(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】パワーアシスト装置
(51)【国際特許分類】
B25J 11/00 20060101AFI20230606BHJP
A61H 1/02 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
B25J11/00 Z
A61H1/02 N
(21)【出願番号】P 2019128167
(22)【出願日】2019-07-10
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山下 勝司
(72)【発明者】
【氏名】成清 辰生
(72)【発明者】
【氏名】ハメド ジャバリアスル
(72)【発明者】
【氏名】川西 通裕
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-093464(JP,A)
【文献】特開2019-005556(JP,A)
【文献】特開平09-248322(JP,A)
【文献】特開2006-204426(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0226048(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
A61H 1/00- 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AAN制御手法によって制御トルクを制御する閉ループ制御系を備えるパワーアシスト装置であって、
前記閉ループ制御系は、
作業座標空間を、作業座標空間上において設定された目標経路から一定の距離にある経路近傍領域と、前記経路近傍領域を外れた外領域に分割し、前記経路近傍領域では速度場を設定し、前記外領域では速度場とともに経路の法線方向に力場を設定する速度場力場設計機構と、
装着者と前記パワーアシスト装置との動的な相互干渉である未知動特性を考慮した速度場に対するインピーダンスモデルを設定するインピーダンスモデル設定機構と、
前記インピーダンスモデルに基づき現在位置における実際の速度と現在位置における目標速度との差である速度追従誤差に対してインピーダンス制御を行い、前記未知動特性はニューラルネットワークにより推定
される適応制御機構と、を含み、
前記閉ループ制御系において、
前記経路近傍領域では、前記速度追従誤差に応じて前記インピーダンスモデルのパラメータを調整し、前記適応制御機構による出力に基づいて制御トルクを算出し、
前記外領域では、前記
適応制御機構による出力、及び力場に基づいて制御トルクを算出する、パワーアシスト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーアシスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、装着者の動作を補助するパワーアシスト装置の制御方法において、AAN(Assist-as-Needed)制御の開発が進められている。AAN制御とは、装着者が支援を必要とするときにだけ支援を行うようにする制御手法である。すなわち、AAN制御では、装着者が自力で目標軌道に倣うことができるときには支援の度合いを小さくし、目標軌道との誤差(目標軌道と実際の装着者の身体の軌道との差)が大きいときには支援の度合いを大きくするようにする。このようなパワーアシスト装置の制御方法について様々な研究がなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】成清 辰生、他3名、「速度場制御を用いたパワーアシストロボットのAAN制御」計測自動制御学会ライフエンジニアリング部門シンポジウム2018予稿集pp.85-88、2018年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、パワーアシスト装置において、パワーアシスト装置と装着者のダイナミックな相互干渉を考慮し、ニューラルネットワークを用いた適応制御によるAAN制御系の制御法を開発した。この制御法の特徴は、(1)目標軌道追従精度と力・トルク支援の大きさを二つのパラメータで指定できること、(2)制御信号によって決まる支援の力・トルクが過大に大きくなり、装着者に危害を与えることがないよう制御信号は任意の範囲に制限できること、である。
【0005】
上記制御法や一般のパワーアシスト装置の制御法では、基本的には、目標軌道に追従させるようにパワーアシスト装置を制御する。しかしながら、これらの制御法では、実際に装着されたパワーアシスト装置が、目標の時間軌道をイメージしてその時間軌道に正確に追従させるように制御を行っているとは考え難い。むしろ、目標経路のイメージを作り、その目標経路のイメージに沿った、漠然とした制御を行っていると考えられる。
