(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】非常に低レベルのホルデインを有するオオムギ
(51)【国際特許分類】
A23L 33/00 20160101AFI20230606BHJP
C12C 1/00 20060101ALI20230606BHJP
C12C 7/00 20060101ALI20230606BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20230606BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20230606BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20230606BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20230606BHJP
A01H 6/46 20180101ALI20230606BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20230606BHJP
【FI】
A23L33/00 ZNA
C12C1/00
C12C7/00 Z
A21D13/00
A23L7/109 Z
A01H1/00 A
A01H5/10
A01H6/46
C12N15/29
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020047974
(22)【出願日】2020-03-18
(62)【分割の表示】P 2016518803の分割
【原出願日】2014-06-13
【審査請求日】2020-04-17
(32)【優先日】2013-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2013-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】590003283
【氏名又は名称】コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガナイゼーション
(73)【特許権者】
【識別番号】506415252
【氏名又は名称】グレインズ・リサーチ・アンド・ディヴェロップメント・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・ジョン・タナー
(72)【発明者】
【氏名】クリスピン・アレクサンダー・ホーウィット
(72)【発明者】
【氏名】ミッシェル・リサ・コルグレイヴ
(72)【発明者】
【氏名】マルコム・ジェームズ・ブランデル
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-535512(JP,A)
【文献】国際公開第2013/063653(WO,A1)
【文献】G.J.Tanner et al.,Measuring Hordein (Gluten) in Beer - A comparison of ELISA and Mass Spectrometry,PLOS ONE,2013年02月,Vol.8, No.2,e56452
【文献】Journal of Cereal Science,vol.28,1998年,p.291-299
【文献】G.J.Tanner et al.,,Measuring Hordein (Gluten) in Beer - A comparison of ELISA and Mass Spectrometry,PLOS ONE,2013年02月,Vol.8, No.2,e56452
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12C
C12G
C12N
CAplus/BIOSIS/CABA/EMBASE/FSTA/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品若しくは麦芽ベースの飲料の成分、又は食品若しくは麦芽ベースの飲料を製造する方法であって、前記方法が、
(i)麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉を製造するために、50ppm以下のホルデインを含むオオムギ粒を処理すること、及び/又は
(ii)オオムギ粒若しくは前記穀粒から製造される麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉を、少なくとも1つの他の食品若しくは飲料の成分と混合すること
を含み、
前記オオムギ粒、麦芽、麦芽汁、粒粉又は全粒粉が、50ppm以下のホルデインを含み、それにより、前記食品若しくは麦芽ベースの飲料の成分、又は食品若しくは麦芽ベースの飲料を製造し、
- 前記穀粒が、B-ホルデインをコードする遺伝子のほとんど若しくは全てを欠失したHor2座位のアリルに対してホモ接合型であり、又は、前記穀粒から製造される麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉が、B-ホルデインをコードする遺伝子のほとんど若しくは全てを欠失したHor2座位の
前記アリルを含むDNAを含み、
- 前記穀粒が、Hor3座位におけるD-ホルデインをコードする遺伝子のヌルアリルに対してホモ接合型であり、又は、前記穀粒から製造される麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉が、D-ホルデインをコードする遺伝子の
前記ヌルアリルを含むDNAを含み、
- 前記穀粒が、前記穀粒がC-ホルデインを欠くように、Lys3座位におけるヌルアリルに対してホモ接合型である、
方法。
【請求項2】
前記穀粒が、約20ppm以下のホルデインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記穀粒が、以下の1つ又は複数又は全てを有する、請求項1又は2に記載の方法:
i)前記穀粒の平均重量が、35mg~60mgである、
ii)前記穀粒の少なくとも80%が、2.8mmのふるいを通過しない、
iii)前記穀粒が、少なくとも40%の収穫指数を有する植物由来である、
iv)前記穀粒が、5未満の、厚さに対する長さの比を有する、
v)前記穀粒が、対応する野生型オオムギ植物由来の穀粒と比較して、少なくとも60%の穀粒収量を有する植物由来である、
vi)前記穀粒の平均重量が、対応する野生型オオムギ植物由来の穀粒の少なくとも70%である、及び
vii)前記穀粒が、非トランスジェニック植物由来である。
【請求項4】
前記穀粒から製造される粒粉又は全粒粉が、10ppm以下のホルデインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記穀粒から製造される麦芽又は麦芽汁が、20ppm未満のホルデインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記穀粒又は前記穀粒から製造される麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉が、以下:
i)配列番号53として提供されるアミノ酸の配列を含むB-ホルデイン;
ii)配列番号54として提供されるアミノ酸の配列を含むB-ホルデイン;及び
iii)配列番号56として提供されるアミノ酸の配列を含むD-ホルデイン
の1つ又は複数又は全てを欠く、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記B-ホルデインが、少なくともB1-ホルデイン及びB3-ホルデインである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記穀粒又は前記穀粒から製造される麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉が、野生型のレベルの2%未満のレベルの:
i)配列番号57として提供されるアミノ酸の配列を含むγ-ホルデイン;及び/又は、
ii)配列番号52として提供されるアミノ酸の配列を含むアベニン様Aタンパク
質
をさらに有し、
前記2%未満のレベルは、オオムギ品種Bomi、Sloop、Baudin、Yagan、Hindmarsh又はCommanderの野生型オオムギ粒又は前記穀粒から製造される麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉に対するものである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
i)前記食品の成分若しくは麦芽ベースの飲料の成分が、粒粉、デンプン、麦芽若しくは麦芽汁であり、若しくは、前記食品
が、発酵した若しくは未発酵のパン、パスタ、麺類、朝食用シリアル、スナック食品、ケーキ、ペストリー若しくは小麦粉ベースのソースを含む食品である、又は
ii)前記麦芽ベースの飲料が、ビール若しくはウイスキーである、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
50ppm以下のホルデインを含む穀粒をもたらす、オオムギ植物であって、
- 前記穀粒が、B-ホルデインをコードする遺伝子のほとんど又は全てを欠失したHor2座位のアリルに対してホモ接合型であり、
- 前記穀粒が、Hor3座位におけるD-ホルデインをコードする遺伝子のヌルアリルに対してホモ接合型であり、及び
- 前記穀粒が、前記穀粒がC-ホルデインを欠くように、Lys3座位におけるヌルアリルに対してホモ接合型である、
オオムギ植物。
【請求項11】
前記穀粒が、請求項2~9に規定される特徴の1つ又は複数を含む、請求項10に記載のオオムギ植物。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のオオムギ植物の穀粒。
【請求項13】
オオムギ粒を製造する方法であって、前記方法が、
a)請求項10又は11に記載のオオムギ植物を生育させること;
b)前記穀粒を収穫すること;及び
c)任意で、前記穀粒を処理するこ
と
を含む、方法。
【請求項14】
粒粉、全粒粉、デンプン、麦芽、麦芽汁、又は穀粒から得られる他の製品を製造する方法であって、前記方法が、
a)請求項12に記載の穀粒を得ること;及び
b)前記粒粉、全粒粉、デンプン、麦芽、麦芽汁又は他の製品を製造するために、前記穀粒を処理するこ
と
を含む、方法。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法を使用して製造される、食品又は麦芽ベースの飲料であって、前記食品又は麦芽ベースの飲料が、
20ppm未満のホルデイン、並びにB-ホルデインをコードする遺伝子のほとんど又は全てを欠失したHor2座位の
前記アリル、Hor3座位におけるD-ホルデインをコードする遺伝子の
前記ヌルアリル、及びLys3座位における
前記ヌルアリルを含むオオムギDNAを含む、食品又は麦芽ベースの飲料。
【請求項16】
請求項12に記載の穀粒の1つ又は複数のオオムギ粒タンパク質及び0.9ppm未満のホルデインを含む、ビールであって、前記ビールが、
B-ホルデインをコードする遺伝子のほとんど又は全てを欠失したHor2座位の
前記アリル、Hor3座位におけるD-ホルデインをコードする遺伝子の
前記ヌルアリル、及びLys3座位における
前記ヌルアリルを含むオオムギDNAを含む、ビール。
【請求項17】
請求項12に記載の穀粒の1つ又は複数のオオムギ粒タンパク質及び10ppm未満のホルデインを含む、粒粉又は全粒粉であって、前記粒粉又は全粒粉が、
B-ホルデインをコードする遺伝子のほとんど又は全てを欠失したHor2座位の
前記アリル、Hor3座位におけるD-ホルデインをコードする遺伝子の
前記ヌルアリル、及びLys3座位における
前記ヌルアリルを含むオオムギDNAを含む、粒粉又は全粒粉。
【請求項18】
請求項12に記載の穀粒の1つ又は複数のオオムギ粒タンパク質及び50ppm未満のホルデインを含む、麦芽又は麦芽汁であって、前記麦芽又は麦芽汁が、
B-ホルデインをコードする遺伝子のほとんど又は全てを欠失したHor2座位の
前記アリル、Hor3座位におけるD-ホルデインをコードする遺伝子の
前記ヌルアリル、及びLys3座位における
前記ヌルアリルを含むオオムギDNAを含む、麦芽又は麦芽汁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリアック病の対象者が摂取するのに適した食品、または、麦芽ベースの飲料を製造する方法に関する。特に、本発明は、非常に低レベルのホルデインを有する食品、または、麦芽ベースの飲料を製造する方法にも関する。また、本発明の方法において使用することができる穀物を生産するオオムギ植物もまた、提供される。
【背景技術】
【0002】
セリアック病(CD)は、コムギ、オオムギ及びライムギなどの穀物からのプロラミンの消費により誘発されるT細胞媒介性の腸疾患である。CDの臨床症状は、疲労、下痢、腹部膨満、体重減少、貧血症及び神経障害を含む(Green et al.,2006)。CDは、腸がんリスクの10倍増加、非ホジキンリンパ腫リスクの3~6倍増加、及び、腸T-細胞リンパ腫リスクの28倍増加などの腸の悪性腫瘍の増加率(Green et al.,2009)、並びに、貧血、骨粗しょう症、神経障害の増加率、及び、糖尿病などの更なる自己免疫疾患の増加率(Skovbjerg et al.,2005)と関連する。最も多く研究されたプロラミン、α-グリアジンの場合、毒性は、主として、単一ペプチド中の単一グルタミンにより媒介され(Anderson et al.,2000;Shan et al.,2002)、それにより最終的に小腸絨毛が損傷し、栄養吸収が低減し、かつ健康に影響を与える破壊的な反応の連鎖が生じる。コムギ、オオムギ及びライムギからのすべての既知のプロラミンタンパク質に対するセリアック毒性エピトープは、現在、コムギ、オオムギ及びライムギによる短期間の食事誘発性の、HLA-DQ2+セリアック病患者の末梢血から分離された不偏性のT細胞集団を用いて、広範囲にマッピングされている(Tye-Din et al.,2010)。驚くべきことに、α-グリアジン(ELQPFPQPELPYPQPQ、配列番号:1)、ω-グリアジン/C-ホルデイン(EQPFPQPEQPFPWQP、配列番号:2)、及び、B-ホルデイン(EPEQPIPEQPQPYPQQ、配列番号:3)から誘導される3つの高い免疫原性を有するペプチドのみで、コムギ、オオムギ及びライムギタンパク質の完全な補体で誘発されるセリアック特異性応答の90%を占める可能性がある。
【0003】
CDのための現在の唯一の治療は、食事から、コムギ(グリアジン、グルテニン)、ライムギ(セカリン)、オオムギ(ホルデイン)、及びオートムギ(アベニン)で見出される類似のタンパク質のファミリーより成るグルテンを生涯に亘って回避することである。しかし、そのような食事は、高価であり(Lee et al.,2007)、そして、低繊維かつ高い糖質摂取量に付随して(Kupper et al.,2005; Wild et al.,2010;Ohlund et al.,2010)、健康上のリスクがある。食事からグルテンを回避することは、大半のセリアック病患者の保健統計の正規化につながるが、全てではない(Lanzini et al.,2009;Rubio-Tapia et al.,2010)。全世界人口の約1%がセリアック病を患っているが、最大で50%の成人が、診断されないままか、または、明白な症状が見られない(Catassi et al.,1994;Fowell et al.,2006)。
【0004】
コムギ連(triciceae)穀粒の種子タンパク質における主要ファミリーとしては、アルブミン、グロブリン、及び、プロラミンと総称されるグルテン様タンパク質がある(Shewry、及び、Tatham,1990)。アルブミン及びグロブリンは、広く顕花植物間に分布しているが、プロラミンは、特に、イチゴツナギ亜科(Pooideae)の草に制限されている(Hausch et al.,2002)。アミノ酸のプロリン及びグルタミンを、高い割合で含むため、そのように命名されたプロラミンは、消化の間、タンパク質分解に抵抗性をもつ(Hausch et al.,2002)。α-グリアジン遺伝子は、クローニングされた最初のプロラミン遺伝子であり、そして、セリアック病におけるこのタンパク質の役割について、現在、多くのことが知られている(Kasarda et al.,1984)。このプロラミンの毒性は、主要なアミノ酸であるグルタミン残基Q65を有する、単一タンパク質:57-QLQPFPQPQLPYPQPQS-73(配列番号:4)に集中している。この単一のグルタミンの、例えば、リシンへの変異により、このプロラミンのセリアック病の毒性が消滅する(Anderson et al.,2000)。部分的に加水分解されたペプチドは、上皮を横断し、そして、未知のメカニズムにより、粘膜固有層に接近し、ここで、Q65は、組織トランスグルタミナーゼ(tTG)により、E65(グルタミン酸)に脱アミド化され、ペプチドの免疫刺激の可能性を上昇させる(Skovbjerg et al.,2004)。負電荷は、抗原提示細胞の表面の受容体DQ2(あまり一般的ではないが、DQ8)へのペプチド結合を容易にし、腸を標的とする特定のグルテンに特異的で、DQ2限定の、CD4+T細胞へのペプチドの提示を可能にする。かくして活性化されたあと、CD4-T細胞は、クローン増殖を経て、わらにセリアック病に特徴的な、抗TG2及び抗グルテン抗体を最終的に産生するグルテン特異的、及び、TG2-特異的なB細胞の増殖を支える。細胞媒介性Th1の応答は、また、炎症性サイトカインの分泌を介して発生する(Tjon et al.,2010)。その結果、負に帯電した単一残基の導入で促進される単一のタンパク質の相互作用により、最終的に、腸絨毛の破壊につながる、一連の特定かつ標的となるカスケードが開始される。
【0005】
オオムギ(Hordeum vulgare L.)は、醸造や食品産業のための麦芽を製造するために使用される広く栽培される穀粒である。オオムギ麦芽は、発酵のための炭水化物源を供給するビールの主原料である。セリアック病患者には残念ながら、オオムギのビールにも、低レベルであるが、セリアック病毒性レベルのホルデイン(グルテン)が含まれている(Dostalek et al.,2006)。ホルデインはオオオムギ粒タンパク質の半分を占め(Moravcova et al.,2009)、そして、4種の多重遺伝子ファミリーで構成され、B-ホルデイン(30~45kDa;ホルデイン含量の70%)、及び、C-ホルデイン(45~75kDa;ホルデイン含量の20%)が穀物のホルデインの大部分を占める一方、D-(105kDa)、及び、γ-ホルデイン(35~40kDa)は、微量成分である(Shewry et al.,1999)。ソルガム麦芽、キビ、ソバは、ビール製造のグルテンフリー代替品として使用されている(Wijngaard et al.,2007)が、これらの穀粒で大麦ビールの品質及び低コスト製造を再現することは困難である。
【0006】
2008年にコーデックス委員会で採択されたグルテンフリー食品のWHOの標準的な定義は、コムギ及びオオムギなどの穀粒から製造される食品は、「グルテンフリー」と表示されるためには、グルテン含量が20mg/kg未満(20ppm)でなければならない。質量分析法を用いて、食品及び飲料のグルテン含有量を評価するための精度の高い定量法が、Colgraveらにより報告された(2012)。
【0007】
WO2009/021285は、特に、ホルデインB及びCにおいて、野生型レベルの10%未満にホルデイン含量を低下させたオオオムギ粒の作製について記載している。しかし、CDを患う人々が飲食できる食品及び飲料の製造のための非常に低レベルのホルデインを有する穀粒の必要性は、依然として存在する。
従って、CDになり易い対象者の食料及び飲料製品に使用することができ、CDを誘導するホルデインが実質的に低レベルであるオオムギが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Green et al.,2006
【文献】Green et al.,2009
【文献】Skovbjerg et al.,2005
【文献】Anderson et al.,2000
【文献】Shan et al.,2002
【文献】Tye-Din et al.,2010
【文献】Lee et al.,2007
【文献】Kupper et al.,2005
【文献】Wild et al.,2010
【文献】Ohlund et al.,2010
【文献】Lanzini et al.,2009
【文献】Rubio-Tapia et al.,2010
【文献】Catassi et al.,1994
【文献】Fowell et al.,2006
【文献】Shewry、及び、Tatham,1990
【文献】Hausch et al.,2002
【文献】Hausch et al.,2002
【文献】Kasarda et al.,1984
【文献】Anderson et al.,2000
【文献】Skovbjerg et al.,2004
【文献】Tjon et al.,2010
【文献】Dostalek et al.,2006
【文献】Moravcova et al.,2009
【文献】Shewry et al.,1999
【文献】Wijngaard et al.,2007
【文献】Colgraveら,2012
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、非常に低レベルのホルデインを有するオオオムギ粒を生産している。この穀粒は、セリアック病を患う対象者が消費できる多種多様な食品及び麦芽ベース飲料の製造のために使用することができる。
第一の態様において、本発明は、食品若しくは麦芽ベースの飲料成分、または、食品若しくは麦芽ベースの飲料を製造する方法を提供し、該方法は、(i)麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉を製造するためにオオオムギ粒を生産し、及び/または、(ii)オオオムギ粒、または、麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉を少なくとも1つの他の食品または飲料成分と混合することを含み、ここに、オオオムギ粒、麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉は、約50ppm以下のホルデインを含み、それにより、食品または麦芽ベースの飲料成分、食品または麦芽ベースの飲料を製造する。
【0011】
別の態様において、本発明は、食品若しくは麦芽ベースの飲料成分、または、食品若しくは麦芽ベースの飲料を製造する方法を提供し、方法は、(i)麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒紛を生成するために、約50ppm以下のホルデインを含むオオムギ粒を加工すること、及び/または、(ii)オオムギ粒、または、該穀粒から製造される麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉を、少なくとも1つの他の食品若しくは飲料成分と混合することを含む方法を提供し、ここで、オオムギ粒、麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉が約50ppm以下のホルデインを含み、それにより、食品若しくは麦芽ベースの飲料成分、または食品若しくは麦芽ベースの飲料を製造する。
【0012】
一実施形態において、穀粒、麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉は、約20ppm以下、約10ppm以下、約5ppm以下、約0.05ppm~約50ppm、若しくは、約0.05ppm~約20ppm、約0.05ppm~約10ppm、約0.05ppm~約5ppm、約0.1ppm~約5ppm、約3.9ppm、または、約1.5ppmのホルデインを含む。
【0013】
別の実施形態において、穀粒の平均重量は、少なくとも約35mg、少なくとも約39mg、少なくとも約41mg、少なくとも約47mg、約35mg~約60mg、約40mg~約60mg、約45mg~約60mg、約39.1mg、約41.8mg、若しくは、約47.2mgである。
【0014】
更なる実施形態において、穀粒、麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉は、20ppm以下のホルデインを含み、穀粒の平均重量は、約40mg~約60mgである。別の実施形態において、穀粒、麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉は、20ppm以下のホルデインを含み、穀粒の平均重量は、約45mg~約60mgである。これらの組み合わせの具体的な言及は、これらの特徴の他の組み合わせを排除しない。
【0015】
更なる実施形態において、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、約80%~約98%、若しくは、約80%~約93%の穀粒は、2.8mmのふるいを通過しない。
【0016】
