(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】鉄道車両用ディスクブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20230607BHJP
B61H 5/00 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
F16D65/12 U
B61H5/00
F16D65/12 B
F16D65/12 P
F16D65/12 R
F16D65/12 X
(21)【出願番号】P 2019210762
(22)【出願日】2019-11-21
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 由衣子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝憲
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/194203(WO,A1)
【文献】特開2016-070292(JP,A)
【文献】特開2014-190344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/12
B61H 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用のディスクブレーキ装置であって、
前記鉄道車両の車軸に取り付けられる回転部材と、
前記回転部材に対向する裏面を有する環状のディスク本体と、前記裏面上に放射状に配置される複数のフィンと、を有するブレーキディスクと、
前記回転部材と前記フィンとの間に挟まれるベースプレートと、前記ベースプレートから前記ディスク本体に向かって突出して前記フィンのうち前記ブレーキディスクの周方向において隣り合うフィンの間に位置付けられる突出部と、を有し、前記隣り合うフィンの間の通気量を制御する制御部材と、
前記ブレーキディスク及び前記制御部材を前記回転部材に締結する締結部材と、
を備え、
前記フィンの少なくとも1つは、前記締結部材の頭部が配置される大径部と、前記大径部の直径よりも小さい直径を有し、前記締結部材の軸部が挿通される小径部と、を含む第1締結孔を有し、
前記ベースプレートは、前記第1締結孔に対応して設けられ、前記軸部が挿通される貫通孔を有し、
前記貫通孔の周縁は、対応する前記第1締結孔の前記小径部の周縁の外周側に配置される、ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキ装置であって、
前記回転部材は、前記第1締結孔及び前記貫通孔に対応して設けられ、前記軸部が挿通される第2締結孔を有し、
前記貫通孔の前記周縁は、対応する前記第2締結孔の周縁の外周側に配置される、ディスクブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のディスクブレーキ装置であって、
前記貫通孔の前記周縁と、対応する前記第2締結孔の前記周縁との距離は、2.0mmよりも大きい、ディスクブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のディスクブレーキ装置であって、
前記周方向における前記貫通孔の幅は、前記第1締結孔を有する前記フィンの頂面の最大幅よりも小さい、ディスクブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両用のディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の制動装置として、ディスクブレーキ装置が広く使用されている。ディスクブレーキ装置は、環状のブレーキディスクと、ブレーキライニングと、を備える。ブレーキディスクは、例えば、車輪に締結され、車輪とともに回転する。ブレーキディスクには、ブレーキライニングが押し付けられる。ブレーキライニングとブレーキディスクとの摩擦により、ブレーキディスク及び車輪が制動される。
【0003】
鉄道車両に用いられるディスクブレーキ装置のブレーキディスクには、その耐久性を確保する観点から、十分な冷却性能が要求される。制動時における冷却性能を確保するため、一般に、ブレーキディスクの裏面には、複数のフィンが放射状に形成されている。各フィンは、車輪に接触し、ブレーキディスクの裏面と車輪との間に通気路を形成する。当該通気路は、ブレーキディスクが車輪とともに回転するとき、ブレーキディスクの内周側から外周側に向かって空気を通過させる。通気路内を流れる空気により、ブレーキディスクが冷却される。
