IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーションの特許一覧 ▶ 国民大学校産学協力団の特許一覧

特許7290295蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体
<>
  • 特許-蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体 図1
  • 特許-蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体 図2
  • 特許-蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体 図3
  • 特許-蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体 図4
  • 特許-蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体 図5
  • 特許-蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体 図6
  • 特許-蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体 図7
  • 特許-蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体 図8
  • 特許-蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体 図9
  • 特許-蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体 図10
  • 特許-蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】蛍光強度が向上したシロイヌナズナ由来フラビンモノヌクレオチド結合タンパク質変異体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/29 20060101AFI20230606BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20230606BHJP
   C07K 14/415 20060101ALI20230606BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230606BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230606BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230606BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230606BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230606BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230606BHJP
   C12Q 1/6897 20180101ALI20230606BHJP
【FI】
C12N15/29
C07K1/14
C07K14/415 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
C12Q1/6897 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021568584
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 KR2020013355
(87)【国際公開番号】W WO2021066528
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0120443
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510273880
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
(73)【特許権者】
【識別番号】512145572
【氏名又は名称】国民大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】KOOKIMIN UNIVERSITY INDUSTRY ACADEMY COOPERATION FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】77, Jeongneung-ro,Seongbuk-gu,Seoul,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,サン テク
(72)【発明者】
【氏名】コ,サンファン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ボラ
(72)【発明者】
【氏名】ナ,ジョン-ヒョン
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】J. Biol. Chem., 2012, 287(26): pp. 22295-22304
【文献】Photochem. Photobiol. Sci., 2014, 13(6): pp. 875-883
【文献】Curr. Opin. Chem. Biol., 2015, 27: pp. 39-45
