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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】寛骨臼骨切り術用の位置合わせ装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/68 20060101AFI20230606BHJP
   A61B 17/82 20060101ALI20230606BHJP
   A61B 17/84 20060101ALI20230606BHJP
   A61B 17/14 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
A61B17/68
A61B17/82
A61B17/84
A61B17/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021518187
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 IB2019058330
(87)【国際公開番号】W WO2020070637
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】102018000009083
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512073792
【氏名又は名称】メダクタ・インターナショナル・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100159905
【弁理士】
【氏名又は名称】宮垣 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】ベルベリッヒ,サッシャ
(72)【発明者】
【氏名】フェラーリ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】ポンツォーニ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】シッカルディ,フランチェスコ
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0074099(US,A1)
【文献】特開2019-024741(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0049749(US,A1)
【文献】特表2010-504833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/68
A61B 17/80 - 17/86
A61B 17/14 - 17/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の患者に対して寛骨臼骨切り術の手術を実施するための位置合わせ装置(30)であって、
大腿骨の寛骨臼(82)の近くにおいて、前記患者の腸骨(80)上の一義的な位置に固定されるのに適した患者固有の寛骨臼ユニット(32)と、
前記寛骨臼ユニット(32)に対して横方向の位置において、前記患者の前記腸骨(80)上の一義的な位置に固定されるのに適した患者固有の腸骨ユニット(34)と、
前記寛骨臼ユニット(32)および前記腸骨ユニット(34)に堅固に且つ一義的な態様で接続されるのに適した患者固有のブリッジ(36)であって、前記寛骨臼ユニット(32)に堅固に且つ一義的な態様で接続されるのに適した寛骨臼端部(362)と、前記腸骨ユニット(34)に堅固に且つ一義的な態様で接続されるのに適した腸骨端部(364)とを備えるブリッジ(36)と、を備え、
前記寛骨臼ユニット(32)および前記腸骨ユニット(34)が損傷を受けていない前記腸骨(80)に適切に固定されている場合、前記寛骨臼ユニット(32)および前記腸骨ユニット(34)は、一方が他方に対して、前記ブリッジ(36)の両方の前記ユニット(32、34)への同時接続と不適合である第1の事前定義された相互位置をとり、
骨切り術が行われ、前記ブリッジ(36)が前記寛骨臼ユニット(32)および前記腸骨ユニット(34)の両方に接続されている場合、前記寛骨臼ユニット(32)および前記腸骨ユニット(34)は、一方が他方に対して、前記第1の相互位置とは異なり且つ前記腸骨(80)の残りの部分に対する前記寛骨臼(82)の生体力学的に正しい位置に対応する第2の事前定義された相互位置をと
前記ブリッジ(36)の前記寛骨臼端部(362)および前記寛骨臼ユニット(32)がそれぞれ、互いに相補的であり且つ相互に堅固で且つ一義的な拘束を生成するのに適した拘束手段(62 ;62 )を含み、前記ブリッジ(36)の前記腸骨端部(364)および前記腸骨ユニット(34)はそれぞれ、互いに相補的であり且つ相互に堅固で且つ一義的な拘束を生成するのに適した拘束手段(64 ;64 )を含み、
