(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】正極用化合物及び正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/52 20100101AFI20230606BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230606BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20230606BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230606BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230606BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
H01M4/52
H01M4/525
H01M4/50
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020507755
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2019010859
(87)【国際公開番号】W WO2019181788
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2018053308
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】花村 直也
(72)【発明者】
【氏名】畑 未来夫
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-082323(JP,A)
【文献】特開2000-294236(JP,A)
【文献】特開平11-007954(JP,A)
【文献】国際公開第2016/126622(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/068263(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
C01G 53/00-53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子が凝集した二次粒子であり、ニッケル複合水酸化物を含む核と、前記核の表面にコバルト元素が500ppm以下及びリン元素が10ppm以下であるニッケル元素を含む被覆層と、を有する正極用化合物であり、
前記被覆層のニッケル元素の含有量が、前記核100質量部に対して5質量部以上20質量部以下、
前記ニッケル元素を含む被覆層の平均一次粒子径が、10nm以上90nm以下、
前記二次粒子の平均圧壊強度が45.0MPa以上である正極用化合物。
【請求項2】
前記核が、コバルト、亜鉛、マンガン、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、イッテルビウム及びタングステンからなる群から選択された金属元素を少なくとも1種含む請求項1に記載の正極用化合物。
【請求項3】
さらに、パラジウム化合物を含む請求項1または2に記載の正極用化合物。
【請求項4】
アルカリ蓄電池の正極活物質用である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の正極用化合物。
【請求項5】
前記核が、一般式(1)
Ni
(1-x)M
x(OH)
2+a (1)
(式中:0<x≦0.2、0≦a≦0.2、Mは、コバルト、亜鉛、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、イットリウム及びイッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を示す。)で表される請求項4に記載の正極用化合物。
【請求項6】
非水系電解質二次電池の正極活物質の前駆体
用である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の正極用化合物。
【請求項7】
前記核が、一般式(3)
Ni
(1-z)P
z(OH)
2+c (3)
(式中:0<z≦0.7、0≦c≦0.28、Pは、コバルト、亜鉛、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、イッテルビウム及びタングステンからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を示す。)で表される請求項6に記載の正極用化合物。
【請求項8】
請求項7に記載の正極用化合物を前駆体として用いた、非水系電解質二次電池用正極活物質
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の正極用化合物に関し、特に、高強度を有し、高温放置後において優れた容量維持率を有する正極用化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄電池の正極用化合物の高性能化のために、核である金属水酸化物の表面に金属元素を有する被覆層を形成することがある。例えば、高い正極利用率と、サイクル特性を向上させたアルカリ蓄電池用正極活物質として、核である水酸化ニッケルの表面をコバルト酸化物で被覆した表面修飾水酸化ニッケルが提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかし、特許文献1の水酸化ニッケルの表面をコバルト酸化物で被覆した正極活物質では、25℃では良好な利用率とサイクル特性が得られるものの、高温放置後における容量維持率に改善の余地があった。
【0004】
また、水酸化ニッケル表面に金属被覆層を形成する方法として、水酸化ニッケル微粒子を無電解めっき浴中で撹拌しながら、塩化パラジウムおよび塩酸を主成分とする溶液を投入することにより、水酸化ニッケル微粒子の表面にパラジウム触媒を担持させると同時に無電解めっきを行うことで、無電解めっきの被覆層を形成することが提案されている(特許文献2)。特許文献2では、無電解めっきの被覆層は、ニッケル-リンの複合被膜からなるものである。
【0005】
