(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】3相ブラシレスモーター及び3相ブラシレスモーターの回転位置検出方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20230607BHJP
【FI】
H02P6/16
(21)【出願番号】P 2020105531
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000103792
【氏名又は名称】オリエンタルモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】國府田 芳彰
(72)【発明者】
【氏名】関 貴志
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-197684(JP,A)
【文献】特開2010-011637(JP,A)
【文献】特開2003-158888(JP,A)
【文献】特開2010-193674(JP,A)
【文献】特開2019-047563(JP,A)
【文献】特開2013-101000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N極とS極とが周方向に沿って交互に着磁された永久磁石型のロータと、
3相間の電気的位相差が120度であり、スロット数が6の倍数であるように構成されたステータと、
電気角120度間隔で配置され、前記ロータの磁界を検出する3個の磁気センサからなる磁気センサの第1の組と、
前記第1の組における3個の磁気センサとそれぞれ径方向に対向するように配置され、前記ロータの磁界を検出する3個の磁気センサからなる磁気センサの第2の組と
を備え、
径方向に対向するように配置された2個の磁気センサの出力が合成され
て3つの合成出力が得られ、
前記合成により得られた
前記3つの合成出力が2相に変換され、
前記変換後の出力から前記ロータの回転位置が検出される、
3相ブラシレスモーター。
【請求項2】
前記ステータの任意の相巻線は周方向に隣接する2つのスロットに巻回されている、請求項1に記載の3相ブラシレスモーター。
【請求項3】
前記ステータのスロット数が12の倍数であり、
前記ステータの任意の相巻線は周方向に隣接する2つのスロットに巻回されており、
前記3相ブラシレスモーターの回転軸方向視で前記2つのスロットの間に磁気センサが配置されている、
請求項1に記載の3相ブラシレスモーター。
【請求項4】
前記2つのスロットにおいて巻線の方向が逆である、請求項3に記載の3相ブラシレスモーター。
【請求項5】
前記磁気センサが、アナログ信号を出力するホール素子又はリニアホールICである、請求項1~4のいずれか一項に記載の3相ブラシレスモーター。
【請求項6】
N極とS極とが周方向に沿って交互に着磁された永久磁石型のロータと、
3相間の電気的位相差が120度であり、スロット数が6の倍数であるように構成されたステータと、
周方向に所定間隔を置いて配置され、前記ロータの磁界を検出する3個の磁気センサからなる磁気センサの第1の組と、
前記第1の組における3個の磁気センサとそれぞれ径方向に対向するように配置され、前記ロータの磁界を検出する3個の磁気センサからなる磁気センサの第2の組と
を備えた3相ブラシレスモーターの回転位置検出方法であって、
径方向に対向するように配置された2個の磁気センサの出力を合成
して3つの合成出力を得る合成ステップと、
前記合成ステップにより得られた
前記3つの合成出力を2相に変換する変換ステップと、
前記変換ステップにより得られた出力から前記ロータの回転位置を検出する検出ステップと
を含む、3相ブラシレスモーターの回転位置検出方法。
【請求項7】
前記ステータのスロット数が12の倍数である、請求項6に記載の3相ブラシレスモーターの回転位置検出方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の3相ブラシレスモーターの回転位置検出方法によって検出された前記ロータの回転位置を用いて、前記ステータの巻線の電流を制御するステップを含む、3相ブラシレスモーターの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3相ブラシレスモーター及び3相ブラシレスモーターの回転位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の3相ブラシレスモーター及び3相ブラシレスモーターの回転位置検出方法として、例えば、特許文献1及び特許文献2がある。
【0003】
