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特許7290751架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20230606BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
F04C2/10 341B
F04C15/00 B
F04C15/00 D
F04C15/00 K
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021566605
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050632
(87)【国際公開番号】W WO2021130862
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】魚住 真人
(72)【発明者】
【氏名】中林 誠
(72)【発明者】
【氏名】小林 英一
(72)【発明者】
【氏名】池田 一秋
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-173513(JP,A)
【文献】実開昭56-059181(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の内歯を形成する内周面と、軸方向に直交する側面とをもつ環状のアウターロータと、
前記内歯に噛み合う複数の外歯を形成する外周面をもち、前記アウターロータの内径側で前記アウターロータの中心から偏心した位置を中心に回転するインナーロータと、を有し、
前記アウターロータの前記側面は架橋フッ素樹脂でコーティングされ、前記アウターロータの前記内周面は架橋フッ素樹脂でコーティングされていない内接歯車式ポンプの前記アウターロータを製造する架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法であって、
前記アウターロータの前記側面を露出させた状態で前記内周面を覆うアウター用マスキング治具を使用し、前記アウター用マスキング治具には、前記アウターロータの前記内周面に嵌合することで前記アウターロータに対する周方向の位置決めを行なう位置決め嵌合歯部が形成され、
前記アウター用マスキング治具を前記アウターロータに装着した状態で、未架橋のフッ素樹脂を前記アウターロータにコーティングし、
その後、前記アウター用マスキング治具を前記アウターロータから取り外した状態で、前記フッ素樹脂に放射線を照射することでフッ素樹脂を架橋させる、
架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法。
【請求項2】
前記アウター用マスキング治具は、前記アウターロータの前記側面のうち、前記内周面に沿った周縁部に重なる歯形フランジを有する請求項1に記載の架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法。
【請求項3】
前記歯形フランジは、前記アウターロータの前記側面と重なる領域が0.5mm以下の幅となるように形成されている請求項2に記載の架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法。
【請求項4】
前記アウターロータが円筒状の外周面を有し、
前記アウター用マスキング治具を前記アウターロータに装着した状態で、未架橋のフッ素樹脂を前記アウターロータにコーティングするときに、前記アウターロータの前記側面と前記外周面とをいずれも未架橋のフッ素樹脂でコーティングし、
その後、前記アウター用マスキング治具を前記アウターロータから取り外した状態で、前記フッ素樹脂に放射線を照射するときに、前記側面のフッ素樹脂と前記外周面のフッ素樹脂とをいずれも架橋させる、
請求項1から3のいずれか1項に記載の架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法。
【請求項5】
複数の内歯を形成する内周面をもつ環状のアウターロータと、
前記内歯に噛み合う複数の外歯を形成する外周面と、軸方向に直交する側面とをもち、前記アウターロータの内径側で前記アウターロータの中心から偏心した位置を中心に回転するインナーロータと、を有し、
前記インナーロータの前記側面は架橋フッ素樹脂でコーティングされ、前記インナーロータの前記外周面は架橋フッ素樹脂でコーティングされていない内接歯車式ポンプの前記インナーロータを製造する架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法であって、
前記インナーロータの前記側面を露出させた状態で前記外周面を覆うインナー用マスキング治具を使用し、前記インナー用マスキング治具には、前記インナーロータの前記外周面に嵌合することで前記インナーロータに対する周方向の位置決めを行なう位置決め嵌合歯部が形成され、
前記インナー用マスキング治具を前記インナーロータに装着した状態で、未架橋のフッ素樹脂を前記インナーロータにコーティングし、
その後、前記インナー用マスキング治具を前記インナーロータから取り外した状態で、前記フッ素樹脂に放射線を照射することでフッ素樹脂を架橋させる、
架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法。
【請求項6】
前記インナー用マスキング治具は、前記インナーロータの前記側面のうち、前記外周面に沿った周縁部に重なる歯形フランジを有する請求項5に記載の架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法。
【請求項7】
前記歯形フランジは、前記インナーロータの前記側面と重なる領域が0.5mm以下の幅となるように形成されている請求項6に記載の架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内接歯車式ポンプとして、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1の内接歯車式ポンプは、環状のアウターロータと、そのアウターロータの内径側でアウターロータの中心から偏心した位置を中心に回転するインナーロータと、アウターロータおよびインナーロータを収容するハウジングとを有する。ここで、アウターロータは、複数の内歯を形成する内周面と、軸方向に直交する側面とを有する。また、インナーロータは、アウターロータの内歯に噛み合う複数の外歯を形成する外周面と、軸方向に直交する側面とを有する。
