(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】捨石マウンドの施工方法、および管理方法
(51)【国際特許分類】
E02D 23/02 20060101AFI20230607BHJP
【FI】
E02D23/02 F
(21)【出願番号】P 2020063033
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮太
(72)【発明者】
【氏名】松田 雄馬
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-142124(JP,A)
【文献】特開平04-250216(JP,A)
【文献】特開2013-221285(JP,A)
【文献】特開2019-143386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 23/02
E02D 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捨石マウンドの天端面を区分して得られる複数の区画の各々に関し、重錘による打突前の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および前記捨石マウンドの天端面の高さを計測するステップと、
前記重錘を複数回、設定した高さから落下させて前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突し、打突直後の前記重錘の加速度、打突後の前記重錘直下の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および打突による前記捨石マウンドの高さの変位量を計測するステップと、
前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さと、当該落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量との関係を特定するステップと、
前記特定するステップにおいて特定した関係を用いて、前記捨石マウンドに対し前記重錘を落下させる高さを算出するステップと、
前記算出するステップにおいて算出した高さから前記重錘を落下させて、前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突するステップとを備え、
前記特定するステップは、前記計測するステップにおいて前記重錘の落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量を説明変数とし、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さを目的変数とする教師データを用いて、前記関係を表す学習モデルを構築するステップであ
る
捨石マウンドの施工方法。
【請求項2】
捨石マウンドの天端面を区分して得られる複数の区画の各々に関し、重錘による打突前の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および前記捨石マウンドの天端面の高さを計測するステップと、
前記重錘を複数回、設定した高さから落下させて前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突し、打突直後の前記重錘の加速度、打突後の前記重錘直下の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および打突による前記捨石マウンドの高さの変位量を計測するステップと、
前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さと、当該落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量との関係を特定するステップと、
前記特定するステップにおいて特定した関係を用いて、前記捨石マウンドに対し前記重錘を落下させる高さを算出するステップと、
前記算出するステップにおいて算出した高さから前記重錘を落下させて、前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突するステップとを備え、
前記特定するステップは、前記計測するステップにおいて前記重錘の落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量を説明変数とし、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さを目的変数とする回帰分析により、前記関係を表す関係式を特定するステップであ
る
捨石マウンドの施工方法。
【請求項3】
前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつきを計測する計測手段が前記重錘に設けられている
請求項1
又は2に記載の捨石マウンドの施工方法。
【請求項4】
前記重錘による打突時の前記重錘の加速度を計測する計測手段が前記重錘に設けられている
請求項1
乃至3のいずれか1項に記載の捨石マウンドの施工方法。
【請求項5】
捨石マウンドの天端面を区分して得られる複数の区画の各々に関し、重錘による打突前の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および前記捨石マウンドの天端面の高さを計測するステップと、
前記重錘を複数回、設定した高さから落下させて前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突し、打突直後の前記重錘の加速度、打突後の前記重錘直下の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および打突による前記捨石マウンドの高さの変位量を計測するステップと、
前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さと、当該落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量との関係を特定するステップと、
前記特定するステップにおいて特定した関係を用いて、前記捨石マウンドに対し前記重錘を落下させる高さを算出するステップとを備え
、
前記特定するステップは、前記計測するステップにおいて前記重錘の落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量を説明変数とし、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さを目的変数とする教師データを用いて、前記関係を表す学習モデルを構築するステップである
捨石マウンドの管理方法。
