(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】呼吸用気体供給装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
A61M 16/00 20060101AFI20230606BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
A61M16/00 305C
A61M16/00 315
A61B5/08
(21)【出願番号】P 2018188026
(22)【出願日】2018-10-03
【審査請求日】2021-09-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 理人
(72)【発明者】
【氏名】飯田 直之
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-531308(JP,A)
【文献】特開2004-105230(JP,A)
【文献】特開平01-221170(JP,A)
【文献】特開2001-170177(JP,A)
【文献】特開2018-114194(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0078392(US,A1)
【文献】国際公開第2017/178440(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00
A61B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置であって、
気体流路の圧力を測定する圧力センサと、
少なくとも第1圧力勾配閾値と、第1圧力勾配閾値よりも傾きの大きさが小さい第2圧力勾配閾値を含む設定された複数の圧力勾配閾値の中から、1つの圧力勾配閾値を選択する制御部とを備え、
前記制御部は、前記圧力センサの信号から算出した、呼気相から吸気相側に向かう圧力勾配の傾きの大きさが、選択した前記1つの圧力勾配閾値の傾きの大きさより大きくなった点を吸気検知点と判断するとともに前記吸気検知点から一定時間前記呼吸用気体を供給し、
前記制御部は、所定の吸気検知点からn回数分の吸気検知点を検出するのに要した時間が(7.5×n)秒より長い場合、圧力勾配閾値を選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが
1段階小さい圧力勾配閾値に切り替え、
前記制御部は、前記n回数分の吸気検知点を検出するのに要した時間が(1.2×n)秒より短い場合、圧力勾配閾値を選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが
1段階大きい圧力勾配閾値に切り替え、
前記第1圧力勾配閾値は-2.4Pa/20ms以上、-1.0Pa/20ms以下
の範囲内に設定され、
前記第2圧力勾配閾値は-0.8Pa/20ms以上、-0.1Pa/20ms以下
の範囲内に設定され、
前記第1圧力勾配閾値および前記第2圧力勾配閾値のそれぞれの範囲内に、複数の圧力勾配閾値が設定され得ることを特徴とする呼吸用気体供給装置。
【請求項2】
使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置であって、
気体流路の圧力を測定する圧力センサと、
少なくとも第1圧力勾配閾値と、第1圧力勾配閾値よりも傾きの大きさが小さい第2圧力勾配閾値を含む設定された複数の圧力勾配閾値の中から、1つの圧力勾配閾値を選択する制御部とを備え、
前記制御部は、前記圧力センサの信号から算出した、呼気相から吸気相側に向かう圧力勾配の傾きの大きさが、選択した前記1つの圧力勾配閾値の傾きの大きさより大きくなった点を吸気検知点と判断するとともに前記吸気検知点から一定時間前記呼吸用気体を供給し、
前記制御部は、前記直近複数回分の前記吸気検知点の間の時間の平均値が7.5秒よりも長い場合、圧力勾配閾値を前記選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが1段階小さい圧力勾配閾値に切り替え、
前記制御部は、前記直近複数回分の前記吸気検知点の間の時間の平均値が1.2秒よりも短い場合、圧力勾配閾値を前記選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが1段階大きい圧力勾配閾値に切り替え、
前記第1圧力勾配閾値は-2.4Pa/20ms以上、-1.0Pa/20ms以下
の範囲内に設定され、
前記第2圧力勾配閾値は-0.8Pa/20ms以上、-0.1Pa/20ms以下
の範囲内に設定され、
前記第1圧力勾配閾値および前記第2圧力勾配閾値のそれぞれの範囲内に、複数の圧力勾配閾値が設定され得ることを特徴とする呼吸用気体供給装置。
【請求項3】
最も傾きの大きさが小さい圧力勾配閾値を選択しているとき、前記n回数分の吸気検知点を検出するのに要した時間が(7.5×n)秒より長い場合、前記制御部は、前記呼吸用気体の供給を一定時間の連続供給又は一定周期のパルス供給に切り替えることを特徴とする請求項1または2に記載の呼吸用気体供給装置。
【請求項4】
