(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】マーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージングの方法および装置
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20230606BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
A61B10/00 E ZDM
G01N21/17 620
(21)【出願番号】P 2021571978
(86)(22)【出願日】2019-07-31
(86)【国際出願番号】 CN2019098679
(87)【国際公開番号】W WO2021003782
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】201910614449.X
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517312490
【氏名又は名称】ヂェァジァン ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.866,Yuhangtang Road,Xihu District,Hangzhou, Zhejiang China
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】リー ポン
(72)【発明者】
【氏名】イャォ リン
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0282088(US,A1)
【文献】国際公開第2019/053625(WO,A1)
【文献】特表2010-505127(JP,A)
【文献】特開2006-167046(JP,A)
【文献】特開2006-187305(JP,A)
【文献】特開2019-063047(JP,A)
【文献】3D Optical Imaging of Microvascular Net-Works and its Application on Cerebral Science,Basic Sciences, China Master's Theses Full-Text Database,2019年04月15日
【文献】WANG, C., et al.,Monitoring of drug and stimulation induced cerebral blood flow velocity changes in rat sensory cortex using spectral domain Doppler optical coherence tomography,Journal of biomedical optics,2011年04月,Vol.16, No.4, Article No.04661,pp.1-7,<DOI: 10.1117/1.3560286>
【文献】ATRY, F., et al.,Monitoring cerebral hemodynamics following optogenetic stimulation via optical coherence tomography,IEEE Trans Biomed Eng,2015年02月,VOl.62, No.2,pp.766-773,<DOI: 10.1109/TBME.2014.2364816>,<Epub 2014 Oct 31>
【文献】ATRY, F., et al.,Optogenetic interrogation of neurovascular coupling in the cerebral cortex of transgenic mice,Journal of neural engineering,2018年10月,Vol.15, No.5, Article No.056033,<DOI: 10.1088/1741-2552/aad840>,<Epub 2018 Aug 6>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/00-5/03
A61B 5/1455
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外レーザパルスにより神経活動を励起するステップと、
神経活動により誘発された光学散乱信号をOCTにより
神経活動の励起と同時に採取するステップと、
OCT散乱信号により脳機能信号を抽出するステップとを含
み、
OCT散乱信号により脳機能信号を抽出するステップは、OCT散乱信号により、非血管区域の神経応答信号を抽出するステップを含み、そのステップは、
OCT散乱信号で処理し、OCT血流造影図を得て、OCT血流造影図から採取位置の所在空間における血管の位置を除去するステップと、
