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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20230606BHJP
   H01M 8/1011 20160101ALI20230606BHJP
   H01M 8/0444 20160101ALI20230606BHJP
   H01M 8/04791 20160101ALI20230606BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230606BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/1011
H01M8/04 Z
H01M8/0444
H01M8/04791
H01M8/10 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019189183
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021064550
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】高里 明洋
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】中井 基生
(72)【発明者】
【氏名】久保 厚
(72)【発明者】
【氏名】武田 恭英
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕介
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-293850(JP,A)
【文献】特開2006-253046(JP,A)
【文献】特表2006-523936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸またはアルコールを含む液体を燃料とする直接液体型の燃料電池を有する燃料電池システムであって、
前記燃料の水溶液である燃料水溶液を収容する燃料タンクと、
前記燃料電池に設けられて、前記燃料水溶液が流入する燃料流入口と、
前記燃料電池に設けられて、使用された前記燃料水溶液を排出燃料液として排出する燃料流出口と、
前記燃料タンクと前記燃料電池の前記燃料流入口に接続された燃料供給配管と、
前記燃料供給配管に設けられて、前記燃料水溶液を前記燃料電池に送り出す燃料供給ポンプと、
前記燃料電池の前記燃料流出口に接続されて、前記燃料流出口から排出される前記排出燃料液が流れる排出燃料回収配管と、
前記排出燃料回収配管に設けられて、前記排出燃料液に含まれる水分の一部を前記排出燃料液から除去する水分除去装置と、を備え、
前記水分除去装置により前記排出燃料液から前記水分の一部が除去された脱水排出燃料液が再生燃料液として前記燃料タンクに戻されている、
燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記水分除去装置に設けられて、前記排出燃料液に対して除去する前記水分の割合を調整する水分除去率調節機構と、
前記排出燃料回収配管に設けられて、前記脱水排出燃料液の前記燃料の濃度を検出する濃度検出センサと、
前記濃度検出センサによって検出された前記脱水排出燃料液の前記燃料の濃度に基づいて、前記脱水排出燃料液の前記燃料の濃度を所定範囲内の濃度となるように、前記水分除去率調節機構を制御する制御装置と、を備える、
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池は、燃料極と、電解質膜と、空気極とを有し、
前記燃料極は、燃料極触媒を有し、
前記排出燃料回収配管には、さらに、前記排出燃料液に含まれている、前記燃料極触媒を被毒させる触媒毒の少なくとも一部を、前記排出燃料液から除去する触媒毒除去装置が設けられている、
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池には様々な種類があり、その中には、液体の燃料を改質せずに燃料極に直接投入する直接液体型燃料電池がある。直接液体型燃料電池は、燃料を酸化する燃料極と、空気などの酸化剤ガスを還元する空気極と、空気極と燃料極との間にイオン伝導を行う電解質膜とを備えている。ここで、燃料極はアノードで、空気極はカソードである。燃料極および空気極の両方の電極では、電極の酸化還元反応の速度を促進させる電極触媒を含む触媒層が設けられている。
【0003】
直接液体型燃料電池に関する技術が各種提案されている。例えば、特許文献1には、燃料にメタノールを用いる直接メタノール型燃料電池と、燃料にギ酸を用いる直接ギ酸型燃料電池とが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-192525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の直接液体型燃料電池は、燃料極に供給した燃料のうち、一部は、酸化されないうちに燃料極から排出され、廃燃料とされる。従って、特許文献1に記載の直接液体型燃料電池は、燃料極に供給した燃料全てを、電気を発生されるために使用できない。このため、燃料をより効率よく利用できる燃料電池システムが求められていた。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、より効率よく燃料を利用しうる燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の発明はギ酸またはアルコールを含む液体を燃料とする直接液体型の燃料電池を有する燃料電池システムであって、前記燃料の水溶液である燃料水溶液を収容する燃料タンクと、前記燃料電池に設けられて、前記燃料水溶液が流入する燃料流入口と、前記燃料電池に設けられて、使用された前記燃料水溶液を排出燃料液として排出する燃料流出口と、前記燃料タンクと前記燃料電池の前記燃料流入口に接続された燃料供給配管と、前記燃料供給配管に設けられて、前記燃料水溶液を前記燃料電池に送り出す燃料供給ポンプと、前記燃料電池の前記燃料流出口に接続されて、前記燃料流出口から排出される前記排出燃料液が流れる排出燃料回収配管と、前記排出燃料回収配管に設けられて、前記排出燃料液に含まれる水分の一部を前記排出燃料液から除去する水分除去装置と、を備え、前記水分除去装置により前記排出燃料液から前記水分の一部が除去された脱水排出燃料液が再生燃料液として前記燃料タンクに戻されている、燃料電池システムである。
