(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】セルロース分散液組成物及びセルロース樹脂複合材
(51)【国際特許分類】
C08L 51/02 20060101AFI20230606BHJP
C08F 251/02 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C08L51/02
C08F251/02
(21)【出願番号】P 2022009955
(22)【出願日】2022-01-26
(62)【分割の表示】P 2019001521の分割
【原出願日】2019-01-09
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-140073(JP,A)
【文献】特表2016-538429(JP,A)
【文献】特公昭48-031983(JP,B1)
【文献】特開2009-067817(JP,A)
【文献】特開2013-234283(JP,A)
【文献】特開2013-018851(JP,A)
【文献】高橋 璋,高橋 史郎,カルボキシル基,カルボニル基を含むセルロースへのメタクリル酸メチルのグラフト共重合,工業化学雑誌,日本,公益社団法人日本化学会,1971年,第74巻,第12号,p.2541-2545
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08B 1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー(a)がセルロース(b)にグラフトしたグラフト化セルロース(c
)、前記グラフト化セルロース(c)の分散媒体となる水以外の液媒体(d)
、並びに任意に配合される、前記グラフト化セルロース(c)及び前記液媒体(d)以外の添加剤のみからなり、
前記液媒体(d)中に前記グラフト化セルロース(c)が分散したセルロース分散液組成物であり、
前記グラフト化セルロース(c)中、前記セルロース(b)100質量部に対する前記ポリマー(a)の含有量が、100~900質量部であり、
前記液媒体(d)が、α,β-不飽和カルボニル基、エポキシ基、及びオキセタニル基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基を有する反応性モノマー及び反応性オリゴマーの少なくともいずれかを含む有機溶剤であり、
前記ポリマー(a)が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、ポリ(n=2以上)アルキレン(炭素数2~4)グリコールモノ(メタ)アクリレート、アルコキシ(炭素数1~18)ポリアルキレン(炭素数2~4)グリコール(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル及びその第4級塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル及びその第4級塩、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリルアミド、並びにN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドからなるモノマー群(e)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位を50質量%以上含むセルロース分散液組成物。
【請求項2】
水性塗料を除く、請求項1に記載のセルロース分散液組成物。
【請求項3】
前記セルロース(b)が、その平均繊維幅4~200nmのナノセルロースである請求項1又は2に記載のセルロース分散液組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のセルロース分散液組成物を用いて得られる、前記セルロース(b)の含有量が0.5~10質量%であるセルロース樹脂複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース分散液組成物及びセルロース樹脂複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースはすべての植物の基本骨格物質であり、一兆トンを超える量のセルロースが地球上に蓄積されている。また、セルロースは植樹によって再生可能な資源であることから、有効活用が望まれている。近年、セルロースを解繊処理して得られるセルロースナノファイバー(CNF、ミクロフィブリル化植物繊維)が軽量かつ高強度な材料として注目されており、CNFを用いた材料が盛んに開発されている。
【0003】
例えば、樹脂等のマトリックス中にCNFをフィラーとして分散状態で含有させることで、機械的強度を向上させたCNF補強材料の開発が報告されている。また、樹脂以外にも、塗料やインクなどの液体中にCNFを分散状態で含有させることで、形成される塗膜等の機械的物性の向上が期待される。但し、CNFは水酸基を豊富に有するので、親水性であるとともに極性が高い。このため、CNFには、疎水性で極性の低い有機溶媒やモノマー中に均一に分散させることが困難であるといった側面がある。そこで、化学処理によるCNFの表面改質や官能基導入等によって、極性の低い有機溶媒等との相溶性を向上させることが検討されている。
【0004】
例えば、バクテリアセルロースの水酸基をアセチル基やメタクリロイル基等の官能基で化学修飾した強化材にマトリックス材料を含浸させた繊維強化複合材料が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1で提案された繊維強化複合材料は、バクテリアセルロースを利用する点、及びマトリックス材料を含浸させて複合材料を製造する点において、さほど工業化に適しているとはいえない。
