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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】透明樹脂製成型体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230606BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20230606BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08L23/06
C08L101/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019053725
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020152849
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】柿原 一郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敏夫
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/028553(WO,A1)
【文献】特開2002-104365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00
C08L 23/06
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン樹脂を含有し、
視認性又は光線透過を有する透明部分を含み、
当該透明部分の厚みが0.2mm以上であり、
当該透明部分が以下の(1)及び(2)の条件を満たす、透明樹脂製成型体;
(1)0.3mmの厚み換算において、波長300nmから800nmの紫外線及び可視光線領域において透過度が70%以上であること、
(2)DSCによる温度変調解析において、100℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH1と非可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH2との差(絶対値)が20J/g以下であること。
【請求項2】
前記透明部分が以下の(3)及び(4)の条件を満たす、請求項1に記載の透明樹脂製成型体;
(3)0.3mmの厚み換算において、波数が4000cm-1から400cm-1の赤外線領域で全スペクトルに対して、60%透過度における透過する割合が40%以上であること、
(4)0.3mmの厚み換算において、波長250nmから300nmの深紫外線の平均透過度が50%以上であること。
【請求項3】
前記透明部分のDSCによる温度変調解析において、60℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、非可逆成分の発熱のエンタルピー変化ΔH3の絶対値が20J/g以下である、請求項1又は2に記載の透明樹脂製成型体。
【請求項4】
前記透明部分のDSCによる温度変調解析において、100℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH1から求められる結晶化度が30%以上50%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の透明樹脂製成型体。
【請求項5】
含有する樹脂のDSC法で測定される融点より6℃低い温度での引張測定において、ひずみ応力曲線の降伏後に立ち上がりがあり、破断強度が降伏強度より高い、請求項1~4のいずれか一項に記載の透明樹脂製成型体。
【請求項6】
含有する樹脂の190℃における伸長粘度測定において粘度カーブの立ち上がり(歪硬化性)が見られる、請求項1~5のいずれか一項に記載の透明樹脂製成型体。
【請求項7】
90℃以上の熱湯と接触させたときの収縮率が1%未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の透明樹脂製成型体。
【請求項8】
成型時の端材又は成型品をリワーク材として全体に対して5質量%から50質量%使用する、請求項1~7のいずれか一項に記載の透明樹脂製成型体。
【請求項9】
含有する樹脂の溶液粘度分子量Mvに対する溶融張力MT(g)の関係が次式を満たす、請求項1~のいずれか一項に記載の透明樹脂製成型体。
MT>Mv/10000-6
【請求項10】
前記透明部分がクロム系触媒により重合されたポリエチレン樹脂を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の透明樹脂製成型体。
【請求項11】
前記透明部分について、-30℃の落錐衝撃試験における全吸収エネルギーが2J以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載の透明樹脂製成型体。
【請求項12】
20~200秒の間に常温から原料のシートの融点T℃までの温度に上げ、製品中間体の温度制御の範囲がT℃±10%以内になる工程を有し、金型内へのプラグによる延伸とエアーの吹込みとによって成型体を得る工程を含み、
該成型体が、ポリエチレン樹脂を含有し、視認性又は光線透過を有する透明部分を含み、当該透明部分の厚みが0.2mm以上であり、当該透明部分が以下の(1)及び(2)の条件を満たす、透明樹脂製成型体である、透明樹脂製成型体の製造方法。
(1)0.3mmの厚み換算において、波長300nmから800nmの紫外線及び可視光線領域において透過度が70%以上であること、
(2)DSCによる温度変調解析において、100℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH 1 と非可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH 2 との差(絶対値)が20J/g以下であること。
【請求項13】
シート成型により押し出された原料のシートを常温まで冷却することなく製品中間体の温度制御の範囲が原料のシートの融点T℃±10%以内になる工程を有し、金型内へのプラグによる延伸とエアーの吹込みとによって成型体を得る工程を含み、
該成型体が、ポリエチレン樹脂を含有し、視認性又は光線透過を有する透明部分を含み、当該透明部分の厚みが0.2mm以上であり、当該透明部分が以下の(1)及び(2)の条件を満たす、透明樹脂製成型体である、透明樹脂製成型体の製造方法。
(1)0.3mmの厚み換算において、波長300nmから800nmの紫外線及び可視光線領域において透過度が70%以上であること、
(2)DSCによる温度変調解析において、100℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH 1 と非可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH 2 との差(絶対値)が20J/g以下であること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明樹脂製成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品などを入れる容器は軽量であること、カップなどの成型が容易であること、生産性に優れること、比較的安価であることから樹脂による容器がよく使われている。さらに中身の見える視認性が求められる用途には透明樹脂が用いられており、落としても割れないことが求められる用途には耐衝撃性に優れる樹脂が使われている。
【0003】
近年、コンビニエンスストアー等では店舗で挽いたコーヒーをカップに入れて飲むスタイルが流行しており、そのコーヒーを入れるカップにも樹脂製容器が使われている。そのなかでアイスコーヒー用は透明性のカップが好まれており透明樹脂が使われている。従来は店舗で注文を受けてから氷をカップに入れコーヒーを注いでいたため、透明性、熱湯程度の耐熱性が求められていたが、店舗での負担削減の為、あらかじめカップに氷を入れシール材で封入するタイプとなり冷凍庫保存となって、低温耐衝撃性が求められるようになった。さらに工場でカップに氷を入れて低温冷凍輸送するようになり、更なる低温耐衝撃特性が求められるようになってきている。
【0004】
当初は耐衝撃性ポリスチレンが使用されていたが、透明であるものの低温耐衝撃性に課題がある。耐衝撃性ポリエチレン、アクリル及びポリカーボネートは非結晶性樹脂で本来透明であるがガラス転移点以下では耐衝撃性に劣り、多くは室温付近にガラス転移点が存在するため低温耐衝撃性に劣るものが多い。
【0005】
