(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20230607BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20230607BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230607BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230607BHJP
B60L 3/00 20190101ALN20230607BHJP
B60L 50/40 20190101ALN20230607BHJP
B60L 50/60 20190101ALN20230607BHJP
B60L 50/75 20190101ALN20230607BHJP
B60L 58/12 20190101ALN20230607BHJP
B60L 58/40 20190101ALN20230607BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/04537
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
B60L3/00 S
B60L50/40
B60L50/60
B60L50/75
B60L58/12
B60L58/40
(21)【出願番号】P 2020009492
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】立川 克之
(72)【発明者】
【氏名】垣見 洋輔
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-113126(JP,A)
【文献】特開2018-73722(JP,A)
【文献】特開2017-103003(JP,A)
【文献】特開2004-139810(JP,A)
【文献】特開2004-215459(JP,A)
【文献】特開2001-25105(JP,A)
【文献】特開2001-28807(JP,A)
【文献】特開2018-73796(JP,A)
【文献】特開2019-163957(JP,A)
【文献】特開2019-132655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04- 8/0668
B60L 50/00-58/40
H01M 10/48
H02J 7/00- 7/12
H02J 7/34- 7/36
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの出力電圧を所定の電圧に変換するDC/DCコンバータと、
前記DC/DCコンバータに接続される負荷に並列に設けられる蓄電装置と、
前記蓄電装置の両端電圧を検知する電圧センサと、
前記蓄電装置を介して流れる電流を検知する電流センサと、
前記燃料電池スタックの発電量を、予め決められた複数の設定値のいずれかに制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記燃料電池スタックの発電量を第1の設定値から第2の設定値に変化させるときに、前記電圧センサにより検知される電圧値、前記電圧センサにより検知される電圧の変化を表す電圧変化量、前記電流センサにより検知される電流値、および前記電流センサにより検知される電流の変化を表す電流変化量に基づいて、前記蓄電装置の内部起電力を算出する
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記第2の設定値はゼロである
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記燃料電池スタックの発電量を前記第1の設定値から前記第2の設定値に変化させるときに、前記DC/DCコンバータの出力電圧をゼロに制御する
ことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記電圧変化量を前記電流変化量で除算することで前記蓄電装置の内部抵抗の抵抗値を算出し、
前記電圧センサにより検知される電圧値から前記蓄電装置の内部抵抗の抵抗値と前記電流センサにより検知される電流値との積を引算することで前記蓄電装置の内部起電力を算出する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御部は、
前記燃料電池スタックの発電量を前記第1の設定値から前記第2の設定値に変化させて前記電圧センサにより検知される電圧値および前記電流センサにより検知される電流値を取得する測定処理を複数回行い、
