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特許7290338単子葉植物において組み換えタンパク質の高発現を可能にする5’UTRをコードするDNA分子
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  • 特許-単子葉植物において組み換えタンパク質の高発現を可能にする5’UTRをコードするDNA分子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】単子葉植物において組み換えタンパク質の高発現を可能にする5’UTRをコードするDNA分子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20230606BHJP
   C12N 15/82 20060101ALI20230606BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230606BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230606BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/82 Z
C12N5/10
C12P21/02 C
A01H1/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020513412
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2019015506
(87)【国際公開番号】W WO2019198724
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2018077249
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-185101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)~(iii)のいずれかに示すポリヌクレオチドからなることを特徴とする、5'UTRをコードするDNA分子:
(i)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(ii)配列番号1に示す塩基配列において、1又は数個の塩基が置換、欠失若しくは付加された塩基配列からなり、且つ配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと同等の5'UTR活性を示すポリヌクレオチド、
(iii)配列番号1に示す塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと同等の5'UTR活性を示すポリヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1に記載のDNA分子が、外来タンパク質をコードするポリヌクレオチドの5'末端側に連結されている、核酸構築物。
【請求項3】
請求項2の記載の核酸構築物を含む、ベクター。
【請求項4】
請求項3に記載のベクターを単子葉植物又は単子葉植物細胞に導入する、形質転換体の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載のベクターで、単子葉植物又は単子葉植物細胞が形質転換されてなる、形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養又は栽培する、組み換えタンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単子葉植物において組み換えタンパク質の高発現を可能にする5'UTRをコードするDNA分子に関する。また、本発明は、当該DNA分子がタンパク質をコードするポリヌクレオチドに連結してなる核酸構築物、当該核酸構築物を含む発現ベクター、当該発現ベクターを有する形質転換体、並びに当該形質転換体を利用した組み換えタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物に対する外来遺伝子の導入技術が確立され、また、その高発現システムも構築されており、植物を用いた組み換えタンパク質の製造が盛んに行われている。植物における遺伝子発現は、転写過程と翻訳過程に大別されるが、翻訳の開始反応がタンパク質の製造の律速になっていることが知られている(非特許文献1)。翻訳過程は、mRNAの5'末端に位置するCap構造に翻訳開始因子が結合し、リボソームの40Sサブユニットが5'非翻訳領域(5'UTR)にリクルートされることによって開始される。リボソームのmRNAへのリクルート効率が翻訳効率に大きく影響するため、その足場となる5'UTRはmRNAの翻訳効率を規定する非常に重要な要因になっている。
【0003】
植物は、単子葉植物と双子葉植物とに大別される。このうち、双子葉植物のタバコ及びシロイヌナズナから単離されたalchol dehydrogenase(ADH)遺伝子の5’UTR配列(NtADH 5’UTR、AtADH 5’UTR)を組み込んだ発現ベクターが、非常に高い翻訳能力を示し、シロイヌナズナ及びタバコのプロトプラストを用いた一過性発現実験において、市販されているpBI221ベクターと比べ87~150倍も翻訳段階で発現量が向上したことが報告されている(非特許文献2)。また、複数のゲノムワイド解析から見出された、様々な状況下でも高い翻訳能力を持つAt1g20440(AtCOR47)の5’UTR配列が、シロイヌナズナとタバコの植物体において、その能力を示すとともに、植物体の成長、発達や熱ストレスによる翻訳の抑制を回避し、恒常的で活発な翻訳に寄与することが報告されている(非特許文献3)。このように、シロイヌナズナやタバコといった双子葉植物では、高い翻訳能力を持つ5’UTR配列が取得されている。
【0004】
一方、単子葉植物においては、双子葉植物とは異なり、上述のように取得された高い翻訳能力を持つ5’UTR配列であってもその翻訳能力が発揮されなくなることが報告されている。具体的には、双子葉植物から単離されたAtADH 5’UTRが双子葉植物で発現量向上効果を発揮しても、イネの培養細胞における発現量向上効果はわずか2倍程度であり、また、イネから単離されたADHの5’UTR配列(OsADH 5’UTR)を用いた場合でも、イネの培養細胞における発現量向上効果はせいぜい9倍であったことが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Gebauer, F. and Hentze, M.W. (2004). Molecular mechanisms of translational control,Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 5: 827-835
【文献】Sugio, T., Satoh, J., Matsuura, H., Shinmyo, A., Kato, K. (2008). The 5'-untranslated region of the Oryza sativa alcohol dehydrogenase gene functions as a translational enhancer in monocotyledonous plant cells. J. Biosci. Bioeng. 105: 300-302.
