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特許7291078酸化銅インク及びこれを用いた導電性基板の製造方法、塗膜を含む製品及びこれを用いた製品の製造方法、導電性パターン付製品の製造方法、並びに、導電性パターン付製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】酸化銅インク及びこれを用いた導電性基板の製造方法、塗膜を含む製品及びこれを用いた製品の製造方法、導電性パターン付製品の製造方法、並びに、導電性パターン付製品
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/52 20140101AFI20230607BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20230607BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
C09D11/52
H01B1/22 A
H01B13/00 503D
H01B13/00 503Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019532881
(86)(22)【出願日】2018-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2018028238
(87)【国際公開番号】W WO2019022230
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2019-09-26
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2017145187
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017145188
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018023239
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 雅典
(72)【発明者】
【氏名】湯本 徹
【合議体】
【審判長】門前 浩一
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】関根 裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/119498(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3127969(EP,A1)
【文献】特開2004-253794(JP,A)
【文献】特開2015-210973(JP,A)
【文献】特開2009-283547(JP,A)
【文献】特開2004-119686(JP,A)
【文献】特開2016-176146(JP,A)
【文献】特開2016-14181(JP,A)
【文献】特開2014-41969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00-11/54
H01B 1/00- 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銅と、分散剤と、還元剤とを含み、
前記還元剤の含有量が下記式(1)の範囲であり、
前記分散剤の含有量が下記式(2)の範囲であり、
キュムラント法で測定される前記酸化銅の平均粒子径が3.0nm以上50nm以下であり、かつ前記平均粒子径を持つ粒子径分布において、多分散度が0.10以上0.30以下であることを特徴とする酸化銅インク。
0.0020≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【請求項2】
前記分散剤の酸価が20以上、130以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸化銅インク。
【請求項3】
前記酸化銅が酸化第一銅であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化銅インク。
【請求項4】
前記還元剤が、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドラジン誘導体、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩の群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の酸化銅インク。
【請求項5】
前記酸化銅は、酸化第一銅であり、
前記分散剤は、酸価が20以上、130以下であり、リン含有有機物であり、
前記還元剤は、ヒドラジン及びヒドラジン水和物から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の酸化銅インク。
【請求項6】
前記還元剤が、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の酸化銅インク。
【請求項7】
酸化第一銅と、前記分散剤と、前記還元剤と、分散媒とを含み、
前記分散媒が炭素数7以下のモノアルコールであり、前記分散媒の酸化銅インク中の含有量が30質量%以上、95質量%以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の酸化銅インク。
【請求項8】
酸化銅と、分散剤と、還元剤とを含み、
前記還元剤の含有量が下記式(1)の範囲であり、
前記分散剤の含有量が下記式(2)の範囲であり、
キュムラント法で測定される前記酸化銅の平均粒子径が3.0nm以上50nm以下であり、かつ前記平均粒子径を持つ粒子径分布において、多分散度が0.10以上0.30以下であることを特徴とする塗膜を含む製品。
0.0020≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【請求項9】
前記分散剤の酸価が20以上、130以下であることを特徴とする請求項8に記載の塗膜を含む製品。
【請求項10】
前記酸化銅が酸化第一銅であることを特徴とする請求項8又は9に記載の塗膜を含む製品。
【請求項11】
前記還元剤が、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドラジン誘導体、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩の群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8~10のいずれか一項に記載の塗膜を含む製品。
【請求項12】
前記酸化銅は、酸化第一銅であり、
前記分散剤は、酸価が20以上、130以下であり、リン含有有機物であり、
前記還元剤は、ヒドラジン及びヒドラジン水和物から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8~11のいずれか一項に記載の塗膜を含む製品。
【請求項13】
前記還元剤が、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物であることを特徴とする請求項8~12のいずれか一項に記載の塗膜を含む製品。
【請求項14】
酸化第一銅と、前記分散剤と、前記還元剤と、分散媒とを含み、
前記分散媒が炭素数7以下のモノアルコールであり、前記分散媒の塗膜中の含有量が30質量%以上、95質量%以下であることを特徴とする請求項8~13のいずれか一項に記載の塗膜を含む製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化銅インク及びこれを用いた導電性基板の製造方法、塗膜を含む製品及びこれを用いた製品の製造方法、導電性パターン付製品の製造方法、並びに、導電性パターン付製品に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、基板上に導電性の配線を施した構造を有する。回路基板の製造方法は、一般的に、次の通りである。まず、金属箔を貼り合せた基板上にフォトレジストを塗布する。次に、フォトレジストを露光及び現像して所望の回路パターンのネガ状の形状を得る。次に、フォトレジストに被覆されていない部分の金属箔をケミカルエッチングにより除去してパターンを形成する。これにより、高性能の回路基板を製造することができる。
【0003】
しかしながら、従来の方法は、工程数が多く、煩雑であると共に、フォトレジスト材料を要する等の欠点がある。
【0004】
これに対し、金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選択された微粒子を分散させた分散体で基板上に所望の配線パターンを直接印刷する直接配線印刷技術(以下、PE(プリンテッド エレクトロニクス)法と記載する)が注目されている。この技術は、工程数が少なく、フォトレジスト材料を用いる必要がない等、極めて生産性が高い。
【0005】
分散体としては、金属インク及び金属ペーストが挙げられる。金属インクは、平均粒子径が数~数十ナノメートルの金属超微粒子を分散媒に分散させた分散体である。金属インクを基板に塗布乾燥させた後、これを熱処理すると、金属超微粒子特有の融点降下によって、金属の融点よりも低い温度で焼結し、導電性を有する金属膜(以下、導電膜ともいう)を形成できる。金属インクを用いて得られた金属膜は、膜厚が薄く、金属箔に近いものになる。
【0006】
一方、金属ペーストは、マイクロメートルサイズの金属の微粒子と、バインダ樹脂と共に分散媒に分散させた分散体である。微粒子のサイズが大きいので、沈降を防ぐために、通常はかなり粘度の高い状態で供給される。そのため、粘度の高い材料に適したスクリーン印刷やディスペンサーによる塗布に適している。金属ペーストは、金属粒子のサイズが大きいため、膜厚が厚い金属膜を形成できるという特徴を有する。
【0007】
このような金属粒子に利用される金属として銅が注目されている。特に、投影型静電容量式タッチパネルの電極材料として広く用いられているITO(酸化インジウムスズ)の代替として、抵抗率、イオン(エレクトロケミカル)マイグレーション、導体としての実績、価格、埋蔵量等の観点から、銅が最も有望である。
【0008】
しかしながら、銅は、数十ナノメートルの超微粒子では酸化が起こりやすく酸化防止処理が必要である。酸化防止処理は、焼結の妨げになるという課題があった。
【0009】
このような課題を解決するために、銅酸化物の超微粒子を前駆体とし、適切な雰囲気下で、熱、活性光線等のエネルギーによって銅酸化物を銅に還元し、銅薄膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
銅酸化物の超微粒子における表面拡散自体は、300℃よりも低い温度で起こるため、適切な雰囲気下でエネルギーにより、銅酸化物を銅に還元すると、銅の超粒子相互が焼結により緻密なランダムチェーンを形成し、全体がネットワーク状となり、所望の電気導電性が得られる。
【0011】
また、特許文献2において、経時変化に対して優れた安定性を示し、微細なパターン形状の導電膜を形成し得る銅酸化物分散体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2003/051562号
【文献】国際公開第2015/012264号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
金属インク及び金属ペーストを用いたPE法により得られる金属薄膜は、抵抗率が低いだけでなく、経時的変化が少ないことが求められる。例えば、銀ペーストに関しては、銀は大気下で酸化を受けやすく、酸化して抵抗率が上昇するため、銀粒子間の抵抗率は経時的に悪化していくことが知られている。
【0014】
しかしながら、特許文献1に開示された銅酸化物の超微粒子を前駆体として用いたPE法により得られる金属膜について、抵抗率の安定性について検討した先行技術文献は存在していない。
【0015】
また、工業的利用においては、分散体が、高濃度で経時的変化に対して優れた分散安定性を有することも求められる。
【0016】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、インクとして分散安定性が高く、貯蔵安定性に優れ、基板上で抵抗の低い導電膜を形成できる酸化銅インク及びこれを用いた導電性基板の製造方法、塗膜を含む製品及びこれを用いた製品の製造方法、導電性パターン付製品の製造方法、並びに、導電性パターン付製品を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様の酸化銅インクは、酸化銅と、分散剤と、還元剤とを含み、前記還元剤の含有量が下記式(1)の範囲であり、前記分散剤の含有量が下記式(2)の範囲であることを特徴とする。
0.00010≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【0018】
本発明の一態様の酸化銅インクは、酸化第一銅と、分散剤と、還元剤とを含み、前記分散剤は、酸価が20以上、130以下であり、リン含有有機物であり、前記分散剤の含有量が下記式(1)の範囲であり、前記還元剤は、ヒドラジン及びヒドラジン水和物から選ばれる少なくとも1つを含み、前記還元剤の含有量が下記式(2)の範囲であることを特徴とする。
0.00010≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【0019】
本発明の一態様の塗膜を含む製品は、酸化銅と、分散剤と、還元剤とを含み、前記還元剤の含有量が下記式(1)の範囲であり、前記分散剤の含有量が下記式(2)の範囲であることを特徴とする。
0.00010≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【0020】
本発明の一態様の塗膜を含む製品は、酸化第一銅と、分散剤と、還元剤とを含み、前記分散剤は、酸価が20以上、130以下であり、リン含有有機物であり、前記分散剤の含有量が下記式(1)の範囲であり、前記還元剤は、ヒドラジン及びヒドラジン水和物から選ばれる少なくとも1つを含み、前記還元剤の含有量が下記式(2)の範囲であることを特徴とする。
0.00010≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【0021】
本発明の一態様の導電性基板の製造方法は、上記の酸化銅インクを用い、基板上に形成したパターンに、還元性ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ焼成処理を行うことを特徴とする。
【0022】