更なる実施形態において、穀粒、麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉は、20ppm以下のホルデインを含み、穀粒の平均重量は、約40mg~約60mgであり、穀粒の少なくとも約80%が、2.8mmのふるいを通過しない。別の実施形態において、穀粒、麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉は、20ppm以下のホルデインを含み、穀粒の平均重量は、約45mg~約60mgであり、及び、穀粒の少なくとも約80%が、2.8mmのふるいを通過しない。これらの組み合わせの具体的な言及は、これらの特徴の他の組み合わせを排除しない。
【0017】
尚、更なる実施形態において、穀粒は、少なくとも40%、約40%~約60%、約40%~約55%、若しくは、約40%~約50%の収穫指数を有する植物からのものである。好ましい実施形態において、穀粒は、約40%~約50%の収穫指数を有する植物からのものである。
【0018】
別の実施形態において、穀粒は、厚さに対する長さの比が約5未満、約4未満、約3.8未満、約2~約5、若しくは、約2.5~約3.8である。
【0019】
更なる実施形態において、穀粒から製造された粒粉若しくは全粒粉は、約10ppm以下、約5ppm以下、約0.05ppm~約10ppm、若しくは、約0.05ppm~約5ppm、約3.9ppm、若しくは、約1.5ppmのホルデインを含む。
【0020】
一実施形態において、穀粒から製造された麦芽、麦芽汁は、約50ppm未満、若しくは、約20ppm未満のホルデインを含む。
【0021】
更なる実施形態において、穀粒、または、該穀粒から製造される、麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉は、10%未満、5%未満、若しくは、2%未満レベルの野生型を有し、または:
i)配列番号:53として提供されるアミノ酸配列を含むB-ホルデイン;
ii)配列番号:54として提供されるアミノ酸配列を含むB-ホルデイン;
iii)配列番号:55として提供されるアミノ酸配列を含むC-ホルデイン;及び
iv)配列番号:56として提供されるアミノ酸配列を含むD-ホルデイン:
の内の1つ、若しくは1つより多くの、若しくは、それら全てを欠き、ここに、10%未満、5%未満若しくは2%未満の各々のレベルは、野生型のオオオムギ粒、または、オオムギ品種のBomi、Sloop、Baudin、Yagan、Hindmarsh、または、Commanderの該穀粒から製造された麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉に対してである。
【0022】
一実施形態において、B-ホルデインは、少なくともB1-ホルデイン(例えば、配列番号:78として提供されるアミノ酸配列を含む)、及び、B3-ホルデイン(例えば、配列番号:79として提供されるアミノ酸配列を含む)である。更なる例において、C-ホルデインは、配列番号:80として提供されるアミノ酸配列を含む。尚、別の例において、D-ホルデインは、配列番号:76として提供されるアミノ酸配列を含む。
【0023】
一実施形態において、穀粒、または、該穀粒から製造される麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉は、更に、10%未満、5%未満、若しくは、2%未満レベルの野生型を含み、または、更に:
i)配列番号:57として提供されるアミノ酸配列を含むγ-ホルデイン;及び/または、
ii)配列番号:52として提供されるアミノ酸配列を含むアベニン様Aタンパク質;
を欠き、ここに、10%未満、5%未満、若しくは、2%未満の各々のレベルは、野生型のオオオムギ粒、または、オオムギ品種のBomi、Sloop、Baudin、Yagan、Hindmarsh、またはCommanderの該穀粒から製造された、麦芽、麦芽汁、粒粉若しくは全粒粉に対してである。例において、γ-ホルデインは、配列番号:81として提供されるアミノ酸配列を含む。尚、別の例において、アベニン様Aタンパク質は、配列番号:84として提供されるアミノ酸配列を含む。
【0024】
好ましくは、上記の実施形態において、γ-ホルデインは、γ1-ホルデイン、及びγ2-ホルデインである。
【0025】
一実施形態において、穀粒は、Bホルデインをコードする遺伝子の大半または全てが削除されるHor2座位のアリルに対してはホモ接合型であり、または、ここに、麦芽、麦芽汁、粒粉、若しくは、該穀粒から製造される全粒粉は、Bホルデインをコードする遺伝子の大半または全てが排除されるHor2座位のアリルを含むDNAを含有する。
【0026】
別の実施形態において、穀粒は、Hor3座位におけるD-ホルデインをコードする遺伝子のヌルアリルに対してホモ接合型であり、または、ここに、該穀粒から製造される麦芽、麦芽汁、粒粉、若しくは、全粒粉は、D-ホルデインをコードする遺伝子のヌルアリルを含むDNAを含有し、ヌルアリルは、好ましくは、終止コドン、スプライス部位突然変異、フレームシフト突然変異、挿入、欠失を含むか、または短縮型のD-ホルデインをコードし、または、D-ホルデインをコードする遺伝子の大半、または全てが欠失する。
【0027】
更なる実施形態において、短縮型D-ホルデインは、アミノ酸配列番号150をコードするトリプレットにおいて終止コドンを有する。
【0028】
別の実施形態において、穀粒は、C-ホルデインを欠く穀粒をもたらすオオムギのLys3座位のアリルに対してホモ接合型であり、または、ここで該穀粒から製造された麦芽、麦芽汁、粒粉、または、全粒粉は、Lys3座位においてアリルを含むDNAを含有する。
【0029】
更なる実施形態において、穀粒、麦芽、麦芽汁、粒粉、若しくは、全粒粉は、対応する野生型のオオムギ植物、または、対応する野生型のオオムギ植物からの穀粒から同一手法で製造した、麦芽、麦芽汁、粒粉、若しくは、全粒粉と比較したとき、約1%以下、約0.01%以下、約0.007%以下、約0.0027%以下、約0.001%~約1%、約0.001%~約0.01%、約0.007%、若しくは、約0.0027%のホルデインを含む。
【0030】
尚、別の実施形態において、穀粒は、野生型オオムギ植物の穀粒収量の少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%、約60%~100%、約70%~100%、約80%~100%、約60%、約70%、約80%若しくは約90%を有する植物からのものである。
【0031】
別の実施形態において、穀粒の平均重量は、野生型オオムギ植物穀粒の、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、若しくは、約100%である。
【0032】
尚、更なる実施形態において、穀粒、または、該穀粒から製造された麦芽、麦芽汁、粒粉、若しくは、全粒粉は、対応する野生型オオムギ植物と比較したとき、約10%以下、約5%以下、約2%以下、約0.1%~約10%、若しくは、約0.1%~約10%の1つ、または、1つ若しくはそれ以上の、または、全ての以下のもの:
i)配列番号:53として提供されるアミノ酸配列を含むB-ホルデイン;
ii)配列番号:54として提供されるアミノ酸配列を含むB-ホルデイン;
iii)配列番号:55として提供されるアミノ酸配列を含むC-ホルデイン;及び
iv)配列番号:56として提供されるアミノ酸配列を含むD-ホルデイン;
を含む。
【0033】
別の実施形態において、穀粒、または、該穀粒から製造された麦芽、麦芽汁、粒粉、若しくは、全粒粉は、更に、対応する野生型オオムギ植物と比較したとき、約10%以下、約5%以下、約1%以下、約0.1%~約10%、若しくは、約0.1%~約10%の以下のもの:
i)配列番号:57として提供されるアミノ酸配列を含むγ-ホルデイン;及び/または、
ii)配列番号:52として提供されるアミノ酸配列を含むアベニン様Aタンパク質;
を含む。
【0034】
別の実施形態において、穀粒、または、該穀粒から製造された麦芽、麦芽汁、粒粉、若しくは、全粒粉は、更に、対応する野生型オオムギ植物における量と比較したとき、約60%以下の量のγ3-ホルデインを含み、γ3-ホルデインは、その配列が配列番号:83として提供されるアミノ酸をはじめ、その配列が配列番号:58として提供されるアミノ酸を含む。
【0035】
野生型オオムギ植物の例としては、Bomi、Sloop、Baudin、Yagan、Hindmarsh、またはCommanderを含むが、それに限定されない。
【0036】
別の実施形態において、穀粒のデンプン含量は、少なくとも約50%(w/w)である。より好ましくは、穀粒のデンプン含量は、約50%~約70%(w/w)である。
【0037】
更なる実施形態において、穀粒から製造された粒粉のセリアック病毒性は、対応する野生型オオムギ植物の穀粒から製造された粒粉の約5%未満、若しくは、約1%未満である。
【0038】
更なる実施形態において、平均粒重は:
i)大半または全てのB-ホルデインをコードする遺伝子を欠失したHor2座位のアリルに対してホモ接合型であり;
ii)C-ホルデインを欠く穀粒をもたらすオオムギのLys3座位のアリルに対してホモ接合型であり;及び
iii)D-ホルデインをコードする全長タンパク質の野生型アリルに対してホモ接合型である;
穀粒よりも、少なくとも1.05倍、少なくとも1.1倍、若しくは、1.05~1.3倍大きい。
【0039】
尚、更なる実施形態において、穀粒は:
i)B-ホルデインをコードする遺伝子の大半または全てを除去したHor2座位のアリルに対してホモ接合型であり、;
ii)C-ホルデインを欠く穀粒をもたらすオオムギのLys3座位のアリルに対してホモ接合型であり;、及び
iii)D-ホルデイン全長タンパク質をコードする野生型のアリルに対してホモ接合型である;植物からの穀粒収量より、少なくとも1.20倍、若しくは、少なくとも1.35倍、若しくは、1.2~1.5倍、若しくは、1.2~2.0倍高い穀粒収量を有する植物からのものである。
【0040】
例えば、2つの上記実施形態に関して、i)~iii)で定義された特徴を有する穀粒は、WO2009/021285で記載されたG1*粒であり得る。
【0041】
別の実施形態において、オオムギ粒のゲノムの少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、若しくは、少なくとも約95%は、Sloop、Hindmarsh、Oxford、またはMaratimeなどのオオムギ野生型栽培種のゲノムと同一であるが、しかしそれに限定されない。
【0042】
一実施形態において、穀粒は、非トランスジェニック植物からのものである。
【0043】
更なる実施形態において、穀粒は、トランスジェニック植物からのものである。
【0044】
更なる実施形態において、植物は、穀粒中に少なくとも1つのホルデインの生成を下方制御するポリヌクレオチドをコードする導入遺伝子を含む。好ましくは、この実施形態のポリヌクレオチドは、アンチセンスポリヌクレオチド、センスポリヌクレオチド、触媒性ポリヌクレオチド、人工マイクロRNA、または、ホルデインをコードする1つまたは好ましくはそれ以上の遺伝子の発現を下方制御する二本鎖RNA分子である。
【0045】
別の実施形態において、この方法は、穀粒からの粒粉若しくは全粒粉を製造することを含む。
【0046】
更なる実施形態において、方法は、穀粒からの麦芽を製造することを含む。
【0047】
一実施形態において、麦芽ベースの飲料はビールであり、方法は、穀粒の発芽及びそれらに由来する穀粒の粉砕からなる。実施形態において、方法は、更に、乾燥した発芽穀粒を、2つ若しくはそれ以上の、胚乳画分、内皮層画分、穀皮画分、幼芽鞘画分及び麦芽根画分に分別すること;並びに、2つ若しくはそれ以上の画分の所定量を組合せること、及び、混合することを含む。
【0048】
一実施形態において、穀粒の少なくとも約50%が、吸水後3日以内に発芽する。
【0049】
更なる実施形態において、食品成分または麦芽ベースの飲料成分は、粒粉、デンプン、麦芽若しくは麦芽汁であり、または、ここで食品は、発酵パン、または、無発酵パン、パスタ、麺類、朝食用シリアル、スナック食品、ケーキ、ペストリー、若しくは、粉ベースのソースを含む食品である。
【0050】
一実施形態において、麦芽ベースの飲料はビールまたはウイスキーである。
【0051】
一実施形態において、食品または麦芽ベースの飲料は、ヒトの飲食用である。
【0052】
更なる実施形態において、食品または飲料を飲食後、セリアック病の少なくとも1つの症状が、該疾患を患う対象者で現れない。
【0053】
別の態様において、本発明は、約50ppm以下のホルデインを含む穀粒を製造するオオムギ植物を提供する。
【0054】
本発明のオオムギ植物の穀粒もまた提供される。
【0055】
本発明の穀粒、及び/または、本発明のオオムギ植物の穀粒は、上記で定義した1つ若しくはそれ以上の特徴を有してもよい。
【0056】
一実施形態において、オオオムギ粒は、本発明のオオムギ植物を生産することが可能である。
【0057】
一実施形態において、穀粒は、発芽することができないように処理される。
【0058】
一実施形態において、穀粒は外皮がない。
【0059】
別の態様において、本発明は、オオムギ粒を製造する方法を提供し、該方法は:
a)本発明のオオムギ植物を発育させ;
b)穀粒を収穫し;及び
c)任意に穀粒を製造する;
ことを含む。
【0060】
一実施形態において、この方法は、少なくとも1ヘクタールの面積の農地に、少なくとも10,000本の植物を発育させることを含む。
【0061】
別の態様において、本発明は、粒粉、全粒粉、デンプン、麦芽、麦芽汁、または、穀粒から得られる他の製品を製造する方法を提供し、前記方法は:
a)本発明の穀粒を得ること;及び
b)粒粉、全粒粉、デンプン、麦芽、麦芽汁または他の製品を製造するために穀粒を加工すること;
を含む。
【0062】
また、本発明のオオムギ植物、または、本発明の穀粒から製造される製品を提供する。
【0063】
一実施形態において、製品は、食品成分、麦芽ベースの飲料成分、食品または麦芽ベースの飲料製品である。
【0064】
一実施形態において、麦芽ベースの飲料製品は、ビールまたはウイスキーである。
【0065】
更なる実施形態において、製品は非食品である。例としては、フィルム、コーティング剤、接着剤、建材及び包装材が挙げられるが、それに限定されない。
【0066】
また、本発明の方法を用いて製造される食品または麦芽ベースの飲料も提供される。
【0067】
別の態様において、1つ若しくはそれ以上のオオオムギ粒タンパク質、及び、0.9ppm未満のホルデインを含むビールが提供される。
【0068】
実施形態において、ビールは、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、若しくは、少なくとも約5%のエタノールを含む。
【0069】
別の態様において、本発明は、1つ若しくはそれ以上のオオオムギ粒タンパク質、及び、約50ppm未満、若しくは、約20ppm未満のホルデインを含む、粒粉若しくは全粒粉を提供する。
【0070】
別の態様において、本発明は、1つ若しくはそれ以上のオオオムギ粒タンパク質、及び、約50ppm未満、若しくは、約20ppm未満のホルデインを含む、麦芽、または、麦芽汁を提供する。
【0071】
更なる態様において、本発明は、短縮型D-ホルデインをコードするオオムギのD-ホルデイン遺伝子のアリルを同定する方法を提供し、方法は:
i)オオムギ植物から核酸を含むサンプルを得ること;及び
ii)D-ホルデインをコードするオープンリーディングフレームの450位におけるグアニン残基の有無についてサンプルを分析すること;
を含み、ここで、グアニンの存在は、D-ホルデイン遺伝子が短縮型D-ホルデインをコードすることを示す。
【0072】
実施形態において、工程b)は、プライマー:GGCAATACGAGCAGCAAAC(配列番号:66)及び、CCTCTGTCCTGGTTGTTGTC(配列番号:67)、または、その内の1つ、若しくは、両方の多様体を用いてゲノムDNAを増幅すること、及び、制限酵素KpnIと増幅産物を接触させることを含み、ここで開裂の非存在は、D-ホルデイン遺伝子が短縮型D-ホルデインをコードすることを示す。
【0073】
更なる態様において、本発明は、対象者においてセリアック病を回避する、または、重症度を低減する方法を提供し、上述の方法は、本発明の食品若しくは麦芽ベースの飲料、または、本発明の穀粒を対象者に投与することを含み、ここで、セリアック病の発症率または重症度の低減は、対象者が、野生型のオオオムギ粒から作られた、対応する食品または麦芽ベース飲料を同量経口投与された場合に対する。
【0074】
また、対象者がセリアック病の発症の回避及び重症度の低減のために経口摂取する食品または飲料の製造に、本発明の食品若しくは麦芽ベース飲料、または本発明の穀粒の使用が提供される。
【0075】
更なる態様において、本発明は:
a)1つ若しくはそれ以上の下記の材料を得ること;
i)該穀粒を製造可能にする植物からの試料;
ii)穀粒;
iii)穀粒から製造される麦芽;及び/または、
iv)該穀粒の抽出物;
b)工程a)からの材料のB、C及びD-ホルデイン由来の、B、C及びD-ホルデインペプチドのレベル、及び/または、B、C及びD-ホルデイン遺伝子のアリルを分析すること;
c)セリアック病を患う対象者が飲食する食品及び/または麦芽ベース飲料製造のために、約50ppm以下のホルデインを含む穀粒を選択すること;
を含む、セリアック病を患う対象者による消費のための食品、及び/または、麦芽ベース飲料を製造するために使用することができるオオオムギ粒を同定するための方法を提供する。
【0076】
実施形態において、工程a)からの材料は、ゲノムDNAを含み、そして、工程b)は:
i)配列番号:53として提供されるアミノ酸の配列を含むB-ホルデイン;
ii)配列番号:54として提供されるアミノ酸の配列を含むB-ホルデイン;
iii)配列番号:55として提供されるアミノ酸の配列を含むC-ホルデイン;及び
iv)配列番号:56として提供されるアミノ酸の配列を含むD-ホルデイン;
の内、1つ若しくはそれ以上、若しくは全てをコードする遺伝子のアリルの不在または存在を同定することを含み、ここで、アリルの不在は、約50ppm以下のホルデインを含む穀粒と同定される。
【0077】
本明細書におけるいずれかの実施形態は、特に指示のない限り、他の実施形態に準用されるべきである。
【0078】
本発明は、例示の目的のみを意図した、本明細書に記載の特定の実施形態により範囲を限定されるものではない。本明細書に記載の通り、機能的に等価な製品、組成物及び方法は、本発明の範囲内に明示されている。
【0079】
本明細書を通して、特に指示のない限り、または、文脈上他の意味に解釈される場合を除き、単一工程、材料の組成物、工程のグループ、または、材料の組成物のグループへの言及は、1つ及び複数(即ち、1つ若しくはそれ以上)のこれらの工程、材料の組成物、工程のグループまたは材料の組成物のグループを包含すると解釈すべきである。
【0080】
本発明は、以下の非限定的な実施例により、及び、添付の図面を参照して、下記で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図2】ビール中の相対的なホルデインの定量結果を表す。選択されたペプチドのピーク面積は、ビール中で検出された最も多いホルデイン、または、関連ポリペプチドを表す。(A)QQCCQPLAQISEQAR(配列番号:5)は、アベニン様Aタンパク質を表し;(B)VFLQQQCSPVR(配列番号:53)は、B1-ホルデインを表し; (C)VFLQQQCSPVPMPQR(配列番号:54)は、B3-ホルデインを表し; (D)ELQESSLEACR(配列番号:56)は、D-ホルデインを表し; 及び(E)QQCCQQLANINEQSR(配列番号:58)は、γ-ホルデイン-3を表す。これらの代表的なペプチドは、野生型(Sloop)、並びに、Ris
φ56及びRis
φ1508からそれぞれ作られた、2つのホルデイン欠失ビール、及び60の市販ビールの、主要なホルデインタンパク質の相対量を示すために使用された。グルテンフリーのビール17、47、49~52、54で見られる小ピーク面積は、低レべルの信号ノイズに起因し、ホルデイン検出に起因するものではない。
【
図3】Sloop(野生型)及びEthiopia R118(ヌル型)のD-ホルデインアミノ酸配列の比較を示す。
【
図4-1】Sloop(野生型)及びEthiopia R118(ヌル型)からのD-ホルデインアミノ酸及び翻訳領域のヌクレオチド配列の比較を示す。各アリルの検出のためのプライマーの位置は、野生型配列中にのみ存在するKpn1切断部位に沿って示される。
【
図4-2】Sloop(野生型)及びEthiopia R118(ヌル型)からのD-ホルデインアミノ酸及び翻訳領域のヌクレオチド配列の比較を示す。各アリルの検出のためのプライマーの位置は、野生型配列中にのみ存在するKpn1切断部位に沿って示される。
【
図4-3】Sloop(野生型)及びEthiopia R118(ヌル型)からのD-ホルデインアミノ酸及び翻訳領域のヌクレオチド配列の比較を示す。各アリルの検出のためのプライマーの位置は、野生型配列中にのみ存在するKpn1切断部位に沿って示される。
【
図4-4】Sloop(野生型)及びEthiopia R118(ヌル型)からのD-ホルデインアミノ酸及び翻訳領域のヌクレオチド配列の比較を示す。各アリルの検出のためのプライマーの位置は、野生型配列中にのみ存在するKpn1切断部位に沿って示される。
【
図5】ピーク面積でのMRM MSによるULG3.0系統のホルデイン含量の定量、及びSloop(100%)のピーク面積に対する百分率を示す。
【
図6】ピーク面積でのMRM MSによるULG3.0系統のホルデイン含量の定量、及びSloop(100%)のピーク面積に対する百分率を示す。
【
図7】定義されたペプチドに対するピーク面積でのMRM MSによるULG3.0ビールのホルデイン含量の定量を示す。ピーク面積は、Sloop(100%)に対する百分率として示される。
【
図8-1】野生型品種Sloop、Baudin、Commander、及び、Hindmarshと比較した、ULG3.0(T2-4-8)、及び、ULG3.2候補系統からの粒粉におけるMRM MSによるホルデイン、及び、ホルデイン様タンパク質の定量を示す。各グラフは、各ホルデインファミリ-からの代表的なペプチドの合計ピーク面積(3つのMRM遷移)に対する平均値+/-SDを示す。各々のケースにおいて、ペプチド(グラフに記載された配列)は、アベニン様Aタンパク質、B1-、B3-、C-、D-、γ1-、または、γ3-ホルデインを図示する。Uniprotアクセッション番号は、凡例に示されている(例えば、第一の例に対してF2EGD5)。
【
図8-2】野生型品種Sloop、Baudin、Commander、及び、Hindmarshと比較した、ULG3.0(T2-4-8)、及び、ULG3.2候補系統からの粒粉におけるMRM MSによるホルデイン、及び、ホルデイン様タンパク質の定量を示す。各グラフは、各ホルデインファミリ-からの代表的なペプチドの合計ピーク面積(3つのMRM遷移)に対する平均値+/-SDを示す。各々のケースにおいて、ペプチド(グラフに記載された配列)は、アベニン様Aタンパク質、B1-、B3-、C-、D-、γ1-、または、γ3-ホルデインを図示する。Uniprotアクセッション番号は、凡例に示されている(例えば、第一の例に対してF2EGD5)。
【
図8-3】野生型品種Sloop、Baudin、Commander、及び、Hindmarshと比較した、ULG3.0(T2-4-8)、及び、ULG3.2候補系統からの粒粉におけるMRM MSによるホルデイン、及び、ホルデイン様タンパク質の定量を示す。各グラフは、各ホルデインファミリ-からの代表的なペプチドの合計ピーク面積(3つのMRM遷移)に対する平均値+/-SDを示す。各々のケースにおいて、ペプチド(グラフに記載された配列)は、アベニン様Aタンパク質、B1-、B3-、C-、D-、γ1-、または、γ3-ホルデインを図示する。Uniprotアクセッション番号は、凡例に示されている(例えば、第一の例に対してF2EGD5)。
【
図8-4】野生型品種Sloop、Baudin、Commander、及び、Hindmarshと比較した、ULG3.0(T2-4-8)、及び、ULG3.2候補系統からの粒粉におけるMRM MSによるホルデイン、及び、ホルデイン様タンパク質の定量を示す。各グラフは、各ホルデインファミリ-からの代表的なペプチドの合計ピーク面積(3つのMRM遷移)に対する平均値+/-SDを示す。各々のケースにおいて、ペプチド(グラフに記載された配列)は、アベニン様Aタンパク質、B1-、B3-、C-、D-、γ1-、または、γ3-ホルデインを図示する。Uniprotアクセッション番号は、凡例に示されている(例えば、第一の例に対してF2EGD5)。
【0082】
主要な配列リスト
配列番号:1及び4-コムギα-グリアジンペプチド;
配列番号:2、3、6~11、16~59、及び85-オオムギホルデインペプチド:
配列番号:5-コムギアベニン様Aペプチド;
配列番号12~15-ライムギプロラミンペプチド;
配列番号60~71-オリゴヌクレオチドプライマー;
配列番号:72-オオムギ品種Sloop D-ホルデインをコードするゲノム領域;
