(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】状態監視装置
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2019107599
(22)【出願日】2019-06-10
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】595145050
【氏名又は名称】株式会社日立プラントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪倉 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】堀井 洋一
【審査官】山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-018526(JP,A)
【文献】特開2015-231607(JP,A)
【文献】特開2012-038298(JP,A)
【文献】特開2017-194341(JP,A)
【文献】特開2019-012473(JP,A)
【文献】特開2016-081363(JP,A)
【文献】特開2014-182726(JP,A)
【文献】特開平11-194814(JP,A)
【文献】特開2017-021702(JP,A)
【文献】特開平06-150175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置が正常又は異常であることを区別する第1の項目の計測値を受け付け、
前記第1の項目に影響を与える1又は複数の第2の項目の計測値を受け付け、
前記第1の項目と前記第2の項目との関係であって、前記装置が正常であることが既知である期間における関係を示す近似式を生成する学習部と、
前記近似式を更新する指示を受け付けたこと、又は、所定の周期が経過したことを契機として、
過去に蓄積された前記第1の項目及び前記第2の項目の計測値についての統計量に基づき、前記第1の項目及び前記第2の項目の疑似データを生成し、
前記生成した疑似データ、及び、過去に蓄積された前記第1の項目及び前記第2の項目の計測値を、ユーザが入力した混合比率で統合したものを学習データとして使用して前記近似式を更新する疑似データ生成部と、
診断対象データとして前記第1の項目の計測値及び前記第2の項目の計測値を受け付け、
前記診断対象データが前記近似式から乖離する程度を監視する診断部と、
を備え
、
前記疑似データ生成部は、
前記生成した疑似データを学習データとして使用すべき過去の期間、及び、過去に蓄積された前記第1の項目及び前記第2の項目の計測値を学習データとして使用すべき過去の期間として、前記ユーザが前記混合比率を入力するのを受け付けること、
を特徴とする状態監視装置。
【請求項2】
前記装置は、
水の処理における回転機械であり、
前記第1の項目は、
前記装置の振動速度であり、
前記第2の項目は、
前記装置の温度であること、
を特徴とする請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項3】
前記装置は、
水の処理における回転機械であり、
前記第1の項目は、
前記装置の振動速度であり、
前記第2の項目は、
前記装置の回転速度、前記水の粘度、前記水の流速、前記水を貯蔵する水槽の水位、及び、前記水に添加される凝集剤の量のうちのいずれかであること、
を特徴とする請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項4】
前記装置は、
水の処理における膜設備であり、
前記第1の項目は、
ファウリングによる差圧であり、
前記第2の項目は、
前記水の温度、前記水の濁度、前記水の流速、膜の使用年数、前記水に添加される凝集剤の量、前記膜の洗浄回数、及び、前記膜の洗浄間隔のうちのいずれかであること、
を特徴とする請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項5】
前記診断部は、
前記診断対象データの第2の項目の計測値を前記生成した近似式に入力して得られた値と、前記診断対象データの第1の項目の計測値との間の差分を評価すること、
を特徴とする請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項6】
前記診断部は、
前記近似式の係数の更新前後における変化に基づき、前記装置を診断すること、
を特徴とする請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項7】
前記第1の項目は、
複数の下位項目を含み、
前記学習部は、
前記下位項目のそれぞれと前記第2の項目との関係であって、前記装置が正常であることが既知である期間における関係を示す複数の下位近似式を、前記下位項目のそれぞれについて生成し、
前記診断部は、
前記診断対象データの第2の項目の計測値を前記生成した複数の下位近似式のそれぞれに入力して得られた値と、前記診断対象データの対応する下位項目の計測値との間の差分を、前記下位項目のそれぞれについて算出し、前記算出した差分の二乗和の平方根を評価すること、
を特徴とする請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項8】
前記近似式は、
複数のノード及び前記複数のノード間の重みを有するニューラルネットワークであること、
を特徴とする請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項9】
前記疑似データ生成部は、
前記第1の項目の計測値と前記第2の項目の計測値との複数の組合せを、シミュレータを使用することによって又は前記装置の環境を意図的に変化させることによって模擬的に生成し、
前記模擬的に生成した組合せを使用して前記近似式を生成すること、
を特徴とする請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項10】
装置が正常又は異常であることを区別する第1の項目の計測値を受け付け、
前記第1の項目に影響を与える1又は複数の第2の項目の計測値を受け付け、