【文献】Yamasaki, S., Sanada, Y., Imase, R., Matsuura, H., Ueno, D., Demura, T., Kato, K.(2018). Arabidopsis thaliana cold-regulated 47 gene 5′-untranslated region enables stable high-level expression of transgenes. J. Biosci. Bioeng. 125: 124-130.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イネ、コムギ、トウモロコシに代表されるイネ科の単子葉植物は、人類の主食、養鶏及び畜産の飼料、並びにバイオエタノールの原料等、その用途は多岐に渡っており、最も多く生産されている植物種といえる。したがって、単子葉植物での導入遺伝子高発現に資する高い翻訳能力を持つ5’UTR配列を取得することは、非常に重要な意義があると考えられる。
【0007】
本発明者は、これまで単子葉植物では高い翻訳効率を有する5’UTR配列を取得できなかったことの要因として、それらの解析に用いられたデータセットのデータ数及び精度に着眼した。従来の5’UTR探索の方法論は、イネ内在mRNAの翻訳状態をポリソーム/マイクロアレイ解析により網羅的に評価し、翻訳状態の良いmRNAの5’UTRを単離するというものである。ここで、翻訳状態の評価ではマイクロアレイを用いて遺伝子単位で解析しており、また、5’UTR配列の同定ではデータベースに登録されている完全長cDNAライブラリーの配列を利用している。
【0008】
しかしながら、そもそも1遺伝子に由来するmRNAには、異なる転写開始点(TSS)からそれぞれ開始する複数の5’UTRバリアントが存在している。そうすると、従来の5’UTR探索の方法論で、翻訳状態が良いものと評価されたmRNAの5’UTRは、バリアントの集合体として評価されたものである。このため、従来では、翻訳状態が良いものと評価されたmRNAの5’UTR(バリアントの集合体)を、データベースに登録されている情報に基づいて単離していたにすぎない。つまり、従来ではTSSごとのバリアントを考慮した5’UTRの翻訳状態が評価されていなかったため、データ数及び精度に問題があり、単子葉植物で高翻訳能を有する5’UTRが見出されてこなかった。
【0009】
そこで本発明の目的は、単子葉植物において5’UTRバリアントを考慮した真に高翻訳能を有する5'UTRを特定し、当該5'UTRコードするDNA分子及び単子葉植物において効率的に組み換えタンパク質を製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ポリソーム解析とCap Analysis of Gene Expression(CAGE)解析とを組み合わせ、単子葉植物細胞であるイネ培養細胞について、通常条件及び熱処理条件で細胞内の全mRNA種の翻訳状態を解析し、両条件で翻訳状態が良く活発に翻訳されているmRNAのランキング化を行い、ランキング上位のmRNAの5’UTRについてそれぞれレポーター遺伝子に連結した発現ベクターを構築してそれらのイネにおける翻訳能力を調べた。その結果、単子葉植物であっても異種タンパク質の高発現を可能にする5’UTRの取得に至った。その翻訳能力は、これまで単子葉植物で発現量向上効果が報告されているOsADH 5’UTRの翻訳能力を凌駕していた。さらに、取得した5’UTRは、レポーター遺伝子を変更した場合も、他の単子葉植物であるライムギに適用した場合も、高い翻訳能力を発揮した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 以下の(i)~(iii)のいずれかに示すポリヌクレオチドからなることを特徴とする、5'UTRをコードするDNA分子:
(i)配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(ii)配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列において、1又は数個の塩基が置換、欠失若しくは付加された塩基配列からなり、且つ配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと同等の5'UTR活性を示すポリヌクレオチド、
(iii)配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと同等の5'UTR活性を示すポリヌクレオチド。
項2. 項1に記載のDNA分子が、外来タンパク質をコードするポリヌクレオチドの5'末端側に連結されている、核酸構築物。
項3. 項2の記載の核酸構築物を含む、ベクター。
項4. 項3に記載のベクターを単子葉植物又は単子葉植物細胞に導入する、形質転換体の製造方法。
項5. 項3に記載のベクターで、単子葉植物又は単子葉植物細胞が形質転換されてなる、形質転換体。
項6. 項5に記載の形質転換体を培養又は栽培する、組み換えタンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、単子葉植物を利用した組み換えタンパク質の製造において、5'UTRによる翻訳効率が向上しており、効率的に組み換えタンパク質を製造することが可能になる。また、本発明によれば、レポーター遺伝子を変更しても、単子葉植物種を変更しても、同様の翻訳効率向上効果が発揮されるため、汎用性高く組み換えタンパク質を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】CAGE解析の概念図を示す。
図2】ポリソーム/CAGE解析の概念図を示す。
図3】候補5’UTRを含んで構築された発現ベクターの概略を示す。
図4】候補5’UTRを連結したベクターを用いた一過性発現実験の結果を示す。
図5】翻訳能力の高い5’UTRについての再現実験の結果を示す。
図6】イネで高い翻訳能力が確認された5’UTRのシロイヌナズナにおける翻訳能力を検証した結果を示す。
図7】5’UTR性能評価用ベクターの概略を示す。
図8】レポーター遺伝子を変更した際の5’UTRの性能評価を示す。
図9】ライムギのプロトプラストを用いた一過性発現実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。なお、本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸などの略号による表示は、IUPAC、IUBの規定、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書などの作成のためのガイドライン」(特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。特に、DNAはデオキシリボ核酸を表し、RNAはリボ核酸を表し、mRNAはメッセンジャーRNAを表す。
【0015】
