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特許7290319濃縮呼気凝縮液の旋光度測定装置及び測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】濃縮呼気凝縮液の旋光度測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/21 20060101AFI20230606BHJP
   G01J 4/04 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
G01N21/21 Z
G01J4/04 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019205810
(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2021067659
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-10-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303000774
【氏名又は名称】株式会社グローバルファイバオプティックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001106
【氏名又は名称】弁理士法人キュリーズ
(72)【発明者】
【氏名】梶岡 博
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/070646(WO,A1)
【文献】特開2015-225021(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0299477(US,A1)
【文献】Divya TANKASALA et al.,Non-invasive glucose detection in exhaled breath condensate,Translational Research,2019年05月30日,Vol. 213,PP.1-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01J 3/00-G01J 4/04
G01J 7/00-G01J 9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毎分U(ml:ミリリットル)の採取率でT(分)間採取された呼気凝縮液をN倍に濃縮した検体である濃縮呼気凝縮液作成する濃縮機構と、
光路長D(cm)、断面積S(cm)のセルと、
前記濃縮呼気凝縮液が収容された前記セルにレーザ光を入射し、旋光度の最小検出感度がθ(度)の検出器でグルコース濃度がP(mol/L)の前記濃縮呼気凝縮液の旋光度をQ(%)の精度で測定する旋光度測定系と、
を備え、
前記濃縮機構、前記セルおよび前記旋光度測定系は、Rを2~3の範囲の定数としたとき、前記N前記Dの積N・Dが以下の条件を満たすことを特徴とする旋光度測定装置。
105θ/(P・Q)≦N・D≦T・U/RS・・・・・(1)
【請求項2】
請求項1に記載の旋光度測定装置が、所定の体積 前記呼気凝縮液を濃縮容器に移す機構、前記呼気凝縮液の溶媒を蒸発させ乾固させる機構、該濃縮容器に のN分の1である所定の体積V 超純水を加えて前記呼気凝縮液の溶質と均一に混ぜ合わせて前記濃縮呼気凝縮液を作る機構、該濃縮呼気凝縮液の一部又は全部を、断面積がS(cm)で光路長がD(cm)でレーザ光を入出射する窓を有するセルに移す機構、セルに偏光光を伝搬させ、セルを伝搬した光の偏光を測定する機構、および偏光を測定する状態のままで該セルを含む容器に体積がV以上の超純水を加え、前記セルを伝搬した光の偏光を測定し、偏光特性と偏光特性の差から前記濃縮呼気凝縮液の旋光度を求める機構からなることを特徴とする旋光度測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の旋光度測定装置において、該セル光ファイバジャイロのセンシングループの中に設置され、該セルの左右両端から直線偏光をそれぞれ左右円偏光化した光として入射し、該光ファイバジャイロの体積V の超純水を加えた後の前記濃縮呼気凝縮液が収容された前記セルを伝搬した光の偏光を測定する際の出力を、体積がV 以上の超純水を加えた後の前記濃縮呼気凝縮液が収容された前記セルを伝搬した光の偏光を測定する際の出力と比較することで前記濃縮呼気凝縮液の旋光度を求めることを特徴とする旋光度測定装置。
