(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】熱交換器
(51)【国際特許分類】
F25B 39/04 20060101AFI20230606BHJP
F24F 1/18 20110101ALI20230606BHJP
F28D 1/053 20060101ALI20230606BHJP
F28F 1/02 20060101ALI20230606BHJP
F28F 9/02 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
F25B39/04 C
F24F1/18
F28D1/053 A
F28F1/02 A
F28F9/02 E
(21)【出願番号】P 2018004936
(22)【出願日】2018-01-16
【審査請求日】2020-12-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100155572
【氏名又は名称】湯本 恵視
(72)【発明者】
【氏名】外山智章
(72)【発明者】
【氏名】片平史郎
【合議体】
【審判長】間中 耕治
【審判官】槙原 進
【審判官】鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】特許第3129721(JP,B2)
【文献】特開2005-127529(JP,A)
【文献】特開2002-81797(JP,A)
【文献】特開2004-3862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 39/04
F24F 1/18
F28D 1/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が流通する複数本の扁平多穴管と、隣り合う扁平多穴管間に設けられたコルゲートフィンと、前記複数本の扁平多穴管の両端に設けられたヘッダとを備えた熱交換器において、
前記複数本の扁平多穴管は1パス目から4パス目までの4つのパスを構成するように分割されており、冷媒は、1パス目、2パス目、3パス目、4パス目の順序で扁平多穴管内を流通し、
前記ヘッダは、導入された冷媒を1パス目の扁平多穴管へ流入させ、2パス目からの冷媒を3パス目の扁平多穴管へ流入させる一端側のヘッダと、1パス目からの冷媒を2パス目の扁平多穴管へ流入させ、3パス目からの冷媒を4パス目の扁平多穴管へ流入させる他端側のヘッダとからなり、
前記一端側及び他端側のヘッダ内にはそれぞれ、各パスへの冷媒の流入を仕切る仕切り材が設けられており、
扁平多穴管の全本数をA、1パス目の扁平多穴管の本数をB、2パス目の扁平多穴管の本数をC、3パス目の扁平多穴管の本数をD、4パス目の扁平多穴管の本数をEとしたときに、B≧C≧D≧Eを満たし、Aに対するBの比率X(%)及びAに対するCの比率Y(%)が、下記の式(1)、(4)、(3)の範囲で定められる熱交換器であって、
27<A<169 (1)
57<X<80 (4)
-0.32X+32.60<Y<-0.84X+75.20 (3)
熱交換器における熱交換量を4.459kWとしてこの熱交換量を基準とし、これに対する熱交換量の比率が110%以上
、116.0%以下であり、かつ
、熱交換器における冷媒側圧力損失を41.2kPaとしてこの冷媒側圧力損失を基準とし、これに対する冷媒側圧力損失の比率が
82.6%以上、150%以下であることを特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス冷媒を冷却して液化凝縮するサイドフロー方式でパラレルフロー型の熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒が流通する扁平多穴管と、扁平多穴管の両端を連結して冷媒を集約又は分配する一対のヘッダータンクを有するとともに、扁平多穴管間にはコルゲートフィンを配置したパラレルフロー型の熱交換器は、カーエアコンや空気調和機の室外機などに冷媒凝縮器として広く利用されている。
【0003】
従来、上記冷媒凝縮器は蒸気圧縮式の冷凍サイクルにおいて、圧縮機から吐出された高温高圧のガス冷媒の熱を空気に放熱し、冷媒を液化凝縮させる役割を果たすことが知られている。
【0004】