各測定処理に対して前記蓄電装置の内部抵抗の抵抗値を算出することで複数の抵抗値を取得し、
前記複数の抵抗値の平均値を用いて前記蓄電装置の内部起電力を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御部は、各測定処理に対して前記蓄電装置の内部抵抗の抵抗値を算出することで得られる複数の抵抗値のうちで所定の閾値範囲から外れていない抵抗値の平均値を算出する
ことを特徴とする請求項5に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記制御部は、
前記燃料電池スタックの発電量を前記第1の設定値から前記第2の設定値に変化させる際の複数の異なるタイミングにおいて、前記電圧センサにより検知される電圧値および前記電流センサにより検知される電流値をそれぞれ取得し、
前記電圧センサにより検知される複数の電圧値の中の最大値と最小値との差分を計算することで前記電圧変化量を算出し、
前記電流センサにより検知される複数の電流値の中の最大値と最小値との差分を計算することで前記電流変化量を算出する
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池を含む電源装置の実用化が広まってきている。例えば、燃料電池を含む電源装置は、産業車両または乗用車等の電動車両に搭載され、モータ等を駆動するために使用されている。尚、以下の記載では、燃料電池を含む電源装置を「燃料電池システム」と呼ぶことがある。
【0003】
燃料電池は、多くのケースにおいて、複数の燃料電池セルが直列に接続されたスタック構造を有しており、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化ガスとの電気化学反応を利用して発電を行う。このとき、燃料電池は二酸化炭素を排出しないので、環境にやさしい電源として期待されている。なお、以下の記載では、複数の燃料電池セルが直列に接続されたスタック構造の燃料電池を「燃料電池スタック」と呼ぶことがある。
【0004】
ところが、一般的な燃料電池スタックにおいては、発電量の変動が燃料電池セルの劣化の原因となる。すなわち、燃料電池セルの劣化を抑えるためには、燃料電池スタックの発電量の変動を抑制することが好ましい。このため、多くの燃料電池システムにおいて、燃料電池スタックに接続する負荷に対して並列にキャパシタが設けられる。そして、燃料電池スタックの発電量を、可能な限り、一定の値に保持する制御が行われる。この場合、負荷が必要とする電力が燃料電池スタックの発電電力より大きいときは、キャパシタから負荷に電力が供給される。反対に、負荷が必要とする電力が燃料電池スタックの発電電力より小さいときは、余剰な電力がキャパシタに充電される。
【0005】
なお、燃料電池スタックに接続する負荷に対して並列にキャパシタを設ける構成は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1においては、燃料電池スタックの発電量は、予め指定される3つの設定値のいずれかに保持されるように制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-082056号公報
【文献】特開2017-116455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料電池スタックの発電量を所定の値に制御するためには、負荷に対して並列に設けられるキャパシタの状態が既知であることが好ましい。具体的には、キャパシタの内部抵抗の抵抗値および内部起電力などが既知であることが好ましい。
【0008】
ところが、従来技術では、燃料電池システムが備えるキャパシタの内部抵抗の抵抗値および内部起電力を精度よく推定することは困難である。或いは、従来技術では、キャパシタの内部起電力を推定するための回路が大きくなってしまう。例えば、特許文献2には、蓄電素子の電圧の変化に基づいてその蓄電素子の内部抵抗を算出する方法が記載されている。ただし、蓄電素子の電圧の変化は小さいので、算出精度を高くするために、蓄電素子の出力電圧を増幅するアンプが設けられ、増幅された電圧の変化に基づいて内部抵抗が算出される。よって、アンプを実装する分だけ回路のサイズが大きくなってしまう。
【0009】