前記寛骨臼ユニット(32)が、前記拘束手段(62 )と、前記腸骨(80)の表面の特定の領域に相補的な患者固有の台部分(320)とを備え、

前記寛骨臼ユニット(32)が、
前記台部分(320)と接続部分(326 )を含む寛骨臼ベース(322)と、
前記拘束手段(62 )および接続部分(326 )を含む汎用の寛骨臼インタフェースブロック(324)と、を備え、
前記寛骨臼ベース(322)の前記接続部分(326 )および前記寛骨臼インタフェースブロック(324)の前記接続部分(326 )は、堅固に且つ一義的な態様で一方を他方に接続するのに適している、位置合わせ装置(30)。
【請求項2】
前記腸骨ユニット(34)が、前記拘束手段(64)と、前記腸骨(80)の表面の特定の領域に相補的な患者固有の台部分(340)とを備える、請求項に記載の装置(30)。
【請求項3】
前記腸骨ユニット(34)が、
前記台部分(340)と接続部分(346)を含む腸骨ベース(342)と、
前記拘束手段(64)および接続部分(346)を含む汎用の腸骨インタフェースブロック(344)と、を備え、
前記腸骨ベース(342)の前記接続部分(346)および前記腸骨インタフェースブロック(344)の前記接続部分(346)は、堅固に且つ一義的な態様で一方を他方に接続するのに適している、請求項に記載の装置(30)。
【請求項4】
前記寛骨臼ユニット(32)の前記台部分(320)および/または前記腸骨ユニット(34)の前記台部分(340)が少なくとも部分的に凹面である、請求項2または3に記載の装置(30)。
【請求項5】
前記腸骨ユニット(34)および/または前記寛骨臼ユニット(32)が、各ユニット(32、34)を前記腸骨(80)に固定するのに適した固定手段(38)を備える、請求項1からのいずれか一項に記載の装置(30)。
【請求項6】
前記ブリッジ(36)と前記寛骨臼ユニット(32)および/または前記腸骨ユニット(34)との間の前記拘束手段(62、64)がスナップ機構によって解放可能な形状継ぎ手を含む、請求項からのいずれか一項に記載の装置(30)。
【請求項7】
前記寛骨臼ベース(322)の前記接続部分(326 )および前記寛骨臼インタフェースブロック(324)の前記接続部分(326 は、スナップ機構によって解放可能な形状継ぎ手を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置(30)。
【請求項8】
前記腸骨ベース(342)の前記接続部分(346 )および前記腸骨インタフェースブロック(344)の前記接続部分(346 は、スナップ機構によって解放可能な形状継ぎ手を含む、請求項に記載の装置(30)。
【請求項9】
前記ブリッジ(36)と前記寛骨臼ユニット(32)および前記腸骨ユニット(34)との間の前記拘束手段(62、64)がスナップ機構によって解放可能な形状継ぎ手を含み、
前記ブリッジ(36)と前記寛骨臼ユニット(32)および前記腸骨ユニット(34)との間の前記拘束手段(62、64)の前記形状継ぎ手が互いに異なり且つ相互に不適合である、請求項に記載の装置(30)。
【請求項10】
前記腸骨ユニット(34)が、
前記台部分(340)と接続部分(346)を含む腸骨ベース(342)と、
前記拘束手段(64)および接続部分(346)を含む汎用の腸骨インタフェースブロック(344)と、を備え、
前記腸骨ベース(342)の前記接続部分(346)および前記腸骨インタフェースブロック(344)の前記接続部分(346)は、堅固に且つ一義的な態様で一方を他方に接続するのに適しており、
前記寛骨臼ベース(322)の前記接続部分(326 )および前記寛骨臼インタフェースブロック(324)の前記接続部分(326 は、スナップ機構によって解放可能な形状継ぎ手を含み、
前記腸骨ベース(342)の前記接続部分(346 )および前記腸骨インタフェースブロック(344)の前記接続部分(346 は、スナップ機構によって解放可能な形状継ぎ手を含み、
前記寛骨臼ベース(322)の前記接続部分(326 )および前記寛骨臼インタフェースブロック(324)の前記接続部分(326 の前記形状継ぎ手と、前記腸骨ベース(342)の前記接続部分(346 )および前記腸骨インタフェースブロック(344)の前記接続部分(346 )の前記形状継ぎ手とは、互いに異なり且つ相互に不適合である、請求項に記載の装置(30)。
【請求項11】
前記寛骨臼ユニット(32)が取り外し可能なハンドル(328)を備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置(30)。
【請求項12】