【請求項6】
捨石マウンドの天端面を区分して得られる複数の区画の各々に関し、重錘による打突前の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および前記捨石マウンドの天端面の高さを計測するステップと、
前記重錘を複数回、設定した高さから落下させて前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突し、打突直後の前記重錘の加速度、打突後の前記重錘直下の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および打突による前記捨石マウンドの高さの変位量を計測するステップと、
前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さと、当該落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量との関係を特定するステップと、
前記特定するステップにおいて特定した関係を用いて、前記捨石マウンドに対し前記重錘を落下させる高さを算出するステップとを備え
、
前記特定するステップは、前記計測するステップにおいて前記重錘の落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量を説明変数とし、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さを目的変数とする回帰分析により、前記関係を表す関係式を特定するステップである
捨石マウンドの管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捨石マウンドの施工方法、および管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
護岸用ケーソン(コンクリートブロック)を水平に据え付けるためには、据え付け前に土台となる捨石マウンドを指定された高さ(設計高さ)に略均等に均す必要がある。均し方法の1つに、底面が平らの鋼性のおもりである重錘を水中で自由落下させて捨石マウンドを締め固める方法がある。
【0003】
特許文献1には、捨石マウンドの天端面を設計高さに近づけるため、重錘の捨石マウンド上への落下後の高さ方向位置を計測することにより、捨石マウンドの天端面の高さを取得することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、捨石マウンドの天端面の高さをより大きく変位させる(沈下させる)ためには、重錘をより高い位置から落下させればよい。しかしながら、必要以上に高い位置から落下させると天端面の高さを設計高さより低く変位させることとなる。捨石マウンドの天端面の現状での高さを測定し設計高さとの差が認識できても、現状の高さを設計高さに近づけるための変位量を得るために、重錘をどの程度の高さから落下させればよいかは、作業者等の経験則に頼らざるを得なかった。
【0006】
上述の背景に鑑み、本発明は、捨石マウンドの均し施工において重錘を落下させる適切な高さを算出する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、捨石マウンドの天端面を区分して得られる複数の区画の各々に関し、重錘による打突前の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および前記捨石マウンドの天端面の高さを計測するステップと、前記重錘を複数回、設定した高さから落下させて前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突し、打突直後の前記重錘の加速度、打突後の前記重錘直下の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および打突による前記捨石マウンドの高さの変位量を計測するステップと、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さと、当該落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量との関係を特定するステップと、前記特定するステップにおいて特定した関係を用いて、前記捨石マウンドに対し前記重錘を落下させる高さを算出するステップと、前記算出するステップにおいて算出した高さから前記重錘を落下させて、前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突するステップとを備え、前記特定するステップは、前記計測するステップにおいて前記重錘の落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量を説明変数とし、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さを目的変数とする教師データを用いて、前記関係を表す学習モデルを構築するステップである捨石マウンドの施工方法を第1の態様として提供する。
また、本発明は、捨石マウンドの天端面を区分して得られる複数の区画の各々に関し、重錘による打突前の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および前記捨石マウンドの天端面の高さを計測するステップと、前記重錘を複数回、設定した高さから落下させて前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突し、打突直後の前記重錘の加速度、打突後の前記重錘直下の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および打突による前記捨石マウンドの高さの変位量を計測するステップと、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さと、当該落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量との関係を特定するステップと、前記特定するステップにおいて特定した関係を用いて、前記捨石マウンドに対し前記重錘を落下させる高さを算出するステップと、前記算出するステップにおいて算出した高さから前記重錘を落下させて、前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突するステップとを備え、前記特定するステップは、前記計測するステップにおいて前記重錘の落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量を説明変数とし、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さを目的変数とする回帰分析により、前記関係を表す関係式を特定するステップである捨石マウンドの施工方法を第2の態様として提供する。