前記第1の項目と前記第2の項目との関係であって、前記装置が正常であることが既知である期間における関係を示す近似式を生成する学習部と、
前記近似式を更新する指示を受け付けたこと、又は、所定の周期が経過したことを契機として、
過去に蓄積された前記第1の項目及び前記第2の項目の計測値についての統計量に基づき、前記第1の項目及び前記第2の項目の疑似データを生成し、
前記生成した疑似データ、及び、過去に蓄積された前記第1の項目及び前記第2の項目の計測値を、ユーザが入力した混合比率で統合したものを学習データとして使用して前記近似式を更新する疑似データ生成部と、
診断対象データとして前記第1の項目の計測値及び前記第2の項目の計測値を受け付け、
前記診断対象データが前記近似式から乖離する程度を算出したうえで表示し、
前記算出した程度が第1の閾値を超えた場合、第1の警報を発する診断部と、
を備え
、
前記疑似データ生成部は、
前記生成した疑似データを学習データとして使用すべき過去の期間、及び、過去に蓄積された前記第1の項目及び前記第2の項目の計測値を学習データとして使用すべき過去の期間として、前記ユーザが前記混合比率を入力するのを受け付けること、
を特徴とする状態監視装置。
【請求項11】
前記診断部は、
前記診断対象データの前記第1の項目の計測値が第2の閾値を超えた場合、第2の警報を発すること、
を特徴とする請求項10に記載の状態監視装置。
【請求項12】
前記診断部は、
前記受け付けた第1の項目の計測値、前記受け付けた第2の項目の計測値、及び、前記近似式を図形で表示すること、
を特徴とする請求項10に記載の状態監視装置。
【請求項13】
前記診断部は、
前記診断対象データの第2の項目の計測値を前記生成した近似式に入力して得られた値と、前記診断対象データの第1の項目の計測値との間の差分を時系列で表示すること、
を特徴とする請求項10に記載の状態監視装置。
【請求項14】
前記診断部は、
ネットワークを経由して前記第1の警報を遠隔地に送信すること、
を特徴とする請求項10に記載の状態監視装置。
【請求項15】
前記診断部は、
前記診断対象データの第2の項目の計測値を前記生成した近似式に入力して得られた値と、前記診断対象データの第1の項目の計測値との間の差分の所定の直近期間における平均値に基づいて、前記診断対象データが前記近似式から乖離する程度を算出すること、
を特徴とする請求項10に記載の状態監視装置。
【請求項16】
前記診断部は、
前記受け付けた第1の項目の計測値の統計量に基づき、前記第1の閾値を算出すること、
を特徴とする請求項10に記載の状態監視装置。
【請求項17】
前記診断部は、
前記算出した程度が前記第1の閾値を連続して超える回数が所定の数に達した場合、前記第1の警報を発すること、
を特徴とする請求項10に記載の状態監視装置。
【請求項18】
前記診断部は、
前記診断対象データの前記第1の項目の計測値が装置停止時に得られる範囲内である場合、前記第1の警報を発しないこと、
を特徴とする請求項10に記載の状態監視装置。
【請求項19】
前記診断部は、
前記算出した程度が前記第1の閾値を超え、かつ、前記診断対象データの前記第1の項目の計測値が装置停止時に得られる範囲を所定の回数連続して逸脱する場合、前記第1の警報を発すること、
を特徴とする請求項10に記載の状態監視装置。
【請求項20】
前記疑似データ生成部は、
前記統計量が取得された時点後の任意の時点において、過去に蓄積された前記第1の項目及び前記第2の項目の計測値を廃棄すること、
を特徴とする請求項1に記載の状態監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転中の装置からセンサ等で計測した計測値を使用して、装置の異常を事前に診断する技術が普及している。特許文献1の工程監視方法は、製品の製造工程において取得されたデータから主成分を設定し、当該主成分に基づいてマハラノビス距離の二乗値を算出し、当該二乗値に基づいて製品の出来映えを予測する。
【0003】
非特許文献1は、機械の“クラス”(規模)ごと、かつ、振動速度(mm/s、RMS)の範囲ごとに、“ゾーン”(異常度の段階)を定義した表を開示している。例えば、出力15kW以下の汎用電動機の振動速度が、0.71mm/s以下である場合、電動機は、新品同様であると評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】JIS B 0906、“機械振動-非回転部分における機械振動の測定と評価-一般的指針”、5.3.1、附属書B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の工程監視方法は、診断対象のデータと、既存の正常データのサンプルを示すクラスタとの間のマハラノビス距離を求めることを前提としている。いま仮に、そのマハラノビス距離が充分大きく、診断対象のデータは、既存のクラスタのいずれにも属さないとする。この場合、製品は異常であるのか、それとも、製品は過去に経験したことのない正常な状態にあるのかは不明である。
【0007】
非特許文献1は、機械が正常又は異常であることを区別する値(振動速度)を評価する。しかしながら、機械の異常の予兆を検知できたとしても、その時点では手遅れである可能性が高い。非特許文献1は、振動速度に影響を与える他の計測値の活用等については言及していない。