請求項からおよび10のいずれか1項に記載の位置合わせ装置(30)を使用して、寛骨臼骨切り術の手術を準備するための方法であって、手術前のステップとして、
前記患者の前記腸骨(80)の3次元骨モデルを作成するステップと、
前記寛骨臼ユニット(32)を固定するための前記腸骨(80)の表面の特定の領域を特定するステップと、
前記腸骨(80)の表面の前もって特定された領域における少なくとも1つの骨スクリューの最適な挿入方向を特定するステップと、
前記台部分(320)が前記腸骨(80)の表面の前もって特定された領域と相補的であるように前記寛骨臼ユニット(32)を設計するステップと、
前記寛骨臼ユニット(32)が対応するそれぞれの骨スクリュー(380)に対して前もって特定された前記挿入方向を規定する少なくとも1つのシート(382)を含むように、前記寛骨臼ユニット(32)を設計するステップと、
前記腸骨ユニット(34)を固定するための前記腸骨(80)の表面の特定の領域を特定するステップと、
前記腸骨(80)の表面の前もって特定された領域における少なくとも1つの骨スクリュー(380)の最適な挿入方向を特定するステップと、
前記台部分(340)が前記腸骨(80)の表面の前もって特定された領域と相補的であるように前記腸骨ユニット(34)を設計するステップと、
前記腸骨ユニット(34)が対応するそれぞれの骨スクリュー(380)に対して前もって特定された前記挿入方向を規定する少なくとも1つのシート(382)を含むように前記腸骨ユニット(34)を設計するステップと、
前記寛骨臼(82)を前記残りの腸骨(80)に対して可動にするために、前記3次元骨モデルで寛骨臼骨切り術をシミュレートするステップと、
前記残りの腸骨(80)に対する前記寛骨臼(82)の生体力学的に正しい位置を特定するステップと、
前記残りの腸骨(80)に対する前記寛骨臼(82)の生体力学的に正しい位置に基づいて、前記寛骨臼ユニット(32)と前記腸骨ユニット(34)の相互に正しい位置を特定するステップと、
前記寛骨臼ユニット(32)と前記腸骨ユニット(34)に前もって特定された相互に正しい位置を課すように前記ブリッジ(36)を設計するステップと、
前記寛骨臼ユニット(32)、前記腸骨ユニット(34)、および前記ブリッジ(36)をそれぞれの設計に従って製造するステップと、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寛骨臼骨切り術用の位置合わせ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
寛骨臼骨切り術は、股関節が異常に発達して大腿骨頭が寛骨臼から徐々に外れるようになる状態である股関節形成不全を治療するために行われる必要がある外科的処置である。
【0003】
股関節は寛骨臼カプセル(凹面要素)と大腿骨頭(凸面要素)とから形成される。股関節形成不全が発生すると、大腿骨頭が寛骨臼にしっかりとフィットせず、簡単に脱臼する。このように、関節の2つの部分(凹面と凸面)が完全に合わないので、関節系が全体的に不安定な状態になり、股関節が脱臼し易くなる。
【0004】
寛骨臼骨切り術、すなわちPAOは、長年にわたって発展してきた寛骨臼を再調整するための高度に専門化された手法であり、その目的は関節の生理学的形態を復元することである。
【0005】
形成不全の外科的治療の目的は、関節の調和、ひいては正常な生体力学的力を復元することである。寛骨臼骨切り術は、寛骨臼カプセルと大腿骨頭との間の接触面積を増やし、不安定性に関連するストレスを軽減し、負荷力を正常化するために行われる。
【0006】
寛骨臼骨切り術は、寛骨臼の周囲の骨を切断し、腸骨の上部と下部の間の骨の連続性を維持しながら、寛骨臼の周囲の骨を腸骨から完全に切り離すことを伴う。骨切り術が完了すると、寛骨臼の断片は完全に可動になり、画像増強管を使用した手術中の制御下で必要な横方向のカバレッジとバージョン角度(angle of version)を取得するために、寛骨臼の断片の向きが変更される。言い換えれば、寛骨臼の断片は、寛骨臼腔が最も生体力学的に正しい位置にあるように、並進されて向きが変えられる。次に、寛骨臼は、通常ねじおよび/または金属ワイヤを使用して、腸骨に再び固定される。
【0007】
腸骨が切断されて得られた2つの部分は、目で確認することによって回転および再調整される。寛骨臼は、手術中に骨盤全体の前後の突起を調べながら、外科医によって正しい位置合わせを得るまで、回転される。
【0008】
この技術は、骨の2つの部分を新しい機械的に正しい位置に再配置することにより、優れた臨床的、放射線学的、および機能的な結果を生み出す。
【0009】
この手法は高く評価されているが、改善の余地がないわけではない。
【0010】
