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特許7290948ペリレン誘導体化合物、該化合物を用いた有機半導体用組成物、該有機半導体用組成物を用いた有機薄膜トランジスタ
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  • 特許-ペリレン誘導体化合物、該化合物を用いた有機半導体用組成物、該有機半導体用組成物を用いた有機薄膜トランジスタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】ペリレン誘導体化合物、該化合物を用いた有機半導体用組成物、該有機半導体用組成物を用いた有機薄膜トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H10K 85/60 20230101AFI20230607BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20230607BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20230607BHJP
   C07D 471/06 20060101ALI20230607BHJP
   H10K 71/10 20230101ALI20230607BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20230607BHJP
【FI】
H10K85/60
H01L29/78 618B
H01L29/78 618A
C07D471/06 CSP
H10K71/10
H10K10/40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019011117
(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公開番号】P2020120031
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【上記1名の代理人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】千葉 絵里子
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 泰彰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 規敏
(72)【発明者】
【氏名】水上 誠
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-088507(JP,A)
【文献】特開2014-029500(JP,A)
【文献】Maxwell J. Robb, Brandon Newton, Brett P. Fors, and Craig J. Hawker,One-Step Synthesis of Unsymmetrical N-Alkyl-N′-aryl Perylene Diimides,The Journal of Organic Chemistry,2014年06月13日,79,p.6360-6365
【文献】Lou ROCARD et al.,Templated Chromophore Assembly on Peptide Scaffolds: A Structural Evolution,Chemistry - A European Journal,2018年10月04日,Vol. 24,No. 60,p.16136-16148,DOI: 10.1002/chem.201803205
【文献】Lou ROCARD et al.,Templated Chromophore Assembly by Dynamic Covalent Bonds,Angewandte Chemie International Edition,2015年12月04日,Vol. 54,No. 52,p.15739-15743,DOI: 10.1002/anie.201507186
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 85/60
H10K 10/40
H10K 71/10
H01L 29/786
H01L 21/336
C07D 471/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるペリレン誘導体化合物。
【化1】
[式中、RとR10は、互いに異なるものとして、
は、下記一般式(2)で表される1価基であり、
10は、水素原子、ハロゲン原子、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基、
または置換基を有していてもよい炭素原子数2~36の複素環基を表し、
上記置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、あるいは置換基を有していてもよい炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基は、少なくとも1個のフッ素原子を含有する。
~Rは、同一でも異なっていてもよく、
水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基、ニトロ基、ニトロソ基、チオ基、アミノ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
または置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基を表し、
とR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、は互いに結合して環を形成していてもよい。]
【化2】
[式中、R11~R15は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
または置換基を有していてもよい炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基を表す。
nは0~5の整数を表す。
11~R15の少なくとも1つが、フッ素原子であるか、または、フッ素原子を少なくとも1つ含有する炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フッ素原子を少なくとも1つ含有する炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、またはフッ素原子を少なくとも1つ含有する炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基であるものとする。]
【請求項2】