【0008】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る燃料電池システムであって、前記水分除去装置に設けられて、前記排出燃料液に対して除去する前記水分の割合を調整する水分除去率調節機構と、前記排出燃料回収配管に設けられて、前記脱水排出燃料液の前記燃料の濃度を検出する濃度検出センサと、前記濃度検出センサによって検出された前記脱水排出燃料液の前記燃料の濃度に基づいて、前記脱水排出燃料液の前記燃料の濃度を所定範囲内の濃度となるように、前記水分除去率調節機構を制御する制御装置と、を備える、燃料電池システムである。
【0009】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る燃料電池システムであって、前記燃料電池は、燃料極と、電解質膜と、空気極とを有し、前記燃料極は、燃料極触媒を有し、前記排出燃料回収配管には、さらに、前記排出燃料液に含まれている、前記燃料極触媒を被毒させる触媒毒の少なくとも一部を、前記排出燃料液から除去する触媒毒除去装置が設けられている、燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、燃料電池システムは、燃料電池から排出される排出燃料液から水分の一部を除去した脱水排出燃料液を、再生燃料液として燃料タンクに戻して、発電に用いる。従って、燃料電池システムは、排出燃料液を単に廃棄することなく、排出燃料液から再生した再生燃料液を発電に用いることができる。このため、燃料電池システムは、より効率よく燃料を利用しうる。
【0011】
第2の発明によれば、制御装置が水分除去率調節機構を制御して、脱水排出燃料液の燃料の濃度が所定範囲内の濃度となるように、排出燃料液に対して除去する水分の割合が調整される。これにより、脱水排出燃料液は、燃料の濃度が所定範囲内の濃度となるように調整されたうえで、再生燃料液として燃料タンクに戻される。従って、再生燃料液は、燃料の濃度が所定範囲内に保たれたうえで、発電に用いられるため、燃料電池がより安定して発電を行うことが出来る。
【0012】
第3の発明によれば、燃料電池システムは、触媒毒除去装置により、燃料極触媒を被毒させる触媒毒の少なくとも一部が、排出燃料液から除去される。これにより、燃料タンクに戻されて発電に用いられる再生燃料液は、触媒毒の少なくとも一部が除去されており、再生燃料液が燃料極に送られて発電に用いられるときに、再生燃料液によって燃料極触媒が被毒されることが抑止されている。従って、燃料電池がより安定して発電を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】燃料電池システムの全体構成を説明する図である。
図2】燃料電池の構成を説明する分解斜視図である。
図3】制御装置による処理手順を説明するメインフローチャートである。
図4図3の「水分除去ポンプ制御」の詳細を説明するフローチャートである。
図5図3の「再生燃料ポンプ制御」の詳細を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態の燃料電池システム1について、図面を用いて説明する。なお、本実施の形態にて説明する燃料電池システム1の燃料電池7は、ギ酸、またはメタノール等のアルコールの水溶液を燃料とする直接液体型燃料電池であり、以下ではギ酸を燃料とする直接ギ酸型燃料電池を例として説明する。ここで、直接液体型燃料電池とは、液体の燃料を、改質せずに燃料極に直接投入する燃料電池を意味する。そして、直接ギ酸型燃料電池は、燃料としてギ酸を用い、ギ酸を改質せずに燃料極10(図2参照)に直接投入する燃料電池である。なお、図中にX軸、Y軸、Z軸が記載されている場合、各軸は互いに直交しており、Z軸方向は鉛直上方に向かう方向、Y軸方向は燃料電池7の積層方向、X軸方向は燃料電池7の水平幅方向を示している。
【0015】
●[燃料電池システム1の全体構成(図1)]
図1は、燃料電池7を含む燃料電池システム1の全体構成を示す図であり、図2は燃料電池7の構成を説明する分解斜視図である。燃料電池システム1は、図1に示すように、燃料タンク50、燃料供給ポンプ52、燃料電池7、排液タンク60、触媒毒除去装置71、水分除去装置80、再生タンク75、制御装置90等を有している。以下に詳細を説明するが、燃料の水溶液である燃料水溶液(ギ酸水溶液)は、燃料水溶液を蓄えている燃料タンク50から燃料電池7に供給される。燃料電池7で発電に使用された燃料水溶液は、排出燃料液として燃料電池7から排出される。燃料電池システム1は、排出燃料液から再生した再生燃料液を燃料タンク50に戻して発電に用いる。また、再生燃料液は再生タンク75に蓄えられる。
【0016】
燃料タンク50は、燃料となる所定濃度のギ酸を含むギ酸水溶液(燃料水溶液)を収容している。燃料水溶液中のギ酸の濃度は、例えば10~40[%]程度である。また燃料タンク50には燃料供給配管51の一方端が接続され、燃料供給配管51の他方端は燃料電池7の燃料流入口7Aに接続されている。後述する様に、燃料電池7は、燃料水溶液が流入する燃料流入口7Aと、燃料電池7で使用された燃料水溶液を排出燃料液として排出する燃料流出口7Bと、を有している。
【0017】
燃料供給ポンプ52は電動ポンプであり、燃料供給配管51に設けられており、燃料タンク50内の燃料水溶液を燃料電池7の燃料流入口7Aに向けて圧送する。これにより、燃料電池7は、燃料水溶液が燃料流入口7Aから供給され、燃料電池7内で使用された燃料水溶液は、燃料電池7の燃料流出口7Bから排出燃料液として排出される。
【0018】
排出燃料回収配管70は、一方端が燃料電池7の燃料流出口7Bに接続されており、他方端が再生タンク75接続されている。排出燃料回収配管70には、燃料流出口7Bから排出される排出燃料液が流れる。排出燃料回収配管70には、燃料流出口7B側から順に、触媒毒除去装置71と、濃度検出センサ72と、水分除去装置80とが、設けられている。
【0019】
触媒毒除去装置71は、排出燃料回収配管70に設けられており、排出燃料液に含まれている触媒毒の一部を排出燃料液から除去する。触媒毒とは、燃料極触媒層11(後述)の有する燃料極触媒(後述)を被毒させる物質である。触媒毒除去装置71は、触媒毒除去装置71に流入した排出燃料液を、触媒毒の少なくとも一部が除去された排出燃料液と、除去した触媒毒を含む触媒毒水溶液とに分けることができる。触媒毒除去装置71は、触媒毒の少なくとも一部が除去された排出燃料液を排出燃料回収配管70に流す。また、触媒毒除去装置71は、触媒毒水溶液を触媒毒排出配管73に排出する。触媒毒排出配管73は、一方端が触媒毒除去装置71に接続されており、他方端が排液タンク60に接続されている。触媒毒除去装置71から排出された触媒毒水溶液は、触媒毒排出配管73を経由して排液タンク60に溜められる。