発明の一態様の導電性基板の製造方法は、上記の酸化銅インクを用い、基板上に塗膜を形成する工程と、その塗膜にレーザ光を照射させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明の一態様の導電性基板の製造方法は、上記の酸化銅インクを用い、基板上に塗膜を形成する工程と、その塗膜にキセノン光を照射させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の一態様の製品の製造方法は、上記の塗膜を含む製品を用い、前記製品に、還元性ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ焼成処理を行い、導電性パターンを得ることを特徴とする。
【0025】
発明の一態様の製品の製造方法は、上記の塗膜を含む製品を用い、前記製品に、レーザ光を照射させ、導電性パターンを得る工程を含むことを特徴とする。
【0026】
発明の一態様の製品の製造方法は、上記の塗膜を含む製品を用い、前記製品に、キセノン光を照射させ、導電性パターンを得る工程を含むことを特徴とする。
【0027】
本発明の一態様の導電性パターン付製品は、基板と、前記基板の表面に形成された酸化第一銅含有層と、前記酸化第一銅含有層の表面に形成された導電性層と、を具備し、前記導電性層は線幅1.0μm以上、1000μm以下の配線であり、前記配線は還元銅を含むことを特徴とする。
【0028】
本発明の一態様の導電性パターン付製品は、基板と、前記基板の表面に形成された酸化第一銅含有層と、前記酸化第一銅含有層の表面に形成された導電性層と、を具備し、前記導電性層は線幅1.0μm以上、1000μm以下の配線であり、前記配線は還元銅、銅及びスズを含むことを特徴とする。
【0029】
本発明の一態様の導電性パターン付製品は、基板と、前記基板の表面に形成された導電性パターンと、を具備し、前記導電性パターンは線幅1.0μm以上、1000μm以下の配線であり、前記配線は還元銅、リン及びボイドを含むことを特徴とする。
【0030】
本発明の一態様の導電性パターン付製品は、基板と、前記基板の表面に形成された導電性パターンと、を具備し、前記導電性パターンは線幅1.0μm以上、1000μm以下の配線であり、前記配線は還元銅、銅及びスズを含むことを特徴とする。
【0031】
本発明の一態様の導電性パターン付製品は、基板と、前記基板の表面に形成された導電性パターンと、を具備し、前記導電性パターンは線幅1.0μm以上、1000μm以下の配線であり、前記配線は還元銅、酸化銅及びリンを含み、前記配線を覆うように樹脂が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、インクとして分散安定性が高く、貯蔵安定性に優れ、基板上で抵抗の低い導電膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本実施の形態に係る酸化銅とリン酸エステル塩との関係を示す模式図である。
図2】本実施の形態に係る導電性基板を示す断面模式図である。
図3】本実施の形態に係る焼成にレーザ照射を用いた場合の導電性基板の製造方法の各工程を示す説明図である。
図4】本実施の形態に係る焼成にプラズマを用いた場合の導電性基板の製造方法の各工程を示す説明図である。
図5】本実施の形態に係る焼成にレーザ照射を用いた場合の導電性基板の製造方法であり、各工程を示す説明図である。なお、図3と一部異なる工程を含む。
図6図6Aは本実施の形態に係るハンダ層が形成された導電性基板の写真である。図6B図6Aの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。
【0035】
<本実施の形態の酸化銅インクの概要>
高い分散安定性、及び優れた貯蔵安定性を備えた酸化銅インクを用いることで、大気下での取り扱いを容易にでき、また、粒径、濃度、粘度及び溶媒のコントロール、各種印刷手法への適用、更には汎用樹脂基板上での焼成等が可能となる。
【0036】
本実施の形態における酸化銅インクでは、ナノ粒子の凝集を防止すべく、分散剤を含ませている。更に、本実施の形態では、還元剤も微量に含む。還元剤を含むことで、焼成の際、酸化銅の銅への還元を促進させることができる。
【0037】
ところで、特許文献2に記載されているように、ヒドラジン等の還元剤は、濃縮希釈を繰り返す溶媒置換などによって、酸化銅中から積極的に除去されてきた。すなわち、本発明者らによる特許文献2の出願時点の知見においては、ヒドラジン等の還元剤を希釈・濃縮を繰り返して銅インク中から積極的に除去していた。
【0038】
これに対して本実施の形態では、還元剤を所定量含ませている。従来、還元剤の定量を阻害する酸化銅ナノ粒子が存在すると、還元剤を定量することは困難であったが、本発明者らは、特許文献2の出願時点以降に、酸化銅インク中のヒドラジン等の還元剤の定量方法を確立した。これにより、酸化銅インク中のヒドラジン等の還元剤の定量が可能になり、酸化銅インク中のヒドラジン等の還元剤の及ぼす効果を定量的に把握可能となった。その結果、ヒドラジン等の還元剤が酸化銅インクの貯蔵安定性にも寄与していることがわかり、本発明を完成するに至った。
【0039】
また、上記還元剤の定量方法の確立により、酸化銅インク中にヒドラジン等の還元剤を積極的に残す方法を見出すことができた。すなわち、酸化銅インクを作製する際に、ヒドラジン等の還元剤を所定の時間/温度条件で添加し、窒素雰囲気下で分散させることで、酸化銅インクにヒドラジン等の還元剤を効果的に残せることがわかった。
【0040】
以下、本実施の形態の酸化銅インクについて具体的に説明する。図1は、本実施の形態に係る酸化銅とリン酸エステル塩との関係を示す模式図である。図2は、本実施の形態に係る導電性基板を示す断面模式図である。
【0041】
<酸化銅インク>
本実施の形態の酸化銅インクは、分散媒に、(1)酸化銅と、(2)分散剤と、(3)還元剤とを含むことを特徴とする。酸化銅インクに還元剤が含まれることにより、焼成において酸化銅の銅への還元が促進され、銅の焼結が促進される。
【0042】
「酸化銅インク」とは、分散媒中に、酸化銅が分散した状態のインクやペーストである。また、酸化銅インクは、分散体と称することもできる。
【0043】
「還元剤」は、酸化銅に対する還元作用を有するものであり、銅への還元を促進する。還元剤は、分散剤及び分散媒よりも還元作用が強い物質として選択される。
【0044】
「分散媒」は、溶媒として機能する。「分散媒」は、物質によっては、分散剤、還元剤及び分散媒のうち2以上に該当し、または、いずれに該当する場合であっても、本実施の形態においては、分散媒と定義される。
【0045】
「分散剤」は、酸化銅同士が互いに凝集しないように分散媒中に分散させることに寄与する。
【0046】
還元剤の含有量は、下記式(1)の範囲を満たす。
0.00010≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
これにより還元剤の質量比率が0.00010以上であると、より焼成の際の還元が進み、銅膜の抵抗が低下する。更に、本実施の形態では、還元剤含有量を上記式(1)とすることで、貯蔵安定性をより向上させることができる。貯蔵安定性が向上する原理は不明であるが、A.還元剤が酸素を消費する、B.酸化銅粒子のゼータ電位を還元剤が制御している、と推定される。また、0.10以下であると酸化銅インクの貯蔵安定性が向上する。より好ましくは0.0010以上0.050以下、より好ましくは0.0010以上0.030以下、さらに好ましくは0.0020以上0.030以下、さらにより好ましくは0.0040以上0.030以下である。
【0047】
また、分散剤の含有量は、下記式(2)の範囲を満たす。
【0048】
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
これにより、酸化銅の凝集を抑制して、分散安定性が向上する。より好ましくは0.050以上0.30以下であり、さらに好ましくは0.10以上0.30以下であり、さらにより好ましくは0.20以上0.30以下、さらにより好ましくは0.20以上0.25以下である。
【0049】
また、分散剤の酸価は、20以上、130以下であることが好ましい。これにより、酸化銅インクの分散安定性が向上する。この範囲内であれば、酸化銅の平均粒子径を3.0nm以上、50nm以下にすることができる。分散剤の酸価は、より好ましくは25以上120以下であり、さらに好ましくは36以上110以下、さらにより好ましくは36以上101以下である。
【0050】
この構成により、酸化銅に対する還元剤及び分散剤の質量の範囲を限定することで、分散安定性、貯蔵安定性が向上するとともに、導電膜の抵抗が効果的に低下する。特に還元剤含有量を上記式(1)とすることで、貯蔵安定性が特許文献2と比べ、より良くなった。上記還元剤の定量方法の確立により、還元剤含有量を上記式(1)とすることで、貯蔵安定性をより向上させることができるとわかった。
【0051】
また、分散剤の酸価の範囲を限定することで、分散安定性が効果的に向上する。また、プラズマや光、レーザ光を用いて焼成処理を行うことができるため、酸化銅中の有機物が分解され、酸化銅の焼成が促進され、抵抗の低い導電膜を形成できる。このため、電気を流す配線や、放熱、電磁波シールド、回路など様々な銅配線を提供できる。また、酸化銅は抗菌抗カビ性を有する。
【0052】
酸化銅の粒子径を上記した範囲とすることで、低温焼成が可能になり、還元により生じた銅を容易に焼結することができる。また、プラズマや光、レーザ光を用いて焼成処理を行うことができるため、酸化銅中の有機物が分解され、酸化銅の焼成が促進されて抵抗の低い導電膜を形成できるとともに、分散安定性が向上する。
【0053】
また、酸化銅は酸化第一銅であることが好ましい。これにより、酸化銅の還元が容易になり、還元により生じた銅を容易に焼結することができる。
【0054】
本実施の形態の酸化銅インクは、以下の構成を含むことが好ましい。
(A)酸化第一銅と、分散剤と、還元剤とを含むこと。
(B)分散剤は、酸価が、20以上、130以下であり、リン含有有機物であり、前記分散剤の含有量が下記式(2)の範囲であること。
(C)還元剤は、ヒドラジン及びヒドラジン水和物から選ばれる少なくとも1つを含み、前記還元剤の含有量が下記式(1)の範囲であること。
0.00010≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【0055】
この構成により、酸化第一銅に対する還元剤及び分散剤の質量の範囲を限定することで、分散安定性、貯蔵安定性が向上するとともに、導電膜の抵抗が効果的に低下する。また、分散剤の酸価の範囲を限定することで、分散安定性が効果的に向上する。さらに、分散剤がリン含有有機物であることで、分散安定性が向上する。
【0056】
また、本実施の形態の酸化銅インクでは、酸化第一銅と、分散剤と、還元剤と、更に、分散媒を含むことが好ましい。
【0057】
このとき、分散媒は、以下の構成であることが好ましい。
(D)分散媒が炭素数7以下のモノアルコールであり、前記分散媒の酸化銅インク中の含有量が30質量%以上、95質量%以下であること。
【0058】
この構成により、低温焼成が可能になる。また、プラズマや光、レーザ光を用いて焼成処理を行うことができるため、酸化銅中の有機物が分解され、酸化銅の焼成が促進されて抵抗の低い導電膜を形成できるとともに、分散安定性が向上する。
【0059】
次に、酸化銅インクにおける酸化銅と分散剤の状態について、図1を用いて説明する。図1に示すように、酸化銅インク1において、酸化銅の一例である酸化銅2の周囲には、分散剤としての例えばリン含有有機物の一例であるリン酸エステル塩3が、リン3aを内側に、エステル塩3bを外側にそれぞれ向けて取り囲んでいる。リン酸エステル塩3は電気絶縁性を示すため、隣接する酸化銅2との間の電気的導通は妨げられる。また、リン酸エステル塩3は、立体障害効果により酸化銅インク1の凝集を抑制する。
【0060】
したがって、酸化銅2は半導体であり導電性であるが、電気絶縁性を示すリン酸エステル塩3で覆われているので、酸化銅インク1は電気絶縁性を示し、断面視(図2中に示す上下方向に沿った断面)で、酸化銅インク1の両側に隣接する導電性パターン領域(後述)の間の絶縁を確保することができる。
【0061】
一方、導電性パターン領域は、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層の一部の領域に光照射し、当該一部の領域において、酸化銅を銅に還元する。このように酸化銅が還元された銅を還元銅という。また、当該一部の領域において、リン含有有機物は、リン酸化物に変性する。リン酸化物では、上述のエステル塩3b(図1参照)のような有機物は、レーザなどの熱によって分解し、電気絶縁性を示さないようになる。
【0062】
また、図1に示すように、酸化銅2が用いられている場合、レーザなどの熱によって、酸化銅が還元銅に変化すると共に焼結し、隣接する酸化銅2同士が一体化する。これによって、優れた電気導電性を有する領域(以下、「導電性パターン領域」という)を形成することができる。
【0063】
導電性パターン領域において、還元銅の中にリン元素が残存している。リン元素は、リン元素単体、リン酸化物及びリン含有有機物のうち少なくとも1つとして存在している。このように残存するリン元素は導電性パターン領域中に偏析して存在しており、導電性パターン領域の抵抗が大きくなる恐れはない。
【0064】
[(1)酸化銅]
本実施形態においては金属酸化物成分の一つとして酸化銅を用いる。酸化銅としては、酸化第一銅(CuO)が好ましい。これは、金属酸化物の中でも還元が容易で、さらに微粒子を用いることで焼結が容易であること、価格的にも銅であるがゆえに銀などの貴金属類と比較し安価で、マイグレーションに対し有利であるためである。
【0065】
酸化銅粒子の平均粒子径の好ましい範囲は、3.0nm以上、50nm以下、より好ましくは5.0nm以上、40nm以下、さらに好ましくは10nm以上、29nm以下である。平均粒子径が50nm以下の場合、低温焼成が可能となり、基板の汎用性が広がる。また、基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。また、3.0nm以上であると、酸化銅インクに用いられた際に分散安定性がよく、酸化銅インクの長期保管安定性が向上するので好ましい。また、均一な薄膜を作製できる。ここで平均粒子径とは、酸化銅インク中での分散時の粒子径であり、大塚電子製FPAR-1000を用いてキュムラント法によって測定した値である。つまり1次粒子径とは限らず、2次粒子径であってもよい。
【0066】
また、平均粒子径分布において、多分散度が0.10以上0.40以下の範囲がよく、より好ましくは0.20以上0.30以下がよい。この範囲であれば、成膜性がよく、分散安定性も高い。
【0067】
酸化第一銅に関しては、市販品を用いてもよいし、合成して用いてもよい。市販品として、(株)希少金属材料研究所製の平均一次粒子径5~50nmのものがある。合成法としては、次の方法が挙げられる。
(1)ポリオール溶剤中に、水と銅アセチルアセトナト錯体を加え、いったん有機銅化合物を加熱溶解させ、次に、反応に必要な水を後添加し、さらに昇温して有機銅の還元温度で加熱する加熱還元する方法。
(2)有機銅化合物(銅-N-ニトロソフェニルヒドロキシアミン錯体)を、ヘキサデシルアミンなどの保護材存在下、不活性雰囲気中で、300℃程度の高温で加熱する方法。
