(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】固体電解質接合体
(51)【国際特許分類】
C25B 9/23 20210101AFI20230607BHJP
H01M 8/1246 20160101ALI20230607BHJP
H01M 8/126 20160101ALI20230607BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20230607BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20230607BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230607BHJP
H01M 8/124 20160101ALI20230607BHJP
H01M 8/1253 20160101ALI20230607BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20230607BHJP
C01B 35/12 20060101ALI20230607BHJP
C01F 17/241 20200101ALI20230607BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20230607BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20230607BHJP
H01M 8/1213 20160101ALN20230607BHJP
【FI】
C25B9/23
H01M8/1246
H01M8/126
H01M4/90 X
H01M4/92
H01M4/90 B
H01M4/86 T
H01M8/124
H01M8/1253
C25B1/02
C01B35/12 C
C01F17/241
C25B13/04 301
H01M8/12 101
H01M8/1213
H01M8/12 102A
(21)【出願番号】P 2019144933
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 旬春
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 広平
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-115592(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146493(WO,A1)
【文献】特開2013-051101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、これらの間に位置し且つ酸化物イオン伝導性を有する固体電解質層とを有する固体電解質接合体であって、
前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方と前記固体電解質層との間に中間層を有し、
前記固体電解質層が、ランタンの酸化物を含み、
前記中間層が、ランタン及び希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)を含む酸化セリウムからなり、且つ前記固体電解質層に近い側から遠い側に向けてランタンの原子数濃度が減少して
おり、
前記中間層が、前記固体電解質層に近い側に位置する第1中間層と、前記固体電解質層から遠い側に位置する第2中間層とを含み、
前記固体電解質層と前記第1中間層との境界におけるランタンの原子数濃度C1が最も高く、前記アノード又は前記カソードと前記第2中間層との境界におけるランタンの原子数濃度C3が最も低く、前記第1中間層と前記第2中間層との境界におけるランタンの原子数濃度C2は、C1と同じであるか、又はC1とC3との間にあり、
第1中間層に含まれるセリウムに対するランタンの原子数の比であるLa/Ceの値が0.3以上2.0以下であり、
第2中間層に含まれるセリウムに対するランタンの原子数の比であるLa/Ceの値が0.01以上0.2以下である、固体電解質接合体。
【請求項2】
アノードと、カソードと、これらの間に位置し且つ酸化物イオン伝導性を有する固体電解質層とを有する固体電解質接合体であって、
前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方と前記固体電解質層との間に中間層を有し、
前記固体電解質層が、ランタンの酸化物を含み、
前記中間層が、ランタン及び希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)を含む酸化セリウムからなり、且つ前記固体電解質層に近い側から遠い側に向けてランタンの原子数濃度が減少して
おり、
前記カソード及びアノードの少なくとも一方が、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びPtからなる群より選択される1種以上の元素を含む酸化物と、Ptとの複合体からなる、固体電解質接合体。
【請求項3】
アノードと、カソードと、これらの間に位置し且つ酸化物イオン伝導性を有する固体電解質層とを有する固体電解質接合体であって、
前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方と前記固体電解質層との間に中間層を有し、
前記固体電解質層が、ランタンの酸化物を含み、
前記中間層が、ランタン及び希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)を含む酸化セリウムからなり、且つ前記固体電解質層に近い側から遠い側に向けてランタンの原子数濃度が減少して
おり、
前記固体電解質層が、アパタイト型結晶構造を有する化合物からなる、固体電解質接合体。
【請求項4】
前記中間層が、前記固体電解質層に近い側に位置する第1中間層と、前記固体電解質層から遠い側に位置する第2中間層とを含み、
前記固体電解質層と前記第1中間層との境界におけるランタンの原子数濃度C1が最も高く、前記アノード又は前記カソードと前記第2中間層との境界におけるランタンの原子数濃度C3が最も低く、前記第1中間層と前記第2中間層との境界におけるランタンの原子数濃度C2は、C1と同じであるか、又はC1とC3との間にある、請求項
2又は3に記載の固体電解質接合体。
【請求項5】
第1中間層に含まれるセリウムに対するランタンの原子数の比であるLa/Ceの値が0.3以上2.0以下であり、
第2中間層に含まれるセリウムに対するランタンの原子数の比であるLa/Ceの値が0.01以上0.2以下である、請求項
4に記載の固体電解質接合体。
【請求項6】
前記中間層が前記希土類元素としてサマリウムを含む、請求項1ないし
5のいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項7】
前記カソード及びアノードの少なくとも一方が、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びPtからなる群より選択される1種以上の元素を含む酸化物と、Ptとの複合体からなる、請求項1
又は3に記載の固体電解質接合体。
【請求項8】