このように、特許文献2では、無電解めっきの被覆層にはリン元素が多く含有されている。しかし、リン元素は蓄電池の性能向上、特に、容量維持率を阻害する場合があり、特許文献2では、やはり、高温放置後における容量維持率に改善の余地があった。
【0006】
また、蓄電池の正極用化合物には、長期間に渡って安定して性能を発揮するために、耐久性、すなわち、機械的強度も要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-52695号公報
【文献】特開2004-315946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、高温放置後における容量維持率に優れ、高強度を有する正極用化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様は、一次粒子が凝集した二次粒子であり、ニッケル複合水酸化物を含む核と、前記核の表面にコバルト元素が500ppm以下及びリン元素が10ppm以下であるニッケル元素を含む被覆層と、を有する正極用化合物であり、前記被覆層のニッケル元素の含有量が、前記核100質量部に対して5質量部以上20質量部以下、前記二次粒子の平均圧壊強度が45.0MPa以上である正極用化合物である。本明細書では、正極用化合物の平均圧壊強度は、株式会社島津製作所製「微小圧縮試験機MCT-510」にて測定した値を意味する。
【0010】
本発明の態様は、前記核が、コバルト、亜鉛、マンガン、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、イッテルビウム及びタングステンからなる群から選択された金属元素を少なくとも1種含む正極用化合物である。
【0011】
本発明の態様は、前記ニッケル元素を含む被覆層の平均一次粒子径が、10nm以上100nm以下である正極用化合物である。本明細書では、被覆層のニッケル元素の平均一次粒子径は、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)にて被覆層を観察した画像から一次粒子を10個選択し、選択した上記一次粒子の最長直径の部位を、それぞれ測定した値の平均値を意味する。
【0012】
本発明の態様は、さらに、パラジウム化合物を含む正極用化合物である。
【0013】
本発明の態様は、アルカリ蓄電池の正極活物質用である正極用化合物である。
【0014】
本発明の態様は、前記核が、一般式(1)
Ni(1-x)Mx(OH)2+a (1)
(式中:0<x≦0.2、0≦a≦0.2、Mは、コバルト、亜鉛、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、イットリウム及びイッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を示す。)で表される正極用化合物である。
【0015】
本発明の態様は、非水系電解質二次電池の正極活物質の前駆体用である正極用化合物である。
【0016】
本発明の態様は、前記核が、一般式(3)
Ni(1-z)Pz(OH)2+c (3)
(式中:0<z≦0.7、0≦c≦0.28、Pは、コバルト、亜鉛、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、イッテルビウム及びタングステンからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を示す。)で表される正極用化合物である。
【0017】
本発明の態様は、上記正極用化合物を前駆体として用いた、非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の態様によれば、ニッケル複合水酸化物を含む核と、核の表面にコバルト元素が500ppm以下及びリン元素が10ppm以下であるニッケル元素を含む被覆層と、を有し、被覆層のニッケル元素の含有量が、核100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であることにより、高温放置後における容量維持率に優れた正極用化合物を得ることができる。また、前記二次粒子の平均圧壊強度が45.0MPa以上なので、高強度を有する正極用化合物を得ることができる。
【0019】
本発明の態様によれば、被覆層のニッケル元素の平均一次粒子径が、10nm以上100nm以下であることにより、被覆層の表面が平滑化されて、正極用化合物の平均圧壊強度をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の正極用化合物について、詳細を説明する。本発明の正極用化合物は、一次粒子が凝集した二次粒子であり、ニッケル複合水酸化物を含む核と、前記核の表面にコバルト元素が500ppm以下及びリン元素が10ppm以下であるニッケル元素を含む被覆層と、を有する正極用化合物であり、前記被覆層のニッケル元素の含有量が核100質量部に対して5質量部以上20質量部以下、前記二次粒子の平均圧壊強度が45.0MPa以上である。従って、本発明の正極用化合物は、コア・シェル構造を有した粒子であり、ニッケルを含む複合水酸化物粒子の核とニッケルを含む被覆層を有する、ニッケル含有被覆ニッケル複合水酸化物となっている。
【0021】
粒子状である本発明の正極用化合物の形状は、特に限定されず、例えば、略球形を挙げることができる。
【0022】
本発明の正極用化合物は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子である。本発明の正極用化合物の平均圧壊強度は、45.0MPa以上である。この優れた平均圧壊強度は、被覆層のニッケル元素が微細化されていることにより、被覆層の表面が平滑化されていることに起因していると考えられる。正極用化合物の平均圧壊強度は、45.0MPa以上であれば、特に限定されず、高い平均圧壊強度ほど好ましいが、例えば、50.0MPa以上がより好ましく、55.0MPa以上が特に好ましい。正極用化合物の平均圧壊強度の上限値は、特に限定されないが、例えば、効率的に製造可能である点で、100MPaである。
【0023】
正極用化合物の粒度分布は、特に限定されないが、例えば、累積体積百分率が50体積%の二次粒子径D50(以下、単に「D50」ということがある。)の下限値は、高温耐性を得る点から、2.0μmが好ましく、2.5μmがより好ましく、3.0μmが特に好ましい。一方で、正極用化合物のD50の上限値は、密度の向上と電解液との接触面を確保することのバランスの点から、30.0μmが好ましく、25.0μmが特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0024】