特許文献1の冷媒凝縮器は、複数のチューブと、チューブの両端にヘッダータンクとを具備し、ヘッダータンクの内部に仕切りを設けて、複数のチューブを複数のパスに分割し、冷媒が前記複数のパスを流れることにより1回以上リターンさせるものである。この凝縮器を形成するチューブの長手方向(軸方向)の長さをコア幅としたとき、このコア幅と前記チューブの水力直径との比(コア幅/水力直径)が大きくなるに従い、パス数の数を減少させる関係に設定される。そして、最適なパス数とすることにより、高い熱交換効率を得ることが出来るとしている。
【0005】
特許文献2の冷媒凝縮器は、カーエアコン用の凝縮器として用いられ、複数の扁平多穴管と、扁平多穴管の両端にヘッダータンクとを具備し、ヘッダータンクの内部に仕切りを設けて、複数の扁平多穴管を複数のパスに分割し、冷媒がこれら複数のパスを流通することにより1回以上リターンさせるものである。そして、この冷媒凝縮器は、扁平多穴管の内周面に凹凸の無い複数の熱交換通路が扁平多穴管の幅方向に並列状に設けられた第1扁平多穴管と、扁平多穴管の内周面に凸状にインナーフィンを有する複数の熱交換通路が扁平多穴管の幅方向に並列状に設けられた第2扁平多穴管とを具備する。ここで、各パスにおける扁平多穴管の総設置本数に対する第1扁平多穴管の設置本数の比率が、第1パスとの乾き度の高いパスでは低く設定され、最終パス等の乾き度の低いパスでは高く設定される。これによって、乾き度の高いパスでは、熱伝達性に優れた凸状のインナーフィンを有する第2扁平多穴管により十分放熱される。一方、乾き度の低いパスでは、凹凸の無い第1扁平多穴管により、冷媒はスムーズに流通し、冷媒側圧力損失の増大による悪影響を低減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3129721号公報
【文献】特開2001-133076号公報
【0007】
特許文献1の冷媒凝縮器では、最適なパス数の設定方法は明確に示されている。しかしながら、各パスのチューブ本数の割り当てに対しては、乾き度と質量流量に沿っているのみで、冷媒と空気との温度差が最も大きくなる冷媒凝縮器の入口から1パス目における最も効率の良い区間に着目した最適化はなされておらず、更に高い熱交換効率を得る余地がある。
【0008】
冷媒側圧力損失の増大は冷媒凝縮温度の低下を引き起こすため、冷媒と空気の温度差が小さくなり、ひいては熱交換効率の低下を引き起こす。しかしながら、特許文献1の冷媒凝縮器では、冷媒側圧力損失の抑制に対する設定方法は何等規定されておらず、高い熱交換効率を得るための設定方法としては不十分である。
【0009】
また、特許文献2の冷媒凝縮器では、各乾き度に対して、内周面に凹凸のない扁平多穴管と内周面に凸条のインナーフィンを有する扁平多穴管の比率を最適化している。しかしながら、各パスの扁平多穴管本数は特に限定されるものではないとされており、冷媒と空気との温度差が最も大きくなる冷媒凝縮器の入口から1パス目における最も効率の良い区間に着目した各パスの扁平多穴管本数の最適化はなされておらず、更に高い熱交換効率を得る余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の点に鑑み、各パスにおける扁平多穴管本数比率を最適化でき、高い熱交換効率を得られる上に、冷媒側圧力損失の増大を抑制することが出来る、ガス冷媒を冷却して液化凝縮するサイドフロー方式でパラレルフロー型の熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は請求項1において、冷媒が流通する複数本の扁平多穴管と、隣り合う扁平多穴管間に設けられたコルゲートフィンと、前記複数本の扁平多穴管の両端に設けられたヘッダとを備えた熱交換器において、
前記複数本の扁平多穴管は1パス目から4パス目までの4つのパスを構成するように分割されており、冷媒は、1パス目、2パス目、3パス目、4パス目の順序で扁平多穴管内を流通し、
前記ヘッダは、導入された冷媒を1パス目の扁平多穴管へ流入させ、2パス目からの冷媒を3パス目の扁平多穴管へ流入させる一端側のヘッダと、1パス目からの冷媒を2パス目の扁平多穴管へ流入させ、3パス目からの冷媒を4パス目の扁平多穴管へ流入させる他端側のヘッダとからなり、
前記一端側及び他端側のヘッダ内にはそれぞれ、各パスへの冷媒の流入を仕切る仕切り材が設けられており、
扁平多穴管の全本数をA、1パス目の扁平多穴管の本数をB、2パス目の扁平多穴管の本数をC、3パス目の扁平多穴管の本数をD、4パス目の扁平多穴管の本数をEとしたときに、B≧C≧D≧Eを満たし、Aに対するBの比率X(%)及びAに対するCの比率Y(%)が、下記の式(1)、(4)、(3)の範囲で定められる熱交換器であって、