そこで、本発明は、装置が正常又は異常であることを区別する計測値と、当該計測値に影響を与える他の計測値とを使用して、装置の異常の予兆を検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の状態監視装置は、装置が正常又は異常であることを区別する第1の項目の計測値を受け付け、第1の項目に影響を与える1又は複数の第2の項目の計測値を受け付け、第1の項目と第2の項目との関係であって、装置が正常であることが既知である期間における関係を示す近似式を生成する学習部と、近似式を更新する指示を受け付けたこと、又は、所定の周期が経過したことを契機として、過去に蓄積された第1の項目及び第2の項目の計測値についての統計量に基づき、第1の項目及び第2の項目の疑似データを生成し、生成した疑似データ、及び、過去に蓄積された第1の項目及び第2の項目の計測値を、ユーザが入力した混合比率で統合したものを学習データとして使用して近似式を更新する疑似データ生成部と、診断対象データとして第1の項目の計測値及び第2の項目の計測値を受け付け、診断対象データが近似式から乖離する程度を監視する診断部と、を備え、疑似データ生成部は、生成した疑似データを学習データとして使用すべき過去の期間、及び、過去に蓄積された第1の項目及び第2の項目の計測値を学習データとして使用すべき過去の期間として、ユーザが混合比率を入力するのを受け付けること、を特徴とする。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、装置が正常又は異常であることを区別する計測値と、当該計測値に影響を与える他の計測値とを使用して、装置の異常の予兆を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図5】振動速度と差分の時系列推移を説明する図である。
【
図6】振動速度がベクトルである場合の計測値・推測値情報の一例である。
【
図7】計測値を全量再生する場合の計測値・推測値情報の一例である。
【
図8】計測値を一部再生する場合の計測値・推測値情報の一例である。
【
図12】近似式更新処理手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以降、本発明を実施するための形態(“本実施形態”という)を、図等を参照しながら詳細に説明する。本実施形態は、水処理プラントにおいて、回転機械の一種である攪拌機の状態を監視し異常の予兆を検知する例である。しかしながら、本発明は、攪拌機以外の回転機械、回転機械以外の装置、及び、水処理プラント以外における装置に対しても適用可能である。
【0012】
(状態監視装置)
図1は、状態監視装置1の構成等を説明する図である。状態監視装置1は、一般的なコンピュータであり、中央制御装置11、マウス、キーボード等の入力装置12、ディスプレイ、スピーカ等の出力装置13、主記憶装置14、補助記憶装置15及び通信装置16を備える。これらは、バスで相互に接続されている。補助記憶装置15は、計測値・推測値情報31、近似式32、統計量情報33及び閾値情報34(いずれも詳細後記)を格納している。
【0013】
主記憶装置14における学習部21、診断部22及び疑似データ生成部23は、プログラムである。中央制御装置11は、これらのプログラムを補助記憶装置15から読み出し主記憶装置14にロードすることによって、それぞれのプログラムの機能(詳細後記)を実現する。補助記憶装置15は、状態監視装置1から独立した構成となっていてもよい。
【0014】
水処理プラント4は、河川等の自然環境から取得した原水を一時的に貯蔵する第1水槽41、第1水槽の原水に対して凝集剤を添加する凝集剤添加装置45、凝集剤を添加された原水を攪拌する攪拌機46を有する。水処理プラント4は、さらに、攪拌された原水を一時的に貯蔵し汚濁物質を沈殿させる第2水槽42、第1水槽41及び第2水槽42を連結する配管43、及び、配管43内の原水を第2水槽42の方向に流すポンプ44を有する。
【0015】
水処理プラント4の各設備には、多種多様なセンサ47が配置されている。例えば、センサ47aは、攪拌機46の軸受の振動速度(mm/s、RMS)を計測する。センサ47bは、攪拌機46の温度(℃)を計測する。センサ47cは、攪拌機46の回転軸の回転速度(rpm)を計測する。センサ47dは、第1水槽41内の原水の粘度(cm2/s)を計測する。センサ47eは、第1水槽41内の原水の水位(cm)を計測する。センサ47fは、配管43内を流れる原水の流速(cm3/s)を計測する。センサ47gは、第1水槽41内の原水に添加される凝集剤の質量(mg/リットル)を計測する。
【0016】
各センサ47は、状態監視装置1の通信装置16に接続されている。各センサ47は、ネットワーク3を介して状態監視装置1の通信装置16に接続されていてもよい。状態監視装置1は、ネットワーク3を介して遠隔地の警報受信装置2に接続されている。状態監視装置1が、警報受信装置2の機能を兼ねていてもよい。
【0017】
(計測値・推測値情報)
図2は、計測値・推測値情報31の一例である。計測値・推測値情報31においては、時刻欄101に記憶された時刻に関連付けて、計測値欄102には計測値が、推測値欄103には推測値が、差分欄104には差分が、既知情報欄105には既知情報が、診断結果欄106には診断結果が、期間名欄107には期間名が記憶されている。
【0018】
時刻欄101の時刻は、各センサ47が計測値を取得した時点の年月日時分秒である。
計測値欄102の計測値は、各センサ47が計測した計測値である。
図2の例では、計測値欄102は、攪拌機46の軸受の振動速度(欄102a)、攪拌機46の回転軸の回転速度(欄102b)、第1水槽41内の原水の粘度(欄102c)、及び、配管43内を流れる原水の流速(欄102d)という4つの項目を有する。計測値は、例えば、攪拌機46の温度、原水の水位、原水に添加される凝集剤の質量のように、他のセンサ47が計測したものであってもよい。
【0019】
本実施形態は、攪拌機46の異常の予兆を検知する。攪拌機46の異常(その予兆)は、振動速度として最も顕著に現れる。したがって、振動速度(欄102a)は、攪拌機46が正常又は異常であることを区別する項目であり、請求項の“第1の項目”に相当する。このような項目は、以降の説明においても“第1の項目”と呼ばれる。回転速度(欄102b)、粘度(欄102c)及び流速(欄102d)のそれぞれは、第1の項目に影響を与える項目であり、請求項の“第2の項目”に相当する。このような項目は、以降の説明においても“第2の項目”と呼ばれる。
【0020】
振動速度には、“Y”が割り当てられ、回転速度、粘度及び流速のそれぞれには、“X
1”、“X
2”及び“X
3”が割り当てられている。このことは、回転速度、粘度及び流速を説明関数とし、振動速度を目的変数とする関数“Y=F(X
i)”が想定され得ることを意味する(i=1、2、3、・・・)。ここでの関数とは、回帰式としての近似式32である。“#”は、異なる値を省略的に示している(
図6等においても同様)。なお、請求項の“第1の項目の計測値”には、“Y”が相当し、“第2の項目の計測値”には、“X