【0020】
触媒毒としては、例えば一酸化炭素(CO)が挙げられる。そして、一酸化炭素(CO)分子は、ギ酸(HCOOH)分子よりも小さい分子であるため、触媒毒除去装置71には、例えば、後述する水分除去装置80と同様の構成を備える逆浸透膜装置を用いることができる。触媒毒除去装置71は、排出燃料液を、一酸化炭素(CO)分子を含むがギ酸を含まない触媒毒水溶液と、触媒毒水溶液が除かれた排出燃料液とに分けることができる。触媒毒水溶液は、ギ酸を含まない水溶液となり、触媒毒水溶液が除かれた排出燃料液はギ酸の濃度が高まる。なお、一酸化炭素(CO)の他の触媒毒として、炭素系有機物、重金属等の触媒毒も挙げられ、特に重金属はキレート剤で除去が可能になる。これらの触媒毒となる炭素系有機物や重金属を除去するための装置を、触媒毒除去装置71に適宜設けてもよい。例えば、重金属に結合するキレート剤を担持させた充填剤を充填したカラムを触媒毒除去装置71に設けて、キレート剤にて重金属を排出燃料液から除去してもよい。また、触媒毒となる炭素系有機物を除去できるフィルタを、触媒毒除去装置71に設けて、触媒毒となる炭素系有機物を排出燃料液から除去してもよい。
【0021】
濃度検出センサ72は、排出燃料回収配管70に設けられており、排出燃料回収配管70を流れる排出燃料液のギ酸濃度(燃料の濃度)を検出する。また、濃度検出センサ72は、制御装置90に接続されており、制御装置90は、濃度検出センサ72を用いて排出燃料液のギ酸濃度を検出することができる。
【0022】
濃度検出センサ72には、例えば、ガラス電極を用いてpHを計測する水素イオン濃度計や、排出燃料液のインピーダンスを計測する装置を用いることができる。排出燃料液のギ酸の濃度が高いほど排出燃料液のpHは低くなると考えることができる。そこで、濃度検出センサ72として水素イオン濃度計を用いた場合は、排出燃料液のpHの値からギ酸の濃度を算出することができる。また、排出燃料液のギ酸の濃度が高くなるほど排出燃料液の電気伝導性が上がり、排出燃料液のインピーダンスは低くなると考えることができる。そこで、濃度検出センサ72としてインピーダンスを計測する装置を用いた場合は、排出燃料液のインピーダンスの値からギ酸の濃度を算出することができる。
【0023】
水分除去装置80は、排出燃料回収配管70から水分除去装置80に流入した排出燃料液を、排出燃料液から水分の一部が除去された脱水排出液と、排出燃料液から除去した水とに分けることができる多孔質のフィルタ(不図示)を備えている。水分除去装置80は、水分排出配管74に接続されており、排出燃料液から除去した水を水分排出配管74に流すことが出来る。水分除去装置80として、例えば、多孔質のフィルタとして逆浸透膜を備える逆浸透膜装置を用いる。ここで、水分除去装置80に用いる逆浸透膜装置として、内部の圧力を調整することで除去する水分量を調整可能な逆浸透膜装置を用いることができる。
【0024】
また、水分除去装置80は、水分除去装置80内を流れる排出燃料液に圧力を加える水分除去ポンプ81(水分除去率調整装置)が設けられている。水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える圧力が高い程、排出燃料液に対して除去される水分の割合が高くなり、脱水排出液のギ酸の濃度が濃くなる。水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える圧力が低い程、排出燃料液に対して除去される水分の割合が低くなり、脱水排出液のギ酸の濃度が薄くなる。従って、水分除去ポンプ81が加える圧力を調整することで、排出燃料液から水分の一部が除去された脱水排出液のギ酸の濃度を調整できる。
【0025】
水分除去ポンプ81は、水分除去装置80に取り付けられており、制御装置90に接続されている。水分除去ポンプ81は、例えば、水分除去装置80内を流れる排出燃料液に、外部からの空気を加えることで、水分除去装置80内を流れる排出燃料液に圧力を加えるものとしてもよい。また、水分除去ポンプ81は、例えば、水分除去装置80内を流れる排出燃料液を圧送することで、水分除去装置80内を流れる排出燃料液に圧力を加えるものとしてもよい。制御装置90は、水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える圧力を制御できる。上述した様に、水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える圧力により脱水排出液のギ酸の濃度が変わるため、制御装置90は、水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える圧力を制御することで、水分除去装置80から排出燃料回収配管70に排出される脱水排出液のギ酸の濃度を調整することができる。水分除去ポンプ81は、水分除去装置80に設けられて、排出燃料液に対して除去する水分の割合を調整する水分除去率調節機構として機能する。
【0026】
水分排出配管74は、一方端が水分除去装置80に接続されており、他方端が排液タンク60に接続されている。水分除去装置80で除去された水(H2O)は、水分除去装置80から水分排出配管74に排出され、水分排出配管74を経由して排液タンク60に溜められる。
【0027】
再生タンク75は、上述したように排出燃料回収配管70に接続されており、水分除去装置80が排出した脱水排出燃料液を再生燃料液として蓄える。また、再生タンク75は、内部に濃度検出センサ76および水位センサ77を備えており、再生燃料供給配管78の一端が接続されている。再生燃料供給配管78の他端は燃料タンク50に接続されている。再生タンク75内の脱水排出燃料は、再生燃料供給配管78から燃料タンク50に送り出される。
【0028】
濃度検出センサ76は、再生タンク75内に設けられており、再生タンク75内の排出燃料液(再生燃料液)のギ酸の濃度を検出する。また、濃度検出センサ76は、制御装置90に接続されており、濃度検出センサ76が検出した濃度を制御装置90に出力できる。濃度検出センサ76には、上述した濃度検出センサ72と同様に、例えば、ガラス電極を用いた水素イオン濃度計や、排出燃料液のインピーダンスを計測する装置を用いることができる。
【0029】
水位センサ77は、再生タンク75内に設けられており、再生タンク75内の脱水排出燃料液(再生燃料液)の液面の高さを検出する。水位センサ77は、制御装置90に接続されており、制御装置90は水位センサ77を用いて再生タンク75内の脱水排出燃料液の液面の高さを検出できる。制御装置90は水位センサ77を用いて再生タンク75内の脱水排出燃料液の液面の高さを検出し、検出した液面の高さから再生タンク75内の脱水排出燃料液の量(燃料量)を算出することができる。
