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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】ステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/06 20060101AFI20230606BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20230606BHJP
   H02K 3/04 20060101ALI20230606BHJP
   H02K 15/02 20060101ALN20230606BHJP
【FI】
H02K15/06
H02K15/04 C
H02K3/04 E
H02K15/02 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019159365
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021040388
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】和田 昭人
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-304108(JP,A)
【文献】特開2003-153478(JP,A)
【文献】特開2017-112817(JP,A)
【文献】特開平07-322577(JP,A)
【文献】特開昭62-068045(JP,A)
【文献】特開2007-312565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/00- 15/02
H02K 15/04- 15/16
H02K 3/00- 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアおよび前記ステータコアに分布巻きされたコイルを備えたステータの製造方法であって、
前記ステータコアは、環状部および前記環状部から内周側へ突出する複数の突極部を備え、周方向で隣り合う2つの前記突極部と前記環状部によって区画されるスロットが周方向に複数並んでおり、
前記コイルは、異なる2箇所の前記スロットにそれぞれ挿入されて前記ステータコアの軸線方向に延びる第1コイル部分および第2コイル部分と、前記第1コイル部分と前記第2コイル部分を前記ステータコアの軸線方向の一方側で接続する第1接続部分と、前記第1コイル部分と前記第2コイル部分を前記ステータコアの軸線方向の他方側で接続する第2接続部分と、を備えており、
前記突極部の内周側へ治具を挿入して、前記治具を軸線方向および径方向に貫通するコイル挿入溝の径方向の一端および他端を、それぞれ、前記異なる2箇所の前記スロットの入口に位置決めする治具挿入工程と、
前記ステータコアに組み付けられる前の前記コイルの少なくとも一部を、前記スロットの入口幅よりも薄い薄型コイル部分に変形させるコイル変形工程と、
前記コイル挿入溝に対して、前記薄型コイル部分を前記軸線方向の一方側から挿入して前記軸線方向の他方側へ取り出すことにより、前記第1コイル部分および前記第2コイル部分を前記異なる2箇所の前記スロットに配置するコイル挿入工程と、
前記ステータコアから前記治具を取り外す治具取り外し工程と、
を行うことを特徴とするステータの製造方法。
【請求項2】
前記治具挿入工程では、前記コイル挿入溝の径方向の一方側の縁および他方側の縁の2箇所から径方向に突出する保護部材を、前記異なる2箇所の前記スロットの入口に挿入し、
前記コイル挿入工程では、前記薄型コイル部分を前記保護部材によってガイドして前記入口を通過させることを特徴とする請求項1に記載のステータの製造方法。
【請求項3】
前記保護部材は、前記コイル挿入溝の内面に配置される可撓性部材であることを特徴とする請求項2に記載のステータの製造方法。
【請求項4】
前記ステータコアのスロット数が6であり、
前記コイルの数は3であることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のステータの製造方法。
【請求項5】
径方向で対向する2つの前記スロットに、同一の前記コイルに設けられた前記第1コイル部分と前記第2コイル部分が配置されることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のステータの製造方法。
【請求項6】
前記治具は、第1治具部分および第2治具部分を備えており、
