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特許7290244成長を促進し、呼吸器疾患を予防および/または治療するための飼料添加物およびその調製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】成長を促進し、呼吸器疾患を予防および/または治療するための飼料添加物およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/30 20160101AFI20230606BHJP
   A23K 10/37 20160101ALI20230606BHJP
【FI】
A23K10/30
A23K10/37
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021195626
(22)【出願日】2021-12-01
(65)【公開番号】P2023055600
(43)【公開日】2023-04-18
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】110137112
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】520467143
【氏名又は名称】京冠生物科技股▲分▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】509047591
【氏名又は名称】國立臺灣大學
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 瑜君
(72)【発明者】
【氏名】畢 家甄
(72)【発明者】
【氏名】陳 俊任
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1865185(KR,B1)
【文献】特開2016-116514(JP,A)
【文献】特開2009-201473(JP,A)
【文献】特開2002-142688(JP,A)
【文献】特開平11-319789(JP,A)
【文献】特開2019-180291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/30
A23K 10/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼料添加物を調製する方法であって、
工程(a):固形分と水とを含み、固形分が使用済コーヒー粉および補助材料を含む発酵基質であって、使用済コーヒー粉の含有量が、発酵基質の固形分の全重量に対し45重量%以上80重量%以下であり、発酵基質の炭素-窒素比が35以上65以下であり、補助材料がトウモロコシ砂、米殻、殻付き大豆粉、砕米またはそれらの組み合わせである発酵基質を用意する工程、及び、
工程(b):発酵基質をAspergillus oryzaeで発酵させる工程、
を含む飼料添加物を調整する方法。
【請求項2】
前記発酵基質の炭素-窒素比が35以上60以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補助材料の含有量が、前記発酵基質の固形分の全重量に基づいて20重量%以上55重量%以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記発酵基質の炭素-窒素比が46以上53以下であり、前記補助材料が米殻を含み、前記米殻の含有量が前記発酵基質の固形分の全重量に基づいて7重量%以上10重量%以下である、請求項1~3のいずれかに1項に記載の方法。
【請求項5】
アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)の含有量が前記発酵基質の固形分の全重量に基づいて0.02重量%以上0.2重量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記発酵基質の水分含量が50重量%以上75重量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(b)において、前記発酵基質をAspergillus oryzaeで発酵させる温度が25℃以上40℃以下であり、発酵時間が2日以上12日以下である請求項1~6のいずれかに1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法によって調製される、動物の成長を促進するための飼料添加物。
【請求項9】
前記飼料添加物が、呼吸器疾患の予防および/または治療に有効である、請求項8に記載の飼料添加物。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法によって調製される、呼吸器疾患を予防および/または治療するための飼料添加物。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法によって調製される、病原体増殖を阻害するための飼料添加物であって、前記病原体が、Streptococcus suis、Escherichia coli、Salmonella spp.、Riemerella anatipestifer、Gallibacterium anatis、Staphylococcus spp.、Mycoplasma hyopneumoniaeまたはMycoplasma pneumoniaeを含む飼料添加物。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法によって調製される、病原体感染を阻害するための飼料添加物であって、前記病原体が、Mycoplasma hyopneumoniaeまたはMycoplasma pneumoniaeを含む飼料添加物。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法によって調製される、炎症を抑制するための飼料添加
【請求項14】
炎症が肺炎である、請求項13に記載の飼料添加物。
【請求項15】
肺炎がMycoplasma hyopneumoniaeまたはMycoplasma pneumoniaeによって誘発されるものである、請求項14に記載の飼料添加物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料添加物およびその調製方法に関し、より詳細には、成長を促進し、呼吸器疾患を予防および/または治療するための飼料添加物およびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー豆は、カフェインおよびポリフェノールなどの異なる種類の化学物質を含む。これらのうち、カフェインは、代謝および血液循環を促進し、中枢神経系を刺激する効果を有し、ポリフェノールは、良好な健康に寄与する抗酸化および抗炎症の有益な効果を有する。また、コーヒー豆を焙煎した後のコーヒー飲料は独特の風味と香りを有している。そのため、近年、コーヒーは広く人々に愛される主流の飲料の一つとなっている。
【0003】
しかしながら、コーヒー豆は、通常、コーヒー飲料を製造するために、調理及び抽出のようなプロセスを必要とする。コーヒー飲料が製造された後に残ったコーヒー粉は、高い機能的栄養素を含んでおらず、さらに利用されることはほとんどない。現在、毎年約9万トンのコーヒー粉が国内で生成されている。これらのコーヒー粉を適切に処分し、安全に定置することができない場合、環境保護および廃棄物処分の深刻な問題が生じる。