前記呼吸用気体は濃縮酸素であり、前記呼吸用気体供給装置は酸素濃縮装置であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の呼吸用気体供給装置。
【請求項5】
使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置の制御部による制御方法であって、前記制御部において、
少なくとも第1圧力勾配閾値と、第1圧力勾配閾値よりも傾きの大きさが小さい第2圧力勾配閾値を含む設定された複数の圧力勾配閾値の中から、1つの圧力勾配閾値を選択する圧力勾配閾値選択ステップと、
前記呼吸サイクルを検知する圧力センサの信号から算出した、呼気相から吸気相側に向かう圧力勾配の傾きの大きさが、前記圧力勾配閾値選択ステップで選択した前記1つの圧力勾配閾値の傾きの大きさより大きくなる吸気検知点を検出する吸気検知点検出ステップと、
所定の吸気検知点からn回数分の吸気検知点を検出するのに要した時間が(7.5×n)秒より長い場合、圧力勾配閾値を選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが
1段階小さい圧力勾配閾値に切り替え、
前記n回数分の吸気検知点を検出するのに要した時間が(1.2×n)秒より短い場合、圧力勾配閾値を選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが
1段階大きい圧力勾配閾値に切り替える圧力勾配閾値切り替えステップとを制御し、
前記第1圧力勾配閾値は-2.4Pa/20ms以上、-1.0Pa/20ms以下
の範囲内に設定され、
前記第2圧力勾配閾値は-0.8Pa/20ms以上、-0.1Pa/20ms以下
の範囲内に設定され、
前記第1圧力勾配閾値および前記第2圧力勾配閾値のそれぞれの範囲内に、複数の圧力勾配閾値が設定され得ることを特徴とする呼吸用気体供給装置の制御方法。
【請求項6】
使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置の制御部による制御方法であって、前記制御部において、
少なくとも第1圧力勾配閾値と、第1圧力勾配閾値よりも傾きの大きさが小さい第2圧力勾配閾値を含む設定された複数の圧力勾配閾値の中から、1つの圧力勾配閾値を選択する圧力勾配閾値選択ステップと、
前記呼吸サイクルを検知する圧力センサの信号から算出した、呼気相から吸気相側に向かう圧力勾配の傾きの大きさが、前記圧力勾配閾値選択ステップで選択した前記1つの圧力勾配閾値の傾きの大きさより大きくなる吸気検知点を検出する吸気検知点検出ステップと、
前記直近複数回分の前記吸気検知点の間の時間の平均値が7.5秒よりも長い場合、前記1つの圧力勾配閾値を前記選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが1段階小さい圧力勾配閾値に切り替え、
前記直近複数回分の前記吸気検知点の間の時間の平均値が1.2秒よりも短い場合、前記1つの圧力勾配閾値を前記選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが1段階大きい圧力勾配閾値に切り替える圧力勾配閾値切り替えステップとを制御し、
前記第1圧力勾配閾値は-2.4Pa/20ms以上、-1.0Pa/20ms以下
の範囲内に設定され、
前記第2圧力勾配閾値は-0.8Pa/20ms以上、-0.1Pa/20ms以下
の範囲内に設定され、
前記第1圧力勾配閾値および前記第2圧力勾配閾値のそれぞれの範囲内に、複数の圧力勾配閾値が設定され得ることを特徴とする呼吸用気体供給装置の制御方法。
【請求項7】
最も傾きの大きさが小さい圧力勾配閾値を選択しているとき、前記n回数分の吸気検知点を検出するのに要した時間が(7.5×n)秒より長い場合、前記制御部は、前記呼吸用気体の供給を一定時間の連続供給又は一定周期のパルス供給に切り替えるステップを有することを特徴とする請求項5または6に記載の呼吸用気体供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は使用者の呼吸サイクルに応じて、濃縮酸素などの呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
喘息、肺気腫、慢性気管支炎などの呼吸器系疾患の治療法として、患者に高濃度の酸素ガスを吸入させ、不足している酸素を補う酸素吸入療法が行われている。在宅酸素吸入療法は、医師の処方に従って、酸素濃縮装置や酸素ボンベなどの呼吸用気体供給装置を、患者である使用者が操作し、自宅で酸素吸入療法を行うものである。最近では、バッテリーで駆動する携帯式の酸素濃縮装置なども開発され、呼吸用気体供給装置の用途が拡大している。
【0003】
携帯型の呼吸用気体供給装置では、装置の小型軽量化と長時間の稼働を可能にするため、デマンドレギュレータ機能を備えた呼吸同調式のものが多い(特許文献1、2)。デマンドレギュレータ機能は、圧力センサなどで使用者の呼吸位相を検知し、呼吸サイクルに同調して吸気相でのみ酸素ガスなどの呼吸用気体を供給し、呼気相では供給を停止する。呼吸用気体を連続して供給するのではなく、使用者の呼吸サイクルに応じてパルス的に供給することで、呼吸用気体の節減、消費電力の削減が図れる。
【0004】