OCT散乱信号をベースライン期(t0)の散乱信号と比較し、OCT散乱信号の相対的な変化を計算するステップと、
ベースライン期(t0)の散乱信号により、OCT散乱信号の連続した著しい変化の信号点をスクリーニングするステップと、
スクリーニングされた著しい変化の信号点をマスクとし、マスクでOCT散乱信号の相対的な変化を処理して、機能OCT(fOCT)信号を得るステップと、
すべての試験プロセスの機能OCT(fOCT)信号を平均化し、ノイズを小さくするステップと、
赤外レーザ刺激には1870nmの波長を採用し、OCTイメージングには1300nmの波長を採用して、OCT血流造影(OCTA)技術により、刺激プロセスにおける血管領域の血流信号の変化を抽出するステップとを含み、
OCT散乱信号の連続した著しい変化の信号点をスクリーニングするステップは、
OCT散乱信号において、位置(z, x)におけるすべての画素点の標準偏差を3σ(z,x)として、位置画素点(z,x,ti)から5フレーム連続したOCT強度信号の強度値が刺激前のOCT散乱信号ベース値IBaselineから3σ(z, x)を引いた値よりも小さい場合、この画素点を負の有効信号画素
【数3】
と定義し、
位置画素点(z,x,ti)から5フレーム連続した信号強度値が刺激前のOCT散乱信号ベース値IBaselineに3σ(z, x)を加えた値よりも大きい場合、この画素点を正の有効信号画素
【数4】
と定義し、これにより、正の有効信号画素および負の有効信号画素をスクリーニングすることを含む、マーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージングの方法。
【請求項2】
赤外レーザパルスにより神経活動を励起するステップにおいて、
1回の刺激プロセスが、レーザエネルギーがないベースライン期t0、レーザエネルギーがある刺激期t1、レーザエネルギーがない回復期t2の3期からなり、
刺激期t1は、1870nmの近赤外波長のパルスレーザを採用し、
レーザのパルスパラメータは、250μsのパルス幅、200Hzのパルス周波数、合計100個のパルスシーケンスを採用し、
上記レーザ刺激プロセス(t0+t1+t2)を複数回繰り返し試験することを特徴とする、請求項1に記載のマーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージングの方法。
【請求項3】
赤外レーザパルスにより神経活動を励起するステップは、チョッパ方式、または電流、電圧トリガ制御の方式を採用して、特定のレーザパルス幅および周波数を実現するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載のマーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージングの方法。
【請求項4】
生体組織の神経活動により誘発された光学散乱信号を光干渉断層撮影(OCT)により
神経活動の励起と同時に採取するステップは、外部トリガ制御、クロック信号等の方式を採用して、赤外レーザパルス刺激およびOCT記録の2つのプロセスの同時
実行を実現するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載のマーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージングの方法。
【請求項5】
神経活動により誘発された光学散乱信号をOCTにより
神経活動の励起と同時に採取するステップは、OCTにより、生体組織に対して、二次元または三次元空間の繰り返し走査イメージングを行うことを含み、同一空間位置繰り返し走査イメージングは、完全なレーザ刺激プロセス時間t0+t1+t2を含み、かつOCTイメージングは、走査により参照アームの光路長を変える時間域OCTイメージング方法、または分光器によりスペクトル干渉信号を記録するスペクトル域OCTイメージング方法、掃引光源によりスペクトル干渉信号を記録する掃引OCTイメージング方法のうちのいずれかを採用することを特徴とする、請求項1に記載のマーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージングの方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体医学イメージング分野に属し、光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography,OCT)およびニューロモデュレーション技術に関し、特に、低コヒーレンス干渉原理に基づくマーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージングの方法および装置に関し、基礎および応用神経科学研究において、近赤外パルス刺激の下で、生体皮質ニューロンの応答およびマッピングの状況の研究に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