【0007】
前述のように、CNFは水酸基を豊富に有するために親水性が高く、有機溶媒やモノマーなどの疎水性の高い液媒体中に分散させることが困難である。なお、水中でパルプを解繊して得たCNFを低極性の有機溶媒中に分散させるには、水が混入しないようにCNFを乾燥させる必要がある。しかし、ナノサイズのCNFは乾燥させると顕著に凝集しやすいため、有機溶媒中に微分散させることが困難になる。したがって、親水性のセルロースを疎水性の液媒体中により効果的に分散させた分散液組成物、及びそのような分散液組成物の低コストに製造する方法の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、親水性のセルロースを疎水性の液媒体中に効果的に分散させたセルロース分散液組成物を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記のセルロース分散液組成物を用いたセルロース樹脂複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示すセルロース分散液組成物が提供される。
[1]ポリマー(a)がセルロース(b)にグラフトしたグラフト化セルロース(c)と、前記グラフト化セルロース(c)の分散媒体となる水以外の液媒体(d)と、を含有し、前記液媒体(d)中に前記グラフト化セルロース(c)が分散したセルロース分散液組成物であり、前記グラフト化セルロース(c)中、前記セルロース(b)100質量部に対する前記ポリマー(a)の含有量が、100~900質量部であり、前記液媒体(d)が、α,β-不飽和カルボニル基、エポキシ基、及びオキセタニル基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基を有する反応性モノマー及び反応性オリゴマーの少なくともいずれかを含む有機溶剤であり、前記ポリマー(a)が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、ポリ(n=2以上)アルキレン(炭素数2~4)グリコールモノ(メタ)アクリレート、アルコキシ(炭素数1~18)ポリアルキレン(炭素数2~4)グリコール(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル及びその第4級塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル及びその第4級塩、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリルアミド、並びにN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドからなるモノマー群(e)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位を50質量%以上含むセルロース分散液組成物。
[2]水性塗料を除く、前記[1]に記載のセルロース分散液組成物。
[3]前記セルロース(b)が、その平均繊維幅4~200nmのナノセルロースである前記[1]又は[2]に記載のセルロース分散液組成物。
【0010】
さらに、本発明によれば、以下に示すセルロース樹脂複合材が提供される。
[5]前記[1]~[3]のいずれかに記載のセルロース分散液組成物を用いて得られる、前記セルロース(b)の含有量が0.5~10質量%であるセルロース樹脂複合材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、親水性のセルロースを疎水性の液媒体中に効果的に分散させたセルロース分散液組成物を提供することができる。また、本発明によれば、上記のセルロース分散液組成物を用いたセルロース樹脂複合材を提供することができる。本発明のセルロース分散液組成物は、ナノサイズに繊維化されたナノセルロース等のセルロースが、液媒体(但し、水を除く)中に良好な分散状態で分散している。このため、本発明のセルロース樹脂液組成物を用いて得られる塗膜や成形物(セルロース樹脂複合材)は、フィラーとしてのセルロースの補強効果が有効に発揮されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】分散液-1を1時間静置した後の状態を示す図である。
【
図2】分散液-16を1時間静置した後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<セルロース分散液組成物>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。セルロースは、その構造中に多数の水酸基を有するために親水性が高く、しかも水素結合による強い凝集作用を示す。このため、疎水性の液媒体中にセルロースをナノサイズ・マイクロサイズのレベルで分散させることは容易ではない。特に、極性が顕著に低い液媒体中にセルロースを微分散させるのは困難である。
【0014】
水中でナノサイズに解繊した分散状態のセルロース(b)(ナノセルロース)の表面にポリマー(a)をグラフトすることで、ポリマー(a)が疎水性の液媒体(d)に溶解し、セルロース(b)を液媒体(d)中にナノサイズに分散させることができる。なお、セルロース(b)を非水系の液媒体(d)中に分散させる場合、水中で解繊したセルロース(b)を乾燥させることが必要である。しかし、水中でナノサイズに解繊したセルロース(b)を乾燥させると、セルロース(b)は凝集してしまう。これに対して、セルロース(b)にポリマー(a)をグラフトすると、乾燥させた場合であっても、ポリマー(a)が介在することでセルロース(b)同士の接触が抑制され、セルロース(b)の凝集を防止してナノサイズに分散した状態を維持することができる。
