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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】防振吊り具及び防振天井
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/06 20060101AFI20230606BHJP
   E04B 9/18 20060101ALI20230606BHJP
   F16F 1/18 20060101ALI20230606BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
F16F15/06 A
E04B9/18 B
E04B9/18 G
E04B9/18 L
F16F1/18 Z
F16F15/04 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019170861
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2021046924
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596066530
【氏名又は名称】宇都宮工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 弘之
(72)【発明者】
【氏名】兼 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正則
(72)【発明者】
【氏名】土井 昌司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 克典
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-148197(JP,A)
【文献】特開平07-286399(JP,A)
【文献】特開2000-087497(JP,A)
【文献】特開2002-294921(JP,A)
【文献】特開昭53-062221(JP,A)
【文献】特開2004-218751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/06
F16F 1/18
F16F 15/04
E04B 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振性能を備えて、天井下地パネルフレームを支持する、防振吊り具であって、
台座と、
前記台座から下方に垂下されて前記天井下地パネルフレームを支持する支持片と、
立ち上がり片と、該立ち上がり片の上端と下端においてそれぞれ反対側に延びる上方張り出し片及び下方張り出し片と、を有する、二つの板バネの双方の該上方張り出し片を積層することにより形成される、防振手段と、を有し、
前記下方張り出し片が前記台座の上面に取り付けられており、
梁に固定される吊り棒が、積層する二つの前記上方張り出し片の重ね合わせ箇所に取り付けられていることを特徴とする、防振吊り具。
【請求項2】
積層する二つの前記上方張り出し片により、前記重ね合わせ箇所と、非重ね合わせ箇所が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の防振吊り具。
【請求項3】
前記立ち上がり片は、前記下方張り出し片に対して斜めに立ち上がっていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の防振吊り具。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の防振吊り具と、
前記吊り棒が直接的もしくは間接的に固定されている梁と、
前記防振吊り具の前記支持片により支持されている前記天井下地パネルフレームと、を少なくとも有することを特徴とする、防振天井。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振吊り具及び防振天井に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の上階の床衝撃音は、上階の床を介してその振動が下方にある下階の天井に伝搬され、下階の天井が励振されることにより下階へ放射される。尚、この床衝撃音には、重量床衝撃音と軽量床衝撃音が含まれる。
【0003】
