IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧 ▶ バローレック・オイル・アンド・ガス・フランスの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】ねじ継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/04 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
F16L15/04 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021548431
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031453
(87)【国際公開番号】W WO2021059807
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019172936
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥 洋介
(72)【発明者】
【氏名】丸田 賢
(72)【発明者】
【氏名】杉野 正明
(72)【発明者】
【氏名】フォザギル アラン
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04676529(US,A)
【文献】国際公開第2017/145192(WO,A1)
【文献】特表2004-504563(JP,A)
【文献】特表2013-536339(JP,A)
【文献】特表2012-510009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のピンと、管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスとが締結されるねじ継手であって、
前記ピンの外周には、第1雄ねじと、前記第1雄ねじに対して軸方向先端側に離間し且つ第1雄ねじよりも小径の第2雄ねじと、前記第1雄ねじと前記第2雄ねじとの間に位置する段部により構成される中間ショルダ面と、該中間ショルダ面と前記第2雄ねじとの間における前記ピンの外周面により構成される第1周面とが設けられ、
前記ボックスの内周には、締結状態で前記第1雄ねじが嵌合する第1雌ねじと、締結状態で前記第2雄ねじが嵌合する第2雌ねじと、前記第1雌ねじと前記第2雌ねじとの間に位置する段部により構成され且つ締結状態で前記ピンの中間ショルダ面に接触する中間ショルダ面と、該中間ショルダ面と前記第1雌ねじとの間における前記ボックスの内周面により構成される第2周面とが設けられ、
前記第1周面には、当該周面に関連する前記中間ショルダ面に滑らかに連続する曲面を溝内壁面の少なくとも一部として有する第1の周方向溝が設けられており、
前記第1周面には前記第1の周方向溝と前記第2雄ねじとの間に位置し且つ軸方向の長さを有するねじ無し部がさらに設けられており、該ねじ無し部は、前記ねじ無し部に隣接する前記第2雄ねじのねじ谷底の径よりも大きな外径を有する外周面を有し、
前記第1の周方向溝は、前記曲面の軸方向両端部のうち前記中間ショルダ面とは反対側の端部に連続するテーパー面を溝内壁面の一部としてさらに有し、該テーパー面を介して前記曲面と前記ねじ無し部の外周面とが接続されており、
締結状態で、前記ピンの前記ねじ無し部は前記ボックスのねじ無し部内に挿入され、前記ピンの前記ねじ無し部と前記ボックスの前記ねじ無し部との間には隙間が形成されている、ねじ継手。
【請求項2】
請求項1に記載のねじ継手において、前記第2周面には、当該周面に関連する前記中間ショルダ面に滑らかに連続する曲面を溝内壁面の少なくとも一部として有する第2の周方向溝が設けられている、ねじ継手。
【請求項3】
請求項2に記載のねじ継手において、前記第1の周方向溝の前記曲面の曲率半径と、前記第2の周方向溝の前記曲面の曲率半径とが等しい、ねじ継手。
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載のねじ継手において、
前記ピンは、前記第2雄ねじの両端部のうち前記中間ショルダ面に近い方の端部近傍に位置するピン中間危険断面を含み、前記第1の周方向溝の底部を包含する前記ピンの横断面の断面積は、ピン中間危険断面の断面積よりも大きい、ねじ継手。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のねじ継手において、
前記第1の周方向溝の前記曲面と前記中間ショルダ面との接続点が、前記ボックスの中間ショルダ面の径方向内端よりも径方向内方に位置している、ねじ継手。
【請求項6】
管状のピンと、管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスとが締結されるねじ継手であって、
前記ピンの外周には、第1雄ねじと、前記第1雄ねじに対して軸方向先端側に離間し且つ第1雄ねじよりも小径の第2雄ねじと、前記第1雄ねじと前記第2雄ねじとの間に位置する段部により構成される中間ショルダ面と、該中間ショルダ面と前記第2雄ねじとの間における前記ピンの外周面により構成される第1周面とが設けられ、
