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特許7290915硫化物、熱電変換材料、及び熱電変換素子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】硫化物、熱電変換材料、及び熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/852 20230101AFI20230607BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20230607BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20230607BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20230607BHJP
   C01G 53/11 20060101ALI20230607BHJP
   C04B 35/547 20060101ALI20230607BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20230607BHJP
【FI】
H10N10/852
C01G45/00
C01G49/00 Z
C01G51/00 Z
C01G53/11
C04B35/547
H10N10/01
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018035057
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019149524
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-11-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発/熱電変換材料の技術シーズ発掘小規模研究開発/遷移金属硫化物ナノ粒子熱電変換材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 威夫
(72)【発明者】
【氏名】久保田 是史
(72)【発明者】
【氏名】三輪 大
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】松永 稔
【審判官】柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/077526(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N10/852, H10N10/01, C01G45/00, C01G51/00, C01G53/11, C04B35/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu5-aAlx-bIn1-x-cSn2-da+b+c+d8で表される組成を有し、Dは遷移金属元素であり、0≦x≦1及び0<a+b+c+d≦0.4の関係を満たし、
前記遷移金属元素は、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
350K~650Kにおいて1.2×10-4Wm-1-2以上であり、380K~390Kにおいて1.4×10 -4 Wm -1 -2 以上であり、470K~490Kにおいて1.7×10 -4 Wm -1 -2 以上であり、570K~580Kにおいて1.8×10 -4 Wm -1 -2 以上である、パワーファクターを有する、
硫化物。
【請求項2】
請求項に記載の硫化物を含有する、熱電変換材料。
【請求項3】
請求項に記載の熱電変換材料を備えた、熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物、熱電変換材料、及び熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、硫化物は、特に、熱電変換材料及び太陽電池材料等の半導体材料として注目されている。太陽電池材料は、紫外線、可視光線、又は赤外線等の光を吸収し、光起電力効果により光エネルギーを電気エネルギーに変換する材料である。太陽電池材料としては、シリコン又はガリウムヒ素等を含む材料が実用化されている。一方、近年では、銅-インジウム-セレン硫化物(CIS)又は銅-亜鉛-スズ硫化物(CZTS)等の硫化物材料の太陽電池材料への適用に関する研究も盛んである。これらの硫化物材料は、安全かつ安価な太陽電池材料として期待されているが、シリコン系太陽電池に使われる太陽電池材料と比較すると、変換効率の点で十分とは言い難く、その特性の向上が求められている。
【0003】