次にポリプロピレンは常温での耐衝撃性に優れており、特にポリプロピレンブロック共重合体は-5℃付近まで耐衝撃性に優れているが、ポリプロピレン相とポリエチレン相が海島構造をとり、それぞれの屈折率が異なるため透明性に劣る。ランダムポリプロピレンは層構造をとらないため透明性に優れるが、海島構造による衝撃吸収能がないため0℃付近での耐衝撃性の低下が激しい。このことから低温耐衝撃性と透明性とを両立する樹脂の研究が多数行われてきた。
【0006】
一方、多くの透明樹脂は可視光線には透明であっても赤外線領域又は紫外線領域では吸収を持つため、視認性を持ちつつ赤外線又は紫外線を透過する用途に用いることができる樹脂はない。例えば赤外線を用いての視認性のあるセンサーのカバーや、内容物への赤外線加熱、紫外線は深紫外線による殺菌用容器など透明性をもちかつ容器形状にできる材料は存在しない。
【0007】
他方、耐衝撃性のある樹脂としてポリエチレンがある。ポリエチレンは、ガラス転移温度が非常に低温であることから耐衝撃性には非常に優れる。また分子中に官能基を全く含まないことから赤外線吸収スペクトルは単純であり赤外線透明性が高い。また紫外線を吸収する構造を持たないため深紫外線領域まで透明である可能性がある。他方可視光線領域から紫外線領域にかけてはポリエチレン特有の球晶構造からポリエチレンから成る容器や成型体は不透明であり、ポリエチレンの透明化の検討が常々行われている。
【0008】
そこでポリプロピレンブロック樹脂にプロピレンとエチレンの共重合ゴムとをブレンドして海島構造の島層のポリエチレンを微分散させることにより透明性を付与している。ポリエチレンはガラス転移温度が非常に低いことから低温衝撃性に非常に優れる一方、透明性に劣り、カップに必要な剛性のあるポリエチレンの密度領域では著しく不透明であり従来から透明性を付与する研究が多数行われてきている。
【0009】
ポリエチレンに無機塩、カルボン酸塩、核剤などを添加する方法が多数試みられている。
【0010】
炭酸リチウムの添加、塩基性12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム及び12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛混合物の添加、酸化防止剤とアンチブロッキング剤の併用、層状ケイ酸塩の添加、カオリンの添加、結晶核剤の添加により透明性を改良している(例えば、特許文献1~6参照)。一方ガンマ線により架橋されたポリエチレンを添加することにより透明性を改良している(例えば、特許文献7参照)。他方一度成型したポリエチレンシート、ロッド、成型品などを圧延により透明性を高める方法がある(例えば、特許文献8~12参照)。さらに一度成型したポリエチレンシート、ロッド、成型品などを引張延伸することにより透明性を付与する方法がある(例えば、特許文献13~16参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平7-109387号公報
【文献】特開平7-126447号公報
【文献】特開平9-40815号公報
【文献】特開平11-293055号公報
【文献】特開2000-109623号公報
【文献】特開2014-19733号公報
【文献】特開平9-31256号公報
【文献】特開昭62-64846号公報
【文献】特開昭62-122735号公報
【文献】特開平2-143837号公報
【文献】特開2009-149816号公報
【文献】特開2013-116938号公報
【文献】特開平8-134284号公報
【文献】特表2010-510094号公報
【文献】特開昭50-25667号公報
【文献】特開昭51-34956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように冷凍輸送ができかつ赤外線から可視光線、深紫外線まですべてに透明性を持ったコーヒー飲料用のカップや赤外線加熱容器、紫外線殺菌用成型体の開発を求められてきている。樹脂に求められる課題は、シートからカップを真空成型又は押込成型ができる熱可塑性樹脂であり、赤外線、可視光線及び紫外線すべてに透明性を持ち、例えば、-30℃の低温下で落下耐衝撃性に優れることである。
【0013】
また、コーヒークリームを入れた場合にPET樹脂では乳成分の付着や臭気の沈着が見られることから乳成分の付着がなく透明性を持ちかつ低温耐衝撃性に優れる材料は過去になく、透明性の改善あるいは低温耐衝撃性の改善が行われてきている。低温耐衝撃性に優れる材料としてポリエチレンがあるが透明性に劣り、剛性の求められる高密度ポリエチレンでは不透明であり、無機塩、カルボン酸塩、核剤などを添加することによる透明性の改善が行われてきている。これらの物質の添加により透明性が改善されることはあるが、製品に求められる高透明の領域までの改善には及ばない。
またガンマ線により架橋されたポリエチレンを添加することによる透明性の改善も一定の効果は見られるがガンマ線の照射工程があることから生産性に劣り、またガンマ線によるポリエチレンの分解により臭気の発生の恐れがある。
【0014】
他方一度成型したポリエチレンシート、ロッド、成型品などを圧延により透明性を高める方法があるが、圧延ロールによる圧縮工程があるため生産速度が非常に遅く生産性に劣ること、形状付与の自由度が低くカップの形状に適用することが困難である。また延伸シートをカップ賦形の為、再加熱して溶融させ賦形すると透明性が失われ白化する問題がある。さらに圧延や引張によりフィルムや繊維では透明性が発現することが知られているが薄膜や糸状の形状に限られカップのような形状に適用することができない。
【0015】
他方、ポリプロピレンは透明性を比較的発現させやすいが低温耐衝撃性に劣っている。耐衝撃性改良の為に樹脂中にゴム成分を持つブロックポリプロピレン(PP)がしばしば用いられるが低温耐衝撃性になお不足であるばかりか透明性に劣る。さらに樹脂中のゴム成分のミクロ分散のために相溶化剤として特殊なゴム成分を添加することがしばしば行われるが-30℃の低温耐衝撃性になお不足している。ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)は二軸延伸等延伸させると透明性が発揮されることが知られているが、いわゆるアモルファスPETでは熱湯を入れた時の収縮が問題であり、部分的に結晶化させて耐熱性を強化したPET-Gは透明性と低温耐衝撃性に優れる。しかしPET樹脂は樹脂中に極性基を持つことから乳成分の付着により、製品の曇りや臭気の沈着が問題となっている。
【0016】
視認性の観点から可視光線に透明である樹脂としては例えばメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、非晶性PET(ポリエチレンテレフタレート樹脂)、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ポリアリレート樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂、環状オレフィン樹脂などがある。赤外線に透明であるためには分子中に芳香環、カルボニル基や二重結合などのπ電子をもつ樹脂は不透明であり、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、PET、ポリアレート樹脂などは不透明となる。他方紫外線に関しては芳香環や多重結合の存在で紫外線吸収が起こり、深紫外部ではハロゲンなどのヘテロ元素を含む樹脂、環状オレフィン、ランダムポリプロピレンでも吸収が発生する。そのためメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、PET、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ポリアレート樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂、環状オレフィン樹脂などが不透明となる。
【0017】
このように従来、赤外線、可視光線、紫外線すべてに透明な樹脂容器、成型体は存在しない。
【0018】
そこで、本発明は、赤外線から深紫外線にいたる透明性に優れ、かつ、収縮性及び低温耐衝撃性に優れた透明樹脂製成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討の結果、透明部分が特定の条件を満たすことにより赤外線から深紫外線にいたる透明性に優れ、かつ、収縮性及び低温耐衝撃性に優れた透明樹脂製成型体を得ることができることを発見して本発明を為すに到った。
【0020】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]
視認性又は光線透過を有する透明部分を含み、