【0004】
一方、現在、動物飼料産業における動物飼料の主な栄養源として魚粉や大豆粉が一般的に用いられている。魚粉は、蛋白質の含有量が多いことから、動物の成長を促進する源と一般的に考えられている。しかしながら、魚粉は高価であるためコストを増大させ、動物飼料に広く使用することが困難になっている。大豆粉は安価であるが、その栄養は魚粉とは比較にならず、動物飼料として動物の成長を効果的に促進することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】台湾特許公開201722285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のことから、使用済コーヒー粉(以下、単にコーヒー粉という)によって引き起こされる環境保護および廃棄物処理の問題を解決するために、動物飼料にコーヒー粉を適用するための技術的手段を開発すること、同時に、動物飼料のコストを低減し、且つ動物の成長を促進するという目的を達成することが、必要になっている。
【0007】
従来技術の欠点を克服するために、本発明の目的は、より高い比活性を有する消化酵素を含み、動物飼料に適用でき、動物の成長を促進する効果を発揮できる飼料添加物を調製する方法、および、その飼料添加物を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、呼吸器病原体に対し選択的な静菌および抵抗性の効果を有する飼料添加物を調製する方法、及び、その飼料添加物を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、コーヒー粉を処分し、再定着させる問題を解決することができ、動物飼料を調製するコストを低減することができる飼料添加物の調製する方法を提供することである。
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の工程を含む飼料添加物を調製する方法を提供する。工程(a): コーヒー粉および補助材料を含む発酵基質であって、コーヒー粉の含有量が発酵基質の総重量に対し、45重量パーセント(重量%)以上80重量%以下、発酵基質の炭素-窒素比が35以上65以下、補助材料がトウモロコシ粒、米殻、殻付き大豆粉、破砕米またはそれらの組み合わせを含む発酵基質を用意する工程、および工程(b):発酵基質をアスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)で発酵させて飼料添加物を得る工程。
【0010】
発酵基質に特定の含有量範囲のコーヒー粉および特定の範囲の炭素-窒素比を含有させること、および発酵基質を発酵させるためにAspergillus oryzaeを採用することによって、この方法によって調製される飼料添加物は、比較的高い比活性を持ち、呼吸器病原体に対し選択的な静菌性および抵抗性を持つ消化酵素を含むという効果を有する。したがって、この飼料添加物は、動物飼料に適用することができ、動物の成長を促進し、そのコストを低減し、呼吸器疾患による動物感染の危険性を低減することができる。さらに、コーヒー粉を再使用することができ、それによって環境保護および廃棄物処理の問題を回避することができる。
【0011】
本発明において、炭素-窒素比(C/N比)は、有機材料中の全窒素含有量に対する全炭素含有量の比を示す。例えば、炭素-窒素比が20である場合、有機材料において、炭素元素の含有量が窒素元素の含有量の20倍であることを意味する。
【0012】
本発明によれば、発酵基質を発酵前に滅菌してもよい。一実施形態では、発酵基質は、120℃以上130℃以下の温度、1バール以上1.5バール以下の圧力下で、30分間~90分間滅菌することができる。ただし、これに限定されない。
【0013】
好ましくは、発酵基質の炭素-窒素比は35以上60以下である。より好ましくは、発酵基質の炭素-窒素比は、37以上60以下である。
好ましくは、補助材料の含有量は、発酵基質の総重量に基づいて、20重量%以上55重量%以下である。
【0014】
好ましくは、発酵基質の炭素-窒素比は、46以上53以下であり、補助材料は、米殻を含む。米殻の含有量は、発酵基質の総重量に基づいて、7重量%以上10重量%以下である。発酵基質に特定の含有量範囲の米殻を含ませることにより、飼料添加物のプロテアーゼおよびアミラーゼの比活性をさらに高めることができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、補助材料はトウモロコシ粗粒であり、発酵基質の総重量に基づいて、トウモロコシ粗粒の含有量は25重量%以上40重量%以下である。他の実施形態では、補助材料はトウモロコシ粗粒および米殻であり、発酵基質の総重量に基づいて、トウモロコシ粗粒の含有量は25重量%以上38重量%以下であり、米殻の含有量は7重量%以上15重量%以下である。さらに別の実施形態では、補助材料はトウモロコシ粗粒、米殻および殻付き大豆粉であり、発酵基質の総重量に基づいて、トウモロコシ粗粒の含有量は14重量%以上20重量%以下であり、米殻の含有量は8重量%以上12重量%以下であり、殻付き大豆粉の含有量は1重量%以上5重量%以下である。
【0016】
好ましくは、Aspergillus oryzaeの含有量は、発酵基質の総重量に基づいて、0.02重量%以上0.2重量%以下である。具体的には、Aspergillus oryzaeは6.5×107胞子/g以上である。
【0017】
好ましくは、発酵基質の含水率は、50重量%以上75重量%以下である。より好ましくは、発酵基質の含水率は、60重量%以上75重量%以下である。さらにより好ましくは、発酵基質の含水率は、65重量%である。
【0018】
いくつかの実施形態では、工程(a)において、発酵基質に細胞壁を破壊する処理(壁破壊処理)を施すことができ、壁破壊処理は、発酵基質を、4bar以上5bar以下の圧力、130℃以上150℃以下の温度、および230rpm以上250rpm以下の回転速度の条件下に2分間~5分間放置する工程を含む。発酵基質を予め壁破壊処理することにより、細胞内の物質が放出され、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)による発酵工程に寄与し、発酵におけるプロテアーゼの含量を上昇させる。
【0019】
好ましくは、工程(b)において、発酵基質をAspergillus oryzaeで発酵させる温度は25℃以上40℃以下であり、発酵時間は2日以上12日以下である。より好ましくは、発酵基質をAspergillus oryzaeで発酵させる温度は25℃以上30℃以下であり、発酵時間は4日以上6日以下である。
【0020】
好ましくは、工程(b)において、発酵基質をAspergillus oryzaeで発酵させた後、乾燥工程を行って飼料添加物を得てもよい。乾燥工程は、45℃以上60℃以下の温度で8時間以上行うことができる。より好ましくは、乾燥工程は、50℃の温度で12時間~14時間行うことができる。
【0021】
さらに、本発明は、前述の方法によって調製された飼料添加物を提供する。飼料添加物は、より高い比活性、呼吸器病原菌に対する選択的静菌性および抵抗性を有する消化酵素を含むという効果があり、動物飼料への応用が可能であり、動物の成長を促進し、動物の呼吸器疾患感染リスクを低減する効果を発揮する。