【0004】
しかしながら、鉄道車両の走行中、ブレーキディスクと車輪との間の通気路内を空気が流れることにより、空力音が発生する。特に、鉄道車両が高速で走行する場合、通気路内の通気量が増加して大きな空力音が発生する。
【0005】
これに対して、特許文献1には、周方向に隣り合うフィン同士を連結部で連結したディスクブレーキ装置が開示されている。このディスクブレーキ装置では、連結部により、フィン間の通気路各々において断面積が最小となる部分が形成される。特許文献1によれば、通気路の最小断面積の総和を18000mm2とすることで、高速走行時における空力音を低減することができる。
【0006】
特許文献1において、空力音を低減するための連結部は、ブレーキディスクのディスク本体及びフィンと一体的に形成されている。そのため、ブレーキディスクのうち、連結部の近傍部分の剛性が他の部分の剛性と比較して大きくなっている。よって、制動時においてブレーキライニングがブレーキディスクに対して摺動し、摩擦熱が発生したとき、連結部の近傍部分が他の部分よりも熱変形しにくく、ブレーキディスクに反りが発生する。その結果、ブレーキディスクを車輪に締結する締結部材への負荷が増大する。
【0007】
そこで、特許文献2では、ブレーキディスクとは別体の空力音低減部材(制御部材)をディスクブレーキ装置に設ける技術が提案されている。特許文献2によれば、制御部材に設けられた突出部によって通気路の一部を塞ぐことで、通気路内の空気の流れを抑制し、鉄道車両の走行中に発生する空力音を低減することができる。また、ブレーキディスクと制御部材とが別個の部品であるため、制御部材の突出部がブレーキディスクの剛性に影響しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-205428号公報
【文献】国際公開第2019/194203号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献2のディスクブレーキ装置において、制御部材は、車輪等の回転部材とブレーキディスクとの間に配置され、締結部材によってブレーキディスクとともに回転部材に締結される。締結部材の軸部は、制御部材に設けられた貫通孔を介し、ブレーキディスクから回転部材へと延びている。このディスクブレーキ装置によって回転部材を制動する際、ブレーキディスクとブレーキライニングとの摩擦熱により、ブレーキディスクに熱変形が発生する。ブレーキディスクは、まず軸方向の外側(ブレーキライニング側)に熱膨張し、制動開始からある程度時間が経過すると径方向の外側にも熱膨張する。一方、制動部材は、ブレーキディスクとブレーキライニングとの摺動部から離れているため、ほとんど熱変形しない。そのため、ブレーキディスクが熱膨張し、これに伴って締結部材が移動したとき、制御部材の貫通孔の周縁に締結部材の軸部が干渉し、制御部材に過大な負荷がかかる可能性がある。
【0010】
本開示は、通気路内の通気量を制御するための制御部材が設けられた鉄道車両用ディスクブレーキ装置において、制御部材に対する負荷を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係るディスクブレーキ装置は、鉄道車両用のディスクブレーキ装置である。ディスクブレーキ装置は、回転部材と、ブレーキディスクと、制御部材と、締結部材と、を備える。回転部材は、鉄道車両の車軸に取り付けられる。ブレーキディスクは、環状のディスク本体と、複数のフィンと、を有する。ディスク本体は、回転部材に対向する裏面を有する。フィンは、当該裏面上に放射状に配置される。制御部材は、ベースプレートと、突出部と、を有する。ベースプレートは、回転部材とフィンとの間に挟まれる。突出部は、ベースプレートからディスク本体に向かって突出して、フィンのうちブレーキディスクの周方向において隣り合うフィンの間に位置付けられる。制御部材は、隣り合うフィンの間の通気量を制御する。締結部材は、ブレーキディスク及び制御部材を回転部材に締結する。フィンの少なくとも1つは、第1締結孔を有する。第1締結孔は、大径部と、小径部と、を含む。大径部には、締結部材の頭部が配置される。小径部は、大径部の直径よりも小さい直径を有する。小径部には、締結部材の軸部が挿通される。ベースプレートは、貫通孔を有する。貫通孔は、第1締結孔に対応してベースプレートに設けられる。