当該透明部分の厚みが0.2mm以上であり、
当該透明部分が以下の(1)及び(2)の条件を満たす、透明樹脂製成型体;
(1)0.3mmの厚み換算において、波長300nmから800nmの紫外線及び可視光線領域において透過度が70%以上であること、
(2)DSCによる温度変調解析において、100℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH1と非可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH2との差(絶対値)が20J/g以下であること。
[2]
前記透明部分が以下の(3)及び(4)の条件を満たす、[1]に記載の透明樹脂製成型体;
(3)0.3mmの厚み換算において、波数が4000cm-1から400cm-1の赤外線領域で全スペクトルに対して、60%透過度における透過する割合が40%以上であること、
(4)0.3mmの厚み換算において、波長250nmから300nmの深紫外線の平均透過度が50%以上であること。
[3]
前記透明部分のDSCによる温度変調解析において、60℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、非可逆成分の発熱のエンタルピー変化ΔH3の絶対値が20J/g以下である、[1]又は[2]に記載の透明樹脂製成型体。
[4]
前記透明部分のDSCによる温度変調解析において、100℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH1から求められる結晶化度が30%以上50%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の透明樹脂製成型体。
[5]
含有する樹脂のDSC法で測定される融点より6℃低い温度での引張測定において、ひずみ応力曲線の降伏後に立ち上がりがあり、破断強度が降伏強度より高い、[1]~[4]のいずれかに記載の透明樹脂製成型体。
[6]
含有する樹脂の190℃における伸長粘度測定において粘度カーブの立ち上がり(歪硬化性)が見られる、[1]~[5]のいずれかに記載の透明樹脂製成型体。
[7]
90℃以上の熱湯と接触させたときの収縮率が1%未満である、[1]~[6]のいずれかに記載の透明樹脂製成型体。
[8]
成型時の端材又は成型品をリワーク材として全体に対して5質量%から50質量%使用する、[1]~[7]のいずれかに記載の透明樹脂製成型体。
[9]
ポリエチレン樹脂を含有する、[1]~[8]のいずれかに記載の透明樹脂製成型体。
[10]
含有する樹脂の溶液粘度分子量Mvに対する溶融張力MT(g)の関係が次式を満たす、[1]~[9]のいずれかに記載の透明樹脂製成型体。
MT>Mv/10000-6
[11]
前記透明部分がクロム系触媒により重合されたポリエチレン樹脂を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の透明樹脂製成型体。
[12]
前記透明部分について、-30℃の落錐衝撃試験における全吸収エネルギーが2J以上である、[1]~[11]のいずれかに記載の透明樹脂製成型体。
[13]
20~200秒の間に常温から原料のシートの融点T℃までの温度に上げ、製品中間体の温度制御の範囲がT℃±10%以内になる工程を有し、金型内へのプラグによる延伸とエアーの吹込みとによって成型体を得る工程を含む、透明樹脂製成型体の製造方法。
[14]
シート成型により押し出された原料のシートを常温まで冷却することなく製品中間体の温度制御の範囲が原料のシートの融点T℃±10%以内になる工程を有し、金型内へのプラグによる延伸とエアーの吹込みとによって成型体を得る工程を含む、透明樹脂製成型体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の透明樹脂製成型体は、赤外線から深紫外線にわたり透明性に優れることから紫外線殺菌や赤外線加熱に使うことができ、収縮性及び低温耐衝撃性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施例1で得られた成型体のIRによる赤外線透過度の測定結果である。
図2図2は、比較例5で得られた成型体のIRによる赤外線透過度の測定結果である。
図3図3は、比較例6で得られた成型体のIRによる赤外線透過度の測定結果である。
図4図4は、実施例1、比較例2、比較例5、比較例6及び参考例1で得られた成型体における透明部分の可視光線並びに紫外線透過率の測定結果である。
図5図5は、実施例1で得られた成型体における透明部分のDSCによる温度変調解析結果である。
図6図6は、比較例5で得られた成型体における透明部分のDSCによる温度変調解析結果である。
図7図7は、比較例6で得られた成型体における透明部分のDSCによる温度変調解析結果である。
図8図8は、比較例2で得られた成型体における透明部分のDSCによる温度変調解析結果である。
図9図9は、実施例1、比較例3、比較例4、実施例4及び比較例6で得られた成型体の高温引張強度の測定結果である。
図10図10は、本発明の透明樹脂製成型体の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について以下詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0024】
本実施の形態の透明樹脂製成型体は、視認性又は光線透過を有する透明部分を含み、当該透明部分の厚みが0.2mm以上であり、当該透明部分が以下の(1)及び(2)の条件を満たす。
(1)0.3mmの厚み換算において、波長300nmから800nmの紫外線及び可視光線領域において透過度が70%以上であること。
(2)DSCによる温度変調解析において、100℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH1と非可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH2との差(絶対値)が20J/g以下であること。
【0025】
本実施の形態の透明樹脂製成型体は上記特性を併せ持つために、例えば、原料の樹脂の融点より2~10℃低い温度で延伸することにより達成される。そして、本実施の形態の透明樹脂製成型体はフィラーや結晶核剤などでは到底到達できない透明性の領域の特性を発揮するものである。
【0026】
なお、本実施の形態において、視認性とは、成型体を通して向こう側が見えることで、成形体が容器の場合は中に入れたものが外から見えることを意味し、光線透過とは、入射光に対して、成形体による吸収、反射、散乱を除いた光線の透過)であることを意味する。
【0027】
本実施の形態の透明樹脂製成型体において、前記透明部分の厚みは0.2~10mmであることが好ましく、0.25~4mmであることがより好ましく、0.3~1mmであることがとりわけ好ましい。
【0028】
本実施の形態では、例えば、プレス成型やシート押出成型などで平板やシート、或いは一度成型品を成型してからさらに該樹脂の融点より2~10℃低い温度で延伸することにより上記特性を満たす透明樹脂製成型体を得ることができる。
【0029】
従来はシートなどの成型品を融点以上に再加熱し、融解させてから押出成型や真空成型を行うが、この場合成型品を冷却固化させたときにポリエチレンは結晶化により白化して不透明となり所定のヘイズを得ることができない。例えば、カップ成型はシートを押し棒(プラグ)や金型による突出し成型や真空成型あるいは両者を併用して成型されるが結晶性樹脂の場合は必ず融点以上に加熱して、非結晶性樹脂の場合は軟化点以上に加熱したのちに成型を行うことが当事者にとって当然のことであるが、本実施の形態の透明樹脂製成型体は、例えば、シートなどの成型品を融点以下で引張延伸によってカップ状に賦形を行って初めて達成されるもので、このような技術は、これまでの常識とは全く異なる、従来技術の延長線上では全く考え付くことのできない技術である。
【0030】
樹脂は融解すると常温での引張強度に対して融解時はほとんど強度を持たないが、融点以下5~20℃の範囲でもかなり低強度で引張は比較的容易に行うことができる。
【0031】
融点以下5~20℃の範囲で延伸したとき透明になる理由としては樹脂中の球晶が延伸により延伸方向に配列し、ポリエチレンの場合は球晶内のラメラもほぐれて延伸方向に配列すると考えられる。また配列に至らずともラメラの積層方向が一定方向に傾斜しているとも考えられる。球晶の樹脂鎖が延ばされるともに非晶質部分の樹脂鎖も同じように伸ばされるため結晶質部分と非晶質部分の屈折率が同等近くになることから透明性が発現されるものと考えられる。
【0032】