【0008】
第1及び第2の態様の捨石マウンドの施工方法によれば、重錘を落下させる高さを計測結果に基づいて算出することができ、施工作業の効率を向上させることができる。
第1の態様の捨石マウンドの施工方法によれば、機械学習により重錘を落下させる高さが特定される。
第2の態様の捨石マウンドの施工方法によれば、回帰分析により重錘を落下させる高さが特定される。
【0009】
第1又は第2の態様の捨石マウンドの施工方法において、前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつきを計測する計測手段が前記重錘に設けられている、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0010】
第3の態様の捨石マウンドの施工方法によれば、重錘を捨石マウンドの天端面に置くことで、捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつきが分かる。
【0011】
第1乃至第3のいずれかの態様の捨石マウンドの施工方法において、前記重錘による打突時の前記重錘の加速度を計測する計測手段が前記重錘に設けられている、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
【0012】
第4の態様の捨石マウンドの施工方法によれば、重錘を捨石マウンドの天端面に落下させることで、重錘による打突時の重錘の加速度が分かる。
【0017】
また、本発明は、捨石マウンドの天端面を区分して得られる複数の区画の各々に関し、重錘による打突前の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および前記捨石マウンドの天端面の高さを計測するステップと、前記重錘を複数回、設定した高さから落下させて前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突し、打突直後の前記重錘の加速度、打突後の前記重錘直下の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および打突による前記捨石マウンドの高さの変位量を計測するステップと、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さと、当該落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量との関係を特定するステップと、前記特定するステップにおいて特定した関係を用いて、前記捨石マウンドに対し前記重錘を落下させる高さを算出するステップとを備え、前記特定するステップは、前記計測するステップにおいて前記重錘の落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量を説明変数とし、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さを目的変数とする教師データを用いて、前記関係を表す学習モデルを構築するステップである捨石マウンドの管理方法を第5の態様として提供する。
また、本発明は、捨石マウンドの天端面を区分して得られる複数の区画の各々に関し、重錘による打突前の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および前記捨石マウンドの天端面の高さを計測するステップと、前記重錘を複数回、設定した高さから落下させて前記捨石マウンドの天端面を前記重錘で打突し、打突直後の前記重錘の加速度、打突後の前記重錘直下の前記捨石マウンドの天端面の凹凸のばらつき、および打突による前記捨石マウンドの高さの変位量を計測するステップと、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さと、当該落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量との関係を特定するステップと、前記特定するステップにおいて特定した関係を用いて、前記捨石マウンドに対し前記重錘を落下させる高さを算出するステップとを備え、前記特定するステップは、前記計測するステップにおいて前記重錘の落下による打突に関し計測した加速度、凹凸のばらつき、および変位量を説明変数とし、前記計測するステップにおいて前記重錘を落下させた高さを目的変数とする回帰分析により、前記関係を表す関係式を特定するステップである捨石マウンドの管理方法を第6の態様として提供する。
【0018】
第5及び第6の態様の捨石マウンドの管理方法によれば、重錘を落下させる高さが経験則によらず管理される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施形態に係る捨石マウンドの施工方法により捨石マウンドが築造される状態を示した図。
【
図2】一実施形態に係る捨石マウンドの施工方法で用いる重錘の構成図。
【
図3】一実施形態に係る捨石マウンドの施工方法における加速度の計測を説明するための図であり、(a)は重錘落下後に跳ね返りが小さい場合の計測データを示す図、(b)は、重錘落下後に跳ね返りが大きい場合の計測データを示す図。
【
図4】一実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成を示した図。
【
図5】一実施形態に係る情報処理装置の機能的構成を示したブロック図。
【
図6】一実施形態に係る捨石マウンドの施工方法における捨石マウンドの施工区画を示した図。
【
図7】一実施形態に係る捨石マウンドの施工方法における情報処理装置での処理を示したフローチャート。
【
図8】一実施形態に係る捨石マウンドの施工方法における計測データテーブルの構成を示した図。
【
図9】一実施形態に係る捨石マウンドの管理方法における施工管理画面を示した図。
【
図10】変形例に係る捨石マウンドの構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施形態]
以下に本発明の一実施形態に係る捨石マウンドの施工方法Mを説明する。
図1は、施工方法Mにより捨石マウンド2が築造される状態を示した図である。以下の説明において、捨石マウンド2における方向は、図中の3つの矢印が示すX軸、Y軸、Z軸を用いて記載する。
【0025】
施工方法Mは、海面W上に停止している起重機船11に搭載された起重機12と、起重機12から吊り下げられた重錘13と、起重機船11内に設置された情報処理装置14とを用いて実施される。
【0026】
捨石マウンド2は、海底Bに捨石や土砂を投入して築造される。海底Bに築造された捨石マウンド2は、その上に構築されるケーソン等の港湾構造物の基礎部分となる。
【0027】
