(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】排気ガス用酸素センサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20230607BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20230607BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
G01N27/409 100
C04B35/50
G01N27/416 321
(21)【出願番号】P 2019189300
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 旬春
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 広平
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 康博
(72)【発明者】
【氏名】八島 勇
(72)【発明者】
【氏名】世登 裕明
(72)【発明者】
【氏名】日高 重和
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 憲剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 賢
(72)【発明者】
【氏名】末松 昂一
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-51101(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146493(WO,A1)
【文献】特開2016-177987(JP,A)
【文献】特開2019-57500(JP,A)
【文献】特開2021-25103(JP,A)
【文献】特開2016-115592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/409
C04B 35/50
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、これらの間に位置し且つ酸化物イオン伝導性を有する固体電解質層とを有する排気ガス用酸素センサ素子であって、
前記カソードと前記固体電解質層との間に、ランタン及び希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く。)を含む酸化セリウムからなる中間層を有し、
前記カソードと前記中間層との間に、硫黄酸化物に対する反応阻止層を有する、排気ガス用酸素センサ素子。
【請求項2】
前記反応阻止層がY、Zr、Nb、Mo、Ta及びPtからなる群より選択される1種以上の元素を含む酸化物を含む、請求項1に記載の排気ガス用酸素センサ素子。
【請求項3】
前記反応阻止層の厚みが0.05μm以上2.0μm以下である、請求項1又は2に記載の排気ガス用酸素センサ素子。
【請求項4】
前記中間層が前記希土類元素としてサマリウムを含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の排気ガス用酸素センサ素子。
【請求項5】
前記中間層の厚みが0.1μm以上1.0μm以下である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の排気ガス用酸素センサ素子。
【請求項6】
前記カソードが、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びPtからなる群より選択される1種以上の元素を含む酸化物と、Ptとの複合体からなる、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の排気ガス用酸素センサ素子。
【請求項7】
前記アノードが、酸化物からなり且つ酸化物イオン伝導性及び電子又はホール伝導性を有する混合伝導体からなる、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の排気ガス用酸素センサ素子。
【請求項8】
前記固体電解質層が、M
1、M
2及びO(M
1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。M
2は、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Si、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)を含む化合物からなる、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の排気ガス用酸素センサ素子。
【請求項9】
前記固体電解質層が、アパタイト型結晶構造を有する化合物からなる請求項1ないし8のいずれか一項に記載の排気ガス用酸素センサ素子。
【請求項10】
前記固体電解質層が、一般式:M
1
9.33+x[T
6.00-yM
3
y]O
26.0+z(式中、M
1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Tは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。M
3は、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。xは-1.33以上1.50以下の数である。yは0.00以上3.00以下の数である。zは-5.00以上5.20以下の数である。Tのモル数に対するM
1のモル数の比率は1.33以上3.61以下である。)で表される複合酸化物を含む化合物からなる、請求項9に記載の排気ガス用酸素センサ素子。
【請求項11】
請求項1に記載の排気ガス用酸素センサ素子の全体を所定温度に保持し、硫黄酸化物の存在する雰囲気中で、アノードとカソードとの間に直流電圧を印加することにより、カソード側の雰囲気中に含まれるガスを、前記固体電解質層を通じてアノード側に透過させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排気ガス用酸素センサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物イオン伝導性の固体電解質は、例えば酸素センサ、酸素ポンプ、固体酸化物形燃料電池等として有用な材料である。例えば特許文献1には、固体酸化物形の電解質層を挟んで燃料極層と空気極層とが積層されてなる燃料電池セルが記載されている。
【0003】