本実施の形態に用いる樹脂としては特に限定されないが、例えば、不透明な結晶性樹脂でありながら融点より5~20℃低い温度で延伸されて、成型体(例えば、カップ)として賦形されたときに透明性を発揮し、成型体(例えば、カップ)としての低温耐衝撃性の高いものであればよい。延伸により透明性を発揮する樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン及びそれらとαオレフィン、酢酸ビニルなどとのコポリマー、及びゴム成分の添加系、ポリスチレンやゴム成分を含んだ高耐衝撃ポリスチレン、PETやPENあるいはコモノマーの一部をリジッドなシクロヘキサンジアルコールとして結晶性を持たせたポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニルやポリビニリデン樹脂などが挙げられる。このうち結晶性樹脂は一般的な成型では分子構造上不透明や着色することが多く、無色透明が達成できる樹脂として特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン及びそれらとαオレフィンが挙げられる。カップとしての-30℃での低温耐衝撃性と剛性との観点から高密度ポリエチレン樹脂が好ましい。
【0033】
例えば、飲料カップの場合は内容物の視認性が要求される場合、カップ側面の透明性が高いことが求められる。カップ上面はフィルム等でシールされ、底面は正立しておかれる場合は隠れて見えない為、側面の透明性が必要となる。
【0034】
成型体(例えば、カップ)としての透明性はヘイズ(曇り度)で示される。本実施の形態の透明樹脂製成型体は、側面のヘイズが15%以下であり、好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下であり、とりわけ好ましくは5%以下である。当該カップ側面のヘイズの下限は、特に限定されないが、例えば、2%である。
【0035】
なお、ヘイズの値は厚みに依存することが知られており、厚みが厚いほどヘイズは悪化する(高くなる)。一方、ヘイズがあまり低くない材料であっても薄くすることによりヘイズは低下することから透明性に対する厚みの影響は大きい。フィルムなど0.1mm以下の厚みの場合高度な延伸や繊維にあっては超延伸することにより透明性は得られるが0.1mm以上の厚みに適応すると白化や裂けが発生してしまい透明な容器を得ることは出来ない。例えば、アイスコーヒーカップとしては耐衝撃性に加え自立性、剛性が求められるため厚みが必要であり、厚みが厚くてもヘイズが低い材料が求められる。
【0036】
一方、肉厚が厚いと剛性、強度は増加するが使用樹脂量が増えること、厚みが増すことからヘイズが悪化する(高くなる)。他方肉厚が薄いと自立をしない、手で持った時に大きく変形、あるいはつぶれてしまう恐れがある。したがって本実施の形態の透明樹脂製成型体がカップである場合、当該カップの側面の厚みとしては100μm以上であり、100μm以上5mm以下であることが好ましく、200μm以上3mm以下がより好ましく、300μm以上1mm以下がさらに好ましい。
【0037】
このカップの厚みはカップ全体が範囲にあることが好ましいが、部分的に厚みの範囲内で窓のように透明な部分があるものであってもよい。
【0038】
厚みが100μm以上とすることでカップが自立し、ハンドリングに支障のない剛性となる。またカップは厚みを5mm以下とすることで適度な延伸倍率で透明性を達成できる。なおカップは厚みが5mm以上であっても適切な延伸倍率が達成できるのであればヘイズを15%以下にすることができる。
【0039】
ヘイズは肉厚に相関があり、肉厚が薄いほどヘイズが下がり肉厚が厚いほどヘイズは高くなる。肉厚が厚くなると厚み増加に対するヘイズの低下具合は減少し、3mmを超えてくるとヘイズの値はほとんど変化しなくなる。
【0040】
例えば、ポリエチレンのプレス板の厚みに対するヘイズの関係については、厚み薄いほどヘイズは低下し、1mm以上の肉厚では厚み増加に伴うヘイズの悪化の程度は小さくなる。なおポリエチレンの場合はプレス成型、射出成型又はブロー成型など溶融してから成型された成型品は密度が低いほどヘイズが下がることが知られている。しかしヘイズが下がると剛性も低下し、ヘイズが10%程度の樹脂は非常に柔らかいものとなりカップとしての剛性が不足する。
【0041】
光線が物質を透過するときに光の強度は指数関数的に減衰する。材料間の比較には厚みをそろえることが必要だが、光の減衰は次の式であらわされることから換算は可能である。
I/Io=K×exp(-αt) (1)
ln(I/Io)=lnK-αt (2)
ここでI/Ioは透過度、Kは表面効果、αは吸収係数、tは厚みを示す。
【0042】
厚みを変えて測定することにより関係を求めて換算することができる。本実施の形態では自立するような容器、あるいは成型体を考慮しており厚さ0.3mmへ換算を行っている。
【0043】
表面効果Kは1より小さい値で表面散乱などによる損失を無視するとK=1となる。
したがって
ln(I/Io)=-αt (3)
となる。
【0044】
例えば0.5mm厚のカップの場合の透過度が90%とすると式(3)から
Ln(0.90)=-0.5α
α=0.211
【0045】
したがって0.3mm厚の時は
ln(I/Io)=-0.211×0.3=-0.0633
I/Io=0.939
93.9%となる。
【0046】
それぞれの光の領域について説明する。
まず、本実施の形態の透明樹脂製成型体は、可視光線及び近紫外領域の波長300nmから800nmの範囲において透過度が70%以上である。特に可視光線は視認性にも及ぶため、紫外線分光光度計で0.3mm厚み換算して散乱光を含まない平行光線透過度を測定した時の透過度が70%以上であり75%以上が好ましく80%以上がより好ましい。
【0047】
可視光線の透明性の低下として可視光線の吸収及び散乱による不透明化がある。可視光線の吸収は樹脂内の粒子の存在と樹脂自体の吸収があり、分子内に長い共役系を持つと吸収が起こる。また強く可視光線を吸収する不純物の存在で吸収が起こる。
【0048】
他方散乱は樹脂中に光の波長よりかなり大きな粒子や構想が存在する場合、光の波長と同程度の粒子や構造がある場合に光の散乱が起こり不透明となる。結晶性樹脂の場合結晶子サイズ、ラメラサイズ、球晶サイズが光の波長に近いと散乱を起こす。また異樹脂間で不均一な相を生成しているとその相の大きさにより散乱が生じる恐れがある。
【0049】
非結晶性樹脂で結晶構造を持たない樹脂あるいは結晶性樹脂であっても構造のサイズが光の波長よりも十分小さい樹脂が好ましい。
【0050】
例えば、飲料カップの場合は内容物の視認性が要求される場合、カップ側面の透明性が高いことが求められる。カップ上面はフィルム等でシールされ、底面は正立しておかれる場合は隠れて見えない為、側面の透明性が必要となる。
【0051】
次に本実施の形態の透明樹脂製成型体は、0.3mmの厚み換算において、波長250nmから300nmの深紫外線の平均透過度が50%以上であることが好ましく60%以上であることがより好ましい。当該深紫外線の平均透過度の上限は、特に限定されないが、例えば、95%である。紫外線よりさらに波長の短い紫外線領域は特に殺菌性に優れており、紫外線水銀ランプ(254nm)、紫外線LEDランプ(265nm)に対して容器となる成型品が紫外線を通すことが望まれる。ポリオレフィン化合物を除くほとんどの樹脂は分子内に存在する官能基やヘテロ原子のために深紫外領域で不透明である。またポリオレフィン樹脂に結晶や球晶などの構造を含有しそのサイズが光の波長程度であると紫外線を散乱して内容物に光が届かなくなる。本実施の形態の透明樹脂製成型体は、融点より少し低い温度下での引張り延伸加工により結晶構造を紫外線の散乱が起きなくなるまで微細化することができる。
【0052】
次に本実施の形態の透明樹脂製成型体は、波数が4000cm-1から400cm-1の範囲である赤外線の吸収が少ないことが好ましい。容器や成型体の透明な部分について、この波長範囲の赤外線スペクトルを赤外線分光光度計で測定すると樹脂の分子構造に応じた吸収バンドが見られる。本実施の形態の透明樹脂製成型体は、0.3mm換算の肉厚で透過度を測定した時、波数4000cm-1から400cm-1の範囲の赤外線領域で全スペクトルに対して、60%透過度における透過する波数の割合が40%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましい。当該60%透過度における透過する波数の割合の上限は、特に限定されないが、例えば、90%である。
【0053】
図1図3にIR測定例を示す。各波長における透過度T%を示したもので透過度が高いほどその波長での透明性が高い。全波数に対し透過度60%の線を引いたとき、測定スペクトルが60%のラインよりも透過度が大きければ透明、小さければ不透明とし透明で波数の割合を算出する。