起重機船11には、GNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)受信機111が設けられている。GNSS受信機111は、複数の衛星からの電波を受信することにより、起重機船11の地球上の3次元位置を計測する。また、起重機船11には、ジャイロセンサ112が設けられている。ジャイロセンサ112は、起重機船11の姿勢、すなわち、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向に対する傾きを計測する。起重機船11の船底には、トランシーバ113が設けられている。トランシーバ113は、後述するトランスポンダ133と共に水中音響測位システムを構成し、水中の重錘13との相対位置、すなわち、重錘13に向かう方向と重錘13までの距離を計測する。情報処理装置14は、GNSS受信機111と、ジャイロセンサ112と、トランシーバ113による計測データに基づき、重錘13の地球上の3次元位置を特定することができる。
【0028】
起重機12は、アーム121と、アーム121の先端部に設けられた滑車122から下方に垂れ下がるワイヤ123と、ワイヤ123の巻取および繰出を行い滑車122から垂れ下がるワイヤ123の長さを調整するウインチ(図示略)を備える。
【0029】
ワイヤ123の下端には重錘13が取り付けられており、重錘13は、ワイヤ123によって起重機12のアーム121から吊り下げられた状態となっている。重錘13の高さは、ウインチによるワイヤ123の巻取量により調整される。また、ウインチは滑車122から垂れ下がるワイヤ123の長さを維持するために、重錘13の重力に抗する力で巻取ったワイヤ123を保持している。ウインチがワイヤ123を保持する力を解放すれば、重錘13が捨石マウンド2の上面である天端面2a上に自由落下する。
【0030】
情報処理装置14は、コンピュータと、コンピュータに接続された表示装置(液晶ディスプレイ等)および操作装置(キーボード、マウス等)を備える。情報処理装置14は、例えば起重機船11の居住区内に配置される。GNSS受信機111、ジャイロセンサ112、トランシーバ113による計測データは、情報処理装置14に伝送される。
【0031】
図2は、重錘13の構成を模式的に示した図である。重錘13は鋼等の金属でできた直方体形状の物体であり、捨石マウンド2の天端面2a上に落下された際、捨石マウンド2の天端面2aを打突して締め固め、天端面2aの高さを均一化する。
【0032】
重錘13の上面13aの四隅部分の各々には、深度計131が設けられている。4個の深度計131の各々による計測値のばらつきは、重錘13の下面13bに接する天端面2aの凹凸のばらつきを示す。
【0033】
重錘13の上面13aには、加速度計132が設けられている。加速度計132は、重錘13が落下して捨石マウンド2の天端面2aを打突し跳ね返る際の重錘13の加速度を計測する。加速度計132では、重錘13全体の加速度を計測することから、重錘13の上面13aに固定されていればよく、加速度計132の設置位置は重錘13の上面13aの中心付近でなくともよい。なお、複数の加速度計132を重錘13の上面13aに設置するときには、例えば重錘13の上面13aの中心点の点対象となるように設置し、複数の加速度計の計測データの平均値を使用する。この跳ね返り時の加速度の大きさは、捨石マウンド2の締め固まりの程度を示す。すなわち、跳ね返り時の重錘13の加速度が大きい程、捨石マウンド2の重錘13が打突した領域がしっかりと締め固められていることが分かる。
【0034】
深度計131、加速度計132による計測データは、情報処理装置14に伝送される。計測データの伝送は、重錘13からワイヤ123を一部経由させ起重機船11内に達するデータ伝送線を介して行われる。なお、データ伝送線は、ワイヤ123を経由せず直接起重機船内の情報処理装置14に接続することが望ましい。
【0035】
重錘13の上面13aには、さらに、トランスポンダ133が設けられている。トランスポンダ133は、トランシーバ113と共に水中音響測位システムを構成する。トランスポンダ133は、トランシーバ113から送信される超音波による応答要求信号に応じて、超音波による応答信号を送信する。トランシーバ113は、異なる位置に配置された3本以上の受信アンテナを備え、それらの受信アンテナの各々によりトランスポンダ133からの応答信号を受信し、それらの信号の位相差からトランスポンダ133の相対位置を特定する。
【0036】
図3は、加速度計132による加速度の計測を説明するための図である。
図3(a)および(b)は、重錘13が落下し始める時刻から、落下後の重錘13の変位が停止するまでの時刻における加速度計132による加速度の計測データを示している。
図3(a)は重錘13が落下し打突後に跳ね返りが小さかった場合の計測データを示す図であり、
図3(b)は、重錘13が落下し打突後に跳ね返りが大きかった場合の計測データを示す図である。
図3(a)および(b)において、時刻T0からT1までの期間は、重錘13が吊り下げられて停止している状態であり、重錘13の加速度は0である。時刻T1は、重錘13が吊り下げられて停止している状態から落下し始める時刻である。時刻T1の直後は加速度が増加し、その後、加速度は概ね一定となる。なお、加速度は、落下方向を正とする。
【0037】
時刻T2は、落下した重錘13が、捨石マウンド2の天端面2aに達し打突した時刻である。重錘13が天端面2aに達すると、加速度が大きく負の値へと変化する。これは、捨石マウンド2の捨石が、重錘13の打突を受け締め固められることにより天端面2aに変位が生じた後に重錘13が天端面2aから跳ね返り、上方向に加速度が生じるからである。
【0038】
時刻T3は、跳ね返った重錘13が自重により再び落下し始める時刻である。すなわち、時刻T3において加速度は負の値から正の値へと変わり、重錘13は再び落下し始める。時刻T4は、重錘13が再び天端面2aに達し加速度が正の値に戻った時刻であり、時刻T4においては、重錘13の跳ね返りの大小を確認することができる。その後、重錘13は、天端面2aへの打突と跳ね返りを繰り返した後、天端面2aの上で静止する。時刻T5は、重錘13が天端面2a上で概ね静止した時刻である。
【0039】
なお、時刻T0からT5までの期間において加速度の値を積分すると0になるはずである。ただし、加速度の計測データは誤差を含み、特に時刻T2からT4の間においてその誤差が大きくなる。そのため、情報処理装置14は、時刻T0からT5までの期間における積分値が0になるように加速度の値を補正する。情報処理装置14は、そのように補正した後の時刻T4における加速度の値を、重錘13の打突時の加速度の計測データとして記憶する。
【0040】