【請求項4】
毎分U(ml)の採取率でT(分)間採取された呼気凝縮液をN倍に濃縮した検体である濃縮呼気凝縮液を光路長D(cm)、断面積S(cm)のセルに入れ、セルにレーザ光を入射し、旋光度の最小検出感度がθ(度)の検出器でグルコース濃度がP(mol/L)の前記濃縮呼気凝縮液の旋光度をQ(%)の精度で測定する旋光度測定系において、Rを2~3の範囲の定数としたとき、前記N前記Dの積N・Dが以下の条件を満たすことを特徴とする旋光度測定方法。
105θ/(P・Q)≦N・D≦T・U/RS・・・・・(1)
【請求項5】
請求項4に記載の旋光度測定方法が、第1の工程として、所定の体積 の前記呼気凝縮液を濃縮容器に移す工程、第2の工程として、前記呼気凝縮液の溶媒を蒸発させ乾固させる工程、第3の工程として、該濃縮容器に のN分の1である所定の体積 超純水を加えて前記呼気凝縮液の溶質と均一に混ぜ合わせ前記濃縮呼気凝縮液を作る工程、第4の工程として、該濃縮呼気凝縮液の一部又は全部を断面積がS(cm)で光路長がD(cm)でレーザ光を入出射する窓を有するセルに移す工程、第5の工程として、セルに偏光光を伝搬させセルを伝搬した光の偏光を測定する工程、第6の工程として、第5の測定工程のままで該セルを含む容器に体積がV以上の超純水を加えセルを伝搬した光の偏光を測定し、第5の工程の偏光特性と第6の工程の偏光特性の差から前記濃縮呼気凝縮液の旋光度を求めるという6つの工程からなることを特徴とする旋光度測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の旋光度測定方法において、該セルを光ファイバジャイロのセンシングループの中に設置し、該セルの左右両端から直線偏光をそれぞれ左右円偏光化した光を入射し、該光ファイバジャイロの第5の工程の場合の出力と第6の工程の場合の出力との差で前記濃縮呼気凝縮液の旋光度を求めることを特徴とする旋光度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼気凝縮液(以下、EBCともいう)の旋光度を測定する装置及び方法に関する。特に、呼気凝縮液に含まれるグルコースの旋光度を測定し採血することなしに被検者の血糖値を高い精度で推定する非侵襲血糖値推定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中のグルコース濃度の測定方法として実用化されているのは、採血した血液を電気化学的に測定するものである。しかし、この方法は採血に伴ういくつかの問題点がある。すなわち、採血による痛み、採血針や消毒綿の廃棄の問題、採血針、試薬、消毒綿などの消耗品のコストの問題などである。特に糖尿病患者は1日3度の食事の前後に採血による血糖値測定が必要であり長年にわたり年間1000回以上の採血を行うことは非常に苦痛を伴う。このため、これまでいくつかの非侵襲血糖値推定方法が開発されてきたがまだ広く実用化されたものはない。
【0003】
発明者はこれまで特許文献1および2に記載されている複屈折率測定装置で生体やEBCの旋光度を測定することで血糖値を推定する方法を試してきた。この方法は、本発明の請求項3に記載の方法に該当し特許文献1および2に詳述されている。EBCは汗や涙と異なり10分間の自然呼吸でおよそ1.5mLの量が採取できる。一方非特許文献1,2などにより、EBCのグルコース濃度は血糖と強い相関があることおよびEBCに含まれるグルコース濃度は血糖のおよそ2000分の1であることが実験的に示されている。健常者の血糖値は約100mg/dLであり、この濃度のグルコースの旋光度は、セル長が1cmの場合に5x10-3度であるので、EBCに含まれるグルコースの旋光度はセル長が1cmの場合およそ2.5x10-6度となる。この旋光度を十分な精度で測定するためには非常に高精度な旋光度測定技術が必要である。
【0004】