【0054】
吸収バンドは分子の構造に起因しており、分子間の結合の伸縮、変角、横揺れなどの振動により生じる。樹脂の場合最も簡単な分子であるポリエチレンは炭素-水素結合の伸縮、変角、炭素-炭素結合の横揺れ振動だけであるが、ポリプロピレンになるとメチル基が増加するため炭素-炭素結合の変角振動などが増え、樹脂の構造が複雑になるにつれ吸収バンドが増え赤外線に対して不透明になる。特にポリエステルやPETなどのエステル結合は赤外線を大きく吸収するため特に不透明となる。
【0055】
赤外線は物体が高温になると発するため赤外線を測定すると発熱箇所の特定ができる。また人も体温に応じて赤外線を発するためこれらの用途に赤外線センサーが用いられている。このセンサーのカバーには赤外線に透明であることが望まれる。
【0056】
一方赤外線による加熱も行われる。これは赤外線を照射することにより分子運動を活発にして加熱するものであり容器に入れた内容物などを加熱することができる。容器の樹脂が赤外線を吸収する樹脂であると容器が加熱され内容物が十分加熱を受けないことになる。
【0057】
赤外線透明性に対して好ましい樹脂は芳香族環やエステル結合をもたないポリオレフィン系樹脂、ポリオキシアルケン樹脂、ポリシロキサン樹脂が好ましく、ヘテロ元素を持たないポリオレフィン樹脂がより好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンがとりわけ好ましい。
【0058】
また、本実施の形態の透明樹脂製成型体は、密度が低いほど透明性が向上するが剛性が低下するため成型体としての自立性、剛性の観点からJIS K7112に規定の方法で測定した密度が935kg/m3以上であることが好ましい。本実施の形態の透明樹脂製成型体は、密度を935kg/m3以上とすることにより透明性と剛性とが両立し、好ましくは940kg/m3以上、より好ましくは945kg/m3以上、さらに好ましくは949kg/m3以上である。一方密度の上限は、例えば、ポリエチレンの完全結晶体の密度であるが、密度が高いほど透明性が低下するため972kg/m3以下が好ましく、969kg/m3以下がより好ましく964kg/m3以下がさらに好ましく959kg/m3以下がとりわけ好ましい。
【0059】
DSC測定において段階的に昇温することにより可逆的熱量変化と非可逆的熱量変化とを分離することができる。可逆的熱量変化の一例として樹脂の融解、結晶化がある。他方非可逆熱量変化の一例として、樹脂中に配向があるときの配向緩和があり、配向が緩和されると元の配向状態に戻らないことを表している。例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの結晶性樹脂では融点の少し低い温度領域で配向緩和と続く冷結晶化と呼ばれる結晶化が起こりの吸熱ピークが現れ、その後融点領域に非可逆成分としての発熱ピークが見られる。
【0060】
本実施の形態では、樹脂の融点より5度程度低い温度で延伸成型を行ない、すなわち、配向緩和の起こる温度域で延伸を行うことにより、成型品内に分子の配向が発生させることができる。
【0061】
その配向を内在した容器及び成型体を昇温していくと融点より少し低い温度で分子が動きやすくなり配向緩和が起こる。温度変調DSCでは融解結晶化の可逆反応をキャンセルできるため不可逆反応のみを取り出すことができるため配向緩和と冷結晶化によって発熱側にピークが見られる。この発熱量は樹脂中の分子の配向度を示している。
【0062】
本実施の形態の透明樹脂製成型体は、透明部分のDSCによる温度変調解析において、60℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、非可逆成分の発熱のエンタルピー変化ΔH3の絶対値が20J/g以下であることが好ましく、3J/g以上20J/g以下がより好ましく、3J/g以上15J/g以下がさらに好ましく、4J/g以上10J/g以下がよりさらに好ましく、4J/g以上5J/g以下がとりわけ好ましい。ΔH3の絶対値を20J/g以下とすることで縦裂けや融点以下での過大な収縮を抑えることができ、ΔH3の絶対値を3J/g以上とすることにより均一な肉厚分布を得ることができる。
【0063】
一方、本実施の形態の透明樹脂製成型体は、透明部分のDSCによる温度変調解析において、100℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH1と非可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH2との差(絶対値)が20J/g以下であり、好ましくは15J/gでありより好ましくは10J/g以下である。該差(絶対値)の下限は、特に限定されないが、例えば、ΔH1=ΔH2、すなわち0J/gである。
【0064】
可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH1は容器や成型品の正味の融解熱であり、非可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH2は従来結晶性樹脂の持つ加熱により結晶化した部分と配向緩和による熱量の合計である。この差(絶対値)を20J/g以下とすることにより、高温物を入れた時の後結晶化や、配向緩和と続く冷結晶化による収縮、変形をおさえることができる。また配向がかかりすぎることによる落下衝撃時の縦裂けを抑えることができる。
【0065】
他方、ペレットや溶融状態で賦形後冷却固化させた容器や成型品では配向が少ないため、融解時の吸熱量は可逆成分の吸熱量に比べ非可逆成分の吸熱量ははるかに小さいため、差(絶対値)は20J/gよりも大きな値となる。
【0066】
一方、引張延伸成型やプラグアシスト成型などで引っ張るあるいは押し出す成型だと延伸方向一軸だけの延伸となり配向が強くなって非可逆成分が大きくなる。延伸倍率が高く可逆成分と非可逆成分との差(絶対値)が大きくなり20J/gを超えると延伸方向に平行に裂ける縦裂けの現象が起こることがある。延伸後エアー吹込みによるブローや機械的延伸により、当初の延伸方向と別の方向に延伸をかけると配向が減少して可逆成分と非可逆成分の差(絶対値)が少なくなり縦裂けが抑えられるために好ましい。
【0067】
本実施の形態の透明樹脂製成型体は、透明部分のDSCによる温度変調解析において、100℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH1から求められる結晶化度が、30%以上50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以上40%以下である。例えば、透明樹脂製成型体構成する樹脂がポリエチレンの場合、完全結晶体の発熱のΔHである融解熱281.07J/gとの割合から求められる。通常のペレット、成型品では当該結晶化度は50%以上の値をとるが、本実施の形態の透明樹脂製成型体は、延伸成型により結晶の変形と配向が起こさせて結晶化度を低下させることができる。当該結晶化度を50%以下とすることにより透明性が得られ、当該結晶化度を30%以上とすることで過度な延伸による縦裂けが起こらない。
【0068】
本実施の形態の透明樹脂製成型体は、含有する樹脂の粘度分子量Mvと溶融張力MT(g)との関係が次式(4)を満たすことが好ましい。
【0069】
MT>Mv/10000-6 (4)
【0070】
Mvは粘度分子量でありデカリン溶液中で濃度を振って溶液粘度を測定し絶対分子量に換算したものである。MTは溶融張力であり溶融樹脂をキャピラリーから押し出したときのストランドに係る張力である。延伸成型やプラグアシスト成型では均一な肉厚の成型体を得るためには一定上の溶融張力を有することが好ましい。溶融張力は分子間の絡み合いに起因し、分子中の長鎖分岐が大きく影響する。長鎖分岐は溶融時に分子間の絡み合いに寄与するだけでなく、結晶ラメラ生成時にも隣接ラメラをつなぐタイ分子としての役割があるため多い方が望ましい。一方分子量も大きくなるほど分子鎖が長くなるため分子間の絡み合いに寄与するため分子量が大きくなるほど溶融張力が増すが、タイ分子効果は長鎖分岐ほどの効果を持たないため、延伸成型やプラグアシスト成型で必要とされるMTは分子量が高いほど高い値が必要となる。上記(4)式はMvが8000以下でMTが負の値になるが分子間に絡み合いが発生する最低分子量が知られており8000よりはるかに大きい値である。
【0071】
本実施の形態の透明樹脂製成型体に含有する樹脂は、DSC法で測定される融点より6℃低い温度での引張測定において、ひずみ応力曲線の降伏後に立ち上がりがあり、破断強度が降伏強度より高い。
【0072】