【0003】
アウターロータの側面とハウジングとの間には、一般に、アウターロータの回転を許容するためのクリアランス(サイドクリアランス)が設定される。このサイドクリアランスが大きいと、流体のリーク量が大きくなってポンプの吐出量が減少するため、サイドクリアランスは小さい方が好ましい。しかしながら、サイドクリアランスを小さくしすぎると、アウターロータの側面とハウジングの間の焼き付きが生じやすくなるという問題がある。そのため、このサイドクリアランスは、通常、数十μm以上の大きさに設定される。
【0004】
同様に、インナーロータの側面とハウジングとの間にも、一般に、インナーロータの回転を許容するためのクリアランス(サイドクリアランス)が設定される。このサイドクリアランスも、通常、数十μm以上の大きさに設定される。
【0005】
ここで、本願の出願人は、アウターロータやインナーロータの焼き付きを防止しながら、アウターロータやインナーロータのクリアランスをきわめて小さく設定することが可能な内接歯車式ポンプの開発を行ない、そのような内接歯車式ポンプとして、特許文献2のものを提案している。
【0006】
特許文献2の内接歯車式ポンプは、アウターロータ、インナーロータ、ハウジングのうちの少なくとも1つに、架橋フッ素樹脂をコーティングしたものである。架橋フッ素樹脂は、摩擦係数が低く、かつ、耐摩耗性が高いという特性を有するため、アウターロータ、インナーロータ、ハウジングのうちの少なくとも1つに、架橋フッ素樹脂をコーティングすると、アウターロータやインナーロータのクリアランスをきわめて小さく設定したときにも、アウターロータやインナーロータの焼き付きを長期にわたって防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-47751号公報
【文献】特開2014-173513号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法は、
複数の内歯を形成する内周面と、軸方向に直交する側面とをもつ環状のアウターロータと、
前記内歯に噛み合う複数の外歯を形成する外周面をもち、前記アウターロータの内径側で前記アウターロータの中心から偏心した位置を中心に回転するインナーロータと、を有し、
前記アウターロータの前記側面は架橋フッ素樹脂でコーティングされ、前記アウターロータの前記内周面は架橋フッ素樹脂でコーティングされていない内接歯車式ポンプの前記アウターロータを製造する架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法であって、
前記アウターロータの前記側面を露出させた状態で前記内周面を覆うアウター用マスキング治具を使用し、前記アウター用マスキング治具には、前記アウターロータの前記内周面に嵌合することで前記アウターロータに対する周方向の位置決めを行なう位置決め嵌合歯部が形成され、
前記アウター用マスキング治具を前記アウターロータに装着した状態で、未架橋のフッ素樹脂を前記アウターロータにコーティングし、
その後、前記アウター用マスキング治具を前記アウターロータから取り外した状態で、前記フッ素樹脂に放射線を照射することでフッ素樹脂を架橋させる、
架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法である。
【0009】
また、本開示の一態様に係る架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法は、
複数の内歯を形成する内周面をもつ環状のアウターロータと、
前記内歯に噛み合う複数の外歯を形成する外周面と、軸方向に直交する側面とをもち、前記アウターロータの内径側で前記アウターロータの中心から偏心した位置を中心に回転するインナーロータと、を有し、
前記インナーロータの前記側面は架橋フッ素樹脂でコーティングされ、前記インナーロータの前記外周面は架橋フッ素樹脂でコーティングされていない内接歯車式ポンプの前記インナーロータを製造する架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法であって、
前記インナーロータの前記側面を露出させた状態で前記外周面を覆うインナー用マスキング治具を使用し、前記インナー用マスキング治具には、前記インナーロータの前記外周面に嵌合することで前記インナーロータに対する周方向の位置決めを行なう位置決め嵌合歯部が形成され、
前記インナー用マスキング治具を前記インナーロータに装着した状態で、未架橋のフッ素樹脂を前記インナーロータにコーティングし、
その後、前記インナー用マスキング治具を前記インナーロータから取り外した状態で、前記フッ素樹脂に放射線を照射することでフッ素樹脂を架橋させる、
架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の実施形態にかかる架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法で得られるアウターロータおよびインナーロータを使用した内接歯車式ポンプの分解斜視図である。
図2図2は、図1の内接歯車式ポンプの正面図である。
図3図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、図3のIV-IV線に沿った断面図である。
図5図5は、図3のアウターロータおよびインナーロータの近傍の拡大図である。
図6図6は、図2のVI-VI線に沿った断面図である。
図7図7は、図5に示すアウターロータの製造方法を説明する図であり、フッ素樹脂をコーティングする前のアウターロータおよびアウター用マスキング治具を示す分解斜視図である。
図8図8は、図7に示すアウターロータにアウター用マスキング治具を装着した状態を示す一部断面図である。
図9図9は、図8のIX-IX線に沿った断面図である。
図10図10は、図5に示すインナーロータの製造方法を説明する図であり、フッ素樹脂をコーティングする前のインナーロータと、インナー用マスキング治具および軸穴用マスキング治具とを示す分解斜視図である。