特許文献1および2に記載の光ファイバジャイロを用いた旋光度測定装置や方法(本特許請求範囲3や6)においては、2.5x10-6度の旋光度を測定するためには最小分解能がおよそ0.001度/時オーダ以下の超高精度光ファイバジャイロが必要となる。すなわちEBCのグルコース濃度を測定するためには装置が非常に高価となり実現性がないことがわかる。
【0005】
近年EBCのグルコースが血糖値と強い相関があることはすでに公知となっているのでEBCのグルコースを濃縮することによって市販の旋光計や光ファイバジャイロを用いた旋光計でEBCのグルコース濃度を推定することを検討した。実験としては濃度が既知のグルコース溶液を用いて濃縮実験を行った。濃縮方法は窒素などの乾燥ガスを1.5mLのグルコース溶液に吹き付け、溶媒である水を蒸発させたのちに0.15mLの超純水に溶かし、グルコース濃度を10倍に濃縮することを試みた。濃縮されたグルコースの旋光度を測定したところおよそ10倍の旋光度が得られ、グルコース溶液の10倍濃縮が確認できた。
【0006】
本方法では初めに溶媒を蒸発させ残った溶質のグルコースを所定の超純水に溶かして濃縮を図った。この方法は濃縮に窒素ガス以外の化学物質を使わないので、検体の旋光物質の濃度に影響を与えない。さらに、本方法では、溶媒を蒸発させたあとに加える超純水の量を変えることで、意図する濃縮度が実現できるメリットがある。例えば、1.5mLのEBCの場合、溶媒を除去した後に0.015mLの純水に溶かせば、100倍の濃縮が可能となる。
【0007】
前述したように、EBCの場合、10分間の自然呼吸で約1.5mLのEBCが得られるが、これを100倍に濃縮すると、濃縮EBC(検体)の体積は15μLと100分の1に減少する。検体に偏光光を伝搬させ旋光度を測る測定においては旋光度はセル長に比例するのでセルの長さD(cm)は長いほど望ましい。しかしあまり長くすると検体の量が不足して測定できない。
【0008】
現在までにEBCのグルコース濃度はおよそ0.01mモル/Lオーダであることが分かっている。このような超低濃度の旋光度を十分な精度で測定するための方策としては、濃縮度Nを高めるか、検体(セル)長Dを長くするか、計測に使用する光ファイバジャイロの最小分解能θが小さい、すなわちハイエンドな光ファイバジャイロを用いるかのいずれかである。一方、自然呼吸の呼気を冷却して採取するEBCの採取時間はできるだけ短くしたい。できれば数分以下に抑えたい。これはEBC採取にもある程度の倦怠感があるし、EBCの体積が多いと濃縮に時間を要するからである。一方、セルの断面積S(cm)はセルにレーザ光を絞り込む際のレンズ系の設計と関係する。一般的にセル長Dを大きくすると、検体を収納するセルの断面積Sは大きくなり、測定に必要な検体量は多くなり、濃縮度Nとトレードオフの関係にある。セル長Dと濃縮度Nが小さいと、最小分解能θが小さいハイエンドな光ファイバジャイロが必要となり、測定装置全体のコストアップとなる。
【0009】
このように、本発明に記載のEBCの旋光度測定装置を設計・製造する場合には、以下のパラメータが互いに密接に関係している。
―EBCの濃縮度N
―セル長D(cm)
―セル断面S(cm
―EBC採取時間T(分)
―EBC採取レートU(mL/分)
―使用する光ファイバジャイロの最小分解能θ(度)
―目標の旋光度の測定精度:分解能θのq(%)
このように濃縮されたEBCの旋光度を精度よく安定に測定するための設計・製造パラメータが多数あるので最適な設計指針が立てにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4556463号公報
【文献】特開2016-122116号公報
【0011】
【文献】Hamilton,Mark,II”Standardizing the collection and measurement of glucose in exhaled breath and its relationship to blood glucose concentrations”米国Purdue大学学位論文、ページ数:95,出版年:2014,学位授与日:2014,