延伸する際に結晶性樹脂であればまず球晶の破壊が起こり破壊された結晶部と非晶部とが再配列を行う。再配列時の強度が降伏強度より低い場合は薄い部分がより延ばされて成型品に不均一な肉厚分布を与え、もはや結晶部の破壊が起こらないため透明性にむらが生じる。再配列時の強度が上昇して降伏強度を上回ることにより球晶や結晶部の破壊が一様に行われ、成型品の均一な肉厚分布と全体的な透明性を得ることになる。
【0073】
また、本実施の形態の透明樹脂製成型体に含有する樹脂は190℃における伸長粘度測定において粘度カーブの立ち上がり(歪硬化性)が見られる。
【0074】
ひずみと伸長粘度との関係をとったときに、高速領域で粘度カーブの立ち上がりが見られる。高速領域での立ち上がりは溶融状態での絡み合いを意味しており主に分子中の長鎖分岐によるところであって、ブロー成型等で均一な肉厚分布を得ることが知られている。本検討では融点から10℃程度低い温度であっても分子が動き易くなっている同じ絡み合い効果があること、加えて長鎖分岐はラメラ間をつなぐタイ分子に寄与することから均一な成型性を達成することができる。
【0075】
本実施の形態の透明樹脂製成型体は、90℃以上の熱湯に接触させたときの収縮率が1%未満であることが好ましい。当該収縮率の下限は、特に限定されないが、例えば、0.01%である。
【0076】
収縮量は容器の場合内容量を測定して測定することができる。容器に熱湯を注ぎ、前後の内容量から収縮率を計算する。
【0077】
本実施の形態の透明樹脂製成型体は、ポリエチレン樹脂を含有することが好ましい。
【0078】
本実施の形態に用いるポリエチレン樹脂は重合方法や触媒系によりさまざまな特長と物性を示すが特に限定はされない。融点以下であっても延伸時の挙動は溶融状態に近いものがあり、溶融張力の比較的高いもの、或いは高速引張時に張力が増加するストレインハードニングの特性を持つものが好ましく、クロム系触媒いわゆるフィリップス系触媒を触媒として重合したポリエチレン、高温高圧でラジカル重合した高圧法低密度ポリエチレン、αオレフィンに炭素数10以上のハイヤーオレフィンを用いて共重合されたポリエチレン樹脂が好適に用いられる。これらは単独で使われてもよいし、他の樹脂、他の高密度ポリエチレンや低密度ポリエチレンと混合して使われてもよい。ハイヤーオレフィンを共重合する場合は分子内へのハイヤーオレフィンの取り込み効率の関係からメタロセン触媒を用いて重合されたものが好ましい。このように溶融張力の比較的高いもの、ストレインハードニングの性質を持つグレードの使用により、固体であっても引張延伸時により厚みが均一とすることができる。溶融張力が強すぎると延伸時に多大な力が必要となるほか、延びに耐えられず破断することがあるので、他の樹脂を混ぜて粘度調節することも好ましい。
【0079】
本実施の形態の透明樹脂製成型体は、高密度ポリエチレン樹脂を含み、JIS K6922-1に規定の方法で測定した密度が935kg/m3以上であることが好ましい。
【0080】
本実施の形態の透明樹脂製成型体は、透明部分について、-30℃での落錐衝撃試験における全吸収エネルギーが2J以上であることが好ましい。落錐衝撃試験は平板に重りを取り付けたミサイルを落下させることにより耐衝撃性を測定するもので、その全吸収エネルギーは亀裂発生エネルギーと亀裂伝播エネルギーの和である。落下強度は亀裂を発生させるエネルギーが高いほど割れにくく、亀裂が伝播するエネルギーが高いほど破壊に到りにくくなる。本実施の形態の透明樹脂製成型体は、当該全吸収エネルギーが好ましくは2.5J以上、より好ましくは3J以上である。当該全吸収エネルギーの上限は特に限定されないが、例えば、12Jである。
【0081】
本実施の形態の透明樹脂製成型体は、成型時の端材又は成型品をリワーク材として全体に対して5質量%から50質量%使用してもよい。
【0082】
本実施の形態の透明樹脂製成型体は、例えば、引張方向の延伸成型での製造条件を調整することによって上記要件を満たすことができる。具体的には、例えば、シートあるいはその他成型による成型品を融点より2~10℃低い温度にコントロールし、チャック等による引張、プラグや押し棒による延伸、押し板による部分的延伸のある圧縮成型などを行う方法が挙げられ、シートを用いてプラグや押し棒による成型が生産性の観点から好ましい。
【0083】
本実施の形態の透明樹脂製成型体の製造方法は、例えば、シート成型によりシートを成型して押し出されたシートをそのまま常温まで冷却することなく(好ましくはシートの融点より2~10℃低い成型温度に保つ)、又は、冷却されたシートを所定の時間内(20~200秒)の間に常温からシートの融点T℃までの温度(好ましくは融点より2~10℃低い温度)に上げ、製品中間体の温度制御の範囲がT℃±10%以内になる工程を有し、金型内へのプラグによる延伸とエアーの吹込みとによって成型体(例えば、透明カップ)を得る工程を含む。所定の時間内に昇温することによりシートの垂れを抑えることができる。加熱されたシートを所定の条件下でプラグや押し棒で押して延伸すると透明な容器を得ることができるが一方向のいわゆる一軸延伸では成型品への配向がかかり、加熱時の収縮など寸法安定性に影響することがある。また樹脂や成型条件によっては配向方向に縦裂けや落下衝撃試験時の破壊につながることもある。プラグや押し棒で一軸延伸を行った後、キャビティ内でさらにエアーを吹込みブローすることによりプラグや押し棒による延伸方向と異なる方向に延伸(二軸延伸)をかけることができ、得られる成型体は、配向の緩和により、寸法安定性や透明性が向上するとともに耐衝撃性も向上する。
【実施例
【0084】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【0085】
物性測定及び成型方法は以下のとおりである。
(1)メルトフローレイト(MFR)
JIS K7210-1の方法で温度190℃、荷重2.16kgで測定を行った。
【0086】
(2)密度(D1、D2)
密度D1はカップの側面から試験片を切り出し、JIS K7112に記載のD法の密度勾配管法にて密度を測定した。
密度D2はISO1133の方法で樹脂温度190℃、荷重2.16kgで押出したストランドを窒素雰囲気下120℃1時間アニールした後、1時間放冷し、試験片を切り出してJIS K7112に記載のD法の密度勾配管法によって密度を測定した。
【0087】
(3)融点(Tm1、Tm2)
JIS K6922-2に記載の方法で測定を行った。DSCを用いTm1は50℃にて1分ホールド後、昇温速度10℃/分でポリエチレン(PE)の場合180℃まで昇温し、発熱カーブのピークトップの温度を融点Tm1とした。Tm2はさらに180℃に達した後5分ホールドし、降温速度10℃/分で50℃まで冷却し5分ホールドしたのち、昇温速度10℃/分で昇温した時の発熱カーブのピークトップの温度を融点Tm2とした。
【0088】
(4)赤外線透過度
赤外分光(IR)光度計を使い、厚み0.3mmの試験片(透明部分)を用い、透過度モード、波数4000cm-1から400cm-1まで赤外線透過度を測定した。全体の透明度は、全スペクトルに対して、60%透過度における透明な部分の割合で示した。
【0089】
(5)可視光線透過度、紫外線透過度及び深紫外線透過度
島津製作所紫外可視分光光度計UV-1280を用い厚み0.3mmの試験片(透明部分)を用い、1波長測定モードで200nmから1100nmの範囲の透過度を測定した。可視光線及び紫外線領域は300nmから800nmの範囲の透過度を測定した。可視光線及び紫外線領域において、透過度が70%以上の場合を「〇:透過する」とし、透過度が70%未満の場合を「×:透過しない」とした。深紫外線領域は200nmから300nmの透過度の平均を算出した。深紫外線領域において、平均透過度が50%以上の場合を「〇:透過する」とし、平均透過度が50%未満の場合を「×:透過しない」とした。
【0090】
(6)DSCによる温度変調解析
パーキンエルマー製DSC8000を用い、温度変調解析モードにて測定を行った。Stepscanで30℃から200℃まで1サイクル20℃/分で1℃昇温、0.4分等温を170サイクル繰り返した。測定データからCp(比熱成分:可逆成分)とIso-K(冷結晶化:非可逆成分)とを分離した。Iso-Kからは吸熱成分と発熱成分とを分離し、それぞれのΔHを算出した。またCpからも吸熱成分と発熱成分とを分離して、それぞれのΔHを算出した。具体的には、100℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH1と非可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH2との差(絶対値)を算出し、60℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時の非可逆成分の発熱のエンタルピー変化をΔH3(数値は絶対値で記載)とした。また、結晶化度は、100℃から160℃の範囲で熱量を可逆成分と非可逆成分とに分離した時、可逆成分の吸熱のエンタルピー変化ΔH1から、ポリエチレンの完全結晶のΔHである281.07J/gに対する比率(ΔH1/281.07×100)として算出した。