図11図11は、図10に示すインナーロータにインナー用マスキング治具と軸穴用マスキング治具とを装着した状態を示す一部断面図である。
図12図12は、図11のXII-XII線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示が解決しようとする課題]
本願の発明者らは、特許文献2のように、アウターロータ、インナーロータ、ハウジングのうちの少なくとも1つに架橋フッ素樹脂をコーティングした内接歯車式ポンプの開発を社内で進め、そのような内接歯車式ポンプとして、アウターロータおよびインナーロータに架橋フッ素樹脂をコーティングしたものを量産化することを検討した。
【0012】
ここで、アウターロータに架橋フッ素樹脂をコーティングする場合、アウターロータの表面(アウターロータの内歯を形成する内周面、アウターロータの側面、アウターロータの外周面)の全体にコーティングすることが考えられる。また、インナーロータに架橋フッ素樹脂をコーティングする場合、インナーロータの表面(インナーロータの外歯を形成する外周面、インナーロータの側面、インナーロータの内周面)の全体にコーティングすることが考えられる。
【0013】
しかしながら、アウターロータの表面の全体に架橋フッ素樹脂をコーティングする場合や、インナーロータの表面の全体に架橋フッ素樹脂をコーティングする場合、アウターロータの外歯とインナーロータの内歯との間のクリアランス(チップクリアランス)を精度よく管理することが難しく、ポンプ性能が不安定になるという問題に直面した。
【0014】
すなわち、アウターロータの内歯を形成する内周面は、内歯の歯形形状の湾曲面であるため、アウターロータの内周面に架橋フッ素樹脂をコーティングする場合、架橋フッ素樹脂の厚みを精度よく管理することが難しい。同様に、インナーロータの外歯を形成する外周面も、外歯の歯形形状の湾曲面であるため、インナーロータの外周面に架橋フッ素樹脂をコーティングする場合、架橋フッ素樹脂の厚みを精度よく管理することが難しい。そのため、アウターロータの内周の内歯とインナーロータの外周の外歯との間のチップクリアランスの大きさが安定せず、ポンプ性能が不安定になるという問題に直面した。
【0015】
そこで、発明者らは、アウターロータの内周の内歯とインナーロータの外周の外歯との間のチップクリアランスの大きさを安定させるため、アウターロータおよびインナーロータに架橋フッ素樹脂をコーティングするときに、アウターロータの内周面およびインナーロータの外周面はコーティングされないようにすることを検討した。具体的には、アウターロータの表面に架橋フッ素樹脂をコーティングするときに、アウターロータの内周面にマスキングテープを貼付することで、アウターロータの内周面を除いた部位にコーティングをすることを検討した。また、インナーロータの表面に架橋フッ素樹脂をコーティングするときに、インナーロータの外周面にマスキングテープを貼付することで、インナーロータの外周面を除いた部位にコーティングをすることを検討した。
【0016】
しかしながら、アウターロータの内周面は、内歯の歯形形状の湾曲面であるため、マスキングテープを密着して貼付するのが難しい。同様に、インナーロータの外周面も、外歯の歯形形状の湾曲面であるため、マスキングテープを密着して貼付するのが難しい。
【0017】
そこで、ロータの焼き付きを長期にわたって防止することができ、かつ、安定した性能をもつ内接歯車式ポンプのロータを容易に製造することを目的とする。
【0018】
[本開示の効果]
本開示によれば、ロータの焼き付きを長期にわたって防止することができ、かつ、安定した性能をもつ内接歯車式ポンプのロータを容易に製造することが可能となる。
【0019】
[本開示の実施形態の説明]
(1)本開示の一態様に係る架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法は、
複数の内歯を形成する内周面と、軸方向に直交する側面とをもつ環状のアウターロータと、
前記内歯に噛み合う複数の外歯を形成する外周面をもち、前記アウターロータの内径側で前記アウターロータの中心から偏心した位置を中心に回転するインナーロータと、を有し、
前記アウターロータの前記側面は架橋フッ素樹脂でコーティングされ、前記アウターロータの前記内周面は架橋フッ素樹脂でコーティングされていない内接歯車式ポンプの前記アウターロータを製造する架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法であって、
前記アウターロータの前記側面を露出させた状態で前記内周面を覆うアウター用マスキング治具を使用し、前記アウター用マスキング治具には、前記アウターロータの前記内周面に嵌合することで前記アウターロータに対する周方向の位置決めを行なう位置決め嵌合歯部が形成され、
前記アウター用マスキング治具を前記アウターロータに装着した状態で、未架橋のフッ素樹脂を前記アウターロータにコーティングし、
その後、前記アウター用マスキング治具を前記アウターロータから取り外した状態で、前記フッ素樹脂に放射線を照射することでフッ素樹脂を架橋させる、
架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法である。
このようにすると、アウターロータの側面が架橋フッ素樹脂でコーティングされるので、アウターロータのサイドクリアランスをきわめて小さく設定したときにも、アウターロータの焼き付きを長期にわたって防止することが可能である。
また、アウターロータに未架橋のフッ素樹脂をコーティングするときに、アウターロータの側面を露出させた状態で内周面を覆うアウター用マスキング治具を使用するので、アウターロータの内周面には、フッ素樹脂がコーティングされない。そのため、アウターロータの内周の内歯とインナーロータの外周の外歯との間のチップクリアランスの大きさが安定し、ポンプ性能が安定する。
さらに、アウター用マスキング治具には、アウターロータの内周面に嵌合することでアウターロータに対する周方向の位置決めを行なう位置決め嵌合歯部が形成されているので、アウター用マスキング治具をアウターロータに装着する作業が容易である。
しかも、未架橋のフッ素樹脂に放射線を照射することでフッ素樹脂を架橋させるときに、アウター用マスキング治具をアウターロータから取り外した状態で放射線の照射を行なうので、放射線がアウター用マスキング治具で遮蔽されるのが防止され、フッ素樹脂をムラなく均一に架橋することが可能である。