大脳は、生物体の生命活動の核をなし、科学者の研究の焦点ともなっている。大脳は、外部からの刺激を受けたときに、機能信号の変化を生じ、こうした変化は、生体の機能と密接な関係がある。そのため、ニューロモデュレーションとイメージングを実現し、神経機能信号の変化を正確に分析できることは、ヒトの疾患病理研究に対して重大な意義を有する。
【0003】
ニューロモデュレーションおよび機能領域の追跡を目的とする多くの脳機能研究では、脳神経に刺激を与え、その機能の応答を研究する必要がある。なかでも、電気刺激は、神経刺激でよく用いられるツールであるが、電流の拡散作用による影響を受け、想定外の脳回路を活性化させ、副作用が生じやすい。また、刺激アーチファクトのため、電気生理刺激と信号記録を同時に行うことが難しい。これと比べ、光学刺激技術の発展には明らかな長所がある。中でも、光遺伝学は、特異的細胞刺激技術であり、麻酔下および覚醒状態の行為の動物における電気記録と互換性がある。しかしながら、霊長類動物などにウイルスを注射する必要があり、ウイルス発現の時間が長く、通常4~6週間であり、刺激部位は、ウイルス発現の部位のみに限られる。その他の大規模な神経刺激方法(例えば経頭蓋磁気刺激法、超音波等)もあるが、空間分解能が低い。
【0004】
神経信号記録について、単位生理学記録は、神経機能をモニタリングするためによく用いられる方法である。しかしながら、サンプリングは、電極記録部位の幾何学的形状によって制限され、また電極を脳の中に挿入する必要がある。神経信号イメージングの面では、現在、神経イメージングを実現可能なイメージング方式がすでに多くあり、それぞれ長所と短所がある。中でも、二光子イメージングは、x、yおよびzの軸方向で密なサンプリングを行い、細胞レベルの分解能を達成することができるが、サンプリング視野によって制限され、かつウイルス注射または遺伝子トランスフェクションにより細胞をマーキングする必要がある。多光子イメージングの深さは、1mm以上に達することができるが、大きな動物モデルには実用的でない。集団レベルの神経活動をモニタリングするために、膜電位感受性色素(Voltage Sensitive Dye, VSD)で染色する光学イメージング方法により大規模な高時間分解能(1~10ms)イメージングを実現できるが、大型動物では、VSD組織染色と光線力学損傷の関連性により、その普及が制限されている。血液動態信号の光内因性信号イメージング(Optical Intrinsic Signal Imaging, OISI)は、さらに大規模なイメージングによく用いられ、脳の中に外因性物質を入れる必要がない。OISI信号とニューロン集団応答の関連性は高く、皮質柱の編成に用いることができるが、OISIは、深さの信号検出を実現することができない。
【0005】
以上の技術は、すでに異なる組み合わせがあり、神経刺激および信号記録を実現している。しかしながら、現在の方法では、非接触式(いかなる材料も挿入または適用する必要がない)、大規模(mmからcmの割合)、深さを識別可能(異なる深さを区別できる)、大型動物モデルに適用しやすい等の特徴を同時に有することができない。そのため、現在、非接触で正確な刺激および信号検出を同時に行うことができる、全光手段でニューロモデュレーションおよびイメージングを同時に行う方法および装置が求められている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、先行技術の課題に対して、近赤外レーザパルス刺激およびOCT技術を組み合わせた、マーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージングの方法および装置を提出することである。
【0007】
本発明は、マーキングレスの全光方法であり、大脳皮質において、非接触で、大規模な、深さを識別可能な方式で脳神経機能をモデュレーションおよびマッピングするために用いられ、深さは1mmに達することができる。
【0008】
本発明の目的は、下記の技術手法によって実現される。
【0009】
一、次のものを含む、マーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージングの方法である。
【0010】
S1:赤外レーザパルスにより神経活動を励起する。
【0011】
S2:神経活動により誘発された光学散乱信号をOCTにより同時に採取する。
【0012】
S3:OCT散乱信号により脳機能信号を抽出する。
【0013】