【0022】
本発明によれば、消化酵素は、特定の物質を分解することができるタンパク質を示す。好ましくは、消化酵素は、プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼおよびキシラナーゼを含む。
【0023】
好ましくは、飼料添加物のプロテアーゼの比活性は、355.80単位/g(Unit/g)以上である。より好ましくは、飼料添加物のプロテアーゼの比活性は、463.86単位/g以上である。さらにより好ましくは、飼料添加物のプロテアーゼの比活性は、854.74単位/g以上である。
【0024】
また、本発明は、上述の方法により飼料添加物を調製された、動物の成長を促進するための飼料添加物を提供する。動物の成長を促進する効果は、正常な成長動物にも成長遅延動物にも適していることが実証されている。
【0025】
好適には、動物は家禽または家畜を含む。
【0026】
好適には、動物の成長を促進する効果は、正常な成長動物に適している。
【0027】
さらに、本発明は、上述の方法によって調製される、呼吸器疾患を予防および/または治療するための飼料添加物を提供する。好適には、呼吸器疾患は、Mycoplasma hyopneumoniaeまたはMycoplasma pneumoniaeの感染によって引き起こされる疾患を示す。
【0028】
さらに、本発明は、上述の方法によって調製され、Streptococcus suis、Escherichia coli、Salmonella spp.、Riemerella anatipestifer、Gallibacterium anatis、Staphylococcus spp.、Mycoplasma hyopneumoniaeまたはMycoplasma pneumoniaeを含む病原体の増殖を阻害するための飼料添加物を提供する。
【0029】
さらに、本発明は、上述の方法によって調製され、Mycoplasma hyopneumoniaeまたはMycoplasma pneumoniaeを含む病原体の感染を阻害するための飼料添加物を提供する。
【0030】
さらに、本発明は、上述の方法によって調製され、炎症を抑制するための飼料添加物を提供する。好適には、炎症は肺炎であり、より好適には、Mycoplasma hyopneumoniaeまたはMycoplasma pneumoniaeによって誘発される肺炎である。
【0031】
本明細書において、「下限値から上限値まで」で表される範囲は、特に指定されない場合、下限値以上、上限値以下であることを示す。例えば、「30~90分」は、「30分以上90分以下」であることを示す。
【0032】
本発明の他の目的、利点、および新規な特徴は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の飼料添加物を調製する方法のフローチャートである。
図2A】実施例10~14の発酵プロセス中の異なる発酵時間におけるプロテアーゼの比活性の結果を示す。
図2B】実施例10~14の発酵プロセス中の異なる発酵時間におけるアミラーゼの比活性の結果を示す。
図3A】Escherichia coliについての実施例1および比較例1の静菌の結果を示す。
図3B】Streptococcus suisについての実施例1および比較例1の静菌の結果を示す。
図3C】Salmonella choleraesuisについての実施例1および比較例1の静菌の結果を示す。
図4】ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)についての実施例1および比較例1の静菌の結果を示す。
図5A】Mycoplasma hyopneumoniaeの増殖を、異なるME濃度の処置下で阻害した結果を示す。
図5B】Mycoplasma pneumoniaの増殖を、異なるME濃度の処置下で阻害した結果を示す。
図6A】Mycoplasma hyopneumoniaeの感染を、ME濃度800μg/mlの処置下で阻害した結果を示す。
図6B】異なるME濃度の処置下でのPK-15細胞株の細胞生存率の結果を示す。
図6C】ME濃度1600μg/mlの処置下でマイコプラズマ肺炎の感染を阻害した結果を示す。
図6D】異なるME濃度の処置下でのA549細胞株の細胞生存率の結果を示す。
図7A】MH-S細胞を異なるME濃度で処置した場合の、TNF-αの放出量の結果を示す。
図7B】MH-S細胞を異なるME濃度で処置した場合の、IL-6の放出量の結果を示す。
図7C】異なるME濃度の処理下でのMH-S細胞の細胞生存率の結果を示す。
図8A】フローサイトメトリーで分析した全細胞の細胞数の結果を示す。
図8B】フローサイトメトリーで分析した好中球の細胞数の結果を示す。
図8C】フローサイトメトリーで分析した単球の細胞数の結果を示す。
【実施例
【0034】
本発明の実施を例示するために、いくつかの実施例を以下に示す。当業者であれば、本明細書の内容に従って、本発明の効果を容易に実現することができる。本発明の主旨および範囲から逸脱することなく、本発明を実用化し、または適用するために、様々な修正および変形を行うことができる。
【0035】
<実施例1:飼料添加物>
【0036】
コーヒー粉600g、トウモロコシ粗粒300g、米殻100gを秤量し、混合した後、水を加えて水分を調整し、水分65%の混合物を得た。その後、温度121℃、圧力1.2barの条件下に3kgの混合物を置き、90分間滅菌した。滅菌した混合物を室温まで冷却した後、発酵基質を得た。
【0037】
次に、発酵基質に6.5×107胞子/g以上のAspergillus oryzae粉末1.5g~3gを加え、30℃で4日間発酵させ、粗生成物を得た。粗生成物を50℃で12時間~14時間乾燥させて水分含量を7.5%未満にした後、粗生成物が約830マイクロメートル(μm)の孔径を有する篩を通過するまで粉砕して、実施例1の飼料添加物を得た。
【0038】
実施例1の各成分の割合(発酵基質の総重量に基づく)および発酵基質の炭素-窒素比(C/N比)を以下の表1に列挙した。なお、表1において、発酵基質のC/N比は、各成分のC/N比に各成分の割合を乗じたものを加えて求めた。ここで、コーヒー粉のC/N比は約20であり、トウモロコシ粗粒のC/N比は約97.3であり、殻付き大豆粉のC/N比は約4.7であり、米殻のC/N比は約90であった。例えば、実施例1の発酵基質は、60重量%のコーヒー粉(C/N比: 20)、30重量%のトウモロコシ粗粒(C/N比: 97.3)、および10重量%の米殻(C/N比: 90)を含み、したがって、実施例1の発酵基質のC/N比は約50.2であった。
【0039】
<実施例2~9:飼料添加物>
【0040】
実施例2~9の調製方法は、実施例1と同様であるが、主な違いは、採用した発酵基質の成分割合とC/N比であった。実施例2~9の各成分の割合(発酵基質の総重量に基づく)および発酵基質のC/N比もまた、以下の表1に列挙した。
【0041】
<実施例10~14:飼料添加物>
【0042】
実施例10~14の調製方法は、実施例1と同様であるが、主な違いは、採用した発酵基質の成分の割合とC/N比であり、実施例10~14の発酵時間は7日とした。実施例10~14の各成分の割合(発酵基質の総重量に基づく)および発酵基質のC/N比もまた、以下の表1に列挙した。
【0043】
【表1】
【0044】
<比較例1:未発酵コーヒー粉>
【0045】
比較例1は、実施例1と同じコーヒー粉、すなわち未発酵コーヒー粉を用いた。
