(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】紙または板紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21D 1/00 20060101AFI20230607BHJP
D21H 11/20 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
D21D1/00
D21H11/20
(21)【出願番号】P 2019063654
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2018070299
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】青木 義弘
(72)【発明者】
【氏名】乙幡 隆範
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】奥村 寛之
(72)【発明者】
【氏名】川真田 友紀
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214943(JP,A)
【文献】特開2011-074528(JP,A)
【文献】特開2009-263849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21D 1/00 - 99/00
D21H 11/00 - 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料パルプに微細セルロースを添加して混合パルプとする工程、
当該混合パルプを叩解する工程、
前記叩解後の混合パルプを含む紙料を調製する工程、および
当該紙料を抄紙する工程を含む、紙または板紙の製造方法。
【請求項2】
前記叩解後の混合パルプのカナダ標準濾水度(c.s.f.)が50ml以上600ml以下である、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記微細セルロースが化学変性微細セルロースである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記化学変性微細セルロースが、平均繊維径500nm未満のセルロースナノファイバーである、請求項3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙または板紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙は、印刷用紙や包装用紙、紙器容器、板紙等の種々の分野に使用されており、いずれの用途においても使用時や加工時に十分な強度を有することが求められている。紙の強度を改善することを目的として、例えば特許文献1および2には、脱墨パルプに微細セルロースを添加した紙が開示されている。また、加工用途に用いられる紙は、加工性の観点から、適度に低い比曲げ抵抗を有することが求められており、特に多層抄き、高坪量などの特徴を有する板紙には罫線部から割れる罫線割れや折り割れ等の製函性の観点から、強度を保ちつつ比曲げ抵抗を適度に低くすることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-173884号公報
【文献】特開2002-173888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のとおり、紙には強度を保ちつつ適度に低い比曲げ抵抗を有することが求められているが、一般に強度が高くなると比曲げ抵抗も高くなる傾向にあるので、前記要求を満たすことは容易でなかった。かかる事情を鑑み、本発明は高い強度と適度に低い比曲げ抵抗を有する紙を提供することを課題とする。
【課題を達成するための手段】
【0005】
発明者らは、原料パルプに微細セルロースを添加し、これを叩解処理することで、高い強度と適度に低い比曲げ抵抗を有する紙が得られることを見出した。すなわち、前記課題は、以下の本発明によって解決される。
[1]原料パルプに微細セルロースを添加して混合パルプとする工程、
当該混合パルプを叩解する工程、
前記叩解後の混合パルプを含む紙料を調製する工程、および
当該紙料を抄紙する工程を含む、紙または板紙の製造方法。
[2]前記叩解後の混合パルプのカナダ標準濾水度(c.s.f.)が50ml以上600ml以下である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[3]前記微細セルロースが化学変性微細セルロースである、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記化学変性微細セルロースが、平均繊維径500nm未満のセルロースナノファイバーである、[3]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によって、高い強度と適度に低い比曲げ抵抗を有する紙または板紙を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
