、項14又は15に記載の電池。
項17.ニッケル水素電池又はニッケルカドミウム電池である、項14~16のいずれかに記載の電池。
項18.前記電極活物質がCuKα線によるX線回折で回折角2θの10.5~15度の位置に新たな回折ピークを示すようになることが抑制されている、項17に記載の二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電極集電池体と電極活物質との間に起こる局部電池反応を制御する物質からなるか、又は、電極集電池体と電極活物質との間に起こる局部電池反応を制御する物質からなる層を表面に有する(具体的には、例えば、電極集電体の表面に、電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質を含有しないこととする)電極集電体を使用することにより、このような局部電池反応を制御し、一次電池又は二次電池の耐久性及び容量を向上させることができる。電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質を含有しないことのなかには、電解質に対し電気化学的に不活性な物質を含有することも含むものとする。また、電極活物質層中に導電助剤を含ませる場合は、電極集電体及び導電助材の表面にある物質と、電極活物質との間に起こる局部電池反応を制御する(電極集電体及び導電助材の表面に、電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質を含有しないこととする)ことにより、このような局部電池反応を制御し、一次電池又は二次電池の耐久性及び容量を向上させることができる。この場合も、電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質を含有しないことのなかには、電解質に対し電気化学的に不活性な物質を含有することも含むものとする。特に、β-NiOOHを電極活物質として使用する場合には、従来からメモリー効果の一因とされていたγ-NiOOH(γred-NiOOH)の生成を抑制することができる。局部電池反応を制御することにより、メモリー効果を抑制できる。さらに、局部電池反応を制御することにより、耐久性及び容量を向上できる。これらのことは、メモリー効果が顕著なニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のアルカリ二次電池に限らず、リチウム電池や、鉛蓄電池、種々の一次電池においても局部電池反応が発生すると考えられるため、同様の改善となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】合成例1で合成したβ-NiOOHのX線回折の結果を示すグラフである。
【
図2】合成例1において、過度に酸化した場合にγ-NiOOH(γox-NiOOH)が生成することを示すX線回折の結果のグラフである。
【
図3】比較例1(レスト1日)の実験例1の結果を示すXRDパターンである。2θ=10.5°~15°において、γ-NiOOH(γred-NiOOH)のピークが見られる。
【
図4】比較例2の実験例1の結果を示すXRDパターンである。2θ=10.5°~15°において、γ-NiOOH(γred-NiOOH)のピークが見られる。ピークは、比較例1よりも大きい。
【
図5】実施例1(レスト1日)の実験例1の結果を示すXRDパターンである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図6】実施例2の実験例1の結果を示すXRDパターンである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図7】実施例3の実験例1の結果を示すXRDパターンである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図8】実施例4の実験例1の結果を示すXRDパターンである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図9】比較例2の実験例1の結果を示すXRDパターンである。静置時間の違いによるパターンの違いが示されている。
【
図10】比較例1の実験例2の結果を示すグラフである。過程(1)、(3)及び(6)における電圧の時間変化を示す。
【
図11】比較例2の実験例2の結果を示すグラフである。過程(1)、(3)及び(6)における電圧の時間変化を示す。
【
図12】実施例1の実験例2の結果を示すグラフである。過程(3)及び(6)における電圧の時間変化を示す。
【
図12A】実施例1の実験例2の結果を示すグラフである。過程(3)における電圧の時間変化を示す。
【
図12B】実施例1の実験例2の結果を示すグラフである。過程(6)における電圧の時間変化を示す。
【
図13】実施例2の実験例2の結果を示すグラフである。過程(3)及び(6)における電圧の時間変化を示す。
【
図14】実施例3の実験例2の結果を示すグラフである。過程(3)及び(6)における電圧の時間変化を示す。
【
図14A】実施例3の実験例2の結果を示すグラフである。過程(3)における電圧の時間変化を示す。
【
図14B】実施例3の実験例2の結果を示すグラフである。過程(6)における電圧の時間変化を示す。
【
図15】実施例4の実験例2の結果を示すグラフである。過程(3)及び(6)における電圧の時間変化を示す。
【
図16】実施例1の実験例3の結果を示すXRDパターンである。2θ=10.5°~15°において、やはりピークは見られない。
【
図17】実施例6の実験例3の結果を示すXRDパターンである。2θ=10.5°~15°において、やはりピークは見られない。
【
図18】比較例3の実験例3の結果を示すXRDパターンである。2θ=10.5°~15°において、γ-NiOOH(γred-NiOOH)のピークが強く見られる。
【
図19】比較例3の実験例4の結果を示すグラフである。
【
図20】実施例6の実験例4の結果を示すグラフである。比較例3と比較して容量及び電位が大きいことが示されている。
【
図21】実施例1の実験例5の結果を示すグラフである。休止後に放電曲線の電位の降下は見られなかった。
【
図22】実施例2の実験例5の結果を示すグラフである。休止後に放電曲線の電位の降下は見られなかった。
【
図23】実施例3の実験例5の結果を示すグラフである。休止後に放電曲線の電位の降下は見られなかった。
【
図24】実施例1の実験例6のサイクル充放電試験(休止時間なし;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、下から順に1サイクル目~5サイクル目である。
【
図25】実施例1の実験例6のX線回折測定(休止時間なし;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図26】実施例2の実験例6のサイクル充放電試験(休止時間なし;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、下から順に1サイクル目~5サイクル目である。
【
図27】実施例2の実験例6のX線回折測定(休止時間なし;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図28】比較例1の実験例6のサイクル充放電試験(休止時間なし;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、右端において上から順に1サイクル目~5サイクル目である。
【
