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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】氷菓子の融解を抑制するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A23G 9/38 20060101AFI20230606BHJP
   A23J 3/34 20060101ALN20230606BHJP
【FI】
A23G9/38
A23J3/34
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018219708
(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2020080717
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】稲田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】安藤 為明
(72)【発明者】
【氏名】松元 一頼
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-293348(JP,A)
【文献】特開平01-281043(JP,A)
【文献】特開2012-062309(JP,A)
【文献】特開2018-057409(JP,A)
【文献】特開2005-278484(JP,A)
【文献】特開2002-360178(JP,A)
【文献】特表2012-502666(JP,A)
【文献】特表2013-544529(JP,A)
【文献】特開昭62-285773(JP,A)
【文献】吉野健一,意外に知らない分子量と質量の単位の違い,生物工学,2013年,第91巻、第8号,p.464-468
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 9/
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性のたん白分解物を含み、該植物性のたん白分解物が小麦たん白分解物であり、該小麦たん白分解物中の全ペプチド中の、分子量30000以上のペプチドが10重量%以上である、氷菓子の融解を抑制するための組成物。
【請求項2】
前記植物性のたん白分解物が、該植物性のたん白分解物と水との混合物を該混合物の重量に対して該植物性のたん白分解物の濃度が1重量%となるように調製した際の該混合物が1℃以上の融点を有する、たん白分解物から構成されている、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、氷菓子の融解を抑制するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アイスクリーム類、シャーベット、氷菓などの氷菓子は、常温下に置くことで徐々に融解していき、状態変化による形状変化や食感の劣化が発生する。このため、温度の変化によって氷菓子の品質保持が困難となる。このような温度の変化は、例えば、氷菓子商品の輸送時、陳列時、および販売後の持ち帰りにおいて生じやすい。
【0003】
例えば、特許文献1において、無脂乳固形分、たん白、糖分およびゼラチンを必須成分として含む多起泡性冷菓用材料を混合して起泡させながら冷却することで製造したアイスクリーム等の冷菓は、長時間室温中に放置しておいても溶けて形くずれしないことが記載されている。特許文献1では、ゼラチンが保形性や耐ヒートショック性の向上のために添加され、たん白は、混合起泡を助けるために添加されている。
【0004】
他方で、種々の植物性のたん白分解物がアイスクリームの添加剤として用いられている(例えば、特許文献2~5)。特許文献1においても、たん白として、大豆たん白分解物および小麦たん白分解物が挙げられている。しかし、このようなたん白分解物は、アイスクリームの保形性、起泡向上または食感改良のために添加されており、上記のような融解を抑制するものではない。
【0005】
したがって、アイスクリーム類、シャーベット、氷菓などの氷菓子を、常温下に置いた場合であってもその融解を抑制するために用いることができる添加剤が、なお求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-293348号公報
【文献】特開平1-281043号公報
【文献】特開2002-360178号公報
【文献】特開2003-61585号公報
【文献】特開2005-278484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、例えば常温下のような冷凍温度より高い温度下に置かれた場合でも氷菓子の融解を抑制することができる製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、植物性のたん白分解物を含む、氷菓子の融解を抑制するための組成物を提供する。