固体電解質は、酸素ガスを含有する雰囲気と接触することで、雰囲気中の酸素ガスから生じる酸化物イオンを伝導させるところ、雰囲気中に酸素ガス以外に硫黄酸化物が含まれていると、硫黄酸化物が電極及び固体電解質と反応してしまい、該電解質や電極接合体の酸化物イオン伝導性が低下するという問題が生じる。この問題を解決することを目的として、上述した特許文献1においては、空気極層の外表面に銀を含有する集電層を設け、該集電層を、アルカリ土類金属を第1の濃度で含有する電子伝導層と、アルカリ土類金属を第1の濃度よりも高い第2の濃度で含有する硫黄捕集層とから構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1に記載の技術では硫黄の捕集量に限界があり、雰囲気中に硫黄酸化物が高濃度で存在する場合には電極及び固体電解質の劣化を効果的に防止することが容易でない。したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る排気ガス用酸素センサ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アノードと、カソードと、これらの間に位置し且つ酸化物イオン伝導性を有する固体電解質層とを有する排気ガス用酸素センサ素子であって、
前記カソードと前記固体電解質層との間に、ランタン及び希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く。)を含む酸化セリウムからなる中間層を有し、
前記カソードと前記中間層との間に、硫黄酸化物に対する反応阻止層を有する、排気ガス用酸素センサ素子を提供することにより前記の課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、硫黄酸化物に対する耐性が高い排気ガス用酸素センサ素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態の排気ガス用酸素センサ素子の一実施形態の断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本発明は、排気ガス中における酸素ガスの存在の有無や、酸素ガスの濃度を検知するためのセンサ素子に関するものである。排気ガスは、一般に化石燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関から発生するものである。化石燃料としては例えばガソリン、軽油、灯油、天然ガスなどがある。
図1には本発明の排気ガス用酸素センサ素子(以下、単に「酸素センサ素子」ともいう。)の一実施形態が示されている。同図に示す酸素センサ素子10は固体電解質層11を備えている。固体電解質層11は、所定の温度以上で酸化物イオン伝導性を有する材料からなる。固体電解質層11は、アノード13とカソード12との間に位置している。つまりアノード13及びカソード12は、固体電解質層11の各面側に配置されている。アノード13は、直流電源14の正極に電気的に接続可能になっている。一方、カソード12は、直流電源14の負極に電気的に接続可能になっている。したがってアノード13とカソード12との間には直流電圧が印加されるようになっている。全体を所定温度に保持し、アノード13とカソード12との間に所定の電圧が印加されることで、カソード12側において酸素ガス(O
2)が電子を受け取り酸化物イオン(O
2-)が生成する。生成した酸化物イオンは固体電解質層11中を移動してアノード13に達する。アノード13に達した酸化物イオンは電子を放出して酸素ガスとなる。このような反応によって、固体電解質層11は、カソード12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じてアノード13側に透過させることが可能になっている。カソード12側で生成した酸化物イオンが、固体電解質層11に含まれる酸化物イオン伝導性を有する材料を経由してアノード13側に移動することに伴い電流が生じる。また、得られる電流値がカソード12側の酸素濃度に依存することから、本発明の酸素センサ素子は限界電流式酸素センサとして使用することができる。この際、カソード12側に、小孔や多孔質材料を利用した酸素ガスの拡散制限層を設け、酸素濃度を制御しやすくすることができる。
【0010】
カソード12と固体電解質層11との間には、カソード側中間層15が配置されている。一方、アノード13と固体電解質層11との間には、アノード側中間層16が配置されている。
図1においては、カソード12とカソード側中間層15とが異なるサイズで示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えばカソード12とカソード側中間層15とは同じサイズであってもよい。アノード13とアノード側中間層16に関しても同様であり、両者は同じサイズであってもよく、あるいは例えばアノード13よりもアノード側中間層16のサイズの方が大きくなっていてもよい。また、
図1においては、カソード側中間層15のサイズと固体電解質層11のサイズとが同じに示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えば固体電解質層11とカソード側中間層15とが異なるサイズであってもよい。アノード13側に関しても同様である。
【0011】
図1に示すとおり、アノード側中間層16は、固体電解質層11と直接に接している。したがって本実施形態においては両者間には何らの層も介在していない。一方、カソード12側の中間層15に関しては、該中間層15とカソード12との間に、硫黄酸化物に対する反応阻止層17が配置されている。反応阻止層17は、カソード側中間層15と直接に接している。したがって本実施形態においては両者間には何らの層も介在していない。また反応阻止層17はカソード12と直接に接しており、両者間には何らの層も介在していない。更に、カソード側中間層15は、固体電解質層11と直接に接している。したがって本実施形態においては両者間には何らの層も介在していない。なお、反応阻止層17は、中間層15とカソード12との間に加えて、中間層16とアノード13との間に配置しても構わない(図示せず)。
図1においては、カソード側中間層15のサイズと反応阻止層17のサイズとが同じに示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えばカソード側中間層15と反応阻止層17とが異なるサイズであってもよい。また同図においては、反応阻止層17とカソード12とが異なるサイズで示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えば反応阻止層17とカソード12とは同じサイズであってもよい。
【0012】