27<A<169 (1)
57<X<80 (4)
-0.32X+32.60<Y<-0.84X+75.20 (3)
熱交換器における熱交換量を4.459kWとしてこの熱交換量を基準とし、これに対する熱交換量の比率が110%以上、116.0%以下であり、かつ、熱交換器における冷媒側圧力損失を41.2kPaとしてこの冷媒側圧力損失を基準とし、これに対する冷媒側圧力損失の比率が82.6%以上、150%以下であることを特徴とする熱交換器とした。
【発明の効果】
【0013】
凝縮運転時に扁平多穴管を流れる冷媒は、過熱蒸気(ガス単相)で熱交換器に流入し、空気と熱交換することで次第に凝縮(ガスと液の二相)し、熱交換器からは過冷却液(液単相)となって流出する。本発明では、冷媒が空気と最も温度差の大きい、熱交換器の入口から1パス目において、流路断面積を大きくすることにより、冷媒と空気との効率的な熱交換が達成される。また、2パス目以降では、多穴管本数が減少する事による流路断面積の低下が、冷媒側圧力損失の増大を招くことが懸念されるため、熱交換量を増大させ、かつ、冷媒側圧力損失増大を抑制するバランスの良い比率が上記の式(1)~(3)の設定範囲で達成される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.熱交換器
本発明に係る熱交換器はサイドフロー方式のパラレルフロー型であり、冷媒が流通する複数本の扁平多穴管と、隣り合う扁平多穴管間に設けられたコルゲートフィンと、前記複数本の扁平多穴管の両端に設けられたヘッダとを備える。そして、冷媒パスを構成する扁平多穴管の本数を特定範囲に設定することを特徴とする。
【0015】
扁平多穴管は、冷媒が流通する軸方向に沿って複数の仕切り板が設けられており、これによって複数の穴状流路が形成されている。扁平多穴管の材質としては、1000系合金、3000系合金などが用いられ、耐冷媒圧力性の観点から3000系合金が好ましい。
【0016】
コルゲートフィンは板材をコルゲート状に成形したもので、コルゲートフィンの周囲の空気との間で熱交換を行なうものである。コルゲートフィンの材質としては、ブレージングフィンとして心材に1000系合金、3000系合金などが用いられ、熱交換器としての構造を維持するための材料強度の観点から3000系合金が好ましい。皮材は、心材の両面に張り付けられており、ろう材として4000系合金が用いられる。
【0017】
ヘッダは、一端側において、ヘッダ上部に取り付けられた冷媒配管などから導入された冷媒を扁平多穴管に分配・流入させる。そして、他端側において、一端側からの冷媒を受け入れ、これを扁平多穴管に分配・流入させてリターンさせる。更に、一端側と他端側において、リターンが繰り返される。ヘッダの材質としては、1000系合金、3000系合金などが用いられ、耐冷媒圧力性の観点から3000系合金が好ましい。
【0018】
パラレルフロー型熱交換器で用いる冷媒としては、R410A、R32、R1234yf、R1123などが用いられ、地球温暖化に影響を及ぼす地球温暖化係数の観点からR32が好ましい。
【0019】
本発明に係るパラレルフロー型熱交換器では、冷媒が流通するパス数は4パスに限定するものとする。ここで、扁平多穴管は1パス目から4パス目までの4つのパスを構成するように分割されており、冷媒は、1パス目、2パス目、3パス目、4パス目の順序で扁平多穴管内を流通する。具体的には、ヘッダはその一端側において、例えば上部に取り付けられた冷媒配管から導入された冷媒を1パス目の扁平多穴管へ流入させ、2パス目からの冷媒を3パス目の扁平多穴管へ流入させる。一方、ヘッダの他端側においては、1パス目からの冷媒を2パス目の扁平多穴管へ流入させ、3パス目からの冷媒を4パス目の扁平多穴管へ流入させる。なお、一端側及び他端側のヘッダ内にはそれぞれ、各パスへの冷媒の流入を仕切る仕切り材が設けられている。このように、本発明に係る熱交換器においては、冷媒が流通するパス数は4パスに限定されるものとする。
【0020】
2.各パスにおける扁平多穴管の本数B、C、D、E
パラレルフロー型熱交換器の各パスにおける扁平多穴管の本数については、1パス目をB、2パス目をC、3パス目をD、4パス目をEとして、B≧C≧D≧Eの関係を満たす。すなわち、上流側の本数が下流側の本数に等しいか又は多いことを必要とする。冷媒の気相から液相への相変化に伴う体積減少の点から、BとCの関係についてはB>Cとするのが好ましい。