既述のように、捨石マウンド2の天端面2aが締め固まっているほど、重錘13が大きく跳ね上がる。そして、重錘13が大きく跳ね上がる程、時刻T4の加速度、すなわち、天端面2aで一度跳ね返った重錘13が再び天端面2aに達する時点における加速度は大きくなる。従って、捨石マウンド2の天端面2aが締め固まっているほど、時刻T4における重錘13の加速度の値は大きくなる。
【0041】
図3(a)、
図3(b)のデータは、同じ高さから重錘13を落下させた場合の加速度の計測データの経時変化を示しているが、
図3(b)の時刻T4における加速度の値は、
図3(a)の時刻T4における加速度の値より大きい。従って、
図3(b)の計測データが計測された際に重錘13が打突した天端面2aの方が、
図3(a)の計測データが計測された際に重錘13が打突した天端面2aよりもしっかりと締め固められていることが分かる。
【0042】
図4は、情報処理装置14のハードウェア構成を示した図である。情報処理装置14は、プロセッサ141、メモリ142、およびインタフェース143を有する。これらの構成は、例えばバスで、互いに通信可能に接続されている。
【0043】
プロセッサ141は、メモリ142に記憶されているコンピュータプログラム(以下、単にプログラムという)を読み出して実行することにより情報処理装置14の各部を制御する。プロセッサ141は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。
【0044】
メモリ142は、プロセッサ141に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する記憶手段である。メモリ142は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を有する。なお、メモリ142は、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等を有してもよい。
【0045】
インタフェース143は、有線又は無線により通信回線を介して、情報処理装置14を各種装置(GNSS受信機111、ジャイロセンサ112、トランシーバ113、深度計131、加速度計132、起重機12に設けられた制御部125)と通信可能に接続する通信回路である。
【0046】
また、インタフェース143には、表示装置144が接続される。表示装置144は、液晶ディスプレイ等であり、情報処理装置14の処理により生成された画像等を表示する。
【0047】
図5は、情報処理装置14の機能的構成を示したブロック図である。情報処理装置14は、プロセッサ141がプログラムを実行することにより、落下高さ設定部1411、深度データ取得部1412、加速度データ取得部1413、重錘位置データ特定部1414、管理データ生成部1415、落下高さ算出部1416、記憶部1417、表示制御部1418として機能する。
【0048】
落下高さ設定部1411は、重錘13を落下させる高さと落下させる捨石マウンド2の天端面2a上の位置を設定する。設定されたデータは、起重機12の制御部125に送信される。
【0049】
制御部125は、ウインチを作動させることにより、重錘13を吊り上げる。このとき、ウインチによる巻取り量を取得し、巻取り量に基づいて、重錘13が吊り上げられた高さを取得し、設定された高さまで重錘13を吊り上げる。
【0050】
制御部125は、重錘13を捨石マウンド2上の前回の落下位置と異なる位置へ落下させる場合、アーム121を旋回、起伏させて位置を調整する制御を行う。制御部125は、重錘13の高さ方向(Z軸方向)位置と水平方向(X軸,Y軸方向)位置を調整した後、ウインチにワイヤ123を保持している力を解放する指示を送信し、重錘13を自由落下させる。なお、アーム121の制御だけでは重錘13を異なる落下位置に落下させることができない場合には、起重機船11を移動させる操作を行う。
【0051】
深度データ取得部1412は、重錘13が落下して捨石マウンド2の天端面2aを打突した後、重錘13が天端面2a上で静止した状態の4個の深度計131から各々の計測データを取得する。そして、4つの計測データの標準偏差を算出する。算出された標準偏差により、重錘13の直下の捨石マウンド2の天端面2aの凹凸のばらつきが示される。
【0052】
加速度データ取得部1413は、重錘13が落下した際に加速度計132によって計測された加速度データを取得する。
【0053】
重錘位置データ特定部1414は、GNSS受信機111、ジャイロセンサ112、トランシーバ113からの計測データ、および深度データ取得部1412で取得した計測データに基づいて、落下後に捨石マウンド2に着底している重錘13の地球上の3次元位置(X軸、Y軸、Z軸方向の座標値)を特定する。
【0054】
管理データ生成部1415は、重錘位置データ特定部1414により特定された重錘13の位置に基づいて、捨石マウンド2の天端面2a上の分割された区画毎の天端面2aの現状の高さを算出する。そして、現状の高さが指定された高さ(設計高さ)から許容誤差範囲内となっているか否か(すなわち工程が完了したか否か)が視認できるような画像(後述する
図9(b)に示す)を生成する。
【0055】
落下高さ算出部1416は、落下高さ設定部1411において設定する重錘13を落下させる高さを取得するために、教師データを収集して機械学習を行い、学習モデルを生成する。
【0056】
ここでの教師データは、重錘13の複数回の落下の各々における重錘13を落下させた高さ、重錘13の落下後の重錘13下の捨石マウンド2の天端面2aの凹凸のばらつき、重錘13の打突直後の加速度(時刻T4の加速度)、および重錘13の落下による捨石マウンド2の天端面2aの高さの変位量である。
【0057】
記憶部1417は、取得した計測データを記憶する計測データテーブルを備える。表示制御部1418は、管理データ生成部1415で生成された工程管理用の画像を表示装置144に表示するための制御を行う。
【0058】
図6は、捨石マウンド2の施工範囲を区分した施工区画を示した図である。本実施形態では、捨石マウンド2の天端面2aをX軸方向に4分割、Y軸方向に4分割した16区画に区分し、各区画に重錘13を落下させていくものとする。
図6に示すように、4分割した各行を区画A1~A4、区画B1~B4、区画C1~C4、および区画D1~D4に分割している。なお、各区画の大きさは、重錘13の大きさと略等しい大きさとする。各区画に重錘13を落下させることにより、その区画の天端面2aを締め固めし、その高さを設計高さと許容誤差範囲内に納める工程を、全区画に対して行う。
【0059】
以上のような施工区画(
図6の16区画すべてを含む区画)は、本実施形態における均し施工が行われる前に行われる荒均し施工後に設定される。荒均し施工時において、GNSS等の測位情報により施工区画の位置情報(X軸、Y軸方向における位置)は計測済であるものとする。従って、情報処理装置14は、