【0046】
<試験例1:消化酵素の比活性の評価>
【0047】
試験例1では、実施例1~9および比較例1について、プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼおよびキシラナーゼの比活性を用いて、異なる群の消化酵素の比活性を評価した。
【0048】
(1) プロテアーゼの比活性の評価
プロテアーゼの比活性の評価は、pH値4.7、温度50℃の条件下で、蛋白質分解のためにプロテアーゼとヘモグロビンを30分間混合することによって蛋白質分解ヘモグロビンを生成し、生成した蛋白質分解ヘモグロビンの量を、ヘモグロビンが蛋白質分解した後に放出されたチロシンの量を分析することによって、行った。ここで、プロテアーゼの活性単位(U)は、チロシンのヘモグロビン単位(HUT)で表した。1 HUTは、0.006規定度(N)の塩酸溶液中で、毎分1.10マイクログラム/ミリリットル(μg/ml)のチロシンがヘモグロビンから放出されることを示す。
【0049】
具体的には、濃度25μg/ml、50μg/ml、75μg/mlおよび100μg/mlのチロシン標準溶液を予め調製した。そして、これらの標準溶液の275nmにおける吸光度を酵素免疫測定装置(BioTek Instruments, Inc.から購入;モデル: MQX200)で分析した後、濃度1.10μg/mlのチロシン溶液の275nmにおける吸光度を得た。その後、蒸留水100mlにヘモグロビン4gを加え、0.3N塩酸溶液を用いてpH値を1.7に調整した。10分後、0.5モル濃度(M)の酢酸ナトリウム溶液を用いてpH値を4.7に調整し、総容量が200mlになるまで蒸留水を加えてヘモグロビン溶液を得た。一方、5gの実施例1~9の飼料添加物(実施例1~9)及び未発酵コーヒー粉(比較例1)をそれぞれ蒸留水45mlに添加し、温度30℃、回転速度130rpmの条件で2時間高速旋回した後、12000rpmで5分間遠心分離した。上清を実施例1~9および比較例1の試料として回収した。
【0050】
次に、実施例1~9および比較例1の試料を蒸留水で5倍に希釈した。その後、実施例1~9及び比較例1の希釈試料100マイクロリットル(μl)を、500μlのヘモグロビン溶液(既に40℃の水浴中に5分間置かれていたもの)に加えて、40℃の水浴中で30分間反応させた後、トリクロロ酢酸500μlを加えて反応を停止させた。室温に30分間置いた後、反応液を12000rpmで5分間遠心分離し、各群の上清を回収し、酵素免疫測定法アナライザーで分析し、各群の275nmにおける吸光度を得た。ここで、各試料の色が異なるため、トリクロロ酢酸を添加した後に各試料をヘモグロビン溶液にそれぞれ添加することによって調製したブランク群を群毎に用意し、これにより、吸光度を分析する際のバックグラウンド値を表すことができるようにした。
【0051】
プロテアーゼの比活性は、以下の説明するように求めた。実施例1~9および比較例1の吸光度から対応するブランク群のバックグラウンド値を差し引いた後、チロシン溶液の濃度1.10μg/mlの吸光度、反応溶液の総体積および反応時間で除し、実施例1~9および比較例1の単位体積中のプロテアーゼの活性を得た。単位はHUT/mlである。また、プロテアーゼ活性の結果を各群の希釈率にさらに乗じて各試料の濃度で除した後、実施例1~9および比較例1のプロテアーゼの比活性を得た。単位はHUT/gであり、実施例1~9および比較例1の試料では、タンパク質の単位重量当たりのプロテアーゼ活性を示している。実施例1~9および比較例1のプロテアーゼの比活性の結果を下記表2に示し、HUT/gを単位/gで表した。
【0052】
(2) アミラーゼの比活性の評価
アミラーゼの比活性の評価では、実施例1~9および比較例1の試料をデンプンと反応させ、次いでヨウ素溶液を添加することで示される色から600nmでの吸光度を分析した。対照群と比較したときの試料の吸光度の減少は、試料中のアミラーゼの割合を示しており、これにより、各群のアミラーゼの比活性を得ることができた。
【0053】
具体的には、デンプン0.04gを秤量し、リン酸緩衝液に全量100ml溶解し、デンプン溶液を得た。また、ヨウ化カリウム0.277gを秤量し、濃度0.1Nのヨウ素酸カリウム溶液4.6ml、塩酸溶液0.93ml、超純水100mlと混合して着色液を得た。また、5gの実施例1~9の飼料添加物及び比較例1の未発酵コーヒー粉をそれぞれ蒸留水45mlに添加し、温度25℃、回転速度130rpmの条件で2時間高速攪拌した後、12000rpmで5分間遠心分離した。上清を実施例1~9および比較例1の試料として回収した。
【0054】
次に、実施例1~9および比較例1の試料を蒸留水で5倍に希釈した。その後、実施例1~9および比較例1の希釈試料10μlを、デンプン溶液(既に37℃の水浴中に2分間予熱しておいた)500μlにそれぞれ添加し、37℃の水浴中で8分間反応させた。次いで、反応液に着色液500μlを加えた後、超純水4000μlを加え5分間反応させ、8000rpmで5分間遠心分離した。各群の上清を回収し、再び8000rpmで5分間遠心分離した。次いで、上清を回収し、酵素免疫測定装置で分析し、各群の660nmにおける吸光度を得た。ここで、ブランク群は、アミラーゼを含む試料を添加しなかった群とした。
【0055】
アミラーゼの比活性は、次のように求めた。ブランク群の吸光度から実施例1~9および比較例1の吸光度を差し引いた後、その結果をブランク群の吸光度で割り、800を乗じ、実施例1~9および比較例1の単位体積中のアミラーゼの活性を得た。単位は単位/dlである。また、アミラーゼの活性の結果に対し、各群の希釈率にさらに乗じて100で割り、実施例1~9および比較例1のアミラーゼの比活性を得た。単位は単位/gである。実施例1~9および比較例1のアミラーゼの比活性の結果を以下の表2に示す。
【0056】
3) セルラーゼの比活性の評価
セルラーゼの活性は、pH値5.0、温度37℃の条件下で、セルロースから放出されるグルコースの1マイクロモル(μmole)を1単位と定義した。この実験は、Sigma-Aldrich Corporationの「Enzymatic Assay of Cellulase」(セルラーゼの酵素分析)に記載された手順に従って行い、実施例1~9および比較例1のアミラーゼの比活性の結果を得た。結果を表2に示す。
【0057】
(4) キシラナーゼの比活性の評価
キシラナーゼの活性は、pH値4.5、温度30℃の条件下で、キシランから放出されるキシラノースの1μmolを1単位と定義した。この実験は、Sigma-Aldrich Corporationの「Enzymatic Assay of XYLANASE (EC 3.2.1.8)」(キシラナーゼの酵素分析)に示される手順に従って行われ、実施例1~9および比較例1のキシラナーゼの比活性の結果を得た。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
上記表2の結果からわかるように、プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼの比活性を評価した試験では、比較例1の各消化酵素の比活性は検出されなかった。つまり、比較例1の未発酵コーヒー粉では、これらの消化酵素の比活性が測定可能なレベルまでないことが明らかになった。実施例1~9の結果では、これらの群のプロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼの比活性が全て検出された。これらの群では、プロテアーゼの比活性が高かった(355.80単位/g~973.77単位/g)。従って、実施例1~9の飼料添加物は、実際に、比較例1の未発酵コーヒー粉と比較して高い比活性の消化酵素を有していた。