(3)水溶液に溶解した銅塩をヒドラジンで還元する方法。
この中では(3)の方法は操作が簡便で、かつ、平均粒子径の小さい酸化第一銅が得られるので好ましい。この反応において、温度と時間を制御することで、酸化銅インク中の還元剤含有量を制御することができ、酸化銅インクの貯蔵安定性をより良くすることが可能となる。
【0068】
合成終了後、合成溶液と酸化第一銅の分離を行うが、遠心分離などの既知の方法を用いればよい。また、得られた酸化第一銅を後述の分散剤、分散媒を加えホモジナイザーなど既知の方法で攪拌し分散する。特に、窒素雰囲気などの不活性雰囲気下で分散を行うことにより、得られた酸化第一銅に含まれるヒドラジンなどの還元剤の、酸素や水分などによる分解を防ぐことができる。このようにして得られた酸化銅を有する分散体は、後述の方法で銅粒子などと混合してもよく、本実施の形態の酸化銅インクとすることができる。この酸化銅インクが印刷、塗布に用いられる。
【0069】
また、分散媒は、炭素数7以下のモノアルコールであることが好ましい。これにより、酸化銅の分散性の低下を抑制するため、さらに分散剤との相互作用において、より安定に酸化銅を分散させる。また、抵抗値も低くなる。
【0070】
また、分散媒の酸化銅インク中の含有量が30質量%以上、95質量%以下であることが好ましい。これにより、低温焼成が可能になる。また、プラズマや光、レーザ光を用いて焼成処理を行うことができるため、酸化銅中の有機物が分解され、酸化銅の焼成が促進されて抵抗の低い導電膜を形成できるとともに、分散安定性が向上する。
【0071】
[(2)分散剤]
次に分散剤について説明する。本件における分散剤は、銅インクの中で酸化銅の分散性を高める。分散剤としては、例えば、リン含有有機物が挙げられる。リン含有有機物は酸化銅に吸着してもよく、この場合立体障害効果により凝集を抑制する。また、リン含有有機物は、絶縁領域において電気絶縁性を示す材料である。リン含有有機物は、単一分子であってよいし、複数種類の分子の混合物でもよい。
【0072】
分散剤の数平均分子量は、特に制限はないが、例えば300~300000であることが好ましい。300以上であると、絶縁性に優れ、得られる酸化銅インクの分散安定性が増す傾向があり、300000以下であると、焼成しやすい。また、構造としては酸化銅に親和性のある基を有する高分子量共重合物のリン酸エステルが好ましい。例えば、化学式(1)の構造は、酸化銅、特に酸化第一銅と吸着し、また基板への密着性にも優れるため、好ましい。その他にもリン含有有機化合物として以下の化合物を利用することができる。ホスフィン類、ホスフィンオキシド類、ホスホン酸エステル類、亜リン酸エステル類、リン酸エステル類等を利用できる。
【0073】
【化1】
化学式(1)中、lは1~20の整数、好ましくは1~15の整数、より好ましくは1~10の整数であり、mは1~20の整数、好ましくは1~15の整数、より好ましくは1~10の整数であり、nは1~20の整数、好ましくは1~15の整数、より好ましくは1~10の整数である。この範囲とすることで、酸化銅の分散性を高めつつ、さらに分散媒に分散剤が可溶となる。
【0074】
分散剤としては前記したものに加え以下の公知のものも用いることができ、例えば、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩などの塩基性基を有する高分子が挙げられる。また、アクリル系ポリマー、アクリル系共重合物、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸などの高分子のアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩などが挙げられる。このような分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。
【0075】
上記市販品としては、例えば、DISPERBYK(登録商標)―101、DISPERBYK―102、DISPERBYK-110、DISPERBYK―111、DISPERBYK―112、DISPERBYK-118、DISPERBYK―130、DISPERBYK―140、DISPERBYK-142、DISPERBYK―145、DISPERBYK―160、DISPERBYK―161、DISPERBYK―162、DISPERBYK―163、DISPERBYK―2155、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、DISPERBYK―180、DISPERBYK―2000、DISPERBYK―2025、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、BYK―9076、BYK―9077、TERRA-204、TERRA-U(以上ビックケミー社製)、フローレンDOPA-15B、フローレンDOPA-15BHFS、フローレンDOPA-22、フローレンDOPA-33、フローレンDOPA-44、フローレンDOPA-17HF、フローレンTG-662C、フローレンKTG-2400(以上共栄社化学社製)、ED-117、ED-118、ED-212、ED-213、ED-214、ED-216、ED-350、ED-360(以上楠本化成社製)、プライサーフM208F、プライサーフDBS(以上第一工業製薬製)などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0076】
リン含有有機物は、光や熱によって分解又は蒸発しやすいことが好ましい。光や熱によって分解又は蒸発しやすい有機物を用いることによって、焼成後に有機物の残渣が残りにくくなり、抵抗率の低い導電性パターン領域を得ることができる。
【0077】
リン含有有機物の分解温度は、限定されないが、600℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。リン含有有機物の沸点は、限定されないが、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。
【0078】
リン含有有機物の吸収特性は、限定されないが、焼成に用いる光を吸収できることが好ましい。例えば、焼成のための光源としてレーザ光を用いる場合は、その発光波長の、例えば355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1056nmなどの光を吸収するリン含有有機物を用いることが好ましい。基板が樹脂の場合、特に好ましくは、355nm、405nm、445nm、450nm、532nmの波長である。
【0079】
分散剤の必要量は、酸化銅の量に比例し、要求される分散安定性を考慮し調整する。本実施形態の酸化銅インクに含まれる分散剤の質量比率(分散剤質量/酸化銅質量)は、0.0050以上0.30以下であり、好ましくは、0.050以上0.30以下であり、より好ましくは0.10以上0.30以下であり、さらに好ましくは0.20以上0.30以下、さらにより好ましくは0.20以上0.25以下である。分散剤の量は分散安定性に影響し、量が少ないと凝集しやすく、多いと分散安定性が向上する傾向がある。但し、本実施形態の酸化銅インクにおける分散剤の含有率を35質量%以下にすると、焼成して得られる導電膜において分散剤由来の残渣の影響を抑え、導電性を向上できる。
【0080】
分散剤の酸価(mgKOH/g)は20以上、130以下が好ましい。分散剤の酸価は、より好ましくは25以上120以下であり、さらに好ましくは36以上110以下、さらにより好ましくは36以上101以下である。この範囲に入ると分散安定性に優れるため好ましい。特に平均粒子径が小さい酸化銅の場合に有効である。具体的には、ビックケミ―社製「DISPERBYK―102」(酸価101)、「DISPERBYK-140」(酸価73)、「DISPERBYK-142」(酸価46)、「DISPERBYK-145」(酸価76)、「DISPERBYK-118」(酸価36)、「DISPERBYK-180(酸価94)などが挙げられる。
【0081】
また、分散剤のアミン価(mgKOH/g)と酸価の差(アミン価-酸価)は-50以上0以下であることが好ましい。アミン価は、遊離塩基、塩基の総量を示すものであり、酸価は、遊離脂肪酸、脂肪酸の総量を示すものである。アミン価、酸価はJIS K 7700あるいはASTM D2074に準拠した方法で測定する。-50以上0以下だと分散安定性に優れるため、好ましい。より好ましくは-40以上0以下であり、さらに好ましくはー20以上0以下である。
【0082】
酸化銅インクに含まれる分散剤のアミン価、酸価は次の方法で測定可能である。酸化銅インクを液体クロマトグラフィー等で成分分取し、上述の方法でアミン価、酸価を測定できる。
【0083】
[(3)還元剤]
次に還元剤について説明する。本件の還元剤とは、酸化銅を還元して、銅にする。この銅を還元銅という。
【0084】
還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドラジン誘導体、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩などが挙げられる。これら材質から、少なくとも1つを含むことが好ましい。これにより、酸化銅の貯蔵安定性が向上するとともに、還元を促進することから導電膜の抵抗が低下する。
【0085】
ヒドラジン誘導体としては、ヒドラジン塩類、アルキルヒドラジン類、ピラゾール類、トリアゾール類、ヒドラジド類などが挙げられる。ヒドラジン塩類としては、モノ塩酸ヒドラジン、ジ塩酸ヒドラジン、モノ臭化水素酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジンなどが挙げられ、ピラゾール類としては、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-ピラゾロンなどが挙げられ、トリアゾール類としては、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾールなどが挙げられ、ヒドラジド類としては、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド、ベンゾフェノンヒドラゾンなどが挙げられる。上記のように、ヒドラジン誘導体には、アルキルヒドラジン等のヒドラジン骨格誘導体を用いることができる。焼成において、酸化銅、特に酸化第一銅の還元に寄与し、より抵抗の低い銅膜を作製することができる観点から、還元剤は、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物が最も好ましい。また、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を用いることにより、酸化銅の貯蔵安定性が向上するとともに、還元を促進することから導電膜の抵抗が低下する。
【0086】
なお、還元剤として、原料にヒドラジン水和物を用い、結果物としての酸化銅インクではヒドラジンとして検出されてもよい。このように、原料と、結果物としての酸化銅インク、或いは、酸化銅インクを用いた塗膜とに含まれるヒドラジンの形態が異なっていてもよい。ヒドラジン以外の還元剤を用いた場合も同様である。
【0087】
還元剤の必要量は酸化銅の量に比例し、要求される還元性を考慮し調整する。本実施の形態の酸化銅インクに含まれる還元剤の質量比率(還元剤質量/酸化銅質量)は、0.00010以上0.10以下が好ましく、より好ましくは0.0010以上0.050以下、さらに好ましくは0.0010以上0.030以下、さらに好ましくは0.0020以上0.030以下、さらにより好ましくは0.0040以上0.030以下である。還元剤の質量比率は、0.00010以上であると貯蔵安定性が向上し、かつより還元が進み銅膜の抵抗が低下する。更に、本実施の形態では、還元剤含有量を上記式(1)とすることで、貯蔵安定性をより向上させることができる。また、0.10以下であると酸化銅インクの長期安定性が向上する。
【0088】
本実施の形態においては、酸化銅インクに、ヒドラジン等の還元剤を含ませている。本実施の形態では、窒素雰囲気などの不活性雰囲気と併せて、例えば後述するように、時間及び温度条件を調整することで、酸化銅インクに還元剤を、上記した式(1)の範囲で、還元剤を含ませることができる。
【0089】
[その他成分]
本実施の形態の酸化銅インクは、上述の構成成分の他に、分散媒(溶媒)が含まれていてもよい。
【0090】
本実施の形態に用いられる分散媒は、分散という観点から分散剤の溶解が可能なものの中から選択する。一方、酸化銅インクを用いて導電性パターンを形成するという観点からは、分散媒の揮発性が作業性に影響を与えるため、導電性パターンの形成方法、例えば印刷や塗布の方式に適するものである必要がある。従って、分散媒は分散性と印刷や塗布の作業性に合わせて下記の溶剤から選択すればよい。
【0091】
分散媒の具体例としては、以下の溶剤を挙げることができる。水、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ-1,2-プロピレングリコール、グリセロール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、2-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、2、6ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3、3、5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。これらに具体的に記載したもの以外にも、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル類溶剤を分散媒に用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよく、印刷方式に応じ蒸発性や、印刷機材、被印刷基板の耐溶剤性を考慮し選択する。
【0092】
分散媒として、水もしくは炭素数10以下のモノアルコールがより好ましく、さらに炭素数7以下が好ましい。炭素数7以下のモノアルコール中でも、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノールが分散性、揮発性及び粘性が特に適しているのでさらに好ましい。これらのモノアルコールを単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。酸化銅の分散性の低下を抑制するため、さらに分散剤との相互作用により、より安定に分散させるためにもモノアルコールの炭素数は7以下であることが好ましい。また、炭素数7以下を選択すると抵抗値も低くなり好ましい。
【0093】
ただし、沸点は酸化銅インクの作業性に影響を与える。沸点が低すぎれば揮発が速いため、固形物の析出による欠陥の増加や清掃頻度の増大により作業性が悪化する。このため、塗布、ディスペンサー方式では沸点が40℃以上、インクジェット方式、スクリーン方式、オフセット方式では120℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは200℃以上がよく、沸点の上限としては、乾燥の観点から300℃以下が好ましい。