【0030】
再生燃料供給配管78は、一方端が再生タンク75に接続されており、他方端が燃料タンク50に接続されている。再生燃料供給配管78には、再生燃料ポンプ79が設けられている。再生燃料ポンプ79は制御装置90から制御される電動ポンプであり、再生燃料供給配管78に設けられており、再生タンク75内の脱水排出燃料液を燃料タンク50に向けて圧送する。これにより、再生タンク75内の脱水排出燃料液は、再生燃料供給配管78を経由して、再生燃料液として燃料タンク50に戻される。
【0031】
排液タンク60は、触媒毒除去装置71に接続された触媒毒排出配管73と、水分除去装置80に接続された水分排出配管74と、一端が燃料電池7の排出孔23Bに接続された回収配管62と、に接続されている。排出孔23Bは、空気極20内を流れた空気(酸素)と、空気極20にて発生した水と、を回収配管62に排出する。従って、排液タンク60には、触媒毒排出配管73から流入する触媒毒水溶液と、水分排出配管74から流入する水と、回収配管62から流入する空気極20にて発生した水と、が蓄えられている。なお、排液タンク60には、空気極20内を流れた空気(酸素)が流入する。排液タンク60の上部には、内部と外部を連通する排気口(不図示)が設けられており、排液タンク60の内部の圧力(気圧)が高まると、排液タンク60内の気体が排気口(不図示)から排液タンク60外へ流出する。
【0032】
制御装置90は、CPU等が搭載された電子回路を有しており、上述した様に、燃料供給ポンプ52、濃度検出センサ72、水分除去ポンプ81、濃度検出センサ76、水位センサ77、再生燃料ポンプ79に接続されている。これにより制御装置90は、ギ酸水溶液を燃料タンク50から燃料電池7に送り出すことに関する制御や、排出燃料を脱水排出燃料にし、再生燃料液として燃料タンク50に戻すことに関する制御を行う。制御装置90は、これらの制御を行うために種々の情報を記憶している。
【0033】
燃料電池7は、燃料タンク50からの燃料が流入される燃料流入口7Aと、使用された燃料を排出する燃料流出口7Bとを有し、流入された燃料を用いて発電する。なお、燃料電池7の構造の詳細について、以下に説明する。
【0034】
●[燃料電池7の構造(図2)]
燃料電池7は、図2に示すように、空気極20と燃料極10にて電解質膜30を挟んだ構成を有している。空気極20は、空気極触媒層21、空気極拡散層22、空気極集電体23が積層されて構成されている。燃料極10は、燃料極触媒層11、燃料極拡散層12、燃料極集電体13が積層されて構成されている。
【0035】
空気極集電体23は、厚みが約1~10[mm]程度の導電性を有する板状の金属等である。空気極集電体23には、図1に示すように、電気負荷(例えば、電動モータ)の一方端(図1参照)が接続される。空気極集電体23には、空気(酸素)を空気極拡散層22に拡散させるとともに、空気極20にて発生する水を排出するために、圧送された空気を外部から供給する供給口23Aと、供給口23Aに接続された空気流通溝23Cと、空気流通溝23Cに接続された排出孔23Bとが、設けられている。
【0036】
空気極集電体23において、供給口23Aは上方に設けられており、排出孔23Bは下方に設けられている。空気流通溝23Cは、空気極集電体23の空気極拡散層22に接触する側の面に、幅が狭い流路として形成されている。空気極20にて発生する水(後述)は、空気流通溝23Cに流入する。圧送された空気(酸素)は供給口23Aから空気流通溝23Cに流入して、空気流通溝23Cを流れると、空気極20にて発生する水とともに、排出孔23Bから回収配管62(図1参照)に排出される。なお、空気流通溝23Cは、燃料流通溝13Bと同形状に形成しても良い。
【0037】
空気極拡散層22は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。空気極拡散層22は、水および空気を透過できるとともに、電子伝導性を有する多孔質材であり、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスを用いることができる。空気極拡散層22は、空気極集電体23の供給口23Aから流入した空気(酸素)を、拡散させながら空気極触媒層21に導く。外気の空気に含まれる酸素は、空気極拡散層22に浸透して空気極触媒層21の電極触媒粒子に到達する。
【0038】
空気極触媒層21は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。空気極触媒層21は、空気極の電極触媒粒子(不図示)と、電極触媒粒子を担持する電極触媒担持体(不図示)とを備えている。空気極20の電極触媒粒子は、空気中の酸素を還元する反応の反応速度を促進させる触媒の粒子であり、例えば白金(Pt)粒子を用いることができる。電極触媒担持体は、電極触媒粒子を担持できるとともに、導電性を備えるものであればよく、例えばカーボン粉末を用いることができる。燃料としてギ酸を用いた場合、空気極触媒層21の電極触媒粒子によって、(式1)に示す酸化還元反応が進行する。なお、生成された水(H2O)は、上述したが、空気極触媒層21から空気流通溝23Cに流入して、空気極集電体23の排出孔23Bから回収配管62(図1参照)に排出され、回収配管62を経由して排液タンク60(図1参照)に導かれる。
2H+ + 1/2O2 + 2e- → H2O (式1)
【0039】
燃料極集電体13は、厚みが約1~10[mm]程度の導電性を有する板状の金属等である。燃料極集電体13は、燃料極拡散層12に接触する燃料流通面13Aを有しており、燃料流通面13Aには、燃料極拡散層12の側が開口された燃料流通溝13Bが形成されている。燃料流通溝13Bは、淀みなく燃料が流れるように、幅が狭い流路とされている。また、電子e-を回収するために、燃料流通溝13Bの周囲には、燃料極拡散層12に接触するランド部13Eが形成されている。燃料極集電体13には、図1に示すように、電気負荷(例えば、電動モータ)の他方端が接続される。
【0040】
また燃料流通溝13Bは、燃料極集電体13の一方縁部(または他方縁部)から、対向する他方縁部(または一方縁部)へと略水平方向に延びる複数の流通溝部13Cを有している。また複数の流通溝部13Cのそれぞれは、燃料極集電体13の一方縁部または他方縁部の近傍に形成されて略鉛直方向に延びる折り返し溝部13Dにて接続されている。また燃料流通溝13Bは、燃料極集電体13の下方に形成された燃料流入口7Aと、燃料極集電体13の上方に形成された燃料流出口7Bと、に接続されている。
【0041】