配列番号:73-オオムギ品種Ethiopia R118、D-ホルデイン(ヌル型)をコードするゲノム領域;
配列番号:74-オオムギ品種Sloop D-ホルデイン;
配列番号:75-オオムギ品種Ethiopia R1118 D-ホルデイン;
配列番号:76- オオムギ品種Sloop D-ホルデインをコードするオープンリーディングフレーム;
配列番号:77-オオムギ品種Ethiopia R118 D-ホルデインをコードするオープンリーディングフレーム;
配列番号:78-野生型オオムギ、B1-ホルデインの例(アクセッション番号:Q40020);
配列番号:79-野生型オオムギ、B3-ホルデインの例(アクセッション番号:Q4G3S1);
配列番号:80-野生型オオムギ、C-ホルデインの例(アクセッション番号:Q40055);
配列番号:81-野生型オオムギ、γ1-ホルデインの例(アクセッション番号:P17990);
配列番号:82-野生型オオムギ、γ2-ホルデインの例(アクセッション番号:Q70IB4);
配列番号:83-野生型オオムギ、γ3-ホルデインの例(アクセッション番号:P80198);
配列番号:84-野生型オオムギ、アベニン様Aタンパク質の例(アクセッション番号:F2EGD5);
【発明を実施するための形態】
【0083】
一般技術及び定義:
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての専門用語及び科学用語は、当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有すると解釈すべきである(例えば、植物育種、食品製造技術、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、タンパク質化学及び生化学において)。
【0084】
特に指示しない限り、本発明で利用される、組換えタンパク質、細胞培養及び免疫学的手法は、当業者に公知の標準的な手法である。その様な技術は:J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984),J.Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989),T.A. Brown(編者),Essential Molecular Biology:A Practical Approach, Volumes 1及び2, IRL Press (1991),D.M.Glover and B.D.Hames(編者),DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press(1995及び1996),及びF.M.Ausubel et al.(編者),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988,現在までのすべての改訂を含む),Ed Harlow and David Lane(編者)Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory,(1988),及びJ.E. Coligan et al.(編者)Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons(現在までのすべての改訂を含む)などの文献を通して、記載及び説明される。
【0085】
本明細書で使用される、用語「オオムギ」は、他の種との交雑により生成されるその祖先、並びに、その子孫を含め、オオムギ属(Genus Hordeum)の任意の種を指す。大麦の好ましい形態は、オオムギ(Hordeum vulgare)種である。現在世界で商業的に栽培されているオオムギの大半の品種の穀粒は、外穎(outer lemma)と内花穎(inner palea)であるいわゆる籾殻は、成熟期に果皮の表皮に接合される(脱殻した)穎果(caryopses)を包含する。殻なし、または、ハダカムギと呼ばれている他の品種は、脱穀フリーであり、籾殻は、容易に、脱穀工程で除去される。脱穀したオオムギ粒は、醸造業及び動物飼料に好ましいが、脱穀粒は、精麦後も使用することができ、ハダカムギはヒトの消費にとって好ましいものである。殻なしの穀粒形質は、染色体7Hの長腕上に位置する単一の、劣性遺伝子として指定されるnudにより制御される(Kikuchi et al.,2003)。
【0086】
セリアック(CoeliacまたはCeliac)病は、早期乳児期の後、すべての年齢層において、遺伝的素因を有する個体で発生する小腸の自己免疫疾患である。それは、大幅に過小診断されているが、インド・ヨーロッパ系民族の約1%に影響を与えている。セリアック病は、グリアジン、小麦で見出されたグルテンタンパク質(及び、オオムギ、ライムギなどの他の品種を含むTriticeae連の類似タンパク質)により引き起こされる。グリアジンに曝露されるとき、酵素の組織トランスグルタミナーゼは、タンパク質を改変し、免疫系は腸組織と交差反応し、炎症反応を引き起こす。これは、小腸の内膜の平坦化につながり、栄養素の吸収を妨げる。唯一の有効な治療法は、生涯に亘るグルテンフリーの食事である。この状態は、セリアック病(合字)、セリアック(C(O)eliac)下痢、非熱帯性下痢、風土病下痢、グルテン性腸疾患、または、グルテン過敏性腸疾患、及び、グルテン不耐症を含むいくつかの別の名前を有する。セリアック病の症状は、個人により大きく異なる。セリアック病の症状は、1つ若しくは複数の下記の項目:ガス、再発性腹部膨満及び痛み、慢性下痢、便秘、蒼白、悪臭、または、脂肪便、体重減少/体重増加、疲労、原因不明の貧血(疲労の原因となる赤血球細胞の低い数値)、骨または関節の痛み、骨粗しょう症、骨減少症、行動の変化、足の刺痛、しびれ(神経損傷からの)、筋肉のけいれん、発作、(しばしば過度の体重減少に起因する)月経周期の欠落、不妊症、反復流産、成長遅延、乳児の成長障害、口腔内蒼白ただれ、いわゆるアフタ性潰瘍、歯の変色やエナメル質の喪失、及び、疱疹性皮膚炎と呼ばれるかゆみ、皮膚発疹を含む。疲労感、断続的な下痢、腹部の痛み若しくは痙攣、消化不良、鼓腸、腹部膨満及び体重減少などの幾つかの一般的症状が含まれる。例えば、WO01/025793に記載されている通り、セリアック病は診断することができる。
【0087】
本明細書で使用する場合、「Hor3座位でのD-ホルデインをコードするNullアリル」は、D-ホルデインタンパク質をコードしないこの座位のいずれかのアリルを指し、または、タンパク質をコードしない場合、それはセリアック病を患う対象者に対しては免疫原性ではない(
図3で提供する短縮型のD-ホルデインなど)。
【0088】
本明細書で使用される場合、記載された物質の文脈において本明細書中で使用する「欠失する」という用語は、物質が本発明のオオオムギ粒若しくはそれ由来する製品に存在しないこと、または、物質のアッセイを当該分野で公知の方法を用いて実施したとき、物質が本発明の穀粒若しくは製品中で検出されないことを意味する。即ち、物質は、検出するには不十分であるか、またはその物質のアッセイの標準誤差の範囲内のレベルで存在する。例えば、記載したホルデインの文脈において、用語「欠失する」は、特定のホルデインが、例えば、本明細書に例示した、MRM MS測定法、ELISA測定法、または、2次元ゲル電気泳動法などの測定法では検出されないことを意味する。欠失している物質は、1種類の測定法または複数の種類の測定法で検出されない。対応する野生型の穀粒または製品において、当技術分野で公知の測定法により決定される通り、本発明の穀粒または製品に欠失していると言われる物質が存在することが理解されるであろう。
【0089】
本明細書で使用される通り、用語「ホルデイン」は、例えば、「約50ppm以下ホルデイン」の語句で使用されるとき、及び類似の語句は、B-、 C-、D-、及び、g-ホルデインを含む全ホルデインを意味する。
【0090】
用語「種子」及び「穀粒」は、本明細書において互換的に使用される。「穀粒」は、一般的に、成熟した収穫穀物を意味するだけでなく、例えば、粉砕または研磨などの処理後の穀粒を意味する。ここで、大半の穀粒は文脈に応じて、そのままの状態または吸収若しくは発芽後である。成熟した穀粒は、通常、約18~20%未満の水分を有する。野生型のオオムギ粒(全粒)は、一般的に、9~12%のタンパク質を含み、その内の約30~50%、一般的には、35%がプロラミンであり、野生型のオオムギの粒は、重量で約3~4%のプロラミンを有する。プロラミンは、胚乳中でほぼ独占的に見出され、それは全粒重量の約70%である。
【0091】
本明細書で使用する場合、用語「収穫指数」とは、植物の総重量の百分率として収穫穀粒の重量を指す。
【0092】
本明細書で使用する場合、用語「対応する野生型」のオオムギ植物は、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも99%、及び、さらにより好ましくは99.5%の、未改変のホルデインレベルを有する穀粒を生産する本発明の遺伝子型の植物を指す。一実施形態において、「対応する野生型」のオオムギ植物は、穀粒中のホルデイン生成の低下をもたらす遺伝的多様体を導入するために植物育種の実験で使用した栽培品種である。別の実施形態において、「対応する野生型」オオムギ植物は、穀粒中のホルデイン生成を低下させる導入遺伝子を導入した親品種である。更なる実施形態において、「対応する野生型」オオムギ植物は、Bomi、Sloop、Carlsberg II、K8、L1、Vlamingh、Stirling、Hamelin、Schooner、Baudin、Commander、Gairdner、Buloke、WI3586-1747、WI3416、Flagship、Cowabbie、Franklin、SloopSA、SloopVic、Quasar、VB9104、Grimmett、Cameo*Arupo 31-04、 Prior、Schooner、Unicorn、Harrington、Torrens、Galleon、Morex、Dhow、Capstan、Fleet、Keel、Maritime、Yarra、Dash、Doolup、Fitzgerald、Molloy、Mundah、Oxford、Onslow、Skiff、Unicorn、Yagan、Chebec、Hindmarsh、Chariot、Diamant、Koral、Rubin、Bonus、Zenit、Akcent、Forum、Amulet、Tolar、Heris、Maresi、Landora、Caruso、Miralix、Wikingett Brise、Caruso、Potter、Pasadena、Annabell、Maud、Extract、Saloon、Prestige、Astoria、Elo、Cork、Extract、Lauraなどのオオオムギ粒の商業的製造のために、出願日で使用されている品種であるが、それに限定されない。一実施形態において、「対応する野生型」オオムギ植物は、Hor2、Hor1、Hor3、及びHor5座位でコードされたB、C、D、及びγ-ホルデインを含む、機能的ホルデインタンパク質をコードする機能的ホルデイン遺伝子の完全相補体に基づき、未改変のホルデインレベルを有する穀粒を生産する。
【0093】
本明細書で使用する場合、用語「1つ若しくはそれ以上のオオムギ粒のタンパク質」は、ホルデイン以外のオオムギ粒により自然に生じるタンパク質を指す。その様なタンパク質の例は、当業者に公知である。具体的な例としては、9kDaの脂質伝達タンパク質1(LTP1)(参照:Douliez et al.(2000)の総説、及び、例として、Swiss-protアクセッション番号:P07597)、α-アミラーゼトリプシン阻害剤(CMd、CMb、CMa)、タンパク質Z(参照:Brandt et al.(1990)及び、Genbankアクセッション番号:P06293)、及び、その製造(成熟)形態、並びに、変性された形態、及び/または、本発明の麦芽、粒粉、全粒粉、食品または麦芽ベースの飲料の製造の結果として生成された断片を含む、Colgrave et al.(2012)により同定されたタンパク質などのオオムギアルブミンを含むが、それに限定されない。
【0094】
本明細書で使用する場合、「穀粒の平均重量」は、好ましくは、少なくとも25、少なくとも50または少なくとも100、より好ましくは、少なくとも約100の個々の植物(または、同一条件下で生育した遺伝的に同一の植物)から穀粒を入手することにより測定し、そして穀粒の平均重量を決定する。
【0095】
本明細書で使用する場合、用語「麦芽」は、オオムギ麦芽を指すために使用され、「粒粉」は、オオムギ粒粉を指し、「全粒粉」は、オオムギ全粒粉を指し、「ビール」は、麦芽、粒粉、全粒粉またはビールが明確にオオムギ以外の源から生成したと記載されている場合を除いて、発酵可能な炭水化物を提供する主成分としてオオムギを用い、製造されたビールを指す。本明細書で使用する場合、用語「麦芽汁」は、ビール、または、ウィスキーの醸造時にマッシング工程から抽出した液体を指す。麦芽汁は、アルコールを生成するためにビール酵母により発酵される糖を含む。より具体的には、本発明の麦芽、麦芽汁、粒粉、ビール、全粒粉、食品などの原料は、オオオムギ粒の製造処理(例えば、粉砕、及び/または、発酵)からである。本発明の穀粒、麦芽、麦芽汁、粒粉、全粒粉またはビールは、オオムギに由来しない穀粒、麦芽、麦芽汁、粒粉、全粒粉またはビールと混合し、または、ブレンドしてもよい。これらの用語は、オオムギを含む穀粒の混合物から製造された、麦芽、麦芽汁、粒粉、ビール、全粒粉、食品などが含まれる。好ましい実施形態において、麦芽、麦芽汁、粒粉、ビール、全粒紛、食品などを製造するために使用される少なくとも10%若しくは少なくとも50%の穀粒は、オオムギ粒である。
【0096】
名詞として本明細書で使用される用語「植物」は、例えば、オオムギの商業的生産用の農地で生育した植物など植物全体を指す。「植物部分」は、植生構造体(例えば、葉、茎)、根、花器官/構造体、種子(胚、胚乳及び種皮を含む)、植物組織(例えば、維管束組織、基本組織など)、細胞、デンプン顆粒またはその子孫を指す。
【0097】
「トランスジェニック植物」、「遺伝的に改変された植物」またはその変異体は、同一種、品種、または、栽培品種の野生型植物には見られない遺伝子コンストラクト(「導入遺伝子」)を含む植物を指す。本明細書で参照される「導入遺伝子」は、バイオテクノロジー分野における一般的な意味を有し、そして、組換えDNAまたはRNA技術により生成され、または、改変され、植物細胞に導入された遺伝子配列を含む。導入遺伝子は、植物細胞に由来する遺伝子配列を含んでもよい。一般的に、導入遺伝子は、例えば、形質転換などのヒトの操作により植物に導入されるが、しかし、いずれの方法も、当業者が認識する通りに使用できる。
【0098】
「核酸分子」は、例えば、DNA、RNAまたはオリゴヌクレオチドなどのポリヌクレオチドを指す。それは、ゲノムまたは合成源で、二本鎖若しくは一本鎖で、及び、炭水化物、脂質、タンパク質、または、本明細書で定義される特定の操作を実行するために他の物質と組み合わせた、DNA若しくはRNAであり得る。
【0099】
本明細書で用いられる「操作可能に連結された」は、2つ若しくはそれ以上の核酸(例えば、DNA)断片間での機能的関係を意味する。一般的には、それは、転写される配列に対する転写調節エレメント(プロモーター)の機能的関係を指す。例えば、プロモーターは、適切な細胞内で翻訳領域配列の転写を刺激する、または調節する場合、本明細書で定義されるポリヌクレオチドなどのコード配列に操作可能に連結される。一般的に、転写配列に操作可能に連結されるプロモーター転写調節エレメントは、転写配列に物理的に連続し、すなわち、それらはシス作用性である。しかし、エンハンサーなどのいくつかの転写調節エレメントは、物理的に連続し、または、転写を高める翻訳領域配列に近接して位置する必要はない。
【0100】
本明細書で使用する場合、用語「遺伝子」は、その最も広い文脈で解釈されるべきであり、そして、構造遺伝子のタンパク質翻訳領域を含むデオキシリボヌクレオチド配列を含み、及び、遺伝子の発現に関与するいずれかの末端に、少なくとも約2kbの距離の、5′及び3′末端の両方の翻訳領域に隣接して位置する配列を含む。mRNA上に存在する、コード領域の5′に位置する配列は、5′非翻訳配列として参照される。mRNA上に存在する、3′、または、コード領域の下流に位置する配列は、3′非翻訳配列として参照される。用語「遺伝子」は、cDNA及び遺伝子のゲノム形態の両方を包含する。遺伝子のゲノム型またはクローンは、「イントロン」、または、「介在領域」、若しくは、「介在配列」と呼ばれる非コード配列で中断されるコード領域を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子の断片であり、イントロンは、エンハンサーなどの調節エレメントを含んでもよく、イントロンは、核若しくは一次転写産物から除外され、または、「スプライシング(spliced out)」され、従って、イントロンは、メッセンジャーRNA(mRNA)転写物には存在しない。mRNAは、翻訳中、新生ポリペプチドにおけるアミノ酸の配列または順序を指定するために機能する。用語「遺伝子」は、本明細書に記載の本発明のタンパク質の全て、または、一部、及び、上記のいずれかに相補的な塩基配列をコードする合成または融合分子を含む。
【0101】
本明細書で使用する場合、用語「他の食品または飲料成分」は、食品または飲料の一部として提供されるとき、動物の飲食に適した任意の物質、好ましくは、ヒトの飲食に適した任意の物質を指す。例としては、他の植物種からの穀粒、糖などを含み、水を除くが、これらに限定されない。
【0102】
本発明の植物は、一般的には、各々、少なくとも1つのホルデイン、より好ましくは、少なくともB、C及びD-ホルデインの低下したレベルをもたらす1つ若しくはそれ以上の遺伝的多様性を有する。本明細書で使用される場合、用語「少なくとも1つのホルデインの低下したレベルをもたらす遺伝的多様性」は、ホルデインの生成を低下させるオオムギ植物の任意の多型を指す。遺伝的多様性は、例えば、単数若しくは複数のホルデイン遺伝子若しくはその一部の欠失、または、オオムギ遺伝子の転写を低下させる変異を含んでもよい。そのような遺伝的多様性の例としては、Risφ56、Risφ527、及び、Risφ1508、及び、EthiopiaR118に存在する。従って、そのような植物は、本発明の植物を作製するための親植物として使用してもよい。本発明の植物は、任意のこれらオオムギ変異体間の交配からの子孫より生じ得る。好ましい実施形態において、本発明の植物は、D-ホルデインをコードする遺伝子のため野生型でhor2及びlys3の変異を含む、Risφ56及びRisφ1508との間の交配からの子孫ではない。一実施形態において、植物は、例えばその配列が配列番号:83として提供されるアミノ酸を含むγ3-ホルデインなど、その配列が配列番号:58として提供されるアミノ酸を含むγ3-ホルデインをコードする。例えば、植物は、オオムギ品種Bomi、Sloop、Baudin、Yagan、Hindmarsh、または、Commanderのγ3-ホルデイン遺伝子など、機能的に野生型のγ3-ホルデイン遺伝子を有してもよい。一実施形態において、植物は、Risφ527とRisφ1508との間の交配からの子孫ではない。
【0103】
反対に述べられない限り、本明細書で使用する場合、語句「約」は、検討中の値を考慮して、任意の妥当な範囲を指す。好ましい実施形態において、用語「約」は、±10%、より好ましくは、±5%、より好ましくは、±1%の指定された値を指す。
【0104】
特に指示のない限り、重量及び百分率を参照する場合、単位は、重量比(w/w)である。
【0105】
用語「及び/または」、例えば、「X及び/またはY」は、「X及びY」、または、「XまたはY」のいずれかを意味すると理解すべきであり、両方の意味またはいずれかの意味のための明確な支持を提供すべきである。
【0106】
本明細書を通して、用語「含有する」、または、「含む」若しくは「含んでいる」などの変形体は、規定した要素、整数若しくは工程、または、要素、整数若しくは工程のグループを包含するが、任意の他の要素、整数若しくは工程、または、要素、整数若しくは工程のグループを排除しないことを暗示すると理解すべきであろう。
【0107】
プロラミン及びホルデイン:
穀物のプロラミン(コムギにおけるグリアジン、オオムギにおけるホルデイン、ライムギにおけるセカリン、オートムギにおけるアベニン、及びトウモロコシにおけるゼインとして知られている)は、オートムギ及びトウモロコシを除いて、すべての穀物の穀粒中の主要な胚乳貯蔵タンパク質である(Shewry及びHalford,2002)。ホルデインは、オオムギ種子中の全タンパク質の35~50%を表す(Jaradat,1991)。それらは、移動度が高い順に、4つのグループ:A(γ-ホルデインとしても知られる)、B、C及びDに分類される(Field et al.,1982)。B、C、D、及びγ-ホルデインは、
図1に概略的に図示される染色体1H上のHor2、Hor1、Hor3、及びHor5の座位によりコードされる。
【0108】
B-ホルデインは、その硫黄含有量でC-ホルデインと異なる主タンパク質画分である(Kreis及びShewry,1989)。B-ホルデインは、全体の70~80%を占め、C-ホルデインは、10~20%を占める(Davies et al.,1993)。D-ホルデインは高分子量グルテニンと相同性であるが、A-ホルデインは、一般的に、貯蔵画分であるとは考えられない。ホルデインは、残りの関連する穀物のプロラミンのと共に、ナピン(napin)などの他の貯蔵タンパク質とは異なり、接合体胚自体で発現しない。ホルデインは、種子発育の中期から後期段階で、デンプン質胚乳で主に発現すると考えられている。
【0109】
オオムギホルデインのアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子の例としては、WO2009/021285で提供される。
【0110】
麦芽製造:
本発明により提供される麦芽ベースの飲料は、その出発物質の一部または全部の麦芽を用いることで製造される、アルコール飲料(蒸留飲料を含めて)及び非アルコール飲料を含む。例としては、ビール、発泡酒(低麦芽ビール飲料)、ウイスキー、低アルコールの麦芽ベース飲料(例えば、1%未満のアルコールを含む麦芽ベース飲料)、及び、非アルコール飲料を含む。
【0111】
麦芽製造には、オオムギ粒の制御された浸漬及び発芽に続く乾燥の工程がある。この連続した工程は、穀粒の改変を引き起こす多くの酵素の合成において重要であり、死滅した内胚乳細胞壁を分解し、穀粒の栄養素を動員する工程のために重要である。その後の乾燥工程において、風味及び色が、化学的褐変反応により生成される。麦芽の主な用途は、飲料製造のためであるが、それは、また、例えば、パン製造業における酵素源として、または、食品産業における香味剤及び着色剤として、例えば、麦芽または麦芽粒粉として、あるいは間接的に麦芽シロップとしてなど、他の工業的工程でも利用することができる。
【0112】
一実施形態において、本発明は、麦芽組成物を製造する方法に関する。方法は、好ましくは:
(i)本発明のオオムギ植物の穀粒を提供し;
(ii)該穀粒を浸漬し;
(iii)所定の条件下で浸漬した穀粒を発芽させ;及び
(iv)該発芽粒を乾燥させる;
工程を含む。
【0113】
例えば、麦芽は、Hoseney(Principles of Cereal Science and Technology, Second Edition, 1994: American Association of Cereal Chemists, St. Paul,Minn.)に記載のいずれかの方法により製造することができる。しかし、麦芽を焙煎する方法を含むがそれに限定されない、特殊麦芽を製造するための方法など、麦芽を製造するための任意の適切な他の方法も、また、本発明で使用される。1つの非限定の例を実施例6に記載する。
【0114】
麦芽は、本発明のオオムギ植物から生産される穀粒のみ、または、他の穀粒を含む混合物を用いて調製することができる。
【0115】
麦芽は、ビール醸造に主に使用されるが、蒸留酒の製造にも使用される。醸造は、麦芽汁の製造、一次及び二次発酵並びに後処理を含む。初めに麦芽を粉砕し、水中で撹拌され、そして加熱する。この「マッシング」の間に、麦芽製造中に活性化された酵素が、穀粒のデンプンを発酵可能な糖に分解する。生成した麦芽汁を清澄化し、酵母を加え、混合物を発酵させ、後処理を実施する。
【0116】
別の実施形態において、麦芽汁組成物は、麦芽から調製することができる。前述の麦芽汁は、第一、及び/または、第二、及び/または、更なる麦芽汁であってもよい。一般的に、麦芽汁組成物は、高含量のアミノ窒素及び発酵可能な炭水化物類、主としてマルトースを有する。一般的に麦芽汁は、水で麦芽をインキュベートすることにより、すなわち、マッシングすることにより調製される。マッシング中、麦芽/水組成物は、追加の炭水化物に富む組成物、例えばオオムギ、トウモロコシまたはコメなど付加物を補充してもよい。麦芽になっていない穀物添加物は、通常、活性酵素を含有しない。従って、糖変換に必要な酵素を提供するために、麦芽または外因性の酵素に依存する。
【0117】