板紙とは、一般に紙の中でも特に厚いものを指すが、本発明においては、例えば、ライナーや中芯原紙などの段ボール原紙、板紙原紙、白板紙、チップボール、黄ボール、キャリアテープ、紙器原紙等の多層紙を「板紙」といい、単層紙を「紙」という。
【0009】
1.製造方法
本発明の製造方法は、原料パルプに微細セルロースを添加して混合パルプとする工程と、これを叩解する叩解工程と、当該叩解後の混合パルプを含む紙料を調製する工程と、当該紙料を抄紙する抄紙工程を備える。
【0010】
1-1.混合パルプ調製工程および叩解工程
(1)微細セルロース
微細セルロースとは、パルプ等のセルロース系原料を解繊して得られる繊維である。本発明の微細セルロースの平均繊維径は60μm以下であることが好ましく、平均繊維長は3mm以下であることが好ましい。本発明において、平均繊維径とは長さ加重平均繊維径であり、平均繊維長とは長さ加重平均繊維長であり、これらは例えばバルメット株式会社製フラクショネーター等で測定できる。本発明の微細セルロースは、未変性セルロースを原料とする微細セルロースであってもよいし、化学変性セルロースを原料とする微細セルロースであってもよいが、叩解効率の観点から、化学変性微細セルロースであることが好ましい。化学変性微細セルロースとは、パルプ等のセルロース系原料を化学変性後に解繊して得られる。
【0011】
本発明において、微細セルロースとはパルプなどのセルロース材料を解繊(繊維をほぐす)または叩解(繊維をフィブリル化する)処理することによって得られる、微細構造を有するセルロース繊維であり、500nm以上の平均繊維径を有する微細セルロースをミクロフィブリルセルロースファイバー(以下「MFC」ともいう)といい、500nm未満の平均繊維径を有する微細セルロースをセルロースナノファイバー(以下「CNF」ともいう)という。MFCは原料としたパルプ繊維の形状を維持したまま、繊維表面のフィブリル化を進行させて得られるので極微小セルロース繊維が存在する。例えばMFCはロールブラシ状の形状を有する。一方、CNFには前記極微小セルロース繊維が独立して存在している。本発明の前記効果には、CNFやMFCの有する極微小セルロース繊維が寄与していると考えられる。その理由は明らかではないが、極微小セルロース繊維は通常のパルプ繊維と比較して、比表面積が多いため水素結合を形成する結合点が多く、紙を構成するパルプ繊維との間に多くの結合点を形成し、紙の中で緻密なネットワーク構造を形成するためと考えられる。
【0012】
1)CNF
CNFはセルロースのシングルミクロフィブリルであり、その平均繊維径は500nm未満であり、2nm以上100nm以下が好ましく、2nm以上30nm以下がより好ましい。その平均繊維長は1μm以上5μm以下程度が好ましい。本発明では、濃度1%(w/v)の水分散液(すなわち、100mLの水中に1gのCNF(乾燥重量)を含む水分散液)としたときに100mPa・s以上10000mPa・s以下であるB型粘度(60rpm、20℃)を与えるCNFを用いることが好ましい。当該粘度はより好ましくは200mPa・s以上7000mPa・sである。CNFの平均繊維径および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いても測定できる。
【0013】
CNFの水分散液のB型粘度は、公知の手法により測定することができる。例えば、東機産業社のVISCOMETER TV-10粘度計を用いて測定することができる。測定時の温度は20℃であり、ロータの回転数は60rpmである。本発明のCNFの水分散液は、チキソトロピー性を有し、撹拌によりせん断応力を与えることで粘度が低下し、静置状態では粘度が上昇しゲル化するという特性を持つため、十分に撹拌した状態でB型粘度を測定することが好ましい。
【0014】
2)MFC
MFCの平均繊維径は1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。その上限は60μm以下が好ましい。MFCの平均繊維長は300μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましく、800μm以上がさらに好ましい。平均繊維長の上限は3000μm以下が好ましく、1500μm以下が好ましく、1100μm以下がさらに好ましい。MFCの平均アスペクト比は、10以上が好ましく、30以上がより好ましい。その上限は特に限定されないが、1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、80以下がさらに好ましい。平均アスペクト比は、下記の式により算出できる。