前記ボックスの内周には、締結状態で前記第1雄ねじが嵌合する第1雌ねじと、締結状態で前記第2雄ねじが嵌合する第2雌ねじと、前記第1雌ねじと前記第2雌ねじとの間に位置する段部により構成され且つ締結状態で前記ピンの中間ショルダ面に接触する中間ショルダ面と、該中間ショルダ面と前記第1雌ねじとの間における前記ボックスの内周面により構成される第2周面とが設けられ、
記第2周面には、当該周面に関連する前記中間ショルダ面に滑らかに連続する曲面を溝内壁面の少なくとも一部として有する第1の周方向溝が設けられており、
前記第2周面には前記第1の周方向溝と前記第1雌ねじとの間に位置し且つ軸方向の長さを有するねじ無し部がさらに設けられており、該ねじ無し部は、前記ねじ無し部に隣接する前記第1雌ねじのねじ谷底の径よりも小さな内径を有する内周面を有し、
前記第1の周方向溝は、前記曲面の軸方向両端部のうち前記中間ショルダ面とは反対側の端部に連続するテーパー面を溝内壁面の一部としてさらに有し、該テーパー面を介して前記曲面と前記ねじ無し部の内周面とが接続されており、
締結状態で、前記ピンのねじ無し部が前記ボックスの前記ねじ無し部内に挿入され、前記ピンの前記ねじ無し部と前記ボックスの前記ねじ無し部との間には隙間が形成されている、ねじ継手。
【請求項7】
請求項に記載のねじ継手において、前記第1周面には、当該周面に関連する前記中間ショルダ面に滑らかに連続する曲面を溝内壁面の少なくとも一部として有する第2の周方向溝が設けられている、ねじ継手。
【請求項8】
請求項に記載のねじ継手において、前記第1の周方向溝の前記曲面の曲率半径と、前記第2の周方向溝の前記曲面の曲率半径とが等しい、ねじ継手。
【請求項9】
請求項6,7又は8に記載のねじ継手において、
前記ボックスは、前記第1雌ねじの両端部のうち前記中間ショルダ面に近い方の端部近傍に位置するボックス中間危険断面を含み、前記第1の周方向溝の底部を包含する前記ボックスの横断面の断面積は、ボックス中間危険断面の断面積よりも大きい、ねじ継手。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか1項に記載のねじ継手において、
前記第1の周方向溝の前記曲面と前記中間ショルダ面との接続点が、前記ピンの中間ショルダ面の径方向外端よりも径方向外方に位置している、ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼管の連結に用いられるねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油井、天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう。)においては、地下資源を採掘するため、複数段の井戸壁を構築するケーシングや、該ケーシング内に配置されてオイルやガスを生産するチュービングが用いられる。これらケーシングやチュービングは、多数の鋼管が順次連結されて成り、その連結にねじ継手が用いられる。油井に用いられる鋼管は油井管とも称される。
【0003】
ねじ継手の形式は、インテグラル型とカップリング型とに大別される。
【0004】
インテグラル型では、油井管同士が直接連結される。具体的には、油井管の一端には雌ねじ部が、他端には雄ねじ部が設けられ、一の油井管の雌ねじ部に他の油井管の雄ねじ部がねじ込まれることにより、油井管同士が連結される。
【0005】
カップリング型では、管状のカップリングを介して油井管同士が連結される。具体的には、カップリングの両端に雌ねじ部が設けられ、油井管の両端には雄ねじ部が設けられる。そして、カップリングの一方の雌ねじ部に一の油井管の一方の雄ねじ部がねじ込まれるとともに、カップリングの他方の雌ねじ部に他の油井管の一方の雄ねじ部がねじ込まれることにより、油井管同士が連結される。すなわち、カップリング型では、連結対象の一対の管材のうち、一方の管材が油井管であり、他方の管材がカップリングである。
【0006】
一般に、雄ねじ部が形成された油井管の端部は、油井管又はカップリングに形成された雌ねじ部に挿入される要素を含むことから、ピンと称される。雌ねじ部が形成された油井管又はカップリングの端部は、油井管に形成された雄ねじ部を受け入れる要素を含むことから、ボックスと称される。
【0007】
近年、さらなる高温高圧深井戸の開発が進んでいる。深井戸では、地層圧の深さ分布の複雑さによりケーシングの段数も増やす必要があることなどから、継手の最大外径、すなわちボックスの外径が油井管の管本体の外径とほぼ同程度のスリム型のねじ継手が用いられることがある。ボックス外径が油井管の管本体の外径にほぼ等しいねじ継手はフラッシュ型ねじ継手とも称される。また、ボックス外径が油井管の管本体の外径の概ね108%未満であるねじ継手はセミフラッシュ型ねじ継手とも称される。これらフラッシュ型及びセミフラッシュ型のねじ継手には、高い強度及びシール性能が要求されるだけでなく、限られた管肉厚内にねじ構造及びシール構造を配置するために、各部位には厳しい寸法制約が課されている。
【0008】
寸法制約が大きいフラッシュ型及びセミフラッシュ型のねじ継手においては、継手部の軸方向中間に中間ショルダ面を設け、その前後にそれぞれねじ部を配置した2段ねじにより雄ねじ部及び雌ねじ部を構成した継手デザインが採用されることが多い。このような2段ねじ構造のねじ継手は、例えば下記の特許文献1及び2に開示されている。また、中間ショルダ面に代えて相互に嵌合するフック形式の中間ショルダ構造が設けられた2段ねじ構造のねじ継手が、例えば下記の特許文献3及び4に開示されている。
【0009】