前記赤外レーザパルスにより神経活動を励起するステップは、次のことを含む。1回の刺激プロセスは、ベースライン期t0、刺激期t1、及び、回復期t2の3期からなる。ベースライン期t0は、レーザエネルギーがなく、刺激期t1は、レーザエネルギーがあり、回復期t2は、レーザエネルギーがない。刺激期t1は、1870nmの近赤外波長のパルスレーザを採用する。レーザのパルスパラメータは、250μsのパルス幅,200Hzのパルス周波数、合計100個のパルスシーケンスを採用する。上記レーザ刺激プロセス(t0+t1+t2)を複数回繰り返し試験し、信号安定性を高める。
【0014】
前記赤外レーザパルスにより神経活動を励起するステップは、チョッパ方式、または電流、電圧トリガ制御の方式を採用して、特定のレーザパルス幅および周波数を実現するステップを含む。
【0015】
前記生体組織の神経活動により誘発された光学散乱信号を光干渉断層撮影(OCT)により同時に採取するステップは、外部トリガ制御、クロック信号等の方式を採用して、赤外レーザパルス刺激およびOCT記録の2つのプロセスの同時採取を実現するステップを含む。
【0016】
前記神経活動により誘発された光学散乱信号をOCTにより同時に採取するステップは、OCTにより、生体組織の散乱信号サンプルに対して、二次元または三次元空間の繰り返し走査イメージングを行うことを含み、同一空間位置における繰り返し走査イメージングは、完全なレーザ刺激プロセス時間t0+t1+t2を含み、かつOCTイメージングは、走査により参照アームの光路長を変える時間域OCTイメージング方法、または分光器によりスペクトル干渉信号を記録するスペクトル域OCTイメージング方法、掃引光源によりスペクトル干渉信号を記録する掃引OCTイメージング方法のうちのいずれかを採用する。
【0017】
前記生体組織は、大脳皮質等とすることができる。
【0018】
前記OCT散乱信号により脳機能信号を抽出するステップは、具体的には、OCT散乱信号により、非血管領域の神経応答信号を抽出するステップを含み、そのステップは、OCT散乱信号で処理し、OCT血流造影図を得て、OCT血流造影図から採取位置の所在空間における血管の位置を除去するステップと、OCT散乱信号をベースライン期(t0)の散乱信号と比較し、OCT散乱信号の相対的な変化を計算するステップと、ベースライン期(t0)の散乱信号により、OCT散乱信号の連続した著しい変化の信号点をスクリーニングするステップと、スクリーニングされた著しい変化の信号点をマスクとし、マスクでOCT散乱信号の相対的な変化を処理して、機能OCT(fOCT)信号を得ることと、すべての試験プロセスの機能OCT(fOCT)信号を平均化し、ノイズを小さくするステップとを含む。
【0019】
前記OCT散乱信号により脳機能信号を抽出するステップは、具体的には、OCT血流造影(OCTA)技術により、刺激プロセスにおける血管領域の血流信号の変化を抽出するステップを含む。
【0020】
近赤外レーザ刺激の動作波長およびOCTシステムの中心波長には、ある程度の差が存在し、刺激とイメージングの2つの光路が互いに干渉しないことを保証し、近赤外レーザ刺激は1870nmの波長を採用し、OCTイメージングは1300nmの波長を採用することを含む。
【0021】
二、マーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージング装置である。この装置は、
標的脳組織の神経活動を励起するための、近赤外レーザ刺激装置と、
二次元または三次元空間内の光学散乱信号に対してOCT採取を行う、OCT光干渉検出装置と、
近赤外レーザ刺激装置およびOCT光干渉検出装置が接続され、レーザ刺激とOCT記録の2つのプロセスを同時に実現するための、同時制御ユニットと、
近赤外レーザ刺激装置およびOCT光干渉検出装置がそれぞれ接続され、検出されたOCT散乱信号を分析処理するための、一つまたは複数のプロセッサとを含む。
【0022】
前記近赤外レーザ刺激装置は、動作波長およびOCTシステムの中心波長にある程度の差が存在し、近赤外レーザ刺激装置が生じる近赤外レーザは、1870nmの波長を採用し、OCT光干渉検出装置のイメージング検出は、1300nmの波長を採用する。
【0023】
前記OCT光干渉検出装置は、次のいずれかを採用する。
【0024】
低コヒーレンス光源、干渉計および検出器を含む。
【0025】
または低コヒーレンス光源、干渉計および分光器を含む。
【0026】
または掃引広スペクトル光源、干渉計および検出器を含む。
【0027】
前記一つまたは複数のプロセッサは、レーザ刺激前後の、非血管領域の神経散乱信号の変化および血管領域の血流信号の変化を計算し、脳機能情報を得る。
【0028】
本発明は、先行技術と比べ、次の有益な効果および長所を有する。
【0029】
近赤外レーザパルス刺激およびOCT技術を組み合わせ、赤外レーザパルスにより神経活動を励起し、神経活動により誘発された光学散乱信号をOCTにより同時に採取し、OCT散乱信号により脳機能信号を抽出する。
【0030】
