(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】ストラットベアリング、及び車両のストラット式サスペンション
(51)【国際特許分類】
F16C 35/067 20060101AFI20230607BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20230607BHJP
F16F 9/54 20060101ALI20230607BHJP
B60G 15/06 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
F16C35/067
F16F9/32 B
F16F9/54
B60G15/06
(21)【出願番号】P 2020043435
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】楢崎 康弘
(72)【発明者】
【氏名】堀川 喜生
(72)【発明者】
【氏名】柴田 康平
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-227634(JP,A)
【文献】特開2008-223994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 35/00-35/078
B60G 1/00-99/00
F16F 9/00- 9/58
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のストラット式サスペンションのストラットの上端部に固定される上側ケースと、
前記ストラットの外側に配置されたコイルスプリング側に接続される下側ケースと、
前記上側ケースに保持される上側軌道輪と、
前記下側ケースに保持される下側軌道輪と、
前記上側軌道輪及び前記下側軌道輪間を転動する転動体と、
を備え、
前記上側ケース及び前記下側ケースを合成樹脂製としたストラットベアリングであって、
前記ストラットベアリングの使用状態における前記上側ケース及び前記下側ケースの相対回動範囲内では、
前記上側ケース及び前記下側ケースが軸方向へ離反することを阻止する抜止め係合部を有し、
前記相対回動範囲外の所定角度範囲では、
前記抜止め係合部が無くなることを特徴とする、
ストラットベアリング。
【請求項2】
前記上側ケースの内径側に、
径方向外方へ突出する外方突片、又は前記外方突片を周方向に断続的に設けた周方向外方突片列を備えるとともに、
前記下側ケースの内径側に、
径方向内方へ突出する内方突片、又は前記内方突片を周方向に断続的に設けた周方向内方突片列を備え、
前記ストラットベアリングの使用状態における前記上側ケース及び前記下側ケースの相対回動範囲内では、
前記上側ケースの前記外方突片又は前記周方向外方突片列、及び前記下側ケースの前記内方突片又は前記周方向内方突片列により前記抜止め係合部が設けられる、
請求項1に記載のストラットベアリング。
【請求項3】
前記上側ケースの外径側に、
径方向内方へ突出する内方突片、又は前記内方突片を周方向に断続的に設けた周方向内方突片列を備えるとともに、
前記下側ケースの外径側に、
径方向外方へ突出する外方突片、又は前記外方突片を周方向に断続的に設けた周方向外方突片列を備え、
前記ストラットベアリングの使用状態における前記上側ケース及び前記下側ケースの相対回動範囲内では、
前記上側ケースの前記内方突片又は前記周方向内方突片列、及び前記下側ケースの前記外方突片又は前記周方向外方突片列により前記抜止め係合部が設けられる、
請求項1に記載のストラットベアリング。
【請求項4】
前記上側ケースの外径側に、
径方向外方へ突出する外方突片、又は前記外方突片を周方向に断続的に設けた周方向外方突片列を備えるとともに、
前記下側ケースの外径側に、
径方向内方へ突出する内方突片、又は前記内方突片を周方向に断続的に設けた周方向内方突片列を備え、
前記ストラットベアリングの使用状態における前記上側ケース及び前記下側ケースの相対回動範囲内では、
前記上側ケースの前記外方突片又は前記周方向外方突片列、及び前記下側ケースの前記内方突片又は前記周方向内方突片列により前記抜止め係合部が設けられる、
請求項1に記載のストラットベアリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のストラット式サスペンションに用いるストラットベアリングに関する。
【背景技術】
【0002】