【0060】
さらに、上記の表1に列挙された成分の割合および発酵基質のC/N比を参照すると、実施例1および実施例5は、それぞれ50.2および50.9と同様の発酵基質のC/N比を有しているが、実施例1の発酵基質は、さらに10重量%の米殻を含んでおり、これにより、実施例1のプロテアーゼおよびアミラーゼの比活性は、実施例5と比較してさらに上昇した。つまり、特定の含有量範囲の米殻を発酵基質に添加することで、実際に、プロテアーゼおよびアミラーゼの比活性をさらに上昇させることができた。
【0061】
<試験例2:発酵時間が消化酵素の比活性に及ぼす影響>
試験例2では、実施例10~14を用いた。具体的には、実施例10~14の調製工程において、滅菌した発酵基質3kgに6.5×107胞子/g以上のAspergillus oryzae 1.5g~3gを添加し、30℃で7日間発酵させた後、それぞれ発酵時間を3日、4日、5日、6日、7日に変えて発酵基質試料を採取した。試料を50℃で12時間~14時間乾燥させ、水分含量を7.5%未満にした後、試験例1と同じ方法に従い、異なる発酵時間毎に、実施例10~14の飼料添加物のプロテアーゼおよびアミラーゼの比活性を得た。その結果をそれぞれ表3および表4に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3の結果によれば、実施例10~14の飼料添加物のプロテアーゼの比活性は、3日間に亘る発酵により、すべて340単位/gより高く、実施例13および実施例14では、3日間の発酵後に、それぞれ、697.6単位/gおよび825.88単位/gの高いプロテアーゼの比活性であった。また、実施例10~14のプロテアーゼの比活性は、発酵時間が長くなるにつれて上昇する傾向を示した。
【0064】
プロテアーゼの比活性と発酵時間との関係を明確に示すために、表3の結果も図2Aに示す。図2Aによれば、プロテアーゼの比活性は、発酵時間が増加するにつれて実際に上昇し、発酵時間の4~6日後に明らかな上昇があった。
【0065】
【表4】
【0066】
表4の結果によれば、実施例10~14の飼料添加物のアミラーゼの比活性は、3日間の発酵に亘って、すべて89単位/gより高く、実施例10および実施例11では、3日間の発酵後に、それぞれ167.89単位/gおよび165.02単位/gの高いアミラーゼ比活性を示した。また、実施例10~14のアミラーゼの比活性も、発酵時間が長くなるにつれて上昇する傾向を示した。
アミラーゼの比活性と発酵時間との関係を明確に示すために、表4の結果も図2Bに示す。図2Bに示すように、アミラーゼの比活性は、発酵時間が増加するにつれて実際に上昇し、発酵時間の4~6日後に明らかな上昇があった。
【0067】
<試験例3:動物の成長促進効果の評価>
試験例3では、実施例1の飼料添加物を用いた。具体的には、離乳子豚120頭(雄子豚60頭、雌子豚60頭、平均体重7.15kg)を、各群が40頭(雄子豚20頭、雌子豚20頭)となるようにランダムに3群に分け、それらを低用量群、高用量群、対照群に設定した。基本飼料の各トン当たり実施例1の飼料添加物0.5kgを含有するものを低用量群、基本飼料の各トン当たり実施例1の飼料添加物1kgを含有するものを高用量群、複合酵素およびコリスチンを含まない基本飼料のみを対照群、とした。
【0068】
実験方法は、離乳子豚が離乳した後、離乳子豚に前述の異なる群の飼料を毎日6ヶ月間与えたものであった。子豚の成長を評価するために、1日の体重および飼料摂取量を記録して、ある期間にわたって増加した体重、1日当たりの平均増加量(ADG)および飼料転換率(FCR:Feed conversion ratio)を得た。ADGが高く、FCRの値が低いほど、飼料の成長を促進する効果は良好であった。上記の異なる群の飼料を4週間給餌した子豚の結果を以下の表5に列挙し、上記の異なる群の飼料を6週間給餌した子豚の結果を以下の表6に列挙した。
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
表5の結果によれば、給餌開始から2週目までの体重増加は、低用量群、高用量群および対照群で同等であった。4週目まで子豚に連続給餌した場合、2週目から4週目までの体重増加は、低用量群および高用量群では対照群よりも明らかに高く、それぞれ約33%および37.5%増加した。4週目の体重、2週目から4週目までのADG、2週目から4週目までのFCRの結果については、対照群と比較して、低用量群と高用量群の両方が良好な結果を示し、4週目では比較的高い体重、2週目から4週目までは比較的高いADG、2週目から4週目までは比較的低いFCRを示した。
【0072】
一方、表6の結果では、6週目まで子豚に連続給餌した場合、6週目の体重は、依然として、低用量群と高用量群ともに対照群よりも高かった。同様に、給与開始から6週目までに増えた体重、給与開始から6週目までのADGおよび給与開始から6週目までのFCRにかかわらず、低用量群、高用量群ともに対照群より良好な結果が得られ、給与開始から6週目までに、より多くの体重増加、より高いADGおよび、より低いFCRを示していた。したがって、本発明の方法から調製された飼料添加物を基本動物飼料に添加することで、実際に動物の成長を促進する効果を発揮することができた。
【0073】
<試験例4:静菌作用の評価>
本試験例では、実施例1の飼料添加物および比較例1の未発酵コーヒー粉を用いて、異なる種類の病原体に対する静菌作用を試験し、これらの群の静菌効果を評価した。
【0074】
(1) Escherichia coli、Streptococcus suisおよびSalmonella choleraesuisに対する静菌の効果
【0075】
5gの実施例1の飼料添加物および比較例1の未発酵コーヒー粉を秤量し、それぞれ25mlの蒸留水に添加し、続いて30分間高速攪拌し、次いで10000rpmで10分間遠心分離した。上清を集め、孔径0.45μmのPES膜で濾過した後、凍結乾燥して粗生成物を得た。次いで、粗生成物200mgを蒸留水1mlに溶解し、実施例1及び比較例1の試験液を調製した。
【0076】
次に、Escherichia coli、Streptococcus suisおよびSalmonella choleraesuisのコロニーを滅菌綿棒により採取し、それぞれに応じた適切な固体培地に付着させた。ここでは、Escherichia coliおよびSalmonella choleraesuisについて国際標準試験法のMueller Hinton寒天(MH寒天)を採用し、37℃で16時間~18時間培養し、Streptococcus suisについては5%ヒツジ血液を含む血液寒天を採用し、37℃で16時間~18時間培養した。
【0077】
その後、固形培地の異なる地点(スポット)を除去して直径8mmの孔を作り、固形培地の異なる孔に、実施例1および比較例1の試験溶液100μlを入れた。さらに、陽性の対照群として、1000ppmのコリシチンおよび100ppmのゲンタマイシンをそれぞれ固体培地の別の孔に入れた。これらの固形培地を、個々の病原体の特性に応じた適切な条件で24時間培養した後、固形培地上に現れる阻害ゾーンの直径を測定した。結果を表7に示す。単位はmmである。