熱電変換材料は、ゼーベック効果により材料両端の温度差によって電圧を生じさせ、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する、又は、ペルチェ効果により電気エネルギーによって温度差を生じさせる材料である。近年、特に熱電変換材料として、銅とその他の金属を含む硫化物が注目されている。例えば、非特許文献1及び2には、それぞれ、コルーサイト構造を有するCu262632(M=Ge,Sn)及びコルーサイト構造を有するCu262632の熱電特性が報告されている。また、特許文献1には、所定の結晶構造を有し、銅と、第1遷移元素又はpブロック元素である、銅以外の少なくとも1つの金属とを主成分として含む複合金属硫化物でできた、熱電変換材料が記載されている。また、非特許文献3では、Cu2SnS3を母構造とし、Cu又はSnの一部をAlによって置換したCu5AlSn28の熱電特性が第一原理計算により予想されている。
【0004】
非特許文献4、5、及び6には、それぞれ、Cu2Tl2SnS4、Cu4InxSn1-x4(x=0-0.02)、及び銅、亜鉛、及びスズを含む硫化物(CZTS)の熱電特性が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-48730号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Applied Physics Letters, (米), 2014, Vol.105, 132107
【文献】Journal of Applied Physics, (米), 2014, Vol.116, 063706
【文献】Journal of Electronic Materials,(米), 2016, Vol. 45, No.3, p. 1453-1458
【文献】Chemistry of Materials,(米), 2005, Vol.17, No. 11, p. 2875-2884
【文献】The Journal of Electronic Materials,(米), 2014, Vol. 43, No. 6, p. 2202-2205
【文献】Nano Letters,(米), 2012, Vol. 12, No. 2, p. 540-545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1~6によれば、銅、スズ、及びスズ以外の典型金属元素を含み、これらの金属の少なくとも1つが遷移金属元素で置換された硫化物の熱電特性は明らかでない。そこで、本発明は、銅、スズ、及びスズ以外の典型金属元素を含み、これらの金属の少なくとも1つが遷移金属元素で置換され、熱電変換材料として有利な特性を有する新規の硫化物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
銅と、スズと、スズ以外の少なくとも1つの典型金属元素と、少なくとも1つの遷移金属元素とを含む硫化物であって、
当該硫化物に含まれる金属の全量における前記銅の含有率が10モル%以上であり、
前記金属の全量における前記スズの含有率が10モル%以上であり、
前記金属の全量における前記典型金属元素の含有率が10モル%以上かつ30モル%以下であり、
前記金属の全量における前記遷移金属元素の含有率が10モル%以下であり、
前記遷移金属元素は、前記銅、前記スズ、及び前記典型金属元素の少なくとも一つを置換している、
硫化物を提供する。
【0009】
また、本発明は、
上記の硫化物を含有する、熱電変換材料を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、
上記の熱電変換材料を備えた、熱電変換素子を提供する。
【発明の効果】
【0011】
上記の硫化物は、熱電変換材料として有利な特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A図1Aは、本発明に係る熱電変換素子の一例を示す断面図である。
図1B図1Bは、本発明に係る熱電変換素子の別の一例を示す断面図である。
図2A図2Aは、実施例1に係るサンプルの電気伝導率及び電気抵抗率の温度変化を示すグラフである。
図2B図2Bは、実施例2に係るサンプルの電気伝導率及び電気抵抗率の温度変化を示すグラフである。
図2C図2Cは、実施例3に係るサンプルの電気伝導率及び電気抵抗率の温度変化を示すグラフである。
図2D図2Dは、実施例4に係るサンプルの電気伝導率及び電気抵抗率の温度変化を示すグラフである。
図2E図2Eは、実施例5に係るサンプルの電気伝導率及び電気抵抗率の温度変化を示すグラフである。
図2F図2Fは、実施例6に係るサンプルの電気伝導率及び電気抵抗率の温度変化を示すグラフである。
図2G図2Gは、実施例7に係るサンプルの電気伝導率及び電気抵抗率の温度変化を示すグラフである。