前記一般式(2)において、下記一般式(3)または(4)で表される1価基である、請求項に記載の化合物。
【化3】
【化4】
[式中、nは0~5の整数を表し、mは0~10の整数を表す。]
【請求項3】
前記一般式(1)において、R、R、R、Rが少なくとも1個のシアノ基、または置換基を有していてもよい炭素原子数1~4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である、請求項1または請求項に記載の化合物。
【請求項4】
25±2℃における芳香族系有機溶媒またはハロゲン系有機溶媒への溶解度が0.02~5質量%濃度である、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の化合物を含有する有機半導体用組成物。
【請求項6】
請求項に記載の有機半導体用組成物を用いた有機半導体素子。
【請求項7】
移動度が10-3cm/Vs以上である、請求項に記載の有機半導体素子。
【請求項8】
請求項に記載の有機半導体素子を用いた有機薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリレン誘導体化合物、該化合物を用いた有機半導体用組成物、該有機半導体組成物を用いた有機半導体素子および有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン系の無機材料を無機半導体材料として用いた薄膜トランジスタが広く用いられているが、これらの製膜は高温度下で実施されるため、薄型ディスプレイ化に対応した基板として軽量でフレキシブルであるプラスチック材料などは、耐熱性に乏しく使用できないという難点がある。そこで、近年は、シリコン系の無機材料に代えて、半導体としての性質を示す有機化合物を有機半導体材料として用いた有機薄膜トランジスタの開発が盛んである。
【0003】
有機薄膜トランジスタにおける有機半導体材料を含有する有機半導体層の形成においては、真空中高温下で作製する真空蒸着プロセスと比較し、大気中で作製する溶液プロセスにより、製造コストをおさえつつ、有機薄膜トランジスタ素子の大型化が容易となる。さらに、製膜時に必要となる温度を下げることができ、基板にプラスチック材料などを用いることが可能となる。このため、フレキシブルな素子への適応可能な溶液プロセスに対応した有機半導体材料が望まれている。
【0004】
有機半導体層を形成する有機半導体は、正孔がキャリアとして流れるp型有機半導体材料と電子がキャリアとして流れるn型有機半導体材料に分類される。これまでにp型有機半導体材料が数多く報告されている。
【0005】
一方、n型有機半導体材料として、ペリレン誘導体やフラーレンなどで材料開発が進んでいるが、溶媒への溶解性が低く、溶液プロセスへの適合性が低い。
【0006】
また、高性能n型有機半導体材料は、pn接合や集積回路構築のために必要であるが、電子電流は正孔電流と比べて大気や不純物を始めとする外的要因の影響を受けやすく、その電子移動度はp型有機半導体材料と比較して未だ低い。
【0007】
上述した通り、溶液プロセスに適合する溶媒への高い溶解性と高いキャリア移動度を両立した有機半導体材料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2007-527114
【文献】特表2008-524846
【文献】特表2017-52139
【文献】特開2015-115490
【非特許文献】
【0009】
【文献】Angew.Chem.Int.Ed.2004,43,P.6363-6366
【文献】J.Org.Chem.2014,79,P.6655-6662
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、溶液プロセスに対応した高い溶解性を有するn型有機半導体材料を提供し、さらに該n型有機半導体材料を有機半導体用組成物として用いた高電子移動度の有機半導体素子ならびに有機薄膜トランジスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、発明者らは、溶液プロセスに対応した溶解性を有するn型有機半導体材料、および電子移動度に優れた有機薄膜トランジスタについて鋭意検討した結果、特定の構造を有することで溶解性が向上した化合物をn型有機半導体材料として用いること、さらに該化合物を有機半導体層に含有させることにより、高移動度な有機薄膜トランジスタが得られることを見出した。すなわち、本発明は以下を要旨とするものである。
【0012】
1.下記一般式(1)で表されるペリレン誘導体化合物。
【0013】
【化1】
【0014】
[式中、RとR10は、互いに異なるものとして、
水素原子、ハロゲン原子、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基、
または置換基を有していてもよい炭素原子数2~36の複素環基を表す。
~Rは、同一でも異なっていてもよく、
水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基、ニトロ基、ニトロソ基、チオ基、アミノ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
または置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もくしは分岐状のアルケニル基を表し、
とR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、は互いに結合して環を形成していてもよい。]
【0015】
2.前記一般式(1)において、RまたはR10は下記一般式(2)で表される1価基である化合物。
【0016】
【化2】
【0017】
[式中、R11~R15は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
または置換基を有していてもよい炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基を表す。
nは0~5の整数を表す。
11~R15の少なくとも1つがフッ素原子で置換されていてもよいものとする。]
【0018】
3.前記一般式(2)において、下記一般式(3)または(4)で表される1価基である化合物。
【0019】
【化3】
【0020】
【化4】
【0021】
[式中、nは0~5の整数を表し、mは0~10の整数を表す。]
【0022】
4.前記一般式(1)において、R~R10が少なくとも1個のフッ素原子を含有する化合物。
【0023】
5.前記一般式(1)において、R、R、R、Rが少なくとも1個のシアノ基、または置換基を有していてもよい炭素原子数1~4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である化合物。
【0024】
6.25±2℃における芳香族系有機溶媒またはハロゲン系有機溶媒への溶解度が0.02~5質量%濃度である、前記記載の化合物。