車体に対する車輪の支持をコイルスプリングにより行うとともに、上下振動を吸収するためにショックアブソーバを備えたサスペンションとして、ショックアブソーバを内蔵した伸縮する柱(ストラット)を車軸に固定してなるストラット式サスペンションがある。ストラット式サスペンションは、主に乗用車の前輪用として広く使用されている。
【0003】
ストラット式サスペンションのアッパー部に用いるストラットベアリングとして、上側軌道輪を保持する上側ケースと、下側軌道輪を保持する下側ケースとを備え、前記上側ケース及び前記下側ケースを合成樹脂製としたものがある(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
このようなストラットベアリングにおいては、上側ケース及び下側ケースを、上側軌道輪、下側軌道輪、及び転動体等とともに組み付けた状態で、搬送途中等における各構成部品の分離防止を図る必要がある。前記分離防止を行う方法としては、合成樹脂製である上側ケース及び下側ケースに係合部を形成して、上側ケース及び下側ケースの一方又は両方の係合部を弾性変形させて係合するスナップフィットを利用するのが一般的である(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
特許文献1においては、上側キャップ体22の係合部は、上側キャップ体22の軸心に向かって突出する爪体36であり、下側キャップ体17の係合部は、下側キャップ体17の外周に全周に亘って設けた溝部41である。上側キャップ体22の各爪体36を弾性変形させながら、下側キャップ体17の外周の溝部41に各爪体36を係合させる(特許文献1の[0027]-[0028]、
図3)。
【0006】
特許文献2においては、キャップ10の係合部は、内側下フック14及び外側下フック19であり、ガイドリング60の係合部は、内側上フック63及び外側上フック66である。主にキャップ10の内側下フック14及び外側下フック19を弾性変形させながら、ガイドリング60の内側上フック63にキャップ10の内側下フック14を係合させるとともに、ガイドリング60の外側上フック66にキャップ10の外側下フック19を係合させる(特許文献2の
図2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4771293号公報
【文献】国際公開第2019/119320号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
合成樹脂製である上側ケース及び下側ケースに係合部を形成して、上側ケース及び下側ケースの一方又は両方の係合部を弾性変形させて係合させる構成では、前記分離防止を確実に行うために前記係合部の弾性変形力を大きくすると、前記係合部に掛かる応力が大きくなる。それにより、当該係合部に塑性変形が生じたり、当該係合部の破損に繋がる恐れがある。
【0009】
本発明は、上側ケース及び下側ケースを合成樹脂製としたストラットベアリングにおいて、搬送途中等における各構成部品の分離を防止する係合部を備えながら、上側ケース及び下側ケースを組み付ける際に前記係合部に応力が掛からず、それにより前記係合部の塑性変形や破損のおそれがないストラットベアリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
〔1〕
車両のストラット式サスペンションのストラットの上端部に固定される上側ケースと、
前記ストラットの外側に配置されたコイルスプリング側に接続される下側ケースと、
前記上側ケースに保持される上側軌道輪と、
前記下側ケースに保持される下側軌道輪と、
前記上側軌道輪及び前記下側軌道輪間を転動する転動体と、
を備え、
前記上側ケース及び前記下側ケースを合成樹脂製としたストラットベアリングであって、
前記ストラットベアリングの使用状態における前記上側ケース及び前記下側ケースの相対回動範囲内では、
前記上側ケース及び前記下側ケースが軸方向へ離反することを阻止する抜止め係合部を有し、
前記相対回動範囲外の所定角度範囲では、
前記抜止め係合部が無くなることを特徴とする、
ストラットベアリング。
【0012】
〔2〕
前記上側ケースの内径側に、
径方向外方へ突出する外方突片、又は前記外方突片を周方向に断続的に設けた周方向外方突片列を備えるとともに、
前記下側ケースの内径側に、
径方向内方へ突出する内方突片、又は前記内方突片を周方向に断続的に設けた周方向内方突片列を備え、
前記ストラットベアリングの使用状態における前記上側ケース及び前記下側ケースの相対回動範囲内では、
前記上側ケースの前記外方突片又は前記周方向外方突片列、及び前記下側ケースの前記内方突片又は前記周方向内方突片列により前記抜止め係合部が設けられる、
〔1〕に記載のストラットベアリング。