図2H図2Hは、実施例8に係るサンプルの電気伝導率及び電気抵抗率の温度変化を示すグラフである。
図2I図2Iは、実施例9に係るサンプルの電気伝導率及び電気抵抗率の温度変化を示すグラフである。
図3A図3Aは、実施例1に係るサンプルのゼーベック係数及びパワーファクターの温度変化を示すグラフである。
図3B図3Bは、実施例2に係るサンプルのゼーベック係数及びパワーファクターの温度変化を示すグラフである。
図3C図3Cは、実施例3に係るサンプルのゼーベック係数及びパワーファクターの温度変化を示すグラフである。
図3D図3Dは、実施例4に係るサンプルのゼーベック係数及びパワーファクターの温度変化を示すグラフである。
図3E図3Eは、実施例5に係るサンプルのゼーベック係数及びパワーファクターの温度変化を示すグラフである。
図3F図3Fは、実施例6に係るサンプルのゼーベック係数及びパワーファクターの温度変化を示すグラフである。
図3G図3Gは、実施例7に係るサンプルのゼーベック係数及びパワーファクターの温度変化を示すグラフである。
図3H図3Hは、実施例8に係るサンプルのゼーベック係数及びパワーファクターの温度変化を示すグラフである。
図3I図3Iは、実施例9に係るサンプルのゼーベック係数及びパワーファクターの温度変化を示すグラフである。
図4図4は、実施例1~5に係るサンプル及び参考例に係るサンプルのパワーファクターの温度変化を示すグラフである。
図5A図5Aは、実施例1に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図5B図5Bは、実施例2に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図5C図5Cは、実施例3に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図5D図5Dは、実施例4に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図5E図5Eは、実施例5に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図5F図5Fは、実施例6に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図5G図5Gは、実施例7に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図5H図5Hは、実施例8に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図5I図5Iは、実施例9に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
熱電変換材料は、ゼーベック効果により材料両端の温度差によって電圧を生じさせ熱エネルギーを電気エネルギーに変換する、又は、ペルチェ効果により電気エネルギーによって温度差を生じさせる材料である。熱電変換材料としては、熱エネルギーの高い方から低い方へ電子の移動により電流が生じるn型熱電変換材料と、正孔の移動により電流が生じるp型熱電変換材料とが存在する。
【0014】
熱電変換材料の性能を評価するための指標として下記の式(1)で定義される無次元性能指数ZTがある。ここで、Sはゼーベック係数を示し、σは電気伝導率を示し、Tは絶対温度を示し、κは熱伝導率を示す。熱電変換材料において無次元性能指数ZTが高いことが望ましい。
ZT=S2σT/κ (1)
【0015】
また、熱電変換材料の性能を評価するための指標として下記の式(2)で表されるパワーファクターPFがある。パワーファクターPFが高いことは、無次元性能指数ZTを高めるうえで有利である。
PF=S2σ (2)
【0016】
本発明者らは、銅、スズ、スズ以外の典型金属元素を含む硫化物に着目し、多大な試行錯誤を重ねて、これらの金属を所定の金属で置換することを試みた。その結果、熱電変換材料として有利な特性を有する硫化物を新たに見出した。
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
<硫化物>
本発明の実施形態に係る硫化物は、銅と、スズと、スズ以外の少なくとも1つの典型金属元素と、少なくとも1つの遷移金属元素とを含む。この硫化物に含まれる金属の全量における銅の含有率が10モル%以上である。この硫化物に含まれる金属の全量におけるスズの含有率が10モル%以上である。この硫化物に含まれる金属の全量におけるスズ以外の典型金属元素の含有率が10モル%以上かつ30モル%以下である。遷移金属元素は、銅、スズ、及びスズ以外の典型金属元素の少なくとも一つを置換している。この硫化物に含まれる金属の全量における遷移金属元素の含有率が10モル%以下である。
【0019】