【0094】
分散媒の含有量は酸化銅インク全体の中で30質量%以上、95質量%以下が好ましく、40質量%以上、95質量%以下がさらに好ましく、50質量%以上、90質量%以下がさらにより好ましく、50質量%以上70質量%以下が最も好ましい。
【0095】
[還元剤の調整方法]
本実施の形態では、既述の<本実施の形態の酸化銅インクの概要>に記載したように、酸化銅インク中に、ヒドラジン等の還元剤を所定量含ませることに特徴的部分がある。このように、酸化銅インク中に、所定量の還元剤を含ませる調整方法としては、以下の方法を提示することができる。
【0096】
(A) まず第一の方法は、酸化銅に還元剤を添加する方法である。酸化銅、分散剤、必要に応じて分散媒といった組成物の混合物(分散体)に還元剤を添加する方法である。還元剤は、各要素と同時に添加してもよいし、各要素を順番に添加する中の一つとしても構わない。この際、用いる酸化銅を酢酸銅から還元したものを利用するケースもあるため、事前に酸化銅中の還元剤を定量した後、還元剤を添加することが好ましい。例えば、後述する図3中(d)と図3中(e)との間で、UF膜モジュールによる濃縮及び希釈を繰り返し、溶媒を置換し、酸化銅微粒子を含有する分散体を得るような場合は、還元剤を分散体に添加して、還元剤含有量を調整することができる。
【0097】
(B) 次に第二の方法を記載する。第二の方法は、上記したように酸化銅を酢酸銅から生成する場合に酢酸銅の還元のために添加する還元剤をインクにも引き続き利用する方法である。この時に、反応温度と反応時間によって制御することが好ましい。通常、酸化銅を酢酸銅から生成する場合、反応温度と反応時間に依存するが、還元剤は消費される。また、還元剤が残った場合は、濃縮希釈を繰り返すことによって積極的に除去される。これに対して本方法では、反応温度及び反応時間を適宜選択することにより還元剤含有量を制御し、さらに溶媒を用いた濃縮希釈を行わず、未反応の還元剤をそのままインクに利用するものである。加えて、還元剤の中でも、ヒドラジンは非常に不安定である為、酢酸銅から銅への反応系を窒素等の不活性雰囲気下で行い、かつ、攪拌も窒素雰囲気で行うことが好ましい。以下、手順を詳細に記載する。
【0098】
本実施の形態では、ヒドラジン等の還元剤を粒子合成時の反応原料として用い、還元剤を反応後も残すことが特徴である。その一例であるが、例えば酢酸銅を溶かした溶液に、ヒドラジン等の還元剤を、第1の時間をかけて窒素雰囲気下で投入攪拌し、第2の時間をかけて窒素雰囲気下で撹拌して、酸化第一銅を得る。第1の時間、第2の時間の中で、所定温度に調整することが好ましい。その後、遠心分離等で上澄み液と酸化第一銅を含む沈殿物に分離し、得られた沈殿物に、分散剤等を加えて、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化銅インクを得る。
【0099】
上記した還元剤を投入する第1の時間は、5.0分~60分程度であることが好ましい。第1の時間の温度は、-10℃~10℃であることが好ましい。また、撹拌の際の第2の時間は、30分~120分程度であることが好ましい。また、撹拌の際の所定温度は、10℃~40℃であることが好ましい。例えば、撹拌の際、外部温調器等を用いて途中で温度を変えることができる。
【0100】
分散処理の方法としては、ホモジナイザーであることが好ましいが、ホモジナイザーに限定するものでなく、例えば超音波、ボールミル、ビーズミル、ミキサーであってもよい。
【0101】
また、本実施の形態では、酸化銅、分散剤、及び還元剤等を含有した分散液を、ホモジナイザーなど既知の方法で攪拌し分散する際、窒素雰囲気などの不活性雰囲気下で行う。
【0102】
本実施の形態では、不活性雰囲気とは、窒素雰囲気であることが好ましいが、窒素雰囲気以外にアルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気であってもよい。これらの不活性ガスを複数種、含む雰囲気下で撹拌し分散してもよい。
【0103】
また、本実施の形態では、ヒドラジン等の還元剤を、例えば、上記したように、得られた沈殿物に、分散剤を加える際、又は、酸化銅インクを得た後に、添加することも可能である。これにより、還元剤含有量を精度よく調整することができる。このとき、酸化銅インクに含まれる酸化第一銅は、上記沈殿物であってもよいし、市販品であってもよい。
【0104】
以上により、上記に記載した式(1)のヒドラジン等の還元剤を含ませることができる。
【0105】
なお、本実施の形態では、還元剤として、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体あるいはヒドラジン水和物であることが好ましい。また、これらヒドラジンに、別の還元剤を含んでいてもよい。また、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体あるいはヒドラジン水和物以外の還元剤を用いる場合も、上記に挙げた還元剤の調整方法に準じて調整することで、式(1)の還元剤含有量を含ませることができる。
【0106】
本実施の形態では、サロゲート法により、還元剤の定量を可能とする。従来、ベンズアルデヒドをヒドラジン等の還元剤に反応させ、誘導体化した後にガスクロマトグラフィーで定量していた。しかしながら、この定量方法では、還元剤の定量を阻害する酸化銅ナノ粒子が存在すると、還元剤を定量することは困難であった。また、定量操作中に、ヒドラジン等の還元剤が大気中の酸素で分解する場合があり、還元剤を定量することが困難だった。そこで本発明者らは、定量の前処理において、酸によって酸化銅をイオン化し定量の阻害要因を解消した。さらにサロゲート物質を利用して、定量操作中のヒドラジン等の還元剤の分解のばらつきを補正するサロゲート法により、定量が困難だった還元剤の定量が可能となった。
【0107】
[酸化銅と銅を含む分散体(酸化銅インク)の調整]
酸化第一銅と銅粒子を含む分散体、すなわち酸化銅インクは、前述の酸化銅分散体に、銅微粒子、必要に応じ分散媒を、それぞれ所定の割合で混合し、例えば、ミキサー法、超音波法、3本ロール法、2本ロール法、アトライター、ホモジナイザー、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ボールミル、サンドミル、自公転ミキサーなどを用いて分散処理することにより調整することができる。
【0108】
分散媒の一部は既に作成した酸化銅分散体に含まれているため、この酸化銅分散体に含まれている分で充分な場合はこの工程で添加する必要はなく、粘度の低下が必要な場合は必要に応じこの工程で加えればよい。もしくはこの工程以降で加えてもよい。分散媒は前述の酸化銅分散体作製時に加えたものと同じものでも、異なるもの加えてもよい。
【0109】
この他に必要に応じ、有機バインダ、酸化防止剤、還元剤、金属粒子、金属酸化物を加えてもよく、不純物として金属や金属酸化物、金属塩及び金属錯体を含んでもよい。
【0110】
また、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子はクラック防止効果が大きいため、単独であるいは球状、サイコロ状、多面体などの銅粒子や他の金属と複数組み合わせて加えてもよく、その表面を酸化物や他の導電性のよい金属、例えば銀などで被覆してもよい。
【0111】
なお銅以外の金属粒子で、形状が針金状、樹枝状、鱗片状の一種もしくは複数を加える場合、同様な形状の銅粒子と同様にクラック防止効果を有するため、同様の形状の銅粒子の一部との置き換え、もしくは同様の形状の銅粒子に追加して使うこともできるが、マイグレーション、粒子強度、抵抗値、銅食われ、金属間化合物の形成、コストなどを考慮する必要がある。銅以外の金属粒子としては、例えば金、銀、錫、亜鉛、ニッケル、白金、ビスマス、インジウム、アンチモンを挙げることができる。
【0112】
金属酸化物粒子としては、酸化第一銅を酸化銀、酸化第二銅など置き換え、もしくは追加して使うことができる。しかしながら、金属粒子の場合と同様に、マイグレーション、粒子強度、抵抗値、銅食われ、金属間化合物の形成、コストなどを考慮する必要がある。これら金属粒子および金属酸化物粒子の添加は、導電膜の焼結、抵抗、導体強度、光焼成の際の吸光度などの調整に用いることができる。これらの金属粒子および金属酸化物粒子を加えても、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子の存在により、クラックは充分抑制される。これらの金属粒子および金属酸化物粒子は単独でもしくは二種類以上組み合わせて用いてもよく、形状の制限は無い。例えば銀や酸化銀は、抵抗低下や焼成温度低下などの効果が期待される。
【0113】
しかしながら、銀は貴金属類でありコストがかさむことや、クラック防止の観点から、銀の添加量は、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子を超えない範囲が好ましい。また、錫は安価であり、また融点が低いため焼結しやすくなるという利点を有する。しかしながら、抵抗が上昇する傾向があり、クラック防止の観点からも、錫の添加量は針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子と酸化第一銅を超えない範囲が好ましい。酸化第二銅はフラッシュランプやレーザなどの光や赤外線を用いた方法では光吸収剤、熱線吸収剤として働く。しかしながら、酸化第二銅は酸化第一銅より還元し難いこと、還元時のガス発生が多いことによる基板からの剥離を防ぐ観点から、酸化第二銅の添加量は酸化第一銅より少ない方が好ましい。
【0114】
本実施の形態においては、銅以外の金属や針金状、樹枝状、鱗片状以外の銅粒子、酸化銅以外の金属酸化物を含んでいても、クラック防止効果、抵抗の経時安定性向上効果は発揮される。しかしながら、銅以外の金属や針金状、樹枝状、鱗片状以外の銅粒子、並びに酸化銅以外の金属酸化物の添加量としては針金状、樹枝状、鱗片状の銅粒子と酸化銅より少ない方が好ましい。また、針金状、樹枝状、鱗片状の銅粒子と酸化銅に対する、銅以外の金属や針金状、樹枝状、鱗片状以外の銅粒子、酸化銅以外の金属酸化物の添加割合は50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下がよい。
【0115】
<本実施の形態の塗膜を含む製品の概要>
本発明者らは、上記した酸化銅インクを用いた、塗膜を含む製品を開発するに至った。すなわち、酸化銅インクを構成する成分は、塗膜の成分として含まれる。したがって、塗膜は、以下の構成を備えている。
【0116】
(E)塗膜は、酸化銅及び分散剤とともに、ヒドラジン等の還元剤を含む。
(F)還元剤の質量比率(還元剤質量/酸化銅質量)は、0.00010以上0.10以下である。
(G)分散剤の質量比率(分散剤質量/酸化銅質量)は、0.0050以上0.30以下である。
【0117】
上記(E)に示すように、塗膜中にヒドラジン等の還元剤を有することで、焼成において、酸化銅の還元に寄与し、より抵抗の低い銅膜を作製することができる。
【0118】
上記(F)に記載の還元剤の質量比率(還元剤質量/酸化銅質量)は、より好ましくは0.0010以上0.050以下、より好ましくは0.0010以上0.030以下、さらに好ましくは0.0020以上0.030以下、さらにより好ましくは0.0040以上0.030以下である。還元剤の質量比率は、0.00010以上であると、貯蔵安定性が向上し、かつ、還元が進むため、塗膜を焼成して得られる導電膜の抵抗が低下する。また、0.10以下であると、導電膜としての抵抗の安定性が向上する。
【0119】
上記(G)に記載の分散剤の質量比率(分散剤質量/酸化銅質量)は、より好ましくは0.050以上0.30以下であり、さらに好ましくは0.10以上0.30以下であり、さらにより好ましくは0.20以上0.30以下、さらにより好ましくは0.20以上0.25以下である。分散剤の量は分散安定性に影響し、量が少ないと凝集しやすく、多いと分散安定性が向上する傾向がある。本実施の形態では、(G)の範囲とすることで、塗膜中の酸化銅の分散性を向上させることができる。また、本実施の形態の塗膜における分散剤の含有率を35質量%以下にすると、焼成して得られる導電膜において分散剤由来の残渣の影響を抑え、導電性を向上できる。
【0120】
分散剤の酸価(mgKOH/g)は20以上、130以下が好ましく、25以上120以下がより好ましく、36以上110以下がさらに好ましく、36以上101以下がさらにより好ましい。この範囲に入ると分散安定性に優れるため好ましい。特に平均粒子径が小さい酸化銅の場合に有効である。分散剤としては、具体的には、ビックケミ―社製「DISPERBYK―102」(酸価101)、「DISPERBYK-140」(酸価73)、「DISPERBYK-142」(酸価46)、「DISPERBYK-145」(酸価76)、「DISPERBYK-118」(酸価36)、「DISPERBYK-180(酸価94)などが挙げられる。
【0121】
塗膜中での酸化第一銅を含む微粒子の平均粒子径は、3.0nm以上、50nm以下、さらに好ましくは5.0nm以上40nm以下、もっとも好ましくは10nm以上、29nm以下である。平均粒子径が50nm以下だと基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。平均粒子径が3.0nm以上であれば、塗膜としての抵抗の安定性を向上させることができる。
【0122】
次に、塗膜中の還元剤について説明する。還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドラジン誘導体、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩などが挙げられる。ヒドラジン誘導体としては、ヒドラジン塩類、アルキルヒドラジン類、ピラゾール類、トリアゾール類、ヒドラジド類などが挙げられる。ヒドラジン塩類としては、モノ塩酸ヒドラジン、ジ塩酸ヒドラジン、モノ臭化水素酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジンなどが挙げられ、ピラゾール類としては、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-ピラゾロンなどが挙げられ、トリアゾール類としては、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾールなどが挙げられ、ヒドラジド類としては、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド、ベンゾフェノンヒドラゾンなどが挙げられる。上記のように、ヒドラジン誘導体には、アルキルヒドラジン等のヒドラジン骨格誘導体を用いることができる。焼成において、酸化銅、特に酸化第一銅の還元に寄与し、より抵抗の低い銅膜を作製することができる観点から、還元剤は、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物が最も好ましい。また、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を用いることにより、酸化銅インクの貯蔵安定性を維持し、還元が進むため、結果的に導電膜の抵抗を低くできる。
