(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】ボルト及びナット
(51)【国際特許分類】
F16B 33/02 20060101AFI20230606BHJP
B21K 1/56 20060101ALI20230606BHJP
B21H 1/00 20060101ALI20230606BHJP
B21H 3/02 20060101ALI20230606BHJP
B23G 9/00 20060101ALN20230606BHJP
【FI】
F16B33/02 B
B21K1/56
B21H1/00 B
B21H3/02
B23G9/00 A
(21)【出願番号】P 2021031717
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】500129683
【氏名又は名称】株式会社イズラシ
(73)【特許権者】
【識別番号】000155366
【氏名又は名称】株式会社木村鋳造所
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【氏名又は名称】北村 光司
(74)【代理人】
【識別番号】100146503
【氏名又は名称】高尾 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
(72)【発明者】
【氏名】木村 智昭
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 義和
(72)【発明者】
【氏名】林 治孝
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-135643(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0030393(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00-43/02
B21K 1/56
B21H 1/00
B21H 3/02
B23G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂がボルトに付着する環境で利用され、ボルトのヘッド及びナットの間において対象物を締め付けるためのボルト及びナットであって、
ボルト及びナットのねじ山の山頂部が台形に形成され、
ナットは切削加工により形成され、
ボルトは転造加工により形成されるとともに、
ボルト及びナットのねじ山は、ボルト軸心に沿う縦断面において、前記山頂部と直線状のフランクと谷底部とにより形成され、
少なくとも前記ボルトの前記谷底部の前記フランク近傍は前記フランクよりも鈍角で、
同ボルトの谷底部は最底で角部を形成しているボルト及びナット。
【請求項2】
前記ナットにおいて、1歯の前記ねじ山における一対の前記フランクの山頂部側終端どうしの距離である山頂部幅は、前記フランク長よりも大きく形成されている請求項1記載のボルト及びナット。
【請求項3】
前記ボルトのフランクとナットのフランクとの間の平均クリアランスが340μm以上である請求項1または2記載のボルト及びナット。
【請求項4】
前記ナットの谷底部が前記ボルトの谷底部と同じ断面形状に形成されている請求項1~3のいずれかに記載のボルト及びナット。
【請求項5】
前記ボルトの谷底部の最底と前記ナットの山頂部との間のクリアランスが850μm以上である請求項1~4のいずれかに記載のボルト及びナット。
【請求項6】
前記ボルトの谷底部の最底と前記ナットの山頂部との間のクリアランス及び前記ナットの谷底部の最底と前記ボルトの山頂部との間のクリアランスが850μm以上である請求項4に記載のボルト及びナット。
【請求項7】
鋳型の締結用または土木建築現場の締結用である請求項1~6のいずれかに記載のボルト及びナット。
【請求項8】
前記ボルトに形成したボルト頭部にワッシャーを固着し、このワッシャーと前記ボルトの胴部との間の角部に回り止め部を固着してある請求項1~7のいずれかに記載のボルト及びナット。
【請求項9】
次の条件に従う請求項1~8のいずれかに記載のボルト及びナット。
ボルトの山径 ≧ 24mm
ねじピッチ ≧ 9mm
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト及びナットに関する。さらに詳しくは、砂がボルトに付着する環境で利用され、ボルトのヘッド及びナットの間において対象物を締め付けるためのボルト及びナットに関する。