既存の光遺伝学と光学カルシウムイメージングの組み合わせは、光遺伝プローブとカルシウム指示薬のスペクトルが重なるため、刺激およびイメージングの経路間にクロストークが存在するのに比べ、本発明の近赤外レーザ刺激の動作波長およびOCTシステムの中心波長には、ある程度の差が存在し、刺激とイメージングの2つの光路が互いに干渉しないことを保証し、刺激は1870nmの波長を採用し、イメージングは1300nmの波長を採用する。
【0031】
既存の光遺伝学と光学カルシウムイメージングの組み合わせは、組織内での強烈な可視光散乱により、刺激およびイメージングの深さが限られるのに比べ、本発明の刺激およびイメージングの経路は、どちらも赤外波長において動作し、可視光に比べ、透過の深さが深く、1mmに達することができる。
【0032】
既存の光遺伝学および光学カルシウムイメージングの組み合わせは、実験動物に対してウイルストランスフェクションを行う必要があり、非ヒト霊長類の動物研究に用いるのには適していないのに比べ、本発明は、造影剤を注射したり、ウイルストランスフェクションを行ったりする必要がなく、非ヒト霊長類の動物研究に用いることができ、臨床環境におけるヒトの研究に用いることができる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図4】本発明の例示的実施例の近赤外レーザ刺激シーケンス図である。
【
図5】本発明の例示的実施例のOCT構成図である。
【
図6】本発明の例示的実施例のOCT血流造影図である。
【
図7】本発明の例示的実施例の電気生理信号結果図である。
【
図8】本発明の例示的実施例のfOCT信号空間分布結果図である。
【
図9】本発明の例示的実施例のfOCT信号時間分布結果図である。
【
図10】本発明の例示的実施例のfOCT信号刺激強度関連性結果図である。
【
図11】本発明の例示的実施例の血流速度変化結果図である。
【符号の説明】
【0034】
1-赤外レーザパルスが神経活動を励起する;2-神経活動により誘発された光学散乱信号をOCTが採取する;3-OCT散乱信号の相対的な変化の計算;11-光源;12-ビームスプリッタ;13-参照アームコリメータレンズ;14-平面高反射鏡;15-サンプルアームコリメータレンズ;16-ガルバノミラー;17-対物レンズ;18-測定サンプル;19-干渉信号検出装置;20-信号プロセッサ;21-偏光コントローラ;31-低コヒーレンス広帯域光源;32-光サーキュレータ;33-光ファイバカプラ;34-第1の光ファイバコリメータ;35-集光レンズ;36-平面高反射鏡;37-第2の光ファイバコリメータ;38-ガルバノミラー;39-集光レンズ;40-サンプル分散装置;41-第3の光ファイバコリメータ;42-回折格子;43-フーリエ変換レンズ;44-高速ラインスキャンカメラ;45-信号プロセッサモジュールおよび計算ユニット;46-第1の偏光コントローラ;47-第2の偏光コントローラ;48:分散補償器;49:集光レンズ;50:ダイクロイックミラー;51:走査レンズ;52:信号コントローラ;53:レーザ;54:レーザ刺激光ファイバ。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面と組み合わせ、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。図面は本文の一部をなす。なお、これらの説明および例は、例示的なものでしかなく、本発明の範囲を制限するものと理解してはならない。本発明の保護範囲は、添付する特許請求の範囲により限定され、本発明の請求項の基礎の上で行われるいかなる変更であっても、本発明の保護範囲にある。
【0036】
本発明の実施例を理解しやすくするため、各操作は複数の分離した操作として記述するが、記述の順序は、操作を実施する順序を表すものではない。
【0037】
本記述において、サンプル測定空間は、空間方向に基づくx-y-z三次元座標を採用して表示する。こうした記述は、議論を促進するためのものにすぎず、本発明の実施例の応用を制限することを意図したものではない。そのうち、深さz方向は、入射光軸に沿った方向であり、x-y平面は、光軸に垂直な平面であり、xとyは直交し、かつxはOCTの横方向高速度走査の方向を表し、yは低速度走査の方向を表す。
【0038】
上記i、I、t等は、変量を表し、議論を促進するためのものにすぎず、本発明の実施例の応用を制限することを意図したものではなく、1、2、3などのいかなる数値とすることができる。
【0039】
本発明の方法は、
図1に示すように、まず近赤外パルス刺激により、標的脳神経活動を励起した後、神経活動により誘発された散乱信号の変化をOCTシステムにより採取し、最後にOCT散乱信号により脳機能信号を抽出する。
【0040】