現時点において、寛骨臼骨切り術は、高度な外科的専門性、ひいては長い経験を必要とする。実際、その複雑さのために、手法の学習曲線は非常に長い。手術の最も複雑な部分は、寛骨臼の正しい位置合わせに関連する部分である。このステップでは、間違いなく人為的ミスのリスクが高くなる。
【0011】
したがって、寛骨臼骨切り術の手術を簡素化し、それらの誤差範囲を可能な限り制限する必要がある。
【発明の概要】
【0012】
したがって、本発明の目的は、従来技術に関連して上記で強調された欠点を克服することである。
【0013】
特に、本発明のタスクの1つは、再調整段階で外科医を支援する寛骨臼骨切り術のための装置を製造することである。
【0014】
さらに、本発明の1つのタスクは、人為的ミスによる患者のリスクを最小化する、寛骨臼骨切り術のための装置を製造することである。
【0015】
最後に、本発明のタスクの1つは、外科医が手術時間を短縮することを可能にする、寛骨臼骨切り術のための装置を製造することである。
【0016】
この目的およびこれらのタスクは、請求項1に記載の寛骨臼骨切り術用の位置合わせ装置によって達成される。その他の利点は、従属請求項で説明されている技術的特徴のおかげで達成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
これらおよび他の特徴は、それらの関連する利点とともに、添付の図に示されているものに従って、好ましい、したがって非排他的な、寛骨臼骨切り術のための位置合わせ装置の実施形態の、以下の例示的な、したがって非限定的な説明からより明白になるであろう。
図1】本発明の位置合わせ装置の第1の分解図を示す。
図2図1とは異なる位置にある、本発明の位置合わせ装置の腸骨ユニットの分解図を示す。
図3】腸骨上で、本発明の位置合わせ装置が第1の構成で使用される、寛骨臼骨切り術の手術におけるステップを示す。
図4】本発明の位置合わせ装置が第2の構成をとる、手術におけるステップを示す。
図5】本発明の位置合わせ装置が第3の構成をとる、手術におけるステップを示す。
図6】本発明の位置合わせ装置が第4の構成をとる、手術におけるステップを示す。
図7図6と同様の、手術におけるステップを示し、このステップでは、本発明の位置合わせ装置が代替構成をとる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本書の文脈では、読むことを簡単且つスムーズにするために、いくつかの用語の慣習が採用されている。これらの用語の慣習は、添付の図も参照して、以下で明確にされる。
【0019】
「患者固有」という用語は、ここおよび以下では、特定の患者の解剖学的構造に基づいて特別に成形された部品を意味する。特に、患者固有の部品は、骨構造の3次元モデル上で、コンピュータ支援設計(CAD)のツールを使用して、術前のステップで設計される。このモデルは、例えば、コンピュータ断層撮影法および/または磁気共鳴画像法によって得られる患者の骨の3次元画像から開発される。
【0020】
次に、各患者固有の部品は、工作機械製造技術またはいわゆる3Dプリンティング技術(積層造形)の1つなどの適切なコンピュータ支援製造(CAM)技術によって製造される。したがって、各患者固有の部品は、骨に対して一義的な位置を規定する、すなわち当該位置をとるように設計および製造することができる。患者固有の部品は通常、単一のユニットまたは非常に限られた数のユニットで製造され、1回の手術でのみ使用される。
【0021】
本発明は、所定の患者に対して寛骨臼骨切り術の手術を実施することを目的とした、全体として番号30で示される位置合わせ装置に関する。位置合わせ装置30は、
大腿骨の寛骨臼82の近くにおいて、患者の腸骨80上の一義的な位置に固定されるのに適した、患者固有の寛骨臼ユニット32と、
寛骨臼ユニット32に対して側方位置において、患者の腸骨80上の一義的な位置に固定されるのに適した、患者固有の腸骨ユニット34と、
寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34に堅固に且つ一義的な態様で接続されるのに適した、患者固有のブリッジ36と、を備える。
【0022】
本発明による位置合わせ装置30において、寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34が損傷を受けていない腸骨80に正しく固定されている場合、寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34は、一方が他方に対して、寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34の両方へのブリッジ36の同時固定と不適合である第1の事前定義された相互位置をとる。そして、骨切り術が実施され、ブリッジ36が寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34に接続されると、寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34は、一方が他方に対して、第1の相互位置とは異なり且つ腸骨80の残りの部分に対して寛骨臼82の生体力学的に正しい位置に対応する第2の事前定義された相互位置をとる。
