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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】毛髪染毛剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20230606BHJP
   A61Q 5/10 20060101ALI20230606BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20230606BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20230606BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20230606BHJP
   A61K 8/38 20060101ALI20230606BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q5/10
A61K8/37
A61K8/35
A61K8/46
A61K8/38
A61K8/34
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020525762
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2019024249
(87)【国際公開番号】W WO2019244919
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2018116502
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大介
(72)【発明者】
【氏名】松原 孝典
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 直香
【審査官】松本 要
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-051209(JP,A)
【文献】国際公開第2015/074821(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/084568(WO,A1)
【文献】特表2015-526449(JP,A)
【文献】特開2012-116829(JP,A)
【文献】特開2016-008190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質と、ベンジルアルコール、バニリン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトンから選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩、チオ乳酸塩、システイン、システアミン、ラクトンチオールから選択される1種または2種以上と、を含む(A)反応液と、
臭素酸塩、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸塩から選択される酸化剤を含む(B)反応液と、からなることを特徴とする毛髪染毛剤。
【化1】
(式中、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、RとRのいずれか一方または両方が水酸基であり、Rは、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
【請求項2】
下記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質を含む(A)反応液と、
臭素酸塩からなる酸化剤を含む(B)反応液と、からなることを特徴とする毛髪染毛剤。
【化2】
(式中、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、RとRのいずれか一方または両方が水酸基であり、Rは、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
【請求項3】
請求項1に記載の毛髪染毛剤において、酸化剤が、臭素酸塩であることを特徴とする毛髪染毛剤。
【請求項4】
請求項2に記載の毛髪染毛剤において、(B)反応液のpHが7以上であることを特徴とする毛髪染毛剤。
【請求項5】
下記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質と、ベンジルアルコール、バニリン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトンから選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩、チオ乳酸塩、システイン、システアミン、ラクトンチオールから選択される1種または2種以上と、を含む(A)反応液で毛髪を処理する吸着工程と、
該毛髪を、臭素酸塩、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸塩から選択される酸化剤を含む(B)反応液で処理する酸化工程と、を有することを特徴とする毛髪の染毛方法。
【化3】
(式中、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、RとRのいずれか一方または両方が水酸基であり、Rは、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
【請求項6】
下記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質を含む(A)反応液で毛髪を処理する吸着工程と、