i”が相当する。
【0021】
推測値欄103の推測値は、近似式32に対して“X
i”を説明変数の値として入力した結果得られた目的変数の値である。ここでの目的変数の値は、振動速度を示すものであるが、センサが計測した計測値ではなく、近似式32の出力としての推測値である。このことを明確にするために、欄103の振動速度には、小文字の“y”が割り当てられている。つまり、“y=F(X
i)”は、“計測値としての説明変数の値がX
iである場合、目的変数の値は、理論的にyとなるはずである”ことを示している。“-”は、その欄にデータがないことを意味する(詳細後記)。
図2の説明の途中であるが、
図3に進む。
【0022】
図3は、近似式32を説明する図である。
図3においては、回転速度X
1を横軸とし、振動速度Y、yを縦軸とする座標平面に、7個の点●及び近似式32が描画されている。
図2において説明変数X
iが3種類存在するのに対し、
図3において説明変数は1種類(X
1)しか存在しない。これは、単に説明の単純化のためである(後記する
図4も同様)。7個の点●は、
図2の学習期間(詳細後記)における7本のレコード(行)の“Y,X
1”の組合せに相当する。状態監視装置1は、7個の点●を使用して回帰分析を行い、回帰式としての近似式32を生成する。具体的には、状態監視装置1は、例えば一次式としての近似式32の係数(傾き及び切片)を決定する。
図2に戻る。
【0023】
差分欄104の差分は、振動速度の実測値(欄102a)から振動速度の推測値(欄103)を減算した値の絶対値である。当該欄における“#”に対して付された“<Th”及び“≧Th”は、差分の値が所定の閾値と比較された結果を示し、“-”は、その欄にデータがないことを意味する(詳細後記)。
図2の説明の途中であるが、
図4に進む。
【0024】
図4は、差分を説明する図である。
図4においては、回転速度X
1を横軸とし、振動速度Y、yを縦軸とする座標平面に、1個の点■及び近似式32が描画されている。1個の点■は、
図2の診断期間(詳細後記)におけるある1本のレコードの“Y,X
1”の組合せに相当する。状態監視装置1は、点■の縦軸の座標値Yから、点■を通る垂直線と近似式32との交点の縦軸の座標値yを減算した値の絶対値を差分とする。差分は、診断対象データが近似式から乖離する程度を示している。
図2に戻る。
【0025】
既知情報欄105の既知情報は、その時刻において既知である攪拌機46の状態である。既知情報は、“正常”又は“異常”のいずれかであり得るが、
図2においては、説明の単純化のために、すべてが“正常”である。“-”は、その欄にデータがないことを意味する(詳細後記)。
診断結果欄106の診断結果は、状態監視装置1が攪拌機46に対して行った診断の結果であり、“正常”又は“異常”のいずれかである。“異常”は、攪拌機46の停止、破壊等の顕在的な異常以外にも、一見正常に稼働しているように見えるが実は顕在的な異常の前触れである“予兆”を含む。“-”は、その欄にデータがないことを意味する(詳細後記)。
【0026】
期間名欄107の期間名は、“学習期間”又は“診断期間”のいずれかである。“学習期間”は、その時刻において、状態監視装置1が、正常状態にある攪拌機46の計測値のサンプルを取得していることを示す。つまり、学習期間においては、攪拌機46が正常であることが既知の前提となっている。“診断期間”は、各時刻において、状態監視装置1が、攪拌機46の診断(正常又は異常の判断)を行っていることを示す。当然、診断期間において診断結果が判明するまでは、攪拌機46が正常であるか否かは未知である。
【0027】
図2を全体的に見ると以下のことがわかる。
・2019年3月10日から16日までの毎日10時00分00秒に、状態監視装置1は、稼働中の攪拌機46について振動速度、回転速度、粘度及び流速の計測値を取得した。
・当該期間は、攪拌機46が正常であることが既知である学習期間である。そして、状態監視装置1は、サンプルとしての計測値を取得する処理以外の処理を行っていない。したがって、推測値欄103、差分欄104及び診断結果欄106には“-”が記憶されている。
【0028】
・2019年3月17日から20日までの毎日10時00分00秒に、状態監視装置1は、稼働中の攪拌機46について振動速度、回転速度、粘度及び流速の計測値を取得した。
・当該期間は、診断結果が判明するまでは攪拌機46が正常であるか否かが未知である診断期間である。したがって、既知情報欄105には“-”が記憶されている。
【0029】
・
図2からは直接わからないが、前記したように、診断期間においては、近似式32が既に生成されている。
・そこで、状態監視装置1は、診断期間の各時刻において、まず近似式32に“X
i”を入力することによって推測値“y”を算出し、次に差分“|Y-y|”を算出し、さらに差分に対して閾値を適用している。
・状態監視装置1は、“差分<閾値”であれば、攪拌機46は正常であり、“差分≧閾値”であれば、攪拌機46は異常であると診断している。
【0030】
(振動速度と差分の時系列推移)
図5は、振動速度と差分の時系列推移を説明する図である。
図5の横軸は、時間である。縦軸は、振動速度(左目盛)及び差分(右目盛)である。振動速度は、攪拌機46の第1の項目である。差分は、攪拌機46の振動速度の計測値から推測値を減算した値の絶対値である。よって、ある時点の差分は、当該時点の振動速度よりも、推測値(近似式32上の点の縦軸の値)の分だけ小さい。したがって、
図5においては、差分の目盛を振動速度の目盛の1/10として、差分の変化を強調している。
【0031】
振動速度のグラフ51が立ち上がる相当前の時点において、差分のグラフ52が立ちあがっている。グラフ52が立ちあがった後、グラフ51が立ち上がる前の期間において、攪拌機46は、異常の予兆を呈している。この期間に、顕在的な異常を回避するような対策が必要である。
【0032】
(攪拌機以外の例)
水処理プラント4は、原水を濾過する膜設備を有してもよい(図示せず)。状態監視装置1は、攪拌機46と同様に、膜設備を監視する。この場合、センサ47は、ファウリングによる差圧、原水の温度、原水の濁度、原水の流速、及び、原水に添加される凝集剤の質量を計測する。さらに、センサ(カウンタ)は、膜設備の使用年数、洗浄回数及び洗浄間隔を広義の計測値として取得する。ファウリングによる差圧とは、膜の前後の水圧の差分であり、膜に多くの汚れが付着するほど差圧は大きい。