また、遺伝子操作等の分子生物学的操作については、適宜公知の方法を用いることができる。例えば、特に断りのない限り、Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3rd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press)等に記載の方法に従って行うことができる。
【0016】
(1)5'UTRをコードするDNA分子
本発明のDNA分子は、5'UTRをコードするDNA分子であって、以下の(i)~(iii)のいずれかに示すポリヌクレオチドからなることを特徴とする。
(i)配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(ii)配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列において、1又は数個の塩基が置換、欠失若しくは付加された塩基配列からなり、且つ配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと同等の5'UTR活性を示すポリヌクレオチド、
(iii)配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと同等の5'UTR活性を示すポリヌクレオチド。
【0017】
前記(i)のポリヌクレオチドの内、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドは、イネのOs04t0583600-01遺伝子において5'UTRをコードするDNA分子である。前記(i)のポリヌクレオチドの内、配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドは、イネのOs08t0136800-01遺伝子において5'UTRをコードするDNA分子である。前記(i)のポリヌクレオチドの内、配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドは、イネのOs02t0684500-00遺伝子において5'UTRをコードするDNA分子である。前記(i)のポリヌクレオチドの内、配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドは、イネのOs06t0342200-01遺伝子において5'UTRをコードするDNA分子である。
【0018】
前記(ii)のポリヌクレオチドにおいて、置換、欠失若しくは付加される塩基の数については、1又は数個であればよいが、具体的には1~15個、好ましくは1~10個、更に好ましくは1~8個、特に好ましくは1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1又は2個、或いは1個が挙げられる。
【0019】
前記(iii)のポリヌクレオチドにおいて、「ストリンジェントな条件」とは、配列類似性が高い一対のポリヌクレオチドが特異的にハイブリダイズできる条件を意味する。配列類似性が高い一対のポリヌクレオチドとは、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の同一性を有するポリヌクレオチドを意味する。一対のポリヌクレオチド間の同一性は、Blastの相同性検索ソフトウェアをデフォルトの設定で利用して算出することができる

【0020】
また、前記(ii)及び(iii)のポリヌクレオチドにおいて、「配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと同等の5'UTR活性を示す」とは、(ii)のポリヌクレオチドを5'UTRとして使用して単子葉植物(単子葉植物細胞を含む)による組み換えタンパク質の製造を行った場合に、配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドを5'UTRとして使用した場合に比べて、組み換えタンパク質の発現量が同等であることを意味する。具体的には、配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドを5'UTRとして使用して組み換えタンパク質の製造を行った際の組み換えタンパク質の発現量を100%とすると、前記(ii)及び(iii)のポリヌクレオチドを5'UTRとして使用して組み換えタンパク質の製造を行った場合に、組み換えタンパク質の発現量が、80%以上、好ましくは85~120%、更に好ましくは90~120%、特に好ましくは95~120%であることを指す。
【0021】
前記(i)のポリヌクレオチドは、イネから公知の手法に従って取得することができるが、化学合成によって得ることもできる。また、前記(ii)及び(iii)のポリヌクレオチドは、前記(i)のポリヌクレオチドを公知の遺伝子工学的手法を用いて改変することによって得ることができ、また化学合成によって得ることもできる。
【0022】
前記(i)~(iii)のポリヌクレオチドは、単子葉植物における組み換えタンパク質の製造において、5'UTRとして、組み換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドの5'末端側に連結して使用される。
【0023】
(2)前記DNA分子を含む核酸構築物
本発明の核酸構築物は、前記(i)~(iii)のポリヌクレオチドが、外来タンパク質をコードするポリヌクレオチドに連結してなることを特徴とする。
【0024】
本発明の核酸構築物において、前記(i)~(iii)のポリヌクレオチドは、5'UTRとして機能するため、外来タンパク質をコードするポリヌクレオチドの5'末端側に連結されていればよい。
【0025】
本発明の核酸構築物において、コードされている外来タンパク質の種類については、特に制限されず、組み換えタンパク質として製造が求められるものであればよいが、例えば、薬理活性を有するタンパク質が挙げられる。具体的には、酵素、転写因子、サイトカイン、膜結合タンパク質、各種ペプチドホルモン(例えば、インスリン、成長ホルモン、ソマトスタチン)、ワクチンや抗体などの医療用タンパク質等が挙げられる。また、本発明の核酸構築では、必要に応じて、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドに、GFPやルシフェラーゼ等のレポータータンパク質、HisタグやFLAG(登録商標)タグ等のタグペプチド等をコードするポリヌクレオチドが連結されていてもよい。
【0026】
本発明の核酸構築物において、外来タンパク質をコードしているポリヌクレオチドは公知のものを用いることができる。このようなポリヌクレオチドの塩基配列は、例えばNCBI(National Center for Biotechnology Information)が運営する配列データベースGenBank等のデータベースから入手することができる。当該塩基配列情報を基に、例えばPCR等の常法により各種生物から、タンパク質をコードしているポリヌクレオチドを単離できる。また、各販社から例えばcDNAライブラリー等の形態で当該ポリヌクレオチドが販売されており、これを購入して用いることもできる。