カソード側中間層15及びアノード側中間層16(以下、便宜的に両者を総称して単に「中間層」ということもある。)は、酸素センサ素子10における固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間の酸化物イオン伝導性を向上させる目的で用いられる。酸素センサ素子10における電気抵抗を低減させるためには、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性を高めることが重要であるが、酸化物イオン伝導性の高い材料を用いて固体電解質層11を構成した場合であっても、該固体電解質層11とアノード13及び/又はカソード12との間の酸化物イオン伝導性が低い場合には、酸素センサ素子10全体としての酸化物イオン伝導性を高めることに限界がある。本発明者が検討した結果、固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間に特定の材料からなる酸化物の中間層を配置することで、酸素センサ素子10全体としての酸化物イオン伝導性が高まることを知見した。具体的には、カソード側中間層15若しくはアノード側中間層16又はその両方が、ランタンと、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く。)と、を含む酸化セリウムから構成されていると、酸化物イオン伝導性が一層高まることが判明した。以下、固体電解質層11並びにカソード側中間層15及びアノード側中間層16について説明する。
【0013】
固体電解質層11は、ランタンの酸化物を含んで構成されることが好ましい。かかる固体電解質層11は、酸素イオンがキャリアとなる導電体である。ランタンの酸化物を含む酸化物イオン伝導性材料としては、例えばランタン及びガリウムを含む複合酸化物や、該複合酸化物にストロンチウム、マグネシウム又はコバルトなどを添加した複合酸化物、ランタン及びモリブデンを含む複合酸化物などが挙げられる。特に、酸化物イオン伝導性が高いことから、ランタン及びケイ素の複合酸化物からなる酸化物イオン伝導性材料を用いることが好ましい。
【0014】
ランタン及びケイ素の複合酸化物としては、例えばランタン及びケイ素を含むアパタイト型複合酸化物が挙げられる。アパタイト型複合酸化物としては、三価元素であるランタンと、四価元素であるケイ素と、Oとを含有し、その組成がLaxSi6O1.5x+12(Xは8以上10以下の数を表す。)で表されるものが、酸化物イオン伝導性が高い点から好ましい。このアパタイト型複合酸化物を固体電解質層11として用いる場合には、結晶のc軸方向を固体電解質層11の厚み方向と一致させることが好ましい。このアパタイト型複合酸化物の最も好ましい組成は、La9.33Si6O26である。このアパタイト型複合酸化物は、単結晶であってもよいし、各結晶粒のc軸方向が固体電解質層11の厚み方向に配向された多結晶体であってもよい。この複合酸化物は、例えば特開2013-51101号公報に記載の方法に従い製造することができる。
【0015】
ランタンの酸化物を含んで構成される固体電解質層11の別の好ましい例として、M1、M2及びOを含む化合物が挙げられる。このような化合物を用いることで、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性を一層高めることが可能となる。M1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。一方、M2は、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Si、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。前記の化合物はアパタイト型結晶構造を有することが好ましい。
【0016】
特に、固体電解質層11は、式(1)M1
9.33+x[T6.00-yM3
y]O26.0+zで表される複合酸化物であることが、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性を一層高める点から好ましい。式中、M1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Tは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。M3は、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。xは-1.33以上1.50以下の数である。yは0.00以上3.00以下の数である。zは-5.00以上5.20以下の数である。Tのモル数に対するM1のモル数の比率は1.33以上3.61以下である。前記の複合酸化物はアパタイト型結晶構造を有することが好ましい。
【0017】
式(1)において、M1として挙げられた、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Be、Mg、Ca、Sr及びBaは、正の電荷を有するイオンとなり、アパタイト型六方晶構造を構成し得るランタノイド又はアルカリ土類金属であるという共通点を有する元素である。これらの中でも、酸化物イオン伝導性をより高めることができる観点から、La、Nd、Ba、Sr、Ca及びCeからなる群のうちの一種又は二種以上の元素との組み合わせであるのが好ましく、中でも、La、又はNdのうちの一種、あるいは、LaとNd、Ba、Sr、Ca及びCeからなる群のうちの一種又は二種以上の元素との組み合わせであるのが好ましい。また、式(1)におけるTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素であるのがよい。
【0018】
式(1)におけるM3元素としては、例えばB、Zn、W、Sn及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素を好ましく挙げることができる。中でも、高配向度や高生産性の点で、B、Zn及びWが特に好ましい。
【0019】
式(1)において、xは、配向度及び酸化物イオン伝導性を高めることができる観点から、-1.33以上1.50以下の数であることが好ましく、-1.00以上1.00以下であることが好ましく、中でも0.00以上あるいは0.70以下、その中でも0.45以上あるいは0.65以下であることが好ましい。式(1)中のyは、アパタイト型結晶格子におけるT元素位置を埋めるという観点、及び酸化物イオン伝導性を高める観点から、0.00以上3.00以下の数であることが好ましく、0.40以上1.00未満であることが更に好ましく、中でも0.40以上0.90以下であることが好ましく、0.80以下、特に0.70以下、とりわけ0.50以上0.70以下であることが好ましい。式(1)中のzは、アパタイト型結晶格子内での電気的中性を保つという観点から、-5.00以上3.61以下の数であることが好ましく、-3.00以上2.00以下であることが好ましく、中でも-2.00以上あるいは1.50以下、その中でも-1.00以上あるいは1.00以下であることが好ましい。
【0020】
式(1)中、Tのモル数に対するM1のモル数の比率、言い換えれば式(1)における(9.33+x)/(6.00-y)は、アパタイト型結晶格子における空間的な占有率を保つ観点から、1.33以上3.61以下であることが好ましく、1.40以上3.00以下であることが更に好ましく、1.50以上2.00以下であることが一層好ましい。
【0021】
式(1)で表される複合酸化物のうち、Aがランタンである複合酸化物、すなわちLa9.33+x[T6.00-yM3
