IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日鉄住金環境株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-シアン含有水の処理方法及び処理設備 図1
  • 特許-シアン含有水の処理方法及び処理設備 図2
  • 特許-シアン含有水の処理方法及び処理設備 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】シアン含有水の処理方法及び処理設備
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/72 20230101AFI20230606BHJP
   C02F 1/70 20230101ALI20230606BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20230606BHJP
   C02F 1/64 20230101ALI20230606BHJP
【FI】
C02F1/72 A
C02F1/70 Z
C02F1/58 N
C02F1/64 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019152639
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2020032412
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2018157627
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】盛一 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】市川 康平
(72)【発明者】
【氏名】藤原 裕基
(72)【発明者】
【氏名】長井 一晃
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼竹 菜穂
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勇摩
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-069227(JP,A)
【文献】特開平05-169071(JP,A)
【文献】特開2017-080699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/58-1/64、1/70-1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有し、シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる工程(A)と、
前記工程(A)で得られた、前記被処理水への前記過酸化水素の添加及び反応後の反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する工程(B1)と、
前記工程(A)で得られた前記反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)と、
前記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理する工程(D)と、を含み、
前記工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H/L以下となる量に制御し、
前記工程(C)において、前記工程(A)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度が10mg-H /L以下の前記反応液に、前記銅(I)化合物を添加して反応させる、シアン含有水の処理方法。
【請求項2】
前記工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記工程(B1)で測定される前記過酸化水素濃度の値が5mg-H/L以下となる量に制御し、
前記工程(C)において、前記工程(A)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度が5mg-H /L以下の前記反応液に、前記銅(I)化合物を添加して反応させる請求項1に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項3】
前記工程(B1)で測定される前記過酸化水素濃度の値を監視しながら、前記工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加を行う請求項1又は2に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項4】
前記工程(B1)で測定される前記過酸化水素濃度の値の監視は、前記工程(B1)において、前記工程(A)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を、連続式で測定すること、又はバッチ式で間歇的に測定することにより行う請求項3に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項5】
前記工程(A)において、前記被処理水中の前記シアン化物イオンを前記過酸化水素により分解し、
前記工程(C)において、前記銅(I)化合物によって、前記工程(C)で得られる前記反応液中に前記鉄シアノ錯体の難溶化物を生成し、
前記工程(D)において、前記難溶化物を分離除去する請求項1~のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項6】
前記被処理水は、懸濁物質を含む排出ガスを湿式集塵処理して得られた集塵水から前記懸濁物質を除去するための固液分離処理がなされた、排出ガスの洗浄廃水であり、
前記工程(D)で液分とは分離された固形分を含むスラリーについて、濃縮処理及び脱水処理のいずれか一方又は両方を行う工程(E)と、
前記工程(E)で得られた分離水を、前記排出ガスの洗浄廃水を得るための前記固液分離処理に送る工程(F)と、をさらに含む請求項1~のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項7】
前記工程(A)における前記過酸化水素を添加する対象となる前記被処理水、及び前記工程(C)における前記銅(I)化合物を添加する対象となる前記反応液のいずれか一方又は両方に、さらに還元剤を添加する請求項1~のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項8】
前記工程(C)における前記銅(I)化合物を添加する対象となる前記反応液に、さらに第4級アンモニウム化合物を添加する請求項1~のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項9】
前記工程(A)と前記工程(C)とを別々の反応槽にて行う請求項1~のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項10】
前記鉄シアノ錯体は、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオンのいずれか一方又は両方を含むとともに、[Fe(CN)(CO)]3-及び[Fe(CN)(CO)2-のいずれか一方又は両方を含む請求項1~のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項11】
シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有し、シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる反応槽(a)と、
前記反応槽(a)で得られた、前記被処理水への前記過酸化水素の添加及び反応後の反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する測定装置(b1)と、
前記反応槽(a)で得られた前記反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる反応槽(c)と、
前記反応槽(c)で得られた反応液を固液分離する固液分離装置(d)と、
前記反応槽(a)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記測定装置(b1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H/L以下となる量に制御する制御部と、
を備え
前記反応槽(c)において、前記反応槽(a)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度が10mg-H /L以下の前記反応液に、前記銅(I)化合物を添加して反応させる、シアン含有水の処理設備。
【請求項12】
前記測定装置(b1)は、バッチ式の測定装置、又は連続式の測定装置である請求項11に記載のシアン含有水の処理設備。
【請求項13】