前記固体電解質層が、M
1、M
2及びO(M
1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。M
2は、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Si、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)を含む化合物からなる、請求項1ないし
7のいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項9】
前記固体電解質層が、アパタイト型結晶構造を有する化合物からなる請求項1
又は2に記載の固体電解質接合体。
【請求項10】
前記固体電解質層が、一般式:M
1
9.33+x[T
6.00-yM
3
y]O
26.0+z(式中、M
1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Tは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。M
3は、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。xは-1.33以上1.50以下の数である。yは0.00以上3.00以下の数である。zは-5.00以上5.20以下の数である。Tのモル数に対するM
1のモル数の比率は1.33以上3.61以下である。)で表される複合酸化物を含む化合物からなる、請求項
9に記載の固体電解質接合体。
【請求項11】
請求項1
ないし3のいずれか一項に記載の固体電解質接合体の全体を所定温度に保持し、アノードとカソードとの間に直流電圧を印加することにより、カソード側の雰囲気中に含まれるガスを、前記固体電解質層を通じてアノード側に透過させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電解質接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物イオン伝導性の固体電解質は、例えば酸素センサ、酸素ポンプ、固体酸化物形燃料電池等として有用な材料である。例えば特許文献1には、アノードとカソードとの間に、アパタイト型複合酸化物からなる固体電解質が介装された電解質・電極接合体が記載されている。カソード側電極と固体電解質との間には、酸化物イオン伝導が等方性を示す中間層が介装されている。中間層は、サマリウム、イットリウム、ガドリニウム又はランタンがドープされた酸化セリウムからなる。固体電解質は、LaxSi6O1.5X+12(8≦X≦10)からなる。この電解質・電極接合体によれば、固体酸化物形燃料電池の発電性能が向上すると、同文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のとおり、酸化物イオン伝導性の固体電解質を利用したデバイスは種々提案されているものの、デバイス全体で評価した場合、固体電解質が本来的に有している酸化物イオン伝導性を十分に引き出しているとはいえなかった。特に、固体電解質自体の酸化物イオン伝導性が高い場合であっても、固体電解質と電極との界面における電気抵抗が高くなってしまい、デバイス全体としての電気抵抗が高くなる場合がある。したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る固体電解質接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、アノードと、カソードと、これらの間に位置し且つ酸化物イオン伝導性を有する固体電解質層とを有する固体電解質接合体であって、
前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方と前記固体電解質層との間に中間層を有し、
前記固体電解質層が、ランタンの酸化物を含み、
前記中間層が、ランタン及び希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)を含む酸化セリウムからなり、且つ前記固体電解質層に近い側から遠い側に向けてランタンの原子数濃度が減少している、固体電解質接合体を提供することにより前記の課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、酸化物イオンの伝導性の高い固体電解質接合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本実施形態の固体電解質接合体の一実施形態の断面構造を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の固体電解質接合体の別の実施形態の断面構造を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施例1で得られた固体電解質接合体を対象としたエネルギー分散型X線分光法により得られたスペクトルイメージングデータに対して多変量解析(COMPASS)を行うことで得られた、主成分マップを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1には本発明の排気ガス用固体電解質接合体の一実施形態が示されている。同図に示す固体電解質接合体10は固体電解質層11を備えている。固体電解質層11は、所定の温度以上で酸化物イオン伝導性を有する材料からなる。固体電解質層11は、アノード13とカソード12との間に位置している。つまりアノード13及びカソード12は、固体電解質層11の各面側に配置されている。アノード13は、直流電源の正極に電気的に接続可能になっている。一方、カソード12は、直流電源の負極に電気的に接続可能になっている。アノード13とカソード12との間に所定の電圧が印加されることで、カソード12側において酸素ガス(O
2)が電子を受け取り酸化物イオン(O
2-)が生成する。生成した酸化物イオンは固体電解質層11中を移動してアノード13に達する。アノード13に達した酸化物イオンは電子を放出して酸素ガスとなる。このような反応によって、固体電解質層11は、カソード12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じてアノード13側に透過させることが可能になっている。カソード12側で生成した酸化物イオンが、固体電解質層11に含まれる酸化物イオン伝導性を有する材料を経由してアノード13側に移動することに伴い電流が生じる。また、得られる電流値がカソード12側の酸素濃度に依存することから、本発明の固体電解質接合体は限界電流式酸素センサとして使用することができる。この際、カソード側に小孔や多孔質材料を利用した酸素ガスの拡散制限層を設け、酸素濃度を制御しやすくすることができる。
【0009】
カソード12と固体電解質層11との間には、カソード側中間層15が配置されている。一方、アノード13と固体電解質層11との間には、アノード側中間層16が配置されている。
図1においては、カソード12とカソード側中間層15とが異なるサイズで示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えばカソード12とカソード側中間層15とは同じサイズであってもよい。アノード13とアノード側中間層16に関しても同様であり、両者は同じサイズであってもよく、あるいは例えばアノード13よりもアノード側中間層16のサイズの方が大きくなっていてもよい。また、
