(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】マーキング用インキ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/03 20140101AFI20230606BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20230606BHJP
B60C 13/00 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C09D11/03
C09D11/037
B60C13/00 A
B60C13/00 C
(21)【出願番号】P 2019044767
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】南田 憲宏
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-043634(JP,A)
【文献】特開平11-043635(JP,A)
【文献】特開昭62-072773(JP,A)
【文献】国際公開第15/194086(WO,A1)
【文献】特開2000-248215(JP,A)
【文献】特開2003-105232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤、前記溶剤に可溶な樹脂、
顔料、ひまし油脂肪酸誘導体を少なくとも含み、前記ひまし油脂肪酸誘導体の配合量が2.0~8.0重量%であることを特徴とする
タイヤ用に使用するマーキング用インキ。
【請求項2】
前記
顔料を酸化チタンとしたことを特徴とする請求項1に記載のマーキング用インキ。
【請求項3】
塗布した際の膜厚が1μm~100μmであることを特徴とする請求項
1または2に記載のマーキング用インキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非吸収面へのマーキング用インキに関するものであり、特に、タイヤに塗布した塗膜に発生するクラック(ひび割れ)を防止するマーキング用インキに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、製造された車両用タイヤの検査工程においては、アンバランス測定やユニフォミティ測定が行われている。検査の結果、例えばタイヤの周方向において重量が最も軽い位置(軽点)やタイヤの外径が最も大きい部分には任意の色のマークが施される。このようなマークをタイヤのサイドウォールに塗布するにあたっては、スタンプ方式により所定形状のマークを転写塗布する方法が採用されてきた。前記スタンプに使用するインキとしては、特許文献1の実施例に記載のスタンプ台インキ、特許文献2に記載のタイヤマーキング用インキ等が用いられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-225609号公報
【文献】特願2018-061122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤに塗布する塗膜は、タイヤ表面の黒地が裏写りするのを防ぐために膜厚を1μm以上に設定し、隠蔽力を高める必要がある。しかし、膜厚を大きくすると、塗膜が乾燥した際に塗膜表面が収縮し、クラック(ひび割れ)が発生したり、塗膜の乾燥時間が長くなる事により、タイヤ同士を重ねた場合に他のタイヤを汚したり、擦れた場合には塗膜が取れてしまう等の不具合が生じていた。
例えば特許文献1の実施例に記載のスタンプ台用インキをタイヤマーキング用インキとして使用した場合、タイヤに塗布した膜厚12μmの塗膜を20℃×65%の条件下で1時間放置した際、塗膜にはクラックが発生していた。
前記課題を解決する為に特許文献2には、特許文献1記載のスタンプ台用インキに、樹脂を軟化させる作用を有するアルキルスルホン酸フェニルエステル又はポリオキシエチレンラウリルアミンを配合する事でクラックの発生を防止したタイヤマーキング用インキの開示がある。しかし、本配合インキは塗膜の乾燥過程で発生するクラックは防止できているものの、塗布面(タイヤのサイドウォール)の湾曲により塗膜に応力が加わり発生するクラックには効果が無かった。ここで、タイヤのサイドウォールの湾曲とは、タイヤに空気を充填する過程で発生するタイヤ表面の湾曲を意味する。
【0005】
本発明は、タイヤ等の非吸収面に塗布した塗膜の隠蔽力・乾燥性を良好に保ちつつ、塗膜の乾燥後、塗膜表面の収縮により生じるクラック及び、塗布面が湾曲する事により塗膜に発生するクラックの両方を防止するマーキング用インキを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために完成された第1の発明は、有機溶剤、前記溶剤に可溶な樹脂、顔料、ひまし油脂肪酸誘導体を少なくとも含み、前記ひまし油脂肪酸誘導体の配合量が2.0~8.0重量%であることを特徴とするタイヤ用に使用するマーキング用インキである。
【0007】
上記の課題を解決するために完成された第2発明は、前記顔料を酸化チタンとしたことを特徴とする第1の発明に記載のマーキング用インキである。
【0008】
上記の課題を解決するために完成された第3の発明は、塗布した際の膜厚が1μm~100μmであることを特徴とする第1または2の発明に記載のマーキング用インキである。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明では、有機溶剤、前記溶剤に可溶な樹脂、顔料、ひまし油脂肪酸誘導体を少なくとも含み、前記ひまし油脂肪酸誘導体の配合量が2.0~8.0重量%であることを特徴とするタイヤ用に使用するマーキング用インキである為、乾燥性を良好に保ちつつ、塗膜の乾燥後、塗膜表面の収縮により生じるクラック及び、タイヤを湾曲させる事により塗膜に応力が作用し生じるクラックの両方を防止することができる。
【0010】