前記制御部は、前記測定装置(b1)、及び前記反応槽(a)に設けられる過酸化水素添加装置に協働する請求項11又は12に記載のシアン含有水の処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン含有水の処理方法、及びシアン含有水の処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン化物イオン等のシアン成分を含有する廃水から、シアン成分を除去するための処理方法として、廃水中のシアン成分を酸化分解するアルカリ塩素法が広く適用されている。アルカリ塩素法では、一般的に次亜塩素酸ナトリウムをシアン含有廃水にアルカリ性下で添加することで、廃水中のシアン化物イオンや、易分解性のシアノ錯体(亜鉛及び銅等のシアノ錯体)を酸化分解することができる。
【0003】
一方、アルカリ塩素法では、例えば鉄シアノ錯体等のような難分解性のシアノ錯体を分解することは難しいことから、廃水中のシアン成分と金属塩を反応させて難溶性塩を生成させ、それを沈殿法で分離除去する方法(難溶性塩沈殿法)も提案されている。また、特許文献1では、錯シアン含有廃水に、該廃水をpH6~9の条件下で特定の第一銅化合物および過酸化水素を共存させ、廃水中に生成した水不溶性塩を除去することで、廃水中の錯シアンを処理する錯シアン含有廃水の処理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-80699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1で提案された方法を参考に、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有し、それらの濃度が異なる様々な被処理水に、過酸化水素及び銅(I)化合物を共存させて処理するビーカー試験を行ったところ、被処理水によっては、シアン成分を十分に除去できない場合があることがわかった。
【0006】
そこで本発明は、処理対象となる被処理水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度が様々な場合においても、被処理水からのシアン成分の除去処理を安定して十分に行うことが可能なシアン含有水の処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の通り、本発明者らは、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する様々な被処理水に、過酸化水素及び銅(I)化合物を共存させる処理をビーカー試験にて行った際、被処理水からのシアン成分の除去性能が低下する問題があった原因について、詳細に検討した。具体的には、そのような問題が生じた被処理水について、その被処理水の性状を分析し、また、その被処理水に過酸化水素及び銅(I)化合物を同時に添加した場合や過酸化水素を添加した後に銅(I)化合物を添加した場合との処理性能の違い等を検討し、上記原因を究明した。その結果、被処理水に銅(I)化合物を添加する際に、被処理水中に過酸化水素が比較的多めに残っていると、被処理水からのシアン成分の除去性能が低下しやすいことがわかった。
【0008】
このような知見から、本発明者らは、被処理水に過酸化水素を添加して反応させた後の反応液に銅(I)化合物を添加する際、反応液中の残留過酸化水素の濃度が十分に低い値となるようにするか、残留過酸化水素をほぼなくすことができれば、上述の問題を解決できると考え、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる工程(A)と、前記工程(A)で得られた反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する工程(B1)と、前記工程(A)で得られた前記反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)と、前記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理する工程(D)と、を含み、前記工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H/L以下となる量に制御する、シアン含有水の処理方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる工程(A)と、前記工程(A)で得られた反応液と、その反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を低減する過酸化水素除去剤とを接触させて反応させる工程(B2)と、前記工程(B2)で得られた反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)と、前記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理する工程(D)と、を含む、シアン含有水の処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被処理水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度が様々な場合においても、被処理水からのシアン成分の除去処理を安定して十分に行うことが可能なシアン含有水の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一の実施形態のシアン含有水の処理方法を実行し得る処理設備及び処理フローの概略構成の一例を表す説明図である。
図2】本発明の第二の実施形態のシアン含有水の処理方法を実行し得る処理設備及び処理フローの概略構成の一例を表す説明図である。
図3】本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法を適用することを想定した場合の排出ガスの処理設備及び処理フローの一例の概略構成を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明者らは、特許文献1で提案された方法を参考に、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有し、それらの濃度が異なる様々な被処理水に、過酸化水素及び銅(I)化合物を共存させて処理するビーカー試験を行い、処理性能について検討した。その結果、被処理水によっては、被処理水からシアン成分を十分有効に除去しきれない問題が生じることがわかった。
【0015】
上記鉄シアノ錯体とは、Fe及びCNを含む錯体をいう。鉄シアノ錯体としては、フェロシアン化物イオン([Fe(CN)4-;ヘキサシアノ鉄(II)酸イオン)及びフェリシアン化物イオン([Fe(CN)3-;ヘキサシアノ鉄(III)酸イオン)、並びに鉄カルボニルシアノ錯体([Fe(CN)(CO)]3-及び[Fe(CN)(CO)2-)等が挙げられる。
【0016】
上記問題が生じる原因について、本発明者らは、その問題が生じた被処理水の性状を分析したり、その被処理水に過酸化水素及び銅(I)化合物を同時に添加した場合や過酸化水素を添加した後に銅(I)化合物を添加した場合との処理性能の違い等を確認したりして、検討を行った。その検討の中で、例えば、被処理水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度がいずれも低い場合には、上述の問題が生じ難いことがわかった。その一方、例えば、被処理水中のシアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い場合には、上述の問題が生じ易いことがわかった。また、被処理水に含有されている鉄シアノ錯体が、フェロシアン化物イオン及び/又はフェリシアン化物イオンを含み、かつ、[Fe(CN)(CO)]3-及び/又は[Fe(CN)(CO)2-を含む場合にも、上述の問題が生じ易いことがわかった。このように、被処理水の性状によって、その被処理水の性状に応じて過酸化水素や銅(I)化合物の添加量を調整したとしても、処理性能に違いが出ることが判明した。
【0017】
一般に、実際のシアン含有廃水(被処理水)においては、その廃水中のシアン化物イオンや鉄シアノ錯体等のシアン成分の濃度は刻々と変動する。そのため、実際の廃水処理設備において、シアン含有廃水に過酸化水素及び銅(I)化合物を共存させて処理を行うと、上記廃水処理設備に流入してくるシアン含有廃水によっては、一時的に、シアン成分の除去性能が低下する可能性があると考えられる。実際の廃水処理設備において、上述の問題が生じ難いシアン含有廃水が継続している場合には、その問題に気が付かないまま継続して処理が行われるが、ある日突然、上述の問題が生じ易いシアン含有廃水が流入してきた場合、混乱を招きかねない。
【0018】
したがって、上述の問題が生じ難いか生じ易いかに関わらず、処理対象となる被処理水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度が様々な場合にも、被処理水からのシアン成分の除去処理を安定して十分に行うことが可能な方法は、実際に有用となる。
【0019】
本発明者らは、上記問題が生じる原因究明のための検討を行った結果、被処理水に銅(I)化合物を添加する際に、被処理水中に過酸化水素が比較的多めに存在していると、被処理水からのシアン成分の除去性能が低下しやすいことがわかった。このような知見から、本発明者らは、被処理水に過酸化水素を添加して反応させた後の反応液に銅(I)化合物を添加する際、反応液中の残留過酸化水素の濃度が十分に低い値となるようにするか、残留過酸化水素をほぼなくすことができれば、上述の問題を解決できるとの着想を経て、本発明を完成するに至った。