【0027】
本発明の核酸構築物において、コードされている外来タンパク質の由来については、特に制限されず、導入される宿主と同種又は異種の外来タンパク質であればよい。また、本発明の核酸構築物において、導入される宿主のコドン使用頻度が公知であれば、外来タンパク質をコードしているポリヌクレオチドの塩基配列を当該宿主に好適なコドン使用頻度に適合するよう変更してもよい。
【0028】
(3)前記核酸構築物を含むベクター
本発明のベクター(発現ベクター)は、前記核酸構築物を、ベクター内で発現可能に連結することによって得ることができる。より具体的には、本発明のベクターは、プロモーター配列を備えたベクターに、前記核酸構築物をプロモーターの転写開始点直後に連結することにより得ることができる。
【0029】
前記核酸構築物を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクター(例えばYAC、BAC、PAC)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、プラスミドベクター、ウイルスベクターが挙げられる。とりわけ、単子葉植物(単子葉植物細胞含む)において組み換えタンパク質をより一層効率的に発現させるという観点から、より好ましくはアグロバクテリウム由来のプラスミド、特に好ましくはアグロバクテリウム由来でT-DNAを有するプラスミド(Ti-プラスミド)が挙げられる。
【0030】
本発明において、ベクターはプロモーター配列を有するものを用いる。プロモーター配列は、宿主の種類に応じて、適宜適切なものを選択して用いればよいが、例えば、カリフラワーモザイクウイルス由来のプロモーターであるCaMV35Sプロモーター等が挙げられる。
【0031】
また、前記核酸構築物を挿入するためのベクターには、薬剤耐性遺伝子等の選抜マーカーとして利用できる遺伝子が含まれていてもよい。
【0032】
前記核酸構築物を挿入するためのベクターは、公知のもの、各販社から市販されているもの等を用いることができる。
【0033】
前記核酸構築物をベクターに組み込んで連結するには、公知の遺伝子工学的手法に従って行うことができる。例えば、前記核酸構築物を、制限酵素サイトを付加したプライマーを用いてPCR法により増幅させ、これを制限酵素で処理し、制限酵素処理済みベクターへと連結させて導入することができる。
【0034】
なお、本発明のベクターは、プロモーターの転写開始点直後に前記核酸構築物を連結させたものであるが、例えば上記制限酵素を利用したクローニング手法では、プロモーター配列と前記核酸構築物との連結部に制限酵素サイトが存在することになる。このような場合は、例えば当該制限酵素サイトを除くようインバースPCRを行い、得られる増幅産物をセルフライゲーションさせることにより、連結部に存在する制限酵素サイトを除いたベクターを作製してもよい。なお、この場合、当該インバースPCRに用いるプライマーセットは、PCR増幅産物がセルフライゲーションできるように設計することが好ましい。また、セルフライゲーションには例えばリガーゼを用いればよい。
【0035】
なお、前記核酸構築物をプロモーター配列の「転写開始点直後に連結する」とは、宿主内で、前記核酸構築物においてタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを転写させた際に、生成するmRNAの5'端(即ち5'UTR末端)に、0、1、2、又は3塩基(好ましくは0、1、又は2塩基)のプロモーター配列から転写された塩基が結合した転写産物が得られるように、前記核酸構築物とプロモーター配列を連結させることをいう。即ち、プロモーター配列と前記核酸構築物の間に余分な塩基配列が存在しないように連結させる、ともいえる。このようにプロモーター配列と前記核酸構築物とが直接連結していても、遺伝子発現の際にはプロモーター配列の塩基が少数(例えば1、2、又は3塩基)転写される場合があり、このような転写が起こるベクターも本発明のベクターに含まれる。
【0036】
(4)前記ベクターを含む形質転換体
本発明の形質転換体は、本発明のベクターを単子葉植物又は単子葉植物細胞に導入することによって得ることができる。
【0037】
宿主として使用される単子葉植物の種類については、特に制限されないが、例えば、イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシ、モロコシ、セイヨウヤマカモジ、サトウキビ、タマネギなどが挙げられ、好ましくはイネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシが挙げられ、さらに好ましくはイネ、オオムギが挙げられる。
【0038】
また、宿主として使用される単子葉植物細胞の種類についても、特に制限されないが、例えば、イネ由来細胞、オオムギ由来細胞、コムギ由来細胞、トウモロコシ由来細胞、モロコシ由来細胞、セイヨウヤマカモジ由来細胞、サトウキビ由来細胞、タマネギ由来細胞などが挙げられ、好ましくはイネ由来細胞、オオムギ由来細胞、コムギ由来細胞、トウモロコシ由来細胞が挙げられ、さらに好ましくはイネ由来細胞、オオムギ由来細胞が挙げられる。また、単子葉植物細胞由来のプロトプラストも、単子葉植物細胞に含まれる。また、形質転換された単子葉植物細胞を培養して得られる単子葉植物体も本発明の形質転換体に含まれる。
【0039】
なお、形質転換の結果腫瘍組織やシュート、毛状根などが得られる場合は、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能である。また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン、例えば、オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライド等の投与などにより植物体に再生させることができる。また、形質転換植物細胞を用いることにより、形質転換植物体を再生することもできる。再生方法としては、カルス状の形質転換細胞をホルモンの種類、濃度を変えた培地へ移して培養し、不定胚を形成させ、完全な植物体を得る方法が採用される。使用する培地としては、LS培地、MS培地等が挙げられる。
【0040】
また、前記ベクターを宿主に導入する方法は、特に制限されず、宿主及びベクターの種類に応じて適宜適切な公知の方法を選択して用いることができるが、例えば、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、Tiプラスミドを用いた方法(例えばバイナリーベクター法、リーフディスク法)等挙げられる。
【0041】
ベクターが宿主に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、ベクター特異的プライマーを設計してPCRを行う。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用してもよい。
【0042】