【0023】
ここおよび以下では、「位置」という用語は、特定の部品が基準に対して配置される距離と、当該部品が当該基準に対してとる角度方向(angular orientation)との両方を指す。言い換えると、単一の要素の位置は、空間内の剛体並進(rigid translation)、またはその場での回転、またはこれら2つの動きの組み合わせのいずれかによって変更できる。
【0024】
本発明による位置合わせ装置30において、寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34の第1の相互位置は、一義的に、残りの腸骨80に対する寛骨臼82の病理学的(すなわち、生体力学的に不正確な)位置に対応する。
【0025】
逆に、寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34の第2の相互位置は、一義的に、残りの腸骨80に対する寛骨臼82の生理学的(すなわち、生体力学的に正しい)位置に対応する。
【0026】
上記のように、寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34の第1の相互位置は、ブリッジ36によって課される拘束と不適合である。言い換えれば、この第1の相互位置において、寛骨臼ユニット32と腸骨ユニット34との間の相互距離および/または相互向きは、ブリッジ36がユニット32および34の両方に同時に適切に接続されることを許容しない。実際、ブリッジ36、寛骨臼ユニット32、および腸骨ユニット34の形状は、ブリッジ36をユニット32および34の両方に同時に接続するために、後者が必然的に第1の相互位置とは異なる第2の相互位置をとらなければならないことを必要とする。
【0027】
好ましくは、同じく患者固有であるブリッジ36は、寛骨臼ユニット32に堅固に且つ一義的な態様で接続されるのに適した寛骨臼端部362と、腸骨ユニット34に堅固に且つ一義的な態様で接続されるのに適した腸骨端部364とを備える。
【0028】
有利には、ブリッジ36の寛骨臼端部362は、拘束手段62を備え、寛骨臼ユニット32は、拘束手段62を備える。拘束手段62および62(総称して拘束手段62としても知られている)は、一方が他方に対して相補的であり、相互に堅固に且つ一義的な拘束を生成するのに適している。
【0029】
有利には、ブリッジ36の腸骨端部364は拘束手段64を備え、腸骨ユニット34は拘束手段64を備える。拘束手段64および64(総称して拘束手段64としても知られている)は、一方が他方に対して相補的であり、相互に堅固に且つ一義的な拘束を生成するのに適している。
【0030】
上記のように、寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34は、患者固有である。この技術的特徴は、以下で詳しく説明される。
【0031】
寛骨臼ユニット32は、手術前のステップで特定された腸骨80の表面の特定の領域に完全に相補的であるような態様で成形された台部分320を備える。腸骨80の表面のこの特定の領域は、寛骨臼82の近くに特定される。この相補性のために、寛骨臼ユニット32を腸骨80の表面に配置するためのただ1つの正しい位置が規定される。他の位置は正しくなく、寛骨臼ユニット32が腸骨80上に大まかに且つ不安定に載っている結果となる。有利には、寛骨臼ユニット32の台部分320は、少なくとも部分的に凹面である。このようにして、それは腸骨80の前縁を少なくとも部分的に包囲することができる。
【0032】
台部分320の部分的な凹面の特徴は、腸骨ユニット34に関して以下に説明される関連する説明および図2を考慮することにより、類推によってより良く理解することができる。
【0033】
一実施形態によれば、寛骨臼ユニット32は、2つのサブユニットを含んでもよい。例えば、寛骨臼ユニット32は、有利には、患者固有の寛骨臼ベース322および汎用の寛骨臼インタフェースブロック324を含んでもよい。この場合、寛骨臼ベース322は、台部分320および接続部分326を含み、寛骨臼インタフェースブロック324は、拘束手段62、および、次に、接続部分326を含む。寛骨臼ベース322の接続部分326および寛骨臼インタフェースブロック324の接続部分326(総称して接続部分326とも呼ばれる)は、一方が他方に対して相補的であり、相互に堅固に且つ一義的な接続を確立するのに適している。寛骨臼ベース322および寛骨臼インタフェースブロック324が、一方が他方に対して、堅固な態様で適切に接続されると、それらは寛骨臼ユニット32を形成する。