y]O26.0+zで表される複合酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる観点から好ましい。La9.33+x[T6.00-yM3
y]O26.0+zで表される複合酸化物の具体例としては、La9.33+x(Si4.70B1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Ge1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Zn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70W1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Sn1.30)O26.0+x、La9.33+x(Ge4.70B1.30)O26.0+zなどを挙げることができる。式(1)で表される複合酸化物は、例えば国際公開WO2016/111110に記載の方法に従い製造することができる。
【0022】
固体電解質層11の厚みは、酸素センサ素子10の電極間での電気抵抗を効果的に低下させる観点から、10nm以上1000μm以下であることが好ましく、100nm以上500μm以下であることが更に好ましく、300nm以上500μm以下であることが一層好ましい。固体電解質層11の厚みは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いた断面観察によって測定することができる。
【0023】
中間層は、上述のとおり、ランタンと、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)と、を含む酸化セリウム(以下「La-LnDC」ともいう。)から構成されていることが好ましい。La-LnDCにおいては、母材である酸化セリウム(CeO2)に、ランタン及びセリウム以外の希土類元素が固溶(ドープ)した形で含まれている。ここでドープ元素である希土類元素は、通常、酸化セリウムの結晶格子中において、セリウムが位置するサイトを置換した形で該サイトに存在している。ランタンはこの酸化セリウムの固溶体の中に含まれる形で存在している。すなわちランタンは、酸化セリウムの結晶格子中において、セリウムが位置するサイトを置換した形で該サイトに存在し得るか、あるいは希土類元素がドープされた酸化セリウムの結晶粒界に存在し得る。
【0024】
中間層を構成するLa-LnDCにおいて、酸化セリウムにドープされる希土類元素としては、例えばサマリウム、ガドリニウム、イットリウム、エルビウム、イッテルビウム、ジスプロシウムなどが挙げられる。これらの希土類元素は1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に中間層は、ランタンと、サマリウム又はガドリニウムと、を含む酸化セリウムを含んで構成されることが、酸素センサ素子10全体の酸化物イオン伝導性を一層高め得る点から好ましい。なお、両中間層15,16を構成する該La-LnDCは同種でもよく、あるいは異種でもよい。また、カソード側中間層15及びアノード側中間層16のうちの一方が、La-LnDCを含んで構成されており、他方が他の物質から構成されていてもよい。また、両中間層の中で、La濃度の異なる領域が存在(例えばカソード側中間層15において、固体電解質層11側からカソード12側に向けてLaの原子数濃度が減少している、Laの原子数濃度が異なる中間層が2層以上存在するなど)していてもよい。
【0025】
La-LnDCにおいて、酸化セリウムにドープされる希土類元素の割合は、セリウムに対する、La及びCeを除く希土類元素(Ln)の原子数比であるLn/Ceで表して、0.05以上0.8以下であることが好ましく、0.1以上0.6以下であることが更に好ましく、0.2以上0.3以下であることが一層好ましい。希土類元素のドープの程度をこの範囲内に設定することによって、固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間の酸化物イオン伝導性の向上が図られる。
【0026】
前記のLn/Ceの値は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)などによって測定される。また、希土類元素が酸化セリウム中に固溶していることは、X線回折法によって確認される。
【0027】
中間層を構成するLa-LnDCにおいて、ランタンは、酸素センサ素子10全体の酸化物イオン伝導性を向上させる目的で含有される。この目的のために、La-LnDCにおける、セリウムに対するランタンの原子数比であるLa/Ceの値を0.1以上とすることが好ましい。また、ランタンが多過ぎる場合にはイオン伝導性は却って低下するため1.2以下とすることが好ましい。このLa/Ceの値は0.2以上1.2以下とすることが更に好ましく、0.3以上1.2以下とすることが一層好ましい。La/Ceの値は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)などによって測定される。
【0028】
中間層の厚みは、一定以上の厚みがあれば、固体電解質層11とカソード12及び/又はアノード13との間の酸化物イオン伝導性を効果的に向上させ得ることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、中間層の厚みは、カソード12側及びアノード13側それぞれ独立に、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.3μm以上0.8μm以下であることが更に好ましい。中間層の厚みは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いた断面観察によって測定することができる。カソード側中間層15の厚みとアノード側中間層16の厚みとは同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0029】
本実施形態の酸素センサ素子10の使用時においては、排気ガスがカソード12側を流通する。この場合、排気ガス中に硫黄酸化物が含まれていると、該硫黄酸化物がカソード12や固体電解質層11やカソード側中間層15と反応してしまい、カソード側の触媒活性が低下するという不都合が生じる場合がある。かかる不都合を解消すべく本発明者は鋭意検討した結果、カソード12とカソード側中間層15との間に、硫黄酸化物に対する反応阻止層17を設けることが有効であることを見出だした。この目的のために、反応阻止層17は、硫黄酸化物との反応生成物を形成しにくく、且つ酸化物イオン伝導性を有する材料から構成されていることが好ましい。そのような材料としては、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びPtからなる群より選択される1種以上の元素を含む酸化物が好適に挙げられる。特に好ましい酸化物としては、Y及びZrを含む複合酸化物、Y及びNbを含む複合酸化物、Y及びMoを含む複合酸化物、Y及びTaを含む複合酸化物などが挙げられる。反応阻止層17を設けることによって、酸素センサ素子10は、硫黄酸化物に対する耐性が高いものとなる。