従来の防振構造を備えた防振天井には、防振材としてゴムや板バネが適用されている。ゴムには圧縮型とせん断型があり、ゴムの弾性により振動の伝搬が抑制される。一方、板バネは、例えば半円弧状の本体と、野縁等に固定される取り付け部とが一体に連接された金属板等により形成される。板バネの弾性により、振動の伝搬が抑制される。
【0004】
ここで、防振材としてゴムを適用した防振装置が提案されている。具体的には、防振装置は、下側プレートと、上側プレートと、これらを連結する筒状のゴム体と、ゴム体及び両プレートを貫通する吊りボルトと、上側プレート上面に配置されて吊りボルトに螺合されるナットとを備えている。両プレートには吊りボルト挿通孔が形成されており、ナットは、ナット本体部と、上側プレートの上側吊りボルト挿通孔に嵌挿されるカシメ部とを有していて、カシメ部により上側プレートに回転可能に取り付けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、防振材として板バネを適用した天井防振構造が提案されている。具体的には、防振材が、半円弧状の板バネ本体部と、この半円弧状板バネ本体部の周方向における両端部のそれぞれから延長された取付け用板部とを有する板バネ式のものであり、この防振材が、天井裏において、板バネ本体部の周方向における一端を下位に、他端を上位にし、下位端から延長されている取付け板部を天井面板側に、上位端から延長されている取付け板部を階上床梁側にそれぞれ連結して天井面板を吊る構成とされている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-90929号公報
【文献】特開2000-87497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ゴムによる防振材が適用される場合、静的バネ定数よりも動的バネ定数が大きくなる(バネが硬くなる)傾向にあり、静荷重による変位を考慮すると、期待した防振効果が得られない場合がある。また、天井空間(天井懐)が狭い場合に、天井面材の吊材への組み込みや取り付けに制限がある。さらに、ゴムは永久歪の課題を内包しており、耐久性、耐火性、耐薬品性、及び耐候性に関して不利となり易い。
【0008】
一方、板バネ本体と取り付け部が一体連接された板バネの場合、強度を上げるために板厚を厚くすると、今度は動的バネ定数が大きくなり、その固有振動数が上昇して、防振を企図して設定された周波数において期待した防振効果が得られなくなる恐れがある。すなわち、板バネにおいては、その強度の調整と周波数の調整がトレードオフの関係にある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、板バネを適用しながらも、強度と周波数の双方の調整を所望に行うことのできる防振吊り具及び防振天井を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による防振吊り具の一態様は、
防振性能を備えて、天井下地パネルフレームを支持する、防振吊り具であって、
台座と、
前記台座から下方に垂下されて前記天井下地パネルフレームを支持する支持片と、
立ち上がり片と、該立ち上がり片の上端と下端においてそれぞれ反対側に延びる上方張り出し片及び下方張り出し片と、を有する、二つの板バネの双方の該上方張り出し片を積層することにより形成される、防振手段と、を有し、
前記下方張り出し片が前記台座の上面に取り付けられており、
梁に固定される吊り棒が、積層する二つの前記上方張り出し片の重ね合わせ箇所に取り付けられていることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、二つの板バネを構成するそれぞれの上方張り出し片を積層し、それらの重ね合わせ箇所に対して梁に固定される吊り棒が取り付けられていることにより、重ね合わされた二つの上方張り出し片により板バネの強度を高めることができ、左右にそれぞれ立ち上がる一つの立ち上がり片により、板バネの弾性を担保することができる。二つの上方張り出し片を重ね合せることにより二枚分の厚みの板バネが形成されることから、板バネの厚みを所望に調整することにより、強度の調整を図ることができ、また、強度を高めたい場合であっても、一つ当たりの上方張り出し片の厚みを過度に厚くする必要はない。尚、二つの板バネは、厚みが同じものを適用してもよいし、異なる厚みのものを適用してもよい。
【0012】