【0034】
寛骨臼ユニット32は、好ましくは、典型的にはそれが正しい位置にあるときに、寛骨臼ユニット32を腸骨80に固定するのに適した固定手段38を備える。固定手段38は、好ましくは、少なくとも1つの骨スクリュー380および骨スクリュー380を受け入れるのに適した少なくとも1つのシート382を含む。よく知られているように、骨スクリュー380は、ねじ付きシャンクおよび頭部を含む。ねじ付きシャンクは、シート382を通過し且つ骨にしっかりとフィットするのに適している。スクリューの頭部は、一方では、固定ツール(図示せず)のためのグリップを提供するのに適しており、他方では、拘束を規定するために、シート382の当接面に載るのに適している。
【0035】
固定手段38は、好ましくは、2つのシート382を含み、各々が骨スクリュー380を受け入れるのに適している。経験者が良く理解できるように、各シート382は、一義的な方法で、対応するスクリュー380の挿入方向を規定する。
【0036】
シート382は患者固有の要素の一部であるので(寛骨臼ベース322のみまたは寛骨臼ユニット32全体であろうと)、各スクリュー380の挿入方向は、手術前のステップ中に、接続に関して最良の結果を得るために事前に規定することができる。
【0037】
寛骨臼ユニット32は、好ましくは、寛骨臼ユニット32にしっかりと結合することができる取り外し可能なハンドル328を含み、それにより、寛骨臼ユニット32は、手術野内の障害物にもかかわらず容易に移動することができる。実際、後でより良く説明されるように、寛骨臼骨切り術の手術中に、残りの腸骨80に対して寛骨臼82を動かす必要がある。取り外し可能なハンドル328は、この移動ステップを容易にする。
【0038】
寛骨臼ユニット32についての上記と同じ考慮事項は、必要な変更を加えて腸骨ユニット34にも適用される。特に、腸骨ユニット34はまた、手術前のステップで特定された腸骨80の表面の特定の領域に完全に相補的であるような態様で成形された台部分340を備える。腸骨80の表面のこの特定の領域は、寛骨臼ユニット32について特定された領域に対して横方向の位置にて特定される。この相補性のために、腸骨ユニット34を腸骨80の表面に配置するためのただ1つの正しい位置が規定される。他の位置は正しくなく、寛骨臼ユニット34が腸骨80上に大まかに且つ不安定に載っている結果となる。
【0039】
有利には、腸骨ユニット34の台部分340は、少なくとも部分的に凹面である。このようにして、それは腸骨80の前縁を少なくとも部分的に包囲することができる。部分的に凹面の台部分340を含む腸骨ユニット34の一実施形態が、図2に詳細に示されている。この図はまた、寛骨臼ユニットの台部分320を参照するとき、類推によって、同じ部分的な凹面の特徴を理解するために使用することができる。
【0040】
一実施形態によれば、腸骨ユニット34は、2つのサブユニットを含んでもよい。例えば、腸骨ユニット34は、有利には、患者固有の腸骨ベース342および汎用の腸骨インタフェースブロック344を含んでもよい。この場合、腸骨ベース342は、台部分340および接続部分346を含み、腸骨インタフェースブロック344は、拘束手段64、および、次に、接続部分346を含む。
【0041】
腸骨ベース342の接続部分346および腸骨インタフェースブロック344の接続部分346(総称して接続部分346とも呼ばれる)は、一方が他方に対して相補的であり、相互に堅固に且つ一義的な接続を確立するのに適している。腸骨ベース342および腸骨インタフェースブロック344が堅固な態様で互いに適切に接続されると、それらは腸骨ユニット34を形成する。
【0042】
腸骨ユニット34は、好ましくは、典型的にはそれが正しい位置にあるときに、腸骨ユニット34を腸骨80に固定するのに適した固定手段38を含む。固定手段38は、好ましくは、少なくとも1つの骨スクリュー380および骨スクリュー380を受け入れるのに適した少なくとも1つのシート382を含む。
【0043】
よく知られているように、骨スクリュー380は、ねじ付きシャンクおよび頭部を含む。ねじ付きシャンクは、シート382を通過し且つ骨にしっかりとフィットするのに適している。スクリュー380の頭部は、一方では、固定ツール(図示せず)のためのグリップを提供するのに適しており、他方では、拘束を規定するために、シート382の当接面に載るのに適している。
【0044】
固定手段38は、好ましくは、2つのシート382を含み、各々が骨スクリュー380を受け入れるのに適している。経験者が良く理解できるように、各シート382は、一義的な態様で、対応するスクリュー380の挿入方向を規定する。