【0030】
反応阻止層17は、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びPtからなる群より選択される1種以上の元素を含む酸化物と、Pt金属との複合体であることも好ましい。かかる複合体も、硫黄酸化物との反応生成物を形成しにくいので、カソード12側の触媒活性の低下を効果的に防止し得る。
【0031】
反応阻止層17が前記のいずれの材料から形成される場合であっても、反応阻止層17は緻密な構造であることが、硫黄酸化物との反応を阻止する観点から好ましい。この目的のために、反応阻止層17は各種の薄膜形成手段によって形成されたものであることが好ましい。薄膜形成手段としては、公知の物理気相成長法や化学気相成長法を特に制限なく採用することができる。反応阻止層17は、特にスパッタリング法によって形成されたものであることが、細密な反応阻止層17が得られる点や、生産性の点等から好ましい。
【0032】
反応阻止層17は、硫黄酸化物との反応を効果的に阻止しつつも、抵抗層とならないようにする観点から、その厚みが0.05μm以上2.0μm以下であることが好ましい。この効果を一層顕著なものとする観点から、反応阻止層17の厚みは0.1μm以上1.5μm以下であることが更に好ましく、0.3μm以上1.0μm以下であることが一層好ましい。反応阻止層17の厚みは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いた断面観察によって測定することができる。
【0033】
カソード12及びアノード13はそれぞれ独立に、例えば金属材料又は酸化物イオン伝導性を有する酸化物から構成することができる。カソード12及びアノード13が金属材料から構成されている場合、該金属材料としては、触媒活性が高い等の利点があることから、白金族の元素を含んで構成されることが好ましい。白金族の元素としては、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウムが挙げられる。これらの元素は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、アノード13及びカソード12として、それぞれ独立に、白金族の元素を含んだサーメットを用いることもできる。
【0034】
カソード12及びアノード13は、それらのうちのいずれか一方、特にアノード13が、酸化物からなり且つ酸化物イオン伝導性及び電子又はホール伝導性を有する混合伝導体からなることが好ましい。そのような混合伝導体としては、例えばABO3-δで表されるペロブスカイト構造を有するものが好適に用いられる。式中、Aは希土類元素又はアルカリ土類金属元素を表す。Bは遷移金属元素を表し、例えばTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta及びWである。δは、A、B及びOの価数及び量に起因して生じる端数である。ABO3-δで表されるペロブスカイト構造を有する酸化物は種々知られており、そのような酸化物が種々の結晶系、例えば立方晶、正方晶、菱面体晶及び斜方晶などを有することが知られている。これらの結晶系のうち、立方晶ペロブスカイト構造を有するABO3-δ型の酸化物をカソード12及び/又はアノード13として用いることが好ましい。かかる酸化物からなるカソード12及び/又はアノード13と、上述の材料からなる中間層とを組み合わせて酸素センサ素子10を構成することで、該酸素センサ素子10全体としての酸化物イオン伝導性を一層高めることができる。
【0035】
酸素センサ素子10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から、ABO3-δで表される酸化物は、Aサイトの一部にランタンを含んでいることが有利であることが本発明者の検討の結果判明した。以下、この酸化物のことを「酸化物a」ともいう。酸化物aにおけるランタンの含有量は、Aサイトに位置するすべての元素に占めるランタンの原子数比で表して、0.05以上0.80以下であることが好ましく、0.15以上0.70以下であることが更に好ましく、0.15以上0.60以下であることが一層好ましい。酸化物aを用いることで酸化物イオン伝導性が高まる理由は明らかではないが、Aサイトの一部にランタンが含まれることで、酸化物イオンが移動しやすい経路が酸化物a中に形成されるのではないかと本発明者は考えている。
【0036】
ABO3-δで表される酸化物におけるAサイトの一部にランタンが位置しているか否かは、X線回折法によって確認することができる。また、Aサイトに位置するすべての元素に占めるランタンの原子数比は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、X線回折法、ICP発光分光分析法によって測定することができる。
【0037】
同様に、酸素センサ素子10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から、ABO3-δで表される酸化物は、Bサイトの遷移金属元素の一部が鉄であることが有利である。以下、この酸化物のことを「酸化物b」ともいう。酸化物bにおける鉄の含有量は、Bサイトに位置するすべての遷移金属元素に占める鉄の原子数比で表して、0.1以上1.0以下であることが好ましく、0.2以上1.0以下であることが更に好ましく、0.3以上1.0以下であることが一層好ましい。酸化物bを用いることで酸化物イオン伝導性が高まる理由は明らかではないが、ABO3-δで表されるBサイトに鉄が含まれることで、酸化還元反応が生じ、酸化物イオンが移動しやすくなっているのではないかと本発明者は考えている。
【0038】
ABO3-δで表される酸化物におけるBサイトに鉄が位置しているか否かは、X線回折法によって確認することができる。また、Bサイトに位置するすべての元素に占める鉄の原子数比は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、X線回折法、ICP発光分光分析法によって測定することができる。
【0039】
カソード12を構成する材料として上述の酸化物aを用いる場合には、Aサイトを占めるアルカリ土類金属元素は、バリウム及びストロンチウムからなる群より選択される一種以上の元素であることが、酸素センサ素子10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から好ましい。つまり酸化物aのAサイトに、ランタンと、それに加えてバリウム及びストロンチウムからなる群より選択される一種以上の元素とが少なくとも位置することが好ましい。
【0040】