第2の発明では、前記顔料を酸化チタンとしたことを特徴とする第1の発明に記載のマーキング用インキである為、塗膜の隠蔽力を高め、タイヤに塗布してもマークが鮮明となり目視確認が容易になる。
【0011】
第3の発明では、塗布した際の膜厚が1μm~100μmであることを特徴とする第1または2の発明に記載のマーキング用インキである為、タイヤに塗布した塗膜の隠蔽力・乾燥性を良好に保ちつつ、クラックの発生を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では有機溶剤として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコールや、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素や、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、4-メトキシ-4-メチルペンタノン等のケトンや、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル等のエステルや、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、2-メトキシプロパノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテルなどから選ばれる一種又は二種以上の混合物が用いられる。有機溶剤はインキ全量に対して、40~99重量%を用いることができ、50~95重量%が特に好ましい。
【0013】
本発明に用いられる樹脂は、ロジン系樹脂を用い、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性エステル樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂などが用いられる。
上記のロジン系樹脂を単独または2種以上混合して用いることができ、その配合量は、インキ全量に対し5~70重量%、好ましくは10~50重量%である。
また、前記ロジン系樹脂以外に他の油溶性樹脂を配合することができ、アクリル樹脂、エステル樹脂、セルロース樹脂、フェノール樹脂、ポリブチルブチラール、ケトンホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノール樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂などを少量配合してもよい。
【0014】
本発明では着色剤として従来公知の有機顔料及び無機顔料を使用することができる。例えば、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ・チオインジゴ系、ベリノン・ベリレン系、イソインドレノン系、アゾメチレンアゾ系などの有機顔料や、カーボンブラック、マイカ、パール顔料、酸化鉄・アルミニウム粉・真鍮等金属顔料などの無機顔料を用いることができる。これらの顔料は、スチレン-アクリル酸共重合体、ポリアクリル酸樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどに練り込んで加工顔料としておくと、溶剤と混合する際に容易に分散するので便利である。また、既に分散剤中に顔料を練り込んである市販の加工顔料を用いてもよい。
また、着色剤として染料を配合することを許容する。染料としては、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、トリアリルメタン系など従来公知の油溶性染料を特に制限されることなく使用することができる。
上記染料及び顔料は単独或いは混合して任意に使用することができ、その配合量はインキ全量に対して1~40重量%が好ましい。
【0015】
本発明ではクラック防止剤として、ひまし油脂肪酸誘導体を用いる。クラック防止剤には上記樹脂を軟化させる性質がある為、塗膜が乾燥しても樹脂が完全に硬化せず、ある程度の柔軟性を保持することができる。その為、塗膜の乾燥後、塗膜表面の収縮により生じるクラック及び、塗布面の湾曲により塗膜に生じるクラックの両方を防止できると考えられる。
ヒマシ油脂肪酸誘導体としては、アルキレンオキサイドによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸多価アルコールエーテルや、1価アルコールによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸アルキルエステル、2価アルコールによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸アルキレングリコールエステルなどのヒマシ油脂肪酸誘導体であって、通常市販されているものを用いることができる。
アルキレンオキサイドによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸多価アルコールエーテルとは、プロピレンオキサイドやエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドによりヒマシ油の一部又は全部を変性して得られるヒマシ油脂肪酸多価アルコールエーテルをいい、変性度10~100%のものが好ましく用いられる。ヒマシ油の主成分がリシノール酸であるのでヒマシ油脂肪酸多価アルコールエーテルの大部分は、リシノール酸多価アルコールエーテルである。
1価アルコールによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸アルキルエステルとは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1価及び2価のアルコールによりヒマシ油の一部又は全部を変性したヒマシ油脂肪酸アルキルエステルをいい、変性度10~100%のものが好ましく用いられる。ヒマシ油脂肪酸アルキルエステルの大部分は、リシノール酸アルキルエステルである。具体的には、CO-FAブチルエステル(伊藤製油(株)製)が挙げられる。