図29】比較例1の実験例6のX線回折測定(休止時間なし;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図30】実施例3の実験例6のサイクル充放電試験(休止時間なし;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、下から順に1サイクル目~5サイクル目である。
【
図31】実施例3の実験例6のX線回折測定(休止時間なし;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図32】実施例1の実験例6のサイクル充放電試験(休止時間なし;10サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、下から順に1サイクル目~10サイクル目である。
【
図33】実施例1の実験例6のX線回折測定(休止時間なし;10サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図34】実施例2の実験例6のサイクル充放電試験(休止時間なし;10サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、上から順に1サイクル目~10サイクル目である。
【
図35】実施例2の実験例6のX線回折測定(休止時間なし;10サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図36】比較例1の実験例6のサイクル充放電試験(休止時間なし;10サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、右端において上から順に1サイクル目~10サイクル目である。
【
図37】比較例1の実験例6のX線回折測定(休止時間なし;10サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図38】実施例3の実験例6のサイクル充放電試験(休止時間なし;10サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、下から順に1サイクル目~10サイクル目である。
【
図39】実施例3の実験例6のX線回折測定(休止時間なし;10サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図40】実施例1の実験例6のサイクル充放電試験(休止1時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、上から順に1サイクル目~5サイクル目である。
【
図41】実施例1の実験例6のX線回折測定(休止1時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図42】実施例2の実験例6のサイクル充放電試験(休止1時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、上から順に1サイクル目~5サイクル目である。
【
図43】実施例2の実験例6のX線回折測定(休止1時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図44】比較例1の実験例6のサイクル充放電試験(休止1時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、上から順に1サイクル目~5サイクル目である。
【
図45】比較例1の実験例6のX線回折測定(休止1時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図46】実施例3の実験例6のサイクル充放電試験(休止1時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、上から順に1サイクル目~5サイクル目である。
【
図47】実施例3の実験例6のX線回折測定(休止1時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図48】実施例1の実験例6のサイクル充放電試験(休止1時間;10サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、右端において、上から順に1サイクル目~10サイクル目である。
【
図49】実施例1の実験例6のX線回折測定(休止1時間;10サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図50】実施例2の実験例6のサイクル充放電試験(休止1時間;10サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、右端において、上から順に1サイクル目~10サイクル目であり、10サイクル目で電圧降下が見られた。
【
図51】実施例2の実験例6のX線回折測定(休止1時間;10サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図52】実施例3の実験例6のサイクル充放電試験(休止1時間;10サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、上から順に1サイクル目~10サイクル目である。
【
図53】実施例3の実験例6のX線回折測定(休止1時間;10サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図54】実施例1の実験例6のサイクル充放電試験(休止2時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、上から順に1サイクル目~5サイクル目であり、5サイクル目で電圧降下が見られた。
【
図55】実施例1の実験例6のX線回折測定(休止2時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図56】実施例2の実験例6のサイクル充放電試験(休止2時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、上から順に1サイクル目~5サイクル目であり、5サイクル目で電圧降下が見られた。
【
図57】実施例2の実験例6のX線回折測定(休止2時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【
図58】比較例1の実験例6のサイクル充放電試験(休止2時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、上から順に1サイクル目~5サイクル目であり、2サイクル目で電圧降下が見られた。
【
図59】比較例1の実験例6のX線回折測定(休止2時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、γ-NiOOHのピークが見られる。
【
図60】実施例3の実験例6のサイクル充放電試験(休止2時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。曲線は、上から順に1サイクル目~5サイクル目である。
【
図61】実施例3の実験例6のX線回折測定(休止2時間;5サイクル)の結果を示すグラフである。2θ=10.5°~15°において、ピークは見られない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.一次電池又は二次電池用電極