硫化物に含まれる金属の全量における銅の含有率は、例えば10モル%以上、場合によっては30モル%以上、さらには50モル%以上でありうる。また、硫化物に含まれる金属の全量における銅の含有率は、例えば70モル%以下である。硫化物に含まれる金属の全量における銅の含有率が10モル%以上であれば、硫化物の結晶構造が閃亜鉛鉱型構造になりやすい。また、硫化物に含まれる金属の全量における銅の含有率が30モル%以上であれば、エネルギー的に安定になりやすい。
【0020】
硫化物に含まれる金属の全量におけるスズの含有率は、例えば10モル%以上、場合によっては15モル%以上、さらには20モル%以上でありうる。また、硫化物に含まれる金属の全量におけるスズの含有率は、例えば70モル%以下である。
【0021】
硫化物に含まれる金属の全量におけるスズ以外の典型金属元素の含有率は、望ましくは10モル%以上であり、より望ましくは12モル%以上である。硫化物に含まれる金属の全量におけるスズ以外の典型金属元素の含有率は、望ましくは30モル%以下であり、より望ましくは25モル%以下である。硫化物に含まれる金属の全量におけるスズ以外の典型金属元素の含有率が30モル%以下であれば、硫化物においてスズ以外の典型金属元素が規則的に配置されることによって格子熱伝導率が高まることを、抑制できる。
【0022】
硫化物は、スズ以外の典型金属元素として、2種類以上の典型金属元素を含んでいてもよい。この場合、硫化物に含まれる金属の全量におけるスズ以外の典型金属元素の含有率は、各種類の典型金属元素の含有率の和である。
【0023】
硫化物に含まれるスズ以外の典型金属元素は、望ましくは、3価である。
【0024】
硫化物に含まれるスズ以外の典型金属元素は、望ましくは、Al及びInの少なくとも1つである。この場合、硫化物が熱電変換材料として所望の特性を有しやすい。
【0025】
硫化物は、銅、スズ、及びスズ以外の典型金属元素の少なくとも一つを置換する遷移金属元素として、2種類以上の遷移金属元素を含んでいてもよい。この場合、硫化物に含まれる金属の全量における遷移金属元素の含有率は、各種類の遷移金属元素の含有率の和である。
【0026】
硫化物は、望ましくは、Cu5-aAlx-bIn1-x-cSn2-da+b+c+d8で表される組成を有する。ここで、Dは、銅、スズ、及びスズ以外の典型金属元素の少なくとも一つを置換する上記の遷移金属元素である。加えて、この硫化物は、0≦x≦1及び0<a+b+c+d≦0.8の関係を満たす。この場合、硫化物が熱電変換材料として所望の特性を有しやすい。
【0027】
硫化物は、より望ましくは0<a+b+c+d≦0.8の関係を満たし、さらに望ましくは0<a+b+c+d≦0.4の関係を満たす。
【0028】
硫化物は、望ましくは、0≦a≦0.8、0≦b≦0.2、0≦c≦0.2、及び0≦d≦0.6の関係を満たす。硫化物は、より望ましくは、0≦a≦0.5、0≦b≦0.1、0≦c≦0.1、及び0<d≦0.4の関係を満たす。
【0029】
硫化物において、銅、スズ、及びスズ以外の典型金属元素の少なくとも一つを置換する上記の遷移金属元素は、望ましくは、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1つである。なお、硫化物において、この遷移金属元素がCuである場合、Cuは、スズ又はスズ以外の典型金属元素を置換する。
【0030】
硫化物は、望ましくは、主としてアニオンが四面体状に配置された結晶構造を有する。アニオンが四面体状に配置された構造として、例えば、閃亜鉛鉱型構造、ウルツ鉱型構造、及び逆蛍石型構造等の結晶構造が挙げられる。硫化物は、より望ましくは、閃亜鉛鉱型構造及びウルツ鉱型構造の少なくとも1つの結晶構造を有し、さらに望ましくは、閃亜鉛鉱型構造を有する。閃亜鉛鉱型の結晶構造は、アニオンの立方最密充填格子を広げた構造であり、アニオンからなる四面体の空隙のうちの半分がカチオンで占められた構造である。そのため、閃亜鉛鉱型の結晶構造において、カチオンサイトが大きさの異なる元素で置換されたとしても、カチオンで占有されていない残り半分の空隙が構造の歪を緩衝する。このため、閃亜鉛鉱型の結晶構造において特定の割合以下の元素がカチオンを置換できると考えられる。また、閃亜鉛鉱型構造は、同じ元素から構成されているチオスピネル型の結晶構造を有する硫化物と比べて、高い電気伝導率を有しやすく、熱電変換材料として有利な特性を有する。なお、閃亜鉛鉱型類似の構造として、コルーサイト型構造、ジャーマナイト型構造、スタンナイト型構造、及びケステライト型構造等の構造が挙げられる。これらの構造もアニオンが四面体状に配置された構造である。
【0031】