【0078】
【表7】
【0079】
表7の結果に示すように、比較例1の、Escherichia coli、Streptococcus suisおよびSalmonella choleraesuisの固体培地は、直径を測定できるような阻害ゾーンがなく、これは、比較例1が、上記の各病原体についての静菌作用を有さないことを示している。実施例1については、Escherichia coliおよびStreptococcus suisの固体培地上の阻害ゾーンの直径を測定した結果は、それぞれ12mmおよび14mmであり、ゲンタマイシンと同じ結果が得られた。また、実施例1のSalmonella choleraesuisの固体培地上の阻害ゾーンの直径を測定した結果は12mmであり、これはコリスチンと同様の結果であった。
【0080】
また、固形培地上に阻害ゾーンが出現するか否かを明確に示すために、Escherichia coli、Streptococcus suis、Salmonella choleraesuisについての上記群の静菌の結果をそれぞれ図3A図3Cに示した。
【0081】
Escherichia coliの静菌作用の結果を示す図3Aでは、比較例1、実施例1、ゲンタマイシンの結果をそれぞれ左から右に、A1、A2、A3として示した。図3Aでは、A3群の孔の周りに明らかな阻害ゾーンが現れ、これは、結果が実験操作によって影響されなかったことを示している。A1群とA2群の結果では、A2群の孔の周りにも明らかな阻害ゾーンが現れ、A3群の結果と同様であったが、A1群の孔の周りには明らかな阻害ゾーンは観察されなかった。
【0082】
Streptococcus suisの静菌の結果を示す図3Bでは、比較例1、実施例1、ゲンタマイシンの結果をそれぞれ左から右に、B1、B2、B3として示した。図3Bでは、B3群の孔の周りに明らかな阻害ゾーンが現れ、これは、結果が実験操作によって影響されなかったことを示した。B1群とB2群の結果では、B2群の孔周辺にも明らかな阻害ゾーンが出現し、B3群の結果と同様であったが、B1群の孔周辺には明らかな阻害ゾーンは認められなかった。
【0083】
Salmonella choleraesuisの静菌の結果を示す図3Cにおいて、比較例1、実施例1、コリスチンの結果をそれぞれ左から右に、C1、C2、C3として示した。図3Cでは、明らかな阻害ゾーンがC3群の孔の周りに現れ、これは、結果が実験操作によって影響されなかったことを示した。C1群とC2群の結果については、C2群の孔周辺には明らかな阻害ゾーンが出現し、C3群の結果と同様であったが、C1群の孔周辺には明らかな阻害ゾーンは認められなかった。
【0084】
上記表7および図3A図3Cの結果によれば、比較例1の未発酵コーヒー粉に、本発明の方法の処理を施して、実施例1の飼料添加物を調製すると、その飼料添加物は、実際にEscherichia coli、Streptococcus suisおよびSalmonella choleraesuisに対する静菌効果を有しており、抗生物質と同等であった。
【0085】
(2) Lactobacillus caseiに対する静菌作用
実施例1および比較例1の試験溶液を、前述の(1) Streptococcus suis、Escherichia coliおよびSalmonella choleraesuisに対する静菌作用に示した方法に従って調製し、食用に安全なプロバイオティクスの一種であるLactobacillus caseiに対する静菌効果を評価した。具体的には、de Man、Rogosa、Sharpe寒天(MRS寒天)をLactobacillus caseiに用い、固体培地を嫌気性インキュベーターに入れ、37℃で24時間嫌気的に培養した。次いで、固形培地の異なる地点をスポット的に除去して直径8mmの孔を得、実施例1および比較例1の濃度200mg/mlの試験溶液100μl、ペニシリン100 U/mlおよびストレプトマイシン100ppmの試験溶液を、固形培地の異なる孔に入れた。次に、固体培地を嫌気性インキュベーターに入れ、37℃で72時間嫌気的に培養した後、固体培地上に現れる阻害ゾーンの直径を測定した。単位はmmとした。
【0086】
Lactobacillus caseiの静菌の結果を図4に示す。図中、比較例1、実施例1およびペニシリンおよびストレプトマイシンの抗生物質の結果をそれぞれ左から右に、A1、A2およびA3と標識して示した。図4に示す結果では、A3群の孔の周囲に明らかな阻害ゾーンが現れ、阻害ゾーンは28mmと測定され、このことは、結果が実験操作によって影響されないことを示した。A1群およびA2群の結果では、これらの群においては明らかな阻害ゾーンは観察されなかった。すなわち、比較例1および実施例1はいずれも、Lactobacillus caseiの増殖を抑制する効果を有していなかった。したがって、比較例1の未発酵コーヒー粉に本発明の方法の処理を施して、実施例1の飼料添加物を調製した場合に、その飼料添加物は、Lactobacillus caseiなどのプロバイオティクスの増殖に影響を及ぼさなかった。
【0087】
(3) 最小発育阻止濃度(MIC)および最小殺菌濃度(MBC)の評価
実施例1の試験溶液を、前述の(1)静菌作用の実験で示した方法に従って調製した。この実験は、MICおよびMBCを評価するために、Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI)によって規定されたブロス微量希釈試験に従って行った。病原体として、一般的な家禽病原体および家畜病原体を用いた。家禽病原体はRiemerella anatipestifer、Gallibacterium anatis、Escherichia coli、Salmonella spp.およびStaphylococcus spp.を含み、家畜病原体はStaphylococcus hyicus、Streptococcus suis、Escherichia coliおよびSalmonella choleraesuisを含むものとした。
【0088】
具体的には、上述した様々な種類の病原体をトリプトン大豆ブロス(TSB)中で培養し、その濃度を、光学濁度計の試験管の濁度値(病原体を含まないTSBの値を差し引いた後)に基づいて、0.5 McFarland、すなわち1.5×108 コロニー/ミリリットル(cfu/ml)に調整した。次に、実施例1の試験溶液をTSBで2倍連続希釈した後、希釈した試験溶液200μlを滅菌した96ウェルプレートに入れた。前述の病原体を含む溶液10μlも滅菌した96ウェルプレートに入れ、試験溶液と均一に混合し、病原体の最終濃度を約5×105 cfu/ml~106 cfu/mlとした。その後、96ウェルプレートを適切な条件下で18時間~24時間培養した後、観察のために取り出した。
【0089】
試験溶液が静菌作用を有するならば、病原体の増殖を阻害するので、ブロスは澄明で透明である。ブロスを澄明かつ透明に保つことができる試験溶液の最小濃度をMICとした。また別に、ブロスを固体培地で24時間培養した後に、固体培地上に観察可能なコロニーが形成されない最小濃度をMBCとした。実施例1の各病原体のMICおよびMBCを以下の表8に示す。各病原体は、5以上の株数で試験した。
【0090】
【表8】
【0091】