正極用化合物の核の組成としては、ニッケル水酸化物を含む組成であれば、特に限定されないが、必要に応じて、ニッケルの他に、さらに、コバルト、亜鉛、マンガン、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、イッテルビウム及びタングステンからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を含む水酸化物でもよい。
【0025】
本発明の正極用化合物は、例えば、アルカリ蓄電池の正極活物質用、非水系電解質二次電池の正極活物質用、非水系電解質二次電池の正極活物質の前駆体用として用いることができる。
【0026】
本発明の正極用化合物が、アルカリ蓄電池の正極活物質用として適用される場合、核の組成として下記一般式(1)
Ni(1-x)Mx(OH)2+a (1)
(式中:0<x≦0.2、0≦a≦0.2、Mは、コバルト、亜鉛、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、イットリウム及びイッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を示す。)で表される正極用化合物を挙げることができる。
【0027】
本発明の正極用化合物が、非水系電解質二次電池の正極活物質用として適用される場合、核の組成として下記一般式(2)
Li[Liy(Ni(1-b)Nb)1-y]O2 (2)
(式中:0<b≦0.7、0≦y≦0.50、Nは、コバルト、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、イッテルビウム及びタングステンからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を示す。)で表される正極用化合物を挙げることができる。
【0028】
非水系電解質二次電池の正極活物質用の正極用化合物は、ニッケル複合水酸化物にリチウムイオンを添加して焼成することで核(例えば、一般式(2)で表される核)を調製し、得られた核に、コバルト元素が500ppm以下及びリン元素が10ppm以下であり且つニッケル元素の含有量が核100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であるニッケル元素を含む被覆層を形成することで、得ることができる。
【0029】
また、本発明の正極用化合物が、非水系電解質二次電池の正極活物質の前駆体用として適用される場合、核の組成として下記一般式(3)
Ni(1-z)Pz(OH)2+c (3)
(式中:0<z≦0.7、0≦c≦0.28、Pは、コバルト、亜鉛、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、イッテルビウム及びタングステンからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を示す。)で表される正極用化合物を挙げることができる。
【0030】
ニッケル含有被覆ニッケル複合水酸化物である本発明の正極用化合物(例えば、一般式(3)で表される核を有するニッケル含有被覆ニッケル複合水酸化物)に、さらにリチウムイオンを添加して、焼成することで、非水系電解質二次電池の正極活物質を得ることができる。上記から、非水系電解質二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池を挙げることができる。
【0031】
本発明の正極用化合物では、上記した核の表面は、コバルト元素が500ppm以下及びリン元素が10ppm以下であるニッケル元素を含む被覆層で被覆されている。上記コバルト元素及びリン元素の含有量は、被覆層中における含有量である。本発明の正極用化合物では、上記被覆層で被覆されていることで、高温放置後(例えば、90℃程度)における容量維持率が向上する。コバルト元素の含有量は500ppm以下であれば、特に限定されないが、高温放置後における容量維持率をより確実に向上させる点から、200ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、50ppm以下がさらに好ましく、10ppm以下が特に好ましい。リン元素の含有量は、10ppm以下であれば、特に限定されないが、高温放置後における容量維持率をより確実に向上させる点から、5ppm以下がより好ましく、2ppm以下が特に好ましい。上記から、ニッケル元素を含む被覆層の主成分は、ニッケル元素である。
【0032】
上記の通り、ニッケル元素を含む被覆層の組成は、コバルト元素が500ppm以下及びリン元素が10ppm以下であり、主にニッケル元素からなる。被覆層中におけるニッケルの含有量は、例えば、高温放置後における容量維持率をより確実に向上させる点から、99質量%以上が好ましく、99.9質量%以上がより好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0033】
また、被覆層のニッケル元素の含有量は、核100質量部に対して5質量部以上20質量部以下の範囲である。被覆層のニッケル元素の含有量が核100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であることにより、高温放置後においても優れた容量維持率を得ることができる。被覆層のニッケル元素の含有量は、核100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であれば、特に限定されないが、高温放置後における容量維持率をさらに向上させる点から、核100質量部に対して7質量部以上15質量部以下が特に好ましい。
【0034】
被覆層のニッケル元素は、粒子状である。ニッケル粒子が重なり合った状態で、ニッケル複合水酸化物を含む核表面を被覆している。被覆層の各ニッケル元素の形状は、特に限定されず、例えば、略球形である。
【0035】
