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特許7290792ガラススペーサの製造方法、ガラススペーサ、及びハードディスクドライブ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】ガラススペーサの製造方法、ガラススペーサ、及びハードディスクドライブ装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20230606BHJP
   G11B 17/038 20060101ALI20230606BHJP
   C03C 17/25 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
G11B5/84 Z
G11B17/038
C03C17/25 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022504489
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2021008935
(87)【国際公開番号】W WO2021177468
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】62/986,005
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】三浦 正文
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
(72)【発明者】
【氏名】樋口 直之
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/151459(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221102(WO,A1)
【文献】特開2009-108419(JP,A)
【文献】特開2019-125413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
G11B 17/038
C03C 17/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードディスクドライブ装置内において磁気ディスクに接するように設けられるリング形状のガラススペーサの製造方法であって、
前記ガラススペーサは、ガラススペーサ本体に膜を形成して構成され、
前記ガラススペーサ本体の表面に前記膜を形成する処理を含み、
前記処理は、前記ガラススペーサ本体の外周端面を周方向に回転させながら、前記膜の成分の噴霧状態の場所を通過させることにより前記膜を形成する、ことを特徴とするガラススペーサの製造方法。
【請求項2】
前記リング形状の前記ガラススペーサ本体の穴に対して遊嵌する回転シャフトを前記穴に通して前記穴の内周端面の一部と前記回転シャフトを接触させて前記回転シャフトを回転させることにより、前記外周端面を回転させる、請求項1に記載のガラススペーサの製造方法。
【請求項3】
前記回転シャフトは、回転しながら、一方向に移動するように移動機構上に設けられている、請求項2に記載のガラススペーサの製造方法。
【請求項4】
前記噴霧状態の場所は、前記膜の成分を、前記ガラススペーサ本体の搬送経路の両側からミスト散布することにより形成される、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラススペーサの製造方法。
【請求項5】
前記処理は、前記ガラススペーサ本体に形成された前記膜を加熱することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラススペーサの製造方法。
【請求項6】
前記膜の表面の算術平均粗さRaは、1μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のガラススペーサの製造方法。
【請求項7】
前記膜の、22[℃]における表面抵抗率は、10-4~10[Ω/sq]である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラススペーサの製造方法。
