(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】ケーシング部材
(51)【国際特許分類】
F02F 7/00 20060101AFI20230607BHJP
B29C 43/20 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
F02F7/00 302B
B29C43/20
(21)【出願番号】P 2019044836
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000228383
【氏名又は名称】日本ガスケット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】中村 奎介
(72)【発明者】
【氏名】恒川 英樹
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-293508(JP,A)
【文献】特開2004-291265(JP,A)
【文献】国際公開第2018/150978(WO,A1)
【文献】特開平07-001503(JP,A)
【文献】特開2004-245048(JP,A)
【文献】特開2016-186228(JP,A)
【文献】特開2017-177738(JP,A)
【文献】特開2017-161025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 7/00
B29C 43/20
F01M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底箱状のケース部と、ボルトによって他の部材に締結されるボルト穴の穿設されたフランジ部とを有するケーシング部材において、
上記ケース部とフランジ部とは、上記フランジ部を構成する面と平行な面内においてランダムな方向を向
くものだけで概ね構成された繊維を含んだ抄造樹脂によって一体的に成型されるとともに、
上記ケース部およびフランジ部を構成する樹脂の原料は異なっており、上記フランジ部を構成する樹脂を耐締め付け性の高い抄造樹脂によって構成したことを特徴とするケーシング部材。
【請求項2】
ケース部を構成する樹脂を高強度の抄造樹脂によって構成することを特徴とする請求項1に記載のケーシング部材。
【請求項3】
上記ケーシング部材がオイルパンであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のケーシング部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケーシング部材に関し、詳しくは有底箱状のケース部と、ボルトによって他の部材に締結されるボルト穴の穿設されたフランジ部とを有するケーシング部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用エンジンを構成する部品として、オイルパンなどのケーシング部材があるが、このようなケーシング部材は有底箱状のケース部と、ボルトによってエンジン本体に締結されるボルト穴の穿設されたフランジ部とを有している(特許文献1)。
オイルパンとしては鉄製の物が一般的であるが、上記特許文献1では、上記ケース部の内側を樹脂などからなる別部材によって覆い、防音性を高めるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のように上記ケーシング部材を鉄製とした場合、重量が重いという問題があり、また保温性や防音性に乏しいという問題あることから、特許文献1のようにケース部の内側に別部材の樹脂を設けることが行われているが、この場合保温性や防音性が向上するものの、上記樹脂製の部材がエンジンの振動によって剥がれ、ケース部に衝突して騒音を発生させる恐れがあった。
一方、軽量化のためオイルパン全体を樹脂製とすることが考えられるが、このとき、上記フランジ部をエンジン本体に締結すると、当該フランジ部を構成する樹脂がボルトの締め付けによって割れたり座屈する恐れがあった。
さらに、上記ケース部を樹脂製とし、フランジ部を金属製とすることも考えられるが、この場合ケース部とフランジ部とがその境界部分で分離してしまう恐れがあった。
このような問題に鑑み、本発明は樹脂製であるにも関わらず、フランジ部による相手部材への連結を強固に行うことが可能なケーシング部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明にかかるケーシング部材は、有底箱状のケース部と、ボルトによって他の部材に締結されるボルト穴の穿設されたフランジ部とを有するケーシング部材において、
上記ケース部とフランジ部とは、上記フランジ部を構成する面と平行な面内においてランダムな方向を向くものだけで概ね構成された繊維を含んだ抄造樹脂によって一体的に成型されるとともに、
上記ケース部およびフランジ部を構成する樹脂の原料は異なっており、上記フランジ部を構成する樹脂を耐締め付け性の高い抄造樹脂によって構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、ケーシング部材の全体が抄造樹脂成型品として一体的に成型されていることから、鉄製のケーシング部材に比べて軽量であり、また保温性や防音性に優れている。
そのうえで、フランジ部を構成する樹脂を耐締め付け性の高い抄造樹脂によって構成したことにより、当該フランジ部をボルトで締結した際に、割れや座屈等を発生させることなく、強固に相手部材に連結することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、