【0006】
このように、パワーアシスト装置において、目標経路に沿った運動を実現するためには、必ずしも目標の時間軌道に追従させる必要はない。特に、目標の時間軌道と現時点での位置との誤差が大きい場合、時間軌道に追従させるようにすると、過大な入力が発生して、装着者及びパワーアシスト装置にかかる負荷が大きくなってしまう。このため、目標の時間軌道と現時点での位置との誤差が大きい場合には、時間軌道ではなく、ある速度で目標経路へ到達させるようにする速度制御を実行することで軌跡上の運動を実現することが重要である。そのため、目標経路に向かう速度場を定義し、その速度場に沿った制御を行うことがパワーアシスト制御に適していると考えられる。
【0007】
非特許文献1には、装着者の歩容に応じて作業座標空間上での速度場を設計し、各座標における速度を目標値とし、装着者自身の力で目標速度に追従するときは支援を小さく、目標速度との誤差が大きいときは支援を大きくするANN制御が開示されている。一方、非特許文献1に記載のANN制御では装着者の発揮するトルク・力とパワーアシスト装置の動的な相互作用を指定することができないため、パワーアシスト装置の操作感の改善に課題が残っていた。
【0008】
本発明は、以上の背景に鑑みなされたものであり、装着者とパワーアシスト装置とのダイナミックな相互干渉をより効果的に抑制できるとともに、経路追従特性をより効果的に維持することができるパワーアシスト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るパワーアシスト装置は、AAN制御手法によって制御トルクを制御する閉ループ制御系を備えるもので、前記閉ループ制御系は、作業座標空間を、作業座標空間上において設定された目標経路から一定の距離にある経路近傍領域と、前記経路近傍領域を外れた外領域に分割し、前記経路近傍領域では速度場を設定し、前記外領域では速度場とともに経路の法線方向に力場を設定する速度場力場設計機構と、装着者と前記パワーアシスト装置との動的な相互干渉である未知動特性を考慮した速度場に対するインピーダンスモデルを設定するインピーダンスモデル設定機構と、前記インピーダンスモデルに基づき現在位置における実際の速度と現在位置における目標速度との差である速度追従誤差に対してインピーダンス制御を行い、前記未知動特性はニューラルネットワークにより推定する適応制御機構と、を含み、前記閉ループ制御系において、前記経路近傍領域では、前記速度追従誤差に応じて前記インピーダンスモデルのパラメータを調整し、前記適応制御機構による出力に基づいて制御トルクを算出し、前記外領域では、前記閉ループ制御系による出力、及び力場に基づいて制御トルクを算出するものである。
【0010】
パワーアシスト装置において、速度場に対するインピーダンスモデルに基づき速度追従誤差に対してインピーダンス制御を行い、経路近傍領域では、速度追従誤差に応じてインピーダンスモデルのパラメータを調整する。このようにすることで、装着者とパワーアシスト装置とのダイナミックな相互干渉をより効果的に抑制することができる。また、外領域に力場を設定することで、目標経路から大きく外れた軌道をとる場合に目標経路へ引き戻す力を発生させることができ、経路追従特性をより効果的に維持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、装着者とパワーアシスト装置とのダイナミックな相互干渉をより効果的に抑制できるとともに、経路追従特性をより効果的に維持することができるパワーアシスト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態にかかるパワーアシスト装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】装着者がパワーアシスト装置を装着した状態を示す模式図である。
【
図3】パワーアシスト装置におけるセンサ信号、制御信号の流れを示すブロック図である。
【
図4】本実施の形態にかかるパワーアシスト装置の制御系の構成を示す模式図である。
【
図5】作業座標空間において設定された速度場・力場の一例を示す模式図である。
【
図6】速度場v
dの設定について説明する模式図である。
【
図7】インピーダンスパラメータD
iの調整状況の一例について示す模式図である。
【
図8】実験における、相互作用力f
extの絶対値の時間変化を示すグラフである。
【