貫通孔には、締結部材の軸部が挿通される。貫通孔の周縁は、対応する第1締結孔の小径部の周縁の外周側に配置される。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、通気路内の通気量を制御するための制御部材が設けられた鉄道車両用ディスクブレーキ装置において、制御部材に対する負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係る鉄道車両用ディスクブレーキ装置の概略構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すディスクブレーキ装置に含まれるブレーキディスク及び制御部材の裏面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すディスクブレーキ装置の部分拡大図である。
【
図5】
図5は、一実施例に係る制御部材について、径方向位置と、制動時における軸方向変位との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、別の実施例に係る制御部材について、径方向位置と、制動時における軸方向変位との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、各実施例で用いた解析モデルの制御部材を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態に係るディスクブレーキ装置は、鉄道車両用のディスクブレーキ装置である。ディスクブレーキ装置は、回転部材と、ブレーキディスクと、制御部材と、締結部材と、を備える。回転部材は、鉄道車両の車軸に取り付けられる。ブレーキディスクは、環状のディスク本体と、複数のフィンと、を有する。ディスク本体は、回転部材に対向する裏面を有する。フィンは、当該裏面上に放射状に配置される。制御部材は、ベースプレートと、突出部と、を有する。ベースプレートは、回転部材とフィンとの間に挟まれる。突出部は、ベースプレートからディスク本体に向かって突出して、フィンのうちブレーキディスクの周方向において隣り合うフィンの間に位置付けられる。制御部材は、隣り合うフィンの間の通気量を制御する。締結部材は、ブレーキディスク及び制御部材を回転部材に締結する。フィンの少なくとも1つは、第1締結孔を有する。第1締結孔は、大径部と、小径部と、を含む。大径部には、締結部材の頭部が配置される。小径部は、大径部の直径よりも小さい直径を有する。小径部には、締結部材の軸部が挿通される。ベースプレートは、貫通孔を有する。貫通孔は、第1締結孔に対応してベースプレートに設けられる。貫通孔には、締結部材の軸部が挿通される。貫通孔の周縁は、対応する第1締結孔の小径部の周縁の外周側に配置される(第1の構成)。
【0015】
第1の構成に係るディスクブレーキ装置によれば、制御部材により、ブレーキディスクのディスク本体の裏面上で周方向に隣り合うフィンの間の通気量を制御することができる。すなわち、上記ディスクブレーキ装置では、隣り合うフィンの間に制御部材の突出部が位置付けられているため、これらのフィンがディスク本体及び回転部材とともに形成する通気路の開口面積が部分的に小さくなる。これにより、通気路内の通気量を制限することができ、鉄道車両の走行時に発生する空力音を低減することができる。
【0016】
第1の構成において、ブレーキディスクに設けられたフィンのうち少なくとも1つは、第1締結孔を有する。第1締結孔は、締結部材の軸部が挿通される小径部を含む。一方、制御部材のベースプレートには、締結部材の軸部を挿通するための貫通孔が形成されている。この貫通孔の周縁は、第1締結孔の小径部の周縁の外周側に配置されている。すなわち、制御部材の貫通孔の周縁は、ブレーキディスクの第1締結孔の小径部の周縁と比較し、締結部材の軸部から離れて配置されている。これにより、制動時におけるブレーキディスクの熱膨張に伴って締結部材が移動したとき、制御部材の貫通孔の周縁に締結部材の軸部が干渉するのを予防することができる。よって、制御部材に対する負荷を低減することができる。
【0017】
回転部材は、第2締結孔を有することができる。第2締結孔は、ブレーキディスクの第1締結孔及び制御部材の貫通孔に対応して、回転部材に設けられる。第2締結孔には、締結部材の軸部が挿通される。貫通孔の周縁は、対応する第2締結孔の周縁の外周側に配置されることが好ましい(第2の構成)。
【0018】