2価アルコールによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸アルキレングリコールエステルとは、エチレングリコール、プロピレングリコール等の2価アルコールによりヒマシ油の一部又は全部を変性したヒマシ油脂肪酸アルキレングリコールエステルをいい、変性度10~100%のものが好ましく用いられる。ヒマシ油脂肪酸アルキレングリコールエステルの大部分は、リシノール酸アルキレングリコールエステルである。具体的には、MINERASOL S-74(伊藤製油(株)製)が挙げられる。
また詳細は非開示であるが、ヒマシ油脂肪酸エステルとして、リックサイザーC-88(伊藤製油(株)製)等が挙げられる。
これらのクラック防止剤は1種単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用でき、その配合量は、耐クラック性・乾燥性の観点からインキ全量に対して2.0~8.0重量%が好ましく、より好ましくは、3.0~5.0重量%である。
【0016】
本発明では、タイヤ用に使用する場合、隠蔽性を高める為に酸化チタンを配合する。使用する酸化チタンは、平均粒子径が0.001μm以上であって、ルチル型、アナターゼ型のいずれも使用することができ、例えばBayertitan R-FD-1・R-KB-3・R-CK-20(以上、バイエル社製)、TIPAQUE R-630・R-615・R-830(以上、石原産業(株)社製)、Unitane OR-342(A.C.C.社製)、Ti-pure R-900・R-901(E.I.Dupont社製)などや、MICROLITH White R-A・R-AB(以上、チバガイギー社製)、ENCE PRINT White 0027(BASF社製)等の市販の加工顔料など公知の酸化チタンを用いることができる。
酸化チタンの配合量は、インキ全量に対し0.1~80重量%、好ましくは5~40重量%である。
【0017】
上記酸化チタンの分散剤は、シリカ、アルミナ、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどを使用することができる。その中でも特にシリカ、ケイ酸アルミニウムが好ましい。これらの分散剤は、単独で使用しても良いし2以上を混合して使用しても良い。
本発明では、上記の分散剤を単独または2種以上混合して用いることができ、その配合量は、インキ全量に対し0.01~10重量%、好ましくは0.1~5重量%である。
【0018】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例よって限定されるものではない。
本発明のマーキング用インキは、有機溶剤、前記溶剤に可溶な樹脂、酸化チタン、着色剤、ひまし油脂肪酸誘導体、必要に応じて各種添加剤を投入、撹拌して調整する。
【0019】
実施例及び比較例のインキ配合を表1に示す。
表中のひまし油脂肪酸誘導体Aは、MINERASOL S-74(伊藤製油(株)製)、ひまし油脂肪酸誘導体Bは、CO-FAブチルエステル(伊藤製油(株)製)である。
【0020】
実施例及び比較例について、以下の条件で試験を行った。
・耐クラック性試験
(試験方法)
作製したインキについて、タイヤ片にハンドコーターNo.0(膜厚4μm)、No.1(膜厚6μm)、No.2(膜厚12μm)、No.8(膜厚100μm)、No.500(膜厚500μm)(以上、松尾産業(株)製)を用いて各所定膜厚となるように均一塗布したものを、20℃×65%の条件下で1時間放置した。次に、前記タイヤ片を半径20mmの円柱体に巻きつけて湾曲させ、塗膜に応力を加えた後、元の状態に戻す。この作業を10回繰り返した後、表面にクラックが発生していないか目視で確認した。クラックが発生していない場合は「○」、クラックが発生した場合は「×」として耐クラック性を評価した。
・塗膜乾燥性試験
(試験方法)
耐クラック性試験と同様に、各所定膜厚でインキ塗布したタイヤ片を20℃×65%の条件下で1時間放置した。その後、塗膜の乾燥性を確認する為、塗膜を指で擦った際にインキが付着するかどうかを確認し、インキが付着しない場合は「○」、インキが付着する場合は「×」として塗膜の乾燥性を評価した。
【0021】
表1の実施例1~5、比較例1より、ひまし油脂肪酸誘導体を配合する事で塗膜に発生するクラックを防止できることがわかる。更に、実施例1~3より、膜厚が1μm~100μmの範囲では耐クラック性及び塗膜乾燥性共に良好である。ここで膜厚の最小値は、タイヤ片の黒地が裏移りしない臨界値として1μmと設定している。一方で、比較例4、5より、膜厚を200μm以上まで大きくすると1時間経過後も塗膜が乾燥せず、塗膜乾燥性が著しく低下する。以上より、膜厚は1μm~100μmの範囲において乾燥性・隠蔽性を良好に保ちつつ、クラック発生を確実に防止することができる。尚、比較例4、5の耐クラック性試験については、1時間経過後も塗膜が乾燥していなかった為、未実施である。
実施例4、5より、ひまし油脂肪酸誘導体の配合量が2.0~8.0重量%の範囲では塗膜乾燥性は良好である。一方で、比較例3よりひまし油脂肪酸誘導体の配合量を9.0重量%まで増加させると、実施例2、4、5と同じ膜厚であるにも関わらず、塗膜乾燥性が著しく低下する。更に、比較例2より、ひまし油脂肪酸誘導体の配合量を1.0重量%まで減少させると、塗膜乾燥後の時点でクラックが発生していた。以上より、クラック防止剤の配合量は2.0~8.0重量%が好ましい。
【0022】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うマーキング用インキもまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。