特許文献1は、磁極位置検出装置及びブラシレス直流モーターの駆動装置に関し、特に、ホール素子を用いて磁極位置を検出する磁極位置検出装置と、該磁極位置検出装置とブラシレス直流モーターを正弦波PWM駆動する180度通電形インバータを用いたブラシレス直流モーターの駆動装置に関するものである。
【0004】
特許文献1には、磁気変化を利用して3つの磁極位置検出素子により回転体の磁極位置を検出する磁極位置検出素子部と、前記磁極位置に基づいて磁極位置検出信号を生成する検出信号生成部と、前記磁極位置検出信号に基づき前記磁極位置検出を制御する制御部を有する磁極位置検出装置が記載されている。この磁極位置検出装置において、前記制御部は、前記検出信号生成部が生成し出力した120度ずつ位相のずれた3つの磁極位置検出信号を変換補正する変換補正手段と、前記変換補正した3つの磁極位置検出信号の内から所定の1つの磁極位置検出信号を選択する信号選択手段と、前記選択した前記磁極位置検出信号の値から相対磁極位置を検出する相対磁極位置検出手段と、前記選択した前記磁極位置検出信号の区間と前記相対磁極位置とから連続した絶対磁極位置を検出する絶対磁極位置検出手段とを有することを特徴としている。
【0005】
特許文献1によれば、モーター起動直後の低速回転時かどうかの判定を行い、低速時にのみオフセット補正量と振幅補正量の検出を行い、それ以外では検出したディジタル検出値にオフセット補正と振幅補正を行う。これらの検出と補正は、3相分、各相毎に行われる。各ホール素子の出力信号波形の振幅やオフセット量をディジタル検出値の最大、最小値を用いて検出し、ディジタル検出値の補正量を決定して、補正することにより、ホール素子などの回路構成素子のばらつきの影響を除去した高精度な磁極位置検出ができるとされている。ここで、許容範囲は、予め実験により求めた値で、マイコンのROMに記憶されている。
【0006】
特許文献2には、3相ブラシレスモーターの駆動制御用ロータ位置検出センサを兼ねたエンコーダが記載されている。同文献によれば、磁気センサを周方向に120°間隔もしくは60°間隔で3個配置し、該3個の磁気センサのうちの2個のそれぞれに対し、180°で対向する位置にさらに磁気センサを配置し、該180°対向する位置に配置した磁気センサ同士の出力を合成して前記ロータの回転位置を検出する。同文献は、出力電圧レベル変動の抑制を目的とし、ロータ偏心や、磁束ムラ等による誤差をキャンセルするために、2つのホール素子を対面配置し出力合成し平均化をしてレベル変動を抑えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-121584号公報
【文献】特開2012-194086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1においては、モーター起動直後の低速回転時かどうかの判定を行い、低速時にのみオフセット補正量と振幅補正量の検出を行い、さらに、オフセット量、振幅誤差演算を行うという処理が必要である。さらに、各演算が許容範囲であるかを予め実験により求めたマイコンのROMに記憶しておく必要がある。
【0009】
特許文献2においては、磁気センサのうちの2個のそれぞれに対し、180°で対向する位置にさらに磁気センサが配置され、180°対向する位置に配置した磁気センサ同士の出力を合成してロータの回転位置が検出される。そして、120°位相から90°位相変換を行い、正弦波、余弦波の関係としてロータ角度換算が行われる。しかし、モーターの磁極が台形波着磁されている場合、あるいは、正弦波着磁されていたとしても磁気センサの配置等により台形波のように検出される場合には、正弦波、余弦波の関係では、2つの台形波の平坦部が部分的に重なることがある。この重なりにおいては、正弦波と余弦波の比が変わらないため、ロータは回っているものの、検出位置が変わらず、正確な位置検出が困難である。
【0010】
従来技術に鑑み、本発明は、3相ブラシレスモーターにおいて、高価なエンコーダを使用せず、ロータマグネットからの磁界を検出する磁気センサを用いて効率的に回転位置の検出を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る3相ブラシレスモーターは、N極とS極とが周方向に沿って交互に着磁された永久磁石型のロータと、3相間の電気的位相差が120度であり、スロット数が6の倍数であるように構成されたステータと、電気角120度間隔で配置され、前記ロータの磁界を検出する3個の磁気センサからなる磁気センサの第1の組と、前記第1の組における3個の磁気センサとそれぞれ径方向に対向するように配置され、前記ロータの磁界を検出する3個の磁気センサからなる磁気センサの第2の組とを備えている。径方向に対向するように配置された2個の磁気センサの出力が合成されて3つの合成出力が得られ、前記合成により得られた前記3つの合成出力が2相に変換され、前記変換後の出力から前記ロータの回転位置が検出される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、3相ブラシレスモーターにおいて、高価なエンコーダを使用せず、ロータマグネットからの磁界を検出する磁気センサを用いて効率的に回転位置の検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】3相ブラシレスモーターにおける磁気センサの配置を示す説明図である。