【0025】
7.前記化合物を含有する有機半導体用組成物。
【0026】
8.前記有機半導体用組成物を用いた有機半導体素子。
【0027】
9.移動度が10-3cm/Vs以上である、前記記載の有機半導体素子。
【0028】
10.前記有機半導体素子を用いた有機薄膜トランジスタ。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るペリレン誘導体化合物は、溶液プロセスに対応した有機溶媒への溶解性を有するn型有機半導体材料を提供することができ、さらに該有機半導体材料を含有する有機半導体用組成物を用いることにより、電子移動度に優れた有機薄膜トランジスタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態に係るボトムゲート・ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタの構成を表す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明の一般式(1)で表される化合物は、溶媒に溶解させ、該化合物を含有する有機半導体用組成物を用いて有機半導体層を形成し、さらに有機半導体素子として用いる。なお、本願明細書において、有機半導体用組成物および有機半導体層は、一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種を含有し、任意選択的に本願発明に属さない他の半導体用材料等を含む組成物をいう。
【0032】
以下に、前記一般式(1)で表される化合物について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお本願明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0033】
本発明において、「ハロゲン原子」としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素があげられる。
【0034】
一般式(1)において、RまたはR10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」における「炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」としては、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソオクチル基、t-オクチル基などがあげられる。
【0035】
一般式(1)において、RまたはR10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」としては、具体的に、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、またはこれらのアルケニル基が複数結合した炭素原子数2~18の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基などをあげることができる。
【0036】
一般式(1)において、RまたはR10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基」における「炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基」としては具体的に、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基(アントリル基)、フェナントリル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基などをあげることができる。なお、本発明において芳香族炭化水素基には、「縮合多環芳香族基」および「アリール基」が含まれるものとする。
【0037】
一般式(1)において、RまたはR10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数2~36の複素環基」における「炭素原子数2~36の複素環基」としては具体的に、ピリジル基、ピリミジリニル基、トリアジニル基、チエニル基、フリル基(フラニル基)、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、ナフチルジニル基、アクリジニル基、フェナントロリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、オキサゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルボニリル基などをあげることができる。
【0038】
一般式(1)において、RまたはR10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基」または「置換基を有していてもよい炭素原子数2~36の複素環基」における「置換基」としては、具体的に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;シアノ基;水酸基;ニトロ基;ニトロソ基;カルボキシル基;
メチルエステル基、エチルエステル基などのカルボン酸エステル基;
メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基などの炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基;
ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基など炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基;
メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基などの炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基;
フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基などの炭素原子数6~30の芳香族炭化水素基;
ピリジル基、ピリミジリニル基、トリアジニル基、チエニル基、フリル基(フラニル基)、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、ナフチルジニル基、アクリジニル基、フェナントロリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、オキサゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルボニリル基などの炭素原子数2~30の複素環基;
ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ジ-t-ブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などの、炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または炭素原子数6~18の芳香族炭化水素基などから選択される置換基を有する炭素原子数0~18の一置換もしくは二置換アミノ基;
メチルチオ基、エタンチオ基、プロピルチオ基、ジ-t-ブチルチオ基、ヘキサ-5-エン-3-チオ基、フェニルチオ基、ビフェニルチオ基などの炭素原子数1~18のチオ基;
などをあげることができる。これらの「置換基」は、1つのみ含まれてもよく、複数含まれてもよく、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。また、これら「置換基」はさらに前記例示した置換基を有していてもよい。これらの「置換基」は、1つのみ含まれてもよく、複数含まれてもよく、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。また、少なくとも1以上のフッ素原子を含有していてもよい。
【0039】
一般式(1)において、RまたはR10は、互いに異なり、置換基を有していてもよい炭素原子数1~4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数6~18の芳香族炭化水素基であり、少なくとも1以上のフッ素原子を含有していることが好ましい。
【0040】
一般式(1)において、R~Rは「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」における「炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」としては、一般式(1)において、RまたはR10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」と同じものをあげることができる。
【0041】
一般式(1)において、R~Rは「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」としては、一般式(1)において、RまたはR10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」と同じものをあげることができる。
【0042】
一般式(1)において、R~Rで表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」または「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」の「置換基」としては、前記一般式(1)において、RまたはR10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基」または「置換基を有していてもよい炭素原子数2~36の複素環基」における「置換基」と同じものをあげることができる。また、少なくとも1以上のフッ素原子を含有していてもよい。
【0043】
一般式(1)において、R~Rは上記で述べたとおりの置換基を表すが、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとRは、単結合、硫黄原子を介した結合もしくは窒素原子を介した結合によって互いに結合して環を形成していてもよい。
【0044】
一般式(1)において、R~Rは、同一でも異なっていてもよく、水素原子、シアノ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1~5の直鎖状のアルキル基であることが好ましい。
【0045】
一般式(1)において、RまたはR10は前記一般式(2)で表されることが好ましい。
【0046】
一般式(2)において、R11~R15で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」における「炭素原子数1~20の直鎖状もくしは分岐状のアルキル基」としては、一般式(1)において、RまたはR10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」と同じものをあげることができる。
【0047】
一般式(2)において、R11~R15で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」としては、一般式(1)において、RまたはR10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」と同じものをあげることができる。
【0048】
一般式(2)において、R11~R15で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基」における「炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基」としては、一般式(1)において、RまたはR10で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数6~36の芳香族炭化水素基」と同じものをあげることができる。
【0049】
一般式(2)において、R11~R15は、水素原子、フッ素原子、および置換基を有していてもよい炭素原子数1~5の直鎖状のアルキル基であることが好ましく、置換基を有していてもよい炭素原子数1~5の直鎖状のアルキル基は少なくとも1のフッ素原子を含有していることが好ましい。また、nは0~3の整数であることが好ましい。
【0050】
一般式(2)において、前記一般式(3)および(4)で表される1価基であることが好ましい。
【0051】
一般式(3)および(4)において、nは0~3の整数であることが好ましく、mは0~6の整数であることが好ましい。
【0052】
一般式(1)で表される本発明の化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下の例示化合物は水素原子、炭素原子等を一部省略して記載しており、存在し得る異性体のうちの一例を示したものであり、その他すべての異性体を包含するものとする。また、それぞれ2種以上の異性体の混合物であってもよい。
【0053】
【化5】
【0054】
【化6】
【0055】
【化7】
【0056】
【化8】
【0057】
【化9】
【0058】
【化10】
【0059】
【化11】
【0060】
【化12】
【0061】
【化13】
【0062】
【化14】
【0063】
【化15】
【0064】
【化16】
【0065】
【化17】
【0066】
【化18】
【0067】
【化19】
【0068】
【化20】
【0069】
【化21】
【0070】
【化22】
【0071】