【0009】
1つの実施形態では、上記植物性のたん白分解物は小麦たん白分解物である。
【0010】
1つの実施形態では、上記小麦たん白分解物は、重量平均分子量(Mw)に基づく分子量分布において、Mw30000ダルトン以上であるペプチド画分を10%以上にて含む。
【0011】
1つの実施形態では、上記植物性のたん白分解物は、該植物性のたん白分解物と水との混合物を該混合物の重量に対して該植物性のたん白分解物の濃度が1重量%となるように調製した際の該混合物が1℃以上の融点を有する、たん白分解物から構成されている。
【0012】
本発明はさらに、小麦たん白分解物と氷菓子原料とを含む氷菓子であって、該小麦たん白分解物が、重量平均分子量(Mw)に基づく分子量分布において、Mw30000ダルトン以上であるペプチド画分を10%以上にて含む、氷菓子を提供する。
【0013】
1つの実施形態では、上記小麦たん白分解物は、上記氷菓子原料との混合物の形態で含有されている。
【0014】
本発明はまた、氷菓子の製造方法を提供し、
この方法は、
小麦たん白分解物と氷菓子原料とを含む混合物を冷却下で成型する工程を含み、
該小麦たん白分解物は、重量平均分子量(Mw)に基づく分子量分布において、Mw30000ダルトン以上であるペプチド画分を10%以上にて含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、氷菓子は、常温下のような冷凍温度より高い温度下にあっても、その融解が抑制されて、溶けにくくなり得る。したがって、本発明の融解抑制用組成物を用いることにより、常温下の氷菓子の融解が抑制され、氷菓子の形状変化やそれに伴う食感の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】調製例1の小麦たん白分解物粉末について、ゲル濾過担体を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による重量平均分子量(Mw)基準の分子量分布測定により得られたクロマトグラム(a)および当該クロマトグラムにおいて、1,355~66,338の分子量範囲内から分子量66,338までの範囲内において、分子量17,000の境界分子量マーカー垂線で分けられた高分子量領域(A)および低分子量領域(B)を表した図(b)である。
図2】小麦たん白分解物1粉末について、ゲル濾過担体を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による重量平均分子量(Mw)基準の分子量分布測定により得られたクロマトグラム(a)および当該クロマトグラムにおいて、1,355~66,338の分子量範囲内から分子量66,338までの範囲内において、分子量17,000の境界分子量マーカー垂線で分けられた高分子量領域(A)および低分子量領域(B)を表した図(b)である。
図3】植物性のたん白分解物粉末を水に添加した場合の水の融点を示すグラフである。
図4】植物性のたん白分解物粉末を添加して製造した氷菓子の融点を示すグラフである。
図5】調製例1の小麦たん白分解物粉末を種々の濃度で水に添加した場合の凍結後の水中心温度の経時変化を示すグラフである。
図6】調製例1の小麦たん白分解物粉末を種々の濃度で添加して製造した氷菓子の中心温度の経時変化を示すグラフである。
図7】分子量分布の異なる小麦たん白分解物を水に添加した場合の凍結後の水中心温度の経時変化を示すグラフである。
図8】調製例1の小麦たん白分解物粉末を種々の濃度で添加して製造した氷菓子を室温(23℃)に静置した場合の氷菓子融解量の経時変化を示すグラフである。
図9】植物性のたん白分解物粉末を添加して製造した氷菓子を室温(23℃)に静置した場合の氷菓子融解量の経時変化を示すグラフである。
図10】分子量分布の異なる小麦たん白分解物を添加して製造した氷菓子を室温(23℃)に静置した場合の氷菓子融解量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、氷菓子の融解を抑制するための組成物(「融解抑制用組成物」ともいう)を提供する。この融解抑制用組成物は、植物性のたん白分解物を含む。
【0018】
本明細書において「氷菓子」とは、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイスなどの乳固形分を含むアイスクリーム類;シャーベット、かき氷などの氷菓などが挙げられる。
【0019】