【文献】PLoS Biol., 2011, 9(4): e1001041, pp. 1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12Q 1/00-3/00
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
iLOV(flavoprotein improved LOV)に比べて蛍光強度が増加したiLOV変異体であって、該iLOV変異体は、配列番号3または4に記載のアミノ酸配列を含む、iLOV変異体。
【請求項2】
前記iLOV及びiLOV変異体は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来であることを特徴とする、請求項1に記載のiLOV変異体。
【請求項3】
請求項1のiLOV変異体をコードする核酸分子。
【請求項4】
請求項の核酸分子を含むベクター。
【請求項5】
前記ベクターは、前記核酸分子をレポーター遺伝子として含み、発現しようとする目的タンパク質をさらに含むことを特徴とする、請求項に記載のベクター。
【請求項6】
請求項のベクターを含む宿主細胞。
【請求項7】
請求項1のiLOV変異体、請求項の核酸分子又は請求項のベクターを含む蛍光発色用組成物。
【請求項8】
請求項のベクターを発現させる段階を含む、目的タンパク質の発現を分析する方法。
【請求項9】
請求項のベクターを発現させて目的タンパク質を生成させる段階;及び、前記生成された目的タンパク質を分離する段階;を含む、目的タンパク質の分離精製方法。
【請求項10】
次の段階を含むiLOV変異体の製造方法:
a)請求項1のiLOV変異体をコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞を培養する段階;及び
b)前記宿主細胞によって発現したiLOV変異体を回収する段階。
【請求項11】
次の段階を含むiLOV変異体のスクリーニング方法:
a)請求項1のiLOV変異体又はこれをコードする核酸分子にさらに、無作為的な点突然変異を加えたiLOV変異体又はこれをコードする核酸分子のライブラリーを構築する段階;及び
b)前記ライブラリーから、配列目録第2配列のiLOVタンパク質に比べて蛍光強度が増加したiLOV変異体又はこれをコードする核酸分子を選別する段階。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光強度が向上したフラビンモノヌクレオチド結合蛍光タンパク質変異体に関し、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来の蛍光タンパク質変異体の発掘に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光タンパク質は、生命科学、医学、薬学研究のための遺伝子にコードされ得る標識子(reporter)であって、様々な研究分野に広く応用されており、特に、細胞や動物、植物においてタンパク質の発現、活性、分泌などを実時間で分析するのに有用に用いられている。蛍光タンパク質は、特定波長の光によって活性化されてから低いエネルギーレベルに変化する過程で別の波長の光を放出するタンパク質であり、代表例としてGFP(Green fluorescent protein)は、海に住むクラゲから発見されたものであって、生命科学研究に必須道具として用いられており、当該技術研究に対して2008年にノーベル賞が授与されている。
【0003】
タンパク質遺伝子にGFPを生成する遺伝子を結合させると、細胞や組織における遺伝子発現を、GFP蛍光を用いて追跡観察することができ、癌を引き起こす特定タンパク質の遺伝子に緑色蛍光タンパク質の遺伝子を挿入して実験用生物体の細胞に注入すると、時間が経つにつれて癌の大きさや位置が追跡でき、生物体を解剖することなく青色光を照らして肉眼で確認することもできる。
【0004】
また、医薬タンパク質研究において目的タンパク質遺伝子に緑色蛍光タンパク質遺伝子を融合させた後、動物に挿入すると、緑色蛍光タンパク質により、目的タンパク質の挿入されたか否かが容易に確認できる。
【0005】
その他にも、GFP遺伝子結合を用いて神経回路の分析、細胞膜研究、ウイルス感染メカニズムなどの生命科学的研究が非常に活発に行われており、生きている動物にGFPを導入した蛍光性動物開発も報告されている。
【0006】
現在用いられているGFPを含む大部分の蛍光タンパク質は、蛍光を放出できる蛍光発色団(chromophore)の形成のためには酸素の存在が必須であるという限界がある。このため、酸素の欠乏した細胞内環境、酸素のない条件で生存を維持する嫌気性微生物(anaerobic bacteria)、細胞の過度な成長によって周囲の酸素が欠乏した環境などでは使用し難い。
【0007】
一方、酸素の存在や酸素の欠乏の有無に関係なく、生命科学、医学、薬学分野に適用して蛍光標識子として利用可能なフラビンベースの蛍光タンパク質(Flavin-based fluorescent proteins(FbFPs))が発見されているが、該フラビンベースの蛍光タンパク質(FbFPs))は蛍光の強度が高く、使用し難いという欠点がある。
【0008】