近赤外パルス刺激により刺激するプロセスは、次の3期を含む。ベースライン期t0は、レーザエネルギーがなく、刺激期t1は、レーザエネルギーがあり、回復期t2は、レーザエネルギーがない。刺激期t1は、1870nmの近赤外波長のレーザ、250μsのパルス幅、200Hzのパルス周波数、合計100個のパルスシーケンスを採用する。上記レーザ刺激プロセス(t0+t1+t2)を複数回繰り返し試験し、信号安定性を高めることができる。
【0041】
神経活動により誘発された散乱信号の変化をOCTシステムにより採取し、散乱信号サンプルに対して、二次元または三次元空間のOCT走査イメージングを行い、同一空間位置において走査イメージングを一定時間(合計時間t0+t1+t2)繰り返し、分光器によりスペクトル干渉信号を記録するスペクトル域OCTイメージング方法(または走査により参照アームの光路長を変える時間域OCTイメージング方法および掃引光源によりスペクトル干渉信号を記録する掃引OCTイメージング方法)を行う。
【0042】
OCT散乱信号により脳機能信号を抽出し、レーザ刺激前後の、非血管領域の神経散乱信号の変化および血管領域の血流信号の変化を計算し、脳機能情報を得る。まず、OCT血流造影図を組み合わせ、空間における血管の位置を除去し、血流による影響をなくす。データ処理部分は、先に刺激前(t0)の散乱信号と比較し、レーザ刺激中(t1)のOCT散乱信号の相対的な変化を計算する。その具体的なステップは次のとおりである。OCT散乱信号のベース値を確定し、I(z,x,t)はOCT強度信号を表し、OCT強度信号は、OCT散乱信号の絶対値であり、zは深さ方向、xは横方向、tは時間次元である。
【0043】
刺激の前の空白時間はt0区間であり、この期間のOCT散乱信号を平均化して、刺激前のOCT散乱信号ベース値I
Baselineを得る。
【数1】
ここで、Nは、t0期に採取したフレーム数に対応する。
【0044】
OCT散乱信号ベース値に対する、リアルタイムに採取したOCT散乱信号の相対的な変化を、dR/Rで表す。
【数2】
【0045】
計算効率を高めるため、すべての時刻の信号点を計算に用いるのではなく、一定の原則によりスクリーニングする必要がある。基本的なステップは次のとおりである。位置画素点(z,x,t
i)から5フレーム連続したOCT強度信号の強度値がI
Baselineから3σ(z,x)を引いた値よりも小さい場合、この画素点を負の有効信号画素と定義し、次のとおり表す。
【数3】
ここで、3σ(z,x)は、位置(z,x)におけるすべての画素点の標準偏差を表す。
【0046】
同様に、位置画素点(z,x,t
i)の5フレーム連続した信号強度値がI
Baselineに3σ(z,x)を加えた値よりも大きい場合、この画素点を正の有効信号画素と定義する。
【数4】
【0047】
これにより、正の有効信号画素および負の有効信号画素をスクリーニングし、マスクを生成し、fOCT信号を得る。OCT散乱信号において、負の有効信号画素の応答値を反転した後、正の有効信号画素の応答値とともに、平均化処理によって最終的なfOCT信号を生成することにより、ノイズを小さくし、SN比を高める。
【0048】
除去した血管領域から、OCT血流造影(OCTA)技術により、刺激プロセスにおける血液動態の応答信号を抽出し、神経応答を総合して脳機能信号を得る。
【0049】
図2で示されているものは、本発明のマーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージング装置の模式図である。この装置の低コヒーレンス干渉測定部分の主たる構成は干渉計であり、11~17、19および21からなり、そのうち光源11が発する光がビームスプリッタ12により2つの部分の光束に分けられる。そのうち一方の光は、干渉計の参照アームに入り、参照アームコリメータレンズ13によって平面高反射鏡14に照射される。他方の光は、サンプルアームに入り、コリメータレンズ15および光路を経て反射した後、測定サンプル上に焦光される。サンプル18は、サンプルアームの対物レンズ17の焦点面に置かれる。その後、参照アームおよびサンプルアームからそれぞれ反射された光に干渉が生じた後、干渉信号検出装置19により受光される。光ファイバ型光路については、偏光コントローラ21を採用して光束の偏光状態を調整し、信号干渉効果を最大化する。
【0050】
低コヒーレンス干渉検出信号の方式の違いにより、
図2で示されているマーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージング装置は、具体的には次のものを含む。
【0051】
1)時間域測定装置光源11は、広帯域低コヒーレンス光を採用し、平面反射鏡14は、光軸方向に沿って移動することができ、干渉信号検出装置19は、点検出器である。平面反射鏡14を移動させ参照アームの光路長を変えることにより、両アームの干渉信号が点検出器19により検出され、ある空間深さのz方向の散乱信号の低コヒーレンス干渉を検出することにより、深さ空間次元のサンプルを得る。