前記治具挿入工程の前に、前記第1治具部分および前記第2治具部分を支持台に着脱可能に取り付けることにより、前記第1治具部分と前記第2治具部分の間に前記コイル挿入溝を形成する治具組立工程を行うことを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載のステータの製造方法。
【請求項7】
前記治具挿入工程では、前記支持台の上端に前記コイル挿入溝を上下方向に向けた状態で固定されている前記治具に対して、上方から前記ステータコアを組み付けて、前記治具の上端を前記ステータコアから突出させ、
前記治具の上端側から、前記薄型コイル部分を前記コイル挿入溝に挿入することを特徴
とする請求項6に記載のステータの製造方法。
【請求項8】
前記ステータコアは、前記軸線方向の一方側の端面、前記軸線方向の他方側の端面、および、前記スロットの内周面が絶縁層によって被覆されることを特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載のステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアとステータコアに分布巻きされたコイルとを備えるステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステータコアと、ステータコアに複数のスロットをまたぐように分布巻きされたコイルとを備えるステータ(固定子)の製造方法が記載されている。特許文献1において、ステータコア(鉄心)は、所定の間隔で内周側へ突出する突極部(磁極ティース部)を備えており、周方向で隣り合う突極部の間にスロットが設けられている。コイルは、周方向に離れた2つのスロットにそれぞれ挿入された第1コイル部分(第1の辺部)および第2コイル部分(第2の辺部)と、第1の辺部と第2の辺部の一端側を接続する第1接続部分(第3の辺部)と、第1の辺部と第2の辺部の他端側を接続する第2接続部分(第4の辺部)を備える。
【0003】
ステータコアにコイルを組み付ける際、ステータコアが小径である場合には、コイルを巻くための自動化装置が突極部の内周側に入らない。特許文献1では、コイル挿入治具に保持させたコイルをステータコアの軸線方向の端面からスロットに挿入することによってステータコアにコイルを組み付ける方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-153748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、予め、コイルの第3の辺部の厚さを薄くして、第3の辺部が2つのスロットの入口を通過できる形状にコイルの形状を整える。そして、コイル挿入治具の軸線方向の一方側へ第3の辺部を飛び出させた状態にコイルを保持させる。コイル挿入治具は、第3の辺部が位置する側へ突出する2本のピン(ワイヤガイドブレード)を備えており、ワイヤガイドブレードをステータコアの内周面に沿わせてコイル挿入治具をステータコアの軸線方向に移動させることによって、コイルをステータコアに挿入する。
【0006】
特許文献1では、コイルの第3の辺部がコイル挿入治具から飛び出しており、第3の辺部をステータコアに挿入する際、ステータコアの内側には、第3の辺部を案内する部材は配置されていない。そのため、第3の辺部がステータコアに設けられた2つのスロットの入口を通過する際に、スロットの入口を形成している突極部の先端部分にコイル線が摺接してコイル線が損傷するおそれがある。
【0007】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、小型のステータにコイルを分布巻きの状態に組み付ける作業を効率的に行い、且つ、コイル線の損傷を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、ステータコアおよび前記ステータコアに分布巻きされたコイルを備えたステータの製造方法であって、前記ステータコアは、環状部および前記環状部から内周側へ突出する複数の突極部を備え、周方向で隣り合う2つの前記突極部と前記環状部によって区画されるスロットが周方向に複数並んでおり、前記コイルは、異なる2箇所の前記スロットにそれぞれ挿入されて前記ステータコアの軸線方向に延び