デマンドレギュレータ機能で呼吸位相を検知する手段は、カニューラに気体を供給する気体供給経路に圧力センサを設け、呼吸位相に伴う圧力変化を検出する方法などが考案されており、圧力センサで検出した圧力値が、予め定めた圧力値閾値より低下した場合、又は呼気相から吸気相側に向かう圧力値の時間変化率(圧力勾配)が、予め定めた圧力勾配閾値を超えた場合に、吸気相が開始したと判断する方法がある。
【0005】
呼吸位相の検知に用いられる圧力センサは検出感度が極めて高いため、温度などの使用環境の影響や、長期間の使用による経時変化の影響により、圧力センサの基準点がシフトするオフセットの問題がある。圧力値閾値により吸気相開始を検知しようとすると、オフセットによる測定値のシフトにより、吸気相開始の検知エラー又は吸気相開始の検知タイミングの遅れなどが生じる。このため、オフセットの影響を受け難い、圧力勾配閾値で吸気相開始を検知する方法が好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2656530号公報
【文献】特開2004-105230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
人の呼吸パターンは、安静、労作、睡眠といった活動状況によって大きく異なる。このため、圧力勾配閾値で吸気相開始を判断する方法を採用しても、使用者の活動状況が変わることにより吸気相開始の検知エラーが多発する場合があり、デマンドレギュレータ機能を使用する際の問題の一つとなっている。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、使用者の呼吸位相を正確に検知し、呼吸サイクルに同調して吸入用気体を供給するデマンドレギュレータ機能を備えた、呼吸用気体供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の(1)~(18)の態様を含む。
(1)本発明の呼吸用気体供給装置は、使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置であって、気体流路の圧力を測定する圧力センサと、設定された複数の圧力勾配閾値の中から、1つの圧力勾配閾値を選択する制御部とを備え、前記制御部は、前記圧力センサの信号から算出した、呼気相から吸気相側に向かう圧力勾配の傾きの大きさが、選択した前記1つの圧力勾配閾値の傾きの大きさより大きくなった点を吸気検知点と判断するとともに前記吸気検知点から一定時間前記呼吸用気体を供給し、かつ前記吸気検知点を所定の回数検出するのに要した時間に基づいて、前記複数の圧力勾配閾値の中のいずれかに前記1つの圧力勾配閾値を切り替えることを特徴とする。
(2)(1)において、前記複数の圧力勾配閾値は、少なくとも2つの圧力勾配閾値を含み、前記制御部は、前記吸気検知点を所定回数検出するのに要した時間が第1の時間より長い場合、圧力勾配閾値を選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが小さい圧力勾配閾値に切り替え、前記制御部は、前記吸気検知点を所定回数検出するのに要した時間が第2の時間より短い場合、圧力勾配閾値を選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが大きい圧力勾配閾値に切り替えることを特徴とする。
(3)(2)において、圧力勾配閾値として、少なくとも第1圧力勾配閾値と、第1圧力勾配閾値よりも傾きの大きさが小さい第2圧力勾配閾値を含み、前記第1圧力勾配閾値は-2.4Pa/20ms以上、-1.0Pa/20ms以下であり、前記第2圧力勾配閾値は-0.8Pa/20ms以上、-0.1Pa/20ms以下であることを特徴とする。
(4)(2)から(4)のいずれかにおいて、前記第1の時間は、60秒あたり1回から8回の吸気検知点を検出するのに要する時間に相当する時間であることを特徴とする。
(5)(2)又は(3)において、前記第2の時間は、60秒あたり48回から60回の吸気検知点を検出するのに要する時間に相当する時間であることを特徴とする。
(6)(2)から(5)のいずれかにおいて、最も傾きの大きさが小さい圧力勾配閾値を選択しているとき、前記吸気検知点を所定回数検出するのに要した時間が第3の時間より長い場合、前記制御部は、前記呼吸用気体の供給を一定時間の連続供給又は一定周期のパルス供給に切り替えることを特徴とする。
(7)(2)から(6)のいずれかにおいて、前記第3の時間は、60秒あたり1回から10回の吸気検知点を検出するのに要する時間に相当する時間であることを特徴とする。
(8)本発明の呼吸用気体供給装置は、使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置であって、気体流路の圧力を測定する圧力センサと、設定された複数の圧力勾配閾値の中から、1つの圧力勾配閾値を選択する制御部とを備え、前記制御部は、前記圧力センサの信号から算出した、呼気相から吸気相側に向かう圧力勾配の傾きの大きさが、選択した前記1つの圧力勾配閾値の傾きの大きさより大きくなった点を吸気検知点と判断するとともに前記吸気検知点から一定時間前記呼吸用気体を供給し、かつ直近複数回分の前記吸気検知点の間の時間の平均値に基づいて、前記複数の圧力勾配閾値の中のいずれかに前記1つの圧力勾配閾値を切り替えることを特徴とする。