(2)前記アウター用マスキング治具は、前記アウターロータの前記側面のうち、前記内周面に沿った周縁部に重なる歯形フランジを有するものを使用すると好ましい。
このようにすると、アウターロータに未架橋のフッ素樹脂をコーティングするときに、歯形フランジによって、アウターロータの内周面を確実に覆いつつ、アウターロータの側面の大部分を露出させることができるので、アウターロータの内周面がコーティングされるのを防ぎながら、アウターロータの側面の大部分を架橋フッ素樹脂でコーティングすることが可能となる。
(3)前記歯形フランジは、前記アウターロータの前記側面と重なる領域が0.5mm以下の幅となるように形成すると好ましい。
このようにすると、アウターロータの側面のほとんど全ての部分を架橋フッ素樹脂でコーティングすることが可能となる。
(4)前記アウターロータが円筒状の外周面を有する場合、
前記アウター用マスキング治具を前記アウターロータに装着した状態で、未架橋のフッ素樹脂を前記アウターロータにコーティングするときに、前記アウターロータの前記側面と前記外周面とをいずれも未架橋のフッ素樹脂でコーティングし、
その後、前記アウター用マスキング治具を前記アウターロータから取り外した状態で、前記フッ素樹脂に放射線を照射するときに、前記側面のフッ素樹脂と前記外周面のフッ素樹脂とをいずれも架橋させることができる。
このようにすると、アウターロータの側面だけでなく、アウターロータの外周面も架橋フッ素樹脂でコーティングすることができるので、アウターロータを回転駆動するためのトルクを効果的に低減することが可能となる。
(5)本開示の一態様に係る架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法は、
複数の内歯を形成する内周面をもつ環状のアウターロータと、
前記内歯に噛み合う複数の外歯を形成する外周面と、軸方向に直交する側面とをもち、前記アウターロータの内径側で前記アウターロータの中心から偏心した位置を中心に回転するインナーロータと、を有し、
前記インナーロータの前記側面は架橋フッ素樹脂でコーティングされ、前記インナーロータの前記外周面は架橋フッ素樹脂でコーティングされていない内接歯車式ポンプの前記インナーロータを製造する架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法であって、
前記インナーロータの前記側面を露出させた状態で前記外周面を覆うインナー用マスキング治具を使用し、前記インナー用マスキング治具には、前記インナーロータの前記外周面に嵌合することで前記インナーロータに対する周方向の位置決めを行なう位置決め嵌合歯部が形成され、
前記インナー用マスキング治具を前記インナーロータに装着した状態で、未架橋のフッ素樹脂を前記インナーロータにコーティングし、
その後、前記インナー用マスキング治具を前記インナーロータから取り外した状態で、前記フッ素樹脂に放射線を照射することでフッ素樹脂を架橋させる、
架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法である。
このようにすると、インナーロータの側面が架橋フッ素樹脂でコーティングされるので、インナーロータのサイドクリアランスをきわめて小さく設定したときにも、インナーロータの焼き付きを長期にわたって防止することが可能である。
また、インナーロータに未架橋のフッ素樹脂をコーティングするときに、インナーロータの側面を露出させた状態で外周面を覆うインナー用マスキング治具を使用するので、インナーロータの外周面には、フッ素樹脂がコーティングされない。そのため、アウターロータの内周の内歯とインナーロータの外周の外歯との間のチップクリアランスの大きさが安定し、ポンプ性能が安定する。
さらに、インナー用マスキング治具には、インナーロータの外周面に嵌合することでインナーロータに対する周方向の位置決めを行なう位置決め嵌合歯部が形成されているので、インナー用マスキング治具をインナーロータに装着する作業が容易である。
しかも、未架橋のフッ素樹脂に放射線を照射することでフッ素樹脂を架橋させるときに、インナー用マスキング治具をインナーロータから取り外した状態で放射線の照射を行なうので、放射線がインナー用マスキング治具で遮蔽されるのが防止され、フッ素樹脂をムラなく均一に架橋することが可能である。
(6)前記インナー用マスキング治具は、前記インナーロータの前記側面のうち、前記外周面に沿った周縁部に重なる歯形フランジを有するものを使用すると好ましい。
このようにすると、インナーロータに未架橋のフッ素樹脂をコーティングするときに、歯形フランジによって、インナーロータの外周面を確実に覆いつつ、インナーロータの側面の大部分を露出させることができるので、インナーロータの外周面がコーティングされるのを防ぎながら、インナーロータの側面の大部分を架橋フッ素樹脂でコーティングすることが可能となる。
(7)前記歯形フランジは、前記インナーロータの前記側面と重なる領域が0.5mm以下の幅となるように形成すると好ましい。
このようにすると、インナーロータの側面のほとんど全ての部分を架橋フッ素樹脂でコーティングすることが可能となる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態にかかる架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
図1から図6に、本開示の実施形態にかかる架橋フッ素樹脂コーティングロータの製造方法で得られるアウターロータ1およびインナーロータ2を使用した内接歯車式ポンプを示す。内接歯車式ポンプは、環状のアウターロータ1と、そのアウターロータ1の内径側に配置されるインナーロータ2と、アウターロータ1およびインナーロータ2を収容するハウジング3とを有する。
【0022】
図3に示すように、ハウジング3は、アウターロータ1の外周を囲む中空筒状に形成されたハウジング本体4と、ハウジング本体4の軸方向の一方の端部(図では左側の端部)に着脱可能に取り付けられる第1のサイド部材5aと、ハウジング本体4の軸方向の他方の端部(図では右側の端部)に着脱可能に取り付けられる第2のサイド部材5bとを有する。
【0023】