【背景技術】
【0002】
転造ねじの例としては、次の特許文献1のものが知られている。同文献では、わずかな欠けでもねじの機能が損なわれることが指摘されている。ここでは、欠けた破片がねじの噛合い部に噛み込まれ、締付トルクと軸力のバランスが崩れ、所定の締付トルクで締め付けても、フランク間に破片(異物)が存在していることにより、所定の軸力を得ることができなくなる旨記載されている。また、締付時に破片がフランクに焼き付いてしまい、ねじを緩める際に過大な力が必要となり、ねじを緩める作業に困難性を伴うようになる点も記載されている。
【0003】
その一方、鋳物の作成においては、鋳型を締結するのにボルト及びナットが用いられている。この種のボルト及びナットは、上記指摘の不都合に加え、砂が谷部でこすりつけられてボルト及びナットの耐久性が損なわれる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、砂等の異物が存在する環境下でも従来より容易に締結できしかも耐久力に優れたボルト及びナットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るボルト及びナットの特徴は、砂がボルトに付着する環境で利用され、ボルトのヘッド及びナットの間において対象物を締め付けるための構成において、ボルト及びナットのねじ山の山頂部が台形に形成され、ナットは切削加工により形成され、ボルトは転造加工により形成されるとともに、ボルト及びナットのねじ山は、ボルト軸心に沿う縦断面において、前記山頂部と直線状のフランクと谷底部とにより形成され、少なくとも前記ボルトの前記谷底部の前記フランク近傍は前記フランクよりも鈍角で、同ボルトの谷底部は最底で角部を形成していることにある。
【0007】
同構成によれば、ボルトは転造加工により形成されており、転造ダイスの押圧により表面硬度及び面粗度が向上しているので、切削加工のボルトよりも砂で摩耗しにくい。少なくとも前記ボルトの前記谷底部の前記フランク近傍は前記フランクよりも鈍角であるので、谷部を浅く形成し、ボルトの谷径をできるだけ大きくできて、ボルト全体の強度低下を防ぐことができる。加えて、ボルトの谷底部の最底の角部がより鈍角になり、形状的な強度低下も緩和されることとなる。
【0008】
ボルト及びナットの山頂部が台形に形成されており、上記角部の存在により、台形の山頂部と角部まわりのフランクで扁平な三角のエリアが形成される。同三角のエリアでは、粒径の大きな砂ほど中央に移動し、結果として粒径の異なる砂をこのエリアに合理的に収めることができ、フランクに噛み込む砂を減少させることができる。しかも、ボルトは谷底部の角部の存在で、この角部に合うような角のあるダイスを利用すればよいので、転造加工しやすい。しかも、ナットは転造ボルトに適合するようなねじ溝を切削しやすく、張力の問題も生じにくいので強度的な問題も少ない。したがって、全体として安価に製造でき、ボルトの転造による強化で長寿命化を達成することができる。
【0009】
なお、角部や三角のエリアは少なくともボルトの谷底部に存在する。したがって、ボルトの山部の砂を落とし、砂の付着していないナットを利用した場合は、ボルトの谷に砂が残っても、三角エリアを利用してボルトを締結することができる。
【0010】
上記構成の前記ナットにおいて、1歯の前記ねじ山における一対の前記フランクの山頂部側終端どうしの距離である山頂部幅は、前記フランク長よりも大きく形成するとよい。このようにすると、上記三角エリアの幅が増えて砂が流入しやすく、しかも、フランク長の割合が従来のボルト・ナットよりも少なくなるため、フランクにおける摩擦面積が減り、砂の微粉によるフランクでの摩擦力を減少できて、ナットを所定の位置までより容易に締結することができる。
【0011】
さらに、上記において、前記ボルトのフランクとナットのフランクとの間の平均クリアランスが340μm以上とするとよい。鋳造で多用される6号珪砂の平均粒径は340μmであるため、砂の量が多くてもその半分はフランク間のクリアランスで移動が許容されて問題とならず、それよりも大きな粒径の緩和は上記三角エリアにおいて行われるため、大きな粒径の砂粒がフランク間のクリアランスに挟まる確率が減少して回転がよりスムースとなる。
【0012】