本発明の1つの側面に係る目的は、回路のサイズを大きくすることなく、燃料電池システムが備える蓄電装置の内部起電力を精度よく算出することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様の燃料電池システムは、燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックの出力電圧を所定の電圧に変換するDC/DCコンバータと、前記DC/DCコンバータに接続される負荷に並列に設けられる蓄電装置と、前記蓄電装置の両端電圧を検知する電圧センサと、前記蓄電装置を介して流れる電流を検知する電流センサと、前記燃料電池スタックの発電量を、予め決められた複数の設定値の中のいずれかに制御する制御部、を備える。前記制御部は、前記燃料電池スタックの発電量を第1の設定値から第2の設定値に変化させるときに、前記電圧センサにより検知される電圧値、前記電圧センサにより検知される電圧の変化を表す電圧変化量、前記電流センサにより検知される電流値、および前記電流センサにより検知される電流の変化を表す電流変化量に基づいて、前記蓄電装置の内部起電力を算出する。
【0011】
上記構成の燃料電池システムにおいて、燃料電池スタックの発電量を第1の設定値から第2の設定値に変化させると、蓄電装置の両端電圧および蓄電装置を介して流れる電流が変化するので、電圧変化量および電流変化量に基づいて蓄電装置の内部抵抗の抵抗値を算出できる。さらに、蓄電装置の両端電圧、蓄電装置を介して流れる電流、および蓄電装置の内部抵抗の抵抗値に基づいて蓄電装置の内部起電力を算出できる。ここで、燃料電池スタックの発電量を第1の設定値から第2の設定値に変化させると、蓄電装置の両端電圧が大きく変動する。よって、蓄電装置の両端電圧の変化を表す信号を増幅しなくても、精度よく、蓄電装置の内部起電力を算出できる。
【0012】
第2の設定値は、例えば、ゼロである。また、制御部は、燃料電池スタックの発電量を第1の設定値から第2の設定値に変化させるときに、DC/DCコンバータの出力電圧をゼロに制御してもよい。
【0013】
制御部は、電圧変化量を電流変化量で除算することで蓄電装置の内部抵抗の抵抗値を算出し、電圧センサにより検知される電圧値から蓄電装置の内部抵抗の抵抗値と電流センサにより検知される電流値との積を引算することで蓄電装置の内部起電力を算出してもよい。
【0014】
制御部は、燃料電池スタックの発電量を第1の設定値から第2の設定値に変化させて電圧センサにより検知される電圧値および電流センサにより検知される電流値を取得する測定処理を複数回行い、各測定処理に対して蓄電装置の内部抵抗の抵抗値を算出することで複数の抵抗値を取得し、複数の抵抗値の平均値を用いて蓄電装置の内部起電力を算出してもよい。このとき、制御部は、各測定処理に対して蓄電装置の内部抵抗の抵抗値を算出することで得られる複数の抵抗値のうちで、所定の閾値範囲から外れていない抵抗値の平均値を算出してもよい。
【0015】
制御部は、燃料電池スタックの発電量を第1の設定値から第2の設定値に変化させる際の複数の異なるタイミングにおいて、電圧センサにより検知される電圧値および電流センサにより検知される電流値をそれぞれ取得し、電圧センサにより検知される複数の電圧値の中の最大値と最小値との差分を計算することで電圧変化量を算出し、電流センサにより検知される複数の電流値の中の最大値と最小値との差分を計算することで電流変化量を算出してもよい。
【発明の効果】
【0016】
上述の態様によれば、回路のサイズを大きくすることなく、燃料電池システムが備える蓄電装置の内部起電力を精度よく算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係わる燃料電池ユニットの一例を示す図である。
【
図2】燃料電池スタックの発電量を制御する方法の一例を示す図である。
【
図4】キャパシタの内部抵抗の抵抗値を算出する際の動作の一例を示す図である。
【
図5】キャパシタの内部起電力を算出する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係わる燃料電池システムの一例を示す。本発明の実施形態に係わる燃料電池システムは、特に限定されるものではないが、例えば、フォークリフト等の産業車両に搭載される。ただし、燃料電池システムは、他の電動車両に搭載されてもよいし、車両以外の用途に使用されてもよい。
【0019】
燃料電池システムとして機能する燃料電池ユニット100は、この実施例では、燃料電池スタック1、水素タンク2、エアコンプレッサ3、インバータ4、DC/DCコンバータ5、蓄電装置としてのキャパシタ6、制御部7、電圧センサ8、電流センサ9、補機30を備える。ただし、燃料電池ユニット100は、