第1のサイド部材5a、ハウジング本体4、第2のサイド部材5bは、各部材に形成したボルト挿入穴6に共通のボルト7を挿入し、そのボルト7で軸方向に締め付けることで互いに固定されている。また、第1のサイド部材5a、ハウジング本体4、第2のサイド部材5bは、各部材に形成したノックピン挿入穴8に共通のノックピン9を挿入することで軸直角方向に位置決めされている。
【0024】
インナーロータ2には、回転軸10が挿入される軸穴11が形成されている。回転軸10は、インナーロータ2を回転駆動する軸体であり、図示しない回転駆動装置(電動モータ等)に接続されている。回転軸10と軸穴11は、回転軸10とインナーロータ2が一体回転するように嵌合している。回転軸10と軸穴11の嵌合は、図に示すような二面幅の嵌合のほか、スプライン嵌合、キー溝嵌合、円筒面同士の締め代をもった嵌合(焼嵌めや圧入による嵌合)を採用してもよい。
【0025】
インナーロータ2の軸穴11は、インナーロータ2を軸方向に貫通する貫通穴である。回転軸10は、インナーロータ2から軸方向の一方側(図では左側)に突出した部分と、インナーロータ2から軸方向の他方側(図では右側)に突出した部分を有するように軸穴11に挿入されている。回転軸10のインナーロータ2から軸方向の一方側に突出した部分は、第1のサイド部材5aに取り付けられた第1の軸受12aで回転可能に支持され、回転軸10のインナーロータ2から軸方向の他方側に突出した部分は、第2のサイド部材5bに取り付けられた第2の軸受12bで回転可能に支持されている。
【0026】
図4に示すように、アウターロータ1は、円筒状の外周面13と、複数の内歯14を形成する内周面15と、軸方向に直交する側面16(図3参照)とをもつ環状の部材である。インナーロータ2は、アウターロータ1の内歯14に噛み合う複数の外歯17を形成する外周面18と、軸方向に直交する側面19(図3参照)とをもつ部材である。
【0027】
アウターロータ1の外周面13は、ハウジング本体4の円筒状の内周面20に隙間をもって嵌合し、その嵌合によって、アウターロータ1が回転可能に支持されている。ここで、アウターロータ1は、インナーロータ2の中心位置(すなわち回転軸10の回転中心位置)から偏心した位置を中心に回転可能に支持されている。インナーロータ2を回転させると、アウターロータ1は、内歯14と外歯17の噛み合いによってインナーロータ2と共に回転する。インナーロータ2の回転方向は、図では時計回りである。
【0028】
アウターロータ1の内歯14の数は、インナーロータ2の外歯17の数よりも1つ多い。インナーロータ2の外周面18は、外歯17の歯形曲線(例えば、トロコイド曲線やサイクロイド曲線など、径方向外方に凸状に湾曲する曲線と径方向内方に凹状に湾曲する曲線とが周方向に沿って交互に並ぶ歯形曲線)を軸方向に平行移動させた軌跡として得られる曲面である。アウターロータ1の内周面15も、内歯14の歯形曲線(例えば、トロコイド曲線やサイクロイド曲線やインナーロータ2の歯形曲線の包絡線など、径方向外方に凸状に湾曲する曲線と径方向内方に凹状に湾曲する曲線とが周方向に沿って交互に並ぶ歯形曲線)を軸方向に平行移動させた軌跡として得られる曲面である。
【0029】
インナーロータ2の外周とアウターロータ1の内周の間には、各外歯17および各内歯14で区画される複数のチャンバ21(流体を収容する空間)が形成されている。ここで、複数のチャンバ21は、インナーロータ2およびアウターロータ1の回転に伴い、容積が変化するように構成されている。すなわち、チャンバ21の容積は、インナーロータ2の中心とアウターロータ1の中心が最も遠い角度位置(図では上側位置)で最大となり、インナーロータ2の中心とアウターロータ1の中心が最も近い角度位置(図では下側位置)に近づくにつれて小さくなっている。そのため、インナーロータ2およびアウターロータ1が回転するとき、インナーロータ2の中心とアウターロータ1の中心が最も遠い角度位置から、インナーロータ2の中心とアウターロータ1の中心が最も近い角度位置に向かって移動する側(図では右側)では、チャンバ21の容積が縮小することによる流体の吐出作用が生じ、一方、インナーロータ2の中心とアウターロータ1の中心が最も近い角度位置から、インナーロータ2の中心とアウターロータ1の中心が最も遠い角度位置に向かって移動する側(図では左側)では、チャンバ21の容積が次第に拡大することによる流体の吸入作用が生じる。
【0030】
図5に示すように、アウターロータ1の側面16は、アウターロータ1の軸方向の両側に形成された軸方向に互いに反対を向く一対の平面である。インナーロータ2の側面19は、インナーロータ2の軸方向の両側に形成された軸方向に互いに反対を向く一対の平面である。
【0031】
アウターロータ1の側面16および外周面13は、架橋フッ素樹脂22でコーティングされた面(架橋フッ素樹脂面)とされている。一方、アウターロータ1の内周面15は、架橋フッ素樹脂22でコーティングされていない面(金属面)とされている。ここで、アウターロータ1は、焼結金属体23と、その焼結金属体23の表面にコーティングして設けた架橋フッ素樹脂22のコーティング層とで構成されている。焼結金属体23は、鉄系の粉末材料を金型で圧縮成形した粉末成形体を、融点以下の高温で加熱して形成されている。
【0032】
架橋フッ素樹脂22は、フッ素樹脂を構成する鎖状高分子の分子間を架橋結合したものであり、一般的なフッ素樹脂(非架橋フッ素樹脂)と同等の低い摩擦係数を有しながら、一般的なフッ素樹脂よりも、きわめて高い耐摩耗性を有する。
【0033】
架橋するフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等を採用することができる。架橋フッ素樹脂22として、架橋PTFEを採用すると好ましい。架橋PTFEを採用すると、架橋PTFEは上記のフッ素樹脂の中でも特に低い摩擦係数をもち、かつ耐摩耗性に優れるため、ほとんど摩耗することがなく、ポンプ効率を効果的に高めることが可能となる。
【0034】
同様に、インナーロータ2の側面19も、架橋フッ素樹脂24でコーティングされた面(架橋フッ素樹脂面)とされている。一方、インナーロータ2の外周面18および軸穴11の内面は、架橋フッ素樹脂24でコーティングされていない面(金属面)とされている。ここで、インナーロータ2は、焼結金属体25と、その焼結金属体25の表面にコーティングして設けた架橋フッ素樹脂24のコーティング層とで構成されている。
【0035】