表8の結果によれば、実施例1の飼料添加物は、異なる種類の家禽病原体について、MICおよびMBCがともに50mg/ml以下であった。実施例1の飼料添加物は、Riemerella anatipestiferおよびGallibacterium anatisに対して特に良好な静菌性を有し、MICはそれぞれ1.56~6.25mg/mlおよび6.12~12.5mg/mlであり、MBCはそれぞれ3.13~12.25mg/mlおよび12.5mg/mlであった。異なる種類の家畜病原体については、実施例1の飼料添加物のMICおよびMBCはともに、50mg/ml以下であった。
【0092】
試験例4の結果によれば、本発明の方法によって調製された飼料添加物は、実際に、多くの種類の病原体の増殖を阻害したが、同時にLactobacillus caseiの増殖に影響を及ぼすことはない、という効果を有していた。したがって、この飼料添加物は、プロバイオティクスに影響を及ぼすことなく、病原体に対する選択的な静菌効果を有した。
【0093】
<試験例5:呼吸器疾患に対する効果の評価>
試験例5では、実施例1の飼料添加物と、呼吸器疾患の病原体としてMycoplasma hyopneumoniaeおよびMycoplasma pneumoniaを用いて、以下の実験を行った。Mycoplasma hyopneumoniaeおよびMycoplasma pneumoniaのATCC数は、それぞれATCC 25934およびATCC 39342であった。以下の実験では、実施例1の試料添加物2gを秤量し、70%アルコール4mlを加えて溶液を得た。その後、室温で1時間超音波抽出した後、12000rpmで10分間遠心分離し、上清を回収した。その後、上澄み液の溶媒を真空濃縮により除去し、実施例1の飼料添加物の抽出物を得た。抽出物を、以下の実験の試験試料とした。以下では、この抽出物試料をMEと略記する。
【0094】
(1) 病原体増殖抑制効果の評価
MEを超音波処理により50%アルコールに溶解し、濃度40mg/mlのME原液を得た。次に、ME原液を孔径0.22μmのろ過膜でろ過した後、濃度104 cfu/mlのMycoplasma hyopneumoniaeを含む培地と、濃度106 cfu/mlのMycoplasma pneumoniaを含む培地にそれぞれ添加し、両病原体の濃度を200μg/ml ME、400μg/ml ME、800μg/ml MEに異ならせた群を得た。Mycoplasma hyopneumoniaeの培地はATCC 1699培地であり、Mycoplasma pneumoniaの培地はATCC 2611培地であった。
【0095】
次に、培養液1mlを培養時間0時間後、12時間後、24時間後、36時間後および48時間後に採取し、採取した培養液を遠心分離して病原体ペレットを得た。病原体ペレットをDNA抽出に供し、得られたDNAをqPCRによって定量して、異なる培養時間毎に病原体量を分析した。Mycoplasma hyopneumoniaeおよびMycoplasma pneumonia のqPCRの結果をそれぞれ図5Aおよび図5Bに示す。培地にMEを添加しない群を対照群とした。
【0096】
図5Aにおいて、Mycoplasma hyopneumoniaeについては、800μg/ml ME群の病原体量は、全て、各培養時間で対照群よりも低かった。特に培養時間が48時間目では、対照群と比較して、800μg/ml ME群の病原体量は明らかに低く、0.01未満のp値で統計的に有意であった。図5Bにおいて、Mycoplasma pneumonia(マイコプラズマ肺炎)については、800μg/ml ME群の病原体量は、培養時間が24時間目の対照群よりも低く、400μg/ml ME群および800μg/ml ME群の病原体量は、ともに培養時間36時間目に対照群よりも低く、培養時間48時間目では、200μg/ml ME群、400μg/ml ME群および800μg/ml ME群のすべての病原体量は、対照群よりも低かった。また、対照群と比較して、200μg/ml ME群および400μg/ml ME群は、p値が0.05未満で統計的に有意であり、800μg/ml ME群も、p値が0.01未満で統計的に有意であった。
【0097】
従って、実施例1の飼料添加物は、Mycoplasma hyopneumoniaeおよびMycoplasma pneumoniaの増殖を実際に阻害する効果を有し、800μg/mlのME群が阻害の最良の効果を有していた。
【0098】
(2) 病原体感染抑制効果の評価
Mycoplasma hyopneumoniaeおよびMycoplasma pneumoniaにそれぞれ感染した細胞として、PK-15細胞株およびA549細胞株を用い、ゲンタマイシン防御アッセイにより、MEの病原体感染抑制効果を評価した。
【0099】
最初に、PK-15細胞株およびA549細胞株の増殖に対する種々の濃度のMEの影響を評価するために細胞生存率の実験を行った。具体的には、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むDMEMを培地として用い、前述の細胞株を96ウェルプレートで一晩培養した。次いで、培養培地を、異なる濃度のMEを含有する培養培地に置き換えて、20時間処理した。次に、MTT試薬(0.5mg/ml)を4時間反応させた後、DMSOを添加して2時間処理した後、570nmの吸光度を測定して細胞生存率を評価した。PK-15細胞株およびA549細胞株の細胞生存率の結果を、それぞれ図6Bおよび図6Dに示す。培地にMEを添加しない群を対照群とした。
【0100】
細胞生存率に影響を与えないMEの濃度を確認した後、病原体感染を阻害する実験を行った。具体的には、PK-15細胞株およびA549細胞株を、10%のFBSを含有するDMEM中で一晩培養した。次いで、培養培地をMEを含有する培養培地に置き換え、2時間処理を行った。ここで、PK-15細胞株の処理には800μg/mlのMEを採用し、A549細胞株の処理には1600μg/mlのMEを採用した。次に、感染させるために、PK-15細胞株の培養液にMycoplasma hyopneumoniaeを添加し、A549細胞株の培養液にMycoplasma pneumoniaを添加したところ、両群とも感染多重度(MOI)は100であった。24時間の感染後、PBSを用いて、細胞を付着しなかった病原体を洗い流した。次いで、400μg/mlゲンタマイシンを含有する培養培地を添加して4時間の処理し、細胞に付着したがうまく浸透しなかった病原体を除去した。次に、DNA抽出のために細胞を回収し、続いてqPCRを行い、感染および細胞への浸透の成功に起因する病原体量を測定した。ここで、異なる病原体量を有する病原体のDNAを抽出し、qPCRにより測定した標準曲線を得た。Mycoplasma hyopneumoniaeおよびMycoplasma pneumoniaに対するMEの病原体感染抑制効果の結果をそれぞれ図6Aおよび図6Cに示した。培地にMEを添加しない群を対照群とした。
【0101】
図6Aおよび図6Bによれば、図6Bにおいて、細胞生存率が80%より高いことを、細胞増殖に対し有意な影響はないことの標準とした場合、800μg/mlのMEを含有する培養培地は、全くPK-15細胞株の増殖に影響しなかったと言える。さらに図6Aを参照すると、対照群と比較して、800μg/mlのMEで処置した群は、病原体量は明らかに低く、0.05未満のp値であり統計的に有意な減少であった。したがって、PK-15細胞株を800μg/mlのMEで処理した後、感染によって細胞内に侵入した病原体の量は、有意に減少した。