平均アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0015】
MFCは、セルロース系原料をビーターやディスパーザーなどで比較的弱く解繊または叩解処理して得られる。したがってMFCは、CNFと比較して繊維径が大きく、また繊維自体の微細化(内部フィブリル化)を抑制しながら効率的に繊維表面を毛羽立たせた(外部フィブリル化した)形状を有する。本発明では、濃度1%(w/v)の水分散液(すなわち、100mLの水中に1gのMFC(乾燥重量)を含む水分散液)としたときに10mPa・s以上1000mPa・s以下のB型粘度(60rpm、20℃)を与えるMFCを用いることが好ましい。当該粘度は、より好ましくは50mPa・s以上800mPa・s以下である。
【0016】
本発明で用いるMFCは、パルプを化学変性した後に機械的に解繊処理を施して得られる機械解繊化学変性MFCであることが好ましい。上記のとおり、MFCはセルロース系原料とは解繊の度合いが異なる。解繊の度合いを定量化することは一般に容易ではないが、本発明においては、MFCの機械解繊前後の濾水度や保水度の変化量で解繊度合を定量化することが可能であることを見出した。本発明の機械解繊化学変性MFCは、解繊前の化学変性パルプの濾水度(F0)が10ml以上低下する程度に機械解繊または叩解して得たものであることが好ましい。すなわち、処理後の濾水度をFとすると、濾水度の差ΔF=F0-Fは10ml以上であることが好ましく、20ml以上であることがより好ましく、30ml以上であることがさらに好ましい。化学変性パルプの濾水度は変性の度合いによって異なるが、原料とする化学変性パルプの濾水度を基準とするため、このように定義することで化学変性の度合いに因らず解繊度合いを特定できる。前述の通り、F0は化学変性パルプの変性の度合いによって異なるため、ΔFの上限を一義に定めることは困難であるが、処理後の濾水度Fは0mlより大きいことが好ましい。Fが0mlのMFCとするためには、強力な機械解繊を要するため、このように得られたMFCは平均繊維径が500nm未満(セルロースナノファイバー)となる可能性がある。また、濾水度が0mlのMFCを抄紙工程に多量に添加した場合、抄紙に供するパルプスラリーの水切れが悪化する恐れがある。バルメット株式会社製フラクショネーターによって求めたMFCのフィブリル化率は3.5%以上が好ましく、4%以上であることがより好ましい。
【0017】
3)添加量
微細セルロースの添加量は、抄紙後の紙において原料パルプに対して所望の量となるように調整される。原料パルプに対する当該量は原料パルプに対して20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。前述のようにCNFやMFCは、中には保水性の高いものもあり、添加量が上限値を超えるとパルプスラリーの水持ちが高くなり、抄紙時の水切れが悪化する恐れがある。抄紙時の水切れが悪いと、脱水に時間がかかるため生産性が低下し、さらに、抄紙ワイヤー上で良好な地合いを形成できず紙力等の紙質が低下する恐れがある。微細セルロースの添加量の下限は本発明の効果が得られる範囲であれば限定されないが、原料パルプに対して1ppm重量以上程度が好ましく、3ppm重量以上がより好ましく、本発明の効果を高いレベルで得るためには、500ppm重量以上がさらに好ましく、5000ppm重量以上であることがさらに好ましい。
【0018】
3)微細セルロースの製造
3-1)セルロース系原料
微細セルロースは、セルロース系原料を必要に応じて化学変性し、その後解繊または叩解することにより製造できる。セルロース系原料は、特に限定されないが、例えば、植物、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物に由来するものが挙げられる。植物由来のものとしては、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)が挙げられる。本発明で用いるセルロース原料は、これらのいずれかまたは組合せであってもよいが、好ましくは植物または微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。
【0019】
3-2)化学変性
化学変性とはセルロース系原料に官能基を導入することをいい、本発明においてはアニオン性基を導入することが好ましい。アニオン性基としてはカルボキシル基、カルボキシル基含有基、リン酸基、リン酸基含有基等の酸基が挙げられる。カルボキシル基含有基としては、-COOH基、-R-COOH(Rは炭素数が1以上3以下のアルキレン基)、-O-R-COOH(Rは炭素数が1以上3以下のアルキレン基)が挙げられる。リン酸基含有基としては、ポリリン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、ポリホスホン酸基等が挙げられる。これらの酸基は反応条件によっては、塩の形態(例えばカルボキシレート基(-COOM、Mは金属原子))で導入されることもある。本発明において化学変性は、酸化またはエーテル化が好ましい。