図6における分割された16区画の各々の位置も容易に算出することができ、各区画の位置の上方に吊り下げられた重錘13を移動させることもできる。
【0060】
本実施形態においては、各区画に対して以下の順序で締め固めを行うものとする。
A1→A2→A3→A4
→B1→B2→B3→B4
→C1→C2→C3→C4
→D1→D2→D3→D4
なお、上記の締め固めの順序はあくまでも一例であり、異なる順序で締め固めを行っても構わない。
【0061】
図7は、本実施形態の捨石マウンドの施工方法Mにおける情報処理装置14での処理を示したフローチャートである。情報処理装置14は、プロセッサ141がメモリ142に記憶されているプログラムを読み込んで実行することにより、
図7のフローチャートに示した処理を実行する。
【0062】
図8は、施工方法Mの実施に伴い測定されるデータ等を格納するためのテーブル(以下、「計測データテーブル」という)のデータ構成を示した図である。計測データテーブルは、記憶部1417に記憶されている。計測データテーブルには、区画、ラウンド、落下高さ、凹凸(標準偏差)、加速度、変位量、設計高さとの差が格納される。
【0063】
図8におけるラウンドは、同じ区画に対する何回目の落下であるかを示す。ただし、ラウンド0は、ラウンド1の落下が行われる前の捨石マウンド2の天端面2aの凸凹のばらつきと設計高さとの差の計測結果を格納するためのレコードである。
【0064】
図8における落下高さは、重錘13を落下させた高さを示す。
図8における凹凸(標準偏差)は、4つの深度計131が計測した深度の標準偏差、すなわち、天端面2aの凹凸のばらつきを示す。
図8における加速度は、天端面2aに対する打突時の重錘13の加速度を示す。
図8における変位量は、そのラウンドの打突前後における天端面2aの高さの差を示す。
図8における設計高さとの差は、打突後の天端面2aの高さと設計高さの差を示す。
【0065】
図7を参照し、施工方法Mの処理を説明する。まず、情報処理装置14の落下高さ設定部1411は、重錘13を落下させる区画を1つ選択する(ステップS51)。区画の選択は作業者が情報処理装置14に指示を入力してもよいが、上述の順序に従って、情報処理装置14が自動的に選択してもよい。また、表示装置144の画面上に施工区画を表示させ、画面上の施工区画の表示をタッチすることにより、重錘13を落下させる区画および締め固め区画の順番を選択、設定してもよい。
【0066】
続いて、起重機12の制御部125により、重錘13が選択された区画の真上へ移動された後、選択された区画の天端面2a上にゆっくりと下降される。そして、重錘13が天端面2a上に着底した状態で、情報処理装置14の深度データ取得部1412と重錘位置データ特定部1414は、各々計測データを取得する(ステップS52)。深度データ取得部1412は、取得したデータから凹凸の標準偏差を算出し、計測データテーブルの該当欄に算出結果を格納する。重錘位置データ特定部1414は、取得したデータから天端面2aの高さを算出する。管理データ生成部1415は、重錘位置データ特定部1414が算出した天端面2aの高さと設計高さとの差を算出し、計測データテーブルの該当欄に算出結果を格納する。
【0067】
天端面2aの高さは、以下のようにして算出することができる。重錘位置データ特定部1414は、重錘13が天端面2a上に着底している状態において、起重機船11に設けられているGNSS受信機111、ジャイロセンサ112、トランシーバ113から計測データを取得し、深度データ取得部1412が取得した深度計131からの計測データを取得する。ジャイロセンサ112からの計測データが示す起重機船11の姿勢と、既知であるGNSS受信機111とトランシーバ113との位置関係と、トランシーバ113からの計測データが示すトランシーバ113と重錘13の位置関係、および深度計131の設置されている箇所の深度数値から、重錘13の絶対位置(X軸、Y軸、Z軸方向における位置)が特定される。特定された重錘13の絶対位置は、重錘13の上面13aの位置を示している。重錘13の上面13aのZ軸方向位置と既知である重錘13の上面13aと下面13bとの距離(すなわち重錘13の高さ)とにより、重錘13の下面13bのZ軸方向位置が得られる。重錘13が天端面2aに着底している状態においては、重錘13の下面13bのZ軸方向位置が天端面2aの高さとなる。
【0068】
以上のようなステップS51、S52の処理を各区画に対して行う。これらの処理を以下「ラウンド0」という。ラウンド0は、施工を行う前の捨石マウンド2の天端面2aの状態を計測するために行う。1つの区画に対しての処理が終わると、全区画に対しての処理が終了したか否か、すなわち全区画に関しラウンド0が終了したか否かを判断する(ステップS53)。終了していない場合(ステップS53:No)、ステップS51へ戻り、未実施の区画に対して同様の処理を行う。全区画に関しラウンド0が終了した場合(ステップS53:Yes)、続いて、ラウンド1の処理を行う。ラウンド1以降は、重錘13を設定した高さから各区画へ落下させ、天端面2aを締め固める処理を行う。
【0069】
ラウンド1の処理において、まず、情報処理装置14の落下高さ設定部1411は、重錘13を落下させる区画を1つ選択する(ステップS61)。この選択の処理は、上述のステップS51と同様にして行えばよい。
【0070】
続いて、情報処理装置14の落下高さ設定部1411は、重錘13を落下させる高さを設定する(ステップS62)。設定する各区画への重錘13の落下時の高さは、任意の高さでよいが、高さが高すぎると捨石マウンド2の天端面2aが設計高さより沈下してしまう場合があるので、沈下しすぎない程度の高さとなるように落下高さの上限を予め決めることが好ましい。設定された落下高さは、計測データテーブルの落下高さの欄に格納される。
【0071】
続いて、起重機12の制御部125により、重錘13をステップS62において設定された高さまで吊り上げた後、重錘13を落下させる。そして、重錘13の落下後に、情報処理装置14の深度データ取得部1412、加速度データ取得部1413、重錘位置データ特定部1414は、各々計測データを取得する(ステップS63)。深度データ取得部1412は取得したデータから算出した凹凸(標準偏差)を計測データテーブルの該当欄に格納する。加速度データ取得部1413は取得した加速度を計測データテーブルの該当欄に格納する。重錘位置データ特定部1414は、取得したデータから天端面2aの高さを算出する。管理データ生成部1415は、重錘位置データ特定部1414が算出した天端面2aの高さから、変位量と、設計高さとの差を算出し、計測データテーブルの該当欄に格納する。
【0072】