(9)(8)において、前記複数の圧力勾配閾値は、少なくとも2つの圧力勾配閾値を含み、前記制御部は、前記直近複数回分の前記吸気検知点の間の時間の平均値が第1の時間よりも長い場合、圧力勾配閾値を前記選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが小さい圧力勾配閾値に切り替え、前記制御部は、前記直近複数回分の前記吸気検知点の間の時間の平均値が第2の時間よりも短い場合、圧力勾配閾値を前記選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが大きい圧力勾配閾値に切り替えることを特徴とする。
(10)(9)において、前記第1の時間は、7.5秒よりも長いことを特徴とする。
(11)(9)において前記第2の時間は、1.2秒よりも短いことを特徴とする。
(12)(1)から(11)のいずれかにおいて、前記呼吸用気体は濃縮酸素であり、前記呼吸用気体供給装置は酸素濃縮装置であることを特徴とする。
(13)本発明の制御方法は、使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置の制御方法であって、設定された複数の圧力勾配閾値の中から、1つの圧力勾配閾値を選択する圧力勾配閾値選択ステップと、前記呼吸サイクルを検知する圧力センサの信号から算出した、呼気相から吸気相側に向かう圧力勾配の傾きの大きさが、前記圧力勾配閾値選択ステップで選択した前記1つの圧力勾配閾値の傾きの大きさより大きくなる吸気検知点を検出する吸気検知点検出ステップと、前記吸気検知点を所定回数検出するのに要した時間に基づいて、前記複数の圧力勾配閾値の中のいずれかに前記1つの圧力勾配閾値を切り替える圧力勾配閾値切り替えステップとを有することを特徴とする。
(14)(13)において、前記吸気検知点検出ステップにおいて吸気検知点を検出すると、前記呼吸用気体を一定時間パルス供給するステップをさらに有することを特徴とする。
(15)(13)又は(14)において、前記圧力勾配閾値切り替えステップは、前記吸気検知点を所定回数検出するのに要した時間が第1の時間より長い場合、圧力勾配閾値を選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが小さい圧力勾配閾値に切り替え、前記吸気検知点を所定回数検出するのに要した時間が第2の時間より短い場合、圧力勾配閾値を選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが大きい圧力勾配閾値に切り替えることを特徴とする。
(16)本発明の制御方法は、使用者の呼吸サイクルに応じて呼吸用気体を供給する、呼吸同調式の呼吸用気体供給装置の制御方法であって、設定された複数の圧力勾配閾値の中から、1つの圧力勾配閾値を選択する圧力勾配閾値選択ステップと、前記呼吸サイクルを検知する圧力センサの信号から算出した、呼気相から吸気相側に向かう圧力勾配の傾きの大きさが、前記圧力勾配閾値選択ステップで選択した前記1つの圧力勾配閾値の傾きの大きさより大きくなる吸気検知点を検出する吸気検知点検出ステップと、直近複数回分の前記吸気検知点の間の時間の平均値に基づいて、前記複数の圧力勾配閾値の中のいずれかに前記1つの圧力勾配閾値を切り替える圧力勾配閾値切り替えステップとを有することを特徴とする。
(17)(16)において、前記吸気検知点検出ステップにおいて吸気検知点を検出すると、前記呼吸用気体を一定時間パルス供給するステップをさらに有することを特徴とする。
(18)(16)又は(17)において、前記圧力勾配閾値切り替えステップは、前記直近複数回分の前記吸気検知点の間の時間の平均値が第1の時間よりも長い場合、前記1つの圧力勾配閾値を前記選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが小さい圧力勾配閾値に切り替え、前記直近複数回分の前記吸気検知点の間の時間の平均値が第2の時間よりも短い場合、前記1つの圧力勾配閾値を前記選択されている圧力勾配閾値より傾きの大きさが大きい圧力勾配閾値に切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、呼吸位相を正確に検知し、呼吸サイクルに同調して吸入用気体を供給するデマンドレギュレータ機能を備えた、呼吸用気体供給装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】呼吸用気体供給装置のデマンドレギュレータ機能の構成を示す図である。
【
図3】マニュアル切り替えを含む圧力勾配閾値切り替えのフロー図である。
【
図4】呼吸用気体の自動連続供給への切り替えを含むフロー図である。
【
図5】呼吸用気体の自動パルス供給への切り替えを含むフロー図である。
【
図6】覚醒時の呼吸パターンと睡眠時の呼吸パターンを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図6は人における覚醒時の呼吸パターンと、睡眠時の呼吸パターンとを模式的に示したものである。通常、睡眠時の呼吸は浅くなるため、睡眠時の呼吸パターン(