例えば、重量床衝撃音のような低周波数域での防振効果を発揮させるには、バネ定数を可及的に小さくする必要があり、従って立ち上がり片の厚みは薄い方が有利となるが、その一方で、厚みが薄くなることにより板バネの強度が低下し得る。しかしながら、梁に固定される吊り棒が、二枚の上方張り出し片の重ね合わせ箇所に取り付けられていることにより、板バネの強度も確保することができる。すなわち、薄い板厚の板バネを適用した場合であっても、十分な強度を確保した上で、重量床衝撃音の低周波数域における防振効果を発揮することができる。
【0013】
防振吊り具の構成部材である台座や板バネ等は、例えば同種類の金属板により形成され得るが、金属板以外にも、硬質の樹脂等により形成されてもよい。
【0014】
吊り棒は吊りボルト等により形成され、H形鋼等により形成される梁の下方フランジに開設されているボルト孔に吊り棒が挿通され、ナット締めされることにより梁に固定されてもよい。また、その他、吊り棒の上方に取り付け治具が取り付けられ、取り付け治具を介して梁に固定されてもよい。この取り付け治具は、例えば、下方フランジの左右端の一方に係合される軸状の第一係合部材と、第一係合部材の軸部に沿ってスライドして下方フランジの左右端の他方に係合される第二係合部材とにより形成される。第一係合部材の軸部に複数のラック溝があり、第二係合部材も同様に複数のラック溝を有していて、第二係合部材を押し込むことにより双方のラック溝が移動しつつ噛み合い、第一係合部材と第二係合部材が下方フランジの左右端を挟持する。
【0015】
また、本発明による防振吊り具の他の態様は、積層する二つの前記上方張り出し片により、前記重ね合わせ箇所と、非重ね合わせ箇所が形成されていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、積層する二つの上方張り出し片により、重ね合わせ箇所と非重ね合わせ箇所(重ね合されておらず、一つの上方張り出し片の厚みしかない箇所)が形成されていることにより、重ね合わせ箇所は防振手段の強度に寄与し、非重ね合わせ箇所は防振手段に弾性を付与することができる。従って、この形態では、防振手段のバネ定数は、二つの上方張り出し片の非重ね合わせ箇所と立ち上がり片により設定することができる。
【0017】
また、本発明による防振吊り具の他の態様において、前記立ち上がり片は、前記下方張り出し片に対して斜めに立ち上がっていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、立ち上がり片が下方張り出し片に対して斜めに立ち上がっていることにより、例えば立ち上がり片が下方張り出し片に対して垂直に立ち上がっている場合に比べて、弾性が高められる(バネ定数が小さくなる)。さらに、立ち上がり片が下方張り出し片に対して斜めに立ち上がっていることにより、垂直に立ち上がっている場合に比べて防振吊り具の高さを相対的に低くすることができるため、設置空間が狭い場合や他部材との干渉の恐れのある場合に有利となる。
【0019】
また、本発明による防振天井の一態様は、
前記防振吊り具と、
前記吊り棒が直接的もしくは間接的に固定されている梁と、
前記防振吊り具の前記支持片により支持されている前記天井下地パネルフレームと、を少なくとも有することを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、上記する防振吊り具にて天井下地パネルフレームが支持されていることにより、防振性能に優れた防振天井が形成される。ここで、天井下地パネルフレームとは、例えば予め工場にて製作されている井桁状のフレームであり、現場搬送されて天井下地としてそのまま施工される部材である。天井下地パネルフレームには、木製のパネルフレームと鋼製(軽鉄製)のパネルフレームがある。井桁状の天井下地パネルフレームは、一対の主材と、対向する主材同士を接続する複数の繋ぎ材と、繋ぎ材同士を接続する繋ぎ補助材等を有している。また、梁は、建物躯体を形成する上階の床梁であり、H形鋼等の形鋼材により形成される。
【0021】
ここで、「吊り棒が直接的もしくは間接的に固定されている」とは、上記するように、吊りボルトにより形成される吊り棒が梁の下方フランジに開設されているボルト孔に挿通され、ナット締めにより直接固定される形態と、吊り棒の上方に取り付け治具が取り付けられていて、取り付け治具を介して梁に間接的に固定される形態を含む意味である。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から理解できるように、本発明の防振吊り具及び防振天井によれば、板バネを適用しながらも、強度と周波数の双方の調整を所望に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】天井下地パネルフレームの一例の平面図である。