アウターロータ1の一対の側面16の幅寸法は、インナーロータ2の一対の側面19の幅寸法と同一である。アウターロータ1の軸方向の一方側(図では左側)の側面16は、インナーロータ2の軸方向の一方側(図では左側)の側面19と同一平面上に位置し、アウターロータ1の軸方向の他方側(図では右側)の側面16は、インナーロータ2の軸方向の他方側(図では右側)の側面19と同一平面上に位置している。
【0036】
第1のサイド部材5aは、ボルト7の締め付けによりハウジング本体4の軸方向の一方側の側面に押して付けて固定される平らな合わせ面26と、アウターロータ1の軸方向の一方側の側面16とインナーロータ2の軸方向の一方側の側面19とを摺動案内する平らな摺動案内面27とを有する。第2のサイド部材5bも、ボルト7の締め付けによりハウジング本体4の軸方向の他方側の側面に押して付けて固定される平らな合わせ面26と、アウターロータ1の軸方向の他方側の側面16とインナーロータ2の軸方向の他方側の側面19とを摺動案内する平らな摺動案内面27とを有する。摺動案内面27は、Ra1.6μm以下(好ましくはRa0.8μm以下)の面粗さをもつ仕上げ面とされている。
【0037】
アウターロータ1の側面16とハウジング3との間(すなわち、アウターロータ1の一対の側面16の幅寸法と、ハウジング3の軸方向に対向する一対の摺動案内面27の内幅寸法との差)は、20μm以下(好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下)に設定されている。同様に、インナーロータ2の側面19とハウジング3との間(すなわち、インナーロータ2の一対の側面19の幅寸法と、ハウジング3の軸方向に対向する一対の摺動案内面27の内幅寸法との差)も、20μm以下(好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下)に設定されている。
【0038】
図6に示すように、第1のサイド部材5aには、第1の吸入ポート28aと第1の吐出ポート29aとが開口している。また、第2のサイド部材5bにも、第2の吸入ポート28bと第2の吐出ポート29bとが開口している。
【0039】
第1の吸入ポート28aと第2の吸入ポート28bは、インナーロータ2およびアウターロータ1を間に挟んで対称の位置に同じ形状で開口している。これにより、第1の吸入ポート28a内の流体からインナーロータ2およびアウターロータ1が受ける圧力と、第2の吸入ポート28b内の流体からインナーロータ2およびアウターロータ1が受ける圧力とをバランスさせ、インナーロータ2およびアウターロータ1に傾きが生じるのを防止している。
【0040】
同様に、第1の吐出ポート29aと第2の吐出ポート29bも、インナーロータ2およびアウターロータ1を間に挟んで対称の位置に同じ形状で開口している。これにより、これにより、第1の吐出ポート29a内の流体からインナーロータ2およびアウターロータ1が受ける圧力と、第2の吐出ポート29b内の流体からインナーロータ2およびアウターロータ1が受ける圧力とをバランスさせ、インナーロータ2およびアウターロータ1に傾きが生じるのを防止している。
【0041】
図4図6に示すように、第1の吸入ポート28aと第2の吸入ポート28bは、ハウジング本体4に形成された連通路30を介して連通している。また、図2図6に示すように、第1の吸入ポート28aは、第1のサイド部材5aの外面に開口する吸入口31に連通し、第1の吐出ポート29aは、第1のサイド部材5aの外面に開口する吐出口32に連通している。
【0042】
図7図9に基づいて、架橋フッ素樹脂22で側面16および外周面13がコーティングされたアウターロータ1の製造方法を説明する。
【0043】
まず、コーティング前のアウターロータ1とアウター用マスキング治具40とを準備する。アウター用マスキング治具40は、アウターロータ1の側面16を露出させた状態で、アウターロータ1の内周面15を覆う治具である。アウター用マスキング治具40は、アウターロータ1の軸方向の一方側の開口を塞ぐ第1治具40aと、アウターロータ1の軸方向の他方側の開口を塞ぐ第2治具40bとからなる。第1治具40aと第2治具40bは、アウターロータ1の内側でボルト41によって連結される。第1治具40aと第2治具40bは、いずれも位置決め嵌合歯部42と歯形フランジ43とを有する。
【0044】
位置決め嵌合歯部42は、アウターロータ1の内周面15に嵌合することでアウターロータ1に対する周方向の位置決めを行なう部位である。位置決め嵌合歯部42の外周面は、内歯14の歯形曲線を内径側にオフセットした形状の曲線を軸方向に平行移動させた軌跡として得られる曲面となっている。ここで、位置決め嵌合歯部42の外周面は、アウターロータ1の内周面15との間隔が0.2mm以下(好ましくは0.15mm以下)となるように形成されている。位置決め嵌合歯部42の軸方向長さは、2.0mm以下(好ましくは1.5mm以下)に設定されている。
【0045】
歯形フランジ43は、位置決め嵌合歯部42の軸方向外端から径方向外方に張り出して形成された部位である。歯形フランジ43は、アウターロータ1の側面16のうち、内周面15に沿った周縁部に重なるように内歯14と対応した歯形形状を有する。すなわち、歯形フランジ43の外周面は、内歯14の歯形曲線を外径側にオフセットした形状の曲線を軸方向に平行移動させた軌跡として得られる曲面となっている。歯形フランジ43の外周面は、アウターロータ1の内周面15から外径側にはみ出す距離(図8に示すように、歯形フランジ43がアウターロータ1の側面16と重なる帯状の領域の幅w1)が、0.5mm以下(好ましくは0.3mm以下)となるように形成されている。
【0046】
そして、アウター用マスキング治具40を、コーティング前のアウターロータ1に装着し、その状態で未架橋のフッ素樹脂をアウターロータ1にコーティングする。具体的には、アウター用マスキング治具40を装着した状態のアウターロータ1の表面に、フッ素樹脂(例えばPTFE)の微粒子を水に分散させた分散液を塗布する。この塗布は、ディッピング(浸漬)やスプレーにより行なうことができる。その後、塗布した分散液を乾燥させることで、アウターロータ1の表面に、未架橋のフッ素樹脂の微粒子のコーティング層が形成される。このとき、アウターロータ1の側面16と外周面13は、いずれも未架橋のフッ素樹脂の微粒子でコーティングされた状態となっている。その後、アウター用マスキング治具40をアウターロータ1から取り外し、アウターロータ1をフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱することで、アウターロータ1の側面16と外周面13にコーティングされた未架橋のフッ素樹脂の微粒子を焼成し、フッ素樹脂の微粒子同士を融着させる。アウター用マスキング治具40の取り外しは、フッ素樹脂を焼成した後に行なってもよい。