一般的には、麦芽汁製造工程の最初の工程は、水がマッシング段階において穀粒子に接近できるようにするための麦芽の粉砕であり、基本的には基質の酵素的分解を伴う麦芽製造工程の延長である。マッシングの間に、粉砕した麦芽を、水などの液体画分と共にインキュベートする。温度は、一定(等温マッシング)に保つか、徐々に上げる。いずれの場合においても、麦芽製造及びマッシングにおいて製造された可溶性物質は、前述の液体画分中へ抽出され、その後ろ過によって麦芽汁及び麦芽粕と呼ばれる残留固体粒子へ分離される。この麦芽汁は、第一の麦芽汁とも呼ばれる。濾過した後、第二の麦芽汁が得られる。更に、麦芽汁は、この手法を繰り返すことにより調製することができる。麦芽汁の調製に適した手法の非限定的な例は、Hoseney(前出)に記載されている。
【0118】
麦芽汁組成物は、また、酵素組成物、または、酵素混合組成物、例えば、Ultraflo、または、Cereflo(Novozymes)などの、1つ若しくはそれ以上の適切な酵素を用いて、本発明のオオムギ植物、または、その一部をインキュベートすることにより調製できる。麦芽汁組成物は、また、該調製の間、麦芽及び麦芽になっていないオオムギ植物の混合物を用いて、場合により、1つ若しくはそれ以上の適切な酵素を添加して調製できる。更に、セリアック病に関与する毒性アミノ結合を特異的に破壊するプロリル-エンドペプチダーゼ酵素は、残留ホルデインの毒性を低減するために、麦芽汁の発酵中に添加することができる(De Angelis et al.,2007;Marti et al.,2005; Stepniak et al.,2006)。
【0119】
穀粒の加工:
本発明のオオオムギ粒は、食品成分、飲料成分、食品もしくは飲料、または、当技術分野で公知の任意の技術を使用して、非食品を製造するために処理することができる。
【0120】
一実施形態において、製品は、全粒粉である(超微細粉砕全粒粉などの超微細に粉砕した全粒粉;全粒粉、または、約100%の穀粒から作られる粒粉)。全粒粉は、精製された粒粉の成分(精製粒粉または精製粉)と粗画分(超微細粉砕された粗画分)が含まれる。
【0121】
精製された粒粉は、例えば、精製オオムギを、粉砕し、ふるい分けすることにより、調製される粒粉であり得る。食品医薬品局(FDA)は、精製されたオオムギ粒粉の範疇に含めるために、特定の粒子サイズの規格を満たす粒粉を要求する。精製粒粉の粒子サイズは、98%以上が「212μm(米国ワイヤ70)」と称される織金網より、大きくない開口部を有する織金網を通過する粒粉と規定している。
【0122】
粗画分は、少なくとも1つのふすま及び胚芽を含む。例えば、胚芽は、オオオムギ粒内で見出された胚性植物である。胚芽には、脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラル、フラボノイドなどの植物栄養素が含まれる。ふすまは、いくつかの細胞層を含み、脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラル及びフラボノイドなどの植物栄養素をかなりの量で含有する。さらに、粗い画分は、また、脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラル及びフラボノイドなどの植物栄養素を含むアリューロン層を含んでもよい。アリューロン層は技術的に胚乳の一部と考えられるが、ふすまと同じ多くの特徴を示すが、一般的には粉砕工程の間に、ふすま及び胚芽と共に除去される。アリューロン層はタンパク質、ビタミン及びフェルラ酸などの植物栄養素を含む。
【0123】
さらに、粗画分は、精製された粒粉の成分とブレンドしてもよい。好ましくは、粗画分は、精製された粒粉の成分と均一にブレンドされる。粗画分と精製された粒粉成分を均一にブレンドすることは、出荷中に、サイズによる粒子の層別化を低減することに役立つ。粗画分は、全粒粉を形成するために、精製された粒粉成分と混合してもよく、その結果、精製粒粉と比較して栄養価、繊維含有量及び抗酸化能力が増した全粒粉を提供することが可能である。例えば、粗画分または全粒粉は、焼き菓子、スナック製品及び食品において様々な量で精粉または全粒粉を置き換えるのに、使用することができる。本発明の全粒粉(即ち、超微細に粉砕した全粒粉)は、また、自家製の焼き菓子での使用のために消費者に直接、市販してもよい。例示的な実施形態において、全粒粉の造粒プロファイルは、全粒粉の98重量%の粒子が、212μm未満である。
【0124】
さらなる実施形態では、全粒粉及び/または粗画分のふすま及び胚芽内に見出される酵素は、全粒粉及び/または粗画分を安定にするために不活性化される。本発明において不活性化は、阻害、変性なども意味すると考えられる。安定化は、ふすまや胚芽層で見出された酵素を不活性化するために、蒸気、熱、放射線、または他の処置を使用する工程である。ふすま及び胚芽中に自然に発生する酵素は、粒粉中の成分の変化を触媒し、粒粉の調理特性及び貯蔵寿命に悪影響を及ぼす。不活性化された酵素は、粒粉に存在する成分の変化を触媒しないので、従って、安定した粒粉は、その調理特性を保持し、より長い貯蔵寿命を有する。例えば、本発明は、粗画分を粉砕するための2つのストリームの製粒技術を導入することができる。粗画分を分離し、安定化させると、粗画分は、その後、約500μm以下の粒子サイズ分布を有する粗画分を形成するために、粉砕機、好ましくはギャップミルを介して粉砕される。例示的な実施形態において、ギャップミルの先端速度は、通常、115m/s~144m/sの間で動作し、高い先端速度では熱が発生する。製造中に発生する熱及び空気の流れは、粗画分の微生物の量を減少させる。更なる実施形態において、ギャップミルで粉砕する前に、粗画分は、平均95,000コロニー形成単位/グラム(cfu/g)の好気性生菌数、及び、平均12,00cfu/gの大腸菌数を有し得る。ギャップミルを通過した後、粗画分は、平均10,000cfu/gの好気性生菌数、及び、平均900cfu/gの大腸菌数を有し得る。従って、微生物量は、本発明の粗画分において、著しく減少し得る。ふるい分けした後、500ミクロンより大きい粒子サイズを有する任意の粉砕された粗画分は、更なる製粉化をおこなうために工程に戻すことができる。
【0125】
更なる実施形態においては、全粒粉または粗画分は、食品の成分であってもよい。例えば、食品の成分としては、ベーグル、ビスケット、パン、ロールパン、クロワッサン、ダンプリング、イングリッシュマフィン、マフィン、ピタパン、クイックブレッド、冷蔵/冷凍生地製品、パン生地、ベークトビーンズ、ブリトー、唐辛子、タコス、タマーリ、トルティーヤ、ポットパイ、即席シリアル、即席の食事、詰め物、電子レンジ調理可能食事、ブラウニー、ケーキ、チーズケーキ、コーヒーケーキ、クッキー、デザート、ペストリー、スイートロール、キャンディーバー、パイ生地、パイフィリング、ベビーフード、ベーキングミックス、バッター液、パン粉、グレービーミックス、肉増量剤、肉代用品、混合調味料、混合スープ、グレービー、ルウ、サラダドレッシング、スープ、サワークリーム、麺、パスタ、ラーメン、炒麺、拌麺、アイスクリーム含有物、アイスクリームバー、アイスクリームコーン、アイスクリームサンドイッチ、クラッカー、クルトン、ドーナツ、卵ロール、押出スナック、果物及び穀物バー、電子レンジ調理可能スナック製品、栄養バー、パンケーキ、半焼成の冷凍パン、プレッツェル、プリン、グラノーラベースの製品、スナックチップ、スナック食品、スナックミックス、ワッフル、ピザ生地、動物用食品、または、ペットフードであってもよい。
【0126】
代替の実施形態では、全粒粉または粗画分は、栄養補助食品の成分であってもよい。例えば、栄養補助食品は、一般的には、ビタミン、ミネラル、ハーブ、アミノ酸、酵素、抗酸化剤、ハーブ、スパイス、プロバイオティクス、抽出物、プレバイオティクス、及び、繊維を含む一つ若しくはそれ以上の成分を含有する食事に添加される製品であってもよい。本発明の全粒粉または粗画分は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、酵素、及び、繊維を含む。例えば、粗画分は、濃縮量の食物繊維、並びに、ビタミンB群、セレン、クロム、マンガン、マグネシウム、及び、酸化防止剤などの他の必須栄養素が含み、それは、健康的な食生活のために必須である。例えば、22グラムの本発明の粗画分は、個人の一日推奨摂取量の繊維の33%を供給する。更に、個人の一日推奨摂取量の繊維の20%を供給するのに必要とされるのは、14グラムだけである。従って、粗画分は、個人に必要な繊維の摂取に優れた補給源である。したがって、本実施形態では、全粒粉または粗画分は、サプリメントの成分であってもよい。サプリメントは、個人の健康全般に役立つ任意の既知の栄養成分を含んでいてもよく、例としては、ビタミン、ミネラル、他の繊維成分、脂肪酸、抗酸化剤、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ルテイン、リボース、ω-3脂肪酸、及び/または、他の栄養成分が挙げられるが、それに限定されない。
【0127】
更なる実施形態においては、全粒粉または粗画分は、繊維サプリメント、または、その成分であってもよい。オオバコ外皮、セルロース誘導体、及び、加水分解されたグアーガムなどの現在ある多くの繊維サプリメントは、その繊維含有量の他に、不十分な栄養価を有する。さらに、多くの繊維サプリメントは、望ましくないテクスチャーを有し、味が悪い。全粒粉、または、粗画分から作られた繊維サプリメントは、繊維、並びに、タンパク質、及び、酸化防止剤の供給に役立つ。繊維サプリメントは、インスタント飲料ミックス、レディ・トゥ・ドリンク、栄養バー、ウエハース、クッキー、クラッカー、ゼリー飲料、カプセル、咀嚼菓子、咀嚼錠剤、及び、ピルの形態で提供され得るが、それらに限定されない。一実施形態は、フレーバーシェイクまたは麦芽タイプ飲料の形で繊維サプリメントを提供される。この実施形態は、子供用の繊維サプリメントとして特に魅力的だろう。
【0128】
さらなる実施形態では、製粒工程は、穀粒粉ブレンド、オオムギ粉ブレンド、または、穀粒の粗画分ブレンドを製造するために使用してもよい。例えば、一種類のオオムギのふすまや胚乳を粉砕し、別種類のオオムギを粉砕した胚乳または全粒粉と共にブレンドしてもよい。あるいは、1種類の穀粒のふすま及び胚芽を粉砕し、別種類の穀粒を粉砕した胚乳または全粒粉とブレンドしてもよい。更なる実施形態において、第一の種類のオオムギ、または、穀粒からのふすま及び胚芽は、穀粒の粗画分ブレンドを製造するために、第二の種類のオオムギまたは穀粒からのふすま及び胚芽とブレンドしてもよい。本発明は、1つ若しくはそれ以上のふすま、胚芽、胚乳、及び、1つ若しくはそれ以上の穀粒の全粒粉の任意の組み合わせの混合を包含することを意図する。この穀粒ブレンド、オオムギブレンドの取り組みは、特別な粉を調製するのに使用することができ、そして複数の種類の穀粒またはオオムギの品質、及び、栄養含量を活用して1種類の粒粉を調製することができる。
【0129】
本発明の全粒粉は、多様な製粉工程を経て製造することができる。例示的な実施形態は、別々のストリームに穀粒の胚乳、ふすま、及び胚芽を分離することなく、単一のストリーム内で、穀粒を粉砕することを含む。清潔に調節された穀粒は、ハンマーミル、ローラーミル、ピンミル、インパクトミル、ディスクミル、空気摩擦ミル、ギャップミルなどの、第1の通過粉砕機に移される。一実施形態において、粉砕機はギャップミルであってもよい。粉砕した後、穀粒を取り出し、ふるいに移す。粉砕された粒子を選別するために当該分野で公知の任意のふるいを使用してもよい。ふるいの網目を通過した物質は、本発明の全粒粉であり、それ以上の処理を必要としない。スクリーン上に残る物質は、第二の画分と称する。第二の画分は、更なる粒子の縮小が必要である。従って、この第二の画分は、第2の通過粉砕機に移すことができる。粉砕後、第二の画分は、第二のふるいに移すことができる。第二のふるいの網目を通過した物質は、本発明の全粒粉である。スクリーン上に残る物質は、第四の画分と称され、粒径を減少させるために更なる処理を必要とする。第二のふるいの網目上の第四の分画は、フィードバックループを介して、更なる処理のために第1の通過粉砕機、または、第2の通過粉砕機のいずれかに戻って搬送される。本発明の代替的な実施形態では、工程は、より高いシステム能を提供するために、複数の第一の通過運搬機を含んでいてもよい。
【0130】
なお、本発明の全粒粉、粗画分及び/または穀粒製品は、当該分野で公知の任意の製粒工程により製造できることを意図する。更に、本発明の全粒粉、粗画分及び/または穀粒製品を、発酵、インスタント化、押出し成型、カプセル化、焼く、焙煎などの多数の他の工程により、改変し、または、増強され得ることを意図する。
【0131】
ホルデインの生成を下方制御するポリヌクレオチド:
一実施形態において、本発明、及び/または、本発明の方法において使用される穀粒は、穀粒中の少なくとも1つのホルデインの生成を下方制御するポリヌクレオチドをコードする導入遺伝子を含むトランスジェニックオオムギ植物からのものである。そのようなポリヌクレオチドの例としては、アンチセンスポリヌクレオチド、センスポリヌクレオチド、触媒性ポリヌクレオチド、人工マイクロRNAまたは二本鎖RNA分子が挙げられるが、それに限定されない。穀粒内に存在する場合、これらのポリヌクレオチドのそれぞれは、翻訳のために利用されるホルデインmRNAを減少させる。
【0132】
アンチセンスポリヌクレオチド:
用語「アンチセンスポリヌクレオチド」は、ホルデインをコードする特定のmRNA分子の少なくとも一部に相補的であり、及び、転写後のmRNA翻訳などに干渉することができるDNAまたはRNA、若しくは、その組み合わせの分子を意味すると解釈すべきである。アンチセンス法の使用は、当該分野で公知である(参照、例えば、G.Hartmann and S.Endres,Manual of Antisense Methodology,Kluwer(1999))。植物中でのアンチセンス法の使用は、Bourque(1995)及びSenior(1998)によって論評されている。Senior(1998)は、アンチセンス法は、現在では、遺伝子発現を操作するのに非常によく確立された手法であると述べている。
【0133】
本発明のオオムギ植物におけるアンチセンスポリヌクレオチドは、生理学的条件下で標的ポリヌクレオチドに対してハイブリッド形成する。本明細書で使用する場合、用語「生理的条件下でハイブリッド形成するアンチセンスポリヌクレオチド」は、(完全に、または部分的に一本鎖である)ポリヌクレオチドがオオムギ細胞における通常の条件下で、オオムギホルデインなどのタンパク質をコードするmRNAと二本鎖ポリヌクレオチドを形成することが、少なくとも可能であることを意味する。
【0134】
アンチセンス分子は、構造遺伝子に対応する配列、または、遺伝子発現若しくはスプライシングの制御に影響を与える配列を含んでもよい。例えば、アンチセンス配列は、本発明の遺伝子、または、5′-非翻訳領域(UTR)、若しくは、3′-UTR、若しくは、これらの組み合わせに対応する。これは、転写中、または、転写後にスプライシングされ得るイントロン配列に部分的に相補的であってもよく、好ましくは、標的遺伝子のエキソン配列にのみ相補的であってもよい。一般的にUTRは非常に異なることから、これらの領域を標的とすることで遺伝子阻害の特異性が高くなる。
【0135】
アンチセンス配列の長さは、少なくとも、19個の連続するヌクレオチドであり、好ましくは、少なくとも50個のヌクレオチド、より好ましくは、少なくとも、100、200、500または1000個のヌクレオチドであるべきである。完全な遺伝子転写産物と相補的な全長の配列を使用してもよい。長さは、最も好ましくは、100~~2000個のヌクレオチドである。標的転写産物に対するアンチセンス配列の同一性の程度は、少なくとも90%、より好ましくは95~100%であるべきである。アンチセンスRNA分子は、当然ながら当然ながら、分子を安定化するために機能し得る無関係な配列を含んでもよい。
【0136】
触媒性ポリヌクレオチド:
用語「触媒性ポリヌクレオチド/核酸」は、特異的に異なる基質を認識し、この基質の化学的改変を触媒するDNA分子若しくはDNA含有分子(当該技術分野では「デオキシリボザイム」としても知られる)、またはRNA若しくはRNA含有分子(「リボザイム」としても知られる)を指す。触媒性核酸中の核酸塩基は、塩基A、C、G、T(及び及びRNAではU)であり得る。
【0137】
一般的に、触媒性核酸は、標的核酸の特異的な認識のためのアンチセンス配列、核酸を切断する酵素活性(本明細書では「触媒ドメイン」と称する)を含む。本発明において、特に有用なリボザイムの種類は、ハンマーヘッド型リボザイム(Haseloff and Gerlach,1988,Perriman et al.,1992)、及び、ヘアピン型リボザイムである(Shippy et al.,1999)。
【0138】
本発明のオオムギ植物のリボザイム及びリボザイムをコードするDNAは、当該分野で公知の方法を用いて化学的に合成することができる。リボザイムは、また、RNAポリメラーゼプロモーター(例えばT7RNAポリメラーゼまたはSP6RNAポリメラーゼのプロモーター)に操作可能に連結したDNA分子(すなわち、転写の時に、RNA分子を生成する)からも調製することができる。ベクターがDNA分子に操作可能に連結されたRNAポリメラーゼプロモーターを含有する場合、リボザイムを、RNAポリメラーゼ及びヌクレオチドとインキュベーションすることによってin vitroで作製することができる。別の実施形態において、DNAは、発現カセットまたは転写カセットに挿入することができる。合成した後、RNA分子は、リボザイムを安定化し、RNA分解酵素に対する抵抗性を付与する能力を有するDNA分子に連結することにより修飾される。
【0139】
本明細書に記載のアンチセンスポリヌクレオチドと同様に、触媒性ポリヌクレオチドは、また、「生理学的条件」、すなわち、オオムギ細胞内でのこれらの条件下で、標的核酸分子(例えばオオムギのホルデインをコードするmRNA)をハイブリダイズすることを可能にしなければない。
【0140】
RNA干渉:
RNA干渉(RNAi)は、特に、特定のタンパク質の産生を特異的に阻害するのに特に有用である。理論に制限されることを望まないが、Waterhouseら(1998)は、dsRNA(二本鎖RNA)がタンパク質の産生を低下させるのに使用できるメカニズムのモデルを提供した。この技術は、対象またはその一部の遺伝子のmRNAと本質的に同一である配列を含むdsRNA分子(この場合、本発明に関連するポリペプチドをコードするmRNA)の存在に依存する。好都合なことに、dsRNAは、組換えベクターまたは宿主細胞内の単一のプロモーターから生成することができ、ここで、センス及びアンチセンス配列は、無関係な配列の両端に配置される。この無関係な配列がループ構造を形成しながらセンス及びアンチセンス配列がハイブリダイズすることにより、dsRNA分子が形成される。される。本発明に適したdsRNA分子の設計及び生成は、特に、Waterhouse et al.(1998)、Smith et al.(2000)、WO99/32619、WO99/53050、WO99/49029、及びWO01/34815の文献を考慮して、十分、当業者の能力の範囲内にある。
【0141】
一例では、不活性化する標的遺伝子に対して相同性があり、少なくとも部分的に二本鎖(二重鎖)のRNA産物(単数若しくは複数の)の合成を導くDNAが、導入される。従って、DNAは、RNAに転写される場合、二本鎖RNA領域を形成するようにハイブリッド化することができる、センス及びアンチセンス配列の両方を含む。好ましい実施形態において、センス配列及びアンチセンス配列は、RNAに転写されるときに、スプライシングされたイントロンを含むスペーサー領域により分離される。この配列は、遺伝子サイレンシングのより高い効率をもたらすことが示される。二本鎖領域は、1つまたは2つのDNA領域のいずれかから転写される1つまたは2つのRNA分子を含み得る。二本鎖分子の存在は、二本鎖RNA、及び、また、標的植物遺伝子からの相同的なRNA転写物の両方を破壊し、効率よく、標的植物遺伝子を減少させ、または、除去する内因性の植物システムからの応答を誘発すると考えられる。
【0142】
ハイブリダイズしたセンス配列及びアンチセンス配列の長さは、それぞれ、少なくとも19個の連続したヌクレオチド、好ましくは、少なくとも30または50個のヌクレオチド、より好ましくは、少なくとも、100、200、500または1000個のヌクレオチドであるべきである。完全な遺伝子転写産物に対応する全長の配列を使用してもよい。長さは、最も好ましくは、100~2000個のヌクレオチドである。標的転写産物に対するセンス及びアンチセンス配列の同一性の程度は、少なくとも85%、好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、95~100%であるべきである。RNA分子は、当然ながら、分子を安定化するために機能し得る無関係な配列を含んでもよい。RNA分子は、RNAポリメラーゼII、または、RNAポリメラーゼIIIプロモーターの制御下で発現し得る。後者の例としては、tRNAまたはsnRNAプロモーターが含まれる。
【0143】
好ましい低分子干渉RNA(「siRNAの」)分子は、標的mRNAの約19~21個の連続したヌクレオチドと同一であるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、標的mRNA配列は、ジヌクレオチドAAで始まり、約30~70%のGC含有量(好ましくは、30~60%、より好ましくは40~60%、より好ましくは、約45%~55%)を含み、及び、例えば、標準的なBLAST検索により決定される通り、導入されるべきオオムギ植物のゲノム中において標的以外のいかなるヌクレオチド配列にも高い同一性を有していない。
【0144】
マイクロRNA:
マイクロRNAの調節は、従来のRNAi/PTGSと異なり、遺伝子調節を目的として発展した、RNAサイレンシング経路が明確に枝分かれしたものである。マイクロRNAは、固有の分類の低分子RNAであり、特徴的な逆方向反復を有する遺伝子様エレメントでコードされている。転写されると、マイクロRNA遺伝子は、ステムループ構造の前駆体RNAを形成する。その後、その前駆体RNAからマイクロRNAが得られる。マイクロRNAは、一般的には、約21個のヌクレオチド長である。放出されたmiRNAは、配列特異性の遺伝子抑制を発揮するアルゴノートタンパク質の特定のサブセットを含むRISC様複合体中に組み込まれる(参照、例えば、Millar and Waterhouse,2005; Pasquinelli et al.,2005;Almeida and Allshire,2005)。
【0145】
共抑制:
使用することができる別の分子生物学的アプローチは共抑制である。共抑制のメカニズムはよく理解されていないが、転写後の遺伝子サイレンシング(PTGS)に関与すると考えられ、その点でアンチセンス抑制の多くの例と非常に類似している。共抑制は、遺伝子またはその断片の過剰なコピーを植物の中に、その発現プロモーターに対してセンスの配置で導入することを含む。センス断片のサイズ、標的遺伝子領域への応答、及び、標的遺伝子への配列同一性の程度は、上記に記載のアンチセンス配列と同様である。幾つかの例において、遺伝子配列の追加のコピーは、標的植物遺伝子の発現を妨害する。共抑制アプローチを実施する方法は、WO97/20936及びEP0465572で言及されている。
【0146】
核酸コンストラクト:
トランスジェニック植物を作製するために有用な核酸は、標準的な技術を用いて容易に生成することができる。
【0147】
mRNAをコードする領域を挿入するとき、コンストラクトは、イントロン配列を含んでもよい。このイントロン配列は、植物における導入遺伝子の発現を助けることができる。用語「イントロン」は、転写されるが、翻訳前にRNAからスプライシングされて除かれるタンパク質をコードしない遺伝子断片を意味するものとして、その通常の意味で使用される。イントロンは、5′-UTRに、または、導入遺伝子が翻訳産物をコードする場合、コード領域に、または、そうでない場合、いずれかの転写領域に組み込むことができる。しかし、好ましい実施形態において、任意のポリペプチドコード領域は、単一のオープンリーディングフレームとして提供される。当業者に理解されるように、このようなオープンリーディングフレームは、ポリペプチドをコードするmRNAを逆転写することにより得ることができる。
【0148】
目的のmRNAをコードする遺伝子の適切な発現を確実にするために、核酸コンストラクトは、一般的には、転写終結配列、または、ポリアデニル化配列とともに、1つ若しくはそれ以上の調節エレメント、例えばプロモーター、エンハンサーを含む。そのようなエレメントは、当該分野で公知である。
【0149】
単数若しくは複数の調節エレメントを含む転写開始領域は、植物中で調節的、または恒常的発現をもたらす。好ましくは、発現は、少なくとも、種子の細胞内で起こる。
【0150】