本発明の一次電池又は二次電池用電極は、電極集電体、及び電極活物質を含む電極活物質層を備える電池用電極であって、前記電極集電体は、前記電極集電池体と前記電極活物質との間に起こる局部電池反応を制御する物質からなるか、又は、前記電極集電池体と前記電極活物質との間に起こる局部電池反応を制御する物質からなる層を表面に有している(特に、局部電池反応を制御する物質は、開回路時の局部電池反応を制御する物質であることが好ましい)。具体的には、前記電極集電体は、表面に、前記電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質を含有しないことが好ましい。また、電極活物質層中に導電助剤、添加剤等を含ませる場合は、電極集電体の表面にある物質、導電助剤、添加剤等の表面にある物質と、電極活物質との間に起こる局部電池反応を制御する(電極集電体及び導電助剤の表面に、電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質を含有しない)ことが好ましい。
【0016】
<電極集電体>
電極集電体は、上記のとおり、表面に、前記電極集電体は、前記電極集電池体と前記電極活物質との間に起こる局部電池反応を制御する物質からなるか、又は、前記電極集電池体と前記電極活物質との間に起こる局部電池反応を制御する物質からなる層を表面に有している。この局部電池反応を制御するためには、電極集電体は、電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質を含有しないことが好ましい。このように、局部電池反応を制御する物質からなるか、又は、局部電池反応を制御する物質からなる層を表面に有している(特に、電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質を電極集電体の表面に含まない)ことで、開回路時、例えば電池不使用時において、電極活物質(β-NiOOH等)を正極、電極集電体(Ni等)を負極とする局部電池の生成を制御し、これによる局部電池反応によって電池が劣化するのを抑制することができる。
【0017】
このような電極集電体の構成としては、電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質及び/又は電解質に対し電気化学的に不活性な物質からなるか、又は電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質及び/又は電解質に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を表面に有することが好ましい。また、導電助剤、添加剤等を使用する場合には、導電助材、添加剤等も電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質及び/又は電解質に対し電気化学的に不活性な物質からなるか、又は電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質及び/又は電解質に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を表面に有することが好ましい。このような構成を採用することにより、より確実に、開回路時において、電極活物質(β-NiOOH等)を正極、電極集電体(Ni等)を負極とする局部電池の反応を制御し、これによる局部電池反応によって電極材料が劣化するのを抑制して耐久性と容量を向上させることができる。
【0018】
「電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質」としては、本明細書においては、電極活物質の電極電位よりも大幅に低くはない電極電位を有する物質のみに限られず、「電解質に対し、電気化学的に不活性な物質」も含むものとする。このような物質としては、特に制限されるわけではないが、電極活物質と比較して、電位が-0.75Vより高い物質が好ましく、-0.50Vより高い物質がより好ましく、-0.25Vより高い物質がさらに好ましく、0Vより高い物質が特に好ましい。また、「電解質に対し、電気化学的に不活性な物質」も好ましく使用できる。反対に、「電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質」として、電極活物質と比較して、電位が-0.75Vと等しいかより低い物質を含まないことが好ましい。具体的には、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池用正極等の水酸化ニッケルを活物質として使用する正極を例に取ると、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池用正極等を充電したときに生成されるβ-NiOOH(+ 0.52 V vs SHE)と比較して、電位が-0.75Vより高い鉛、銅、金(1価)、白金、銀、イリジウム、ロジウム等が好ましく、電位が-0.25Vより高い銅、金(1価)、白金、銀、イリジウム、ロジウム等がより好ましく、電位が0Vより高い金(1価)、白金、銀、イリジウム、ロジウム等が特に好ましい。また、「電解質に対し、電気化学的に不活性な物質」としては、電解質が水酸化カリウム水溶液又は硫酸水溶液等の水溶液系の場合は、炭素質材料、導電性高分子(特に導電性有機高分子)等を好ましく使用できる。炭素質材料としては、特に制限はなく、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;活性炭;アモルファスカーボン等を好ましく採用でき、導電性高分子としても特に制限はなく、ポリチオフェン・ポリアセチレン・ポリアニリン・ポリピロール・ポリチアジル等を好ましく採用することができる。これらの物質は、1種単独で含まれていてもよいし、2種以上が組合されて含まれていてもよい。
【0019】
一方、β-NiOOHの標準電極電位と比較して電位が-0.75Vより低いニッケル、チタン、リチウム、カリウム、鉄、亜鉛等は電極集電体の表面に有さないことが好ましい。また、導電助剤、添加剤等を使用する場合には、導電助剤、添加剤等の表面にも、これらの物質を有さないことが好ましい。
【0020】
なお、各物質の標準電極電位は、それぞれ、リチウム(Li++e-→Li;-3.04 V vs SHE)、カリウム(K++e-→K;-2.925 V vs SHE)、チタン(Ti2++2e-→Ti;-1.63 V vs SHE)、亜鉛(Zn2++2e-→Zn;-0.763 V vs SHE)、鉄(Fe2++2e-→Fe;-0.440 V vs SHE)、ニッケル(Ni2++2e-→Ni;-0.257 V vs SHE)、鉛(Pb2++2e-→Pb;-0.126 V vs SHE)、銅(Cu2++e-→Cu+;+ 0.337 V vs SHE)、ロジウム(Rh3++3e-→Rh;+0.758V vs SHE)、銀(Ag++e-→Ag;+ 0.799 V vs SHE)、イリジウム(Ir3++3e-→Ir;+ 1.156V vs SHE)、白金(Pt2++2e-→Pt;+ 1.188 V vs SHE)、金(1価)(Au++e-→Au;+ 1.83 V vs SHE)である。
【0021】