【0123】
本実施の形態の塗膜は、フィルム基板、ガラス基板、成形加工物など様々な材料、加工品に作製できる。本膜に別な樹脂層を重ねてもよい。
【0124】
本実施の形態の塗膜を含む製品は、以下の構成を含むことが好ましい。
(H)酸化第一銅と、分散剤と、還元剤とを含むこと。
(I)分散剤が、酸価が、20以上、130以下であり、リン含有有機物であり、前記分散剤の含有量が下記式(1)の範囲であること、
(J)還元剤が、ヒドラジン及びヒドラジン水和物から選ばれる少なくとも1つを含み、前記還元剤の含有量が下記式(2)の範囲であること。
0.00010≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【0125】
この構成により、酸化第一銅に対する還元剤及び分散剤の質量の範囲を限定することで、塗膜を焼成した際の導電膜の抵抗を効果的に低下させることができる。
【0126】
また、本実施の形態の塗膜を含む製品では、酸化第一銅と、分散剤と、還元剤と、更に、分散媒を含むことが好ましい。
【0127】
このとき、分散媒は、以下の構成であることが好ましい。
(K)分散媒が炭素数7以下のモノアルコールであり、前記分散媒の酸化銅インク中の含有量が30質量%以上、95質量%以下であること。
【0128】
この構成により、塗膜に対する低温焼成が可能になる。また、プラズマや光、レーザ光を用いて焼成処理を行うことができるため、酸化銅中の有機物が分解され、酸化銅の焼成が促進されて抵抗の低い導電膜を形成できるとともに、分散安定性が向上する。
【0129】
<本実施の形態の導電性基板の概要>
本発明者らは、上記した酸化銅インクを用いることで、導電性に優れた導電性基板を開発するに行った。すなわち、本実施の形態の酸化銅インクを用いて形成されたパターン、或いは塗膜に対し焼成処理を行うことで、導電性基板を得ることができる。
【0130】
[導電性基板の構成]
本実施の形態に係る酸化銅インクを用いた際、焼成の方法により、2種類の導電性基板を得ることができる。基板上に上記の酸化銅インクで塗膜を形成し、酸化銅インクの酸化銅粒子をレーザ照射で焼成することで、図2Aの導電性基板を得ることができる。基板上に酸化銅インクで所望のパターンを印刷し、これをプラズマで焼成することで、図2Bの導電性基板を得ることができる。
【0131】
図2Aに示すように、導電性基板10は、基板11と、基板11が構成する面上に、断面視において、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域12と、酸化銅が焼成で還元された還元銅を含む導電性パターン領域13と、が互いに隣接して配置された層14と、を具備していてもよい。導電性パターン領域13は、銅配線を構成する。導電性パターン領域13には、分散剤としてのリン含有有機物に由来するリン元素が含まれている。導電性パターン領域13は、分散体としての酸化銅インクを焼成することにより形成されるため、焼成の工程で酸化銅インクに含まれる有機バインダ等の有機物が分解され、得られる導電性パターン領域13において、ハンダのぬれ性が高くなる。よって、導電性パターン領域13の表面には、酸化銅インクを用いずに形成された導電性パターンと比べて、後述するハンダ層が容易に形成でき、電子部品のハンダ付けが容易である。絶縁領域12は、酸化銅、分散剤としてのリン含有有機物、及び、還元剤としてのヒドラジン、或いはヒドラジン水和物を含むことが好ましい。
【0132】
図2Bに示すように、導電性基板10は、基板11と、基板11が構成する面上に、断面視において、還元銅を含む導電性パターン領域13と、を具備していてもよい。導電性パターン領域13は、銅配線を構成する。導電性パターン領域13には、リン元素が含まれていることが好ましい。導電性パターン領域13は、酸化銅インクの焼成の工程で、酸化銅インクに含まれる有機バインダ等の有機物が効果的に分解されるため、導電性パターン領域13において、ハンダのぬれ性が効果的に高くなる。よって、導電性パターン領域13の表面には、ハンダ層がより容易に形成できる。
【0133】
また、導電性パターン領域13には、焼成の工程で、還元されなかった酸化銅粒子としての例えば酸化第一銅が一部含まれていてもよい。導電性パターン領域13には、還元銅とともに、酸化銅インクの銅粒子が含まれていてもよく、また、スズが含まれていてもよい。また、絶縁領域12及び導電性パターン領域13には、ボイドが含まれていてもよい。導電性パターン領域13にボイド(空隙)があることで、そこにハンダが入り込み、導電性パターン領域13とハンダ層との密着性が向上する。ちなみに、ハンダとはスズを含む金属をいう。
【0134】
また、絶縁領域12と導電性パターン領域13とが隣接する層14は、層内では、電気導電性、粒子状態(焼成と未焼成)等が、基板の面上に沿って漸次的に変化してもよいし、絶縁領域12と導電性パターン領域13との間に境界(界面)が存在していてもよい。
【0135】
この場合、例えば、図2Cに示すように、導電性層18においては、基板11の表面に、焼成の工程で還元されなかった、酸化銅粒子としての例えば酸化第一銅が含まれる酸化第一銅含有層17が形成されていてもよい。酸化第一銅含有層17の表面には、酸化銅粒子が還元された還元銅を含む導電性層18が形成される。このように、酸化第一銅含有層17が形成されることで、基板11と導電性層18との密着性が向上するため、好ましい。酸化第一銅含有層17の層厚みは、基板11と導電性層18との密着性の観点から、0.0050μm以上、8.0μm以下が好ましく、0.050μm以上、5.0μm以下がより好ましく、0.10μm以上、3.0μm以下が更により好ましく、0.20μm以上、1.0μm以下が特に好ましい。
【0136】
また、図2Dに示すように、導電性層18には、酸化銅粒子が還元された還元銅(Cu)とともに、酸化銅インクの銅粒子(Cu)が含まれていてもよい。また、導電性層18には、ボイドが含まれていてもよい。導電性層18にボイドがあることで、ハンダに含まれるスズ(Sn)がボイドに入り込む。これにより、導電性層18とハンダ層との密着性が向上する。さらに、銅(Cu)の周辺に、還元銅(Cu)があることで、導電性層18とスズ(Sn)との密着性がさらに増す。このときの還元銅(Cu)の粒子径は、5~20nmであることが好ましい。
【0137】
また、導電性パターン領域13及び導電性層18に含まれる銅のグレインサイズは、0.10μm以上100μm以下であることが好ましく、0.50μm以上50μm以下がさらに好ましく、1.0μm以上10μm以下が特に好ましい。ここで、グレインサイズとは、焼成した後の金属の大きさのことを言う。これにより、導電性パターン領域13及び導電性層18とハンダ層の密着性が高くなる。
【0138】
また、導電性パターン領域13及び導電性層18の表面の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、20nm以上500nm以下が好ましく、50nm以上300nm以下がより好ましく、50nm以上200nm以下がさらに好ましい。これにより、導電性パターン領域13及び導電性層18にハンダ層がのりやすく、導電性パターン領域13及び導電性層18とハンダ層との密着性が高くなる。また、導電性パターン領域13及び導電性層18に重ねて樹脂層を形成したとき、樹脂層の一部が、導電性パターン領域13及び導電性層18の表面の凹凸部に侵入し、密着性を向上させることができる。
【0139】
図2のように導電性パターン領域13または導電性層18を形成することにより、線幅が0.10μm以上、1.0cm以下の配線を描くことができ、銅配線またはアンテナとして利用できる。上記の酸化銅インクに含まれる酸化銅粒子のナノ粒子の特長をいかし、導電性パターン領域13または導電性層18の線幅は、0.50μm以上、10000μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上、1000μm以下であることが更に好ましく、1.0μm以上、500μm以下であることが更により好ましく、1.0μm以上、100μm以下であることが一層より好ましく、1.0μm以上、5.0μm以下が特に好ましい。線幅が5.0μm以下であると、配線としての導電性パターン領域13または導電性層18の視認ができなくなるため、意匠性の観点から好ましい。
【0140】
また、導電性パターンは、メッシュ形状に形成されていてもよい。メッシュ状とは格子状の配線のことで、透過率が高くなり、透明になるため好ましい。
【0141】
本実施の形態で用いられる基板は、酸化銅インクの塗膜を形成する表面を有するものであって、板形状を有していてもよく、立体物であってもよい。本実施の形態においては、立体物が構成する曲面又は段差等を含む面に導電性パターンを形成することもできる。本実施の形態における基板は、配線パターンを形成するための回路基板シートの基板材料、または配線付き筐体の筐体材料等を意味する。
【0142】
また、層14または導電性パターン領域13を覆うようにして光線透過性の樹脂層(不図示)が設けられていてもよい。樹脂層は、後述の導電性基板10の製造方法において、光照射の際に塗膜が酸素に触れるのを防止し、酸化銅の還元を促進できる。これにより、光照射のときに塗膜の周囲を無酸素又は低酸素雰囲気にする、例えば、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気のための設備が不要になり、製造コストを削減できる。また、樹脂層は、光照射の熱等によって導電性パターン領域13が剥離又は飛散するのを防止できる。これにより、導電性基板10を歩留まりよく製造できる。
【0143】
図2C図2Dのように形成された導電性基板を、導電性パターン付製品とすることができる。導電性パターン付製品は、基板と、基板の表面に形成された酸化第一銅含有層と、酸化第一銅含有層の表面に形成された導電性層と、を具備し、導電性層は線幅1.0μm以上、1000μm以下の配線であり、配線は還元銅を含むことを特徴とする。酸化第一銅含有層とは、銅と酸素の比Cu/Oが0.5以上3.0以下である層である。導電性パターン付製品の断面をEDX法によって分析することにより、酸化第一銅含有層におけるCu/Oは定量可能である。
【0144】
また、導電性パターン付製品は、基板と、基板の表面に形成された酸化第一銅含有層と、酸化第一銅含有層の表面に形成された導電性層と、を具備し、導電性層は線幅1.0μm以上、1000μm以下の配線であり、配線は還元銅(場合によっては銅も含む)及びスズを含むことを特徴とする。
【0145】
導電性パターン付製品は、基板と、基板の表面に形成された導電性パターンと、を具備し、導電性パターンは線幅1.0μm以上、1000μm以下の配線であり、還元銅、リン及びボイドを含むことを特徴とする。この構成により、後述するように所望の形状の基板に、良好な形状の配線を形成できる。
【0146】
導電性パターン付製品は、基板と、基板の表面に形成された導電性パターンと、を具備し、導電性パターンは線幅1.0μm以上、1000μm以下の配線であり、配線は還元銅、銅及びスズを含むことを特徴とする。
【0147】
導電性パターン付製品においては、配線がアンテナとして利用できることが好ましい。この構成により、良好な形状のアンテナを形成できる。
【0148】
導電性パターン付製品においては、導電性層または導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成されていることが好ましい。導電性パターンは、上記の分散体の酸化銅が焼成して形成されているため、焼成工程で、有機バインダ等の有機物が分解されている。このため、導電性パターンにおいて、ハンダのぬれ性が高くなっており、ハンダ層を容易に形成できることから、上記の分散体を用いずに形成された導電性パターンと比べて、導電性パターンにおける電子部品のハンダ付けが容易である。
【0149】
また、導電性パターン付製品は、基板と、基板の表面に形成された導電性パターンと、を具備し、導電性パターンは線幅1.0μm以上、1000μm以下の配線であり、還元銅、酸化銅及びリンを含み、配線を覆うように樹脂が配置されていることを特徴とする。
【0150】
[基板への酸化銅インクの塗布方法]
酸化銅インクを用いた塗布方法について説明する。塗布方法としては特に制限されず、スクリーン印刷、凹版ダイレクト印刷、凹版オフセット印刷、フレキソ印刷、反転印刷法、オフセット印刷などの印刷法やディスペンサー描画法、スプレー法などを用いることができる。塗布法としては、ダイコート、スピンコート、スリットコート、バーコート、ナイフコート、スプレーコート、ディツプコートなどの方法を用いることができる。
【0151】
[基板]
本実施の形態で用いられる基板は、特に限定されるものではなく、無機材料又は有機材料で構成される。
【0152】
無機材料としては、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラスなどのガラスや、アルミナなどのセラミック材料が挙げられる。
【0153】
有機材料としては、高分子材料、紙などが挙げられる。高分子材料としては樹脂フィルムを用いることができ、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ナイロン樹脂(PA6、PA66)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエーテルスルホン樹脂(PESU)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びシリコーン樹脂などを挙げることができる。特に、PI、PET及びPENは、フレキシブル性、コストの観点から好ましい。基板の厚さは、例えば1μm~10mmとすることができ、好ましくは25μm~250μmである。基板の厚さが250μm以下であれば、作製される電子デバイスを、軽量化、省スペース化、及びフレキシブル化できるため好ましい。
【0154】
紙としては、一般的なパルプを原料とした上質紙、中質紙、コート紙、ボール紙、段ボールなどの洋紙やセルロースナノファイバーを原料としたものが挙げられる。紙の場合は高分子材料を溶解したもの、もしくはゾルゲル材料などを含浸硬化させたものを使うことができる。また、これらの材料はラミネートするなど貼り合わせて使用してもよい。例えば、紙フェノール基材、紙エポキシ基材、ガラスコンポジット基材、ガラスエポキシ基材などの複合基材、テフロン(登録商標)基材、アルミナ基材、低温低湿同時焼成セラミックス(LTCC)、シリコンウェハなどが挙げられる。なお、本実施の形態における基板は、配線パターンを形成するための回路基板シートの基板材料、または配線付き筐体の筐体材料を意味する。
【0155】
[導電膜形成方法]