【0021】
3.扁平多穴管の全本数A
パラレルフロー型熱交換器における扁平多穴管の全本数Aは、一般的な住居・建物の空気調和機に用いる冷媒凝縮器において適用可能な範囲とし、必要な熱交換能力と設置する空気調和機の筐体寸法に応じて設定できる。具体的には、下記の式(1)の範囲により決定される。
27<A<169 (1)
【0022】
Aが27本以下の場合には、一般的な住居・建物の空気調和機に用いる冷媒凝縮器において、必要な熱交換能力を得ることが出来ない。一方、Aが169本以上の場合には、1パス目における多穴管本数を多く設定する必要上、1パス目の下方出口側の扁平多穴管における冷媒流速の低下を招く。その結果、1パス目の下方出口側の扁平多穴管において冷媒が完全に液化することにより、熱交換効率が低下する。これにより、必要な熱交換能力を得ることが出来ない。以上により、扁平多穴管の全本数Aを上記式(1)の範囲とするものである。
【0023】
4.1パス目の扁平多穴管の本数BとAに対する比率X(%)
1パス目は、冷媒と空気との温度差が最も大きくなるため、他のパスと比較して効率的に熱交換が行なわれる。そのため、1パス目の扁平多穴管本数を他のパスよりも多くすることで、熱交換量を増大させることが出来る。1パス目の扁平多穴管本数をBとしてAに対する比率X(%)は、下記の式(2)の範囲により決定される。
40<X<80 (2)
【0024】
式(2)のXが大きいほど、熱交換量が増える。Xが40(%)以下の場合には、熱交換量が小さくなる。一方、Xが80(%)以上の場合には、2パス目、3パス目及び4パス目の多穴管本数のAに対する比率が小さくなり、冷媒側圧力損失の増大が顕著になる。また、2パス目以降の下流側における冷媒側圧力損失が増大するため、下流側ほど冷媒側圧力が低下して冷媒の凝縮温度が低下することにより、熱交換効率が低下してしまう。以上により、Aに対するBの比率X(%)を上記式(2)の範囲とするものである。
【0025】
上記1パス目の扁平多穴管本数BのAに対する比率X(%)は、下記の式(4)の範囲とするのが好ましい。
57<X<80 (4)
Xを57(%)よりも大きくすることで、更に大きな熱交換量が得られる。
【0026】
5.2パス目の扁平多穴管の本数CとAに対する比率Y(%)
2パス目の多穴管本数は、冷媒側圧力損失の増大を抑制しつつ、熱交換量を維持又は増大させるために、3パス目と4パス目の多穴管本数における冷媒側圧力損失の影響を考慮した設定が必要である。2パス目の扁平多穴管本数をCとしてAに対する比率Y(%)は、Xとの関係で下記の式(3)の範囲により決定される。
-0.32X+32.60<Y<-0.84X+75.20 (3)
【0027】
Yの範囲が-0.32X+32.60より大きい場合には、冷媒側圧力損失の増大を抑制しつつ、熱交換量を維持できる。一方、Yの範囲が-0.32X+32.60以下の場合には、Yよりも3パス目及び4パス目の多穴管本数のAに対する比率が大きくなり、2パス目における冷媒側圧力損失が増大する。更に、Yの範囲が-0.32X+32.60以下の場合には、2パス目において冷媒の凝縮が進行する。その結果、冷媒の気相の体積が減少している3パス目及び4パス目の冷媒流速が低下するため、熱交換効率の低下を引き起こす。
【0028】
また、Yの範囲が-0.84X+75.20以上の場合には、3パス目及び4パス目の多穴管本数のAに対する比率が小さくなり、冷媒側圧力損失の増大が顕著になる。また、3パス目以降の下流側における冷媒側圧力損失が増大するため、下流側ほど冷媒側圧力が低下して冷媒の凝縮温度が低下することにより、熱交換効率が低下してしまう。以上により、Aに対するCの比率Y(%)を上記式(3)の範囲とするものである。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとする。しかしながら、そのような実施例の記載によって、本発明が何等の制約を受けるものでない。
【0030】
実施例として、本発明に従う扁平多穴管、フィン及びヘッダを作成した。
まず、アルミニウム合金(JIS A3003)を用いて、幅14mm、厚さ1.3mm、長さ682mm、穴数15の扁平多穴管を複数本製作した。