【0013】
〔3〕
前記上側ケースの外径側に、
径方向内方へ突出する内方突片、又は前記内方突片を周方向に断続的に設けた周方向内方突片列を備えるとともに、
前記下側ケースの外径側に、
径方向外方へ突出する外方突片、又は前記外方突片を周方向に断続的に設けた周方向外方突片列を備え、
前記ストラットベアリングの使用状態における前記上側ケース及び前記下側ケースの相対回動範囲内では、
前記上側ケースの前記内方突片又は前記周方向内方突片列、及び前記下側ケースの前記外方突片又は前記周方向外方突片列により前記抜止め係合部が設けられる、
〔1〕に記載のストラットベアリング。
【0014】
〔4〕
前記上側ケースの外径側に、
径方向外方へ突出する外方突片、又は前記外方突片を周方向に断続的に設けた周方向外方突片列を備えるとともに、
前記下側ケースの外径側に、
径方向内方へ突出する内方突片、又は前記内方突片を周方向に断続的に設けた周方向内方突片列を備え、
前記ストラットベアリングの使用状態における前記上側ケース及び前記下側ケースの相対回動範囲内では、
前記上側ケースの前記外方突片又は前記周方向外方突片列、及び前記下側ケースの前記内方突片又は前記周方向内方突片列により前記抜止め係合部が設けられる、
〔1〕に記載のストラットベアリング。
【発明の効果】
【0015】
以上における本発明に係るストラットベアリングによれば、下側ケースに対して上側ケースを軸方向へ相対的に近づけて組み付ける際には、ストラットベアリングの使用状態における上側ケース及び下側ケースの相対回動範囲以外の所定角度範囲内にする。それにより、抜止め係合部が無くなるので、上側ケース及び下側ケースを軸方向へ接近させて組み付けできる。したがって、上側ケース及び下側ケースを組み付ける際に弾性変形させる部材がなく、応力が掛からないので、前記部材の塑性変形や破損のおそれを無くすことができる。
【0016】
また、ストラットベアリングの使用状態における上側ケース及び下側ケースの相対回動範囲内では、上側ケース及び下側ケースが軸方向へ離反することを阻止する抜止め係合部を有するので、上側ケース及び下側ケースの分離を防止できる。前記抜止め係合部を2箇所以上設けることにより、ストラット式サスペンションの車体への組付け時及び車体からの取外し時の捻れ・片寄りに対して、上側ケース及び下側ケースの分離防止効果をより安定させることができる。
【0017】
その上、前記外方突片又は前記周方向外方突片列、及び前記内方突片又は前記周方向内方突片列を弾性変形させて係合する必要がないことから、それらの軸方向の厚みを大きくして曲げ剛性を大きくすることが容易である。それにより、抜止めできる荷重が大きくなるので、搬送途中等におけるストラットベアリングの各構成部品の分離を確実に防止できる。
【0018】
さらに、ストラットベアリングの使用状態における上側ケース及び下側ケースの相対回動範囲以外の所定角度範囲内にすれば、抜止め係合部が無くなるので、上側ケース及び下側ケースを容易に分離できる。したがって、ストラットベアリングのメンテナンス性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係るストラットベアリングを備えた車両のストラット式サスペンションの部分断面概略図である。
【
図2】前記ストラットベアリングの縦断面図である。
【
図3】下側ケースに対して上側ケースを軸方向へ相対的に近づけて組み付ける際における周方向外方突片列及び周方向内方突片列を示す概略横断面平面図である。
【
図4】下側ケースに対して上側ケースを組み付けて下側ケースに対して上側ケースを周方向へ所定角度回動させた初期セット位置における周方向外方突片列及び周方向内方突片列を示す概略横断面平面図である。
【
図5】ストラットベアリングの使用状態における上側ケース及び下側ケースの相対回動範囲における一方端における周方向外方突片列及び周方向内方突片列を示す概略横断面平面図である。
【
図6】前記相対回動範囲における他方端における周方向外方突片列及び周方向内方突片列を示す概略横断面平面図である。
【
図7】周方向外方突片列を2個の外方突片により構成し、周方向内方突片列を2個の内方突片により構成した変形例を示す概略横断面平面図である。
【
図8】1個の外方突片及び1個の内方突片により抜止め係合部を設けるように構成した変形例を示す概略横断面平面図である。
【
図9】周方向外方突片列を上側ケースの外径側に設けるとともに、周方向内方突片列を下側ケースの外径側に設けた例を示すストラットベアリングの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