図6(b))では、覚醒時の呼吸パターン(
図6(a))に比べて圧力振幅が小さく、呼気相から吸気相側に向かう圧力勾配も小さい。なお、呼吸パターンの呼気相から吸気相側に向かう圧力勾配は常にゼロ以下である。本発明において圧力勾配の大小とは、圧力勾配の絶対値についての大小を意味する。
【0014】
例えば、
図6の呼吸パターンについて、圧力勾配閾値(以下、「閾値A」ということもある。)を-2.0Pa/20msと設定し、圧力センサで測定された圧力勾配
の傾きの大きさが、閾値A
の傾きの大きさより大きくなる点を吸気検知点Gとし、この吸気検知点Gを吸気相の開始と判断する。覚醒時の呼吸パターンである
図6(a)では、呼気相から吸気相に移った直後に圧力勾配は-4.0Pa/20msの最大勾配となり閾値A
の傾きの大きさより大きくなるので、吸気相の開始を吸気検知点Gとして検知できる。
【0015】
一方、睡眠時の呼吸パターンである
図6(b)では、覚醒時に比べ呼吸が浅く緩やかなため圧力勾配
の傾きの大きさは最大でも-1.0Pa/20msと閾値A
の傾きの大きさより大きくなることが少ない。このため、吸気検知点Gが検出されず、吸気相開始の検知エラーとなりやすい。このとき、例えば閾値Aを-0.2Pa/20msに設定しなおせば、感度が上がり最大勾配が-1.0Pa/20msであっても吸気検知点Gを検出できる。しかし、睡眠時に合わせた閾値Aを覚醒時に設定すると、感度が高すぎて、呼吸用気体供給装置の携帯中に生じる振動や僅かな体動などによって生じる圧力センサのノイズまで圧力変化として検知し、吸気検知点Gの誤検知が多発する。
【0016】
実施形態の呼吸用気体供給装置におけるデマンドレギュレータ機能は、覚醒時に適した圧力勾配閾値(閾値A1、閾値A2、閾値A3)と、睡眠時に適した圧力勾配閾値(閾値A4)が予め設定されており、呼吸用気体供給装置の制御部が、吸気検知点Gを所定の回数検出するのに要した時間を基準に、使用者が覚醒中であるか睡眠中であるか、および吸気相の開始を適切に検知できているかを判断し、閾値A1、閾値A2、閾値A3、閾値A4を切り替える機能を有している。
【0017】
図1は呼吸用気体供給装置のデマンドレギュレータ機能の主な構成を示す図である。図中、実線は気体の流路を示し、点線は電気的な信号の経路を示す。呼吸用気体供給源1は、例えば酸素濃縮器、酸素ボンベなどであり、吸入用気体を所定の圧力と濃度で供給する。コントロールバルブ6は電磁バルブなどであり、制御部5からの信号により開閉される。呼吸用気体供給源1から供給された気体は、制御部5に制御されたコントロールバルブ6の開閉により、カニューラ2から使用者に供給される。コントロールバルブ6とカニューラ2をつなぐ気体供給経路3には、圧力センサ4が設けられている。
【0018】
デマンドレギュレータ機能では、圧力センサ4が使用者の呼吸によって変動する、気体供給経路3の圧力を常時測定し制御部5に送信する。制御部5は圧力センサ4によって得られたリアルタイムの呼吸パターンから吸気検知点Gを検出し、吸気検知点Gを吸気相の開始と判断してコントロールバルブ6を開き、カニューラ2へ一定流量の呼吸用気体を一定時間だけ供給した後コントロールバルブ6を閉じる。また一般的に、吸気の前半60%以降に投与された酸素は死腔に留まり肺胞でのガス交換に関与しないこと、患者の呼吸数は一般的に8~48bpm程度であることを踏まえると、供給酸素量のほぼ全てを確実に肺胞での酸素交換に充てるためには、吸気検知点Gが検知されてから約0.24~1.2秒以内に酸素供給が完了していることが望ましい。
【0019】
また、制御部5はコントロールバルブ6の制御と並行して、吸気検知点Gを予め設定された回数を検知するのに要した時間から、吸気検知点Gの検出に使用している閾値Aの切り替えが必要か判断する。より具体的には、所定回数の検出に要した吸気検知点Gの時間を基準に、覚醒時に適した圧力勾配閾値(閾値A1、閾値A2、閾値A3)又は睡眠時に適した圧力勾配閾値(閾値A4)のいずれかを選択して閾値Aを切り替える。
【0020】
制御部5が閾値Aの切り替えの要否を判断し、閾値Aを閾値A
1、閾値A
2、閾値A
3又は閾値A
4に切り替えるフローを
図2に示す。
【0021】
装置が起動されデマンドレギュレータ機能が作動すると、制御部5は閾値Aを覚醒時に
適した圧力勾配閾値のうち最も低い感度である圧力勾配閾値(閾値A
1)に設定する(ステップS1)。閾値A
1、閾値A
2、閾値A
3については、覚醒時における複数のHOT患者の呼吸パターンを測定し検討した結果、-4.0Pa/20ms~-1.0Pa/20msの範囲に設定することができ、-2.4Pa/20ms~-1.0Pa/20msの範囲とすることが好ましく、閾値A
1は-4.0Pa/20ms程度、閾値A
2は-2.0Pa/20ms程度、閾値A
3は-1.0Pa/20ms程度が更に好ましいとわかった。また、閾値A
4について睡眠時における複数のHOT患者の呼吸パターンを測定し検討した結果、実際の呼吸回数に対する吸気検知点Gの回数の比率(検知率)を75%以上に保つためには、閾値A
4は-0.8Pa/20ms~-0.1Pa/20msであることが好ましく、-0.2Pa/20ms程度が更に好ましいとわかった。閾値A
1、閾値A
2、閾値A