図1は本発明にかかるケーシング部材としてのオイルパン1の断面図を示しており、自動車用エンジンのエンジン本体に装着されるものとなっている。
上記オイルパン1は、オイルを貯留する有底箱状のケース部2と、ボルトによってエンジン本体に締結されるボルト穴3aの穿設されたフランジ部3とから構成され、当該オイルパン1は抄造樹脂によって一体成形された抄造樹脂成型品となっている。
上記ケース部2の肉厚は例えば2.0mmとすることができ、同形状のオイルパン1を鉄で作成した場合よりも150%程度肉厚に設定されている。また図示しないが、補強用のリブやオイル排出用のドレン穴が形成されている。
一方、上記フランジ部3はケース部2の上部の開口部を囲繞するように形成され、当該フランジ部3の肉厚も例えば5.0mmに設定され、同形状のオイルパン1を鉄で作成した場合よりも50%程度肉厚となっている。
またフランジ部3の所定の位置にはボルト穴3aが穿設されており、オイルパン1をエンジン本体に固定する場合には、上記フランジ部3のボルト穴3aにボルトを挿通させて、当該ボルトのヘッド部分とエンジン本体との間でフランジ部3を挟持するようになっている。
なお、本実施例のオイルパン1は従来公知のオイルパン1と同じ構成を有しているため、これ以上の説明は省略するものとする。
【0009】
図2は本実施例のオイルパン1の製造方法を説明する図となっている。
図2(a)は抄造シートSから所定形状の抄造シート片Saを切り出す作業を示し、(b)は切り出した抄造シート片Saを積層させる作業を示し、(c)は積層させた抄造シート片Saから素形体4を作成する作業を示し、(d)は上記素形体4を成形装置5によって加熱加圧成形する作業を示し、(e)は取り出したオイルパン1を仕上げ加工する作業を示している。
図2(a)では、オイルパン1が成形された際に上記フランジ部3を構成することとなる第1の抄造シートS1と、上記ケース部2を構成することとなる第2の抄造シートS2とを作成する。
【0010】
まず上記フランジ部3を構成することとなる第1の抄造シートS1には、原材料として、フェノール樹脂の粉末(20~60wt%以下)と、繊維長が15mm程度の無数の炭素繊維(10~30wt%)と、パルプ状繊維(5~10wt%以下)とを用いる。ここで上記原材料の割合は、水と混合する前の原材料全体に占める割合となっている。これに添加剤として無機充填剤を含むことによって、耐締め付け性の高い抄造樹脂を得ることができ、当該無機充填剤としてはたとえばガラスパウダーを用いることが可能となっている。
そして、水100wt%に対する上記原材料の合計重量が約0.1~2wt%となるように計量しながら当該原料を水に投入して撹拌し、得られた混合液を抄網で抄き取るとともに、脱水および乾燥を行う。
これにより、上記第1の抄造シートS1を作成することができ、本実施例では乾燥後の第1の抄造シートS1が厚さ約15mm程度となるように作成した。
【0011】
一方、上記ケース部2を構成することとなる第2の抄造シートS2には、原材料として、フェノール樹脂の粉末(20~60wt%以下)と、繊維長が5~15mm程度の無数の炭素繊維(10~50wt%)と、パルプ状繊維(20~50wt%以下)とを用いる。これに添加剤として無機充填剤を含むことによって、高強度の抄造樹脂を得ることができ、当該無機充填剤としてはガラスパウダーを用いることが可能となっている。
上記第1の抄造シートS1と同様、水と原材料とからなる混合液を抄網で抄き取ることで第2の抄造シートS2を作成し、乾燥後の第2の抄造シートS2が厚さ15mm程度となるように作成した。
【0012】
次に、作成した第1、第2の抄造シートS1、S2を、それぞれ成形後のオイルパン1の形状に合わせて切断し、それぞれ第1、第2の抄造シート片Sa1、Sa2を得る。具体的には、
図1に示すオイルパン1を水平方向に輪切りにしたときに、各高さに位置する部分に対応するような断面形状が得られるように抄造シートSを切断する。
本実施例では、成形後にフランジ部3を構成することとなる部分として、上記第1の抄造シートS1から無端状の第1の抄造シート片Sa1を2つ採取し、一方、成形後にケース部2を構成することとなる部分として、上記第2の抄造シートS2からは、ケース部2の底面を構成することとなる略長方形の2つの第2の抄造シート片Sa2と、ケース部2の側面を構成することとなる無端状の複数の第2の抄造シート片Sa2とを採取する。
なお、抄造シート片Saの形状および個数は、成形するオイルパン1の形状に併せて様々であり、例えばフランジ部3やケース部2の底面については、成形後のオイルパン1の肉厚に応じて3枚以上の抄造シート片Saを用いてもよい。
また、抄造シートSを切断した結果発生する残材については、再利用して新たな抄造シートSとすることが可能となっている。
【0013】
このようにして得られた抄造シート片Saは、
図2(b)に示すように成形後のオイルパン1の形状に合わせて積層される。
具体的には、成形後にフランジ部3を構成することとなる部分には、上記第1の抄造シート片Sa1を2枚積層させて用い、また成形後にケース部2の底面を構成することとなる部分には、上記略長方形を有する第2の抄造シート片Sa2を2枚積層させて用い、側面を構成することとなる部分には上記無端状の第2の抄造シート片Sa2を所定の順序で積層させる。
【0014】
そして
図2(c)では、積層させた抄造シートS同士を密着させて素形体4を作成する。