【0020】
<シアン含有水の処理方法>
本発明の第一の実施形態のシアン含有水の処理方法は、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる工程(A)と、その工程(A)で得られた反応液中に残留する過酸化水素の濃度を測定する工程(B1)と、上記工程(A)で得られた反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)と、その工程(C)で得られた反応液を固液分離処理する工程(D)とを含み、上記工程(A)における被処理水への過酸化水素の添加量を、上記工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H/L以下となる量に制御することにある。
【0021】
また、本発明の第二の実施形態のシアン含有水の処理方法は、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる工程(A)と、その工程(A)で得られた反応液と、その反応液中に残留する過酸化水素の濃度を低減する過酸化水素除去剤とを接触させて反応させる工程(B2)と、その工程(B2)で得られた反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)と、その工程(C)で得られた反応液を固液分離処理する工程(D)とを含むことにある。
【0022】
上記第一及び第二の実施形態(以下、それらをまとめて単に「本実施形態」と記載することがある。)のシアン含有水の処理方法によれば、まず、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水(以下、単に「被処理水」と記載することがある。)に過酸化水素を添加して反応させる工程(A)を行う。これによって、過酸化水素が、被処理水中のシアン化物イオン(CN)と酸化反応し、シアン化物イオンを分解することができる。被処理水に、CNに加えて、例えば、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体等の易分解性のシアノ錯体が含有されている場合には、そのようなシアノ錯体も工程(A)によって分解することが期待できる。工程(A)における反応時間は、3~60分であることが好ましく、5~30分であることがより好ましい。また、工程(A)における反応温度は、15~80℃であることが好ましく、35~60℃であることがより好ましい。
【0023】
また、本実施形態の処理方法では、上記工程(A)で得られた反応液や、上記工程(B2)で得られた反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)を行う。これによって、被処理水から存在していた鉄シアノ錯体を難溶化し、上記反応液中に鉄シアノ錯体の難溶化物を生成することができる。工程(C)における反応時間は、3~60分であることが好ましく、5~30分であることがより好ましい。また、工程(C)における反応温度は、15~80℃であることが好ましく、35~60℃であることがより好ましい。
【0024】
上記工程(C)によって生成され得る上記難溶化物については、上記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理する工程(D)によって、分離除去することができる。また、この工程(D)によって、シアン成分が除去された処理水を得ることができる。
【0025】
上述の通り、本実施形態の処理方法では、被処理水への銅(I)化合物の添加前に、被処理水に過酸化水素を添加して反応させる工程(A)を行うため、銅(I)化合物の添加によって難溶化物を生じさせた際に、難溶化物中に含有されるシアンの量を適度に低くすることができる。そのため、難溶化物中に含有されるシアンの量が低減されることから、難溶化物を処分する際に、シアンの溶出の可能性やその程度を低減できるという利点にもつながる。
【0026】
(第一の実施形態)
そして、上記第一の実施形態の処理方法では、上記工程(A)における被処理水への過酸化水素の添加量を、上記工程(B1)で測定される、上記工程(A)で得られる反応液中の過酸化水素濃度の値が10mg-H/L以下となる量に制御する。これにより、被処理水に過酸化水素を添加して反応させた後の反応液に銅(I)化合物を添加する際、その反応液中の残留過酸化水素の濃度が十分に低い状態にできる。そのため、被処理水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度が様々な場合においても、被処理水からのシアン成分の除去処理を安定して十分に行うことが可能となる。
【0027】
第一の実施形態の処理方法では、工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値を確認しつつ、その値が10mg-H/L以下まで、工程(A)における被処理水への過酸化水素の添加量を調整できる。そのため、被処理水に過酸化水素を添加することによる有効な処理をより確実に行うことができ、被処理水中のシアン化物イオンの酸化分解等による処理効率を高めることができる。
【0028】
工程(A)における被処理水への過酸化水素の添加量は、工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値が、好ましくは5mg-H/L以下、より好ましくは3mg-H/L以下となる量に制御するのが良い。これにより、銅(I)化合物を添加する際の反応液中の残留過酸化水素の濃度が十分に低い状態にできることで、様々な被処理水について、シアン成分の除去処理をさらに安定して十分に行い易くなる。工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値の下限は、被処理水に過酸化水素を添加することによる有効な処理をより確実に行うことができるように、0.1mg-H/L以上であることが好ましく、0.5mg-H/L以上であることがより好ましい。
【0029】
工程(B1)における過酸化水素濃度の測定は、バッチ式で行ってもよく、連続式で行ってもよい。工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値を監視しながら、工程(A)における被処理水への過酸化水素の添加を行えば、過酸化水素濃度の測定値を確認しつつ、工程(A)における被処理水への過酸化水素の添加量を調整し易いため、好ましい。このような方法を採り易い観点から、工程(B1)において、工程(A)で得られた反応液中に残留する過酸化水素の濃度を連続式で測定することが好ましい。工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値の監視は、バッチ式で間歇的(所定間隔をおいて)に測定を行うことでも可能である。
【0030】
(第二の実施形態)
そして、上記第二の実施形態の処理方法では、上記工程(A)で得られた反応液に銅(I)化合物を添加する前に、上記工程(A)で得られた反応液と、その反応液中に残留する過酸化水素の濃度を低減する過酸化水素除去剤とを接触させて反応させる工程(B2)を行う。これによって、銅(I)化合物を添加する対象となる反応液(工程(A)を経た反応液)を、その反応液中の残留過酸化水素の濃度が十分に低い状態にできる。そのため、被処理水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度が様々な場合においても、被処理水からのシアン成分の除去処理を安定して十分に行うことが可能となる。
【0031】
工程(B2)において、工程(A)で得られた反応液と、過酸化水素除去剤との接触は、工程(A)で得られた反応液に、過酸化水素除去剤を接触させてもよく、過酸化水素除去剤に、工程(A)で得られた反応液を接触させてもよく、それら両方を行ってもよい。工程(B2)における反応時間は、1~30分であることが好ましく、1~15分であることがより好ましい。また、工程(B2)における反応温度は、15~80℃であることが好ましく、35~60℃であることがより好ましい。
【0032】
第二の実施形態では、工程(A)で得られた反応液と、過酸化水素除去剤とを接触させて反応させる工程(B2)によって、工程(A)で得られた反応液中の過酸化水素濃度を低減できるため、工程(A)における被処理水への過酸化水素の添加量は特に制限されない。この工程(A)における過酸化水素の添加量は、被処理水中のシアン化物イオンを酸化分解等によって十分に処理し得る量とすることができる。その過酸化水素の添加量は、例えば、10~300mg-H/Lであることが好ましく、10~200mg-H/Lであることがより好ましく、10~100mg-H/Lであることがさらに好ましい。
【0033】
第二の実施形態の処理方法では、上述の第一の実施形態の処理方法における工程(B1)と同様に、工程(A)で得られた反応液中に残留する過酸化水素の濃度を測定する工程(B1)をさらに含むことが好ましい。この工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H/L以下であれば、上記工程(B2)を省略することもでき、その場合には、前述の第一の実施形態の処理方法を採ることができる。このことから、工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H/L超である場合に、特に上記工程(B2)を行う意義がある。また、工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値が0.1~10mg-H/Lの場合に上記工程(B2)を行うことも十分に意義がある。工程(B2)によって、工程(C)における銅(I)化合物を添加する対象となる反応液中の過酸化水素濃度をさらに低減でき、それにより、様々な被処理水について、シアン成分の除去処理をさらに安定して十分に行い易くなるためである。