被覆層のニッケル元素の平均一次粒子径は、特に限定されないが、10nm以上100nm以下の範囲であることが好ましい。被覆層のニッケル元素の平均一次粒子径が10nm以上100nm以下であることにより、ニッケル元素が微細化されているので、被覆層の表面が平滑化されて、正極用化合物の平均圧壊強度をさらに向上させることができる。被覆層のニッケル元素の平均一次粒子径は、20nm以上80nm以下がより好ましく、30nm以上70nm以下が特に好ましい。なお、ニッケル元素を含む被覆層は、ニッケル複合水酸化物を含む核の表面全体を被覆してもよく、ニッケル複合水酸化物を含む核の表面の一部領域を被覆していてもよい。
【0036】
また、被覆層の平均厚さは、特に限定されず、例えば、その下限値は、平均圧壊強度をより確実に向上させる点から20nmが好ましく、70nmが特に好ましい。一方で、その上限値は、主に核が正極用化合物の電池特性の発揮に寄与するところ、正極用化合物の優れた電池特性を確実に維持する点から200nmが好ましく、100nmが特に好ましい。
【0037】
後述するように、本発明の正極用化合物では、その製造にあたり、パラジウム触媒を使用する。従って、本発明の正極用化合物では、微量のパラジウム化合物が含まれる。正極用化合物中におけるパラジウム元素の含有量は、例えば、1ppm以上100ppm以下である。
【0038】
本発明の正極用化合物のBET比表面積は、特に限定されないが、例えば、密度の向上と電解液との接触面を確保することのバランスの点から、下限値は0.1m2/gが好ましく、0.3m2/gが特に好ましい。一方で、その上限値は50.0m2/gが好ましく、40.0m2/gが特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0039】
本発明の正極用化合物のタップ密度は、特に限定されないが、例えば、正極活物質として使用した際における充填度の向上の点から、1.5g/cm3以上が好ましく、1.7g/cm3以上が特に好ましい。
【0040】
本発明の正極用化合物のバルク密度は、特に限定されないが、例えば、正極活物質として使用した際における充填度の向上の点から0.8g/cm3以上が好ましく、1.0g/cm3以上が特に好ましい。
【0041】
次に、本発明の正極用化合物の製造方法例について説明する。
【0042】
上記製造方法としては、例えば、まず、核となる、ニッケル複合水酸化物粒子を調製する。ニッケル複合水酸化物粒子の調製方法は、まず、共沈法により、ニッケルの塩溶液(例えば、硫酸塩溶液)またはニッケルと他の金属元素(例えば、コバルト、亜鉛、マンガン、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、イッテルビウム及び/またはタングステン)の塩溶液(例えば、硫酸塩溶液)と錯化剤とを反応させて、ニッケル複合水酸化物粒子(例えば、水酸化ニッケル粒子、ニッケルと他の金属元素(例えば、コバルト、亜鉛、マンガン、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、イッテルビウム及び/またはタングステン)とを含む水酸化物粒子)を調製して、ニッケル複合水酸化物粒子を含むスラリー状の懸濁物を得る。懸濁物の溶媒としては、例えば、水が使用される。
【0043】
上記錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル及び上記他の金属元素のイオンと錯体を形成可能なものであれば、特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。なお、沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要に応じて、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加してもよい。
【0044】
上記塩溶液に加えて、錯化剤を反応槽に連続して供給すると、ニッケル及び上記他の金属元素が反応し、ニッケル複合水酸化物粒子が調製される。反応に際しては、反応槽の温度を、例えば、10℃~80℃、好ましくは20~70℃の範囲内で制御し、反応槽内のpH値を液温25℃基準で、例えば、pH9~pH13、好ましくはpH11~13の範囲内で制御しつつ、反応槽内の物質を、適宜、撹拌する。反応槽としては、例えば、形成されたニッケル複合水酸化物粒子を分離するためにオーバーフローさせる、連続式を挙げることができる。
【0045】
次に、上記のようにして得られた、核となるニッケル複合水酸化物粒子に、パラジウム系触媒と界面活性剤を供給して、ニッケル複合水酸化物粒子表面にパラジウム系触媒を担持させる。その後、パラジウム系触媒を担持させたニッケル複合水酸化物粒子を、リン元素が含まれず主にニッケルからなるめっき液に浸漬させ、さらにヒドラジン系の添加剤を投入して無電解めっきを行って、ニッケル複合水酸化物粒子表面にニッケルをめっきする。無電解めっきにあたっては、被覆層のニッケル元素の含有量が核100質量部に対して5質量部以上20質量部以下となるように、膜厚及び/又はめっき液の組成を調整して、ニッケル複合水酸化物粒子表面にめっき膜を形成する。これにより、コバルト元素が500ppm以下及びリン元素が10ppm以下であるニッケル元素を含む被覆層を形成できる。
【0046】
上記した無電解めっきを用いた被覆層の形成方法では、被覆層のニッケル元素の平均一次粒子径が10nm以上100nm以下の範囲となる。なお、ニッケル複合水酸化物粒子表面にパラジウム系触媒を担持させないと、被覆層のニッケル元素の平均一次粒子径が100nm超に粗大化し、被覆層の表面が粗面化されて、45.0MPa以上の平均圧壊強度が得られない。
【0047】
次に、本発明の正極用化合物を用いた正極について説明する。以下に、本発明の正極用化合物をニッケル水素二次電池等のアルカリ蓄電池の正極として用いる場合について説明する。正極は、正極集電体と、正極集電体表面に形成された、本発明の正極用化合物を含有する正極活物質層を備える。正極活物質層は、本発明の正極用化合物である正極活物質と、バインダー(結着剤)と、必要に応じて導電助剤とを有する。導電助剤としては、例えば、畜電池(二次電池)のために使用できるものであれば、特に限定されないが、アセチレンブラック(AB)、金属コバルト、酸化コバルト等を用いることができる。バインダーとしては、特に限定されないが、ポリマー樹脂、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。正極集電体としては、特に限定されないが、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、例えば発泡ニッケル、網状金属繊維焼結体、金属めっき樹脂板などを挙げることができる。