る第1コイル部分および第2コイル部分と、前記第1コイル部分と前記第2コイル部分を前記ステータコアの軸線方向の一方側で接続する第1接続部分と、前記第1コイル部分と前記第2コイル部分を前記ステータコアの軸線方向の他方側で接続する第2接続部分と、を備えており、前記突極部の内周側へ治具を挿入して、前記治具を軸線方向および径方向に貫通するコイル挿入溝の径方向の一端および他端を、それぞれ、前記異なる2箇所の前記スロットの入口に位置決めする治具挿入工程と、前記ステータコアに組み付けられる前の前記コイルの少なくとも一部を、前記スロットの入口幅よりも薄い薄型コイル部分に変形させるコイル変形工程と、前記コイル挿入溝に対して、前記薄型コイル部分を前記軸線方向の一方側から挿入して前記軸線方向の他方側へ取り出すことにより、前記第1コイル部分および前記第2コイル部分を前記異なる2箇所の前記スロットに配置するコイル挿入工程と、前記ステータコアから前記治具を取り外す治具取り外し工程と、を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ステータコアの突極部の内周側に治具を挿入した状態で、治具に設けられたコイル挿入溝に薄型コイル部分を挿入することによってステータコアにコイルを組み付ける。このようにすると、ステータの内周側において、治具に設けられたコイル挿入溝によってコイルが案内される。従って、スロットの入口を薄型コイル部分が通過する際、突極部の先端部とコイル線とが摺接しにくく、コイル線が損傷しにくい。よって、ステータコアの内側に自動化装置が入らない小型のステータに対してコイルを分布巻きの状態に組み付ける作業を効率的に行うことができ、且つ、コイル線の損傷を抑制できる。
【0010】
本発明において、前記治具挿入工程では、前記コイル挿入溝の径方向の一方側の縁および他方側の縁の2箇所から径方向に突出する保護部材を、前記異なる2箇所の前記スロットの入口に挿入し、前記コイル挿入工程では、前記薄型コイル部分を前記保護部材によってガイドして前記入口を通過させることが好ましい。このようにすると、薄型コイル部分の形状を精度良く整えなくても、スロットの入口をスムーズに薄型コイル部分が通過する。また、薄型コイル部分と、スロットの入口を規定している突極部の先端部分との間に保護部材を配置できるので、突極部の先端部とコイル線とが摺接することを抑制できる。従って、コイル線の損傷を抑制できる。
【0011】
本発明において、前記保護部材は、前記コイル挿入溝の内面に配置される可撓性部材であることが好ましい。このようにすると、可撓性部材を容易にスロットの入口へ挿入できる。従って、コイル挿入治具のステータコアへの装着が容易である。
【0012】
本発明において、前記ステータコアのスロット数が6であり、前記コイルの数は3であことが好ましい。このようにすると、3相のコイルを分布巻きによってステータコアに組み付けることができる。
【0013】
本発明において、径方向で対向する2つの前記スロットに、同一の前記コイルに設けられた前記第1コイル部分と前記第2コイル部分が配置されることが好ましい。このように、径方向で対向するスロットに同一のコイルを配置する場合には、薄型コイル部分を平坦な板状にして挿入すればよい。従って、コイルの形状を整える作業が容易である。また、直線状のコイル挿入溝に平坦な薄型コイル部分を挿入すればよいので、コイルの挿入作業が容易である。
【0014】
本発明において、前記治具は、第1治具部分および第2治具部分を備えており、前記治具挿入工程の前に、前記第1治具部分および前記第2治具部分を支持台に着脱可能に取り付けることにより、前記第1治具部分と前記第2治具部分の間に前記コイル挿入溝を形成する治具組立工程を行うことが好ましい。このようにすると、第1治具部分および第2治具部分の間に軸線方向および径方向に貫通するコイル挿入溝を形成できる。
【0015】
本発明において、前記治具挿入工程では、前記支持台の上端に前記コイル挿入溝を上下方向に向けた状態で固定されている前記治具に対して、上方から前記ステータコアを組み付けて、前記治具の上端部分を前記ステータコアから突出させ、前記治具の上端側から、前記薄型コイル部分を前記コイル挿入溝に挿入することが好ましい。このようにすると、支持台に対して同一方向からの作業によって、治具の組立て、ステータコアに対する治具の挿入、コイルの組み付けの全ての作業を行うことができる。
【0016】
本発明において、前記ステータコアは、前記軸線方向の一方側の端面、前記軸線方向の他方側の端面、および、前記スロットの内周面が絶縁層によって被覆されることが好ましい。例えば、絶縁層として樹脂コーティング層を設けることにより、ステータコアとステータコアに分布巻きされたコイル(コイル)とを絶縁できる。このようにすると、スロットに絶縁紙などの絶縁部材を配置する必要がないので、コイル線の組み付け作業が容易である。また、ステータコアの軸線方向の端面とコイルとの間に絶縁紙の折り返し部分を配置した場合と比較して、ステータの軸線方向の寸法を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ステータコアの突極部の内周側に治具を挿入した状態で、治具に設けられたコイル挿入溝に薄型コイル部分を挿入することによってステータコアにコイルを組み付ける。