一方、酸化物aのBサイトを占める遷移金属元素の一部には、周期表の第4周期に属する元素のうち少なくとも一種を含むことが好適である。とりわけ、このBサイトに位置する遷移金属元素は鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群より選択される元素のうちの少なくとも一種を含むことが好ましく、更には少なくとも一部が鉄であることが、酸素センサ素子10全体として酸化物イオン伝導性を高める観点から一層好ましい。同様の観点から、Bサイトの少なくとも一部に鉄及び銅のいずれもが位置することが特に好ましい。
【0041】
酸化物aのBサイトに鉄が位置する場合、酸素センサ素子10全体として酸化物イオン伝導性を高め、且つ酸化物aの結晶系に影響を与えない観点から、Bサイトに位置するすべての元素に占める鉄の原子数比は、0.05以上0.95以下であることが好ましく、0.10以上0.90以下であることが更に好ましく、0.20以上0.80以下であることが一層好ましい。また、酸化物aのBサイトに鉄及び銅が位置する場合、Bサイトに位置するすべての元素に占める鉄及び銅の合計の原子数比は、0.80以上1.00以下であることが好ましく、0.85以上1.00以下であることが更に好ましく、0.90以上1.00以下であることが一層好ましい。この場合、鉄と銅との原子数比は、Fe/Cuの値が、1.00以上10.0以下であることが好ましく、2.00以上9.50以下であることが更に好ましく、5.00以上9.00以下であることが一層好ましい。前記の原子数比及びFe/Cuの値は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、X線回折法、ICP発光分光分析法によって測定できる。
【0042】
カソード12を構成する材料として上述の酸化物bを用いる場合には、Bサイトを占める元素の少なくとも一部は、鉄及び銅であることが、酸素センサ素子10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から好ましく、酸化物bのBサイトに、鉄及び銅のみが位置することがより好ましい。
【0043】
一方、酸化物bのAサイトを占める元素は、アルカリ土類金属元素のうち、特に、バリウム及びストロンチウムの少なくともいずれか一種であることが、酸素センサ素子10全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から好ましい。同様の観点から、酸化物bのAサイトの一部にランタンを含んでいてもよい。とりわけ、酸化物bのAサイトにランタンと、バリウム及びストロンチウムのいずれか一種と、が位置することが好ましい。
【0044】
酸化物bのAサイトの一部にランタンが位置する場合、Aサイトに位置するすべての元素に占めるランタンの原子数比は、0.05以上0.70以下であることが好ましく、0.10以上0.60以下であることが更に好ましく、0.15以上0.60以下であることが一層好ましい。この原子数比は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、X線回折法、ICP発光分光分析法によって測定できる。
【0045】
酸化物a及び酸化物bとして特に好ましい酸化物は以下の(i)-(iv)に示すものである。
(i)Aサイトをランタン及びストロンチウムが占め、Bサイトを鉄、コバルト及びニッケルが占める酸化物。
(ii)Aサイトをランタン及びバリウムが占め、Bサイトを鉄が占める酸化物。
(iii)Aサイトをバリウムが占め、Bサイトを鉄及び銅が占める酸化物。
(iv)Aサイトをランタン及びバリウムが占め、Bサイトを鉄及び銅が占める酸化物。
【0046】
酸化物a及び酸化物bを初めとするカソード12及び/又はアノード13を構成する酸化物は、例えば次に述べる方法で得ることができる。すなわち、目的のペロブスカイト構造を有する酸化物の組成に応じて化学量論比で混合した各金属の酢酸塩又は硝酸塩と、DL-リンゴ酸とをイオン交換水に溶解させ、攪拌しながらアンモニア水を添加してpH2~4に調整する。その後150℃~400℃で溶液を蒸発させ、得られた粉末を乳鉢で粉砕する。このようにして得られた粉末を空気中700℃から1000℃で5時間仮焼成し、再度粉砕する。尤も、この方法に限定されるものではない。
【0047】
カソード12及びアノード13としては、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びPtからなる群より選択される1種以上の元素を含む酸化物と、Pt金属との複合体を用いることも好ましい。かかる複合体は、酸化物イオン伝導性及び電子又はホール伝導性を有することから、酸素センサ素子10全体の電気抵抗を低下させることに寄与する。前記酸化物としては、Y及びZrを含む複合酸化物、Y及びNbを含む複合酸化物、Y及びMoを含む複合酸化物などが挙げられる。前記複合体は、前記酸化物の粉末と前記Pt金属の粉末とを含むペーストを、反応阻止層17上に塗布することで好適に形成される。このように形成されたカソード12は、前記酸化物の粉末と前記Pt金属の粉末とを含む多孔質体となっている。
【0048】
カソード12及びアノード13は、所定の厚みを有すれば、酸素センサ素子10全体としての酸化物イオン伝導性を一層効果的に高め得ることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、中間層に接合しているカソード12及びアノード13の厚みはそれぞれ独立に100nm以上であることが好ましく、500nm以上であることが更に好ましく、1000nm以上30000nm以下であることが更に好ましい。カソード12及びアノード13の厚みは触針式段差計や電子顕微鏡を用いた断面観察よって測定することができる。
【0049】
図1に示す実施形態の酸素センサ素子10は、例えば以下に述べる方法で好適に製造することができる。まず、公知の方法で固体電解質層11を製造する。製造には、例えば先に述べた特開2013-51101号公報や国際公開WO2016/111110に記載の方法を採用することができる。
【0050】
次いで固体電解質層11における対向する2面に、カソード側中間層15及びアノード側中間層16をそれぞれ形成する。各中間層15,16の形成には例えばスパッタリングを用いることができる。スパッタリングに用いられるターゲットは例えば次の方法で製造することができる。すなわち、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)の酸化物の粉末及び酸化セリウムの粉末を、乳鉢や、ボールミル等の攪拌機を使用して混合し、酸素含有雰囲気下で焼成し原料粉を得る。この原料粉をターゲットの形状に成形し、ホットプレス焼結する。焼結条件は、温度1000℃以上1400℃以下、圧力20MPa以上35MPa以下、時間60分以上180分以下とすることができる。雰囲気は、窒素ガスや希ガス等の不活性ガス雰囲気とすることができる。このようにして得られたスパッタリングターゲットは、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)がドープされた酸化セリウム(以下「LnDC」ともいう。)から構成されている。なお、スパッタリングターゲットの製造方法は、この製造方法に限定されるものではなく、例えばターゲット形状の成形体を大気中又は酸素含有雰囲気下で焼成してもよい。