【0020】
酸化は公知のとおりに実施できる。例えばN-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質との存在下で、酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、およびカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。あるいは、オゾン酸化方法が挙げられる。この酸化反応によればセルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
【0021】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5重量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース重量〔g〕
【0022】
このようにして測定した酸化セルロース中のカルボキシル基の量は、絶乾重量に対して、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.5mmol/g以上、さらに好ましくは0.8mmol/g以上である。当該量の上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、さらに好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、当該量は0.1mmol/g以上3.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.5mmol/g以下がより好ましく、0.8mmol/g以上2.0mmol/g以下がさらに好ましい。
【0023】
エーテル化としては、カルボキシメチル(エーテル)化、メチル(エーテル)化、エチル(エーテル)化、シアノエチル(エーテル)化、ヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピル(エーテル)化、エチルヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピルメチル(エーテル)化などが挙げられる。この中でもカルボキシメチル化が好ましい。カルボキシメチル化は、例えば、発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法により実施できる。
【0024】
カルボキシメチル化セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法による。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5g以上2.0g以下程度精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0025】
カルボキシメチル化セルロース中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。当該置換度の上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01以上0.50以下が好ましく、0.05以上0.40以下がより好ましく、0.10以上0.30以下がさらに好ましい。
【0026】
3-3)解繊または叩解
セルロースを機械的に解繊または叩解することで微細セルロースを、化学変性セルロースを機械的に解繊または叩解することで化学変性微細セルロースを製造できる。解繊または叩解処理は1回行ってもよいし、これらを単独でまたは組合せて複数回行ってもよい。複数回の場合それぞれの解繊または叩解の時期、場所は限定されず、使用する装置は同一でも異なってもよい。
【0027】
解繊または叩解処理に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機など回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。
【0028】
(2)原料パルプ
原料パルプとは、本発明の紙または板紙の主成分をなすパルプである。原料パルプとしては、機械パルプ(MP)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の一般的に使用されているものを使用できる。また、再生パルプを使用してもよく、再生パルプの原料となる古紙としては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌等が挙げられる。
【0029】
(3)混合パルプ