本明細書において、ストラットベアリング1の回転軸J(
図2及び
図9参照)の方向を「軸方向」、軸方向に直交し、回転軸Jから遠ざかる方向を「径方向外方」(例えば、
図2及び
図9の矢印R1の方向参照)、軸方向に直交し、回転軸Jに近づく方向を「径方向内方」(例えば、
図2及び
図9の矢印R2の方向参照)という。また、軸方向を鉛直方向とした場合に、回転軸Jを中心とした半径方向に直交する水平方向を「周方向」という。
【0022】
<ストラット式サスペンション>
図1の概略図に示す車両のストラット式サスペンションSは、ショックアブソーバを内蔵した伸縮するストラット14を、図示しない車軸に固定し、アッパーマウント17を車体に固定した状態で使用される。
【0023】
ストラット式サスペンションSのアッパー部には、車体を支えながらステアリング操作により操舵輪の方向が変化する分だけ揺動回転するストラットベアリング1を備える。ストラットベアリング1の揺動角度は、車輪の許容操舵角度に対応して定まるものであり、例えば40°以上50°以下の範囲に設定される。
【0024】
ストラット14の外側には、サスペンションスプリングであるコイルスプリング15、及び砂等の異物からショックアブソーバのオイルシールを保護するためのダストブーツ18が設けられる。ストラット式サスペンションSは、下側ケース3(
図2)のコイルスプリング15の支持面にゴム等の弾性体で構成されたスプリングインシュレーター16を備える。
【0025】
<ストラットベアリング>
【0026】
図1の概略図、及び
図2の縦断面図に示すように、ストラットベアリング1は、ストラット14の上端部に固定される上側ケース2と、スプリングインシュレーター16を介してコイルスプリング15側に接続される下側ケース3と、上側ケース2に保持される上側軌道輪4と、下側ケース3に保持される下側軌道輪5と、上側軌道輪4及び下側軌道輪5間を転動する転動体6とを備える。転動体6は、保持器7により、隣り合う転動体6同士が接触しないように保持される。
【0027】
図2の縦断面図に示すように、上側ケース2は、その内径側に、周方向外方突片列Aを備え、下側ケース3は、その内径側に、周方向内方突片列Bを備える。周方向外方突片列A及び周方向内方突片列Bにより、抜止め係合部Cが形成される上側ケー2及び下側ケース3の相対回動範囲内では、上側ケース2及び下側ケース3を、上側軌道輪4、下側軌道輪5、及び転動体6等とともに組み付けた状態で、搬送途中等における各構成部品の分離を防止できる。
【0028】
上側軌道輪4及び下側軌道輪5は鋼製であり、上側ケース2及び下側ケース3は合成樹脂製である。上側ケース2は、合成樹脂製であり硬質の基体11と、エラストマー製であり軟質の外径側シール材12及び内径側シール材13とからなる。下側ケース3は、合成樹脂製で硬質であり、内部に鋼製の芯金8を収容している。
【0029】
上側ケース2及び下側ケース3を形成する前記合成樹脂は、例えばポリアミド系(PA66,PA46,PA612,PA6,PA9T,PA10T等)であり、強化繊維として例えばガラス繊維(GF)を20~60重量%含有する。
【0030】
外径側シール材12及び内径側シール材13を形成する前記エラストマーは、熱可塑製エラストマー(TPE)として、TPS(スチレン系)、TPO(オレフィン系)、TPU(ウレタン系)、TPA(アミド系)、TPEE(エステル系)等であり、ゴム材料として、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)、エチレン・アクリルゴム(AEM)、フッ素ゴム(FKM,FPM)、シリコーンゴム(VQM)等である。ゴム材料は、1種、あるいは2種以上のゴムを適当にブレンドして使用することができる。
【0031】
芯金8を形成する前記鋼は、冷延鋼板(SPCC、SPCD、SPCE等)、熱延鋼板(SPHC、SPHD、SPHE等)、又は高張力鋼板(SPFC490、SPFC590等)である。
【0032】
<周方向外方突片列及び周方向内方突片列の詳細>
図3~
図6の概略横断面平面図に示すように、周方向外方突片列Aは、上側ケース2の内径側に、径方向外方R1へ突出する外方突片9A~9Eを周方向に断続的に設けたものであり、周方向内方突片列Bは、下側ケース3の内径側に、径方向内方R2へ突出する内方突片10A~10Eを周方向に断続的に設けたものである。
【0033】
図3の概略横断面平面図は、下側ケース3に対して上側ケース2を軸方向へ相対的に近づけて組み付ける際における周方向外方突片列A及び周方向内方突片列Bを示している。
【0034】