【化23】
【0072】
【化24】
【0073】
【化25】
【0074】
【化26】
【0075】
【化27】
【0076】
【化28】
【0077】
【化29】
【0078】
【化30】
【0079】
【化31】
【0080】
【化32】
【0081】
【化33】
【0082】
一般式(1)で表される本発明のペリレン誘導体化合物は、J.Org.Chem.2014,79,P.6655-6662(非特許文献2)等公知の方法によって合成することができる。ペリレンテトラカルボン酸ジ無水物を、片側のみエステル化し、該当するアミン類と反応させた後、エステル部分を閉環し、再び該当するアミン類と反応させることで、前記一般式(1)で表されるペリレン誘導体を得ることができる。
【0083】
一般式(1)で表されるペリレン誘導体化合物の精製方法としては、カラムクロマトグラフィーによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土等による吸着精製、溶媒による再結晶や晶析等により行うことができる。或いはこれらの方法を併用して、純度を高めた化合物を使用することが有効である。
また、これらの化合物の同定は、核磁気共鳴分析(NMR)により行うことができる。
【0084】
本発明における前記一般式(1)で表される化合物は、溶媒への溶解性が向上する傾向にある。本発明による前記一般式(1)で表される化合物の溶解性は、透明サンプルチューブに秤量し、濃度が0.1質量%となるようにトルエンまたはクロロホルム溶媒を添加し、室温下(20~27℃)にて数時間撹拌後、目視にて溶解度(または飽和溶解度)を評価している。溶解度は0.01~10質量%濃度であることが好ましく、0.02~5質量%濃度であることがさらに好ましい。
【0085】
本発明のペリレン誘導体化合物は有機半導体材料として用いることができる。本発明において、上記有機半導体材料と溶媒を含有する組成物を、有機半導体用組成物という。有機半導体用組成物は、前記一般式(1)で表される化合物の1種または2種以上を含み、任意選択的に本発明に属さない他の化合物を含んでいてもよい。また、溶媒に溶解した溶液であっても、上記有機半導体材料が分散した分散液であってもよく、分散液中に上記有機半導体材料が部分的に残存している状態も含むものとする。本発明の有機半導体用組成物としては、溶液であることが好ましい。
【0086】
以上説明した本発明のペリレン誘導体化合物は、例えば薄膜化することで、電界効果型トランジスタ、発光ダイオードなどのダイオード、光電変換素子、有機薄膜太陽電池等の有機半導体素子の有機半導体層を構成する有機半導体材料として好適に用いることができる。本発明においては、有機薄膜トランジスタとして用いることが好ましい。
【0087】
本発明のペリレン誘導体化合物による有機半導体材料を含む薄膜は、真空蒸着法等のドライプロセスにより形成することもできるが、溶液プロセスによっても安定かつ均一な薄膜を形成することができる。本発明での溶液プロセスによる製膜とは、上記有機半導体と溶媒からなる有機半導体用組成物を用いて製膜する方法をさす。具体的には、ドロップキャスト法、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法などの塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの各種印刷法、Langmuir-Blodgett(LB)法などの方法である。上記のように製膜後、加熱して溶媒を除去することによっても薄膜を形成することができる。本発明の有機半導体薄膜はドロップキャスト法またはスピンコート法、インクジェト法での形成が好ましい。
【0088】
本発明において、上記有機半導体用組成物に用いる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族系有機溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、ジクロロメタン等のハロゲン系有機溶媒;ベンゾニトリル、アセトニトリル等のニトリル系溶媒;2-ブタノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、c-プロピルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒;メタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、シクロヘキサノール、2-n-ブトキシエタノール等のアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等があげられるが、これらに限定されない。また、上記溶媒は、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。特に、芳香族系有機溶媒およびハロゲン系有機溶媒を使用することが好ましい。
【0089】
本発明においては、前記有機半導体用組成物中の前記一般式(1)で表される化合物の含有量は、特に限定されないが、0.01~20質量%濃度であることが好ましく、0.02~10質量%濃度であることがさらに好ましい。
【0090】
本発明の有機半導体素子の一例として、有機薄膜トランジスタについて説明する。
有機薄膜トランジスタは、一般的に、基板と、有機半導体層と、この有機半導体層にゲート絶縁層を介して積層されたゲート電極と、有機半導体層を介して対向配置されたソース電極及びドレイン電極とを備えて構成されている。本発明においては、前記有機半導体層として、前記一般式(1)で表されるペリレン誘導体化合物を含む有機半導体薄膜を用いる。有機薄膜トランジスタの形態は特に限定されるものではなく、ボトムゲート・ボトムコンタクト型、ボトムゲート・トップコンタクト型、トップゲート・ボトムコンタクト型、トップゲート・トップコンタクト型のいずれの形態を用いてもよく、それぞれの形態に応じて上記ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層を適宜配置すればよい。
【0091】
本発明の有機薄膜トランジスタの形態について、図面の説明をする。
図1は有機薄膜トランジスタの一形態を示す模式的断面図であり、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造をとる。この有機薄膜トランジスタの形態においては、基板1上にゲート電極2が設けられ、そのゲート電極上にゲート絶縁膜3が積層されており、その上に所定の間隔で形成されたソース電極6およびドレイン電極4が形成されており、さらにその上に有機半導体層5が積層されている。
【0092】
上記構成の有機薄膜トランジスタの素子では、有機半導体層がチャネル領域を形成しており、ゲート電極の電圧によって、ソース電極とドレイン電極間に流れる電流が制御され、オンオフ動作をする。
【0093】