【0048】
ニッケル水素二次電池等のアルカリ蓄電池の正極の製造方法としては、例えば、先ず、本発明の正極用化合物と導電助剤と結着剤と水とを混合して正極活物質スラリーを調製する。次いで、上記正極活物質スラリーを正極集電体に、公知の充填方法で充填して乾燥後、プレス等にて圧延・固着することで正極を得ることができる。
【0049】
また、本発明の正極用化合物をリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体として用いる場合には、本発明の正極用化合物に炭酸リチウム、水酸化リチウム等のリチウム化合物を添加して、リチウム化合物と正極用化合物の混合物を得、得られた混合物を一次焼成(焼成温度は、例えば、600℃~900℃、焼成時間は、例えば、5時間~20時間)、さらに二次焼成(焼成温度は、例えば、700℃以上1000℃以下、焼成時間は、例えば、1~20時間)することで、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極活物質を得ることができる。リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極は、正極集電体と、正極集電体表面に形成された、本発明の正極用化合物を前駆体として用いた正極活物質層を備える。正極活物質層は、本発明の正極用化合物を前駆体として用いた正極活物質と、バインダー(結着剤)と、必要に応じて導電助剤とを有する。正極集電体、バインダー、導電助剤としては、上記と同様のものを用いることができる。
【0050】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極の製造方法としては、例えば、先ず、本発明の正極用化合物を前駆体として用いた正極活物質と導電助剤と結着剤とN-メチル-2-プロリドン(NMP)とを混合して正極活物質スラリーを調製する。次いで、上記正極活物質スラリーを正極集電体に、公知の充填方法で充填して乾燥後、プレス等にて圧延・固着することで正極を得ることができる。
【0051】
上記のようにして得られた正極活物質を用いた正極と、負極集電体と負極集電体表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層を備える負極と、所定の電解質と、セパレータとを、公知の方法で搭載することで蓄電池(例えば、アルカリ蓄電池、非水系電解質二次電池等)を組み上げることができる。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1~3の正極用化合物の製造方法
ニッケル複合水酸化物粒子の調製
攪拌機付きの反応槽に、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸亜鉛とを所定比(ニッケル:コバルト:亜鉛=92.1:1.12:6.77の質量比)で溶解した水溶液に、硫酸アンモニウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を滴下して反応容積500Lの反応槽内で反応温度45.0℃、液温40℃基準で反応pH12.1に維持しながら、攪拌回転数520rpmで攪拌羽根が250mmのプロペラの攪拌機により連続的に攪拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて取り出した。取り出した水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、核となるニッケル複合水酸化物粒子を得た。得られたニッケル複合水酸化物粒子の組成は、ニッケル元素の含有量が92.1質量部、コバルト元素の含有量が1.12質量部、亜鉛元素の含有量が6.77質量部であることを誘導結合プラズマ発光分析装置にて確認した。
【0054】
上記のようにして調製したニッケル複合水酸化物粒子に、直接、無電解純ニッケルめっき処理を施して、被覆層としてニッケルめっき膜を有するニッケル複合水酸化物、すなわち、ニッケル含有被覆ニッケル複合水酸化物を製造した。より詳細には、以下の通りに、ニッケルめっき膜を有するニッケル複合水酸化物を製造した。
【0055】
まず、粒子径10μmのニッケル複合水酸化物粒子を基材粒子として、基材粒子表面を改質するために、基材粒子をカチオン系界面活性剤で、10分間撹拌処理した。その後、ろ過水洗してから、パラジウムイオン触媒溶液で、10分間撹拌処理して、基材粒子表面にパラジウムイオンを吸着させた。その後、ろ過水洗してから、還元溶液で、10分間撹拌処理して、基材粒子表面にパラジウム触媒を担持させた。その後、ろ過水洗してから、80℃に加温した硫酸ニッケル溶液中にて、表面にパラジウム触媒を担持させた基材粒子を1分間予備撹拌した。なお、硫酸ニッケル溶液の組成は、ニッケル塩0.30mol/L、クエン酸塩1mol/L、炭酸塩1.7mol/Lとした。その後、ヒドラジン一水和物を0.4mol/Lの量で硫酸ニッケル溶液に投入した。反応開始後、表面にパラジウム触媒を担持させた基材粒子を、5分間以上、ヒドラジン一水和物を投入した硫酸ニッケル溶液中にて撹拌して、ニッケル複合水酸化物粒子表面にニッケルめっき膜を形成させていき、ニッケル元素を含む被覆層を形成させた。撹拌後、ニッケル元素を含む被覆層を形成させたニッケル複合水酸化物粒子をろ過水洗し、80℃で乾燥させた。このようにして、本発明に係る正極用化合物であるニッケル含有被覆ニッケル複合水酸化物粒子を得た。なお、ニッケル複合水酸化物粒子100質量部に対する被覆層のニッケル元素の含有量は、硫酸ニッケル液の投入量を調節することで調整した。
【0056】
比較例1の正極用化合物の製造方法
上記実施例と同様にして、核となるニッケル複合水酸化物粒子を得た。その後、核となるニッケル複合水酸化物粒子を、水酸化ナトリウムにて液温50℃基準でpH9.0に維持した反応浴中のアルカリ水溶液に投入した。投入後、該溶液を撹拌しながら、濃度90g/Lの硫酸コバルト水溶液を滴下した。この間、水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下して、液温50℃基準で反応浴をpH9.0に維持しながら1時間保持することで、ニッケル複合水酸化物粒子(核)の表面に水酸化コバルトからなる被覆層を形成させた、水酸化コバルト被覆ニッケル複合水酸化物粒子を得た。なお、被覆されたコバルトの含有量は、ニッケル複合水酸化物粒子100質量部に対して2.55質量部であった。