【0015】
すなわち、本発明のセルロース分散液組成物(以下、単に「分散液」とも記す)は、ポリマー(a)がセルロース(b)にグラフトしたグラフト化セルロース(c)と、グラフト化セルロース(c)の分散媒体となる水以外の液媒体(d)と、を含有する。以下、本発明のセルロース分散液組成物の詳細について説明する。
【0016】
(グラフト化セルロース(c))
グラフト化セルロース(c)は、ポリマー(a)がセルロース(b)にグラフトしたもの(セルロース繊維)である。
【0017】
[ポリマー(a)]
ポリマー(a)は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、ポリ(n=2以上)アルキレン(炭素数2~4)グリコールモノ(メタ)アクリレート、アルコキシ(炭素数1~18)ポリアルキレン(炭素数2~4)グリコール(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル及びその第4級塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル及びその第4級塩、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリルアミド、並びにN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドからなるモノマー群(e)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位を含む。
【0018】
上記のモノマー群(e)のなかでも、(i)重合率が高いもの;(ii)形成されるポリマー(a)がより高極性となるもの;又は(iii)反応性を有するもの;が好ましい。具体的には、上記のモノマー群(e)のうち、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、ポリ(n=2以上)アルキレン(炭素数2~4)グリコールモノ(メタ)アクリレート、アルコキシ(炭素数1~18)ポリアルキレン(炭素数2~4)グリコール(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル及びその第4級塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル及びその第4級塩、並びに(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましい。
【0019】
ポリマー(a)は、上記のモノマー群(e)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位を50質量%以上含み、好ましくは80質量%以上含む。ポリマー(a)に含まれる特定の構成単位の含有量が50質量%以上であると、水中重合によりポリマー(a)を形成しやすいとともに、ポリマー(a)を液媒体(d)の特性に合わせて設計することができる。
【0020】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリマー(a)のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、1,000~20,000であることが好ましい。ポリマー(a)の数平均分子量が1,000未満であると、分子量が小さすぎてしまい、分散性がやや低下することがある。一方、ポリマー(a)の数平均分子量が20,000超であると、分散液の粘度が高くなりすぎることがある。
【0021】
[セルロース(b)]
セルロース(b)の原料となるパルプ(植物繊維)としては、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、及び布等の天然植物原料から得られる天然セルロース;紙、レーヨン、セロファン等の再生セルロース繊維等を挙げることができる。木材としては、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等を挙げることができる。紙としては、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等を挙げることができる。パルプの主成分であるリグノセルロースは、主としてセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンから構成されるとともに、各々が結合して植物繊維を形成している。リグノセルロースを含む植物繊維を機械処理や化学処理してヘミセルロース及びリグニンを除去し、セルロースの純分を高めることでパルプを得ることができる。また、必要に応じて漂白処理したり、脱リグニン量を調整したりすることで、得られるパルプのリグニン量を制御することができる。
【0022】
パルプとしては、植物繊維を機械処理又は化学処理して得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TWP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP);これらのパルプを主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプなどを挙げることができる。なかでも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP))が好ましい。パルプ中のリグニン含有量は、通常、0~40質量%、好ましくは0~10質量%である。パルプ中のリグニン含有量は、Klason法により測定することができる。
【0023】