【0033】
この例では、請求項の“第1の項目”には、ファウリングによる差圧が相当し、“第2の項目”には、原水の温度、原水の濁度、原水の流速、原水に添加される凝集剤の質量、膜設備の使用年数、膜設備の洗浄回数、及び、膜設備の洗浄間隔が相当する。以降では、引き続き、攪拌機46の例を説明する。
【0034】
(第1の項目の次元数)
前記では、第1の項目としての振動速度は、1次元のスカラであることを前提としてきた。しかしながら、振動速度は、多次元のベクトルであってもよい。このとき、ベクトルの各成分は、例えば振動の方向(上下、左右、前後)に割り当てられてもよいし、振動の周波数帯(高周波、低周波)に割り当てられてもよい。
【0035】
図6は、振動速度がベクトルである場合の計測値・推測値情報31bの一例である。
図2に比して、
図6が異なる点は、以下の通りである。
・計測値欄102における振動速度に関する欄は、低周波振動速度欄102a及び高周波振動速度欄102aaの2つの下位項目から構成されている。
・推測値欄103は、低周波振動速度欄103a及び高周波振動速度欄103bから構成されている。
【0036】
・近似式32として、2つの下位近似式“y1=F1(Xi)”及び“y2=F2(Xi)”が存在する。1つの近似式がベクトル“(y1,y2)”を出力する構成としてもよい。
・差分の計算式が、“√[(Y1-y1)2+(Y2-y2)2]”に代わっている。“√”は、平方根を示す。
【0037】
(計測値の廃棄と再生)
図2及び
図6においては説明目的のために単純化されているが、実際には計測値のデータ量は、膨大になる場合が多い。本実施形態では、状態監視装置1は、学習期間の計測値を学習データとして使用して、近似式32を生成(学習)する。状態監視装置1がこれらの計測値を使用した後もそのまま記憶し続けると、無視できない程度に記憶領域を消費する。そこで、状態監視装置1は、使用済みの計測値を廃棄(削除)してもよい。
【0038】
学習データが一旦廃棄された後、再度必要になる場合もある。この対策として、まず、状態監視装置1は、学習データを廃棄する前に、その統計量を取得し補助記憶装置15に記憶しておく。ここでの統計量は、例えば、データ数、計測値の種類(振動速度、回転速度、粘度、流速、・・・)ごとの平均、及び、計測値の種類ごとの分散である。状態監視装置1は、記憶していた統計量を使用して、専ら近似式32を生成するための学習データとしての計測値を必要な分だけ生成する。計測値が、例えば正規分布に従う場合、この方法は有効である。状態監視装置1は、統計量を攪拌機46が使用された条件(季節、負荷量、運転条件等)に関連付けて記憶しておいてもよい。
【0039】
前記のように計測値を再生することによって、直近の過去における計測値が存在しない、又は、不足している場合でも、状態監視装置1は、計測値の全量又は一部の不足分を新たに生成することができる。再生された計測値のデータ群全体としての統計量は、当然、過去に廃棄した計測値と同じであるが、個々の計測値の値は、過去に廃棄した計測値とは異なる。その意味で、再生された計測値は、“疑似データ”とも呼ばれる。
【0040】
図7は、計測値を全量再生する場合の計測値・推測値情報31cの一例である。
図2に比して、
図7が異なる点は、以下の通りである。
・診断期間の直近の過去において、計測値は存在しない(“*”がこのことを示す)。
・診断期間の約1年前の同季節に計測値が計測された。そして、その計測値は、学習データとして使用された後、廃棄された。しかしながら、廃棄される直前の計測値の統計量が補助記憶装置15に記憶されている。
【0041】
・そこで、状態監視装置1は、その統計量を使用して前記した方法で疑似データを生成し、2019年3月10日から16日までのレコードに記憶した。“*”は、その計測値が実際に計測されたものではなく、疑似データであることも示す(
図8でも同様)。時刻欄101の時刻に付された下線は、その時刻において疑似データが実際の計測値を代替していることを示す(
図8でも同様)。
【0042】
図8は、計測値を一部再生する場合の計測値・推測値情報31dの一例である。
図2に比して、
図8が異なる点は、以下の通りである。
・診断期間は、2019年3月24日から27日である。
・診断期間の直近の過去において、計測値の取得が何らかの理由で一旦中断された後再開された結果、測定値は、必要なデータ量(7日分)に対して4日分だけ不足している。つまり、2019年3月21日から23日までの計測値は存在するが、2019年3月17日から20日までの計測値は存在しない。
【0043】
・診断期間と同じ月に計測値が計測された。そして、その計測値は学習データとして使用された後、廃棄された。しかしながら、廃棄される直前の計測値の統計量が補助記憶装置15に記憶されている。
・そこで、状態監視装置1は、その統計量を使用して前記した方法で疑似データを生成し、2019年3月17日から20日までのレコードに記憶した。
【0044】
(近似式の更新)
近似式32は、第1の項目と、第2の項目との関係を示す。すると、仮に近似式32が含む説明変数及び目的変数の種類が同じであったとしても、攪拌機46の運転条件、運転環境等が変化すれば、近似式32も当然変化する。換言すれば、運転条件ごと運転環境ごとに、多くの近似式32が存在することになる。そして、過去に存在しなかった新たな運転環境、運転条件等が発生する都度、状態監視装置1は、新たな運転環境、運転条件等を反映した近似式を新たに作成するのが望ましい。同様に、状態監視装置1は、過去には存在したが将来再現する見込みのない運転環境、運転条件等を反映した近似式を廃棄(又は別途保管)するのが望ましい。
【0045】
近似式を学習するための計測値(学習データ)は、一般に以下の部分の混合物である。
〈部分Api〉直近の過去を含む過去の特定の期間piにおいてセンサが計測した計測値
〈部分Bqi〉過去の特定の期間qiにおける計測値の統計量に基づき状態監視装置1が再生した計測値(疑似データ)
【0046】