具体的には、抄造シート片Saを構成する樹脂が硬化しない程度の温度で加熱し、その状態で抄造シート片Saを積層方向に押圧することにより、溶融した樹脂によって上下の抄造シートS同士を密着させるものとなっている。
その結果、成形後のオイルパン1に似た形状からなる素形体4を得ることができ、このとき、素形体4における積層方向の寸法は、成形後のオイルパン1よりも大きめの寸法を有している。
また上記素形体4には、成形後のオイルパン1に形成されているリブ等の細かな凹凸や、上記フランジ部3のボルト穴3aは穿設されていない。
【0015】
図2(d)では、上記素形体4を成形装置5に投入して、当該素形体4を加熱加圧し、これにより抄造樹脂成型品を得る。
上記成形装置5は上型11および下型12によって構成され、下型12には素形体4が収容されるとともに、図示しないが素形体4を加熱するヒーターが設けられている。
下型12および上型11には、オイルパン1のケース部2に形成されるリブ等の細かな凹凸形状が形成されており、また上型11には上記フランジ部3にボルト穴3aを穿設するためのピン13が設けられている。
このような構成により、上記下型12に投入された素形体4が上記ヒーターによって加熱され、素形体4を構成する樹脂が溶融すると、上記上型11が下降し、素形体4を積層方向に加圧しながら圧縮する。
これにより、柔らかくなった樹脂が変形し、上下に積層された抄造シートS同士が一体化し、また上型11および下型12に形成された形状に沿って上記リブ等の凹凸形状が形成される。また、上記上型11に設けられたピン13がフランジ部3を貫通して、上記ボルト穴3aが穿設されるようになっている。
そして、素形体4の熱硬化性樹脂が架橋反応により固化することにより、所要形状を有した抄造樹脂成型品としてのオイルパン1が成形され、その際、異なる原材料によって構成されたフランジ部3を構成する樹脂とケース部2を構成する樹脂とが一体化するようになっている。
【0016】
図2(e)では、成形装置5より取り出した成形品に対して、バリ取りやアニーリング等の仕上げ作業を行い、これにより製品としてのオイルパン1を得ることができる。
【0017】
このようにして得られたオイルパン1は、上述した工程を用いることで、異なる原材料を用いた上記ケース部2とフランジ部3とが一体的に成形された抄造樹脂成型品として得ることができる。
本実施例ではケース部2およびフランジ部3には異なる材料からなる第1、第2の抄造シートS1、S2を用いているが、成形装置5で加熱加圧する際に溶融した樹脂同士が一体化するため、成形後に分離することはなく、特に抄造シートS1、S2に同様の材料を使用していることにより、抄造シートS1、S2の境界部分での剥離が生じにくくなっている。
これに対し、上記特許文献1のように鉄製のオイルパン1の内部に樹脂製の部材を張り付ける構成の場合、上記樹脂製部材の剥がれや、剥がれに伴う騒音等のおそれがあった。
次に、上記オイルパン1は樹脂製であることから、鉄製のオイルパン1よりも軽量であり、具体的には、同形状の鉄製のオイルパン1に比べて約60%軽量化することができた。また樹脂製であるため鉄製のオイルパン1に比べて保温性や防音性が高いという効果が得られた。
さらに、本実施例のオイルパン1のフランジ部3は耐締め付け性の高い抄造樹脂によって構成されているため、当該オイルパン1をエンジン本体に連結する際、ボルトによる締め付けを強固に行うことができ、その際の割れや座屈といった破損を防止することができる。
一方、本実施例のオイルパン1のケース部2には高強度の樹脂を用いていることから、当該オイルパン1をエンジン本体に装着しても、破損を防止することができる。
なお、上記ケース部2に用いる樹脂としては、高強度材ではない、高じん性材を用いてもよい。
【0018】
次に、上記オイルパン1のフランジ部3に対して以下のへたり試験を行った。本実施例のオイルパン1のフランジ部3(発明品)として、上記組成からなる板厚5mmの試験片を準備するととともに、比較品1としてPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)製の板厚5mmの試験片と、比較品2としてサポートヨーク材からなる板厚5mmの試験片とを準備した。
試験条件としては、各試験片に対してSUS630(硬さHv410)の相手材を押し当て、当該相手材により上記試験片に0~2kNの荷重を作用させるとともに、上記相手材にロードセルを設けて試験片の変形量を測定した。
最初に、上記試験片に繰り返し荷重を100回作用させたところ、発明品の変形量は0.014mmであったのに対し、比較品1の変形量は0.105mm、比較品2の変形量は0.029mmとなっていた。
続いて、上記試験片に繰り返し荷重を500回作用させたところ、発明品の変形量は0.017mmであったのに対し、比較品1の変形量は0.131mm、比較品2の変形量は0.029mmとなっていた。
以上のことから、発明品のフランジ部は、一般的な樹脂に対して耐へたり性が高いことが確認され、また金属製の比較品2と同等の耐へたり性を有していることが確認できた。
【0019】
なお、本実施例はケーシング部材としてオイルパン1を挙げているが、その他フランジ部3を他の部材にボルトによって締結するものであれば、その他の用途のケーシング部材にも応用することが可能となっている。
【符号の説明】
【0020】
1 オイルパン(ケーシング部材) 2 ケース部
3 フランジ部 3a ボルト穴
4 素形体 5 成形装置
11 上型 12 下型
S1、S2 第1、第2の抄造シート
Sa1、Sa2 第1、第2の抄造シート片