図1に示していない他の回路要素を備えてもよい。また、燃料電池ユニット100は、水素タンク2を含まなくてもよい。例えば、水素タンク2は、燃料電池ユニット100に着脱可能に構成されてもよい。
【0020】
燃料電池スタック1は、複数の燃料電池セルを含む。複数の燃料電池セルは、互いに直列に接続され、スタックを構成する。各燃料電池セルは、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化ガスとの電気化学反応を利用して発電を行う。燃料ガスは、水素タンク2と燃料電池スタック1との間に設けられる不図示のインジェクタおよび調圧弁などを介して、水素タンク2から供給される。この場合、制御部7は、燃料電池スタック1に供給すべき燃料ガスの量を調整できる。酸素を含む酸化ガスは、エアコンプレッサ3から供給される。エアコンプレッサ3から出力される酸化ガスの量は、インバータ4により調整される。インバータ4は、制御部7から与えられる指示に応じてエアコンプレッサ3の出力を調整する。すなわち、制御部7は、燃料電池スタック1に供給すべき酸化ガスの量を調整できる。なお、エアコンプレッサ3は、後述する補機30の一部である。
【0021】
DC/DCコンバータ5は、燃料電池スタック1の出力電圧を所定の電圧に変換する。DC/DCコンバータ5の出力電圧は、特に限定されるものではないが、例えば48Vである。そして、DC/DCコンバータ5の出力側には、負荷20が接続される。負荷20は、この実施例では、産業車両の走行用モータである。或いは、負荷20は、フォークリフトの荷役用モータである。なお、DC/DCコンバータ5から出力される電力は、燃料電池の運転に必要な補機30にも供給される。補機30は、例えば、不図示のインジェクタや、燃料電池ユニット100の冷却に用いるラジエータファンなどである。
【0022】
キャパシタ6は、DC/DCコンバータ5の出力側において負荷20に並列に設けられる。キャパシタ6は、特に限定されるものではないが、例えば、リチウムイオンキャパシタである。電圧センサ8は、キャパシタ6の両端電圧を検知する。電流センサ9は、キャパシタ6を介して流れる電流(キャパシタ6の充電電流/放電電流)を検知する。
【0023】
制御部7は、例えば、マイクロコンピュータを含む電子制御ユニット(ECU)により実現される。そして、制御部7は、電圧センサ8により検知されるキャパシタ6の両端電圧、電流センサ9により検知されるキャパシタ6を介して流れる電流、および負荷20が要求する電力のうちの1つ以上に基づいて、インバータ4およびDC/DCコンバータ5を制御する。また、制御部7は、燃料電池スタック1に供給される燃料ガスおよび/または酸化ガスの量を調整することで、燃料電池スタック1の発電量を制御する。さらに、制御部7は、キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値および内部起電力を算出する機能を備える。
【0024】
上記構成の燃料電池ユニット100において、負荷20が要求する電力が燃料電池スタック1の発電電力より小さいときは、余剰な電力がキャパシタ6に充電される。一方、負荷20が要求する電力が燃料電池スタック1の発電電力より大きいときは、キャパシタ6から負荷に電力が供給される。
【0025】
ところで、燃料電池スタック1の発電量の変動は、燃料電池セルの劣化の原因となる。すなわち、燃料電池セルの劣化を抑えるためには、燃料電池スタック1の発電量の変動を抑制することが好ましい。このため、燃料電池ユニット100においては、燃料電池スタック1の発電量は、予め指定される3つの設定値のいずれかに保持されるように制御される。
【0026】
図2は、燃料電池スタック1の発電量を制御する方法の一例を示す。この実施例では、燃料電池スタック1の発電量は、予め指定される最大電力PH、中間電力PM、または最低電力PLのいずれかに保持されるように制御される。最大電力PHは、産業車両が高い負荷で動作する際に負荷20が要求する電力に相当する。最低電力PLは、燃料電池スタック1が劣化を伴うことなく発電可能な電力の最低値に相当する。中間電力PMは、最大電力PHと最低電力PLとの間の所定値に相当する。そして、制御部7は、2つの閾値TH1、TH2を使用して燃料電池スタック1の発電量を制御する。
【0027】
例えば、キャパシタ6の電圧(又は、SOC)が閾値TH1より高く閾値TH2より低いときは、制御部7は、燃料電池スタック1の発電量を中間電力PMに制御する。なお、キャパシタ6の電圧は、電圧センサ8により検知されるキャパシタ6の両端電圧および電流センサ9により検知されるキャパシタ6を介して流れる電流に基づいて計算される、キャパシタ6の開回路電圧であってもよい。