また、前記ナットの谷底部が前記ボルトの谷底部と同じ断面形状に形成するとよい。同構成によれば、前記ナットの谷底部に前記三角のエリアを形成できるので、ナットのねじ溝に砂が付着していても締結が容易になる。同構成は、例えば、少し螺合したナットの孔に砂が入るような鋳型締結のような環境下では、極めて有効である。
【0013】
加えて、前記ボルトの谷底部の最底と前記ナットの山頂部との間のクリアランスが850μm以上であるとよい。6号珪砂の最大粒径は850μm程度であるため、このクリアランスを確保すれば、最大粒径程度の砂が除去しにくくても上記三角エリアに収納できて実用上の問題を生じにくい。
【0014】
同様に、前記ボルトの谷底部の最底と前記ナットの山頂部との間のクリアランス及び前記ナットの谷底部の最底と前記ボルトの山頂部との間のクリアランスが850μm以上であるとさらに良い。この形であれば、三角エリアのクリアランスが、ボルトの谷底部のみならず、ナットの谷底部にも形成することができる。
【0015】
本発明は、砂の付きやすい環境、すなわち、鋳型の締結用または土木建築現場の締結用として有益である。特に、水等でボルト及びナットを洗浄しにくい環境において有益である。
【0016】
本発明を実施するにあたり、前記ボルトに形成したボルト頭部にワッシャーを固着し、このワッシャーと前記ボルトの胴部との間の角部に回り止め部を固着してもよい。ワッシャーにはボルトの締め付けによる軸力で摩擦力が生じ、このワッシャーにはボルト頭部及び前記回り止め部が固着されてトルクの耐久力を生じる。しかも、回り止め部は、ワッシャーと前記ボルトの胴部との間の角部に固着されているので、締め付けトルクに十分な回転耐久性を有することとなる。
【0017】
本発明を実施するにあたり、次の条件に従うとよい。
ボルトの山径 ≧ 24mm
ねじピッチ ≧ 9mm
【発明の効果】
【0018】
上記本発明の特徴によれば、砂等の異物が存在する環境下でも従来より容易に締結できしかも耐久力に優れたボルト及びナットを提供し得るに至った。
【0019】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るボルト及びナットの斜視図を示し、(a)は下側から見上げた斜視図、(b)は上側から見下ろした斜視図、(c)は側面図である。
【
図2】本発明に係るボルト及びナットを示し、(a)は第一実施形態の側面図、(b)は(a)の断面図、(c)は第二実施形態を示す断面図、(d)は比較例1を示す断面図である。
【
図3】本発明に係るボルトの転造工程を示す図であって、(a)は横断面図、(b)は縦断面図、(c)は(b)の部分拡大図である。
【
図4】本発明に係るボルト及びナットの拡大縦断面図を示し、(a)は第一実施形態を示す断面図、(b)は第二実施形態を示す断面図、(c)は比較例1を示す断面図、(d)は比較例2を示す断面図である。
【
図5】本発明に係るボルト及びナットの作用効果を説明するための拡大縦断面図を示し、(a)は第一実施形態を示す断面図、(b)は(a)の部分拡大断面図である。
【
図6】本発明効果の確認試験に用いられたボルト及びナットの写真を示し、(a)は第一実施形態のボルト及びナット、(b)は第一実施形態のボルトに砂を付着させた状態、(c)は第一実施形態のボルト及びナット、(d)は(c)等のナットに砂を入れた状態、(e)は比較例2のボルト及びナットである。
【
図8】第一、第二実施形態及び比較例2を用いた試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、適宜添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。本発明に係るボルト及びナット1は、鋳型の締結用途として用いられる例を示し、その第一実施例は、
図1、
図2(a)(b)、
図3、
図4(a)、
図5(a)に示されている。
【0022】
図1のボルト及びナット1は、ボルト30にナット20が螺合された状態を示し、ナット20は、内面の雌ねじ部25と、電動工具等の工具で締め付けるための六角部26を有している。ボルト30は、ナット20の締結される雄ねじ部35に連続して軸部36とボルト頭部37を一体形成してある。ワッシャー38は貫通孔38aに先の軸部36を貫通させてボルト頭部37を当接させ、さらに、ワッシャー38と軸部36とのなす角部に回り止め部39を固着してヘッド40を構成する。ボルト頭部37とワッシャー38とは第一溶接部m1にて、軸部36と回り止め部39とは第二溶接部m2にて、ワッシャー38と回り止め部39とは第三溶接部m3にてそれぞれ溶接により固着されている。ナット20は切削加工により形成され、ボルト30は後述の転造加工により形成されている。