【0034】
また、第二の実施形態の処理方法では、工程(B2)で得られた反応液中に残留する過酸化水素の濃度を測定する工程(B3)をさらに含むことが好ましい。この工程(B3)によって、工程(B2)における過酸化水素除去剤による過酸化水素濃度の低減効果を確認することができる。また、工程(B3)によって、工程(B3)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H/L以下(好ましくは5mg-H/L以下、より好ましくは3mg-H/L以下)となるように、工程(B2)において、過酸化水素除去剤の使用量を調整することができる。
【0035】
工程(B3)における過酸化水素濃度の測定も、前述の工程(B1)と同様、バッチ式及び連続式のいずれで行ってもよい。工程(B3)で測定される過酸化水素濃度の値を監視しながら、工程(B2)において、工程(A)で得られた反応液と過酸化水素除去剤とを接触させれば、過酸化水素除去剤による効果を確認しつつ、過酸化水素除去剤の使用量を調整し易いため、好ましい。このような方法を採り易い観点から、工程(B3)において、工程(B2)で得られた反応液中に残留する過酸化水素の濃度を連続式で測定することが好ましい。工程(B3)で測定される過酸化水素濃度の値の監視は、バッチ式で間歇的(所定間隔をおいて)に測定を行うことでも可能である。
【0036】
第二の実施形態の処理方法において、上述の工程(B1)及び工程(B3)を行う場合、同じ場所で同じ測定装置を用いて、各工程における過酸化水素濃度の測定を行うことも可能である。また、工程(B1)及び工程(B3)における過酸化水素濃度の測定を、工程(B1)及び工程(B3)で連続して行うことも可能であり、工程(B1)及び工程(B3)で区別することなく連続して行うことも可能である。
【0037】
第二の実施形態の処理方法における工程(B2)で用いられる過酸化水素除去剤は、過酸化水素の還元剤、及び過酸化水素の分解触媒のいずれか一方又は両方を含むことが好ましい。過酸化水素の還元剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム(NaSO)及び亜硫酸カリウム(KSO)等の亜硫酸塩;亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)及び亜硫酸水素カリウム(KHSO)等の亜硫酸水素塩(別名:重亜硫酸塩);硫酸鉄(II)及び硝酸鉄(II)等の鉄(II)塩(別名:2価の鉄塩、第一鉄塩);アスコルビン酸及びその塩等を挙げることができる。これらのような、過酸化水素の還元剤を過酸化水素除去剤として用いる場合、工程(A)で得られた反応液に、過酸化水素除去剤(過酸化水素の還元剤)を添加することにより、工程(A)で得られた反応液に、過酸化水素除去剤を接触させることが好ましい。過酸化水素の還元剤を添加する際の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。
【0038】
過酸化水素の分解触媒としては、液体状の分解触媒や、固体状の分解触媒を用いることができる。液体状の分解触媒としては、例えば、カタラーゼや下水処理場で使用される活性汚泥等を挙げることができる。固体状の分解触媒としては、例えば、粉末状又は粒状の二酸化マンガンや、粒状又はペレット状の活性炭等を挙げることができる。上述のような過酸化水素の分解触媒を過酸化水素除去剤として用いる場合、工程(A)で得られた反応液に、過酸化水素除去剤(過酸化水素の分解触媒)を添加することにより、工程(A)で得られた反応液に、過酸化水素除去剤を接触させることが好ましい。また、過酸化水素の分解触媒を基材に担持させたものを反応液に浸漬させたり、固体状の分解触媒にあっては、繊維状やメッシュ状に加工したものを反応液に浸漬させたり、固体状の分解触媒を充填した槽に反応液を通過させたりすることにより、工程(A)で得られた反応液と、過酸化水素除去剤(過酸化水素の分解触媒)とを接触させることも好ましい。
【0039】
次に上記第一の実施形態の処理方法及び第二の実施形態の処理方法に共通する好適な構成について、説明する。
【0040】
本実施形態の処理方法を行うのに好適な被処理水としては、前述の通り、シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い被処理水を挙げることができる。また、好適な被処理水としては、被処理水に含有される鉄シアノ錯体が、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオンのいずれか一方又は両方を含むとともに、[Fe(CN)(CO)]3-及び[Fe(CN)(CO)2-のいずれか一方又は両方を含むものを挙げることができる。鉄カルボニルシアノ錯体を含有する廃水は、例えば、特開2018-39004号公報や特開2018-69227号公報に開示されている。
【0041】
上記鉄カルボニルシアノ錯体は、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO))等の鉄カルボニル錯体と、シアン化水素(HCN)又はCNとが共存する環境;鉄(II)イオン(Fe2+)、一酸化炭素(CO)、及びHCN又はCNが共存する環境;[Fe(CN)4-及びCOが共存する環境;等のような環境下でそれらが反応して生成すると考えられる。例えば、メッキを行う工場から排出される廃水では、CNと鉄塩が共存する可能性はあるものの、COやペンタカルボニル鉄が存在する可能性は低いと考えられ、上述のような環境はまれであると考えられる。それゆえ、従来のシアン含有水の処理技術においては、上述のような環境から生じ得る鉄カルボニルシアノ錯体が処理対象となることもまれであったと考えられる。本発明者らの検討により、コークスを燃料とする炉から発生する排出ガス中にペンタカルボニル鉄が含有されていたことが確認され、それは、炉の操業状態に応じて大きく変動し得ることがわかった。ペンタカルボニル鉄は100℃以下の低温領域で分解を開始する性質があるとされているため、炉内の温度分布によってペンタカルボニル鉄の排出ガス中の含有量が変動するものと考えられる。この温度分布はコークスの性状(及びコークス原料である石炭の性状)が支配因子の一つとなっている可能性がある。上述のようなことから、好適な被処理水の一例としては、排出ガスの洗浄廃水を挙げることができる。より好適な被処理水の一例としては、懸濁物質を含む排出ガスを湿式集塵処理して得られた集塵水から、懸濁物質を除去するための固液分離処理がなされた、排出ガスの洗浄廃水を挙げることができる。
【0042】
本実施形態の処理方法では、各工程における処理を行う際の処理対象液のpHは、5~10が好ましく、5.5~9.5がより好ましく、6~8がさらに好ましい。各工程での処理対象液のpHを調整してもよい。その際、例えば、塩酸及び水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いることができる。
【0043】
本実施形態の処理方法における工程(C)で用いる銅(I)化合物は、1価の銅化合物(第一銅化合物)である。銅(I)化合物としては、例えば、塩化銅(I)、酸化銅(I)(亜酸化銅)、及び硫酸銅(I)等を挙げることができる。これらの銅(I)化合物の1種又は2種以上を用いることができる。銅(I)化合物を添加する際の銅(I)化合物の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。本実施形態の工程(C)では、銅(I)化合物として、亜酸化銅(酸化銅(I))を用いることがより好ましい。
【0044】
工程(C)で得られた反応液を固液分離処理する工程(D)では、前述の通り、銅(I)化合物の添加により鉄シアノ錯体の難溶化物が生成した場合に、それを分離除去することができる。また、被処理水や工程(C)で得られた反応液にその他の浮遊物質(SS)が含まれている場合には、工程(D)でSSを除去することもできる。工程(D)における固液分離処理の手法としては、沈殿処理、膜分離処理、及びろ過処理等を挙げることができ、これらのなかでも沈殿処理が好ましい。固液分離処理の際には、固液分離処理を行う対象となる反応液に、凝集剤を添加してもよい。凝集剤としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、及び塩化第二鉄等の無機凝集剤、並びに高分子凝集剤等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0045】