これら2段ねじ構造のねじ継手では、上記特許文献1において言及されているように、継手部の中間に危険断面(PICCS及びBICCS)が存在する。
【0010】
危険断面(CCS)とは、締結状態において引張荷重に耐える面積が最も小さくなる継手部分の横断面である。過大な軸方向引張荷重が負荷された場合、危険断面の近傍で破断が生じる可能性が高くなる。
【0011】
一般的な一段ねじ構造のねじ継手の場合、引張荷重のピンからボックスへの伝搬は、ねじ嵌合範囲全体にわたって軸方向に分散される。したがって、引張荷重のすべてが作用するピンの断面部分はねじ嵌合範囲よりもピンの管本体側となり、引張荷重のすべてが作用するボックスの断面部分はねじ嵌合範囲よりもボックスの管本体側となる。引張荷重のすべてが作用する断面のうち最も断面積が小さいものが危険断面となる。すなわち、締結状態における雄ねじ部と雌ねじ部との噛み合い端のうち、雄ねじ部の先端側の噛み合い端に対応する雌ねじ部のねじ谷底位置を包含するボックスの横断面がボックス危険断面(BCCS)となる。また、締結状態における雄ねじ部と雌ねじ部との噛み合い端のうち、雄ねじ部の管本体側の噛み合い端に対応する雄ねじ部のねじ谷底位置を包含するピンの横断面がピン危険断面(PCCS)となる。ボックス危険断面及びピン危険断面のうち面積が小さい方がそのねじ継手の危険断面(CCS)となる。油井管の管本体の断面積に対する危険断面の面積の比を継手効率と呼び、油井管本体の引張強度に対する継手部分の引張強度の指標として広く用いられている。
【0012】
2段ねじ構造のねじ継手においても、上記ボックス危険断面及びピン危険断面が存在する。さらに、2段ねじ構造のねじ継手においては、上述したように、継手部の軸方向中間部にも引張荷重に耐える継手断面積が小さくなる部位が存在する。すなわち、2段ねじ構造のねじ継手では、軸方向中間にねじ嵌合の無いセクションが存在する。このねじ嵌合の無いセクションでは、ピン及びボックスに分担された引張荷重が増減することなく軸方向に伝搬する。したがって、ねじ嵌合の無いセクションにおいて最も断面積が小さくなるピンの断面がピン中間危険断面(PICCS)となり、ねじ嵌合の無いセクションにおいて最も断面積が小さくなるボックスの断面がボックス中間危険断面(BICCS)となる。継手中間部における破断の発生を防止するためには、ピン中間危険断面の面積とボックス中間危険断面の面積との和を、できるだけ大きくすることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特表2013-536339号公報
【文献】特開2002―357287号公報
【文献】特表平7-504483号公報
【文献】特表2013―519854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、2段ねじ構造のねじ継手において、ねじ嵌合の無いセクションには中間ショルダ面が設けられる。耐トルク性能を向上するためには、中間ショルダ面の径方向寸法を確保して中間ショルダ面同士の接触面積を大きくする必要がある。その結果、フラッシュ型及びセミフラッシュ型の2段ねじ構造のねじ継手では、ピン中間危険断面及びボックス中間危険断面の大きな断面積を確保することが困難である。
【0015】
また、ピン中間危険断面及びボックス中間危険断面は、中間ショルダ面に近い位置に存在している。中間ショルダ面の前後でピン及びボックスの断面積が急激に変化するため、その近くに存在するピン中間危険断面及びボックス中間危険断面に大きな歪みが生じ易い。
【0016】
また、従来のねじ継手では、中間ショルダ面同士の接触面積の確保とともに、中間ショルダ面近傍の管肉厚確保の観点から、特許文献1及び2に示されるように、中間ショルダ面の基部の面取り部の径を可能な限り小さくしている。そのため、中間ショルダ面の加工が困難である。
【0017】
なお、特許文献2には、ねじ結合部の膨張又は曲げに対する柔軟性を与える環状レリーフが形成されたねじ継手が開示されている。この環状レリーフは、中間ショルダの近傍でピンの外周面及びボックスの内周面に設けた環状溝によって形成されている。この環状溝は中間ショルダ面とは分離して設けられており、中間ショルダの加工性に関連しない。また、特許文献2は、引張荷重負荷時の中間危険断面における破断について言及していない。
【0018】
また、特許文献3及び4に開示されたフック状中間ショルダ構造は、構造が複雑で、加工性が一層悪化する。
【0019】
本開示は、中間ショルダ面を含む2段ねじ構造のねじ継手において、引張荷重が負荷されたときにピン中間危険断面及び/又はボックス中間危険断面の近傍で破断することを防止するとともに、中間ショルダ面を加工し易くすることにより生産性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本開示に係るねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスとが締結されるねじ継手である。前記ピンの外周には、第1雄ねじと、前記第1雄ねじに対して軸方向先端側に離間し且つ第1雄ねじよりも小径の第2雄ねじと、前記第1雄ねじと前記第2雄ねじとの間に位置する段部により構成される中間ショルダ面と、該中間ショルダ面と前記第2雄ねじとの間における前記ピンの外周面により構成される第1周面とが設けられる。