【0023】
本実施形態では、締付対象物200は鋳型枠であり、例えば下型枠201と上型枠202とを有している。具体的には、上型枠202の貫通孔202aにボルト30を挿通した状態でナット20を仮止めし、下型枠201のU字切込201aにボルト30の下部を挿通する。U字切込201a内ではボルト30の回り止め部39がU字切込201aの壁に接当して回り止めがなされた状態で、上部から電動工具でナット20を締める。これによりナット20の下部とヘッド40の上部との間で締付対象物200が締め付けられる。締結後、ボルト30にナット20を介して反力Uが伝わり、ボルトが軸方向に引っ張られて伸び、軸力Dが生じることとなる。
【0024】
図2(a)(b)、
図4(a)及び
図5(a)を参照しつつ、さらにナット20の雌ねじ部25のねじ山24、及び、ボルト30の雄ねじ部35のねじ山34について詳述する。ナット20のねじ山24は、ボルト軸心Pに沿う縦断面において、台形の山頂部21、谷底部22及びこれらをつなぐ直線状のフランク23を有している。また、ボルト30のねじ山34は、ボルト軸心Pに沿う縦断面において、台形の山頂部31、谷底部32、及びこれらをつなぐ直線状のフランク33を有している。
【0025】
図5(a)(b)に示すように、ボルト30の谷底部32のフランク33近傍はフランク33よりも鈍角で、谷底部32は最底で角部32aを形成している。ナット20において、1歯のねじ山における一対のフランク23,23の山頂部21側終端どうしの距離であるねじ山頂部幅Bは、フランク長Aよりも大きく形成されている。本第一実施形態では、ナット20の谷底部22がボルト30の谷底部32と同じ断面形状に形成されている。
【0026】
本実施形態では、ボルト30のフランク33とナット20のフランク23との間の第三クリアランスC3(平均のクリアランスに相当する。)が望ましくは340μm以上であり、両フランク23,33が密接する場合は最大で2*C3=680μmとなるが、両フランク23,33の距離は砂Sの噛む状況により左右される。
【0027】
また、本実施形態では、ボルト30の谷底部32の最底である角部32aとナット20の山頂部21との間の第一クリアランスC1は、望ましくは850μm以上、下記実験例では1.33mmである。同様に、ナット20の谷底部22の最底である角部22aとボルト30の山頂部31との間の第二クリアランスC2は、望ましくは850μm以上、下記実験例では1.33mmである。
【0028】
ボルト30の転造にあたっては、
図3に示すように、一対の転造ダイス210を利用して転造ボルト3を間に挟んで塑性加工をする。転造ダイス210は円筒形の外周に螺旋のねじ山を有している。転造ダイス210の回転中心軸に沿った断面において、角部211aを有する山頂部211と谷底部212とを備えている。転造ボルト3は、当初においてボルト頭部3cと軸部3bとを備え、軸部3bに転造ダイス210を押し当て雄ねじ部3aを形成する。
【0029】
中心軸に沿った断面において、山頂部3dと谷底部3eとを有し、転造ダイス210の山頂部211を押し当てて、谷底部3eの金属材料を矢印の向きに変形移動させ、転造ダイス210の谷底部212に金属材料を隆起させて、山頂部3dを形成する。転造ダイス210の山頂部211には角部211aが存在するため、金属材料を隆起させやすい利点がある。また、後述の如く角部3fの角がフランク角より鈍角であるため、角部3fの形状的な切り欠き効果が小さくなり、転造ボルト3の強度劣化を防ぐメリットがある。
【0030】
以下に第二実施形態及び比較例を説明し、これらを用いた比較実験の結果について説明する。
【0031】
図2(c)、
図4(b)は第二実施形態を示す断面図、
図2(d)、
図4(c)は比較例1を示す断面図である。
図2(c)、
図4(b)の第二実施形態では、ナット20’の谷底部22’が台形となっており、先の角部22aが存在しない状態であり、ボルト30及び他の構成は第一実施形態と同様である。
図2(d)、
図4(c)の比較例1では、ナット20’の谷底部22’及びボルト30’の谷底部32’の双方が台形となっており、先の角部22a,32aが存在しない状態である。これらは、ナット20の谷底部22及びボルト30の谷底部32の双方における先の角部22a,32aの効果の確認のための比較である。
【0032】