前述の集塵水を固液分離処理して得られた排出ガスの洗浄廃水について、本実施形態のシアン含有水の処理方法を適用する場合、その処理方法は、次の工程(E)及び(F)を含むことが好ましい。すなわち、工程(D)で液分とは分離された固形分を含むスラリーについて、濃縮処理及び脱水処理のいずれか一方又は両方を行う工程(E)と、工程(E)で得られた分離水を、排出ガスの洗浄廃水を得るための上記固液分離処理に送る工程(F)とを行うことが好ましい。工程(D)で得られる固形分を含むスラリーには、前述の工程(C)によって生じ得る難溶化物等が含まれ、そのスラリー中の水分に、酸化、pH変化、及び温度変化等の影響により、シアン成分が溶出する可能性がある。これに対して、上記工程(E)及び(F)を行うことによって、被処理水からのシアン成分の除去処理をさらに安定して行うことが可能となる。懸濁物質を含む排出ガスを湿式集塵処理して得られた集塵水から懸濁物質を除去するための固液分離処理としては、沈降分離処理、膜分離処理、及びろ過処理等を挙げることができ、これらのなかでも沈降分離処理が好ましい。
【0046】
本実施形態の処理方法では、工程(A)における過酸化水素を添加する対象となる被処理水、及び工程(C)における銅(I)化合物を添加する対象となる反応液のいずれか一方又は両方に、さらに還元剤を添加することが好ましい。還元剤としては、例えば、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、塩化第一鉄、並びに硫化ナトリウム及び四硫化ナトリウム等のアルカリ金属硫化物等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。チオ硫酸塩、亜硫酸塩、及び重亜硫酸塩における塩を形成する陽イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、及び有機アンモニウムイオン等を挙げることができる。被処理水に添加する際の還元剤の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。
【0047】
本実施形態の処理方法では、工程(C)における銅(I)化合物を添加する対象となる反応液に、さらに第4級アンモニウム化合物を添加することが好ましい。第4級アンモニウム化合物は、第4級アンモニウムカチオンを有する化合物であり、モノマーでもよいし、ポリマーでもよい。第4級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム化合物、及びカチオン性ポリマー等を好適に用いることができる。第4級アンモニウム化合物を添加する際の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。
【0048】
テトラアルキルアンモニウム化合物としては、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、ジドデシルジメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、及びベンジルドデシルジメチルアンモニウム塩が好ましい。さらに、これらにおける第4級アンモニウムカチオンと対となる陰イオンが、ハロゲン化物イオンであるものが好ましく、塩化物イオン及び臭化物イオンであるものがより好ましい。
【0049】
カチオン性ポリマーとしては、第4級アンモニウムカチオンを有するポリマーであればよく、例えば、ポリアクリル酸エステル系化合物、ポリメタクリル酸エステル系化合物、ポリアミン系化合物、ポリジアリルジアルキルアンモニウム塩系化合物、ジアリルジアルキルアンモニウム塩-アクリルアミド共重合体系化合物、ジメチルアミンとエピクロロヒドリンの重縮合物、並びにジメチルアミン、エピクロロヒドリン及びアンモニアの重縮合物等を挙げることできる。
【0050】
本実施形態の処理方法では、過酸化水素を用いる工程(A)と、銅(I)化合物を用いる工程(C)とを、共通の反応槽で行ってもよく、別々の反応槽で行ってもよい。例えば、前述の第一の実施形態の処理方法において、工程(A)及び工程(C)を共通の反応槽で行う場合、その共通の反応槽にて、過酸化水素の添加、並びに過酸化水素の反応後に得られた反応液に対しての残留過酸化水素濃度の測定及び銅(I)化合物の添加を行うことができる。工程(A)における過酸化水素による反応を終了させた後(より好ましくは当該反応により過酸化水素が消費された後)に、次工程に進むことが好ましいことから、工程(A)と工程(C)とを別々の反応槽で行うことが好ましい。
【0051】
また、前述の第二の実施形態の処理方法において、工程(B2)で過酸化水素除去剤を添加する態様で用いる場合には、過酸化水素を添加する工程(A)と、過酸化水素除去剤を添加する工程(B2)とを共通の槽で行ってもよい。同様に、この場合、過酸化水素除去剤を添加する工程(B2)と、銅(I)化合物を添加する工程(C)とを共通の槽で行ってもよく、それらの工程(A)、(B2)、及び(C)を共通の槽で行ってもよく、それぞれ、別々の槽で行ってもよい。例えば、前述の第二の実施形態の処理方法において、工程(A)及び工程(B2)を共通の槽で行う場合、その共通の槽にて、過酸化水素の添加、過酸化水素除去剤の添加、並びに必要に応じて、過酸化水素による反応後や過酸化水素除去剤による反応後の反応液中の残留過酸化水素濃度の測定を行うことができる。工程(B2)及び工程(C)を共通の槽で行う場合には、その共通の槽にて、過酸化水素除去剤の添加、銅(I)化合物の添加、並びに必要に応じて、過酸化水素除去剤の添加前や過酸化水素除去剤による反応後の反応液中の残留過酸化水素濃度の測定を行うことができる。工程(A)、工程(B2)、及び工程(C)を共通の槽で行う場合には、過酸化水素の添加、過酸化水素除去剤の添加、銅(I)化合物の添加、並びに必要に応じて、過酸化水素による反応後や過酸化水素除去剤による反応後の反応液中の残留過酸化水素濃度の測定を行うことができる。工程(A)における過酸化水素による反応を終了させた後に、次工程に進むことが好ましく、また、工程(B2)における過酸化水素除去剤による反応を終了させた後、次工程に進むことが好ましいことから、工程(A)、工程(B2)、及び工程(C)をそれぞれ別々の槽で行うことが好ましい。
【0052】
以下、第一の実施形態及び第二の実施形態のシアン含有水の処理方法における各工程について、それらの処理方法を実行し得る処理設備及び処理フローの概略構成を表す図面を参照しながら、さらに述べる。なお、図面における各図で共通する部分については同一の符号を付し、その説明を省略することがある。また、図1及び図2中の太線矢印は、処理対象である被処理水とその処理過程を表す。
【0053】
図1は、前述の第一の実施形態のシアン含有水の処理方法を実行し得る処理設備及び処理フローの概略構成の一例を表す説明図である。図1に示すように、処理設備10は、第1の反応槽(a)11、過酸化水素濃度の測定装置(b1)13、第2の反応槽(c)12、固液分離装置(d)16、及び制御部17を備える。第1の反応槽(a)11にて前述の工程(A)を、測定装置(b1)13にて前述の工程(B1)を、第2の反応槽(c)12にて前述の工程(C)を、固液分離装置(d)16にて前述の工程(D)を行うことができる。以下では、(a)、(b1)、(c)、及び(d)の記載を省略する。
【0054】
第1の反応槽11は、流入されてきた被処理水W10に過酸化水素を添加して反応させる槽である。第1の反応槽11には、過酸化水素を添加するための装置(過酸化水素添加装置)111を設けることができる。第2の反応槽12は、第1の反応槽11で得られた反応液W11に銅(I)化合物を添加して反応させる槽である。第2の反応槽12には、銅(I)化合物を添加するための装置(銅(I)化合物添加装置)121を設けることができる。固液分離装置16は、第2の反応槽12で得られた反応液W12を固液分離する装置である。固液分離装置16としては、例えば、シックナー等の沈殿装置や、各種のろ過器及び膜分離機等を用いることができる。固液分離装置16による処理の際に、凝集剤を用いる場合には、固液分離装置16に、凝集剤を添加するための装置(凝集剤添加装置)を設けてもよい。過酸化水素添加装置111、銅(I)化合物添加装置121、及び凝集剤添加装置は、例えば、各材料を貯留するためのタンク、並びに各材料を供給するためのポンプ及び供給管等を備えることができる。処理設備10は、第2の反応槽12と固液分離装置16との間等に中継槽を備えていてもよい。
【0055】
工程(A)において、過酸化水素とともに、前述のチオ硫酸塩等の還元剤を用いる場合、第1の反応槽11には、その第1の反応槽11に還元剤を添加するための装置(還元剤添加装置)を設けることができる。また、工程(C)において、銅(I)化合物とともに、前述の還元剤や前述の第4級アンモニウム化合物を用いる場合、第2の反応槽12には、還元剤添加装置や、第2の反応槽に第4級アンモニウム化合物を添加するための装置を設けることができる。
【0056】
過酸化水素濃度の測定装置13は、第1の反応槽11で得られた反応液W11中に残留する過酸化水素の濃度を測定する装置である。過酸化水素濃度の測定装置13は、バッチ式の測定装置、及び連続式の測定装置のいずれを用いることもでき、連続式の測定装置がより好ましい。バッチ式の測定装置としては、例えば、商品名「RQフレックス」及び「リフレクトクァント 過酸化物テスト」(関東化学社製)を用いることができる。また、連続式の測定装置としては、例えば、商品名「Q46/84型 過酸化水素計」(ATI社製)を用いることができる。
【0057】