【0057】
その後、容積が25Lのハイスピードミキサー(深江パウテック株式会社製、型式FMD-25J)に、得られた水酸化コバルト被覆ニッケル複合水酸化物粒子を7Kg投入した。その後、空気を撹拌混合装置の導入口から撹拌混合装置内へ導入し排気口から排気しながら、撹拌混合装置底部の主攪拌羽を回転数200rpmで、撹拌混合装置側壁の副攪拌羽を1200rpmで、それぞれ回転させて水酸化コバルト被覆ニッケル複合水酸化物粒子を混合した。混合を継続しながら、加熱ジャケットで加熱させて撹拌混合装置内のサンプルの温度がほぼ90℃となった後、撹拌混合装置内に48質量%水酸化ナトリウム水溶液0.4Lを、約2分間、噴霧装置から噴霧した。噴霧終了後、約30分間は撹拌混合装置内の温度は約120℃まで昇温し、粒子の表面の色が薄いピンク色から黒色に変化した。その後、撹拌混合装置内の温度を室温に戻し、生成物粒子を取り出し、取り出した生成物粒子を水で洗浄した後、空気中で加熱乾燥した。このようにして比較例1の正極用化合物であるCoOOH被覆ニッケル複合水酸化物粒子を得た。
【0058】
比較例2~4の正極用化合物の製造方法
上記実施例と同様にして、核となるニッケル複合水酸化物粒子を得た。その後、平均粒径10μmのニッケル複合水酸化物粒子に対して、無電解ニッケルめっきを施した。無電解めっき浴としては、以下に示す組成を有するものを用いた。
硫酸ニッケル22.0g/L
グリシン33.3g/L
次亜リン酸ナトリウム23.3g/L
水酸化ナトリウム12.3g/L
界面活性剤10mL/L
pH9.5
【0059】
以上の条件を満たす3Lのめっき浴を60℃で建浴し、ニッケル複合水酸化物粒子50gを、直接、投入した。すなわち、浸漬脱脂工程、表面調整工程及びエッチング工程などの前処理工程は、一切行わなかった。ニッケル複合水酸化物粒子を投入した後、毎分500回転の速度でプロペラ撹拌を10分間行い、そこへ塩化パラジウム及び塩酸を主成分とする溶液(アクチベーター、塩化パラジウム濃度2g/L)を20mL投入した。この投入とともに、瞬時に発泡が始まり、パラジウムイオンの還元およびニッケルめっきが進行し始めた。発泡が終了するまでの約30分間、毎分500回転の速度でプロペラ撹拌を継続し、発泡終了後、撹拌を停止した。吸引ろ過器を用いてろ過した後、水洗を3回繰り返した後、80℃で1時間、温風で乾燥した。このようにして、比較例2~4の正極用化合物である、ニッケル-リン複合めっき膜で被覆されたニッケル複合水酸化物粒子を得た。なお、ニッケル複合水酸化物粒子100質量部に対する被覆層のニッケル元素の含有量は、硫酸ニッケル液の投入量を調節することで調整した。
【0060】
実施例1~3のニッケル複合水酸化物粒子100質量部に対する被覆層のニッケル元素の含有量、比較例1のニッケル複合水酸化物粒子100質量部に対する被覆層のコバルト元素の含有量、比較例2~4のニッケル複合水酸化物粒子100質量部に対する被覆層のニッケル元素の含有量について、下記表1に示す。
【0061】
評価項目は以下の通りである。
(1)組成分析
実施例1~3及び比較例2~4で得られたニッケル複合水酸化物粉末の組成分析は、得られた粉末を塩酸もしくは王水に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン製、7300DV)を用いて行った。
(2)平均圧壊強度
株式会社島津製作所製「微小圧縮試験機MCT-510」にて測定した。
実施例1~3及び比較例2~4で得られたニッケル複合水酸化物粉末について、株式会社島津製作所製「微小圧縮試験機MCT-510」を用いて、任意に選んだ二次粒子1個に対して試験圧力(負荷)をかけ、二次粒子の変位量を測定した。試験圧力を徐々にあげて行った際、試験圧力がほぼ一定のまま変位量が最大となる圧力値を試験力(P)とし、下記数式(A)に示す平松らの式(日本鉱業会誌,Vol.81,(1965))により、圧壊強度(St)を算出した。この操作を計10回行い、圧壊強度の10回平均値から平均圧壊強度を算出した。
St=2.8×P/(π×d×d) (d:二次粒子径)(A)
【0062】
(3)容量維持率(90℃で6日間放置)
ニッケル水素電池について、0.2Cの深放電試験を実施した後に、無負荷接続状態にて90℃で6日間の自然放置することにより、ニッケル水素電池を放電した。深放電までの0.2Cで充電したときの放電容量に対する、深放電後2CY目の0.2Cで充電したときの放電容量を容量維持率とした。
(4)ニッケル元素を含む被覆層の平均一次粒子径
ニッケル元素を含む被覆層の平均一次粒子径は、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)にて被覆層を観察した画像から、独立して存在している一次粒子をランダムに10個選択し、選択した上記一次粒子の最長直径の部位を、それぞれ測定し、その平均値を平均一次粒子径とした。
【0063】
実施例1~3及び比較例2~4において、核であるニッケル複合水酸化物粒子にニッケル元素を含む被覆層が形成されていることは、核であるニッケル複合水酸化物粒子及び最終生成物であるニッケル含有被覆ニッケル複合水酸化物粒子の断面について、その中心部から表面部にわたって略等間隔に、それぞれ、エネルギー分散型X線分析(EDX)にて組成分析することで確認した。すなわち、下記表2に示すように、核では、核中心部と核表面部でニッケル量に大きな変化がないのに対し、ニッケル含有被覆ニッケル複合水酸化物粒子では、粒子中心部と粒子表面部とでニッケル量に大きな変化があり、粒子表面部が粒子中心部よりもニッケル量が顕著に大きい(表2の下線で示すニッケル量)。このことから、核であるニッケル複合水酸化物粒子にニッケル元素を含む被覆層が形成されていることが確認できた。
【0064】
評価結果を下記表1に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
なお、実施例1~3及び比較例2~4では、被覆層の形成にあたり、コバルト元素を添加していないことから、実施例1~3及び比較例2~4では、被覆層のコバルトの含有量は無し(0ppm)、と判断できる。
【0068】