図6は写真を示し、(a)は第一実施形態のボルト及びナット、(b)は第一実施形態のボルトに砂を付着させた状態、(c)は下記の試験を行うための第一実施形態のボルト及びナット、(d)は(c)等のナットに砂を入れた状態をそれぞれ示す。こちらのボルトはねじ径がM24,ねじピッチが9mm、材質はSCM435Hの焼き入れ焼き戻し済みのものである。また、ナットの材質は、SCM435Hであり、切削加工され、焼入れ焼き戻しされたものである。
【0033】
一方、
図4(d)は比較例2を示す断面図であり、従来のメートルねじを示す。ナット120は、山頂部121、谷底部122、フランク123を有し、ボルト130は、山頂部131、谷底部132、フランク133を有する。
図6(e)は比較例2のボルト及びナットの写真であり、ボルトはねじ径がM24,ねじピッチが3mm、材質はSCM435Hの焼き入れ済みのものである。
【0034】
ここで、比較実験の条件と結果を示す。次の条件により、砂の粒度を変更し、ボルトに螺合したナットに砂を入れて手動回転による実験を行った。砂は、ふるいにかけて粒径をできるだけ揃えたもので、平均粒径がそれぞれ、53,173,222,284,723,1139μmのものを用いた。原料となった砂の種類は、東北珪砂4号,東北珪砂7号,東北珪砂8号である。加えた砂の量は、全ての実験例において変わらず、0.1,0.3,0.8, 1,2,3,5,10gであった。
【0035】
ボルト30の谷底部32の最底である角部32aとナット20の山頂部21との間は、上記三角エリアに相当する第一クリアランス部Gaを形成し、第一、第二実施形態において、ねじ山の高さ方向の第二クリアランスC2は1.33mmである。
【0036】
第一実施形態におけるナット20の谷底部22の最底である角部22aとナット30の山頂部31との間は、上記三角エリアに相当する第二クリアランス部Gbで、同様にねじ山の高さ方向の第二クリアランスC2は1.33mmである。一方、第二実施形態におけるナット20’の谷底部22’とナット30の山頂部31との間は、上記三角エリアとは異なる第二クリアランス部Gb’で、ねじ山の高さ方向のクリアランスは550μmである。参考までに
図4(c)の比較例1では、第一クリアランス部Ga’,第二クリアランス部Gb’は第一実施形態よりもともに狭くなっている。
【0037】
図4(d)の比較例2におけるボルト130の谷底部132とナット120の山頂部121との間の第一クリアランス部gaにおけるねじ山の高さ方向のクリアランスは474μmである。また、ナット120の谷底部122とナット130の山頂部131との間の第二クリアランス部gbのねじ山の高さ方向のクリアランスは509μmである。加えて、両フランク123,133間の平均のクリアランスは70μmである。
【0038】
試験方法は、「上記各重量の砂をボルトに仮止めしたナットの雌ねじ部に入れ、手で回す」ことを3回個別に行い、ナットが手で容易に回せるかどうかという観点で試験の評価を行った。
【0039】
図7に第一実施形態の試験結果を示す。砂の量が5gのところだけ、3回の試験結果を示し、他のところは3回の試験の結論のみを記載した。不具合が出たのは、723μmの砂では10gの場合と、5gの場合は3回中2回であった。1139μmの場合は3,5,10gの場合のみであった。これら以下の他の平均粒径及びg数では不具合は発生しなかった。
【0040】
図7のように、3回中1回でも不具合の出たものを不具合発生と評価すると、第一、第二実施形態及び比較例2の比較試験の結果は
図8の通りとなる。第一実施形態領域(実線で表示),第二実施形態領域(破線で表示)ともに比較例2領域(一点鎖線で表示)と比べて様々な粒度の砂Sの存在する環境下でも使用可能であることが伺える。また、第一実施形態は、第二実施形態に比較して723μm以上の粒径の砂が1g以上の場合でも回転が容易であるとの差があり(
図7のハッチング部分は第二実施形態では回転不能)、フランクの第三クリアランスC3は第一、第二実施形態で同一である。よって、第二クリアランス部Gbが存在することで、砂の量が多くても回転がより容易となり、その効果が確認された。
【0041】
また、ボルトのねじ山の間の谷に砂を付着させた状態でナットを締結した場合(この場合は、ナットの谷には、砂は入りにくい)、比較例2では不都合が生じた。しかし、第一、第二実施形態では不都合は生じず、第一クリアランス部Gaのみの場合の効果が確認された。
【0042】