【
図4】合成したU相とV相の出力波形を120度位相から90度位相に変換した後の出力波形を示す波形図である。
【
図5】合成後のU相、V相及びW相の波形図である。
【
図6】
図5の波形を2相に変換した後の出力波形を示す波形図である。
【
図7】2つの磁気センサによる90度位相の出力波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0015】
3相ブラシレスモーターにおいては、ロータの回転角に応じてステータのコイルに流す電流の向きを変えてロータを回転させる駆動制御が行われる。すなわち、3相ブラシレスモーターのロータ位置確認用の磁気センサによって、ロータマグネットの回転による磁束の変化を検出し、この検出結果に応じてステータのコイルに流す電流の向きを変える。
【0016】
3相ブラシレスモーターの駆動方式としては、ロータ回転に同期した正弦波で駆動する正弦波駆動方式と、矩形波で駆動する矩形波駆動方式とがある。正弦波駆動方式は矩形波駆動方式に比べて、駆動効率が良く、またトルク変動が少ないことから低振動、低騒音である。このような駆動制御においては、ロータ回転に同期して駆動電圧を発生するための磁極位置センサが用いられる。
【0017】
3相ブラシレスモーターの磁極検出に際し、磁気センサとして安価なホールICなどの交番型磁気センサ(N-Sスイッチ型)が用いられる場合がある。これらのセンサが検出するタイミングからの経過時間をもとにした補間によって、磁極位置が推定される。しかし、モーターの回転速度が極めて低速であったり、モーターの回転が不規則あるいは断続的であったりすると、補間がうまく行えないことがある。
【0018】
極低速駆動する場合、高精度に回転位置検出が可能で、かつ高速なレゾルバやエンコーダなどを用いることができる。しかし、構造が複雑で専用の駆動回路も必要なことから、モーターを含めた駆動システムが大型で高価なものとなる。
【0019】
発明者は、安価であり、アナログで磁極検出できる磁気センサを用いて、3相ブラシレスモーター及び3相ブラシレスモーターの回転位置検出方法の発明をするに到った。
【0020】
図1は、一実施形態による3相ブラシレスモーター100の断面図である。3相ブラシレスモーター100は、ステータ200と、回転軸350と、同回転軸に組み付けられたロータ300とを備えている。ステータ200には複数のスロットが形成され、スロットにはU相巻線部210などのように巻線が巻回されている。ロータ300は、ロータコア310と、同ロータコアの周面に設けられたロータマグネット320とを有している。このロータマグネットは、N極とS極とがロータ周方向に沿って交互に着磁されている。すなわち、ロータ300は永久磁石型のロータである。
【0021】
3相ブラシレスモーター100はさらに、磁気センサ搭載基板450を備えている。磁気センサ搭載基板450は、ロータ300と回転軸方向に対向するように配置され、6個の磁気センサが搭載されている。これらの6個の磁気センサによって、後述するようにロータ300の回転による磁束の変化が検出され、ロータ300の回転位置が検出される。この検出結果に応じて、ステータ200の巻線に流す電流の向きを変えることで、ロータ300及び回転軸350が所定の速度で回転する。
【0022】
図2に、回転軸方向視における3相ブラシレスモーター100を示す。
【0023】
ステータ200は、第1スロットS1から第12スロットS12まで合計12個のスロットを備えている。第1スロットS1から第12スロットS12は周方向等間隔で順に設けられている。
【0024】
U相第1巻線部210は、第1スロットS1に設けられた第1巻線部210aと、第2スロットS2に設けられた第2巻線部210bとを備えている。第1巻線部210aと第2巻線部210bとは、巻線の方向(巻回方向)が逆である。
V相第1巻線部220は、第4スロットS4に設けられた第1巻線部220aと、第3スロットS3に設けられた第2巻線部220bとを備えている。第1巻線部220aと第2巻線部220bとは、巻線の方向が逆である。