上記表1に示すように、ニッケル複合水酸化物粒子の表面にコバルト元素が0ppm及びリン元素が2ppm以下であるニッケル元素を含む被覆層を有し、該被覆層のニッケル元素の含有量がニッケル複合水酸化物粒子100質量部に対して5.0質量部以上10質量部以下である実施例1~3では、二次粒子の平均圧壊強度が55.3Mpa以上、90℃、6日目における容量維持率が77.7%以上であった。従って、実施例1~3では、高温放置後における容量維持率に優れ、高い平均圧壊強度を有する正極用化合物を得ることができた。特に、被覆層のニッケル元素の含有量がニッケル複合水酸化物粒子100質量部に対して10質量部である実施例1では、高温放置後における容量維持率と二次粒子の平均圧壊強度がさらに向上した。
【0069】
また、実施例1~3から、の正極用化合物の平均圧壊強度の向上に伴い、高温放置後における容量維持率の向上する傾向が確認できた。さらに、実施例1~3は比較例2~4と比較して、ニッケル元素を含む被覆層の平均一次粒子径が58nm~83nmに微細化されていた。
【0070】
一方で、CoOOH被覆されたニッケル複合水酸化物粒子である比較例1では、二次粒子の平均圧壊強度が44.7Mpa、90℃、6日目における容量維持率が70.0%にとどまった。従って、比較例1では、高温放置後における良好な容量維持率と高い平均圧壊強度を得ることができなかった。
【0071】
また、ニッケル元素を含む被覆層中にリン元素が1570ppm~2327ppm含まれる比較例2~4では、高温放置後における容量維持率67.0%~75.2%、二次粒子の平均圧壊強度20.2Mpa~33.9Mpaと、いずれも大きく低減してしまった。特に、リン元素が2327ppm含まれる比較例2では、平均圧壊強度の低下が著しかった。
【0072】
次に、実施例4、5、比較例5、6の正極用化合物の製造方法について説明する。
【0073】
比較例6の正極用化合物の製造方法
攪拌機およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加した。硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.50:0.20:0.30となるように混合して、混合原料液を調製した。次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、反応槽内の溶液のpHが液温40℃基準でpH11.3になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケル複合水酸化物粒子であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得た。得られたニッケル複合水酸化物粒子を、濾過後水洗し、105℃で乾燥することにより、比較例6のニッケル複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0074】
実施例4の正極用化合物の製造方法
上記のようにして調製した比較例6のニッケル複合水酸化物粒子に、さらに、直接、無電解純ニッケルめっき処理を施して、実施例4の、被覆層としてニッケルめっき膜を有するニッケル複合水酸化物(被覆層としてニッケルめっき膜を有するニッケルコバルトマンガン複合水酸化物)、すなわち、ニッケル含有被覆ニッケル複合水酸化物を製造した。より詳細には、以下の通りに、ニッケルめっき膜を有するニッケル複合水酸化物を製造した。
【0075】
まず、粒子径10μmのニッケル複合水酸化物粒子を基材粒子として、基材粒子表面を改質するために、基材粒子をカチオン系界面活性剤、10分間撹拌処理した。その後、ろ過水洗してから、パラジウムイオン触媒溶液で、10分間撹拌処理して、基材粒子表面にパラジウムイオンを吸着させた。その後、ろ過水洗してから、還元溶液で、10分間撹拌処理して、基材粒子表面にパラジウム触媒を担持させた。その後、ろ過水洗してから、80℃に加温した硫酸ニッケル溶液中にて、表面にパラジウム触媒を担持させた基材粒子を1分間予備撹拌した。なお、硫酸ニッケル溶液の組成は、ニッケル塩0.30mol/L、クエン酸塩1mol/L、炭酸塩1.7mol/Lとした。その後、ヒドラジン一水和物を0.4mol/Lの量で硫酸ニッケル溶液に投入した。反応開始後、表面にパラジウム触媒を担持させた基材粒子を、5分間以上、ヒドラジン一水和物を投入した硫酸ニッケル溶液中にて撹拌して、ニッケル複合水酸化物粒子表面にニッケルめっき膜を形成させていき、ニッケル元素を含む被覆層を形成させた。撹拌後、ニッケル元素を含む被覆層を形成させたニッケル複合水酸化物粒子をろ過水洗し、80℃で乾燥させた。このようにして、本発明に係る正極用化合物であるニッケル含有被覆ニッケル複合水酸化物粒子を得た。なお、ニッケル複合水酸化物粒子100質量部に対する被覆層のニッケル元素の含有量(10質量部)は、硫酸ニッケル液の投入量を調節することで調整した。
【0076】
実施例5の正極用化合物の製造方法
以上のようにして得られた実施例4のニッケル含有被覆ニッケル複合水酸化物の乾燥粉末と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.03となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下740℃で8.4時間一次焼成して、リチウム-ニッケル含有被覆ニッケル複合酸化物を一次焼成粉末として得た。その後、一次焼成粉末を粉砕し、大気雰囲気下940℃で8.4時間二次焼成して、実施例5のリチウム-ニッケル含有被覆ニッケル複合酸化物を二次焼成粉末として得た。
【0077】
比較例5の正極用化合物の製造方法
比較例6のニッケル複合水酸化物の乾燥粉末と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.03となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下740℃で8.4時間一次焼成して、リチウム-ニッケル複合酸化物を一次焼成粉末として得た。その後、一次焼成粉末を粉砕し、大気雰囲気下940℃で8.4時間二次焼成して、比較例5のリチウム-ニッケル複合酸化物を二次焼成粉末として得た。
【0078】
評価項目は以下の通りである。
(1)組成分析
実施例5及び比較例5で得られた正極用化合物粉末の組成分析は、得られた粉末を塩酸もしくは王水に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン社製、7300DV)を用いて行った。
(2)平均圧壊強度
島津微小圧縮試験機MCT-510にて測定した。