前記ボックスの内周には、締結状態で前記第1雄ねじが嵌合する第1雌ねじと、締結状態で前記第2雄ねじが嵌合する第2雌ねじと、前記第1雌ねじと前記第2雌ねじとの間に位置する段部により構成され且つ締結状態で前記ピンの中間ショルダ面に接触する中間ショルダ面と、該中間ショルダ面と前記第1雌ねじとの間における前記ボックスの内周面により構成される第2周面とが設けられる。前記第1周面及び前記第2周面のうち一方の周面には、当該周面に関連する前記中間ショルダ面に滑らかに連続する曲面を溝内壁面の少なくとも一部として有する第1の周方向溝が設けられている。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、中間ショルダ面を含む2段ねじ構造のねじ継手において、引張荷重が負荷されたときにピン中間危険断面又はボックス中間危険断面の近傍で破断することを防止するとともに、中間ショルダ面を加工し易くすることにより生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態に係る鋼管用ねじ継手の締結状態を示す縦断面図である。
図2図2は、同鋼管用ねじ継手の主要部の拡大縦断面図である。
図3図3は、ピン及びボックスの中間ショルダ近傍のプロファイル説明用の断面図である。
図4図4は、中間ショルダ面を加工するための切削チップの刃部の側面図である。
図5図5は、中間ショルダ面の加工工程を示す工程図である。
図6A図6Aは、供試体#1及び#2に単純引張荷重を負荷したときのピン中間危険断面近傍に生じる相当塑性ひずみを示すグラフである。
図6B図6Bは、供試体#1及び#2に繰り返し荷重を負荷したときのピン中間危険断面近傍に生じる相当塑性ひずみを示すグラフである。
図6C図6A及び図6Bのグラフの横軸の各ポイントのひずみ測定位置が示された、ピン中間危険断面近傍の第2雄ねじのねじ谷底の断面図である。
図7A図7Aは、供試体#1及び#2に単純引張荷重を負荷したときのボックス中間危険断面近傍に生じる相当塑性ひずみを示すグラフである。
図7B図7Bは、供試体#1及び#2に繰り返し荷重を負荷したときのボックス中間危険断面近傍に生じる相当塑性ひずみを示すグラフである。
図7C図7A及び図7Bのグラフの横軸の各ポイントのひずみ測定位置が示された、ボックス中間危険断面近傍の第1雌ねじのねじ谷底の断面図である。
図8A図8Aは、供試体#3及び#4に単純引張荷重を負荷したときのピン中間危険断面近傍に生じる相当塑性ひずみを示すグラフである。
図8B図8Bは、供試体#3及び#4に繰り返し荷重を負荷したときのピン中間危険断面近傍に生じる相当塑性ひずみを示すグラフである。
図9A図9Aは、供試体#3及び#4に単純引張荷重を負荷したときのボックス中間危険断面近傍に生じる相当塑性ひずみを示すグラフである。
図9B図9Bは、供試体#3及び#4に繰り返し荷重を負荷したときのボックス中間危険断面近傍に生じる相当塑性ひずみを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施の形態に係るねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとから構成される。ピンとボックスとは、ピンがボックスにねじ込まれることにより締結される。ピンは、油井管等の鋼管の端部に設けられていてよい。ボックスは、カップリングの端部や、他の鋼管の端部に設けられていてよい。なお、油井管やカップリングは、ステンレス鋼やニッケル基合金等の金属製であってよい。
【0024】
ピンの外周には、第1雄ねじと、第1雄ねじに対して軸方向先端側に離間し且つ第1雄ねじよりも小径の第2雄ねじと、第1雄ねじと第2雄ねじとの間に位置する段部により構成される中間ショルダ面と、中間ショルダ面と第2雄ねじとの間におけるピンの外周面により構成される第1周面とが設けられていてよい。中間ショルダ面は、段部の側面(すなわち、軸方向先端側を向く端面)により構成されていてよい。第1雄ねじ及び第2雄ねじは、ピンの軸方向先端側に至るにしたがって徐々に小径となるテーパーねじにより構成できる。この場合、第1雄ねじよりも第2雄ねじが小径とは、第1雄ねじの先端部の径よりも第2雄ねじの基端部の径の方が小さいことを意味する。
【0025】
また、第1雄ねじの基端側でピンの外周にピン外シール面を設けることができ、第2雄ねじの先端側でピンの外周にピン内シール面を設けることができる。中間ショルダ面と第1雄ねじとの間、若しくは、中間ショルダ面と第2雄ねじとの間で、ピンの外周にピン中間シール面を設けてもよい。これらシール面は、要求される密封性能や継手構造に応じていずれか一つ若しくは複数設けられていてよい。
【0026】
ボックスの内周には、締結状態で第1雄ねじが嵌合する第1雌ねじと、締結状態で第2雄ねじが嵌合する第2雌ねじと、第1雌ねじと第2雌ねじとの間に位置する段部により構成される中間ショルダ面と、中間ショルダ面と第1雌ねじとの間におけるボックスの内周面により構成される第2周面とが設けられていてよい。ボックスの中間ショルダ面は、段部の側面により構成されていてよい。ボックスの中間ショルダ面は締結状態でピンの中間ショルダ面に接触する。第1及び第2雌ねじは、第1及び第2雄ねじのねじプロファイルに適合するねじプロファイルを有し、ボックスの軸方向先端側(すなわちピンの軸方向基端側)に至るにしたがって徐々に小径となるテーパーねじにより構成できる。
【0027】
なお、上記雄ねじ及び雌ねじは、バットレスねじであってもよく、縦断面形状がダブテイル形状であるとともにねじの螺旋方向に沿って先端側に至るにしたがって徐々にねじ山幅が狭くなる楔形ねじであってもよく、その他適宜のねじであってよい。