上記の硫化物は、例えば、銅の粉末、スズの粉末、スズ以外の典型金属元素の粉末、及び遷移金属元素の粉末を混合して得られた粉体を焼結することによって製造できる。遷移金属元素がCuである場合、銅の粉末、スズの粉末、及びスズ以外の典型金属元素の粉末を混合して得られた粉体を焼結することによって、硫化物を製造できる。これらの粉末の混合には、例えば、ボールミル等の公知の装置を使用できる。また、粉体を焼結する方法は、例えば、放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)又はホットプレスである。焼結温度は、例えば、150℃~1500℃であり、望ましくは、200℃~1000℃である。焼結時間は、例えば、0分~10分であり、望ましくは、0~5分である。また、焼結工程の開始から焼結工程中の最高温度に到達するまでに必要な昇温時間は、例えば、2分~10分である。例えば、粉体が充填されたダイの内部の温度を上記の昇温時間で最高温度まで昇温させ、ダイの内部の温度を最高温度で所定の時間(焼結時間)保ち、その後加熱を停止して焼結体を自然冷却させる。焼結工程中に粉体を加圧する圧力は、例えば、0.5MPa~100MPaであり、望ましくは、5MPa~50MPaである。ペレットのサイズが大きい場合又はペレットの機械的強度を高くする必要がある場合には、均一な焼結体を得るために、焼結時間又は昇温時間をさらに長くすることが好ましい。この焼結工程は、不活性ガス雰囲気又は真空雰囲気において行うことができる。この焼結工程は、望ましくは真空雰囲気で行われる。
【0032】
上記の硫化物は、溶融法、水熱合成法、又は液相還元法等の方法によって合成されてもよい。特に、液相還元法によって合成されたナノメートルオーダー(例えば、100nm以下の粒子径を有する)の硫化物の粒子は、その粒子径を調節することによって効率的にフォノンを散乱して、低い格子熱伝導率を示すことが期待される。
【0033】
溶融法は、原料を高温で反応させ、目的の化合物を得る方法である。溶融法の一例は、目的とする材料の物質量比となるように原料を石英管等に真空封入し、例えば、電気炉等の加熱装置を用いて、所定の反応温度で原料を反応させる方法である。
【0034】
水熱合成法の一例について説明する。目的とする材料の物質量比となるように、銅化合物、スズ化合物、スズ以外の典型金属元素、及び硫黄化合物又は単体の硫黄を水中に添加しつつ、必要に応じて別の遷移金属の化合物も添加し、混合して混合液を調製する。次に、150~300℃の温度及び0.5~9MPa(メガパスカル)の圧力の環境にその混合液を所定期間置いて水熱合成を行う。この製造方法における銅化合物は、例えば、CuCl及びCuCl2等の塩化物、Cu(NO32等の硝酸銅、又はCu(CH3COO)及びCu(CH3COO)2等の酢酸銅である。この製造方法におけるスズ化合物は、例えば、SnCl2及びSnCl4等の塩化物、硝酸スズ、又は酢酸スズである。この製造方法における硫黄化合物は、例えば、チオ尿素及びチオアセトアミド等の有機硫黄化合物である。また、スズ以外の典型金属元素に関しては、その金属元素の供給源として、例えば、塩化物、硝酸塩、及び酢酸塩などの化合物を用いることができる。別の遷移金属の供給源としては、例えば、塩化物、硝酸塩、及び酢酸塩などの化合物を用いることができる。
【0035】
液相還元法の一例について説明する。まず、硫化物に含まれる金属の全量における銅、スズ、、スズ以外の典型金属元素、及びの含有率が上記の範囲になるように、有機溶媒中に銅化合物、スズ化合物、スズ以外の典型金属元素の化合物、銅、スズ、及びスズ以外の典型金属元素の少なくとも一つを置換する遷移金属の化合物、及び硫黄化合物及び/又は単体の硫黄を含む混合液を調製する。混合液の調製は、例えば、常温及び常圧の環境で行われる。次に、不活性ガスで満たされた150~350℃の温度の環境にその混合液を所定期間置いて熱電変換材料の合成を行う。
【0036】
この方法における、上記の金属の化合物は、例えば、塩化物、硝酸化合物、カルボン酸、又は金属アセチルアセトナート等の錯体化合物であり得る。この方法における、硫黄化合物は、例えば、(i)オクタンチオール、デカンチオール、及びドデカンチオール等のチオール、(ii)オクタンジチオール、デカンジチオール、及びドデカンジチオール等のジチオール、(iii)チオ尿素、又は(iv)チオアセトアミド等の有機硫黄化合物である。有機硫黄化合物は、望ましくは、チオール等の液体有機硫黄化合物である。この場合、混合液において、液体有機硫黄化合物が有機溶媒としての役割を果たすことができる。混合液には、液体有機硫黄化合物以外の液体有機化合物が含まれてもよい。そのような液体有機化合物としては、例えば、(i)オレイルアミン等のアミン、(ii)ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、及びオレイン酸等の不飽和脂肪酸、又は(iii)エチレングリコール、トリエチレングリコール、及びテトラエチレングリコール等の多価アルコールを挙げることができる。
【0037】