本実施の形態の導電膜の製造方法は、塗膜における酸化銅を還元し銅を生成させ、これ自体の融着、及び酸化銅インクに銅粒子が加えられている場合はその銅粒子との融着、一体化、により導電膜(銅膜)を形成するものである。この工程を焼成と呼ぶ。従って、酸化銅の還元と融着、銅粒子との一体化による導電膜の形成ができる方法であれば特に制限はない。本実施の形態の導電膜の製造方法における焼成は、例えば、焼成炉で行ってもよいし、プラズマ、赤外線、フラッシュランプ、レーザなどを単独もしくは組み合わせて用いて行ってもよい。焼成後には、導電膜の一部に、後述するハンダ層の形成が可能となる。
【0156】
本実施の形態では、塗膜を焼成処理して基板上に導電性パターンを形成することができる。本実施形態の方法によれば、基板上に塗布液を所望のパターンに直接形成できるため、従来のフォトレジストを用いた手法と比較し、生産性を向上させることができる。
【0157】
図3を参照して、本実施の形態に係る焼成にレーザ照射を用いた場合の導電性基板の製造方法について、より具体的に説明する。図3中(a)において、水、プロピレングリコール(PG)の混合溶媒中に酢酸銅を溶かし、ヒドラジンを加えて攪拌する。
【0158】
次に、図3中(b)、(c)において、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。次に、図3中(d)において、得られた沈殿物に、分散剤及びアルコールを加え、分散する。このとき、例えば、窒素雰囲気下で、ホモジナイザーを用いて分散する。
【0159】
図3中(e)、(f)において、酸化銅インク(分散体)をスプレーコート法により例えばPET製の基板(図3(f)中、「PET」と記載する)上に塗布し、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層(塗膜)(図3(f)中、「CuO」と記載する)を形成する。
【0160】
次に、図3中(g)において、塗布層に対して、例えばレーザ照射を行い、塗布層の一部を選択的に焼成し、酸化銅を銅(図3(g)中、「Cu」と記載する)に還元する。この結果、図3中(h)において、基板上に、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域(図3(h)中、「A」と記載する)と、銅及びリン元素を含む導電膜(導電性パターン領域)(図3(h)中、「B」と記載する)と、が互いに隣接して配置された層が形成された導電性基板が得られる。導電性パターン領域は、配線として利用できる。
【0161】
また、導電性パターン領域には、焼成の工程で、還元されなかった酸化銅粒子としての例えば酸化第一銅が含まれていてもよい。絶縁領域及び導電性パターン領域には、酸化銅インクの銅粒子が含まれていてもよく、スズが含まれていてもよい。また、絶縁領域及び導電性パターン領域には、ボイドが含まれていてもよい。導電性パターン領域にボイドがあることで、そこにハンダが入り込み、導電性パターン領域とハンダ層との密着性が向上する。
【0162】
このように、焼成をレーザ照射で行うことにより、酸化銅インクの銅粒子の焼成と、導電性パターン領域の形成を一度に行うことができる。また、銅粒子の焼成により、酸化銅インクに含まれる有機バインダ等の有機物が分解されるため、得られた導電性パターンにおいて、ハンダのぬれ性が高くなる。
【0163】
本実施の形態では、絶縁領域に、酸化銅、分散剤としてのリン含有有機物、及び還元剤としてのヒドラジンあるいはヒドラジン水和物を含む構成とすることができる。
【0164】
次に、図4を参照して、本実施の形態に係る焼成にプラズマを用いた場合の導電性基板の製造方法について、より具体的に説明する。図4中(a)-(d)の工程については、図3と同様である。
【0165】
図4中(e)、(i)において、例えばPET製の基板上に、酸化銅インク(分散体)を、例えば、インクジェット印刷により所望のパターンで印刷し、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層(図3(i)中、「CuO」と記載する)を形成する。
【0166】
次に、図4中(i)において、塗布層に対して、例えばプラズマ照射を行い、塗布層を焼成し、酸化銅を銅に還元する。この結果、図4中(j)において、基板上に、銅及びリン元素を含む導電性パターン領域(図4(j)中、「B」と記載する)が形成された導電性基板が得られる。
【0167】
図5は、図3と同様に、焼成にレーザ照射を用いた場合の導電性基板の製造方法を示す。図5中(a)-(h)の工程については、図3と同様である。
【0168】
図5では、さらに絶縁領域を洗浄する。これにより、銅配線(図5(K)中、「C」と記載する)が支持体上にパターン形成された形態を得ることができる。なお、銅配線Cは、導電性パターン領域Bと同じ層である。また、銅配線C上から銅配線C間の支持体上にかけて、樹脂層(図5(l)中、「D」と記載する)で封止することができる。なお、少なくとも、導電性パターン領域Bとしての銅配線C上を覆うように樹脂層Dを形成することができる。
【0169】
樹脂層は、長期安定性を確保するものである。樹脂層は封止材層であり、透湿度を十分低くすることが好ましい。封止材層の外部からの水分の混入を防ぎ、銅配線の酸化を抑制するためである。封止材層の透湿度は1.0g/m/day以下であることが好ましく、より好ましくは0.5g/m/day以下であって、さらに好ましくは0.1g/m/day以下である。このような範囲の封止材層を用いることで、例えば、85℃、85%環境における長期安定性試験において、銅配線の酸化による抵抗変化を抑止することができる。
【0170】
例えば、以下に挙げる材料を封止材層の材料として用いることができる。ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PENt)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ナイロン樹脂(PA6、PA66)ポリブチルテレフタレート樹脂(PBT)ポリエーテルスルホン樹脂(PESU)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びシリコーン樹脂等から構成される樹脂材料を用いることができる。
【0171】
さらに、上記材料に酸化ケイ素や酸化アルミニウムからなる微粒子を混合させたり、それらの材料の表面に酸化ケイ素や酸化アルミニウムからなる層を、水分バリア層として設けることで透湿度を下げることができる。
【0172】
絶縁領域を除去する際、水またはエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、メタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類や、ケトン類、エステル類、エーテル類などの有機溶媒を用いることができる。特に、絶縁領域の洗浄性能の点で、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。また、上記溶媒にリン系の分散剤を添加しても良い。添加することでさらに洗浄性能が向上する。
【0173】
銅配線上を樹脂層で覆う構成は、図4にも適用可能である。
【0174】
導電性基板の製造方法は、酸化銅インクを用い、基板上に形成したパターンに、還元性ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ焼成処理を行う。この構成により、低温焼成が可能になる。また、酸化銅中の有機物が効果的に分解されるため、酸化銅の焼成がより促進され、より抵抗の低い導電膜を備えた導電性基板を製造できる。
【0175】
導電性基板の製造方法は酸化銅インクを用い、基板上に塗膜を形成する工程と、その塗膜にレーザ光を照射させる工程と、を含む。焼成をレーザ照射で行うことにより、酸化銅インクの銅粒子の焼成と、導電性パターンの形成を一度に行うことができる。また、光の波長を選択できるため、酸化銅インク及び基板の光の吸収波長を考慮することができる。また、焼成時間を短くすることができるため、基板へのダメージを抑えながら、酸化銅中の有機物が効果的に分解され、抵抗の低い導電膜を備えた導電性基板を製造できる。
【0176】
導電性基板の製造方法は、酸化銅インクを用い、基板上に塗膜を形成する工程と、その塗膜にキセノン光を照射させる工程と、を含む。この構成により、焼成時間を短くすることができるため、基板へのダメージを抑えながら、酸化銅中の有機物が効果的に分解され、抵抗の低い導電膜を備えた導電性基板を製造できる。
【0177】
(塗膜の焼成)
焼成処理の方法には、本発明の効果を発揮する導電膜を形成可能であれば、特に限定されないが、具体例としては、焼却炉、プラズマ焼成法、光焼成法などを用いる方法が挙げられる。光焼成におけるレーザ照射においては、分散体としての酸化銅インクで塗膜を形成し、塗膜にレーザ照射することで、銅粒子の焼成と、パターニングを一度に行うことができる。その他の焼成法においては、酸化銅インクで所望のパターンを印刷し、これを焼成することで、導電性パターンを得ることができる。導電性パターンを作製する上で、基板との接触面に一部の酸化第一銅が還元されずに残ることで、導電性パターンと基板との密着性が向上するため、好ましい。
【0178】
[焼成炉]
酸素の影響を受けやすい焼成炉などで焼成を行う方法では、非酸化性雰囲気において酸化銅インクの塗膜を処理することが好ましい。また酸化銅インク中に含まれる有機成分だけでは酸化銅が還元されにくい場合、還元性雰囲気で焼成することが好ましい。非酸化性雰囲気とは、酸素などの酸化性ガスを含まない雰囲気であり、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの不活性ガスで満たされた雰囲気である。また還元性雰囲気とは、水素、一酸化炭素などの還元性ガスが存在する雰囲気を指すが、不活性ガスと混合して使用してよい。これらのガスを焼成炉中に充填し密閉系でもしくはガスを連続的に流しながら酸化銅インクの塗膜を焼成してもよい。また、焼成は、加圧雰囲気で行ってもよいし減圧雰囲気で行ってもよい。
【0179】
[プラズマ焼成法]
本実施形態のプラズマ法は焼成炉を用いる方法と比較し、より低い温度での処理が可能であり、耐熱性の低い樹脂フィルムを基材とする場合の焼成法として、よりよい方法の一つである。またプラズマにより、パターン表面の有機物質除去や酸化膜の除去が可能であるため、良好なハンダ付け性を確保できるという利点もある。具体的には、還元性ガスもしくは還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスをチャンバ内に流し、マイクロ波によりプラズマを発生させ、これにより生成する活性種を、還元または焼結に必要な加熱源として、さらには分散剤などに含まれる有機物の分解に利用し導電膜を得る方法である。
【0180】
特に金属部分では活性種の失活が多く、金属部分が選択的に加熱され、基板自体の温度は上がりにくいため、基板として樹脂フィルムにも適用可能である。酸化銅インクは金属として銅を含み、酸化銅は焼成が進むにつれ銅に変化するためパターン部分のみの加熱が促進される。また導電性パターン中に分散剤やバインダ成分の有機物が残ると焼結の妨げとなり、抵抗が上がる傾向にあるが、プラズマ法は導体パターン中の有機物除去効果が大きい。
【0181】
還元性ガス成分としては水素など、不活性ガス成分としては窒素、ヘリウム、アルゴンなどを用いることができる。これらは単独で、もしくは還元ガス成分と不活性ガス成分を任意の割合で混合して用いてもよい。また不活性ガス成分を二種以上混合し用いてもよい。
【0182】
プラズマ焼成法は、マイクロ波投入パワー、導入ガス流量、チャンバ内圧、プラズマ発生源から処理サンプルまでの距離、処理サンプル温度、処理時間での調整が可能であり、これらを調整することで処理の強度を変えることができる。従って、上記調整項目の最適化を図れば、無機材料の基板はもちろんのこと、有機材料の熱硬化性樹脂フィルム、紙、耐熱性の低い熱可塑性樹脂フィルム、例えばPET、PENを基板として利用し、抵抗の低い導電膜を得ることが可能となる。但し、最適条件は装置構造やサンプル種類により異なるため、状況に合わせ調整する。
【0183】
[光焼成法]
本実施形態の光焼成法は、光源としてキセノンなどの放電管を用いたフラッシュ光方式やレーザ光方式が適用可能である。これらの方法は強度の大きい光を短時間露光し、基板上に塗布した酸化銅インクを短時間で高温に上昇させ焼成する方法で、酸化銅の還元、銅粒子の焼結、これらの一体化、及び有機成分の分解を行い、導電膜を形成する方法である。焼成時間がごく短時間であるため基板へのダメージが少ない方法で、耐熱性の低い樹脂フィルム基板への適用が可能である。
【0184】
フラッシュ光方式とは、キセノン放電管を用い、コンデンサーに蓄えられた電荷を瞬時に放電する方式で、大光量のパルス光を発生させ、基板上に形成された酸化銅インクに照射することにより酸化銅を瞬時に高温に加熱し、導電膜に変化させる方法である。露光量は、光強度、発光時間、光照射間隔、回数で調整可能であり基板の光透過性が大きければ、耐熱性の低い樹脂基板、例えばPET、PENや紙などへも、酸化銅インクによる導電性パターンの形成が可能となる。
【0185】
発光光源は異なるが、レーザ光源を用いても同様な効果が得られる。レーザの場合は、フラッシュ光方式の調整項目に加え、波長選択の自由度があり、パターンを形成した酸化銅インクの光吸収波長や基板の吸収波長を考慮し選択することも可能である。またビームスキャンによる露光が可能であり、基板全面への露光、もしくは部分露光の選択など、露光範囲の調整が容易であるといった特徴がある。レーザの種類としてはYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、YVO(イットリウムバナデイト)、Yb(イッテルビウム)、半導体レーザ(GaAs、GaAlAs、GaInAs)、炭酸ガスなどを用いることができ、基本波だけでなく必要に応じ高調波を取り出して使用してもよい。
【0186】
特に、レーザ光を用いる場合、その発光波長は、300nm以上1500nm以下が好ましい。例えば355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1056nmなどが好ましい。基板や筐体が樹脂の場合、特に好ましくは355nm、405nm、445nm、450nm、532nmのレーザ波長である。光線が、中心波長が355nm以上、532nm以下のレーザ光であることが好ましい。本波長にすることで、酸化第一銅を含有する塗布層が吸収する波長のため、酸化第一銅の還元が均一に起こり、抵抗が低い領域(導電性パターン領域)を得ることができる。また、レーザを用いることで、曲面や立体形状に銅配線を形成することが可能である。
【0187】
本実施の形態では、支持体を光線透過性とすることで、光線が、支持体を透過するため、塗布層の一部を適切に焼成することが可能になる。
【0188】