セルロース(b)としては、その平均繊維幅が4~200nmのナノセルロースを用いることが好ましい。分散液中のセルロース(b)の量は任意に設定することができる。セルロース(b)をより高濃度に含有させることで、様々なセルロース濃度の複合材を提供可能な原料組成物とすることができる。分散液中のセルロース(b)の含有量は、0.5~30質量%とすることが好ましく、1~20質量%とすることがさらに好ましい。ナノセルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡の視野内のナノセルロースの少なくとも50本以上について測定した繊維幅の数平均値を意味する。
【0024】
[グラフト化セルロース(c)]
グラフト化セルロース(c)は、セルロース(b)の表面にのみポリマー(a)がグラフトしたものであればよく、セルロース(b)の分子鎖の全てにポリマー(a)がグラフトしていなくてもよい。セルロース(b)の分子鎖の全てにポリマー(a)がグラフトしていると、グラフト化セルロース(c)が分散媒体中に溶解しやすくなることがあり、複合材の強度がやや不足する場合がある。すなわち、セルロース(b)へのポリマー(a)の置換度は1未満である(すなわち、グルコース環1個当たり、ポリマー(a)1鎖未満がグラフトしている)ことが好ましく、0.1未満であることがさらに好ましい。
【0025】
グラフト化セルロース(c)中、セルロース(b)100質量部に対するポリマー(a)の含有量は100~900質量部であり、好ましくは200~600質量部である。セルロース(b)100質量部に対するポリマー(a)の含有量が100質量部未満であると、乾燥することでグラフト化セルロース(c)が凝集して凝集物を形成してしまい、液媒体(d)中に分散させることが困難になる。一方、セルロース(b)100質量部に対するポリマー(a)の含有量が900質量部超であると、セルロース(b)の量が少なすぎてポリマー(a)の性質が顕著に表れてしまう。このため、目的とする特性を有するセルロース樹脂複合材を得ることが困難になる。グラフト化セルロース(c)中のセルロース(b)の含有量は、10~50質量%であることが好ましい。
【0026】
(液媒体(d))
液媒体(d)は、グラフト化セルロース(c)の分散媒体となる水以外の媒体である。液媒体(d)としては、モノマーやオリゴマーなどを含む有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、アルコール類、炭化水素系溶剤、ハロゲン化炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコール系溶剤、グリコールエステル系溶剤、エーテル系溶剤、アミド系溶剤、尿素系溶剤、イオン液体、スルホキシド系溶剤などを挙げることができる。これらの有機溶剤とグラフト化セルロース(c)を混合し、例えば、ポリマー(a)を溶解させることで、セルロース(b)を有機溶剤中に分散させることができる。
有機溶剤を分散媒体として用いた分散液をそのまま塗布すれば、セルロース樹脂複合材である塗膜を形成することができる。また、従来公知の塗料やインクに分散液を添加して、塗料やインクに配合されているポリマー成分と複合化することで、セルロース(b)が分散した複合材を得ることもできる。
【0027】
また、液媒体(d)は、特定の官能基を有する反応性モノマー及び反応性オリゴマーの少なくともいずれかであることが好ましい。特定の官能基としては、α,β-不飽和カルボニル基、エポキシ基、及びオキセタニル基からなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。このような反応性の液媒体(d)を分散媒体として含有する分散液については、液媒体(d)を重合、反応、又は硬化させることで、セルロース(b)がナノサイズで分散した樹脂複合材とすることができる。すなわち、反応性の液媒体(d)を分散媒体として含有する分散液を、熱硬化性インク、紫外線硬化性インク、電子線硬化性インク、及びコーティング剤として用いることができる。
【0028】
反応性モノマー及び反応性オリゴマーのうち、α,β-不飽和カルボニル基を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸系モノマー;(メタ)アクリルアミド系モノマー;(メタ)アクリロニトリル系モノマー;スチレン系モノマー;酢酸ビニル、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルカプロラクタム、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどのビニル系モノマーを挙げることができる。なかでも、(メタ)アクリル酸系モノマー、(メタ)アクリル酸系オリゴマーが好ましい。
【0029】
(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、シクロデシルメチル(メタ)アクリレート、トリシクロデシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノラウリルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコ-ルモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、オクタフルオロオクチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノールのエチレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイロキシエチルリン酸エステル、(メタ)アクリロイロキシフタル酸などを挙げることができる。
【0030】