この方法において使用される不活性ガスは、混合液に対し不活性である限り特に制限されないが、例えば、アルゴン等の希ガス又は窒素である。混合液が置かれる環境における圧力は、望ましくは常圧である。
【0038】
この製造方法において、不活性ガスで満たされた150~350℃の温度の環境を保つ期間は、例えば1~5時間である。
【0039】
<熱電変換材料>
この硫化物は熱電変換材料にとって有利な特性を有する。このため、本発明に係る熱電変換材料は、上記の硫化物を含有する。熱電変換材料は、この硫化物のみから構成されていてもよいし、この硫化物とともに他の成分をさらに含んでいてもよい。なお、この硫化物は、熱電変換材料以外の用途で利用できる可能性もある。例えば、この硫化物は、太陽電池の材料として利用できる可能性もある。
【0040】
<熱電変換素子>
上記の硫化物を含有する熱電変換材料を用いて、熱電変換素子を作製できる。この場合、熱電変換素子は、上記の硫化物を含有する熱電変換材料を備える。
【0041】
例えば、熱電変換素子は、上記の硫化物を含有する熱電変換材料と、熱電変換材料に接続された導体とを備えている。図1Aに示す通り、熱電変換素子1は、例えば、複数の第一熱電変換材料10と、第一熱電変換材料10と交互に配置された複数の第二熱電変換材料20と、隣り合う第一熱電変換材料10と第二熱電変換材料20とを接続する導体30とを備えている。例えば、複数の第一熱電変換材料10及び複数の第二熱電変換材料20は、導体30によって直列に接続されている。第一熱電変換材料10は、上記の硫化物を含有する熱電変換材料である。一方、第二熱電変換材料20は、熱電変換素子に使用可能な公知のn型半導体である。図1Aに示す通り、導体30は、例えば所定の基板40a又は基板40b上に配置されている。基板40a及び基板40bのそれぞれは、例えば高い熱伝導率を有するセラミック製の基板である。
【0042】
図1Bに示す通り、熱電変換素子2は、例えば、複数の第一熱電変換材料50と、隣り合う第一熱電変換材料50同士を接続する導体60とを備えている。例えば、複数の第一熱電変換材料50は、導体60によって直列に接続されている。第一熱電変換材料50は、上記の硫化物を含有する熱電変換材料である。図1Bに示す通り、導体60は、例えば所定の基板70a又は基板70b上に配置されている。基板70a及び基板70bのそれぞれは、例えば高い熱伝導率を有するセラミック製の基板である。
【実施例
【0043】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0044】
<実施例1>
銅の粉末1.154g、アルミニウムの粉末0.098g、スズの粉末0.7762g、マンガンの粉末0.040g、及び硫黄の粉末0.932gをレッチェ社製の遊星ボールミルに仕込み、400rpm(revolutions per minute)で9分間回転した後1分間停止する動作を3時間繰り返して混合粉体を得た。得られた粉体を放電プラズマ焼結装置(シンターランド社製、型番:LABOX-125)で焼結した。この焼結は、直径10mmのダイに0.75gの粉体を充填し、ダイの内部の温度を800℃まで100℃/分の速度で上昇させ、その後ダイの内部の温度を800℃で2分間保つことによって行われた。その後、ダイの内部から取り出した焼結品であるペレットの両面を、JIS R 6001:1998に基づく粒度が#2000である研磨紙を用いて研磨し、実施例1に係るサンプルを得た。実施例1に係るサンプルの組成は、Cu5AlMn0.2Sn1.88であった。
【0045】
<実施例2>
上記の粉末に代えて、銅の粉末1.154g、アルミニウムの粉末0.098g、スズの粉末0.776g、鉄の粉末0.041g、及び硫黄の粉末0.932gを用いて混合粉体を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るサンプルを得た。実施例2に係るサンプルの組成は、Cu5AlFe0.2Sn1.88であった。
【0046】
<実施例3>
上記の粉末に代えて、銅の粉末1.153g、アルミニウムの粉末0.098g、スズの粉末0.775g、コバルトの粉末0.043g、及び硫黄の粉末0.931gを用いて混合粉体を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るサンプルを得た。実施例3に係るサンプルの組成は、Cu5AlCo0.2Sn1.88であった。
【0047】
<実施例4>
上記の粉末に代えて、銅の粉末1.153g、アルミニウムの粉末0.098g、スズの粉末0.776g、ニッケルの粉末0.043g、及び硫黄の粉末0.931gを用いて混合粉体を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るサンプルを得た。実施例4に係るサンプルの組成は、Cu 5 AlNi 0.2 Sn 1.8 8 であった。