図9】パワーアシスト装置1をActive modeで制御しているときの、作業座標におけるハンドルの経路の軌跡を示すグラフである。
【
図10】速度と相互作用力の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
まず、
図1を参照して本実施の形態にかかるパワーアシスト装置1の概略構成について説明する。
図1は、本実施の形態にかかるパワーアシスト装置1の概略構成を示す模式図である。
図2は、装着者がパワーアシスト装置1を装着した状態を示す模式図である。
【0014】
パワーアシスト装置1は、装着者の各関節に対して装着者の各関節を回転軸とする制御トルクを付与する駆動源と、AAN制御系によって必要時に装着者の補助がなされるように制御トルクを制御する制御部と、を有する。すなわち、
図1および
図2に示すように、パワーアシスト装置1は、足支持部21と、下腿支持部材22と、上腿支持部材23と、足首関節回転部材24と、膝関節回転部材25と、股関節回転部材26と、制御部としての制御ボックス(I/Oボード)30と、を備えている。
【0015】
足支持部21は、足裏を支持する。下腿支持部材22は、装着者に装着された際に、下腿に沿って配置される棒状部材である。上腿支持部材23は上腿に沿って配置される棒状部材である。
【0016】
足首関節回転部材24は、足支持部21と下腿支持部材22とを回転自在に支持するもので、積極的に回転駆動させるためのサーボモータ等のアクチュエータ24aと、ロータリエンコーダ等の角度センサ24bと、を有する。膝関節回転部材25は、下腿支持部材22と上腿支持部材23とを回転自在に支持するもので、積極的に回転駆動させるためのサーボモータ等のアクチュエータ25aと、ロータリエンコーダ等の角度センサ25bと、を有する。股関節回転部材26は、上腿支持部材23と腰当て部材15とを回転自在に支持するもので、積極的に回転駆動させるためのサーボモータ等のアクチュエータ26aと、ロータリエンコーダ等の角度センサ26bと、を有する。足首関節回転部材24、膝関節回転部材25及び股関節回転部材26における各アクチュエータ(アクチュエータ24a、アクチュエータ25a、アクチュエータ26a)は、装着者の各関節に対して装着者の各関節を回転軸とする制御トルクを付与する駆動源である。
【0017】
制御部としての制御ボックス30は、AAN制御系によって必要時に装着者の補助がなされるように制御トルクを制御する。制御ボックス30は、各センサ(角度センサ24b、25b、26b)からのセンサ信号を検出すると共に、各アクチュエータ(アクチュエータ24a、25a、26a)の駆動を制御する。なお、パワーアシスト装置1は、足支持部21の足裏において、装着者の歩行状況を検出するための少なくとも1つの一軸力覚センサ等の圧力センサ35を備えていてもよい。また、パワーアシスト装置1は、装着者の背中付近において装着者の胴体の傾きを計測するジャイロセンサ34を備えていてもよい。
【0018】
図3は、パワーアシスト装置1におけるセンサ信号、制御信号の流れを示すブロック図である。
図3に示すように、制御ボックス30には、モーションキャプチャにより測定した歩行動作中の健常者の遊脚の足先座標の軌跡が予め入力されている。制御ボックス30には、角度センサ24b、25b、26bから、それぞれ、足首関節回転部材24、膝関節回転部材25、股関節回転部材26の回転角度センサ信号がフィードバックされる。制御ボックス30では、後述する速度追従誤差などを用いて必要なパワー支援を行うための制御トルクを計算し、サーボドライバを介して駆動信号をアクチュエータ24a、25a、26aに出力し、アクチュエータ24a、25a、26aを駆動する。足裏の圧力センサ35からのセンサ信号は足部が床面に接しているかどうかを検出するために用いる。
【0019】
次に、本実施の形態にかかるパワーアシスト装置1の制御方法について説明する。
パワーアシスト装置の制御系設計においては、装着者とパワーアシスト装置とのダイナミック(動的)な相互干渉を考慮するとともに、制御系の安定性についても考慮する必要がある。装着者とパワーアシスト装置1とのダイナミック(動的)な相互作用を考慮した数式モデルは式(1)のように表される。
【0020】
【0021】
式(1)の符号について、qは関節座標(関節角度の実測値)、τは制御トルク(出力トルク)である。また、式(1)のパラメータの意味は以下の通りである。
【数2】
【0022】
関節座標系で表された数式モデルである式(1)は、作業座標系で表された数式モデルに変換することができる。ここで、作業座標とは、パワーアシスト装置1の作業空間における座標である。以下に示す式(2)のように、作業座標は関節座標の関数として表される。式(2)をqで偏微分すると式(3)が得られる。式(3)において、J(q)はヤコビ行列である。