本明細書において「植物性のたん白分解物」とは、植物に由来するたん白の分解物である。例えば、このような植物としては、麦類(例えば、小麦、大麦、ライ麦)、豆類(例えば、大豆およびエンドウ)、米、トウモロコシ類などが挙げられる。1つの実施形態では、植物性のたん白分解物は、小麦たん白分解物である。植物由来のたん白は、原料植物から常法によって分離または抽出して得てもよく、あるいは市販品を入手してもよい。たん白は粗精製品であっても、精製品であってもよい。
【0020】
植物性のたん白分解物は、植物性のたん白を加水分解して得られる、アミノ酸またはその改変物を主成分として含む物質である。このような物質は、例えば、1種またはそれ以上のアミノ酸またはその改変物が重合されたペプチドであり得る。植物性のたん白分解物は、種々の分子量のペプチドを含み得る。ペプチドの分子量は、重量平均分子量(Mw)にて、例えば、700~69000ダルトンであり、好ましくは1000~68000ダルトンである。
【0021】
上記加水分解の方法は問わない。加水分解の方法としては、例えば、酸処理、強アルカリ処理または酵素処理が挙げられる。酵素処理が好ましい。酵素としては、例えば、たん白分解酵素(プロテアーゼ)、ペプチド分解酵素(ペプチダーゼ)などが挙げられる。例えば、エンド型プロテアーゼが用いられる。予め加水分解された植物性たん白(例えば、小麦たん白分解物)をさらに加水分解して調製してもよい。加水分解の条件(例えば、使用する酸、アルカリまたは酵素の種類、ならびに加水分解のための温度および時間)は、上記分子量(Mw)の範囲内となるように設定され得る。
【0022】
1つの実施形態では、植物性のたん白分解物が小麦たん白分解物であり、この小麦たん白分解物は、重量平均分子量(Mw)に基づく分子量分布において、Mw30000ダルトン以上であるペプチド画分を10%以上にて含む。本明細書中では、重量平均分子量(Mw)に基づく分子量分布において30000ダルトン以上の重量平均分子量(Mw)を有するペプチド画分の割合(%)を、「当該ペプチド画分の割合(%)」ともいう。「当該ペプチド画分の割合(%)」は、例えば、限外濾過によって決定され得る。当該ペプチド画分の割合(%)は、好ましくは40%以上である。また当該ペプチド画分の上限は、例えば、100%であり、Mw30000ダルトン以上であるペプチドからなる小麦たん白分解物もまた用いられ得る。30000ダルトン以上の重量平均分子量(Mw)を有するペプチド画分がこのような割合(%)で含まれていることにより、氷菓子の温度の上昇をより緩やかにし、例えば、常温(例えば23℃)下での氷菓子の融解抑制をより長い時間にわたって行うことができる。
【0023】
当該ペプチド画分の割合(%)が10%以上である小麦たん白分解物として、例えば、特開2018-057409号公報に記載の小麦たん白分解物を用いてもよい。この小麦たん白分解物は、下述する特定の分子量分布(重量平均分子量(Mw)の分布曲線)を有するように、一群の種々の分子量の分解物(例えば、ペプチド群)を含有する。
【0024】
小麦たん白分解物の分子量分布は、例えば、ゲル濾過担体を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による重量平均分子量(Mw)基準の分子量分布測定により得られたクロマトグラムにおいて決定され得る。HPLCの測定条件は、例えば、カラム:Superdex75 10/300GL、溶離液:0.05M Na-Pi(pH6.4)(0.15M NaClを含有)、温度:室温、流速:0.5ml/分、検出:UV214nm、注入:100μl、試料:0.1mg/mlが用いられる。
【0025】
分子量分布の決定は、得られたクロマトグラム(チャート)から、分子量マーカーたん白との対比に基づき高分子量領域と低分子量領域とを決定することにより、行われ得る。用いる分子量マーカーの最小分子量と最大分子量との間(分子量が1,355~66,338)の範囲内のクロマトグラム曲線を観察し、分子量17,000を境界にして高分子量領域(A)と低分子量領域(B)とを決定し、各領域の面積を求める(言い換えれば、分子量(Mw)17,000~66,338のクロマトグラム曲線の積算値(A)および分子量(Mw)1,355~17,000のクロマトグラム曲線の積算値(B)を求める)。分子量マーカーは、分子量17,000および最小分子量と最大分子量とが測定可能なマーカーたん白が用いられ得る。例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)(分子量66,338)、ミオグロビン(分子量17,000)、ビタミンB12(分子量1,355)が使用され得る。オボアルブミン(分子量45,000)、β-ラクトグロブリン(分子量35,000)、シトクロームC(分子量12,000)、アプロチニン(分子量6,511)などの1,355~66,338の分子量範囲内の分子量を有する分子量マーカーをさらに用いてもよい。
【0026】