【0028】
この後、負荷20が要求する電力の増加等に起因してキャパシタ6の充電量が減少し、キャパシタ6の電圧が閾値TH1より低くなると、制御部7は、燃料電池スタック1の発電量を中間電力PMから最大電力PHに増加させる。これにより、キャパシタ6の電圧が閾値TH1より高く閾値TH2より低い状態に戻ると、制御部7は、燃料電池スタック1の発電量を最大電力PHから中間電力PMに戻す。
【0029】
さらに、負荷20が要求する電力の減少等に起因してキャパシタ6の充電量が増加し、キャパシタ6の電圧が閾値TH2より高くなると、制御部7は、燃料電池スタック1の発電量を中間電力PMから最低電力PLに減少させる。これにより、キャパシタ6の電圧が閾値TH1より高く閾値TH2より低い状態に戻ると、制御部7は、燃料電池スタック1の発電量を最大電力PHから中間電力PMに戻す。
【0030】
ここで、燃料電池スタック1の発電量の制御を精度よく行うためには、キャパシタ6の残容量を精度よく推定することが好ましい。そして、キャパシタ6の残容量は、キャパシタ6の内部起電力に基づいて推定することが可能である。よって、燃料電池ユニット100は、キャパシタ6の内部起電力を算出する機能を備える。
【0031】
図3は、キャパシタ6の等価回路を示す。キャパシタ6は、
図3に示すように、直列に接続される内部抵抗および内部起電力Eで表すことができる。この場合、内部抵抗の抵抗値Rおよび内部起電力Eは、(1)式の関係を有する。
E=V-R・A (1)
なお、(1)式において、「V」は、キャパシタ6の両端電圧を表し、電圧センサ8により検知される。「A」は、キャパシタ6を介して流れる電流を表し、電流センサ9により検知される。すなわち、キャパシタ6の内部起電力Eは、電圧センサ8により検知される電圧値「V」から、キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rと電流センサ9により検知される電流値「A」との積を引算することで算出される。したがって、キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rを得ることができれば、キャパシタ6の内部起電力Eを算出できる。
【0032】
キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rは、キャパシタ6を介して流れる電流の変化量とキャパシタ6の両端電圧の変化量との比により表される。ただし、電圧変化量が小さいと、抵抗値Rを計算する際の誤差が大きくなる。ここで、この問題は、電圧変化量を表す信号を増幅するアンプを設ければ解決するかも知れない。しかしながら、燃料電池ユニット100内の制御回路の規模を小さくしたいときは、アンプを設ける構成は好ましくない。
【0033】
本発明の実施形態の燃料電池ユニット100においては、
図2に示すように、燃料電池スタック1の発電量をステップ状に変化させる制御が行われる。そして、燃料電池スタック1の発電量を連続的に変化させる方式と比較して、燃料電池スタック1の発電量をステップ状に変化させるときには、キャパシタ6の両端電圧が瞬間的に大きく変化する。そこで、制御部7は、燃料電池スタック1の発電量をステップ状に変化させるときに、電圧センサ8により検知される電圧値および電流センサ9により検知される電流値を取得してキャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rを算出し、さらに、その抵抗値Rを用いてキャパシタ6の内部起電力Eを算出する。
【0034】
図4は、キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値を計算する際の動作の一例を示す。この実施例では、制御部7は、時刻T1において、燃料電池スタック1の発電量を表す発電量指令値を最低電力PLからゼロに変化させる。なお、最低電力PLは、
図2に示す最低電力PLと同じであり、燃料電池スタック1が劣化を伴うことなく発電可能な電力の最低値に相当する。また、以下の記載では、燃料電池スタック1の発電量を表す発電量指令値を最低電力PLからゼロに変化させるタイミング(
図4では、時刻T1)を「モード変更タイミング」と呼ぶことがある。
【0035】
燃料電池スタック1の発電量を最低電力PLからゼロに変化させるときには、制御部7は、インバータ4を制御してエアコンプレッサ3から燃料電池スタック1への酸化ガスの供給を停止させる。これにより、燃料電池スタック1による発電が停止する。このとき、制御部7は、不図示のインジェクタを制御して水素タンク2から燃料電池スタック1への燃料ガスの供給を停止してもよい。また、制御部7は、モード変更タイミングにおいて、DC/DCコンバータ5のスイッチング素子を開状態にしてDC/DCコンバータ5の出力を停止してもよい。