図2図1のII-II矢視図である。
図3図1のIII-III矢視図である。
図4】実施形態に係る防振吊り具の一例を示す斜視図である。
図5】梁の下方フランジに防振吊り具が取り付けられている状態を示す斜視図である。
図6】実施形態に係る防振天井の一例を示す斜視図である。
図7図6のVII方向の矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態に係る防振吊り具と防振天井について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0025】
[実施形態に係る防振吊り具と防振天井]
<天井下地パネルフレーム>
はじめに、図1乃至図3を参照して、実施形態に係る防振天井を形成する、天井下地パネルフレームの一例について説明する。ここで、図1は、天井下地パネルフレームの一例の平面図であり、図2及び図3はそれぞれ、図1のII-II矢視図及びIII-III矢視図である。
【0026】
天井下地パネルフレーム10は、一対の主材11と、主材11同士を繋ぐ複数の繋ぎ材12と、一対の主材11の中間位置において、繋ぎ材12同士を繋ぐ繋ぎ補助材13とを有する井桁状の天井下地である。図1に一例として示すように、天井下地パネルフレーム10はこれらの部材により井桁状に組み付けられており、全体の寸法は例えば1P(1モジュール幅を910mmとする)×2Pであり、各格子は例えば0.5P×0.5Pの寸法を有する。天井下地パネルフレーム10は、工場にて図1に示す態様に組み付けられ、現場搬送されてそのまま施工される天井下地である。尚、長手方向の長さは、3P,4P等に設定されてもよい。
【0027】
主材11、繋ぎ材12、及び繋ぎ補助材13はいずれも軽鉄等の鋼材を曲げ加工することにより形成されている。図3に示すように、主材11は、リップ11cを備える断面形状が略溝形の本体片11aを有し、本体片11aのウエブには、外側にZ状に突設した係合片11bが設けられている。
【0028】
図2に示すように、繋ぎ材12は、リップ12aを備える断面形状が略溝形を呈している。また、図3に示すように、繋ぎ補助材13も同様に、リップ13aを備える断面形状が略溝形を呈している。主材11、繋ぎ材12、及び繋ぎ補助材13は、相互に釘やビス、溶接、かしめ等により組み付けられている。
【0029】
天井下地パネルフレーム10の下面には、一層もしくは二層の石膏ボード等からなる天井面材(図示せず)がドリル付きタッピングねじ等により張り付けられて、天井パネルが形成される。この天井面材の取り付けは、以下で詳説するように、床梁に対して防振吊り具を介して天井下地パネルフレーム10を垂下させた後に行われる。石膏ボードの下面には、さらにクロスが貼り付けられることにより、天井パネルの施工が完了する。また、天井下地パネルフレーム10の上方には、現場においてロックウール等の吸音材が載置される。
【0030】
尚、天井下地パネルフレーム10は、図示例の軽鉄製の天井下地パネルフレームの他、木桟を井桁状に組み付けることにより形成される、木製の天井下地パネルフレームであってもよい。
【0031】
<防振吊り具>
次に、図4を参照して、実施形態に係る防振吊り具の一例について説明する。ここで、図4は、実施形態に係る防振吊り具の一例を示す斜視図である。
【0032】
防振吊り具70は、台座40と、台座40から下方に垂下されて天井下地パネルフレーム10を支持する二つの支持片43と、二つの板バネ50により形成される防振手段55と、防振手段55に取り付けられている吊り棒60とを有し、各構成部材はいずれも金属製部材(金属板、鋼ボルト等)により形成されている。尚、各構成部材が硬質の樹脂により形成されてもよい。
【0033】
台座40は、平面視矩形の水平片41と、水平片41の左右端において曲げ加工により形成されている折り曲げ片42と、を有する。尚、台座40の剛性を高めるべく、水平片41の適所において、プレス加工によって水平片41の一部が盛り上げられたリブが形成されてもよい。
【0034】
水平片41の下面の中央位置には、コの字片47が下方に開口した姿勢で当接され、カシメ部49を介して固定されている。