該毛髪を、臭素酸塩からなる酸化剤を含む(B)反応液で処理する酸化工程と、を有することを特徴とする毛髪の染毛方法。
【化4】
(式中、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、RとRのいずれか一方または両方が水酸基であり、Rは、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
【請求項7】
請求項5に記載の毛髪の染毛方法において、酸化剤が、臭素酸塩であることを特徴とする毛髪の染毛方法。
【請求項8】
請求項5または7に記載の毛髪の染毛方法において、吸着工程が、ベンジルアルコール、バニリン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトンから選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩、チオ乳酸塩、システイン、システアミン、ラクトンチオールから選択される1種または2種以上と、を含む(A-1)反応液で毛髪を処理する前処理工程後、一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質を含む(A-2)反応液で毛髪を処理する工程であることを特徴とする毛髪の染毛方法。
【請求項9】
請求項6に記載の毛髪の染毛方法において、(B)反応液のpHが7以上であることを特徴とする毛髪の染毛方法。
【請求項10】
下記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質を含む(A)反応液と、
臭素酸塩、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸塩から選択される酸化剤を含む(B)反応液と、からなることを特徴とする毛髪染毛剤。
【化5】
(式中、R 、R 、R 、R 、R 、R は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、R とR のいずれか一方または両方が水酸基であり、R は、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH 、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2018年6月19日付け出願の日本国特許出願2018-116502号の優先権を主張しており、ここに折り込まれるものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、毛髪染毛剤に関し、特に人体に安全で染毛効果の高い毛髪染毛剤に関する。
【背景技術】
【0003】
酸化染料を用いる酸化染毛剤は一般にヘアカラーと呼ばれ、その堅牢性により永久染毛剤として広く使用されている。通常、酸化染毛剤は、毛髪内部で酸化されて酸化染料を生成する酸化染料前駆体を含む第1剤と、その酸化染料前駆体を酸化する過酸化水素等の酸化剤を含む第2剤とからなり、使用時に第1剤と第2剤とを混合して酸化染料を生成させて染毛を行なっている。毛髪内で酸化されて生成する酸化染料は重合体であるため、毛髪内部から脱着しにくく高い堅牢性が得られると言われている(例えば非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、酸化染毛剤に用いられる酸化染料前駆体は代表的なアレルゲンとして知られている。
そのため、人体に対してより安全な染毛料が求められている。そこで、近年、フラボノイド骨格を有する天然物質であるカテキンを電気酸化して得られる酸化体(o-キノン体)を用いた染毛料が知られている(特許文献1)。しかし、その染毛効果には改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-303181号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】新井泰裕著,「最新ヘアカラー技術」,フレグランスジャーナル社,2004年8月,p.102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記従来技術に鑑み行われたものであり、その解決すべき課題は、人体に安全で染毛効果の高い毛髪染毛剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが前述の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定のフラボノイド骨格を有する物質と、ベンジルアルコール、バニリン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトンから選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩、チオ乳酸塩、システイン、システアミンから選択される1種または2種以上と、を含む(A)反応液と、酸化剤を含む(B)反応液からなることにより、人体に安全で染毛効果の高い毛髪染毛剤を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかる毛髪染毛剤は、下記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質と、ベンジルアルコール、バニリン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトンから選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩、チオ乳酸塩、システイン、システアミンから選択される1種または2種以上と、を含む(A)反応液と、
酸化剤を含む(B)反応液と、からなることを特徴とする。
【0010】