高分子量領域(A)および低分子量領域(B)はいずれも、所定の分子量範囲に相当するクロマトグラム上の2つの垂線と、当該分子量範囲内のクロマトグラム曲線と、ベースラインとで囲まれた領域で表される。
【0027】
ベースラインは、例えば、図1(a)を用いて説明すると、移動相のみが流動する状態(例えば、ほぼリニアな状態を示す)からピークの立ち上がりが最初に観察される時点(変曲点p)と、測定時間(例えば、横軸(保持時間軸)最大値の60分間)内に表されるクロマトグラム曲線の極小値のうち最も低い値を示す点(点q)とを通る直線から表される。なお、この点qは、クロマトグラム曲線に含まれる1つまたはそれ以上の極小値の中から選択される点で、得られたクロマトグラム曲線自体の最小値とは必ずしも一致するとは限らない点について留意すべきである。立ち上がりの観察は、クロマトグラムを形成する縦軸に表されるデータ値(紫外線(UV)検出の場合、UV吸収値)がゼロ近似(例えば、ゼロまたはゼロ付近の負の値)の停滞または減少傾向から増加傾向に転じた時点を、例えば検出器(例えば、UV検出器)によって検知することによってなされ、変曲点としてクロマトグラム曲線に表され得る。例えば、点pおよび点qが検出器によって自動で検知され、この検知された点を連結したベースラインが作成され得るか、あるいは、クロマトグラム曲線に基づいて点qを設定し、検出器で検出された点pと連結したベースラインを作成し得る。
【0028】
高分子量領域(A)は、例えば、図1(b)を用いて説明すると、以下のように決定される。まず、クロマトグラムにおいて、境界分子量17,000のマーカー位置にて保持時間軸(横軸)に対して付した垂線(境界分子量マーカー垂線)とクロマトグラム曲線またはベースライン(破線にて示す)との各交点10および12、そして最大分子量66,338のマーカー位置にて保持時間軸(横軸)に対して付した垂線(最大分子量マーカー垂線)とクロマトグラム曲線またはベースラインとの各交点20および22を設定する。次いで、交点10と交点12との間の垂線14と、交点12と交点22との間のベースライン50と、交点20と交点22との間の垂線24と、交点10と20との間のクロマトグラム曲線40とで囲まれた領域(図1(b)中の点線部の領域「A」)を「高分子量領域」として決定する。同様に、低分子量領域(B)は、例えば、図1(b)を用いて説明すると、以下のように決定される。クロマトグラムにおいて、上記境界分子量マーカー垂線上の交点10および12に加えて、最小分子量1,355のマーカー位置にて保持時間軸(横軸)に対して付した垂線(最小分子量マーカー垂線)とクロマトグラム曲線またはベースラインとの各交点30および32を設定する。次いで、交点10と交点12との間の垂線14と、交点12と交点32との間のベースライン52と、交点30と32との間の垂線34と、交点10と30との間のクロマトグラム曲線42とで囲まれた領域(図1(b)中の斜線部の領域「B」)を「低分子量領域」として決定する。
【0029】
面積の算定は、当業者が通常用いる解析ソフトを用いて行われ得る。このような解析ソフトとしては、例えば、ImageJ(米国国立衛生研究所(NIH)で開発されたオープンソースでパブリックドメインの画像処理ソフトウェア)が挙げられる。
【0030】
好ましくは、小麦たん白分解物は、上記クロマトグラムにおける高分子量領域(A)の低分子量領域(B)に対する面積比(「A/B」)が、0.25~0.5である。高分子/低分子比(A/B)は、より好ましくは、0.3~0.5であり、さらにより好ましくは、0.34~0.5である。一例として、以下の調製例1の小麦たん白分解物が挙げられる。
【0031】
小麦たん白分解物は、上記分子量分布を有するように、酵素処理の条件(例えば、使用酵素の種類および加水分解のための酵素処理時間)が設定され得る。本発明に用いられる小麦たん白分解物の調製のため、例えば、小麦たん白を、エンド型プロテアーゼで1時間~3時間加水分解処理することが行われ得る。また、多数種の小麦たん白分解物(例えば、種々の分子量の小麦たん白分解物)を組み合わせることによって、上記分子量分布を有するような小麦たん白分解物を調製してもよい。
【0032】
1つの実施形態では、上記植物性のたん白分解物は、該植物性のたん白分解物と水との混合物を該混合物の重量に対して該植物性のたん白分解物の濃度が1重量%となるように調製した際の該混合物が1℃以上の融点を有する、たん白分解物から構成されている。このような融点は、示差走査熱量計(DSC)にて各水混合物のDSC曲線を測定することによって算出され得る。このようなたん白分解物によって、氷菓子の温度の上昇をより緩やかにし、例えば、常温(例えば23℃)下での氷菓子の融解抑制をより長い時間にわたって行うことができる。このようなたん白分解物としては、例えば、当該ペプチド画分の割合(%)が10%以上である小麦たん白分解物が挙げられる。