図1においては、カソード側中間層15のサイズと固体電解質層11のサイズとが同じに示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えば固体電解質層11とカソード側中間層15とが異なるサイズであってもよい。アノード13側に関しても同様である。
【0010】
図1に示すとおり、アノード側中間層16は、固体電解質層11と直接に接している。したがって、両者間には何らの層も介在していない。一方、カソード12側中間層15に関しても、該中間層15は、固体電解質層11と直接に接している。したがって、両者間には何らの層も介在していない。アノード側中間層16とアノード13との間、及び/又は、カソード側中間層15とカソード12との間には、必要に応じて別の層を配置しても構わない(図示せず)。
【0011】
カソード側中間層15及びアノード側中間層16(以下、便宜的に両者を総称して単に「中間層」ということもある。)は、固体電解質接合体10における固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間の酸化物イオン伝導性を向上させる目的で用いられる。固体電解質接合体10における電気抵抗を低減させるためには、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性を高めることが重要であるが、酸化物イオン伝導性の高い材料を用いて固体電解質層11を構成した場合であっても、該固体電解質層11とアノード13及び/又はカソード12との間の酸化物イオン伝導性が低い場合には、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高めることに限界がある。本発明者が検討した結果、固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間に特定の材料からなる酸化物の中間層を配置することで、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性が高まることを知見した。具体的には、カソード側中間層15若しくはアノード側中間層16又はその両方が、ランタンと、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く。)と、を含む酸化セリウム(以下「La-LnDC」ともいう。)から構成されていると、酸化物イオン伝導性が一層高まることが判明した。以下、カソード側中間層15及びアノード側中間層16について説明する。
【0012】
中間層を構成するLa-LnDCにおいては、母材である酸化セリウム(CeO2)に、ランタン及びセリウム以外の希土類元素が固溶(ドープ)した形で含まれている。ここでドープ元素である希土類元素は、通常、酸化セリウムの結晶格子中において、セリウムが位置するサイトを置換した形で該サイトに存在している。ランタンはこの酸化セリウムの固溶体の中に含まれる形で存在している。すなわちランタンは、酸化セリウムの結晶格子中において、セリウムが位置するサイトを置換した形で該サイトに存在し得るか、あるいは希土類元素がドープされた酸化セリウムの結晶粒界に存在し得る。
【0013】
中間層を構成するLa-LnDCにおいて、酸化セリウムにドープされる希土類元素としては、例えばサマリウム、ガドリニウム、イットリウム、エルビウム、イッテルビウム、ジスプロシウムなどが挙げられる。これらの希土類元素は1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に中間層は、ランタンと、サマリウム又はガドリニウムと、を含む酸化セリウムを含んで構成されることが、固体電解質接合体10全体の酸化物イオン伝導性を一層高め得る点から好ましい。なお、両中間層15,16を構成する該La-LnDCは同種でもよく、あるいは異種でもよい。また、カソード側中間層15及びアノード側中間層16のうちの一方が、La-LnDCを含んで構成されており、他方が他の物質から構成されていてもよい。
【0014】
各中間層全体として見たとき、酸化セリウムにドープされる希土類元素の割合は、セリウムに対する希土類元素(Ln)の原子数比であるLn/Ceで表して、0.05以上0.8以下であることが好ましく、0.1以上0.7以下であることが更に好ましく、0.2以上0.6以下であることが一層好ましい。希土類元素のドープの程度をこの範囲内に設定することによって、固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間の酸化物イオン伝導性の向上が図られる。
【0015】
前記のLn/Ceの値は、エネルギー分散型X線分光法(以下「EDS」ともいう。)や電子プローブマイクロアナライザー(以下「EPMA」ともいう。)などによって測定される。
【0016】
中間層を構成するLa-LnDCにおいて、ランタンは、固体電解質接合体10全体の酸化物イオン伝導性を向上させる目的で含有される。この目的のために、各中間層全体として見たとき、セリウムに対するランタンの原子数比であるLa/Ceの値を0.08以上とすることが好ましい。また、ランタンが多過ぎる場合にはイオン伝導性は却って低下するため1.2以下とすることが好ましい。このLa/Ceの値は0.2以上1.2以下とすることが更に好ましく、0.3以上1.2以下とすることが一層好ましい。La/Ceの値は、EDSやEPMAなどによって測定される。
【0017】
中間層の厚みは、一定以上の厚みがあれば、固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間の酸化物イオン伝導性を効果的に向上させ得ることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、中間層の厚みは、カソード12側及びアノード13側それぞれ独立に、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.3μm以上0.8μm以下であることが更に好ましい。中間層の厚みは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いた断面観察によって測定することができる。カソード側中間層15の厚みとアノード側中間層16の厚みとは同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0018】
本実施形態の固体電解質接合体10においては、中間層は、その厚さ方向におけるランタンの原子数濃度が制御されたものとなっている。詳細には、中間層においてはランタンの原子数濃度に傾斜が設けられており、固体電解質層11に近い側から遠い側に向けてランタンの原子数濃度が減少するように、中間層にランタンを存在させている。このようにランタンを存在させることで、酸化物イオン伝導性が一層高まり、固体電解質接合体10に流れる電流値を大きくすることができる。中間層においてランタンの原子数濃度に傾斜を設ける手段については後述する。「ランタンの原子数濃度」とは、単位体積中に存在するすべての原子の数に対するランタンの原子の数の割合のことである。