【0023】
【0024】
【0025】
式(2)、(3)の関係を用いて、関節座標系で表された数式モデルである式(1)を変換すると、以下に示す、作業座標系で表された数式モデルである式(4)が得られる。作業座標系で表された数式モデルである式(4)のパラメータの意味は、以下に示す式(5)の通りである。
【0026】
【0027】
【0028】
図4は、本実施の形態にかかるパワーアシスト装置1の制御系の構成を示す模式図である。
図4に示すように、パワーアシスト装置1は、AAN制御手法によって各アクチュエータ(サーボモータ)に出力する制御トルクτを算出する閉ループ制御系を有する。パワーアシスト装置1の閉ループ制御系は、速度場力場設計機構と、インピーダンスモデル設定機構と、ニューラルネットワーク制御機構と、から構成される。
【0029】
速度場力場設計機構は、作業座標空間において速度場、力場を設定する。作業座標空間において速度場、力場を設定する具体的な方法については後述する。インピーダンスモデル設定機構は、装着者とパワーアシスト装置との動的な相互干渉である未知動特性を考慮した速度場に対するインピーダンスモデルを設定する。適応制御機構は、インピーダンスモデルに基づき現在位置における実際の速度と現在位置における目標速度との差である速度追従誤差に対してインピーダンス制御を行い、未知動特性はニューラルネットワークにより推定する。
【0030】
次に、速度場力場設計機構が、作業座標空間において速度場、力場を設定する具体的な方法について説明する。なお、以下の説明では
図4についても適宜参照する。
図5は、作業座標空間において設定された速度場・力場の一例を示す模式図である。
図5に示すように、まず、作業座標空間を、作業座標空間において設定された目標経路(破線で示されている経路)から一定の距離d
0にある経路近傍領域R1と、経路近傍領域R1を外れた外領域R2に分割する。
【0031】
作業座標空間において、経路近傍領域R1では速度場v
dが設定される。
図6は、速度場v
dの設定について説明する模式図である。
図6に示すように、まず、パラメトリック曲線C上にあり、装着者のパワーアシスト装置1を装着している側の脚の足先座標Pの最近傍にある点(最近傍点)Qを探索する。そして、装着者のパワーアシスト装置1を装着している側の脚の足先座標Pから探索した最近傍点Qへ向かうベクトルを求める。続いて、探索した最近傍点Qにおけるパラメトリック曲線Cの接ベクトルを求める。
【0032】
足先座標Pから探索した最近傍点Qへ向かうベクトル、及び、最近傍点Qにおけるパラメトリック曲線Cの接ベクトルに基づいて、速度場vdを算出する。ここで、装着者の身体の対象部位は、例えば、装着者のパワーアシスト装置1を装着している側の脚の足先または関節などである。速度場vdは式(6)のように設定される。
【0033】
【0034】
一方、
図5において、外領域R2では速度場v
dとともに目標経路の法線方向に力場F
nが設定される。力場F
nは式(7)のように表される。式(7)において、ここで、k
n、d
nは調整パラメータである。
【0035】
【0036】
上述した、作業座標系で表された数式モデルである式(4)より、速度場に対する目標インピーダンスモデルの式(8)が得られる。ここで、Mi、Diはインピーダンスモデルのパラメータ(インピーダンスパラメータ)である。
【0037】
【0038】
図4に示す閉ループ制御系において、式(8)の関係を満たすようにしたいが、式(8)は、装着者とパワーアシスト装置1との動的な相互干渉が、完全に既知である場合にのみ実現が可能で、未知である場合には実現不可能である。そこで、
図4に示す閉ループ制御系において、インピーダンスモデル出力変数v
iを新たに導入した式(9)の関係を満たすインピーダンスモデルを設定する。
【0039】
【0040】
以下の式(10)に示す中間変数rを設定し、式(9)を変形すると以下の式(11)が得られる。式(11)において、Nは物理的にモデル化できないその他の未知動特性である。これを未知外乱と呼ぶ。未知動特性Nは式(12)で表される。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
未知動特性Nは、上述したようにニューラルネットワークにより推定される。
図4に示すニューラルネットワーク制御機構において、式(10)に示す中間変数rを0にするように制御することで、結果的に式(9)が実現される。未知動特性Nの推定値は式(13)のように表される。ここで、σ(z)は、活性化関数としての動径基底関数である。
【0045】
【0046】