植物細胞において機能する多くの恒常的プロモーターが報告されている。植物における恒常的発現に好適なプロモータとしては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ゴマノハグサモザイクウイルス(Figwort mosaic virus)(FMV)35S、サトウキビ桿状ウイルス(sugarcane bacilliform virus)プロモーター、ツユクサ黄色斑紋ウイルス(commelina yellow mottle virus)プロモーター、リブロース-1,5-ビスホスフェートカルボキシラーゼの小サブユニットからの光誘導性プロモーター、イネサイトゾルトリオースホスフェートイソメラーゼプロモーター、シロイヌナズナ(Arabidopsis)のアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼプロモーター、イネアクチン1遺伝子プロモーター、マンノピンシンターゼ、及び、オクトピンシンターゼプロモータ、Adhプロモータ、スクロースシンターゼ、R遺伝子複合体プロモーター、及び、クロロフィルα/β結合タンパク質遺伝子プロモーターが挙げられるが、それに限定されない。これらのプロモーターは、植物中で発現されるDNAベクターを作製するために使用される(例として、WO84/02913を参照)。これらのプロモーターのすべては、様々な種類の植物で発現可能な組換えDNAベクターを作製するために使用される。
【0151】
プロモーターは、温度、光またはストレスなどの因子により調節され得る。通常、調節エレメントは、発現するために、遺伝子配列の5′に提供される。コンストラクトは、また、例えば、nos3′または、ocs3′ポリアデニル化領域、または、転写ターミネーターなどの転写を強化する他のエレメントを含んでもよい。
【0152】
5′非翻訳リーダー配列は、異種遺伝子配列を発現するために選択されたプロモーターから導入することができ、そしてmRNAの翻訳を増加させるように、必要に応じて特異的に改変することができる。導入遺伝子の発現を最適化するための総説については、Koziel et al.(1996)を参照すること。5′非翻訳領域は、また、植物ウイルスRNA(タバコモザイクウイルス、タバコエッチウイルス、トウモロコシドワーフモザイクウイルス、アルファルファモザイクウイルスなど)から、適切な真核生物の遺伝子、植物遺伝子(コムギ及びトウモロコシクロロフィルa/b結合タンパク質遺伝子リーダー)から、または、合成遺伝子配列から得られる。本発明は、非翻訳領域がプロモーター配列を伴う、5′非翻訳配列から導入されたコンストラクトの使用に限定されない。リーダー配列は、また、無関係のプロモーターまたはコード配列から導入することができる。本発明の文脈において有用なリーダー配列は、トウモロコシHsp70のリーダー(US5,362,865、及び、US5,859,347)、及びTMVオメガエレメントを含む。
【0153】
転写の終結は、キメラベクターの中で目的のポリヌクレオチドに対して作動可能に連結された3′非翻訳DNA配列により達成される。組換えDNA分子の3′非翻訳領域は、RNAの3′末端へのアデニル酸ヌクレオチドを付加させるために、植物に機能するポリアデニル化シグナルを含む。3′非翻訳領域は、植物細胞において発現される様々な遺伝子から得ることができる。ノパリン合成酵素3′非翻訳領域;エンドウマメ小サブユニットルビスコ(Rubisco)遺伝子からの3′非翻訳領域;ダイズ7S種子貯蔵タンパク質遺伝子からの3′非翻訳領域が、通常この目的で使用される。アグロバクテリウム腫瘍誘導(Ti)プラスミド遺伝子のポリアデニル酸シグナルを含む3′非翻訳領域も適切である。
【0154】
一般的には、核酸コンストラクトは、選択可能なマーカーを含む。選択マーカーは、外因性の核酸分子で形質転換された植物または細胞の同定及びスクリーニングに役立つ。選択マーカー遺伝子は、オオムギ細胞に抗生物質または除草剤への耐性を与え、または、マンノースなどの基質の利用を可能にすることができる。選択可能なマーカーは、好ましくは、オオムギ細胞にハイグロマイシン耐性を付与する。
【0155】
好ましくは、核酸コンストラクトは、植物のゲノムに安定的に組み込まれる。従って、核酸は、ゲノムに分子を組み込むことを可能にする適切なエレメントを含むか、または、コンストラクトが植物細胞の染色体に組み込むことができる適切なベクター中に配置される。
【0156】
本発明の一実施形態は、宿主細胞に核酸分子を送達することが可能な任意のベクターに挿入された、少なくとも本明細書で概説した導入遺伝子を有する、組換えベクターの使用を含む。このようなベクターは、本発明の核酸分子に隣接している、自然には見出されない核酸配列であり、そして好ましくは、単数若しくは複数の核酸分子が、由来する種以外の種から導入された異種核酸配列を含む。ベクターは、原核生物または真核生物のRNAまたはDNAのいずれかであり、一般的には、ウイルスまたはプラスミドであってもよい。
【0157】
植物細胞の安定なトランスフェクション、または、トランスジェニック植物の確立に適した多数のベクターは、例えば、Pouwels et al.,Cloning Vectors:A Laboratory Manual, 1985, supp.1987;Weissbach and Weissbach,Methods for Plant Molecular Biology,Academic Press, 1989; and Gelvin et al.,Plant Molecular Biology Manual,Kluwer Academic Publishers,1990に、記載されている。一般的に、植物発現ベクターは、例えば、5′及び、3′調節配列の下で転写制御されている、1つ若しくはそれ以上のクローン化植物遺伝子と、優性選択マーカーを含む。このような植物発現ベクターは、また、プロモーター調節領域(例えば、誘導的若しくは恒常的、または、環境的若しくは発生的な制御、または、細胞若しくは組織特異的な発現を制御する調節領域);転写開始部位;リボソーム結合部位;RNAプロセシングシグナル;転写終結部位;及び/または;ポリアデニル化シグナルを含有することができる。
【0158】
トランスジェニック植物:
本発明の文脈で定義されるトランスジェニックオオムギ植物は、植物(並びに、該植物の部分及び細胞)及び所望の植物または植物器官における、少なくとも1つのポリヌクレオチド、及び/または、ポリペプチドの生成を引き起こすために、組換え技術を用いて、遺伝的に改変されたその子孫を含む。トランスジェニック植物は、A.Slater et al.,Plant Biotechnology -The Genetic Manipulation of Plants, Oxford University Press (2003),and P. Christou and H. Klee, Handbook of Plant Biotechnology, John Wiley and Sons (2004)に、一般的に、記載されたものなどの、当該分野で公知の技術を用いて生成することができる。
【0159】
好ましい実施形態において、トランスジェニック植物は、導入された各々及び全ての遺伝子(導入遺伝子)に対してホモ接合型であり、所望の表現型から分離しない。トランスジェニック植物は、また、例えば、ハイブリッド種子から生長したF1子孫など、単数若しくは複数の導入遺伝子に対してヘテロ接合であってもよい。そのような植物は、当該分野で公知のハイブリッド強勢のような利点を提供することができる。
【0160】
細胞への遺伝子の直接送達のための4つの一般的な方法が、下記に記載されている:(1)化学的方法(Grahamら、1973);(2)ミクロインジェクション(Capecchi,1980);エレクトロポレーション(参照:例えば、WO87/06614、US5,472,869。US5,384,253、WO92/09696、及び、WO93/21335);及び遺伝子銃(参照、例えば、US4,945,050及びUS5,141,131)などの物理的方法;(3)ウイルスベクター(Clapp,1993;Lu et al.,1993;Eglitis et al.,1988);及び(4)受容体を介したメカニズム(Curiel et al.,1992;Wagner et al.,1992)。
【0161】
使用することができる加速方法は、例えば、微粒子銃などを含む。植物細胞に形質転換の核酸分子を送達するための方法の一例は、微粒子銃である。この方法は、Yang et al.,Particle Bombardment Technology for Gene Transfer, Oxford Press, Oxford, England (1994)において総説されている。非生物学的粒子(微粒子)は、核酸で被覆され、推進力により細胞に送達され得る。典型的な粒子は、タングステン、金、白金からなるものなどが挙げられる。微粒子銃の特別の利点は、それが単子葉植物の再現性のある形質転換に有効な手段であることに加えて、プロトプラストの単離、またアグロバクテリウム感染の感受性のどちらも必要ではないことである。加速度によりトウモロコシ(Zea mays)細胞にDNAを送達する方法の例示的な実施形態は、懸濁液の中で培養されたトウモロコシ細胞で覆われたフィルター表面上に、DNAで被覆された粒子をステンレススチールまたはNytexスクリーンなどのスクリーンを通して加速するために使用できる、微粒子銃α粒子送達システムである。本発明での使用に適した粒子送達システムである、ヘリウム加速PDS-1000/He銃は、Bio-Rad Laboratories社から入手可能である。
【0162】
衝撃のために、懸濁液中の細胞は、フィルター上に濃縮することができる。衝撃される細胞を含むフィルターは、微粒子停止プレートの下の適切な距離に配置される。必要に応じて、一つ若しくはそれ以上のスクリーンが、また、銃と衝撃される細胞の間に配置される。
【0163】
あるいは、未熟胚または他の標的細胞は、固体のインキュベート培地に配置してもよい。衝撃される細胞は、微粒子停止プレートの下の適切な距離に配置される。必要に応じて、一つ若しくはそれ以上のスクリーンが、また、加速デバイスと衝撃される細胞の間に配置される。本明細書で設定される技術の使用を介して、一時的にマーカー遺伝子を発現する、1000個以下若しくはそれ以上の形質転換巣の細胞を得ることができる。形質転換巣における、衝撃48時間後に外来遺伝子産物のを発現する細胞数は、しばしば、1~10個の範囲にあり、平均して、1~3個である。
【0164】
衝撃形質転換において、安定な形質転換体の最大数を得るために、衝撃の前の培養条件及び衝撃パラメータを最適化できる。衝撃のための物理的及び生物学的パラメータの両方が、この技術において重要である。物理的因子は、DNA/微粒子沈殿を操作することを含むもの、または、マクロ、若しくは、ミクロ粒子のいずれかの飛行及び速度に影響を与えるものである。生物学的因子は、衝撃前、及び、衝撃直後の細胞の操作;衝撃に関連する外傷を軽減するための標的細胞の浸透圧調整;及び、また、線状化されたDNAまたは完全なスーパーコイルプラスミドなどの形質転換DNAの状態を含む、全ての段階を包含する。衝撃前の操作は、未熟胚の形質転換の成功のために、特に重要であると考えられる。
【0165】
別の更なる実施形態において、プラスチドは、安定的に形質転換することができる。高等植物におけるプラスチド形質転換のために開示された方法は、選択マーカーを含むDNAの粒子銃送達と、相同的組換えによるプラスチドゲノムへのDNAの標的化を含んでいる(US5,451,513、US5,545,818、US5,877,402、US5,932479、及び、WO99/05265)。
【0166】
従って、条件を十分に最適化するために、小規模研究において衝撃パラメーターの様々な態様を調整することが望ましいと想定される。特に、ギャップ距離、飛行距離、組織距離及びヘリウム圧などの物理的パラメータを調整することが望ましい。また、レシピエント細胞の生理的状態に影響を与える条件を改変することにより外傷の低減要因を最小化し、従って、形質転換及び組込み効率に影響を及ぼすことができる。例えば、レシピエント細胞の浸透圧状態、組織水和、及び継代培養段階または細胞周期は、最適な形質転換のために調整されうる。他の日常的な調整の実行は、本開示に照らして当業者に公知であろう。
【0167】
アグロバクテリウム媒介による形質移入は、植物細胞に遺伝子を導入するために広く適用できるシステムである。何故ならば、DNAを、全植物組織に導入することができるからであり、それゆえにプロトプラストから完全な植物を再生する必要性が回避される。植物細胞にDNAを導入するためのアグロバクテリウム媒介植物組み込みベクターの使用は、当技術分野で公知である(参照、例えば、US5,177,010、US5,104,310、US5,004,863、US5,159,135)。さらに、T-DNAの組込みは、わずかな再構成しか生じない比較的正確な工程である。移入されるDNAの領域は、境界配列により定義されており、介在するDNAは、通常、植物ゲノムに挿入される。
【0168】
現代のアグロバクテリウム形質転換ベクターは、アグロバクテリウムのみならず、大腸菌でも複製が可能であり、それにより記載されているような便利な操作を可能にする(Klee et al., In:Plant DNA Infectious Agents, Hohn and Schell, eds.,Springer-Verlag, New York, pp.179-203(1985)。また、アグロバクテリウム媒介遺伝子移入のためのベクターにおける技術的進歩により、ベクター中の遺伝子及び制限部位の配置が改善されており、様々なポリペプチドをコードする遺伝子を発現できるベクターの構築が容易である。記載されたベクターは、挿入されたポリペプチドをコードする遺伝子を直接発現するためのプロモーターとポリアデニル化部位の近傍に、便利なマルチリンカー領域を有しており、本発明の目的に適している。また、武装した、及び、非武装のTi遺伝子の両方を含むアグロバクテリウムが、形質転換のために使用することができる。アグロバクテリウム媒介の形質転換が有効であるこれらの植物品種においては、遺伝子導入が容易であり明確な性質であるため、それが選択すべき方法である。
【0169】
アグロバクテリウム形質転換法を用いて形成されたトランスジェニック植物は、一般的には、1つの染色体上に単一の座位を含有する。そのようなトランスジェニック植物は、追加された遺伝子に対してヘミ接合であると言うことができる。より好ましくは、追加された構造遺伝子に対してホモ接合型であるトランスジェニック植物、即ち、2つの追加された遺伝子、染色体対の各染色体上の同一座位における1つの遺伝子を含有するトランスジェニック植物である。ホモ接合トランスジェニック植物は、単一の追加された遺伝子を含む独立した分離個体であるトランスジェニック植物を交配し(自家受粉)、生成した種子の一部を発芽させ、目的の遺伝子について得られた植物を分析することによって得ることができる。
【0170】
また、2つの異なるトランスジェニック植物が、独立して分離している2つの外因性遺伝子を含む子孫を作製するために交配できることを理解すべきである。適切な子孫の自殖により、両方の外因性遺伝子に対してホモ接合型である植物を作製することができる。親植物に対する戻し交配、及び、非トランスジェニック植物との異系交配が、また、栄養繁殖として意図される。異なる形質、及び、作物に一般的に使用される他の育種方法の説明は、Fehr,In:Breeding Methods for Cultivar Development, Wilcox J. ed.,American Society of Agronomy,Madison Wis.(1987)に見出すことができる。
【0171】
植物プロトプラストの形質転換は、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレングリコール処理、エレクトロポレーション、及び、これらの処理の組み合わせに基づいた方法を用いて達成することができる。異なる植物品種へのこれらのシステムの適用は、プロトプラストからその特定の植物株が再生する能力に依存する。プロトプラストから穀物植物を再生するための例示的方法が記載されている(Fujimura et al.,1985;Toriyama et al.,1986;Abdullah et al.,1986)。
【0172】
細胞形質転換の他の方法として、花粉への直接DNA移入;植物の生殖器官へのDNAの直接注入;または、乾燥胚を再水和させた後、未熟胚細胞へのDNAの直接注入などによる、植物へのDNA導入などが使用することができるが、それに限定されるものではない。
【0173】
単一の植物プロトプラスト形質転換体から、または、様々な形質転換された外植片からの植物の再生、生育、及び、栽培は、当該分野で公知である(Weissbach et al.,In:Methods for Plant Molecular Biology,Academic Press,San Diego, Calif.,(1988)。この再生及び生長工程は、一般的に、形質転換細胞を選択し、胚発生の通常の段階を経て、発根小植物体段階を通る、それらの個別の細胞を培養する複数の段階を含む。。トランスジェニック胚及び種子は、同様にして再生される。生成したトランスジェニック根付き新芽は、その後、土壌などの適切な植物生長培地に植えられる。
【0174】
外来性の外因遺伝子を含有する植物の発育または再生は、当技術分野で公知である。好ましくは、再生された植物は、ホモ接合トランスジェニック植物を提供するために自家受粉されたものである。さもなくば、再生された植物から得られた花粉を、農学的に重要な系統である種子から育つ植物に交配させる。逆に、これらの重要な系統である植物の花粉は、再生された植物を受粉するために使用される。所望の外因性核酸を含む本発明のトランスジェニック植物は、当業者に公知の方法を用いて栽培される。
【0175】
主として、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを使用することにより、双子葉植物を形質転換し、トランスジェニック植物を得るための方法は、綿(US5,004,863、US5,159,135、US5,518,908)、大豆(US5,569,834、US5,416,011)、アブラナ属(US5,463,174)、落花生(Cheng et al, 1996)、及びエンドウ(Grant et al,1995)について公表されている。
【0176】
外因性核酸の導入により植物に遺伝的変異を導入するための、及び、プロトプラストまたは未成熟植物胚から植物を再生のための、オオムギなどの穀物植物を導入するための方法は、公知である。例えば、CA2,092,588、AU61781/94、AU667939、 US6,100,447、PCT/US97/10621、US5,589,617、US6,541,257、及びWO99/14314を参照する。好ましくは、トランスジェニックオオムギ植物は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を媒介した形質転換手法により生成される。所望の核酸コンストラクトを保有するベクターは、組織培養植物または外植片の再生可能なオオムギ細胞、または、プロトプラストなどの適切な植物系に導入することができる。
【0177】
再生可能オオムギ細胞は、未熟胚の胚盤、成熟胚、これらから誘導されたカルス、または、分裂組織に由来するものが好ましい。
【0178】
トランスジェニック細胞及び植物における導入遺伝子の存在を確認するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の増幅、または、サザンブロット分析を、当業者に公知の方法を用いて行うことができる。導入遺伝子の発現産物は、産物の性質に応じて、ウェスタンブロット及び酵素アッセイを含む多様な方法のいずれかで検出することができる。タンパク質の発現を定量し、異なる植物組織における複製を検出するための特に有用な方法の一つは、GUSなどのレポーター遺伝子を使用することである。トランスジェニック植物が得られたら、それらを所望の表現型を有する植物組織または部分を作製するために生長させることができる。植物組織または植物部分を収穫する、及び/または、種子を収集することができる。種子は、所望の特性を有する組織または部分を備え、さらに植物を生長させるための供給源として役立つ。
【0179】
変異植物の生成:
内因性ホルデイン遺伝子を変異させることにより、ホルデインレベルの低下したオオムギを生成するために使用することができる当該分野で公知の多くの技術が存在しており、TILLING、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、及び、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(CRSPR)を含むが、それに限定されない。
【0180】
TILLING:
本発明の植物は、TILLING(Targeting Induced Local Lesions IN Genomes)として知られている方法を用いて作製することができる。第一の段階において、種子(または花粉)を化学変異原で処理することにより新規の単一塩基対の変化などの突然変異が植物の集団に誘導され、その後、変異が安定的に継承される世代に植物を進める。DNAを抽出し、繰り返して長期間アクセスできる資源を創造するために、集団のすべてのメンバーから種子が貯蔵される。
【0181】
TILLINGアッセイのために、PCRプライマーは、特に、目的の単一の遺伝子標的を増幅するように設計されている。標的が遺伝子ファミリーのメンバー、または、倍数体ゲノムの一部である場合、特異性は特に重要である。次に、色素で標識化されたプライマーを、集めた複数の個体のDNAからPCR産物を増幅するために使用することができる。これらのPCR産物は、変性され、ミスマッチ塩基対の形成を可能にするために再アニーリングされる。ミスマッチ体、または、ヘテロ二本鎖は、天然に存在する一塩基多型(SNP)を表し(すなわち、集団からのいくつかの植物が、同じ多型を運ぶ可能性がある)、及び誘導されたSNP(すなわち、まれな個々の植物のみが、その突然変異を持つ可能性がある)の両方を表している。ヘテロ二本鎖を形成した後、ミスマッチのDNAを認識して切断するCel Iなどのエンドヌクレアーゼの使用は、TILLING集団内の新規SNPを発見するための鍵となる。
【0182】
このアプローチを使用して、ゲノムの任意の遺伝子または特定領域での小さな挿入、または、欠失(1~30bp)に加え、ゲノムの単一塩基変化を有する任意の個体を同定するために何千もの植物をスクリーニングすることができる。分析されたゲノム断片は、0.3~1.6kbまでの任意のサイズの範囲とすることができる。
8倍のプールでは、アッセイ当たり1.4kbの断片(SNP検出がノイズにより問題となる末端を割り引く)が96レーンで行われるが、この組み合わせは、ゲノムDNAの百万塩基対を単一のアッセイでスクリーニングすることを可能にし、TILLINGを高スループット技術にしている。
【0183】
TILLINGは更に、Slade、及び、Knauf (2005);並びに、Henikoff et al.,(2004)に記載されている。
【0184】
変異の効率的な検出を可能にすることに加えて、高スループットTILLING技術は、天然の多型を検出するのに理想的である。したがって既知の配列に未知の相同DNAでヘテロ二重鎖を形成することによる調査で、多型部位の数と位置を明らかにすることができる。少なくともいくつかの反復配列の繰り返し数を含む、ヌクレオチドの変化、及び、わずかな挿入及び欠失の両方を識別することができる。これは、Ecotillingと呼ばれている(Comai et al.,2004)。
【0185】
各SNPは、数ヌクレオチド内でのおおよその位置で記録される。このように、各々のハプロタイプは、その移動度に基づいてアーカイブすることができる。配列データは、ミスマッチ切断アッセイのために使用されるものと同じ増幅DNAの一定量を使用して、比較的小さな労力の追加で得ることができる。単一の反応のための左または右の配列決定プライマーは、多型に近接している部位で選択される。シーケンサーのソフトウェアは、マルチプルアライメントで塩基の変化を発見し、それぞれのケースでゲルバンドにより確認される。
【0186】
Ecotillingは、完全なシークエンシングよりも安価に行うことができ、この方法は、現在、専らSNP検出で使用されている。突然変異誘発植物からのDNAプールよりもむしろ、配置された生態型のDNAを含むプレートの方がスクリーニングすることができる。ゲル上での検出は、ほぼ塩基対の分解能を有しており、またレーン全体のバックグラウンドが均一であるので、同じサイズであるバンドを一致させることができ、その結果、単一のステップでSNPを検出し、遺伝子型を判定することができる。この方法において、SNPの最終的なシークエンシングは、簡単で、効率的であり、スクリーニングのために使用したものと同じPCR産物の一定量をDNA配列決定に供することができるという事実がそれを一層裏付けている。
【0187】
部位特異的ヌクレアーゼを使用したゲノム編集:
ゲノム編集は、配列特異的なDNA結合領域を非特異的DNA切断モジュールに融合させて構成されている、設計されたヌクレアーゼを使用する。これらのキメラヌクレアーゼは、標的DNAの二本鎖切断を誘発し、それを修復するために、細胞の内因性DNAの修復機構が刺激されることにより、、効率的かつ正確な遺伝子改変を可能にする。そのような機構には、例えば、エラーが発生しやすい非相同末端結合(NHEJ)、及び、相同性配向型修復(HDR)が含まれる。
【0188】
拡張された相同性アームを有するドナープラスミドの存在下では、HDRは、既存の遺伝子を修正するか、または代替するために、単一または複数の導入遺伝子を導くことができる。ドナープラスミドが存在しない場合、NHEJ媒介修復は、遺伝子破壊の原因となる標的の小さな挿入または欠失変異をもたらす。