【0047】
その後、アウター用マスキング治具40をアウターロータ1から取り外した状態で、アウターロータ1に放射線を照射することで、アウターロータ1の側面16および外周面13のフッ素樹脂を架橋させる。具体的には、アウター用マスキング治具40をアウターロータ1から取り外した状態で、アウターロータ1を所定の高温の無酸素雰囲気中におき、アウターロータ1の表面に向かって放射線(例えば、電子線)を照射することで、フッ素樹脂を構成する鎖状高分子同士の間に共有結合を生じさせ、鎖状高分子の分子間を架橋する。また、このとき照射される放射線によって、フッ素樹脂を構成する鎖状高分子の分子と、アウターロータ1との間でも化学結合が生じ、その化学結合によって、架橋フッ素樹脂22の密着性がきわめて高くなる。その後、必要に応じて架橋フッ素樹脂22の表面を研削または研磨して仕上げる。
【0048】
図10図12に基づいて、架橋フッ素樹脂24で側面19がコーティングされたインナーロータ2の製造方法を説明する。
【0049】
コーティング前のインナーロータ2とインナー用マスキング治具50と軸穴用マスキング治具51とを準備する。インナー用マスキング治具50は、インナーロータ2の側面19を露出させた状態で、インナーロータ2の外周面18を覆う治具である。インナー用マスキング治具50は、インナーロータ2の軸方向の一方側の端部外周に嵌合する第1治具50aと、インナーロータ2の軸方向の他方側の端部外周に嵌合する第2治具50bとからなる。第1治具50aと第2治具50bは、インナーロータ2の外径側でボルト52によって連結される。第1治具50aと第2治具50bは、軸方向の合わせ面53を有する。第1治具50aと第2治具50bの間には、合わせ面53をシールする環状のシール部材54(図11図12参照)が組み込まれている。第1治具50aと第2治具50bは、いずれも位置決め嵌合歯部55と歯形フランジ56とを有する。
【0050】
位置決め嵌合歯部55は、インナーロータ2の外周面18に嵌合することでインナーロータ2に対する周方向の位置決めを行なう部位である。位置決め嵌合歯部55の内周面は、外歯17の歯形曲線を外径側にオフセットした形状の曲線を軸方向に平行移動させた軌跡として得られる曲面となっている。ここで、位置決め嵌合歯部55の内周面は、インナーロータ2の外周面18との間隔が0.2mm以下(好ましくは0.15mm以下)となるように形成されている。位置決め嵌合歯部55の軸方向長さは、2.0mm以下(好ましくは1.5mm以下)に設定されている。
【0051】
歯形フランジ56は、位置決め嵌合歯部55の軸方向外端から径方向内方に張り出して形成された部位である。歯形フランジ56は、インナーロータ2の側面19のうち、外周面18に沿った周縁部に重なるように外歯17と対応した歯形形状を有する。すなわち、歯形フランジ56の内周面は、外歯17の歯形曲線を内径側にオフセットした形状の曲線を軸方向に平行移動させた軌跡として得られる曲面となっている。歯形フランジ56の内周面は、インナーロータ2の外周面18から内径側に入り込む距離(図11に示すように、歯形フランジ56がインナーロータ2の側面19と重なる帯状の領域の幅w2)が、0.5mm以下(好ましくは0.3mm以下)となるように形成されている。
【0052】
軸穴用マスキング治具51は、軸穴11の軸方向の一方側の開口を塞ぐ第1治具51aと、軸穴11の軸方向の他方側の開口を塞ぐ第2治具51bとからなる。第1治具51aと第2治具51bは、軸穴11の内側でボルト57によって連結される。
【0053】
そして、インナー用マスキング治具50と軸穴用マスキング治具51とを、コーティング前のインナーロータ2に装着し、その状態で未架橋のフッ素樹脂をインナーロータ2にコーティングする。具体的には、インナー用マスキング治具50と軸穴用マスキング治具51を装着した状態のインナーロータ2の表面に、フッ素樹脂(例えばPTFE)の微粒子を水に分散させた分散液を塗布する。この塗布は、ディッピング(浸漬)やスプレーにより行なうことができる。その後、塗布した分散液を乾燥させることで、インナーロータ2の表面に、未架橋のフッ素樹脂の微粒子のコーティング層が形成される。このとき、インナーロータ2の側面19は、未架橋のフッ素樹脂の微粒子でコーティングされた状態となっている。その後、インナー用マスキング治具50と軸穴用マスキング治具51をインナーロータ2から取り外し、インナーロータ2をフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱することで、インナーロータ2の側面19にコーティングされた未架橋のフッ素樹脂の微粒子を焼成し、フッ素樹脂の微粒子同士を融着させる。インナー用マスキング治具50と軸穴用マスキング治具51の取り外しは、フッ素樹脂を焼成した後に行なってもよい。
【0054】
その後、インナー用マスキング治具50と軸穴用マスキング治具51をインナーロータ2から取り外した状態で、インナーロータ2に放射線を照射することで、インナーロータ2の側面19のフッ素樹脂を架橋させる。具体的には、インナー用マスキング治具50と軸穴用マスキング治具51をインナーロータ2から取り外した状態で、インナーロータ2を所定の高温の無酸素雰囲気中におき、インナーロータ2の表面に向かって放射線(例えば、電子線)を照射することで、フッ素樹脂を構成する鎖状高分子同士の間に共有結合を生じさせ、鎖状高分子の分子間を架橋する。また、このとき照射される放射線によって、フッ素樹脂を構成する鎖状高分子の分子と、インナーロータ2との間でも化学結合が生じ、その化学結合によって、架橋フッ素樹脂24の密着性がきわめて高くなる。その後、必要に応じて架橋フッ素樹脂24の表面を研削または研磨して仕上げる。
【0055】
上記実施形態のように架橋フッ素樹脂22,24でコーティングされたアウターロータ1およびインナーロータ2を製造すると、アウターロータ1およびインナーロータ2の焼き付きを長期にわたって防止することができ、かつ、安定した性能をもつアウターロータ1およびインナーロータ2を容易に製造することが可能である。