このようにすると、ステータの内周側において、治具に設けられたコイル挿入溝によってコイルが案内される。従って、スロットの入口を薄型コイル部分が通過する際、突極部の先端部とコイル線とが摺接しにくく、コイル線が損傷しにくい。よって、ステータコアの内側に自動化装置が入らない小型のステータに対してコイルを分布巻きの状態に組み付ける作業を効率的に行うことができ、且つ、コイル線の損傷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る製造方法により製造したステータの斜視図である。
図2】ステータコアを軸線に沿って切断した断面図およびコイルの斜視図である。
図3】支持台およびコイル挿入治具の分解斜視図である。
図4】支持台に取り付けられたコイル挿入治具およびステータコアの斜視図である。
図5】コイル挿入治具をステータコアに挿入した状態を示す斜視図である。
図6】コイル挿入治具の斜視図および第1治具部分の分解斜視図である。
図7】本発明に係るステータの製造方法のフローチャートである。
図8】コイル変形工程の説明図、形状を整えたコイルの側面図、および、コイル挿入工程の途中の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したステータの製造方法の実施形態を説明する。
【0020】
(ステータ)
図1は本発明に係る製造方法により製造したステータ1の斜視図である。図2(a)はステータコア2を軸線に沿って切断した断面図であり、図2(b)はコイル3の斜視図である。図1図2(b)では、コイル3の巻回数を実際よりも簡略化して示す。図1に示すように、ステータ1は、軸線Lを中心とする円環状である。ステータ1の内周側に軸線L周りに回転可能に支持されたロータ(図示せず)を配置することによって、3相の直流モータが構成される。本明細書において、ステータ1の軸線に沿った方向を軸線L方向とし、軸線L方向の一方側をL1方向とし、軸線L方向の他方側をL2方向とする。また、X方向およびY方向は互いに直交し、且つ、軸線Lと直交する方向である。
【0021】
ステータ1は、円環状のステータコア2と、ステータコア2に分布巻きされた複数のコイル3を備える。ステータコア2は、軸線Lを中心とする円筒状の環状部4と、環状部4から内周側へ突出する複数の突極部5を備える。本形態では、ステータコア2は6本の突極部5を備える。環状部4の内周側には、周方向で隣り合う2つの突極部5と環状部4とによってスロット6が区画されている。本形態のステータ1のスロット数は6であり、スロット6は、周方向に等角度間隔で6箇所に設けられている。
【0022】
ステータコア2は、複数枚の鋼鈑を積層した積層コアである。図1図2(a)に示すように、ステータコア2の表面は、絶縁層7に被覆されている。絶縁層7は樹脂コーティング層である。絶縁層7は、各スロット6の内周面と、ステータコア2の軸線L方向の一方側L1の端面および他方側L2の端面に形成されている。突極部5の内周端面50および環状部4の外周面は絶縁層7に覆われておらず、積層コアが露出している。突極部5の内周端面50は、ステータ1の内周側にロータ(図示せず)を配置したとき、ロータの外周面に配置される磁石と僅かな隙間を介して対向する。
【0023】
図2(b)に示すように、各コイル3は、ステータコア2の軸線L方向に延びる第1コイル部分31および第2コイル部分32と、ステータコア2の軸線L方向の一方側L1で周方向に引き回されて第1コイル部分31と第2コイル部分32とを接続する第1接続部分33と、ステータコア2の軸線L方向の他方側L2で周方向に引き回されて第1コイル部分31と第2コイル部分32を接続する第2接続部分34を備える。図1に示すように、各コイル3は、異なる2箇所のスロット6に配置される。本形態では、6箇所のスロットに対して3つのコイルが組み付けられている。同一のコイル3に設けられた第1コイル部分31と第2コイル部分32は、径方向で対向する2箇所のスロット6に配置される。
【0024】
(コイル挿入治具)
図3は、支持台8およびコイル挿入治具10の分解斜視図である。図4は、支持台8に取り付けられたコイル挿入治具10およびステータコア2の斜視図である。図5は、コイル挿入治具10をステータコア2に挿入した状態を示す斜視図である。図6(a)は、コイル挿入治具10の斜視図であり、図6(b)は、第1治具部分11の分解斜視図である。本形態のステータ1の製造方法では、コイル挿入治具10(治具)を用いて、ステータコア2に対してコイル3を分布巻きした状態に組み付ける作業を行う。
【0025】