【0033】
本発明の融解抑制用組成物は、固形剤または液剤の剤形で調製され得、必要に応じて、製剤化助剤および賦形剤などの食品添加製剤の製造上許容され得る成分をさらに含有してもよい。固形剤は、好ましくは粉末剤である。例えば、小麦たん白分解物を液状で調製した後、例えばスプレードライによって粉末化し得る。本発明の融解抑制用組成物は、上記植物性のたん白分解物以外に、氷菓子の融解抑制効果を損なわない限り、氷菓子への添加剤に通常含有され得る成分、物質等(例えば、起泡剤、乳化剤、アイスクリーム保形剤)を含んでもよい。
【0034】
本発明の融解抑制用組成物は、氷菓子の製造に際して、その氷菓子の原料と混合され得る。氷菓子原料としては、氷菓子の種類に依存して、例えば、水、乳固形分、乳脂肪分、糖質、卵黄、果汁、着香料、着色料、乳化安定剤、起泡剤、アイスクリーム保形剤等が挙げられる。乳固形分および乳脂肪分の例としては、牛乳、脱脂粉乳、生クリームなどの乳由来原料を挙げることができる。氷菓子原料は、これらの混合物の形態であってもよく、これは、アイスミックスと称され得る。アイスミックスは、液状または固体状であり得る。融解抑制用組成物は、氷菓子原料と均一に混合されることが好ましい。このような混合は、氷菓子の種類に依存して、ミキサーを用いる撹拌、ホイッパーを用いるホイップ(撹拌して泡立て)などが用いられ、あるいは氷菓子原料に融解抑制用組成物を溶解させてもよい。混合は、その氷菓子の種類に依存して、室温、冷却下、加熱下のいずれでもよい。このようにして、融解抑制用組成物と氷菓子原料の混合物を得ることができる。氷菓子は、融解抑制用組成物と氷菓子原料の混合物を冷却下で成型することによって、製造することができる。本発明においては、氷菓子は、例えば、下記の順の工程(記載の温度は、製造工程中の氷菓子原料を含む混合物の温度を指す):融解抑制用組成物と共に氷菓子原料の秤量混合;加温(30℃~70℃);溶解・混合;ホモジナイズ;殺菌(68℃、30分以上);冷却(5℃以下);エージング(5℃以下にて12時間以上静置);必要に応じてフレーバー(着香料)の添加;フリージング(攪拌しながら-2℃~-8℃に急冷して凍結する);充填;および急速冷凍(-15℃以下)で製造され得るが、これに限定されない。
【0035】
本発明の融解抑制用組成物は、氷菓子原料100重量部に対し、植物性のたん白分解物当たり、例えば、0.1重量部~2重量部、好ましくは0.2重量部~0.5重量部であるように添加され得る。このような添加量であることより、氷菓子の温度の上昇をより緩やかにし、例えば、常温(例えば、20℃~30℃)下での氷菓子の融解抑制をより長い時間にわたって行うことができる。
【0036】
本発明はさらに、当該ペプチド画分の割合(%)が10%以上である小麦たん白分解物と氷菓子原料とを含む氷菓子を提供する。1つの実施形態では、上記小麦たん白分解物は、上記氷菓子原料との混合物の形態で含有されている。この氷菓子は、上記小麦たん白分解物と氷菓子原料とを含む混合物を冷却下で成型する工程を含む製造方法によって製造することができる。
【0037】
本発明の融解抑制用組成物は、氷菓子の融点を上昇し、冷凍下にない氷菓子の温度の上昇を抑制し得る。本発明の融解抑制用組成物を含む氷菓子は、例えば、室温下にあってもその融解が抑制されて、溶けにくくなり得る。したがって、本発明の融解抑制用組成物を用いることにより、常温下の氷菓子の融解が抑制され、氷菓子の形状変化や食感の劣化を抑制することができる。本発明の融解抑制用組成物は、温度の変化による氷菓子の品質維持に有用である。これにより、氷菓子の輸送時、陳列時、および販売後の持ち帰りにおいて、たとえ常温下に曝されることがあった場合でも、このような氷菓子の品質低下を防ぐことができる。
【実施例
【0038】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0039】
<調製例1:小麦たん白分解物粉末および各種画分の調製>
水に分散させた小麦たん白をプロペラミキサーにセットして撹拌しながら、ウォーターバスで加温した。液温が50℃に達したとき、エンド型プロテアーゼ(対小麦たん白0.1%量)を投入し、50℃にて1時間分解した。分解後、遠心分離にて上澄みを回収し、上澄み液をpH5.0にpH調整した。pH調整後、液温を70℃まで昇温し、70℃にて30分間プロペラミキサーで攪拌しながら酵素を失活させた。失活後、液温を50℃まで冷却してから活性炭を投入し、精製した。精製終了後、珪藻土濾過し、水溶性部分を回収した。回収後、80℃で30分間加熱殺菌してから、スプレードライにより粉末化した。得られた粉末を、調製例1の小麦たん白分解物粉末とした。
【0040】