原料パルプに微細セルロースを添加して混合パルプとする。混合する方法は限定されないが、原料パルプと水からなるスラリーと、微細セルロースと水からなるスラリーをそれぞれ準備して、両者を混合することが好ましい。
【0030】
本発明においては、原料パルプと微細セルロースを混合して混合パルプとしてから叩解(リファイナー処理)する。通常、叩解処理は、抄紙原料となる原料パルプの柔軟化や繊維束をほぐす目的で行われる処理であり、その用途により度合いは調節される。抄紙用パルプ(原料パルプ)は、叩解処理により濾水度の低下、得られる紙の高密度化が起こり、破裂強度や引張強度は向上するが、その一方で引裂強度は低下し、抄紙時の水切れも悪化(パルプと水の親和性の向上)してしまう。このメカニズムはパルプ表面のフィブリル化による繊維間結合点の増加によると推察される。一方で、発明者らは、本発明の混合パルプを叩解した場合、原料パルプを単独で叩解した場合よりも濾水度の低下が進みやすくなることを見出した。これは前述のメカニズムとは異なり、原料パルプのセルロース繊維と、微細セルロースの有する微小セルロース繊維との間で多数のネットワークが形成され、さらにネットワークに寄与しないフリーの微細セルロースが水を捕捉することで、結果的に繊維に水が捕捉され、濾水度の低下が起こりやすくなるためと推測される。また、上述のように多数のネットワークが形成されるため、パルプを抄紙、乾燥した紙としたときに、高い紙力が発現すると考えられる。
【0031】
叩解方法は限定されないが、通常使用されるリファイナーや高速離解機を使用することが好ましい。リファイナーとしてはシングルディスクリファイナーやダブルディスクリファイナー等が挙げられる。当該処理に供する原料パルプはすでに叩解処理したものであってもよいし、未叩解のものでもよいが、製造効率の観点からは後者が好ましい。叩解処理に供する混合パルプのスラリーは、固形分(パルプと微細セルロースの合計量濃度)が0.5重量%以上35重量%以下であることが好ましい。叩解条件は、叩解後の混合パルプのカナダ標準濾水度(c.s.f.)が50ml以上600ml以下となる条件であり、好ましくは300ml以上600ml以下となる条件である。叩解後の混合パルプのc.s.fが前記範囲であると、原料パルプの叩解が適度に進み、紙力と適度に低い比曲げ抵抗を兼ね備えた紙または板紙を得ることができる。さらに、より優れた効果を得る観点から、混合パルプは叩解処理時に、填料、歩留剤等の製紙薬品を含まないことが好ましい。
【0032】
1-2.抄紙工程
(1)紙料
前述のとおりに準備した叩解済混合パルプに必要に応じて、公知の填料、歩留剤等の製紙薬品を添加し、紙料を調製する。紙料は水を含む。紙料中の各成分濃度は適宜調整される。
【0033】
(2)抄紙
抄紙は公知の方法によって実施できる。すなわち、前述のとおりに準備した叩解済混合パルプを含む紙料を調製し、長網型湿式抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機等、公知の抄紙機を用いて実施できる。板紙(多層紙)を抄紙する場合は、各層の紙料をそれぞれ調製し、長網型湿式抄紙機等を用いて実施できる。
【0034】
1-3.他の工程
本発明の製造方法は、原紙の上にクリア塗工層または顔料塗工層を設ける塗工工程を備えていてもよく、さらには得られた紙または板紙を表面処理する工程を備えていてもよい。また、クリア塗工層や顔料塗工層に微細セルロースを含有してもよい。これらの方法は、公知のとおりに実施できる。
【0035】
2.紙または板紙
(1)坪量
本発明によって得られる紙(単層紙)の原紙としての坪量は10g/m2以上が好ましく、20g/m2以上がより好ましい。当該坪量の上限は500g/m2以下が好ましい。本発明によって得られる板紙(多層紙)の原紙としての坪量は、1層あたり10g/m2以上が好ましく、20g/m2以上がより好ましい。1層あたりの坪量の上限は500g/m2以下が好ましく、は200g/m2以下がより好ましい。
【0036】
(2)特性
本発明によって製造される紙または板紙は、優れた破裂強さと、低い比曲げ抵抗を備える。この理由は限定されないが、未叩解の原料パルプと微細セルロースを同時に叩解すると原料パルプの叩解によりフィブリルが形成されると同時に微細セルロースがパルプのフィブリルとの間で繊維間結合を形成して緻密なネットワーク構造を構築し、微細セルロースが均一に、余すことなく繊維間結合の増強に寄与できるためと推察される。さらに、このようにして得られた紙は、剛直なパルプ繊維同士の面に近い繊維結合の形成だけでなく、パルプ繊維間に入り込んだ微細なセルロース繊維とパルプ繊維の間の多数の3次元的な結合点を形成するため、比曲げ抵抗の増強抑制を両立しながら強度向上効果を発現すると推察される。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明を説明する。特に断らない限り、パルプ等の重量は絶乾重量である。
【0038】