また、本実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体の製造方法によれば、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層の一部をレーザで焼成して導電性パターン領域とすると共に、未焼成部分を導電性パターン領域の絶縁のために使用できる。したがって、塗布層の未焼成部分を除去する必要がない。このため、製造工程を削減でき、溶剤等が不要であるので製造コストを下げることができる。また、導電性パターン領域の絶縁のためにソルダ―レジスト等を設ける必要がないので、その分も製造工程を削減できる。ただし、絶縁層を除去しても良い。
【0189】
絶縁領域を除去する場合は、水またはエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、メタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類や、ケトン類、エステル類、エーテル類などの有機溶媒を用いることができる。特に、絶縁領域の洗浄性能の点で、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。また、上記溶媒にリン系の分散剤を添加しても良い。添加することでさらに洗浄性能が向上する。
【0190】
[導電性パターンへのハンダ層の形成]
本実施の形態に係る分散体を用いて作製された導電性基板は、ハンダ付け性を悪化させる分散剤、分散媒が、焼成処理の工程で分解しているため、導電性パターンに被接合体(例えば、電子部品等)をハンダ付けするとき、溶融ハンダがのりやすいという利点がある。ここで、ハンダとは鉛とスズを主成分とする合金であり、鉛を含まない鉛フリーハンダも含まれる。本実施の形態に係る導電性パターンは空隙(ボイド)を有するため、このボイドにハンダが入ることで、導電性パターンとハンダ層との密着性が高まる。
【0191】
前述したように導電性パターン及び導電性層に含まれる銅のグレインサイズは、0.10μm以上100μm以下であることが好ましく、0.50μm以上50μm以下がさらに好ましく、1.0μm以上10μm以下が特に好ましい。これにより、導電性パターンとハンダ層の密着性が高くなる。
【0192】
本実施の形態において、電子部品とは、半導体、集積回路、ダイオード、液晶ディスプレイなどの能動部品、抵抗、コンデンサ等の受動部品、及び、コネクタ、スイッチ、電線、ヒートシンク、アンテナなどの機構部品のうち、少なくとも1種である。
【0193】
また、導電性パターンへのハンダ層の形成は、リフロー法で行われることが好ましい。リフロー法では、まず、ハンダ付けは、図3(h)及び図4(j)で形成された導電性パターン領域の一部、例えばランド、の表面にソルダーペースト(クリームハンダ)を塗布する。ソルダーペーストの塗布は、例えば、メタルマスク及びメタルスキージを用いたコンタクト印刷により行われる。これにより、導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成される。すなわち、図3(h)の工程の後、層における導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成される導電性基板が得られる。また、図4(j)の工程の後、導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成される導電性基板が得られる。ハンダ層が形成される導電性パターンの表面の一部は、特に面積は限定されず、導電性パターンと電子部品とが接合可能な面積であればよい。
【0194】
(電子部品の接合)
次に、塗布されたソルダーペースト(ハンダ層)の一部に、電子部品の被接合部を接触させた状態になるように電子部品を導電性基板上に載置する。その後、電子部品が載置された導電性基板を、リフロー炉に通して加熱して、導電性パターン領域の一部(ランド等)及び電子部品の被接合部をハンダ付けする。図6は、本実施の形態に係るハンダ層が形成された導電性基板の上面図である。図6Aは、ハンダ層が形成された導電性基板の写真を、図6Bは、その模式図を示す。
【0195】
図6に示すように、フレキシブル性を有する基板11上には、分散体としての酸化銅インクが焼成されて形成された導電性パターンBが形成されている。導電性パターンBの表面には、ハンダ層20が形成されている。ハンダ層20により、導電性パターンBと、導線90とが適切にハンダ付けされており、導線90を介して導電性パターンBと電子部品91が適切に接続されている。
【0196】
本実施の形態に係る導電性基板の製造方法によれば、分散体としての酸化銅インクを焼成して導電性パターンを形成するため、分散体に含まれる有機バインダが分解される、これにより、得られた導電性パターンにおいて、ハンダのぬれ性が高くなり、導電性パターンの表面にハンダ層を容易に形成できる。このため、電子部品のハンダ付が可能となる。この結果、導電性パターン領域と、電子部品の被接合部とを接合するハンダ層の不良の発生を防ぎ、高い歩留まりで、電子部品がハンダ付けされる導電性基板を製造できる。
【実施例
【0197】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0198】
[ヒドラジン定量方法]
サロゲート法によりヒドラジンの定量を行った。
【0199】
サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン33μg、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0200】
同じく、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン66μg、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0201】
同じく、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン133μg、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0202】
最後に、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジンを加えず、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加え、最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0203】
上記4点のGC/MS測定からm/z=207のクロマトグラムよりヒドラジンのピーク面積値を得た。次にm/z=209のマスクロマトグラムよりサロゲートのピーク面積値を得た。x軸に、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量、y軸に、ヒドラジンのピーク面積値/サロゲート物質のピーク面積値をとり、サロゲート法による検量線を得た。
【0204】
検量線から得られたY切片の値を、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量で除しヒドラジンの重量を得た。
【0205】
[粒子径測定]
酸化銅インクの平均粒子径は、大塚電子製FPAR-1000を用いてキュムラント法によって測定した。
【0206】
(実施例1)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間(第一の時間)かけて加え、30分間(第一の時間)攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間(第二の時間)攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びエタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1365gを得た。
【0207】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は21nmであった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0208】
(実施例2)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びエタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液1365gを得た。さらに空気で3時間バブリングし、バブリングによる分散媒の減少分をエタノールを追加して元の1365gに戻した。
【0209】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は23nmであった。ヒドラジン割合は700ppmであった。
【0210】
(実施例3)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-118(ビックケミー製、固形分80%)68.5g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びエタノール(関東化学株式会社製)893gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液1365gを得た。
【0211】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は23nmであった。ヒドラジン割合は2900ppmであった。
【0212】
(実施例4)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-102(ビックケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びエタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液1365gを得た。
【0213】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は16nmであった。ヒドラジン割合は2700ppmであった。
【0214】
(実施例5)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)1.37g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びエタノール(関東化学株式会社製)960gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液1365gを得た。
【0215】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は24nmであった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0216】
(実施例6)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)82.2g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びエタノール(関東化学株式会社製)880gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1365gを得た。
【0217】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は23nmであった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0218】
(実施例7)
実施例1で得られた分散液98.5gに、ヒドラジン(東京化成工業株式会社製)1.5gを窒素雰囲気下で入れた。
【0219】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は29nmであった。ヒドラジン割合は18000ppmであった。
【0220】
(実施例8)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びブタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液1365gを得た。
【0221】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は20nmであった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0222】
(実施例9)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びプロパノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液1365gを得た。
【0223】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は24nmであった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0224】
(実施例10)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びデカノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液1365gを得た。
【0225】
分散液において一部に銅粒子の凝集が見られた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は47nmであった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0226】
(実施例11)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びオクタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液1365gを得た。
【0227】
分散液において一部に銅粒子の凝集が見られた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は30nmであった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0228】
(実施例12)
実施例2で得られた分散液1000gに、ヒドラジン(東京化成工業株式会社製)0.30gを窒素雰囲気下で入れた。
【0229】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は23nmであった。ヒドラジン割合は1000ppmであった。
【0230】
(実施例13)
実施例2で得られた分散液1000gに、ヒドラジン(東京化成工業株式会社製)0.80gを窒素雰囲気下で入れた。
【0231】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は23nmであった。ヒドラジン割合は1500ppmであった。
【0232】
(実施例14)