次に、Al-Mn系合金(Mn:1.2mass%)の両面にAl-Si系のろう材をクラッドしたアルミニウム合金製ブレージングシートを用いて、高さ7.9mm、奥行き14mm、波形ピッチ2.2mmの波形形状に成形加工されたコルゲートフィンを複数製作した。
更に、ヘッダについては、Al-Mn系合金(Mn:1.2mass%)の外面側に
Al-Si系のろう材をクラッドしたアルミニウム合金製パイプを用い、扁平多穴管、ヘッダー内の仕切り材および冷媒配管を挿入する部分を切削加工に設けることにより製作した。また、アルミニウム合金製の冷媒配管を用いた。
【0031】
以上のようにして製作した扁平多穴管とコルゲートフィンを用いて、扁平多穴管を互いに平行に複数配列させ、隣り合う扁平多穴管の間にコルゲートフィンを接合させることにより、幅:700.0mm×高さ:470.0mm×奥行14.0mmのパラレルフロー型熱交換器を製作した。これらの熱交換器における全扁平多穴管の本数(A)として、発明例1~7及び比較例1~12では50本、比較例13~16では27本、比較例17~20では169本とした。その他、各パスにおける全扁平多穴管の本数、ならびに、1パス目の扁平多穴管本数(B)のAに対する比率X(%)、2パス目の扁平多穴管本数(C)のAに対する比率Y(%)を表1に示す。
【0032】
【0033】
上述のようにして製作した熱交換器において、配列された扁平多穴管の一端側と他端側をそれぞれヘッダに接続した。扁平多穴管の軸方向に沿って延びるそれぞれの穴(流路)が冷媒の入口側と出口側でそれぞれまとめられて、冷媒の流路が形成されている。また、ここで製作したそれぞれの熱交換器を製作するにあたり、表1に記載の本数の扁平多穴管、多穴管本数よりも1本多いコルゲートフィンを用い、熱交換器の高さ方向の上端及び下端のコルゲートフィンには、アルミニウム合金(JIS A3003)の板材を平行に配列した。
【0034】
なお、上記扁平多穴管とコルゲートフィンとの接合、及び、扁平多穴管とヘッダとの接合は、目的とする熱交換器の形状に組み立てた扁平多穴管、コルゲートフィン及びヘッダとの組付け体を、フッ化物系のフラックスを粉末のまま組付け体に塗布し、不活性ガス雰囲気中において最高到達温度600℃で3分間保持した後に冷却することにより、扁平多穴管とコルゲートフィン、及び、扁平多穴管とヘッダとをそれぞれろう付接合し、熱交換器試料を得た。また、冷媒配管をヘッダの一方端に接続して冷媒を熱交換器に導入した。
【0035】
以上の熱交換器の仕様を以下に纏める。
(1)全体
・パス数(ターン数):4
・使用用途:住居・建物の空気調和機に用いる冷媒凝縮器
・材料:アルミニウム
・熱交サイズ:幅700×高さ470.00×奥行14.00mm
・列数、段数:1列50段
(2)扁平管
・サイズ:幅14.00×厚さ1.30mm
・多穴管穴形状:矩形
・穴数:15穴
(3)ヘッダ
・サイズ:外径φ17.5×肉厚1.2×長さ470mm
(4)冷媒配管
・サイズ:外径φ9.52×肉厚1.2×長さ100(~145)mm
【0036】
以上のようにして作製した熱交換器試料を用いて、それぞれの単体性能評価を行った。試験方法は、各熱交換器を、恒温恒湿試験室内に設けられた風洞装置に設置し、試験室内の空気温度(乾球温度:35℃、湿球温度:24℃)、風速(1.6m/s)に対して、冷媒(R-32)を熱交換器入口温度:65℃(過熱度=20K)、凝縮温度:45℃、熱交換器出口温度40℃(過冷却度=5K)の条件に設定し、空気と冷媒の熱バランスがとれた状態の熱交換量及び熱交換器出入口における冷媒圧力の差圧から冷媒側圧力損失をそれぞれ測定した。各熱交換器における試験結果を、表1に示す。
【0037】
以上の測定条件を以下に纏める。
・使用冷媒:R-32
・空気側乾球温度:35℃
・空気側湿球温度:24℃
・前面風速:1.6m/s
・冷媒入口過熱度:20℃
・冷媒側凝縮温度:45℃
・冷媒出口過冷却度:5℃
【0038】
1.熱交換量と熱交換量比率
従来の熱交換器における熱交換量は、4.459kWであった。この熱交換量を基準とし、これに対する実施例で得られた熱交換量の比率を算出した。下記の基準で判定を行った。
優良(◎):熱交換量比率が110%以上の場合
良好(○):熱交換量比率が102%以上110%未満の場合
不良(×):熱交換量比率が102%未満の場合
【0039】
2.冷媒側圧力損失と冷媒側圧力損失比率
従来の熱交換器における冷媒側圧力損失は、41.2kPaであった。この冷媒側圧力損失を基準とし、これに対する実施例で得られた冷媒側圧力損失の比率を算出した。下記の基準で判定を行った。