【0028】
また、ボックスの内周には、ピン外周に設けたシール面に対応するシール面を設けることができる。すなわち、ピン外シール面を設ける場合には締結状態でピン外シール面に接触するボックス外シール面を設けることができる。ピン内シール面を設ける場合には締結状態でピン内シール面に接触するボックス内シール面を設けることができる。ピン中間シール面を設ける場合には締結状態でピン中間シール面に接触するボックス中間シール面を設けることができる。互いに接触するシール面間には所定の径方向の干渉量を設定しておき、嵌め合わせたときにそれぞれが元の径に戻ろうとする弾性復元力によって全周密着し、これにより密封性能が発揮される。
【0029】
ピン及びボックスの中間ショルダ面は、管軸に直交する平坦面であってもよいし、横断面において管軸に直交する直線に対して僅かに傾斜するテーパー母線を有するテーパー面であってもよい。また、ピン及びボックスの中間ショルダ面は、上記段差の径方向幅の略全体にわたる単一面であってよい。
【0030】
上記の第1周面及び第2周面のうち一方の周面には、当該周面に関連する中間ショルダ面に滑らかに連続する曲面を溝内壁面の少なくとも一部として有する第1の周方向溝を設けることができる。第1の周方向溝は、径方向の溝深さを有する。この周方向溝が設けられていない従来の構造では、ピン及びボックスの中間ショルダ面近傍の部位の剛性が比較的高い一方で、中間ショルダ面の近くに存在するピン中間危険断面及びボックス中間危険断面の剛性が低いために、ピン中間危険断面及びボックス中間危険断面の近傍で弾性域を超える大きな歪みが生じて破断し易い。一方、本実施形態の構造では、中間ショルダ面を構成する段差部によって管肉厚が急激に薄くなった部位に第1の周方向溝を設けることによって、その部位の引張荷重による伸展性を向上させ、ピン中間危険断面又はボックス中間危険断面に生じる歪み量を抑えることができる。また、第1の周方向溝を形成する曲面を、対応する中間ショルダ面に滑らかに連続させることによって、第1の周方向溝における応力集中を緩和できる。さらに、上記曲面の曲率半径を比較的大きくしても、溝深さ内に上記曲面の全部又は一部を収めることにより、中間ショルダ面同士の接触面積を確保できる。また、上記曲面の曲率半径を大きくすることで、中間ショルダ面及び各ねじ部を切削加工する切削チップとして従来よりも大きな曲率半径の刃先を有するものを用いることができ、旋盤加工の1回転あたりの軸方向進み量を大きくすることができる。これにより、切削チップの寿命が向上するとともに、ピン及びボックスの生産性の向上が図られる。
【0031】
上記の第1周面及び第2周面のうち他方の周面には、当該周面に関連する前記中間ショルダ面に滑らかに連続する曲面を溝内壁面の少なくとも一部として有する第2の周方向溝を設けることができる。第2の周方向溝は、径方向の溝深さを有する。ピン及びボックスの双方に中間ショルダ面に連続する周方向溝を設けることにより、ピン中間危険断面及びボックス中間危険断面の双方において上述の利点が得られる。なお、第2の周方向溝の断面形状や大きさは、第1の周方向溝と同じであってよい。
【0032】
好ましくは、第1の周方向溝及び/又は第2の周方向溝は、ピン又はボックスの全周にわたる環状溝とすることができる。これにより一層の生産性の向上が図られる。
【0033】
好ましくは、第1の周方向溝の曲面の曲率半径と、第2の周方向溝の曲面の曲率半径とが等しい。これにより、共通の切削チップを用いて第1及び第2の周方向溝を加工できる。
【0034】
第1の周方向溝は、第1周面に設けられていてよい。これによれば、ピン中間危険断面における破断を防止するとともに、ピンの中間ショルダ面の加工性を向上できる。
【0035】
ピンに第1の周方向溝を設ける場合、第1周面には、第1の周方向溝と第2雄ねじとの間に位置し且つ軸方向の長さを有するねじ無し部をさらに設けることができる。このねじ無し部は、ねじ無し部に隣接する第2雄ねじのねじ谷底の径よりも大きな外径を有する外周面を有していてよい。これによれば、ねじ無し部によって第1の周方向溝とピン中間危険断面との間の部位の剛性を確保でき、圧縮荷重や曲げ荷重に対する耐性を確保できる。
【0036】
ピンに設けた第1の周方向溝は、前記曲面の軸方向両端部のうち中間ショルダ面とは反対側の端部に連続するテーパー面を溝内壁面の一部としてさらに有していてよく、該テーパー面を介して前記曲面とねじ無し部の外周面とを接続することができる。これによれば、テーパー面に沿って切削チップの刃先を第1の周方向溝の前記曲面形成位置まで挿入していくことができるとともに、曲面の加工後に連続して中間ショルダ面を加工することができ、一層の生産性の向上が図られる。なお、上記構成の場合、第1周面は、ねじ無し部の外周面と、第1の周方向溝の曲面及びテーパー面とを含み、かかる第1周面の形状によって第1の周方向溝が定義されることとなる。
【0037】
ピンは、第2雄ねじの両端部のうち中間ショルダ面に近い方の端部近傍に位置するピン中間危険断面PICCSを含む(図3参照)。好ましくは、ピンに設けた第1の周方向溝の底部を包含するピンの横断面の断面積AP1は、ピン中間危険断面の断面積AP2よりも大きい。これによれば、第1の周方向溝が設けられた部位の強度を確保できる。
【0038】