移動度とは、本発明の素子において、電子または正孔のキャリアの移動のし易さを示し、電子移動度とは固体物質中の電子の移動のし易さを示す量である。電界Eにおけるキャリア速度vは下式(a-1)で表され、
v=μE (a-1)
比例係数μが移動度(cm/V・s)である。半導体において移動度は抵抗率に反比例するため、移動度は物質の電気的特性を決める重要なパラメータである。
【0094】
本発明の有機半導体素子または有機薄膜トランジスタは、電子移動度により伝達特性を評価できる。電子移動度は有機薄膜トランジスタにおいて、大きな電流を得られるなど、大きな値であることが重要である。電子移動度は0.001cm/V・s以上であることが望ましい。
【0095】
本発明において有機半導体層を溶液プロセスで形成する場合は、上記有機半導体用組成物を用いる。有機半導体層を溶液プロセスにより形成後、ホットプレートやオーブン等の熱処理を行うことが好ましい場合がある。熱処理温度に関しては、特に制限するものではないが、室温(20~27℃)~200℃程度で実施する。
【0096】
〈基板〉
本発明の有機薄膜トランジスタなどの有機半導体素子に使用する基板としては、特に限定するものではないが、一般にはガラス、石英、シリコン、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンおよびポリカーボネートなどのプラスチック基板などを用いることができる。
【0097】
〈電極〉
有機薄膜トランジスタの電極に用いる材料としては、導電性の材料であれば用いることができる。好ましくは有機半導体材料への電子注入障壁が小さい材料が望ましい。
【0098】
各電極の形成方法としては、特に限定するものではないが、蒸着やスパッタリングなどのドライ製膜、印刷による方法を用いて形成することができ、ドライ製膜の場合はフォトリソグラフィーやエッチング処理により、所望の形状にパターニングでき、メタルマスクを用いてパターニングすることもできる。
【0099】
ソースおよびドレイン電極の膜厚は、特に限定するものではないが、数nm~数μmの範囲に設定することが好ましい。なお、ソースおよびドレイン電極の間隔は、数百nm~数百μmの範囲に設定することが好ましい。
【0100】
〈ゲート電極〉
ゲート電極を構成する材料としては、例えば、pドープシリコン、nドープシリコン、インジウム・錫酸化物(ITO)、ドーピングしたポリチオフェンやポリアニリン系等の導電性高分子、金,銀,白金,アルミニウム、クロム等の金属等があげられ、本発明においては、アルミニウムを用いるのが好ましい。
【0101】
〈絶縁層〉
ゲート絶縁層を構成する材料としては、例えば、酸化シリコン,窒化シリコン,酸化アルミニウム,窒化アルミニウム,酸化タンタル等の無機化合物、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリメチルメタクリレート、シアノエチルプルラン、パリレン(日本パリレン合同会社 登録商標)など有機高分子化合物を用いることができる。
【0102】
ゲート絶縁膜の膜厚は、特に限定するものではないが、数nm~数μmの範囲に設定することが好ましい。
【0103】
〈ソース電極、ドレイン電極〉
ソース電極及びおよびドレイン電極を構成する材料としては、例えば、金、銀、白金、クロム、アルミニウム、インジウム、アルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs)、アルカリ土類金属(Mg,Ca,Sr,Ba)等があげられる。本発明においては金を用いるのが好ましい。
【0104】
〈有機半導体層〉
本発明の有機薄膜トランジスタは、有機半導体層に前記一般式(1)で表される化合物を含有してなるものである。
有機半導体層には、本発明のペリレン誘導体化合物に加え、例えば、フラーレンおよびその誘導体や、フッ素やニトリル等の電子吸引基で置換された、ナフタレン、ナフタレンジイミド、アントラセン、テトラセン、ペリレン、ペンタセン、ピレン、コロネン、クリセン、デカシクレン、ビオランスレン等の多環芳香族分子およびこれらの誘導体、トリフェニレン、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の芳香環オリゴマー、ポリマーおよびこれらの誘導体、フタロシアニン、テトラチアフルバレン、テトラチオテトラセンおよびこれらの誘導体等の、電子欠乏性の有機半導体材料を適切な量で併用してもよい。また、ポリスチレン、ポリビニルフェノールなどのポリマー材料を適切な量添加しても良い。
【0105】
〈封止〉
本発明の有機薄膜トランジスタは、大気中の酸素や水分などの影響を軽減する目的で、有機薄膜トランジスタの外周面の全面または一部にガスバリア層を設けることができる。ガスバリア層を形成する材料としては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール、共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレンなどがあげられる。
【実施例
【0106】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、合成実施例において得られた化合物の同定は、H-NMR(日本電子株式会社製核磁気共鳴装置、JNM-ECA-600)により行った。
【0107】
[合成実施例1]化合物(A-1)の合成
1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸ジブチルエステルモノ無水物の合成を、J.Org.Chem.2014,79,P.6655-6662に記載の方法にて行い、下記式(5)で表される1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸ジブチルエステルモノ無水物を10g得た。(工程1)
【0108】
【化34】
【0109】
窒素置換した反応容器に上記式(5)で表される1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸ジブチルエステルモノ無水物(7.0g)、ヘプタフルオロブチルアミン(4.5g)、酢酸 (3.4g)のN-メチル-2-ピロリドン溶液(45mL)を窒素気流下、60℃にて5時間撹拌した。反応液を室温まで冷却後、水(250mL)に注加し30分撹拌後、濾過して粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、展開溶液:トルエン)で精製後、減圧乾燥を行い、下記式(6)で表される1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸ジブチルエステルモノイミド(収量:3.5g、収率:50%)を得た。(工程2)
【0110】
【化35】
【0111】