【0035】
一方、支持片43は、斜め鉛直方向に延設する立ち上がり部44と、立ち上がり部44の上端において曲げ加工により形成される係止端45と、立ち上がり部44の下端において曲げ加工により7字状に形成される被係合部46とを有する。折り曲げ片42に対して係止端45が上方から係止され、双方がかしめ部48を介して固定されることにより、水平片41に対して支持片43が垂下された状態で固定される。図示するように、左右の支持片43の有する被係合部46は、防振吊り具70の内側(コの字片47側)に突出している。
【0036】
水平片41の上面には、防振手段55が取り付けられている。防振手段55は二つの板バネ50により形成されており、各板バネ50は、立ち上がり片51と、立ち上がり片51の上端と下端においてそれぞれ反対側に延びる上方張り出し片52及び下方張り出し片53とを有する。
【0037】
下方張り出し片53は、水平片41に対してカシメ部54を介して固定されている。そして、立ち上がり片51は、下方張り出し片53に対して角度θで斜めに立ち上がっており、上方張り出し片52は下方張り出し片53と平行に延びている。
【0038】
二つの板バネ50の有する上方張り出し片52は、相互に積層されている。より具体的には、中央の重ね合わせ箇所56と、左右の非重ね合わせ箇所57が形成されるようにして、二つの上方張り出し片52が積層されている。
【0039】
二つの上方張り出し片52の対応する位置にはボルト孔(図示せず)が開設されており、重ね合わせ箇所56を形成した際に双方のボルト孔が位置決めされ、吊りボルトにより形成される吊り棒60がボルト孔に挿通されている。そして、挿通された吊り棒60の下端にナット(図示せず)が螺合されている。
【0040】
重ね合わせ箇所56におけるボルト孔から上方に突出する吊り棒60においては、座金61を介してナット62が締め付けられており、図示するナット62と重ね合わせ箇所56の裏面のナット(図示せず)により、吊り棒60が重ね合わせ箇所56に固定される。
【0041】
吊り棒60において、ナット62の上方には蝶ナット63が螺合しており、蝶ナット63の上方には、一対の座金64が配設されており、座金64の上方に床梁に対して防振吊り具70を吊る高さレベルを規定するナット65が螺合している。
【0042】
以下で詳説するように、吊り棒60がH形鋼等により形成される床梁の下方フランジのボルト孔に挿通され、下方フランジの上方にナット65があり、下方フランジの下方から蝶ナット63を締め付けることにより、下方フランジに対して防振吊り具70が吊り固定される。
【0043】
防振吊り具70によれば、二枚の板バネ50を構成するそれぞれの上方張り出し片52を積層し、それらの重ね合わせ箇所56に対して梁に固定される吊り棒60が取り付けられていることから、重ね合わせ箇所56により防振手段55の強度を高めることができ、左右にそれぞれ立ち上がる一つの立ち上がり片51により、防振手段55の弾性(フレキシブル性)を担保することができる。
【0044】
二つの上方張り出し片52を重ね合せることにより二枚分の厚みの板バネが形成されることから、板バネの厚みを所望に調整することにより、防振手段55の強度の調整を図ることができ、また、強度を高めたい場合であっても、一つ当たりの上方張り出し片52の厚みを過度に厚くする必要はない。
【0045】
例えば、重量床衝撃音のような低周波数域での防振効果を発揮させるべく、可及的に薄い板厚の板バネ50を適用した場合であっても、重ね合わせ箇所56においては二枚の上方張り出し片52が積層されることにより、防振手段55は十分な強度を確保した上で、重量床衝撃音の低周波数域における防振効果を発揮することができる。
【0046】
ここで、板バネには、板厚が0.5mm程度以下の金属板が適用でき、中でも、耐久性に優れているステンレス鋼が適用されるのが好ましい。
【0047】
また、左右の非重ね合わせ箇所57が形成されるようにして、二つの上方張り出し片52が積層されていることにより、重ね合わせ箇所56は防振手段55の強度に寄与し、非重ね合わせ箇所57は防振手段55に弾性を付与することができる。従って、防振手段55のバネ定数は、二つの上方張り出し片52の非重ね合わせ箇所57と、立ち上がり片51とにより設定することができる。
【0048】