【0189】
本発明の方法において有用な設計されたヌクレアーゼとしては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFNを)、及び、転写活性体様(TAL)エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)が挙げられる。
【0190】
一般的にヌクレアーゼをコードした遺伝子は、プラスミドDNA、ウイルスベクター、または、生体外で転写したmRNAにより、細胞に送達される。蛍光代用レポーターベクターの使用は、また、ZFN-、及び、TALENを改変した細胞の濃縮を可能にする。ZFN遺伝子送達システムの代替として、細胞は、細胞膜を横断し、内因性遺伝子の破壊を誘導することができる精製されたZFNタンパク質と接触させることができる。
【0191】
複雑なゲノムは、しばしば、意図されたDNA標的と同一または高度に相同的な配列の複数のコピーを含んでおり、潜在的なオフターゲット活性及び細胞毒性につながる。これに対処するために、構造(Miller et al., 2007;Szczepek et al., 2007)及び選択(Doyon et al.,2011; Guo et al.,2010)に基づいたアプローチが、改善されたZFN及び最適化された切断特異性と低い毒性を有するTALENのヘテロ二量体を生成するために使用することができる。
【0192】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、DNA結合領域、及び、DNA切断領域で構成されており、ここで、DNA結合領域は、少なくとも1つのジンクフィンガーを含み、作動的にDNA切断領域に連結されている。ジンクフィンガーDNA結合領域は、タンパク質のN末端にあり、及び、DNA切断領域は、該タンパク質のC末端に位置する。
【0193】
ZFNは、少なくとも一つのジンクフィンガーを有する必要がある。好ましい実施形態において、ZFNは、宿主細胞または生物における標的遺伝子組換えのために有用な十分な特異性を有するために、少なくとも3つのジンクフィンガーを有することが望まれる。一般的に、3つ若しくはそれ以上のジンクフィンガーを有するZFNは、ジンクフィンガーが追加されるにつれ、際だって高い特異性を有するようになる。
【0194】
ジンクフィンガー領域は、任意のクラスまたはタイプのジンクフィンガーから誘導できる。特定の実施形態においては、ジンクフィンガー領域は、極めて一般的にみられるCis2His2タイプのジンクフィンガーであり、例えば、転写因子であるTFIIIAまたはSp1のジンクフィンガーにより構成される。好ましい実施形態において、ジンクフィンガー領域は、3つのCis2His2タイプのジンクフィンガーを含む。DNA認識、及び/または、ZFNの結合特異性は、細胞のDNA中の任意の選択された部位で標的としている遺伝子の組換えを達成するために変更することができる。そのような改変は、公知の分子生物学、及び/または、化学合成技術を用いて達成することができる(例えば、Bibikova et al.,2002を参照)。
【0195】
ZFNのDNA切断領域は、あるクラスの非特異的DNA切断領域、例えば、FokIなどのタイプII制限酵素のDNA切断領域に由来している(Kim et al.,1996)。他の有用なエンドヌクレアーゼとしては、例えば、HhaI、HindIII、Nod,BbvCI、EcoRI、BglI、及び、AlwIを含めることができる。
【0196】
ZFNの切断領域と認識領域の間のリンカーは、存在する場合、生成したリンカーが柔軟であるように選択されたアミノ酸残基の配列を含む。または、標的部位への最大の特異性のために、リンカーなしのコンストラクトも作られる。リンカーなしのコンストラクトは、強い結合指向性を示し、その後認識部位から6bp離れた間で切断される。しかし、0~18アミノ酸長のリンカー長を有するZFN介在の切断では、5~35bp離れた認識部位の間で起こる。リンカー長が与えられているために、結合及び二量体化の両方と一致した認識部位間の距離は制限されているだろう(Bibikova et al.,2001)。好ましい実施形態において、切断及び認識の領域間にリンカーは存在せず、標的座位が6つのヌクレオチドのスペーサーにより区切られた互いに逆方向の2つの9塩基の認識部位を含む。
【0197】
本発明の好適な実施形態により、遺伝子組換えまたは変異を標的にするために、2つの9bpのジンクフィンガーDNA認識配列は、宿主DNAで特定されていなければならない。これらの認識部位は、約6bpのDNAで互いに逆方向に区切られる。ZFNは、その後、標的である座位で特異的にDNAに結合するジンクフィンガーの組み合わせを設計及び作成し、そして、その後、DNA切断領域へジンクフィンガーを連結することによって形成される。
【0198】
ZFNの活性は、ヌクレアーゼ発現レベルを増加させるための一時的な低温の培養条件の使用(Doyon et al.,2010)、及び、DNAの末端プロセシング酵素による部位特異的ヌクレアーゼの共送達(Certo et al.,2012)により改善することができる。ZFN媒介ゲノム編集の特異性は、誤りやすいNHE-J修復経路を活性化することなくHDRを刺激するジンクフィンガーニッカーゼ(ZFNickases)を使用することにより改善することができる(Kim et al.,2012;Wang et al.,2012; Ramirez et al.,2012;McConnell Smith et al.,2009)。
【0199】
転写活性化因子様(TAL)エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)は、TALエフェクターDNA結合領域及びエンドヌクレアーゼ領域を含む。
【0200】
TALエフェクターは、病原体により注入される植物病原細菌のタンパク質であり、植物細胞内でそれらが核に移動し、特定の植物遺伝子を活性化する転写因子として機能する。TALエフェクターのアミノ酸一次配列は、それが結合するヌクレオチド配列を反映している。従って、標的部位は、TALエフェクターにより予測することができ、そしてTALエフェクターは、特定のヌクレオチド配列へ結合するように設計及び形成することができる。
【0201】
TALエフェクターをコードする核酸配列は、ヌクレアーゼまたはヌクレアーゼの一部をコードする配列、一般的に、FokIなどのII型制限エンドヌクレアーゼからの非特異的切断領域(Kim et al.,1996)と融合される。他の有用な酵素として、例えば、HhaI、HindIII、Nod、BbvCI、EcoRI、BglI及びAlwIを含めることができる。いくつかのエンドヌクレアーゼ(例えば、FokI)は、二量体としてのみ機能するという事実は、TALエフェクターの標的特異性を強化するために利用できる。例えば、いくつかの場合において、それぞれのFokIモノマーを、異なるDNA標的配列を認識するTALエフェクター配列に融合することができ、2つの認識部位が近接している場合にのみ、不活性であるモノマーが集まり、機能性酵素が作製される。ヌクレアーゼの活性化にDNAの結合が必要であることにより、高度に部位特異的な制限酵素を作製することができる。
【0202】
配列特異的TALENは、細胞内に存在する予め選択された標的ヌクレオチド配列内の特定の配列を認識することができる。従って、いくつかの実施形態において、標的ヌクレオチド配列をヌクレアーゼ認識部位について走査することができ、特定のヌクレアーゼが標的配列に基づいて選択される。他の例では、TALENは、特定の細胞配列を標的とするように設計することができる。
【0203】
プログラム化可能な、RNA-誘導DNAエンドヌクレアーゼを使用するゲノム編集:
上記のサイト固有のヌクレアーゼとは異なり、clustered regulatory interspaced short palindromic repeats(CRISPR)/CASシステムは、対象となる遺伝子変異を誘導するためのZFN及びTALENの代替手段を提供する。細菌では、CRISPRシステムは、RNA誘導型のDNA切断を通じて、外来性DNAの侵入に対して獲得免疫を提供する。
【0204】
CRISPRシステムは、CRISPRのRNA(crRNA)、及び、侵入外来DNAを配列特異的にサイレンシングするためのトランス活性化型キメラRNA(tracrRNA)に依存している。3つのタイプのCRISPR/CASシステムが存在しており、そのうちのII型システムでCas9は、crRNA-tracrRNAの標的認識時に、DNAを切断するRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼとして機能する。切断のための相補的DNA部位に、Cas9エンドヌクレアーゼを導くために、CRISPRのRNA塩基は、tracrRNAと対になり、複合RNA構造を形成する。
【0205】
CRISPRシステムは、CASのエンドヌクレアーゼ、及び、必要なcrRNA構成成分を発現するプラスミドの共送達により、植物細胞に移植することができる。Casのエンドヌクレアーゼは、DNA修復機構上に追加の制御を提供するために、ニッカーゼに転換できる(Cong et al.,2013)。
【0206】
CRISPR座位は、別個のクラスの散在する反復配列(Short Sequence Repeats,SSR)であり、最初に大腸菌で認識された(Ishino et al.,1987;Nakata et al.,1989)。同様の散在したSSRは、Haloferax mediterranei、Streptococcus pyogenes(化膿連鎖球菌)、Anabaena(アナベナ)、及び、Mycobacterium tuberculosis(結核菌)で同定されている(Groenen et al.,1993;Hoe et al.,1999;Masepohl et al.,1996;Mojica et al.,1995)。
【0207】
CRISPR座位は、短い規則的な間隔の反復(Short Regularly Spaced Repeats,SRSR)と呼ばれている反復構造により、他のSSRとは異なっている(Janssen et al., 2002;Mojica et al.,2000)。反復は、常に一定長を有するユニークな介在配列により規則正しく間隔を置いて配置されているクラスターの中にある短いエレメントである(Mojica et al.,2000)。反復配列は品種の間で高度に保存されているものの、散在反復の数とスペーサー領域の配列は、品種により異なる(van Embden et al.,2000)。
【0208】
CRISPR座位の共通の構造的特徴は、Jansen et al., (2002)が、(i)複数の短い直接反復が存在しており、これは、所定の座位内で、全く同じ配列であるか、又は非常に小さい配列変化を示す;(ii)同様のサイズの反復の間に、非反復的なスペーサ配列が存在している;(iii)複数のCRISPR座位を保有するほとんどの種において、数百塩基対の共通のリーダー配列が存在している;(iv)座位内に長いオープンリーディングフレームは存在しない;及び、(v)1つ若しくはそれ以上のcas遺伝子が存在している;であると記載している。
【0209】
CRISPRは、一般的には、11bpまでの内側と末端の逆反復を含む24~40bpの短い部分的な回文構造を持つ配列である。単離されたエレメントが検出されているものの、それらは、一般的に、介在する20~58bpの固有の配列で区切られた、繰り返し単位のクラスター(ゲノム当たり、約20個以上)の中に配置されている。CRISPRは、一般的に均一であり、指定されたゲノム内でそれらのほとんどは同一である。しかし、例えば、古細菌のように、不均一性の例も存在する(Mojica et al.,2000)。
本明細書で使用する場合、用語「cas遺伝子」は、一般的に、CRISPR座位の近傍に連結しているか、付随しているか、近接しているか、または、隣接している1つ若しくはそれ以上のcas遺伝子を指す。casタンパク質ファミリーの包括的なレビューは、Haftらに提示されている(Haft et al.2005)。所定のCRISPR座位におけるcas遺伝子の数は、種の間で変化し得る。
【実施例】
【0210】
【実施例1】
【0211】
原料及び方法:
植物原料:
オオムギ系統の品種Sloop(野生型)は、オーストラリアの冬穀物コレクション(Australian Winter Cereals Collection)(Tamworth, Australia)から入手した。Risφ56(B-ホルデインを発現しない)、及び、Risφ1508(C-ホルデインを発現せず、D-及びB-ホルデインは低発現)(Doll,1973;Doll,1983)は、北欧の遺伝資源バンクから入手した(Alnarp,Sweden)。Risφ1508は、エチレンイミン誘導された突然変異体であり、染色体5H上のlys3a遺伝子に変異を保有し、C-ホルデインの蓄積が少ない。これらの各系統は、一般に入手可能である。植物は、日中25℃、及び、夜間20℃の温室条件下で生長させ、収穫した種子は、汚染物を除去するために検査した。麦芽化と醸造の実験のために、品種Sloop、Risφ56及びRisφ1508の植物は、CSIRO Ginninderra Experimental Station、Canberraの圃場で、並べて生長させ、そして各々10kgの穀粒が収穫された。穀粒を麦芽化し、標準的な技術を用いて20Lバッチのビールを醸造した。
【0212】
粉からのプロラミン抽出:
プロラミン(アルコール可溶性タンパク質)を抽出するために、穀粒は、標準的な技術を用いて、全粒粉に粉砕した。水洗した全粒粉(10グラム)中のプロラミンは、55%(v/v)の2-プロパノール(HPLCグレード)に溶解させ、2%(w/v)のジチオストレイトール(DTT)で65℃、45分間インキュベートし、2容積の2-プロパノールで、一晩-20℃で沈殿させた。沈殿したプロラミンは、8Mの尿素、1%DTT、25mMのトリエタノールアミン塩酸塩(pH6)に溶解させ、4mLで、Resource RPCカラム(GE Healthcare, Sydney, NSW, Australia)を用いた高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)により精製し、1%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)に30mLのアセトニトリルを3~60%(v/v)に直線勾配させて(流速2mL/分)溶出した。
【0213】
フィルターを用いたサンプルの調製(FASP)方法:
ホルデイン抽出物(50μL)を、PALL Nanosep 10 MWCOフィルターに移した。200μLの8Mの尿素(Sigma社製)/0.1M Tris塩酸塩水溶液pH8.5(UA)を加え、混合物を14,000rpm、約20℃で15分間遠心分離した。チューブを透過した画分は廃棄した。200μLのUAを、更にフィルターユニットに添加し、14,000rpmで、15分間再遠心分離した。100μLのIAA溶液(0.05Mのヨードアセトアミド/UA)を添加し、サンプルを、20℃に設定したサーモミキサーで、600rpm、1分間混合し、次いで20分間、混合することなくインキュベートした。100μLのUAをフィルターユニットに添加し、15分間、14,000×gで、遠心分離した。この手順を2回繰り返した。100μLの0.05MのNH4HCO3(重炭酸アンモニウム、ABC)水溶液をフィルターユニットに添加し、10分間、14000×gで遠心分離した。この手順を2回繰り返した。15μLのトリプシン保存液(1.5μg/μL、Sigma社製)と共に40μLのABCを添加し、各サンプルをサーモミキサーで、1分間、600rpmで混合した。フィルターユニットは、酵素分解のため、4~18時間、37℃の湿潤チャンバー中でインキュベートした。フィルターユニットは、新しい回収チューブに移し、10分間、14,000rpmで遠心分離した。40μLのABCを添加し、フィルターユニットは、10分間、14,000rpmで再度遠心分離した。この手法を1回繰り返した。透過画分に、15μLの5%ギ酸を添加し、凍結乾燥した。抽出し、乾燥したペプチドは、MRMによる分析のために、30μLの0.5%ギ酸に再懸濁した。
【0214】
麦芽汁及びビールの調製:
オオムギは、数個の800gの缶中で、Joe White Micromaltingシステムを用いて麦芽させた。浸漬方式は、17℃で8時間浸漬、9時間静止、5時間浸漬(Sloop);17℃で8時間浸漬、10時間静止、5時間浸漬(Risφ56);及び、17℃で7時間浸漬、8時間静止、3時間浸漬(Risφ1508)を含む。発芽は、Sloopは16℃、2つのホルデイン欠失変異体は15℃で、94時間かけて発生させた。窯の設定は、50~80℃で、21時間以上であった。窯で焙燥した麦芽を、Colgraveら(2012)に記載されている通りマッシングした。示されているアミラーゼの静止時間の後、マッシュを沸騰させ、麦芽汁を製造するために1時間煮沸した。沸騰中には、沸騰した麦芽汁は、21~22IBUを達成するために、Tettnangホップで苦味を付けた。麦芽汁を20℃で一晩冷却し、その後、Fermentis US-05イーストを用い、18~20℃で発酵させ、約2週間後に完了させた。濾過していないビールは、樽に詰め、瓶詰めの前に炭酸を付与した。
【0215】
ビールの分析:
60種の市販ビールの選択が、Colgrave et al.(2012)の別表1に示す通り得られた。それぞれの2つの異なる瓶から3連のサンプル(1mL)を採取し、減圧下でCO2を除去するために脱気した。脱気したビールを一定量(100μL)採取し、20μLの50mMのDTTを添加し、60°Cで、30分間、N2気流下で還元した。これらの溶液に、20μLの100mMヨードアセトアミド(IAM)を添加し、サンプルを室温で15分間インキュベートした。各々の溶液に、5μLの1mg/mLトリプシン(Sigma社製)または、キモトリプシン(Sigma社製)を添加し、サンプルを一晩、37℃でインキュベートした。分解したペプチド溶液を、10μLの5%ギ酸を添加することにより酸性化し、10kDaのMWフィルター(Pall, Australia)に通した。濾液を凍結乾燥し、1%ギ酸中で再構成し、分析まで4℃で保存した。
【0216】
未分解麦芽汁及びビール:
野生型(Sloop)由来のオオムギ及びホルデイン欠失変異体の麦芽汁及びビール(0.1mL)は、30分間、14,000rpmで遠心分離することにより、10kDaの分子量を除くフィルター(Paul)に通し、LC-MS/MSに適したペプチド画分を生成した。ペプチド画分(10μL)を、QStar Elite質量分析計で分析した。
【0217】
Q-TOF MS:
サンプルは、5μmの粒子サイズを有するVydac MS C18300Åのカラム(150m×0.3mm)(Grace Davison, Deerfield,USA)を使用して、3μL/分の流速で20分間かけて、溶媒Bを2~42%に直線勾配させて、ShimadzuナノHPLCシステム(島津製作所製、Rydalmere、Australia)のクロマトグラフィーで分離した。移動相は、溶媒A(0.1%ギ酸)、及び、溶媒B(0.1%ギ酸/90%アセトニトリル/10%水)より構成されている。QStar ELiteQqTOF質量分析計(Applied Biosystems社製)は、ナノエレクトロスプレーイオン源を備えた標準的なMS/MSデータ取得モードで使用した。分析したMSスペクトルは、最も強い親イオンを元に(MS/MSに対して、10カウント/秒の閾値、2+~5+の荷電状態、及び、m/z=100~1600質量範囲)、3つのMS/MS測定の後、メーカーの「スマート出口」を用いて、1秒間(m/z=400~1800)収集した。以前に標的とした親イオンは、30秒間の反復MS/MSの収集(100mDAの質量許容範囲)から除外した。
【0218】
線形イオントラップ(三段四重極)MS:
還元及びアルキル化したトリプシンペプチドは、陽イオンモードで操作するTurboVイオン源を装備した、アプライドバイオシステム4000 QTRAP質量分析計(Applied Biosystems社、Framingham、MA、USA)で分析した。サンプルは、Phenomenex Kinetex C18(2.1mm×10cm)製カラムで、400μL/分の流速、15分間で5~45%のアセトニトリル(ACN)を直線勾配させることによりShimadzu NexeraUHPLC(島津製作所製)のクロマトグラフィーを用いて分離した。HPLCからの溶出液は直接質量分析計に流れる。データを取得し、Analyst 1.5ソフトウエア(登録商標)を用いて処理した。Information Dependent Acquisition (IDA)分析には、サーベイスキャンが質量範囲350~1500で、タンデム型マススペクトルの収集を目的とした、強化されたMS(EMS)スキャン(EMS)を用いた。定義した閾値(100,000カウント)を超える2つのトップイオンが選択され、そして、初めに、質量範囲125~1600の強化されたプロダクトスキャン(EPI)を入手する前に、強化された分割(ER)スキャンにかけた。
【0219】
マススペクトルの分析及びデータベースの探索:
Paragon Algorithmを備えたProteinPilot(登録商標)4.0ソフトウェア(Applied Biosystems社製)を、タンパク質の同定のために使用した。タンデム型質量分析データは、Uniprot(2011/05版)、及び、NCBI(2011/05版)データベースのインシリコでのTriticeae連のタンパク質のトリプシン、または、キモトリプシン分解に対して検索した。すべての検索パラメータは、分解酵素としてトリプシンまたはキモトリプシンのいずれかで、システインアルキル化で修飾されたヨードアセトアミドとして定義した。修飾は、このソフトウェアパッケージに付属している「ジェネリック精製」及び「生物学的」修飾セットに設定されており、126の可能性のある改変、例えば、アセチル化、メチル化、及び、ホスホリル化から成る。ジェネリック精製の修飾セットには、例えば、酸化、脱水、脱アミドなど、サンプル処理の結果として発生し得る51の改変が含まれる。1つ切断し損なわれたペプチドを分析に含めた。
【0220】
特注の穀物データベースの構築及び応用:
少数の特注の穀物種子貯蔵タンパク質のデータベースは、NCBI、TIGR Gene Indices、または、TIGR Plant Transcript Assembliesが所有するTriticum、Hordeum、Avena、Secale、及び、Triticosecale連におけるヌクレオチド登録から報告されたすべてのタンパク質配列を含めることにより構築されている。上記の種のヌクレオチド配列は、6つのフレームで翻訳され、最長のオープンリーディングフレームのみを維持するためにトリミングされた。得られたタンパク質配列のセットは、非重複化した。 最初から最後まで100%合致する配列のみが、すべての多様性を保持するために、一緒に潰された。最後に、これらのファイルは、グルテン、グリアジン、グルテニン、ホルデイン、アベニン、または、セカリンの言葉を含むエントリのみを保持するために選別した。タンデム型の質量分析データは、カスタム穀物データベースに対して検索した。
【0221】
タンパク質の配列及び原型ペプチドの同定:
既知の全てのホルデインタンパク質はUniprotデータベースで、そして予測されるホルデインタンパク質はTIGRデータベースで揃えた。それぞれのファミリー(B、C、Dまたはγ)内の共通ペプチドを、ファミリーの代表として選定した。MRM遷移は、各ペプチドに対して決定され、そこでは前駆体イオン(Q1)のm/zは各ペプチドのサイズ及び予想される電荷に基づいており、そしてフラグメントイオン(Q3)のm/zは、既知のフラグメント化パターン、及び/または、キャラクタリゼーションのワークフローで収集されたデータを用いて予測される。最大6までの遷移が予備的な分析に使用され、そのMRM遷移は細分化され、上位2つのMRM遷移が最終的な方法で使用するためにペプチド毎に選択される。ここで、最も強いMRM遷移を定量用に使用し、第二の最も強い遷移を確認用に使用した。
【0222】
MRM質量分析:
MRM実験は、ホルデイン由来のトリプシンペプチドの定量化のために使用した。IDA及びMRM双方によるMS/MS実験ののために、スキャン速度を1000Da/sに設定し、そして、ペプチドは、前駆体イオンのサイズ及び電荷に依存して回転する衝突エネルギーを用いて、衝突セルにおいて窒素ガスでフラグメント化した。ホルデインペプチドの定量化は、各MRM遷移と1秒のサイクル時間に対して、120秒の検出窓を使用してスケジュール化したMRMスキャン実験を使用して実施した。最初の四重極は、分析物、いわゆる前駆体イオンの質量電荷比(m/z)を選択するために使用した。前駆体イオンは、その後、衝突セル(第2四重極)に移送された。衝突誘起解離(CID)は、第3の四重極に移送されたフラグメントイオンの生成をもたらすことになる。質量選択の第2段階は、具体的には、既知のフラグメントイオンのm/z値を標的とする。2つの質量選択の段階はQ1及びQ3として知られ、選択が生じる四重極を指す。従って、Q1からQ3への遷移は、MRM遷移として知られ、選択した分析物に対して高度に特異的かつ択的である。