(1)評価
坪量:JIS P 8223:2006に従った。
バルク厚さおよびバルク密度:JIS P 8223:2006を参考に測定した。
カナダ標準濾水度(c.s.f.:ml):JIS P 8121-2:2012に従
った。
比破裂強さ:JIS P 8131:2009に従った。
比曲げ抵抗:JIS P 8125-1:2017に従った(曲げ長さ10mm、30°)。
【0039】
(2)化学変性微細セルロースの製造
定法に従いNBKP(日本製紙株式会社製)をTEMPO酸化処理した後に、高圧ホモジナイザーを用いて解繊し、カルボキシル基量1.53mmol/gの化学変性セルロースナノファイバー(以下単に「CNF」ともいう)を得た。
【0040】
[実施例A1]
NUKP(日本製紙株式会社製、c.s.f.671ml、固形分濃度9.5重量%)、水および前記CNFの水分散液(CNF濃度0.57重量%)を混合して、混合パルプスラリーを調製した。ただし、CNFの添加量は、混合パルプスラリーに対して1000ppmとした。当該混合パルプスラリーに水を添加して固形分濃度を3重量%に調整し、シングルディスクリファイナー(熊谷理機工業株式会社製)を用いて叩解処理を行った。本例では以下の叩解条件で1度だけ処理を行い(1パス処理)、カナダ標準濾水度が622mlの混合パルプを得た。
ワンパス叩解条件:クリアランス0.20mm
【0041】
このようにして得たスラリーに、カルシウムイオン濃度がパルプに対して1.0重量%となるよう塩化カルシウムを添加した後、2.5重量%の硫酸バンド、0.15重量%のポリアクリルアミド、0.4重量%のサイズ剤を添加して紙料を調製した。当該紙料を、JIS P 8222を参考に手抄き紙を作成して、坪量が109.2g/m2の紙を製造し、評価した。
【0042】
[実施例A2~A4]
叩解処理を2パス処理(クリアランス0.10mm)、3パス処理(クリアランス0.06mm)、4パス処理(クリアランス0.05mm)にそれぞれ変更した以外は実施例A1と同様にして紙を製造して評価した。
【0043】
[比較例A1]
叩解処理を実施しなかった以外は、実施例A1と同様にして紙を製造して評価した。
【0044】
[比較例B1]
NUKP(日本製紙株式会社製、c.s.f.475ml)に対して、カルシウムイオン濃度がパルプに対して1.0重量%となるよう塩化カルシウムを添加した後、2.5重量%の硫酸バンド、0.15重量%のポリアクリルアミド、0.4重量%のサイズ剤を添加して紙料を調成した。当該紙料をJIS P 8222を参考に手抄きにより抄紙して、坪量が105.0g/m2の紙を製造し、評価した。
【0045】
[比較例B2]
叩解処理時ではなく紙料調製時にNUKP(日本製紙株式会社製、c.s.f.475ml)に対して1000ppm重量の前記CNFを添加し、比較例B1と同様にして紙を製造して評価した。
【0046】
[比較例C1]
CNFを添加しなかった以外は比較例A1と同様にして紙を製造して評価した。
【0047】
[比較例C2~C4]
CNFを添加しなかった以外は実施例A2~A4と同様にして紙を製造して評価した。
【0048】
[比較例C5]
叩解処理を5パス処理(クリアランス0.05mm)とした以外は、比較例C2と同様にして紙を製造して評価した。
【0049】
【0050】
【0051】
これらの結果を表1、2、および
図1、2に示す。表1は、原料パルプおよび微細セルロースを共処理(叩解前に微細セルロースを添加)した場合の、濾水度や紙質の変化について示した表であり、表2は、叩解済み原料パルプに微細セルロースを添加した際の紙質の変化について示した表である。また、
図1および2は、原料パルプと微細セルロースを混合叩解したスラリーと、原料パルプのみを叩解したスラリーの濾水度と、それを抄紙した紙の比破裂強さおよび比曲げ抵抗との関係を示す。
【0052】
表1から明らかなとおり、本発明の製造方法によれば効率的にパルプの叩解を進める(濾水度を低下させる)ことができた。特に比較例C4と実施例A4を比較すると、両者はパス回数が同じであるにもかかわらず、後者の方が低い濾水度を有することが明らかである。また比較例C4と実施例A3の比較から、実施例A3では少ないパス回数で比較例C4と同等の濾水度を達成できたことが明らかである。さらに図に示すように、原料パルプ単独で製造した紙と比較して比破裂強さが向上し、かつ比曲げ抵抗が低下していた(同等C.S.F.で比較)。
【0053】
比破裂強さについては、CNFを添加せずに原料パルプのみを叩解して得た紙(比較例C4)に比べて、CNFと原料パルプを混合して叩解して得た紙(実施例A3)の方が向上していた(約4%)。一方、比較例B1と比較例B2の比較から、叩解後のパルプスラリーにCNFを添加して得た紙の比破裂強さ(比較例B2)は、CNFを添加せずに叩解して得た紙(比較例B1)に比べて比破裂強さは2%程度向上したものの、比曲げ抵抗も向上しており剛直な紙になっていた。