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4、R6、R7は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、R6とR7のいずれか一方または両方が水酸基であり、R5は、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH2、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
前記毛髪染毛剤において、酸化剤が、臭素酸塩、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸塩、過酸化水素、無機または有機アルカリ金属過酸化物、過酸塩、無機過水和物塩、アルキルまたはアリール過酸化物、ペルオキシターゼ、オキシターゼ、ウリカーゼ、過炭酸塩、過硫酸塩、ペルオキソ一炭酸塩からなる群より選択されることが好適である。
本発明にかかる毛髪染毛剤は、下記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質を含む(A)反応液と、
臭素酸塩からなる酸化剤を含む(B)反応液と、からなることを特徴とする。
【0011】
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4、R6、R7は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、R6とR7のいずれか一方または両方が水酸基であり、R5は、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH2、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
前記毛髪染毛剤において、(B)反応液のpHが7以上であることが好適である。
本発明にかかる毛髪の染毛方法は、下記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質と、ベンジルアルコール、バニリン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトンから選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩、チオ乳酸塩、システイン、システアミンから選択される1種または2種以上と、を含む(A)反応液で毛髪を処理する吸着工程と、
該毛髪を、酸化剤を含む(B)反応液で処理する酸化工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
【化3】
(式中、R1、R2、R3、R4、R6、R7は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、R6とR7のいずれか一方または両方が水酸基であり、R5は、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH2、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
前記毛髪の染毛方法において、酸化剤が、臭素酸塩、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸塩、過酸化水素、無機または有機アルカリ金属過酸化物、過酸塩、無機過水和物塩、アルキルまたはアリール過酸化物、ペルオキシターゼ、オキシターゼ、ウリカーゼ、過炭酸塩、過硫酸塩、ペルオキソ一炭酸塩からなる群より選択されることが好適である。
前記毛髪の染毛方法において、吸着工程が、ベンジルアルコール、バニリン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトンから選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩、チオ乳酸塩、システイン、システアミンから選択される1種または2種以上と、を含む(A-1)反応液で毛髪を処理する前処理工程後、一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質を含む(A-2)反応液で毛髪を処理する工程であることが好適である。
本発明にかかる毛髪の染毛方法は、下記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質を含む(A)反応液で毛髪を処理する吸着工程と、
該毛髪を、臭素酸塩からなる酸化剤を含む(B)反応液で毛髪を処理する酸化工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
【化4】
(式中、R1、R2、R3、R4、R6、R7は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、R6とR7のいずれか一方または両方が水酸基であり、R5は、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH2、>C=Oまたは>CHOHを示す。)
前記毛髪の染毛方法において、(B)反応液のpHが7以上であることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、人体に安全で染毛効果の高い毛髪染毛剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明にかかる毛髪染毛剤は、特定のフラボノイド骨格を有する物質と、ベンジルアルコール、バニリン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトンから選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩、チオ乳酸塩、システイン、システアミンから選択される1種または2種以上と、を含む(A)反応液と、酸化剤を含む(B)反応液と、からなることを特徴とする。