【0051】
このようにして得られたターゲットを用い、例えば高周波スパッタリング法によって固体電解質層11の各面にスパッタリング層を形成する。基板の温度を予め300~500℃の範囲内に昇温し、該温度を保持しながらスパッタリングしてもよい。スパッタリング層はLnDCから構成されている。
【0052】
スパッタリングの完了後に、スパッタリング層をアニーリングする。アニーリングは、固体電解質層11に含まれているランタンを、熱によってスパッタリング層に拡散させて、該スパッタリング層を構成するLnDCにランタンを含有させる目的で行われる。この目的のために、アニーリングの条件は、温度1220℃以上1500℃以下、時間10分以上120分以下、より好ましくは温度1300℃以上1500℃以下、時間10分以上90分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。このアニーリングによってランタンを含有するLnDC(La-LnDC)から構成される中間層が得られる。その他の成膜方法として、例えばアトミックレイヤデポジション、イオンプレーティング、パルスレーザデポジション、めっき法などを用いることができる。
【0053】
次に、カソード側中間層15の表面に反応阻止層17を形成する。反応阻止層17の形成は、上述した各中間層15,16の形成と同様に行うことができ、具体的には高周波スパッタリング法を用いることが好ましい。高周波スパッタリング法の条件は、各中間層15,16の形成に採用した条件と同様とすることができる。反応阻止層17が、Y、Zr、Nb、Mo、Ta及びPtからなる群より選択される1種以上の元素を含む酸化物と、Pt金属との複合体からなる場合には、該酸化物のターゲット及び該Pt金属のターゲットを用いてスパッタリングを行えばよい。
【0054】
このようにして中間層15,16及び反応阻止層17を形成した後、アノード側中間層16の表面にアノード13を形成するとともに、反応阻止層17の表面にカソード12をそれぞれ形成する。アノード13及びカソード12の形成には、例えばアノード13及びカソード12それぞれを構成する材料の粉末を含むペーストを用いる。該ペーストを塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成することで多孔質体からなるアノード13及びカソード12がそれぞれ形成される。焼成条件は、温度700℃以上1000℃以下、時間30分以上120分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。
【0055】
以上の方法で目的とする酸素センサ素子10が得られる。このようにして得られた酸素センサ素子10は、酸化物イオン伝導性が高いという性質及び硫黄酸化物に対する耐性が高いという性質を利用して、排気ガス中の酸素ガスのセンサとして使用できる。具体的には、硫黄酸化物の存在する雰囲気中であっても、酸素センサ素子10の全体を所定温度に保持し、アノード13とカソード12との間に直流電圧を印加することにより、カソード12側の雰囲気中に含まれるガスを、固体電解質層11を通じてアノード13側に首尾よく透過させることができる。
【0056】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、カソード12と固体電解質層11との間、及びアノード13と固体電解質層11との間の双方に中間層を配したが、これに代えて、カソード12と固体電解質層11との間にのみ中間層を配してもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0058】
〔実施例1〕
本実施例では、以下の(1)-(5)の工程に従い
図1に示す構造の酸素センサ素子10を製造した。
(1)固体電解質層11の製造
La
2O
3の粉体とSiO
2の粉体とをモル比で1:1となるように配合し、エタノールを加えてボールミルで混合した。この混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、白金るつぼを使用して大気雰囲気下に1650℃で3時間にわたり焼成した。この焼成物にエタノールを加え、遊星ボールミルで粉砕して焼成粉を得た。この焼成粉を、20mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形した。更に600MPaで1分間冷間等方圧加圧(CIP)を行ってペレットを成形した。このペレット状成形体を、大気中、1600℃で3時間にわたり加熱してペレット状焼結体を得た。この焼結体を粉末X線回折測定及び化学分析に付したところ、La
2SiO
5の構造であることが確認された。
【0059】
得られたペレット800mgと、B2O3粉末140mgとを、蓋付き匣鉢内に入れて、電気炉を用い、大気中にて1550℃(炉内雰囲気温度)で50時間にわたり加熱した。この加熱によって、匣鉢内にB2O3蒸気を発生させるとともにB2O3蒸気とペレットとを反応させ、目的とする固体電解質層11を得た。この固体電解質層11は、La9.33+x[Si6.00-yBy]O26.0+zにおいて、x=0.50、y=1.17、z=0.16であり、LaとBのモル比は8.43であった(以下、この化合物を「LSBO」と略称する。)。500℃における酸化物イオン伝導率は3.0×10-2S/cmであった。固体電解質層11の厚みは350μmであった。
【0060】
(2)カソード側中間層15及びアノード側中間層16の製造
Sm0.2Ce1.8O2の粉体を、100mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形し、引き続きホットプレス焼結を行った。焼結の条件は、窒素ガス雰囲気、圧力30MPa、温度1200℃、3時間とした。このようにしてスパッタリング用のターゲットを得た。このターゲットを用いて高周波(RF)スパッタリング法によって、固体電解質層11の各面にスパッタリングを行い、サマリウムがドープされた酸化セリウム(以下「SDC」ともいう。)のスパッタリング層を形成した。スパッタリングの条件は、RF出力が400W、アルゴンガスの圧力が0.5Paであった。スパッタリング後、大気中、1500℃にて1時間のアニーリングを行い、ランタンを含むSDCからなる第1中間層(以下「La-SDC1」ともいう。)を形成した。その後、第1中間層層上に、前記のターゲットを用いて再度スパッタリングを行い、次いで大気中1000℃にて1時間のアニーリングを行うことで、ランタンを含むSDCからなる第2中間層(以下「La-SDC2」ともいう。)を形成した。第2中間層は、第1中間層よりもランタンの原子数濃度が低いものであった。このように、カソード側中間層15及びアノード側中間層16はいずれもランタンの原子数濃度が異なるSCDからなる2層構造(すなわちLa-SDC1及びLa-SDC2)を有するものであった。各中間層15,16の厚みはいずれも600nmであった。
【0061】
(3)反応阻止層17の製造