【文献】Arun Pamidipani,”Establishing a functional relationship between the glucose concentrations in exhaled breath condensates and blood”米国Purdue大学学位論文、2010,119pages
【文献】APPLIED OPTICS/Vol.53,No.4/PP720-726 1 February 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、従来困難とされていた超低濃度のEBCのグルコース濃度の測定を可能にしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するためになされた本発明に係る呼気凝縮液(EBC)の旋光度の測定装置や方法の特徴は、旋光度の測定対象であるEBCを濃縮し、その濃縮度N、測定長D、測定部の断面積S、EBC採取時間T、使用する光ファイバジャイロの最小分解能θなどの多くの設計パラメータに対し、EBCの濃縮度Nと検体長Dの積の範囲を限定したことである。
【0014】
課題を解決するためになされた本発明の第1の発明(以下、発明1という)は、毎分U(ml:ミリリットル)の採取率でT(分)間採取された呼気凝縮液をN倍に濃縮した検体である濃縮呼気凝縮液作成する濃縮機構と、光路長D(cm)、断面積S(cm)のセルと、前記濃縮呼気凝縮液が収容された前記セルにレーザ光を入射し、旋光度の最小検出感度がθ(度)の検出器でグルコース濃度がP(mol/L)の前記濃縮呼気凝縮液の旋光度をQ(%)の精度で測定する旋光度測定系と、を備え、前記濃縮機構、前記セルおよび前記旋光度測定系は、Rを2~3の範囲の定数としたとき、前記N前記Dの積N・Dが以下の条件を満たすことを特徴とする旋光度測定装置である。
105θ/(P・Q)≦N・D≦T・U/RS・・・・・(1)
【0015】
発明1を展開してなされた本発明の例としての第2の発明(以下、発明2という)は、発明1に記載の旋光度測定装置が、定の体積 前記呼気凝縮液を濃縮容器に移す機構、前記呼気凝縮液の溶媒を蒸発させ乾固させる機構、該濃縮容器に のN分の1である所定の体積V 超純水を加えて前記呼気凝縮液の溶質と均一に混ぜ合わせて前記濃縮呼気凝縮液を作る機構、該濃縮呼気凝縮液の一部又は全部を、断面積がS(cm)で光路長がD(cm)でレーザ光を入出射する窓を有するセルに移す機構、セルに偏光光を伝搬させ、セルを伝搬した光の偏光を測定する機構、および偏光を測定する状態のままで該セルを含む容器に体積がV以上の超純水を加え、前記セルを伝搬した光の偏光を測定し、偏光特性と偏光特性の差から前記濃縮呼気凝縮液の旋光度を求める機構からなることを特徴とする旋光度測定装置である。
【0016】
明2を展開してなされた本発明の例としての第3の発明(以下、発明3という)は、発明1または2に記載の旋光度測定装置において、該セル光ファイバジャイロのセンシングループの中に設置され、該セルの左右両端から直線偏光をそれぞれ左右円偏光化した光として入射し、該光ファイバジャイロの体積V の超純水を加えた後の前記濃縮呼気凝縮液が収容された前記セルを伝搬した光の偏光を測定する際の出力を、体積がV 以上の超純水を加えた後の前記濃縮呼気凝縮液が収容された前記セルを伝搬した光の偏光を測定する際の出力と比較することで前記濃縮呼気凝縮液の旋光度を求めることを特徴とする旋光度測定装置である。
【0017】
課題を解決するためになされた本発明の第4の発明(以下、発明4という)は、毎分U(ml)の採取率でT(分)間採取された呼気凝縮液をN倍に濃縮した検体である濃縮呼気凝縮液を光路長D(cm)、断面積S(cm)のセルに入れ、セルにレーザ光を入射し、旋光度の最小検出感度がθ(度)の検出器でグルコース濃度がP(mol/L)の前記濃縮呼気凝縮液の旋光度をQ(%)の精度で測定する旋光度測定系において、Rを2~3の範囲の定数としたとき、前記Nと前記Dの積N・Dが(1)式の条件を満たすことを特徴とする旋光度測定方法である。
【0018】