図4に示す閉ループ制御系において、制御トルクτは式(14)で表される。Jはヤコビ行列、Tanh(r)はデッドゾーン関数、K
rは任意に設定されるパラメータである。
【0047】
【0048】
式(7)に示すように、経路近傍領域R1(
図5参照)では力場F
nは0になる。よって、
図4に示す閉ループ制御系において、経路近傍領域R1では、式(14)の制御トルクτが適応制御機構による出力に基づいて算出される。一方、
図4に示す閉ループ制御系において、外領域R2(
図5参照)では、式(14)の制御トルクτが適応制御機構による出力、及び力場F
nに基づいて算出される。
【0049】
図5に示す経路近傍領域R1では、インピーダンスパラメータM
i、D
iが速度追従誤差に応じて調整される。
図7は、インピーダンスパラメータD
iの調整状況の一例について示す模式図である。
図7に示すように、rが、-γより小さいとき、またはγより大きいときにはD
iはD
Mに設定される。rが、-γ以上γ以下のときにはD
iはD
0に設定される。
【0050】
次に、本実施の形態にかかるパワーアシスト装置1の効果を確認する実験について説明する。本実験において用いるパワーアシスト装置1は、装着者に対して作用力を及ぼすハンドルを備え、アクティブモード(Active mode)とパッシブモード(Passive mode)の2つの制御モードを有する。ここで、アクティブモードは、装着者が目標経路に沿ってパワーアシスト装置1のハンドルを動かすモードである。パッシブモードは、ハンドルが目標経路の沿うようにパワーアシスト装置1がハンドルを動かすモードである。
【0051】
図8は、実験における、相互作用力f
extの絶対値の時間変化を示すグラフである。ここで、横軸は時間[sec]、縦軸は相互作用力f
extの絶対値[N]である。また、
図8において、アクティブモードをL1、パッシブモード1をL2、パッシブモード2をL3で示す。なお、パッシブモード1の方がパッシブモード2よりも制御ゲインが小さく設定されている。
【0052】
図8に示すように、アクティブモードでは、速度場誤差が小さいため、目標インピーダンスも小さな値に指定される。このため、装着者とパワーアシスト装置1の相互作用力f
extは小さな値となり、パワーアシスト装置1は装着者の発揮力に応じた支援を行っていることが分かる。一方、パッシブモード1及びパッシブモード2では、装着者はハンドルに上に手を置いているだけの状態であるため、目標経路に沿った運動を実行するためにはパワーアシスト装置1が大きな相互作用力f
extでハンドルを動かしていることが分かる。これは、装着者の腕がパワーアシスト装置1の負荷となり、結果的にf
extが大きくなっていると考えられる。
【0053】
図9は、パワーアシスト装置1をアクティブモードで制御しているときの、作業座標におけるハンドルの経路の軌跡を示すグラフである。ここで、横軸はハンドルの所定位置のx座標[m]、縦軸はハンドルの所定位置のy座標[m]である。
図10は、速度と相互作用力の時間変化を示すグラフである。上段のグラフにおいて、横軸は時間[sec]、縦軸は速度[m/s]である。下段のグラフにおいて、横軸は時間[sec]、縦軸は力[N]である。上段の左側のグラフにはV
r、V
iのx軸方向成分を示し、上段の右側のグラフにはV
r、V
iのy軸方向成分を示す。また、下段の左側のグラフには相互作用力f
extのx軸方向成分fxを示し、上段の右側のグラフには相互作用力f
extのy軸方向成分fyを示す。
【0054】
図9及び
図10に示すように、最初の20秒間は、装着者が目標経路に追従するようにハンドルを動かしている。このため、パワーアシスト装置1と装着者との相互作用力f
extは相対的に小さくなっている。一方、20秒から40秒の間は、装着者が意図的に目標経路を外れるようにハンドルを動かしている。このとき、力場によりパワーアシスト装置1と装着者との相互作用力f
extは非常に大きくなり、ハンドルの軌跡を目標経路から一定の距離にある経路近傍領域へと戻そうとしていることが分かる。以上より、本実施の形態にかかるパワーアシスト装置1では、装着者が支援を必要とするときにだけ適切に支援が行われていることが確認できた。
【0055】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 パワーアシスト装置
15 腰当て部材
21 足支持部
22 下腿支持部材
23 上腿支持部材
24 足首関節回転部材
24a、25a、26a アクチュエータ
24b、25b、26b 角度センサ
25 膝関節回転部材
26 股関節回転部材
30 制御ボックス
34 ジャイロセンサ
35 圧力センサ