好ましくは、ピンに設けられた第1の周方向溝の前記曲面と中間ショルダ面との接続点Pを、ボックスの中間ショルダ面の径方向内端Pよりも径方向内方に位置させることができる(図3参照)。これによれば、前記曲面の曲率半径を比較的大きくしても、中間ショルダ面同士の接触面積を大きく確保できる。なお、ボックスの中間ショルダ面の径方向内端Pは、中間ショルダ面の縦断面において直線部分の内端であり、コーナー部に設けられるR部を含まないものとする。
【0039】
第1の周方向溝は、第2周面に設けられていてもよい。これによれば、ボックス中間危険断面における破断を防止するとともに、ボックスの中間ショルダ面の加工性を向上できる。
【0040】
ボックスに第1の周方向溝を設ける場合、第2周面に、第1の周方向溝と第1雌ねじとの間に位置し且つ軸方向の長さを有するねじ無し部をさらに設けることができる。このねじ無し部は、ねじ無し部に隣接する第1雌ねじのねじ谷底の径よりも小さな内径を有する内周面を有していてよい。これによれば、ねじ無し部によって第1の周方向溝とボックス中間危険断面との間の部位の剛性を確保でき、圧縮荷重や曲げ荷重に対する耐性を確保できる。
【0041】
ボックスに設けた第1の周方向溝は、前記曲面の軸方向両端部のうち中間ショルダ面とは反対側の端部に連続するテーパー面を溝内壁面の一部としてさらに有していてよく、該テーパー面を介して前記曲面とねじ無し部の内周面とを接続することができる。これによれば、テーパー面に沿って切削チップの刃先を第1の周方向溝の前記曲面形成位置まで挿入していくことができるとともに、曲面の加工後に連続して中間ショルダ面を加工することができ、一層の生産性の向上が図られる。なお、上記構成の場合、第1周面は、ねじ無し部の内周面と、第1の周方向溝の曲面及びテーパー面とを含み、かかる第1周面の形状によって第1の周方向溝が定義されることとなる。
【0042】
ボックスは、第1雌ねじの両端部のうち中間ショルダ面に近い方の端部近傍に位置するボックス中間危険断面を含む(図3参照)。好ましくは、ボックスに設けた第1の周方向溝の底部を包含するボックスの横断面の断面積AB1は、ボックス中間危険断面BICCSの断面積AB2よりも大きい。これによれば、第1の周方向溝が設けられた部位の強度を確保できる。
【0043】
好ましくは、ボックスに設けられた第1の周方向溝の前記曲面と中間ショルダ面との接続点Pを、ピンの中間ショルダ面の径方向外端Pよりも径方向外方に位置させることができる(図3参照)。これによれば、前記曲面の曲率半径を比較的大きくしても、中間ショルダ面同士の接触面積を大きく確保できる。なお、ピンの中間ショルダ面の径方向外端Pは、中間ショルダ面の縦断面において直線部分の外端であり、コーナー部に設けられるR部を含まないものとする。
【0044】
本実施形態に係るねじ継手は、ボックスの最大外径が、ピンを有する鋼管の管径の108%未満であるセミフラッシュ型のねじ継手として好適に実施でき、特にボックスが他の鋼管の端部に設けられたインテグラル型のセミフラッシュねじ継手として好適に実施できる。
【0045】
なお、本開示において、上記各危険断面はねじ山の断面を含まないものとし、各危険断面の断面積は、各テーパーねじの完全ねじ部及び不完全ねじ部のねじ山を除く断面部分の面積として定義される。
【0046】
〔油井管用ねじ継手の構成〕
図1を参照して、本実施の形態に係る油井管用ねじ継手1は、インテグラル型のねじ継手であって、管状のピン2と、ピン2がねじ込まれてピン2と締結される管状のボックス3とを備える。ピン2は、互いに連結される対の油井管のうち一方の端部に設けられており、ボックス3は他方の油井管の端部に設けられている。なお、一方の油井管の端部に形成されるピン2を他方の油井管の端部に形成されるボックス3の内部に嵌合させる構造としつつも、ピン2及びボックス3の管肉厚を可能な限り大きく確保するために、ピン2が形成される油井管の端部には縮径加工が施されるとともに、ボックス3が形成される油井管の端部には拡径加工が施され、これら縮径加工又は拡径加工の後に旋削加工することによってピン2及びボックス3が形成されている。
【0047】
ピン2は、一方の油井管の管本体の端部から軸方向に沿って外端側(図1において右側)に延びている。ピン2の外周には、管本体側から外端側に向けて順に、ピン外シール面21、テーパーねじからなる第1雄ねじ22、第1雄ねじ22のねじ谷底面に連なる外周面を有するねじ無し部23、中間トルクショルダ面24を含む段部、周方向溝25、第2雄ねじ27のねじ山頂面に連なる外周面を有するねじ無し部26、第1雄ねじ22よりも小径のテーパーねじからなる第2雄ねじ27、及び、ピン内シール面28が設けられている。周方向溝25は、中間ショルダ面24と第2雄ねじ27との間におけるピン2の外周面に設けられている。
【0048】
ボックス3は、他方の油井管の管本体の端部から軸方向に沿って外端側(図1において左側)に延びている。ボックス3の外周には、外端側から管本体側に向けて順に、ボックス外シール面31、テーパーねじからなる第1雌ねじ32、第1雄ねじ32のねじ山頂面に連なる内周面を有するねじ無し部33、周方向溝34、中間トルクショルダ面35を含む段部、第2雌ねじ37のねじ谷底面に連なるねじ無し部36、第1雌ねじ32よりも小径のテーパーねじからなる第2雌ねじ37、及び、ボックス内シール面38が設けられている。周方向溝34は、中間ショルダ面35と第1雌ねじ32との間におけるボックス3
の内周面に設けられている。
【0049】