W相第1巻線部230は、第5スロットS5に設けられた第1巻線部230aと、第6スロットS6に設けられた第2巻線部230bとを備えている。第1巻線部230aと第2巻線部230bとは、巻線の方向が逆である。
【0025】
第7スロットS7から第12スロットS12においても同様に、各相の巻線部が設けられている。
すなわち、U相第2巻線部は、第8スロットS8に設けられた第1巻線部と、第7スロットS7に設けられた第2巻線部とを備えている。両巻線部の巻線の方向は逆である。
V相第2巻線部は、第9スロットS9に設けられた第1巻線部と、第10スロットS10に設けられた第2巻線部とを備えている。両巻線部の巻線の方向は逆である。
W相第2巻線部は、第12スロットS12に設けられた第1巻線部と、第11スロットS11に設けられた第2巻線部とを備えている。両巻線部の巻線の方向は逆である。
【0026】
ロータ300のロータマグネット320は、10極であり、N極とS極とが周方向に沿って交互に着磁されている。すなわち、ロータ300は10極の永久磁石型ロータである。
【0027】
磁気センサ搭載基板450には、磁気センサ410、420及び430からなる磁気センサの第1の組と、磁気センサ411、421及び431からなる磁気センサの第2の組とが搭載されている。合計6個の磁気センサはいずれもロータ300の回転位置検出用である。
【0028】
上記第1の組において、磁気センサ410、420及び430は電気角が120度ずれて配置されている。具体的には、磁気センサ410は、回転軸方向視で、U相第1巻線部210の第1巻線部210a(第1スロットS1)と、第2巻線部210b(第2スロットS2)との間に配置されている。磁気センサ420は、回転軸方向視で、V相第2巻線部の第1巻線部(第9スロットS9)と、第2巻線部(第10スロットS10)との間に配置されている。磁気センサ430は、回転軸方向視で、W相第1巻線部230の第1巻線部230a(第5スロットS5)と、第2巻線部230b(第6スロットS6)との間に配置されている。
【0029】
磁気センサ410、420及び430はいずれも、アナログで磁極検出できるホール素子、又はホール素子に増幅機能を備えたリニアホールICなどである。
【0030】
磁気センサ410、420及び430をそれぞれ、回転軸方向視で、U相、V相、W相を構成する隣接した2個のスロットの間に配置することにより、各相巻線の励磁の、磁気センサの検出に与える影響を抑えることができる。
【0031】
さらに、上記磁気センサ410、420及び430と径方向に対向する位置にそれぞれ、磁気センサ411、421及び431が配置されている。すなわち、磁気センサ411は第7スロットS7と第8スロットS8との間に配置され、磁気センサ421は第3スロットS3と第4スロットS4との間に配置され、磁気センサ431は第11スロットS11と第12スロットS12との間に配置されている。
【0032】
磁気センサ411、421及び431も同様に、アナログで磁極検出できるホール素子、又はホール素子に増幅機能を備えたリニアホールICなどである。
【0033】
磁気センサ411、421及び431もそれぞれ、回転軸方向視で、U相、V相、W相を構成する隣接した2個のスロットの間に配置することにより、各相巻線の励磁の、磁気センサの検出に与える影響を抑えることができる。
【0034】
続いて、磁気センサの検出信号の波形について述べる。まず、磁気センサ410と、磁気センサ410と径方向に対向するように配置された磁気センサ411とについて説明する。
【0035】
図3に示す磁気センサ410の出力波形Aを見ると、1回転(360°)の中で、振幅が大きくずれていることがわかる。これは、ロータの偏心などによる機械的な誤差によるものと推測される。
【0036】
ロータ300は前述のとおりN極、S極が交互に着磁された10極の永久磁石型ロータであるため、1回転(360°)の中で、5周期の出力波形が得られる。
【0037】
同じく
図3に示す、磁気センサ411の出力波形-Aは、磁気センサ410の出力波形Aとは逆相であり、出力波形Aと同様、1回転(360°)の中で振幅が大きくずれていることがわかる。さらに、出力波形-Aは、磁気センサ410の出力波形Aと比べて、振幅のずれの大小が逆になっている。例えば、磁気センサ410の出力波形Aの振幅のずれが大きい回転位置では、磁気センサ411の出力波形-Aの振幅のずれは小さい。また、磁気センサ410の出力波形Aの振幅のずれが小さい回転位置では、磁気センサ411の出力波形-Aの振幅のずれは大きい。
【0038】
したがって、磁気センサ410の出力波形Aと磁気センサ411の出力波形-Aを次の式で示すように、差分を取って2で割る演算を実行することにより、ロータの偏心などによる機械的な誤差がキャンセルされた、
図3に示す対向キャンセルの出力波形を得ることができる。