【0102】
図6Cおよび図6Dによれば、図6Dにおいて、細胞生存率が80%より高いことを、細胞増殖に対し有意な影響がないことの標準とした場合、1600μg/mlのMEを含有する培養培地は、全く、A549細胞株の増殖に影響しなかったと言える。さらに図6Cを参照すると、対照群と比較して、1600μg/mlのMEで処置した群は、明らかに病原体量が低く、0.01未満のp値であり統計的に有意な減少であった。従って、A549細胞株を1600μg/mlのMEで処理した後、感染によって細胞に浸透した病原体の量は、有意に減少した。
【0103】
以上のように、実施例1の飼料添加物は、PF-15細胞株およびA549細胞株の増殖に影響を及ぼすことなく、感染によって細胞内に侵入したMycoplasma hyopneumoniaeおよびMycoplasma pneumoniaの病原体量を明らかに減少させることができた。従って、実施例1の飼料添加物は、実際に病原体感染を効果的に抑制する効果を有していた。
【0104】
(3) 病原体による炎症抑制効果の評価(細胞実験)
MH‐S細胞とMycoplasma pneumoniaを用いて、腫よう壊死因子α(TNF‐α)とインターロイキン6(IL‐6)の含量を測定することにより、炎症の程度を評価した。
【0105】
最初に、MH-S細胞の増殖に対する異なるME濃度の影響を評価するために細胞生存率の実験を行った。具体的な実験手順は、前述の実験(2)「病原体感染を阻害する効果の評価」において示したものと同じとした。MH-S細胞の細胞生存率の結果を図7Cに示す。培地にMEを添加しない群を対照群とした。
【0106】
細胞生存率に影響を与えないMEの濃度を確認した後、病原体により誘発される炎症を抑制する実験を行った。具体的には、MH-S細胞を24ウェルプレート中で一晩培養した。培養培地は10%のFBSを含有するRPMIとした。次いで、培養培地を、200μg/mlのME、400μg/mlのMEおよび800μg/mlのMEを含有する培養培地に交換し、20時間処理した。
【0107】
次に、感染させるために、培地にMycoplasma pneumoniaを添加した。MOIを100とした。2時間感染後、培養培地を回収し、酵素免疫測定法(ELISA)により分析して、培養培地中のTNF-αおよびIL-6の含有量を測定した。その結果をそれぞれ図7Aおよび図7Bに示した。対照群は培養培地のみ、ME 800μg/ml (w/o Mp)は800μg/ml MEのみを含有する培養培地、MpはMH-S細胞のみであり、Mp+ME 200μg/ml、Mp+ME 400μg/mlおよびMp+ME 800μg/mlは、異なる濃度のMEで処理されたMH-S細胞である。
【0108】
図7Cによれば、細胞生存率が80%より高いことを、細胞増殖に対する有意な影響がないという標準とした場合、800μg/mlのMEを含有する培養培地は、全く、MH-S細胞の増殖に影響を及ぼさないと言える。さらに図7Aを参照すると、TNF-αの測定結果については、MEで処置しなかったMp群と比較して、異なる濃度のMEで処置した群において、MEの濃度が増加するにつれて、TNF-α含量が減少する傾向が観察された。さらに、200μg/ml ME、400μg/ml MEおよび800μg/ml MEの群におけるTNF-α含量の低下の効果は、それぞれ0.05、0.01および0.001未満のp値であり、いずれも統計的に有意であった。このように、培養培地中のTNF-αの含有量は、MH-S細胞を異なる濃度のMEで処理した後に、効果的に減少していた。
【0109】
さらに図7Bを参照すると、IL-6の測定結果についてもTNF-αと同様に、MEで処置しなかったMp群と比較して異なる濃度のMEで処置した群において、MEの濃度が増加するにつれてIL-6含有量が減少する傾向が観察された。さらに、200μg/ml ME、400μg/ml MEおよび800μg/ml MEの群におけるIL-6含量の低下の効果は、それぞれ0.05、0.01および0.001未満のp値であり、いずれも統計的に有意であった。このように、培養培地中のIL-6の含有量は、MH-S細胞を異なるME濃度で処理した後にも効果的に減少した。
【0110】
以上のように、細胞から放出されたTNF-αおよびIL-6の含有量は、MH-S細胞を実施例1の飼料添加物で処理した後に明らかに減少した。従って、実施例1の飼料添加物は、実際に、呼吸器病原体によって誘発される炎症を効果的に阻害する効果を有していた。
【0111】
(4) 病原体による炎症抑制効果の評価(動物実験)
BALB/cマウスにMycoplasma pneumoniaを感染させて炎症を惹起させ、肺胞に浸潤した好中球及び単球の細胞数を測定し、炎症の程度を評価した。具体的には、1000mg/kgの投与量の条件下でMEを1日1回7日間給餌した後、BALB/cマウスにMycoplasma pneumoniaを感染させ、MEを継続的に給餌した。3日間の感染後、BALB/cマウスに気管支肺胞洗浄を行い、試験試料を得た。次に、フローサイトメトリーにより検体を分析し、総細胞数、好中球細胞数、単球細胞数をそれぞれ測定した。結果を図8A、8B、8Cに示した。対照群は、PBSを与えたBALB/cマウスであり、実験群のBALB/cマウスはMEを給餌したマウスである。
【0112】
図8Aによれば、対照群およびME処置群の試験試料の総細胞数は同様であり、統計的に有意な差はなく、これらの群が比較のための同じ基準にあることを示していた。さらに図8Bを参照すると、対照群と比較して、ME処置群の好中球の細胞数は明らかに減少し、0.01未満のp値であり統計的に有意な減少であった。図8Cについては、対照群と比較して、ME処置群の単球の細胞数はわずかに減少した。
【0113】
したがって、呼吸器病原体に感染した結果、肺胞に浸潤した細胞数が、実施例1の飼料添加物をマウスに投与することにより、実際に減少し、その後の炎症の程度を改善することができた。
【0114】
試験例5の結果によれば、本発明の方法によって調製された飼料添加物は、実際に、呼吸器病原体の増殖および感染を効果的に阻害する効果を有し、また、呼吸器病原体によって誘発される炎症を改善および/または阻害することができた。
【0115】
結論として、発酵基質として、特定の含有量範囲のコーヒー粉を用い、発酵基質のC/N比を特定の範囲内に制御し、且つ発酵にAspergillus oryzaeを用いることによって調製した飼料添加物は、比較的高い比活性、選択的静菌性および呼吸器病原体に対する抵抗性を有する消化酵素を含有するという効果を有する。したがって、飼料添加物は、動物飼料に適用することができ、動物の成長を促進し、呼吸器疾患を予防および/または治療する効果を発揮することができ、コーヒー粉の廃棄の問題を適切に解決する。また、動物の成長を促進することができる動物飼料の低コスト代替物を提供し、動物における呼吸器疾患の感染のリスクも低減する。これらにより本発明の商業的価値をさらに高めることができる。
【0116】
以上の説明において、本発明の構造および特徴の詳細とともに、本発明の多くの特徴および利点を記載してきたが、ここに開示された内容は例示的なものにすぎない。細かい事項、特に、サイズの事項について、本発明の原理から特許請求の範囲に規定される用語の広い一般的な意味で示される全範囲内で、変更がなされてもよい。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C