調製例1の小麦たん白分解物粉末について、ゲル濾過担体を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、分子量分布(重量平均分子量(Mw)基準)を測定した。分子量(MW)マーカーとして、ウシ血清アルブミン(BSA)(分子量66,338)、オボアルブミン(分子量45,000)、β-ラクトグロブリン(分子量35,000)、ミオグロビン(分子量17,000)、シトクロームC(分子量12,000)、アプロチニン(分子量6,511)、ビタミンB12(分子量1,355)の7種類を使用した。HPLCの測定条件は、カラム:Superdex75 10/300GL(GEヘルスケア社製)、溶離液:0.05M Na-Pi(pH6.4)(0.15M NaClを含有)、温度:室温、流速:0.5ml/分、検出:UV214nm、注入:100μl、試料:0.1mg/mlとした。
【0041】
クロマトグラムのチャートから、分子量17,000を境界にして高分子量領域(「A」:分子量(Mw)17,000~66,338)と低分子量領域(「B」:分子量(Mw)1,355~17,000)とを決定し、ImageJ解析ソフトを用いて各領域の面積を求め、高分子量領域(A)の低分子量領域(B)に対する面積比(A/B)を算出した(小数点第4位以下を四捨五入して小数点第3位までで求めた)。
【0042】
なお、別途入手した小麦たん白分解物1粉末についても、同様に分子量分布(重量平均分子量(Mw)基準)を測定した。
【0043】
調製例1の小麦たん白分解物粉末および小麦たん白分解物1粉末のそれぞれの分子量分布のクロマトグラムのチャートを図1および2に示す。
【0044】
図1は、調製例1の小麦たん白分解物粉末について、上記HPLCにより得られたクロマトグラム(a)を示す。クロマトグラムのベースラインを、ピークの立ち上がりが最初に観察された時点(変曲点p)と、横軸(保持時間軸)最大値の60分間内に表されるクロマトグラム曲線の極小値のうち最も低い値を示す点(点q)とを通る直線として作成した。図1(b)に示すように、クロマトグラムにおいて、境界分子量17,000のマーカー位置にて保持時間軸(横軸)に対して付した垂線(境界分子量マーカー垂線)とクロマトグラム曲線またはベースライン(破線にて示す)との各交点10および12、そして最大分子量66,338のマーカー位置にて保持時間軸(横軸)に対して付した垂線(最大分子量マーカー垂線)とクロマトグラム曲線またはベースラインとの各交点20および22を設定し、次いで、交点10と交点12との間の垂線14と、交点12と交点22との間のベースライン50と、交点20と22との間の垂線24と、交点10と20との間のクロマトグラム曲線40とで囲まれた領域(点線部の領域「A」)を「高分子量領域」として決定した。同様に、クロマトグラムにおいて、上記境界分子量マーカー垂線上の交点10および12に加えて、最小分子量1,355のマーカー位置にて保持時間軸(横軸)に対して付した垂線(最小分子量マーカー垂線)とクロマトグラム曲線またはベースラインとの各交点30および32を設定し、次いで、交点10と交点12との間の垂線14と、交点12と交点32との間のベースライン52と、交点30と32との間の垂線34と、交点10と30との間のクロマトグラム曲線42とで囲まれた領域(斜線部の領域「B」)を「低分子量領域」として決定した。
【0045】
図2においても、図1の場合と同様にしてベースラインを作成した。図2では、図1の場合と同様にして高分子量領域(図2(b)中の点線部の領域「A」)および低分子量領域(図2(b)中の斜線部の領域「B」)を決定した。
【0046】
図1に示されるように、調製例1の小麦たん白分解物粉末は、1,355~66,338の分子量範囲の中にピークを有し、面積比(A/B)は0.341であった。図2に示されるように、小麦たん白分解物1粉末は、1,355~66,338の分子量範囲の中にピークを有したが、面積比(A/B)は0.226であった。
【0047】
(検討例1:各種分子量画分のペプチドでの水融点の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末を、限外濾過で分画し、以下の分子量の画分のペプチドをそれぞれ得た:分子量10000ダルトン未満;分子量10000~30000(30000は含まず)ダルトン;分子量30000ダルトン以上(重量平均分子量(Mw)基準)。
【0048】
これらの画分のペプチドについて、水と混合し、混合物全体の重量に対してペプチドの濃度が1重量%となるような水混合物を得た。示差走査熱量計(DSC)にて各水混合物のDSC曲線を測定し、融点を算出した。この結果を以下の表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
この結果、分子量(Mw)30000ダルトン以上の画分のペプチドで高い融点上昇が確認された。
【0051】