図4に示すように、ステータコア2の突極部5の内周側には、軸線L方向の一方側L1および他方側L2に開口する内周側空間Sが設けられている。内周側空間Sは突極部5の内周端面50によって囲まれる。周方向で隣り合う内周端面50の間には、各スロット6と内周側空間Sとを連通する入口60が設けられている。スロット6の入口60は、ステータコア2の一方側L1の端面から他方側L2の端面まで軸線L方向に延びている。
【0026】
コイル3は、ステータコア2に対して軸線L方向に挿入される。その際、コイル挿入治具10をステータコア2の中心に装着してコイル3を挿入することにより、径方向で対向する2箇所のスロット6の入口60をコイル3が通過する。コイル3をステータコア2の軸線L方向の一方側L1から挿入してステータコア2の軸線L方向の他方側L2から取り出すことにより、図1に示すように、径方向で対向する2箇所のスロット6に第1コイル部分31と第2コイル部分32が配置される。
【0027】
図4図6(a)に示すように、コイル挿入治具10は、軸線L方向に延びる略円柱状の外形をしている。コイル挿入治具10は、ステータコア2の内周側空間Sに軸線L方向の他方側L2から挿入されて、図5に示す装着完了位置10Aに位置決めされる。図4に示すように、コイル挿入治具10の外周面には、外周側に突出する当接部19が設けられている。当接部19は、コイル挿入治具10の軸線L方向の他方側L2の端部に設けられ
た環状凸部である。図5に示す装着完了位置10Aでは、ステータコア2の軸線L方向の他方側L2の端面が当接部19に当接している。
【0028】
図4図6(a)に示すように、コイル挿入治具10は、Y方向に対向する第1治具部分11および第2治具部分12と、第1治具部分11と第2治具部分12の間に設けられたコイル挿入溝13を備える。コイル挿入溝13は、コイル挿入治具10の径方向の中央を通ってX方向および軸線L方向に延びている。コイル挿入溝13は、コイル挿入治具10の軸線L方向の一方端および他方端において開口しており、コイル挿入治具10を軸線L方向に貫通する。
【0029】
図4に示すように、第1治具部分11と第2治具部分12は、支持台8に設けられた治具装着部80に着脱可能に取り付けられる。図3に示すように、治具装着部80は、軸線L方向に延びる支柱81と、支柱81の軸線L方向の一方側L1の端面から突出する4本の位置決めピン82を備える。支柱81は、軸線L方向の他方側L2へ凹んだ溝部83と、溝部83のY方向の両側で軸線L方向に延びる第1支柱部分84および第2支柱部分85を備える。4本の位置決めピン82のうちの2本はX方向に並んでおり、第1支柱部分84の先端面から突出する。残りの2本はX方向に並んでおり、第2支柱部分85の先端面から突出する。
【0030】
図3に示すように、第1治具部分11と第2治具部分12は、それぞれ、軸線L方向の他方側L2の端面に開口する位置決め孔110を2箇所に備える。第1治具部分11の位置決め孔110には、第1支柱部分84から突出する位置決めピン82が挿入される。第2治具部分12の位置決め孔110には、第2支柱部分85から突出する位置決めピン82が挿入される。これにより、図4に示すように、第1治具部分11と第2治具部分12が治具装着部80に着脱可能に取り付けられて、第1治具部分11と第2治具部分12の間にコイル挿入溝13が形成される。
【0031】
図6(a)に示すように、コイル挿入溝13は、コイル挿入治具10の軸線L方向の一方側L1の端部に設けられた第1案内部131と、コイル挿入治具10の軸線L方向の他方側L2の端部に設けられた第2案内部132を備える。第1案内部131は、軸線L方向の一方側L1に向かうに従ってY方向の幅が拡大する。また、第2案内部132は、軸線L方向の他方側L2に向かうに従ってY方向の幅が拡大する。コイル挿入治具10は、装着完了位置10A(図5参照)において、ステータコア2から軸線L方向の一方側L1および他方側L2の端部が突出する。第1案内部131および第2案内部132は、ステータコア2から軸線L方向の一方側L1および他方側L2に突出している端部に設けられている。
【0032】
図4図6(a)に示すように、コイル挿入溝13はX方向に延びており、コイル挿入治具10を径方向に貫通している。コイル挿入治具10の径方向の一方側の外周面、および、径方向の他方側の外周面には、ぞれぞれ、コイル挿入溝13の径方向の一方端133および他方端134が開口している。コイル挿入溝13の径方向の一方端133および他方端134には、それぞれ、保護部材14が配置される。保護部材14は、一方端133および他方端134からそれぞれ径方向外側へ突出する。保護部材14は、コイル挿入溝13のY方向の一方側の内面、および、コイル挿入溝13のY方向の他方側の内面に配置される可撓性部材15からなる。