なお、電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質及び/又は電解質に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を表面に有する電極集電体を採用する場合、表面以外の中心部は、電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質であってもよいし、電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質であってもよい。また、電解質に対し電気化学的に不活性な物質であってもよい。つまり、電極活物質よりも大きく卑な電極電位を有する物質であっても、その表面に電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質及び/又は電解質に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を形成すれば、それを電極集電体として使用することができる。この際、「表面に電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質及び/又は電解質に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を形成する」とは、表面が上記特定の物質からなる層で完全に被覆されている必要はなく、表面に上記特定の物質が散在している場合も含むものとする。このため、電極活物質として安価な材料を使用し、その表面に電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質及び/又は電解質に対し電気化学的に不活性な物質からなる層(特に安価な炭素質材料、導電性高分子等)を形成することで、より安価に本発明の一次電池又は二次電池用電極を作製することができる。
【0022】
電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質及び/又は電解質に対し電気化学的に不活性な物質からなる層の厚みは、特に制限されないが、局部電池反応によって電極材料が劣化するのをより確実に抑制して耐久性と容量をより向上させる観点から、5nm~10mmが好ましく、10nm~1mmがより好ましい。
【0023】
電極集電体の表面に電極活物質よりも大きく卑ではない電極電位を有する物質及び/又は電解質に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を形成する方法としては、特に制限されない。例えば、塗布法、めっき法、蒸着法等を採用することができる。塗布法を採用する場合は、例えば、アプリケーターロール等のローラーコーティング;スクリーンコーティング;ドクターブレード方式;スピンコーティング;バーコータ等の手段を用いて塗布することができる。また、めっき法を採用する場合は、電解めっき及び無電解めっきのいずれでもよい。
【0024】
<電極活物質層>
電極活物質層中の電極活物質としては、特に制限されるわけではなく、従来から、一次電池又は二次電池の正極又は負極に採用されている材料を使用することができる。
【0025】
具体的には、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、充電式アルカリ電池等には、局部電池反応による劣化をより抑制する観点から本発明の一次電池又は二次電池用の電極を正極として使用することが好ましく、この場合通常正極活物質として使用される水酸化ニッケル、充電過程で形成されるβ-NiOOH、二酸化マンガン等を採用することが好ましい。
【0026】
リチウムイオン二次電池等には、本発明の一次電池又は二次電池用の電極を正極及び負極のいずれに使用してもよい。正極として使用する場合には正極活物質として使用されるLiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiFePO4、LiNixMnyCozO2(0<x、0<y、0<z、x+y+z=1である)等のリチウム含有遷移金属酸化物等を採用することができ、負極として使用する場合には負極活物質として使用されるリチウム金属、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛、活性炭等の炭素質材料、LivTiwO4(0<v、0<w、v+w=3である)等のリチウム含有遷移金属酸化物を採用することができる。
【0027】
鉛蓄電池等には、局部電池反応による劣化をより抑制する観点から本発明の一次電池又は二次電池用の電極を正極として使用することが好ましく、この場合通常正極活物質として使用される酸化鉛等を採用することができる。
【0028】
上記では、二次電池についての例のみ記載したが、本発明の電極を種々の一次電池に採用することも可能である。
【0029】
これらのなかでも、メモリー効果が顕著なニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等において、電池の劣化を抑制して耐久性及び容量をより向上させることができることから、水酸化ニッケル、β-NiOOH等が好ましい。
【0030】
これらの電極活物質の電極活物質層中の含有量は、特に制限されず、従来から、本発明の一次電池又は二次電池用電極を採用する一次電池又は二次電池の正極又は負極に適用される程度とすることができる。
【0031】
<導電助剤>
本発明において、電極活物質層には、導電助剤を含ませることもできる。
【0032】
導電助剤としては、電子伝導性材料であり、局部電池反応を制御できる材料を採用することが好ましい。具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;カーボンブラック;アセチレンブラック;ケッチェンブラック;カーボンウイスカー;炭素繊維;気相成長炭素等の導電性材料を1種又はそれらの混合物として含ませることができる。
【0033】
他にも、電極活物質層には、上記成分の他に、結着剤、増粘剤等を含ませることもできる。
【0034】
結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種又は2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、負極活物質層の総質量に対して2~15質量%程度が好ましい。
【0035】
増粘剤としては、通常、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類等を1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0036】
これらの混合方法は、物理的な混合であり、均一混合が好ましい。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミル等のような粉体混合機を乾式又は湿式で使用することが可能である。
【0037】
本発明において、電極集電体上に電極活物質層を形成する方法は特に制限されない。例えば、電極活物質等の各種成分を水に混合させて、電極(正極又は負極)活物質層形成用ペースト組成物を作製し、その後、該ペースト組成物を上述の電極集電体に含浸又は塗布し、乾燥する方法等が挙げられる。
【0038】
塗布方法については、例えば、アプリケーターロール等のローラーコーティング;スクリーンコーティング;ドクターブレード方式;スピンコーティング;バーコータ等の手段を用いて塗布することができる。また、乾燥条件も特に制限はなく、通常一次電池又は二次電池において採用されている範囲で採用することができる。
【0039】
2.一次電池又は二次電池
本発明の一次電池又は二次電池は、本発明の一次電池又は二次電池用電極を備える。以下、各電池ごとに、構成を説明する。
【0040】
<アルカリ二次電池>