本発明の形質転換体は、前記ベクターで形質転換されているため、外来タンパク質をコードしているポリヌクレオチドから、そのmRNAの転写、当該外来タンパク質の翻訳が行われる。上述の通り、前記(i)~(iii)のポリヌクレオチドを5'UTRとして使用することにより、単子葉植物又は単子葉植物細胞において組み換えタンパク質の効率的な発現が可能になっているので、本発明の形質転換体を培養又は栽培することによって、組み換えタンパク質を効率的に製造することができる。本発明の形質転換体を培養又は栽培した後に、公知の手法で、組み換えタンパク質を回収、精製等することにより、組み換えタンパク質が得られる。
【実施例
【0043】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。先ず、実験に用いた材料について記述し、その次に具体的な実験内容及び結果を記載する。
【0044】
1.使用植物及び培養細胞
以下の検討には、次の植物体及び培養細胞を用いた。
【0045】
1-1.イネ培養細胞
イネ培養細胞(Oryza sativa cv. Nipponbare)を以下のポリソーム/CAGE解析に用いた。培養は、30℃、暗期、攪拌速度90rpm(EYELA, MULTI SHAKER, Tokyo)の条件で行い、95mLのR2S培地を300mL容の三角フラスコに入れて使用した。一週間ごとに定常期に達した細胞8mLを新しい培地95mLに移植して継代培養を行った。
【0046】
また、イネ培養細胞(Oryza sativa L. C5924)Oc細胞をプロトプラストの作製に用いた。培養は、30℃、暗期、攪拌速度90rpm(EYELA, MULTI SHAKER, Tokyo)の条件で行い、95mlのR2S培地を300mL容の三角フラスコに入れて使用した。一週間ごとに定常期に達した細胞10mLから古い培地成分を除去した後、新しい20mLのR2S培地を加えて100mL容フラスコで継代培養を行った。
【0047】
1-2.シロイヌナズナT-87培養細胞
シロイヌナズナ培養細胞(Arabidopsis thaliana T87)は理化学研究所ジーンバンク室植物開発銀行より分与していただいたものを使用した。培養は22℃で、18時間明期/6時間暗期、攪拌速度120rpm(SLK-3-FS, NK system, Osaka)の条件で行い、95mLの改変LS培地(Nagata, T., Nemoto, Y., Hasezawa, S. (1992). Tobacco BY-2 cell line as the HeLa cell in the cell biology of higher plants. Int. Rev. Cytol. 132, 1-30.)を300mL容の三角フラスコに入れ使用した。一週間ごとに定常期に達した細胞4mLを新しい培地95mLに移植し継代培養を行った。また、一過性発現実験を行う際は、一週間ごとに定常期に達した細胞8mlを新しい培地95mlに移植し継代培養を行った。
【0048】
2.ライムギ植物体
ライムギ (Secale cereal)の種子を、キムワイプを敷き詰めた9cmシャーレに播種後、人工気象器LH-241/411RF(PID)T-Sで(25℃、明期11時間、暗期13時間)生育させた。
【0049】
3.実験内容及び結果
3-1.mRNAの翻訳状態の評価法としてのポリソーム/CAGE解析
一般的にmRNAの翻訳状態は、mRNAに多数のリボソームが結合していれば翻訳が活発に行われており(ポリソーム)、リボソームが結合していなければ翻訳が行われていない(ノンポリソーム)というように、mRNAに結合するリボソームの数を指標として判断されている(Bailey-Serres, J., Sorenson, R., Juntawong, O. (2009). Getting the message across: cytoplasmic ribonucleoprotein complex. Trends Plant Sci. 14:443-453)。このような手法はポリソーム解析と呼ばれており、DNAマイクロアレイ解析と組み合わせることでmRNAの翻訳状態をゲノムスケールで評価することができる。
【0050】
結合したリボソームの数でmRNAを分画した後、Cap Analysis of Gene Expression(CAGE)解析を行った。CAGE解析は、転写開始点(TSS)の同定と、TSS毎の転写産物量の定量とが可能な方法である。CAGE解析の概念図を図1に示す。図1に示すように、細胞や組織から抽出した全RNAから、ランダムプライマーを用いて相補鎖cDNAを合成し、キャップ・トラッピング法によりcDNAの5’末端を選別する。RNA鎖を除去して得られる一本鎖cDNAの5’末端にアダプター(クローニングに必要な認識部位、目印になる短い特異的塩基配列およびエンドヌクレアーゼ認識部位を含む)を結合する。第2鎖cDNAを合成した後、制限酵素で5’末端から20塩基(Tag配列)を切り出す。切り出されたTag配列の3’側に二本のリンカー(別の制限酵素認識部位を含む)を結合する。cDNAタグを精製し、両端のリンカーにある認識部位を制限酵素で切断し、リンカーの間に挟まれたTag配列を切り出す。このようにして得られたTagのDNA配列を次世代シークエンサーで決定し、ゲノム上にマッピングする。これによって、様々なmRNAの転写開始点の特定つまり5’UTRの推定を行うことができる。さらにmRNA量の定量も行うことができる。なお、図1においては、転写開始点が異なる3種のバリアント(mRNA A、mRNA B、及びmRNA C)を例示しており、代表してmRNA Bの5’UTR領域を表示している。
【0051】
3-2.翻訳状態の指標としてのPR値
本発明では、ポリソーム/CAGE解析を行うことにより、それぞれの遺伝子の各TSSから転写されたmRNAでのポリソームの形成度合(PR値)を評価した。その概念図を図2に示す。図2に示すように、まず、ポリソーム解析でPolysomal RNA画分(つまりリボソームが2個以上結合しているPolysomeのmRNA)とTotal RNA(つまりNonpolysome及びPolysomeを含む全てのmRNA)とについてCAGE解析した。CAGE解析で得られたTotal RNA画分及びPolysomal RNA画分のデータのTag数が両画分で等しくなるように、Polysomal RNA画分のTag数を補正した。転写開始点(TSS)ごとのTag数(mRNA量)を比較して、Total RNA画分中に占める、Polysomal RNA画分のTag数の割合であるPolysome Ratio値(PR値)を算出した。図2の例では、PR値が高い順から[1]、[2]となる。
【0052】
PR(Polysome Ratio)値とは、それぞれのmRNAの全mRNA量に対してのポリソーム画分に存在する量の比を数値化した値であり、翻訳状態を表す指標の一つである。mRNAのPR値が高い程、活発に翻訳されているものと予想される。解析にはイネ培養細胞を用いた。イネ培養細胞は、実際の単子葉での物質生産として実用に向けた実績もあり、夾雑物が植物体より少なく正確な翻訳状態の評価が可能である。また、イネ培養細胞は、翻訳状態が環境ストレス等で大きく抑制されることが知られており、これは導入遺伝子も同様であると推測される。そこで、通常条件下の細胞に加え、非常に強い翻訳の抑制が起きることが知られている熱ストレス下の細胞も解析することによって、環境ストレスなどの幅広い状況下でも活発な翻訳を行う5’UTR配列の探索を目指した。