【0033】
ここで、図6(b)を参照して第1治具部分11の構成を説明する。第2治具部分12の構成は、第1治具部分11と同一であるため、説明を省略する。図6(b)に示すように、第1治具部分11は、外側部材16および内側部材17と、外側部材16と内側部材17の間に挟まれる可撓性部材15と、内側部材17を外側部材16にねじ止めするねじ
18を備える。外側部材16は、円弧状外周面161と、円弧状外周面161とは反対側を向く面に設けられた溝部162を備える。外側部材16には、軸線L方向に離間した2箇所にねじ穴163が形成されている。可撓性部材15は、溝部162に沿う形状に屈曲した屈曲部151と、屈曲部151のX方向の両端からX方向の両側へ突出する縁部152を備えている。内側部材17は、溝部162に配置され、屈曲部151を径方向内側から押さえている。可撓性部材15の縁部152は、外側部材16からX方向の両側へ突出しており、保護部材14として機能する。
【0034】
(ステータの製造方法)
図7は、本発明に係るステータ1の製造方法のフローチャートである。本形態では、ステータ1を製造する際、図7に示す各工程を行って、ステータコア2にコイル3を取り付ける。図7に示す各工程を行う前に、コイル線30を短軸巻線機で巻いて長円状の形態のコイル3を製造しておく。図7に示すように、本形態のステータ1の製造方法は、治具組立工程ST1と、治具挿入工程ST2と、コイル変形工程ST3と、コイル挿入工程ST4と、治具取り外し工程ST5を行う。
【0035】
治具組立工程ST1では、図3図4に示すように、第1治具部分11および第2治具部分12に設けられた位置決め孔110に支持台8に設けられた位置決めピン82を挿入することによって、第1治具部分11および第2治具部分12を支持台8に着脱可能に取り付ける。これにより、第1治具部分11と第2治具部分12の間にコイル挿入溝13を備えたコイル挿入治具10が組み立てられる。
【0036】
続いて、治具挿入工程ST2では、ステータコア2の中心にコイル挿入治具10を装着する。本形態では、突極部5の内周側へ軸線L方向にコイル挿入治具10を挿入する。その際、図5に示すように、コイル挿入治具10を軸線L方向および径方向に貫通するコイル挿入溝13の径方向の一方端133および他方端134を、それぞれ、異なる2箇所のスロット6の入口60に位置決めしてコイル挿入治具10を挿入することにより、コイル挿入溝13の径方向の一方側の縁および他方側の縁の2箇所から径方向に突出する保護部材14をスロット6の入口60に挿入する。保護部材14は、Y方向に対向する一対の可撓性部材15からなる。可撓性部材15は、スロット6の入口60を規定している突極部5の先端部分の周方向の端部に沿って配置される。
【0037】
図8(a)はコイル変形工程ST3の説明図であり、図8(b)は形状を整えたコイルの側面図である。コイル変形工程ST3では、長円状のコイル3の一部を変形させて、スロット6の入口60を通過できるようにコイル3の形状を整える。コイル変形工程ST3において変形させるコイル部分は、長円状のコイル3の長手方向の一方側の端部であり、ステータコア2への組み付け後に第2接続部分34になるコイル部分である。コイル変形工程ST3では、コイル3の長手方向の一方側の端部のコイル線30を図8(a)に示すようにずらすことによって薄型コイル部分35を形成する。コイル変形工程ST3では、薄型コイル部分35の厚さD1がスロット6の入口幅D0(図2(a)参照)よりも薄くなるようにコイル3の形状を整える。
【0038】
図8(c)は、コイル挿入工程ST4の途中の状態を示す説明図である。コイル挿入工程ST4では、ステータコア2に装着されたコイル挿入治具10のコイル挿入溝13およびスロット6に対して、薄型コイル部分35を軸線L方向の一方側L1から挿入する。コイル挿入溝13は、ステータコア2から軸線L方向の一方側L1に突出した第1案内部131を備えているので、薄型コイル部分35を容易にコイル挿入溝13に挿入することができる。薄型コイル部分35は、コイル挿入溝13の径方向の両端に配置される保護部材14(可撓性部材15)によってガイドされて、スロット6の入口60を通過する。
【0039】
コイル挿入工程ST4では、コイル挿入溝13に軸線L方向の一方側L1から挿入した薄型コイル部分35を、コイル挿入溝13から軸線L方向の他方側L2へ取り出す。その結果、コイル3は、薄型コイル部分35がステータコア2の軸線L方向の他方側L2に配置され、第1コイル部分31および第2コイル部分32は対向する2箇所のスロット6に配置され、第1接続部分33になるコイル部分は、ステータコア2の軸線L方向の一方側L1に配置された状態になる。コイル挿入溝13の他方側L2には、治具装着部80の溝部83が設けられている。従って、薄型コイル部分35は、コイル挿入溝13から溝部83の内側の空間へ引き出される。