制御部17は、第1の反応槽11における被処理水W10への過酸化水素の添加量を、過酸化水素濃度の測定装置13で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H/L以下となる量に制御する。この制御を行い易い観点から、制御部17は、過酸化水素濃度の測定装置13、及び第1の反応槽11(それに設けられる過酸化水素添加装置111)に協働することが好ましい。例えば、測定装置13で測定される過酸化水素濃度の値が所定範囲(例えば、0~5mg-H/Lの範囲)のときに過酸化水素添加装置111(注入ポンプ)が稼働し、上記所定範囲の上限値を超えたら、過酸化水素添加装置111(注入ポンプ)が停止するように、測定装置13と過酸化水素添加装置111(注入ポンプ)とを制御部17によって連動させることができる。制御部17は、例えば、電源ユニット、CPUユニット、入力ユニット、出力ユニット、及び記憶ユニット等を備えて構成することができ、パーソナルコンピューターを用いることができる。
【0058】
なお、図1では、過酸化水素を用いる工程(A)、及び銅(I)化合物を用いる工程(C)を説明し易いように、第1の反応槽11と第2の反応槽12とを別々に示したが、第1の反応槽11及び第2の反応槽12は同一(共通)の反応槽であってもよい。一方、工程(A)における過酸化水素による反応を終了させた後(より好ましくは当該反応により過酸化水素が消費された後)に、次工程に進むことが好ましいことから、第1の反応槽11と第2の反応槽12とは別々の槽であることが好ましい。また、工程(A)で得られた反応液中に残留する過酸化水素の濃度を測定する工程(B1)を説明し易いように、図1では、過酸化水素濃度の測定装置13は、第1の反応槽11と第2の反応槽12との間(その間の流路)に設けられているが、第1の反応槽11に設置されてもよく、上記の共通の反応槽に設置されてもよい。
【0059】
図2は、前述の第二の実施形態のシアン含有水の処理方法を実行し得る処理設備及び処理フローの概略構成の一例を表す説明図である。図2に示すように、処理設備20は、第1の反応槽(a)21、除去槽(b2)24、第2の反応槽(c)22、及び固液分離装置(d)26を備える。第1の反応槽(a)21にて前述の工程(A)を、除去槽(b2)24にて前述の工程(B2)を、第2の反応槽(c)22にて前述の工程(C)を、固液分離装置(d)26にて前述の工程(D)を行うことができる。以下では、(a)、(b2)、(c)、及び(d)の記載を省略する。
【0060】
図2に示す処理設備20における第1の反応槽21は、前述の処理設備10における第1の反応槽11と同様である。また、処理設備20における第2の反応槽22で得られた反応液W22を固液分離する固液分離装置26は、前述の処理設備10における固液分離装置16と同様である。さらに、図2に示す処理設備20における第2の反応槽22は、そこに流入される液が異なること以外は図1に示す処理設備10における第2の反応槽12と同様である。処理設備20も、第2の反応槽22と固液分離装置26との間等に中継槽を備えていてもよい。
【0061】
除去槽24は、第1の反応槽21で得られた反応液W21が流入される槽であり、その反応液W21と、前述の過酸化水素除去剤とを接触させて反応させる槽である。この除去槽24にて、反応液W21中に残留する過酸化水素の濃度が低減された反応液W24を得ることができる。除去槽24には、第1の反応槽21で得られた反応液W21に過酸化水素除去剤を添加するための装置241(タンク、ポンプ、及び供給管等)を設けることができる。また、過酸化水素除去剤として前述の分解触媒を用いる場合には、その分解触媒を担持させた基材を、除去槽24内に設けることもできる。その除去槽24に第1の反応槽21で得られた反応液W21を通過せることにより、分解触媒を担持させた基材が反応液W21に浸漬するようにしてもよい。さらに、過酸化水素除去剤として前述の固体状の分解触媒を用いる場合には、除去槽24を、固体状の分解触媒を充填した槽とすることもできる。その除去槽24に、第1の反応槽21で得られた反応液W21を通過させることにより、反応液W21と過酸化水素除去剤とを接触させてもよい。
【0062】
処理設備20は、第1の反応槽21で得られた反応液W21中に残留する過酸化水素濃度の測定装置(b1)23や、除去槽24で得られた反応液W24中に残留する過酸化水素濃度の測定装置(b3)25を備えることが好ましい。測定装置(b1)23にて前述の工程(B1)を、測定装置(b3)25にて前述の工程(B3)を行うことができる。これらの測定装置23、25も、前述の図1に示す処理設備10における過酸化水素濃度の測定装置13と同様のものを用いることができ、また、前述した制御部と協働させることも可能である。
【0063】
前述の工程(B1)及び工程(B3)を説明し易いように、過酸化水素濃度の測定装置23、25を設ける例を説明したが、測定装置23、25の代わりに、工程(B1)及び工程(B3)のそれぞれで同一(共通)の測定装置27を用いることもできる。この場合、その過酸化水素濃度の測定装置27を除去槽24に設置し、除去槽24において、反応液W21中の残留過酸化水素濃度の測定(工程(B1))や、反応液W24中の残留過酸化水素濃度の測定(工程(B3))を行うことができる。
【0064】
過酸化水素濃度の測定装置27も前述した制御部と協働させることが可能である。具体的には、測定装置27で測定される過酸化水素濃度の値が所定値以下(例えば、10mg-H/L以下、より好ましくは5mg-H/L以下、さらに好ましくは3mg-H/L以下、特に好ましくは0mg-H/L)となるように、上記制御部によって、測定装置27と、過酸化水素除去剤の添加装置241(注入ポンプ)とを連動させることが好ましい。例えば、測定装置27で測定される過酸化水素濃度の値が上記所定値を超えたら、過酸化水素除去剤の添加装置241(注入ポンプ)が稼働し、測定装置27で測定される過酸化水素濃度の値が上記所定値以下になると過酸化水素除去剤の添加装置241(注入ポンプ)が停止するように、測定装置27と、過酸化水素除去剤の添加装置241(注入ポンプ)とを連動させることができる。
【0065】
なお、図2では、過酸化水素を用いる工程(A)、過酸化水素除去剤を用いる工程(B2)、及び銅(I)化合物を用いる工程(C)を説明し易いように、第1の反応槽21、除去槽24、及び第2の反応槽22をそれぞれ別々に示したが、第1の反応槽21及び除去槽24;除去槽24及び第2の反応槽22;並びに第1の反応槽21、除去槽24、及び第2の反応槽22;は、同一(共通)の槽であってもよい。一方、工程(A)における過酸化水素による反応を終了させた後(より好ましくは当該反応により過酸化水素が消費された後)に、次工程に進むことが好ましく、また、工程(B2)における過酸化水素除去剤による反応を終了させた後、次工程に進むことが好ましいことから、第1の反応槽21、除去槽24、及び第2の反応槽22は、それぞれ別々の槽であることが好ましい。
【0066】
また、必要に応じて行い得る工程(B1)を説明し易いように、図2では、過酸化水素濃度の測定装置23を第1の反応槽21と除去槽24との間(その間の流路)に設けた例を示したが、測定装置23は、第1の反応槽21に設置されてもよく、第1の反応槽21を兼ねる上記共通の槽に設置されてもよい。さらに、必要に応じて行い得る工程(B3)を説明し易いように、図2では、過酸化水素濃度の測定装置25を除去槽24と第2の反応槽22との間(その間の流路)に設けた例を示したが、測定装置25は、除去槽24に設置されてもよく、除去槽24を兼ねる上記共通の槽に設置されてもよい。
【0067】
前述の通り、被処理水としては、排出ガスの洗浄廃水が好適であることから、本実施形態のシアン含有水の処理方法を、排出ガスの洗浄廃水の処理設備に適用することもできる。図3は、本実施形態のシアン含有水の処理方法を適用することを想定した場合の排出ガスの処理設備及び処理フローの一例の概略構成を表す説明図である。
【0068】
図3に示す排出ガスGの処理設備300は、排出ガスGを連続的に洗浄する湿式集塵機(ベンチュリスクラバー)301と、湿式集塵機301から得られた集塵水W301を沈降分離処理する沈殿槽302と、沈降分離により得られた上澄み液W302を一次処理水として貯留する一次処理水槽303とを備える。また、一次処理水槽303に送られた上澄み液(一次処理水)の一部は、循環水W303として、補給水W304が加えられつつ湿式集塵機301に戻されて、排出ガスGの洗浄に循環使用されてもよい。さらに、沈殿槽302で沈降分離により得られた沈殿物S302を脱水処理する脱水機38を設けてもよく、脱水機38により処理された一部は脱水ケーキCとして処理され、また別の一部は脱離液(脱水ろ液)W38として沈殿槽302に再送されてもよい。
【0069】
上述の一次処理水槽303における一次処理水に、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体が含有されている場合に、その一次処理水を、本実施形態のシアン含有水の処理方法における処理対象である被処理水W10とすることができる。図3では、一次処理水槽303内の一次処理水をブロー水(被処理水W10)として、前述した処理設備10、20(それらにおける第1の反応槽11、21)に送り、本実施形態のシアン含有水の処理方法を行う場合が例示されている。処理設備10、20における固液分離装置16、26で液分とは分離された固形分を含むスラリーを脱水機38に送って脱水処理し、脱水機38で得られた分離水(脱離液、脱水ろ液)を、沈殿槽302に送ることが好ましい。図3に示す脱水機38は、濃縮槽であってもよく、濃縮槽と脱水機38とを併用してもよい。また、沈殿槽302には、脱水ろ液のほか、上記濃縮槽で得られた分離水が送られてもよく、余剰の上記スラリーが送られてもよい。なお、沈殿槽302の代わりに、各種の膜分離装置及びろ過器等が使用されてもよい。