窒素置換した反応容器に、上記式(6)表される1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸ジブチルエステルモノイミド(3.5g)、p-トルエンスルホン酸一水和物(3.5g)のトルエン溶液(140mL)を窒素気流下、90℃にて20時間撹拌した。反応液を室温まで冷却後、濾過して得られた粗生成物を、トルエンおよび水で洗浄した。その後減圧乾燥し、下記式(7)で表される1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸モノ無水物モノイミド(収量:2.4g、収率:83%)を得た。(工程3)
【0112】
【化36】
【0113】
窒素置換した反応容器に、上記式(7)表される1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸モノ無水物モノイミド(1.0g)、ペンタフルオロアニリン(750mg)、酢酸(431μL)のN-メチル-2-ピロリドン溶液(6mL)を窒素気流下、120℃にて18時間撹拌した。反応液を室温まで冷却後、2N塩酸水(100mL)に注加し30分撹拌後、濾過して粗生成物を得た。クロロホルム溶解分をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、展開溶液:トルエン)で精製後、減圧乾燥を行い、下記式(8)で表される1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸ジイミド(収量:165mg、収率:14%)を得た。(工程4)
【0114】
【化37】
【0115】
窒素置換した反応容器に、上記式(8)表される1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸ジイミド(200mg)、シアン化銅(359mg)、N,N-ジメチルホルムアミド溶液(10mL)を窒素気流下、90℃にて8時間撹拌した。室温まで冷却後、反応液を水(200mL)に注加し30分撹拌後、濾過して粗生成物を得た。粗生成物をクロロホルムに添加し、溶解分をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、展開溶液:クロロホルム)で精製後、減圧乾燥を行い、目的の化合物を赤紫色固体(収量:130mg,収率:74%)として得た。(工程5)
【0116】
得られた赤紫色固体のNMR分析を行い、以下の8個の水素のシグナルを検出し、(A-1)で表される構造と同定した。
【0117】
H-NMR(600MHz、CDCl):δ(ppm)=5.03-5.08(2H)、9.01-9.04(2H)、9.07(1H)、9.08(1H)、9.75-9.77(2H)。
【0118】
【化38】
【0119】
[合成実施例2]化合物(A-2)の合成
合成実施例1におけるペンタフルオロアニリンの代わりに、ペンタフルオロフェネチルアミンを用いた以外は合成実施例1と同様に合成し、目的の化合物を赤紫色固体(230mg,収率31%)として得た。
【0120】
得られた赤紫色固体のNMR分析を行い、以下の12個の水素のシグナルを検出し、(A-2)で表される構造と同定した。
【0121】
H-NMR(600MHz、CDCl):δ(ppm)=3.26(2H)、4.52-4.55(2H)、5.02-5.07(2H)、8.91-9.06(4H)、9.71-9.75(2H)。
【0122】
【化39】
【0123】
[合成実施例3]化合物(A-3)の合成
合成実施例1におけるペンタフルオロアニリンの代わりに、4-フルオロアニリンを用いた以外は合成実施例1と同様に合成し、目的の化合物を赤紫色固体(140g,収率81%)として得た。
【0124】
得られた赤紫色固体のNMR分析を行い、以下の12個の水素のシグナルを検出し、(A-3)で表される構造と同定した。
【0125】
H-NMR(600MHz、CDCl):δ(ppm)=5.03-5.08(2H)、7.28-7.34(4H)、9.00-9・02(2H)、9.04(1H)、9.06(1H)、9.75-9.77(2H)。
【0126】
【化40】
【0127】
[合成実施例4]化合物(A-4)の合成
合成実施例1におけるペンタフルオロアニリンの代わりに4-(ノナフルオロブチル)アニリンを用いた以外は合成実施例1と同様に合成し、目的の化合物を赤紫色固体(741mg,収率98%)として得た。
【0128】
得られた赤紫色固体のNMR分析を行い、以下の12個の水素のシグナルを検出し、(A-4)で表される構造と同定した。
【0129】
H-NMR(600MHz、CDCl):δ(ppm)=5.03-5.08(2H)、
7.52-7.54(2H)、7.84-7.85(2H)、9.00-9.06(4H)、9.76-9.78(2H)。
【0130】
【化41】
【0131】
[合成実施例5]化合物(A-5)の合成
合成実施例1におけるペンタフルオロアニリンの代わりに、4-(トリフルオロメチル)ベンジルアミンを用いた以外は合成実施例1と同様に合成し、目的の化合物を赤紫色固体(590mg,収率80%)として得た。
【0132】
得られた赤紫色固体のNMR分析を行い、以下の14個の水素のシグナルを検出し、(A-5)で表される構造と同定した。
【0133】
H-NMR(600MHz、CDCl):δ(ppm)=5.02-5.07(2H)、
5.46-5.48(2H)、7.60-7.61(2H)、7.68-7.70(2H)、8.90-9.09(4H)、9.71-9.74(2H)。
【0134】
【化42】
【0135】
[合成実施例6](A-6)の合成
合成実施例1におけるヘプタフルオロブチルアミンの代わりにウンデカフルオロヘキシルアミンを用いた以外は合成実施例1と同様に合成し、目的の化合物を赤紫色固体(723mg,収率69%)として得た。
【0136】
得られた赤紫色固体のNMR分析を行い、以下の8個の水素のシグナルを検出し、(A-6)で表される構造と同定した。
【0137】
H-NMR(600MHz、CDCl):δ(ppm)=5.01-5.12(2H)、
9.01-9.08(4H)、9.74-9.78(2H)。
【0138】
【化43】
【0139】
[合成実施例7](A-11)の合成
合成実施例1におけるヘプタフルオロブチルアミンの代わりにペンタデカフルオロオクチルアミンを用い、ペンタフルオロアニリンの代わりに4-(ノナフルオロブチル)アニリンを用いた以外は合成実施例1と同様に合成し、目的の化合物を赤紫色固体(170mg,収率65%)として得た。
【0140】
得られた赤紫色固体のNMR分析を行い、以下の12個の水素のシグナルを検出し、(A-11)で表される構造と同定した。
【0141】
H-NMR(600MHz、CDCl):δ(ppm)=5.04-5.09(2H)、
7.52-7.54(2H)、7.84-7.85(2H)、9.00-9.06(4H)、9.76-9.78(2H)。
【0142】
【化44】
【0143】
[合成実施例8](A-12)の合成