状態監視装置1は、混合比率“(部分Ap1:部分Ap2:・・・:部分Bq1:部分Bq2:・・・)=(#:#:・・・:#:#:・・・)”をユーザが入力するのを受け付ける。状態監視装置1は、混合比率に応じて、複数の部分の計測値を統合(ブレンド)する。ユーザは、攪拌機46を今後どのような運転環境、運転条件等で使用するかによって、統合比率を決める。
【0047】
図8において、状態監視装置1は、混合比率“(部分Ap
1:部分Bq
1)=(3/7:4/7)”で、部分Ap
1及び部分Bq
1を統合し、7日分の学習データとしている。ここで、期間p
1は、2019年3月21日から23日までであり、期間q
1は、2019年3月10日から16日までである。状態監視装置1は、統合後の計測値を使用して学習した近似式32を記憶することもできる。この近似式は、2019年3月10日から16日まで及び21日から23日までの運転環境、運転条件等を反映している。
【0048】
図7に戻る。状態監視装置1は、混合比率“(部分Bq
1)=(7/7)”で、部分Bq
1のみを学習データとしている。ここで、期間q
1は、2018年3月10日から16日までである。状態監視装置1は、この学習データを使用して生成した近似式32を記憶することもできる。この近似式は、2018年3月10日から16日までの運転環境、運転条件等を反映している。
【0049】
(処理手順)
以降で処理手順を説明する。処理手順として、学習処理手順、診断処理手順及び近似式更新処理手順の3つが存在する。診断処理手順及び近似式更新処理手順が開始されるためには、学習処理手順が既に終了していることが前提になっている。
【0050】
(学習処理手順)
図9は、学習処理手順のフローチャートである。
ステップS201において、状態監視装置1の学習部21は、学習データを取得する。具体的には、第1に、学習部21は、学習期間において、所定のセンサ47から、当該センサ47が計測する計測値を取得する。
第2に、学習部21は、計測値・推測値情報31(
図2)の新たなレコードを作成し、計測値欄102に計測値を記憶する。
【0051】
第3に、学習部21は、時刻欄101に各センサ47が計測値を取得した時刻を記憶し、既知情報欄105に“正常”を記憶し、期間名欄107に“学習期間”を記憶する。
学習部21は、所定の回数だけステップS201の処理を繰り返す。所定の回数とは、計測値が、統計的に有意な程度に計測値・推測値情報31のレコードとして蓄積される回数(レコードの本数)である。学習部21は、現時点におけるレコードの本数が所定の回数に達していることをユーザに問い合わせて確認してもよい。
【0052】
ステップS202において、学習部21は、近似式32を生成する。具体的には、学習部21は、ステップS201の“第2”において記憶した測定値を使用して、
図3において説明した方法で近似式32を作成する。
図3の近似式32は、2次元の近似式であるが、近似式の次元数は、制限されない。近似式32は、1又は複数の説明変数の入力に対して、1又は複数の目的変数を出力するものであれば何でもよい。
【0053】
ステップS203において、学習部21は、統計量を取得する。具体的には、学習部21は、ステップS201の“第2”において記憶した測定値の、データ数(レコード数)、平均及び分散を算出する。学習部21は、平均及び分散を計測値の種類ごとに算出する。平均及び分散は、あくまでも統計量の一例に過ぎない。学習部21は、後に疑似データを再生し得るような任意の種類の統計量を、学習データの分布の形に応じて算出する。
【0054】
ステップS204において、学習部21は、近似式及び統計量を記憶する。具体的には、第1に、学習部21は、ステップS202において生成した近似式の係数(傾き、切片等)を、近似式32として補助記憶装置15に記憶する。
第2に、学習部21は、ステップS203において算出した統計量を、統計量情報33として補助記憶装置15に記憶する。
【0055】
ステップS205において、学習部21は、学習データを廃棄する。具体的には、第1に、学習部21は、学習データ(計測値)を廃棄する旨の指示をユーザが入力装置12を介して入力するのを受け付ける。
第2に、学習部21は、ステップS201の“第2”において記憶したデータを廃棄(削除)する。
その後、学習処理手順を終了する。
【0056】
(診断処理手順)
図10は、診断処理手順のフローチャートである。
ステップS301において、状態監視装置1の診断部22は、閾値を受け付ける。具体的には、診断部22は、ユーザが入力装置12を介して第1の閾値及び第2の閾値を入力するのを受け付ける。第1の閾値は、差分に対して適用される1又は複数の閾値である。本実施形態では、大きさの異なる8つの閾値(Th0<Th1<・・・<Th7)が入力されるものとする。第2の閾値は、第1の項目(
図2では、振動速度)に対して適用される1つの閾値Th
Sである。診断部22は、これらの閾値を閾値情報34として、補助記憶装置15に記憶する。
【0057】
ステップS302において、診断部22は、診断対象データを取得する。具体的には、診断部22は、診断期間において、所定のセンサ47から、当該センサ47が計測する計測値を取得する。ここで取得された計測値は、“診断対象データ”と呼ばれ、診断対象データは、第1の項目Y及び第2の項目Xiの計測値を含む。
【0058】
ステップS303において、診断部22は、近似式32を取得する。具体的には、診断部22は、補助記憶装置15から、近似式32(近似式の係数)を取得する。
ステップS304において、診断部22は、推測値を算出する。具体的には、診断部22は、ステップS303において取得した近似式に対して、ステップS302において取得した診断対象データのうちの第2の項目の計測値を入力することによって、第1の項目の推測値yを算出する。
【0059】
ステップS305において、診断部22は、差分を算出する。具体的には、診断部22は、ステップS302において取得した診断対象データに含まれる第1の項目の計測値YからステップS304において算出した第1の項目の推測値yを減算した値の絶対値を算出する。
【0060】
ステップS306において、診断部22は、差分に閾値を適用する。具体的には、診断部22は、ステップS305において算出した差分に対して第1の閾値を適用し、ステップS302において取得した診断対象データに含まれる第1の項目の計測値に対して、第2の閾値を適用する。