また、本発明にかかる毛髪染毛剤は、特定のフラボノイド骨格を有する物質を含む(A)反応液と、臭素酸塩からなる酸化剤を含む(B)反応液と、からなることを特徴とする。
【0016】
((A)反応液)
本発明の毛髪染毛剤に用いるフラボノイド骨格を有する物質とは、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0017】
【化5】
【0018】
ここで、R1、R2、R3、R4、R6、R7は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基またはメチル基を示し、R6とR7のいずれか一方または両方が水酸基であり、R5は、水素原子、水酸基、ガロイル基または糖を示し、Xは、>CH2、>C=Oまたは>CHOHを示す。
【0019】
具体例としては、以下のものを挙げることができる。pyroはピロガロールを表す。
(1)(+)-カテキンまたは(-)-カテキンまたは(+)-エピカテキンまたは(-)-エピカテキン
R1,R3,R6:H、R2,R4,R5,R7:OH、X:>CH2
(2)(+)-ガロカテキンまたは(-)-ガロカテキンまたは(-)-エピガロカテキン
R1,R3:H、R2,R4,R5,R6,R7:OH、X:>CH2
(3)(-)-カテキンガレートまたは(-)-エピカテキンガレート
R1,R3,R6:H、R2,R4,R7:OH、R5:O-C=O-pyro、X:>CH

(4)(-)-ガロカテキンガレートまたは(-)-エピガロカテキンガレート
R1,R3:H、R2,R4,R6,R7:OH、R5:O-C=O-pyro、X:>CH

(5)タキシフォリン
R1,R3,R6:H、R2,R4,R5,R7:OH、X:>C=O
(6)フスチン
R1,R3,R4,R6:H、R2,R5,R7:OH、X:>C=O
(7)ルテオリン
R1,R3,R5,R6:H、R2,R4,R7:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(8)6-ヒドロキシルテオリン
R1,R5,R6:H、R2,R3,R4,R7:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(9)6-メトキシルテオリン
R1,R5,R6:H、R2,R4,R7:OH、R3:OCH3、X:>C=Oで、フラボン構造
(10)クエルセチン
R1,R3,R6:H、R2,R4,R5,R7:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(11)クエルセタゲチン
R1,R6:H、R2,R3,R4,R5,R7:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(12)ゴシッペチン
R3,R6:H、R1,R2,R4,R5,R7:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(13)トリセチン
R1,R3,R5:H、R2,R4,R6,R7:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(14)ミリセチン
R1,R3:H、R2,R4,R5,R6,R7:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(15)フィセチン
R1,R3,R4,R6:H、R2,R5,R7:OH、X:>C=Oで、フラボン構造
(16)ピノクエルセチン
R1,R6:H、R2,R4,R5,R7:OH、R3:CH3、X:>C=Oで、フラボン構造
(17)ピノミリセチン
R1:H、R2,R4,R5,R6,R7:OH、R3:CH3、X:>C=Oで、フラボン構造
(18)シアニジン
R1,R3,R6:H、R2,R4,R5,R7:OH、X:>CH2で、フラビリウムイオン構造
(19)デルフィニジン
R1,R3:H、R2,R4,R5,R6,R7:OH、X:>CH2で、フラビリウムイオン構造
(20)ルチン
R1,R3,R6:H、R2,R4,R7:OH、R5:OR’(R’はβ-ルチノース)、X:>C=Oで、フラボン構造
(21)クエルシトリン
R1,R3,R6:H、R2,R4,R7:OH、R5:OR’(R’はα-L-ラムノース)、X:>C=Oで、フラボン構造
(22)イソクエルシトリン
R1,R3,R6:H、R2,R4,R7:OH、R5:OR’(R’はβ-D-グルコース)、X:>C=Oで、フラボン構造
(23)ヒペリン
R1,R3,R6:H、R2,R4,R7:OH、R5:OR’(R’はβ-D-ガラクトース)、X:>C=Oで、フラボン構造
(24)アビクラリン
R1,R3,R6:H、R2,R4,R7:OH、R5:OR’(R’はα-L-アラビノース)、X:>C=Oで、フラボン構造
この他、フラボノイド骨格を含む構造をもつテアフラビン・テアフラビンジガレートや、上記物質の各配糖体、ロイコアントシアニジンなども含まれる。
【0020】
フラボノイド骨格を有する物質の含有量は、(A)反応液全量に対して0.1~10重量%であることが好ましく、0.5~3重量%であることがより好ましい。フラボノイド骨格を有する物質の含有量が少なすぎると、染毛効果が低い場合がある。フラボノイド骨格を有する物質の含有量が多すぎると、析出する場合がある。
【0021】
ベンジルアルコールの含有量は、(A)反応液全量に対して0.1~10重量%であることが好ましく、0.5~4重量%であることがより好ましい。ベンジルアルコールの含有量が少なすぎると、染毛効果が低い場合がある。ベンジルアルコールの含有量が多すぎると、不快臭が強い場合がある。
【0022】