また、立ち上がり片51が下方張り出し片53に対して斜めに立ち上がっていることにより、例えば立ち上がり片が下方張り出し片に対して垂直に立ち上がっている場合に比べて、防振手段55の弾性が高められ、防振手段55のバネ定数を小さくすることができる。さらに、立ち上がり片51が下方張り出し片53に対して斜めに立ち上がっていることにより、垂直に立ち上がっている場合に比べて防振吊り具70の高さを相対的に低くすることができるため、設置空間が狭い場合や他部材との干渉の恐れのある場合に有利となる。
【0049】
尚、二つの上方張り出し片52が、非重ね合わせ箇所57がなく、重ね合わせ箇所56のみを有する態様で積層されてもよいし、立ち上がり片51が下方張り出し片53に対して直角に立ち上がる形態であってもよい。
【0050】
また、図示を省略するが、吊り棒60の上方に別途の防振手段55を備えた防振吊り具であってもよい。この形態では、二つの防振手段55が上下に直列に配設されることになる。このように防振手段を上下に直列に配設することにより、全体のバネ定数が小さくなり、防振設計上有利になるとともに、強度とのバランスが取り易くなる。
【0051】
<防振天井>
次に、図5乃至図7を参照して、防振天井の形成方法と実施形態に係る防振天井の一例について説明する。ここで、図5は、梁の下方フランジに防振吊り具が取り付けられている状態を示す斜視図である。また、図6は、実施形態に係る防振天井の一例を示す斜視図であり、図7は、図6のVII方向の矢視図である。
【0052】
図5に示すように、H形鋼により形成される床梁30の下方フランジ31に開設されているボルト孔(図示せず)に対して、下方から防振吊り具70の吊り棒60を挿通する。防振吊り具70は下方から作業員が手で支持しておき、吊り棒60をボルト孔に挿通した後、一対の座金64のうちの上方の座金64を吊り棒60の上方から落とし込み、防振吊り具70の吊りレベルを調整するナット65を所定位置まで螺合する。そして、作業員は、下方フランジ31の下方にある蝶ナット63を上方に螺合していき、蝶ナット63とナット65により下方フランジ31を挟持させる。作業員が防振吊り具70から手を放すと、図5に示すように、下方フランジ31に防振手段55が当接した状態で、防振吊り具70が床梁30の下方に吊り固定される。
【0053】
次に、図6及び図7に示すように、天井下地パネルフレーム10の有する主材11を、コの字片47と支持片43の間の隙間に下方からY1方向に差し込むことにより、係合片11bにて押し広げられた立ち上がり部44が外側にY2方向に変位する。そして、係合片11bの上端が水平片41の下面に当接した際に、被係合部46と係合片11bが係合することにより、防振吊り具70に対して主材11が係合され、天井下地パネルフレーム10が固定され、防振天井80が形成される。
【0054】
[防振吊り具による防振効果を検証する実験]
本発明者等は、防振吊り具による防振効果を検証する実験を行った。本実験では、板厚0.3mmの板バネを用いた防振吊り具を適用した防振天井(実施例)と、防振吊り具を具備しない天井(比較例)において、重量床衝撃音と軽量床衝撃音の各衝撃音レベルを計測し、その差分(比較例の計測結果-実施例の計測結果)を求めた。
【0055】
ここで、重量床衝撃音は、床上を飛び跳ねた音や歩行音等を模擬しており、軽量床衝撃音は、スプーン等の食器を落とした際の落下音等を模擬している。以下、表1に重量床衝撃音に関する実験結果を示し、表2に軽量床衝撃音に関する実験結果を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1及び表2より、重量床衝撃音、軽量床衝撃音ともに、各周波数域において高い防振効果が得られており、実施形態に係る防振吊り具を適用した防振天井により、優れた防振効果が得られることが実証されている。
【0059】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0060】
10:天井下地パネルフレーム
11:主材
11a:本体片
11b:係合片
11c:リップ
12:繋ぎ材
12a:リップ
13:繋ぎ補助材
13a:リップ
30:梁(床梁)
31:下方フランジ
40:台座
41:水平片
42:折り曲げ片
43:支持片
50:板バネ
51:立ち上がり片
52:上方張り出し片
53:下方張り出し片
55:防振手段
56:重ね合わせ箇所
57:非重ね合わせ箇所
60:吊り棒(吊りボルト)
70:防振吊り具
80:防振天井
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7