【0053】
3-3.ショ糖密度勾配遠心を利用したポリソーム解析
培養3日目の細胞(通常条件、30℃、90rpm)とウォーターバスで熱処理した細胞(熱条件、41℃、15min、90rpm)とをそれぞれ回収し、液体窒素で急冷した。急冷したサンプルは乳鉢を用いて破砕し、2ml容チューブに300mgずつ分注した。ショ糖密度勾配遠心を利用したポリソーム分画は、若干の改変を加えた以外は基本的にDaviesらの方法に従って行った(Davies E, Abe S. Chapter 15 Methods for Isolation and Analysis of Polyribosomes. Methods in Cell Biology, Volume 50, 1995, Pages 209-222)。サンプル破砕粉末におおよそ4倍量(w/v)の Extraction Buffer(200 mM Tris-HCl, pH8.5, 50 mM KCl, 25 mM MgCl2, 2 mM EGTA, 100 μg/ml heparin, 100 μg/ml cycloheximide, 2% polyoxyethylene 10-tridecyl ether, 1% sodium deoxycholate)を加え、緩やかに懸濁させた。遠心(14,000×g, 15 min, 4℃)により細胞残さを除き、さらに遠心(14,000×g, 10 min, 4℃)し、その上清をRNA粗抽出液とした。この粗抽出液をExtraction Buffer によりRNA濃度333ng/μlに調整し、予め作製した26.25~71.25%ショ糖密度勾配液(ショ糖, 200 mM Tris-HCl, 200 mM KCl, 200 mM MgCl2)4.85mL上に300μL重層し、超遠心を行った(SW55Ti rotor, 55,000 rpm, 50 min, 4℃, brake-off)(Optima, Beckman Coulter, California, USA)。ピストン・グラジェント・フラクショネーター(BioComp, Churchill Row, Canada)によってショ糖密度勾配の上部より約1mL/minの速さで吸引すると同時に、BIO-MINI UV MONITOR AC-5200 (ATTO, Tokyo, Japan)を用いて254nmの吸光度を記録した。
【0054】
3-4.CAGE解析用RNAの抽出
超遠心後のショ糖密度勾配溶液からポリソームを形成したmRNAが存在する画分約2mLと全画分約4mLとを終濃度5.5Mになるように8Mグアニジン塩酸塩を予め加えておいた遠心管にそれぞれ回収した。各遠心管へ混合液と等量の100%エタノールを加え、-20℃にて一晩冷却した後、遠心操作(40,000× rpm, 45 min, 4℃)を行った。得られたペレットを85%エタノールにて一度洗浄し(40,000× rpm, 30 min, 4℃)た後、RNeasy kit(Qiagen, Hilden, Germany)に含まれるbuffer RLT 1mLにてペレットを溶解し、以降は付属のプロトコールに従いRNeasy kitを用いてRNA精製を行い、Polysomal RNA画分とTotal RNA画分とを得た。
【0055】
3-5.CAGEライブラリーの作製および次世代シークエンサーによる解析
抽出したRNAをCap Analysis of Gene Expression(CAGE)ライブラリーの作製に供した。CAGEライブラリーの作製手法は、MurataらのnAnT-iCAGEライブラリーの作製手法に従った(Murata, M., Nishiyori-Sueki, H., Kojima-Ishiyama, M., Carninci, P., Hayashizaki, Y., Itoh, M.(2014). Detecting expressed genes using CAGE. Methods Mol. Biol. 1164: 67-85.)。概要は次の通りである。N15ランダムプライマーを用いて相補鎖cDNAを合成し、キャップ・トラッピング法によりcDNAの5’末端を選別した。ついで、RNase Iを用いてRNA鎖を除去して得られた一本鎖cDNAの5’末端と3’末端側とにリンカーを結合させ、CAGEライブラリーとした。Illumina(R)HiSeq 2500を用い、5’末端に結合させたリンカー内に存在するシークエンスプライマー認識部位を用いたシングルリードにて、付属のプロトコールに従ってシーケンスを行った。また、解析は各RNA試料について細胞の回収時点から独立した2反復のサンプル(つまり、計8サンプル)を用いて行った。
【0056】
3-6.データ処理とマッピング
シークエンスによって得られたrawデータのそれぞれのTagからCAGEリンカー配列を除去した。その後、正確に読み取れていないことを示すNが配列中に存在するTag、混入したrRNA由来のTag、及び5’末端にCap由来のGが存在していないTagを除去し、Capを有するmRNAの5’末端由来と考えられるTagを抽出した。その後、Os-Nipponbare-Reference-IRGSP-1.0(http://rapdb.dna.affrc.go.jp/)の情報を基にマッピングを行った。この際に、複数個所にマッピングされたマッピングクオリティが低いTag、及び5’末端にミスマッチが存在し末端位置がずれている可能性があるTagは除去した。Tagがマッピングされたゲノム上の位置を取得し、それぞれの位置におけるTag数をカウントした。なお、独立して行った2つのサンプル間で、共にTagが存在し、再現性が確認できているゲノム上の位置についてのみTag数をカウントし、Tag per million(TPM)値に変換した。その後、Os-Nipponbare-Reference-IRGSP-1.0に登録されているいずれかの遺伝子の5’末端の上流500ntからCDS(Coding DNA Sequence)のAUGまでの間に存在し、ストランド方向が一致しているTagを、その遺伝子の転写開始点(TSS: Transcription Start Site)を示すものとしてアノテーションした。遺伝子が存在しない領域またはCDS領域にマッピングされ、遺伝子のアノテーションができなかったTagは除去した。最終的に得られたTagの位置におけるTPM値をそのTSS由来のmRNA量を示すTPM_TSS値とした。続いて、Polysomal RNA画分のTPM_TSS値をTotal RNA画分の値で割ることによって、各TSSから転写されたmRNAがポリソームを形成している比率をPR_TSS値として算出した。
【0057】
3-7.翻訳状態のランキングの作成