第2の構成によれば、制御部材のベースプレートに形成された貫通孔の周縁は、回転部材に形成された第2締結孔の周縁の外周側に配置される。これにより、制御部材のベースプレートのうち貫通孔の近傍部分は、回転部材とフィンとによって挟持されることになる。そのため、制御部材のベースプレートにおいて、締結部材の頭部からの軸方向の負荷等により、貫通孔の近傍部分が回転部材の第2締結孔内に落ち込むのを抑制することができる。すなわち、制御部材の軸方向の変位を低減することができる。
【0019】
貫通孔の周縁と、対応する第2締結孔の周縁との距離は、2.0mmよりも大きいことが好ましい(第3の構成)。
【0020】
第3の構成によれば、制御部材の貫通孔の周縁が回転部材の第2締結孔の周縁から2.0mm超離れている。これにより、制御部材のベースプレートにおいて、貫通孔の近傍部分が回転部材の第2締結孔内に落ち込むのをより確実に抑制することができる。
【0021】
ブレーキディスクの周方向における貫通孔の幅は、第1締結孔を有するフィンの頂面の最大幅よりも小さいことが好ましい(第4の構成)。
【0022】
第4の構成によれば、制御部材のベースプレートに形成された貫通孔の幅は、フィンの頂面の最大幅よりも小さい。これにより、制御部材の貫通孔内にフィンが落ち込む変形が生じるのを防止することができる。
【0023】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0024】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係る鉄道車両用ディスクブレーキ装置100の概略構成を示す縦断面図である。縦断面とは、中心軸Xを含む平面でディスクブレーキ装置100を切断した断面をいう。中心軸Xは、鉄道車両の車軸200の軸心である。以下、中心軸Xが延びる方向を軸方向という。
【0025】
図1に示すように、ディスクブレーキ装置100は、回転部材10と、ブレーキディスク20と、制御部材30と、締結部材40と、を備える。
【0026】
回転部材10は、車軸200に取り付けられ、車軸200と一体で中心軸X周りに回転する。本実施形態の例では、回転部材10は、鉄道車両の車輪であり、板部11を有する。ただし、回転部材10は、車輪以外のディスク体であってもよい。回転部材10は、締結部材40を通すための締結孔12を有する。締結孔12は、回転部材10を軸方向に貫通する。
【0027】
ブレーキディスク20は、ディスク状の回転部材10の両面に設けられている。制御部材30は、回転部材10と各ブレーキディスク20との間に配置されている。これらのブレーキディスク20及び制御部材30は、締結部材40によって回転部材10の板部11に締結される。締結部材40は、典型的にはボルト及びナットで構成される。軸方向において各ブレーキディスク20の外側には、ブレーキライニング50が設けられている。
【0028】
[細部の構成]
図2は、回転部材10の両面上に配置されたブレーキディスク20及び制御部材30のうち、一方のブレーキディスク20及び制御部材30を回転部材10側から見た図(裏面図)である。
図2では、ブレーキディスク20及び制御部材30の1/4周部分を示している。以下、ブレーキディスク20の周方向及び径方向を単に周方向及び径方向という。
【0029】
図2を参照して、ブレーキディスク20は、ディスク本体21と、複数のフィン22と、を有する。
【0030】
ディスク本体21は、環状をなす。ディスク本体21は、実質的に、中心軸Xを軸心とする円環板状を有する。ディスク本体21は、摺動面211及び裏面212を有する。摺動面211は、ディスク本体21において軸方向の一方側に設けられた面である。摺動面211には、制動力を発生させるためにブレーキライニング50(
図1)が押し付けられる。裏面212は、ディスク本体21において軸方向の他方側に設けられた面であり、回転部材10(
図1)に対向する。
【0031】
複数のフィン22は、ディスク本体21の裏面212上に放射状に配置されている。これらのフィン22は、径方向においてディスク本体21の内側から外側に延びている。各フィン22は、裏面212から回転部材10(
図1)側に突出する。これにより、回転部材10と、周方向において隣り合うフィン22と、ディスク本体21との間に空間が形成される。これらの空間は、ブレーキディスク20が回転部材10とともに回転する際に空気が通過する通気路となる。
【0032】
ディスク本体21に設けられた複数のフィン22のうち、一部のフィン22は、締結部材40(