発明4を展開してなされた本発明の例としての第5の発明(以下、発明5という)は、発明4に記載の旋光度測定方法において、第1の工程として、所定の体積 の前記呼気凝縮液を濃縮容器に移す工程、第2の工程として、前記呼気凝縮液の溶媒を蒸発させ乾固させる工程、第3の工程として、該濃縮容器に のN分の1である所定の体積 超純水を加えて前記呼気凝縮液の溶質と均一に混ぜ合わせ前記濃縮呼気凝縮液を作る工程、第4の工程として、該濃縮呼気凝縮液の一部又は全部を断面積がS(cm)で光路長がD(cm)でレーザ光を入出射する窓を有するセルに移す工程、第5の工程として、セルに偏光光を伝搬させセルを伝搬した光の偏光を測定する工程、第6の工程として、第5の工程で偏光を測定する状態のままで該セルを含む容器に体積がV以上の超純水を加え、セルを伝搬した光の偏光を測定し、第5の工程の偏光特性と第6の工程の偏光特性の差から前記濃縮呼気凝縮液の旋光度を求めるという6つの工程からなることを特徴とする旋光度測定方法である。
【0019】
明5を展開してなされた本発明の例としての第6の発明(発明6という)は、該セルを光ファイバジャイロのセンシングループの中に設置し、該セルの左右両端から直線偏光をそれぞれ左右円偏光化した光を入射し、該光ファイバジャイロの第5の工程の場合の出力第6の工程の場合の出力との差前記濃縮呼気凝縮液の旋光度を求めることを特徴とする旋光度測定方法である。
【発明の効果】
【0020】
EBCを濃縮して、光ファイバジャイロを利用した旋光度測定装置でEBCのグルコース濃度を測定する装置の製造・設計諸元には、段落(0009)で述べたように、多くのパラメータが関係している。本発明は、所定のグレードの光ファイバジャイロを用いて超微小な旋光度を測定するために、セル長D(cm)と濃縮度Nの積に条件を付け設計条件を明確にしたことである。
このようにして従来困難であったEBCのグルコース濃度を測定できるようにし、非侵襲血糖測定を可能とした。
【0021】
本発明の旋光度計測装置と旋光度計測方法は、採血しないで生体の血糖値を推定できるので、被検者にとって針による採血に伴う煩わしさや苦痛がないこと、採血針の廃棄処理が不要で衛生的であること、採血の時に使用しているグルコースと反応する試薬、採血針、消毒綿などが不要となるので、年間10万円以上のランニングコストが不要になり経済的であるなどのメリットがある。その上血糖値測定が簡単なので血糖値モニターが1日何回でも可能で、糖尿病患者、その予備軍、健常者の健康管理などに使えるなど、大きな効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のEBCを濃縮して旋光度を測定する装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の光ファイバジャイロを用いた旋光度測定系のブロック図である。
【符号の説明】
【0023】
1:冷却装置
2:EBC
3-1,3-2:液送装置
4:濃縮容器
5:セル(図は断面)
6:伝搬部の断面
7:ガス吹き付け用ノズル
8:超純水
9:光源部(SLD,ASE)
10-1,10-2:方向性結合器
11:光ファイバ型偏光子
12:直線偏光スイッチ
13-1,13-2:直線偏光を左右円偏光に変換するデバイス
14:偏波面保存光ファイバ
15:受光器
16:信号処理回路
17:コントローラ(パソコン)
18-1,18-2:時計方向、反時計方向に伝搬する光
19:旋光度信号(例えばRS232C)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面と数式を参照して本発明の実施の形態例について説明する。なお、説明に用いる各図は、本発明の実施の形態例を理解できる程度に、各構成成分の寸法、形状、配置関係などを概略的に示してある。そして本発明の説明の都合上、部分的に拡大率を変えて図示する場合もあり、本発明の実施の形態例の説明に用いる図は、必ずしも実施例などの実物や記述と相似形でない場合もある。また、各図において、同様な構成成分については同一の符号を付けて示し、重複する説明を省略することもある。また、本発明の説明では、旋光度計測装置の説明で旋光度計測方法の説明を兼ねる場合があり、その逆のこともある。
【0025】
図1は本発明のEBCを濃縮して旋光度を測定する装置の構成を示すブロック図である。符号1は呼気を冷却する装置である。本例では、予め冷却した金属の筒をプラスティックパイプにかぶせたものを使用した。符号2はEBCである。符号3-1,3-2はそれぞれ一定量のEBCと超純水を濃縮容器4に送る装置である。符号5は容器の底にあるセル部(検体部)、6は光の伝搬部の断面図、7は窒素ガスを吹き付けるノズル、8は超純水である。実験では符号3-1,3-2の装置はピペットで代用した。