上述した背景技術として説明された事項は、本発明の背景に対する理解増進のためのものに過ぎず、この技術分野における通常の知識を有する者に既に知らされた従来技術に該当することを認めるものとして理解してはならないだろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、酸素の存在や酸素欠乏の有無に関係なく生命科学、医学、薬学などの分野で広く活用可能なフラビンベースの蛍光タンパク質(Flavin-based fluorescent proteins(FbFPs))を発掘しようと鋭意努力した。その結果、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)から由来したLOVタンパク質の変異体であるiLOVタンパク質に基づき、一部のアミノ酸配列を別のアミノ酸配列に置換して最適化することにより、LOV又はiLOVタンパク質に比べて蛍光強度が大きく向上した変異体を確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、本発明の目的は、iLOV(flavoprotein improved LOV)に比べて蛍光強度が増加したiLOV変異体を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、前記iLOV変異体をコードする核酸分子を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、前記核酸分子を含むベクターを提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、前記ベクターを含む宿主細胞を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、前記iLOV変異体、核酸分子又はベクターを含む蛍光発色用組成物を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、前記ベクターを発現させる段階を含む目的タンパク質の発現を分析する方法を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、前記ベクターを発現させて目的タンパク質を生成させる段階;及び、前記生成された目的タンパク質を分離する段階;を含む、目的タンパク質の分離精製方法を提供することにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、ilOV変異体の製造方法を提供することにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、iLOV変異体のスクリーニング方法を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面によって、より明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様によれば、本発明は、iLOV(flavoprotein improved LOV)に比べて蛍光強度が増加したiLOV変異体を提供する。
【0021】
本発明者らは、酸素の存在や酸素欠乏の有無に関係なく生命科学、医学、薬学などの分野で広く活用可能なフラビンベースの蛍光タンパク質(Flavin-based fluorescent proteins(FbFPs))を発掘しようと鋭意努力した結果、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)から由来したLOVタンパク質の変異体であるiLOVタンパク質に基づき、一部のアミノ酸配列を別のアミノ酸配列に置換して最適化することにより、LOV又はiLOVタンパク質に比べて蛍光強度が大きく向上した変異体を確認した。
【0022】
本明細書において用語“LOVタンパク質”又は“LOV protein”は、高等植物、微細藻類(microalgae)、かび及びバクテリアなどにおいて環境条件を感知するセンサードメインを意味し、Light-oxygen-voltageの略字である。本発明では、前記LOVタンパク質は、好ましくは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のフラビンベースの蛍光タンパク質(Flavin-based fluorescent proteins(FbFPs))であり、より好ましくは、配列目録第1配列を含む。
【0023】
本明細書において用語“iLOVタンパク質”、“iLOV protein”又は“flavoprotein improved LOV”は、前記LOVタンパク質の変異体を意味し、好ましくは、配列目録第1配列のアミノ酸配列において8番目、23番目、40番目、66番目、84番目及び89番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものであり、より好ましくは、配列目録第2配列を含む。
【0024】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明のiLOV変異体は、配列目録第2配列のiLOVのアミノ酸配列の一部を含み、配列目録第2配列のiLOVのアミノ酸配列のうち5番目のアミノ酸であるF(Phenylalanine)が、Y(Tyrosine)に置換されたものを含む。
【0025】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明のiLOV変異体は、配列目録第2配列のiLOVのアミノ酸配列のうち5番目アミノ酸であるF(Phenylalanine)がY(Tyrosine)に置換され、且つ、さらに、配列目録第2配列のiLOVのアミノ酸配列のうち79番目のアミノ酸であるK(Lysine)がE(Glutamate)に;84番目のアミノ酸であるL(Leucine)がF(Phenylalanine)に;91番目のアミノ酸であるD(Aspartate)がN(Asparagine)に;及び、104番目のアミノ酸であるL(Leucine)がQ(Glutamine)に置換されたものを含む。