【0052】
2)スペクトル域測定装置光源11は、広帯域低コヒーレンス光を採用し、平面反射鏡14は固定され動かず、干渉信号検出装置19としては、分光器を採用する。干渉信号は、分光器中のラインスキャンカメラにより、干渉スペクトルを同時に記録する。フーリエ分析方法を採用して干渉スペクトル信号を分析し、深さz方向の散乱情報を並行して得ることにより、深さ次元空間のサンプルを得る。
【0053】
3)掃引測定装置光源11は、掃引光源を採用し、平面反射鏡14は固定され動かず、干渉信号検出装置19としては、点検出器を採用する。点検出器は、掃引光源の低コヒーレンス干渉スペクトルを同時に記録する。干渉スペクトル信号をサンプリングしてフーリエ分析し、深さz方向の散乱情報を並行して得ることにより、深さ次元空間のサンプルを得る。
【0054】
上記の様々な測定装置について、それぞれ
図1で述べた関連するOCT走査イメージング方式を組み合わせ、血流と周囲組織の相対的な運動を分析し、OCTA血流運動造影を生成して、空間対応性を強化する。
【0055】
図3に示されているものは、本文で開示している本発明による例示的な実施例である。このマーキング全光ニューロモデュレーションおよびイメージング装置は、広帯域低コヒーレンス光源31と、光サーキュレータ32と、分岐比(splitting ratio)50:50の光ファイバカプラ33と、第1の偏光コントローラ46と、第1の光ファイバコリメータ34と、集光レンズ35と、平面高反射鏡36と、第2の偏光コントローラ47と、第2の光ファイバコリメータ37と、ガルバノミラー38と、対物レンズ39と、サンプル分散装置40と、第3の光ファイバコリメータ41と、回折格子42と、フーリエ変換レンズ43と、高速ラインスキャンカメラ44と、信号プロセッサモジュールおよび計算ユニット45と、分散補償器48と、集光レンズ49と、ダイクロイックミラー50と、走査レンズ51と、信号コントローラ52と、レーザ53と、レーザ刺激光ファイバ54とを含む。信号コントローラ52は、Cygnus Technology,PG4000Aデジタルコントローラを採用している。レーザ53は、動作波長1870nmの光ファイバ付き半導体レーザを採用している。広帯域低コヒーレンス光源31は、中心波長1325nm、帯域幅100nmのスーパールミネッセントダイオード光源を採用している。高速ラインスキャンカメラ44は、2048画素からなるラインスキャンカメラを採用している。サンプルアームにおける走査レンズ51は、焦点距離が36mmのレンズが選定されている。
【0056】
レーザ53は、近赤外レーザ光を発してレーザ刺激光ファイバ54を経て測定サンプルに照射する。ここで、本発明の装置で用いる低コヒーレンス広帯域光源31が発する光は、光サーキュレータ32を経た後、分岐比50:50の光ファイバカプラ33に入り、光ファイバカプラ33から出射された光は、2つの部分のサブ光束に分けられる。そのうち一方の光は、光ファイバによって、第1の偏光コントローラ46を経て参照アームにおける第1の光ファイバコリメータ34に接続され、コリメータ、分散補償器48を経て分散補償され、集光レンズ35で集光された後、平面高反射鏡36に照射される。他方の光は、光ファイバによって、第2の偏光コントローラ47を経てサンプルアーム部分の第2の光ファイバコリメータ37に接続され、コリメータ、ガルバノミラー38の光路反射および集光レンズ39を経て、集光レンズ49で集光された後、測定サンプルに照射される。走査レンズ51の前に、ダイクロイックミラー50を採用して集光レンズ49から出射された光にOCT検出光路の90°転換を実現する。サンプルアームにおけるガルバノミラー38は固定されて動かず、サンプル空間の同じ位置の異なる時刻の深さ方向の散乱信号を、低コヒーレンス干渉計が並行して検出する。同時に、サンプルアームにおける光路は、シングルモード光ファイバによって光束を伝導し、測定サンプルから散乱された光に対して空間フィルタの作用を奏し、すなわち、散乱信号における複数回の散乱成分を効果的に小さくする。参照アームにおける平面高反射鏡36から反射された光と、サンプルアームにおける測定サンプルから後ろ向きに散乱された光は、光ファイバカプラ33において干渉され、干渉光は、分光器(部材41~44を含む)を経て検出され、記録され、その後、信号コントローラ52および計算ユニット45によって採取され、信号分析処理を行う。光刺激ユニットおよびOCT信号採取ユニットは、外部トリガ制御、クロック信号等の方式を採用することにより、同期を実現する。
【0057】
本発明は、fOCT信号により、刺激前後の神経応答および血行動態応答およびその特徴を得ることができる。近赤外レーザ刺激シーケンスは、