(メタ)アクリル酸系オリゴマーは、1分子中に2以上の重合性基を有する化合物である。(メタ)アクリル酸系オリゴマーとしては、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ノナンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ブテンジオール、ブチンジオールネオペンチルグリコールなどのアルキル、アルケニル、シクロアルキルジオールのジ(メタ)アクリル酸エステル化物;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物などのポリ(n=2以上)グリコールエーテルのジ(メタ)アクリル酸エステル化物;ポリ(ヘキサンジオールアジペート)やポリブタンジオール琥珀酸、ポリカプロラクトンなどのポリエステルジオールのジ(メタ)アクリレート化物;ポリヘキサメチレンカーボネートなどのカーボネートジオールのジ(メタ)アクリレート;トルエンジイソシアネートなどのジイソシアネートと、ジオール、トリオール、ジアミンなどとの反応により得られるウレタンポリオールのポリ(メタ)アクリレート化物;ビスフェノールAグリシジルエーテルの付加物などのエポキシ樹脂のポリ(メタ)アクリレート化物;ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトールなどの多価水酸基含有化合物及びそれらのアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート化物などを挙げることができる。
【0031】
エポキシ基を有する化合物としては、液状である、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンオキサイド、4-ビニルエポキシシクロヘキサン、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類の他;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの脂肪族多価アルコールに1種以上のアルキレンオキサイドを付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル類;脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステル類;脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類;フェノール、クレゾール、ブチルフェノール又はこれらにアルキレンオキサイドを付加して得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル類;高級脂肪酸のグリシジルエステル類;エポキシ化大豆油;エポキシ化アマニ油;エポキシ化ポリブタジエンなどを挙げることができる。
【0032】
オキセタニル基を含有する化合物としては、3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3-エチル-3-(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(クロロメチル)オキセタン、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス{[1-エチル(3-オキセタニル)]メチル}エーテル、トリメチロールプロパントリス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジトリメチロールプロパンテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテルなどを挙げることができる。
【0033】
<セルロース分散液組成物の製造方法>
本発明のセルロース分散液組成物の製造方法は、パルプを解繊して含水セルロースを得る工程(以下、「解繊工程」とも記す)と、得られた含水セルロースを含む水系媒体中でグラフト重合してポリマー(a)を形成し、グラフト化セルロース(c)を得る工程(以下、「グラフト工程」とも記す)と、得られたグラフト化セルロース(c)を水分含有量20質量%以下となるまで乾燥させた後、液媒体(d)に分散させる工程(以下、「分散工程」とも記す)とを有する。以下、その詳細について説明する。
【0034】
解繊工程では、パルプを解繊して含水状態のセルロース(含水セルロース)を得る。パルプを解繊する方法の具体例としては、セルロース含有材料の水懸濁液又はスラリーを、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸混錬機、二軸混錬機、多軸混練機、ビーズミル等を使用して機械的に摩砕又は叩解する方法などがある。好ましくは、水系媒体中でパルプを解繊することでナノサイズのセルロースを含有する含水セルロースを得ることができる。
【0035】
水系媒体中でパルプを解繊して得たセルロースの水酸基は水と水素結合し、ナノサイズのセルロースを安定化させている。但し、乾燥して水分を除去したり、有機溶媒を添加したりすると、セルロースの水酸基同士が水素結合することでセルロースが凝集しやすくなってしまい、ナノサイズを維持することが困難になる。このため、グラフト工程では、解繊工程で得た含水セルロースを乾燥して水分を除去したり、或いは含水セルロースに有機溶媒を添加したりせず、含水状態のまま水系媒体中でグラフト重合する。これにより、実質的に凝集することなく、ナノサイズ等に微分散したグラフト化セルロース(c)を得ることができる。
【0036】