【0091】
(7)溶液粘度分子量
溶液粘度管を用い試料0.1g/100ccから0.4g/100ccまで濃度を変えて120℃デカリン中で溶液粘度を測定した。そこから極限粘度を外挿し溶液粘度分子量Mvに換算した。
【0092】
(8)溶融張力(MT)
キャピログラフを用い、ストランドを滑車を通じて引き取るとき、滑車にかかる力を測定した。
東洋精機社製キャピログラフ1Dを用い、バレル径9.55mm、オリフィス径3.0mm、長さ3.0mm、流入角90度のオリフィスを用い、樹脂温度190℃で測定した。ピストンは6mm/分で降下し、引取速度は2mm/分とした。
【0093】
(9)高温引張強度
恒温槽を備えた引張試験機を用い、成型品又はプレス板からJIS K7160に規定の試験片4型で引張速度1000mm/分にて高温(上記(3)で測定された融点Tm1よりも6℃低い温度)で引張強度の測定を行った。ひずみ応力曲線の降伏後に立ち上がり得られたひずみ応力曲線(S-Sカーブ)から降伏後の立ち上がりの有無を確認し、降伏強度と破断強度とを比較した。
【0094】
(10)伸長粘度 TAinstrument ares粘弾性測定機を用い、回転式伸長粘度アタッチメントを用いて角速度を変化させ、190℃で成形体の伸長粘度測定を行った。当該測定において、粘度カーブの立ち上がり(歪硬化性)の有無の確認を行った。
【0095】
(11)収縮性
成型カップにおいて、常温の水での満水容量を測定し、次いで90℃の熱湯を注ぎ5分経過後、水を排出し改めて常温の水での満水容量を測定し、変化率(収縮率=(90℃の熱湯と接触前の満水容量-90℃の熱湯と接触後の満水容量)/90℃の熱湯と接触前の満水容量×100)を計算した。
【0096】
(12)落錐衝撃
東洋精機製落錐衝撃試験機を用い、ストライカー径を12.5mm、ホルダー径54mm、重量6.5kg、落下高さは50cmとし冷却装置により-30℃まで冷却して測定を行った。時間に対してエネルギーのグラフをかいたとき、ピークトップまでを亀裂発生エネルギー、ピークトップ以降を亀裂伝播エネルギーとし、その和を落錐衝撃エネルギー(全吸収エネルギー)とした。
【0097】
(13)シート成型
圧縮成型機によりJIS K7151記載の方法で成型した。樹脂温度は200℃で加熱溶融したのちに冷却プレスに挟んで急冷してシートを成型した。特に記載のないものは1.2mm厚みのシートを作成した。
【0098】
(14)カップ成型
シートを加熱するヒーター又はオーブンを備え、可動式の押し棒を備えた成型機を用意した。シートをカップ外径の穴のあけられた2枚の型枠に挟み、シートを所定の温度に加温したのちに所定の速度で押し棒で延伸させることによりカップを得た。
【0099】
(15)ヘイズ
成型されたカップの側面からサンプルを採取し、測定部分の肉厚を測定し、ヘイズメータでヘイズを測定した。
【0100】
(16)成型性
カップを成型した際に、破れたもの、縦方向に裂け目が生じたものは成型性が×とし、破れ、亀裂なく成型できたものを○とした。
【0101】
(17)汚染性
成型したカップに牛乳を入れ、23℃1日放置後中身を取り出し、水で水洗後透明性、曇りを目視で確認した。牛乳のタンパク成分が沈着して曇りが出た時×、透明性が維持された場合○とした。
【0102】
[触媒調製1]
(1)酸化クロム触媒(I)の合成
三酸化クロム4モルを蒸留水80リットルに溶解し、この溶液中にシリカ(W.Rグレースアンドカンパニ製グレード952)20kgを浸漬し、室温にて1時間攪拌後、このスラリーを加熱して水を留去し、続いて120℃にて10時間減圧乾燥を行った後、600℃にて5時間乾燥空気を流通させて焼成し、クロムを1.0質量%含有した酸化クロム触媒(I)を得た。
【0103】
(2)有機アルミニウム化合物(II)の合成
トリエチルアルミニウム100モル、メチルヒドロポリシロキサン(30℃における粘度:30センチストークス)100モル(Si基準)、n‐ヘキサン150リットルを窒素雰囲気下耐圧容器に秤取し、攪拌下90℃で5時間反応させてAl(C252(OSi・H・CH3・C25)ヘキサン溶液を調整した。次にこの溶液100モル(Al基準)を窒素雰囲気下600リットルの反応器に移し、Al(C252Al(O-C25)100モル(Al基準)とn-ヘキサン50リットルの混合溶液を80℃にて攪拌下に添加し、3時間反応させてAl(C252.0(OC250.5(OSi・H・CH3・C250.5ヘキサン溶液を調整した。
【0104】
(3)チタン触媒(III)の合成
充分に窒素置換された15リットルの反応器に、トリクロルシランを2モル/リットルのn-ヘプタン溶液として3リットル仕込み、攪拌しながら-10℃に保ち、組成式AlMg6(C253(n-C496で示される有機マグネシウム成分のn-ヘキサン溶液7リットル(マグネシウム換算で5モル)を3時間かけて加え、更に65℃にて1時間攪拌下反応させた。反応終了後、上澄み液を除去し、n-ヘキサン7リットルで4回洗浄を行い、固体物質スラリーを得た。この固体物質スラリーから固体(チタン触媒(III))を分離・乾燥して分析した結果、20.3質量%のチタンを有していた。
【0105】
(4)ポリエチレン樹脂Aの製造
単段重合プロセスにおいて、容積230Lの重合器で重合した。重合温度は84℃、重合圧力は0.98MPaである。この重合器に(1)で合成した酸化クロム触媒(I)50gに、(2)で調整した有機アルミニウム化合物(II)0.03モル(Al基準)を加えて、室温で1時間反応させて得られた固体触媒を2g/時間の速度で、エタノールとトリエチルアルミニウムとをモル比0.98:1で反応させることにより得られた有機アルミニウム化合物が重合器中の濃度が0.08ミリモル/リットルになるよう供給し調整した。精製ヘキサンは60L/時間の速度で供給し、またエチレンを10kg/時間の速度で、分子量調節剤として水素を気相濃度が約5モル%になるように供給し重合を行い、MIが1.0g/10分、密度が960kg/m3のポリエチレン樹脂Aを製造した。
【0106】
(5)ポリエチレン樹脂Bの製造
最初に1段目の重合で低分子量成分を製造するために、反応容積300リットルのステンレス製重合器1を用い、重合温度83℃、重合圧力1MPaの条件で、触媒は上記の固体触媒(III)を1.4ミリモル(Ti原子基準)/時間、トリイソブチルアルミニウムを10ミリモル(金属原子基準)/時間、またヘキサンは40リットル/時間の速度で導入した。分子量調整剤としては水素を用い、エチレンに対する水素濃度が70モル%になるように供給し重合を行った。重合器1内のポリマースラリー溶液を圧力0.1MPa、温度75℃のフラッシュドラムに導き、未反応のエチレン、水素を分離した後反応容積250リットルの重合器2にスラリーポンプで昇圧して導入した。重合器2では、温度77℃、圧力0.5MPaの条件下で、トリイソブチルアルミニウムを23ミリモル/時間、ヘキサンは95リットル/時間の速度で導入した。これに、エチレン、水素、ブテン-1を水素の気相濃度が約9モル%、ブテンの気相濃度が約10モル%になるように導入して、重合器1で生成した低分子量部分の量に対して、重合器2で生成した高分子量部分の重量比が1.0倍となるように高分子量部分を重合し、MIが0.43g/10分、密度が940kg/m3のポリエチレン樹脂Bを製造した。尚、重合器1で生成した低分子量部分のMIは、70g/10分、密度は972kg/m3であった。
【0107】
(6)ポリエチレン樹脂組成物(PE1)の製造
上記の如くして製造したポリエチレン樹脂A及びBのパウダーを重量比で、39対61の割合で混合し、次いでこの混合物にステアリン酸カルシウム300ppm及びアデカ社製アデカスタブ(登録商標)AO-50を300ppm、アデカスタブ(登録商標)2112を500ppmの濃度になるよう添加し、混合機で攪拌混合した。この混合物をシリンダー径44mmの二軸押出機(日本製鋼所社製TEX44HCT-49PW-7V)を使用し、シリンダー温度200℃、押出量35kg/時間の条件で、ポリエチレン樹脂組成物(PE1)を得た。
【0108】
[触媒調製2]
(7)チタン触媒(IV)の合成
充分に窒素置換された15リットルの反応器を10℃に保ち、攪拌しながら四塩化チタンを2モル/リットルのn-ヘキサン溶液として2.5リットルと、組成式AlMg6(C253(n-C4912及びブタノールを1:0.4のモル比で反応させた有機マグネシウム成分のn-ヘキサン溶液7リットル(マグネシウム換算で5モル)を3時間かけて加え、更に10℃にて1時間攪拌下反応させた。反応終了後、上澄み液を除去し、n-ヘキサン7リットルで4回洗浄を行い、固体物質スラリーを得た。この固体物質スラリーから固体(チタン触媒(IV))を分離・乾燥して分析した結果、17.3質量%のチタンを有していた。