本発明の電極を、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、充電式アルカリ電池等のアルカリ二次電池に使用する場合、電極活物質としては水酸化ニッケル(充電時はβ-NiOOH)、二酸化マンガン等を採用し、本発明の電極は正極として使用することが好ましい。
【0041】
その他の部材としては、負極、電解液、セパレータ等が挙げられる。これらは、適宜製造したものでもよく、市販品でもよく、公知のニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のアルカリ二次電池における部材、材料を採用できる。これらのなかでも、負極の材料としては、ニッケル水素電池の場合は水素吸蔵合金、ニッケルカドミウム電池の場合は水酸化カドミウム等が好ましい。また、電解液の材料としては、水酸化カリウム水溶液等が好ましい。
【0042】
水素吸蔵合金としては、特に制限されず、従来からニッケル水素電池用の負極活物質として使用されているものを使用することができる。例えば、水素吸蔵が可能な合金であって、一般にAB2系、AB5系、又はAB2及びAB5混合系と呼ばれる合金であればよく、その組成には特別の制限はない。これらのうち、AB5型の合金のMHNi5(MHは希土類元素の混合物(ミッシュメタル))のNiの一部をCo、Mn、Al、Cu等で置換した合金は、優れた充放電サイクル寿命特性と高い放電容量を持つので好ましい。
【0043】
このアルカリ二次電池は、ニッケル水素電池又はニッケルカドミウム電池の場合、局部電池反応を制御してγ-NiOOH(γred-NiOOH)の生成を抑制することができるため、CuKα線によるX線回折で回折角2θの10.5~15度の位置に新たな回折ピークを示すようになることが抑制される。
【0044】
<リチウムイオン二次電池>
リチウムイオン二次電池には、本発明の電極を、正極及び負極のいずれにも採用でき、いずれにも採用することが好ましい。
【0045】
その他の部材としては、電解液、セパレータ等が挙げられる。これらは、適宜製造したものでもよく、市販品でもよく、公知のリチウム電池における部材、材料を採用できる。
【0046】
<鉛蓄電池>
本発明の電極を、鉛蓄電池に使用する場合、電極活物質としては二酸化鉛を採用し、本発明の電極は正極として使用することが好ましい。
【0047】
その他の部材としては、負極、電解液、セパレータ等が挙げられる。これらは、適宜製造したものでもよく、市販品でもよく、公知の鉛蓄電池における部材、材料を採用できる。
【0048】
その他、本発明の電極は、周知の一次電池の電極(正極又は負極)にも、好ましく採用できる。この際の他の構成部材は、周知のものを採用すればよい。
【実施例】
【0049】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[合成例1:β-NiOOHの合成]
市販のNi(OH)2及びNaClOを用いて、以下の反応式に従って合成を行なった。
反応式:2Ni(OH)2+ NaClO → 2NiOOH + NaCl + H2O。
【0051】
Ni(OH)2を0.4gに対し蒸留水10mlを加えてスラリー状にしたものに、NaClO10ml、8Mの水酸化ナトリウム水溶液10mlを加えてpHを13以上に調整し、ホットスターラーを用いて温度を20℃に保ち、1時間30分攪拌しつつ反応させた。これを吸引ろ過した後に、40℃で1日空気中で乾燥させた。
【0052】
CuKα線によるX線回折測定を行ったところ、
図1のような回折パターンが得られ、2θ=約19°、約38°に特徴的なピークが観測された。また、2θ=10.5°~15°にピークが見られないこと、2θ=40°より高角度側に大きなピークが見られないことから、γ-NiOOHではなく、β-NiOOHが得られたと判断した。このパターンは、J. Pan et al. / Electrochemica Acta 54 (2009) 3812-3818のFig. 3にあるパターンと一致している。
【0053】
なお、同じ条件で反応時間を長くすると、
図2に示すように、XRDパターンに、2θ=10.5°~15°の間にピークが現れた。このパターンは、J. Pan et al. / Electrochemica Acta 54 (2009) 3812-3818のFig. 3のγ-NiOOHのピークと同様であり、γ-NiOOH(γox-NiOOH)が生成したことが分かった。
【0054】
以上の結果から、Ni(OH)2を酸化することでβ-NiOOHが生成し、過度に酸化することで、γ-NiOOH(γox-NiOOH)が生成することが分かった。
【0055】
[比較例1:ニッケルメッシュ]
合成例1で作成したβ-NiOOHに導電助剤としてアセチレンブラック、結着剤としてPTFEを、β-NiOOH:アセチレンブラック:結着剤が80:15:5(質量%)の割合でそれぞれ加え、よく混合し、正極活物質層形成用ペースト組成物を作製した。
【0056】
正極支持体(電極集電体)として、ニッケルメッシュ((株)ニラコ製;ニッケル 金網100mesh)を用い、当該正極支持体に、厚みが0.1~10mm(特に1mm)となるように、正極活物質層形成用ペースト組成物を塗布し、乾燥させて、比較例1の二次電池用正極を得た。
【0057】
[比較例2:チタンメッシュ]
正極支持体(電極集電体)として、ニッケルメッシュではなく、チタンメッシュ((株)ニラコ製;チタン 金網100mesh)を用いたこと以外は比較例1と同様に、比較例2の二次電池用正極を得た。
【0058】
[実施例1:金メッシュ]
正極支持体(電極集電体)として、ニッケルメッシュではなく、金メッシュ((株)ニラコ製;金 金網100mesh)を用いたこと以外は比較例1と同様に、実施例1の二次電池用正極を得た。
【0059】
[実施例2:白金メッシュ]
正極支持体(電極集電体)として、ニッケルメッシュではなく、白金メッシュ((株)ニラコ製;白金 金網100mesh)を用いたこと以外は比較例1と同様に、実施例2の二次電池用正極を得た。
【0060】
[実施例3:カーボンコートニッケルメッシュ]
E-1010形日立イオンスパッターを用いて、マニュアルに従い、付加電流20Aで始め、これが0Aになるまで、約10秒蒸着を継続し、カーボンコートニッケルメッシュを得た。このときの膜厚は、マニュアルによれば12nmとなる。
【0061】
正極支持体(電極集電体)として、ニッケルメッシュではなく、カーボンコートニッケルメッシュを用いたこと以外は比較例1と同様に、実施例3の二次電池用正極を得た。
【0062】
[実施例4:カーボンコートチタンメッシュ]
E-1010形日立イオンスパッターを用いて、マニュアルに従い、付加電流20Aで始め、これが0Aになるまで、約10秒蒸着を継続し、カーボンコートチタンメッシュを得た。このときの膜厚は、マニュアルによれば12nmとなる。
【0063】
正極支持体(電極集電体)として、ニッケルメッシュではなく、カーボンコートチタンメッシュを用いたこと以外は比較例1と同様に、実施例4の二次電池用正極を得た。
【0064】
[実験例1:レスト時のγ-NiOOH(γred-NiOOH)の生成]
実施例1~4及び比較例1~2の二次電池用正極をそれぞれ作用極とし、対極にPt、参照極にAg/AgCl参照電極を用い、8MのKOHを電解液として、ガラスセル(二次電池)を作製した。
【0065】
+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトー(電位変化の小さな領域)の途中まで放電した後、開回路の状態で静置した。実施例1~4及び比較例1~2について、種々の時間経過後の正極材料のXRDパターンを以下:
図3 比較例1(ニッケルメッシュ) 1日後