(A-(-A))/2=average A (1)
【0039】
同様に、磁気センサ420の出力波形Bと、磁気センサ420と径方向に対向するように配置された磁気センサ421の出力波形-Bとについても次の演算を実行することで、ロータの偏心などによる機械的な誤差がキャンセルされた出力波形を得ることができる。
(B-(-B))/2=average B (2)
この出力波形は、磁気センサ410及び411の合成後の出力波形とは位相が120度ずれている。
【0040】
原理的には、この2つの出力波形を、120度位相である3相から90度位相である2相へと変換し、ロータ300の回転位置を検出することができる。
【0041】
しかし、磁気センサの検出信号が台形波となるように、ロータマグネット320の着磁がなされている場合がある。あるいは、磁気センサの検出信号が正弦波となるように、ロータマグネット320の着磁がなされていたとしても、磁気センサの配置等によっては、検出信号が台形波となる場合がある。
【0042】
上記のように、磁気センサ410、411の各波形を合成した出力波形と、磁気センサ420、421の各波形を合成した出力波形とから、機械的な誤差をキャンセルし、120°位相から90°位相である2相に変換した出力波形を
図4に示す。符号A1,符号B1は、信号出力Aと-Aを合成した波形と信号出力Bと-Bを合成した波形の120°位相を90°位相に変換した波形を示す。符号Z1に示すように、2相(正弦波、余弦波の関係)では、台形波の平坦部が部分的に重なっている。平坦部が部分的に重なっている間は各相の比が変わらないため、ロータは回転しているものの検出位置が変わらないので、正確な位置検出を行うことが困難である。
【0043】
そこで、さらに、磁気センサ430の出力波形Cと、磁気センサ431の出力波形-Cとについても次の演算を実行することで、ロータの偏心などによる機械的な誤差がキャンセルされた出力波形を得ることができる。
(C-(-C))/2=average C (3)
この出力波形は、磁気センサ410と磁気センサ411の合成した出力波形と、磁気センサ420と磁気センサ421の合成した出力波形とのいずれとも、位相が120度ずれている。
【0044】
図5に、ロータの偏心などによる機械的な誤差がキャンセルされた、3相の出力波形を示す。この出力波形も、ロータマグネット320の磁極や磁気センサの配置等の影響により、正弦波でなく、台形波のように磁気センサの出力波形が検出されている。
【0045】
図5の3相の出力波形について、次式で示す3相から2相への変換を行うことにより、
図6に示すような、90度の位相差の正弦波、余弦波の出力波形を得ることができる。
【数1】
ただし、H
A、H
B、H
Cはそれぞれ3相各出力波形値である。また、H
α、H
βはそれぞれ2相の出力波形値である。
【0046】
台形波形状の120°位相差のある3相の出力波形であっても、3相から2相への変換を行うことで、
図6に示すように90°位相差の正弦波、余弦波の出力波形が得られる。この出力波形からロータ300の回転位置を検出することができる。
【0047】
以上を踏まえて、
図1及び
図2に示した3相ブラシレスモーター100においては、以下の3つのステップにより回転位置の検出が行われる。
[第1ステップ]
径方向に対向するように配置された2個の磁気センサの出力が合成される。すなわち、式(1)のとおり磁気センサ410及び411の出力が合成され、式(2)のとおり磁気センサ420及び421の出力が合成され、式(3)のとおり磁気センサ430及び431の出力が合成される。
[第2ステップ]
式(4)のとおり、第1ステップにより得られた3相の出力が2相に変換される。
[第3ステップ]
2相への変換後の出力から、ロータ300の回転位置が検出される。
【0048】
上記の実施形態においては、磁気センサを機械的に180度対向させて配置することで、回転体の機械誤差がキャンセルされる。また、ロータマグネットによる台形波対策として、90度ずれた2相信号ではなく、120度ずれた3相信号を検出し、再度2相信号に変換する。さらに、磁気センサを、各相を構成する隣接した2個のスロットの間に配置することで、巻線からの磁束の影響が抑えられる。
【0049】
これにより、ロータの回転位置がより正確にわかるようになる。低速での速度安定性が向上するとともに、位置決め精度も上がる。極低速駆動時であっても、90度位相差の正弦波及び余弦波が得られ、高精度に回転位置検出が可能となる。したがって、ロータ300の回転角に応じてステータ200の巻線に流す電流の向きを変えてロータ300を回転させる駆動制御を行うことができる。極低速駆動時でも、3相ブラシレスモーターの安定した駆動を行うことができる。
【0050】