【請求項8】
前記膜は、酸化スズ、酸化亜鉛、及び酸化チタンのいずれか1つを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のガラススペーサの製造方法。
【請求項9】
少なくとも駆動モータと、噴霧口と、を備え、一対の移動機構に回転シャフトを架け渡したスペーサ搬送手段を内蔵した筐体を含む、ハードディスクドライブ装置用スペーサの表面に膜を形成するための装置。
【請求項10】
ハードディスクドライブ装置内において磁気ディスクに接するように設けられるリング形状のガラススペーサであって、
前記ガラススペーサの主表面と端面とを含む全表面は、酸化スズ、酸化亜鉛、及び酸化チタンのいずれか1つを含む膜で覆われており、
前記ガラススペーサの前記端面における前記膜の厚さは、前記ガラススペーサの前記主表面における前記膜の厚さよりも厚い、ことを特徴とするガラススペーサ。
【請求項11】
前記ガラススペーサの全表面における前記膜の最大膜厚と最小膜厚との差は、前記最大膜厚の半分未満である、請求項10に記載のガラススペーサ。
【請求項12】
前記ガラススペーサの全表面は、厚さ100nm未満の前記膜で覆われていることを特徴とする、請求項10又は11に記載のガラススペーサ。
【請求項13】
前記ガラススペーサの端面における算術平均粗さRaは、前記ガラススペーサの主表面における算術平均粗さRaよりも大きい、請求項10~12のいずれか1項に記載のガラススペーサ。
【請求項14】
前記膜の、22[℃]における表面抵抗率は、10-4~10[Ω/sq]である、請求項10~13のいずれか1項に記載のガラススペーサ。
【請求項15】
請求項10~14のいずれか1項に記載のガラススペーサと前記磁気ディスクを含むハードディスクドライブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ装置内において磁気ディスクに接するように設けられるリング形状のガラススペーサの製造方法、ガラススペーサ、及びこのガラススペーサを備えるハードディスクドライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のクラウドコンピューティングの隆盛に伴って、クラウド向けのデータセンターでは記憶容量の大容量化のために多くのハードディスクドライブ装置(以下、HDD装置ともいう)が用いられている。
【0003】
HDD装置には、HDD装置内の磁気ディスク同士の間に、磁気ディスク同士を離間させて保持するためのリング状のスペーサが設けられている。このスペーサは、磁気ディスク同士が接触せず、磁気ディスク同士が精度高く所定の位置に離間して配置されるように機能する。このスペーサの材料としては、従来、製造コストの低い金属材料が用いられてきた。
ところで、磁気ディスク用の基板としてガラス基板を用いる場合、スペーサと磁気ディスクとは互いに接触しているので、HDD装置内の温度の変化に伴って金属製スペーサとガラス製磁気ディスクとの間で熱膨張に差が出て磁気ディスクに撓みが生じ、この結果、磁気ヘッドの浮上性が悪化する。磁気ヘッドの浮上性が悪化することは、ハードディスク装置の読み取り、書き込みの点から好ましくない。このため、近年、磁気ディスク用基板としてガラス基板を用いる場合に対応させて、ガラス製スペーサ(以下、ガラススペーサという)を用いることが検討されている。
しかし、ガラスは一般的に絶縁体であるので、高速回転する磁気ディスク及びガラススペーサと空気との摩擦等により磁気ディスクあるいはガラススペーサ上に静電気が溜まり易い。磁気ディスクやスペーサが帯電すると異物や微粒子を吸着し易くなるほか、溜まった静電気の磁気ヘッドへの放電によって、磁気ヘッドの記録素子や再生素子が破壊されることがあるので好ましくない。
【0004】
これに対して、ガラススペーサの少なくとも磁気ディスクとの当接面及び内周面に、膜厚0.1~3μmの導電性セラミック膜を被覆したガラススペーサが知られている(特許文献1)。
これにより、磁気ディスクに帯電した静電気を効率よく逃がすことができ、当接面をほとんど摩耗させることがない、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-44969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、スペーサ本体の材料としてガラスやセラミックス等の脆性材料を用いた場合、スペーサ本体の表面に導電性の被膜を形成しても、スペーサ本体の脆性材料の一部が微粒子となって発塵が発生するケースがあった。