実施例4、5及び比較例5、6で得られたニッケル複合水酸化物粉末について、株式会社島津製作所製「微小圧縮試験機MCT-510」を用いて、任意に選んだ二次粒子1個に対して試験圧力(負荷)をかけ、二次粒子の変位量を測定した。試験圧力を徐々にあげて行った際、試験圧力がほぼ一定のまま変位量が最大となる圧力値を試験力(P)とし、下記数式(A)に示す平松らの式(日本鉱業会誌,Vol.81,(1965))により、圧壊強度(St)を算出した。この操作を計10回行い、圧壊強度の10回平均値から平均圧壊強度を算出した。
St=2.8×P/(π×d×d) (d:二次粒子径)(A)
【0079】
(3)60℃保存における自己放電率、容量回復率
実施例5、比較例5の正極用化合物粉末を用いて作製したラミネートセル型電池を用いて、25℃の環境温度で0.2Cの条件で4.2VまでCV条件で充電した後、0.2Cの条件で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を1.とする。25℃の環境温度で0.2Cの条件で4.2VまでCV条件で充電した後、60℃環境下で2週間放置した。2週間放置終了後25℃環境温度に戻し、0.2Cの条件で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を2.とする。次に、25℃の環境温度で0.2Cの条件で4.2VまでCV条件で充電した後、0.2Cの条件で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を3.とする。25℃の環境温度で0.2Cの条件で4.2VまでCV条件で充電した後、60℃環境下でさらに2週間放置した。2週間放置終了後25℃環境温度に戻し、0.2Cの条件で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を4.とする。次に、25℃の環境温度で0.2Cの条件で4.2VまでCV条件で充電した後、0.2Cの条件で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を5.とする。
60℃保存における自己放電率と容量回復率を次式に示す。
(a)2週間放置後の自己放電率、容量回復率
自己放電率(%)=(1.-2.)×100
容量回復率(%)=(3./1.)×100
(b)4週間放置後の自己放電率、容量回復率
自己放電率(%)=(1.-4.)×100
容量回復率(%)=(5./1.)×100
(4)60℃条件におけるサイクル特性
実施例5、比較例5の正極用化合物粉末を用いて作製したラミネートセル型電池を用いて、60℃環境温度で2Cの条件で4.2VまでCC条件で充電した後、2Cの条件で3.0Vまで放電した。この充放電操作を500サイクル行った。1サイクル目に放電した容量に対する500サイクル目に放電した容量の割合を容量維持率とした。
容量維持率(%)=500サイクル目放電容量(mAh/g)/1サイクル目放電容量(mAh/g)×100
(5)ニッケル元素を含む被覆層の平均一次粒子径
実施例4の正極用化合物粉末のニッケル元素を含む被覆層の平均一次粒子径は、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)にて被覆層を観察した画像から、独立して存在している一次粒子をランダムに10個選択し、選択した上記一次粒子の最長直径の部位を、それぞれ測定し、その平均値を平均一次粒子径とした。
【0080】
評価結果を下記表3に示す。
【0081】
【0082】
実施例5のリチウム-ニッケル含有被覆ニッケル複合酸化物粉末の組成分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnのモル比は、1.011:0.575:0.170:0.255であった。比較例5のリチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物末の組成分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnのモル比は、1.022:0.499:0.200:0.301であった。
上記表3に示すように、実施例4のニッケル含有被覆ニッケル複合水酸化物の平均圧壊強度45.9Mpaは、比較例6の平均圧壊強度が65.0Mpaであるニッケル複合水酸化物に比べて粒子強度が低下した。しかし、実施例5のリチウム-ニッケル含有被覆ニッケル複合酸化物は、実施例4のニッケル含有被覆ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物をリチウム焼成した酸化物であり、平均圧壊強度が64.3Mpaである比較例5のリチウム-ニッケル複合酸化物に比べ、実施例5の平均圧壊強度は79.7Mpaと粒子強度が向上した。
【0083】
上記表3に示すように、比較例5の60℃2週間保存における自己放電率、容量回復率がそれぞれ32.1%、79.1%であるリチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物に比べ、粒子強度が高い実施例5のリチウム-ニッケル含有被覆ニッケル複合酸化物は、60℃2週間保存における自己放電率、容量回復率がそれぞれ31.2%、80.6%と優れた特性を有していた。また、比較例5の60℃4週間保存における自己放電率、容量回復率がそれぞれ39.1%、68.5%であるリチウム-ニッケル複合酸化物に比べ、粒子強度が高い実施例5のリチウム-ニッケル含有被覆ニッケル複合酸化物は、60℃4週間保存における自己放電率、容量回復率がそれぞれ36.6%、70.6%と優れた特性を有していた。
【0084】
上記表3に示すように、比較例5の60℃条件における500サイクルの容量維持率が66.9%であるリチウム-ニッケル複合酸化物に比べ、粒子強度が高い実施例5のリチウム-ニッケル含有被覆ニッケル複合酸化物は、60℃条件における500サイクルの容量維持率が70.4%と高い容量維持率を有していた。
【0085】
さらに、実施例4のニッケル元素を含む被覆層の平均一次粒子径が50nm~90nmに微細化されていた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の正極用化合物は、上記被覆層の構造を有することにより、高温放置後における容量維持率に優れ、高強度を有するので、広汎な蓄電池の分野で利用可能であり、例えば、アルカリ蓄電池の正極活物質用、非水系電解質二次電池の正極活物質用、非水系電解質二次電池の正極活物質の前駆体用として利用価値が高い。