【0019】
中間層においてランタンの原子数濃度は、固体電解質層11に近い側から遠い側に向けて、連続的に減少しているか、又はステップ状に減少している。いずれの場合であっても、中間層をその厚み方向に沿って見たとき、該中間層に含まれるランタンの原子数濃度は、中間層と固体電解質層11との境界において最も高く、中間層とカソード12との境界において最も低くなっている。
【0020】
中間層と固体電解質層11との境界におけるセリウムの原子数濃度に対するランタンの原子数濃度の比であるLa/Ceの値をC1とし、中間層とカソード12との境界におけるセリウムの原子数濃度に対するランタンの原子数濃度の比であるLa/Ceの値をC2としたとき、C1/C2の値は、中間層における酸化物イオン伝導性を一層高める観点から、5以上であることが好ましく、20以上であることが更に好ましく、50以上であることが一層好ましい。上限は特にないが、材料設計の観点から典型的には95以下である。
【0021】
図2には、本発明の固体電解質接合体10の別の実施形態が示されている。同図に示す実施形態においても、
図1に示す実施形態と同様に、中間層におけるランタンの原子数濃度に傾斜が設けられている。詳細には、カソード側中間層15及びアノード側中間層16のそれぞれが、固体電解質層11に近い側に位置するカソード側第1中間層15a及びアノード側第1中間層16aと、固体電解質層11から遠い側に位置するカソード側第2中間層15b及びアノード側第2中間層16bとを含んで構成されている。そして、カソード側第1中間層15aは、カソード側第2中間層15bよりもランタンの原子数濃度が高い。同様に、アノード側第1中間層16aは、アノード側第2中間層16bよりもランタンの原子数濃度が高い。
【0022】
カソード側中間層15については、固体電解質層11とカソード側第1中間層15aとの境界におけるランタンの原子数濃度C1が最も高く、カソード12とカソード側第2中間層15bとの境界におけるランタンの原子数濃度C3が最も低く、カソード側第1中間層15aとカソード側第2中間層15bとの境界におけるランタンの原子数濃度C2は、C1と同じであるか、又はC1とC3との間にある。したがって、カソード側中間層15の全体で見ると、固体電解質層11に近い側から遠い側に向けてランタンの原子数濃度が減少している。
【0023】
カソード側第1中間層15aにおいては、C1よりもC2の方が小さい値である場合、ランタンの原子数濃度は連続的に減少しているか、又はステップ状に減少している。カソード側第2中間層15bにおいても、ランタンの原子数濃度は連続的に減少しているか、又はステップ状に減少している。
【0024】
一方、アノード側中間層16については、固体電解質層11とアノード側第1中間層16aとの境界におけるランタンの原子数濃度C4が最も高く、アノード13とアノード側第2中間層16bとの境界におけるランタンの原子数濃度C6が最も低く、アノード側第1中間層16aとアノード側第2中間層16bとの境界におけるランタンの原子数濃度C5は、C4と同じであるか、又はC4とC6との間にある。したがって、アノード側中間層16の全体で見ると、固体電解質層11に近い側から遠い側に向けてランタンの原子数濃度が減少している。
【0025】
アノード側第1中間層16aにおいては、ランタンの原子数濃度は連続的に減少しているか、又はステップ状に減少している。同様に、アノード側第2中間層16bにおいても、ランタンの原子数濃度は連続的に減少しているか、又はステップ状に減少している。
【0026】
カソード側第1中間層15aとカソード側第2中間層15bとの境界、及びアノード側第1中間層16aとアノード側第2中間層16bとの境界が存在するかは、EDSの測定結果を多変量解析して得られた主成分マップによって判断できる。境界は、例えばEDSのライン分析を行い、含有元素の原子数濃度が急峻な変化を示す位置から決定する。なお、カソード及び/又はアノードがランタンを含む場合、中間層からカソード及び/又はアノード側に向けてランタンの原子数濃度が増加する場合がある。この場合は、ランタン原子数濃度の最も低い位置を中間層とカソード及び/又はアノードの境界と判断する。
【0027】
カソード側第1中間層15a及びアノード側第1中間層16aに含まれるセリウムに対するランタンの原子数の比であるLa/Ceの値は、それぞれ独立に0.3以上2.0以下であることが好ましく、0.3以上1.2以下であることが更に好ましく、0.4以上1.2以下であることが一層好ましく、0.5以上1.2以下であることが更に一層好ましい。一方、カソード側第2中間層15b及びアノード側第2中間層16bに含まれるセリウムに対するランタンの原子数の比であるLa/Ceの値は、それぞれ独立に0.01以上0.2以下であることが好ましく、0.01以上0.15以下であることが更に好ましく、0.01以上0.1以下であることが一層好ましい。各中間層におけるLa/Ceの値をこのように設定することで、中間層の酸化物イオン伝導性を一層高めることができる。La/Ceの値は、EDSの測定結果を多変量解析(COMPASS)によって、各中間層に該当する相の特性X線のスペクトルを抽出し、定量分析することで得られる。又は、EDSのライン分析により定量することも可能である。
【0028】
図1及び
図2に示す実施形態の固体電解質接合体10において、固体電解質層11は、ランタンの酸化物を含んで構成されることが好ましい。かかる固体電解質層11は、酸化物イオンがキャリアとなる導電体である。ランタンの酸化物を含む酸化物イオン伝導性材料としては、例えばランタン及びガリウムを含む複合酸化物や、該複合酸化物にストロンチウム、マグネシウム又はコバルトなどを添加した複合酸化物、ランタン及びモリブデンを含む複合酸化物などが挙げられる。特に、酸化物イオン伝導性が高いことから、ランタン及びケイ素の複合酸化物からなる酸化物イオン伝導性材料を用いることが好ましい。
【0029】
ランタン及びケイ素の複合酸化物としては、例えばランタン及びケイ素を含むアパタイト型複合酸化物が挙げられる。アパタイト型複合酸化物としては、三価元素であるランタンと、四価元素であるケイ素と、Oとを含有し、その組成がLaxSi6O1.5x+12(Xは8以上10以下の数を表す。)で表されるものが、酸化物イオン伝導性が高い点から好ましい。このアパタイト型複合酸化物を固体電解質層11として用いる場合には、結晶のc軸方向を固体電解質層11の厚み方向と一致させることが好ましい。このアパタイト型複合酸化物の最も好ましい組成は、La9.33Si6O26である。このアパタイト型複合酸化物は、単結晶であってもよいし、各結晶粒のc軸方向が固体電解質層11の厚み方向に配向された多結晶体であってもよい。この複合酸化物は、例えば特開2013-51101号公報に記載の方法に従い製造することができる。
【0030】
ランタンの酸化物を含んで構成される固体電解質層11の別の好ましい例として、M1、M2及びOを含む化合物が挙げられる。このような化合物を用いることで、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性を一層高めることが可能となる。M1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。一方、M2は、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Si、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。前記の化合物はアパタイト型結晶構造を有することが好ましい。