【0007】
そこで、本発明は、HDD装置内における磁気ディスクに帯電した磁気ヘッドの静電気の放電を抑制するために磁気ディスクやガラススペーサの帯電を抑制することができ、さらに、発塵を抑制するガラススペーサ、このガラススペーサを用いたハードディスクドライブ装置、及びガラススペーサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ハードディスクドライブ装置内において磁気ディスクに接するように設けられるリング形状のガラススペーサの製造方法である。
前記ガラススペーサは、ガラススペーサ本体に膜を形成して構成される。
当該製造方法は、前記ガラススペーサ本体の表面に前記膜を形成する処理を含み、
前記処理は、前記ガラススペーサ本体の外周端面を周方向に回転させながら、前記膜の成分の噴霧状態の場所を通過させることにより前記膜を形成する。
【0009】
前記リング形状の前記ガラススペーサ本体の穴に対して遊嵌する回転シャフトを前記穴に通して前記穴の内周端面の一部と前記回転シャフトを接触させて前記回転シャフトを回転させることにより、前記外周端面を回転させる、ことが好ましい。
【0010】
前記回転シャフトは、回転しながら、一方向に移動するように移動機構上に設けられている、ことが好ましい。
【0011】
前記噴霧状態の場所は、前記膜の成分を、前記ガラススペーサ本体の搬送経路の両側からミスト散布することにより形成される、ことが好ましい。
【0012】
前記処理は、前記ガラススペーサ本体に形成された前記膜を加熱することを含む、ことが好ましい。
【0013】
前記膜の表面の算術平均粗さRaは、1μm以下である、ことが好ましい。
【0014】
前記膜の、22[℃]における表面抵抗率は、10-4~10[Ω/sq]である、ことが好ましい。
【0015】
前記膜は、例えば、酸化スズ、酸化亜鉛、及び酸化チタンのいずれか1つを含む。
【0016】
本発明の他の一態様は、少なくとも駆動モータと、噴霧口と、を備え、一対の移動機構に回転シャフトを架け渡したスペーサ搬送手段を内蔵した筐体を含む、ハードディスクドライブ装置用スペーサの表面に膜を形成するための装置である。
【0017】
本発明の他の一態様も、ハードディスクドライブ装置内において磁気ディスクに接するように設けられるリング形状のガラススペーサである。当該ガラススペーサの主表面と端面とを含む全表面は、酸化スズ、酸化亜鉛、及び酸化チタンのいずれか1つを含む膜で覆われており、前記ガラススペーサの前記端面における前記膜の厚さは、前記ガラススペーサの前記主表面における前記膜の厚さよりも厚い。
【0018】
前記ガラススペーサの全表面における前記膜の最大膜厚と最小膜厚との差は、前記最大膜厚の半分未満であることが好ましい。
【0019】
前記ガラススペーサの全表面は、厚さ100nm未満の前記膜で覆われていることが好ましい。
【0020】
前記ガラススペーサの端面における算術平均粗さRaは、前記ガラススペーサの主表面における算術平均粗さRaよりも大きい、ことが好ましい。
【0021】
前記膜の、22[℃]における表面抵抗率は、10-4~10[Ω/sq]である、ことが好ましい。
【0022】
本発明の他の一態様は、前記ガラススペーサと前記磁気ディスクを含むハードディスクドライブ装置である。
【発明の効果】
【0023】
上述のガラススペーサ、ハードディスクドライブ装置、及びガラススペーサの製造方法によれば、磁気ディスクやガラススペーサの帯電を抑制し、発塵を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態のスペーサの外観斜視図である。
図2】一実施形態のスペーサと磁気ディスクとの配置を説明する図である。
図3】一実施形態のスペーサが組み込まれるHDD装置の構造の一例を説明する要部断面図である。
図4】一実施形態のガラススペーサの一例の断面図である。
図5】一実施形態のガラススペーサの製造方法における膜の形成の一例を説明する図である。