従って、燃料流入口7Aに流入された燃料は、流通溝部13Cにて一方縁部の側から他方縁部の側へと導かれ、折り返し溝部13Dにて方向転換されて、次の流通溝部13Cにて他方縁部の側から一方縁部の側へと導かれ、次の折り返し溝部13Dにて方向転換されることを繰り返しながら、つづら折り状とされた燃料流通溝13B内を流れ、燃料極拡散層12中に拡散される。
【0042】
燃料極拡散層12は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。燃料極拡散層12は、ギ酸水溶液が内部に浸透できるとともに、電子伝導性を有する多孔質材であり、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスを用いることができる。燃料極拡散層12は、燃料極集電体13の燃料流通面13Aに形成された燃料流通溝13Bに流される燃料を、拡散させながら燃料極触媒層11に導く。
【0043】
燃料極触媒層11は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。燃料極触媒層11は、電極触媒粒子(不図示)と、電極触媒粒子を担持する電極触媒担持体(不図示)とを備えている。燃料極10の電極触媒粒子は、燃料であるギ酸の酸化反応の速度を促進させる触媒の粒子であり、例えばパラジウム(Pd)粒子を用いることができる。電極触媒担持体は、電極触媒粒子を担持できるとともに、導電性を備えるものであればよく、例えばカーボン粉末を用いることができる。燃料としてギ酸を用いた場合、燃料極触媒層11の電極触媒粒子によって、(式2)に示す酸化反応が進行する。
HCOOH → CO2 + 2H+ +2e- (式2)
【0044】
電解質膜30は、厚みが約0.01~0.3[mm]程度の薄膜状に形成されている。電解質膜30は、燃料極10の燃料極触媒層11と空気極20の空気極触媒層21との間に挟まれており、電子伝導性を持たず、水およびプロトン(H+)を透過できるプロトン交換膜である。電解質膜30には、例えば、Du Pont社製のNafion(登録商標)等のパーフルオロエチレンスルフォン酸系膜を用いることができる。以上で説明した、燃料極触媒層11と、燃料極拡散層12と、電解質膜30と、空気極触媒層21と、空気極拡散層22とが接合されて一体化されたものを、本明細書では、膜/電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)と記載する場合もある。
【0045】
●[燃料電池の作動について(図1図2)]
ギ酸水溶液(燃料水溶液)は、燃料タンク50内から燃料供給配管51に送りだされて、燃料極集電体13の燃料流入口7Aから、燃料流通溝13Bに流入する。ギ酸水溶液は、燃料流通溝13Bを流れるにつれ、燃料極拡散層12に浸透して、燃料極触媒層11の電極触媒粒子の表面に到達する。そして、燃料極触媒層11の電極触媒粒子の表面上で、上記の(式2)に示すギ酸の酸化反応が進行する。
【0046】
(式2)に示す、ギ酸の酸化反応で生成された二酸化炭素(CO2)は、集まって泡となり燃料極10から排出され、プロトンH+は電解質膜30を透過して空気極触媒層21の電極触媒粒子に到達する。また、ギ酸から生成された電子e-は、燃料極拡散層12、燃料極触媒層11、燃料極集電体13を流れ、さらに、燃料極集電体13から外部回路(電気負荷)に流れる。なお、燃料極触媒層11の電極触媒粒子の表面上において、ギ酸の酸化反応で生成された二酸化炭素(CO2)は、集まって泡となり、燃料極拡散層12、燃料流通溝13Bを流れて、燃料流出口7Bから排出燃料回収配管70に排出され、触媒毒除去装置71および触媒毒排出配管73を経由して排液タンク60に溜められる。
【0047】
電子e-は、外部回路(電気負荷)から空気極集電体23へ流れ、さらに、空気極集電体23、空気極拡散層22、空気極触媒層21を流れて空気極触媒層21に到達する。空気極触媒層21の電極触媒粒子表面には、外部回路(電気負荷)からのe-と、電解質膜30を透過したプロトンH+と、空気極拡散層22を透過した外気の酸素とが到達し、上記の(式1)に示す酸化還元反応が進行する。(式1)に示すように、空気極触媒層21の電極触媒粒子表面では水(H2O)が生成されるが、空気極触媒層21の電極触媒粒子表面で生成される水(H2O)は、図1および図2に示す様に、空気極触媒層21から空気流通溝23Cに流入して、空気極集電体23の排出孔23Bから回収配管62に排出され、さらに回収配管62を経由して排液タンク60に貯められる。
【0048】
以上の様に、燃料電池7は燃料タンク50内のギ酸水溶液を用いて発電する。そして、発電に用いられたギ酸水溶液は、燃料電池7の燃料流出口7Bから排出燃料回収配管70に排出燃料液として排出される。そして、排出燃料液は、排出燃料回収配管70を経由し、触媒毒除去装置71にて触媒毒を含む触媒毒水溶液が除かれる。さらに、排出燃料液は、水分除去装置80にて水分を除去されて、脱水排出燃料液が生成される。脱水排出燃料液は、再生燃料液として再生タンク75に溜められる。再生タンク75に溜められた再生燃料液は、再生燃料供給配管78に設けられた再生燃料ポンプ79により圧送され、再生燃料供給配管78を経由して燃料タンク50に戻される。燃料電池7が再生燃料液を用いて良好に発電できるために、再生燃料液のギ酸濃度(燃料の濃度)が適切に調整されている必要がある。このため、燃料電池システム1は、以下の様に制御されている。
【0049】
●[燃料電池システムの制御について(図3)]
次に、図3に示すメインフローチャートを用いて、制御装置90が行う処理手順の例について説明する。図3に示すメインフローチャートは、例えば所定時間間隔(例えば、100[ms]間隔))で起動され、起動されると制御装置90は、ステップS010へと処理を進める。
【0050】
ステップS010にて制御装置90は、燃料供給ポンプ52が所定流量の燃料溶液を圧送するよう、燃料供給ポンプ52に制御信号を出力してステップS020へと処理を進める。これにより、燃料供給ポンプ52により燃料タンク50内の燃料水溶液が所定流量、燃料電池7の燃料流入口7Aに向けて圧送される。そして、燃料電池7は上述した発電を行い、燃料電池7の燃料流出口7Bから排出燃料回収配管70に排出燃料液が排出され始める。
【0051】
ステップS020にて制御装置90は、「水分除去ポンプ制御(図4参照)」の処理を実行してステップS030へと処理を進める。なお、「水分除去ポンプ制御(図4参照)」の処理とは、詳細は後述するが、排出燃料液から水分を除去した脱水排出燃料液を再生燃料液として再生タンク75に溜める制御である。ここで、制御装置90は、濃度検出センサ76によって検出された脱水排出燃料液のギ酸(燃料)の濃度に基づいて、脱水排出燃料液のギ酸(燃料)の濃度を所定範囲内の濃度となるように、水分除去ポンプ81(水分除去率調節機構)を制御する。