【0061】
ステップS307において、診断部22は、差分が閾値を超えるか否かを判断する。具体的には、診断部22は、差分が第1の閾値のうちの少なくとも1つを超え、かつ/又は、第1の項目の計測値が第2の閾値を超える場合(ステップS307“Yes”)、ステップS308に進む。診断部22は、それ以外の場合(ステップS307“No”)、ステップS309に進む。分岐条件中の“かつ/又は”は、前後の2つの条件のうち、少なくとも1つが満たされることを示している。診断部22は、ここでの分岐条件を“かつ”に限定してもよい。説明の便宜上、ここでは2つの条件が同時に満たされたものとする。
【0062】
ステップS308において、診断部22は、警報を発する。具体的には、診断部22は、監視画面61(
図11)を出力装置13に表示する。このとき、診断部22は、ネットワーク3を介して、監視画面61を警報受信装置2の出力装置に表示してもよい。
図10の説明の途中であるが、
図11に進む。
【0063】
図11は、監視画面61の一例である。診断部22は、差分警報欄62において、差分と8つの第1の閾値との大小関係に応じて、8つの警報ランプ62a~62hのうちの1~8個を点灯させる。
図11の例では、この大小関係は、“Th4<差分≦Th5”である。差分が大きいほど点灯する警報ランプの数は多くなる。
【0064】
診断部22は、計測値警報欄63において、警報ランプ63aを点灯させる。警報ランプ63aの点灯は、第1の項目の計測値が第2の閾値を超えていることを意味する。さらに、診断部22は、欄64に、近似式32、学習データとしての計測値(7つの●)、及び、現在の診断対象データ■65を描画した座標平面を表示する。この座標平面は、
図3及び
図4の内容を合わせたもののである。診断部22は、座標平面に替えて多次元空間を表示してもよい。
【0065】
診断部22は、欄66に、振動速度のグラフ51及び差分のグラフ52を表示する。これらのグラフは、
図5のグラフ51及びグラフ52のうち、現在時点を示す垂直の破線より左の部分である。診断部22が警報を発するタイミング、すなわち、監視画面61を表示させるタイミングについては、いくつかの変形例が存在する(詳細後記)。
図10に戻る。
【0066】
ステップS309において、診断部22は、診断結果等を記憶する。具体的には、第1に、診断部22は、計測値・推測値情報31(
図2)の新たなレコードを作成し、計測値欄102に計測値(診断対象データ)を記憶する。
第2に、診断部22は、時刻欄101に各センサ47が計測値(診断対象データ)を取得した時刻を記憶し、期間名欄107に“診断期間”を記憶する。
【0067】
第3に、診断部22は、推測値欄103にステップS304において算出した推測値を記憶し、差分欄104に、ステップS305において算出した差分及びその差分と第1の閾値との大小関係を記憶する。
第4に、診断部22は、差分が少なくとも1つの第1の閾値を超える場合、診断結果欄106に“異常”を記憶し、それ以外の場合、診断結果欄106に“正常”を記憶する。
その後、診断処理手順を終了する。
【0068】
診断部22は、ステップS302~S309の処理を所定の周期で繰り返す、又は、ユーザの指示を契機として繰り返す。当該繰り返し処理が実行される都度、計測値・推測値情報31(
図2)において、診断期間のレコードが蓄積されて行く。
【0069】
(近似式更新処理手順)
図12は、近似式更新処理手順のフローチャートである。
ステップS401において、状態監視装置1の疑似データ生成部23は、処理開始の契機を受け付ける。具体的には、疑似データ生成部23は、ユーザが、入力装置12を介して、“近似式更新指示”を入力するのを受け付ける。疑似データ生成部23は、予めユーザが指定する任意の周期を補助記憶装置15に記憶しておき、その周期が経過する都度、ユーザから近似式更新指示を受け付けたものと看做してもよい。
【0070】
周期の例としては、例えば以下が挙げられる。
・前回近似式を更新した後、所定の期間が到来する。
・前回近似式を更新した後、計測値・推測値情報32における計測値(学習データ)が所定の数だけ蓄積される。
【0071】
ステップS402において、疑似データ生成部23は、混合比率を受け付ける。具体的には、疑似データ生成部23は、ユーザが入力装置12を介して混合比率を入力するのを受け付ける。前記したように、混合比率とは、“過去のどの時点の計測値、及び/又は、過去のどの時点の計測値の統計量に基づく疑似データをどのような比率でブレンドして、近似式生成用の学習データとするか”を示す比率である。説明の単純化のため、ここでユーザは、混合比率“(部分Ap
1:部分Bq
1)=(3/7:4/7),p
1=2019年3月21日から23日まで,q
1=2019年3月10日から16日まで”を入力したとする。当該例は、
図8の例である。
【0072】
ステップS403において、疑似データ生成部23は、過去の計測値等を取得する。具体的には、第1に、疑似データ生成部23は、2019年3月21日から23日までにおける計測値を計測値・推測値情報32から取得する。なお、混合比率が部分Ap
iを含まない場合(例えば
図7)、疑似データ生成部23は、ステップS403の“第1”を省略する。
第2に、疑似データ生成部23は、2019年3月10日から16日までにおける削除済の計測値の統計量を補助記憶装置15から取得する。
【0073】
ステップS404において、疑似データ生成部23は、疑似データを生成する。具体的には、疑似データ生成部23は、ステップS403の“第2”において取得した統計量に基づいて、4日分の疑似データを生成する。疑似データ生成部23は、ここで生成した疑似データを、ユーザが指定する計測値・推測値情報32の任意のレコード(例えば
図8の2019年3月17日から20日までのレコード)に記憶してもよい。
【0074】
ステップS405において、疑似データ生成部23は、新たな学習データを準備する。具体的には、疑似データ生成部23は、ステップS403の“第1”において取得したデータ及びステップS404において生成した疑似データを統合し、7日分の学習データとする。ここで“統合する”とは、複数の部分を合わせて一体化することである。