図6】一実施形態のガラススペーサの製造方法で用いるスペーサ搬送手段の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のガラススペーサ、ハードディスクドライブ装置、及びガラススペーサの製造方法について詳細に説明する。
図1は、一実施形態のガラススペーサ(以下、単にスペーサということがある)1の外観斜視図であり、図2は、スペーサ1と磁気ディスク5との配置を説明する図である。図3は、スペーサ1が組み込まれるHDD装置の構造の一例を説明する要部断面図である。図4は、スペーサ1の一例の断面図である。
【0026】
スペーサ1は、図2に示すように、磁気ディスク5とスペーサ1が交互に重ねられてHDD装置に組み込まれる。図3に示すように、複数枚の磁気ディスク5は、モータ12に接続して回転するスピンドル14にスペーサ1を介して嵌挿され、さらにその上にトップクランプ16を介してネジによって固定することにより、所定間隔をもって取付けられる。
図2に示すように、スペーサ1は、2つの磁気ディスク5の間に位置するように、スペーサ1と磁気ディスク5が交互に配置され、隣り合う磁気ディスク5間の隙間を所定の距離に保持する。なお、以下の実施形態で説明するスペーサ1は、2つの磁気ディスク5の間に磁気ディスク5に接するように設けられるスペーサを対象とするが、本発明の対象とするスペーサは、最上層あるいは最下層の磁気ディスク5のみと接するスペーサをも含む。なお、HDD装置の仕様によっては、最上層あるいは最下層の磁気ディスク5のみと接するスペーサ1が設けられない場合もある。
【0027】
スペーサ1は、図1に示すように、リング形状を成しており、外周端面2、内周端面3、及び互いに対向する主表面4を備える。
内周端面3は、スピンドル14と接する面であり、スピンドル14の外径よりもわずかに大きい内径の孔を囲む壁面である。
円環形状のスペーサ1の寸法は、搭載されるHDDの仕様によって適宜変更すればよいが、公称3.5インチ型のHDD装置向けであれば、外径は例えば30~34mmであり、内径は例えば24~26mmであり、半径方向の幅は例えば2~5mmであり、厚さは例えば0.5~3mmである。また、外周端面2及び内周端面3と主表面4との接続部に適宜面取面を設けてもよい。面取面は断面形状において直線形状でも円弧形状でもよい。面取面の寸法は、半径方向・板厚方向の幅が例えば0.01~0.5mmである。
【0028】
主表面4は、磁気ディスク5と接する互いに平行な2つの面である。スペーサ1は磁気ディスク5と密着し摩擦力によって磁気ディスク5を固定する。このように、スペーサ1と磁気ディスク5とは互いに接触しているので、HDD装置内の温度の変化に伴ってスペーサ1と磁気ディスク5との間で熱膨張に差が出て位置ずれが生じて擦れる。これにより、絶縁体であるガラスに静電気が生じ易い。また、高速回転するスペーサ1と空気との摩擦によりスペーサ1上に静電気が生じ易い。このような静電気がスペーサ1に生じ、スペーサ1が帯電すると異物や微粒子を吸着し易くなるほか、溜まった静電気の磁気ヘッドへの放電によって、磁気ヘッドの記録素子や再生素子が破壊されることがあるので静電気は好ましくない。 また、スペーサ1の表面から、ガラスの一部が微粒子となって発塵する場合もある。発塵により、HDD装置の密閉された空間内に微粒子が浮遊し、磁気ディスク5の主表面に付着して、磁気ヘッドによる磁気ディスク5からの読み出し、磁気ディスク5への書き込みの障害となることから、発塵は好ましくない。このような発塵は、スペーサ1の外周端面から特に発生しやすい。外周端面は、HDD装置の稼働中、常に暴露されているうえ、磁気ディスク5の主表面に近いからである。また、スペーサ1の内周端面は、スペーサ1をスピンドルに装着する際に擦れて発塵を発生させる場合がある。これらの発塵は、磁気ディスク5を取り換える作業であるリワークの際に磁気ディスク5の主表面に移着する恐れがあるので好ましくない。
【0029】
このため、静電気が溜まり難くし、発塵を防ぐために、スペーサ1の全表面は、酸化スズ又は酸化亜鉛を含む導電性の膜22で覆われる。すなわち、スペーサ1は、図4に示すように、リング形状をしたガラススペーサ本体(以降、スペーサ本体という)20と、膜22と、を有する。膜22は、例えば、酸化スズ(SnO)や酸化亜鉛(ZnO)を含む導電膜とすることができる。また、膜22は、酸化チタンを含む膜であってもよい。酸化スズにフッ素をドープしたFTOや、酸化亜鉛に酸化アルミニウム(Al)をドープしたAZOでもよい。スペーサ1の全表面を覆う膜22の厚さは、100nm未満であることが好ましい。