【0056】
すなわち、上記実施形態のように、架橋フッ素樹脂22で側面16および外周面13がコーティングされたアウターロータ1を製造すると、アウターロータ1の側面16が架橋フッ素樹脂22でコーティングされるので、アウターロータ1のサイドクリアランスをきわめて小さく設定したときにも、アウターロータ1の焼き付きを長期にわたって防止することが可能である。
【0057】
また、アウターロータ1に未架橋のフッ素樹脂をコーティングするときに、アウターロータ1の側面16を露出させた状態で内周面15を覆うアウター用マスキング治具40を使用するので、アウターロータ1の内周面15には、フッ素樹脂がコーティングされない。そのため、アウターロータ1の内周の内歯14とインナーロータ2の外周の外歯17との間のチップクリアランスの大きさが安定し、ポンプ性能が安定する。
【0058】
また、アウター用マスキング治具40に、アウターロータ1の内周面15に嵌合することでアウターロータ1に対する周方向の位置決めを行なう位置決め嵌合歯部42が形成されているので、アウター用マスキング治具40をアウターロータ1に装着する作業が容易である。
【0059】
また、未架橋のフッ素樹脂に放射線を照射することでフッ素樹脂を架橋させるときに、アウター用マスキング治具40をアウターロータ1から取り外した状態で放射線の照射を行なうので、放射線がアウター用マスキング治具40で遮蔽されるのが防止され、フッ素樹脂をムラなく均一に架橋することが可能である。
【0060】
また、アウター用マスキング治具40が歯形フランジ43を有するので、アウターロータ1に未架橋のフッ素樹脂をコーティングするときに、アウターロータ1の内周面15を確実に覆いつつ、アウターロータ1の側面16の大部分を露出させることができる。そのため、アウターロータ1の内周面15がコーティングされるのを防ぎながら、アウターロータ1の側面16の大部分を架橋フッ素樹脂22でコーティングすることが可能である。
【0061】
また、歯形フランジ43は、アウターロータ1の側面16と重なる領域が0.5mm以下(好ましくは0.3mm以下)の幅w1(図8参照)となるように形成されているので、アウターロータ1の側面16のほとんど全ての部分を架橋フッ素樹脂22でコーティングすることが可能である。
【0062】
また、アウターロータ1の側面16だけでなく、アウターロータ1の外周面13も架橋フッ素樹脂22でコーティングするので、アウターロータ1を回転駆動するためのトルクを効果的に低減することが可能となっている。
【0063】
また、上記実施形態のように、架橋フッ素樹脂24で側面19がコーティングされたインナーロータ2を製造すると、インナーロータ2の側面19が架橋フッ素樹脂24でコーティングされるので、インナーロータ2のサイドクリアランスをきわめて小さく設定したときにも、インナーロータ2の焼き付きを長期にわたって防止することが可能である。
【0064】
また、インナーロータ2に未架橋のフッ素樹脂をコーティングするときに、インナーロータ2の側面19を露出させた状態で外周面18を覆うインナー用マスキング治具50を使用するので、インナーロータ2の外周面18には、フッ素樹脂がコーティングされない。そのため、アウターロータ1の内周の内歯14とインナーロータ2の外周の外歯17との間のチップクリアランスの大きさが安定し、ポンプ性能が安定する。
【0065】
また、インナー用マスキング治具50には、インナーロータ2の外周面18に嵌合することでインナーロータ2に対する周方向の位置決めを行なう位置決め嵌合歯部55が形成されているので、インナー用マスキング治具50をインナーロータ2に装着する作業が容易である。
【0066】
また、未架橋のフッ素樹脂に放射線を照射することでフッ素樹脂を架橋させるときに、インナー用マスキング治具50をインナーロータ2から取り外した状態で放射線の照射を行なうので、放射線がインナー用マスキング治具50で遮蔽されるのが防止され、フッ素樹脂をムラなく均一に架橋することが可能である。
【0067】
また、インナー用マスキング治具50が歯形フランジ56を有するので、インナーロータ2に未架橋のフッ素樹脂をコーティングするときに、歯形フランジ56によって、インナーロータ2の外周面18を確実に覆いつつ、インナーロータ2の側面19の大部分を露出させることができる。そのため、インナーロータ2の外周面18がコーティングされるのを防ぎながら、インナーロータ2の側面19の大部分を架橋フッ素樹脂24でコーティングすることが可能である。
【0068】
また、歯形フランジ56は、インナーロータ2の側面19と重なる領域が0.5mm以下(好ましくは0.3mm以下)の幅w2(図11参照)となるように形成されているので、インナーロータ2の側面19のほとんど全ての部分を架橋フッ素樹脂24でコーティングすることが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 アウターロータ
2 インナーロータ
3 ハウジング
4 ハウジング本体
5a 第1のサイド部材
5b 第2のサイド部材
6 ボルト挿入穴
7 ボルト
8 ノックピン挿入穴
9 ノックピン
10 回転軸
11 軸穴
12a 第1の軸受
12b 第2の軸受
13 外周面
14 内歯
15 内周面
16 側面
17 外歯
18 外周面
19 側面
20 内周面
21 チャンバ
22 架橋フッ素樹脂
23 焼結金属体
24 架橋フッ素樹脂
25 焼結金属体
26 合わせ面
27 摺動案内面
28a 第1の吸入ポート
28b 第2の吸入ポート
29a 第1の吐出ポート
29b 第2の吐出ポート
30 連通路
31 吸入口
32 吐出口
40 アウター用マスキング治具
40a 第1治具
40b 第2治具
41 ボルト
42 位置決め嵌合歯部
43 歯形フランジ
50 インナー用マスキング治具
50a 第1治具
50b 第2治具
51 軸穴用マスキング治具
51a 第1治具
51b 第2治具
52 ボルト
53 合わせ面
54 シール部材
55 位置決め嵌合歯部
56 歯形フランジ
57 ボルト
w1 歯形フランジとアウターロータの側面とが重なる領域の幅
w2 歯形フランジとインナーロータの側面とが重なる領域の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12