【0070】
以上詳述したシアン含有水の処理技術は、次の構成をとることが可能である。
[1]シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる工程(A)と、前記工程(A)で得られた反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する工程(B1)と、前記工程(A)で得られた前記反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)と、前記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理する工程(D)と、を含み、前記工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H/L以下となる量に制御する、シアン含有水の処理方法。
[2]前記工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記工程(B1)で測定される前記過酸化水素濃度の値が5mg-H/L以下となる量に制御する上記[1]に記載のシアン含有水の処理方法。
[3]前記工程(B1)で測定される前記過酸化水素濃度の値を監視しながら、前記工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加を行う上記[1]又は[2]に記載のシアン含有水の処理方法。
[4]シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる工程(A)と、前記工程(A)で得られた反応液と、その反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を低減する過酸化水素除去剤とを接触させて反応させる工程(B2)と、前記工程(B2)で得られた反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)と、前記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理する工程(D)と、を含む、シアン含有水の処理方法。
[5]前記工程(A)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する工程(B1)をさらに含む上記[4]に記載のシアン含有水の処理方法。
[6]前記工程(B2)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する工程(B3)をさらに含む上記[4]又は[5]に記載のシアン含有水の処理方法。
[7]前記過酸化水素除去剤は、過酸化水素の還元剤、及び過酸化水素の分解触媒のいずれか一方又は両方を含む上記[4]~[6]のいずれかに記載のシアン含有水の処理方法。
[8]前記工程(A)において、前記被処理水中の前記シアン化物イオンを前記過酸化水素により分解し、前記工程(C)において、前記銅(I)化合物によって、前記工程(C)で得られる前記反応液中に前記鉄シアノ錯体の難溶化物を生成し、前記工程(D)において、前記難溶化物を分離除去する上記[1]~[7]のいずれかに記載のシアン含有水の処理方法。
[9]前記被処理水は、懸濁物質を含む排出ガスを湿式集塵処理して得られた集塵水から前記懸濁物質を除去するための固液分離処理がなされた、排出ガスの洗浄廃水であり、前記工程(D)で液分とは分離された固形分を含むスラリーについて、濃縮処理及び脱水処理のいずれか一方又は両方を行う工程(E)と、前記工程(E)で得られた分離水を、前記排出ガスの洗浄廃水を得るための前記固液分離処理に送る工程(F)と、をさらに含む上記[1]~[8]のいずれかに記載のシアン含有水の処理方法。
[10]前記工程(A)における前記過酸化水素を添加する対象となる前記被処理水、及び前記工程(C)における前記銅(I)化合物を添加する対象となる前記反応液のいずれか一方又は両方に、さらに還元剤を添加する上記[1]~[9]のいずれかに記載のシアン含有水の処理方法。
[11]前記工程(C)における前記銅(I)化合物を添加する対象となる前記反応液に、さらに第4級アンモニウム化合物を添加する上記[1]~[10]のいずれかに記載のシアン含有水の処理方法。
[12]前記工程(A)と前記工程(C)とを別々の反応槽にて行う上記[1]~[11]のいずれかに記載のシアン含有水の処理方法。
[13]前記鉄シアノ錯体は、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオンのいずれか一方又は両方を含むとともに、[Fe(CN)(CO)]3-及び[Fe(CN)(CO)2-のいずれか一方又は両方を含む上記[1]~[12]のいずれかに記載のシアン含有水の処理方法。
[14]シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる反応槽(a)と、前記反応槽(a)で得られた反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する測定装置(b1)と、前記反応槽(a)で得られた前記反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる反応槽(c)と、前記反応槽(c)で得られた反応液を固液分離する固液分離装置(d)と、前記反応槽(a)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記測定装置(b1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H/L以下となる量に制御する制御部と、を備える、シアン含有水の処理設備。
[15]シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる反応槽(a)と、前記反応槽(a)で得られた反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を低減する過酸化水素除去剤を添加して反応させる除去槽(b2)と、前記除去槽(b2)で得られた反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる反応槽(c)と、前記反応槽(c)で得られた反応液を固液分離する固液分離装置(d)と、を備える、シアン含有水の処理設備。
【実施例
【0071】
以下、試験例を挙げて、本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法の効果等をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の試験例に限定されるものではない。
【0072】
<試験例1>
(被処理水)
シアン化物イオン(溶解性F-CN)を2.0mg-CN/L、及び溶解性のシアノ錯体(溶解性錯CN)を11.6mg-CN/L含有する被処理水(溶解性全シアン(T-CN)濃度13.6mg-CN/L)を用意した。具体的には、所定の工場における排出ガスの洗浄を行う排出ガス処理装置から排出された、未燃カーボン、鉄分、及び亜鉛分等の懸濁物質を含有する廃水を沈降分離処理して得られた上澄水(懸濁物質濃度=48mg/L)を被処理水として用意した。なお、この被処理水について、特開2018-69227号公報に記載の装置(液体クロマトグラフィー-誘導結合プラズマ質量分析(LC-ICP-MS)装置)及び条件にて分析したところ、この被処理水には、0.9mg-CN/Lのフェロシアン化物イオン([Fe(CN)4-)、0.3mg-CN/Lのフェリシアン化物イオン([Fe(CN)3-)、9.1mg-CN/Lの鉄カルボニルシアノ錯体(5.8mg-CN/Lの[Fe(CN)(CO)]3-及び3.3mg-CN/Lの[Fe(CN)(CO)2-)、並びに1.3mg-CN/Lの[Cu(CN)3-が含まれていたことが確認された。さらに、上記被処理水は、pHが7.7、懸濁物質(SS)が36mg/L、CODが11mg/L、T-N(全窒素)が130mg/L、T-P(全りん)が0.1mg/L、無機体炭素が310mg/Lであった。これらと、上記溶解性F-CN及び溶解性T-CNは、JIS K0102:2013に記載の方法により測定した。
【0073】
(試験例1.1~1.3)
pH6.8及び温度50℃に調整した上記被処理水500mLをビーカーにとり、35質量%過酸化水素水を添加し、撹拌しながら、15分間反応させ、反応液を得た(工程(A))。過酸化水素水の添加量は、反応液中に残留する過酸化水素濃度が10mg-H/L以下となるように制御し、Hとして、表1に示す添加量(以下、「H添加量」と記す。)とした。試験例1.3では、過酸化水素とともに、チオ硫酸ナトリウムを20mg/L添加した。また、反応液中に残留する過酸化水素濃度(以下、「残留H濃度」と記す。)を測定した(工程(B1))。この測定には、商品名「RQフレックス」及び「リフレクトクァント 過酸化物テスト」(関東化学社製)を用いた。
【0074】
次いで、上記反応液に対して、亜酸化銅溶液を、銅(Cu)として表1に示す添加量にて添加し、撹拌しながら、15分間反応させた(工程(C))。亜酸化銅溶液には、亜酸化銅を35質量%塩酸に溶解し、銅(Cu)濃度を5質量%に調整した溶液を用いた。試験例1.2及び1.3では、上記反応液に、亜酸化銅とともに、第4級アンモニウム化合物であるジデシルジメチルアンモニウムクロリドを30mg/L添加した。
【0075】