チオグリコール酸塩としては、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸モノエタノールアミン、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カリウム、チオグリコール酸リチウム等が挙げられる。
これらのうち、チオグリコール酸アンモニウムを用いることが好ましい。
【0023】
チオグリコール酸塩の含有量は、(A)反応液全量に対して0.1~30重量%であることが好ましく、2~18重量%であることがより好ましい。チオグリコール酸塩の含有量が少なすぎると、染毛効果が低い場合がある。チオグリコール酸塩の含有量が多すぎると、不快臭が強い場合がある。
【0024】
(A)反応液の温度は、25~55℃であることが好ましい。温度が低すぎると、染毛効果が低い場合がある。温度が高すぎると、施術時にやけどする場合がある。
【0025】
(A)反応液は、各成分を混合することにより得ることができる。
【0026】
((B)反応液)
酸化剤としては、臭素酸塩、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸塩、過酸化水素、無機または有機アルカリ金属過酸化物、過酸塩、無機過水和物塩、アルキルまたはアリール過酸化物、ペルオキシターゼ、オキシターゼ、ウリカーゼ、過炭酸塩、過硫酸塩、ペルオキソ一炭酸塩からなる群より選択されることが好ましい。
【0027】
本発明にかかる毛髪染毛剤は、(A)反応液に、フラボノイド骨格を有する物質を添加し、ベンジルアルコール等から選択される1種または2種以上、及びチオグリコール酸塩等から選択される1種または2種以上を添加せず、酸化剤として臭素酸塩を用いることによっても得ることができる。
臭素酸塩としては、例えば、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム等が挙げられる。
【0028】
酸化剤の含有量は、(B)反応液全量に対して0.5~15重量%であることが好ましく、1~7.5重量%であることがより好ましい。酸化剤の含有量が少なすぎると染毛効果が低い場合がある。酸化剤の含有量が多すぎると、毛髪の感触が低下する場合がある。
【0029】
また、本発明の(B)反応は、塩基性条件下で行ってもよい。
特に、(A)反応液に、フラボノイド骨格を有する物質を添加し、ベンジルアルコール等から選択される1種または2種以上、及びチオグリコール酸塩等から選択される1種または2種以上を添加せず、酸化剤として臭素酸塩を用いる場合には、塩基を添加することが好ましい。この場合、pHは7以上で行うことがより好ましい。また、pHは8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
【0030】
塩基を添加する場合、有機塩基または無機塩基の添加によりpHを調製する。
有機塩基としては、アルカノールアミン、アルキルアミン等が挙げられる。アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、モノメタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルキルアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、アルギニン、リジン、N-メチルタウリンナトリウム等が挙げられる。
無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が挙げられる。
【0031】
好ましい塩基はアルカノールアミン、さらに好ましくは、モノエタノールアミンまたはジエタノールアミン、さらに好ましくはモノエタノールアミンである。また、適切な塩基性に調製するために、複数の塩基を混合して用いることもできる。
【0032】
(B)反応液の温度は、25~55℃であることが好ましい。温度が低すぎると、染毛効果が低い場合がある。温度が高すぎると、施術時にやけどする場合がある。
【0033】
また、(A)反応液にベンジルアルコール等から選択される1種または2種以上と、を添加する場合、(B)反応液の温度は、25~55℃であることがより好ましい。
(A)反応液にベンジルアルコール等から選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩等から選択される1種または2種以上を添加せず、酸化剤として臭素酸塩を用いる場合、(B)反応液の温度は、25~55℃であることがより好ましい。
【0034】
(B)反応液は、各成分を混合することにより得ることができる。
【0035】
本発明にかかる毛髪染毛剤には、上記物質以外に、通常毛髪染毛剤に使用される成分、例えば、油性成分、高級アルコール類、pH調整剤、界面活性剤、粘度調整剤、香料、安定化剤、薬剤、着色剤、紫外線防止剤、水等を必要に応じて配合することができる。
【0036】
油性成分としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、コンドロイチン硫酸塩、ヒアルロン酸塩、ジグリセリン、1,3-ブチレングリコール、ピロリドンカルボン酸塩、ソルビトール、マルチトール、ラクトース、オリゴ糖等の保湿剤、シア脂、スクワラン、レシチン、流動パラフィン、ワセリン、高級脂肪酸、トリグリセライド、エステル油等が挙げられる。
【0037】
高級アルコール類としては、例えば、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール等の低級アルコール類、2-エチルヘキシルアルコール、セトステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール等が挙げられる。
【0038】
pH調整剤としては、例えば、リン酸、硫酸、塩酸、炭酸などの無機酸あるいはクエン酸、グリコール酸、酒石酸などの有機酸のナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩類等が挙げられる。