【0052】
ステップS030にて制御装置90は、「再生燃料ポンプ制御(図5参照)」の処理を実行して図3に示す処理を終了する。なお、「再生燃料ポンプ制御(図5参照)」の処理とは、詳細は後述するが、再生タンク75から燃料タンク50へ再生燃料液(脱水排出燃料液)を移動させる処理である。ここで、制御装置90は、再生タンク75内の脱水排出燃料液(再生燃料液)のギ酸(燃料)の濃度が再生燃料液として適切であり、かつ、再生タンク75内の脱水排出燃料液(再生燃料液)が所定の基準量よりも多い場合に、再生タンク75から燃料タンク50へ再生燃料液(脱水排出燃料液)を移動させる。
【0053】
●[水分除去ポンプ制御について(図4)]
次に、図4に示すフローチャートを用いて、図3のメインフローチャートにおけるステップS020の「水分除去ポンプ制御」の詳細について説明する。制御装置90は、図3のステップS020にて水分除去ポンプ制御を実行すると、図4に示すステップS110に処理を進める。
【0054】
ステップS110にて制御装置90は、濃度検出センサ72を用いて触媒毒除去装置71から吐出された排出燃料液のギ酸濃度(燃料の濃度)を検出してステップS115へと処理を進める。なお、ステップS110にてギ酸の濃度を検出する排出燃料液は、水分除去装置80によって水分が除去される前の排出燃料液である。
【0055】
ステップS115にて制御装置90は、ステップS110で検出した排出燃料液のギ酸濃度と、目標濃度に基づいて、水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える目標圧力Psを、一旦、ベース圧力PBとして算出してステップS120へと処理を進める。なお、目標濃度とは、脱水排出燃料液のギ酸濃度の好適な濃度としてあらかじめ設定された濃度の値であり、あらかじめ制御装置90に記憶されている。燃料タンク50内のギ酸濃度が20~30[%]の場合、目標濃度は例えば25[%]に設定される。
【0056】
また、水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える圧力を目標とする目標圧力Psに変えるために、制御装置90は、水分除去ポンプ81に目標圧力Psに応じた制御信号を出力する。水分除去ポンプ81は、制御装置90からの制御信号に基づき、排出燃料液に加える圧力を目標とする目標圧力Psに近づけてゆく。従って、制御装置90が、目標圧力Psに応じた制御信号を水分除去ポンプ81に出力すれば、排出燃料液に加える圧力を目標圧力Psにすることができる。以降の説明では、水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える圧力の値を目標圧力Psと呼ぶ。
【0057】
水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える圧力が高い程、排出燃料液に対して除去される水分の割合が大きくなり、脱水排出燃料液のギ酸濃度が濃くなる。そして、ステップS115において、制御装置90は、ステップS110で検出した排出燃料液のギ酸濃度と、あらかじめ記憶している目標濃度に基づいて、脱水排出燃料液のギ酸濃度を目標濃度となるように水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える圧力の値を算出し、得られる値をベース圧力PBとして記憶する。
【0058】
ステップS120にて制御装置90は、再生タンク75内に溜められた脱水排出燃料液のギ酸濃度を、濃度検出センサ76を用いて検出してステップS125へと処理を進める。
【0059】
ステップS125にて制御装置90は、ステップS120で検出した再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度が上限濃度よりも大きいか否かを判定し、大きい(上限濃度<脱水排出燃料液のギ酸濃度)場合(YES)はステップS135Cに処理を進め、大きくない(脱水排出燃料液のギ酸濃度≦上限濃度)場合(NO)はステップS130に処理を進める。
【0060】
なお、再生燃料液を用いて良好に発電を行うために、再生燃料液として用いられる再生タンク75内の脱水排出燃料液は、ギ酸濃度が適切な範囲内の濃度(例えば20~30[%])となっていることが好ましい。本明細書では、再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度が適切だと判断できる、ギ酸濃度の上限値を上限濃度(例えば30[%])とし、ギ酸濃度の下限値を下限濃度(例えば20[%])とする。脱水排出燃料液のギ酸濃度が、上限濃度よりも濃い場合も、下限濃度より薄い場合も、脱水排出燃料液は、再生燃料液として好ましくない。また、再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度の特に好ましい濃度を目標濃度(例えば25[%])とする。制御装置90は、上限濃度の値、下限濃度の値および目標濃度の値をあらかじめ記憶している。
【0061】
ステップS130に処理を進めた場合、制御装置90は、ステップS120で検出した再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度が下限濃度よりも小さいか否かを判定し、小さい(脱水排出燃料液の酸濃度<下限濃度)場合(YES)はステップS135Aに処理を進め、小さくない(下限濃度≦脱水排出燃料液のギ酸濃度)場合(NO)はステップS135Bに処理を進める。
【0062】
ステップS135Aに処理を進めた場合、制御装置90は、制御装置90が水分除去ポンプ81に出力する目標圧力Psの値を、ベース圧力PBに、所定の値ΔPを加えた値(すなわち、Ps=PB+ΔP)に設定してステップS140へと処理を進める。なお、ステップS135Aは、ステップS130において、ステップS120で検出した再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度が、下限濃度よりも小さいと判定した場合(S130:YES)に実行されるステップである。従って、再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度は薄すぎると考えることができる。そこで、脱水排出燃料液のギ酸濃度を上げるよう(すなわち、排出燃料液に対して除去される水分の割合を上げるよう)、水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える圧力を上げるために、目標圧力Psの値を、ベース圧力PBより大きい値(目標圧力Ps=PB+ΔP)に設定する。これにより、ギ酸濃度がより濃くされた脱水排出燃料液が水分除去装置80から水分排出配管74を経由して排液タンク60に溜められるため、再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度(下限濃度よりも薄い濃度)をより濃くすることができる。