以上の結果を考察し、以下の現象が認められる。
【0043】
両フランク23,33間のクリアランスは最大で2C3=680μmであり、第一実施形態では、これを越える723μmでも3gまで、1139μmでも2gまで回転が可能であることから、粒径の大きな砂Sはこれらのフランク23,33等で粉砕されて第一、第二クリアランス部Ga,Gbに移動するものと考えられる。
【0044】
図5(b)の如く、ナット20のねじ山頂部幅Bをフランク長Aよりも小さな幅Bxにすると、第一角部T1は第二角部T2に移動し、第一仮想クリアランスC11は第一クリアランスC1に比べて小さくなり、その第一クリアランス部Gaも容積が減少することとなる。これにより、第一クリアランス部に受け入れられる砂の粒径は小さく容積も少なくなることから、回転がより困難になることが予想される。
【0045】
一方、谷底部32のフランク33近傍はフランク33よりも鈍角であるが、谷底部32のフランク33近傍をフランク33と同じ角度にすると、第三角部T3、第四角部T4は第一角部T1、第二角部T2に比較してより鋭利となり、形状的にボルトの軸力に対する耐久性が低下する。なお、第四角部T4の谷底径Dcは第一角部T1の谷底径Dbより小さくなることから、単位断面積あたりの引張応力の点でも、鋭利な第四角部T4はボルトの軸力に対する耐久性が低下する。
【0046】
上記より、ボルト30の軸力に対する耐久性、第一角部T1のより鈍角に構成されることによる形状的な強度の向上、、ボルト30のねじ山頂部幅Bをフランク長Aよりも大きくすることによる第一クリアランス部Gaの容積拡大より、上記構成のボルト30は砂を噛んでの回転の容易性、耐久性がより向上することが伺える。また、ナット20も同様の形状設計とすることで、同様の効果を奏することができる。
【0047】
最大粒径程度の砂がボルト30の谷底部32に付着した場合でも三角エリアに収納できるという観点から、ボルト30における谷底部の最底とナット20の山頂部との間の第一クリアランス部Gaのクリアランス、及び、第二クリアランス部Gbのクリアランスが850μm以上であることが望ましい。また、実用性を考えて、ピッチ線PL上のピッチは9mm、ボルト30の山径Daは24mm以上であることが望ましい。ピッチ9mmは締結の迅速さより、また、ボルトの山径は、ピッチ9mm以上のボルトを転造する場合、山径が24mmより小さいと、ねじの山の傾き(つる巻線)の角度(リード角)が鋭角になり、転造が難しくなるためである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、鋳物用(鋳型締結用)のボルト及びナットとして利用することができる。その他、砂が付着する環境下、例えば、土木建築現場の締結用、特に水やエアーで砂を除去しにくい環境下において有効に活用が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1:ボルト及びナット、3:転造ボルト、3a:雄ねじ部、3b:軸部、3c:ボルト頭部、3d:山頂部、3e:谷底部、3f:角部、20:ナット、21:山頂部、22:谷底部、22a:角部、23:フランク、24:ねじ山、25:雌ねじ部、26:六角部、30:ボルト、31:山頂部、32:谷底部、32a:角部、33:フランク、34:ねじ山、35:雄ねじ部、36:軸部、37:ボルト頭部、38:ワッシャー、38a:貫通孔、39:回り止め部、40:ヘッド、120:ナット、121:山頂部、122:谷底部、123:フランク、130:ボルト、131:山頂部、132:谷底部、133:フランク、200:締付対象物、201:下型枠、201a:U字切込、202:上型枠、202a:貫通孔、210:転造ダイス、211:山頂部、211a:角部、212:谷底部、20’:ナット、22’:谷底部、24’:ねじ山、30’:ボルト、32’:谷底部、34’:ねじ山、A:フランク長、B:ねじ山頂部幅、C1:第一クリアランス、C2:第二クリアランス、C3:第三クリアランス、C11:第一仮想クリアランス、C12:第二仮想クリアランス、C13:第三仮想クリアランス、Da:ボルト山径、Db:ボルト谷径、Dc:ボルト谷径、Ga,ga,Ga’:第一クリアランス部、Gb,gb,Gb’:第二クリアランス部、Gc,gc:第三クリアランス部、m1:第一溶接部、m2:第二溶接部、m3:第三溶接部、P:ボルト軸心、PL:ピッチ線、S:砂、T1:第一角部、T2:第二角部、T3:第三角部、T4:第四角部