図1)を通すための締結孔222を有する。各締結孔222は、回転部材10の締結孔12(
図1)に対応して設けられる。各締結孔222は、ディスク本体21及びフィン22を貫通する。その他のフィン22の頂面221には、凹状のキー溝223が形成されている。キー溝223には、ブレーキディスク20と回転部材10(
図1)との相対回転を規制するためのキー(図示略)が嵌め込まれる。フィン22の数、締結孔222の数、及びキー溝223の数は、適宜設定することができる。本実施形態の例では、全てのフィン22に締結孔222又はキー溝223が形成されているが、締結孔222及びキー溝223が形成されていないフィン22が存在してもよい。
【0033】
図2に示すように、制御部材30は、ブレーキディスク20とは別の部材である。制御部材30は、周方向に隣り合うフィン22の間の通気量を制御する。制御部材30は、ベースプレート31と、複数の突出部32と、を有している。
【0034】
ベースプレート31は、概略円環板状をなし、ディスク本体21と実質的に同軸に配置されている。ベースプレート31は、回転部材10(
図1)と複数のフィン22との間に挟まれる。すなわち、ベースプレート31の一方面に回転部材10が接触し、ベースプレート31の他方面にフィン22の頂面221が接触する。
【0035】
本実施形態の例では、径方向におけるベースプレート31の長さは、径方向におけるフィン22の頂面221の長さと概ね等しい。ただし、径方向におけるベースプレート31の長さは、フィン22の頂面221の長さよりも長くてもよいし、フィン22の頂面221の長さよりも短くてもよい。ベースプレート31の長さがフィン22の頂面221の長さよりも短い場合、フィン22の頂面221には、ベースプレート31を収容するための凹部が形成されていてもよい。
【0036】
ベースプレート31には、締結部材40(
図1)を挿通させるため、回転部材10の締結孔12(
図1)及びブレーキディスク20の締結孔222に対応して、複数の貫通孔311が形成されている。また、ベースプレート31には、上述したキー(図示略)を挿通させるため、ブレーキディスク20のキー溝223に対応して、複数の開口312が形成されている。
【0037】
貫通孔311の各々は、周方向における幅Wを有する。貫通孔311の幅Wは、締結孔222を有するフィン22の頂面221の最大幅WFよりも小さい。幅Wは、各貫通孔において周方向の端同士を結ぶ直線の長さである。最大幅WFは、フィン22の頂面221の両側縁を結び、且つ径方向に直交する直線の長さの最大値である。フィン22の頂面221は、例えば、締結孔222が開口する領域において最大幅WFを有する。
【0038】
フィンの最大幅WFと貫通孔311の幅Wとの差は、3.0mmよりも大きいことが好ましく(WF-W>3.0mm)、4.0mmよりも大きいことがより好ましい(WF-W>4.0mm)。特に限定されるものではないが、貫通孔311の幅Wは、例えば47.0mm未満であり、好ましくは44.0mm未満、より好ましくは43.0mm未満である。
【0039】
貫通孔311は、種々の形状に形成することができる。本実施形態の例において、貫通孔311は、制御部材30の平面視又は裏面視で円形状をなす。貫通孔311が円形状の場合、貫通孔311の幅Wは、貫通孔311の直径である。ただし、貫通孔311は、例えば、制御部材30の平面視又は裏面視で楕円形状であってもよい。貫通孔311が径方向に長軸を有する楕円形状である場合、貫通孔311の幅Wは、貫通孔311の短径となる。貫通孔311が径方向に短軸を有する楕円形状である場合、貫通孔311の幅Wは、貫通孔311の長径となる。
【0040】
ベースプレート31の両面のうち、ブレーキディスク20側の面には、複数の突出部32が形成されている。突出部32は、周方向に間隔を空けて設けられている。突出部32の各々は、ベースプレート31からディスク本体21に向かって突出して、周方向に隣り合うフィン22の間に位置付けられる。すなわち、周方向において隣り合うフィン22の間に、突出部32が1つずつ配置される。
【0041】
図3は、
図2のIII-III断面図である。
図3に示すように、突出部32の各々は、ベースプレート31からディスク本体21の裏面212に向かって突出する。突出部32の先端は、ディスク本体21の裏面212には接触しない。また、突出部32の両側縁は、フィン22の側面225に接触しない。そのため、突出部32とブレーキディスク20との間には、径方向視で概略U字状の空間が形成されている。