【0045】
シート382は患者固有の要素の一部であるので(腸骨ベース342のみまたは腸骨ユニット34全体であろうと)、各スクリュー380の挿入方向は、手術前のステップ中に、接続に関して最良の結果を得るために事前に規定することができる。
【0046】
拘束手段62、64および/または接続部分326、346は、好ましくは、スナップ機構によって解放可能な形状継ぎ手(shape couplings)を採用する。この解決策により、外科医はツールを使用せずに短時間でしっかりとした堅固な結合を得ることができる。
【0047】
さらに、拘束手段62、64および/または接続部分326、346は、好ましくは互いに異なり且つ相互に不適合である形状継ぎ手を採用する。この技術的特徴により、手術中に、例えば正しい設計位置に対してブリッジ36を逆さまにすることによるミスが発生するのを防止する。既に述べたように、ブリッジ36は、
寛骨臼ユニット32の拘束手段62に接続されるのに適した寛骨臼端部362の拘束手段62と、
腸骨ユニット34の拘束手段64に接続されるのに適した腸骨端部364の拘束手段64と、を備える。
【0048】
ブリッジ36の両端にある拘束手段62、64を、一方が他方に対して異なり且つ不適合である形状にすることにより、手術中に、寛骨臼端部362が腸骨ユニット34に向けられ、腸骨端部364が寛骨臼ユニット32に向けられるという、ブリッジ36が誤って配置されるリスクが回避される。そのような配置は、実際、寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34に完全に不正確な相対位置を課すことになる。
【0049】
同様に、寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34が各々、2つのサブユニットを含む場合、腸骨ユニット34の接続部分346は、寛骨臼ユニット32の接続部分326と不適合であり、逆もまた同様であることが好ましい。この場合でさえ、実際には、寛骨臼ベース322が腸骨インタフェースブロック344に接続され、逆に、腸骨ベース342が寛骨臼インタフェースブロック324に接続されることを回避する必要がある。
【0050】
それぞれの接続部分326と346間の不適合性に替えて、またはそれに加えて、ベースとインタフェースブロックとの間の誤った接続もまた、ピース上に明確にマークされたラベルで回避することができる。この目的のために、添付の図は、寛骨臼ベース322および寛骨臼インタフェースブロック324上の文字ACET並びに腸骨ベース342および腸骨インタフェースブロック344上の文字ILIUMを明確を示している。
【0051】
添付の図に示す実施形態では、寛骨臼ユニット32の接続部分326は、骨スクリュー380の1つのシート382に設けられ、以下のように規定される。シート382を取り囲むブッシュ384は、寛骨臼インタフェースブロック324について、骨スクリュー380の軸の周りの一義的な向き(orientation)を規定する。スクリュー380の頭部はまた、寛骨臼インタフェースブロック324の接続部分326内に収容されることを意図された肩部386および溝388を備える。肩部386は、寛骨臼インタフェースブロック324のための、骨スクリュー380の軸に沿った一義的な位置を決定する軸方向の台を規定する。スクリュー380の頭部の溝388は、寛骨臼ベース322と寛骨臼インタフェースブロック324との間の接続をしっかりと保持するのに適したばねギロチンを受け入れるように意図されている。
【0052】
当業者が容易に理解できるように、寛骨臼ユニット32の接続部分326について上記と同じ考慮事項が、必要な変更を加えて、腸骨ユニット34の接続部分346にも適用される(この点に関して、図2の詳細も参照されたい)。
【0053】
以下は、本発明による位置合わせ装置30を使用して、寛骨臼骨切り術の手術を実施するための方法の簡単な説明である。
【0054】
手術前のステップは、
患者の腸骨80の3次元骨モデルを作成するステップと、
寛骨臼ユニット32を固定するための腸骨80の表面の特定の領域を特定するステップと、
腸骨80の表面の前もって特定された領域における少なくとも1つの骨スクリュー380の最適な挿入方向を特定するステップと、
台部分320が腸骨80の表面の前もって特定された領域と相補的であるように寛骨臼ユニット32を設計するステップと、
寛骨臼ユニット32が対応するそれぞれの骨スクリュー380に対して前もって特定された挿入方向を規定する少なくとも1つのシート382を含むように、寛骨臼ユニット32を設計するステップと、
腸骨ユニット34を固定するための腸骨80の表面の特定の領域を特定するステップと、