(実施例1:分子量分布の異なる小麦たん白分解物での水融点の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末中の全ペプチドに対し、分子量分布における30000ダルトン以上の重量平均分子量(Mw)を有するペプチド画分の割合(%)を限外濾過により決定した。調製例1の小麦たん白分解物粉末においては、分子量分布における30000ダルトン以上の重量平均分子量(Mw)を有するペプチド画分が43%(≧10%)であった。
【0052】
小麦たん白分解物1粉末について、上記と同様に分子量分布における30000ダルトン以上の重量平均分子量(Mw)を有するペプチド画分の割合(%)を決定したところ、その割合は、9%(<10%)であった。
【0053】
調製例1の小麦たん白分解物粉末および小麦たん白分解物1粉末をそれぞれ、水と混合し、混合物全体の重量に対してたん白分解物の濃度が1重量%となるように水混合物を得た。DSCにて各水混合物のDSC曲線を測定し、融点を算出した。この結果を以下の表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
この結果、調製例1の小麦たん白分解物粉末および小麦たん白分解物1粉末ともに、無添加の場合に対する融点の上昇を確認した。Mw30000ダルトン以上のペプチド画分を10%以上にて含む調製例1の小麦たん白分解物粉末を用いた場合、Mw30000ダルトン以上のペプチド画分が10%未満である小麦たん白分解物1粉末よりも、顕著に高い融点上昇を確認した。
【0056】
(実施例2:各種植物性のたん白分解物での水融点の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末および大豆たん白分解物粉末(ペプチド分子量(Mw)1355~67000ダルトン)をそれぞれ、水と混合し、混合物全体の重量に対してたん白分解物の濃度が1重量%となるように水混合物を得た。DSCにて各水混合物のDSC曲線を測定し、融点を算出した。この結果を表3および図3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
(実施例3:各種植物性のたん白分解物での氷菓子融点の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末および大豆たん白分解物粉末(ペプチド分子量(Mw)1355~67000ダルトン)をそれぞれ、アイスミックス100重量部(原料の組成:牛乳60重量部、生クリーム2重量部、脱脂粉乳10重量部、グラニュー糖13重量部、卵黄5重量部、水8.95重量部、乳化安定剤1重量部、およびバニラ香料0.05重量部を含む(計100重量部):以下の実施例においても同じアイスミックスを用いた)に対し、たん白分解物が0.3重量部となるようにこれらを混合し、氷菓子を製造した。氷菓子の製造は、以下のように行った(温度は製造工程中の氷菓子原料を含む混合物の温度を示す)。小麦たん白分解物とアイスミックスとを混合して45℃に加温し、溶解および混合した。得られた混合物をホモジナイズし、殺菌(68℃にて30分)した。殺菌後の混合物を5℃以下に冷却し、5℃以下で12時間以上置くことによりエージングし、次いで撹拌下で-5℃に急冷してフリージングした後、型に充填し、-15℃に急速冷凍し、氷菓子を得た。この氷菓子を融解させて得られた液状物を用いて、DSCにてそのDSC曲線を測定し、融点を算出した。この結果を表4および図4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
実施例2および3の結果から、水混合物および氷菓子の両場合とも、植物性のたん白分解物の添加により、無添加の場合に対する融点の上昇を確認した。調製例1の小麦たん白分解物粉末において、他の植物性たん白分解物粉末と比べて高い融点上昇を確認した。
【0061】
(実施例4:調製例1の小麦たん白分解物粉末による氷の融解抑制および温度上昇抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末を、水と混合し、混合物全体の重量に対する当該小麦たん白分解物の濃度が所定の濃度(0.3重量%および1重量%)となるように水溶液(水混合物)を得た。この水溶液を凍結し、5℃環境下に静置した。この静置後から(静置開始時点を0分とした)、この凍結した水溶液の中心温度(「水中心温度」)を経時的に計測した。この結果を以下の表5および図5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
この結果から、調製例1の小麦たん白分解物粉末を添加すると、氷の融解が抑制され、そして氷または融解で生じた水の温度上昇が緩やかになっていたことが判明した。
【0064】