【0042】
各突出部32とブレーキディスク20との間に形成される概略U字状の空間の断面積の総和は、例えば、18000mm2以下とすることができる。当該断面積の総和は、例えば、2500mm2以上とすることができる。概略U字状の空間の断面積とは、各突出部32とブレーキディスク20との間に形成される概略U字状の空間の周方向に沿った断面の最小面積である。断面積の総和とは、各空間の断面積を周方向に全て足し合わせて算出した値である。
【0043】
本実施形態において、突出部32は、概略三角形状の縦断面(径方向に沿った断面)を有する。すなわち、径方向で内向きの突出部32の表面は、径方向で外側に向かうにつれてディスク本体21に近づくように傾倒する。ただし、突出部32の形状は、これに限定されるものではない。突出部32は、中空に形成されていてもよいし、中実に形成されていてもよい。通気路内の空気を円滑に案内する観点から、突出部32の表面は、角部を有しない滑らかな形状であることが好ましい。
【0044】
制御部材30は、1.0mm~3.0mmの板厚を有する金属の薄肉材で構成することができる。制御部材30は、例えば、この薄肉材をプレス加工することによって成形される。この場合、ベースプレート31及び複数の突出部32は、一体的に形成される。ただし、ベースプレート31と、突出部32とを別体で形成した後、突出部32をベースプレート31に対して溶接等で固定することもできる。
【0045】
以下、
図4を参照して、回転部材10、ブレーキディスク20、制御部材30、及び締結部材40を含むディスクブレーキ装置100についてさらに詳細に説明する。
図4は、
図1の部分拡大図である。
【0046】
図4に示すように、ブレーキディスク20及び制御部材30は、締結部材40によって回転部材10に締結されている。締結部材40は、ブレーキディスク20に設けられた締結孔222、制御部材30に設けられた貫通孔311、及び回転部材10に設けられた締結孔12に挿入される。
【0047】
ブレーキディスク20において、締結孔222は、大径部222aと、小径部222bとを含む。小径部222bは、締結孔222において、フィン22の頂面221側の端部を構成する。小径部222bは、大径部222aの直径DBLよりも小さい直径DBSを有する。大径部222aと小径部222bとの径差により、小径部222bの周囲に環状の底部224が形成されている。
【0048】
大径部222aには、締結部材40の頭部41が配置される。頭部41は、ボルトの頭部又はナットである。大径部222a内の頭部41は、底部224によって直接又は間接的に支持される。本実施形態の例では、頭部41と底部224との間に、1枚以上の皿ばね60が配置されている。すなわち、頭部41は、皿ばね60を介して底部224に支持されている。底部224の厚み(軸方向の長さ)は、強度確保の観点から、1.0mm以上であることが好ましく、2.0mm以上であることがより好ましい。底部224の厚みは、例えば、6.0mm以下である。
【0049】
小径部222bには、締結部材40のうち、ボルトの軸部42が挿通される。軸部42は、大径部222a内の頭部41から軸方向に延び、小径部222b、制御部材30の貫通孔311、及び回転部材10の締結孔12に挿通される。
【0050】
制御部材30において、ベースプレート31に設けられた各貫通孔311は、最小差渡し長さLを有する。本実施形態の例では、貫通孔311が円形状であるため、長さLは、貫通孔311の直径であり、幅W(
図2)と等しい。貫通孔311が楕円形状である場合、長さLは、貫通孔311の短径である。
【0051】
貫通孔311の長さLは、ブレーキディスク20に設けられた締結孔222の小径部222bの直径DBSよりも大きい。言い換えると、貫通孔311の開口面積は、小径部222bの開口面積よりも大きい。そのため、貫通孔311の周縁は、小径部222bの周縁の外周側に配置される。貫通孔311の長さLと小径部222bの直径DBSとの差は、好ましくは6.0mm以上である(L-DBS≧6.0mm)。小径部222bの直径DBSは、回転部材10に設けられた締結孔12の直径DWよりも小さい。
【0052】
貫通孔311の長さLは、さらに、回転部材10の締結孔12の直径DWよりも大きい。言い換えると、貫通孔311の開口面積は、締結孔12の開口面積よりも大きい。そのため、貫通孔311の周縁は、締結孔12の周縁の外周側に配置される。貫通孔311の長さLと締結孔12の直径Dwとの差は、4.0mmよりも大きいことが好ましい(L-Dw>4.0mm)。すなわち、貫通孔311の周縁と締結孔12の周縁との距離dは、2.0mmよりも大きいことが好ましい。