3が-2.4Pa/20msより大きい場合、あるいは閾値A
4が-0.8Pa/20msより大きい場合、それぞれ覚醒時、睡眠時の患者呼吸パターンに対して感度が不足するため実際の呼吸回数に対する吸気検知点Gの検知率が75%未満となり、使用者の血中酸素飽和度(SpO2)を一般的な適正値とされる90%以上に保つために十分な呼吸用気体が供給できない。
図2~5は、4段階の圧力勾配閾値を有する場合の例であり、閾値A
1が-4.0Pa/20ms、閾値A
2が-2.0Pa/20ms、閾値A
3が-1.0Pa/20ms、閾値A
4が-0.2Pa/20msの例で示している。
【0022】
また、閾値A1、閾値A2、閾値A3が-1.0Pa/20msより小さい場合、又は閾値A4が-0.1Pa/20msより小さい場合は、実際の呼吸回数に対する吸気検知点Gの検知率が130%以上となる。圧力センサ4のノイズを誤って吸気検知点Gと検知する割合が大きくなり、吸気相の開始と同調した呼吸用気体の供給がされないため、使用者は不快を感じ、また呼吸用気体の消費も多くなる。
【0023】
制御部5はステップS1で設定された閾値A1と、圧力センサ4の信号から求めた圧力勾配から、吸気検知点Gを検出し吸気相の開始と同調した呼吸用気体のパルス供給を開始する。
【0024】
次に、制御部5は所定の回数分の吸気検知点Gのタイミングを記憶し、最新の吸気検知点Gのタイミングと、そこから過去所定の回数分遡った吸気検知点Gの検出タイミングとの時間差により、閾値A1から閾値A2、閾値A2から閾値A3、閾値A3から閾値A4への切り替えの要否を判断する(ステップS2、S5、S8)。閾値A1から閾値A2、閾値A2から閾値A3、閾値A3から閾値A4に切り替える判断は、測定時の最新の吸気検知点Gからnup回分遡った吸気検知点のタイミングとの差分が所定時間tup秒間を超えるか否かを基準とする。ヒトの呼吸数は一般的に8~48bpm程度であるため、例えば、最新の吸気検知点Gから4回遡った吸気検知点との検知タイミングの差分が30秒間(8bpm相当)を超えた場合には((tup,nup)=(30,4))、現在の閾値A(閾値A1、閾値A2、又は閾値A3)では、吸気検知点Gを正確に検知できていない可能性が高い。そこで、制御部5は、吸気検知点4回に対するtupが30秒以上のとき閾値Aを一段階感度の高い閾値A2、閾値A3、又は閾値A4への切り替えを行う(ステップS3,S6,S9)。
【0025】
所定回数n
upの吸気検知点Gの検出にする時間t
upをカウントするためのn
upは、3回~12回程度が好ましい。また、判断基準とするt
up,n
upの組合せは、上述した(t
up,n
up)=(30,4)以外にも、60秒あたり1回~8回に相当する関係を満たす限りは、あらゆるt
up,n
upの組合せでも実施可能である。(例えば、(t
up,n
up)=(30,3)、(60,3)、(60,4)、(60,5)、(60,6)、(60,7)、(60,8)、(90,4)、(90,5)、(90,6)、(90,7)、(90,8)、(90,9)、(90,10)、(90,11)、(90,12)など)。(t
up,n
up)の組み合わせが60秒あたりの8回より多い(つまり、8回の吸気を検知するのに60秒未満)と、正しく呼吸検知できているにもかかわらず、より感度の高い閾値Aへの不要な切り替えが行われる可能性が高くなり、体動等の外乱による吸気検知点Gの誤検知による閾値の切り替えが頻発し使用者が不快に感じる。また、60秒あたりのn
upが1回より少ないと吸気検知が不十分となっているにもかかわらず閾値の切り替えが遅れ、現在の患者呼吸パターンに対して低すぎる感度の閾値Aが選択され続けることになり、使用者に十分な呼吸用気体が供給できず、呼吸用気体供給装置による治療の効果が低下する。なお、
図2~5は、(t
up,n
up)=(30,4)の例で示している。
【0026】
ステップS9で圧力勾配閾値が睡眠時に適した閾値A4に切り替えられると、制御部5は圧力センサ4で測定される呼吸パターンから、圧力勾配が閾値A4
の傾きより大きさが大きくなった点を吸気検知点Gとして検出し、呼吸用気体をパルス供給する。閾値Aが閾値A4に切り替えられたことにより、閾値A1~A3で検知不能となりやすかった睡眠時における吸気層の開始点も吸気開始点Gとして検出可能となる。
【0027】
閾値A2、閾値A3、又は閾値A4が選択されているとき、制御部5は所定の回数吸気検知点Gが検出されるのに要する時間をカウントし、閾値A4から閾値A3、閾値A3から閾値A2、又は閾値A2から閾値A1への切り替えの要否を判断する(ステップS4、S7、S10)。閾値A4から閾値A3、、閾値A3から閾値A2、又は閾値A2から閾値A1に切り替える判断は、測定時から最新の吸気検知点Gをndown回検出するのに要した時間がtdown秒間よりも短くなるか否かを基準とする。上述の通り、ヒトの呼吸数は8~48bpm程度であるため、例えば、吸気検知点Gを5秒未満で4回検出した場合(48bpm相当)には((tdown,ndown)=(5,4))、現在の閾値A(閾値A2、閾値A3、又は閾値A4)で吸気検知点Gを検出する条件では、感度が高すぎてノイズを吸気検知点Gと誤検知している可能性が高い。そこで、吸気検知点4回に対するtdownが5秒より短いときは閾値Aを一段階感度の低い閾値A3、閾値A2、又は閾値A1に切り替える(ステップS1、S3、S6)。