【0026】
はじめに、体積VのEBCを容器4に滴下し濃縮を行った。濃縮は窒素ガスを検体液面に吹き付けるノズル7で行った。ノズルは容器4の中央付近に1個あるいはレーザ光の伝搬方向(図1では奥行)に複数個配置されている。濃縮が進行すると、最終的には溶媒が完全に蒸発して、溶質が容器の内面や底に付着する。このように溶媒が蒸発した後に、体積がV(=VのN分の1)の超純水容器4にEBCを滴下し均一に混ぜ合わせた。このようにして濃縮度N倍の濃縮EBCを作製した。
【0027】
ここで滴下する超純水の量がVであるが、S・D(セルの体積)に等しい場合(図1では液面がちょうど検体部の上部の時)には、滴下する超純水の量がVより少しでも少なくなるとレーザ光の伝搬ができなくなる。容器壁面や底に付着した溶質を超純水と完全に混ぜ合わされるためには、超純水の量はS・Dの2~3倍が望ましい。すなわちR=2~3が望ましい。EBCの採取率をU(ml/分)としT分間採取するとすれば次式が成立する。
RS・D≦ T・U/N・・・・・・・・(2)
この式を変形すると容易に(1)式の右半分の不等式が得られる。
【0028】
図2は本発明の濃縮EBCの偏光特性の測定系のブロック図である。図2は特許文献1,2に原理と実施例が記載されている。光源部9(例えば、SLD,ASE)から出射した出射光は符号10-1の方向性結合器で分岐され、光ファイバ型偏光子11、直交偏光スイッチ12および方向性結合器10-2を介してループ用偏波面保存光ファイバ14に導かれる。分岐された直線偏光は時計方向伝搬光18-1および反時計方向伝搬光18-2となってループ用偏波面保存光ファイバ14を双方向に伝搬し、それぞれ直線偏光を円偏光に変換するデバイス13-1および13-2を透過しセル部5を時計回りと反時計回りに伝搬し、再び方向性結合器10-2で合波され、直交偏光スイッチ12、光ファイバ型偏光子11および方向性結合器10-1を介して受光器15で受光され、信号処理部16で旋光度が計算される。計算された旋光度信号19はコントローラ(例えば、パソコン)17に送られる。
【0029】
次に図2の測定器を用いた旋光度の求め方を説明する。まずEBCの濃縮が終了した時に、EBCの体積VのN分の1の超純水を加え、均一にN倍に濃縮された検体の旋光度を求める。この時の光ファイバジャイロの出力をφ1とする。次に、その状態で容器4に超純水を追加で加え、全体の体積がほぼVに等しくなるようして容器4の内部を均一に混ぜ合わせる。このような状態になったときの光ファイバジャイロの出力をφ2とする。φ1とφ2の差を濃縮度Nで割った値がセル長DのEBCの旋光度である。
【0030】
ここで図2の測定系で旋光度が測定できる原理に簡単に触れておく。一般に直線偏光が旋光する現象は、直線偏光を左右の円偏光に分解した場合に左右円偏光に位相差があるからである。図2のセル部に旋光性がある物質があると、符号13-1,13-2で直線偏光がそれぞれ左右円偏光に変換されるので、セル部で両回り光に位相差が発生する。符号13-1,13-2のデバイスは直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光に変換するので、センシングループ用偏波面保存光ファイバ14を伝搬しセルを通過した光は、時計方向伝搬光18-1および反時計方向伝搬光18-2と同じ直線偏光となって方向性結合器10-2に戻ってくる。特許文献2に記載がある図2の測定系ではセル部でのみ左右両回り光に位相差が発生しそれが旋光度に等しくなる。
【0031】
次に今回検討した濃縮方法について説明する。今回は濃度が100mg/dLと既知のグルコース溶液を用いて次の2つの方法を試みた。
方法1:試料100mg/dLのグルコース(2.0mL)を乾固させたのち、0.20mLの超純水に再溶解した。この場合の目標の濃縮度は10倍である。
方法2:メタノール、超純水の順に洗浄したカートリッジ(InertSepTM Slim-JC18)に試料100mg/dLのグルコース(2.0mL)を通液し、超純水、ヘキサンの順に洗浄したのち、95%メタノール(0.01mol/L酢酸)で吸着した成分を溶出した。