【0036】
時刻T1において、負荷20側からの電力供給要求や、回生が無いときに燃料電池スタック1の発電量を最低電力PLからゼロに変化させた後は、
図4に示すように、キャパシタ6を介して流れる電流Aはゼロにまで減少していく。また、キャパシタ6の両端電圧Vは、燃料電池スタック1の発電量を最低電力PLからゼロに変化させた後、モード変更タイミングにおける電圧値よりもいったん上昇した後、ある一定の値で安定する。
【0037】
制御部7は、モード変更タイミングを含む所定のサンプリング期間において、電圧センサ8により検知される電圧値および電流センサ9により検知される電流値を取得する。具体的には、制御部7は、モード変更タイミングを含むサンプリング期間において、所定の時間間隔で所定回数、電圧値および電流値を取得する。
図4に示す例では、制御部7は、5つの異なるサンプリングタイミングにおいて、電圧値V1~V5および電流値A1~A5を取得する。なお、電圧値V1および電流値A1は、この実施例では、モード変更タイミングにおける測定値を表す。ただし、電圧値V1および電流値A1は、モード変更タイミングの直前の測定値であってもよい。また、測定を行う時間間隔は、特に限定されるものではないが、例えば、20m秒である。
【0038】
制御部7は、取得した複数の電圧値V1~V5の中から最大電圧値および最小電圧値を選択し、選択した最大電圧値と最小電圧値との差分を計算することで電圧変化量ΔVを得る。また、制御部7は、取得した複数の電流値A1~A5の中から最大電流値および最小電流値を選択し、選択した最大電流値と最小電流値との差分を計算することで電流変化量ΔIを得る。そして、制御部7は、電圧変化量ΔVを電流変化量差ΔIで除算することでキャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rを算出する。
【0039】
更に、制御部7は、この抵抗値Rを上記(1)式に与えることで、キャパシタ6の内部起電力Eを算出する。なお、(1)に与える「V」および「A」は、それぞれ、例えば、モード変更タイミングにおける電圧センサ8および電流センサ9による測定値(
図4では、V1およびA1)である。
【0040】
このように、本発明の実施形態においては、燃料電池スタック1の発電量をステップ状に変化させるタイミングにおいて、キャパシタ6の電圧変化量および電流変化量からキャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rが算出され、キャパシタ6の内部起電力Eが算出される。ここで、燃料電池スタック1の発電量をステップ状に変化させるタイミングにおいては、キャパシタ6の電圧変化量(および、電流変化量)が大きい。よって、キャパシタ6の電圧を表す信号を増幅するアンプを設けなくても、キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rを算出する際の誤差が小さくなる。すなわち、燃料電池ユニット100内の制御回路の規模を大きくすることなく、キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rおよび内部起電力Eを精度よく算出できる。
【0041】
図5は、キャパシタ6の内部起電力Eを算出する処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、特に限定されるものではないが、例えば、負荷20から要求される電力がゼロになったときに実行してもよい。なお、このフローチャートの処理が開始されるとき、燃料電池スタック1の発電量が最低電力PLに制御されているものとする。
【0042】
S1において、制御部7は、燃料電池スタック1の発電量を最低電力PLからゼロに変化させる。S2において、制御部7は、複数の異なるサンプリング点において、電圧センサ8により検知される電圧値および電流センサ9により検知される電流値をそれぞれ取得する。なお、最初のサンプリング点は、燃料電池スタック1の発電量を最低電力PLからゼロに変化させるモード変更タイミングであってもよいし、そのモード変更タイミングの直前であってもよい。
【0043】