腸骨80の表面の前もって特定された領域における少なくとも1つの骨スクリュー380の最適な挿入方向を特定するステップと、
台部分340が腸骨80の表面の前もって特定された領域に相補的であるように腸骨ユニット34を設計するステップと、
腸骨ユニット34が対応するそれぞれの骨スクリュー380に対して前もって特定された挿入方向を規定する少なくとも1つのシート382を含むように、腸骨ユニット34を設計するステップと、
寛骨臼82を残りの腸骨80に対して可動にするような態様で、3次元骨モデルで寛骨臼骨切り術をシミュレートするステップと、
残りの腸骨80に対する寛骨臼82の生体力学的に正しい位置を特定するステップと、
残りの腸骨80に対する寛骨臼82の生体力学的に正しい位置に基づいて、寛骨臼ユニット32と腸骨ユニット34の相互に正しい位置を特定するステップと、
寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34に前もって特定された相互に正しい位置を課すような態様でブリッジ36を設計するステップと、
寛骨臼ユニット32、腸骨ユニット34、およびブリッジ36をそれぞれの設計に従って製造するステップと、を含む。
【0055】
手術のステップは、
患者の腸骨80にアクセスできるようにするステップと、
寛骨臼ユニット32を腸骨80の表面の前もって特定された領域に配置するステップと、
寛骨臼ユニット32の少なくとも1つのシートに少なくとも1つの骨スクリュー380を提供するステップと、
少なくとも1つの骨スクリュー380を用いて寛骨臼ユニット32を腸骨80に固定するステップと、
腸骨ユニット34を腸骨80の表面の前もって特定された領域に配置するステップと、
腸骨ユニット34の少なくとも1つのシートに少なくとも1つの骨スクリュー380を提供するステップと、
少なくとも1つの骨スクリュー380を用いて腸骨ユニット34を腸骨80に固定するステップと、
寛骨臼82を残りの腸骨80に対して可動にするように寛骨臼骨切り術を実施するステップと、
寛骨臼82を、前もって特定された生体力学的に正しい位置になるまで動かすステップと、
ブリッジ36を寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34に接続するステップと、
寛骨臼82を残りの腸骨80にしっかりと接続するステップと、
ブリッジ36、寛骨臼ユニット32、および腸骨ユニット34を取り外すステップと、を含む。
【0056】
図3から7は、本発明による位置合わせ装置30の実施形態、および寛骨臼骨切り術の手術におけるその使用を参照して、以下に簡単に説明される。
【0057】
図3は、寛骨臼ベース322および腸骨ベース342を固定した後、寛骨臼骨切り術が寛骨臼82を自由にするように実行される手術のステップを示す。
【0058】
図4は、寛骨臼82が残りの腸骨80に対して動かされる、図3のステップに続く手術のステップを示す。
【0059】
図5は、寛骨臼ベース322が寛骨臼ユニット32を形成するように寛骨臼インタフェースブロック324に接続され、腸骨ベース342が腸骨ユニット34を形成するように腸骨インタフェースブロック344に接続される、図4のステップに続く手術のステップを示す。
【0060】
図6は、ブリッジ36が寛骨臼ユニット32および腸骨ユニット34に適切に接続されて、残りの腸骨80に対して寛骨臼82の生体力学的に正しい位置を確実にする、図5のステップに続く手術のステップを示す。
【0061】
図7は、取り外し可能なハンドル328が寛骨臼ユニット32に取り付けられて寛骨臼82の動きを容易にする、図6のステップと同様の手術のステップを示す。
【0062】
当業者が良く理解することができるように、本発明は、従来技術に関して上記で強調された欠点を克服することを可能にする。
【0063】
特に、本発明は、再調整中の外科医を手助けする、寛骨臼骨切り術のための装置30を提供する。
【0064】
さらに、本発明は、人為的ミスによる患者のリスクを最小限に抑える、寛骨臼骨切り術のための装置30を提供する。
【0065】
最後に、本発明は、外科医が手術時間を短縮することを可能にする、寛骨臼骨切り術のための装置30を提供する。
【0066】
非限定的な例を提供することを意図して本発明の種々の実施形態に関連して特定の特徴が説明されていることは明らかである。当業者は、偶発的且つ特定のニーズを満たすために、明らかに本発明にさらなる修正および変更を加えることができる。例えば、本発明のある実施形態に関連して記載された技術的特徴は、それから推定され、本発明の他の実施形態に適用され得る。
【0067】
これらの修正および変更はまた、以下の特許請求の範囲によって定義されるように、本発明の保護の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7