【0031】
特に、固体電解質層11は、式(1)M1
9.33+x[T6.00-yM3
y]O26.0+zで表される複合酸化物であることが、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性を一層高める点から好ましい。式中、M1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Tは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。M3は、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。xは-1.33以上1.50以下の数である。yは0.00以上3.00以下の数である。zは-5.00以上5.20以下の数である。Tのモル数に対するM1のモル数の比率は1.33以上3.61以下である。前記の複合酸化物はアパタイト型結晶構造を有することが好ましい。
【0032】
式(1)において、M1として挙げられた、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Be、Mg、Ca、Sr及びBaは、正の電荷を有するイオンとなり、アパタイト型六方晶構造を構成し得るランタノイド又は第2族金属であるという共通点を有する元素である。これらの中でも、酸化物イオン伝導性をより高めることができる観点から、La、Nd、Ba、Sr、Ca及びCeからなる群のうちの一種又は二種以上の元素との組み合わせであるのが好ましく、中でも、La、又はNdのうちの一種、あるいは、LaとNd、Ba、Sr、Ca及びCeからなる群のうちの一種又は二種以上の元素との組み合わせであるのが好ましい。また、式(1)におけるTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素であるのがよい。
【0033】
式(1)におけるM3元素としては、例えばB、Zn、W、Sn及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素を好ましく挙げることができる。中でも、高配向度や高生産性の点で、B、Zn及びWが特に好ましい。
【0034】
式(1)において、xは、配向度及び酸化物イオン伝導性を高めることができる観点から、-1.33以上1.50以下の数であることが好ましく、-1.00以上1.00以下であることが好ましく、中でも0.00以上あるいは0.70以下、その中でも0.45以上あるいは0.65以下であることが好ましい。式(1)中のyは、アパタイト型結晶格子におけるT元素位置を埋めるという観点、及び酸化物イオン伝導性を高める観点から、0.00以上3.00以下の数であることが好ましく、0.40以上1.00未満であることが更に好ましく、中でも0.40以上0.90以下であることが好ましく、その中でも0.80以下、特に0.70以下、とりわけ0.50以上0.70以下であることが好ましい。式(1)中のzは、アパタイト型結晶格子内での電気的中性を保つという観点から、-5.00以上3.61以下の数であることが好ましく、-3.00以上2.00以下であることが好ましく、中でも-2.00以上あるいは1.50以下、その中でも-1.00以上あるいは1.00以下であることが好ましい。
【0035】
式(1)中、Tのモル数に対するM1のモル数の比率、言い換えれば式(1)における(9.33+x)/(6.00-y)は、アパタイト型結晶格子における空間的な占有率を保つ観点から、1.33以上3.61以下であることが好ましく、1.40以上3.00以下であることが更に好ましく、1.50以上2.00以下であることが一層好ましい。
【0036】
式(1)で表される複合酸化物のうち、Aがランタンである複合酸化物、すなわちLa9.33+x[T6.00-yM3
y]O26.0+zで表される複合酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる観点から好ましい。La9.33+x(Si5.30B0.70)O26.0+z、La9.33+x[T6.00-yM3
y]O26.0+zで表される複合酸化物の具体例としては、La9.33+x(Si4.70B1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Ge1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Zn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70W1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Sn1.30)O26.0+x、La9.33+x(Ge4.70B1.30)O26.0+zなどを挙げることができる。式(1)で表される複合酸化物は、例えば国際公開WO2016/111110に記載の方法に従い製造することができる。
【0037】
固体電解質層11の厚みは、固体電解質接合体10の電極間での電気抵抗を効果的に低下させる観点から、10nm以上1000μm以下であることが好ましく、100nm以上500μm以下であることが更に好ましく、400nm以上500μm以下であることが一層好ましい。固体電解質層11の厚みは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いた断面観察によって測定することができる。
【0038】
図1及び
図2に示す実施形態の固体電解質接合体10において、カソード12及びアノード13はそれぞれ独立に、例えば金属材料又は酸化物イオン伝導性を有する酸化物から構成することができる。カソード12及びアノード13が金属材料から構成されている場合、該金属材料としては、触媒活性が高い等の利点があることから、白金族の元素を含んで構成されることが好ましい。白金族の元素としては、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウムが挙げられる。これらの元素は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、アノード13及びカソード12として、それぞれ独立に、白金族の元素を含んだサーメットを用いることもできる。
【0039】
カソード12及びアノード13は、それらのうちのいずれか一方、特にアノード13が、酸化物からなり且つ酸化物イオン伝導性及び電子又はホール伝導性を有する混合伝導体からなることが好ましい。そのような混合伝導体としては、例えばABO3-δで表されるペロブスカイト構造を有するものが好適に用いられる。式中、Aは希土類元素又はアルカリ土類金属元素を表す。Bは遷移金属元素を表し、例えばTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta及びWである。δは、A、B及びOの価数及び量に起因して生じる端数である。ABO3-δで表されるペロブスカイト構造を有する酸化物は種々知られており、そのような酸化物が種々の結晶系、例えば立方晶、正方晶、菱面体晶及び斜方晶などを有することが知られている。これらの結晶系のうち、立方晶ペロブスカイト構造を有するABO3-δ型の酸化物をカソード12及び/又はアノード13として用いることが好ましい。かかる酸化物からなるカソード12及び/又はアノード13と、上述の材料からなる中間層とを組み合わせて固体電解質接合体10を構成することで、該固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を一層高めることができる。