【0039】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体等のポリオキシエチレン系界面活性剤、オクチルポリグリコシド等のアルキルポリグリコシド類、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリンアルキルエーテル等のポリグリセリン系界面活性剤、マルチトールヒドロキシアルキルエーテル等の糖アルコールヒドロキシアルキルエーテル類、脂肪酸ジエタノールアミド等が挙げられる。
また、高級脂肪酸塩類、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、リン酸エステル類、アルキル硫酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤、アミノ酸類、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアミンオキサイド等のカチオン性界面活性剤、その他の界面活性剤を配合することもできる。
【0040】
本発明にかかる毛髪の染毛方法は、上記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質と、ベンジルアルコール等から選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩等から選択される1種または2種以上と、を含む(A)反応液に毛髪を浸漬させる吸着工程と、
該毛髪を、酸化剤を含む(B)反応液に浸漬させる酸化工程と、を有することを特徴とする。
【0041】
本発明にかかる毛髪の染毛方法の(A)反応液の吸着工程として、ベンジルアルコール等から選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩等から選択される1種または2種以上と、を含む(A-1)反応液に毛髪を浸漬させる前処理工程後、一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質を含む(A-2)反応液に毛髪を浸漬させる工程を有することもできる。本工程を用いても染毛効果の高い染毛剤組成物を得ることができる。
しかしながら、(A)反応液の吸着工程として、フラボノイド骨格を有する物質と、ベンジルアルコール等から選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩等から選択される1種または2種以上と、を全て含む(A)反応液に毛髪を浸漬させることが好ましい。本工程を有することで、より染毛効果の高い染毛剤組成物を得ることができる。
【0042】
また、本発明にかかる毛髪の染毛方法は、上記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質を含む(A)反応液に毛髪を処理する吸着工程と、
該毛髪を、臭素酸塩からなる酸化剤を含む(B)反応液で処理する酸化工程と、を有することを特徴とする。
【0043】
吸着工程、酸化工程に要する時間は、所望の染毛の色により変化するが、それぞれ10~60分、5~40分であることが好ましく、20~40分、10~30分であることがより好ましい。時間が短すぎると、染毛効果に劣る場合がある。時間が長すぎても、染毛効果の向上が見られない場合がある。
【実施例
【0044】
本発明について、以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り、その成分が配合される系に対する重量%で示す。
【0045】
はじめに、フラボノイド骨格を有する物質を用いた毛髪染毛剤において、染毛効果を向上できる物質について検討を行った。
本発明者らは、下記表1に示す毛髪染毛剤((A)反応液および(B)反応液)を、下記製造方法により製造し、以下に示す染毛試験を行った。毛髪を下記測定方法で測色した時のL値を下記表1に示す。L値は値が低いほど濃く染まったと判断する。
【0046】
(毛髪染毛剤製造方法)
各成分を混合する。
【0047】
(染毛試験)
毛髪(ビューラックス社製人毛白髪BM-W-A 0.8g)を(A)反応液100mLに各温度で、40分間浸漬させて処理後、同様に(B)反応液に浸漬させて処理した。その後、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム0.1%水溶液にて20分浸漬後、蒸留水に30分浸漬し乾燥させた。
【0048】
・染色性(毛髪のL値)測定方法
試料を、分光測色計(コニカミノルタ製CM-3600d)を用いて測色した。
表色系にはL*a*b*表色系(CIE1976)を用いた。ここで、L*a*b*(エルスター・エースター・ビースター)表色系におけるL*値は、色の相対的な明るさを示す尺度で明度を表す。a*とb*は両者で色度(色相・彩度)を表す。色相とは赤・黄・緑・青等の色知覚の属性を尺度化したものである。ここでは、式中の下付き添え字のnは染色毛の測定値、0は未染色毛の測定値を表す。
マンセル色相は色を5つ (R・Y・G・B・P) に分け、更に中間にYR・GY・BG・PB・RPの5つを設けた。さらにそれらの色相を10で分割した計100色相で表す。
【0049】
【表1】

(*1):(+)-カテキンまたは(-)-カテキンまたは(+)-エピカテキンまたは(-)-エピカテキンおよび、(+)-ガロカテキンまたは(-)-ガロカテキンまたは(-)-エピガロカテキンおよび、(-)-カテキンガレートまたは(-)-エピカテキンガレートおよび、(-)-ガロカテキンガレートまたは(-)-エピガロカテキンガレートの混合物
【0050】
表1より、(A)反応液に茶抽出物、ベンジルアルコールおよびチオグリコール酸アンモニウムを添加した試験例1-5~1-7は、添加しないものより染色効果が高いことが明らかになった。