実施例2で得られた分散液1000gに、アジポジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.80gを窒素雰囲気下で入れた。
【0233】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は23nmであった。ヒドラジン割合は700ppm、アジポジヒドラジド割合は800ppmであった。
【0234】
(実施例15)
実施例2で得られた分散液1000gに、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.80gを窒素雰囲気下で入れた。
【0235】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は23nmであった。ヒドラジン割合は700ppm、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール割合は800ppmであった。
【0236】
(実施例16)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-106(ビックケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びエタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液1365gを得た。
【0237】
分散液において一部に酸化銅粒子の凝集が見られた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は77nmであった。ヒドラジン割合は2900ppmであった。
【0238】
(実施例17)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びエタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液1365gを得た。さらに空気で10時間バブリングし、バブリングによる分散媒の減少分をエタノールを追加して元の1365gに戻した。
【0239】
分散液において一部に銅粒子の凝集が見られた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は40nmであった。ヒドラジン割合は200ppmであった。
【0240】
(比較例1)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)110g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びエタノール(関東化学株式会社製)851gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1365gを得た。
【0241】
分散液において酸化銅粒子が凝集し、インク化できなかった。酸化第一銅の含有割合は20%であったが、凝集のため、粒子径は測定できなかった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0242】
(比較例2)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)0.82g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びエタノール(関東化学株式会社製)960gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1365gを得た。
【0243】
分散液において酸化銅粒子が凝集し、インク化できなかった。酸化第一銅の含有割合は20%であったが、凝集のため、粒子径は測定できなかった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0244】
(比較例3)
エタノール(関東化学株式会社製)15gに、酸化第一銅(EMジャパン製MP-CU2O-25)4g、DisperBYK-145(ビックケミー製)0.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)0.2gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液(酸化銅インク)20gを得た。
【0245】
分散液において一部に酸化銅粒子の凝集が見られた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、平均二次粒子径は190nmであった。ヒドラジン割合は0ppmであった。
【0246】
(比較例4)
実施例1で得られた分散液97gに、ヒドラジン(東京化成工業株式会社製)3.0gを窒素雰囲気下で入れた。
【0247】
分散液において酸化銅粒子が凝集し、インク化できなかった。酸化第一銅の含有割合は20%であったが、凝集のため、粒子径は測定できなかった。ヒドラジン割合は33000ppmであった。
【0248】
(比較例5)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g、及びエタノール(関東化学株式会社製)961gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1365gを得た。
【0249】
分散液において酸化銅粒子が凝集し、インク化できなかった。酸化第一銅の含有割合は20%であったが、凝集のため、粒子径は測定できなかった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0250】
[分散性]
酸化銅インクの分散性の評価基準は以下の通りである。
A:ホモジナイザーによる分散直後の酸化銅粒子径が50nm以下で、ホモジナイザーによる分散30分以内に粒子の沈降が発生しない。
B:ホモジナイザーによる分散直後の酸化銅粒子径が50nmより大きく、ホモジナイザーによる分散30分以内に粒子の沈降が発生しない。
C:ホモジナイザーによる分散30分以内に粒子の沈降が発生。
【0251】
[反転印刷]
酸化銅インクを用いて、反転印刷によって基板上にパターン状の塗膜を形成した。まず、ブランケットの表面に均一な厚みの酸化銅インクの塗膜を形成した。ブランケットの表面材料は通常シリコーンゴムから構成されており、このシリコーンゴムに対して酸化銅インクが良好に付着し、均一な塗膜が形成されているかを確認した。次いで、表面に酸化銅インクの塗膜が形成されたブランケットの表面を凸版に押圧、接触させ、凸版の凸部の表面に、ブランケット表面上の酸化銅インクの塗膜の一部を付着、転移させた。これによりブランケットの表面に残った酸化銅インクの塗膜には印刷パターンが形成された。次いで、この状態のブランケットを被印刷基板の表面に押圧して、ブランケット上に残った酸化銅インクの塗膜を転写し、パターン状の塗膜を形成した。評価基準は以下の通りである。
A:反転印刷が可能であった。
B:一部印刷パターンが形成されなかった。
C:反転印刷ができなかった。
【0252】
[抵抗測定]
PENフィルム上にバーコーターを用いて600nm厚みの膜を作製し、プラズマ焼成装置で1.5kw、420秒間、加熱焼成して還元し、銅膜(導電膜)を作製した。導電膜の体積抵抗率は、三菱化学製の低抵抗率計ロレスターGPを用いて測定した。酸化銅インクと塗膜の性能結果を表1に示す。
【0253】
[貯蔵安定性]
酸化銅インクを-17℃の冷蔵庫で6か月貯蔵し、貯蔵後の酸化銅インクの酸化銅粒子の粒子径を測定し、粒子径変化率を求めた。貯蔵安定の評価基準は、下記の通りである。
粒子径変化率=|貯蔵後粒子径-貯蔵前粒子径|/貯蔵前粒子径
A:粒子径変化率が25%未満
B:粒子径変化率が25%以上50%未満
C:粒子径変化率が50%以上100%未満
D:粒子径変化率が100%以上
【0254】
【表1】
【0255】
実施例1から実施例17においては、酸化銅インクが凝集することなく、PENフィルム上に銅膜を作製した際に低い抵抗が維持できていた。実施例において、(還元剤質量/酸化銅質量)の値は0.00010以上0.10以下であり、(分散剤質量/酸化銅質量)の値は0.0050以上0.30以下であった。また、実施例1から実施例15では、分散剤の酸価は20以上130以下であった。還元剤としてヒドラジンを用いることで、酸化銅の還元が促進され、抵抗の低い銅膜が作製されていたと考えられる。
【0256】
実施例のうち、実施例16の分散剤の酸価は130であった。実施例16では、実施例1から実施例15に比べて、やや分散性に劣り、焼成して作製した銅膜の抵抗が上昇した。
【0257】
比較例1、2は、分散剤質量が、0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30の範囲を外れているため、酸化銅インクが凝集し、反転印刷及び抵抗の測定ができなかった。比較例5は、酸化銅インクに分散剤を含めなかったため、酸化銅インクが凝集し、反転印刷及び抵抗の測定ができなかった。
【0258】
比較例3は、酸化銅インクにヒドラジンを添加しなかった。この場合、貯蔵安定性にも寄与すると推測されるヒドラジンが添加されていないため、酸化銅の平均粒子径が実施例と比べて大きくなり、貯蔵安定性が低下した。比較例4は、還元剤質量が、0.00010≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10を外れていた。この場合、酸化銅インクが凝集していたため、反転印刷及び抵抗の測定ができなかった。
【0259】
また、実施例1から実施例15においては、酸化第一銅の平均粒子径は3.0nm以上50nm以下であった。さらに、印刷性も良好であり、実施例1-9、12-15のように、分散媒が炭素数7以下のモノアルコールの場合は、分散媒が炭素数8以上の実施例10、11に比べて、印刷性はより良好であった。
【0260】
実施例のうち、分散剤の酸価が130より大きい実施例16では、酸化第一銅の平均粒子径が50nmを超え、抵抗が上昇し、印刷性が実施例1から実施例15よりも低下した。
【0261】
また、実施例7、12、13のように、酸化銅インクを作製した後に、ヒドラジンを添加しても、分散性、印刷性、貯蔵安定性は良好であり、銅膜を作製した際に低い抵抗が維持できていた。実施例14では、酸化銅インクを作製した後に、還元剤としてアジポジヒドラジドを添加し、実施例15では、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール後添加した。これらの場合も、分散性、印刷性、貯蔵安定性は良好であり、銅膜は低い抵抗が維持できていた。酸化銅インクを作製した後に還元剤を添加する際に、還元剤としてヒドラジンを用いた実施例7、12、13は、他の還元剤を用いる場合よりも、低い抵抗が維持できていた。
【0262】
また、酸化銅インクを作製する際に、還元剤を所定の時間条件で添加し、窒素雰囲気下で分散させることで、酸化銅インクに還元剤を効果的に残せた。これにより、酸化銅に対する還元剤及び分散剤の質量を所定の範囲とすることができ、貯蔵安定性に優れた酸化銅インクを作製できることがわかった。また、酸化銅インクを作製した後に、窒素雰囲気下で酸化銅インクに還元剤を添加することでも、酸化銅インクに還元剤を効果的に残せた。
【0263】
また、実施例1から実施例17の多分散度は0.20から0.30であった。
【0264】
以上の実験結果から、0.00010≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10であり、かつ0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30であり、かつ分散剤の酸価が20以上、130以下であり、かつ酸化銅の平均粒子径が3.0nm以上、50nm以下であることが好ましい。
【0265】
また、0.0010≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.05であり、かつ0.050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30であり、かつ分散剤の酸価が25以上、120以下であり、かつ酸化銅の平均粒子径が5.0nm以上、40nm以下であることがより好ましい。
【0266】
また、0.0040≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.030であり、かつ0.10≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30であり、かつ分散剤の酸価が36以上、110以下であり、かつ酸化銅の平均粒子径が5.0nm以上、40nm以下であることがさらに好ましい。
【0267】
また、0.0040≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.030であり、かつ0.20≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.25であり、かつ分散剤の酸価が36以上、101以下であり、かつ酸化銅の平均粒子径が10nm以上、29nm以下であることがさらにより好ましい。
【0268】
[レーザ焼成]
PET基板上に実施例1の酸化銅インクを所定の厚み(800nm)になるようバーコートし、室温で10分間乾燥することで、PET上に塗布層が形成されたサンプルAを得た。
【0269】
ガルバノスキャナーを用いて、最大速度300mm/分で焦点位置を動かしながらレーザ光(波長445nm、出力1.1W、連続波発振(Continuous Wave:CW)を、サンプルAに照射することで、25mm×1mmの寸法の銅を含む導電性の膜を得た。抵抗は20μΩcmであった。レーザ焼成においても導電性膜が作製できた。
【0270】
上記実験とは異なるレーザーマーカー(キーエンス株式会社レーザーマーカーMD-U1000C)を用いて、サンプルAにレーザ光(波長355nm、出力50%、パルス繰返し周波数300kHz)を窒素雰囲気中で速度100mm/秒の速さで照射した。抵抗は15μΩcmであった。レーザ焼成においても導電性膜が作製できた。
【0271】
[光焼成]
NOVACENTRIX社製のPET基板上に実施例1の酸化銅インクを用いて、前記記載の反転印刷法でPET上に60μm幅のラインの塗布層(膜厚:700nm)が形成されたサンプルBを得た。
【0272】
NOVACENTRIX社製のPulseForge1200を用いて、サンプルBに光(パルス時間10msec,パルス強度1200W/cm)をあてた。その結果、20μΩcmの導体を得た。
【0273】
本発明の酸化銅インクは、プラズマや光焼成処理によって断線や破損が少ない導電膜を得ることができる。そのため、本発明の酸化銅インクは、プリント配線板、電子デバイス、透明導電性フィルム、電磁波シールド、帯電防止膜などの製造に好適に用いられる。
【0274】
本出願は、2017年7月27日出願の特願2017-145187、2017年7月27日出願の特願2017-145188、2018年2月13日出願の特願2018-023239に基づく。この内容は、全てここに含めておく。
図1
図2
図3
図4
図5
図6