【0026】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明のiLOV変異体は、配列目録第2配列のiLOVのアミノ酸配列のうち5番目のアミノ酸であるF(Phenylalanine)がY(Tyrosine)に置換され、且つ、さらに、配列目録第2配列のiLOVのアミノ酸配列のうち29番目のアミノ酸であるE(Glutamate)がG(Glycine)に、78番目のアミノ酸であるK(Lysine)がR(Arginine)に;及び、109番目のアミノ酸であるH(Histidine)がR(Arginine)に置換されたものを含む。
【0027】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明のiLOV変異体は、配列目録第3配列又は第4配列のアミノ酸配列を含む。
【0028】
本発明のiLOV変異体は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のLOVタンパク質の変異体であるiLOVタンパク質と比較して、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、最も好ましくは50%以上蛍光強度が増加したことを特徴とする。
【0029】
本発明の一実施例によれば、本発明のiLOV変異体は、iLOVタンパク質と比較して、93%~277%増加した蛍光強度を示した(図4)。
【0030】
本発明のiLOV変異体は、また、前記LOVタンパク質又はiLOVタンパク質と比較して増加した量子収率を示す。
【0031】
量子収率(quantum yield)は、光の吸収に続いて起こる発光又は光電子放出などにおいて、吸収した光子の数に対して放出した光子の数又は光電子の数の比率を示す値である。すなわち、量子収率が高いほど、吸収した光の光子が再び放出される光子への転換率が高いことを意味する。このため、量子収率が高いタンパク質は、結局、明るい蛍光タンパク質であることを示す。量子収率の高い蛍光タンパク質は少量あっても、蛍光が相対的に高く測定され得、これは敏感度の増加につながる。
【0032】
本発明のiLOV変異体は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のLOVタンパク質又はその変異体であるiLOVタンパク質と比較して、4%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは6%以上、さらに好ましくは7%以上、最も好ましくは8%以上量子収率が増加したことを特徴とする。
【0033】
本発明の一実施例によれば、本発明のiLOV変異体は、iLOVタンパク質と比較して8%~22%増加した量子収率を示した(図7)。
【0034】
また、本発明のiLOV変異体は、前記LOVタンパク質又はiLOVタンパク質と比較して増加した熱的安定性を示す。
【0035】
本発明の一実施例によれば、本発明のiLOV変異体は、温度が大きく増加(45℃)したにもかかわらず、高い熱的安定性を示し(図8)、高い温度条件でも利用可能であるという利点がある。
【0036】
本発明の他の態様によれば、本発明は、前記iLOV変異体をコードする核酸分子、これを含むベクター又は前記ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0037】
本発明の核酸分子は、単離したもの、又は組み替えられたものでよく、一本鎖及び二本鎖形態のDNA及びRNAの他に、対応する相補性配列も含まれる。“単離した核酸”は、天然生成源泉から単離した核酸の場合、核酸が単離した個体のゲノムに存在する周辺遺伝配列から分離された核酸である。鋳型から酵素的に又は化学的に合成された核酸、例えば、PCR産物、cDNA分子、又はオリゴヌクレオチドの場合、このような手順から生成された核酸が、単離した核酸分子として理解されてよい。単離した核酸分子は、別個の断片の形態又はより大きい核酸構築物の成分としての核酸分子を示す。核酸は、他の核酸配列と機能的関係で配置される時に“作動可能に連結”される。例えば、前配列又は分泌リーダー(leader)のDNAは、ポリペプチドが分泌される前の形態である前タンパク質(preprotein)として発現する場合に、ポリペプチドのDNAに作動可能に連結され、プロモーター又はエンハンサーは、ポリペプチド配列の転写に影響を与える場合に、コーディング配列に作動可能に連結され、又はリボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されるときに、コーディング配列に作動可能に連結される。一般に、“作動可能に連結された”とは、連結されるDNA配列が隣接して位置することを意味し、分泌リーダーの場合、隣接して同一リーディングフレーム内に存在することを意味する。ただし、エンハンサーは隣接して位置する必要はない。連結は、便利な制限酵素部位でライゲイションにより達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを、通常の方法によって使用する。
【0038】
本明細書において用語“ベクター”は、核酸配列を複製できる細胞への導入のために核酸配列を挿入し得る伝達体を意味する。核酸配列は、外生(exogenous)又は異種(heterologous)であってよい。ベクターとしては、プラスミド、コスミド及びウイルス(例えば、バクテリオファージ、AAVなど)を挙げることができるが、これに制限されない。当業者は、標準的な組換え技術によってベクターを構築することができる(Maniatis,et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1988;及び、Ausubel et al.,In:Current Protocols in Molecular Biology,John,Wiley & Sons,Inc,NY,1994など)。
【0039】