以上の実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
・ロータの偏心や磁気センサの取付け位置などによる機械的な誤差をキャンセルすることができる。
・磁気センサの出力波形が台形波状であっても、正確な位置検出が可能である。
・現状の3相ブラシレスモーター構造を大きく変更することなく、簡単な構成で、安価かつ高精度に回転位置の検出が可能である。
・極低速駆動時も安定した駆動が可能である。
・エンコーダやレゾルバと同程度の精度をもちながらも低コストに抑えることができる。
【0051】
高価なエンコーダを使用することなく、ロータマグネットからの磁界を検出する磁気センサを用いて、極低速運転、位置決め運転が可能となる。
【0052】
図7に、比較例としての、2つの磁気センサによる90度位相の出力波形を示す。符号A2は、磁気センサを2個、90°の位置に配置したときの、一方の磁気センサの出力波形を示し、符号B2は、他方の磁気センサの出力波形を示す。同図は、3相ステータのスロット数が6の倍数である3相ブラシレスモーターにおいて、磁気センサからの正弦波、余弦波の関係としてロータ角度換算を行う場合を示す。矢印Y1及びY2に示すように、偏心などの機械的な誤差要因の影響により、振幅誤差が生じる。また、符号Z2に示すように、2つの台形波A及びBの平坦部が部分的に重なると、正確な位置検出が困難となる。
【0053】
上記の実施形態によれば、振幅の誤差(
図7)及びオフセットに対処でき、磁気センサの出力波形が台形波状であったとしても、正確に位置検出を行うことができる。なお、オフセットとは、図示はしていないが、波形全体が0点から縦軸方向にずれていることである。
【0054】
なお、3相ブラシレスモーター100内の演算部により3相から2相への変換(式(4))を行うことができる。あるいは、径方向に対向する2個の磁気センサにより機械的誤差をキャンセルした3相信号(式(1)~式(3))を、3相ブラシレスモーター100から、3相ブラシレスモーター100の外部の駆動装置等へ出力し、当該外部の駆動装置等において3相から2相への変換(式(4))を行っても良い。
【0055】
さらには、6個の磁気センサの出力信号を、3相ブラシレスモーター100から、3相ブラシレスモーター100の外部の駆動装置等へ出力することもできる。そして、当該外部の駆動装置等において、径方向に対向する2個の磁気センサにより機械的誤差をキャンセルした3相信号を生成したのち(式(1)~式(3))、3相から2相への変換(式(4))を行うことができる。
【0056】
[他の実施例]
続いて、他の実施例を示す。
10極のロータ300を、N極とS極とが周方向に交互に着磁された8極の永久磁石型ロータに置き換えても良い。この場合、回転位置検出用の磁気センサ410、420及び430を周方向60度間隔で配置するとともに、磁気センサ410、420及び430と径方向に対向するようにそれぞれ、磁気センサ411、421及び431を配置することができる。
【0057】
また、上記8極の永久磁石型ロータにおいて、U相、V相、W相の励磁の影響を磁気センサが受けるおそれがない場合がある。この場合は、回転位置検出用の磁気センサ410、420及び430を周方向30度間隔で配置するとともに、磁気センサ410、420及び430と径方向に対向するようにそれぞれ、磁気センサ411、421及び431を配置することができる。
【0058】
磁気センサの第1の組における3個の磁気センサ410、420及び430は、電気角120°間隔で配置されていればよい。電気角120°の機械的な角度は、ロータの極数との関係で定まる。10極の場合、機械的な角度は24°の倍数(ただし、360°で3個配置する必要があるため、120°以下)である。8極の場合、機械的な角度は30°の倍数である。
【0059】
ステータのスロット数が12の倍数であれば、磁気センサ410、420及び430をそれぞれ、回転軸方向視で、U相、V相、W相を構成する周方向に隣接した2個のスロットの間に配置することにより、励磁の影響を排除することができる。その一方で、磁気センサがU相、V相、W相の励磁の影響を受けるおそれがない場合は、ステータのスロット数は6の倍数でも良い。さらには、ステータの任意の相巻線は必ずしも、周方向に隣接する2個1組のスロットに巻回されていなくても良い。
【0060】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
100 3相ブラシレスモーター
200 ステータ
210 U相第1巻線部
220 V相第1巻線部
230 W相第1巻線部
300 ロータ
310 ロータコア
320 ロータマグネット
350 回転軸
410,420,430,411,421,431 磁気センサ
450 磁気センサ搭載基板