【0028】
所定回数n
downを検知するのに必要な時間t
downをカウントするためのn
downは、3から60回程度が好ましい。また、判断基準とするt
down,n
downの組合せは、上述した(t
down,n
down)=(5,4)以外にも、60秒あたり48~60回に相当する関係を満たす限りは、あらゆるt
down,n
downの組合せでも実施可能である。(例えば、(t
down,n
down)=(15,12)、(15,13)、(15,14)(15,15)、(30,24)、(30,25)、(30,26)、(30,27)、(30,28)、(30,29)(30,30)、(60,48)、(60,49)、(60,50)、(60,51)、(60,52)、(60,53)、(60,54)、(60,55)、(60,56)、(60,57)、(60,58)、(60,59)、(60,60)など)。48回の吸気検知点Gの検出に要する時間の閾値t
downが60秒より長いと、正しく呼吸検知できているにもかかわらずより感度の低い閾値Aへの不要な切り替えが行われる可能性が高くなり、患者の呼吸を正しく検知できず、結果として使用者に十分な呼吸用気体が供給できず、呼吸用気体供給装置による治療効果が低減する。また、48回の吸気検知点Gの検出に要する時間の閾値t
downが48秒より短いと、体動等の外乱による吸気検知点Gの誤検知が発生しているにもかかわらず現在の呼吸パターンに対して高すぎる感度の閾値Aが選択され続けることになり、吸気以外のタイミングにも呼吸用気体がパルス供給され使用者が不快を感じやすくなる。なお、
図2~5は、(t
down,n
down)=(5,4)の例で示している。
【0029】
このように、制御部5は、最新の吸気検知点Gから遡り所定の回数nup回の吸気検知点Gの検出に要した時間tupと、最新の吸気検知点Gから遡り所定の回数ndown回の吸気検知点Gの検出に要した時間tdownと閾値A1、閾値A2、閾値A3、閾値A4を切り替え、使用者の状態に応じたデマンドレギュレータ機能の制御を行うため、吸気相の開始を正確に検知し、呼吸サイクルに同調した呼吸用気体を供給することができる。
【0030】
また、閾値A1、閾値A2、閾値A3、閾値A4は、直近複数回分の吸気検知点G同士の時間間隔の平均値を基準に切り替えることも可能である。より具体的には、直近複数回分の吸気検知点Gの間の時間の平均値が所定時間t1よりも長いと呼吸が正確に検知されていないと判断し、閾値Aをより感度の高い閾値Aに切り替える。逆に、直近複数回分の吸気検知点Gの間の時間の平均値が所定時間t2よりも短いと体動等の外乱を誤検知していると判断し、閾値Aをより感度の低い閾値Aに切り替える。このとき、ヒトの呼吸数は一般的に8~48bpm程度であることを考慮すると、t1は7.5秒よりも長く、t2は1.2秒よりも短いことが望ましい。
【0031】
また、上記では実施形態の一例として、切り替え可能な圧力勾配閾値Aの段階数を4段階のものを示したが、閾値Aは上記の切り替え方法の範囲内において、任意の段階数に設定することも可能であり、連続的に変化させてもよい。
【0032】
図1の実施形態の呼吸用気体供給装置では、使用者はユーザーインターフェース7から、感度切り替え信号を制御部5に送信し、閾値A
1、閾値A
2、閾値A
3、閾値A
4の切り替えを手動で行うこともできる。
図3は使用者のマニュアル操作によって感度切り替え可能なフローの一例である。
【0033】
装置が起動されデマンドレギュレータ機能が作動すると、制御部5は閾値Aを閾値A
1に設定する(ステップS11)。使用者がユーザーインターフェース7の感度上昇ボタンを押すと(ステップS12)、ステップS14に進み閾値A
1が閾値A
2に切り替えられる。閾値AがA
2、A
3(ステップS14、S19)の場合も同様に、感度上昇ボタンを押すと(ステップS15、S20)、ステップS19、ステップS24に進み、閾値AがA
3、A
4に切替えられる。また、呼吸用気体供給装置が閾値A
2で制御されているとき、使用者が感度低下ボタンを押すと(ステップS16)、ステップS11に進み閾値A
1に切り替えられる。閾値AがA
3、A
4(ステップS19、S24)の場合も同様に、感度低下ボタンを押すと(ステップS21、S25)、ステップS14、ステップS19に進み、閾値AがA
2、A
3に切替えられる。
図3の例では、使用者による感度切り替えボタンの操作が、制御部5による所定回数の吸気検知点Gの検出に要する時間t
up、t
downを基準とする判断に優先して、圧力勾配閾値が切り替えられる。
【0034】
図4は呼吸位相に同調した呼吸用気体のパルス供給に加え、呼吸位相とは関係なく約90秒間だけ呼吸用気体を連続供給する安全機能を備えた例である。ステップS40までの流れは、
図2のステップS1~10と同じである。ステップS40で吸気検知点Gを4回検出するのに要した時間が5秒以上の場合、ステップS41で最新の吸気検知点Gから遡り所定回数n
backup回の吸気検知点Gの検出に要した時間がt
backup秒間以上となるか否かをチェックし、睡眠時における最低限の呼吸回数が検知できているか確認する。
【0035】