優良(◎):冷媒側圧力損失比率が100%以下の場合
良好(○):冷媒側圧力損失比率が100%を超え、150%以下場合
不良(×):冷媒側圧力損失比率が150%を超える場合
【0040】
3.総合評価
実施例の判定は、熱交換量比率及び冷媒側圧力損失比率から下記の基準で決定した。
優良(◎):熱交換量比率が◎で、かつ、冷媒側圧力損失比率が◎又は○の場合
良好(○):熱交換量比率が○で、かつ、冷媒側圧力損失比率が◎又は○の場合
不良(×):上記◎及び○以外の場合
【0041】
表1に示すように、本発明例1~3及び参考例4~7ではいずれも、本発明で規定する要件を満たしているので、総合判定が優良又は良好であった。特に、本発明例1~3では、熱交換量比率が優良であった。これに対して比較例1~20ではいずれも、総合判定が不良であった。
【0042】
比較例1~3では、扁平多穴管の全本数(A)に対する1パス目における本数(B)の比率X[%]が80%以上となり、また、扁平多穴管の全本数(A)に対する2パス目における本数(B)の比率Y[%]が、式(3)を満たさなかったため、冷媒側圧力損失が増大した。その結果、冷媒側圧力損失比率が不良となり、総合判定も不良となった。
【0043】
比較例4~7及び12では、扁平多穴管の全本数(A)に対する1パス目における本数(B)の比率X[%]が40%以下となったため、更に、比較例4と7では、扁平多穴管の全本数(A)に対する2パス目における本数(B)の比率Y[%]が、式(3)を満たさなかったため、冷媒と空気の温度差がより大きくなる流路断面積が小さくなり、熱交換量が低くなった。その結果、熱交換量比率が不良となり、総合判定も不良となった。
【0044】
比較例8では、扁平多穴管の全本数(A)に対する2パス目における本数(B)の比率Y[%]が、式(3)を満たさなかったため、冷媒凝縮温度が低下し、空気との温度差が小さくなり、熱交換量が低くなった。その結果、熱交換量比率が不良となり、総合判定も不良となった。
【0045】
比較例9では、扁平多穴管の全本数(A)に対する2パス目における本数(B)の比率Y[%]が、式(3)を満たさなかったため、冷媒凝縮温度が低下し、空気との温度差が小さくなり、熱交換量が低くなった。その結果、熱交換量比率が不良となり、総合判定も不良となった。
【0046】
比較例10では、扁平多穴管の全本数(A)に対する2パス目における本数(B)の比率Y[%]が、式(3)を満たさなかったため、冷媒側圧力損失が増大した。その結果、冷媒側圧力損失が不良となり、総合判定も不良となった。
【0047】
比較例11では、扁平多穴管の全本数(A)に対する2パス目における本数(B)の比率Y[%]が、式(3)を満たさなかったため、冷媒側圧力損失が増大した。その結果、冷媒側圧力損失が不良となり、総合判定も不良となった。
【0048】
比較例13~16では、扁平多穴管の全本数(A)が27本以下であり、一般的な住居・建物に用いる冷媒凝縮器に求められる熱交換量を得ることが出来なかった。その結果、熱交換量比率が不良となり、総合判定も不良となった。なお。比較例13では、冷媒側圧力損失比率も不良であった。
【0049】
比較例17では、扁平多穴管の全本数(A)が169以上となったため、冷媒側圧力損失が増大した。その結果、冷媒側圧力損失が不良となり、総合判定も不良となった。
【0050】
比較例18では、扁平多穴管の全本数(A)が169以上となったため、熱交換量が低くなり冷媒側圧力損失も増大した。その結果、熱交換量比率と冷媒側圧力損失が不良となり、総合判定も不良となった。
【0051】
比較例19では、扁平多穴管の全本数(A)が169以上となったため、熱交換量が低くなった。その結果、熱交換量比率が不良となり、総合判定も不良となった。
【0052】
比較例20では、扁平多穴管の全本数(A)が169以上となり、また、扁平多穴管の全本数(A)に対する1パス目における本数(B)の比率X[%]が40%以下となったため、冷媒と空気の温度差がより大きくなる流路断面積が小さくなり、熱交換量が低くなった。その結果、熱交換量比率が不良となり、総合判定も不良となった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るパラレルフロー型熱交換器は、各パスにおける扁平多穴管本数比率を最適化でき、高い熱交換効率を得られる上に、冷媒側圧力損失の増大を抑制することが出来る。