本実施形態の2段ねじ構造のねじ継手1は、図1に示すように、第1雄ねじ22と第1雌ねじ32の噛み合い範囲のピン管本体側端部の近傍にピン危険断面PCCSを有し、第2雄ねじ27と第2雌ねじ37の噛み合い範囲のボックス管本体側端部の近傍にボックス危険断面BCCSを有する。さらに、第1雄ねじ22と第1雌ねじ32の噛み合い範囲の中間ショルダ面側の端部の近傍にボックス中間危険断面BICCSを有し、第2雄ねじ27と第2雌ねじ37の噛み合い範囲の中間ショルダ面側の端部の近傍にピン中間危険断面PICCSを有する。
【0050】
ピン2及びボックス3の締結状態で、ピン外シール面21とボックス外シール面31とが全周にわたって接触してメタル-メタルシールを構成し、第1雄ねじ22が第1雌ねじ32に嵌合し、中間ショルダ面24,35同士が接触して締結トルクを負担し、第2雄ねじ27が第2雌ねじ37に嵌合し、ピン内シール面28がボックス内シール面38に全周にわたって接触してメタル-メタルシールを構成する。
【0051】
また、締結状態で、ピン2のねじ無し部23はボックス3のねじ無し部33内に挿入され、ピン2のねじ無し部26はボックス3のねじ無し部36内に挿入される。ねじ無し部23とねじ無し部33との間、並びに、ねじ無し部26とねじ無し部36との間には隙間が形成されている。
【0052】
周方向溝25,34はそれぞれ、全周にわたって連続する環状溝により構成される。ピン2の周方向溝25は、ピン2の中間ショルダ面に滑らかに連続し且つ一定の曲率半径を有する曲面25aと、該曲面25aの軸方向両端部のうち中間ショルダ面24とは反対側の端部に連続するテーパー面25bとを溝内壁面として有する。テーパー面25bは、曲面25aとねじ無し部26の外周面とを接続する。ボックス3の周方向溝34は、ボックス3の中間ショルダ面35に滑らかに連続し且つ一定の曲率半径を有する曲面34aと、該曲面34aの軸方向両端部のうち中間ショルダ面35とは反対側の端部に連続するテーパー面34bとを溝内壁面として有する。テーパー面34bは、曲面34aとねじ無し部33の内周面とを接続する。
【0053】
周方向溝25の溝深さ、すなわちねじ無し部26の外周面を基準とする深さは、第2雄ねじ27の軸方向内端側(すなわち中間ショルダ面側)の端部近傍のねじ谷底深さと同程度であってよい。図3を参照して、好ましくは、周方向溝25の底部を包含するピン2の横断面の断面積AP1は、ピン中間危険断面PICCSの断面積AP2よりも大きい。また、周方向溝25による作用効果を十分に生じさせるために、好ましくは断面積AP1が断面積AP2の110%よりも小さくなるように溝深さを設定することができる。より好ましくは断面積AP1が断面積AP2の105%よりも小さくなるように周方向溝25の溝深さを設定することができる。
【0054】
周方向溝34の溝深さ、すなわちねじ無し部33の内周面を基準とする深さは、第1雌ねじ32の軸方向内端側(すなわち中間ショルダ面側)の端部近傍のねじ谷底深さと同程度であってよい。図3を参照して、好ましくは、周方向溝34の底部を包含するボックス3の横断面の断面積AB1は、ボックス中間危険断面BICCSの断面積AB2よりも大きい。また、周方向溝34による作用効果を十分に生じさせるために、好ましくは断面積AB1が断面積AB2の110%よりも小さくなるように溝深さを設定することができる。より好ましくは断面積AB1が断面積AB2の105%よりも小さくなるように周方向溝34の溝深さを設定することができる。
【0055】
中間ショルダ面24,35はそれぞれ、図示実施例では管軸に直交する平坦面により構
成されている。図3に詳細に示すように、ピン2の中間ショルダ面24の径方向内端Pはねじ無し部26の外周面と径方向にほぼ同じ位置にあり、中間ショルダ面24の径方向外端Pはねじ無し部23の外周面と径方向にほぼ同じ位置にある。また、ボックス3の中間ショルダ面35の径方向内端Pはねじ無し部36の内周面と径方向にほぼ同じ位置にあり、中間ショルダ面35の径方向外端Pはねじ無し部33の内周面と径方向にほぼ同じ位置にある。ピン2の中間ショルダ面24の内端、すなわち中間ショルダ面24と周方向溝25の曲面25aとの接続点Pは、ボックス中間ショルダ面35の径方向内端Pよりも径方向内方に位置している。ボックス3の中間ショルダ面35の外端、すなわち中間ショルダ面35と周方向溝34の曲面34aとの接続点Pは、ピン中間ショルダ面24の径方向外端Pよりも径方向外方に位置している。このように曲面25a,34aを中間ショルダ面24,35にそれぞれ接続することによって、中間ショルダ面24,35同士の接触面積を小さくすることなく、曲面25a,34aの曲率半径を大きくすることができる。
【0056】
[周方向溝の加工方法]
図4は、各ねじ22,27,32,37及び周方向溝25,34を旋削加工するための切削チップ(刃物)の先端刃部4の拡大側面図である。刃部4は、所定の曲率半径Rを有する先端R部41と、左右側縁部42,43とを有する。左右側縁部42,43は先端R部41から離れるにしたがって徐々に幅広となるよう刃物角度αが付けられている。
【0057】
刃部4には、切削加工する際に加工面に対して必要な隙間角度K’,K”が存在する。すなわち、図5に示すように、左右側縁部42,43と加工面との間の角度θ’,θ”が、隙間角度K’,K”よりも大きくなければ加工することができない。そのため、ピン中間ショルダ面24及び周方向溝25の加工に際しては、図5に示すように、θ’>K’、且つ、θ”>K”の関係を満たす角度で刃部4をワークに対して挿入することにより、周方向溝25及び中間ショルダ面24を連続加工できる。また、周方向溝25はテーパー面25bを有することから、隙間角度K’を確保しつつ刃部4を挿入していくことができる。さらに、先端R部41の曲率半径Rは加工する曲面25aの曲率半径より小さい必要があるが、本開示による周方向溝25は深さを有するため、中間ショルダ面同士の接触面積を犠牲にすることなく曲面25aの曲率半径R’を比較的大きくすることができ、それに伴い先端R部41の曲率半径Rの大きい切削チップを用いることができる。周方向溝34及びボックス中間ショルダ面35の加工の場合も同様である。