イネでのポリソーム/CAGE解析によって、非常に大規模な各TSSレベルの翻訳状態(PR_TSS値)とTSSから推測される5’UTRの配列情報を取得した。これらのデータセットを用いて、ランキングを作成し、翻訳状態の良いmRNAの5’UTRを候補として選抜した。ランキングには、様々な条件下でも活発な翻訳が行われている5’UTRの候補を取得するために通常条件と熱条件とでのPR_TSS値をZ-Score化してから平均した値(Mean of Normarized PR値)を使用した。Z-Score化は補正法の一つであり、今回のように分布が大きく異なるデータセット間での重要性の偏りを減らして平均する場合には有用な手法である。また、ランキングを作成する際には、uAUG及びイントロンを有する5’UTR配列は翻訳エンハンサーとして用いた場合に、対象となる遺伝子を正しく翻訳できない可能性があるために除外した。また、ポリソーム解析は手法上、CDS長が長いほど翻訳途中のリボソームが存在する確率が上がるため、PR値が高くなる傾向がある。そのため、長いCDSを有する場合は、高いPR_TSS値が5’UTRに起因するのかCDSの長さに起因するのかが区別できない。よってCDS長が中央値(864nt)以上の場合は除去した。
【0058】
最終的に両条件で共通する2907個の遺伝子由来の10,099個のTSSに由来するmRNAのランキングを作成し、その中で上位15個の5’UTRを候補として選抜した(表1)。表1においては、Os-Nipponbare-Reference-IRGSP-1.0における名称(Gene Name)、5’UTR長(5'UTR length)、通常条件による細胞のPR_TSS値(PR_Con)、熱条件による細胞のPR_TSS値(PR_Heat)、通常条件及び熱条件による細胞のPR_TSS値のZ-Score後平均値(Mean of Normarized PR)、通常条件による細胞のPR_TSS値ランキング(PR_Rank_Con)、及び熱条件による細胞のPR_TSS値ランキング(PR_Rank_Heat)を示す。さらに、表2に各5’UTRの配列情報を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
3-8.DNA一過性発現実験による候補5’UTRの翻訳能力の評価
一過性発現実験に用いる基本ベクターとして、CaMV35Sプロモーター支配下にOryza sativa Indica Group(long-grained rice)のOsADH 5’UTR、Firefly luciferase遺伝子(F-luc)、ターミネーター(Heat Shock Protein18.2遺伝子由来)で構成される発現ベクター(pBluescript)を使用した。このベクター内に存在する制限酵素サイトAatII及びClaIを制限酵素処理し、ベクターDNAを線状化した。次に、候補5’UTRを遺伝子特異的に増幅させるために、Os-Nipponbare-Reference-IRGSP-1.0(http://rapdb.dna.affrc.go.jp/)の情報を基にプライマーを設計した。設計したプライマーには、基本ベクター内の制限酵素サイトであるAatII及びClaIを付加した。イネゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、目的断片を増幅した。候補5’UTRの15種類のDNA断片と線状化した基本ベクターをIn-Fusionクローニング(TaKaRa)のプロトコールに従って連結した(図3)。導入効率を補正するためのR-luc遺伝子については、35Sプロモーター、R-luc遺伝子、HSPターミネーターよりなる発現カセットを持つpBluescriptII KS+を用いた。
【0062】
DNA(F-lucが1μg、R-lucが0.4μg、全量10μl前後)を、イネ培養細胞(Oc細胞)から調製したプロトプラストにポリエチレングリコール(PEG)法(Kovtun, Y., Chiu, W. L., Tena, G., Sheen, J. (2000). Functional analysis of oxidative stress-activated mitogen-activated protein kinase cascade in plants. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 6: 2940-2945.)により共導入し、30℃で16時間静置した後、遠心操作を行い、上清を除いた。その後、液体窒素で凍結して-80℃にて保存した。その後、passive lysis buffer (Promega Wisconsin, USA)を用い細胞を溶解させ、Dual-luciferase reporter assay system (Promega)とプレートリーダー(TriStar LB 941, BERTHOLD TECHNOLOGIES)とによって溶解液中のF-luc活性値及びR-luc活性値を測定し、相対活性値(F-luc活性値/R-luc活性値)を算出した。
【0063】
また、比較対象として、高い翻訳能力を持つとして報告されているOsADH 5’UTR(Sugio, T., Satoh, J., Matsuura, H., Shinmyo, A., Kato, K. (2008). The 5'-untranslated region of the Oryza sativa alcohol dehydrogenase gene functions as a translational enhancer in monocotyledonous plant cells. J. Biosci. Bioeng. 105: 300-302.)についても同様に評価し、それぞれの候補5’UTRの相対活性値(Relative F/R activity)を、OsADH 5’UTRの相対活性値を1とした場合の相対値(候補5’UTR相対活性値/OsADH 5’UTRの相対活性値)として算出した。
【0064】
それぞれの候補についての相対活性値(Relative F/R activity)を、OsADH 5’UTRとともに図4に示す。なお、図4では、プロトプラストへのベクターの導入から独立に3回行った実験それぞれにおいて測定されたF-luc活性値及びR-luc活性値に基づく相対活性値の平均値と標準誤差とを示した。さらに、OsADH 5’UTRを連結したF-luc発現ベクターとの差をWelch’s t-testによって評価した。図中、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。図4に示すように、翻訳能力が高いとして選抜された候補15種の5’UTRには、比較対象のOsADH 5’UTRの翻訳能力より低い翻訳能力を示す5’UTRとより高い翻訳能力を示す5’UTRとが混在していたことが確認された。特に、同一遺伝子由来の異なる5’UTRバリアントであるRank12とRank15との間では、2倍以上の翻訳能力の違いを示した。
【0065】