【0109】
(8)ポリエチレン樹脂Cの製造
最初に1段目の重合で低分子量成分を製造するために、反応容積300リットルのステンレス製重合器1を用い、重合温度85℃、重合圧力0.7MPaの条件で、触媒は上記のチタン触媒(IV)を1.4ミリモル(Ti原子基準)/時間、トリイソブチルアルミニウムを20ミリモル(金属原子基準)/時間、またヘキサンは40リットル/時間の速度で導入した。分子量調整剤としては水素を用い、エチレンに対する水素濃度が80モル%になるように供給し重合を行った。重合器1内のポリマースラリー溶液を、圧力0.1MPa、温度75℃のフラッシュドラムに導き、未反応のエチレン、水素を分離した後、反応容積250リットルの重合器2にスラリーポンプで昇圧して導入した。重合器2では、温度80℃、圧力0.4MPaの条件下で、トリイソブチルアルミニウムを7.5ミリモル/時間、ヘキサンは40リットル/時間の速度で導入した。これに、エチレン、水素、ブテン-1を水素の気相濃度が約8モル%、ブテンの気相濃度が約2.3モル%になるように導入して、重合器1で生成した低分子量部分の量に対して、重合器2で生成した高分子量部分の重量比が0.92倍となるように高分子量部分を重合し、MIが0.60g/10分、密度が957kg/m3のポリエチレン樹脂パウダーCを製造した。尚、重合器1で生成した低分子量部分のMIは、270g/10分、密度は972kg/m3であった。
【0110】
(9)ポリエチレン樹脂組成物(PE2)の製造
上記の如くして製造したポリエチレン樹脂Cにステアリン酸カルシウム300ppm及びアデカ社製アデカスタブ(登録商標)AO-50を300ppm、アデカスタブ(登録商標)2112を300ppmの濃度になるよう添加し、混合機で攪拌混合した。この混合物をシリンダー径44mmの二軸押出機(日本製鋼所社製TEX44HCT-49PW-7V)を使用し、シリンダー温度200℃、押出量35kg/時間の条件で、MIが0.30g/10分、密度が957kg/m3のポリエチレン樹脂組成物(PE2)を得た。
【0111】
[シート作成]
圧縮成型にて温度200℃でペレットを加熱溶融し300mm角、厚みが1.2mmのシートを作成した。なお、複数の樹脂のブレンド系では成型に先立ち20mm押出成型機にてペレタイズの上、成型に用いた。
【0112】
[カップ成型(1軸延伸)]
シートをクランプし、シートの温度が樹脂の融点(Tm)より5~10℃低い温度になるようにオーブン内で加熱し、上部から押し棒で押すことによりカップを成型した。
【0113】
[カップ成型(2軸延伸)]
シートをクランプし、シートの温度が樹脂の融点(Tm)より5~10℃低い温度になるようにヒーター間で加熱し、カップ形状のキャビティが下に位置した状態で上部から押し棒で押したのちエアーを吹き込むことによってカップを成型した。
【0114】
[実施例1]
樹脂組成物としてポリエチレン樹脂組成物(PE1)を用いた。シートを作成し、78秒の間に常温から原料のシートの融点より5℃低い温度に上げ、金型内へのプラグによる2軸延伸の方法でシートの温度124℃、押し棒速度15000mm/分で押したのちエアーを吹き込んでカップ(透明樹脂製成型体)を成型して物性等を測定した。物性等の測定結果を表1に示す。得られたカップにおいて、視認性又は光線透過を有する透明部分の厚みは、0.30mmであった。
【0115】
[比較例1]
樹脂組成物としてポリエチレン樹脂組成物(PE1)を用いた。シートを作成し、180秒の間に常温から原料のシートの融点より5℃低い温度に上げ、金型内へのプラグによる1軸延伸の方法でシートの温度124℃、押し棒速度15000mm/分でカップを成型して物性等を測定した。物性等の測定結果を表1に示す。得られたカップにおいて、視認性又は光線透過を有する透明部分の厚みは、0.30mmであった。
【0116】
[実施例2]
樹脂組成物としてポリエチレン樹脂組成物(PE1)及び成型によって生じた成型品を抜いた残り等を粉砕して得られた粉砕品を30質量%混ぜたものを用いた。シートを作成し、シート成型により押し出された原料のシートの温度を常温まで冷却することなく124℃に保ち、金型内へのプラグによる2軸延伸の方法で押し棒速度15000mm/分で押したのちエアーを吹き込んでカップ(透明樹脂製成型体)を成型して物性等を測定した。物性等の測定結果を表1に示す。得られたカップにおいて、視認性又は光線透過を有する透明部分の厚みは、0.32mmであった。
【0117】
[比較例2]
樹脂組成物としてポリエチレン樹脂組成物(PE1)を用いた。0.3mmのシートを作成し延伸せずに物性等を測定した。物性等の測定結果を表1に示す。得られたシートは不透明であるが光線透過を測定した部分の厚みは0.35mmであった。
【0118】
[比較例3]
樹脂として市販の2軸延伸ブロー用ポリエチレン(MFR1.65g/10分、密度963kg/m3)を用いた。シートを作成し、65秒の間に常温から原料のシートの融点より5℃低い温度に上げ、金型内へのプラグによる1軸延伸の方法でシートの温度128℃、押し棒速度15000mm/分でカップを成型して物性等を測定した。物性等の測定結果を表1に示す。得られたカップにおいて、視認性又は光線透過を有する透明部分の厚みは、0.18mmであった。
【0119】
[比較例4]
樹脂として市販の射出延伸用ポリエチレン(MFR5.0g/10分、密度947kg/m3)を用いた。シートを作成し、65秒の間に常温から原料のシートの融点より5℃低い温度に上げ、金型内へのプラグによる1軸延伸の方法でシートの温度124℃、押し棒速度15000mm/分でカップを成型して物性等を測定した。物性等の測定結果を表1に示す。得られたカップにおいて、視認性又は光線透過を有する透明部分の厚みは、0.17mmであった。
【0120】
[実施例3]
樹脂組成物としてポリエチレン樹脂組成物(PE2)を用いた。シートを作成し、65秒の間に常温から原料のシートの融点より5℃低い温度に上げ、金型内へのプラグによる2軸延伸の方法でシートの温度126℃、押し棒速度15000mm/分で押したのちエアーを吹き込んでカップ(透明樹脂製成型体)を成型して物性等を測定した。物性等の測定結果を表1に示す。得られたカップにおいて、視認性又は光線透過を有する透明部分の厚みは、0.23mmであった。
【0121】
[実施例4]
樹脂組成物としてポリエチレン樹脂組成物(PE2)を用いた。シートを作成し、85秒の間に常温から原料のシートの融点より5℃低い温度に上げ、金型内へのプラグによる1軸延伸の方法でシートの温度126℃、押し棒速度15000mm/分でカップを成型して物性等を測定した。物性等の測定結果を表1に示す。得られたカップにおいて、視認性又は光線透過を有する透明部分の厚みは、0.21mmであった。
【0122】
[比較例5]
サンアロマー株式会社製ランダムポリプロピレン樹脂クオリア(登録商標)CS356Mを用い、樹脂温度(成型温度)を150℃とした以外は実施例2と同様に成型を行い得られたカップの物性を測定した。物性等の測定結果を表1に示す。得られたカップにおいて、視認性又は光線透過を有する透明部分の厚みは、0.30mmであった。
【0123】
[比較例6]
SKケミカル社製PETG SKYGREEN(登録商標)PETG S2008を用い、樹脂温度(成型温度)を150℃とした以外は実施例2と同様に成型を行い得られたカップの物性を測定した。物性等の測定結果を表1に示す。得られたカップにおいて、視認性又は光線透過を有する透明部分の厚みは、0.32mmであった。
【0124】
[参考例1]
樹脂組成物として、メタロセン系触媒を用いて得られた高密度ポリエチレン(HDPE;密度942kg/m3、MFR=1.5g/10分)を用いた。特開2013-116938号公報の実施例1に記載の方法でシートを作成しそのままシートの物性等を測定した。物性等の測定結果を表1に示す。得られたシートにおいて、視認性又は光線透過を有する透明部分の厚みは、0.50mmであった。
【0125】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の透明樹脂製成型体は、赤外線、可視光線から深紫外線まで透明で、かつ低温衝撃性に優れ、熱湯までの使用に耐えうるため、内容物の低温冷凍、高温ボイル、赤外線加熱、紫外線殺菌などを行うことができる食品、水の容器、成型体を提供できる。また可視光線、赤外線に透過であることから赤外線センサーなどの容器、カバー材として最適である。
図1
図2
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図10