また、(A)反応液の温度が高い方が、染色効果が高いことが明らかになった。
【0051】
次に、フラボノイド骨格を有する物質を用いた毛髪染毛剤において、ベンジルアルコールおよび/またはチオグリコール酸塩の添加時期について検討を行った。
本発明者らは、下記表2に示す毛髪染毛剤((A)反応液および(B)反応液)を、場合により下記方法により前処理剤を行った後、上記製造方法により製造し、上記染毛試験を行った。染毛試験を行った毛髪のL値を下記表2に示す。
【0052】
(毛髪染毛剤の前処理方法)
毛髪を前処理液に30℃にて40分浸漬後、反応液(A)および(B)にて処理する。
【0053】
【表2】
【0054】
表2より、ベンジルアルコールおよびチオグリコール酸塩は、前処理段階で用いるより、茶抽出物と共に添加した方が、染毛効果が高いことが明らかになった。
また、単独で添加するより、ベンジルアルコールとチオグリコール酸塩をいずれも添加する方が、染毛効果が高いことが明らかになった。
【0055】
次に、本発明者らは茶抽出物(A-1)と共に配合されるベンジルアルコール等(A-2)、及びチオグリコール酸アンモニウム等(A-3)の種類について検討を行った。
結果を次の表3に示す。
【0056】
【表3】

表3に示す結果及び他の試験より、ベンジルアルコール等(A-2)としては、ベンジルアルコールのほか、バニリン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトンなどが好適に用いられ、またチオグリコール酸塩等(A-3)としては、チオ乳酸塩、システイン、システアミンなどが好適に用いられることが明らかとなった。

これらの本発明者らの検討の結果、本発明にかかる毛髪染毛剤は、上記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質と、ベンジルアルコール、バニリン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトンから選択される1種または2種以上と、チオグリコール酸塩、チオ乳酸塩、システイン、システアミンから選択される1種または2種以上と、を含む(A)反応液と、酸化剤を含む(B)反応液と、からなることを特徴とする。
【0057】
次に、フラボノイド骨格を有する物質を用いた毛髪染毛剤において、(B)反応液の酸化剤として臭素酸塩を用いた場合について検討を行った。
本発明者らは、下記表4に示す毛髪染毛剤((A)反応液および(B)反応液)を、上記製造方法により製造し、上記染毛試験を行った。染毛試験を行った毛髪のL値を下記表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4より、ベンジルアルコールと、チオグリコール酸塩を用いず、酸化剤として臭素酸塩を用いても、染毛効果の高い染毛剤組成物を得ることができた。
【0060】
したがって、本発明にかかる毛髪染毛剤は、上記一般式(1)で示されるフラボノイド骨格を有する物質を含む(A)反応液と、臭素酸塩からなる酸化剤を含む(B)反応液と、からなることを特徴とする。
【0061】
次に、フラボノイド骨格を有する物質を用いた毛髪染毛剤において、(B)反応液の酸化剤として臭素酸塩を用いた場合について、(B)反応液のpHの検討を行った。
本発明者らは、下記表5に示す毛髪染毛剤((A)反応液および(B)反応液)を、上記製造方法により製造し、上記染毛試験を行った。染毛試験を行った毛髪のL値を表5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
表5より、(B)反応液の酸化剤として臭素酸塩を用いた場合、(B)反応液のpHを上げると、染毛効果が高くなることが明らかになった。
したがって、本発明にかかる酸化剤として臭素酸塩を用いた場合、(B)反応液のpHは、7以上であることが好適である。
【0064】
次に、本発明者らは、試験例6-7に示す、(B)反応液の酸化剤として過ヨウ素酸ナトリウムを用いた毛髪染毛剤で染毛した毛髪と、試験例6-6に示す、(B)反応液の酸化剤として臭素酸ナトリウムを用いた毛髪染毛剤で、下記染毛方法により染毛した毛髪について下記に示す染色性測定方法により試験を行った。測色結果を表6に示す。
【0065】
(染毛方法)
毛髪(ビューラックス社製ビューラックス社人毛BR-3-A 3g)に試験組成(A)を1g塗布し、一定温度、一定時間にて放置後、流水で水洗後に試験組成(B)を1g塗布し、一定温度、一定時間にて放置後、流水で水洗し乾燥させた。
【0066】
【表6】
【0067】
表6の試験例6-6と試験例6-7より、臭素酸ナトリウムで染毛した毛髪のL値は過ヨウ素酸ナトリウムと同程度であるが、未処理毛髪からのΔaおよびΔb値は臭素酸ナトリウムの方が大きく、マンセル色相も大きく異なる。すなわち、もとの毛束色(ブリーチ毛)から色の変化が大きい。過ヨウ素酸ナトリウムよりも色味が楽しめ、ファッション性が高い染色性を示すことができる。
【0068】
次に、本発明者らは、試験例6-6と試験例6-7で染色した毛髪を活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)溶液に40℃で30分間浸漬し、褪色処理を行った。その後、上記染色性測定方法により試験を行った。結果を表7に示す。
【0069】
【表7】
【0070】
表7より、褪色処理後の色は、臭素酸ナトリウムの方がΔE値が0.9ポイント低く、染色性が過ヨウ素酸ナトリウムより保たれていることが明らかになった。
【0071】
以下に、本発明にかかる毛髪染毛剤の処方例を挙げる。本発明はこの処方例によって何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
【0072】
(A)反応液処方例1
【0073】
(A)反応液処方例2
【0074】
(B)反応液処方例1