従来より、成膜には、スパッタリング法等のPVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)、あるいは、スプレー法等が用いられる。しかし、これらの成膜方法を一般的な方法で用いる場合、スペーサを保持する保持部材(支持部材)がスペーサと接触する部分については根本的に成膜できないという問題がある。このため、保持部材による保持のためにスペーサの表面の一部が成膜できず露出することになるので、露出部分からガラスの欠片が微粒子となって発塵する場合があった。また、露出部分を完全に無くすために、保持部材で保持しつつ成膜したスペーサを成膜装置から取り出し、成膜された領域を保持部材で保持させた状態で二度目の成膜を行うことも可能ではある。しかし、2度の成膜を行うので、保持部材と接触した場所とそれ以外の場所とで約2倍の膜厚ムラが生じてしまう上に、成膜工程が煩雑になり、コストが増加するという問題があった。
本実施形態では、上記したような従来の保持部材を用いることなく、スペーサ1の全表面を、酸化スズを含む膜22で覆う。
【0030】
スペーサ1の全表面を覆う膜22の厚さは、200nm以下であることが好ましく、100nm未満であるとさらに好ましい。厚さ200nmを超えると、製造コストが過大になるおそれがある。また、厚さ100nm以上になると、膜22の表面凹凸が大きくなり、膜22の凸部分が磁気ディスク5と接触した際に押圧され、この凸部の一部が膜22の表面から離脱して微粒子となり発塵するおそれがある。発生した微粒子は、リワークの際に磁気ディスクの主表面に移着する恐れがあるので好ましくない。
また、スペーサ1の外周端面2及び内周端面3における膜22の厚さは、スペーサ1の主表面4における膜22の厚さよりも厚いことが好ましい。外周端面2における膜22は、HDD装置の密閉空間に露出するので外周端面2からの発塵は抑制しなければならない。このため、スペーサ本体20のガラスが密閉空間に露出しないように、外周端面2における膜22の厚さを、スペーサ1の主表面4における膜22の厚さよりも厚くする。一方、内周端面3における膜22は、スピンドル14と擦れるので発塵し易い。このため、内周端面3における膜22の厚さを、スペーサ1の主表面4における膜22の厚さよりも厚くする。例えば、スペーサ1の主表面4における膜22の厚さは、30nm以上190nm以下とすることができるが、30nm以上90nm以下とするとより好ましい。また、外周端面2及び内周端面3における膜22の厚さは、例えば40nm以上200nm以下とすることができるが、40nm以上100nm未満とするとより好ましい。
【0031】
一実施形態によれば、スペーサ1の外周端面2及び内周端面3における算術平均粗さRaは、スペーサ1の主表面4における算術平均粗さRaよりも大きいことが好ましい。スペーサ1の外周端面2及び内周端面3における算術平均粗さRaを大きくすることで、膜22の密着性を向上させることができる。こうすることで、端面における膜22の膜厚を主表面のよりも厚くしても、膜の応力による膜剥がれが起きにくくなる。例えば、膜を形成する前のスペーサ1の主表面4を研磨することにより、スペーサ1の主表面4における算術平均粗さRaを外周端面2や内周端面3よりも小さくすることができる。スペーサ1の主表面4における算術平均粗さRaは1.0μm以下とすることが好ましい。また、スペーサ1の外周端面2及び内周端面3における算術平均粗さRaは0.5μm以上とすることが好ましい。
また、一実施形態によれば、スペーサ1の全表面における膜22の最大膜厚と最小膜厚との差は、最大膜厚の半分未満である、ことが好ましい。また、当該差は、前記最大膜厚の4分の1未満であるとより好ましい。スペーサ1の表面に、保持治具等による保持により膜22の膜厚が極端に薄い場所が存在しない場合、当該差は、スペーサ1の主表面、内周端面及び外周端面のそれぞれの面の膜厚から算出することができる。各面の膜厚は、例えば各面の中央部における膜厚とすることができる。こうすることで、スペーサ1の全表面における膜22の膜厚のバラツキを小さくできるため、所定の膜厚を形成した際に表面の一部において膜厚が極端に薄くなり発塵を抑制できなくなることを防止できる。