【0058】
本開示は、インテグラル型だけでなく、カップリング型のねじ継手にも適用できる。また、各ねじは、台形ねじ、APIラウンドねじ、APIバットレスねじ、若しくは、楔型ねじなどであってよい。その他、本開示は上記の実施の形態に限定されず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【実施例
【0059】
本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手の効果を確認するため、弾塑性有限要素法による数値解析シミュレーションを実施した。
【0060】
<試験条件>
図1図3に示すインテグラル型の油井管用ねじ継手について、大小2種類の管径サイズについて、周方向溝25,34を設けた供試体#2,#4(解析モデル)と、いずれの周方向溝も設けない供試体#1,#3とを作成し、各供試体毎に弾塑性有限要素法解析を実施して、ピン中間危険断面を含む第2雄ねじのねじ谷底面に生じる相当塑性ひずみ、並びに、ボックス中間危険断面を含む第1雌ねじのねじ谷底面に生じる相当塑性ひずみを比較した。
【0061】
<油井管の寸法>
供試体#1及び#2の油井管のサイズは9-5/8” 47.0#(管本体外径:244.48m
m、管本体内径:220.50mm)であり、継手効率(管本体の断面積に対するボックス危険断面BCCSの断面積の比)は67.3%である。
【0062】
供試体#3及び#4の油井管のサイズは 13-3/8” 72.0#(管本体外径:339.73
mm、管本体内径:313.61mm)であり、継手効率は70.5%である。
【0063】
いずれの供試体においても、各ねじのねじテーパー角度は1.591°、ねじ高さは1.3mm、ねじピッチは5.08mmに統一した。
【0064】
また、周方向溝25,34の形状は、曲面25a,34aの曲率半径を1.7mm、溝深さを1.2mm、テーパー面25b,34bのテーパー母線と管軸とのなす角度を15°で統一した。
【0065】
<油井管の材料>
API規格の油井管材料Q125(公称耐力YS=862MPa(125ksi))
【0066】
<評価方法>
まず各供試体に対して締結をシミュレートした解析を実行した後、締結状態のモデルにAPI 5C5 2017 CAL-IVで規定されるSeries A試験を模擬した繰り返し複合荷重を負荷し、複合荷重初期段階の単純引張荷重負荷直後の相当塑性ひずみ、及び、繰り返し複合荷重の全過程終了後の相当塑性ひずみについて、各供試体毎に比較比較した。
【0067】
<評価結果>
小径サイズの供試体#1と#2との比較結果を図6A図6B図7A図7Bのグラフに示す。図6Aは単純引張荷重負荷直後のピン中間危険断面近傍の相当塑性ひずみ分布を示し、図6Bは繰り返し複合荷重の全過程終了後のピン中間危険断面近傍の相当塑性ひずみ分布を示し、図7Aは単純引張荷重負荷直後のボックス中間危険断面近傍の相当塑性ひずみ分布を示し、図7Bは繰り返し複合荷重の全過程終了後のボックス中間危険断面近傍の相当塑性ひずみ分布を示す。横軸の「軸方向座標」は中間ショルダ面からの管軸方向距離であり、中間ショルダ面からピンの管本体側を正の値で示し、中間ショルダ面からピン先端側を負の値で示す。なお、相当塑性ひずみを測定したポイントを図6C及び図7Cにドットで示す。
【0068】
これらのグラフから明らかなように、ピン中間危険断面近傍及びボックス中間危険断面近傍のいずれにおいても、周方向溝25,34を設けた供試体#2の方が、周方向溝の無い供試体#1よりも、全域にわたって相当塑性ひずみが低減されることが確認された。なお、図6A及び図6Bのグラフにおいて、右側のピークは第2雄ねじ27の荷重面底部のR部のものであり、左側のピークは挿入面底部のR部のものである。
【0069】
なお、単純引張荷重負荷直後の方が、全過程終了後よりも供試体#1と#2との差が顕著となっているが、その理由は、繰り返し複合荷重によって各部位の塑性ひずみが蓄積していくことによるものと考えられる。
【0070】
同様に、大径サイズの供試体#3と#4との比較結果を図8A図8B図9A図9Bのグラフに示す。これらのグラフから明らかなように、大径サイズでも小径サイズと同様の傾向となっており、管径サイズによらず、周方向溝を設けることによって中間危険断面近傍のねじ谷底面に生じる塑性ひずみを低減できることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
1:ねじ継手、
2:ピン、22:第1雄ねじ、24:中間ショルダ面
25:周方向溝、25a:曲面、25b:テーパー面
26:ねじ無し部、27:第2雄ねじ
3:ボックス、32:第1雌ねじ、33:ねじ無し部
34:周方向溝、34a:曲面、34b:テーパー面
35:中間ショルダ面、37:第2雌ねじ
PICCS:ピン中間危険断面、BICCS:ボックス中間危険断面
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B