従来公知のグラフト重合方法により所定のモノマーを重合することで、セルロース(b)にポリマー(a)をグラフトさせてグラフト化セルロース(c)を得ることができる。グラフト重合方法としては、(i)セリウム等の無機塩、水溶性アゾラジカル開始剤、及び水溶性過酸化物を使用し、水中でモノマーを重合してグラフト重合する方法;(ii)セルロースの水酸基に重合性官能基(不飽和結合、アゾ基、過酸化物基、リビングラジカル重合の開始基等)を付与した後にモノマーをグラフト重合する方法;(iii)セルロースの水酸基と反応しうる基を側鎖や末端に有するポリマーと、セルロースとを反応させる方法;(iv)セルロースの水酸基を他の官能基(開始基)に変換した後、若しくはセルロースの水酸基にシランカップリング剤を反応させて官能基(開始基)とした後、これらの開始基からモノマーをグラフト重合する、又はこれらの開始基と反応しうる基を有するポリマーとを反応させる方法;などを挙げることができる。
【0037】
含水セルロースを含む水系媒体中で、セリウム塩を用いてラジカル重合してポリマー(a)を形成することが好ましい。セリウム塩を用いてラジカル重合することで、モノマー同士が重合してホモポリマーが形成されるのを抑制し、ポリマー(a)がセルロース(b)にグラフトしたグラフト化セルロース(c)をより効率よく生成させることができる。セリウム塩としては、ラジカルを発生しうる4価のセリウム塩を用いることができる。セリウム塩の具体例としては、硝酸セリウムアンモニウム塩、硝酸セリウムリチウム塩、硝酸セリウムナトリウム塩、硝酸セリウムカリウム塩、硫酸セリウムアンモニウム塩などを挙げることができる。グラフト重合時に用いるセリウム塩の量は、モノマーに対して、0.1~3質量%とすることが好ましい。
【0038】
分散工程では、上記のグラフト工程で得たグラフト化セルロース(c)を水分含有量20質量%以下となるまで乾燥させた後、液媒体(d)に分散させる。これにより、目的とする前述のセルロース分散液組成物を得ることができる。グラフト重合後は、例えば、ろ過及び洗浄してグラフト化セルロース(c)の水ペーストを得る。ろ液にはセリウム塩が含まれているので回収することが好ましい。得られた水ペーストは、そのまま用いることができる。また、ポリマー(a)がセルロース(b)にグラフトしているので、乾燥しても凝集しにくい。さらに、グラフト化セルロース(c)を非水系の液媒体(d)中に分散させるので、水分を除去した乾燥状態とすることが好ましい。このため、従来公知の方法で水ペーストを乾燥させて、水分含有量20質量%以下、好ましくは5質量%以下の乾燥物であるグラフト化セルロース(c)を得る。
【0039】
所定の水分含有量となるまで乾燥させたグラフト化セルロース(c)を従来公知の方法により液媒体(d)中に分散させることで、セルロース分散液組成物を得ることができる。液媒体(d)中にグラフト化セルロース(c)を分散させるには、液媒体(d)とグラフト化セルロース(c)を所定の割合で混合すればよく、撹拌機、ホモジナイザーなどの混合機を使用して混合してもよい。高粘度の液媒体(d)を用いる場合には、二本ロール、三本ロール、一軸押出機、二軸押出機、ニーダーなどの混合分散機を使用することができる。これらの混合分散機を使用し、ナノセルロースになるまで分散させることが好ましい。
【0040】
グラフト化セルロース(c)及び液媒体(d)以外の成分(添加剤)を配合してもよい。添加剤としては、染料、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、顔料分散剤、界面活性剤、帯電防止剤、抗菌剤、防カビ剤、防曇剤、充填剤、無機フィラー、繊維、カーボンナノフィラー、光開始剤、光酸発生材、光塩基発生材などを挙げることができる。
【0041】
<セルロース樹脂複合材>
本発明のセルロース樹脂複合材(以下、単に「複合材」とも記す)は、前述のセルロース分散液組成物を用いて得られる、ナノセルロース等のセルロース(b)(グラフト化セルロース(c))が微分散した複合材である。そして、この複合材中のセルロース(b)の含有量は0.5~10質量%であり、好ましくは1~8質量%である。
【0042】
複合材中にはセルロース(b)が微分散しているため、ベースとなる樹脂を補強して強度等の物性を向上させる補強効果を有する。セルロース(b)の含有量が0.5質量%未満であると、補強効果が不十分になる。一方、セルロース(b)の含有量が10質量%超であると、グラフト化セルロース(c)が過剰となるので、繊維が表面から飛び出すなどして成形品が白化しやすく、外観を損ねることがある。
【0043】
複合材は、例えば、前述のセルロース分散液組成物を従来公知の塗布方法、印画方法、印刷方法、又は硬化方法等によって所望とする形状に塗布等することで、製造することができる。上述の分散液及びそれを用いた複合材は、例えば、自動車、家電、電子部材、ディスプレイ材料、建築物、容器、フィルム、電池等を構成する、塗料、コーティング材、シーリング材、防水材、ライニング材、封止材、粘着テープ、粘着シート、感圧接着剤、粘着加工品、目地材等の材料として有用である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0045】
<CNFの製造>
(製造例1)
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP、リファイナー処理済み、固形分:25%)1,380部に水44,620部を添加し、パルプスラリー濃度0.75質量%の水懸濁液(スラリー)を調製した後、ビーズミルを使用して機械的解繊処理を行った。次いで、フィルタープレスにより脱水して、ナノファイバー化されたセルロース(セルロースナノファイバー、CNF-1)2,250部を得た。得られたCNF-1は含水状態であり、固形分含有量は14.7%であった。
【0046】
<グラフト化CNFの製造>
(製造例2:グラフト化CNF-1)