図3は、ストラットベアリング1の使用状態における上側ケース2及び下側ケース3の相対回動範囲とは異なる所定角度範囲にある状態を示しており、後述する抜止め係合部C(
図4~
図6)が無い。
【0035】
したがって、
図3のように下側ケース3に対して上側ケース2を軸方向へ相対的に近づけて組み付ける際には、周方向に隣り合う前記内方突片の間に前記外方突片が入る。すなわち、周方向に隣り合う内方突片10A,10Bの間に外方突片9Aが入り、周方向に隣り合う内方突片10B,10Cの間に外方突片9Bが入り、周方向に隣り合う内方突片10C,10Dの間に外方突片9Cが入り、周方向に隣り合う内方突片10D,10Eの間に外方突片9Dが入り、周方向に隣り合う内方突片10E,10Aの間に外方突片9Eが入る。
【0036】
そして、
図2の縦断面図に示すように下側ケース3に対して上側ケース2を組み付けた状態では、周方向外方突片列A(外方突片9A~9E)は周方向内方突片列B(内方突片10A~10E)よりも下方に位置する。
【0037】
図4の概略横断面平面図は、下側ケース3に対して上側ケース2を組み付けて下側ケース3に対して上側ケース2を周方向へ所定角度(本実施形態では180°)回動させた初期セット位置における周方向外方突片列A及び周方向内方突片列Bを示している。
図2の縦断面図に示す、上側ケース2の外径部に設けた初期位置合わせ用突起D、及び下側ケース3の外径部に設けた初期位置合わせ用突起Eを合わせることにより、前記初期セット位置になる。
【0038】
図4の初期セット位置では、上側ケース2及び下側ケース3を軸方向へ離反させるように移動させようとすると、下側に位置する周方向外方突片列Aが上側に位置する周方向内方突片列Bに当て止めされる箇所である、抜止め係合部C(抜止め係合部C1~C5)が周方向に離間した位置に存在する。
【0039】
図5の概略横断面平面図は、
図4の概略横断面平面図に示す前記初期セット位置から、下側ケース3に対して上側ケース2を例えば反時計方向へ45°回動させた位置(ストラットベアリング1の使用状態における上側ケース2及び下側ケース3の相対回動範囲における一方端)における周方向外方突片列A及び周方向内方突片列Bを示している。
【0040】
図5の前記相対回動範囲における一方端の位置においても、上側ケース2及び下側ケース3を軸方向へ離反させるように移動させようとすると、下側に位置する周方向外方突片列Aが上側に位置する周方向内方突片列Bに当て止めされる箇所である、抜止め係合部C(抜止め係合部C1~C5)が周方向に離間した位置に存在する。
【0041】
図6の概略横断面平面図は、
図4の概略横断面平面図に示す前記初期セット位置から、下側ケース3に対して上側ケース2を例えば時計方向へ45°回動させた位置(ストラットベアリング1の使用状態における上側ケース2及び下側ケース3の相対回動範囲における他方端)における周方向外方突片列A及び周方向内方突片列Bを示している。
【0042】
図6の前記相対回動範囲における他方端の位置においても、上側ケース2及び下側ケース3を軸方向へ離反させるように移動させようとすると、下側に位置する周方向外方突片列Aが上側に位置する周方向内方突片列Bに当て止めされる箇所である、抜止め係合部C(抜止め係合部C1~C5)が周方向に離間した位置に存在する。
【0043】
ストラット式サスペンションSを用いた車両が走行している路面の凹凸等、路面状況の急激な変化により、ストラットベアリング1に大荷重が入力されて上側ケース2と下側ケース3が径方向にずれる動きが発生する場合がある。その場合の上側ケース2と下側ケース3の径方向のずれ量の最大値は約0.5mmである。したがって、外方突片9A~9Eと内方突片10A~10Eの径方向の係合量の下限値は、前記ずれ量の最大値を考慮して片側0.6mm以上とする。前記係合量の上限値は、各突片が径方向に対向するケースと干渉しないように設定する。
【0044】
外方突片9A~9Eと内方突片10A~10Eの周方向の係合量は、ストラットベアリング1の使用状態における上側ケース2及び下側ケース3の相対回動範囲内において、前記径方向の係合量の径方向中央を通る円の周長に対して10%以上とする。
【0045】
ストラット式サスペンションSの車体への組付け時及び車体からの取外し時の捻れにより作用する応力、並びにストラットベアリング1の組付け・分解時に不意に作用する応力により、外方突片9A~9E及び内方突片10A~10Eの破損が懸念される。したがって、外方突片9A~9E及び内方突片10A~10Eの厚みは、根元で1.5mm以上とする。前記厚みの最大値はストラットベアリング1のサイズを考慮して決定すればよい。
【0046】
図3~