S3において、制御部7は、複数の電圧測定値の中から最大電圧値および最小電圧値を選択し、選択した最大電圧値と最小電圧値との差分を計算することで電圧変化量ΔVを得る。S4において、制御部7は、複数の電流測定値の中から最大電流値および最小電流値を選択し、選択した最大電流値と最小電流値との差分を計算することで電流変化量ΔIを得る。S5において、制御部7は、電圧変化量ΔVを電流変化量差ΔIで除算することでキャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rを算出する。S7において、制御部7は、キャパシタ6の両端電圧値からキャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rとキャパシタ6の電流値との積をから引算することで、キャパシタ6の内部起電力Eを算出する。
【0044】
<バリエーション>
制御部7は、キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rの平均値を用いてキャパシタ6の内部起電力Eを算出してもよい。この場合、制御部7は、
図5に示すフローチャートのS1~S5の処理を繰り返し実行する。そして、制御部7は、S6においてキャパシタ6の内部起電力Eを算出する際、S1~S5の処理をN回繰り返し実行することで得られるN個の抵抗値の平均値を使用する。なお、平均値は、N(Nは、例えば、3)個の抵抗値の移動平均であってもよい。
【0045】
キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rは、
図4~
図5を参照して説明した方法で算出されるが、その抵抗値が取り得る範囲は既知である。例えば、キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rの上限値および下限値は、キャパシタ6の製造者により提供される仕様書等に記載されている。したがって、抵抗値Rの算出値が既知の範囲から外れているときは、制御部7は、キャパシタ6の内部起電力Eの算出においてその外れ値を使用しない。例えば、上述のようにして抵抗値Rの平均値に基づいてキャパシタ6の内部起電力Eを算出する場合、制御部7は、外れ値を除外して抵抗値Rの平均値を算出したうえで、その平均値に基づいてキャパシタ6の内部起電力Eを算出する。
【0046】
図4~
図5に示す実施例では、燃料電池スタック1の発電量を、3つの電力設定値(PH、PM、PL)のうちの最低電力PLからゼロに変化させるときにキャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rおよび内部起電力Eが算出されるが、本発明はこの方法に限定されるものではない。すなわち、制御部7は、燃料電池スタック1の発電量を、ある電力設定値から他の電力設定値に変化させるときに、キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rおよび内部起電力Eを算出すればよい。この場合、「ある電力設定値」および「他の電力設定値」は「ゼロ」を含む。
【0047】
ただし、燃料電池スタック1の発電量を第1の電力から第2の電力に変化させる場合、第2の電力をゼロとすれば、燃料電池スタック1の発電量を変化させた後のキャパシタ6の電圧および電流が安定しやすい。したがって、制御部7は、キャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rおよび内部起電力Eを算出するとき、燃料電池スタック1の発電量をある電力からゼロに低下させることが好ましい。
【0048】
図4~
図5に示す実施例では、燃料電池スタック1の発電を停止する際にキャパシタ6の内部抵抗の抵抗値Rおよび内部起電力Eが算出されるが、本発明はこの方法に限定されるものではない。例えば、燃料電池スタック1の高電位状態を回避するための制御が行われる際であってもよい。その場合、燃料電池スタック1で電力が生じるため、生じた電力は、DC/DCコンバータ5と並列に接続された不図示の放電抵抗によってすべて消費される構成であることが好ましい。
【0049】
燃料電池ユニット100は、燃料電池スタック1の発電量を平滑化するために負荷20に並列にキャパシタ6を備えるが、本発明はこの構成に限定されるものではない。即ち、燃料電池ユニット100は、負荷20に並列にリチウムイオン電池といった二次電池などの蓄電装置を備えてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 燃料電池スタック
2 水素タンク
3 エアコンプレッサ
4 インバータ
5 DC/DCコンバータ
6 キャパシタ
7 制御部
8 電圧センサ
9 電流センサ
20 負荷
100 燃料電池ユニット(燃料電池システム)