【0075】
ステップS406において、疑似データ生成部23は、近似式32を生成する。具体的には、第1に、疑似データ生成部23は、ステップS405において準備した学習データを使用して、
図3で説明した方法で近似式32を新たに学習する。
第2に、疑似データ生成部23は、新たに学習した近似式32を補助記憶装置15に記憶する。疑似データ生成部23は、ステップS405において準備した計測値(学習データ)を廃棄してもよい。
その後、近似式更新処理手順は終了する。なお、新たな近似式32は、診断処理手順(
図10)のステップS303において、診断部22によって取得されることになる。
【0076】
(変形例1:発報タイミング)
ステップS307において、診断部22は、差分の移動平均が第1の閾値のうちの少なくとも1つを超え、かつ/又は、第1の項目の計測値の移動平均が第2の閾値を超える場合に、ステップS308に進んでもよい。差分の移動平均とは、今回の差分を含む直近の過去のn回分(n=2、3、4、・・・)の差分の平均値である。第1の項目の計測値の移動平均とは、今回を含む直近の過去のm回分(m=2、3、4、・・・)の第1の項目の計測値の平均値である。診断部22は、ユーがn及びmの値を予め入力するのを受け付けておく。
【0077】
(変形例2:発報タイミング)
ステップS307において、診断部22は、差分が第1の閾値のうちの少なくとも1つを連続して超える回数c1及び第1の項目の計測値が第2の閾値を連続して超える回数c2をカウントしておく。診断部22は、回数c1が所定の閾値に達した場合、かつ/又は、回数c2が所定の閾値に達した場合、ステップS308に進んでもよい。診断部22は、ユーザが回数c1についての閾値、及び、回数c2についての閾値を予め入力するのを受け付けておく。
【0078】
(変形例3:発報タイミング)
ステップS307において、診断部22は、第1の項目の計測値が停止範囲にある場合、差分の値の大小に関係なく、ステップS309に進んでもよい。停止範囲とは、攪拌機46が停止しているときに第1の項目の計測値が取る範囲である。診断部22は、ユーザが停止範囲を予め入力するのを受け付けておく。
【0079】
(変形例4:発報タイミング)
ステップS307において、診断部22は、差分が第1の閾値のうちの少なくとも1つを超え、かつ、第1の項目の計測値が停止範囲を所定の回数連続して逸脱する場合に、ステップS308に進んでもよい。
【0080】
(変形例5:閾値の自動生成)
診断部22は、計測値を使用して任意の方法で第1の閾値及び第2の閾値を自動的に生成してもよい。診断部22は、例えば以下に示すような、第1の閾値を算出する数式及び第2の閾値を算出する数式をユーザが入力するのを予め受け付けておく。
【0081】
・第1の閾値=α×σ
σは、第1の項目の計測値Yの任意の期間における分散であり、αは正の定数である。
・第2の閾値=β×μ
μは、第1の項目の計測値Yの任意の期間における平均であり、βは正の定数である。
そして、診断部22は、任意のタイミングでσ及びμを算出し、第1の閾値及び第2の閾値を更新する。
【0082】
(変形例6:近似式の係数に応じた診断)
診断部22は、近似式32を更新する前後における近似式の係数の変化に応じて、攪拌機46が正常であるか、それとも、異常であるかを判断してもよい。例えば、更新後の係数の値anewから更新前の係数の値aoldを減算した結果の絶対値が所定の閾値を超えた場合、診断部22は、監視画面61を表示し、その旨の警報を発してもよい。
【0083】
(変形例7:ニューラルネットワーク)
近似式32は、入力層、中間層及び出力層に属する複数のノード、各ノードを連結するリンク、並びに、あるノードから発する複数のリンクに関連付けられた重みから構成されるニューラルネットワークであってもよい。
【0084】
(変形例8:計測値の模擬生成)
前記では、疑似データ生成部23が計測値の統計量を使用して疑似データを生成する例を説明した。この例では、疑似データは、“疑似”と命名されてはいるが、実際にセンサが取得した計測値の特徴を受け継いでいる。疑似データ生成部23は、説明変数Xiの値及び目的変数Yの値の異なる複数の組合せを、任意の規則に従ってシミュレータ(任意のコンピュータ)に模擬的に発生させ、それを疑似データとしてもよい。疑似データ生成部23は、ユーザに攪拌機46の環境を意図的に変化させ(例えばヒータの設定温度を上昇させる)、その変化に応じてセンサ47が取得する説明変数Xiの値及び目的変数Yの値の異なる複数の組合せを疑似データとしてもよい。疑似データ生成部23は、これらの組合せを使用して、近似式32を更新することができる。
【0085】
(変形例9:学習データを廃棄するタイミング)
学習部21及び疑似データ生成部23は、計測値の統計量が取得された時点後の任意の時点において、当該統計量を廃棄することができる。以下に挙げる任意の時点の例のうち、慎重性の観点からは、例4が望ましい。記憶領域の早期確保の観点からは、例1が望ましい。
例1:計測値の統計量が取得された直後
例2:統計量に基づき疑似データが再生された直後
例3:疑似データに基づき近似式が生成された直後
例4:近似式が更新された直後
【0086】
(本実施形態の効果)
本実施形態の状態監視装置の効果は以下の通りである。
(1)状態監視装置は、装置の正常/異常を区別するものとして通常認識されている計測値だけでなく、その他の計測値も使用して装置の異常を高精度で検知することができる。
(2)状態監視装置は、計測値と他の計測値との関係を学習するための学習データの統計量を取得した後、計測値そのものを廃棄して記憶領域を節約できる。
(3)状態監視装置は、センサが取得した計測値と、統計量に基づき再生した疑似データを合わせて、学習データとすることができる。
【0087】
なお、本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 状態監視装置
2 警報受信装置
3 ネットワーク
4 水処理プラント
11 中央制御装置
12 入力装置
13 出力装置
14 主記憶装置
15 補助記憶装置
16 通信装置
21 学習部
22 診断部
23 疑似データ生成部
31 計測値・推測値情報
32 近似式
33 統計量情報
34 閾値情報