なお、変位量は、重錘位置データ特定部1414が測定した、1つ前のラウンドにおける重錘13の落下後の位置より得られた捨石マウンド2の天端面2aの高さと、現在のラウンドにおける重錘13の落下後の位置より得られた捨石マウンド2の天端面2aの高さとの差として算出される。また、設計高さとの差は、重錘位置データ特定部1414が測定した現在のラウンドにおける重錘13の落下後の位置より得られた捨石マウンド2の天端面2aの高さと、設計高さとの差として算出される。
【0073】
続いて、管理データ生成部1415は、算出した変位量および設計高さとの差を用いて、施工状況を管理するための画面(以下、「施工管理画面」)を表すデータを生成し、表示制御部1418を介して施工管理画面を表示装置144に表示させる(ステップS64)。
【0074】
以上のような1つの区画に対しての処理が終わると、全区画に対してのラウンド1(1回目の落下)における処理が終了したか否かを判断する(ステップS65)。終了していない場合(ステップS65:No)、ステップS61へ戻り、未実施の区画に対して同様の処理を行う。その結果、各ラウンドに関するデータ(落下高さ、凹凸(標準偏差)、加速度、変位量、設計高さとの差)が計測データテーブルに記憶される。
【0075】
全区画に関しラウンド1が終了した場合(ステップS65:Yes)、続いて、各区画に関しラウンド2(2回目の落下)の処理を行う。ラウンド2の処理において、まず、落下高さ算出部1416は、学習モデルの生成を行う。ラウンド1の落下処理が終わると、各区画1個ずつ16個の教師データが得られる。
【0076】
各教師データのパラメータは、計測データテーブルに格納されている以下の4つである。
(1)ラウンド1における落下高さ
(2)ラウンド1における変位量
(3)ラウンド1における凹凸の標準偏差
(4)ラウンド1における加速度
【0077】
上記の(1)は、打突における落下高さを示す。上記の(2)は打突の結果として生じる天端面2aの変位量を示す。上記の(3)はラウンド2の落下前の天端面2aの凹凸のばらつきを示す。上記の(4)はラウンド2の落下前の天端面2aの硬さの指標を示す。
【0078】
これらのパラメータを含む16個の教師データは落下高さ算出部1416に入力される(ステップS71)。落下高さ算出部1416は、入力される教師データを用いて機械学習を行い、上述のパラメータのうち、(2)の変位量、(3)の凹凸の標準偏差、および(4)の加速度を説明変数とし、(1)の落下させる高さを目的変数とする関係を特定する(ステップS72)。
続いて、上述の順序に従って、各区画に2回目の重錘13の落下をさせる処理、すなわちラウンド2の処理を行う。
【0079】
ラウンド2以降においては、各区画における落下に関して、落下高さ設定部1411は、落下高さ算出部1416に対して、説明変数を入力することにより目的変数である落下させる高さを出力させる。
【0080】
落下高さ設定部1411は、重錘13を落下させる区画を選択する(ステップS73)。ラウンド0、ラウンド1の場合と同様に、区画A1から順に選択してもよいが、任意に選択してもよい。
【0081】
落下高さ設定部1411は、記憶部1417に記憶された計測データテーブルより、選択した区画に対応するデータを読み出す。読み出すデータは、1つ前のラウンドにおけるその区画における「落下高さ」「凹凸のばらつき」(標準偏差)、「加速度」である。これらの値と、次の落下により変位させるべき天端面2aの高さの変位量を落下高さ算出部1416に入力する。
【0082】
次回の落下により変位させるべき天端面2aの高さの変位量は、1つ前のラウンドにおいて算出された設計高さとの差である。すなわち、ラウンド2の落下で、天端面2aの高さを設計高さと許容誤差範囲内に納めるまで変位させ、その区画の均し工程を完了させることが好ましい。
【0083】
以上のようにして、落下高さ設定部1411は、落下高さ算出部1416から、ラウンド2における重錘13の落下高さを取得する(ステップS74)。落下高さ設定部1411は、取得した落下高さの値に基づいて、実際に落下させる高さを設定する。具体的には、落下高さ設定部1411は、取得した値に安全率α(α<1)を乗じた値を落下させる高さとして設定する。これは、ラウンド3の落下により、天端面2aの高さが設計高さより沈んでしまう可能性を低くするためである。
【0084】
続いて、ラウンド1におけるステップS63と同様に、起重機12の制御部125は、落下高さ設定部1411で設定された高さとなるように重錘13を吊り上げ、落下を実行する。その落下に伴い、深度データ取得部1412による深度計131からの計測データの取得による凹凸のばらつき(標準偏差)の算出、加速度データ取得部1413による加速度計132からの加速度データの取得、重錘位置データ特定部1414による重錘13の位置データの特定、管理データ生成部1415による変位量および設計高さとの差の算出等が行われる(ステップS75)。
【0085】
続いて、ラウンド1におけるステップS64と同様に、管理データ生成部1415は、ステップS75において算出した変位量および設計高さとの差を用いて、施工管理画面を表すデータを生成し、表示制御部1418を介して施工管理画面を表示装置144に表示させる(ステップS76)。
【0086】
以上のような1つの区画に対しての処理が終わると、全区画に対してのラウンド2の落下における処理が終了したか否かを判断する(ステップS77、N=2)。終了していない場合(ステップS77:No)、ステップS71へ戻り、計測により得られた教師データを落下高さ算出部1416に入力する。その際に用いられる教師データが含むパラメータは以下のようになる。
(1)ラウンド2における落下高さ
(2)ラウンド2における変位量
(3)ラウンド2における凹凸の標準偏差
(4)ラウンド2における加速度
【0087】
落下高さ算出部1416は、入力される教師データを用いて再度機械学習を行う。そして、ラウンド2の落下が終了していない区画に対してステップS72~S76の処理を再度行う。
【0088】
全区画に関しラウンド2の処理が終了した場合(ステップS77、N=2:Yes)、完了していない区画、すなわち、ラウンド3以降の処理が必要な区画があるか否かを判断する(ステップS78)。ラウンド3以降の処理が必要な区画がない場合(ステップS78:No)処理を終了する。ラウンド3以降の処理が必要な区画がある場合(ステップS78:Yes)、未完了の区画に関しラウンド3以降の処理を行う。
【0089】
各々の区画に対してのラウンド3以降の処理が必要か否かの判断は、その区画の設計高さとの差が許容誤差範囲内であるか否かに基づく。許容誤差範囲内でなければ(設計高さに対して現在の天端面2aの高さが許容誤差以上に高い場合)、ラウンド3の処理を行う。この判断は、作業者が情報処理装置14の表示装置144に表示された計測データを見て判断してもよいし、情報処理装置14が判断してもよい。
【0090】