【0032】
このような膜22を備えるスペーサ1の製造は、スペーサ1の素となるリング形状のスペーサ本体20の表面に膜22を形成する処理を含む。このときの処理は、スペーサ本体20の外周端面2を周方向に回転させながら、膜22の成分の噴霧状態の場所を通過させることにより膜22を形成する。図5は、一実施形態のスペーサ1の製造方法における膜の形成の一例を説明する図である。
このように、スペーサ本体20の外周端面2を周方向に回転させながら、膜22の成分の噴霧状態23の場所を通過させることにより、スペーサ本体20の全表面を効率よくムラなく膜22を形成することができる。従来、スペーサ本体20の外側端面を保持部材で保持した場合、保持部分に膜22は形成されない。膜22を形成したのち、保持部分を別の場所に変えて2度目の膜22の形成をすることもできるが、膜22の厚さにムラができる。他方、本発明の膜の形成方法では、保持部材を持ち変える必要がないし、1度の成膜処理でムラなく膜22を形成することができる。
【0033】
膜22の形成方法の一実施形態として、リング形状のスペーサ本体20の穴に対して遊嵌する(loose fit)、すなわち、穴の内径に対して外径が小さい回転シャフト50を穴に通して穴の内周面(スペーサ本体20の内周端面)の一部と回転シャフト50を接触させて回転シャフト50を回転させることにより、外周端面2を回転させることが好ましい。この方法では、回転シャフト50の回転による連れまわりによってスペーサ本体20を回転させる。したがって、回転シャフト50とスペーサ本体20の内周端面とが適度な摩擦を生じるように、回転シャフト50の表面粗さや材料を適宜設計すればよい。また、連れまわり中に回転シャフトの軸方向に位置がずれないように、回転シャフト50の表面に凹部(溝)や凸部を設けてもよい。凹部や凸部を設けることで、1本の回転シャフトに装着するリング状スペーサ本体の数を増やしやすくなるため、生産効率を向上させることができる。噴霧状態23の中でスペーサ本体20を回転させることにより、スペーサ本体20の表面全体(主表面4、外周端面2、及び内周端面3)に膜22の成分を効率よく付着させることができる。
【0034】
一実施形態によれば、回転シャフト50は、回転しながら、一方向に移動するように移動機構52上に設けられていることが好ましい。このスペーサ搬送手段により、スペーサ本体20を、噴霧状態23の中を回転及び搬送させながら、スペーサ本体20の表面全体に膜22を形成することができる。
移動機構52は、例えば、図6に示すように、らせん状に巻きまわした一対の回転部材54と、図示されない駆動モータとを備える。図6は、一実施形態のガラススペーサの製造方法で用いるスペーサ搬送手段の一例を説明する図である。
図6に示す回転部材54が駆動モータの駆動により回転することで、両側の回転部材54にかけ渡された回転シャフト50が回転しながらX方向に移動する。したがって、回転部材54は、スペーサ本体20の搬送経路に沿って配置される。
一実施形態によれば、噴霧状態23の場所を複数箇所設け、スペーサ本体20を移動機構52で搬送させながら、噴霧状態23の各場所を通過させることにより、膜22をスペーサ本体20の表面全体に確実に形成することができる。
【0035】
一実施形態によれば、噴霧状態23の場所は、膜22の成分を、スペーサ本体20の搬送経路を囲むように設けた複数の噴霧口からミスト散布することにより形成される、ことが好ましい。例えば、複数の噴霧口は、搬送経路の両側、左右、上下、上下左右などに設けることができる。また、複数の噴霧口は、スペーサ本体20の搬送経路に沿って設けてもよい。これらを適宜組み合わせることにより、膜22の厚さムラを抑制することができる。
【0036】