【0040】
固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から、ABO3-δで表される酸化物は、Aサイトの一部にランタンを含んでいることが有利であることが本発明者の検討の結果判明した。以下、この酸化物のことを「酸化物a」ともいう。酸化物aにおけるランタンの含有量は、Aサイトに位置するすべての元素に占めるランタンの原子数比で表して、0.05以上0.80以下であることが好ましく、0.15以上0.70以下であることが更に好ましく、0.15以上0.60以下であることが一層好ましい。酸化物aを用いることで酸化物イオン伝導性が高まる理由は明らかではないが、Aサイトの一部にランタンが含まれることで、酸化物イオンが移動しやすい経路が酸化物a中に形成されるのではないかと本発明者は考えている。
【0041】
ABO3-δで表される酸化物におけるAサイトの一部にランタンが位置しているか否かは、X線回折法によって確認することができる。また、Aサイトに位置するすべての元素に占めるランタンの原子数比は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、X線回折法、ICP発光分光分析法によって測定することができる。
【0042】
同様に、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から、ABO3-δで表される酸化物は、Bサイトの遷移金属元素の一部が鉄であることが有利である。以下、この酸化物のことを「酸化物b」ともいう。酸化物bにおける鉄の含有量は、Bサイトに位置するすべての遷移金属元素に占める鉄の原子数比で表して、0.1以上1.0以下であることが好ましく、0.2以上1.0以下であることが更に好ましく、0.3以上1.0以下であることが一層好ましい。酸化物bを用いることで酸化物イオン伝導性が高まる理由は明らかではないが、ABO3-δで表されるBサイトに鉄が含まれることで、中間層との界面において酸化還元反応が生じ、酸化物イオンが移動しやすくなっているのではないかと本発明者は考えている。
【0043】
また、Bサイトに位置するすべての元素に占める鉄の原子数比は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、X線回折法、ICP発光分光分析法によって測定することができる。
【0044】
カソード12及び/又はアノード13を構成する材料として上述の酸化物aを用いる場合には、Aサイトを占めるアルカリ土類金属元素は、バリウム及びストロンチウムからなる群より選択される一種以上の元素であることが、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から好ましい。つまり酸化物aのAサイトに、ランタンと、それに加えてバリウム及びストロンチウムからなる群より選択される一種以上の元素とが少なくとも位置することが好ましい。
【0045】
一方、酸化物aのBサイトを占める遷移金属元素の一部には、周期表の第4周期に属する元素のうち少なくとも一種を含むことが好適である。とりわけ、このBサイトに位置する遷移金属元素は鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群より選択される元素のうちの少なくとも一種を含むことが好ましく、更には少なくとも一部が鉄であることが、固体電解質接合体10全体として酸化物イオン伝導性を高める観点から一層好ましい。同様の観点から、Bサイトの少なくとも一部に鉄及び銅のいずれもが位置することが特に好ましい。
【0046】
酸化物aのBサイトに鉄が位置する場合、固体電解質接合体10全体として酸化物イオン伝導性を高め、且つ酸化物aの結晶系に影響を与えない観点から、Bサイトに位置するすべての元素に占める鉄の原子数比は、0.05以上0.95以下であることが好ましく、0.10以上0.90以下であることが更に好ましく、0.20以上0.80以下であることが一層好ましい。また、酸化物aのBサイトに鉄及び銅が位置する場合、Bサイトに位置するすべての元素に占める鉄及び銅の合計の原子数比は、0.80以上1.00以下であることが好ましく、0.85以上1.00以下であることが更に好ましく、0.90以上1.00以下であることが一層好ましい。この場合、鉄と銅との原子数比は、Fe/Cuの値が、1.00以上19.0以下であることが好ましく、2.00以上14.00以下であることが更に好ましく、5.00以上9.00以下であることが一層好ましい。前記の原子数比及びFe/Cuの値は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、X線回折法、ICP発光分光分析法によって測定できる。
【0047】
カソード12及び/又はアノード13を構成する材料として上述の酸化物bを用いる場合には、Bサイトを占める元素の少なくとも一部は、鉄及び銅であることが、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から好ましく、酸化物bのBサイトに、鉄及び銅のみが位置することがより好ましい。
【0048】
一方、酸化物bのAサイトを占める元素は、アルカリ土類金属元素のうち、特に、バリウム及びストロンチウムの少なくともいずれか一種であることが、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から好ましい。同様の観点から、酸化物bのAサイトの一部にランタンを含んでいてもよい。とりわけ、酸化物bのAサイトにランタンと、バリウム及びストロンチウムのいずれか一種と、が位置することが好ましい。
【0049】
酸化物bのAサイトの一部にランタンが位置する場合、Aサイトに位置するすべての元素に占めるランタンの原子数比は、0.05以上0.70以下であることが好ましく、0.10以上0.60以下であることが更に好ましく、0.15以上0.60以下であることが一層好ましい。この原子数比は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、X線回折法、ICP発光分光分析法によって測定できる。
【0050】
酸化物a及び酸化物bとして特に好ましい酸化物は以下の(i)-(iv)に示すものである。
(i)Aサイトをランタン及びストロンチウムが占め、Bサイトを鉄、コバルト及びニッケルが占める酸化物。
(ii)Aサイトをランタン及びバリウムが占め、Bサイトを鉄が占める酸化物。
(iii)Aサイトをバリウムが占め、Bサイトを鉄及び銅が占める酸化物。
(iv)Aサイトをランタン及びバリウムが占め、Bサイトを鉄及び銅が占める酸化物。
【0051】