本明細書において用語“発現ベクター”は、転写される遺伝子産物のうち少なくとも一部分をコードする核酸配列を含むベクターを意味する。一部の場合には、その後、RNA分子がタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドに翻訳される。発現ベクターには様々な調節配列を含むことができる。転写及び翻訳を調節する調節配列に加え、ベクター及び発現ベクターには、さらに他の機能も提供する核酸配列も含まれてよい。
【0040】
本発明の好ましい具現例によれば、前記ベクターは、前記核酸分子をレポーター遺伝子として含み、発現しようとする目的タンパク質をさらに含む。
【0041】
本明細書において用語“目的タンパク質”又は“target protein”は、適当な宿主細胞を用いて確認又は生産しようとするタンパク質を意味する。
【0042】
本発明の核酸分子をレポーター遺伝子として用いる場合に、前記目的タンパク質の発現の有無を蛍光で分析することにより、前記目的タンパク質の発現を分析するか、目的タンパク質を生産し、それを容易に分離精製するのに用いることができる。
【0043】
本明細書において用語“宿主細胞”は、真核生物及び原核生物を含み、前記ベクターを複製できるか、ベクターによってコードされる遺伝子を発現できる任意の形質転換可能な生物を意味する。宿主細胞は、前記ベクターによって形質感染(transfected)又は形質転換(transformed)されてよく、これは、外生の核酸分子が宿主細胞内に伝達又は導入される過程を意味する。
【0044】
本発明の宿主細胞は、好ましくは、細菌(bacteria)細胞、イースト(yeast)、哺乳動物細胞(CHO細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、BHK細胞、COS7細胞、COP5細胞、A549細胞、NIH3T3細胞、MDCK細胞、WI38細胞など)を挙げることができるが、これに制限されるものではない。
【0045】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記iLOV変異体、前記核酸分子又は前記ベクターを含む蛍光発色用組成物を提供する。
【0046】
前記蛍光発生用組成物は、目的タンパク質の発現の有無を確認するか、発現した目的タンパク質を分離精製するか、特定組織、細胞又は分子をイメージングするためのキットに含まれて作製されてもよい。
【0047】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記ベクターを発現させる段階を含む目的タンパク質の発現を分析する方法を提供する。
【0048】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、ベクターを発現させて目的タンパク質を生成させる段階;及び、前記生成された目的タンパク質を分離する段階;を含む、目的タンパク質の分離精製方法を提供する。
【0049】
上述したように、本発明の核酸分子をレポーター遺伝子として用いる場合、目的タンパク質の発現の有無を確認するか、発現した目的タンパク質を分離精製するのに用いることができ、本発明のiLOV変異体を他のタンパク質や分子に結合又は融合し、蛍光を用いてそれらの位置を確認又は定量するのに用いることができる。
【0050】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、次の段階を含むilOV変異体の製造方法を提供する:a)前記iLOV変異体をコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞を培養する段階;及び、b)前記宿主細胞によって発現したiLOV変異体を回収する段階。
【0051】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、次の段階を含むiLOV変異体のスクリーニング方法を提供する:a)前記iLOV変異体又はこれをコードする核酸分子にさらに、無作為的な点突然変異を加えたiLOV変異体又はこれをコードする核酸分子のライブラリーを構築する段階;及び、b)前記ライブラリーから、配列目録第2配列のiLOVタンパク質に比べて蛍光強度が増加したiLOV変異体又はこれをコードする核酸分子を選別する段階。
【0052】
本発明のスクリーニング方法は、蛍光標識細胞分離(FACS)スクリーニング、又は流細胞分析技術を用いることができる。流細胞分析を行うための機器は、当業者には公知である。かかる機器の例には、FACSAria、FACS Star Plus、FACScan及びFACSort機器(Becton Dickinson,Foster City,CA)、Epics C(Coulter Epics Division,Hialeah,FL)、MOFLO(Cytomation,Colorado Springs,Colo.)、MOFLO-XDP(Beckman Coulter,Indianapolis,IN)を挙げることができる。一般に、流細胞分析技術には、液体試料中の細胞又は他の粒子の分離が含まれる。典型的には、流細胞分析機の目的は、分離された粒子を、それらの一つ以上の特性(例えば、標識されたリガンド又は他の分子の存在)に対して分析することである。粒子は、センサーによって一つずつ通過し、サイズ、屈折、光散乱、不透明度、照度、形状、蛍光などに基づいて分類される。
【発明の効果】
【0053】
本発明の特徴及び利点を要約すると、次の通りである:
(i)本発明は、iLOV(flavoprotein improved LOV)に比べて蛍光強度が増加したiLOV変異体を提供する。
【0054】
(ii)また、本発明は、iLOV変異体のスクリーニング方法を提供する。
【0055】