膜22を形成する処理は、膜22の形成中及び/又は形成後に、スペーサ本体20に形成された膜22を加熱手段を用いて加熱することを含んでいても良い。なお、膜22の形成前にスペーサ本体20を加熱しておき、その余熱で膜22を加熱してもよい。すなわち、膜22の形成前、形成中、形成後の加熱を適宜組み合わせて膜22を加熱することができる。例えば、微小液滴が飛散する噴霧状態23の中で、スペーサ本体20の表面に微小液滴が付着して、液体状態の膜22を形成した場合、この膜22を加熱処理することにより、化学反応を引き起こして膜22を固化させる。膜22は、導電性の酸化物又はセラミックスである、ことが好ましい。例えば、酸化スズを膜22として形成する場合、エタノール等の溶剤にジブチルスズ・ジアセテートやジメチルスズジクロリド等のスズ有機化合物を溶解した液体の噴霧状態23を形成し、この噴霧状態23でスペーサ本体20の表面に膜22を形成し、この後、例えば、400~600℃で加熱し、酸化スズを形成させる。なお、上記のとおり、スペーサ本体20を加熱してから及び/又は加熱しながら上記噴霧を行ってもよい。加熱手段としては、各種ヒーターや加熱プレート等、従来公知の加熱装置を用いることができる。
なお、例として図6に示されたようなスペーサ搬送手段は、ガラス製スペーサに限らず、いかなるスペーサの表面の膜形成にも利用可能である。したがって、図6に例示されたスペーサ搬送手段を、少なくとも駆動モータと噴霧口と場合により加熱手段とを備えた筐体内に内蔵した膜を形成するための装置は、いかなる材料で製造されたハードディスクドライブ装置用スペーサの表面にも膜を形成することができる。
【0037】
膜22の表面の算術平均粗さRaは、1μm以下である、ことが好ましい。
膜22の、22[℃]における表面抵抗率は、10-4~10[Ω/sq]であることが好ましい。このような材料を用いることで、スペーサ1あるいは磁気ディスク5が帯電しても、スペーサ1の表面抵抗率が小さいので、スペーサ1からスピンドル14を経由して、あるいは磁気ディスク5からスペーサ1及びスピンドル14を経由して、スペーサ1及び磁気ディスク5の外部へ電荷を流すことができ、スペーサ1及び磁気ディスク5の帯電を抑制することができる。表面抵抗率は、例えば、四探針法の抵抗率計を用いて測定することができる。
【0038】
膜22の材料は、例えば、酸化スズを含むスズ含有セラミックス、あるいは、酸化亜鉛を含む亜鉛含有セラミックスである。また、酸化チタンを含む材料を用いてもよい。さらに、これらの物質にフッ素や酸化アルミニウムをドープした材料を用いてもよい。これらの材料で形成した膜22は導電性を有するため、膜22を有するスペーサ1の、22[℃]における表面抵抗率を、10-4~10[Ω/sq]とすることができる。
【0039】
このように、スペーサ1の製造方法では、スペーサ本体20の外周端面を周方向に回転させながら、膜22の成分の噴霧状態23の場所を通過させることにより膜22を形成する。これにより、スペーサ本体20の表面全体に膜22を形成でき、ムラなく膜22を形成することができる。また、膜22により表面全体が覆われるのでガラスが露出する部分がなくなり発塵を抑えることができる。さらに、大気圧下で処理できるため、PVD、CVD等に比べて低コストで膜22を形成することができる。
【0040】
なお、上述したスペーサ1の製造方法は、上述したスペーサ本体20の外周端面を周方向に回転させながら噴霧状態23の場所を通過させて、膜22を形成する方法に限定されず、他の製造方法を用いることもできる。例えば、スペーサ本体20を加熱プレートなどの台上に載置し、載せ方や噴霧の仕方を適宜変えながら複数回の噴霧を行うことで全表面に膜22を形成してもよい。
【0041】
[実施例1]
外径32mm、内径25mm、厚さ2mmのガラス製スペーサを用意した。ガラス製スペーサの主表面、内周端面、および外周端面の算術平均粗さRaは、それぞれ、0.3μm、0.8μm、0.8μmとした。
膜の形成装置は、回転シャフトと駆動モータを備えた一対の回転部材(らせん状)を内蔵した直方体型の筐体(チャンバー)構造であり、上下面に噴霧ノズルとランプヒーターが所定間隔で複数設けられている。噴霧ノズルとランプヒーターは、ガラス製スペーサが搬送されても十分成膜が可能となるように設けた。筐体内の回転シャフトにガラス製スペーサを通し、回転シャフトを一対の回転部材上に架け渡した。ガラス製スペーサが400℃に加熱されるようにランプヒーターの出力を設定し、筐体内の特定の領域に5秒間おきにジブチルスズ・ジアセテートのエタノール溶液を噴霧して、筐体内の一部に噴霧状態を形成した。次いでガラス製スペーサのX方向(図6参照)の搬送速度を10cm/分、ワークが3rpmで回転するように駆動モータなどの条件を設定した。