【0040】
治具取り外し工程ST5では、支持台8からステータコア2と共にコイル挿入治具10を取り外した後、ステータコア2からコイル挿入治具10を抜き取る。本形態では、ステータコア2に挿入された状態のコイル挿入治具10を支持台8から軸線L方向の一方側L1へ引き抜く。引き抜いたコイル挿入治具10およびステータコア2を裏返して、コイル3が適正な位置に挿入されていることを確認した後、ステータコア2からコイル挿入治具10を抜き取る。
【0041】
治具取り外し工程ST5では、コイル挿入治具10をステータコア2から引き抜いた後に、ステータコア2から軸線L方向の一方側L1へ飛び出しているコイル部分(第1接続部分33になる部分)および他方側L2へ飛び出しているコイル部分(薄型コイル部分35)をステータコア2の端面に押し付けた形状に潰して、第1接続部分33および第2接続部分34の形状を整える。
【0042】
本形態のステータ1は、3本のコイル3を備えている。従って、治具挿入工程ST2、コイル変形工程ST3、コイル挿入工程ST4、および治具取り外し工程ST5をコイル3の数だけ繰り返して行う。コイル挿入治具10は、コイル3を1つ組み付ける毎にステータコア2から抜き取って、次のコイル3が挿入されるスロット6に保護部材14が挿入されるように角度位置をずらして再びステータコア2に挿入される。全てのコイル3をステータコア2に組み付けることにより、ステータ1は完成する。
【0043】
(本形態の主な作用効果)
以上のように、本形態のステータ1は、ステータコア2およびステータコア2に分布巻きされたコイル3を備えており、ステータコア2は、環状部4および環状部4から内周側へ突出する複数の突極部5を備え、周方向で隣り合う2つの突極部5と環状部4によって区画されるスロット6が周方向に複数並んでいる。コイル3は、異なる2箇所のスロット6にそれぞれ挿入されてステータコア2の軸線L方向に延びる第1コイル部分31および第2コイル部分32と、第1コイル部分31と第2コイル部分32をステータコア2の軸線L方向の一方側L1で接続する第1接続部分33と、第1コイル部分31と第2コイル部分32をステータコア2の軸線L方向の他方側L2で接続する第2接続部分34と、を備える。
【0044】
本形態のステータ1の製造方法は、突極部5の内周側へコイル挿入治具10を挿入して、コイル挿入治具10を軸線L方向および径方向に貫通するコイル挿入溝13の径方向の一端および他端を、それぞれ、異なる2箇所のスロット6の入口60に位置決めする治具挿入工程ST2と、ステータコア2に組み付けられる前のコイル3の少なくとも一部を、スロット6の入口幅D0よりも薄い薄型コイル部分35に変形させるコイル変形工程ST3と、コイル挿入溝13に対して、薄型コイル部分35を軸線L方向の一方側L1から挿入して他方側へ取り出すことにより、第1コイル部分31および第2コイル部分32を異なる2箇所のスロット6に配置するコイル挿入工程ST4と、ステータコア2からコイル挿入治具10を取り外す治具取り外し工程ST5と、を行う。
【0045】
本形態では、このように、ステータコア2の突極部5の内周側にコイル挿入治具10を挿入した状態で、コイル挿入治具10に設けられたコイル挿入溝13に薄型コイル部分35を挿入することによってステータコア2にコイル3を組み付ける。従って、ステータ1の内周側をコイル3が通過する際、コイル挿入溝13の内面によってコイル3が案内されるので、薄型コイル部分35の形状を精度良く整えなくても、コイル3を挿入できる。また、コイル挿入溝13の内面によってコイル3が案内されるので、スロット6の入口60を薄型コイル部分35が通過する際、突極部5の先端部とコイル線30とが摺接しにくく、コイル線30が損傷しにくい。よって、ステータコア2の内側に自動化装置が入らない小型のステータ1においても、コイル3の組み付け作業を効率的に行うことができ、且つ、コイル線30の損傷を抑制できる。なお、上記各工程のうち、コイル変形工程ST3と治具挿入工程ST2の順序は、逆にすることも可能である。
【0046】
本形態では、治具挿入工程ST2において、コイル挿入溝13の径方向の一方側の縁および他方側の縁の2箇所から径方向に突出する保護部材14を、異なる2箇所のスロット6の入口60に挿入する。そして、コイル挿入工程ST4では、薄型コイル部分35を保護部材14によってガイドして入口60を通過させる。このようにすれば、薄型コイル部分35と、スロット6の入口60を規定している突極部5の先端部分との間に保護部材14を配置できるので、突極部5の先端部とコイル線30とが摺接することを抑制できる。従って、コイル線30の損傷を抑制できる。