(iii)本発明のiLOV変異体は、既存のLOVタンパク質又はiLOVタンパク質に比べて蛍光強度及び量子収率が増加し、酸素の存在するか否かに関係なく目的タンパク質の発現の有無を確認するか、発現した目的タンパク質を分離精製するのに有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】iLOV 1次及び2次ライブラリーを用いてソート(sorting)した過程を示す。
図2】iLOV 1次スクリーニング結果として得たライブラリーの増菌試験(enrichment test)を示す。
図3】iLOV 2次スクリーニング結果として得たライブラリーの増菌試験を示す。
図4】iLOV 1次及び2次ライブラリーから選別されたSH3及びBR1のFACS蛍光強度を示す。
図5】iLOV変異体の突然変異が導入された位置を示す。
図6】SH3及びBR1の発光蛍光パターン分析を示す。
図7】SH3及びBR1の量子収得率を示す。
図8】SH3及びBR1の熱的安定性分析を示す。
図9】SH3及びBR1の熱的安定性分析において実際蛍光強度を示す。
図10】iLOV変異体とiLOV及び野生型LOVの配列を比較した結果である。
図11】ホモロジーモデリング(Homology modeling)分析を用いたSH3及びBR1の向上したスペクトル特性に対する構造解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0058】
[実施例]
<実施例1:iLOV変異体ライブラリー(library)作製>
シロイヌナズナ(arabidopsis thaliana)由来のFMNベースの蛍光タンパク質(FMN-based fluorescent protein,iLOV)を合成し、BamHI、HindIII(New England Biolab)制限酵素サイトを用いてPEQ-80ベクター(Qiagen)に移してiLOV発現用プラスミドを完成した。このプラスミドを鋳型とし、エラープローンPCR(error prone PCR)法を用いて、それぞれに変異を導入した。エラープローンPCRのためのプライマーは、5’-CATCACCATCACCATCACGGATCC-3’、5’-AAGCTTAATTAGCTGAGCTTGGACTCCTG-3’を使用し、エラー率(Error rate)は、0.5%エラーが入り得るように調整してライブラリーインサートを製造した。製造されたライブラリーインサートを発現用ベクターに入れるために、BamHI、HindIII(New England Biolab)制限酵素処理をし、同じ制限酵素で処理されたPEQ-80Lベクターとライゲイションさせた。その後、大腸菌Jude1((F’[Tn10(Tetr)proAB+lacIqΔ(lacZ)M15]mcrA Δ(mrr-hsdRMS-mcrBC)f80dlacZΔM15ΔlacX74 deoR recA1 araD139Δ(ara leu)7697 galU galKrpsLendA1nupG)に転換(transformation)し、巨大iLOV変異体ライブラリーを構築した。また、1次発掘した変異体を用いて2次ライブラリーを構築した。
【0059】
<実施例2:バクテリア培養及び流細胞分離器(flow cytometry)を用いたiLOV変異体ライブラリー探索>
構築されたiLOV変異体ライブラリー探索のために、大腸菌Jude1細胞に形質転換されている変異体ライブラリー細胞1mlを37℃、250rpm振盪(shaking)条件で2%(w/v)グルコースに、抗生物質(Antibiotics)はアンピシリン(40μg/mL)含有のTB(Terrific Broth)培地にそれぞれ入れ、4時間培養した。振盪培養されたライブラリー細胞をTB培地に1:100に接種した後、37℃、250rpm振盪でOD600が0.5に到達するまで培養した。その後、冷却のために20分間25℃で培養した後、1mM IPTG(isopropyl-1-thio-β-D-galactopyranoside)を入れて発現誘導した。培養が終わると細胞を回収し、PBSで2回洗浄した後、流細胞分離器(Flow cytometry:S3sortor(Bio-rad))を用いて、高い蛍光を示す上位2%細胞を回収するためにソーティング(sorting)を行い、蛍光の高い細胞の純度を上げるために、ソートされた細胞をさらにリソート(resorting)した。リソートされたサンプルを直ちに、アンピシリン(40μg/mL)含有TB+2%(w/v)グルコースに接種して一晩培養し、翌日、アンピシリン(40μg/mL)含有TB培地に1:100に接種し、次のラウンドの蛍光の高い細胞の分類作業を行った。このような方法で各ライブラリーを4回にわたってソーティング及びリソーティングを行った(図1)。ラウンドが進むにつれてディテクター(detector)の敏感度を下げて測定した(流細胞分離器のディテクターの敏感度を下げ、より蛍光強度の高いものを探すことができる)。また、上のような方法で1次ライブラリーから発掘されたSH3に基づいて2次ライブラリーを構築し、4回にわたってソーティング及びリソーティングを行った(図1)。
【0060】
<実施例3:蛍光の向上したiLOV変異体選別>
iLOVの1次、2次ライブラリーから、4ラウンドのソーティング及びリソーティング過程により、蛍光強度の向上したグループが得られたか確認し(図2及び図3)、確認されたグループにおいて個別クローンを分析し、高い蛍光を示すiLOV変異体を、流細胞分離器を用いた蛍光信号により確認した。そのうち、iLOVの蛍光強度よりも高い2個のiLOV変異体(SH3、BR1)が確保できた(図4及び図5)。
【0061】
<実施例4:選別されたiLOV変異体の発光パターン分析>