イットリウム安定化ジルコニア(Y0.08Zr0.92O2、以下「YSZ」ともいう。)の粉体をそれぞれφ100mmの成型器に入れて、一方向から加圧して一軸成形し、引き続きホットプレス焼結を行った。焼結の条件は、窒素ガス雰囲気、圧力50MPa、温度1400℃、3時間とした。このようにしてスパッタリング用のターゲットを得た。このターゲットを用いて高周波(RF)スパッタリング法によって、カソード側中間層15及びアノード側中間層16面上に、成膜を行った。スパッタリングの条件は、RF出力が200W、アルゴンガスの圧力が0.5Paであった。その後、大気中800℃にて1時間のアニーリングを行い、Y及びZrを含む酸化物からなる反応阻止層を製造した。反応阻止層17の厚みは300nmであった。
【0062】
(4)カソード12及びアノード13の製造
YSZ粉及び白金粉を含むペーストを、反応阻止層17の表面に塗布して塗膜を製造した。この塗膜を大気中で、700℃で1時間焼成して、多孔質体からなるカソード12及びアノード13を得た。カソード12及びアノード13の厚みはそれぞれ10μmであった。
【0063】
〔実施例2〕
実施例1において、反応阻止層17の製造を以下のとおりに行った。それ以外は実施例1と同様にして酸素センサ素子を得た。
【0064】
〔反応阻止層17の製造〕
白金のターゲット、及び実施例1で用いたYSZのターゲットを用いて、共スパッタリング法によりYSZとPtの混合膜をカソード側中間層15及びアノード側中間層16面上に成膜した。YSZは高周波(RF)スパッタリング法、白金は直流(DC)スパッタリング法によって成膜した。スパッタリングの条件は、RF出力が300W、DC出力が50W、アルゴンガスの圧力が0.5Paであった。成膜後、大気中900℃にて1時間アニーリングを行い、Y及びZrを含む酸化物とPtからなる反応阻止層を製造した。反応阻止層17の厚みは300nmであった。
【0065】
〔実施例3〕
実施例1において、反応阻止層17の製造に、YSZに代えてY3NbO7を用いた。それ以外は実施例1と同様にして酸素センサ素子を得た。
【0066】
〔実施例4〕
実施例1において、反応阻止層17の製造に、YSZに代えてY2MoO6を用いた。スパッタリング用ターゲットを得るためのホットプレス時の温度は1200℃とし、それ以外は実施例1と同様にして酸素センサ素子を得た。
【0067】
〔実施例5〕
実施例1において、反応阻止層17の形成に、YSZに代えてY3TaO7を用いた。スパッタリング用ターゲットを得るためのホットプレス時の温度は1200℃とし、それ以外は実施例1と同様にして酸素センサ素子を得た。
【0068】
〔実施例6〕
実施例1において、カソード側中間層15及びアノード側中間層16の製造を以下のとおりに行った。それ以外は実施例1と同様にして酸素センサ素子を得た。
【0069】
〔カソード側中間層15及びアノード側中間層16の製造〕
Sm0.2Ce1.8O2の粉体を、100mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形し、引き続きホットプレス焼結を行った。焼結の条件は、窒素ガス雰囲気、圧力30MPa、温度1200℃、3時間とした。このようにしてスパッタリング用のターゲットを得た。このターゲットを用いて高周波(RF)スパッタリング法によって、固体電解質層11の各面にスパッタリングを行い、SDCのスパッタリング層を形成した。スパッタリングの条件は、RF出力が400W、アルゴンガスの圧力が0.5Paであった。スパッタリング後、大気中、1500℃にて1時間のアニーリングを行うことで、ランタンを含むSDCからなる単層構造の中間層(以下「La-SDC」ともいう。)15,16を形成した。各中間層15,16の厚みはいずれも300nmであった。
【0070】
〔比較例1〕
本比較例では、以下の(1)-(3)の工程に従い
図1に示す構造の酸素センサ素子10を製造した。本比較例で得られた酸素センサ素子は反応阻止層17を具備しないものである。
(1)固体電解質層11の製造
実施例1と同様とした。
【0071】
(2)カソード側中間層15及びアノード側中間層16の製造
実施例6と同様とした。
【0072】
(3)カソード12及びアノード13の製造
カソード12及びアノード13を構成する酸化物として、立方晶ペロブスカイト構造を有するLa0.6Sr0.4Co0.78Fe0.2Ni0.02O3-δ(以下「LSCFN」ともいう。)の粉末を用いた。この酸化物は次の方法で得た。まず、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸コバルト、硝酸鉄及び硝酸ニッケル並びにDL-リンゴ酸をイオン交換水に溶解させ、攪拌しながらアンモニア水を添加してpHを2.0~3.0程度に調整した。次いで約350℃で溶液を蒸発させて粉末を得た。得られた粉末を乳鉢で粉砕した。このようにして得られた粉末を空気中900℃で5時間仮焼成することで、目的とするLSCFNの粉末を製造した。
α-テルピネオールにエチルセルロースを溶解させたバインダーにLSCFNの粉末を分散させて25質量%のペーストを調製した。このペーストをカソード側中間層15及び、アノード側中間層16の表面に塗布して塗膜を形成した。これらの塗膜を大気雰囲気下に900℃で5時間にわたり焼成して、多孔質体からなるカソード12及びアノード13を得た。カソード12及びアノード13の厚みは5μmであった。
【0073】
〔比較例2〕
実施例1において反応阻止層17を形成しなかった以外は、同実施例と同様にして酸素センサ素子を得た。
【0074】
〔比較例3〕
実施例6において反応阻止層17を形成しなかった以外は、同実施例と同様にして酸素センサ素子を得た。
【0075】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた酸素センサ素子について、0.5Vの電圧を印加したときの電流密度を以下の方法で測定した。そのときの電流密度の値をI0とする。次いで、SO2ガスを流通後に、同様の方法で電流密度を測定した。そのときの電流密度の値をI1とする。SO2ガスは、1vol%O2+99vol%N2の混合ガスでSO2ガスを100ppmに希釈し、300cc/minの流量で、温度550℃にて1時間流通させた。I0及びI1の値に基づき、SO2の流通前後での電流密度の低下率R=(I0-I1)/I0×100を算出した。その結果を以下の表1に示す。
【0076】
〔電流密度の測定方法〕
測定は600℃で行った。大気中で酸素センサ素子の両電極間に直流電圧0.5Vを印加し、素子に流れる電流値を測定した。得られた電流値と電極面積から電流密度を算出した。
【0077】
【0078】
表1に示す結果から明らかなとおり、反応阻止層を有する各実施例の酸素センサ素子は、反応阻止層を有さない比較例の酸素素子センサに比べて、電流密度の低下が少ないことが判る。
【符号の説明】
【0079】
10 固体電解質接合体
11 固体電解質層
12 カソード
13 アノード
15 カソード側中間層
16 アノード側中間層
17 反応阻止層