【0223】
ホルデインの相対定量化:
各ホルデインの相対定量化は、各ペプチドについて最も強いMRM遷移のピーク面積を積分することにより行った。平均ピーク面積は、ボトルA及びB(生物学的に複製を表す)から、2回の繰り返し測定(異なる日に)の平均をとることによって決定した。結果は、すべてのグルテン含有ビールのホルデイン平均含量に対する各ホルデインタンパク質の百分率として提示される。
【実施例2】
【0224】
オオムギ粉におけるホルデインの特性評価:
アルコール溶液に可溶化することにより、オオムギ粉(野生型品種Sloop)から抽出されたホルデインは、実施例1に記載の通り、FPLCで精製された。精製されたホルデイン画分は、還元され、アルキル化され、トリプシンまたはキモトリプシン分解に供された。酵素分解後、10kDa未満の画分は、精製されたプロラミン画分に存在するホルデインを同定するためにLC-MS/MSにより分析され、この粉から醸造されたビール中に存在すると予想される全ホルデインタンパク質が得られた。1%の偽発見率(FDR)を使用して、全部で144のタンパク質がトリプシン分解後に同定され、全部で55のタンパク質がキモトリプシン分解後に同定された。
【0225】
表1に、トリプシン分解後に粉から検出されたホルデインタンパク質の生成物を記載した。検出された最も豊富なタンパク質の中には、以前に報告されたB3-ホルデイン(アクセッション番号:P06471、Kristoffersen et al.,2000)、γ-3-ホルデイン(P80198、Fasoli et al.,2010)及び予測されたγ-1-ホルデイン(P17990、Cameron-Mills et al.,1988)があった。同様に、D-ホルデイン(Uniprot:Q84LE9、Gu et al.,2003)が、豊富に検出された。2つのγ-ホルデイン及び1つのB1-ホルデインを含む、少ない量の他のタンパク質が検出され、それはNCBIまたはUniprotデータベースのいずれにも存在しなかった(表1)。これらのタンパク質は、NCBI、TIGR Gene Indices、またはTIGR Plant Transcript Assembliesに登録されているヌクレオチドから翻訳された穀物タンパク質からなる特注のデータベースを検索することにより同定された。予測されたγ-グリアジン及びグルテニン(コムギから)、及び、アベニン様タンパク質-A(コムギ及びヤギムギから)に合致するいくつかのペプチドが検出された。SDS-PAGEにより単離された16~17kDaのタンパク質バンドのトリプシン分解から生じる15個のアミノ酸ペプチド(QQCCQPLAQISEQAR;配列番号:5)の検出に基づき、アベニン様Aタンパク質はビール中に存在することが報告された(Picariello et al.,2011)。そのペプチド配列は、同一の予測タンパク質配列(Uniprot:F2EGD5)に合致する、さらなる13個のアミノ酸(aa)のペプチドに加えて、BLASTp検索で決定される通り、オオムギからの単一タンパク質中の配列と合致した。Aegilops cylindrica(ヤギムギ)から、アベニン様タンパク質A(Uniprot Q2A782)に合致する、11個のaa(MVLQTLPSMCR;配列番号:6)のペプチドもまた、検出された。翻訳されたESTデータベース(TIGR)のその後の検索で、オオムギタンパク質が11個のaaペプチドと証明されることを明らかにした。予測したアベニン様タンパク質A及びγ-ホルデインタンパク質の間の相同性に基づいて、これらをその後の分析に含めた。
【0226】
単一のペプチドの同定により、ホルデイン画分内にC-ホルデインの存在が示唆されたが、既知のC-ホルデインタンパク質の配列アラインメントから、これらのグルタミンリッチタンパク質内にトリプシン切断部位が存在しないことが明らかとなった。結果として、ホルデイン画分のキモトリプシン分解により最大80%の配列カバー率を伴うC-ホルデインが同定され(表2)、この種類のホルデインを特徴付ける代替分解戦略の必要性を強調している。
【0227】
【0228】
【実施例3】
【0229】
麦芽汁及びビール中のホルデインの特性評価:
麦芽汁、醸造中のマッシング工程から抽出された液体及びビールの分析が、続いて実施され、類似した一連のプロラミンが同定された(表3)。合計27タンパク質が麦芽汁中で同定され、そして、79タンパク質は、ビール中で同定され、最も量の多いタンパク質である、非特異的な脂質輸送タンパク質1(LTP1)及びα-アミラーゼトリプシン阻害剤(CMd、CMb、CMa)を有していた。麦芽汁中で同定されたグルテンタンパク質は、以前にホルデインが豊富な画分で観察されたアベニン様Aタンパク質(18ペプチド)、γ-ホルデイン-3(10ペプチド)、及び、D-ホルデイン(4ペプチド)を含む。50%超のペプチドは、トリプシン作用が半分(Lys/Arg以外の部位の一端で切断される)であるが、タンパク質の著しい分解が醸造工程の間に生じたことを示しているのは興味深い。ESTデータベース検索から同定されたアベニン様タンパク質(GenBankアクセッションNo.BE195337)は、タンパク質同定の信頼性を上昇させる、>60%の配列カバー率(12ペプチド)で検出された。
【0230】
C-ホルデインタンパク質はビールの中に目立って存在しないが、これがトリプシンの切断部位の数が少ないことによる偽陽性ではないということを確かめるために、キモトリプシン分解を行い、ビール中にC-ホルデインが存在しないことを確認した(表3)。C-ホルデインの不在は、おそらく、水に不溶性であることに関連していた。C-ホルデインは、PQQPFPQQ(配列番号:7)のコンセンサス配列を有する複数のオクタペプチドの繰り返し単位から構成され、それらは高度に不溶性であった。C-ホルデイン分解生成物の多くは、麦芽汁で同定されるが、ビール製造につながる醸造及び濾過工程には存在しなかった。
【0231】
ペプチドのフラグメントを特徴付けるために、麦芽汁及びビールは10kDaの分子量を除くフィルターに通過させ、酵素分解なしで分析した。1D-PAGE分析は、濾過工程がビールからタンパク質を除去するのに効率的であることを明らかにした。MS分析は、いくつかの短縮型または分解したホルデイン生成物の存在を明らかにした。表4は、同定されたペプチドのフラグメントを示す。ホルデインペプチドに加えて、セルピン-Z4、非特異的脂質輸送タンパク質1、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、ホロインドール(Hordoindoles)(B1、B2)及びGAPDHを含む、オオムギタンパク質由来のペプチドは、麦芽汁及びビールで同定された(Colgrave et al.,2012の、表4及び補足の表2に記載される)。興味深いのは、麦芽汁では多数のC-ホルデインが観察され、ビールではC-ホルデインペプチドが微量のみ検出されたことである。
【0232】
酵素分解していないビールの特性評価により、そのままのホルデインに加えて、部分的に分解されたホルデイン断片が多数存在し、これらもセリアック病の毒性に寄与し得ると明確に証明される。これらのペプチド断片の多くは、セリアック病患者において免疫応答を誘発し得るGln及びProの配列を含んでいた。検出された潜在的に免疫原性のペプチドの例には、FVQPQ[QQPFP]LQPHQP(アベニン様A;GenBank:TA31086、配列番号:8);YPEQP[QQPFP]WQQPT(γ-1-ホルデイン;P17990、配列番号:9);LERP[QQLFP]QWQPLPQQPP(γ-3-ホルデイン;P80198、配列番号:10);及びLIIPQQP[QQPFP]LQPHQP(C-ホルデイン;P17991、配列番号:11)があり、ここで[ ]で括られた配列は、以前に報告された免疫原性ペプチドと高度な相同性を有する(Tye-Din et al.,2010;Kahlenberg et al.,2006)。
【0233】
【0234】
【実施例4】
【0235】
MRM質量分析によるビール中のホルデインの相対定量:
実施例2の精製されたホルデイン及び実施例3のビールのプロテオミクス特性評価により、オオムギ中に存在する主要なホルデインタンパク質の解明が可能となった。多重反応モニタリング(MRM)がペプチド及びタンパク質の定量に有用なツールであることを確認した。この方法では、タンパク質をトリプシン分解後、タンパク質分解断片をHPLCクロマトグラフィーにより分離し、MRM質量分析により分析した。最初の四重極(Q1)は、第一のペプチドのm/z値(前駆体の質量)を選択し、衝突セル(Q2)に、このイオンを移行させた。衝突誘起解離は、タンパク質分解断片のアノ酸配列に関連するフラグメントイオン系列の生成をもたらした。特徴的なフラグメントイオンを第3の四重極(Q3)で選択し、目的のペプチドを定量可能な検出器に送った。一般的に、タンパク質当たり少なくとも2つのペプチドで、ペプチド当たり3つのMRM遷移が用いられた。
【0236】
それぞれのタンパク質ファミリーからの単一のアイソフォームが、選択育種系のオオムギから醸造されたビールのグルテン含有量をモニターするために選択された(下記参照)。複数のトリプシンペプチド(>2のペプチド/タンパク質)を、定量的アッセイの開発のために選択した。これらのペプチドが過去の定性実験で検出された場合、そのペプチドのm/z、及び、フラグメントイオン情報を、使用するMRM遷移を決定するために使用した。最初に同定されなかった多くのペプチドは、最低でもタンパク質当たり2つのペプチドが用いられるようにMRMアッセイに含めた。これらの例では、保持時間が分からず、最初の通過実験でMRM遷移をスケジュール化できなかった。ペプチドの保持時間を決定した後の実験では、スケジュール化されたMRM遷移を使用した。
【0237】
単一の優良なオーストラリア麦芽用オオムギ(「Sloop」)に由来するビールは全てのホルデインタンパク質を含んでいるため、MRM法の開発と改良に使用した。一方で、オオムギの変異種(Risφ56及びRisφ1508)は、B及びC-ホルデイン含量が低い、または欠失していることが予想された。野生型及び2つのホルデイン変異体のオオムギ粒(Risφ56及びRisφ1508)のサンプルから醸造されたビールをMRMアッセイにより分析したとき、8つの選択されたペプチド(ペプチド当たり3つのMRM遷移)が、野生型のオオムギビールに対してすべて明確に観察された。Risφ56ビールは、D-ホルデインペプチドの量で、約3倍の低下を示したが、B-ホルデインペプチドは、明確に存在しなかった。Risφ1508ビールでは、測定された各ペプチド量がさらに減少していたが、微量のアベニン様Aタンパク質が観察された。
【0238】
分析方法の再現性は、単一品種のオオムギビール(「Sloop」)を調べることにより評価した。第一に、ビールは、複数の凍結融解サイクル(1、10、20、または、50サイクルのいずれか)にかけたが、50サイクル後でも各々のモニターされたMRM遷移のピーク面積で、有意な変化(変動係数、CV:<15%)は観察されなかった。第二に、分解効率は、<15%のCVをもたらす、6回の繰り返し分解産物により検討した。分析の再現性は、<15%のCVで各分解物を4回繰り返し分析することにより評価した。最後に、二つの異なるボトル間でのホルデイン含量の変動を評価し、<10%であることが判明した。
【0239】
市販ビールの分析:
ビール中のホルデインを定量するMRM法の更なる検証は、低グルテン及びグルテンフリーと表示されたビールを含む60種の市販ビールから、選択したグルテン含有量を分析することにより提供される。別々のボトルからの2連のサンプルを還元、アルキル化及び分解(実施例1)処理し、MRM質量分析により分析した。
図2は、Sloopに対する市販ビール中のアベニン様Aタンパク質(A)、B-ホルデイン(B、C)、D-ホルデイン(D)及び、γ-ホルデイン(E)の相対量を示す。非グルテンフリービールの平均値と比較して、市販ビールは、種類(所属するホルデインファミリー)、及び、量(任意の所定のホルデインタンパク質の平均値の参照値は、1~380%)で変化することが観察された。8つのビール(番号:17、47、49、50、51、52、58及び60)は、ソルガム麦芽、テフ、コメ、キビまたはトウモロコシから醸造されたので、グルテンフリーと表示された。これらの穀物は、オオムギ及びコムギに存在するグルテンタンパク質を欠失している。MRMアッセイにより、8つのビールが標的となるホルデインタンパク質及びホルデイン関連のタンパク質(アベニン様A)を欠失していることを確認した。ビール17及び50~52は、ソルガムベースであり、ビール47は、何からつくられたかを特定しなかった。ビール49は、キビベースであり、ビール58はソルガム麦芽、テフ、及びコメから醸造され、ビール60は、非穀物由来のビールであった。低グルテン(<10ppm)に分類されている2つのビール(57及び59)での試験において、相対的なホルデイン含有量は、試験したビールの範囲にわたって平均的なホルデイン含有量と変わらなかった。ビール57は、低アベニン様Aタンパク質レベル(参照平均値:~50%)を示したが、意外にも、B1-ホルデイン(参照平均値:>300%)、D-ホルデイン(~105%)及びγ3-ホルデイン(~62%)由来のペプチドで有意なレベルを示した。ビール59は、低レベルで、有意なレベルのB1-ホルデイン、D-ホルデイン、及び、γ-ホルデイン(それぞれ、55%、42%及び92%)、及び、グルテン含有ビールで観察されたものと同等レベルのアベニン様Aタンパク質を示した。
【0240】
結論:
オオムギから作られたビールは、醸造工程において、使用される穀粒に由来するグルテンを含有していた。ビール中のグルテンのレベルは、ELISAを使用して測定できるが、しかし、現在のELISA技術を用いたホルデインの正確な測定には、関連する多くの制限がある。上記の実施例において、質量分析アッセイは、精製されたホルデイン調製物、麦芽汁及びビール中のすべてのホルデインを特徴付けるため、及び最も豊富なホルデインタンパク質の相対定量を行うために開発された。質量分析法を用いたアッセイは、粒紛、麦芽汁及びビールにおけるホルデイン(グルテン)を測定するのに堅牢かつ高感度であり、麦芽に容易に適用することができる。
【実施例5】
【0241】
オオムギのHor3遺伝子におけるヌル変異の同定:
105kDaのオオムギD-ホルデインのポリペプチドは、染色体1Hの長腕上のHor3遺伝子によりコードされる(Gu et al.,2003)。Ethiopia R118と命名されたオオムギの野生種は、D-ホルデインを蓄積しないことが認識されており(Brennan et al., 1998)、公的に入手可能な遺伝資源コレクションである、ジョンイネスセンター公開コレクション(The John Innes Centre Public Collections)から入手した(アクセッション No. 3771)。この品種は、穀物の商業製造には全く不向きなオオムギの野生種であった。
【0242】
Ethia R118の穀粒は、温室で播種した。結果として得られた植物は、2系統と6系統の表現型として、並びに、黒、着色種子及び緑色種子用に分離して観察した。緑色の種子を製造する二条性の系統が選択され、品種Sloopと交配した。D-ホルデインの製造に陰性であったF2半種子が選択された。この系統の植物は、野生型Sloopに戻し交配し、そして、D-ホルデインに対してヌルであるF2植物が再度選択された。この植物は、Sloopに戻し交配され、後代植物は、D-ホルデイン産生が陰性であり、スループゲノムの約87.5%の遺伝的背景を有するBC2系統を作成するために、再び、戻し交配された。
【0243】
D-ホルデインをコードする遺伝子は、Sloop BC2、Ethiopia R118由来のD-ホルデイン陰性植物、及びその野生型であるSloopのそれぞれから単離したゲノムDNAから増幅した。これは、標準的な条件を用いたPCRによるものであり、そして一連の3つのオーバーラップしたフラグメントを生成した。増幅に使用されたプライマー対は:
フラグメント1:
5′Dhor1:GACACATATTCTGCCAAAACCCC(配列番号:60)及び
3′Dhor3:ACGAGGGCGACGATTACCGC(配列番号:61)
フラグメント2:
5′Dhor1b:GAGATCAATTCATTGACAGTCCACC (配列番号:62);及び
3′Dhor1:CTTGTCCTGACTGCTGCGGAGAAA(配列番号:63);
フラグメント3:
5′Dhor2:GCAACAAGGACACTACCCAAGTATG(配列番号:64);及び
3′Dhor2:GCTGACAATGAGCTGAGACATGTAG(配列番号:65);
である。
【0244】
増幅産物を精製し、それぞれの塩基配列を決定した。アセンブルしたSloopからの配列は、2838bp長であり(配列番号:72)であり、Ethiopia R118由来の配列は、2724bp長(配列番号:73)であった。両タンパク質の予測ATG翻訳開始コドンは、それぞれの配列の位置398~400にあった。Sloopでは、終止コドンは、747アミノ酸残基のタンパク質をコードする、ヌクレオチド位置2641~2643にあった。Ethiopia R118からの配列の分析では、Sloopと比較した場合、Hor3遺伝子の位置848(開始コドンに対して位置450)でCからGへの変化があり、インフレームにTAG終止コドンが導入されることによりタンパク質中の位置150(
図3)においてポリペプチドの短縮化がもたらされることが明らかにされた。このD-ホルデインポリペプチドの短縮化は、セリアック病患者の免疫原性であることが示されているエピトープを含むプロリン及びグルタミンリッチな領域よりも前の部分で起こっていた。
【0245】
このヌクレオチド置換により、栽培品種Sloopの野生型のヌクレオチド配列中に存在するKpnI部位がなくなるため、共優性CAPSマーカーの開発が可能である。この目的のために、272bpのDNA断片をプライマ:5′-Dhor-マーカー(GGCAATACGAGCAGCAAAC、配列番号:66)、及び、3′-Dhor-マーカー(CCTCTGTCCTGGTTGTTGTC、配列番号;67)(
図4)のプライマー対を用いて増幅した。増幅産物を、その後、制限酵素KpnIとともにインキュベートし、アガロースゲル上で電気泳動した。野生型のオオムギSloopからの断片は、KpnIにより切断されて164bp及び108bpの2つの断片を生成した。これとは対照的に、D-ヌルEthiopia R118からの272bpの断片は、分解されなかった。従って、この方法により、D-ホルデインをコードする遺伝子の野生型とヌル変異型アリルを明確に判別することが可能であった。
【実施例6】
【0246】
オオムギのHor2座位での欠失変異のための分子マーカーの同定:
オオムギ染色体1Hの短腕上にあるHor2座位は、約36~45kDaの大きさの範囲において、それぞれ、B-ホルデインをコードする、約20~30の遺伝子ファミリーを含んでいる(Anderson et al.,2013)。Risφ 56は、γ線誘発によりすべて、または、ほぼ全てのB-ホルデイン遺伝子を含む約86kbの領域を欠失した突然変異体である(Kreis et al.,(1983)。この変異は、Tanner et al.(2010)が、以前に説明した通り、全ホルデインの発現レベルが大幅に低下したHor2-lys3a二重突然変異を作製するために使用される。
【0247】
野生型Hor2座位を検出し、そしてHor2欠失座位とそれを区別するために、分子マーカーを設計し、標準的なPCR条件を使用して次のように試験した。800bpのB1-ホルデインPCRバンドがない場合、Hor2座の欠如(欠損)している、即ち、Hor2の変異アリルを持っていることを意味している。この増幅に使用されるプライマー対は;
3′-B1Hor:TCGCAGGATCCTGTACAACG(配列番号:68);
5′-B1Hor:CAACAATGAAGACCTTCCTC(配列番号:69);
であった。
【0248】
各DNAサンプルについて、450bpの特徴的なPCRバンドを生成するコントロールPCR反応を、プライマー対:
5′-γ-Hor3:CGAGAAGGTACCATTACTCCAG(配列番号:70);
3’-γ-3:全長:AGTAACAATGAAGGTCCATCG(配列番号:71);
を使用して実施したところ、γ-ホルデイン座位の存在が示され、サンプルDNAの品質はHor2反応用として十分であることが確認された。
【実施例7】
【0249】
三重ヌルオオムギ変異体の生成:
WO2009/021285で、G1*として識別されるHor2-lys3a二重変異体オオムギ系統のF5植物は、F6子孫を生成するために、温室内で生育させた。F6植物は、その後、F7子孫を生成するために、圃場で生育させた。Hor2-lys3a変異体をHor3ヌル変異体と組み合わせるために、F7世代の植物は、Ethiopia R118(実施例5)に由来するD-ホルデイン陰性のBC2植物と交配し(実施例5)、そのF1子孫は、F2種子を製造するために自家受粉した。F2種子を半分に切断し、胚芽のある半分を発芽させ、そして、その苗を、、実施例5及び6の通り、B-及びD-ホルデインのスクリーニングのためと、γ-ホルデインのためのPCRを行った。胚乳を含むそれぞれの種子の残り半分は、8Mの尿素及び1%のDTTを含む溶液中で粉砕し、そして、抽出タンパク質をSDS-PAGEで分離した。約50kDaの特徴的なタンパク質バンドが存在しないことは、C-horタンパク質が存在しないことを示している。T1、T2及びT3と命名された3つのホルデインの三重ヌルは、約300のF2種子から同定された。メンデル遺伝学による、3つの劣性変異の組み合わせによる、各々のホモ接合型の予想頻度は1/64であり、Hor2(B-ホルデイン)、及び、Hor3(D-ホルデイン)の座位は、容易に組み換えが起こるように、染色体1H上で十分に分離されていることが推定された。
【0250】
T1、T2及びT3と命名された3つの変異体(Hor2-lys3a-Hor2)のそれぞれについて、ホモ接合型の3つの植物を維持し、単粒系統法で3世代まで繁殖させ、各世代で最も重い12の種を選択した。これらの系統からのF3種子の平均重量は、T1:38.2mg;T2:37.0mg;T3:39mgであった。系統当たりの種子収量(20穂当たりの種子グラム)、及び、植物の高さを測定した。穂先に穀粒が十分に満ちていない植物は廃棄した。T2-4-8及びT2-6-A5の2つのF4系統が選択され、これらを更に、圃場で試用した。この内、T2-4-8が、わずかに良好な穀物収量を有したことからこれを選択し、オオムギULG3.0と命名した。
【0251】
穀粒サイズ及び形状及び穀粒の収量指標に関連する、オオムギ粒用の重要な表現型は、2.8、2.5、2.2及び2.0mmの網目サイズ、特に、2.8mmのふるいを通過しない粒子の割合である。小さい穀粒は、野生型オオムギと比べて加工及び麦芽化においてあまり効率的ではない。この表現型は、「2.8mmのスクリーニング」と呼ばれ、特定のふるいを通過しない穀粒の割合として示される。Sloopなどの野生型品種の場合、2.8mmスクリーニングのパラメータは、一般的に、95~98%である。Hor2-lys3aなどのホルデイン欠失系統の場合、二重変異体(ULG2.0)の2.8mmスクリーニングのパラメータは、概して約53%であった。時には、生長条件、例えば、干ばつに依存して、それは10%未満であり、粒子の大部分は、2.5mmのふるいを通過することができた。ULG3.0については、2.8mmのスクリーニングパラメータは、約54%であった。圃場で生長した穀粒の平均重量(mg)は、Sloop:53.6±0.9;ULG2.0:33.5±0.4;ULG3.0:39.1±0.3であった。従って、ULG3.0は、ULG2.0が野生型Sloop(100%)に対して50%の収量であったのに比べ、69%の穀粒収量をもたらした。従って、ULG3.0は、ULG2.0系統に比べて、穀粒収量が大幅に向上した。しかし、2.8mmのスクリーニングパラメータは、オオムギULG3.0においても問題が残ったままであった。
【実施例8】
【0252】
収量の増加を伴う更なる三重のヌルオオムギ変異体の生成:
ULG3.0オオムギ系統は、ULG2.0と比較して、収量が増加しているものの、より一層増加することが望まれた。したがって、ULG3.0の植物を、野生型のSloop品種、Baudin及びYagan、並びに、各々の親の生殖質を50%含むことが同定されたホルデイン三重ヌル系統の植物と交配した。これらのホルデイン三重ヌル系統は相互交配させ、また、野生型の品種Hindmarsh及びCommanderと交配させた。全ての3つのヌル変異を含む子孫は、Sloop、Baudin、Hindmarsh及びCommander、並びに、単粒系統法により作製された複数のホモ接合系統の植物と2回、戻し交配した。作製された多くの系統の内、生じた1つの系統を選択し、オオムギULG3.1と命名した。
【0253】