【0032】
その結果、方法2では濃縮がほとんど確認できなかったが、方法1ではおよそ10倍に濃縮されていることが確認できた。これは濃縮前後のグルコースの旋光度を請求項3(図2)の方法で測定することで検証できた。
【0033】
グルコースの分子量は180gであり、検体長が1cmの時の旋光度は約0.0053であるので、グルコース1(mol/L)当りの旋光度はおおよそ0.95度となる。従って、グルコース濃度がP(mol/L)のEBCの旋光度は0.95P度となる。ここで使用する光ファイバジャイロの旋光度の最小分解能をθとし、P(mol/L)の濃度のEBCをNに濃縮した検体の旋光度をQ%の精度で測定したい場合には、
θ≦ N・D(0.95P・Q/100)・・・・・・・・(3)
の関係が成立しなければならない。
【0034】
(3)式を変形すると請求項1の(1)式の左側の不等式(4)が得られる。
105θ/(P・Q)≦ N・D ・・・・・・(4)
【0035】
実験ではEBCを約10分間の自然呼吸で約1.5mL(1500μL)を採取し、これを濃縮前の体積Vとし容器4に入れた。このEBCを濃縮し完全に溶媒を蒸発させたのちに、体積15μL(V)の超純水を容器4に滴下して、100倍に濃縮した濃縮EBCを作った。(1)式の左側の不等式(4)にθ=0.0001(度)、P=0.01m(mol/L),Q=5(%)を代入すると、不等式(4)の左辺は210となる。今セル長をD=5cmとすると、濃縮度Nは36で(4)式は満たされる。すなわち、(4)式は使用する光ファイバの最小分解能、検体の旋光度のおおよそのオーダ、さらにそれを何%の精度で測定するかが判れば濃縮度Nとセル長Dの積の目安が得られることになる。
【0036】
次に(1)式の右半分の不等式(5)を検討する。
N・D ≦ T・U/RS ・・・・(5)
この式を以下のように変形する。ここでセル断面は正方形で1辺の長さをrとすると
r≦0.0189√T (cm)・・・・・(6)
が成立する。ここでEBCの採取率UはU=0.15mL/分、R=3を用いた。
この式はEBC採取時間とセルの断面の大きさの関係を表す。例えば採取時間が1分の場合にはセル断面の1辺が189μm以下であれば(1)式の右半分の不等式が成立することを意味する。
【0037】
以上をまとめると、EBCの濃縮度Nとセル長Dの積N・Dは目標とする検体の旋光度と使用する光ファイバジャイロの最小分解能より決まり、積N・Dが判れば、EBC採取時間と検体を透過するレーザビームの大きさ、すなわちセルにレーザ光を入射するレンズ系の設計仕様がわかる。
(実施の変形例)
【0038】
本発明の実施例として、初めに溶媒を完全に除去し、それに純水を加え、濃縮EBCの旋光度を測定したが、濃縮過程において、濃縮体積、具体的には濃縮EBCの液面をモニターし、それがVになった時点で濃縮を停止し、旋光度を測定し、そのあとで超純水を体積がVになるまで加え、旋光度を測定する方法もできる。
また本発明の実施例として、初めに溶媒を完全に除去し、それに純水を加えて溶質を溶かし均一な濃縮EBCを作製し、その濃縮容器内で旋光度を測定したが、濃縮された検体またはその一部を別の計測用セルに移し替えて旋光度を測定する方法もできる。
【0039】
以上、本発明を説明したが、本発明は、前記の例に狭く限定されるものではなく、本発明の前記の如き技術思想に則って多くのバリエーションを可能とするものである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上説明したように、本発明によって、これまで実現されていなかった呼気凝縮液(EBC)を利用した無侵襲の血糖値の推定が可能になる。その結果、糖尿病患者は1日に数回の採血の苦痛と煩わしさから解放される。また、本発明から導かれる血糖値測定器を予防保全的に活用することにより、現在世界的に増加している糖尿病患者数を減らすことができ、その治療に必要な費用を大幅に低減することができる。
【0041】
本発明により病院や一般家庭で採血することなく血糖値の推定ができるようになり、本発明の装置や方法を医療機器や健康機器として広く用いることができ、本発明は介護を含め健康機器分野、医療機器分野などの発展に大きく寄与することができるものである。
図1
図2