図4 比較例2(チタンメッシュ) 2日後
図5 実施例1(金メッシュ) 1日後
図6 実施例2(白金メッシュ) 3日後
図7 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ) 1日後
図8 実施例4(カーボンコートチタンメッシュ) 1日後
に示す。
【0066】
2θが10.5°~15°のパターンに注目すると、電極支持体(電極集電体)として、ニッケルメッシュ及びチタンメッシュを用いた比較例1及び2ではピークが現れた(
図3~4)。ニッケルよりも標準電極電位が卑なチタンの方が、ピークが大きくなった。
【0067】
また、比較例2のチタンメッシュについて同様に実験を行い、静置時間30分、1時間におけるXRDパターンを
図9に示す。静置時間の増加に従い、このピークの強度が大きくなった。
【0068】
Y. Sato et al. / Journal of Power Sources 93 (2001) 20-24には、これはγ-NiOOHのピークであると記載されている。また、γ-NiOOHの生成が、メモリー効果の原因であると記載されている。局部電池反応によって生成する上記γ-NiOOHは、CuKα線によるX線回折で回折角2θの10.5~15度の位置に回折ピークを有している。一方、過充電により生成するγ-NiOOHも回折角2θの10.5~15度の位置に回折ピークを有しており、ピーク位置は類似しているが、同一物質かどうかは明確ではない。なぜなら、充電過程は、電極活物質(β-NiOOH)には酸化過程であるのに対し、電極集電体(Ni)との間で局部電池反応が起こっている過程は、電極活物質(β-NiOOH)には還元過程であるからである。この文献のγ-NiOOHは、γ-NiOOH(γred-NiOOH)と表記できる。過充電で現れる、β-NiOOHよりも酸化が進んだ状態としてのγ-NiOOHは、γ-NiOOH(γox-NiOOH)と表記できる。しかしながら、現時点で、γox-NiOOHとγred-NiOOHとが物質的に異なると述べている報文は全くない。
【0069】
一方、電極支持体(電極集電体)として、金メッシュ及び白金メッシュを用いた実施例1~2は、このピークは現れなかった(
図5~6)。β-NiOOHの電位は、完全に充電した状態において、標準水素電極(SHE)基準で+0.52 Vである(出典:パナソニック(株)充電式ニッケル水素電池の概要)。ニッケル及びチタンは、β-NiOOHに対して大きく卑な電位を持つ。これに対し、金及び白金は大きく卑ではない電位を持つ。
【0070】
電池セルを開回路にしたときに、電極内の電極材料(電極活物質)と電極支持体(電極集電体)との間で、その電位差に基づく局部電池反応が生起する。この局部電池では、電極支持体をニッケルメッシュ又はチタンメッシュとしたとき(比較例1~2)はβ-NiOOHは正極となり、電極支持体(電極集電体)を金メッシュ又は白金メッシュとしたとき(実施例1~2)はβ-NiOOHは負極となる。電極支持体(電極集電体)をニッケルメッシュ又はチタンメッシュとしたとき(比較例1~2)にはγ-NiOOH(γred-NiOOH)が生成したことから、局部電池反応で、β-NiOOHが正極として作用するときに、「γ-NiOOH(γred-NiOOH)」が生成することが分かった。
【0071】
一方、電極支持体(電極集電体)として、γ-NiOOH(γred-NiOOH)が生成するニッケルメッシュやチタンメッシュであっても、カーボンコートを行った場合(実施例3~4)は、「γ-NiOOH(γred-NiOOH)」のピークは現れなかった。カーボンはこの電解液中で不活性であるため、局部電池反応が起こらず、β-NiOOHが正極として作用することがなく、電極支持体(電極集電体)を金メッシュ又は白金メッシュとしたとき(実施例1~2)と同様、「γ-NiOOH(γred-NiOOH)」が生成することがなかったと言える。以上より、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム二次電池のような水酸化ニッケルを電極活物質として使用する二次電池においては、β-NiOOHが正極として作用する局部電池反応を制御する電極が、「γ-NiOOH(γred-NiOOH)」の生成を防ぐことができることが分かる。また、カーボンでコートすることにより、ニッケル及びチタンの電極反応を遮蔽することができることが示された。カーボン以外でも、導電性高分子等で被覆した場合でも、電極反応を遮蔽できると考えられる。
【0072】
[実験例2:メモリー効果及び容量の違い(1)]
実験例1と同様に、実施例1~4及び比較例1~2の二次電池用正極をそれぞれ作用極とし、実験例1と同様に、ガラスセル(二次電池)を作製した。
【0073】
以下の過程:
(1)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトー終了まで放電
(2)6時間充電
(3)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトーの途中まで放電
(4)休止(比較例1(ニッケルメッシュ):1週間、実施例1~4及び比較例2(その他):5時間)
(5)6時間充電
(6)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトー終了まで放電
にしたがう充放電を、この順に、全て電流密度30 mA/gで行った。
【0074】
なお、(2)と(5)の過程においてはいずれも完全に充電されている。
【0075】
実施例1~4及び比較例1~2について、種々の過程における電圧の時間変化を以下:
図10 比較例1(ニッケルメッシュ) 過程(1)、(3)、(6)
図11 比較例2(チタンメッシュ) 過程(1)、(3)、(6)
図12 実施例1(金メッシュ) 過程(3)、(6)
図13 実施例2(白金メッシュ) 過程(3)、(6)
図14 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ) 過程(3)、(6)
図15 実施例4(カーボンコートチタンメッシュ) 過程(3)、(6)
に示す。
【0076】
電極支持体をニッケルメッシュ又はチタンメッシュとしたとき(比較例1~2)、(6)の過程の電圧が(1)の過程に比べ、急激に減少する現象が見られた。これはメモリー効果を表している。これに対し、金メッシュ、白金メッシュ、カーボンコートを行ったニッケルメッシュ、カーボンコートを行ったチタンメッシュを用いた場合(実施例1~4)は、(6)の過程の電圧が(3)の過程に比べ、急激に減少することはなかった。
【0077】
以上の結果から、実験例1においてβ-NiOOHが正極として作用する局部電池反応を起こす電極支持体を使用した場合に、メモリー効果が観測された。以上より、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム二次電池のような水酸化ニッケルを電極活物質として使用する二次電池においては、β-NiOOHが正極として作用する局部電池反応を制御する電極が、メモリー効果を起こさず、耐久性を向上させることができることが分かる。
【0078】