【0053】
特に限定されるものではないが、貫通孔311の長さLは、例えば、18.5mmよりも大きく、47.0mm未満である。長さLは、24.5mm以上であることが好ましく、26.0mmよりも大きいことがより好ましい。また、長さLは、好ましくは44.0mm未満であり、より好ましくは43.0mm未満である。
【0054】
[効果]
本実施形態に係るディスクブレーキ装置100では、周方向において隣り合う各フィン22の間に、制御部材30の突出部32が配置されている。これにより、回転部材10と、フィン22と、ディスク本体21とで画定される各通気路の断面積が部分的に小さくなる。よって、通気路内の通気量を制限することができ、鉄道車両の走行時に発生する空力音を低減することができる。
【0055】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置100において、制御部材30のベースプレート31には、締結部材40の軸部42を挿通するための貫通孔311が設けられている。この貫通孔311の周縁は、ブレーキディスク20に設けられた締結孔222の小径部222bの周縁の外周側に配置されている。すなわち、貫通孔311の周縁は、小径部222bの周縁と比較し、締結部材40の軸部42から離れて配置されている。そのため、制動時におけるブレーキディスク20の熱膨張に伴って締結部材40が移動したとき、貫通孔311の周縁に締結部材40の軸部42が干渉するのを予防することができる。よって、制御部材30に対する負荷を低減することができる。
【0056】
本実施形態において、制御部材30の貫通孔311の周縁は、回転部材10に設けられた締結孔12の周縁の外周側に配置されている。これにより、制御部材30のうち貫通孔311の近傍部分が、回転部材10の実体部分とフィン22とによって挟持されることになる。そのため、制動時において、例えば、ブレーキディスク20の締結孔222の底部224が皿ばね60を介して締結部材40の頭部41から負荷を受けたとしても、制御部材30の貫通孔311の近傍部分は、回転部材10の実体部分によって支持され、締結孔12内に落ち込みにくい。よって、制御部材30の軸方向の変位を低減することができる。
【0057】
本実施形態において、制御部材30の貫通孔311の周縁と締結孔12の周縁との距離dは、好ましくは2.0mmよりも大きい。これにより、制御部材30において貫通孔311の近傍部分が回転部材10の締結孔12内に落ち込むのをより確実に抑制することができる。
【0058】
本実施形態において、制御部材30の貫通孔311の幅Wは、フィン22の頂面221の最大幅WFよりも小さい。これにより、制御部材30の貫通孔311内にフィン22が落ち込む変形が生じるのを抑制することができる。
【0059】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0060】
例えば、上記実施形態では、ディスク本体21の径方向において中央付近に制御部材30の突出部32が配置されているが、突出部32の位置はこれに限定されるものではない。突出部32は、ディスク本体21の外周寄りに配置されていてもよいし、ディスク本体21の内周寄りに配置されていてもよい。
【0061】
上記実施形態において、制御部材30のベースプレート31は、実質的に円環板状をなす。しかしながら、ベースプレート31は、周方向において複数に分割されていてもよい。すなわち、複数の円弧状部品によってベースプレート31が構成されていてもよい。これらの円弧状部品は、回転部材10とブレーキディスク20との間において、互いに接触して又は間隔を空けて周方向に配列される。円弧状部品は、それぞれ、複数の突出部32を有することが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
制御部材30のベースプレート31に設けられた貫通孔311の適切な大きさを検証するため、汎用の解析ソフトウェア(ABAQUS,Version 6.14-3、ダッソー・システムズ社製)を用い、貫通孔311の最小差渡し長さ(直径)Lを変更しながら、有限要素法による数値解析を実施した。
【0064】