【0063】
ステップS135Bに処理を進めた場合、制御装置90は、制御装置90が水分除去ポンプ81に出力する目標圧力Psの値を、ベース圧力PB(すなわち、目標圧力Ps=PB)に設定してステップS140へと処理を進める。なお、ステップS135Bは、再生タンク75内の排出燃料液のギ酸濃度が、ステップS130において上限濃度よりも大きくないと判定した場合(S125:NO、脱水排出燃料液のギ酸濃度≦上限濃度)、であるとともに、ステップS130において下限濃度よりも小さくないと判定した場合(S130:NO、下限濃度≦脱水排出燃料液のギ酸濃度)に実行されるステップである。従って、再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度の値は、上限濃度よりも小さく、かつ、下限濃度よりは大きい(下限濃度≦脱水排出燃料液のギ酸濃度≦上限濃度)。このため、再生タンク75内の脱水排出燃料液は、濃すぎることも薄すぎることもないため、好適な再生燃料液となっていると考えることができる。そして、ステップS135Bでは、脱水排出燃料液のギ酸濃度を変える必要がないため、目標圧力Psの値をステップS115で設定したベース圧力PBから変える必要もないと判断し、目標圧力Psの値をベース圧力PBに設定している。
【0064】
ステップS135Cに処理を進めた場合、制御装置90は、制御装置90が水分除去ポンプ81に出力する目標圧力Psの値を、ベース圧力PBから、所定の値ΔPを引いた値(すなわち、目標圧力Ps=PB-ΔP)に設定してステップS140へと処理を進める。なお、ステップS135Cは、ステップS125において、再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度が、上限濃度よりも大きいと判定した場合(S125:YES、上限濃度<再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度)に実行されるステップである。従って、再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度の値は、上限濃度よりも大きいため、再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度が濃すぎると考えることができる。そこで、脱水排出燃料液のギ酸濃度を下げるよう(すなわち、排出燃料液に対して除去される水分の割合を下げるよう)、水分除去ポンプ81が排出燃料液に加える圧力を下げるために、目標圧力Psの値を、ベース圧力PBより小さい値(目標圧力Ps=PB-ΔP)に設定する。これにより、ギ酸濃度がより薄められた脱水排出燃料液が水分除去装置80から水分排出配管74を経由して排液タンク60に溜められるため、再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度(上限濃度よりも濃い濃度)をより薄くすることができる。
【0065】
ステップS140にて制御装置90は、ステップS135A~ステップS135Cで設定した目標圧力Psで水分除去ポンプ81が排出燃料液に圧力を加えるよう、目標圧力Psに応じた制御信号を水分除去ポンプ81に出力して、水分除去ポンプ制御処理を終了する。以上で説明した、水分除去ポンプ制御処理により、制御装置90が水分除去ポンプ81に出力する目標圧力Psの値を調整することで、再生燃料液として再生タンク75内に溜められている脱水排出燃料液のギ酸濃度が、所定の範囲の濃度に収まる(下限濃度≦再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度≦上限濃度)ように、調整される。
【0066】
●[再生燃料ポンプ制御について(図5)]
次に、図5に示すフローチャートを用いて、図3のメインフローチャートにおけるステップS030の「再生燃料ポンプ制御」の詳細について説明する。制御装置90は、図3のステップS030にて再生燃料ポンプ制御を実行すると、図5に示すステップS210に処理を進める。
【0067】
ステップS210にて制御装置90は、再生タンク75内に溜められた脱水排出燃料液のギ酸濃度を、濃度検出センサ76を用いて検出して、ステップS215へと処理を進める。
【0068】
ステップS215にて制御装置90は、ステップS210で検出した再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度が上限濃度よりも大きいか否かを判定し、大きい(上限濃度<脱水排出燃料液のギ酸濃度)場合(YES)は再生燃料ポンプ制御を終了し、大きくない(再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度≦上限濃度)場合(NO)はステップS220に処理を進める。
【0069】
なお、再生燃料液として用いられる再生タンク75内の脱水排出燃料液は、ギ酸濃度が上限濃度よりも小さく、下限濃度よりも大きい場合(下限濃度≦脱水排出燃料液のギ酸濃度≦上限濃度)に、再生燃料液として使用するために好適なギ酸濃度となっていると考えることができる。換言すれば、再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度が、上限濃度よりも濃い場合も、下限濃度より薄い場合も、脱水排出燃料液を再生燃料液として使用するために脱水排出燃料液のギ酸濃度が好適ではないと考えることができる。そこで、再生タンク75内の脱水排出燃料液は、ギ酸濃度が上限濃度よりも大きい場合(上限濃度<脱水排出燃料液のギ酸濃度、S215:YES)には、脱水排出燃料液は、ギ酸濃度が濃すぎるので再生燃料液としては好適ではないため、再生タンク75から燃料タンク50に送り出されることなく、再生燃料ポンプ制御を終了する。
【0070】
ステップS220に処理を進めた場合、制御装置90は、ステップS210で検出した再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度が下限濃度よりも小さいか否かを判定し、小さい(脱水排出燃料液のギ酸濃度<下限濃度)場合(YES)は再生燃料ポンプ制御を終了し、小さくない(下限濃度≦脱水排出燃料液のギ酸濃度)場合(NO)はステップS225に処理を進める。なお、再生タンク75内の脱水排出燃料液のギ酸濃度が下限濃度よりも小さい場合(脱水排出燃料液のギ酸濃度<下限濃度、S220:YES)には、脱水排出燃料液は、ギ酸濃度が薄すぎるので再生燃料液としては好適ではないため、再生タンク75から燃料タンク50に送り出されることなく、再生燃料ポンプ制御を終了する。