また経過時間を比べると、電極支持体として、金メッシュ、白金メッシュ、カーボンコートニッケルメッシュ、カーボンコートチタンメッシュを用いた場合(実施例1~4)、起電力が顕著に低下するのは10000~25000秒程度である。一方、ニッケルメッシュ又はチタンメッシュを用いた場合は3000~13000秒程度である。特に、電極集電体として同じチタンを用いた比較例2と実施例4とを比較すると、起電力が顕著に低下する時間が、カーボンコートを施すことにより、3000秒程度から10000秒程度に飛躍的に向上している。つまり、電池の容量も飛躍的に向上していることが分かる。このことから、ニッケルメッシュ又はチタンメッシュを用いた場合(比較例1~2)は、通常の電池使用時においても、並行して起こる局部電池反応が、電池の容量を減少させるように作用していると考えられ、本発明の二次電池用電極は、この作用を抑制することができる。
【0079】
[実施例5:金メッシュ(導電助剤ニッケル;出発物質Ni(OH)2)]
市販のNi(OH)2に導電助剤として市販のNi金属の粉末(Ni粉末)、結着剤としてPTFEを、Ni(OH)2:アセチレンブラック:結着剤が80:15:5(質量%)の割合でそれぞれ加え、よく混合し、正極活物質層形成用ペースト組成物を作製した。
【0080】
正極支持体(電極集電体)として、金メッシュ((株)ニラコ製;金 金網100mesh)を用い、当該正極支持体に、厚みが0.1~10mm(特に1mm)となるように、正極活物質層形成用ペースト組成物を塗布し、乾燥させて、実施例5の二次電池用正極を得た。
【0081】
[実施例6:金メッシュ(導電助剤アセチレンブラック;出発物質Ni(OH)2)]
導電助剤として、Ni金属の粉末ではなく、アセチレンブラックを用いたこと以外は実施例5と同様に、実施例6の二次電池用正極を得た。
【0082】
[比較例3:ニッケルメッシュ(導電助剤アセチレンブラック;出発物質Ni(OH)2)]
正極支持体(電極集電体)として、金メッシュではなく、ニッケルメッシュ((株)ニラコ製;ニッケル 金網100mesh)を用い、導電助剤として、Ni金属の粉末ではなく、アセチレンブラックを用いたこと以外は実施例5と同様に、比較例3の二次電池用正極を得た。
【0083】
[実験例3:放電途中でレストした時のX線回折測定結果]
<出発物質β-NiOOHの場合>
実験例1と同様に、実施例1(金メッシュ)の二次電池用正極をそれぞれ作用極とし、実験例1と同様に、ガラスセル(二次電池)を作製した。
【0084】
以下の過程:
(1)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトー終了まで放電
(2)6時間充電
(3)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトーの途中まで放電
(4)休止3日間
にしたがう充放電を、この順に、全て電流密度30 mA/gで行った。
【0085】
結果を
図16に示す。その結果、γ-NiOOHのピークは見られなかった。
【0086】
<出発物質Ni(OH)2の場合>
実験例1と同様に、実施例6及び比較例3(金メッシュ及びニッケルメッシュ)の二次電池用正極をそれぞれ作用極とし、実験例1と同様に、ガラスセル(二次電池)を作製した。
【0087】
以下の過程:
(1)6時間充電
(2)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトー終了まで放電
※(1)及び(2)は3回繰り返した。
(3)6時間充電
(4)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトーの途中まで放電
(5)休止1週間
にしたがう充放電を、この順に、全て電流密度30 mA/gで行った。
【0088】
実施例6及び比較例3について、種々の時間経過後の正極材料のXRDパターンを以下:
図17 実施例6(金メッシュ;出発物質Ni(OH)
2)
図18 比較例3(ニッケルメッシュ;出発物質Ni(OH)
2)
に示す。
【0089】
その結果、比較例3ではγ-NiOOHのピークは見られたが、実施例6ではγ-NiOOHのピークは見られなかった。
【0090】
[実験例4:容量の違い]
実験例1と同様に、実施例6及び比較例3の二次電池用正極をそれぞれ作用極とし、実験例1と同様に、ガラスセル(二次電池)を作製した。
【0091】
以下の過程:
(1)6時間充電
(2)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトー終了まで放電
※(1)及び(2)は3回繰り返した。
にしたがう充放電を、この順に、全て電流密度30 mA/gで行った。
【0092】
それぞれの最後の放電過程における放電曲線を
図19 比較例3(ニッケルメッシュ;出発物質Ni(OH)
2)
図20 実施例6(金メッシュ;出発物質Ni(OH)
2)
に示す。
【0093】
その結果、出発物質をNi(OH)2とした場合であっても、電極集電体としてニッケルメッシュを用いた場合と比較して金メッシュを用いたほうが、容量が大きく、電位が高いことが分かる。
【0094】
[実験例5:メモリー効果の違い]
実験例1と同様に、実施例1~3の二次電池用正極をそれぞれ作用極とし、実験例1と同様に、ガラスセル(二次電池)を作製した。
【0095】
以下の過程:
(1)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトー終了まで放電
(2)6時間充電
(3)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトーの途中まで放電
(4)休止1週間
(5)6時間充電
(6)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトー終了まで放電
にしたがう充放電を、この順に、全て電流密度30 mA/gで行った。
【0096】
なお、(2)と(5)の過程においてはいずれも完全に充電されている。
【0097】
実施例1~3について、種々の過程における電圧の時間変化を以下:
図21 実施例1(金メッシュ)
図22 実施例2(白金メッシュ)
図23 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ)
に示す。
【0098】
いずれの場合でも、休止後に放電曲線の電位の降下は見られなかった。
【0099】
[実験例6:レストつきサイクル充放電試験]
<休止時間なし(0時間)>
実験例1と同様に、実施例1~3及び比較例1の二次電池用正極をそれぞれ作用極とし、実験例1と同様に、ガラスセル(二次電池)を作製した。
【0100】
以下の過程:
過程I(通常の充放電):
(1)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトー終了まで放電
(2)6時間充電
※(1)及び(2)は3回繰り返した。
過程II(SOC 40%まで放電):
(3)2時間放電
過程III(SOC 40~60%の充放電):
(4)50分間充電
(5)40分間放電
※(4)及び(5)は5回又は10回繰り返した(5サイクル又は10サイクル)。
にしたがう充放電を、この順に、全て電流密度30 mA/gで行った。
【0101】
充電時間を放電時間より長くすることにより、放電分を充電することができた。
【0102】
さらに、その後、各試料のX線回折測定を行った。
【0103】
なお、SOCとは、State of Chargeの略であり、電池の残り容量を表す。例えば、SOC 40%であれば、残りの容量が全容量の40%であることを示す。
【0104】
実施例1~3及び比較例1について、サイクル充放電試験及びX線回折測定の結果を以下:
図24 実施例1(金メッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図25 実施例1(金メッシュ;5サイクル) X線回折測定