解析では、周方向の対称性を考慮し、回転部材(車輪)10、ブレーキディスク20、制御部材30、締結部材40、及び皿ばね60を含むディスクブレーキ装置100の15°領域をモデル化した。材料は、ブレーキディスク20を弾塑性体、その他を弾性体とし、材料物性値として実験で予め測定されたデータを与えた。ただし、制御部材30については、一般構造用鋼の材料物性値を使用した。
【0065】
解析モデルの主な寸法条件は、以下の通りである。
・ブレーキディスクの内径:466.0mm
・ブレーキディスクの外径:720.0mm
・ブレーキディスクの全厚み:43.5mm
・ディスク本体の厚み:22.0mm
【0066】
解析は、最も厳しい地震検知ブレーキ条件で実施した。すなわち、鉄道車両が360km/hで走行しているときに停止ブレーキをかけた場合を想定して、制御部材30の貫通孔311の直径Lごとに、制御部材30と締結部材40との接触、及び制御部材30の軸方向における変位を評価した。表1に、各解析モデルの制御部材30の貫通孔311の直径Lを示す。
【0067】
【0068】
制御部材30の貫通孔311の直径Lがブレーキディスク20の締結孔222の小径部222bの直径DBSと等しい場合(表1:No.1)、制動中に締結部材40の軸部42が制御部材30に接触し、制御部材30に過大な応力が発生した。一方、直径Lが直径DBSよりも大きい場合(表1:No.2~4)、制動時において制御部材30と締結部材40の軸部42との接触は発生しなかった。よって、L>DBSとし、貫通孔311の周縁が締結孔222の小径部222bの周縁の外周側に配置されるようにすることで、制御部材30と締結部材40の軸部42との接触を回避でき、制御部材30の負荷を低減できるといえる。
【0069】
制御部材30と締結部材40の軸部42との接触をより確実に回避するためには、制動時におけるブレーキディスク20及び締結部材40の径方向の移動量を考慮する必要がある。解析では、ブレーキ開始から73.6秒後において、2.9mmの径方向の移動量が確認された。この結果より、貫通孔311の周縁は、小径部222bの周縁から3.0mm以上離れていることが好ましい。すなわち、貫通孔311の直径Lと小径部222bの直径DBSとの差は、6.0mm以上であることが好ましい(L-DBS≧6.0mm)。
【0070】
図5及び
図6は、それぞれ、No.3及びNo.4に係る制御部材30について、径方向位置と、制動時における軸方向変位との関係を示すグラフである。
図7に示すように、ここでの径方向位置は、径方向における貫通孔311の内端を原点(x=0)とし、径方向外側を正とした。また、
図5及び
図6において、軸方向変位は、回転部材10側を負、ブレーキディスク20側を正とし、同一径方向位置における最小値(負の方向に最も変位した点の値)をプロットした。
【0071】
図5に示すように、制御部材30の貫通孔311の直径Lが回転部材10の締結孔12の直径D
Wに等しい場合(表1:No.2)、x=22.0mmの位置では、制御部材30が軸方向に大きく変位している。しかしながら、x=24.0mmを超えると、制御部材30の軸方向変位(絶対値)は、0.1mm以内となる。一方、
図6に示すように、直径Lが直径D
Wよりも大きい場合(表1:No.3)、制御部材30の軸方向変位はほとんど発生しなかった。ただし、貫通孔311の直径L(幅W)がフィン22の頂面221の最大幅W
Fと等しい場合(表1:No.4)、フィン22が貫通孔311内に落ち込む変形が発生した。
【0072】
この結果より、L>DWとし、貫通孔311の周縁が締結孔12の周縁の外周側に配置されるようにすることで、制御部材30の軸方向変位を抑制できるといえる。特に、締結孔12の周縁から貫通孔311の周縁までの距離dが2.0mmよりも大きい場合、制御部材30の軸方向変位をより確実に抑制することができる。
【0073】
また、貫通孔311の幅Wをフィン22の頂面221の最大幅WFよりも小さくしておけば(WF>W)、フィン22が貫通孔311内に落ち込む変形を抑制することができる。当該変形をより確実に抑制するためには、制動時におけるブレーキディスク20の径方向の移動量を考慮して、WF-W>3.0とすることが好ましく、WF-W>4.0とすることがさらに好ましい。
【符号の説明】
【0074】
100:ディスクブレーキ装置
10:回転部材
12:締結孔
20:ブレーキディスク
21:ディスク本体
212:裏面
22:フィン
221:頂面
222:締結孔
222a:大径部
222b:小径部
30:制御部材
31:ベースプレート
311:貫通孔
32:突出部
40:締結部材
41:頭部
42:軸部