図4に示すとおりであり、t0期は、レーザエネルギーがなく、t1期にレーザエネルギーが作用し始め、t2期は、レーザエネルギーがない回復期であり、出力されるレーザパルスシーケンスにおける各パルスのパルス幅は可変であり、パルス周期は可変である。ここでの具体的な実施において、各パルスの固定パルス幅は250μsであり、パルス周期5msである。近赤外レーザ刺激は、100個のこのようなパルスにより、0.5sのパルスリンクを構成する。レーザ光は、特製の光ファイバによって出力され、ラット光学観察窓標的領域に照射される。
【0058】
図5に示されているものは、OCT採取の構造図であり、OCTは、三次元構造イメージングを実現することができ、
図5Aは、OCT構成投影図であり、
図5Bは、
図5A中の破線位置の断面図である。
【0059】
図6に示されているものは、OCT血流造影(OCTA)図であり、OCTA技術により、OCT採取の三次元構成信号を処理し、三次元血流信号を得ることができる。
図6Aは、OCTA投影図であり、
図6Bは、
図6Aにおける破線位置の断面図である。
【0060】
図7に示されているものは、異なる刺激強度の下(0.3J、0.5J、0.7J、1.0J/cm
2/pulse)での電気生理信号結果図であり、近赤外レーザ刺激強度の増加に伴い、スパイク電位発火率が増加し、その結果、ラットの胴体運動感覚脳皮質に対する近赤外レーザ刺激により、ニューロンの興奮活動が引き起こされたことが説明される。そのため、後続して観察されたfOCT応答信号の変化と、ニューロンの外部の刺激により誘発された活動との間に潜在的な関連性が存在する可能性がある。
【0061】
図8-11に示されているものは、本実施例において得られたラット脳皮質を用いたfOCT機能信号変化結果図である。近赤外レーザ刺激により誘発されたfOCT信号の特徴を明らかにするため、本発明では、非血管領域神経応答の時間および空間分布、ならびにその刺激強度との関係、さらには血管領域の血行動態応答を検証した。
【0062】
図8Aに示したように、レーザ刺激光ファイバを移動せずに同じ刺激パラメータを用いた状況で、OCTシステムで近赤外レーザ刺激領域の中心および周囲領域において信号採取を行い、fOCT機能応答を観察した(ROI1:中心、ROI2:辺縁、ROI3:外部)。その結果、図中で観察できるように、近赤外レーザ刺激は、ラット脳皮質におけるOCT散乱信号に相対的な変化を引き起こした(
図8Bにおいて
図8A中の信号変化を定量分析している)。ROI1に含まれる有効画素数が最も大きく(~449画素)、ROI2に含まれる有効画素数は減少し(~354画素)、ROI3は散乱中に著しい変化が認められなかった。総合すると、fOCT信号は、
図8Aに示すように、神経信号の空間位置を反映し、すべての有効画素の平均振幅および誘発されたfOCT信号の経時的な変化プロセスは、
図8Bに示すとおりであった。また、深さ分解能シーケンス
図8Cに示したように、fOCTの変化の時間対応性は、皮質600μmの深さ範囲に保つことができる。
【0063】
fOCT信号時間も、近赤外レーザ刺激時間に密接に関係している。
図9A-9Bで示したように、OCT散乱信号の変化は、近赤外レーザ刺激と同期している。試験において、著しい変化を有するすべての画素は、いずれも集団応答に対して平均化を行った。
図9Aにおける散乱変化においても、類似の時間的な重なりを有した。刺激開始時間が異なる場合、応答開始時間が遅延し、応答ピーク時間が遅延した。
図9Bにおいて定量化した結果、fOCT応答は、時間的にレーザ刺激と同期しており、時間の遅延は約30msであった。
【0064】
図10A-10Bは、異なる刺激強度の下(0.3、0.5、0.7、1.0J/cm
2/pulse)での機能応答を示している。近赤外レーザ刺激強度の増加により、fOCT信号の変化幅に増加がもたらされ、その結果、
図10Aに示したように、fOCT信号変化ピークと刺激強度に線的な関係が存在する。結果は
図10Bに示したとおりである。干渉検出の感度が高かったため、fOCT信号変化の振幅は大きかった(直線のあてはめの傾き:2.1)。
【0065】
図11は、OCT採取周波数を高めた、異なる刺激強度の下(0.5、0.7、1.0J/cm
2/pulse)での血行動態応答を示しており、近赤外レーザ刺激強度の増加により、血管領域流速変化幅も増加しており、流速変化時間の遅延は約1sであった。
【0066】
上記実験の結果、次のことが十分に説明される。本発明は、ニューロモデュレーションおよびイメージングを同時に展開することができ、モデュレーション/イメージング経路のクロストーク現象が存在せず、造影剤の注射およびウイルストランスフェクションの必要がなく、近赤外波長によって、組織深部領域のモデュレーションおよびイメージングを実現できる。本発明により、マーキングレス全光ニューロモデュレーションおよびイメージングを実現することができ、標的領域に対して非接触の正確な刺激および脳機能信号検出を同時に行うことができる。