【0047】
本形態の保護部材14は、コイル挿入溝13の内面に配置される可撓性部材15である。保護部材14として可撓性部材15を用いることにより、スロット6の入口60へ保護部材14を容易に挿入できる。従って、ステータコア2に対してコイル挿入治具10を装着する作業が容易である。
【0048】
本形態では、ステータコア2のスロット数が6であり、コイル3の数は3である。従って、3相のコイル3をステータコア2に分布巻きした状態に組み付けることができる。また、径方向で対向する2つのスロット6には、同一のコイル3に設けられた第1コイル部分31と第2コイル部分32が配置される。このように、径方向で対向するスロット6に同一のコイル3を配置する場合には、薄型コイル部分35を平坦な板状にして挿入すればよいので、コイル3の形状を整える作業が容易である。また、直線状のコイル挿入溝13に平坦な薄型コイル部分35を挿入すればよいので、コイル3の挿入作業が容易である。
【0049】
本形態のコイル挿入治具10は、第1治具部分11および第2治具部分12を備えており、治具挿入工程ST2の前に、第1治具部分11および第2治具部分12を支持台に着脱可能に取り付けることにより、第1治具部分11と第2治具部分12の間にコイル挿入溝13を形成する治具組立工程ST1を行う。このようにすれば、第1治具部分11および第2治具部分12の間に軸線L方向および径方向に貫通するコイル挿入溝13を形成できる。
【0050】
本形態では、治具挿入工程ST2において、支持台8の上端にコイル挿入溝13を上下方向に向けた状態で取り付けたコイル挿入治具10に対して、上方からステータコア2を組み付けて、コイル挿入治具10の上端部分をステータコア2から突出させる。そして、コイル挿入治具10の上端側から、薄型コイル部分35をコイル挿入溝13に挿入する。従って、支持台8に対して同一方向からの作業によって、コイル挿入治具10の組立て、ステータコア2に対するコイル挿入治具10の挿入、ステータコア2に対するコイル3の挿入の全ての作業を行うことができる。
【0051】
本形態では、治具取り外し工程ST5において、支持台8からステータコア2と共にコイル挿入治具10を取り外した後、ステータコア2からコイル挿入治具10を抜き取る。
従って、コイル挿入治具10を抜き取る前に、ステータコア2にコイル3が適正に挿入されたことを容易に確認することができる。
【0052】
本形態では、治具挿入工程ST2において、コイル挿入治具10の外周面に設けられている当接部19にステータコア2を当接させることにより、コイル挿入治具10に対してステータコア2を軸線L方向に位置決めする。従って、コイル挿入治具10に対するステータコア2の位置精度を高めることができる。
【0053】
本形態のステータコア2は、軸線L方向の一方側L1の端面、軸線L方向の他方側L2の端面、および、スロット6の内周面に絶縁層7が設けられているので、絶縁層7によってステータコア2とステータコア2に分布巻きされたコイル3(コイル3)とを絶縁できる。従って、スロット6に絶縁紙などの絶縁部材を配置する必要がないので、コイル線30の組み付け作業が容易である。また、ステータコア2の軸線L方向の端面とコイル3との間に絶縁紙の折り返し部分を配置した場合と比較して、ステータ1の軸線L方向の寸法を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0054】
1…ステータ、2…ステータコア、3…コイル、4…環状部、5…突極部、6…スロット、7…絶縁層、8…支持台、10…コイル挿入治具(治具)、10A…装着完了位置、11…第1治具部分、12…第2治具部分、13…コイル挿入溝、14…保護部材、15…可撓性部材、16…外側部材、17…内側部材、18…ねじ、19…当接部、30…コイル線、31…第1コイル部分、32…第2コイル部分、33…第1接続部分、34…第2接続部分、35…薄型コイル部分、50…内周端面、60…入口、80…治具装着部、81…支柱、82…位置決めピン、83…溝部、84…第1支柱部分、85…第2支柱部分、110…位置決め孔、131…第1案内部、132…第2案内部、133…径方向の一方端、134…径方向の他方端、151…屈曲部、152…縁部、161…円弧状外周面、162…溝部、163…ねじ穴、D0…入口幅、D1…薄型コイル部分の厚さ、L…ステータコアの軸線、L1…一方側、L2…他方側、S…内周側空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8