【0071】
ステップS225に処理を進めた場合、制御装置90は、再生タンク75内の脱水排出燃料液の液量を検出してステップS230に処理を進める。なお、制御装置90は、水位センサ77を用いて再生タンク75内の脱水排出燃料液(再生燃料液)の液面の高さを検出し、さらに、液面の高さから再生タンク75内の脱水排出燃料液の量を検出する。
【0072】
ステップS230にて制御装置90は、ステップS210で検出した再生タンク75内の脱水排出燃料液の液量が、所定の基準量よりも少ないか否かを判定し、少ない(再生タンク75内の脱水排出燃料液の液量<基準量)場合(YES)は再生燃料ポンプ制御を終了し、小さくない(基準量≦脱水排出燃料液の液量)場合(NO)はステップS235に処理を進める。なお、再生タンク75内の脱水排出燃料液の液量が、所定の基準量よりも少ない場合(S230:YES)は、再生タンク75内の脱水排出燃料液を再生燃料液として燃料タンク50に移動させるためには、再生タンク75内の脱水排出燃料液の量が少なすぎると考えて、再生タンク75内の脱水排出燃料液を燃料タンク50に送ることなく、再生燃料ポンプ制御を終了する。
【0073】
ステップS235に処理を進めた場合、制御装置90は、ステップS225で検出した再生タンク75内の脱水排出燃料液の量に応じた、再生タンク75から燃料タンク50に移動させる脱水排出燃料液の移動量を見積もる。例えば、上述の基準量と、ステップS225で検出した再生タンク75内の脱水排出燃料液の量との差分量に基づいて移動量を見積もることができる。
【0074】
ステップS240にて制御装置90は、再生燃料ポンプ79に制御信号を出力してステップS235で算出した移動量だけ、再生タンク75内の脱水排出燃料液を再生燃料液として、再生タンク75から燃料タンク50へ移動させ、再生燃料ポンプ制御を終了する。
【0075】
●[本願の効果]
燃料電池システム1は、燃料電池7から排出される排出燃料液から水分の一部を除去した脱水排出燃料液を、再生燃料液として燃料タンク50に戻して、発電に用いる。従って、燃料電池システム1は、排出燃料液を単に廃棄することなく、排出燃料液から再生した再生燃料液を発電に用いることができる。このため、燃料電池システム1は、より効率よくギ酸(燃料)を利用しうる。
【0076】
また、制御装置90が水分除去ポンプ81(水分除去率調節機構)を制御して、脱水排出燃料液のギ酸(燃料)の濃度が所定範囲内の濃度となるように、排出燃料液に対して除去する水分の割合が調整される。これにより、脱水排出燃料液は、ギ酸(燃料)の濃度が所定範囲内の濃度となるように調整されたうえで、再生燃料液として燃料タンク50に戻される。従って、再生燃料液は、ギ酸(燃料)の濃度が所定範囲内に保たれたうえで、発電に用いられるため、燃料電池7がより安定して発電を行うことが出来る。
【0077】
また、燃料電池システム1は、触媒毒除去装置71により、燃料極触媒を被毒させる触媒毒の少なくとも一部が、排出燃料液から除去される。これにより、燃料タンク50に戻されて発電に用いられる再生燃料液は、触媒毒の少なくとも一部が除去されており、再生燃料液が燃料極10に送られて発電に用いられるときに、再生燃料液によって燃料極触媒層11の燃料極触媒が被毒されることが抑止されている。従って、燃料電池7がより安定して発電を行うことが出来る。
【0078】
●[他の実施の形態]
本発明の、燃料電池システム1は、本実施の形態で説明した構成、構造、形状、外観等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、触媒毒除去装置71、濃度検出センサ72、濃度検出センサ76、水位センサ77、等を省略してもよい。再生タンク75を省略して、排出燃料回収配管70と再生燃料供給配管78とを連結させてもよい。
【0079】
燃料電池システム1は、触媒毒除去装置71および水分除去装置80との2つを備えているが、燃料電池システム1は、触媒毒除去装置71および水分除去装置80に替えて、水分および触媒毒水溶液を排出燃料液から除去できる装置を水分除去装置80の位置に設けて、触媒毒除去装置71を省略してもよい。水分および触媒毒水溶液を排出燃料液から除去できる装置として、例えば、逆浸透膜装置を用いることができる。
【0080】
水分除去装置80の備える多孔質のフィルタとして、逆浸透膜を用いることができるが、多孔質のフィルタとして、パーフルオロエチレンスルフォン酸系膜を用いてもよい。パーフルオロエチレンスルフォン酸系膜は、電解質膜30に用いることができるが、一般的に水は通すがギ酸は通しにくい。
【0081】
触媒毒除去装置71として、例えば、逆浸透膜装置を用いることができるが、他には、一酸化炭素等を吸蔵させるイオン交換膜等を用いてもよい。また、排出燃料液中の一酸化炭素および溶存酸素から二酸化炭素が生成する化学反応を促進させる触媒を担持させたカラムを触媒毒除去装置71として用いてもよく、適宜触媒毒排出配管73を省略できる。
【0082】
空気(酸素)を外部から空気極集電体23の供給口23Aに圧送するが、圧送する空気(酸素)の流量コントローラーを設けてもよい。さらに、濃度検出センサ72が検出した排出燃料回収配管70を流れる排出燃料液のギ酸濃度(燃料の濃度)から、燃料電池7の発電負荷状況を見積ってもよい。さらに、見積もった発電負荷状況に応じて、流量コントローラーを用いた供給口23Aに圧送する空気(酸素)の流量の調整、あるいは燃料供給ポンプ52を用いた燃料タンク50内の燃料水溶液を燃料電池7の燃料流入口7Aに圧送する燃料水溶液の流量の調整、の少なくとも一つを行ってもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 燃料電池システム
7 燃料電池
7A 燃料流入口
7B 燃料流出口
10 燃料極
11 燃料極触媒層
12 燃料極拡散層
13 燃料極集電体
13A 燃料流通面
13B 燃料流通溝
13C 流通溝部
13D 折り返し溝部
13E ランド部
20 空気極
21 空気極触媒層
22 空気極拡散層
23 空気極集電体
23A 供給口
23B 排出孔
30 電解質膜
50 燃料タンク
51 燃料供給配管
52 燃料供給ポンプ
60 排液タンク
62 回収配管
70 排出燃料回収配管
71 触媒毒除去装置
72 濃度検出センサ
73 触媒毒排出配管
74 水分排出配管
75 再生タンク
76 濃度検出センサ
77 水位センサ
78 再生燃料供給配管
79 再生燃料ポンプ
80 水分除去装置
81 水分除去ポンプ
90 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5