【0048】
<実施例5>
上記の粉末に代えて、銅の粉末1.198g、アルミニウムの粉末0.098g、スズの粉末0.775g、及び硫黄の粉末0.930gを用いて混合粉体を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るサンプルを得た。実施例5に係るサンプルの組成は、Cu 5.2 AlSn 1.8 8 であった。
【0049】
<実施例6>
上記の粉末に代えて、銅の粉末1.151g、アルミニウムの粉末0.098g、スズの粉末0.774g、亜鉛の粉末0.047g、及び硫黄の粉末0.930gを用いて混合粉体を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係るサンプルを得た。実施例6に係るサンプルの組成は、Cu5AlZn0.2Sn1.88であった。
【0050】
<実施例7>
上記の粉末に代えて、銅の粉末1.042g、インジウムの粉末0.377g、スズの粉末0.701g、ニッケルの粉末0.039g、及び硫黄の粉末0.842gを用いて混合粉体を得たことと、焼結温度を600℃にしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7に係るサンプルを得た。実施例7に係るサンプルの組成は、Cu5InNi0.2Sn1.88であった。
【0051】
<実施例8>
上記の粉末に代えて、銅の粉末1.093g、アルミニウムの粉末0.046g、インジウムの粉末0.198g、スズの粉末0.735g、亜鉛の粉末0.045g、及び硫黄の粉末0.883gを用いて混合粉体を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係るサンプルを得た。実施例8に係るサンプルの組成は、Cu5Al0.5In0.5Zn0.2Sn1.88であった。
【0052】
<実施例9>
ネオデカン酸銅20mmol、2-エチルヘキサン酸インジウム4mmol、2-エチルヘキサン酸スズ6.4mmol、2-エチルヘキサン酸ニッケル1.6mmol、ドデカンチオール100ml、及びオレイルアミン100mlを混合して撹拌し、均一に分散した混合液を得た。次に、アルゴンガスで満たされた空間に混合液の入った容器を置き、混合液を260℃に加熱しつつ3時間撹拌することによって、粒子が析出した液体が得られた。このようにして得られた液体に、メタノールを加え、5000rpmで5分間遠心分離処理を行って、沈殿物を回収した。回収した沈殿物をヘキサン及びメタノールで洗浄した。その後、得られた沈殿物を50mlのトルエン中に分散させ、この分散液を2.5gのチオ尿素をメタノールに溶解させた溶液と混合し、この混合液を超音波処理にかけ、表面処理剤を置換した。その後、ヘキサン、メタノール、及びトルエンで固形物を洗浄し、さらに、真空乾燥器を用いて固形物を真空乾燥させた。このようにして、実施例9に係る粉末を得た。焼結温度を600℃にしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9に係る粉末を焼結及び研磨し、実施例9に係るサンプルを得た。
【0053】
<参考例>
上記の粉末に代えて、銅の粉末1.137g、アルミニウムの粉末0.097g、スズの粉末0.849g、及び硫黄の粉末0.918gを用いて混合粉体を得た以外は、実施例1と同様にして、参考例に係るサンプルを得た。参考例に係るサンプルの組成は、Cu5AlSn28であった。
【0054】
<電気伝導率及びゼーベック係数の測定>
熱電特性評価装置(オザワ科学社製、製品名:RZ2001i)又は熱電特性評価装置(アルバック理工社製、製品名:ZEM-3)を用いて、実施例1~9に係るサンプルの電気伝導率σを測定した。結果を図2A図2Eに示す。なお、実施例1~9に係るサンプルの電気伝導率σの逆数をとって電気抵抗率ρを求めた。結果を図2A図2Iに示す。上記の熱電特性評価装置を用いて実施例1~9に係るサンプルのゼーベック係数Sを測定した。結果を図3A図3Iに示す。実施例1~9に係るサンプルにおいて、ゼーベック係数S及び電気伝導率σから上記の式(2)に基づいてパワーファクターPFを求めた。結果を図3A図3Iに示す。
【0055】
参考例に係るサンプルについて実施例1~9と同様にしてパワーファクターPFを求めた。図3A図3Iに示す各実施例のパワーファクターPFの代表値と参考例に係るサンプルのパワーファクターとを図4に示す。
【0056】
<X線回折測定>
X線回折装置(リガク社製、製品名:MiniFlex600)を用いて、実施例1~9に係るサンプルのX線回折パターンを得た。X線としてCuKα線を用いた。実施例1~9に係るサンプルのX線回折パターンを、図5A図5Iに示す。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I