ラウンド3以降の処理が必要な区画がある場合(ステップS78:Yes)、ラウンド2と同様に、ステップS71~S76の処理を行う。そして、ラウンド3の処理が必要な区画すべてに対してのラウンド3の処理が終了するまで、ラウンド3の処理が必要な区画各々に対してステップS71~S76の処理を繰り返す。ラウンド3の処理が必要な区画すべてに対してのラウンド3の処理が終了した場合(ステップS77、N=3:Yes)、ラウンド4以降の処理が必要な区画があるか否かを判断する(ステップS78)。以降、上述のラウンド2終了時と同様の処理となる。
【0091】
図9は、ステップS64およびS76における管理データ生成部1415の指示に従う表示制御部1418の制御により表示装置144が表示する施工管理画面に含まれる画像を例示した図である。
【0092】
図9(a)は、
図6に示した捨石マウンド2の16区画に区分された天端面2aの各々の施工状況を示した画像である。均し施工が完了した区画と完了していない区画を例えば色分けして表示することができる。
図9(a)では、白い部分は完了していない区画であり、塗りつぶされた部分は完了した区画である。重錘13が示す四角形状は、重錘13の現在の位置である。
【0093】
図9(a)における完了していない区画(例えば区画B3)を選択する操作をすると、
図9(b)に示したようなその区画の捨石マウンドの断面図が表示される。なお、
図9(b)は、ラウンド2が完了した時点における画像である。
図9(b)において、破線H0は、ラウンド1の落下前の天端面2aの高さ、すなわち、ラウンド0の天端面2aの高さを示している。破線H1は、ラウンド1の落下後の天端面2aの高さを示している。また、破線H2は、ラウンド2の落下後の天端面2aの高さ、すなわち現在の天端面2aの高さを示している。そして、破線H9は、天端面2aの設計高さを示している。このように表示することにより、捨石マウンド2の天端面2aの現在の高さと設計高さとの差を視認することができ、過去2回の重錘13の落下による変位量も視認でき、3回目の重錘13の落下により施工が完了可能か否かも推測することができる。
【0094】
[変形例]
上述の実施形態は様々に変形され得る。以下に、それらの変形の例を示す。なお、以下に示す2以上の変形例が適宜組み合わされてもよい。
【0095】
(1)上述の実施形態においては、重錘13の四隅に各1個計4個の深度計131が設けられるものとしたが、3個以上であればよい。3個設ける場合は、重錘13の上面13aでの3個の設置位置が、各深度計131間の距離が最大限離れるように三角形の各頂点となるような配置とすればよい。
【0096】
(2)上述の実施形態においては、重錘13は直方体形状であるものとしたが、底面が平面であり、かつ上面が底面に対して平行であれば、どのような形状でもよい。この場合、複数の深度計131は、重錘の上面の周方向に沿って配置すればよい。なお、重錘の底面の形状・寸法を考慮して区画を設定し、重錘13による打突が行われない未打突域が生じないように打突場所を管理する。
【0097】
(3)上述の実施形態においては、捨石マウンド2の高さの変位量は、前回と今回の重錘13の落下後の重錘13の高さ方向(Z軸方向)位置の差によって算出するものとしたが、これに限定されない。例えば、
図3に示す加速度データから、捨石マウンド2の天端面2aの高さの変位量を求めることができる。
図3における時刻T0からT5までの範囲において加速度の値を2回時間で積分すると変位量を算出することができる。このようにして、捨石マウンド2の高さの変位量を算出してもよい。
【0098】
(4)上述の実施形態においては、情報処理装置14の落下高さ算出部1416は、教師データを入力して機械学習を行い、学習モデルを生成することによって、設定する重錘13の落下高さを取得するものとしたが、取得した計測データにより重回帰分析を行うものとしてもよい。
【0099】
例えば、
図7のフローチャートにおけるステップS71、ステップS72の処理において落下高さ算出部1416は、重回帰分析により、天端面2aの変位量、凹凸のばらつき、および加速度を説明変数とし、落下させる高さを目的変数とする関係を特定する。この関係は、例えば以下のような関係式によって表される。
y=A1x1+A2x2+A3x3+A4 ・・・(式1)
ここで、x1は重錘13を落下させる高さ、x2は1回前の重錘13の落下による打突後の重錘13直下の凹凸のばらつき、x3は1回前の重錘13の落下による打突時の加速度、yは捨石マウンド2の天端面2aの高さの変位量である。
【0100】
そして、ステップS74において、式1を用いて、yにラウンド3において必要な天端面2aの変位量を代入し、さらに、計測データよりx2、x3の値を代入することにより、ラウンド3における重錘13を落下させる高さx1を算出する。
【0101】
(5)上述の実施形態においては、1つの捨石マウンドに対して均し施工を行うものとしたが、2つ以上の捨石マウンドが設けられた港湾における均し施工にも適用することができる。
図10は、変形例に係る捨石マウンドの構成を示した図である。
【0102】
図10において、港湾の海底Bに2つの捨石マウンド2-1、2-2が形成されている。重錘13を落下させることにより、2つの捨石マウンド2-1、2-2の各々の天端面2-1a、2-2aを締め固める。なお、
図10においては、重錘13以外の均し装置の構成は図示を省略している。
【0103】
2つの捨石マウンドの施工を行う場合、捨石マウンド2-1の施工を完了した後に、捨石マウンド2-2の施工を行う作業手順が考えられる。この場合、捨石マウンド2-1の施工は、上述の実施形態と同様に行う。
【0104】
続いて、捨石マウンド2-2の施工においては、情報処理装置14の落下高さ算出部1416は、各区画における最初の重錘13の落下における重錘13の落下高さを算出してもよい。すなわち、捨石マウンド2-1の施工時に取得した計測データを用いて上述の実施形態における学習モデルあるいは上述の変形例における重回帰分析により特定した、説明変数と目的変数の関係に基づいて、重錘13の落下高さを算出する。このように、捨石マウンド2-2の施工に関しては、1回目の重錘13の落下における落下高さを算出することにより、施工作業の効率を向上させることができる。2回目以降の重錘13の落下においても同様に落下高さを算出することができる。
【符号の説明】
【0105】
2…捨石マウンド、2a…天端面、11…起重機船、12…起重機、13…重錘、13a…上面、13b…下面、14…情報処理装置、111…GNSS受信機、112…ジャイロセンサ、113…トランシーバ、121…アーム、122…滑車、123…ワイヤ、125…制御部、131…深度計、132…加速度計、133…トランスポンダ、141…プロセッサ、142…メモリ、143…インタフェース、144…表示装置、1411…落下高さ設定部、1412…深度データ取得部、1413…加速度データ取得部、1414…重錘位置データ特定部、1415…管理データ生成部、1416…落下高さ算出部、1417…記憶部、1418…表示制御部。