図26 実施例2(白金メッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図27 実施例2(白金メッシュ;5サイクル) X線回折測定
図28 比較例1(ニッケルメッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図29 比較例1(ニッケルメッシュ;5サイクル) X線回折測定
図30 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図31 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ;5サイクル) X線回折測定
図32 実施例1(金メッシュ;10サイクル) サイクル充放電試験
図33 実施例1(金メッシュ;10サイクル) X線回折測定
図34 実施例2(白金メッシュ;10サイクル) サイクル充放電試験
図35 実施例2(白金メッシュ;10サイクル) X線回折測定
図36 比較例1(ニッケルメッシュ;10サイクル) サイクル充放電試験
図37 比較例1(ニッケルメッシュ;10サイクル) X線回折測定
図38 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ;10サイクル) サイクル充放電試験
図39 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ;10サイクル) X線回折測定
に示す。
【0105】
<休止時間1時間>
実験例1と同様に、実施例1~3及び比較例1の二次電池用正極をそれぞれ作用極とし、実験例1と同様に、ガラスセル(二次電池)を作製した。
【0106】
以下の過程:
過程I(通常の充放電):
(1)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトー終了まで放電
(2)6時間充電
※(1)及び(2)は3回繰り返した。
過程II(SOC 40%まで放電):
(3)2時間放電
過程III(SOC 40~60%の充放電):
(4)1時間休止
(5)50分間充電
(6)1時間休止
(7)40分間放電
※(4)~(7)は5回又は10回繰り返した(5サイクル又は10サイクル)。
にしたがう充放電を、この順に、全て電流密度30 mA/gで行った。
【0107】
さらに、その後、各試料のX線回折測定を行った。
【0108】
実施例1~3及び比較例1について、サイクル充放電試験及びX線回折測定の結果を以下:
図40 実施例1(金メッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図41 実施例1(金メッシュ;5サイクル) X線回折測定
図42 実施例2(白金メッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図43 実施例2(白金メッシュ;5サイクル) X線回折測定
図44 比較例1(ニッケルメッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図45 比較例1(ニッケルメッシュ;5サイクル) X線回折測定
図46 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図47 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ;5サイクル) X線回折測定
図48 実施例1(金メッシュ;10サイクル) サイクル充放電試験
図49 実施例1(金メッシュ;10サイクル) X線回折測定
図50 実施例2(白金メッシュ;10サイクル) サイクル充放電試験
図51 実施例2(白金メッシュ;10サイクル) X線回折測定
図52 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ;10サイクル) サイクル充放電試験
図53 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ;10サイクル) X線回折測定
に示す。
【0109】
<休止時間2時間>
実験例1と同様に、実施例1~3及び比較例1の二次電池用正極をそれぞれ作用極とし、実験例1と同様に、ガラスセル(二次電池)を作製した。
【0110】
以下の過程:
過程I(通常の充放電):
(1)+ 0.5~+ 0.35 V(vs SHE)のプラトー終了まで放電
(2)6時間充電
※(1)及び(2)は3回繰り返した。
過程II(SOC 40%まで放電):
(3)2時間放電
過程III(SOC 40~60%の充放電):
(4)2時間休止
(5)50分間充電
(6)2時間休止
(7)40分間放電
※(4)~(7)は5回又は10回繰り返した(5サイクル又は10サイクル)。
にしたがう充放電を、この順に、全て電流密度30 mA/gで行った。
【0111】
さらに、その後、各試料のX線回折測定を行った。
【0112】
実施例1~3及び比較例1について、サイクル充放電試験及びX線回折測定の結果を以下:
図54 実施例1(金メッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図55 実施例1(金メッシュ;5サイクル) X線回折測定
図56 実施例2(白金メッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図57 実施例2(白金メッシュ;5サイクル) X線回折測定
図58 比較例1(ニッケルメッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図59 比較例1(ニッケルメッシュ;5サイクル) X線回折測定
図60 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ;5サイクル) サイクル充放電試験
図61 実施例3(カーボンコートニッケルメッシュ;5サイクル) X線回折測定
に示す。
【0113】
以上の結果から、金メッシュ、白金メッシュ及びカーボンコートニッケルメッシュを用いた場合には、2時間のレストをはさんだ場合にも、γ-NiOOHの生成は見られなかった。それに対して、ニッケルメッシュを用いた場合には、2時間のレストをはさむことにより、γ-NiOOHの生成が見られた。一般に、X線回折でピークが見られるようになるには、相当量(通常は5%以上)の生成が必要とされていて、2時間のレストにより相当量のγ-NiOOHが生成したと考えられる。このγ-NiOOHの生成にともない、2時間のレストをはさむことにより、ニッケルメッシュを用いた場合はサイクル特性が悪化したが、金メッシュ、白金メッシュ及びカーボンコートニッケルメッシュを用いた場合はサイクル特性を維持することができた。特に、金メッシュ及びカーボンコートニッケルメッシュを用いた場合には、よりサイクル特性を維持することができた。
【0114】
上記の結果は、正極活物質としてβ-NiOOH又はNi(OH)2を用いたニッケル水素電池のみに適用されるものではなく、種々様々な電池の正極活物質を用いた一次電池又は二次電池にも適用されるものである。
【0115】
例えば、正極活物質としてMnO2を用いて一次電池を作製した場合にも、正極活物質としてβ-NiOOH又はNi(OH)2を用いた場合ほどではないものの、正極集電体としてニッケルメッシュではなく金メッシュを用いることにより、容量及び電位を向上させることができた。また、上記実験例と同様に、レストをはさむことにより、ニッケルメッシュ、金メッシュ及び白金メッシュの違いによる結晶構造の変化を読み取ることができた。