撹拌機、還流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた反応装置に、含水状態のCNF-1 204.1部(CNF(固形分):30.0部)、メタクリル酸メチル(MMA)60.0部、及びイオン交換水2,438部を入れ、窒素導入しながら40℃で1時間撹拌した。硝酸二アンモニウムセリウム0.3部をイオン交換水300部に溶解させて、セリウム塩水溶液を調製した。調製したセリウム塩水溶液を30分かけて反応装置内に滴下した。3時間撹拌した後、反応液を吸引ろ過して脱水した。メタノールで洗浄した後、80℃で乾燥させ、さらに小型粉砕機を使用して粉砕して、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)がグラフトしたグラフト化CNF-1 81.5部を得た。質量増加分より算出したMMAのグラフト重合率は、85.8%であった。また、グラフト化CNF-1中のグラフト樹脂の質量比は、63.2%であった。
【0047】
(製造例3~12:グラフト化CNF-2~11)
表1に示す組成となるように、CNF-1の量、並びにモノマーの種類及び量を適宜変更したこと以外は、前述の製造例2と同様にしてグラフト化CNF-2~11を製造した。表1中の略号の意味を以下に示す。
MMA:メタクリル酸メチル
BMA:メタクリル酸n-ブチル
HEMA:メタクリル酸2-エチルヘキシル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
PMMA:ポリメタクリル酸メチル
PBMA:ポリメタクリル酸n-ブチル
PHEMA:ポリメタクリル酸2-エチルヘキシル
PCHMA:ポリメタクリル酸シクロヘキシル
【0048】
【0049】
<分散液の製造>
(実施例1:分散液-1)
撹拌機、還流コンデンサー、及び温度計を取り付けた撹拌装置にメタクリル酸メチル97.3部を入れ、50℃に昇温した。昇温後、グラフト化CNF-1 2.7部(セルロース1.0部換算)を添加し、200rpmで1時間撹拌した後、25℃まで冷却し、セルロースの含有量が2.0%である分散液-1を得た。B型粘度計を使用して測定した分散液-1の粘度(25℃、60rpm)は、550mPa・sであった。また、25℃で1時間静置したところ、沈降は生じなかった。
【0050】
(実施例2~15、比較例1~10:分散液-2~25)
表2-1及び2-2に示す組成となるように、各成分の種類及び量を適宜変更したこと以外は、前述の実施例1と同様にして、分散液-2~25を得た。分散液-2~25のセルロースの含有量は、いずれも2.0%となるように設計した。得られた分散液-2~25の粘度(25℃、60rpm)の測定結果を表2-1及び2-2に示す。また、25℃で1時間静置後の状態を確認した結果を表2-1及び2-2に示す。
【0051】
(比較例11~16:分散液-26~31)
含水状態のCNF-1を80℃で乾燥させた後、小型粉砕機を使用して粉砕し、CNF-1の乾燥パウダー(固形分98.9%)を得た。そして、グラフト化CNF-1に代えて、得られたCNF-1の乾燥パウダーを表2-2に示す比率となるように用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、分散液-26~31を得た。得られた分散液-26~31の粘度(25℃、60rpm)の測定結果を表2-2に示す。また、25℃で1時間静置後の状態を確認した結果を表2-2に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
図1は、分散液-1を1時間静置した後の状態を示す図である。
図1に示すように、分散液-1中のセルロースは1時間静置しても沈降せず、均一な分散状態を維持していたことがわかる。
図2は、分散液-16を1時間静置した後の状態を示す図である。
図2に示すように、分散液-16中のセルロースは1時間静置後に沈降しており、分散状態が維持されなかったことがわかる。
【0055】
<応用例>
(PMMA樹脂板の製造)
撹拌機、還流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた反応装置に、MMA100部、及び2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.001部を入れた。70℃に加温して1時間重合させて、数平均分子量30万のポリメタクリル酸メチルの含有量が10%であるメタクリル酸メチルシロップを得た。次いで、分散液-1 100部、及び2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.05部を添加して均一化し、グラフト化CNF-1の含有量が2.7%であり、セルロースの含有量が1.0%である、CNFを含有するアクリルシロップを得た。得られたアクリルシロップの粘度(25℃)は140mPa・sであった。塩化ビニル樹脂製のガスケットと、このガスケットにより2mmの間隔を空けて対向配置した2枚のガラス板と、を使用してセルを構成した。構成したセルに上記のアクリルシロップを注入した後、72℃で3時間加熱した。さらに、120℃で40分間加熱して、CNFが均一に分散したほぼ透明なPMMA樹脂板(厚さ約2mm)を得た。
【0056】
また、分散液-1に代えて分散液-2~6をそれぞれ用いたこと以外は、上記と同様にした場合にも、CNFが均一に分散した同様のPMMA樹脂板を得ることができた。一方、分散液-16、17、及び26をそれぞれ用いた場合には、異物があり、不透明なPMMA樹脂板しか得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のセルロース分散液組成物は、例えば、自動車、家電、電子部材、ディスプレイ材料、建築物、容器、フィルム、電池等を構成する、塗料、コーティング材、シーリング材、防水材、ライニング材、封止材、粘着テープ、粘着シート、感圧接着剤、粘着加工品、目地材等の材料として有用である。