15種の候補のうち、比較対象のOsADH 5’UTRの翻訳能力を顕著に超えるRank8、Rank12、Rank13、及びRank14を選抜し、再度一過性発現実験を行い、その再現性を確認した。その結果を同様に図5に示す。なお、図5でも、プロトプラストへのベクターの導入から独立に3回行った実験それぞれにおいて測定されたF-luc活性値及びR-luc活性値に基づく相対活性値の平均値と標準誤差とを示した。さらに、OsADH 5’UTRを連結したF-luc発現ベクターとの差をWelch’s t-testによって評価した。図中、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【0066】
3-9.シロイヌナズナ培養細胞(Arabidopsis thaliana T87)由来のプロトプラストを用いた一過性発現実験よる候補5’UTR配列の性能評価
OsADH 5’UTRの翻訳能力を超える相対活性値を示したRank8、Rank12、Rank13及びRank14の5’UTRを組み込んだ発現ベクターを、双子葉植物であるシロイヌナズナのプロトプラストに導入し、一過的にレポーターであるF-lucを発現させることで相対活性値(F-luc活性値/R-luc活性値)を測定した。また、比較対象として、双子葉植物で翻訳能力の高いAtCOR47 5’UTR又はAtADH 5’UTRを連結させたベクターを使用し、同様にR-luc活性値及びF-luc活性値から相対活性値(F-luc活性値/R-luc活性値)を算出した。算出されたそれぞれの相対活性値(Relative F/R activity)を、OsADH 5’UTRの相対活性値を1とした場合の相対値(候補5’UTR相対活性値/OsADH 5’UTRの相対活性値)として算出した。
【0067】
Rank8、Rank12、Rank13、及びRank14並びに比較対象についての相対活性値(Relative F/R activity)を、OsADH 5’UTRとともに図6に示す。なお、図6では、プロトプラストへのベクターの導入から独立に3回行った実験それぞれにおいて測定されたF-luc活性値及びR-luc活性値に基づく相対活性値の平均値と標準誤差とを示した。さらに、OsADH 5’UTRを連結したF-luc発現ベクターとの差をWelch’s t-testによって評価した。図中、*はp<0.05を示し**はp<0.01を示す。
【0068】
図6に示すように、Rank8、Rank12、Rank13、及びRank14の5’UTRは、AtADH 5’UTR及びAtCOR47 5’UTRと比較するとF-luc発現量は顕著に低いものであった。このことから、単子葉植物で翻訳能力の高い5’UTR配列は双子葉植物では高い翻訳能力を発揮できないことが示された。つまり、OsADH 5’UTRの翻訳能力を上回る、Rank8、Rank12、Rank13、及びRank14の5’UTRの優れた翻訳能力向上効果は、単子葉植物特異的に発揮されることが示された。
【0069】
3-10.レポーター遺伝子を変更した際の5’UTRの性能評価
実際に導入遺伝子発現を行う際には、目的遺伝子が多様であることを考慮し、遺伝子領域の置換による5’UTRの高い翻訳能力への影響の有無を検証した。まず、レポーター遺伝子をF-lucからR-lucに置換したベクターを構築した。このベクターに、OsADH、Rank12、及びRank13の各5’UTRを連結した(図7)。OsADH 5’UTRは比較対象として用いた。これらのR-luc発現ベクターをイネ培養細胞(Oc細胞)のプロトプラストに導入し、一過的にレポーターであるR-lucを発現させた。また、プロトプラストへの導入効率の補正のため、OsADH 5’UTRを挿入したF-luc発現ベクターも共導入し、F-luc活性値に対するR-luc活性値(R-luc活性値/F-luc活性値)を算出した。算出されたそれぞれの相対活性値(Relative R/F activity)を、OsADH 5’UTRの相対活性値を1とした場合の相対値(候補5’UTR相対活性値/OsADH 5’UTRの相対活性値)として算出した。
【0070】
Rank12及びRank13についての相対活性値(Relative R/F activity)を、OsADH 5’UTRとともに図8に示す。なお、図8では、プロトプラストへのベクターの導入から独立に3回行った実験それぞれにおいて測定されたR-luc活性値及びF-luc活性値に基づく相対活性値の平均値と標準誤差とを示した。さらに、OsADH 5’UTRを連結したR-luc発現ベクターとの差をWelch’s t-testによって評価した。図中、*はp<0.05を示し**はp<0.01を示す。
【0071】
図8に示すように、レポーター遺伝子としてR-lucを用いた場合においても(つまり、遺伝子領域を置換した場合においても)、OsADH 5’UTRに比べ、Rank12及びRank13の5’UTRはいずれも高い翻訳能力を発揮した。
【0072】
3-11.ライムギプロトプラストを用いた一過性発現実験での5’UTRの性能評価
実際の有用物質生産はイネ以外の宿主で行われることを考慮し、同じ単子葉植物イネ科のライムギ由来のプロトプラストを用いた一過性発現実験を行うことで、翻訳能力の高い5’UTRが植物種を超えて汎用できることの検証を行った。OsADHの5’UTRの翻訳能力を超える相対活性値を示すRank8、Rank12、Rank13、及びRank14をライムギプロトプラストに導入し、一過的にレポーター遺伝子であるF-lucを発現させた。また、プロトプラストへの導入効率の補正のため、OsADH 5’UTRを挿入したR-luc発現ベクターも共導入し、R-luc活性値に対するF-luc活性値(F-luc活性値/R-luc活性値)を算出した。算出されたそれぞれの相対活性値(Relative F/R activity)を、OsADH 5’UTRの相対活性値を1とした場合の相対値(候補5’UTR相対活性値/OsADH 5’UTRの相対活性値)として算出した。
【0073】
Rank8、Rank12、Rank13、及びRank14についての相対活性値(Relative F/R activity)を、OsADH 5’UTRとともに図9に示す。なお、図9では、プロトプラストへのベクターの導入から独立に3回行った実験それぞれにおいて測定されたF-luc活性値及びR-luc活性値に基づく相対活性値の平均値と標準誤差とを示した。さらに、OsADH 5’UTRを連結したF-luc発現ベクターとの差をWelch’s t-testによって評価した。図中、*はp<0.05を示す。
【0074】
図9に示すように、Rank8、Rank12、Rank13、及びRank14は、ライムギでもOsADHを超える活性値を有していた。つまり、Rank8、Rank12、Rank13、及びRank14は、ライムギにおいても高い翻訳能力を発揮うする5’UTR配列であることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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