合成実施例7における4-(ノナフルオロブチル)アニリンの代わりに4-(トリデカフルオロヘキシル)アニリンを用いた以外は合成実施例7と同様に合成し、目的の化合物を赤紫色固体(120mg,収率66%)として得た。
【0144】
得られた赤紫色固体のNMR分析を行い、以下の12個の水素のシグナルを検出し、式A-12)で表される構造と同定した。
【0145】
H-NMR(600MHz、CDCl):δ(ppm)=5.06(2H)、7.51-7.55(2H)、7.83-7.86(2H)、8.99-9.00(2H)、
9.02-9.06(2H)、9.75-9.78(2H)。
【0146】
【化45】
【0147】
[合成実施例9](A-17)の合成
合成実施例1と同様に工程4までの合成を行い、下記式(9)の1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸ジイミドを得た。
【0148】
【化46】
【0149】
1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸ジイミド(1.5g,1.46mmol)、ヨウ化銅(112mg,0.59mmol)、フェナントロリン一水和物(116mg,0.69mmol)、カリウムトリメトキシ(トリフルオロメチル)ボラート(1.27g,8.76mmol)のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を窒素気流下、60℃にて4時間撹拌を行った。室温まで冷却後、反応液に酢酸エチルを加え濾過後、濾液に水を加え分液した。有機層を減圧濃縮により溶媒除去し、粗生成物を得た。粗生成物をクロロホルムに溶解させ、溶解分をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、展開溶液:トルエン)で精製後、減圧乾燥を行い、目的の化合物を赤紫色固体(収量:250mg,収率:17%)として得た。
【0150】
得られた赤紫色固体のNMR分析を行い、以下の12個の水素のシグナルを検出し、式(A-17)で表される構造と同定した。
【0151】
H-NMR(600MHz、CDCl):δ(ppm)=5.05-5.10(2H)、7.53-7.54(2H)、7.83-7.85(2H)、8.63-8.65(2H)、8.88-8.89(2H)、9.12-9.14(2H)。
【0152】
【化47】
【0153】
[比較化合物]化合物(B-1)の合成
Angew.Chem.Int.Ed.2004,43,6363-6366に記載の方法にて行い、下記式(B-1)で表される1,7-ジシアノペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸ジイミドを得た。
【0154】
【化48】
【0155】
[実施例1](A-1)の溶解度測定
化合物(A-1)を透明サンプルチューブに秤量し、濃度が0.1質量%となるようにトルエンまたはクロロホルム溶媒に添加し、室温下(25±2℃)にて数時間撹拌後、溶解性を目視にて評価した。結果を表1に示す。判定条件は完全溶解(25±2℃)を○、濁り残る(25±2℃)を△、不溶解(25±2℃)を×と表記した。
【0156】
[実施例2~実施例9]
化合物(A-1)の代わりに(A-2)、(A-3)、(A-4)、(A-5)、(A-6)、(A-11)、(A-12)又は(A-17)を用いて実施例1と同様に溶解度測定を行った。結果を表1に示す。
【0157】
[比較例1]
化合物(A-1)の代わりに比較化合物(B-1)を用いて実施例1と同様に溶解度測定を行った。結果を表1に示す。
【0158】
【表1】
*判定条件
○:完全溶解(25±2℃)
△:濁り残る(25±2℃)
×:不溶解(25±2℃)
【0159】
表1より、実施例で表される化合物は、クロロホルムおよびトルエンに対して、比較例と同等以上の溶解性を有することが明らかである。
【0160】
[実施例10]有機薄膜トランジスタの伝達特性の測定
ガラス基板を中性洗剤で10分間、水で10分間、アセトンで10分間、イソプロピルアルコールで10分間、超音波洗浄を行った後、100℃のオーブンにて1時間乾燥を行った。基板表面に、ゲート電極となるアルミを、メタルマスクを用いて50nmの厚さに蒸着した。その後、ポリビニルフェノールとメラミンの混合溶液をスピンコート法により塗布し、ホットプレートにて100℃で10分間、150℃で1時間加熱し、400nmの厚さに絶縁層を形成した。続いて、絶縁層の上に、ソースおよびドレイン電極となる金を50nmの厚さに蒸着し、フォトリソグラフィー法により、チャネル幅500μm、チャネル長5μmのソースおよびドレイン電極を形成した。
【0161】
化合物(A-1)に濃度が0.1質量%となるようにクロロホルムを加え、有機半導体溶液を調製した。基板に対して、UVオゾン処理を7分間行った後、有機半導体溶液をチャネル上にドロップキャスト法により塗布し、ホットプレートにて150℃で10分間加熱し、有機半導体層を形成した。
【0162】
作成した有機薄膜トランジスタを、半導体アナライザー(ケースレー社製、4200-SCS型)を用いて、大気中遮光下、ゲート電圧が-40V~80Vの範囲で有機薄膜トランジスタの伝達特性の測定行った。
【0163】
測定値より、移動度μ(cm/Vs)は、下記式(a-2)および(a-3)を用いて算出を行った。この測定より求めた移動度の結果を表2に示す。
【0164】
【数1】
ox=絶縁膜の厚さ
εox=真空の誘電率、ε=絶縁膜の誘電率
W=チャネル幅、L=チャネル長
Id=ドレイン電流、Vg=ゲート電圧
【0165】
[実施例11~実施例16]有機薄膜トランジスタの伝達特性の測定
合成化合物(A-1)の代わりに(A-2)、(A-3)、(A-4)、(A-6)、(A-11)、(A-12)を用いて実施例10と同様に作製した有機薄膜トランジスタの伝達特性の測定行った。この測定より求めた移動度の結果を表2に示す。
【0166】
[比較例2]
化合物として、(A-1)の代わりに本発明に属さない(B-1)を用いた以外は実施例10と同様に作製した有機薄膜トランジスタの伝達特性の測定行った。この測定より求めた移動度の結果を表2に示す。
【0167】
【表2】
【0168】
表2より、実施例で表される化合物を有機半導体層に用いた有機薄膜トランジスタは、比較例よりも高い電子移動度を有することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明によるペリレン誘導体化合物は、溶液プロセスに対応した溶解性を有するn型有機半導体材料を提供することができる。さらに該有機半導体材料を含有する有機半導体用組成物を用いることにより、電子輸送性に優れた有機薄膜トランジスタを提供することができる。
【符号の説明】
【0170】
1:基板
2:ゲート電極
3:ゲート絶縁層
4:ドレイン電極
5:有機半導体層
6:ソース電極
図1