(実施例5:調製例1の小麦たん白分解物粉末による氷菓子の融解抑制および温度上昇抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末を、アイスミックス100重量部に対して当該小麦たん白分解物が0.1重量部または0.3重量部となるように混合したこと以外は、実施例3と同様にして氷菓子を製造した。得られた氷菓子を5℃環境下に静置し、静置後からの氷菓子の中心温度(「氷菓子中心温度」)を経時的に計測した。この結果を以下の表6および図6に示す。
【0065】
【表6】
【0066】
この結果から、調製例1の小麦たん白分解物粉末を添加すると、氷菓子の融解が抑制され、そして氷菓子の温度上昇が緩やかになっていたことが判明した。
【0067】
(実施例6:分子量分布の異なる小麦たん白分解物での氷の融解抑制および温度上昇抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末および小麦たん白分解物1粉末のそれぞれについて、
水と混合し、混合物全体の重量に対して小麦たん白分解物の濃度が1重量%となるように水溶液(水混合物)を得た。この水溶液を凍結し、5℃環境下に静置した。この静置後から水中心温度を経時的に計測した。この結果を以下の表7および図7に示す。
【0068】
【表7】
【0069】
この結果から、Mw30000ダルトン以上のペプチド画分を10%以上にて含む調製例1の小麦たん白分解物粉末を用いた場合、Mw30000ダルトン以上のペプチド画分が10%未満である小麦たん白分解物1粉末よりも氷の融解が抑制され、そして氷または融解で生じた水の温度上昇が緩やかになっていたことが判明した。
【0070】
(実施例7:調製例1の小麦たん白分解物粉末による氷菓子の融解抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末を、アイスミックス100重量部に対して当該小麦たん白分解物が0.1重量部または0.3重量部となるように混合したこと以外は、実施例3と同様にして氷菓子を製造した。この氷菓子50gを室温(23℃)に静置し、この静置後から所定時間経過後の氷菓子の融解量(重量(g))を計測した。この結果を以下の表8および図8に示す。
【0071】
【表8】
【0072】
示されるように、調製例1の小麦たん白分解物粉末を添加すると、氷菓子の融解が抑制され、そして溶けにくくなった。
【0073】
(実施例8:各種植物性のたん白分解物による氷菓子の融解抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末および大豆たん白分解物粉末のそれぞれを用いて、実施例3と同様にして氷菓子を製造した。この氷菓子10gを室温(23℃)に静置し、この静置後から所定時間経過後の氷菓子の融解量(重量(g))を計測した。この結果を以下の表9および図9に示す。
【0074】
【表9】
【0075】
この結果、植物性のたん白分解物の添加により、無添加の場合に対する氷菓子の融解が抑制されたことを確認した。調製例1の小麦たん白分解物粉末を用いた場合、他の植物性たん白分解物粉末と比べて、氷菓子の融解抑制の程度が高いことを確認した。
【0076】
(実施例9:分子量分布の異なる小麦たん白分解物による氷菓子の融解抑制の検討)
調製例1の小麦たん白分解物粉末、小麦たん白分解物1粉末および調製例1の小麦たん白分解物粉末より限外濾過で分画した分子量(Mw)30000ダルトン以上のペプチド画分(調製例2)のそれぞれを、アイスミックス100重量部に対し0.3重量部にて混合したこと以外は、実施例3と同様にして氷菓子を製造した。この氷菓子10gを室温(23℃)に静置し、この静置後から所定時間経過後の氷菓子の融解量(重量(g))を計測した。この結果を以下の表10および図10に示す。
【0077】
【表10】
【0078】
この結果、Mw30000ダルトン以上のペプチド画分を10%以上にて含む調製例1の小麦たん白分解物粉末を用いた場合、Mw30000ダルトン以上のペプチド画分が10%未満である小麦たん白分解物1粉末よりも、氷菓子の融解抑制の程度が高いことを確認した。Mw30000ダルトン以上のペプチド画分を用いた調製例2の場合、氷菓子融解抑制の程度がより一層高まった。たん白分解物全体におけるMw30000ダルトン以上のペプチド画分の割合が高いほど、氷菓子の融解抑制の程度が高まることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、例えば、食品添加剤および食品(特に、氷菓子)の製造分野、ならびに食品加工分野において有用である。
【符号の説明】
【0080】
10,12,20,22,30,32 交点
14,24,34 垂線
40,42 クロマトグラム曲線
50,52 ベースライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10