図6の概略横断面平面図の例では、周方向外方突片列Aを5個の外方突片9A~9Eにより構成し、周方向内方突片列Bを5個の内方突片10A~10Eにより構成している。
図7の概略横断面平面図に示すように、周方向外方突片列Aを2個の外方突片9A,9Bにより構成し、周方向内方突片列Bを2個の内方突片10A,10Bにより構成してもよい。すなわち、周方向外方突片列Aは2個以上の外方突片であればよく、周方向内方突片列Bは2個以上の内方突片であればよい。
図7の変形例では、抜止め係合部C(抜止め係合部C1,C2)が周方向に離間した位置に存在する。
【0047】
あるいは、周方向外方突片列A及び周方向内方突片列Bではなく、
図8の概略横断面平面図に示すように、1個の外方突片9及び1個の内方突片10により、抜止め係合部Cを設けるように構成してもよい。
【0048】
以上の説明においては、周方向外方突片列A又は外方突片9を上側ケース2の内径側に設けるとともに、周方向内方突片列B又は内方突片10を下側ケース3の内径側に設けた例を示した。
【0049】
図9の縦断面図に示すように、周方向外方突片列Bを上側ケース2の外径側に設けるとともに、周方向内方突片列Aを下側ケース3の外径側に設けてもよい。あるいは、
図9のような1個の内方突片10を上側ケース2の外径側に設けるとともに、
図9のような1個の外方突片9を下側ケース3の外径側に設けてもよい。
【0050】
その場合は、上側ケース2の外径側の周方向外方突片列B又は1個の内方突片10、及び下側ケース3の外径側の周方向内方突片列A又は1個の外方突片9により前記抜止め係合部Cが設けられる。
【0051】
あるいは、周方向外方突片列A又は外方突片9を上側ケース2の外径側に設けるとともに、周方向内方突片列B又は内方突片10を下側ケース3の外径側に設けてもよい。
【0052】
その場合は、上側ケース2の外径側の周方向外方突片列A又は外方突片9、及び下側ケース3の外径側の周方向内方突片列B又は内方突片10により前記抜止め係合部Cが設けられる。
【0053】
<作用効果>
以上のような本発明の実施の形態に係るストラットベアリング1によれば、下側ケース3に対して上側ケース2を軸方向へ相対的に近づけて組み付ける際には、ストラットベアリング1の使用状態における上側ケース2及び下側ケース3の相対回動範囲以外の所定角度範囲内(例えば
図3の状態)にする。それにより、抜止め係合部Cが無くなるので、上側ケース2び下側ケース3を軸方向へ接近させて組み付けできる。したがって、上側ケース2及び下側ケース3を組み付ける際に弾性変形させる部材がなく、応力が掛からないので、前記部材の塑性変形や破損のおそれを無くすことができる。
【0054】
また、ストラットベアリング1の使用状態における上側ケース2及び下側ケース3の相対回動範囲内では、上側ケース及び下側ケースが軸方向へ離反することを阻止する抜止め係合部Cを有するので、上側ケース2及び下側ケース3の分離を防止できる。前記抜止め係合部Cを2箇所以上設けることにより、ストラット式サスペンションSの車体への組付け時及び車体からの取外し時の捻れ・片寄りに対して、上側ケース2及び下側ケース3の分離防止効果をより安定させることができる。
【0055】
その上、周方向外方突片列A又は外方突片9、又は周方向内方突片列B又は内方突片10を弾性変形させて係合する必要がないことから、それらの軸方向の厚みを大きくして曲げ剛性を大きくすることが容易である。それにより、抜止めできる荷重が大きくなるので、搬送途中等におけるストラットベアリングの各構成部品の分離を確実に防止できる。
【0056】
さらに、ストラットベアリング1の使用状態における上側ケース2及び下側ケース3の相対回動範囲以外の所定角度範囲内(例えば
図3の状態)にすれば、前記抜止め係合部Cが無くなるので、上側ケース2及び下側ケース3を容易に分離できる。したがって、ストラットベアリングのメンテナンス性を向上できる。
【0057】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0058】
1 ストラットベアリング
2 上側ケース
3 下側ケース
4 上側軌道輪
5 下側軌道輪
6 転動体
7 保持器
8 芯金
9,9A~9E 外方突片
10,10A~10D 内方突片
11 基体
12 外径側シール材
13 内径側シール材
14 ストラット
15 コイルスプリング
16 スプリングインシュレーター
17 アッパーマウント
18 ダストブーツ
A 周方向外方突片列
B 周方向内方突片列
C,C1~C5 抜止め係合部
D,E 初期位置合わせ用突起
J 回転軸
R1 径方向外方
R2 径方向内方
S ストラット式サスペンション