Sloop、Yagan、及び、Baudin種の植物との相互交配から、各々の三重ヌル変異を含む植物の始まりとなる3つの親品種の遺伝的背景を組み合わせるために、第二ラウンドの相互交配を実施した。相互交配したF1植物から得られる全ての子孫が、3つの変異の全てを含むことが予想された。列当たり約1000個のF2種子を、圃場列に播種した。相対的に丈の短いF2植物を選択し、そして、大きな穀粒を持ち、十分に満たされた穂先を有するF3種を作成した。初期及び後期成熟植物の両方を選択した。圃場で発育したそれ以降の世代において、更に、相対的に高い穀物アミラーゼ、相対的に高い収穫指数及び穂先長、最適な高さ(半矮性)、倒伏の欠如、及びうどんこ病に対する耐性を示した系統が選択された。1500ファミリーから、最良であった約20を選択した。最良20系統におけるデータは表5に提示した。個々の種子重量(穀粒重量)はULG3.0の41.8mg/種を超えて改善されており、そのうち最大のものはP12072-2の系統で観察された48.4mg/種であった。この種子サイズの改良は、収穫指数の増加に伴うものであり、種形成効率の測定では40%を超えており、最大のものは系統P12124-1の46.5%であった。最も重要なことは、2.8mmスクリーニングにおける割合が、ULG3.0が53.5%であったのに対して80%を超えており、系統P12140-1においては97.3%に改良していた。
【0254】
Hor2-lys3a-Hor3の3つのヌルアリルについてホモ接合型である植物を作成するために、一つの選択された系統が単粒系統法により固定され、ULG3.2と命名された。ULG3.2の2.8mmスクリーニングパラメータは、圃場で生育させた幾つかの繰り返し試験において、80~93%の範囲であり、Sloopに対して約97%;Hindmarshに対して85%;Oxford野生種に対して96%;及びMaratimeに対して98%であった。
【0255】
種の平均重量及び肉厚は、ULG2.0:33.4mg、2.4mm;ULG3.0:41.8mg、2.5mm;ULG3.2:47.2mg、2.8mmであった。
【0256】
【実施例9】
【0257】
三重ヌルオオムギ変異体におけるホルデインの測定:
多重反応モニタリングによる質量分析(MRM MS)法を用いたによるULG3.0粉のホルデイン含量の定量:
ホルデイン含有量を正確に測定するために、MRM MSアッセイを以下の通りに使用した。穀粒または半粒は、全粒粉のように、全穀粉と同じ組成を有する粒粉を製造するために粉砕した。20mgの粉サンプルからのプロラミンポリペプチドは、55%(v/v)のイソプロパノール及び2%(w/v)のジチオトレイトール(DTT)を含有する溶液200μLを用いて抽出した。5mgの粒粉に相当する一定量の抽出物は、10kDaのMWを除外するフィルターユニットを用いて、3回遠心分離することにより、8M尿素/0.1Mのトリス塩酸塩(pH8.5)に緩衝液に置換した。ポリペプチド中のシステインは、室温で1時間、50mMのヨードアセトアミド100μLを加えて、インキュベートすることによりアルキル化した。緩衝液は、100μLの50mM重炭酸アンモニウム水溶液(pH8.5)で置換し、ポリペプチドは、10μL(20μg)のトリプシンで18時間、37℃で分解した。ペプチドは10kDaのフィルターを通して濾過することにより回収し、乾燥し、30μLの1%(v/v)ギ酸で再構成した。ペプチドは、0.4ml/分の流速で10分かけて溶媒Bを5%から40%へ勾配させながら、Phenomemenexカラム(Kinetex、1.7μm、C18、100×2.1mm)を装着した島津Nexera HPLCの液体クロマトグラフィーにより分離した。溶媒Aは、0.1%(v/v)のギ酸水溶液であり、溶媒Bは、0.1%(v/v)のギ酸を含む90%(v/v)のアセトニトリルであった。HPLC溶出液は質量分析計に直接送り、MRM分析はホルデイン由来のトリプシンペプチドを標的とする4000QTRAP質量分析計で実施した。データは、Analyst v1.5のソフトウェア及びMultiQuant v2.0.2ソフトウェアを使い、ピーク面積積分値を用いて解析した。
【0258】
図5は、選択されたB-ホルデイン、C-ホルデイン、D-ホルデイン、γ-3-ホルデイン(G3)、及び、γ-1-ホルデイン(G1)で得られたデータを示す。
図5は、対照群のオオムギ(野生型、品種Sloop)、ホルデイン単一ヌル系統のRis
φ56、Ris
φ1508、及び、Ethiopia R118由来のD-ヌル系統、ホルデイン二重ヌル系統ULG2.0、及び、三重ヌル系統T2-4-8、及び、T2-6-A5(全系統)からの半穀粒の4回繰り返し測定で、Sloop(100%)に対して補正した各MRM遷移のピーク面積の平均値を示す。1つの、各ホルデインファミリーを代表する基本型ペプチドが選択され、即ち、B-ホルデインに対してはTLPTMCSVNVPLYR(配列番号:48);D-ホルデインに対してはDVSPECRPVALSQVVR(配列番号:49);C-ホルデインに対してはLPQKPFPVQQPF(配列番号:50);G3-ホルデインに対してはQQCCQQLANINEQSR(配列番号:50);及び、G1-ホルデインに対してはCTAIDSIVHAIFMQQGR(配列番号:51)であった。これらのペプチドは、野生型のオオムギで頻繁に、そして比較的大量に発現することに基づき選択された。
【0259】
系統T2-4-8、及び、第二の三重ヌル系統T2-6-A5からの三重ヌルのULG3.0穀粒は、検出可能なレベルのB-、C-、D-、または、最も驚くべきことに、γ-1-ホルデインを保持していないことが分かった。即ち、野生型と比べて観測されたのは1%未満であった。同様に、γ-2-ホルデインは、ULG3.0穀粒で検出されなかった。SloopにおけるG3-ホルデインと比較して、約20%のレベルで存在する、比較的低レベルのγ-3-ホルデイン(全系統)があった。γ-3-ホルデインは、微量なホルデインであり;Sloopのγ-3-ホルデイン含量は、全ホルデイン含量の1%よりはるかに少ない。単一ヌルの穀粒及び二重ヌルの穀粒は、特定のホルデインを蓄積しなかった。例えば、Risφ56及びULG2.0は、B-ホルデインを予想通り蓄積しなかった。Risφ1508及びULG2.0は、C-ホルデインを予想通り蓄積しなかった。D-ヌル穀粒は、野生型レベルのB-及びC-ホルデインを示したが、D-ホルデインは蓄積しなかった。
【0260】
いくつかの異なるペプチド配列、特に、B-ホルデイン変異体においては、終止コドンの位置より十分C末端方向にあるため、野生型のD-ホルデインタンパク質にのみ存在するD-ホルデインペプチド:AQQLAAQLPAMCR(配列番号:85)に対して分析を繰り返したとき、類似した結果が得られた(
図6)。アベニン様Aタンパク質も、また、粒粉には存在しなかった。
【0261】
ホルデイン三重ヌルであるT2-4-8及びT2-6-A5から得られた穀粒は、検出可能なレベルのB-、C-、D-ホルデイン、そして選択したγ-1(P17990)、及び、γ-2ホルデインを含んでいないことは明確であった。γ-1、及び、γ-2ホルデインで見られた結果は、それに対応する遺伝子を完全にサイレンシングさせる変異のいずれも三重ヌル変異体の系統に含まれていることが知られていなかったため、発明者にとって最も意外なものであった。
【0262】
MRMにより決定されるULG3.0穀粒の低いホルデイン含量を、二次元ゲル電気泳動法により以下の通り確認した。ホルデインヌル系統T2-4-8及びT2-6-A5、並びに、対照群のオオムギ品種Risφ56のそれぞれに由来する粉抽出物からの50μgのアルコール可溶性タンパク質の各々は、1μgの指標となるポリペプチド標準品のBSA、大豆トリプシン阻害剤及びウマミオグロビンが添加されているが、Tanner et al.(2013)に基づき、0.006%(w/v)のコロイダルクーマシー(Colloidal Coomassie)G250で染色し、標準的な20、30、40、50、60、80kDaのタンパク質と比較した(M;Benchmark Protein Ladder,Invitrogen社)。スポットは、2Dゲルから切り出し、対照群のRisφ56に由来する以下のタンパク質が、トリプシンペプチドの質量分析により同定された:C-ホルデイン、γ-2-ホルデイン(γ2)、γ-3-ホルデイン(γ3)、及びγ-1-ホルデイン(γ1)であった。ULG3.0穀粒からゲル中のγ-1-、γ-2、及び、γ-3のホルデインのスポットの予測位置は、Risφ56ゲルと比較して同定された。γ-3-ホルデインのみがULG3.0の粒粉で観察されたが、他の3つのポリペプチドは、検出されなかった。各々のスポットのγ-3-ホルデイン濃度は、以下の3つの方法で測定され:1)50μgのタンパク質からのすべてのスポット容積の割合として、ULG3.0のγ3の含量平均は、13.5±1.6ppmであった;2)1μgのBSAのスポット強度に対するULG3.0の平均γ3含量は、10.9±1.3ppmであった;3)1μgのBSAのスポット容積(強度×面積)に対して、ULG3.0の平均γ3含量は、3.4±0.41ppmであった。
【0263】
MRMにより定量されるULG3.0穀粒の低ホルデイン含量は、更に、以下の通り、ELISA法により確認した。20mgの全粒粉サンプルまたは穀粒の胚乳の半分が粉砕され、そして、振動ミル(Retsch Gmbh,Rheinische)を用いて、96ウエルで、30回/秒で、3×30秒、振とうすることにより、0.5mgのMilliQ水で3回洗浄し、14,000rpmで5分間遠心した。粒粉中のプロラミンは、対照群の系統Sloop、Risφ56、Risφ1508に対して、及び、ULG2.0、ホルデイン三重ヌル系統T1、T2、及びT3、並びに、T2-4-8及びT2-6-A5に由来する単粒系統法の子孫に対して、0.5mlの50%(v/v)イソプロパノール/1%(w/v)DTTより成るアルコール溶液に抽出された。タンパク質濃度は、Bradford(1976)に記載の通りに測定し、40ng(三重ヌルの穀粒に対して1900ng)のアルコール可溶性タンパク質を、初期抽出物から残留する任意のDTTを消失するために加えられた、一定で過剰の0.2mMのH2O2を有するELISAシステム希釈液を含む溶液で希釈した。希釈されたタンパク質溶液は、製造業者の指示書に基づき、ELISAプレートウエル(ELISASystems社、Windsor、Queensland、 AUSTRALIA)に加え、洗浄し、37℃で15分間発色させた。対照群の抽出物中のホルデイン量は、Sloopの標準に対して、0~50ngの全ホルデインと測定された。三重ヌルのホルデイン含量は、ULG2.0の標準に対して0~5ngの全ホルデインと測定された。Sloop及びULG2.0のホルデインは、Tanner et al.(2010)に記載の通りに調製した。
【0264】
ELISA法による二重ヌル粒粉の全ホルデイン含量は、野生型品種Sloopに対して2.9%である一方で、2つの選択されたホルデイン三重ヌル系統のT2-4-8及びT2-6-A5の残留ホルデイン含量は、3.9及び1.5μg/g(百万分の1、ppm:表6)であり、両者は、グルテンフリー食品中のグルテン濃度が20ppmであるFSANZ規制レベルより非常に低く、野生種Sloop穀粒中のレベルより15,000倍低かった。
【0265】
多重反応モニタリングによる質量分析(MRM MS)でのULG3.0ビールのホルデイン含量の定量:
オオムギのULG3.0の穀粒から醸造されたビールのホルデイン含量を、若干の変更を加えた実施例3及び4に記載の通りの方法を用いてMRM MSにより測定し、特定のペプチド配列を検出した。データは、
図7に示した。アッセイでは、アベニン様Aタンパク質、B1-、及び、B3-ホルデイン、D-ホルデインの欠失、及び、γ-1-ホルデイン、及び、γ-3-ホルデインの低下を示し、質量分析における背景ノイズより高く検出されなかった(
図7)。アッセイは、また、C-ホルデインが存在しないことを示した。
【0266】
【0267】
MRM MSによるULG3.1及びULG3.2粒粉のホルデイン含量の測定:
ULG3.1系統、及び、ULG3用の10候補系統の穀粒から粉砕された粒粉のホルデイン含量は、ULG3.0穀粒で記載された通り、MRM MSにより定量した。半穀粒は、粒粉へ粉砕され、20mgの粒粉(n=4回繰り返し測定)からプロラミンタンパク質が抽出され、アルキル化され、トリプシン分解され、上記の通り、MRM MSにより分析した。ULG3、1、及び、043-2~148-2と命名された二重の親系統の相互交配から作製された系統について、各々の半穀粒から得られた各々のペプチドの平均ピーク面積(3つのMRM遷移の合計)を示すデータを
図8にプロットした。これらは、対照群のオオムギ(野生タイプの品種:Sloop、Baudin、Commander、及び、Hindmarsh)、及び、三重ヌル系統T2-4-8と比較しながらプロットした。表示されたピークエリアは各々のホルデインファミリーを代表する、選択された基本型のペプチドについてであり、そのUniprotアクセッション番号、及び以下のアミノ酸配列は以下の通りである:
A-F2EGD5_QQCCQPLAQISEQAR(配列番号:52;F2EGD5から;アベニン様Aタンパク質の中心);
B1-Q40020_VFLQQQCSPVR(配列番号:53;B1-ホルデインのN末端に近接する);
B3-Q4G3S1_VFLQQQCSPVPMPQR(配列番号:54);
C-Q40055_QLNPSHQELQSPQQPFLK(配列番号:55;C-ホルデインのN末端に近接する);
D-Q84LE9_ELQESSLEACR(配列番号:56;Q84LE9から;Y150での終止コドンの前);
G1-P17990_APFVGVVTGVGGQ(配列番号:57;P17990から;C-末端ペプチド);及び
G3-P80198_QQCCQQLANINEQSR(配列番号:58; P80198から;γ3-ホルデインの中心);
のピーク面積を示した。
【0268】
図8に示した二つの親の相互交配穀におけるD-ホルデインのレベルは、ULG2.0、並びに、ホルデイン三重ヌル系統であるT2-4-8及びT2-6-A5からの穀粒のそれと類似しており、ほとんどゼロであった。D-ホルデインがT2-4-8及びT2-6-A5系統からの穀粒で検出されないことは、2D-PAGEによる観察で確認された。二つの親の相互交配穀粒におけるγ-1-ホルデインレベルも、また、ULG2.0、並びに、ホルデイン三重ヌル系統であるT2-4-8及びT2-6-A5のそれと類似していた。幾つかのULG3.2系統で、ペプチド:APFVGVVTGVGGQ(配列番号:59)のレベルはほとんどゼロであった。γ-1-ホルデインは、T2-4-8、及び、T2-6-A5系統では2D-PAGEにより検出されなかった。二つの親の相互交配穀粒におけるγ-3-ホルデインのレベルも、ULG2.0、及び、非常に低いレベルである系統124.1(ULG3.2)を除いたホルデイン三重ヌル系統のそれと類似していた。γ-3-ホルデインもまた、T2-4-8及びT2-6-A5系統では2D-PAGEにより低下したレベルで検出された。
【0269】
興味深いことに、たとえHor3変異体(D-ホルデイン)が存在していなくても、ULG2.0においてHor2及びlys3a変異の相乗効果による、D-ホルデイン含量の低下が見られた。同様に、3つの変異(Hor2-lys3a-Hor3)すべての存在により、上記のペプチドで言及されたような、相乗効果によるγ-1-、及び、γ-2-ホルデインの蓄積の低下がみられた。
【実施例10】
【0270】
殻無し三重ヌルオオムギ変異体の生成:
ULG3.0、ULG3.1及びULG3.2の選択で用いたオオムギの穀粒は、全て殻付きであり、それは麦芽汁の濾過(麦芽汁濾過)の最終段階の間、濾過床を形成する使用済み殻として醸造業に有益である。しかし、オオオムギ粒の殻は、多量の小さなシリカスパイクを有するため、ヒトが消費する前に殻を精白により除去する必要がある。別のアプローチは、遺伝的手段により殻のない穀粒を生成することである。したがって、ULG3.0の植物を、Barleymax II(WO2011/011833)と命名された殻無しオオムギ品種と交配し、SSIIa遺伝子が野生型である、殻無しの、ホルデインB、C、D-三重ヌル変異体(Hor2-lys3a-Hor3)植物を選択した。
【0271】
幾つかのF6殻無しホルデイン三重ヌルの選択物(例えば、A7_1)は、3回の単粒系統法を行った後では、粒粉中に含まれる全ホルデインは0.1ppm未満であった。
【実施例11】
【0272】
オオムギの突然変異誘発:
オオムギで選択された遺伝子の突然変異体を単離するために、Caldwell(2004)により記載されたように、メタンスルホン酸エチル(EMS)変異誘発を実施した。ULG3.0の約45,000(1.5kg)穀粒を、下記の通り、変異誘発をさせた。穀粒は、通気しながら、室温で4時間、蒸留水2.5リットルで吸収させた。吸収期間中、水は1時間毎に交換した。種子はその後、2.5Lの新たに調製した30mMEMSを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7)の中で、通気しながら室温で16時間インキュベートした。その後、室温で10分間、100mMのチオ硫酸ナトリウム2.5Lで種子を洗浄した。チオ硫酸塩での洗浄を繰り返した後、穀粒を通気しながら、室温で30分間、2×2Lの蒸留水で完全に洗浄した。種子は、翌日の圃場での植え付けの前に、空気流の元で吸収性ろ紙上で一晩、空気乾燥した。M2種子の大部分を収穫して集め、変異体を分析した。この処置後の突然変異の頻度は、1000種子当たり、目的の遺伝子における変異体は約1個であった。γ-3ホルデイン特異的モノクローナル抗体を使用して、半穀粒上のドットブロットにより種子のγ-3-ホルデインの発現喪失をスクリーニングすることにより、シグナルを示さない40粒子が、数万のM2穀粒から同定された。これらの穀粒でγ-3ホルデインが欠失していることは、モノクロナール抗体を用いたウエスタンブロットにより、及び、特定のペプチド(配列番号:58)についての質量分析により確認した。これらの穀粒におけるγ-3-ホルデインの欠失が確認された。各々の陰性であった穀粒からの胚を含む半穀粒は、発芽を可能にする培地上に植え付けた。半粒のほとんどの胚が発芽しなかったが、いくつかは発芽した。
【実施例12】
【0273】
低ホルデインのオオムギからのビールの製造:
醸造試験は、標準的な方法によりULG2.0穀粒から生成された麦芽を用いて実施し、対照群の野生型のオオムギ品種Gairdnerと比較した。Gairdnerは、オーストラリアの穀物製造地域全体で広く栽培されている半矮性の二条性のオオムギで、中期から後期に成熟させる高収率の品種である。それは、有利な条件下で良好な粒子サイズを生成し、適度な抽出レベル、発酵及び糖化力を生成し、その結果、「標準的な」業界での醸造評価試験における対照群としての使用に最適であることを表す。ULG2.0から生成した麦芽は、Gairdner麦芽(5.0%)と比較して、5.7%の若干高い水分量を有していたが、外観はGairdner麦芽と著しく異なり、穀粒は、へこみ、しわが寄っていた。ULG2.0麦芽の糖化力(DP)は、Gairdnerの299WKのDPよりもはるかに低い54WKであった。麦芽オオムギは、一般に、少なくとも250WKのDPを有する。しかし、ULG2.0の麦芽は、20分のマッシング時間の後、デンプンは陰性であり、そして、1.7°プラトーのLG結果を達成した。
【0274】
麦芽は、2つのロールミルを2回通過させることで粉砕し、穀粒の満足的な粗砕を達成した。麦芽は、その粒子形態に基づき、6つのローラーミルでより複雑に粉砕するのが最適であった。また、マッシュフィルタと連動したハンマーミルは、麦芽汁分離のための濾過桶よりも使用できる。粉砕された製品は、余分な散布液を添加して、65℃の初期温度で20分間、その後74℃で5分間、標準的な方法により磨り潰した。全体的に、ULG2.0の麦芽のしなびた形態は、通常の麦芽と比較して、満足に粉砕し、磨り潰すことが困難になる。磨り潰し製品は、その後、濾過し、そこで、再び、ULG2.0のしなびたモルホロジーが、困難を引き起こした。濾過床は、停止するのに必要な排水、及び、再度集めた濾過床をチャネル化するには離れていた。潜在的な抽出物のかなりの量は、目標が14°プラトーを達成したとき、10.96°及び、11.12°のプラトーのすべてで、ケトル値を達成し、非効率的な粉砕に起因して、濾過処理中に失われた。pH、EBC色、及び、β-グルカンのレベルは、許容できるものであった。粉砕の欠乏は、また、濾材として機能するのに殻床の効率的な形成がなかったことを意味し、より低い予想抽出物に貢献した。麦芽汁の透明性は、30Lの流失で、許容可能まで改良したが、流出による透明性は、床形成が乏しいことに起因して、最初は非常に曇っていた。
【0275】
生成した麦芽汁は、120時間、18.5℃で、酵母株サッカロミセスウバルムA(Saccharomyces uvarum A)で発酵させた。発酵プロファイルは正常であったが、ジアセチルの有意なレベルは、発酵重力が終わりに達した後、延長されたジアセチル残存相が与えられた後でさえも残存するが、発酵の開始時に、延長された誘導期には存在しなかった。ビールが、酵母を、再吸収し、及び、ジアセチルを代謝することを可能にするために、0℃にビールを冷却する前に、より高い発酵温度で放置されるところで、ジアセチル残渣があった。一般的に、発酵の終了時の24時間は、酵母の時間がこの製品を破壊することを可能にするために必要とされる。これは、両方のULG2.0の試作ビールでは発生しなかった。異性化ホップ抽出物は、30mg/Lで添加し、リカーは、シリカヒドロゲルを添加して澄明にした。完成した明るいビールは、対照群の醸造より物理的安定性が低かった。初期の冷却したヘイズは、高いと考えられ、強制した冷却ヘイズは、通常の仕様外であった。しかし、冷却ヘイズは、微粒子を形成しなかった。
【0276】
完成したビールは、訓練された醸造パネリストによる官能分析を行ったところ、粉砕及び濾過工程での困難性にも関わらず、麦芽の醸造パフォーマンスに関連する事項に与えられた結果は、驚くほど良好であった。DMS(硫化ジメチル)が、優勢な味であったが、しかし、これは不快と見なされていなかった。DMSの存在は、しばしば、オーストラリアのビール風味の障害と考えられているが、一般的に、ヨーロッパに、特に、ドイツビールによく受け入れらている。醸造に関するコメントは、ULG2.0ビールが対照群のビールにあまりにも似ていないことであり、そして、それらはビールとしてまずまずなレべルであり、ドイツビールを連想させるものであった。明白な「粗くて」または「穀物」タイプの風味、及び、「グルテンフリー」として販売されている市販のビールの代表であり得るULG2.0ビールにザラザラ感なく、渋味もなかった。全体的な風味プロファイルは、許容され、合理的であった。
【0277】
ビールは、ULG2.0と同様の方法によりULG3.0のオオムギ粒から作られ、ULG3.2のオオムギ粒からも作られた。主として、製粒工程は、粒の皴が少なくなったことに起因して改善されたので、ULG3.0粒の麦芽製造は、ULG3.0粒に比べて改善された。ULG3.0から作られたビールは、許容可能かつ合理的な味の良好な品質であった。ULG3.2からの穀物の改良された粒子形態(サイズ及び形状)により、醸造工程の粉砕及び濾過が容易となり、1ppm未満の全ホルデインを有するビールが提供された。
【実施例13】
【0278】
ULGオオムギを使用した食品の製造:
2つの小スケール(10グラム)のパンを、ULG3.0及びULG3.2オオムギ系統を用いて焼き上げた。小スケールのパンは、テストを目的として焼き上げたが、この方法は商業的な量へ容易にスケールアップすることができる。1つのパンは、上述したように粉砕し、粉成分として100%のULGオオムギ粉で作られたが、一方、第二のパンは、粉の成分としてコメ粉などの粉30%と市販の非グルテン粉70%のブレンドで作られた。粉(13.02g)及び他の成分は、35gのミキソグラフの中で、生地形成時間が最大になるまで混合した。それぞれの場合に、粉13.02gを基準にして使用しれたレシピは、粉:100%、塩:2%、乾燥酵母:1.5%、植物油:2%及び発酵強化剤:1.5%である。水の添加量は、ミクロZアーム吸水値に基づいており、全ての配合のために調整されている。成形、発酵は、40℃、85%の室内湿度で、二段階発酵工程で行われる。焼成は、190℃で14分間、ROTELのオーブン中で行われた。
【0279】
パンは、20ppm未満のグルテン含有量を含み、CDを患う対象者によるヒトの消費に適している。
【0280】
広く記載された本発明の精神または範囲から逸脱することなく、特定の実施例に示すように、多数の変形、及び/または、改変が本発明に対して実施されてもよいことは、当業者により理解されるであろう。従って、本発明の実施形態は、あらゆる点に関して、例示として考慮され、かつ、限定するものではないことを考慮されるべきである。
【0281】
本出願は、2013年6月13日に出願されたAU2013902140、及び、2013年7月11日に出願されたAU2013902565に優先権を主張し、両方の内容は、参照することにより、本明細書に導入したものとする。
【0282】
本明細書で議論された、及び/または、参照された全ての刊行物は、その全体を本明細書に組み込まれている。
【0283】
本明細書に含まれている文書、行動、物質、装置、物品などの任意の議論は、本発明のための文脈を提供する目的のためだけである。これらの事項のいずれかまたは全ては、従来技術の基礎の一部を形成するとして、または、本発明に関連する分野における共通で一般的な知識は、本出願の各請求項の優先日前に存在していたことを承認されるものと解釈すべきではない。
【0284】
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