酸化物a及び酸化物bを初めとするカソード12及び/又はアノード13を構成する酸化物は、例えば次に述べる方法で得ることができる。すなわち、目的のペロブスカイト構造を有する酸化物の組成に応じて化学量論比で混合した各金属の酢酸塩又は硝酸塩と、DL-リンゴ酸とをイオン交換水に溶解させ、攪拌しながらアンモニア水を添加してpH2~4に調整する。その後150℃~400℃で溶液を蒸発させ、得られた粉末を乳鉢で粉砕する。このようにして得られた粉末を空気中700℃から1000℃で5時間仮焼成し、再度粉砕する。尤も、この方法に限定されるものではない。
【0052】
カソード12及び/又はアノード13としては、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びPtからなる群より選択される1種以上の元素を含む酸化物と、Pt金属との複合体を用いることも好ましい。かかる複合体は、酸化物イオン伝導性及び電子又はホール伝導性を有することから、固体電解質接合体10全体の電気抵抗を低下させることに寄与する。前記酸化物としては、Y及びZrを含む複合酸化物、Y及びNbを含む複合酸化物、Y及びMoを含む複合酸化物などが挙げられる。前記複合体は、前記酸化物の粉末と前記Pt金属の粉末とを含むペーストを、カソード12及び/又はアノード13上に塗布することで好適に形成される。このように形成されたカソード12及び/又はアノード13は、前記酸化物の粉末と前記Pt金属の粉末とを含む多孔質体となっている。
【0053】
カソード12及びアノード13は、所定の厚みを有すれば、固体電解質接合体10全体としての酸化物イオン伝導性を一層効果的に高め得ることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、中間層に接合しているカソード12及びアノード13の厚みはそれぞれ独立に100nm以上であることが好ましく、500nm以上であることが更に好ましく、1000nm以上30000nm以下であることが更に好ましい。カソード12及びアノード13の厚みは触針式段差計や電子顕微鏡を用いた断面観察によって測定することができる。
【0054】
図1に示す実施形態の固体電解質接合体10は、例えば以下に述べる方法で好適に製造することができる。まず、公知の方法で固体電解質層11を製造する。製造には、例えば先に述べた特開2013-51101号公報や国際公開WO2016/111110に記載の方法を採用することができる。
【0055】
次いで固体電解質層11における対向する面のうち少なくとも一方に、カソード側中間層15又はアノード側中間層16を形成する。各中間層15,16の形成には例えばスパッタリングを用いることができる。スパッタリングに用いられるターゲットは例えば次の方法で製造することができる。すなわち、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)の酸化物の粉末及び酸化セリウムの粉末を、乳鉢や、ボールミル等の攪拌機を使用して混合し、酸素含有雰囲気下で焼成し原料粉を得る。この原料粉をターゲットの形状に成形し、ホットプレス焼結する。焼結条件は、温度1000℃以上1400℃以下、圧力20MPa以上35MPa以下、時間60分以上180分以下とすることができる。雰囲気は、窒素ガスや希ガス等の不活性ガス雰囲気とすることができる。このようにして得られたスパッタリングターゲットは、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)がドープされた酸化セリウム(以下「LnDC」ともいう。)から構成されている。なお、スパッタリングターゲットの製造方法は、この製造方法に限定されるものではなく、例えばターゲット形状の成形体を大気中又は酸素含有雰囲気下で焼成してもよい。
【0056】
このようにして得られたターゲットを用い、例えば高周波スパッタリング法によって固体電解質層11の各面にスパッタリング層を形成する。基板の温度を予め300~500℃の範囲内に昇温し、該温度を保持しながらスパッタリングしてもよい。スパッタリング層はLnDCから構成されている。高周波スパッタリング法に代えて、その他の成膜方法、例えばアトミックレイヤデポジション、イオンプレーティング、パルスレーザデポジション、めっき法などを用いることもできる。
【0057】
スパッタリングの完了後に、スパッタリング層をアニーリングする。アニーリングは、固体電解質層11に含まれているランタンを、熱によってスパッタリング層に拡散させて、該スパッタリング層を構成するLnDCにランタンを含有させる目的で行われる。この目的のために、アニーリングの条件は、温度1220℃以上1500℃以下、時間10分以上120分以下、より好ましくは温度1300℃以上1500℃以下、時間10分以上90分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。このアニーリングによってランタンを含有するLnDC(La-LnDC)から構成される第1中間層が得られる。
【0058】
このようにして形成されたランタンを含む第1中間層上に、高周波スパッタリング法によってLnDCから構成される第2中間層を形成する。次いでアニーリングを行い、第1中間層に含まれるランタンを第2中間層中に熱拡散させる。このとき、第2中間層のアニーリングの温度を、第1中間層のアニーリングの温度よりも低く設定する。第2中間層のアニーリングの温度は、第1中間層のアニーリングの温度よりも好ましくは300℃以上1000℃以下低く設定し、更に好ましくは500℃以上800℃以下低く設定する。
【0059】
以上のとおりのアニーリングを行うことで、
図1に示す実施形態又は
図2に示す実施形態の固体電解質接合体10が得られる。第1中間層のアニーリング条件と第2中間層のアニーリング条件とに大きな差異がない場合には、
図1に示す実施形態の固体電解質接合体10が得られやすい。一方、第1中間層のアニーリング条件と第2中間層のアニーリング条件とに大きな差異がある場合には、
図2に示す実施形態の固体電解質接合体10が得られやすい。
【0060】
このようにして各中間層15,16を形成した後、各中間層15,16の表面に(中間層を形成しない場合は、固体電解質層11の表面に)アノード13及びカソード12をそれぞれ形成する。アノード13及びカソード12の形成には、例えばアノード13及びカソード12それぞれを構成する材料の粉末を含むペーストを用いる。該ペーストを塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成することで多孔質体からなるアノード13及びカソード12がそれぞれ形成される。焼成条件は、温度700℃以上1000℃以下、時間30分以上120分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。
【0061】
以上の方法で目的とする固体電解質接合体10が得られる。このようにして得られた固体電解質接合体10は、酸化物イオン伝導性が高いという性質を利用して、酸素透過素子、酸素センサを始めとする各種のガスセンサ又は固体電解質形燃料電池などとして好適に用いられる。
【0062】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば
図1及び