すると回転シャフトは回転部材上を回転しながら移動して噴霧状態の中を通過した。このようにガラス製スペーサを噴霧状態中で加熱・搬送しつつその表面に膜を形成させた。ガラス製スペーサの主表面、内周端面、および外周端面上に形成された酸化スズの膜の厚さは、それぞれ、70nm、82nm、90nmであった。ここで、端面の膜厚の方が主表面の膜厚より厚くなった。また、最大膜厚と最小膜厚の差は20nm、最大膜厚は90nmであるから、スペーサ1の全表面における膜22の最大膜厚と最小膜厚との差は最大膜厚の半分未満及び1/4未満を満たしており、膜厚バラツキが非常に小さいことがわかった。またこれらの面の算術平均粗さRaは、それぞれ、0.3μm、0.8μm、0.8μmであった。酸化スズ膜形成後のガラス製スペーサの表面抵抗率は、22[℃]において10-4~10[Ω/sq]の範囲内であった。
【0042】
[実施例2]
上記と同じ大きさのガラス製スペーサを用い、上記と同様にガラス製スペーサ上への膜の形成を繰り返した。噴霧状態の中のX方向の搬送速度を小さくすることにより、実施例1よりも厚さの大きい膜を形成させた。ガラス製スペーサの主表面、内周端面、および外周端面上に形成された酸化スズの膜の厚さは、それぞれ、140nm、170nm、188nmであった。ここで、端面の膜厚の方が主表面の膜厚より厚くなった。また、スペーサ1の全表面における膜22の最大膜厚と最小膜厚との差は最大膜厚の半分未満を満たしており、膜厚バラツキが小さいことがわかった。またこれらの面の算術平均粗さRaは、それぞれ、0.4μm、0.9μm、1.0μmであった。
【0043】
[実施例3]
上記と同じ大きさのガラス製スペーサを用い、上記と同様にガラス製スペーサ上への膜の形成を繰り返した。噴霧状態の中のX方向の搬送速度を大きくすることにより、実施例1よりも厚さの小さい膜を形成させた。ガラス製スペーサの主表面、内周端面、および外周端面上に形成された酸化スズの膜の厚さは、それぞれ、40nm、47nm、51nmであった。ここで、端面の膜厚の方が主表面の膜厚より厚くなった。また、スペーサ1の全表面における膜22の最大膜厚と最小膜厚との差は最大膜厚の半分未満及び1/4未満を満たしており、膜厚バラツキが非常に小さいことがわかった。またこれらの面の算術平均粗さRaは、それぞれ、0.3μm、0.8μm、0.8μmであった。
【0044】
[参考例]
実施例1と同じガラス製スペーサを加熱プレート上に載置し、400℃に昇温した。その温度を維持したまま、上方からジブチルスズ・ジアセテートのエタノール溶液を主表面の膜厚が70nmとなるように噴霧した。次いでガラス製スペーサを裏返して加熱プレート上に載置し、400℃に昇温した後、同様にジブチルスズ・ジアセテートのエタノール溶液を噴霧した。得られたガラス製スペーサの主表面、内周端面、および外周端面上に形成された酸化スズの膜の厚さは、それぞれ、70nm、140nm、140nmであり、端面の膜厚の方が主表面の膜厚より厚くなったものの、最大膜厚と最小膜厚との差は最大膜厚の半分未満を満たさなかった。すなわち、スペーサ1の全表面における膜22の膜厚バラツキが非常に大きいことがわかった。またこれらの面の算術平均粗さRaは、それぞれ、0.3μm、0.9μm、0.9μmであった。
【表1】
【0045】
実施例1で作製したスペーサ2つを、図3に示すように3枚の磁気ディスク(主表面粗さRaは0.3nm以下)の間に挟んでHDD装置を作製し、磁気ヘッドによる信号の記録再生等の動作確認を行ったところ、特に問題は見られなかった。また、実施例2、3および参考例で作製したスペーサについても同様にHDD装置を作製して動作確認を行ったところ特に問題は見られなかった。
【0046】
以上、本発明のガラススペーサ、ハードディスクドライブ装置、及びガラススペーサの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0047】
1 スペーサ
2 外周端面
3 内周端面
4 主表面
5 磁気ディスク
10 ハードディスクドライブ装置
12 モータ
14 スピンドル
16 トップクランプ
20 スペーサ本体
22 膜
23 噴霧状態
50 回転シャフト
52 移動機構
54 回転部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6