iLOV変異体の発光パターンを調査した。3μMの各精製されたタンパク質に450nmの波長を用いて電子を浮かばせ、これによって放出される波長を測定した。470nm~600nmの放出波長を測定した結果、495nmと520nmで2個のピークが観察された。iLOVとその変異体の全体的な蛍光パターンは類似しているが、SH3及びBR1の放出強度がそれぞれ20%、70%向上している(図6)。
【0062】
<実施例5:iLOV変異体の量子収率(quantum yield)分析>
量子収率(quantum yield)は、光の吸収に続いて起こる発光又は光電子放出などにおいて、吸収した光子の数に対して放出した光子の数又は光電子の数の比率を示す値である。すなわち、量子収率が高いほど、吸収した光の光子が再び放出される光子への転換率が高いことを意味する。このため、量子収率が高いタンパク質は、結局、明るい蛍光タンパク質であることを示す。量子収率の高い蛍光タンパク質は、少量あっても蛍光が相対的に高く測定され得、これは敏感度増加につながる。フルオレセインを基準物質として用いてiLOV変異体の量子収率を測定した。野生型iLOVの量子収率が0.37であるのに対し、SH3及びBR1はそれぞれ0.40及び0.45と向上した量子収率を示した(図7)。
【0063】
<実施例6;iLOV変異体の熱的安定性分析>
選別されたiLOV変異体の熱的安定性を測定した。熱的安定性実験は、タンパク質を3μMで37℃又は45℃で露出させた後。一定の時間が経つとサンプルを取り、残っている蛍光タンパク質の明るさを測定した。この時、蛍光タンパク質の明るさが温度に影響を受けるため、全ての測定において、各サンプルは25℃の恒温槽に30秒間インキュベーションした後、25℃に温度が固定されたキューベットで蛍光の明るさを測定した。この時、サンプルは450nmの波長で浮かばせ、495nmの発光を測定した。iLOVと比較して、SH3は、熱的安定性の向上した結果を示し、BR1は、低い熱的安定性を示した(図8)。しかし、BR1は依然として高い蛍光強度を示した(図9)。
【0064】
<実施例7:ホモロジーモデリング分析を用いたSH3及びBR1の向上したスペクトル特性に対する構造解析>
SH3及びBR1は、iLOVの配列と比較して、それぞれ、5個の追加突然変異(F391Y、K465E、L470F、D477N及びL490Q)及び4個の追加突然変異(F391Y、E415G、K464R及びH495R)を含んでいる(図11A)。このうち、SH3は、Phe-470(iLOVのLeu-470)が野生型LOVと同じアミノ酸で保存されている。先行研究によれば、iLOVのF470Lは、Leu-472を、FMNのイソアロキサジン環(isoalloxazine ring)側にフリッピング(flipping)して蛍光強度を改善した。野生型LOVでは、Phe-470によってLeu-472がFMNイソアロキサジン環から遠く離れている構造を有する。しかし、SH3変異体の蛍光強度は、L470F置換を含むにもかかわらず、iLOVの蛍光強度よりも高かった。そこで、SH3のF470位置にいずれかのアミノ酸に代替されたとき、蛍光強度向上効果に対する洞察力を得るために、SWISS-MODELを用いてインシリコモデルを生成した。SH3のモデルによれば、470位置に、Phe又はLeuに関係なくLeu-472は依然としてFMNイソアロキサジン環側に回転しており(図11B)、SH3においてLeu-472をフリッピングする原因はD477Nであると予想された。iLOVのAsp-477は、Arg-397と共に塩橋(salt bridge)を形成し、FMNとの結合を増加させる。ただし、SH3においてD477N置換による塩橋の除去は、Leu-472がFMNイソアロキサジン環側にひっくり返得るようにした(図11B)。また、SH3の470位置に、フェニルアラニンに比べてFMN輪に対する親和性が低いより小さな疎水性残基(イソロイシン、ロイシン、メチオニン及びバリン)への置換は、SH3の蛍光強度をむしろ減少させることから、SH3のPhe-470に対するモデリング解析を裏付ける(図11C)。このため、SH3におけるL470F及びD477N置換によるFMNイソアロキサジン環の増加した構造的安定性が、SH3がiLOVに比べて向上した蛍光強度を有することを裏付けるだろう。Y391F置換を除けば、SH3と比較して、BR1のみを持っている3種の確認された突然変異(E415G、K464R及びH495R)は、BR1がiLOVに比べて大きい陽電荷を有するようにする(図11のD及びE)。BR1に対するインシリコモデルによれば、E415G、K464R及びH495Rは、FMNイソアロキサジン環の親水性面と近づいている(図11のE)。先行研究では、酸化条件下で、LOVタンパク質は、FMNイソアロキサジン環の親水性側面によって生成されたセミキノンラジカルがタンパク質の光安定性を阻害して蛍光減少したとの報告がある。陰電荷を帯びたアミノ酸がセミキノンラジカルを生成し、陽性子がセミキノンラジカルをヒドロキノンに転換するのに関与するという事実に基づき、3種の換突然変異による、BR1の相対的に陽電荷を帯びた環境は、セミキノンラジカルによる光還元を減少させ、BR1の蛍光強度を向上させることができた。SH3は、野生型iLOV又はBR1に比べて向上した熱安定性を示したが、これは、SH3のモデリング結果においてL490QがAsn-390(図11のF)と水媒介電荷相互作用を生成することによって熱安定性が向上したものと予想される。
【0065】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は、単に好ましい具現例に過ぎず、それに本発明の範囲が制限されるものでない点は明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項とその等価物によって定義されるといえよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
0007290295000001.app