図2に示す実施形態においては、カソード側中間層15及びアノード側中間層16のいずれにおいても、ランタンの原子数濃度に傾斜が設けられていたが、これに代えてカソード側中間層15及びアノード側中間層16のいずれか一方にのみ、ランタンの原子数濃度に傾斜を設けてもよい。この場合、カソード側に前記傾斜を設けると酸化物イオン伝導性を一層高めることができるため好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0064】
〔実施例1〕
本実施例では、以下の(1)-(5)の工程に従い
図2に示す構造の固体電解質接合体10を製造した。
(1)固体電解質層11の製造
La
2O
3の粉体とSiO
2の粉体とをモル比で1:1となるように配合し、エタノールを加えてボールミルで混合した。この混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、白金るつぼを使用して大気雰囲気下に1650℃で3時間にわたり焼成した。この焼成物にエタノールを加え、遊星ボールミルで粉砕して焼成粉を得た。この焼成粉を、20mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形した。更に600MPaで1分間冷間等方圧加圧(CIP)を行ってペレットを成形した。このペレット状成形体を、大気中、1600℃で3時間にわたり加熱してペレット状焼結体を得た。この焼結体を粉末X線回折測定及び化学分析に付したところ、La
2SiO
5の構造であることが確認された。
【0065】
得られたペレット800mgと、B2O3粉末140mgとを、蓋付き匣鉢内に入れて、電気炉を用い、大気中にて1550℃(炉内雰囲気温度)で50時間にわたり加熱した。この加熱によって、匣鉢内にB2O3蒸気を発生させるとともにB2O3蒸気とペレットとを反応させ、目的とする固体電解質層11を得た。この固体電解質層11は、La9.33+x[Si6.00-yBy]O26.0+zにおいて、x=0.50、y=1.17、z=0.16であり、LaとBのモル比は8.43であった(以下、この化合物を「LSBO」と略称する。)。500℃における酸化物イオン伝導率は3.0×10-2S/cmであった。固体電解質層11の厚みは350μmであった。
【0066】
(2)カソード側第1中間層15a及びアノード側第1中間層16aの製造
Sm0.2Ce1.8O2の粉体を、50mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形し、引き続きホットプレス焼結を行った。焼結の条件は、窒素ガス雰囲気、圧力30MPa、温度1200℃、3時間とした。このようにしてスパッタリング用のターゲットを得た。このターゲットを用いて高周波スパッタリング法によって、固体電解質層11の各面にスパッタリングを行い、サマリウムがドープされた酸化セリウム(以下「SDC」ともいう。)のスパッタリング層を形成した。スパッタリングの条件は、RF出力が30W、アルゴンガスの圧力が0.8Paであった。スパッタリング後、大気中、1500℃にて1時間のアニーリングを行い、固体電解質層11中に含まれるランタンをスパッタリング層に熱拡散させてSDCにランタンを含有させた。このようにしてランタンを含むSDC(以下「La-SDC」ともいう。)からなるカソード側第1中間層15a及びアノード側第1中間層16aを製造した。各第1中間層15a,16aの厚みはいずれも300nmであった。
【0067】
(3)カソード側第2中間層15b及びアノード側第2中間層16bの製造
前記の(2)の手順と同様の手順及び条件によってカソード側第1中間層15a及びアノード側第1中間層16aの各面にスパッタリングを行い、SDCのスパッタリング層を形成した。スパッタリング後、大気中、1000℃にて1時間のアニーリングを行い、カソード側第1中間層15a及びアノード側第1中間層16a中に含まれるランタンをスパッタリング層に熱拡散させて、SDCにランタンを含有させた。このようにしてLa-SDCからなるカソード側第2中間層15b及びアノード側第2中間層16bを製造した。各第2中間層15b,16bの厚みはいずれも300nmであった。
【0068】
(4)カソード12及びアノード13の製造
白金粉を含むペーストを、カソード側第2中間層15b及びアノード側第2中間層16bの表面にそれぞれ塗布して塗膜を形成した。この塗膜を大気中で、700℃で1時間焼成して、多孔質体からなるカソード12及びアノード13を得た。カソード12及びアノード13の厚みはそれぞれ10μmであった。
【0069】
〔参考例1〕
実施例1において、(3)の工程を行わず、カソード側第2中間層15b及びアノード側第2中間層16bを形成しなかった。また、カソード側第1中間層15a及びアノード側第1中間層16aの厚みをそれぞれ300nmとした。これら以外は実施例1と同様にして固体電解質接合体を得た。
【0070】
〔評価1〕
実施例1で得られた固体電解質接合体を対象として厚み方向に略平行な断面について、SEM(走査電子顕微鏡)-EDS分析を行い、炭素、酸素、ランタン、セリウム及びサマリウムの存在の分布を求めた。その結果を
図3に示す。
また、実施例及び比較例で得られた固体電解質接合体について、EDSの測定結果を、多変量解析によって、固体電解質と第1中間層、第2中間層、カソードを相分離し、各相の特性X線のスペクトルを抽出した。次いで、分離した各第1中間層及び各第2中間層におけるランタン及びセリウムの原子数濃度を定量し、ランタンとセリウムの原子数濃度(La/Ce)を算出した。(La/Ce)及びランタンの原子数濃度(%)を以下の表1に示す。なお表1においては、カソード側第1中間層15a及びカソード側第2中間層15bについての測定結果のみが示されているが、アノード側第1中間層16a及びアノード側第2中間層16bについても同様の結果であった。また、参考例1については、第1中間層の全域にわたり(La/Ce)及びランタンの原子数濃度(%)が均一であり、濃度勾配を有さないことを確認した。EDS分析装置には、日本電子株式会社製のJSM―7900Fを用いた。分析ソフトは、Thermo Fisher Scientific社製のPathfinderを使用した。20000倍のSEM観察画像について、加速電圧を15kVに設定し、EDS分析及び多変量解析を行った。
【0071】
〔評価2〕
実施例及び比較例で得られた固体電解質接合体に対して、0.5Vの電圧を印加したときの電流密度を以下の方法で測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0072】
〔電流密度の測定方法〕
測定は600℃で行った。大気中で酸素センサ素子の両電極間に直流電圧0.5Vを印加し、素子に流れる電流値を測定した。得られた電流値と電極面積から電流密度を算出した。
【0073】
【0074】
表1に示す結果から明らかなとおり、中間層に含まれるランタンに濃度勾配を有する実施例1の固体電解質接合体は、濃度勾配を有さない参考例の固体電解質接合体に比べて、高電流密度が得られることが判る。
【符号の説明】
【0075】
10 固体電解質接合体
11 固体電解質層
12 カソード
13 アノード
15 カソード側中間層
15a カソード側第1中間層
15b カソード側第2中間層
16 アノード側中間層
16a アノード側第1中間層
16b アノード側第2中間層