亜酸化銅等を添加して反応させた後に得られた反応液に、撹拌下で、アニオン性高分子凝集剤(商品名「KEA-730」、日鉄環境社製)を1mg/L添加した。凝集剤を添加した反応液を静置させ、反応液中に生じた難溶性(水に対する難溶性)のシアン化合物を沈殿させることで固液分離し、得られた上澄水を処理水とした(工程(D))。この処理水について、JIS K0102:2013に規定される全シアンの分析方法に基づいて、処理水の全シアン濃度(表1中、「処理水T-CN」と記す。)を測定した。なお、上記の各反応を生じさせている際の撹拌は、マグネティックスターラを用いることにより行った。
【0076】
(試験例1.4~1.6)
試験例1.4では、H添加量を表1に示す量に変更したこと、及び亜酸化銅を用いなかったこと以外は、試験例1.1と同様の手順及び方法にて処理を行った。試験例1.5では、残留H濃度が10mg/L以下となるように制御することなく過酸化水素水を添加し、H添加量、及び亜酸化銅の添加量を表1に示す通りに変更したこと以外は、試験例1.1と同様の手順及び方法にて処理を行った。試験例1.6では、残留H濃度が10mg/L以下となるように制御することなく過酸化水素水を添加し、H添加量を表1に示す通りに変更したこと以外は、試験例1.3と同様の手順及び方法にて処理を行った。そして、試験例1.4~1.6で得られた処理水についても、前述の分析方法に基づいて、処理水T-CNを測定した。
【0077】
試験例1.1~1.6の試験条件及び処理水T-CNを表1に示す。
【0078】
【0079】
表1に示すように、試験例1.1~1.3では、過酸化水素及び銅(I)化合物を添加し、かつ、H添加量を、過酸化水素による反応後に得られた反応液中の残留H濃度が10mg-H/L(さらには5mg-H/L)以下となるように制御したことによって、処理水T-CNを十分に低減することができ、被処理水からシアン成分を高度に除去できたことが確認された。
【0080】
これに対して、試験例1.4では銅(I)化合物を用いなかったため、被処理水からのシアン成分の除去能はほとんど認められなかった。試験例1.5では、過酸化水素及び銅(I)化合物を用い、また、試験例1.6では、過酸化水素とともにさらにチオ硫酸ナトリウムを用い、かつ、銅(I)化合物とともにさらに第4級アンモニウム塩を用いたものの、銅(I)化合物等を添加する際の反応液中の残留H濃度が30mg-H/L以上であったため、処理水T-CNを十分に低減することができず、被処理水からシアン成分を高度に除去することはできなかった。
【0081】
<試験例2>
試験例2では、表2の「被処理水」欄に示すように、シアン成分の濃度が異なる4種類の被処理水を用意した。それらの被処理水についても、前述の試験例1で用いた被処理水と同様に分析したところ、試験例2で用いた被処理水のいずれにも、[Fe(CN)4-、[Fe(CN)3-、[Fe(CN)(CO)]3-、及び[Fe(CN)(CO)2-が含まれていたことが確認された。
【0082】
(試験例2.1~2.6)
表2に示す被処理水に対して、H、チオ硫酸ナトリウム、亜酸化銅、及びジデシルジメチルアンモニウムクロリド(第4級アンモニウム化合物)の各添加量を表2に示す通りにしたこと以外は、試験例1.1~1.3と同様の手順及び方法にて処理を行い、処理水を得た。
【0083】
(試験例2.7~2.11)
試験例2.7~2.11では、残留H濃度が10mg/L以下となるように制御することなく過酸化水素水を添加し、H、チオ硫酸ナトリウム、亜酸化銅、及びジデシルジメチルアンモニウムクロリド(第4級アンモニウム化合物)の各添加量を表2に示す通りにしたこと以外は、試験例1.1~1.3と同様の手順及び方法にて処理を行い、処理水を得た。
【0084】
試験例2.1~2.11で得られた各処理水について、試験例1で述べた方法と同様の方法にて、処理水の全シアン濃度(表2中、「処理水T-CN」と記す。)を測定した。その結果を表2にあわせて示す。
【0085】
【0086】
表2に示すように、溶解性F-CN及び溶解性錯CNの各濃度がいずれも低い被処理水はもちろん、溶解性F-CN濃度に比べて溶解性錯CN濃度が高い被処理水についても、H添加量を、残留H濃度が10mg/L以下となるように制御することによって、処理水T-CNを十分に低減することができ、被処理水からシアン成分を高度に除去できたことが確認された。
【0087】
<試験例3>
排出ガスの洗浄設備から排出された廃水であって、シアン化物イオン(溶解性F-CN)を2.0mg-CN/L、鉄シアノ錯体(溶解性錯CN)を5.2mg-CN/L含有する廃水を採取した。この廃水についても、前述の試験例1で用いた被処理水と同様に分析したところ、[Fe(CN)4-、[Fe(CN)3-、[Fe(CN)(CO)]3-、及び[Fe(CN)(CO)2-が含まれていたことが確認された。この廃水にKCNを添加し、表3に示すF-CN濃度を調整した模擬廃水を用いた。
【0088】
試験例3では、上記模擬廃水を被処理水として用い、被処理水に過酸化水素を添加して反応させた後に得られた反応液中の残留H濃度と、処理水T-CNの測定結果から、被処理水に応じた最適なH添加量を検討する試験を行った。
【0089】
表3に示す溶解性F-CN濃度の被処理水に、Hを15mg/L、30mg/L、又は70mg/Lの添加量にて添加するとともに、チオ硫酸ナトリウムを20mg/L添加し、マグネティックスターラで撹拌しながら、15分間反応させて反応液を得た後、その反応液中の残留H濃度を測定した。その結果を表3-1に示す。
【0090】
【0091】
被処理水に過酸化水素及びチオ硫酸ナトリウムを添加して反応させた後に得られた反応液に、亜酸化銅を20mg-Cu/L、ジデシルジメチルアンモニウムクロリドを30mg/L添加し、マグネティックスターラで撹拌しながら、15分間反応させ、反応液を得た。この反応液について、試験例1.1~1.3の説明で述べた方法と同様の方法によって、処理水を得て、処理水T-CNを測定した。その結果を表3-2に示す。
【0092】
【0093】
試験例3の結果から、溶解性錯CNを5mg-CN/L程度含有する被処理水の場合、その被処理水中の溶解性F-CN濃度に応じて、好適な過酸化水素の添加量を推測することができると考えられる。その一例を表3-3に示す。
【0094】
【0095】
<試験例4>
(試験例4.1及び4.2)
試験例1で用いたものと同じ被処理水に、pH6.8及び水温50℃において、表4に示すH添加量となる量の35質量%過酸化水素水、及びチオ硫酸ナトリウム20mg/Lを添加し、マグネティックスターラで撹拌しながら、5分間反応させ、反応液を得た(工程(A))。また、試験例1と同様に、反応液中の残留H濃度を測定した(工程(B1))。
【0096】
次いで、H及びチオ硫酸ナトリウムの添加及び反応後に得られた上記反応液に対して、過酸化水素(H)除去剤として、亜硫酸ナトリウムを表4に示す添加量(NaSOとしての添加量)にて添加し、マグネティックスターラで撹拌しながら、5分間反応させた(工程(B2))。そして、得られた反応液中の残留H濃度を上記同様に測定した(工程(B3))。亜硫酸ナトリウムの添加には、30質量%亜硫酸ナトリウム水溶液を用いた。
【0097】
NaSOの添加及び反応後に得られた上記反応液に、亜酸化銅を20mg-Cu/L添加し、15分間反応させた(工程(C))。その後、試験例1で述べた方法と同様に、処理水を得た後(工程(D))、処理水T-CNを測定した。
【0098】
(試験例4.3)
試験例4.3では、工程(B2)において、亜硫酸ナトリウム等のH除去剤を使用せずに、Hの添加及び反応後に得られた反応液に亜酸化銅を添加したこと以外は、試験例4.2と同様の手順及び方法にて、処理を行い、処理水T-CNを測定した。
【0099】
(試験例4.4~4.17)
試験例4.4~4.17では、工程(A)においてチオ硫酸ナトリウムを使用しなかったこと、並びに工程(A)におけるH添加量、工程(B2)におけるH除去剤の種類及びその添加量、工程(C)における亜酸化銅添加量を、表4に示す条件としたこと以外は、試験例4.1と同様の手順及び方法にて、処理を行い、処理水T-CNを測定した。なお、H除去剤として、試験例4.4~4.10では「カタラーゼ(ウシ肝臓由来)」(東京化成工業社製)を純水により0.1質量%に調整した溶液を使用した。試験例4.11~4.13では粉末状の二酸化マンガン(MnO)をそのまま使用した。試験例4.14~4.17では粉末状の活性炭を純水と混合して1質量%濃度に調整し、撹拌状態にあるスラリーを使用した。
【0100】
試験例4.1~4.17の試験条件及び処理水T-CNの結果を表4に示す。
【0101】
【0102】
試験例4の結果から、被処理水への過酸化水素の添加及び反応後に得られた反応液には、過酸化水素が残留していたものの、過酸化水素除去剤(亜硫酸ナトリウム、カタラーゼ、二酸化マンガン、及び活性炭)を添加することにより、上記反応液中の残留H濃度を低減できたことが確認された。また、それによって、銅(I)化合物の添加及び反応後に得られた反応液からの処理水の全シアン濃度を十分に低減することができ、被処理水からシアン成分を高度に除去できたことが確認された。
【符号の説明】
【0103】
10 シアン含有水の処理設備
11 第1の反応槽
12 第2の反応槽
13 過酸化水素濃度の測定装置
16 固液分離装置
17 制御部
20 シアン含有水の処理設備
21 第1の反応槽
22 第2の反応槽
23、25、27 過酸化水素濃度の測定装置
24 除去槽
26 固液分離装置

図1
図2
図3