上述の通り、ヒトの呼吸数は一般的に8~48bpm程度であるため、例えば、4回の吸気検知点Gの検出に要した時間が30秒以上(8bpm相当)となった場合には((t
backup,n
backup)=(30,4))、感度の高い閾値A
4で制御しているにもかかわらず、吸気検知点Gの間隔が長く呼吸用気体が十分に供給されていない可能性が高い。そこで、制御部5は呼吸用気体の供給方法を連続供給(オート連続流)するように切り替える(ステップS42)。
図1によると、呼吸用気体の連続供給中はコントロールバルブ6が解放状態を継続し、圧力センサ4は呼吸用気体の圧力を検知圧として出力するため、この間は呼吸に伴う圧力変動を検知することができない。したがって、定期的に呼吸用気体の連続供給を止めて、使用者の呼吸が十分に検知可能な強さに戻ったかを確認する必要があるため、オート連続流の供給開始から一定時間が経過すると制御部5は閾値AをA
4に戻して吸気検知点Gの検出を再開する(ステップS45)。発明者らの検討によれば、オート連続流の供給時間は、睡眠時における複数のHOT患者の呼吸パターンを測定し検討した結果、10秒~120秒とすることで呼吸時間全体の75%以上の時間で呼吸用気体を吸える可能性が高く、90秒程度がさらに好ましい。
【0036】
図5は呼吸位相に同調した呼吸用気体のパルス供給に加え、呼吸位相とは関係なく一定周期で呼吸用気体をパルス供給する安全機能を備えた例である。ステップS51~S61までの流れは、
図4のステップS31~41と同じである。
【0037】
制御部5は、オート連続流を供給する(
図4のステップS42)ことに代えて、呼吸用気体の供給方法を一定周期(例えば50bpm)でパルス供給(オートパルス)するように切り替える(ステップS62)。このオートパルス動作の期間も閾値A
4による吸気検知点Gの検出は継続されており、吸気検知点Gが再検出されると制御部5はオートパルス供給を解除する(ステップS65)。
【0038】
吸気検知点Gを所定回数検出するのに要する時間t
backupを測定する際の所定回数n
backupは、3回から12回が好ましい。また、判断基準とするt
backup、n
backupの組合せは、上述した(t
backup,n
backup)=(30,4)以外にも、60秒あたり1回~8回に相当する関係を満たす限りは、あらゆるt
backup,n
backupの組合せでも実施可能である。(例えば、(t
backup,n
backup)=(30,3)、(60,3)、(60,4)、(60,5)、(60,6)、(60,7)、(60,8)、(90,4)、(90,5)、(90,6)、(90,7)、(90,8)、(90,9)、(90,10)、(90,11)、(90,12)など)。なお、
図5は、(t
backup,n
backup)=(30,4)の例で示している。3回の吸気検知点Gの検出に要する時間t
backupが20秒より短いと、閾値A
4において実際の呼吸回数に対する吸気検知点Gの検知率が75%以上となるよう吸気検知できているにもかかわらず、不必要に呼吸用気体のオート連続流もしくはオートパルス供給が開始される。酸素をオート連続流もしくはオートパルスで供給することにより、未供給時に比べて患者の血中酸素飽和度低下リスクを低減することが可能となるが、患者の呼吸パターンに関係なく呼吸用気体を自動供給する方式であることを考慮すると、必ずしも患者が必要とする酸素量を十分に満足するとは限らない。そのため、呼吸用気体供給装置が酸素濃縮器の場合には治療効果が低下する可能性が高くなる。したがって、吸気検知が適切に行われて患者が必要とする量の酸素が十分に供給されている場合は、オート連続流もしくはオートパルスへの不必要な切り替えは避けることが望ましい。また、3回の呼吸検知点Gの検出に要する時間がt
backupが180秒より長いと吸気検知点Gがほとんど検出できておらずオート連続流もしくはオートパルスの供給が遅れ、睡眠中の使用者に十分な呼吸用気体が供給できず、呼吸用気体供給装置による治療の効果が低下する。そして、オート連続流もしくはオートパルスへの切り替え条件(ステップS41又はステップS61)を30分間で5回満たしたとき(ステップS43又はステップS63)は、使用者又は呼吸用気体供給装置に、何らかの異常が起きている可能性が高いと判断して警報を鳴らす(ステップS44又はステップS64)。
【0039】
図4、
図5のフローでは、吸気検知点Gがほとんど検出できず、デマンドレギュレータ機能では呼吸用気体を十分に供給できない状態になっても、呼吸用気体がオート連続流もしくはオートパルスの供給により自動供給されるので、使用者が息苦しさを感じるリスクが低下する。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、吸気相の開始を検知する圧力勾配閾値を、呼吸用気体供給装置の制御部が使用者の状態に応じて切り替えるので、呼吸位相を正確に検知し、呼吸サイクルに同調して吸入用気体を供給するデマンドレギュレータ機能を備えた、呼吸用気体供給装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 呼吸用気体供給源
2 カニューラ
3 気体供給経路
4 圧力センサ
5 制御部
6 コントロールバルブ
7 ユーザーインターフェース